炎神戦隊ゴーオンジャー 〜序盤評
(文・J.SATAKE)
そんなに急いでどこへ行く?
世界を汚すことを喜びとする悪の三人組・ガイアーク。
彼らを追って地球へ来た巨大な乗り物型の生命体・炎神(エンジン)と地球の若者たちが協力してチームを組んだ。
それが炎神戦隊ゴーオンジャー!!
スーパー戦隊シリーズ第32作は、男の子の憧れる乗り物=“車”と定番である“動物”を組み合わせた。
炎神は地球=ヒューマンワールドでは巨大なボディを維持できない設定として、闘う時以外はボディ(炎神キャスト)と精神(炎神ソウル)を分けなくてはならず、地球人の協力が必要になるわけだ。
炎神たちは地球人たちゴーオンジャー5人の“相棒”と呼べるキャラとして立てるため、ボディに、
・鷹(スピードル) 〜スピードカー+コンドルモチーフ
・ライオン(バスオン) 〜バス+ライオンモチーフ
・熊(ベアールV) 〜RV車+熊モチーフ
・イルカ(バルカ) 〜バイク+イルカモチーフ
・シェパード犬(ガンパード) 〜パトカー+犬モチーフ
の顔をデザイン。
大きな目玉もついてメカでありながら可愛いイメージを強くアピール。
子供が擬音(ブンブン!)を使って車遊びをするように、炎神たちの台詞にもそれを織り込んだり、会話する時にはデフォルメされた炎神のCGアニメを使ったりと親近感を得ようと腐心している。
番組と玩具の連動もしっかりしている。
炎神が普段は玩具と同じサイズになっているのはもちろん、ゴーオンジャーの変身アイテムや武器にカートリッジ型の炎神ソウルを挿入することでライト&サウンドのパワーを得るようにして、玩具のプレイバリューを上げる効果を狙っている。
ヒーローは、今時の『スーパー戦隊』作品にしては珍しく、省略せずに毎回毎回ラストバトルの直前に五人がそれぞれの名乗り・口上を必ずあげる。
ヒーローの変身前後の距離を縮めるため、変身スーツのままマスクを外して素顔を見せるシーンも多用。エンディングでもその姿でダンスを披露して一体感を高めている。
主題歌はエレキギターの ♪テケテケテケ〜 がどこかしら懐かしいメロディを奏(かな)で、ヒーローのストレートなカッコよさと友情を押し出した歌詞でノリの良い曲
(音楽を担当する大橋恵(おおはし めぐみ)氏は『爆竜戦隊アバレンジャー』(03・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031111/p1)の故・羽田健太郎氏率いるヘルシーウイングオーケストラに参加していた方で、新鋭ながら幅広い劇伴にも対応されていますね)。
これらの要素は気に入ったのだが、番組全体としては今一つの印象。
ガイアーク三人組の目的に始まり――「〜でおじゃる」の公家言葉が印象的な女幹部・ケガレシアは深夜枠ではセクシィなお姉さんで話題の及川奈央(おいかわ なお)嬢!――、
・すでにゴーオンジャーになっているゴーオンレッド=江角走輔(えすみ そうすけ)、ゴーオンブルー=香坂連(こうさか れん)、女戦士ゴーオンイエロー=楼山早輝(ろうやま さき)の三人の活躍
・炎神ソウルのシステム
・ガイアークの戦闘機群と炎神たちの闘い
・戦隊巨大合体ロボ・エンジンオーの巨大戦
――闘いで壊れたハイウェイの替わりに巨大ロボの体で繋いで車を通す、というトンデモな荒業(あらわざ)を披露! しかも闘いの最中! 通る車も車だよ……――。
そしてゴーオングリーン=城範人(じょう はんと)、ゴーオンブラック=石原軍平の二人がゴーオンジャーに加わるまでと、実に様々な要素がギュッと詰まった第1〜2話。
よくまとめたものだと渡辺勝也監督の腕を褒めたくなる反面、ちょっとスピードオーバー! 飛ばし過ぎ! という気もする。
スピーディーな展開で子供たちを飽きさせない必要も大切だが、登場人物の心情にももう少し時間をかけても良いのでは?
