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魔法戦隊マジレンジャー THE MOVIE インフェルシアの花嫁 〜絶賛合評・再UP!

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 『海賊戦隊ゴーカイジャー』(11年)#3「勇気を魔法に変えて 〜マージ・マジ・ゴー・ゴーカイ〜」に、『魔法戦隊マジレンジャー』(05年)の(変身能力を失った)マジレッド・魁(かい)こと橋本淳が出演記念!


 魔法をモチーフにしつつも、熱血度合とホームドラマ風味が程よく調合されて、天・地・人の三界にまたがるスケールの雄大さをも見せていた良作『魔法戦隊マジレンジャー』。その終盤の“冥府十神編”は、ヒラの怪人ではなく幹部級の強敵怪人(しかも冥府の底では元々の姿こそが巨人で、逆にマジレンジャーに相対するためにわざわざ等身大化してみせているというような……)が大挙登場して、幹部同士の角逐(かくちく)・唾競り合いも演じながらの、毎回複数体(主に戦場には2体ずつだっけ?)が登場しての大バトル&大ドラマ編! 昭和の第1期ライダーシリーズ最終作『仮面ライダーストロンガー』(75年)終盤における幹部級の怪人が大挙登場する“デルザー軍団編”もかくや! いや“冥府十神編”は、“デルザー軍団編”をも超えていると小生は信じて疑わない!(比較対象が古いかな?・笑)
 まぁジャンルの歴史的には、“デルザー軍団編”が一種の始祖(?)として歴史的な意義があったとされて、今後も特筆大書きされて語られてしまうのだろうとは思うけど(?)、純ドラマ的・純バトル的な完成度は“冥府十神編”の方がはるかに高いと私的には認定します!


 基本的にはバトルで押して活劇のカタルシスを味あわせつつも、“十神”もいるからにはバトルだけでは終わらなかったりするあたり(未見の読者用にネタバレ自粛)、そのこと自体を中二病的に手放しでホメる気はない。けれども、そういった作劇自体は作り手側の良心の発露でもあったことには間違いがないと思うし、小賢しいマニア受けには陥らない範疇に留めた節度もあったと思う。大らかに家族愛を謳う『マジレンジャー』の作風の延長線上でならば、殺伐さを緩和しつつ作風にもマッチしていて許容されるとも思うので、あの終盤オーラスをヤリすぎだったと批判する気も毛頭ない。小生もなんだかんだとマニアだし、メインターゲットの幼児ではない大きなお友だちなので(笑)、あーいうオチもスキなのであり、見応えがシッカリあったのもまた事実(まわリクドいホメ方・笑)。


 そんなワケで、例年の『スーパー戦隊VSシリーズ』こと、実現しなかったTV放映翌06年度のビデオ作品『轟轟戦隊ボウケンジャーVS(たい)マジレンジャー』にて、『マジレンジャー』の三世界の後日談とマジレッドこと魁のそのあとの去就をやっぱり観たかったものなのだけれども……。『スーパー戦隊シリーズ』25作目や30作目などのアニバーサリーイヤーには、前年度の戦隊との共演ものではなく、複数の戦隊から5〜6人をピックアップして共演させて、よりお祭り感をあおるパターンとするためか、スーパー戦隊30作記念の『轟轟戦隊ボウケンジャーVSスーパー戦隊』(07年)に企画変更されてしまい……。ウ〜〜ムムムムムッ。非常に残念! 最近の(といっても5年も前の作品だけど・汗)若い特撮ファンは、あるいはロートルの特撮マニアであってさえも、近年では『○○レンジャーVSスーパー戦隊』ではなく、単純に前年度の戦隊との共演ものを、つまりは『ボウケンジャーVSマジレンジャー』を観たかったのではないのかなぁ〜。その方がDVDのセールスもよかったのではないのかなぁ〜、と思い続けて幾星霜!


 本来は、昭和の『ウルトラマン』シリーズや昭和の『仮面ライダー』シリーズとは異なり、各作品に時系列的なつながりが基本的にはない(ハズの)『スーパー戦隊シリーズ』。ただし、本年2011年度の『ゴーカイジャー』では、過去のすべての34大戦隊が同一世界の同一時間軸上にいたという設定。であるからには、TV本編の『マジレンジャー』の正統後日談とは云えないかもしれないけれども、まったく別種の事件が起きていたワケではなく、似たような事件や事象に敵軍団の襲来が2005年度(?)にあったのだろうと考えれば、別人の役者が演じるマジレッドこと魁が住まう遠い遠いパラレルワールドの出来事や人物ではなく、『マジレンジャー』TV正編の世界にワリと近しいパラレルワールドにおける、きわめて近似値であるマジレッドこと魁による、地の底のインフェルシアの復興にも尽力したあとであろう(?)後日談であったのだと捉えようではないか!? で、地の底の国・インフェルシアはその後、どうなったんですか?(笑)


 とカコつけて(汗)、映画『魔法戦隊マジレンジャーTHE MOVIE インフェルシアの花嫁』(05年)評を再UP!


魔法戦隊マジレンジャー THE MOVIE インフェルシアの花嫁』 〜快作!絶賛合評!

(2005年9月3日封切)
(脚本・前川淳 監督・竹本昇 アクション監督・石垣広文 特撮監督・佛田洋

魔法戦隊マジレンジャーTHE MOVIE インフェルシアの花嫁 〜合評1

(文・久保達也)
(2005年9月執筆)


 正直このところ「戦隊」に関してはあまり書く気がしない。
 なんて書くときっと誤解を招くであろうが、決して最近の「戦隊」に関して不満を抱いているわけではなく、むしろまったく逆であり、これだけ子供たちにとって極めて理想的な変身ヒーロー作品に対して筆者のような者がいちいち口をはさむ必要はないであろうと考えるからである。


 そんなわけで筆者的には「山崎さん(ヒロイン)に萌え〜っ♥」くらいしか云うことはない。以上。


 で、済まされるはずはないわな。
 まぁマジピンクの芳香(ほうか)ちゃんも敵女幹部ナイ&メアも可愛いが(笑)、それはさておきかつては『魔法使いサリー』(66年)を筆頭とする東映の魔女っ子アニメ路線やスタジオぴえろ魔法少女シリーズなど、女児向けの題材であった魔法使いをモチーフにした戦隊である『魔法戦隊マジレンジャー』(05年)はやはり男児ばかりでなく、女児をも虜(とりこ)にする魅力を多分に秘めているのである。


 女性戦士が二人体制であることは当然として、リン(天空聖者ルナジェルに変身する)や小津深雪(おづみゆき・これまたマジマザーに変身する)など女性戦士がこれだけ登場した特撮ヒーロー作品は『超星神(ちょうせいしん)グランセイザー』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041104/p1)くらいしか前例がないのではないか?
 その気になれば女の子だけでも十分に『マジレンジャーごっこをすることが可能なのである。「男女平等」とは名ばかりで実社会においては露骨な女性差別がまだまだ横行しているのだから、単なる添えもの的なヒロインではなく男と対等に描かれ、果敢に戦う本作のヒロインたちに熱い声援を送っている女児は結構多いはずである。


 また魔法植物マンドラ坊やや魔法猫スモーキーといった可愛らしいマスコットキャラが登場していることも軽視できない点である。
 こうしたキャラはこのところの戦隊シリーズにはほぼ登場しているが、平成ウルトラ作品で最も欠落しているのがこの部分であり、年少者や女児の支持を今ひとつ得られない最大の要因であると考える。


 『ウルトラマンマックス』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060311/p1)にしても『機動戦士ガンダム』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990801/p1)に登場したハロをまんまパクったロボットなんかよりも、せっかく再登場した小怪獣ピグモンをレギュラーに据えることをナゼ考えないかなあ? こうなったらミズキ隊員をウルトラウーマンに変身させるしかないぞ(笑)。
 私事で恐縮だが筆者は8月下旬に転勤で静岡に転居したのだが*1、なんと静岡では『マジレンジャー』は土曜朝7時30分、つまり『マックス』の裏で放映されているのだ。オ〜イ、『マックス』大丈夫かあ〜???


