「ウルトラマンエース」総論
「ウルトラマンA 再評価・全話評!」 〜全記事見出し一覧
(脚本・田口成光 監督・筧正典 特殊技術・川北紘一)
(ファミリー劇場『ウルトラマンA』放映・連動連載!)
(文・久保達也)
変身する主役がラストまで登場しない穴を脇が埋めるという構造からどうしても『ウルトラセブン』第39・40話『セブン暗殺計画』と比較してしまうが、スーパーヒーロー絶体絶命の危機に防衛組織が決死の覚悟で挑むさまは双方ともにやはり魅力的だ。
ただ『セブン暗殺計画』が『ウルトラQ』(66年)以来コメディ調の演出がお得意な飯島敏宏が監督したとはいえ、ウルトラ警備隊のフルハシ隊員をコメディリリーフに据え、地球最大の危機を前に割と軽いノリで事態に臨んでいる様子にやや違和感があるのに比べ、今回は最後まで比較的シリアスで重い印象が感じられる。
「エースを星人に渡してしまえば」
と主張したことに強く責任を感じ、吉村隊員の
「もし星人に負けたら……」
との発言に
「勝つんだっ!」
と勢いよく叫ぶ山中隊員、
本部の北斗と夕子の席にそっと花を置く美川隊員、
「いよいよ最後か……」
とつぶやいたかと思えばユーモラスに
「なむあみだぶつ」
を唱えたりと悲観的なのか楽観的なのかよくわからない今野隊員(笑)、
「私も連れていって下さい」
と竜隊長に直訴する兵器開発研究員の梶と、地球の危機を前にした各キャラのいかにもな発言や行動が実にイキイキとしており、その描き分けの妙は見事と云う他はない。
しかし今回もやはり竜隊長がひとりでオイシイところを持っていってしまった。「星人を攻撃するな!」と特殊車両タックパンサーを取り囲んだ群集に
「これはTACと星人の戦いではない。人間と宇宙人の戦いです」
と説得し、北斗と夕子に花をたむけようとした美川に
「まだ生きているような気がする」
と止めさせ、
「散歩に行く」
と出かけたかと思えば星人に父を殺された姉弟の家を訪れ、
「君が大事にしているものを誰かが持っていったら君は怒るだろ? 我々は怒らなけらばならない。星人は人間が最も大事な地球を持っていこうとしているのだ」
と少年を熱く説得する。そして姉弟の父が事件当日に20年間肌身離さず身につけていたお守りを忘れて出かけていたことを姉が告白、竜隊長はそのお守りを託される……単なるイベント編ではなく、こうした竜隊長の一連の行動を中心に描くことでドラマに厚みを持たせているのだ。
「心のどこかでエースに頼っていた」と思わず漏らした山中の発言に象徴されるように、『セブン暗殺計画』に登場した分身宇宙人ガッツ星人も、今回の地獄星人ヒッポリト星人も地球の守り神であるスーパーヒーローを暗殺することで地球人たちの心の拠(よりどころ)を失わせ、戦意を喪失させるのが最大の目的である。誰もがくじけそうになっているそのときに、「断じて屈してはならない!」と最後まで戦い抜く姿勢を貫き通す竜隊長を中心に据えることで地球人がひとつへと収束していく展開には確かに熱いものを感じさせる。
01年の9.11同時多発テロ当時にはこうしたノリの作品はなかなか描けず、『ウルトラマンコスモス』(01年)のような慈愛の精神に満ちた作品を世に送り出した円谷プロではあったが(厳密には01年7月の放映開始に半年弱先駆けて撮影)、05年は衆議院選挙で与党が圧勝し、憲法改正すらも容易に成し遂げられそうな右傾化のご時勢だからこうした徹底攻戦の姿勢もすんなり受け入れられそうであり、現在(05年)放映中の『ウルトラマンマックス』で描いてみるのも一考かと思われるが……
今回の最大の目玉であるウルトラの父はヒッポリト星人の火炎攻撃によってTACが絶体絶命のピンチに陥った際にようやく姿を見せる。ウルトラマンのファミリー路線の元凶として嫌がる人も多いようだが(筆者的には信じられんが……)、デジタルウルトラプロジェクト発売のDVD『ウルトラマンA』Vol.7(asin:B00024JJHY)の解説書によれば、当時の円谷プロとしてはやはりファミリー路線への転換は必然的なものであった。
