『ガールズ&パンツァー 劇場版』 ~爽快活劇の続編映画に相応しい物量戦&よそ行き映画の違和感回避策とは!?
『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』 ~微妙。戦車バトルを減らしたキャラ中心の2期も並行させた方がよかった!?
『迷家-マヨイガ-』 ~水島努×岡田麿理が組んでも不人気に終わった同作を絶賛擁護する!
『SHIROBAKO』 ~2014年秋アニメ評
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2019年6月15日(土)からアニメ映画『ガールズ&パンツァー 最終章 第2話』が公開記念! とカコつけて……。深夜アニメ『ガールズ&パンツァー』(12年)評をアップ!
『ガールズ&パンツァー』 ~爽快活劇に至るためのお膳立てとしての設定&ドラマとは!?
(文・久保達也)
(2015年11月24日脱稿)
茶道や華道と同等のモノとしての戦車道! 外人かと思いきや日本人の女子高生ライバルたち!
しっかし、どうひいき目に観ても、おバカな世界観だよなぁ(笑)。
乙女が嗜む武芸として、世界中で「戦車道」が古来から女子が進むべき道として受け継がれ、それによって良き妻・良き母・良き職業婦人(笑)となり、多くの男性に受け入れられるとされている本作の世界観。
その「戦車道」の世界大会が数年後に日本で開催されることが決定、文部科学省の要請により(爆)、全国の高校や大学が「戦車道」に力を入れることとなり、舞台となる茨城県立大洗(おおあらい)女子学園高校でも必修選択科目として、「戦車道」が20年ぶりに復活する!
聖グロリアーナ高校との親善試合は、地元の東茨城郡大洗町で繰り広げられる市街戦として行われ、アウトレットモールに設けられた観客席で、町民たちが歓声をあげて大洗女子学園を応援! 当然砲撃の被害を受ける住宅や店舗も出てくるが、日本戦車道連盟がそれを補償してくれるため、住民や店主たちはむしろ「これで新築できる!」と大喜び(笑)。
ダージリン「イギリス人は戦争と恋愛では手段を選ばない」
つーか、おまえ日本人やろ!(笑)
横浜の名門お嬢様学園・聖グロリアーナ高校の隊長である金髪娘のダージリンは、戦車の中で紅茶を嗜み、好敵手と認めた相手には試合終了後に紅茶を贈る(笑)。
公式戦第1回戦の相手となった、長崎県佐世保市のサンダース大学付属高校は、戦車の保有台数は全国一を誇り、試合会場にシャワー車やヘアサロン車まで用意するほど裕福であり、隊長のケイは妙にフレンドリーで快活なヤンキー娘――いわゆる「不良」を意味するヤンキーではないので念のため(笑)――。その指示に従う隊員たちは「イエス・マム!」と答える(爆)。
準決勝の対戦相手、青森県のプラウダ高校の隊長・カチューシャと副隊長のノンナは――設定では身長が127cmしかないカチューシャは、ノンナに肩車してもらうことで、大洗女子学園の生徒を見下している(爆)――、雪上を戦車で進撃しながらロシア民謡『カチューシャ』を口ずさみ、大洗女子学園に降伏を迫る間、隊員たちはたき火を囲んでボルシチを食べ、ついでにコサックダンスを踊りまくる(爆)。
そんなワケで、大洗女子学園の対戦校はそれぞれイギリス・アメリカ・ロシアがモチーフであり、武芸どころか、これでは立派なリアル戦争ごっこである。もっとも、大洗女子学園の戦車は旧日本軍のものではなく、どういうワケかドイツ軍のものだったりするのだが(笑)。
そもそも、第1話『戦車道、始めます!』のラストシーンには度肝を抜かれたものだった。戦車の格納庫、学園、街と、画面がどんどんロングになった挙げ句、それらが全て「学園鑑」と呼ばれる空母の上にのっかっていることが判明するのだから(爆)。先述したライバルの3校も設定ではすべて同様であり、試合の際はその「学園鑑」で会場に移動するのである。
大洗学園の生徒たちは戦車をピンクや赤、金色に塗りたくり、ウサギさんチーム・アヒルさんチーム・カメさんチーム・カバさんチームなどと、各所属を命名する(笑)。もっとも、戦車に描かれたウサギさんのマークは目が真っ赤に血走り、両手に包丁を持っていたりするのだが(爆)。
乗ってるとお尻が痛くなるから、と、生徒たちは戦車内にカラフルなクッションのみならず、ぬいぐるみや芳香剤を持ち込み、ケータイの充電まで可能にしようとする(笑)。戦車喫茶のウエイトレスが軍服姿であるのは当然として、テーブルの呼び出しブザーは砲撃音、いちごショートやチーズケーキも形は全て戦車型、それらをまさに回転寿司のように戦車の模型が運ぶ徹底ぶり(笑)。