 あと今回は雲の上(?)にある天空聖界マジトピアの天空神殿が映像化されたり(かつては『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)でも「ウルトラの国」が映像化されたものだけど……)とかマジレッドが「白馬に乗った王子様」として描かれたりとファンタジーとしての色合いも濃厚であり、女子高生・山崎さんとマジレッド・魁(かい)の純愛なんかは一緒に観に来たママなんかも喜んだかと思う。
 ただでさえ少子化の昨今、男児だけをターゲットにするのは限界にきており、こうした要素は円谷プロも積極的に取り入れるべきだと考える。いや『マックス』の「怪獣中心主義」は個人的には大好きなんだけども。


 もちろん女児が喜ぶ要素ばかりではない。
 東宝の『ゴジラ』シリーズが04年末に『ゴジラ ファイナルウォーズ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060304/p1)で打ち切りになってしまい、おそらくハード&アダルトであろう05年末公開予定の劇場版『ミラーマン』が「大怪獣映画」としての色合いを期待できない中(笑・なんで素直に『マックス』の劇場版をやらないかね? 今度こそ大スクリーンで「ウルトラ兄弟VS大怪獣軍団」が拝めると思ったのに……)、今回登場した冥獣は『地球攻撃命令ゴジラガイガン』(72年・東宝)に初登場したサイボーグ怪獣ガイガンを思わせるカッコ良さでなおかつ合体して進化を遂げ、それがマジレンジャーのバリエーション豊富なロボット軍団と戦うのだから、東宝や円谷にやる気がない「大怪獣映画」としての側面を味わうこともできた。
 そもそも戦隊ヒーロー自身が巨大化して合体すること自体が従来ならば「ありえねえっ!」ことだったから。
 (編:『忍者戦隊カクレンジャー』(94年)で前例があります・笑)


 魁がサッカー部に所属していることも男児の嗜好や時流にも合っているしね。んなわけで個人的にはヒカル先生(6人目の戦士マジシャイン天空聖者サンジェル)の言葉を借りれば「満点!」である。


 唯一の不満は猫好きの筆者としてはスモーキーの出番が少なかったことか。今回も巨大化してほしかった。
 ちなみに05年10月にはバンダイからスモーキーのソフビが発売されるとか。甥が盆休みに持ってきていたバンダイのマジランプの玩具にスモーキーのフィギュアが付属していない(蓋からちょろっと顔は出すが)のを不満に思った筆者としては見逃すことができずにいる(笑)。

2005.9.8.


(了)


魔法戦隊マジレンジャーTHE MOVIE インフェルシアの花嫁 〜合評2

(文・ビオラン亭ガメラ


 映画ということで見せ場も沢山! 盛りだくさんな作品に仕上がってます。「ライダーの前座」とは言わせないぞ、って感じで(笑)。


 天空聖界マジトピア、初の映像化。ただしマジトピアは神殿以外はちょっとしか出てこないので残念。
 マジレッドの魁(カイ)たち、見下ろすだけでマジトピアに降りてないもんね(笑)。


 あと6人目の戦士マジシャイン=ヒカル先生の正体、天空聖者サンジェルの登場!
 去年の『特捜戦隊デカレンジャーTHE MOVIE フルブラスト・アクション』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041106/p1)のデカゴールドの瞬間変身(実際はデカイエローの着ぐるみの合成)と違って、ちゃんとサンジェルの着ぐるみを作ってまで!
 ま、デカゴールドの場合は台本に無かったから、しょうがないんですが(渡辺勝也監督、ゲストヒロインの新山千春を変身させたいがためにあそこまでやりますか・笑)。アレ、カッコイイと思ってたんですよ。だからこれは嬉しいですね。


 高崎金属工業でのロケという点も、マニアにはたまらないですね〜(←これだからヲタって……)


 ゲスト敵怪人の冥獣人バーサーカー、グルーム・ド・ブライドン役の檜山修之(ひやま・のぶゆき)さんのキレ演技は素晴らしかったですね〜 大拍手です! あそこまでやられちゃったら、レギュラー陣は完全に食われちゃうよなぁ。


 スペシャルゲスト、天空大聖者マジエル役の曽我町子さんは、相変わらずの貫禄で。映画のパンフに生年月日の生まれ年が書いてないんですけど(笑)。


 自分の曽我さんのイメージは魔女というより、ちょっと(これ重要)いじわるなおばあちゃんなんですよ(だから、ヘドリアン女王(『電子戦隊デンジマン』80年)とか魔女バンドーラ(『恐竜戦隊ジュウレンジャー』92年)のような完全悪は、個人的にはイマイチ好きじゃないです)。ですから、善側で出てきてくれたのは嬉しかったですね。


 ただ、物わかり良すぎな感じもしたので、もうちょっと人間に対して、いじわるでも良かったかな? 魔法の国の女王なんだから、そう簡単に魔法界のルール違反は許さないのでは? 格下の天空聖者ルナジェル=リンですら、TVでは初めはマジレンジャーに厳しい試練を与えたのですから。


 バトルでは、マジレッドとバーサーカーの一騎打ちは燃えました! やっぱレッドは剣でしょお!
 マジイエローの空飛ぶほうき・スカイホーキーによる爆破アクションも良かったです。
 どうせならマジブルーの占いとか、マジピンクのヘンな物への変身もやってほしかったけど。尺が足りないか……全体的に、もうちょっとバトルが見たかったなぁと思いました。


 あ、渡辺監督、とっておきのエピソードでバンクフィルムを使わずに実景撮り下ろしに合成をかぶせる5人同時変身、ここで竹本昇監督にやられちゃいましたね(笑)。


 そして最大の見せ場! ラストの巨大バトルでの


・マジドラゴン(レッドを除く4人が魔法大変身して合体した姿)
・魔法特急トラベリオンエクスプレス(6人目のマジシャインが駆る蒸気機関車
・セイントカイザー(レッドが魔法大変身したマジフェニックスとマジトピアの一角聖馬ユニゴルオンとの合体)


 3大ロボのコラボ!


 トラベリオンが射出した線路にぶら下がって


 「マジカルショータイム・空中ブランコ!」
 「セイントエアリアルキック!!」


 スゴいアイディアですね! これは、なかなか思いつかないですよ。しかも、3大ロボの特性を最大限に生かして! さすが佛田洋(ぶつだ・ひろし)特撮監督! センス、抜群!! 欲を言うなら、せっかくなら、「ジャンプした後、再びブランコをキャッチ!」という空中ブランコの定番や大車輪をやってほしかったですけど。
 トラベリオンエクスプレスの上をセイントカイザーが走るシーンもとても良いですね。これは今までの平成戦隊映画の中でも一番良かったのではないかと思います!! 映画のパンフで脚本の前川淳さんも書いていますが、このシーンだけでも見る価値、大!


