(2020年9月13日(日)UP)
『ウルトラマンギンガ』序盤評 ~低予算を逆手に取る良質ジュブナイルだが、それゆえの危惧もアリ!?
『ウルトラマンギンガ 劇場スペシャル』 ~ジュブナイルじゃない!? アイテム争奪コント劇! 「見せ場」重視!
『ウルトラマンギンガ』後半評 ~悪のウルトラ兄弟&ラスボス級怪獣グランドキング登場! だけれども!?
『ウルトラマンギンガ』最終回 ~タロウ復活! 津川雅彦もキングに変身すべきだ! ウルトラ怪獣500ソフビを売るためには!?
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ウルトラマンギンガも客演する映画『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』(20年)が公開中記念! とカコつけて……。『ウルトラマンギンガ』(13年)番外編評を発掘アップ!
『ウルトラマンギンガ』番外編「残された仲間」傑作! ~『ギンガ』総論・マイナスエネルギーを材とした『80』『ギンガ』比較
(文・久保達也)
(2014年3月30日脱稿)
実は初代の「闇のエージェント」、マグマ星人登場!(笑)
この「番外編」は思わぬ「拾いもの」であった!
『ウルトラマンギンガ』(13年)全11話が終了して約2ヶ月後、2014年2月26日放送の『新ウルトラマン列伝』第35回において、『ギンガ』の「後日談」が描かれることとなった。
もちろん『劇場スペシャル』第2弾、公開が押し迫った映画『ウルトラマンギンガ 劇場スペシャル ウルトラ怪獣☆ヒーロー大乱戦!』(14年・松竹)の「前日談」としての「つなぎ」の意味合いが大きかったこととは思う。
だが、この「番外編」。正直これまでの『ギンガ』の中で、個人的には一番面白かったのである(笑)。
本作『ギンガ』では、ラスボスである「闇の支配者」ダークルギエルの命令を遂行する悪の中間管理職の立場の「闇のエージェント(代理人)」として、歴代ウルトラシリーズに登場してきた人気悪役宇宙人が人間大サイズで暗躍してきた。
そして、それに最初に選ばれたのは『ギンガ』前半シリーズの第1話~6話に登場した宇宙海人バルキー星人……ではなく、実はサーベル暴君マグマ星人であった! ……という明らかに「後付け」ではあろうけど(笑)、そうであっても不思議ではないというありうべき設定で、意外な新事実が本話の前半でマグマ星人自身の回想によって描かれる。
しかもこのマグマ星人、背景にライトアップされたキレイなレインボーブリッジが見える夜の河川敷(かせんじき)で、それとは対照的になんとも侘(わび)しく火鉢(ひばち)に当たりながら、野良猫と会話することで寂しさをまぎらわせているのである……
そして、腹には首からヒモで吊したお財布(さいふ)をブラ下げている(爆)。ちなみにこの野良猫の名前はネコギラス(笑)というそうだ。
「闇のエージェント」としての使命をバルキー星人に横取りされたあげく、彼に「おつかい」を頼まれる始末だったマグマ星人は、バルキー星人の後任を目指すべくバーベルで肉体トレーニングに励む!
そこに携帯電話が鳴る。なんと着メロは『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)の主題歌!(笑) 同族の別個体ではあるが、マグマ星人が初登場したのは『レオ』第1~2話の前後編であったことを踏まえたメタなギャグである。
ちなみに、この前後編に登場した兄弟怪獣レッドギラス&ブラックギラスが、先のネコギラスの名前の元ネタでもある(笑)。
そして、その電話の主は『ウルトラセブン』(67年)が初出である異次元宇宙人イカルス星人の同族別個体! バルキー星人の後任は自分であると宣言する!