カッコイイという気持ちだけで範人がヒーローになったり――のちの第5話『時々オカン!?』(脚本・武上純希 監督・竹本昇)できちんとステップは踏むわけだが――、元警察官である軍平が炎神を盗んでおいて、あとから改心して――たとえ命賭けだとしても――走輔たちに返そうとしてくれたから許されてしまうというのはちょっと納得がいかない。
戦士としてはまだまだ未熟でも、熱い気持ちが大事! というポリシーは脚本・武上純希氏かプロデューサー・日笠淳氏によるものなのか? ドラマ的には少々食い足りない感は否めない。
撮影にしっかり時間をかけられるパイロット版(第1〜2話)だからこそ、
・ミニチュアを駆使した敵戦闘機とのバトルシーン、
・各武器などのギミック、
・基本になるアクション、
これらを早く全て見せたいというのも解るのだが、撮りだめしておいて必要に応じて出していく方法もあるのでは?
特撮面では特撮監督・佛田洋氏入魂のミニチュアワークに加え、第7話『相棒アミーゴ』(脚本・會川昇 監督・中澤祥次郎)のガンパード、バルカとキャリゲーターの炎神たちだけで展開する会話劇は『きかんしゃトーマス』(1945イギリス・TV人形劇は1984・日本放映1990〜)か? というボリュームで見せてくれた。
アクション面では、石垣広文アクション監督もリアリティよりも良い意味で見た目の華やかさや豪快さを押し出す『戦隊』らしいアクションシーンを送り出している。
毎回の敵怪人・蛮機獣は声優にモノマネの“アントキの猪木”氏を起用したりと、元祖『秘密戦隊ゴレンジャー』(75)の敵怪人・○○仮面を彷彿させる、敵ながらもヘンなキャラにしようという努力が見られる。
さらに加えて、
・放映30分枠の中ほどに入るCM前後のAパート終了直後・Bパート開始直前のいわゆるアイキャッチ映像は、炎神5台のレース勝者当てクイズ。
・エンディング歌曲の位置もBパート放映後のCM終了後からCM開始前(=Bパート終了直後)に変更。
・エンディング歌曲のラストでは、各キャラの情報をマスコットロボ・ボンパーがクイズで出題。
予告編・スポンサー告知の直後、次の時間帯の『仮面ライダーキバ』(08・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090215/p1)番組情報告知の直前に、回答を示す「ゴーオンゼミナール」のコーナーを配置。
CM中に裏番組の『ポケモン☆サンデー』(04)等にチャンネルを変えられないように、子供たちの興味を引き続けさせる要素を満載!
今作はチャイルディッシュに行こうという方向性が随所に感じられるので、それらが肌に合わないとちょっとツライのは確か。
日曜日の朝、頭を硬くせずに明るく楽しいヒーローアクションを楽しもうという気持ちで、『ゴーオンジャー』はのぞみましょう!
炎神戦隊ゴーオンジャー 〜前半評
(文・J.SATAKE)
『庶民ヒーロー』はどこへ行く?
今作への個人的な印象は初期編からあまり変わっていない。
が、メンバー五人の結束は高まり、炎神六体による新合体ロボ=エンジンオーG6(ジーシックス)も加勢したゴーオンジャー。
第15話『炎神ストール』から新たなキャラクター(戦隊ヒーロー6人目の戦士と7人目の戦士)の投入で、新展開を迎える!
悪の組織ガイアークに加わったのはヨゴシュタインの参謀・ヒラメキメデス。
人間でもないのに黒ブチメガネをかけていてインテリを気取る奴だ。周到な作戦でゴーオンジャーを追い詰める。
それを救ったのは空を行く新・炎神たちニワトリモチーフのトリプターと白虎モチーフのジェットラスだった!
