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ゴースト・イン・ザ・シェル 〜ヒトの精神は電気信号に還元できず、脳内化学物質での駆動では? 人格が代替可能なアニメ版/代替不能な実写版!

(2018年9月16日(日)UP)
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[特撮洋画] 〜全記事見出し一覧


『ゴースト・イン・ザ・シェル』(実写映画版)

(2017年4月7日(金)・日本封切)

ヒトの精神は電気信号に還元できず、脳内化学物質での駆動では? 人格が代替可能なアニメ版/代替不能な実写版!

(文・T.SATO)
(2017年6月17日脱稿)


 東南アジアチックなネオンに彩られた近未来都市を舞台に、脳ミソ以外の全身を義手・義足・義体で包んだサイボーグ美人刑事・草薙素子(くさなぎ・もとこ)率いる警察・公安9課のイカつい人間&サイボーグの面々の活躍を描く物語。
 1989年(平成元年)に「ヤングマガジン」に漫画『攻殻機動隊』が登場してから早くも30年弱(汗)。往時、誰が本作がついにはハリウッドで実写映画化される日が来ることを予想したであろうか?


 人間と機械と電脳空間(インターネット)が融合した近未来を描くSFジャンルを「サイバーパンク」と呼ぶ。今は懐かし30年以上前の1980年代に登場して一応SF小説ジャンルの最先端と目されるも、当時は若いハードSFマニアの間でだけ流行して、一般層にも流通していたとは云いがたいし――当時のヌルめの日本SFファンにとっても、往時は今では絶滅したエロバイオレンスな伝奇SF小説の絶頂期であった――、どころかオールドSFファンからもサイバーパンクは古典SF的な視点転倒や視点拡大などのワクワク感・知的快感をもたらすものではナイとして、敬遠されていたような気もする。
 などと他人事のように書いているが、筆者もはるけき昔の本誌読者の過半が生まれる前の1990年前後にお勉強として、サイバーパンク小説『ニューロマンサー』(84年)を「ハヤカワ文庫SF」で読もうとしたことがあるけれど……。この近未来の千葉市(笑)を舞台として、ピンジャックで端末と人間の脳ミソを直結させて、意識・精神を超高速で洋画『トロン』(82年)的な格子状の電脳空間に漂わせて戦い合って、負けたら脳ミソが焼けちゃいそうな世界観にリアリティを感じることがあまりできず、どころか索漠として刹那的で乾いた作風を優先するあまりに、登場人物の人となりの描写やキャラの描き分けをあまりしないものだから、誰が誰だか区別が付けづらくて、主観的にはツマラない小説でもドチラかといえば活字中毒なので最後までガマンして読み通すタイプの筆者としては珍しく、読了を断念した記憶がある――その10年後にも再読を試みたものの、まったく同じ感慨を抱いて、またも読了を断念――。コンピューターに強かったSF評論家ならぬベテラン特撮評論家の聖咲奇(ひじり・さき)センセイが当時、サイバーパンクはノリで読むものだ(大意)という趣旨の発言をしていたようにも思うけど……ゴメンなさい。筆者にはサイバーパンクは合いませんでした。


 日本におけるサイバーパンクものの嚆矢(こうし)は、今にして思えば士郎正宗の漫画『アップルシード』(85年)や『攻殻機動隊』(89年)であったワケで、そう考えると誇ってもイイことだけど、本家アメリカにそうそう遅れていたワケでもない。
 まぁ上記2作の初出時に、もう10代後半〜20歳前後であったオッサンオタクの繰り言を云わせてもらえば、80年代初頭の「アニメ新世紀宣言」でジャンル作品を一般層にも広く鑑賞可能な普遍的なものにしていこうとする動きが、作者やマニアの方では先鋭的なことをしたつもりでも客観的にはタコツボ的なディテールフェチ・設定フェチ・可愛い女の子に対するフェティッシュな方向で小さく閉じて退嬰的になっていく流れが、まさに80年安保(笑)の挫折として感じられて、個人的にはあの時代はしごく不快であったものだ。よって、『アップルシード』や『攻殻機動隊』の作風や内容はそーいった風潮の悪い意味での象徴のようにも思えて、個人的には印象がよくなかった――じゃあ後年の美少女アニメも観ているテメェはドーなんだ!? と問われると窮すけど(汗)――。


 で、それから30年! いまだに、『アップルシード』や『攻殻機動隊』は命脈を保っており、何度もリメイクされ続けているワケで。ある意味では『攻殻機動隊』的な感性が勝利したともいえるワケであり、当時の筆者の不明を恥じるほかない。まぁ細かく云えば、『攻殻機動隊』も作品ごとにその内容やテイストはかなり異なるどころか、変節を重ねてきて万人向けにマイルドになってきたとも思うのだが。


