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攻殻機動隊 新劇場版 & ゴースト・イン・ザ・シェル(実写版) ~義体のサポート期間終了問題で新自由主義も批判!?

『正解するカド KADO: The Right Answer』(17年) ~40次元の超知性体が3次元に干渉する本格SFアニメ。高次元を材としたアニメが本作前後に4作も!
『機動戦士ガンダムNT』(18年) ~ニュータイプを精神が高次元世界に拡張した存在だと再定義! 時が見え、死者と交流、隕石落下を防ぎ、保守的家族像を賞揚の果てに消失したニュータイプ論を改めて辻褄合わせ!
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 サイバー(電脳)SFアニメ『攻殻機動隊』シリーズの新作にして3D-CGアニメ『攻殻機動隊SAC_2045』(20年)の総集編映画『攻殻機動隊SAC_2045 持続可能戦争』(21年)が21年11月12日(金)公開合わせで、往年の深夜アニメの大傑作『攻殻機動隊SAC』(02年)傑作選が再放送中記念! とカコつけて……
 アニメ映画『攻殻機動隊 新劇場版』(15年)評と「攻殻~」のハリウッド実写映画化作品『ゴースト・イン・ザ・シェル』(17年)評をアップ!


攻殻機動隊 新劇場版』・『ゴースト・イン・ザ・シェル(実写映画版)』 ~義体のサポート期間終了問題で新自由主義も批判!?

(文・T.SATO)

攻殻機動隊 新劇場版』 ~義体のサポート期間終了問題で新自由主義も批判!?

(2015年6月20日公開)
(2015年7月25日脱稿)


 近未来の日本。サイバーパンクで名作SF洋画『ブレードランナー』(82年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171110/p1)で東南アジア的なネオン看板の退廃都会を舞台として、義体のサイボーグ・コンピューターウイルス・ハッキング・破壊テロなどの特殊犯罪を地道に捜査したり盛大にドンパチしたりもする、メスゴリラもとい低音ボイスの美女姐ちゃんが率いている公安9課のワケありなオジさんサイボーグ刑事たち(一部はナマ身の人間刑事)による、ITリテラシーかついささか乱暴でゴーインな活躍を描いてきた『攻殻機動隊』シリーズの最新作。
 シリーズ25周年記念作だとのことだが、平成元年(1989年)に原作マンガがスタートしているから正しくは26周年だよネ(汗)。


 まぁまぁ面白かった。個人的には御大・押井守(おしい・まもる)カントクが手掛けた早くも20年も前となる最初のアニメ映像化作品でもある映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』(95年)やその続編映画『イノセンス』(04年)などの難解ぶりっ子作品なぞよりかは断然面白い。
 しかし、カントクを当時の新進気鋭・神山健治(かみやま・けんじ)に変えて製作された早くも10年強前の作品となる深夜アニメの大傑作『攻殻機動隊 S.A.C.(STAND ALONE COMPLEX)』(02・04年)シリーズよりかは劣るといったところか?


 哲学的な自問自答を繰り広げるばかりでドンパチはほとんどなかった押井守版と比すれば、「機動隊」というタイトルから連想されるドンパチ・アクションがあるだけでも一見さんの観客の期待を裏切らない作りだし(笑)。少々は難解でも一応の活劇エンタメにはなっている。


 本作は厳密には一昨年の2013年から順次、劇場公開されてきた60分尺の『攻殻機動隊 ARISE(アライズ)』シリーズ5本につづく「完結編」をそうだとは謳わずに公開した作品でもある(笑)。萌え美少女アニメ全盛の昨今、若いオタク間では『攻殻』などは終ワコンであろうし(汗)、この映画1本だけでもたしかに単独作としては充分に成立はしているので、間口を狭めてしまうタイトルの「完結編」ではなく、『新劇場版』だと銘打っているのは集客・興行面では正しことだとすら思うのだ(笑)。


