(05年4月季放映作品)
(文・T.SATO)
19世紀後半のロンドンが舞台。
成り上がり新興貴族(商人?)のご子息で、ほどほど裕福ゆえにかガツガツせずに育っちゃったボンボン趣味人の好青年お坊ちゃん。
そして、メガネで長身ちょいウマ面美女の、キャピキャピ媚びてない、マジメで控えめ自分の分をわきまえた、でもどこかヌボーっとした感じが、萌えツボなメイドさんとの、時代背景的・階級的には(あるいは階級社会が残るカノ国では今でも)許されないであろう、男女の恋の物語。
といっても熱情的なものではなく、淡々としたスレ違いな感じだが。
観てビックリ。往年の名作劇場のような、緻密なロケハンをしたと思われる、19世紀後半のロンドン市街と屋内調度品の背景美術の精細さ。いわゆる本格派の作品だ。
そんな作品なので、肝心の作品の内実自体や、テーマやドラマの達成度を離れた周辺要素で、プチインテリオタクどもが、あの時代についてのウンチクと講釈を垂れそう気配がしてきて、イヤ〜ンな感じもする(もちろん作品自体の罪ではないのだが)。
原作マンガは読んでいないので、それとの比較はできないが、個人的な感慨を云わせてもらえば、そんな映像的ハイクオリティさにも関わらず、初期編はカラ回りをしているように感じられた。
青年坊ちゃんがメイドに惹かれた、という心情描写なり設定が、個人的にはどうにも真に迫ってこない。
この感慨に普遍性があるかどうかはわからない(多分、ない)。でも、筆者個人がその感慨をいだいた理由を、自己満足にも分析したい。
漫画という媒体・メディアであったならば、いかに精度が高い背景美術が描かれようとも、ココまで圧倒的な存在感・色彩感・量感をともなって読者に迫ってくる、というところまでには行かず、キミとボクのふたりだけの主観的世界度の比重が高まって、なんとなく相手に惹かれてしまった……という程度のノリの展開ではあっても、いやがおうにも男女間ならそーいうことがあってもイイだろう的に、ナットクさせられるのではあるまいか?
しかし本作のように、アニメ化された美術があまりにも精細で実在感もありすぎると、背景美術の方の力が強まり、対するキミとボクのふたりだけの主観的内面心情世界の方は、相対的に比重が下がり、それゆえ同じ描写でも、真に迫ってこないのではなかろうか?
……などと、原作マンガを読んでもないのに、憶測しても仕方がないし、アニメ版でもあのふたりの馴れ初めに違和感がなかったヒトの方が多数派であるのなら、自己分析としての意味しかないかナ(笑)。
ただし、シリーズ後半のふたりの関係描写は、練れてきたのか慣れてきたのか、自然な印象。
あと、坊ちゃんの友人に、インドの貴族くんも登場するけど、植民地時代のインドで、あんな優雅なヒトもいたんすかネ? コレだけ細部まで調べて描かれているマンガならモデルがあるのかな? もちろん所詮はマンガ・フィクションだから、まったくの虚構でも別にそれはそれでイイけれど。
関東圏では、UHF系列で05年4〜6月に放映。だが、7月下旬にTBSで深夜に突然#1のみを放映。『朝まで生テレビ』のついでに試しに視聴をしてみると……。
あの、ロンドンの町並みを追っていき、風情を出して気分を高めてくれるOP(オープニング)映像がない! 代わりにED(エンディング)で、OP+ED分の時間を費やして、OP楽曲を作曲者自らが演奏する映像が流される。でもあのOPがないと、19世紀ロンドン世界にスンナリ入っていけないナ。
要は#1だけ見せて、あとはビデオを買ってくださいという宣伝放映だったのだろう(笑)。
で、最後に結局、筆者もウンチクを垂れるが、19世紀後半のイギリスといえば、ヴィクトリア朝時代(日本でいえば、幕末〜明治〜日清日露あたりまで)。
数年前に読んだモノの新書によれば(『ヴィクトリア朝の性と結婚』(97年・中公新書・ISBN:4121013557)、本作で描かれた階級差を超えたロマンスとはまったくの正反対であり真逆。この時代の貴族や中産階級の男女は、メンツや見得を重んじ、結婚後に生活水準が下がることを極度にキラって結果、婚姻率が低下したそうである。ドコかのお国に似ています。本作でもそんなネタをぜひともやってほしい(全然ロマンチックじゃなくなるけどナ・笑)。
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH−VOLT Vol.32』(05年10月23日発行))
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