Episode.37 ハードボイルド・ライセンス
(文・さかもと晄)
踏切で列車の通過を待つ若い女性がひとり。警報機はカンカンカンと赤く明滅を続けている。
その女性めがけ、暗がりからシュルシュルと伸びる謎の触手が。からみつかれた女性は意識を失い、身体に咲いた白い花が青に染まってゆく。
宇宙警察地球署デカベースでは、非番のホージー(デカブルー)がおめかしをしている。どうやら、これからデートらしい。
普段見ぬホージーの姿に、センちゃん(デカグリーン)は目をパチクリ。
テツ(デカブレイク)によると、ホージーは“特キョウ昇進試験”の第四次試験までクリアし、あとは実地の最終試験に臨むばかりだという。公私ともにノリノリのホージーを、テツは「マーベラス」と褒め讃えるのだった。
酒場でギターを弾き語る若い女性がひとり。長い黒髪がひときわ目を引く。名はマイク星人テレサ(演・田中千絵)。
歌を聴きながらグラスをかたむけていたホージーの傍らに寄ると、テレサは「宝児さん」と呼んだ。
そこへ現れた青年はテレサの弟・クロード(演・辻本祐樹)。病気がちな姉の身を案じ、迎えにきたようだ。それに加え、クロードはホージーに対してささやかな敵意を抱いてもいた。
テレサはポツリとつぶやく。
「私は好きなの…………歌うことが」
明くる日、姉弟ふたりが暮らすアパートへとやってきたホージー。
ところが、タイミング悪しく緊急通信が受信された。ポイント047でOLが襲撃され、怪しげな人物に職務質問を試みた警察官2名が重傷を負わされたとのこと。
現場に駆けつけたデカレンジャーは、強化形態スワットモードを展開。熱感知システムを駆使し、異星人らしき犯人を発見した。
華奢な外見以上に強力な犯人の抵抗に遭い、やむなくハイブリッドマグナムで射撃するデカブルー。右腕から緑色の血を流しながらも、犯人は黒い闇の中へと姿を消した。
司法解剖の結果、被害者の屍体から“ある特定の栄養素”だけが抜き取られていたことが判る。
ホルス星人ヌマ・O(オー)長官の報告では、類似事件が七つの惑星にて数十件発生し、広域指定事件に認定されたという。
「48時間以内に解決せよ」
これがホージーに課せられた最終試験。スワンの分析の結果、遺留品から容疑者はマイク星人の男性と想定された。イヤな予感と胸騒ぎが、ホージーの裡(なか)を去来する。
右腕に怪我を負いながら、クロードがテレサの待つ部屋へと帰ってきた。
傷ついた弟の様子に、何か危険な隠しごとを直感するテレサ。姉を心配させまいと、優しい嘘をつくクロード。
ふたつの心が交錯する中、ホージーが捜査に訪れた。クロードの右腕の傷を見たホージーは、彼が連続女性殺害事件の重要参考人であることを告げる。
両親をスペースシップの事故で亡くし、残された姉弟で生きてきたこと……。頑張って、苦労を重ねて、また頑張って医者になれたこと……。「危険な放射線が出ている」と噂の鉱山惑星カイガミラで働き、テレサが身体を壊したこと……。その姉を救うため、白い花を青く咲かせる物質を集めていること……。
クロードの口から語られるひとつひとつが、ホージーの胸に楔(くさび)を打ち込んでゆく。
ホージーがためらう隙を突いて、逃亡するクロード。
ふらふらと街をさまようクロードだったが、花を咲かせる恰好の標的を見つけると、マイク星人の姿で狙いをつける。
……と、襲撃寸前、まだ幼き弟の靴ひもを結んでやる姉の姿に、自らを重ねて手を止めた。
悲鳴を上げる姉を背に、一目散で街中を逃げ回るクロードの異様な風体。人々の恐怖と好奇の視線が、その身に突き刺さる。
再びテレサのもとを訪れるホージー。今まさにドアノブに手をかけようとした瞬間、またもや緊急通信が。今度はポイント315。
ゴロゴロと雷鳴が轟き、稲光とともに雨も降り出した。
デカブルーにチェンジしたホージーが、クロードを発見する。暫しの緊張がふたりの間に走り、それに耐えられなかったクロードは、邪魔な通行人を蹴散らすように駆け出した。