台本に折り目を入れようのコーナー


 このコーナーでは特に気になったシーンへのツッコミを書きたいと思います。要するにダメ出し(汗)。


 ラストで女子高生ヒロイン、山崎さんになんで、はっきりマジレッド=魁のことをバラしちゃうの! 『仮面ライダーBLACK』(87年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001015/p2)のヒロイン杏子(きょうこ)ちゃんのごとく、そういうとこはTVのラスト展開までボカさなきゃ! 「小津くんって、もしかしたら……」くらいのニュアンスが良いの!


 分かりやすいドラマは歓迎なのですが、こればっかりは分かりやす過ぎたかな? 「ほっぺ、ぷに〜」をやっちゃったら、完全にバレちゃったでしょう。TVシリーズとの兼ね合いもあるでしょうし…… 映画を見ていない子はついていけないようになっちゃったら嫌ですよ(笑)。


 何? それなら、それなりの伏線が必要だって? う〜ん、伏線かぁ。
 確かにそれもそうなんだけど、このようなパターン(特に恋愛感情を含む)は、さほど伏線に固執する必要はないんでないかと思います。理屈じゃなくて、なんとなく相手に分かってくる部分があった方が良いかと。


 今回の場合、無難にクリアするなら……魁がレッドに変身するところを、はっきりと山崎さんが見ちゃって、完全にバレる。
 それじゃまずいので、記憶消し魔法で山崎さんの記憶を消すんだけど、「何があったか覚えていないけど、夢の中で小津くんに助けられたような気がする」……みたく、『魔女っ子メグちゃん』(74年)最終回のごとく、お茶を濁すパターンがいいのかな。ベタベタだけど(笑)。
 ま、こういうパターンはTVシリーズの最終展開らへんに持っていきたいのかもね。


 また冒頭、いきなり巨大バトルで始まって回想シーンに戻る流れは、個人的には非常に話が分かりづらく、なかなかストーリーに入っていきづらかったです。インパクトは大で○なんですけどね。う〜ん、難しいところです……


 後半の巨大バトルは、敵がほとんどCGになってしまうのが残念…… 冒頭の巨大超冥獣、リビング・ソードの着ぐるみがカッコイかっただけにもっと見たかったなぁと。



 それと、これはファンタジーであれば、仕方が無いところでもあるのですが、お話が「お使い」じみてしまっていますね。


 どういうことかと言いますと、話の展開が


 「事件発生! これを回避するには、あれをこうして、ああする必要がある。そのためにはアイテム、ほにゃららを入手しなければならない」


 と、いったように行動が作業的になってしまうのです。


 例えばこれがゲームなら、まだ自分で操作していくので面白さはあると思うのですが、映画となると視聴者は完全に受け身になってしまいますから、あまり話が複雑になってくると見てるほうが飽きてきちゃうかなと思います。今回で言えば、嘆きの指輪(だっけ?)のくだりはいらなかったのでは?


 しかも、尺の都合もあるとは思うのですが、そういった説明セリフ部分を演者のセリフのみで演出してしまっているので、セリフを聞き逃したら、訳分からなくなる状態に……
 『五星(ごせい)戦隊ダイレンジャー』(93年)の解説シーンのように映像で演出してほしかったですね。野口竜さんにイラスト描いてもらってさ〜(笑)


 あと、せっかく天空聖者ルナジェル=リン、マジレンジャー5兄弟の母君マジマザー小津深雪(おづ・みゆき)が出てくるのですから、一緒に戦ってほしかったです。
 深雪が回想シーンで出てくるパターンも、TVも含めてあまりに繰り返されるともう飽きてきましたよ(笑)。設定上(死んでいる?)、普通に出すのは難しいのかもしれませんが、そこは劇場版限定ということで復活させてほしかった!


 その他、細かい点を。
 あと、ゴールシーンがCGなのはちょっと、ねぇ〜? せっかくマジレッド=魁こと橋本くんはサッカー出来る子なんだから。ちゃんと橋本くんが蹴って、ゴールに入るシーン(できれば1シーンで)にしてほしかったです。


 冒頭、敵怪人バーサーカーに捕まったヒロイン山崎さん。しかし山崎さんはさほど抵抗もせず、突っ立っているだけ。ちょっとマヌケです。演技が難しかったのであれば、気絶でもさせちゃえば良かったのでは?


 「マジトピアには行っちゃダメ!」と言ったヒカル先生。でも、その直後にマジチケットを落としていきましたよ?
 だったら、反対するなよ! 「僕はちゃんと注意しましたよ。後はどうなっても責任持たないからね!」という意味ですか? なんか、形だけの教育みたい……


 敵怪人バーサーカー天空聖者サンジェルのバトルで、サンジェルは、お腹を刺されてましたけど(しかも貫通)、平気なの? 次の『劇場版 仮面ライダー響鬼』でもお腹、刺されてましたけど…… ウルトラマンタロウか(笑)!?


 そしてエンディング。
 6人で同じロケ地で踊るシーンが長く、間延びした感がしました。ダンスを見せたかったのでしょうが、もっと細かくコンテを割って色んなところで撮影した方が、変化があって良かったのではないでしょうか? まぁ、撮影スケジュールの関係もあると思いますけどね。


 ……なんか最後はダメ出しばっかになってしまったような気がしますが(汗)、全体的に見れば、すごく楽しかったですよ!
 出演者が多い上に、ロボ戦まであるのに、よくここまで色々と詰め込んだなぁと思います。これで1800円は安いです! ライダーと割れば、900円です! 皆も見てね〜



PS 個人的には、魁は山崎さんよりか、リンとくっついてほしいんですけどね。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2006年号』(05年12月30日発行)『魔法戦隊マジレンジャーTHE MOVIE インフェルシアの花嫁』合評1・2より抜粋)



『假面特攻隊2006年号』「魔法戦隊マジレンジャー」関係記事の縮小コピー収録一覧
朝日新聞 2005年4月11日(月) ラテ欄「TVこのセリフ」「私の大切な兄弟に、手を出すヤツは許さない!」(マジブルー小津麗(おづ・うらら)


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*1:本誌2006年準備号(05年8月13日発行)の『ウルトラマンマックス』評の中で、TBSが土曜朝に放送している『王様のブランチ』を「関東ローカル」と書きましたが、なんと静岡でも放送されています。お詫びして訂正致します(でも全国ネットではないだろ絶対に)。

ウルトラマン80 44話「激ファイト!80VSウルトラセブン」 ~妄想ウルトラセブン登場

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『ウルトラマン80』全話評 〜全記事見出し一覧


第44話『激ファイト! 80(エイティ)VS(たい)ウルトラセブン』 ~妄想ウルトラセブン登場

妄想ウルトラセブン登場

(作・吉田耕助 監督・湯浅憲明 特撮監督・神澤信一 放映日・81年2月11日)
(視聴率:関東9.3% 中部14.4% 関西15.3%)
(文・久保達也)
(2011年2月執筆)


 少年サッカーチーム・モンキーズに所属する田島直人は、幼いころに母を亡くし、父は3年前から海外出張、姉の亜矢と二人暮らしである。ひっこみ思案(じあん)だった直人の唯一のよりどころは、M78星雲のウルトラの国の戦士・ウルトラセブンのソフトビニール人形だった。


 ある日、友人からモンキーズへの入部の誘いを受けて断ってしまった直人は、亜矢から「そんな弱い子、ウルトラセブンさんにキラわれる」と云われて、半日セブンの人形とにらめっこをした末に、モンキーズへの入部を決意。以来、見違えるように明るく快活な少年に育っていった。


 セブンの人形をポケットに忍ばせ、今日もサッカーの練習に励む直人だったが、そこに暴走族の一団が乱入してきた! 直人のライバルであるジャッキーズ所属の多田実(ただ・みのる)の兄・敏彦が率いるサターン党である!