 内容は『ARISE』~本作『新劇場版』まで含めての「メンバー集結」と「公安9課結成秘話」を描く『攻殻機動隊』の第0話ともなっている。まぁ細部を見ればそれまでのあまたの『攻殻機動隊』シリーズとの設定や辻褄が合わないのだけれども――そもそもアニメ映画版と深夜アニメ版の時点で不整合だったけど(笑)――。もちろん、それはおそらく確信犯での不整合だろうし、そこはパラレルワールドなりカントクさんによる作品世界のひとつの解釈・アレンジなり新訳なりでのご愛嬌でもイイのだろう。



 本作『新劇場版』の冒頭は、急進派の軍人に占拠された某国大使館の鎮圧! それはそれでアリガチな、「軍人こそが悪である!」と陰に陽に糾弾する作品なのかと思いきや……。それと同時に発生する総理大臣の爆殺事件!(汗) そして、攻殻機動隊こと公安9課による捜査の課程で判明していく「義体」利権。


 「新自由主義的」イノベーション(技術革新)で次々と新バージョンの「義体」の新製品を発売して経済を回転させていきたい「グローバル大企業」。しかし、軍事的・管理的な理由からもあまりに頻繁なる新製品への換装は避けることで、技術革新を停止とはいわずとも遅滞はさせておきたい「国家」と「軍」。「国」と「軍」の対「グローバル企業」との交渉での押されっぷり。つまり、今や「国」や「軍」よりも民間の「企業」の方が強いのだ(汗)。


 かたや一般庶民側でもある、障害などで身体の一部を「義体」に換装して暮らしている貧困層(汗)も、旧バージョンの「義体」の「サポート期間終了」に伴なって「生き腐れ」(爆)となる危機を迎えてしまっている……。


 生き馬の目を抜く競争社会を勝ち抜くため、新技術の研究・開発に人的・金銭的パワーを傾注するためにも、旧バージョンのサポートをやめたいGAFA(GoogleAppleFacebookAmazon)などのグローバルIT企業が宿痾的に抱えてしまう問題点のコレは風刺でもある。


 そして、対極・敵対・水と油の関係だとも思われがちな「官」と民間の「弱者」の利害がココでは奇遇にも一致して、強欲な「商人」だけがひとり勝ちをしている構図となっている。……オオッ、よくぞ判っていらっしゃる!


 20世紀の前中盤には想像もつかなかった、国境をラクラクと超えていく「グローバル経済」こそが、「過剰スピード・過剰変化の競争社会」をもたらして、バブル期のTV-CMでもあったような「♪ 24時間、戦えますか?」なブラック労働によって、人々を地域・家庭に関わらせる余暇をもなくしいき、地縁・血縁共同体や自治的共同体をも崩壊させている元凶なのである。


 そのワクチン・ブレーキ・必要悪としては、「国」や「地域」の権限をあえて若干強めて、あまりにも強くなりすぎてしまった「グローバル企業」とも拮抗させることで、国境・関税・移民の壁をも少々高くすることなのだ!――むろん断交・鎖国にまでは行かない範疇で――
 つまりは、「競争・経済至上主義」&「労働者の過剰流動性(=解雇規制緩和非正規労働者の増加)」を低めることなのだ! コレによって、「雇用」&「人心」を安定させることなのだ!


 一部のポジティブな超人はともかく、凡人は「雇用の不安定」・「高度な新産業への配置転換」などには即応などはできはしないし、心理的にも耐えられない! 新産業の雇用が旧産業の雇用を吸収するなぞはウソである。石炭火力の従事者がIT業界や再生可能エネルギー産業(太陽光・風力・地熱・バイオマス)へと配置転換できるなどとはとても思えない(汗)。変化は必要でもそのスピードは遅めるべきだし、場合によっては1世代を通じた変化とすべきなのである。