イカルス星人は『ギンガ』前半シリーズ(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200819/p1)の最終回である第6話と『ギンガ』後半シリーズの筆頭である第7話の間の出来事である映画『ウルトラマンギンガ 劇場スペシャル』(13年・松竹・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200820/p1)で「闇のエージェント」を務めたキャラだ。
もちろん我々視聴者は、バルキー星人の後任がイカルス星人であることを知っている。イカルス星人の後任がナックル星人であることも知っている。そして最終回(第11話)に至るまでマグマ星人が一度も「闇のエージェント」に昇格して登場した試しがないことも知っている(笑)。
可愛そうなマグマ星人。つまりは彼の鍛錬(たんれん)が実らないことを我々視聴者は知っていることから来る、あくまでもコミカルなものではあるものの、軽妙なペーソス(哀感)も濃厚に漂ってくる。
そして、ウルトラマンゼロと行動をともにするヒーロー・グレンファイヤーの声を務め、映画『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feats.(フィーチャリング)スーパー戦隊』(14年)では故・納谷悟朗(なや・ごろう)そっくりの厳(いか)めしい声(!)で昭和の10号ライダー・仮面ライダーZX(ゼクロス)(『10号誕生! 仮面ライダー全員集合!』(84年))の敵組織・バダン大首領リメイク版の声も演じてみせた、我々同様の特撮オタクでもあり七色の声音(こわね)を使い分ける実力派中堅声優・セキトモこと関智一(せき・ともかず)がやや低音で片言のトボケた感じで演じるイカルス星人は、いちいち発言の語尾に「イカ」を付けまくったあげくに、
などとマグマ星人にヌカして、バルキー星人同様に見下してきた果てに「おつかい」のパシリ(使いっ走り)扱いにする始末。
目と口元が露出していることで、スーツアクターの表情の演技までもが読みとれるマグマ星人だが、この際の憮然(ぶぜん)とした表情演技がなんともたまらん(笑)。
時は流れる。遂にはマグマ星人が云うところの「おネエ野郎」だった『ギンガ』後半シリーズ第7話~10話(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200825/p1)での「闇のエージェント」を務めた暗殺宇宙人ナックル星人・グレイや、彼らの首領である「闇の支配者」ことダークルギエルまでもが敗れた!
「これからどうすればいいんだ?」
と嘆くマグマ星人だが、話相手の野良猫にまで逃げられてしまう――この猫の演技がまた絶品!・笑――。
サーベル暴君マグマ星人 VS 残された仲間・健太&千草!
商店街をトボトボとさまようマグマ星人を、超低予算作品の都合かテレビシリーズ正編からの連続登板を果たすことができたのはこのふたりだけである、レギュラーの少年・健太とサブヒロインの少女・千草(ちぐさ)が目撃!
追跡を敢行するが、なぜか人々はマグマ星人に誰も気がつかない。それもそのハズであり、マグマ星人の姿は健太と千草にしか見えておらず、ほかの人々には人間体の姿として映っていたのである!
この人間体がまた「暴君」どころか、我々みたいな種族のさえない男というのが絶品である(爆)。
ウルトラマンたちにウルトライブ(変身)できる能力を獲得した健太と千草のふたりだけに、マグマ星人の真の素の姿(正体)が見えるという超能力描写――やはり超低予算作品の都合か、透視能力を表現するマグマ星人とその人間体とのオーバーラップ合成などは使われてはいないが・笑――。
ウルトラマン自身やウルトラマンと合体・同一化した人間たちにはSF的・超常的な特殊能力が備わるという、子供たちがワクワクしてあごがれをいだきそうな設定を、マグマ星人との遭遇の場面でここぞとばかりに有効活用!
商店街という生活感まるだしな「日常」の中に、いかにもウルトラシリーズ的な少しだけ不思議で怪しい「非日常」感といった風情を醸(かも)し出すことにも成功しており、この一連は秀逸(しゅういつ)ですらあると思える。
バイト情報誌(笑)を見ていたマグマ星人に意を決して声をかける健太だが、
「おまえらがいなけりゃ、こんなミジメな思いは!(怒)」
と、マグマ星人は逆上して右腕にハメたおなじみのサーベルを振り回して健太と千草を追いかけ回しはじめる!
さらにマグマ星人は初代ウルトラマンをその最終回で倒した最強怪獣でもある宇宙恐竜ゼットン(!)のスパークドールズ(人形)を取り出し、千草を闇に包んでゼットンにダークライブ(巨大化変身)させようとする!