 少年たちをバイクで追いかけ回した末に、サターン党のひとりが「可愛い子ちゃんだ!」と今度は亜矢を標的にした!


 サターン党の主観の目線で高速で亜矢に迫っていくカメラは臨場感がある。


 亜矢はバイクに接触されて転倒!


「姉ちゃんに何するんだ! ちくしょう!」


 直人が蹴り上げたサッカーボールが直撃して、バイクごと転倒するサターン党の一味!


「あのガキゃあ〜~!!」


 と直人をバイクで追いかけまわす敏彦!


 ウルトラセブンに助けを請(こ)いながら逃げる直人だったが、遂にバイクにひかれてしまった!


 直人をかばう亜矢ごとトドメを刺そうとする卑劣な敏彦!


 しかし、その行く手をバイクで阻(はば)んだのは、我らが主人公である地球防衛軍の怪獣攻撃部隊・UGM所属の矢的猛(やまと・たけし)隊員だった!


 UGMの隊員服姿で搭乗しているために、このバイクはUGMの専用車・スカウターS7(エスセブン)などとも同様に、UGMにパトロール用として標準装備されているバイクであろうか!?


 サターン党は退散したが、直人は瀕死(ひんし)の重傷を負って入院することになる。



 病室のベッドに横たわる直人の枕元にあった人形に、矢的は注目した。


矢的「セブン。ウルトラセブンだ」


 矢的の脳裏に浮かぶウルトラセブンの勇姿が、『ウルトラセブン』(67年)の主題歌『ウルトラセブンの歌』をバックに回想シーンとして流される!


●『セブン』第3話『湖のひみつ』からは、人気怪獣でもある宇宙怪獣エレキングの長いシッポをふりほどき、ツノをエメリウム光線で破壊して、宇宙ブーメラン・アイスラッガーで八つ裂きにするウルトラセブン
●第23話『明日を捜せ』からは、猛毒怪獣ガブラと組んずほぐれつの大格闘の末に、アイスラッガーで首を切断するウルトラセブン!――本編ではこのあと、宇宙ゲリラ・シャドー星人に遠隔操作されたガブラの首がセブンの左肩に噛(か)みついて、深手を負いながらもセブンがシャドー星人の円盤を光線で破壊することで難を逃れるシーンが続く――
●第5話『消された時間』からは、宇宙蝦(えび)人間ヴィラ星人が口から放った光線をウルトラバリヤーで阻んで、ストップ光線でヴィラ星人の足の動きを封じて、アイスラッガーで首を切断するウルトラセブン


 映像作品では、『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)・『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080427/p1)・『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル NEVER ENDING ODYSSEY(ネバー・エンディング・オデッセイ)』(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20091230/p1)はもちろんのこと、90年代以降でも『ウルトラマン ライブステージ』などのアトラクションショー・バンダイビジュアル発売の『ウルトラキッズDVD』などの再編集映像ソフト・バラエティ番組へのゲスト出演に至るまで、往年のウルトラ戦士たちを再登場させる際には、マニア上がり世代のスタッフたちのこだわりなのだろうが、オリジナルのウルトラマンの掛け声や怪獣の鳴き声に効果音などをきちんと使用することが慣例になっていて好ましいかぎりである。


 若者向けの歌番組『MUSIC JAPAN』(07年〜・NHK)の2010年12月12日放送分においては、映画『ウルトラマンゼロ THE MOVIE(ザ・ムービー) 超決戦! ベリアル銀河帝国』(10年・松竹・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111204/p1)の宣伝として――興行的には「大惨敗」で終わったが、映像レベルや内容的にはウルトラ劇場版史上最大の傑作であると断言したいくらいだ!――、ウルトラ6兄弟にウルトラマンゼロとカイザーベリアルが登場し、アイドルグループ・AKB48(エーケービー・フォーティーエイト)と「ジャンケン宇宙一決戦」(笑)を繰り広げていた。その際のウルトラ6兄弟の掛け声はもちろん正しいものであった。


 しかし、ウルトラマンタロウの掛け声だけは、『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)本編で使用されていた、主人公・東光太郎(ひがし・こうたろう)隊員を演じていた篠田三郎(しのだ・さぶろう)の声を加工した声ではなかった。映画『ウルトラマン物語(ストーリー)』(84年・松竹)以降――2011年3月25日にバンダイビジュアルから発売される8枚組DVD−BOX『ウルトラシリーズ45周年記念 メモリアルムービーコレクション1966−1984』にも収録!――、タロウの声を演じている石丸博也(いしまる・ひろや)の掛け声を加工した声を使用していたのだ。もっともタロウの声も、東光太郎と合体する前の素の声は、今となっては石丸版が「本物」であったのだという解釈もできるのだが……


 AKB48の小嶋陽菜(こじま・はるな)はこの際、ウルトラマンジャックウルトラマンエースゾフィーにジャンケンで3連勝した末に、遂にウルトラセブンには敗れたのだが、退場する際「やっぱりセブンは強い!」などと云い残していたことから、『ウルトラ』にはけっこうくわしいのだろうか? それともジャンケンの結果も含めて放送台本にそう書いてあったのだろうか?(笑) 今年2011年の「ウルトラシリーズ45周年記念映画」には、ぜひ彼女を「お姫さま」役で出演させてほしい!


 話を戻すが、『80』放映当時はこのあたりが非常にラフであった。


 同時期に放映されていた『(新)仮面ライダー』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)の3クール目に歴代ライダーがひんぱんにゲスト出演した際にも、変身や必殺技などの効果音がオリジナルとはまったくかけ離れたものが使用されていたのだ。当時すでに中学生の小賢しい特撮マニアとなっていた筆者はこれが実に腹立たしくて「許せないっ!」と思ったものだった(笑)。


 本話とてまた例外ではない。エメリウム光線アイスラッガーなどのセブンの必殺技の効果音もオリジナルとはまったく異なるものである。エレキングの鳴き声が『タロウ』第28話『怪獣エレキング満月に吼(ほ)える!』に登場した月光怪獣・再生エレキングの鳴き声であったのはまだしも、ヴィラ星人の声などは『帰ってきたウルトラマン』第4話『必殺! 流星キック』に登場した古代怪獣キングザウルス三世の鳴き声だったりもする(ただし、不思議と違和感がないことから、むしろ恐竜型であるキングザウルス三世にあんなユルユルとした声を使用した方が誤りだったのか?・笑)。


――再生エレキングの鳴き声も、元々は『帰ってきたウルトラマン』(71年)第1話『怪獣総進撃』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20230402/p1)~第2話『タッコング大逆襲』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20230409/p1)に登場したオイル怪獣タッコングの鳴き声である。ちなみに『タロウ』では、第29話『ベムスター復活! タロウ絶対絶命!』~第30話『逆襲! 怪獣軍団』の前後編に登場した宇宙大怪獣・改造ベムスターにこの鳴き声が、直前回である第28話の再生エレキングに続いて使用されていた。当時は実にテキトーだったのだ(笑)――


 ただし、『ウルトラマンメビウス』でウルトラ兄弟がゲスト出演した際にも、その先輩ウルトラ兄弟個々の掛け声が正しかったことはともかく、過去作品の「映像」の流用がウルトラマンエースウルトラマンレオの変身のバンクフィルムを除いて一切なされなかったことを思えば、効果音の不統一程度でこのような贅沢(ぜいたく)は云ってはいけないのかもしれない!?