 そんな浮世離れしたことを考えてしまう一介のオタに過ぎない筆者も、「二元論」的な「善悪対立図式」ではなく、「正・反・合」などの「多層性」や、「入れ子の構造」・「三角構造」にもなっている、本作における錯綜している対立図式には好感を覚えた。ゆえに、旧態左翼な「階級闘争的なラスボス」や安倍ちゃん(笑)がいないという意味では、現実社会にも活劇エンタメ的なラスボスが実在していてソレと戦いたい! 現実社会でも巨悪と戦うヒロイズムに酔いしれたい! などという安直にして誤まてる単純図式の中で生きている方々には難解な作品に映じてしまっている可能性は高いだろう(汗)。
 ただまぁ、ラストに盛大なドンパチを持ってくることで、物語の「起承転結」感は出せているのでやはり難解な作りだということもナイとは思うけど。



 そんな現今の世界における「マクロな議題」とも直結している、全身が「義体」でもある女性主人公の「ミクロな出自」と「アイデンティティ」の問題。そして、その鏡像キャラクターともなりうる敵キャラとの対比も描いて、キャラクタードラマ的なメリハリをも出していたのが本作のキモであった……といった解題でOKであろうか?


 評論オタクのような人種にとっては、本作のようなハイブロウな作品の内容それ自体がよくわからなかった……と白状してしまうのは沽券に関わるモノだろう(笑)。
 しかし一方、相変わらずのお高く止まって取り澄ましてケムに巻いたような作りになっているともいえるので、「ボク、よくわかんなかったぁ~(笑)」などと正直に悪びれずに云ってみせるような感想こそが、庶民・大衆にとっては一番正しいモノのような気がしないでもないけれども(爆)。
 ただまぁ、筆者個人はやはり平均的な庶民・大衆ではさらさらなくって、貴族でもなければ穢多非人。空理空論をもてあそぶのが常とも化している屁理屈オタクのひとりなので、このような与太話が自然と自動的に浮かんでくる次第である(汗)。


 本作を含む『ARISE』シリーズよりも『S.A.C.』シリーズの方がフツーに面白かったと筆者個人も思うのだ。ただし、コレもスタッフの技量の差では毛頭なく、「60分枠・全5話」か「30分枠・全26話」かといった尺自体の問題にも起因するのだろう。
 『SAC』の方が30分枠・全26話という尺を余裕を持ってゼイタクに使っており、連続性がありつつも1話完結話もありきの内容ともなっていた。よって、ドーやってもムダに無意味なわかりにくさはないのである。
 しかし、『ARISE』は全5話しかないという宿命で、『SAC』とは違って各話に濃厚なドンパチのアクションも入れざるをえなくなっている。加えて、60分枠の間を持たせるため、複数の要素を並行してお話を作っているがゆえに、ドーしても少々の難解さ・煩雑さもまた生じてくるのだとも私見をするのだ。



 ところで、本作を上映している映画館には昨今のアニメ映画の鑑賞ではあまり見掛けなくなった旧型の中年男性オタクたちが多数を占めていた。東京でも郊外の東武練馬のシネコンの小さなハコでの上映開始直前に入館したのだが、あまりに静かなのでガラガラなのかと思いきや……。ふとスクリーン側の入口から見上げると、座席自体はあらかた埋まっていたのだ! しかし、私語はまったく聞こえてこず正座をして鎮座ましまして神妙なる態度を取って襟を正して鑑賞しようとしているかのような「静寂」があたりに立ち込めていたのであった(笑)。


 公安9課のレギュラーメンバーを演じていた声優陣を一新したことには批判もあるようだ。しかし、今や中堅の坂本真綾(さかもと・まあや)が本作ではドスの効いた低音姉御ボイスで演じる主人公・草薙素子(くさなぎ・もとこ)をはじめとして、個人的には「コレじゃない感」はなかった。オリジナル声優のイメージにもよく似せて演技をしていたとも思うのだ。