初登場の空中戦はCGだけでなく、ミニチュアも駆使した迫力あるバトルを展開!
岩山を突き崩しながら猛進するジェットラス、ヘリの特徴を活かして狭いビル群の間を先回りするトリプターなど、その魅力を存分に見せてくれた!!
空の炎神二体を操るのは金と銀のスーツを纏(まと)ったゴーオンウイングス。
兄のゴーオンゴールド=須塔大翔(すとう ひろと)は黙々とサンドバッグを叩く姿が印象的。
演じるのは『仮面ライダーカブト』(06・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060806/p1)の仮面ライダーザビー&仮面ライダーキックホッパー・矢車想(やぐるま そう)役の記憶も新しい徳山秀典氏。
妹のゴーオンシルバー=須塔美羽(すとう みう)はフラワーアレンジが得意。自信に満ちたクールな口調でスパッと物を言う彼女をモデル・グラビアアイドル出身の杉本有美(すぎもと ゆみ)嬢が演じている。
ヒラメキメデスを追い掛けて炎神スピードルたちより一足先にヒューマンワールドに現れたトリプターとジェットラスは須塔兄妹を相棒として迎え、二人に戦士としての心技体を習得させていたのだ。
金と銀のメタリックスーツの光沢感はきらびやか!
ヘルメットにはジェットタービンをあしらい変身アイテムもスロットルレバーと、ウイングスの名に相応(ふさわ)しい意匠を取り入れている。
二人が使用するダガーナイフ状の武器・スイッチ噴射剣ロケットダガーが、同時期(08年6月8日(日))の秋葉原通り魔事件(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080617/p1)の影響で、途中からロケットブースターに名称変更となったが、これは事件の重大性を考えれば致し方ないことだろう。
敵を圧倒するウイングスを前に実力の差を思い知らされる五人。
元々の資質がそうさせる(以前はアスリートだった?)のかストイック(禁欲的)に勝利をつかもうとする須塔兄妹に対して、感じるままに熱い思いで敵にぶつかっていくゴーオンジャーは良く言えばピュアな情熱家だが、悪く言えば考えなしの無鉄砲(まあ、彼らなりに考えてはいるのだが……)。
実力が伴えば無理も無理ではなくなるが、そうでなければ単に無謀なだけだ。
第18話のサブタイトル通り、五人を『庶民ヒーロー』(脚本・武上純希 監督・渡辺勝也)――TVの前の子供たちと同じ目線、親しみを持てる存在としてのヒーロー――にあてはめるとしても、美羽が走輔たちを食事に招いた時もマナーもお構いなしにむしゃぶりついたりする。
第19話『軍平ノホンネ』(脚本・宮下隼一 監督・諸田敏)では、ゴーオンジャーに対するネットでの評価・発言を気にかけてしまう――みんなのために闘うのがヒーロー。しかし周りの顔色を伺ってどうこうするというのでは意志が弱すぎる!!――。
須塔兄妹と対比させるための描き方があまりに野蛮すぎたり下品に見えるのは、ちょっとよろしくないのでは?