 矢的猛を演じた長谷川初範(はせがわ・はつのり)がウルトラマンエイティとしてゲスト出演した『メビウス』第41話『思い出の先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070218/p1)でも、「一所懸命」と書かれた黒板の前でにっこりと微笑む矢的と相原京子(あいはら・きょうこ)先生に1年E組の生徒たちや、ドキュメントUGMに「マイナスエネルギー怪獣」として記録された硫酸怪獣ホー・月の輪怪獣クレッセント・羽根怪獣ギコギラー・変形怪獣ズルズラーなどはすべて「動画」ではなく「静止画」として映し出されたのみであったからだ。



 かつては、バンクフィルムの使用は予算削減が理由で行われたものであった。初代『ウルトラマン』(66年)第13話『オイルSOS』や、『ウルトラセブン』第1話『姿なき挑戦者』と第10話『怪しい隣人』などのコンビナート炎上シーンが、ウルトラにかぎらずそのほかの円谷プロ作品に流用され続けたのだ。
 『戦え! マイティジャック』(68年)第12~13話『マイティ号を取り返せ!!』の前後編では、敵組織・Qに奪われた万能戦艦マイティ号が東京を襲撃するシーンは『ウルトラ』からのバンク流用のオンパレードだったので、初代『ウルトラマン』第22話『地上破壊工作』からの流用シーンでは地底怪獣テレスドンの姿がモロに映ってしまっていた(笑)。
 東映作品でも、『ジャイアントロボ』(67年・NET→現テレビ朝日)第3話『宇宙植物サタンローズ』で同話のゲスト怪獣であるサタンローズの触手にからみつかれたガソリンスタンドが爆発炎上するシーンが、『巨獣特捜ジャスピオン』(85年・テレビ朝日)の時点でもまだ流用されていたものであった(笑)――編註:90年代初頭の東映作品に至ってもまだ使用され続けていたのであった(汗)――。


 だが、現在では映像作品を脚本・監督したスタッフたちの権利関係が充実したことによって、皮肉にもバンクフィルムの使用はむしろ逆にギャランティーが発生して金がかかるようになってしまっているそうだ。そのために、おいそれとは流用できなくなっているのが実情のようである。先述したバンダイビジュアルの『キッズDVD』などでも、使用作品の脚本・監督・特殊技術(特撮監督)などのスタッフがこと細かくクレジットされているのは、つまりはそういうワケなのだ。


 同じく先述の『MUSIC JAPAN』でもオープニング映像に、初代『ウルトラマン』第24話『海底科学基地』からウルトラマンVS深海怪獣グビラ、『ウルトラセブン』第41話『水中からの挑戦』からウルトラセブンVSカッパ怪獣テペトのシーンが使用されていた(この番組に映像を提供した円谷プロ側のスタッフは第1期ウルトラシリーズ至上主義者なのか?・笑)。それらにもやはり、画面左下に脚本・監督の名前がクレジットされるなど、近年ではたとえ10数秒程度の使用であってもこういった処置を施すことが当然になっている。


 80年代中盤~末期によく放送されていた懐かしのテレビ草創期~70年代の番組を懐古する番組ではこうした処置は一切なかったものだ。しかし近年、そうした番組が意外と減ってきているのは、そのような経費がかかる事情もあるようなのだ。もっとも、視聴者の方も世代交代が進んでいるので、あまりに古い懐かし番組を回顧するような需要も減ってしまっているのだろう。


 元祖テレビ特撮ともいえる『月光仮面』(58年・宣広社 KRテレビ→現・TBS)の原作者・川内康範(かわうち・こうはん)が2008年4月6日に亡くなった際でさえ、それを報じるワイドショーでも同作の名場面が一切流されなかったりすることは個人的には実に残念に思うのだ。そういったこともまた、短い映像の使用に対しても、脚本・監督・製作会社に対して相応に高額な金銭の支払が発生してしまうことの証(あかし)ではあるのだろう。


 そのようなワケで、たとえ効果音がデタラメであろうが、こうした名場面がテレビ番組で比較的に自由に使用できた時代の貴重な記録にもなっている。


 ちなみに、『タロウ』第40話『ウルトラ兄弟を超えてゆけ!』においては、「35大怪獣・宇宙人登場!」としてウルトラ兄弟の決戦名場面が延々と流されていた。当時すでに小学校中学年以上の年齢に達していたファンからは、最後のバトルでウルトラ5兄弟が末弟のタロウを助けに来なかったことにガッカリしたそうだ。後年の再放送では筆者もそのように思うようにもなったのだが、まだ小学1年生であって幼かった筆者などは、そのような欠点にはまったく気づかずにスナオにうれしかったものだ(笑)。


 この際にも、使用されたバンクフィルムの効果音はほとんどデタラメであった。それだけにとどまらず、『ウルトラマンA(エース)』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)の主題歌などは、オリジナルの東芝レコード版ではなく日本コロムビアのカヴァー・バージョンが使用されていたりした。これは『タロウ』の録音スタジオが『A』までの録音スタジオとは異なるゆえに、手元に歴代怪獣のバンク音声がなかったり、主題歌テープなどもなかったゆえの苦肉の処置だったのだろう(汗)。


 そして、はるかに時代をくだって昭和ウルトラシリーズ直系の世界観として製作された『ウルトラマンメビウス』では、そのシリーズ後半では先輩ウルトラ兄弟のゲスト客演回が頻発された。しかし、先輩ウルトラマンたちの主題歌は流用されず、それらの一節がアレンジされて含まれている新曲BGMが流されたのだった……


 これもテレビの放映だけならば不要でも、映像ソフト化をする際には、既製の歌曲を使用している場合は日本音楽著作権協会JASRACジャスラック)にかなり高額な金銭を支払わなければならないようだ。低予算作品(爆)であった『メビウス』では、そのために「過去映像」の使用を控えていた、映像とは別に撮影してあった「静止画」の「写真」の流用だったのだといった推測もできるのだ。そういったことを思えばホンモノではなくカヴァー楽曲の使用に過ぎない! などという文句を云うべきではないのだろう(汗)。


 そう考えてくると、本話で『ウルトラセブンの歌』が数回流されていたことが、実に貴重なありがたいものに思えてくるのではなかろうか!?(笑)


 時代の貴重な記録といえば、直人が大事にしているセブンの人形は、『キングザウルスシリーズ』というブランド名で、第3次怪獣ブームが勃興しだした1978年のゴールデンウィークの時期に、ポピー(83年にバンダイに吸収合併)から発売されたものであった。
 これは現在、バンダイから発売されている『ウルトラヒーローシリーズ』のソフビ人形とほぼ同サイズの商品であり、当時の価格は380円だった。このシリーズ最大の特徴は足のウラに当時の怪獣図鑑などによく掲載されていたウルトラ怪獣たちの「足跡」の図版型をした「足形」がモールドされていたことだ!