熊谷健プロデューサー(当時・円谷プロ)が映像の仕事を始めたときに最初に出会ったのが円谷英二ともうひとりが戦後昭和期の映画監督のかの名匠・小津安二郎(松竹)であったという。
円谷英二のファンタジーの世界と小津安二郎の家族愛の世界を融合させたいと考えていた熊谷氏と、翌年もシリーズを継続させるために秋口くらいにインパクトをつけたかった橋本洋二TBSプロデューサーの思惑が合致してウルトラの父が誕生したのだ。
男女合体変身のエースが女性・南夕子の優しさをデザインに取り入れたことから、逆に男らしさ・強さの象徴として角(つの)がデザインされたという。
実際オンエア前にTBSホールで行われた上映会は大盛況となり、小学館の雑誌でも再三取り上げられたことで、変身ブームに沸く72年当時様々なヒーローが乱立する中でもウルトラの父はゾフィーやウルトラセブンらとともに大人気を誇ったのである。
ウルトラの父がいるなら必然的に母も、てなわけで次作『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)に母が登場。ならばお爺さんも(笑)と『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)にはウルトラマンキングやレオの弟・アストラが登場した。製作に混迷を極めたという『A』にウルトラの父という切り札がなかったら、ウルトラシリーズが現在に至るまで脈々と続く大長期シリーズ作品群と成り得ていたのかどうか。筆者には大いに疑問なのだ。
ラストでウルトラの父は夜空に輝く大きな星となり、姉弟の父はその横に小さく輝く星となった。それを見上げ、竜隊長は少年に例のお守りを託した。やはり最後の最後まで竜隊長が最もおいしかった(笑)。
<こだわりコーナー>
*前話の細胞破壊ミサイルの改良・細胞破壊銃が登場。ヒッポリトドームを破壊する戦果をあげた!
*今回の前後編に登場するセブンは身体前面の白いラインが胸部のプロテクターとかなり離れて描かれている。だがこの前後編の印象がよほど強かったせいか、当時の筆者はセブンのイラストを描く際には常に白いラインをプロテクターと離して描いていた。それが正しいのだと信じこんでいた。小学4年生で『セブン』の再放送を観て「アレ?」と思うまで、オリジナルは白いラインがプロテクターにくっつけて描かれていると気付かなかったのだ(汗)。
ちなみにウルトラの父も下手ながらよくイラストを描かせてもらった。懐かしいなあ……
*79年にキングレコードが発売したLPレコード『ウルトラオリジナルBGMシリーズ4 ウルトラマンA <冬木透の世界*3>』に、ウルトラの父登場からエース復活のシーンまでがMEテープ(アフレコ用に音楽と効果音を録音したテープ)から収録された。時間にして3分ほどあり、現在の観点ではBGM集なのだからそんなのより音楽を1曲でも多く入れてくれとなるところだが、映像ソフトどころかビデオすらも普及しておらず、再放送がなければ作品を観ることができなかった当時、こうした実作品からの音源収録は本当に嬉しかったものだ。
ちなみにこのLPではエースの戦闘テーマの頭に第1話から収録した「ウルトラタッチ!」のシーンが添えられていた。やっぱ盛り上がるんだよこういうの。
*盛り上がるといえばエースのリベンジバトルで主題歌が流れること。エースはヒッポリト星人をメタリウム光線で木っ端微塵に粉砕するが、変則的な技の使用が目立つエースは本来ならば定番であるハズのメタリウム光線をここぞというときに限定して使用しており、逆に印象が強く残っている感がある。まあどちらかといえば位置的にはセブンのワイドショットみたいなもんでしょ(笑)。
ただまあウルトラの父にエネルギーをもらったのだから第14話でウルトラ兄弟からもらったエネルギーでスペースQを繰り出したように、それ以上の新技を見せてほしかったとも思えるのだが……
*ヒッポリトの名前はギリシャ神話の神の名からの引用だと思われる。
*視聴率26.3%
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