試合で繰り出される作戦は「こそこそ作戦」「ところてん作戦」「フラフラ作戦」「モクモク作戦」「おちょくり作戦」など、『ウルトラマンタロウ』(73年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20071202/p1)の防衛組織・ZAT(ザット)かよ! と云いたくなるほどのユルユルなネーミング。
そんな中で、「キャッキャ」「ウフフ」と「戦車道」を突き進む大洗女子学園の女子高生たちは、ほぼ例外が存在しない美少女揃いである。公式戦では一応の軍服のつもりか、お揃いの青い制服を着用しているが、下は白のミニスカのまんま。元バレー部員たちなんかは赤い短パンだったりする――つーか、こんな仮想世界くらいブルマーにしろよ!(爆) あと、その中の近藤妙子が往年の名作OVA『トップをねらえ!』(88年)の主人公・タカヤノリコに妙にクリソツであるのが気になるが(笑)――。それらには目をつむるとしても、せめてヘルメットくらいかぶったらどうだ?(爆)
強気な戦闘美少女ではオタ男子に引かれる時代に、戦闘と萌えを両立させる美少女キャラ造形とは!?
主人公で茶髪ショートヘアの2年生・西住みほ(にしずみ・みほ)は、第1話で教室であわや「ひとりめし」となりそうな場面があるほど、心優しい引っ込み思案な少女として描かれている。
今どきの心優しいオタク男子が「圧」を感じて苦手そうな、本来のミリタリーものの主役を張るような無骨で血気盛んな暴力少女・戦闘美少女というイメージには程遠い、争いがキライで控え目な柔和な少女なので、(ひとり)ボッチ気味な弱者男子でもあるオタク諸氏も無意識に安心するだろうし、自身とのボッチな共通項をまずは接点に感情移入もさせることで、そこを起点に応援もしたくなる、オタ向けコンテンツとしてのマーケティング的にも実に絶妙なキャラ造形である(笑)。
クラスメイトで、
・なんでもかんでも強引に恋愛話に結びつけるものの、実は恋愛経験がまったくないのだが(笑)、誰とでもすぐ仲良くなれることと料理が得意な、茶髪ロングヘアの武部沙織(たけべ・さおり)
・華道の家元の娘で常に敬語を使い、「いつも堅苦しいと云われる」(爆)黒髪ストレートヘアの大和撫子という五十鈴華(いすず・はな)――女子高生アイドルアニメ『ラブライブ!』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160330/p1)のサブヒロイン・園田海未(そのだ・うみ)との類似を個人的には想起する。海未ちゃんにはややお馬鹿キャラが入っていたけど(笑)――
にランチやお茶に誘われたみほが、「すてきな友達ができた」と喜ぶ描写は、ほとんど(ひとり)ボッチアニメの序盤の展開を思わせるほどである。
第2話『戦車、乗ります!』では、
・いつでも野営ができるようにと、普段から飯盒(はんごう)を持ち歩くほどの戦車マニアであり、みほのことを軍隊調に「西住殿」と呼ぶ(爆)、くせ毛のショートボブ・秋山優花里(あきやま・ゆかり)
・超低血圧で245日連続遅刻の記録を誇ることから、優等生なのに留年の危機にある(笑)、沙織の幼なじみで紺色のロングヘアに白いカチューシャをした、常にぶっきらぼうな冷泉麻子(れいぜい・まこ)――親善試合当日に起きない麻子を、優花里が進軍ラッパで、みほが戦車の空砲で起こそうとするのは、あまりに度のすぎたイヤがらせであるどころか、おもいっきりの近所迷惑やろ!(爆)――
が仲間に加わり、この5人で結成されるあんこうチームが、「戦車道」を選択した生徒たちの中でも主役級として描かれる。
華「なんか気持ちいいです」
沙織「告白されるよりドキドキした」
聖グロリアーナ高校との親善試合で「戦車道」に快感をおぼえた少女たちは、サンダース大学付属高校との公式試合において、
・沙織は通信手として、相手の無線傍受に対抗し、仲間にケータイメールで連絡をとり、
・華は砲手として「花を活けるときのように集中して」と、フラッグ車を一発で狙い撃つ!――砲弾がストップモーションとなるのがまた効果的(笑)――
など、それぞれの役割を立派に果たしていく。
沙織はコミュ力の高さ、華は芯の強さと、そのキャラクター性を存分に発揮した活躍ぶりは、延々と続く戦車ドンパチバトルを盛り上げるのに大きく貢献している。
意外なドラマ性の高さで本作を評価すべきではない!? ドラマはアクションの前段・助走台に過ぎない!?