 そして、封入されていた「足形シール」20枚を集めて規定の宛先に送付すると、『ウルトラマン怪獣大図鑑』なるノベルティ(企業による無料配布物)がもらえたこともコレクション性を高めて、当時の第3次怪獣ブームの主力商品となり得ていった。


 ちなみに、初期発売の初代ウルトラマンウルトラセブンウルトラマンジャック(当時の商品名は「帰ってきたウルトラマン」)は、目とカラータイマーが塩化ビニール製の別パーツ仕様になっていた。しかし、それでは外れやすいという難点からか2期発売分からは一体型の仕様になっていた。
 ところで、本話の映像で確認するかぎりでも、セブンの背面などは成型色の赤のままで、ほとんど塗装されていない(笑)。しかし、このような手抜きの仕様でもバカ売れしたくらいに第3次怪獣ブームの熱気はすさまじいものがあったのだ。


 そういえば、『キングザウルスシリーズ』のテレビコマーシャルは、


●初代『ウルトラマン』第2話『侵略者を撃て』から、ウルトラマンVS宇宙忍者バルタン星人!
●『ウルトラセブン』第15話『ウルトラ警備隊西へ(後編)』から、ウルトラセブンVS宇宙ロボット・キングジョー!
●映画『ゴジラ対メカゴジラ』(74年)から、ゴジラVSメカゴジラ


 以下は、記憶があいまいで間違っていたら恐縮なのだが、ゴジラ映画『怪獣大戦争』(65年)のキングギドラVSゴジラなどの決戦シーンが用いられていたものもあったような……


 そして、これはゴジラ映画分も含めてすべてに共通だったのだが、『帰ってきたウルトラマン』の明るく勇ましいおなじみのマーチ風のメイン戦闘楽曲をBGMにして、往年の初代『マン』『セブン』怪獣対決シーンやアトラクション用の着ぐるみ対決の新撮で構成されていた平日夕方に放送された帯(おび)番組『ウルトラファイト』(70年)に付与されていた、スポーツ実況風のナレーションを加えたものであった。こうした「過去映像」の流用主体でつくった映像コマーシャルでさえ、現在では困難なのかもしれない……



 真上から見下ろすと「UGM」という文字に見えるように設計されたUGM基地の建造物群がひさびさに映し出される(このアルファベットをかたどっているたビルは個人的には好きである。このバンクフィルムの全景カットを見るのもかなり久しぶりだ)。


 今から舞台となる場所だという、この説明映像を経て、UGMの司令室で直人の轢き逃げ事件を徹底的に捜査すべきだと主張する矢的を、警察に任せておけばいいと軽くあしらったオオヤマキャップ(隊長)であったが……


「おい、矢的。だいぶ疲れているようだな。特別に休暇を与える。思う存分、手足を伸ばしてこい」


 オオヤマキャップの真意を汲み取った矢的は、元気に作戦室を飛び出していく!


 こういった描写は、往年の名作刑事ドラマ『太陽にほえろ!』(72〜86年・日本テレビ)などでもよく見られたシチュエーションである。七曲署(ななまがりしょ)の管轄(かんかつ)外で起きた事件の捜査を力強く主張した若手刑事に対して、故・石原裕次郎(いしはら・ゆうじろう)演じるボス=藤堂(とうどう)係長が休暇を与えて、個人的に捜査をすることに暗黙の了解を与えるといった、上司の「イキな計(はか)らい」が感じられるような、どちらかというと子供の時分よりも長じてからの再鑑賞で理解ができるような描写ではある。


 通路を駆け出していく矢的に、殉職した城野エミ(じょうの・えみ)隊員に代わって「準隊員」(書籍ではこう紹介されているものがあるが、本編ではこの呼称で呼ばれたことはない)として通信係を担当している星涼子(ほし・りょうこ)隊員が、テレパシーで語りかけてきた!


涼子「猛」
矢的「ユリアン、君はまたテレパシーを使う。もし宇宙人であることがわかったらどうするんだ!?」
涼子「でも、ひとりで大丈夫?」
矢的「大丈夫だ。僕は地球を第二の故郷だと思ってる。地球人以上の能力は、地球人として暮らしていくためには不必要なんだ。ユリアン、もし君が本気で地球に住む気なら、地球人と同じ暮らしをすることだ。地球人といっしょに走り、笑い、泣く。それで初めてわかりあえるんだ」
涼子「わかったわ。そう努力してみる」


 『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)の主人公・おおとりゲン=ウルトラマンレオもまた、故郷の獅子座・L77星をサーベル暴君マグマ星人に滅ぼされ、地球を第二の故郷であると語っていた。


 矢的のこうした発言は、近ごろ発売されたばかりであるオリジナルビデオ作品『ウルトラ銀河伝説外伝 ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロ STAGE I(ステージ・ワン) 衝突する宇宙』、および『STAGE II(ステージ・ツー) ゼロの決死圏』(10年・バンダイビジュアルhttps://katoku99.hatenablog.com/entry/20200314/p1)の映像特典のインタビューでおかひでき監督が語っていた、


「砂にまみれ、汗にまみれたウルトラマン像」


にも通底するものがある。地球人のことをよく知らない涼子=ユリアンに語って聞かせることで、ユリアン編独自のドラマも描けているのだ。


 だがここで、イトウチーフが涼子の肩をポンと叩(たた)く。


イトウ「なにをひとりで物想いにふけっている。テレパシーで通信でもしているのか?」
涼子「いえ、なんでもないんです」


 ……って、バレバレやないか!(笑)


 このような調子でひんぱんにテレパシーのやりとりをしていたら、仮にそれが精神波などではなく物理的な電波だとすれば、たとえ微弱な電波でも感知してしまうUGMのレーダーのことだ。矢的と涼子の関係が怪しまれるのに決まっている。矢的はそれをも警戒したのかもしれない!?


 だが、この時点でイトウチーフはすでに薄々気づいたかもしれず、あるいは気づいていなくても、今後の正体バレの伏線とするつもりの処置だったのかもしれない。



 直人に重傷を負わせた敏彦がバイクで帰宅するや、弟の実がサッカーボールをぶつけて叫ぶ!


「兄ちゃんだな! モンキーズの練習になぐりこんだ暴走族は! ちくしょう!」


 兄の敏彦としては、実が所属するジャッキーズを勝たせてやろうという想いからの行動であったのだが、とんだ「弟想い」となってしまったのだ……


「兄ちゃん、田島をハネたろ! 入院している田島のところにあやまりに行け! クソっ、こんなオートバイなんか!!」


 敏彦のバイクの前輪を蹴りまくる実。


「田島は僕のライバルだったんだ。その田島をケガさせた兄ちゃんなんか大キライだ! 顔も見たくないよ!!」


 「結果的にはおまえのためになった」などと主張する敏彦だったが……


「兄ちゃんのおかげで僕がどんな想いしてるのか知ってんのか! 暴走族の弟だって……」


 彼は暴走族の弟だと、影口を叩かれているのだろう(汗)。


 そんな弟に対して頭に来て、バイクに乗って走り去っていく敏彦に、


「バカヤロ〜! 兄ちゃんのバカヤロ〜~!」


 と実少年は叫ぶ。右腕で涙を拭う実。


 角刈りで目の細い、やや小太りな印象の実を演じる子役俳優だが、彼の演技は同情を誘う味わい深い名演に感じられるのだ。



 ガソリンスタンドで店員たちにサターン党の居場所をたずねる矢的。


 紺のバイクスーツに黒の手袋とブーツ、首には白いマフラーとスタイリッシュだが――そこまでは、『A』の主人公・北斗星司(ほくと・せいじ)や『タロウ』の主人公・東光太郎がマフラーをしていたことなども彷彿(ほうふつ)としてしまう――、深い剃(そ)りこみの入ったパンチパーマにサングラスをかけていることで、実にガラが悪そうな小太りの男がミニバイクで給油にやってきた。


矢的「すいません、サターン党の連中、どこでたむろしてるか知ってますか?」
ライダーA(シナリオ表記より)「ああ、あのピーマン野郎か」
矢的「ピーマン?」
ライダーA「中身のないヤツのことさ。知らねぇな」


 暴走族・サターン党の面々は、彼のような不良青年たちの間でも評判が悪いことを、ここでは描いているのだ。


 しかし、それを近くで見ていた敏彦率いるサターン党!