 ヤボを承知で、『攻殻』シリーズ自体の世界観にも一言しておこう。人間の精神も脳内電気信号であるならば、それらはデータ化してネット上にも放流できるのやもしれない。しかし、記憶・知識レベルのデータをいくら集積してもそれは単なる「静的な存在」である。ウイルス・プログラムとして実行されるレベルならばともかく、そこから「動的な知能」もしくは「人工知能」などが自動的・自然発生的に生成されてくるとはとても思えない。
 臓器のレベルでも「生存したい!」というような動物の本能にも根差しているようなリビドー(衝動)なり、アドレナリン・ホルモン・脳内麻薬物質がもたらす「快/不快」といった鼻の先のニンジンのようなモノが「目的意識」となって生物を駆動して、それら「快/不快」の原始的な情動がもたらす「目的意識」が幾重にも累乗かつ複雑怪奇に積み重なっていくことによって、ヒトの欲望や社会的な集団における美意識・価値観・道徳・宗教なども生じてくるのだろう。


 「不快」や「自己犠牲」をあえて採ることで、子供や家族や社会を守ろうとする、単なる「快/不快」とは真逆な行動を採るような不合理もたしかに人間には存在している。そして、それが人間を単なる動物ではない存在へと高めてもいる。
 しかし、それとて長期的な展望を見据えての、あえて子供や家族や社会に「快」をもたらすためのモノとしての「不快」の採択に過ぎないのやもしれないのだ。つまり、原初的な「快/不快」という原理からのリアクションとして派生・変形したモノにすぎない可能性もある以上は、一見は倫理的・道徳的な選択には思えても、動物的な「快/不快」からはまったくの独立自存して発生した、聖なる天上世界の神さまから与えられた十戒のような至純の情動でもないのだろう(汗)。


 つまり、「肉体」という器(臓器)ではなく、「快/不快」といった感情などが生じてきようもないだろう器(機械)などから、何らかの「目的」を持って高次な「価値判断」までできるような、動的な「生命」や「知能」が自動生成的に生じるとは、個人的にはとても思えないのだ。ゆえに筆者は、実は『攻殻』シリーズなどにおけるネット上での人工知能・誕生説などには、さして現実味を感じていないのもホンネである。


 しかし、そーいうことを云い出してしまうと、あまたのサイバーパンクSF作品の受容が却下されてしまうのもまた事実なので、ソコは特定ジャンルにおけるお約束・歌舞伎的な様式美(笑)だとして割り切ることにはしている。
攻殻機動隊 新劇場版 (レンタル版)

攻殻機動隊 ARISE border:1 & 2 DVD-BOX (2作品, Ghost Pain & Ghost Whispers) こうかくきどうたい アライズ 士郎正宗 アニメ [DVD] [Import] [PAL, 再生環境をご確認ください]
(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.65(15年8月14日発行))


『ゴースト・イン・ザ・シェル』(実写映画版)

(2017年4月7日(金)・日本封切)

ヒトの精神は電気信号に還元できず、脳内化学物質での駆動では? 人格が代替可能なアニメ版/代替不能な実写版!

(2017年6月17日脱稿)


 東南アジアチックなネオンに彩られた近未来都市を舞台に、脳ミソ以外の全身を義手・義足・義体で包んだサイボーグ美人刑事・草薙素子(くさなぎ・もとこ)率いる警察・公安9課のイカつい人間&サイボーグの面々の活躍を描く物語。
 1989年(平成元年)に「ヤングマガジン」に漫画『攻殻機動隊』が登場してから早くも30年弱(汗)。往時、誰が本作がついにはハリウッドで実写映画化される日が来ることを予想したであろうか?