マグマ星人「どうせおまえもオレと同じだろ? そばに力を持つ者がいなけりゃ、自分じゃなにもできゃしないんだ! 万年パシリ(使いっ走り)のオレが云うんだから間違いねえ!」
千草「健太は違うよ! あんたなんかといっしょにしないで!」
闇の中でもがく千草に、健太が必死に呼びかける!
健太「負けるな千草! 千草がアイドルになったら、オレがカメラマンになって、何枚でも写真を撮ってやる!」
健太の呼びかけに、千草は遂にダークスパークから発せられる闇をふりほどいた!
物語作品一般に必然的・宿命的にハラまれている、「主人公」や「脇役」といったヒエラルキー・カースト制度。
「主人公」を立てるためにも、「脇役」は割を食ったり足を引っ張ったり「人質要員」になって助けられる役回りを割り振られることで少々イヤ~ンな感じを醸してしまうことは、物語作品一般の定め・運命でもあるのだろう。
しかし、だからといってアキラめてそれに開き直ってしまってもいけないのだ。それもまた程度問題なのである。「主人公」と「脇役」といった優劣がある関係性を露骨に芸もなくベタに100対ゼロとして表現してしまってもよいものなのか? それとも「脇役」にも五分の魂なり60対40なりでの活躍の場を与えることで、カースト制度や脇役キャラの不遇感を完全解消することは不可能だとしても、少しでも「有用」なところも見せることで緩和をしてみせることは作劇上、必要なことではあるまいか!?
ここではマグマ星人・健太・千草は一旦はそれぞれ「主人公」や正義なり悪なりの「トップキャラ」には決してなれない存在であり、「そばに力を持つ者がいなければ、自分ではなにもできない」という意味においては同列・同等であり鏡像のような関係であると、痛いところを正しく突いてくる!
しかしそれでもなお、健太と千草のふたりのキャラを悪役のマグマ星人よりも上位に立てようと画策するならば(笑)、先のテーゼの論理的反転として、「そばに力を持つ者がいなくても、誰かや社会に頼ることなく自分自身でなにかを成し遂げようと努力をしてみせる!」という趣旨のテーゼを高々と掲げるしかなくなってくるのだ!
そしてそのことによって、健太と千草の人物像をマグマ星人よりも道義的には優れたものとして賞揚することもできるのだ! ドラマ的・テーマ的なクライマックスをこの場面で一度つくってみせることもできるのだ!
この描写、『ギンガ』第10話『闇と光』で主人公・ヒカルが闇の世界からメインヒロイン・美鈴を取り戻そうとして、延々と痴話(ちわ)ゲンカを繰り広げた場面よりも、個人的には盛り上がりもテーマ的な説得力もあったように思える。
ちなみに設定では千草は幼いころからずっと健太のことが好きだったそうだ。それを考慮すればこのシーンは、テレビシリーズ本編でも語られてきた千草のアイドル志望や健太のカメラマン志望をここでおさらいするだけでなく、第4話では闇落ちして海底原人ラゴンにダークライブ(巨大化変身)して暴れ回ってしまった千草が今回は自身の意志の強さでそれを回避できたことの心理的な成長をも示すのみならず、健太の幼い恋情告白の吐露をもダブル・トリプルで含意させていたことにもなり、それもまた成功していたとも思えるのだ!
サーベル暴君マグマ星人&宇宙恐竜ゼットン VS 初代ウルトラマン&ウルトラマンティガ!
マグマ星人、やむなく自身がゼットンにダークライブ(巨大化変身)! ゼットンの着地は大胆にも実景に合成されている!
マグマ星人「オレの運気が右肩下がりなのは、あの街のせいだ!」
空中に浮遊するゼットン、空から本作『ギンガ』の舞台でもある降星町(ふるほしちょう)を攻撃しようとする! ゼットンの背面を画面手前に配し、その目線で街を俯瞰(ふかん=見下ろ)したカットが圧巻!
そのとき健太と千草の想いに呼応したかのように彼らの手元に、先端にウルトラマンティガと初代ウルトラマンのスパークドールズが装着した状態である変身アイテム・ギンガスパークが出現した!!