「やっぱりアイツか! オレたちのことをカギまわってやがったのは!」


 バイクで疾走する矢的を待ちぶせしていた敏彦は、


「おお、来たぞ! おい、行けホラ! 行け、行け!!」


 とサターン党の面々に矢的を襲撃させてきた!


 数台のバイクで走りながら、先端に白い旗がついた長い竹をかざして、矢的の行く手を阻もうとするサターン党。


 だが、矢的はそれを華麗にバイクで跳び越えた!(当然吹き替えではあるのだが)


 しかし、その行く手を横切ったバイクを避けるために、矢的は転倒してしまう!


 次々にバイクで矢的に当て身をくらわせるサターン党!


 このシーンでは矢的を演じる長谷川初範が、吹き替えなしでまさに体当り演技を披露しているようだ。


 倒れた矢的を旗で突っつき回してくる敏彦!


 そこに珍しくサイレン音をなびかせてスカウターS7が走ってきた!


 退散するサターン党。


 スカウターS7から降りてきた涼子から、直人の容体が悪化したことを聞いて、病院に急行する矢的。



 「面会謝絶」の札がかかった病室の前で泣き崩れる亜矢。


 病床で苦しんでいる直人の枕元に置かれたウルトラセブンの人形に、直人の心の叫びがこだました!


ウルトラセブン! ボクを守って! セブン! ウルトラセブン!!」


 夢の中で、夜、サターン党の一味に囲まれてしまった直人!


ウルトラセブン! 僕に力を貸して! セブン!!」


 直人がセブンの人形を高々と掲(かか)げるや、直人の全身に青いオーラが走って、そのままウルトラセブンの姿へと巨大化する!


 サターン党を手前に、あおりで直人がセブンの姿に巨大化する過程を合成している特撮カットも秀逸だ。


 このシーンだけは、セブンの変身時のホンモノの効果音! さらには、『ウルトラセブン』のオープニングタイトルのコーダ部分のみを「登場ブリッジ曲」として用いており、幼児はともかくそのへんの区別がつくような年齢に達している就学児童やマニア層であれば、このシーンだけは感涙ものだろう!


ウルトラセブン! 聞いて! お願い! ボクの命をあげるよ! だから悪い暴走族をやっつけて!!」


 病床の直人の目から一筋の悔し涙がこぼれて、枕元のセブンの人形にしたたり落ちる!(その瞬間、セブンの人形にいくつか星がきらめく作画合成が芸コマだ!)


 『ウルトラセブンの歌』をバックに、セブンの人形がむっくりと起き上がり、直人の願いをかなえるために外へ飛び出していく!


 このシーンはセブンの人形が病室の壁を通り抜けていったん姿を消し、その壁にある窓から再び夜空を飛行する姿が映しだされるといった、実に凝(こ)った演出である。ふつうは窓をそのまま通り抜けて外に出るといった感じで描かれるだろうが、ワンクッションのジラしを入れることでのイイ意味でのもったいぶりで微量な盛り上げも入れてくるのだ!


 夜の大都会に巨大化して降り立ったウルトラセブン


 たとえて云えば、『セブン』第18話『空間X(エックス)脱出』において、ベル星人の怪音波に苦しめられた主人公モロボシ・ダン隊員が倒れこんでテレポーテーションするや、別の場所に頭部から次第にセブンの姿となって現れる過程が描かれていたようなイメージで描写されている。


 ちなみにこの『空間X(エックス)脱出』は、1968年7月21日に東映が配給した『東映まんがパレード』でも劇場公開されている。音波怪人ベル星人が張りめぐらした空中の小島のような疑似空間に迷いこんだウルトラ警備隊のアマギ隊員とソガ隊員が、宇宙蜘蛛(ぐも)グモンガ・宇宙植物・吸血ダニ・底なし沼に次々と襲われる「秘境探検もの」であり、セブンとベル星人のバトルもモロに「怪獣プロレス」と、年少の子供でもストレートに楽しめるエピソードであった。
 同話のセブンのテレポート変身のシーンは、『(新)コメットさん』(78年・国際放映 TBS)第17話『私の親友ウルトラマン』にセブンがゲスト出演した際にも、コメットさんの前にセブンが出現するシーンに流用されていた。


 この『空間X脱出』でのセブンの登場シーンは、手前にはミニチュアの池を、その奥には幾多の建造物を配置し、さらにその背後にセブンが現れるといった演出であり、セブンの巨大感と画面の奥行きが絶妙に感じられる名演出であった。



「弟のヤツ、なんにもわかっちゃいねぇ! あいつのためにやったのに怒りやがって! クソ〜、こうなったらヤケクソだ! 徹底的にやったるぞ!」


 夜の大都会を暴れ回るサターン党!


 バイクを疾走させながら敏彦は叫んだ!


「オレたちは怪獣だ! 人間の体を持った怪獣なんだ! さからうヤツは容赦(ようしゃ)しねぇぜ!」


 この敏彦の叫びに、筆者は『80』第1話『ウルトラマン先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100502/p1)において、地震の調査をしていた矢的がオオヤマキャップと初対面した際に語っていた力強い主張を思い出さずにはいられない。


「見て下さい、この子供たちを。このまま育てば怪獣になってしまうような子供もいるんです! 僕は怪獣の根本をたたきつぶしたいんです! 僕は怪獣と戦うのと同じような気持ちで先生になったんです!」


 まさに敏彦こそが凶悪怪獣であった! 「学校編」があのまま続けば、暴走族に憧(あこが)れる中学生をゲスト主役にした作品が生み出された可能性だってある。直人をハネたサターン党の居場所を突きとめて、直人に謝罪させようとする矢的の姿は、「地球防衛」を任務とするUGM隊員としては明らかに逸脱(いつだつ)してはいるものの、桜ヶ岡中学校の教師としての職務の延長線上にあるとするならば、充分アリの行為なのではなかろうか!?