 人間と機械と電脳空間(インターネット)が融合した近未来を描くSFジャンルを「サイバーパンク」と呼ぶ。今は懐かし30年以上前の1980年代に登場して一応SF小説ジャンルの最先端と目されるも、当時は若いハードSFマニアの間でだけ流行して、一般層にも流通していたとは云いがたいし――当時のヌルめの日本SFファンにとっても、往時は今では絶滅したエロバイオレンスな伝奇SF小説の絶頂期であった――、どころかオールドSFファンからもサイバーパンクは古典SF的な視点転倒や視点拡大などのワクワク感・知的快感をもたらすものではナイとして、敬遠されていたような気もする。
 などと他人事のように書いているが、筆者もはるけき昔の本誌読者の過半が生まれる前の1990年前後にお勉強として、サイバーパンク小説『ニューロマンサー』(84年)を「ハヤカワ文庫SF」で読もうとしたことがあるけれど……。この近未来の千葉市(笑)を舞台として、ピンジャックで端末と人間の脳ミソを直結させて、意識・精神を超高速で洋画『トロン』(82年)的な格子状の電脳空間に漂わせて戦い合って、負けたら脳ミソが焼けちゃいそうな世界観にリアリティを感じることがあまりできず、どころか索漠として刹那的で乾いた作風を優先するあまりに、登場人物の人となりの描写やキャラの描き分けをあまりしないものだから、誰が誰だか区別が付けづらくて、主観的にはツマラない小説でもドチラかといえば活字中毒なので最後までガマンして読み通すタイプの筆者としては珍しく、読了を断念した記憶がある――その10年後にも再読を試みたものの、まったく同じ感慨を抱いて、またも読了を断念――。コンピューターに強かったSF評論家ならぬベテラン特撮評論家の聖咲奇(ひじり・さき)センセイが当時、サイバーパンクはノリで読むものだ(大意)という趣旨の発言をしていたようにも思うけど……ゴメンなさい。筆者にはサイバーパンクは合いませんでした。


 日本におけるサイバーパンクものの嚆矢(こうし)は、今にして思えば士郎正宗の漫画『アップルシード』(85年)や『攻殻機動隊』(89年)であったワケで、そう考えると誇ってもイイことだけど、本家アメリカにそうそう遅れていたワケでもない。
 まぁ上記2作の初出時に、もう10代後半~20歳前後であったオッサンオタクの繰り言を云わせてもらえば、80年代初頭の「アニメ新世紀宣言」でジャンル作品を一般層にも広く鑑賞可能な普遍的なものにしていこうとする動きが、作者やマニアの方では先鋭的なことをしたつもりでも客観的にはタコツボ的なディテールフェチ・設定フェチ・可愛い女の子に対するフェティッシュな方向で小さく閉じて退嬰的になっていく流れが、まさに80年安保(笑)の挫折として感じられて、個人的にはあの時代はしごく不快であったものだ。よって、『アップルシード』や『攻殻機動隊』の作風や内容はそーいった風潮の悪い意味での象徴のようにも思えて、個人的には印象がよくなかった――じゃあ後年の美少女アニメも観ているテメェはドーなんだ!? と問われると窮すけど(汗)――。


 で、それから30年! いまだに、『アップルシード』や『攻殻機動隊』は命脈を保っており、何度もリメイクされ続けているワケで。ある意味では『攻殻機動隊』的な感性が勝利したともいえるワケであり、当時の筆者の不明を恥じるほかない。まぁ細かく云えば、『攻殻機動隊』も作品ごとにその内容やテイストはかなり異なるどころか、変節を重ねてきて万人向けにマイルドになってきたとも思うのだが。


 本作は直接的には、当時から評価も高い20数年前の95年版の押井守カントクのアニメ映画『ゴースト・イン・ザ・シェル 攻殻機動隊』のリメイク作品でもある。……ここでもまた実に私的な感想を述べさせてもらうけど、この95年版も、個人的には当時、「あぁ押井守もTVアニメ版『うる星(せい)やつら』(81年)での演出回やオリジナル回、映画版『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84年)のころは実によかったなぁ。なのに、なんでこんなに頭デッカチで難解で思わせぶりっコな作品を作りやがって!」……と反発を覚えていたものである。
 よって、95年版リスペクトの今回の実写リメイク版の仕上がりにも不安があったのだが……。フツーにわかりやすいやないけ! いやまぁひょっとすると一般ピープルにとってはコレでもまだわかりにくい作品である可能性はあるけれど(汗)。