健太「オレたちがやるんだ!!」
健太がティガに、千草が初代マンにウルトライブ(巨大化変身)!!
ティガと初代マン、ゼットンを怪力で押しまくりながら超高速で地球を飛び出し、月へと向かう!
地球を背景に「ティガ&初代マン VS ゼットン」の激闘が月面で展開する!
初代マンが後ろから羽交(はが)い締めにしたゼットンにティガが必殺技・ゼペリオン光線を発射しようとするや、ダークライブしていたマグマ星人がゼットンから分離!! 背後から初代マンを急襲する!
以降、「マグマ星人&ゼットン VS ティガ&初代マン」という、非常にレアな組み合わせでもある夢のタッグマッチ戦ともなるのだ!
だが、ウルトラマンへのライブ時間の制限から、ティガと初代マンの胸中央のカラータイマーが青から赤へと変わり、激しく点滅をはじめる!
マグマ星人、その隙(すき)に降星町=地球に向け、ゼットンに超遠距離砲を発射させる!
ティガと初代マン、地球の盾となり、ゼットンが放った1兆℃(!)の炎を全身に浴びてしまう!
ふたりの我が身を犠牲にした行為に驚くマグマ星人に対し、「降星町には美鈴も友也もいる、ヒカルもそのうち帰ってくる、街に手出しはさせない!」と、地球を背景に正義のタンカを切るティガ&初代マン!
本作『ギンガ』における守るものの象徴でもある「降星町」。そして、メインヒロイン・美鈴。ライバル青年・友也。ウルトラマンギンガにウルトライブ(変身)する「選ばれし者」の資格がある主人公青年・ヒカル。彼らのことも決して忘れずに言及することで、この作品があくまでも『ギンガ』の一編であったことも強調される!
そして、彼らを守りたいという想いこそが、ここ一番の踏ん張りどころとなることで、健太と千草が意地を張ってでも戦うべき「動機」がここであらためて再確認もされていく!
これこそまさに公共心に満ち満ちた、他者を守るために自己を犠牲にすることも厭(いと)わないヒーローたる者の普遍的かつ王道の発言&行動でもある!
ここに至るまでの月面での一連のバトル演出は超低予算作品であるにも関わらず、特撮演出やアクション演出にちょっとしたセンスがあるからだろう。同じく月面を舞台にした映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』(06年・松竹・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070128/p1)冒頭で描かれた究極超獣U(ユー)キラーザウルスVS初代マン・セブン・ジャック・エースのウルトラ4兄弟のバトルに負けないほどの盛り上がり感がある!
瀕死(ひんし)の状態でガックリとひざまづいたティガと初代マンに、マグマ星人がトドメを刺そうと右腕にハメているサーベルを振り下ろそうとする!
そのマグマサーベルをガッチリと押さえつけ、ティガと初代マンを守る光の剣・ギンガセイバー!
健太と千草の最大の危機にウルトラマンギンガが「未来の世界」から帰ってきてくれたのだ!
ゼットンの強固な光学バリヤーをも打ち破ることができる、ギンガが両腕をL字型に組んで放つ必殺光線・ギンガクロスシュートを浴び、大爆発をあげて吹っ飛ぶマグマ星人とゼットン!
ここでメデタシメデタシで終わってもよいのだが、本作はさらなる変化球でもうひとつのスリルを与える。
ティガと初代マンの活動エネルギー限界を示すカラータイマーの点滅が一層激しくなるのだ! エネルギーが切れて元のナマ身の人間に戻ってしまっては、健太と千草は地球に帰るどころか月面の真空で窒息死してしまう!
ティガと初代マンのウルトライブ(変身)が解けようとした瞬間、ギンガは健太と千草を無事地球に連れ戻した!