・第4話『隊長、がんばります!』で描かれる、「戦車道」を反対する母に勘当されてしまう華
・第5話『強豪・シャーマン軍団です!』で発覚する、「ずっと戦車が友達だった」ために友人ができなかった優花里の過去――沙織の考えでは、クセ毛をキラった小学生時代の優花里が、理髪店を経営する父と同じくパンチパーマにしていた理由の方が大きいとのことだ(爆)――、
・第7話『次はアンツィオです!』で語られる、小学生のときに両親が事故死したことから、口やかましい祖母のことを誰よりも大事に思い、心配をかけたくないとする麻子の意外な一面
こうしたキャラの内面を掘り下げる描写は、あくまで本作における迫力あふれる戦車対決のアクションのカタルシスといった作品のクライマックス・ヤマ場を、物理面だけでなく心理面でもより盛り上げるための「お膳立て」なのである。戦車対決へと至った「舞台背景」や各人の思想信条などの戦う「動機」として捉えるべきなのである。それこそ『ラブライブ!』第1期における一部のアニメ評論のように、クライマックスにおける歌唱ライブシーンの盛り上げ方の方をさておいて、その助走台であるハズの人間ドラマ性の高さだけを延々と単独で持ち上げるべきではないだろう。
・ふだんは「戦争反対!」などと主張している筆者のような輩でも、おもわず興奮せずにはいられないほどの、そのデタラメな世界観とはあまりに対照的な、圧倒されるほどのリアリティと迫力にあふれた「ミリタリー演出」
・「戦車道」を選択した生徒たちが全員入浴する中で、みほが恥ずかしそうに胸を隠しながら演説したりするような「萌え要素」
いわば、「破壊の快感」と「美少女の暴力」(爆)。本作はこういった要素こそが、その最大の魅力なのである。
第8話『プラウダ戦です!』のラストにおいて、生徒会のメンバーから「公式戦で負けたら大洗女子学園が廃校になる!」という衝撃の事実が初めて明かされる。これもまた、「ここで負けたらあとがない!」という「切迫感」をもたらすために加味した「香辛料」なのであり、このあとの準決勝バトルをさらに心理的にも盛り上げるための計算づくの展開と云ってよいだろう――それは小賢しい作為だ! といった批判などではなく、それこそが良く出来た物語なのだ! といった意味での肯定である――。
穏やかな主人公少女を戦わせるための、苦肉の「動機付け」や「肉付け」が成功の要因!?