 間違っていたらご容赦願いたいのだが、95年版は筆者の記憶では最後は人間の脳ミソ内での精神活動も「電気信号」に還元できるのであれば、肉体を離れても電脳の海で生き続けることができるというビジョンの元で、ラストは草薙素子のゴースト(精神)が肉体・殻(シェル)から離脱して被疑者の電子生命と電脳空間で融合・合体して、新たな電子生命が誕生したらしい!? ……というオチになる。
 いかにリアリティを追求した作品とはいえ、所詮はフィクション作品に対してこのようなことを云うのはヤボではあるのだが、筆者個人は人間や動物や生物一般は、「記憶」などのデータ化できる静的な「電気信号」に還元できる要素だけではなく、「鼻の先のニンジン」に突進するような好悪や食欲の次元で「脳内化学物質」が分泌されて、そんな「物質」や「化学反応」を燃料として動的にエンジンを駆動させているのだから、前者の静的な「電気信号」だけで自発的に動き出せる生命や自我が誕生するとはとても思えないので、往年のあのオチにもリアリティを感じてはいない。
 ただまぁそんなことを云い出したら、このテのフィクション作品は何も楽しめなくなるので、同時にいつものことだと割り切ってもいるのだが(笑)。


 ところがドッコイ、本作はそんなムダに難解な展開にはならない! ドチラかと云えば、近年のリメイクアニメ映画『攻殻機動隊 ARISE(アライズ)』(13年)シリーズの最終作『攻殻機動隊 新劇場版』(15年)のごとき、メスゴリラもとい草薙素子刑事のアイデンティティーに関わる出自を探求する展開ともなっていく。
 草薙素子の出自は施設育ちであったり軍の特殊機関の出であったり、義体をまとった時期&理由も幼少時の事故なり病気なり胎児の時期であったりして、作品によって異なるのだが(笑)、本作のそれはたかだかホンの1年前のことであったらしいと明かされる!
 本作では草薙素子を欧米人が演じており、ここには異論もあるようだが――特に欧米側のオタクに!――、そこは東南アジア的でありながらも無国籍な近未来作品なのだから、日本臭をゼロにしろとは云わないけど、残しつつもウスめるためにも、個人的には欧米人起用は構わないようにも思ったものだけど……。ナンとビックリ! 公安9課の荒巻部長を演じた北野武ビートたけし)以外にも、日本人俳優として桃井かおりが、草薙素子の実の母親らしい重要な役回りで出演していたのであった!


 語彙などの知識量どころか、顔や姿が人種を超えて変わってしまったのに、このふたりは互いを他人ではないように感じて、草薙素子もおそらくかつての自宅である超高層アパートの狭い室内に招き入れられてお茶も饗応される。そして彼女との会話で、草薙素子の素体となったティーンの少女はどうにも手に負えない負けん気で勝気で不敵で胆力もある、仲間たちとデモもどきや夜遊びもする不良少女であったらしいことが明かされていく。


 往年の95年版では、人間の性格や人格やその境界は、人生途上の境遇や役回りでいくらでも変わったり交じわったり溶けあったりする程度の、代替可能で融通無碍な無我的なモノであるようなニュアンスも受ける。しかし本作の描写だと、人間とは「記憶」を喪失しようがその「人格」を喪失するような存在ではなく、「記憶」を失ってもなお残る、そのヒトの「性格」や「気質」や「胆力」のようなモノこそが、代替不能な人間個人のアイデンティティーの本質であるようにも描かれる。


 まぁドチラの人間観も個人的には正しいとは思うけど、ごくごく個人的には、後者の方にこそ若干の分があるようにも思える。まさにこの胆力のある不良少女ならば、現在の豪胆な草薙素子になっても不思議ではないと思う。そのかぎりではアイデンティティー、字義通りの自己同一性も保証されている。
 てなワケで、95年版よりも本作の方を筆者個人は評価するけど、それでもやっぱり本作は難解なマニア向けの作品でしたかネ。東京でも郊外の東武練馬のシネコンで鑑賞したけど、エンディングテロップが終わらないうちに観客は次々と立ち去っていくのでありました(汗)。
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(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2017年初夏号』(17年6月18日発行)~『仮面特攻隊2018年号』(17年12月30日発行)所収『ゴースト・イン・ザ・シェル』評より抜粋)


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#攻殻 #攻殻機動隊 #攻殻機動隊新劇場版 #ゴースト・イン・ザ・シェル #SAC2045



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