一方、第20話『兄妹バトル!?』(脚本・香村純子&荒川稔久 監督・諸田敏)では、美羽が自分のために大翔がやりたい夢を諦めたと誤解したりと、二人も決して完璧ではないことを示した。
さらにゴーオンウイングス二人の教官役のジャンボジェット機とクジラをモチーフにした空飛ぶ炎神・ジャンボエールも登場
――そして空の炎神三体による合体ロボ・セイクウオーは青色主体のスリムで軽快なデザイン!――。
彼の仲立ちでゴーオンウイングスの冷静沈着さとゴーオンジャーの真っ直ぐな行動力、本来の主人公側である後者の態度の方が正しかった! というベタな作劇ではなく、どちらも大切なのだ! ということを見せたのが、第22話『最後ノノゾミ』(脚本・武上純希 監督・鈴村展弘)だ。
敵幹部・ヒラメキメデスの偽りの最後の願いを信じて、ヒラメキメデスと大翔との、マシンと炎神トリプターでの航空機同士の最速レースを真剣に応援する五人の姿。
(戦隊巨大ロボサイズの巨大応援横断幕って……冗談に捉えられかねないことをやってしまえるのは、『スーパー戦隊』の強みだが評価は別れるだろう)
その優しさ・純粋さが裏切られたことで、観ているこちら側もつい応援したくなってしまう。
そして須塔兄妹も五人を認め、メンバー七人全員による炎神9体の新ロボ=エンジンオーG9(ジーナイン)に合体!!
エンジンオーとガンバルオーそしてセイクウオー。それぞれの腕パーツの喚装だけでなく、全てを合体させることが出来るロボットは久しぶりでは?
このゴテゴテ感はある意味豪華さに繋がっていて嫌いではないが、スーツアクターにとっては苦しみ倍増でしょうな(笑)。
考え方に違いがあるゴーオンジャーとゴーオンウイングス。
これからもぶつかり合いがありそうだが、今作品を楽しめるかどうかの鍵はゴーオンジャー五人の行動原理を許せるかどうか。
若いとはいえ曲がりなりにもそれぞれの職業を務めていたのだから(範人はフリーターだから微妙な線なのだが)、もう少し大人・社会人としての自覚が欲しい気もする。
後半戦で五人には大きな変化がもたらされるか、それともこのまま突っ走っていってしまうのか、まずは見届けていこう。
『假面特攻隊2009年準備号』「炎神戦隊ゴーオンジャー」序盤&前半・賛否合評・記事一覧
・1「炎神戦隊ゴーオンジャー」序盤評(J.SATAKE)
・2「炎神戦隊ゴーオンジャー」序盤寸評(フラユシュ)
・3「炎神戦隊ゴーオンジャー」前半評(J.SATAKE)
・4「炎神戦隊ゴーオンジャー」評・『微妙ナシセン』(鷹矢凪弥寿士)
『假面特攻隊2009年準備号』「炎神戦隊ゴーオンジャー」関係記事の縮小コピー収録一覧
・デイリースポーツ 2008年1月13日(日) 戦隊デビュー 「D-BOYS」グランプリ碓井将大 〜ゴーオングリーン役・碓井将大(うすい・まさひろ)もD−BOYS出身者!
・デイリースポーツ 2008年1月20日(日) 「憎たらしく色っぽく(ハートマーク)」及川奈央 〜害水大臣ケガレシア役・及川奈央(26)が19日(土)の『ゴーオンジャー』「特別プレミア発表会」(東京ドームシティ・プリズムホール)に出席!
・日刊スポーツ 2008年1月20日(日) テレ朝「ゴーオンジャー」平成生まれ戦士 逢沢りな 碓井将大 〜イエロー&グリーンは共に91年生まれの16歳!
・岐阜新聞 2008年2月12日(火)夕刊 スポット「炎神戦隊ゴーオンジャー」地球の破壊をたくらむ悪と対決
・各話視聴率:関東#23・中部#21・関西#21まで。各クール平均・全話平均視聴率
『炎神戦隊ゴーオンジャー』平均視聴率:関東5.3%(#23まで)・中部7.2%(#21まで)・関西6.1%(#21まで)
1クール目:関東5.3%・中部7.3%・関西6.0%
2クール目:関東5.2%・中部7.1%・関西6.2%
最高視聴率:関東6.1%(#4・8・20)・中部8.2%(#9・14)・関西7.6%(#14)
最低視聴率:関東4.3%(#23)・中部6.5%(#4)・関西4.1%(#7)
(平均視聴率EXCEL表計算:森川由浩)
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