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ドクター・ストレンジ 〜微妙な世評が多いが、かなり面白い!

(2018年9月13日(木)UP)
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ドクター・ストレンジ

(2017年1月27日(金)・日本封切)

微妙な世評が多いが、かなり面白い!

(文・くらげ)
(2017年2月10日脱稿)


 『ドクター・ストレンジ(2016・日本公開2017)』は微妙な評価も聞いてたんですが、かなり面白かったです。
 アベンジャーズに新しい仲間が参入です。真っ赤なマントの中年魔術師「ドクター・ストレンジ」。マント以外は普通のオッサンですね。アメコミにしては地味なヒーローですが、主役の地味さに気を取られるとこの映画の真価を見失います。


 まず巻頭いきなりの魔法戦で度肝を抜かれます。正義の魔術師エンシェント・ワン(ティルダ・スウィントン)と悪の魔術師カエシリウスマッツ・ミケルセン)がイギリスの市街地で戦うんですが、魔法でビル街を自在に変形させて戦います。言葉の説明が難しいんですが、ビルがグニャグニャに曲がったと思えばキューブ状に分裂したり万華鏡のように増殖したり。前方に歩いたはずがいつの間にか真っ逆さまに落ちたりと重力の方向も自在に変化します。歯車みたいに回転するビルに乗っての戦いが『ルパン三世 カリオストロの城(1979)』の時計塔の場面みたいでした。こういう映像だけでも入場料の価値はあります。


 天才外科医、スティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)が魔術師“ドクター・ストレンジ”として生まれ変わる誕生物語です。天才的な腕前で患者から大金をせしめてきた外科医が、交通事故で手に障害を負います。いざ自分が患者の立場になると医者は冷たく、さんざん治療費を使わされたあげく現代医学では治せないと知り、藁をもすがる思いでネパールのカトマンズに怪我を治せる魔術師を探しに行きます。ランボルギーニを乗り回し高級腕時計を日替わりで身に付けた天才外科医が、ちょっとした怪我で文無しになり、最後の腕時計もネパールでカツアゲに取られる。世は無常です。この時カツアゲからストレンジを助けたのが魔術師モルド(キウェテル・イジョフォー)で、ストレンジは彼の案内でエンシェント・ワンの元にたどり着くのでした。


 エンシェント・ワンの住処はカマー・タージって場所なんですが、僧院みたいな場所と思えばネパールの雑居ビルなんですね。歌舞伎町で営業するインチキ占い師と変わりません。ようやくたどり着いた聖地が雑居ビルで、怒って帰ろうとするストレンジにエンシャント・ワンが魔術を体験させるんですが、この場面がまた凄いです。ストレンジの魂を幽体離脱させて「アストラル界(幽界)」という宇宙みたいな場所に放り出して、時間と空間を越えた旅をさせますが、麻薬の幻覚体験をCGで再現したような場面で、終わる頃には見てる方もクタクタになります。これで傲慢なストレンジもあっという間に弟子入りを決めます。


 西洋文明に絶望したアメリカ人が東洋に渡り新たな価値観に目覚める、というのはヒッピーの構図ですね。ベトナム戦争に絶望した若者が西洋を捨て、バックパック一丁でタイだのインドだの渡り歩いて麻薬を吸いまくるアレです。原作は1963年なのでヒッピー・ムーブメント直撃世代です。魔術の描写にドラッグ的なものを感じるのは偶然じゃないでしょう。アメコミヒーローが羨ましいと思うのは、荒唐無稽なストーリーを補強する文化が豊富なことですね。原作だとストレンジが修行するのはチベットですが、映画版はネパールのカトマンズに変更されてます。中国公開に配慮しての変更でしょうが、ここは原作通りやって欲しかったです。


 現代の魔術師はネットやパソコンも使いこなして割と俗っぽく生活してます。呪文のような言葉が書かれた紙を渡されたストレンジが「これはマントラ真言)か?」と聞くと「Wi−Fiのパスワードだよ」なんてやり取りが笑います。魔術師が時間と空間を操る原理として「現実を形作るソースコードを理解する」なんて言葉が出て来ますが、パソコン世代の方が魔法とか魔術とか受け入れやすいのかも知れません。コンピュータとヒッピー・ムーブメントって縁が深いですしね。世界はプログラムの集合で、そのシステムを解析すれば物理法則を支配できる、というのは『マトリックス(1999)』にも通じます。というか『マトリックス』が影響を受けたんでしょうけど、こういう腑に落ちるバックグラウンドがあるかないで映画の面白さは変わってくるわけですよ。


 ストレンジは厳しい修行に耐え、持ち前の頭脳であっという間に知識を吸収し、有能な魔術師に成長します。最近は修行風景を見せるヒーローも少ないので新鮮ですね。テレポートの魔術をなかなか覚えられないストレンジをエベレストの頂上に置き去りにしたり。必死でテレポートしないと凍死するわけです。ストレンジが身に付ける真っ赤なマントは魔法の博物館みたいなところにあった「浮遊マント」なんですが、マント自体が生きていて、何故かストレンジを気に入って勝手について来ます。このマント君が気まぐれで言うことを聞かなかったりして可愛いです。


 こうしていっぱしの魔術師になったストレンジは否応なく悪の魔術師との戦いに巻き込まれることになります。カエシリウスとの激しい戦いの中ストレンジは重傷を負い、エンシェント・ワンは命を落とします。西洋文明を捨て東洋の魔術師となったドクター・ストレンジですが、いざとなれば躊躇なく西洋医学も活用します。ニューヨークの病院にテレポートして元カノのクリスティーン・パーマー(レイチェル・マクアダムス)に手術してもらうんですが、手術中に幽体離脱して自分の手術にあれこれ口を出します。イヤな患者ですね。


 カエシリウスの目的は暗黒次元の破壊神「ドルマムゥ」を召喚することでした。冒頭の戦いはドルマムゥ召喚の儀式を記した魔導書の争奪戦だったんですが、このドルマムゥが香港の街に召喚されて大暴れするのがクライマックスです。クライマックスは街を破壊しながらの派手なアクションが展開すると思いきや、ストレンジが駆けつけてみればすでにドルマムゥは召喚され、香港の街は廃墟となり多くの人間が犠牲になった後でした。


 そこでどうするかと言うと、ストレンジが禁断の秘宝を使って時間を巻き戻すんですね。つまりクライマックスは「街を破壊しながらの戦い」じゃなく「破壊された香港の街が元に戻る(!)」中での戦いです。逆行する時間の中をストレンジとカエシリウスが戦いますが、このシーンも凄かったです。ドルマムゥは絶対的な力を持った怪物で新人魔術師くらいじゃ勝ち目がないんですが、ストレンジがどうやってドルマムゥとカエシリウスに決着をつけるかは観てのお楽しみです。


 マーベルの作る単体ヒーローものはどうしても「アベンジャーズの出演ヒーローを増やす」ための傍流になってるのが現状ですが、そこを逆手に取って映像的に冒険をするような作品が多くて『アントマン(2015)』みたいに興行的にはいまいちだけど映像は面白かったりするんですよね。『ドクター・ストレンジ』もそんな一本で、見たこともない映像でお腹いっぱいになれる映画でした。文章じゃどうやっても伝わらないので百聞は一見に如かず、興味があれば劇場での鑑賞をおすすめします。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2017年冬号』(17年2月12日発行)〜『仮面特攻隊2018年号』(17年12月30日発行)所収『ドクター・ストレンジ』評より抜粋)


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