先述した『ラブライブ!』では、私立音ノ木坂学院の廃校を阻止しようとして、主人公少女の高坂穂乃果(こうさか・ほのか)がスクールアイドルの結成を思いついて、それが周囲を巻きこんでいく展開となっていた。
だが、本作では、
みほの母・しほ「鉄の掟、鋼(はがね)の心、それが西住流」(爆)
などという、先祖代々戦車乗りの家系(笑)に生まれ育ったものの、ある過去が原因で「戦車道」を捨てたハズのみほが、「戦車道」の選択をみほに「強要」しようとする生徒会に対して沙織と華が「かばってくれた」ことに感激し、再び「戦車道」を歩むことを決意するという、いわば逆『ラブライブ!』(笑)とでも呼ぶべき展開となっている。
いかに「精神修養」などのキレイ事で糊塗しようとも、露骨に勝敗を決めたり、選手と補欠を定めたりするような、平等主義や人道主義とは程遠い「大の虫を生かすために小の虫を殺す」という側面が、スポーツや武道一般にはたしかにあるのだ――スポーツや武道にかぎらず、人生におけるあらゆる出来事や選択肢に、大なり小なりつきまとうものでもあるけれど――。
人との争いがキライで、「戦車道」の家元としての出自自体もトラウマであるハズの心優しい主人公少女が「戦車道」を再び選択する「動機」が、コミカルなフィクション作品なりに実にていねいに描かれていることも、本作序盤の成功した点だろう。一応の「公益性」はあるものの、廃校を阻止せんとする生徒会のやや上から目線の押し付けがましい「要請」(汗)という、過去のトラウマをも刺激する要素だけでは、彼女は奮起はできないのだ。しかし、仲間たちがいったんはそれを案じて「要請」からの「防波堤」になってくれたことを恩に感じて、「戦車道」に主体的に再帰することを選択させていく……といった一連の段取り劇を踏まえていくのだ。
主人公のあくまで平和主義的な性格をも強調できていて、作品世界から軍国主義的なキナくささも脱臭できており――完全に脱臭できているかはともかくとして(笑)――、これまた実にうまい。ここまでやってくれれば、あんなにフニャフニャとして、武道とは縁(えん)がなさそうで向いていなさそうでもある彼女が「戦車道」を再選択するくだりにも説得力が醸(かも)されてくるというものだ。……もちろんこれがホントウに「戦争」に出征する選択だったならばヤバさが漂ってしまうけど、本作における「戦車道」とは人死にが出ない「茶道」や「華道」のようなものだとされているので、ぎりぎりでセーフだ!?
プラウダ高校から降伏を迫られる中、この学校に来て初めて「戦車道」の楽しさを知ったのだから、ここまで来たらもう充分と主張するみほに対し、あくまで徹底抗戦を主張する、生徒会広報で黒髪ショートのメガネっ娘・河嶋桃(かわしま・もも)は、つい廃校の件を口にしてしまう。
第9話『絶体絶命!』において、生徒会長の割には常に気楽なノリで、低身長のツインテール娘・角谷杏(かどたに・あんず)は、学園側に「戦車道」を復活させたのは公式戦で優勝すれば廃校を取り消すと約束させたからであり、だからこそ「戦車道」の経験があったみほに選択を「強要」した事実を遂に明かす。
降りしきる雪の中で完全に包囲されて、食料も尽きて「天は我々を見放した」と明治時代の史実を基にした映画『八甲田山(はっこうださん)』(77年・東宝)の名セリフも出るほどに隊員たちの士気も低下する中、
みほ「来年もこの学校で“戦車道”やりたいから。みんなと」
と、みほはかつてとは一転して勝つ気マンマンとなっているのみならず、テレビシリーズ序盤に親善試合で負けた罰ゲームとして大洗町民の前で踊らされた、あまりに恥ずかしい「あんこう踊り」を自分から再披露する!
「あの恥ずかしがり屋のみほが!」と、隊員たちが全員「あんこう踊り」を踊りだすことで一気に士気が高まり(爆)、プラウダ高校に逆転勝利をおさめる劇的な展開は、「ドンパチバトル」と「人間ドラマ」のクライマックスの華麗なる融合ともなっている!