そして、スパークドールズになったマグマ星人とゼットンも、先の『ギンガ』最終回のラストで他の怪獣・宇宙人たちが戻っていった宇宙へとギンガが連れていってくれた。
マグマ星人「ありがとうございやす!」(笑)
今回は憎めない悪役だったマグマ星人。さすがに彼を絶命させることなく、気持ちのよいハッピーエンドを迎えさせている――人形の姿のままでの帰還でイイのか!? というツッコミはさておいて(笑)――。
傑作『残された仲間』 ~マイナスエネルギーを材とした『80』『ギンガ』比較。『ギンガ』総論!
本話は正直、前半は深夜ドラマ枠でウルトラ怪獣にコントを演じさせていた『ウルトラゾーン』(11年)みたいなユルユルなノリである。
――『ゾーン』はマグマ星人と暗黒星人ババルウ星人がクダラないことでイガみあうコーナーが個人的に好きだった。ちなみにCS放送・チャンネルNECO(ネコ)で2013年に『レッドマン』(72年・円谷プロ)が放映された際、『マグマ星人のヒーロー研究所』というコーナーが設けられていたが、スーツアクターは今回と同一人物であるように見受けられる――。
が、中盤から急展開を遂げたかと思えば、まさかここまでカッコいいバトル作品に仕上がってしまうとは!
初代ウルトラマンとウルトラマンティガという先輩ヒーロー夢の共演による感動! そしてご町内だけの物語にとどまらず、舞台を映像的には降星町がある惑星=月面から見えている地球(笑)にまで拡大させ、疑似的に全世界的規模の危機までをも描いたように見せるスケールの雄大さ!
個人的には『劇場スペシャル』2作品よりも、スケール感やバトルの盛り上がりの観点からすれば本作の方に魅力を感じてしまった(笑)。
超低予算作品でもつくり手たちの痛快娯楽活劇としての勘どころを押さえるセンスや技量さえあれば、ここまでの作品ができるのである!
いや、今回の「番外編」のような作風は、近年の平成ライダーやスーパー戦隊においてはすでに実現されていることではある。ギャグ系怪人の登場や――幹部級怪人に至るまで!――いささか過剰(かじょう)に思えるほどのコミカル描写が散見されながらも、
・変身ヒーローが凶悪な敵怪人と身体を張って戦い、最後には必殺技で倒すというコンセプト
・子供たちにとどまらず大人たちも、いや人間・動物一般が持っている原始的・根源的な暴力衝動の発散(もちろん正義に即したかたちでの発散・笑)
・それによって得られるカタルシス、全能感や万能感
それらがいささかも失われてはいないからこそ、平成ライダーやスーパー戦隊は安定した人気を保ち続けているのであろう。
だから『ギンガ』テレビシリーズも、ヒーローや怪獣宇宙人よりも「人間ドラマ」の方に比重が来てしまうジュブナイルドラマよりも、今回の「番外編」みたいなライトでコミカルで憎めない敵宇宙人の暗躍を主眼に据えて、各話ゲストたちのダークサイド=悪い心にスポットを当てたとしても、レギュラーの少年少女キャラたちによるアリがちでも普遍・王道ではある暑苦しい道徳的な絶叫(笑)の方で凌駕してしまうような、よくある少年漫画的なノリに徹すればよかったのに……と思えてならない。
『ギンガ』のレギュラー子役の俳優陣は演技力もあるし、実に「いいコ」たちに見える。が、逆にあまりにスナオな「いいコ」ちゃんたちにすぎたかもしれない――かといって、あまりにヒネくれていたり不良的なコが登場してもイヤなのだが(笑)――。
『ギンガ』最終回(第11話)『きみの未来』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200827/p1)において、闇の支配者・ダークルギエルは「絶望の“マイナスエネルギー”」という言葉を口にしていた。
「マイナスエネルギー」。このキーワードは平成『ウルトラセブン』1996年版でも使用された由緒正しいワードだが、ウルトラシリーズのマニアならばご承知の通り、往年の『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)のキーワードでもあり、同作では「人間の悪い心」=「マイナスエネルギー」が怪獣を産み出すという設定にもなっていた。