……乾いた銃声が一発。ホージーの後を追ってきたテレサが見たものは、変わり果てたクロードの亡骸だった。
ただ、静かに涙を流すだけのテレサ。ただ、黙って見ているだけのホージー。ただ、ざんざんと雨が降りしきるだけ。
後日、特キョウの金バッジを辞退したホージーは、クロードが眠る墓地を訪ねる。そこで会ったのは……。
ふたりをつなぐ言葉は、もう何もなくなっていた。
遠く耳をすませば、聞こえてくるよデスのララバイ。
……すみません。よい話に水を差すようなマネをして。
世の中には“換骨奪胎”という言葉があります。決してパクリではなく、あくまでもアレンジを強調するものです。
パクリとアレンジの線引きは誰も明確にできません。同様に、“エピゴーネン”や“リスペクト”などの概念もあやふやな感じです。
脚本の荒川稔久(あらかわ・なるひさ)は、おそらく元ネタと仮定される作品群が好きなのでしょう。
(編註:本話でなら、『怪奇大作戦』(S43・円谷プロ)#5「死神の子守唄」、#25「京都買います」。ラストバトル無しなど)
好きならば何をしてもゆるされる? ゆるされるのです(キッパリ)。
それこそ『秘密戦隊ゴレンジャー』(S50)から戦隊シリーズをリアルタイムで観てきた人たちには理解しづらいでしょうが、往年の名作ドラマ・アニメ・漫画になじみのない“ファン”は、年齢に関係なく増加しています。
そんな層にとっては、今観たものがすべてであり、過去に溯って学習するなど無意味で面倒な行為でしょう。
ならば! 手練(てだれ)の連中が好んできたあれやこれやを、彼(彼女)らの食しやすい形で提供するのもひとつの手かも知れません。
一定レベルのクリエイティビティを備え、また運よく作品を作る側に回れた人たちは、進んで“換骨奪胎”をすべきです。もちろん、それは義務でも使命でもなく、権利なのです。
さて、やっと本題に入ります。Episode.34、35から続く“THE 70’S”決定版といった雰囲気の今話です。
カラオケ全盛の今日、酒場での弾き語りで日給いくらになるのか気になりますが、ともかくテレサのルックス、生業(なりわい)、棲み家(すみか)……どれをとっても70年代的です。
歌こそ「七人の旅する娘が、蜂に刺されたり、熊に食われたり」というアレとは異なり、ちょっぴり『昭和ブルース』(名作刑事ドラマ『非情のライセンス』〈S48・東映〉主題歌。歌うは主演・天知茂。オリジナルのブルーベル・シンガーズ版も哀切なフォークで聴かせます)入ってますが。
……ああ、サブタイトルはここからなのね、と勝手に納得してはいけませんか?
ライセンス=特キョウの金バッジ、と想起させるバックミーニングも気がきいています。
また、今話は映像的にも凝っており、色にこだわった演出は欝としたムードの彩りとなっています。
『百獣戦隊ガオレンジャー』(H13)から3作品、CGが多用された、よくいえば賑やかな、悪くいえば軽々しい作品が続いてきました。いつしか忘れられていた作り手の「物語を綴る喜び」と、観る側の「ドラマを求める姿勢」。基本に立ち帰った『戦隊』から、今後も目が離せません。
『假面特攻隊2006年号』「特捜戦隊デカレンジャー」関係記事の縮小コピー収録一覧
・朝日新聞 2005年1月11日(火) 週間TV表「見ましたよ」 〜視聴者投稿合評・29歳主婦はハマる・7歳女児・51歳男性はデカマスターの剣殺陣が東映黄金期時代劇映画を彷彿・36歳主婦は単なる勧善懲悪ではない
・中日新聞 2004年3月12日(金) 「ミニみに」連帯感を子供らに 〜デカレッド載寧龍二インタビュー
・読売新聞 2004年4月8日(木) TV欄投稿「特捜戦隊―」で童心に帰る 〜39歳会社員
・読売新聞 2004年5月31日(月) TV欄投稿「親も楽しめる「特捜戦隊―」」 〜32歳主婦
『特捜戦隊デカレンジャー』平均視聴率:関東7.1%・中部10.1%・関西7.1%
(平均視聴率EXCEL表計算:森川由浩)
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