第10話『クラスメイトです!』で、決勝戦前夜に生徒たちがとんかつ・カツサンド・かつ丼・カツカレー・串かつ・カツバーガーを食べる描写はひたすら微笑ましいが――ウサギさんチームの1年生たちが食べているのは、どう見てもハムカツパンにしか見えないのだが(笑)――、当日にかつて戦った高校のチーム皆が応援に来ているあたりも、少年マンガによくある既視感あふれる王道の展開だとも云えるけど、
「あなたは不思議な人ね。戦った相手みんなと仲良くなるなんて」
とダージリンがみほを讃える、これまたありがちな姿で主人公キャラを戦闘力だけではなく人望・人徳面でも立ててみせて、さらにメインキャラのあんこうチームが戦車の上で手を合わせて勝利を誓う姿は、それこそスクールアイドルたちのバトルロイヤルを描いていた『ラブライブ!』に例えるならば、主人公チームが心をひとつにして士気を高めるための号令「μ′s(ミューズ)! ミュージック・スタート!!」などにも通じているものがあり、ここまで大洗女子学園を見守ってきた者からすれば、感慨にひたらずにはいられない演出の連続である!
本放送時のスケジュール破綻による打ち切り! 3ヵ月後に放映された大傑作の最終2話!
ここまで盛り上げておきながら、本放映では本作はこの第10話で、リアル『SHIROBAKO』(14年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20151202/p1)――アニメ製作のウラ側を描いた深夜アニメ――を起こしてしまった(爆)。全12話であるにもかかわらず、途中で2回も総集編を入れることとなり――1回目は第5.5話――、総集編2回目の第10.5話(=テレビアニメシリーズ最終回・笑)――のラストでは、
「私たちの戦いはこれからです!!」
などという、あまりに無責任な字幕が流れることとなったのだ(大爆)。
まぁ、お客さんが我々のような「大きなお友達」だったから、それも「しゃあないなぁ~」で済んだのだが、これが就学前の幼児を相手にした変身ヒーロー作品やアニメだったら、全国の子供たちが泣きわめき、親から「どうしてくれるんだっ!」なんて抗議が殺到すること必至の、立派な犯罪的行為である(爆)。
――その戦闘描写のスピード感・臨場感が圧倒的な『ガールズ&パンツァー』(12年)OVA『これが本当のアンツィオ戦です!』(14年)もまた、当初は全12話ならぬ全13話構想であったものの予算や時間の都合でオミットした第7話と第8話の間に想定していた回を、OVAとして発売したとしか思えない(笑)。ちなみに、同作にはひょろ長で猫耳のビン底メガネ娘・ねこにゃー(猫田)が登場しているが、公式戦第2回戦当時を描いたこの話がテレビシリーズでは欠けているために、第10話のねこにゃーの初登場が、実に唐突に思えてならない。いったい本作の製作進行はどうなっていたのか!?(笑)――
第11話『激戦です!』、そして最終回『あとには退けない戦いです!』で描かれた決勝戦の相手は、大洗女子学園に転校前のみほが通っていたという高校であり、実の姉の西住まほが隊長を務める、因縁の黒森峰(くろもりみね)女学園! 最終決戦が姉妹対決というのもまた、これ以上はない王道と云えるものである!
市街地の狭い路地を進撃する戦車群をとらえた俯瞰カットや戦車からの主観カット――画面上には終始主砲が描かれている!――、さらに『機動戦士ガンダム』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19990801/p1)などの往年のロボットアニメを彷彿とさせる、戦車内の生徒を画面中に三角形の枠内に割り込ませる演出や分割画面が多用される中で、
・戦車をウイリー走行(!)させて、その重みで橋を破壊して黒森峰の追撃から逃れたり!
・迷彩色の巨大な超重戦車に真正面から突撃した1台がその下にめり込んで、上に1台が乗っかることで砲塔をブロックしたところを、土手を斜め走行したフラッグ車が攻撃する!
・敵戦車と激突したまま後退し、ふいに路地を曲がることで、敵を土手の下へと突き落とす!
など、大洗女子学園の頭脳戦と力技(ちから・わざ)が炸裂しまくっている!