『ギンガ』におけるダークルギエルの悪事も、結局は『80』におけるマイナスエネルギーと同等のものであり、それどころかそれを意識的・積極的に押し進めたものですらあることを示唆してもみせる「マイナスエネルギー」というキーワードを織り交ぜたこのセリフはマニアくすぐりでもあり、実に嬉しいところでもある。
筆者は『ギンガ』が一応の学園ものとして製作されることを知った際、これは『80』学校編でせっかく花が開きかけた新たな鉱脈・可能性が、種々の事情で打ち切らざるを得なかったことに対する「リベンジ」戦であると捉えたものだった。
だが、ウルトラマンエイティこと主人公・矢的猛(やまと・たけし)隊員が中学校の教師も兼任していた『ウルトラマン80(エイティ)』(80年)第1クールの学校編でも、不登校(登校拒否)の中学生の苦悩にスポットを当てた第2話『先生の秘密』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100507/p1)や、特定の生徒が発する失恋のマイナスエネルギーが怪獣に力を与えた第3話『泣くな初恋怪獣』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100516/p1)など、一応の「ドラマ性」はあったかもしれないが、エンタメ的にはやや陰鬱な作風になってしまっていたことも否めない。
そして、本作『ウルトラマンギンガ』もまた結局はこの『80』序盤の弊にハマってしまったところがあったようにも思うのだ。
少々ケチをつけてしまったが、実際のところ筆者は、当時の年長マニア向けを意識していたところが濃厚にある90年代後半のややシリアス志向な平成ウルトラ3部作や、その反対に怪獣を倒すのではなく保護するなどとマイルドに過ぎる『ウルトラマンコスモス』(01年)、そのまた真逆に怪獣との和解の余地などまったくないヘビーな『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041108/p1)などと比すると、本作『ウルトラマンギンガ』のことを個人的には好ましくすら思ってもいる。
ジュブナイルドラマでありながらも、まがりなりにも「悪の軍団」を設定することで「善VS悪」の図式を強調し、「中堅幹部」も交代していく変化のあるシリーズ構成を採用したり、完全なる1話完結ではなく各話のゲスト怪獣を倒したあとでもラストや終盤に次回への強烈なヒキともなる、巨大ロボット・ジャンキラー(=ジャンナイン)の挑戦や悪のウルトラ兄弟を登場させるようなパターン破り(!)も多用して、次回へと「つづく」となるようなノリの作劇も評価はしている。
本作『ギンガ』では、悪の中間管理職の立場のキャラとして「闇のエージェント」が登場した。
この「敵首領」とは別に悪の組織内に「中堅幹部」という役職があるという設定は、昭和の『仮面ライダー』第1作(71年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)の第3クールこと2号ライダー編における敵組織・ショッカーの中堅幹部・ゾル大佐の登場に端を発する。そして、この手法は日本の特撮変身ヒーローや合体ロボットアニメの敵組織の基本フォーマットともなった。
この中でもさらに昭和の『仮面ライダー』シリーズの敵組織・ショッカーやデストロンほか、テレビアニメ『デビルマン』(72年)のデーモン一族、『マジンガーZ』(72年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200119/p1)のドクター・ヘル一味や、『ライダー』を放映していた毎日放送(大阪)側のプロデューサーの要望で『ジャンボーグA(エース)』(73年・円谷プロ)のレギュラー敵・グロース星人軍団などには、敵組織の「中堅幹部」が1~2クールごとに次々と交代していく作劇を導入!