 本作は直接的には、当時から評価も高い20数年前の95年版の押井守カントクのアニメ映画『ゴースト・イン・ザ・シェル 攻殻機動隊』のリメイク作品でもある。……ここでもまた実に私的な感想を述べさせてもらうけど、この95年版も、個人的には当時、「あぁ押井守もTVアニメ版『うる星(せい)やつら』(81年)での演出回やオリジナル回、映画版『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84年)のころは実によかったなぁ。なのに、なんでこんなに頭デッカチで難解で思わせぶりっコな作品を作りやがって!」……と反発を覚えていたものである。
 よって、95年版リスペクトの今回の実写リメイク版の仕上がりにも不安があったのだが……。フツーにわかりやすいやないけ! いやまぁひょっとすると一般ピープルにとってはコレでもまだわかりにくい作品である可能性はあるけれど(汗)。


 間違っていたらご容赦願いたいのだが、95年版は筆者の記憶では最後は人間の脳ミソ内での精神活動も「電気信号」に還元できるのであれば、肉体を離れても電脳の海で生き続けることができるというビジョンの元で、ラストは草薙素子のゴースト(精神)が肉体・殻(シェル)から離脱して被疑者の電子生命と電脳空間で融合・合体して、新たな電子生命が誕生したらしい!? ……というオチになる。
 いかにリアリティを追求した作品とはいえ、所詮はフィクション作品に対してこのようなことを云うのはヤボではあるのだが、筆者個人は人間や動物や生物一般は、「記憶」などのデータ化できる静的な「電気信号」に還元できる要素だけではなく、「鼻の先のニンジン」に突進するような好悪や食欲の次元で「脳内化学物質」が分泌されて、そんな「物質」や「化学反応」を燃料として動的にエンジンを駆動させているのだから、前者の静的な「電気信号」だけで自発的に動き出せる生命や自我が誕生するとはとても思えないので、往年のあのオチにもリアリティを感じてはいない。
 ただまぁそんなことを云い出したら、このテのフィクション作品は何も楽しめなくなるので、同時にいつものことだと割り切ってもいるのだが(笑)。


 ところがドッコイ、本作はそんなムダに難解な展開にはならない! ドチラかと云えば、近年のリメイクアニメ映画『攻殻機動隊 ARISE(アライズ)』(13年)シリーズの最終作『攻殻機動隊 新劇場版』(15年)のごとき、メスゴリラもとい草薙素子刑事のアイデンティティーに関わる出自を探求する展開ともなっていく。
 草薙素子の出自は施設育ちであったり軍の特殊機関の出であったり、義体をまとった時期&理由も幼少時の事故なり病気なり胎児の時期であったりして、作品によって異なるのだが(笑)、本作のそれはたかだかホンの1年前のことであったらしいと明かされる!
 本作では草薙素子を欧米人が演じており、ここには異論もあるようだが――特に欧米側のオタクに!――、そこは東南アジア的でありながらも無国籍な近未来作品なのだから、日本臭をゼロにしろとは云わないけど、残しつつもウスめるためにも、個人的には欧米人起用は構わないようにも思ったものだけど……。ナンとビックリ! 公安9課の荒巻部長を演じた北野武ビートたけし)以外にも、日本人俳優として桃井かおりが、草薙素子の実の母親らしい重要な役回りで出演していたのであった!


 語彙などの知識量どころか、顔や姿が人種を超えて変わってしまったのに、このふたりは互いを他人ではないように感じて、草薙素子もおそらくかつての自宅である超高層アパートの狭い室内に招き入れられてお茶も饗応される。そして彼女との会話で、草薙素子の素体となったティーンの少女はどうにも手に負えない負けん気で勝気で不敵で胆力もある、仲間たちとデモもどきや夜遊びもする不良少女であったらしいことが明かされていく。


 往年の95年版では、人間の性格や人格やその境界は、人生途上の境遇や役回りでいくらでも変わったり交じわったり溶けあったりする程度の、代替可能で融通無碍な無我的なモノであるようなニュアンスも受ける。しかし本作の描写だと、人間とは「記憶」を喪失しようがその「人格」を喪失するような存在ではなく、「記憶」を失ってもなお残る、そのヒトの「性格」や「気質」や「胆力」のようなモノこそが、代替不能な人間個人のアイデンティティーの本質であるようにも描かれる。


 まぁドチラの人間観も個人的には正しいとは思うけど、ごくごく個人的には、後者の方にこそ若干の分があるようにも思える。まさにこの胆力のある不良少女ならば、現在の豪胆な草薙素子になっても不思議ではないと思う。そのかぎりではアイデンティティー、字義通りの自己同一性も保証されている。
 てなワケで、95年版よりも本作の方を筆者個人は評価するけど、それでもやっぱり本作は難解なマニア向けの作品でしたかネ。東京でも郊外の東武練馬のシネコンで鑑賞したけど、エンディングテロップが終わらないうちに観客は次々と立ち去っていくのでありました(汗)。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2017年初夏号』(17年6月18日発行)~『仮面特攻隊2018年号』(17年12月30日発行)所収『ゴースト・イン・ザ・シェル』評より抜粋)


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