つーか、これで死傷者がまったく出ないのは完全に大ウソだが(笑)。
もちろん、これにはみほの常に冷静な知的戦略が働いていることは云うまでもないが、決してそればかりではない。
第11話で大洗女子の戦車群が大きな川を渡る中、ウサギさんチームの戦車が川でエンスト(エンジン・ストップ)を起こして、立ち往生してしまうのだ! 黒森峰時代、自身が試合中に川に流された戦車を助けたことで負けたトラウマ(心理的外傷)の記憶を、おもわず回想してしまうみほ!――第10話のラストで、その助けた相手が「あのときはありがとう」と、みほに礼を云う場面があったことが伏線ともなっている――
それを即座に察するほどに、人情の機微がわかっている沙織が、
「行ってあげなよ」
と背中を押したことで、みほは自身にワイヤーを縛りつけて、戦車群をジャンプして渡り、ウサギさんチームの救出に向かうのだ!
麻子「前進するより仲間を助けることを選ぶとはな」
優花里「だからみんな西住殿についていけるんです!」
コレがホントウの戦争であって、少数の人間を助けるために大勢の人間が死んでしまったならば本末転倒なので(汗)、軍事的なリアリズムで考えた場合には実はリアルではない――もちろん、余力がある場合にはホントウの戦争でも仲間の軍人は助けるものだけど――。
しかし、本作はやはりホントウのリアルな戦争を描いているワケではないのだ。戦いに負けても自分や仲間や自国民が大勢死ぬようなものではない(笑)。そういう平時において、ヒトの上に立つ者に求められるものとは何か? それは、戦いには負けようが、仲間の命を救おうとするような、戦略眼だけではない「人徳」にあふれる態度こそが、温厚で戦いには決して向いてはいない西住みほが隊員たちから慕われている最大の理由だとして、改めて彼女のキャラを主人公らしく立ててみせるのだ!
沙織「みんな! みほちゃんたちを援護して!!」
と、迫ってきた黒森峰に一斉砲撃を加えるほどに、その結束が固まるのも必然なのである!
華「この一撃は、みんなの想いをかけた一撃」
想いをかけたからといって、砲弾のスピードや威力が増したり神風が吹いたりするワケではない(笑)。しかし、フィクションとしては、その砲弾に想いが込められているとした方がシンボリックにもなって盛り上がるではないか!? 西住姉妹のガチンコ・ラストバトルを最大限に盛り上げるために、これまで本作ではキャラクター演出やドラマで「みんなの想い」が構築されてきた、と云っても過言ではないのだ!
沙織「やったよ、ミポリン!」
見事に優勝したことに、沙織がみほに抱きつく姿もよいのだが、これまでみほに比較的に冷淡な態度をとり続けてきた広報の桃が「感謝にたえない」と泣きじゃくる姿もひたすらに微笑ましいし、冷徹そうな彼女でも実は人情を解する「いい人」であって感情の沸点を超えてしまった! といった意味でも、視聴者にもその感動の感情が伝染してきて、このシーンの感情的な盛り上がりを側面から助長していくのだ!
ただ、黒髪おかっぱ頭の風紀委員・園みどり子(その・みどりこ)が、約束どおりに麻子のこれまでの遅刻データを削除したことに、
麻子「おお~っ、ありがとう~!」
などとそんな俗っぽいことで豹変する麻子の姿は、まるで『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20150403/p1)の主人公・黒木智子(くろき・ともこ)みたいだった(爆)。
まほ「みほらしい戦いだったな。西住流とはまるで違うな」
みほ「おねえちゃん。やっと見つけたよ、わたしの戦車道」
美しい夕焼け空の中、握手をかわす西住姉妹。そして、遠くから無言で拍手を贈る姉妹の母。
本作には「少女の自立・成長」といったテーマも背負わされていただろう。しかしながら、それを湿っぽい、辛気クサいドラマなどではなく、小学生男子でも理解ができて夢中になれそうな、ドンパチ戦車バトルによって見事に描ききったことは賞賛に値する。
これならば本放映が『SHIROBAKO』状態に陥ったこともおもわず納得してしまうほどの力作であり、私事で恐縮だが筆者のオタク趣味の専門分野である、幼児や小学校低学年を対象とした特撮変身ヒーロー作品こそ、本作のクライマックスでのバトルを最大限に盛り上げるための助走台としてのドラマ&作劇を、最高最良のテキストとするべきではないのかと、個人的には思えてならないものがあったのだ。
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