単なる1話完結マンネリのルーティンになりがちなこの手の作品に変化を与えて、中堅幹部との最終決戦や、敵組織の内紛劇・幹部交代劇なども構築することで、実に移り気で飽きっぽい子供たちのジャンル作品への興味関心も惹起しようとしてきた。
悪の組織にヒエラルキー構造を与えることで敵のスケール感も増大させるこの手法は、以降のジャンル作品のスタンダードともなった。しかし、敵の中堅幹部が1~2クールごとに交代していき、その都度イベント編をつくることで盛り上がりをつくっていくという作劇は、残念ながらあまり継承されてこなかったのも事実だ。
これらの70年代変身ブームやロボットアニメブームのジャンル作品を大量に観て育った世代が製作現場に入ってきたのが1990年代。かつて面白いと思ったことの再現を! といったところだったのだろう。子供向け合体ロボットアニメ『熱血最強ゴウザウラー』(93年)の敵組織・機械化帝国や、『星獣戦隊ギンガマン』(98年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110711/p1)の敵組織・宇宙海賊バルバンなどでは、悪のレギュラー中堅幹部がクールごとに次々と交代していく展開が試みられて、作品を娯楽活劇としてもよく盛り上げることができていた。
しかし、我らがウルトラシリーズでは、そもそも初代『ウルトラマン』からして悪の組織が登場せず野良怪獣の退治がもっぱらとされたことと、マニア評論の世界でも「ウルトラ」は単なる「勧善懲悪」ではなく時に善悪が反転することに深みがあるなどと過剰に理論武装をしたことが裏目に出てしまい、怪獣を倒すことの倫理的な是非などを過剰に気にし過ぎてもしまい、このままでは「ヒーローVS怪獣」という図式自体を自己否定するしかなくなり、どうやっても壮快な娯楽活劇作品がもうつくれないところまでの袋小路(ふくろこうじ)に陥(おちい)っていたとも思うのだ。
そのへんのボトルネックをご破算にして解消、敵の怪獣をやっつける爽快感を回復するためには、「悪の軍団」という設定を導入して、その「敵首領」や「中堅幹部」とのお約束の馴れ合い的なマンネリ抗争劇にするしかもうなかったのではなかろうか?(笑)
『ギンガ』本編ではそこにツバをつけた上で、その上で本作『残された仲間』では「闇のエージェント」の設定をていねいにおさらいしつつも、それ自体をふくらますかたちで、ムリがないどころか『ギンガ』の「番外編」どころではなく「正道」ともいうべきストーリーを構築できてもいる!
『80』学校編でも、第9話『エアポート危機一髪!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100627/p1)や第10話『宇宙からの訪問者』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100704/p1)のように、「ワル」では決してないが品行方正な「いいコ」ちゃんでもない桜ヶ岡中学校の生徒たちが恋のキューピットとして小さなイタズラを繰り広げる「ドタバタ学園ラブコメ」風味だった作品群の方が、むしろクライマックスでも「ドラマ」と「特撮」が華麗に融合しており『80』序盤よりも完成度が高かったりした。
その伝で云うと、悪役だが憎めない小悪党の域にとどめた悪の中間管理職であるマグマ星人の暗躍をコミカルに描いて、より大声を出した方が最後にバトルに勝てる少年漫画の伝統(笑)に則(のっと)って健太と千草が正義の絶叫をあげる本作『残された仲間』こそが、本来あるべき『ウルトラマンギンガ』の番組フォーマットであったとも考えてしまうのだ……
『假面特攻隊2015年号』「ウルトラマンギンガ」番外編・関係記事の縮小コピー収録一覧
・東京新聞 2014年4月12日(土)夕刊 祖師谷「光の国」に ウルトラ兄弟街灯に変身 3商店街 あす式典
・スポーツ報知 2014年3月14日(金) レッツゴー!! 特撮HOCHI 怪獣酒場きょう開店フォッフォッフォ 地球人に開放 川崎1年限定 (延長されて2020年現在も営業中!)
『ウルトラマンX(エックス)』前半評! 5話「イージス光る時」・8話「狙われたX」・9話「われら星雲!」 ~ゼロ・マックス・闇のエージェント客演!
https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200405/p1
[関連記事]
『ウルトラマンギンガ』番外編「残された仲間」 ~傑作! 『ギンガ』総論・マイナスエネルギーを材とした『80』『ギンガ』比較
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[関連記事] ~ウルトラシリーズ最終回評
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『ザ☆ウルトラマン』(79年)最終回 #49「ウルトラの星へ!! 第3部 U(ウルトラ)艦隊大激戦」 ~大幅加筆!
『ザ☆ウルトラマン』(79年)最終回 #50「ウルトラの星へ!! 完結編 平和への勝利」 ~40年目の『ザ☆ウル』総括!
『ウルトラマン80(エイティ)』(80年)最終回 #50「あっ! キリンも象も氷になった!!」 ~実は屈指の大名作!
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