 便宜上は「ユリアン」編として分類されているこの第44話ではあるが、マイナスエネルギーに満ちあふれたそのテイストはまさに「学校編」を彷彿とさせるものもあって、一面では『80』としての「原点回帰」の趣も感じられるのだ。


 そして、この「マイナスの精神エネルギーが怪獣を招来する」といった概念は、平成のウルトラシリーズにも継承されていく。特撮評論同人ライターの仙田冷氏は90年代後半の時点でこう語っている。



「『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)で「怪獣は人間の心の闇が作り出すものだ」というテーゼが提示された事で、そういう設定の怪獣を出しやすくなったのは事実だろう(特に『80』44話に登場した妄想ウルトラセブンは、まぎれもなく『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)44話「闇を継ぐもの」のイーヴィルティガと同類の「闇の力によって生まれたウルトラマン」だ。単に素体となったものが、人形か石像かというだけの違いにすぎない)」

(特撮同人誌『仮面特攻隊99年号』(98年12月29日発行)「ウルトラマンダイナ」後半合評1(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971202/p1))



 そんな敏彦の前に、突然姿を現したのは……


ウルトラセブンだ!」


 敏彦の目線のローアングルで地上に降りたセブンの巨大な足元を捉えて、頭へとズームアップしていくカットが臨場感にあふれてよい!


 セブンはサターン党に向かって進撃を開始した!


 画面手前の電線をスパークさせて進んでくる描写は、やはり画面の奥行きが感じられる。


 セブンはひざまずいて巨大な手を画面手前に伸ばしてくる!


 ここではサターン党目線の超ローアングル!


 逃げ遅れたサターン党のひとりをバイクごとつかみあげるセブン!


 セブンの目線から俯瞰(ふかん)で撮られた夜間ロケのサターン党に、セブンの巨大な手が覆(おお)いかぶさるかたちで合成されている。シンプルな手法ながらもなかなかの迫力だ。


 つかみあげたサターン党をにらみつけるセブンの上半身! 助けを請うサターン党のアップ! それを放り投げるセブンの全身! といったカットの編集の妙が絶品!


 しかも、バイクごと放り投げられたサターン党が、宙でバイクから落ちていく様子がアップで捉えられていて、これがまた実にいい感じで宙でバイクのミニチュアからタイミングよく離れていくのである! サターン党の人形もまぁまぁリアルな出来なのだ!


 セブンに放り投げられたバイクが地上に落下! 停めてあった自動車の列を炎上させる!


 このカットも手前にガードレールを配置し、まさに地上の人間の目線で撮られた超ローアングル!


 林立するビル群(その下には街灯が並ぶ!)の奥にあおりで撮られたセブンの全身の手前を逃げるサターン党のバイクのミニチュアが、なんとアクロバット走行のように画面手前でジャンプを披露した!!


「クソ〜っ、住宅の密集地帯や路地を走るんだ! ビルや民家を壊せば、ウルトラセブンは犯罪者だ! UGMが始末してくれるぜ!」


 この期(ご)におよんで、実に邪悪な悪知恵(わるぢえ)を働かせてくる敏彦。どこまでも卑劣である。そして、その思惑(おもわく)どおりにセブンは建造物を次々に破壊し、車も踏みつぶす! しかし、あくまでもサターン党を追い続けてくるので、敏彦にとっても良いのか悪いのか?(汗)


 駐車場を手前に配置し、両側にはビル群、画面の奥からはセブンが足元の電線をスパークさせながら手前に進撃してくるという、奥行きと立体感が感じられる画面構成は絶品である。


 まさに直人の怒りを体現するかのように、おおげさに全身を震(ふる)わせて、両手を上げてサターン党につかみかかろうと進撃してくる、セブンのスーツアクター・渥美博のヒール(悪役)に徹した熱演も光っている!


 セブンの巨大な足に踏みつぶされて炎上する自動車の列! セブンの足元でヘシ折れる街灯! ロングとアップを巧みに使いわけるカメラワークもその迫力を倍増させている!



警報の声「ウルトラセブンが暴れています! 民家を踏みつぶし、ビルを壊し、被害は甚大(じんだい)です! UGM、出動して下さい! UGM! UGM! 速(すみ)やかに出動して下さい!!」


 この警報をバックに、作戦室のランプが赤く点滅するのに続いて、オオヤマキャップ・イトウチーフ・フジモリ・イケダ・矢的・涼子と、緊張が走るUGMのメンバーを順にアップで映し出していく演出もまた緊迫感を倍増させているのだ!


矢的「キャップ、ウルトラセブンが悪いことをするハズがありません! 僕が責任を持ちます! 様子を見に行かせて下さい!」
イケダ「そうですよ! ウルトラセブンが暴れるなんて、そんなバカな!」


警報の声「UGM! UGM! 速やかに出動して下さい!!」


オオヤマ「出動だ!!」
一同「え〜~っ!?」
オオヤマ「ただし、警戒のためだ。オレもウルトラセブンを信じている。なぜウルトラセブンがこんな行動を起こしたのか、よく見極めるんだ」


 矢的と涼子が戦闘機・シルバーガル、フジモリ隊員がスカイハイヤー、そしてイケダ隊員がなんと本来はイトウチーフの専用機であるエースフライヤーで出動!


イケダ「あ〜、ホントだ〜。ウルトラセブンが暴れている!」


 イケダ隊員の目線で俯瞰した、夜のビル街のあまりに豪華なミニチュアセットの中を、画面の左手から右手へとセブンが進撃していくさまは、空間の広がりを感じさせて、実際にはそれほど広くはないであろうスタジオを広く見せる効果を発揮している!


涼子「あれはセブンじゃないわ!」


 ウルトラ一族の王女・ユリアンがその正体でもある涼子が、真っ先にセブンの姿をした存在がホンモノのウルトラセブンではない可能性を直観してみせたことで、彼女の設定を活かしつつも、彼女の卓見とその正体バレの可能性に対するウカツさ(汗)をも同時に描写ができているセリフでもある!


 手前にビルを配置し、その背後のセブンをあおりで捉えて、ビルを破壊するや、セブンがそれをまたいで画面手前に進撃するシーンでさえ、足元の手前にきちんと街灯が配置されているなど、実に細かなところまで設計が行き届いた都市破壊演出が臨場感満点である!


フジモリ「おかしい」
イケダ「オレたちの知ってるセブンじゃないぞ!」


 セブンの背中から俯瞰して、手前にセブンの後ろ姿を、その奥にはサターン党のバイクがミニチュアセットの道路を画面奥へと逃げていく特撮カットは、4台のバイクのミニチュアがきれいに並んで自走しており、特撮マニア的には小さな感動すらおぼえてしまうのだ。


 手前には駐車場、画面奥には林立するビル群の前でセブンが暴れていて、その右手からシルバーガルがセブンに向かって飛行してくる!


 とにかくセブン大暴れのシーンは常に手前に何かを配置し、それに向かってセブンが進撃してくるという、画面に立体感と奥行きが感じられる特撮演出になっているのだ!


涼子「セブンの脳波を探(さぐ)ってみるわ」


 目を閉じて、その正体は女ウルトラマンユリアンならではの超能力を発揮する涼子!


 その間にもセブンの進撃はやまない!


 あおりで撮られたセブンがその組んだ両手を降り下ろして、画面手前に配置されていたビルを破壊するや、爆風と炎がビルの窓(!)から吹き上がる! そんなアングルの特撮カットも最高だ!


 セブンから必死で逃走しているサターン党一味の本編カットも何度か挿入されている。そのすべてがセブンの目線で俯瞰した、画面の奥へとバイクを走行させている後ろ姿で統一されていることから、本編班と特撮班の絵コンテなども含めた連係も事前の打ち合わせでうまくできていたという判断もできるのだ!


 さらには、フェンスのミニチュア越しに炎上するビルを捉えるといった、あまりに芸コマなカットまで! ここでも左手には街灯が配置されていた!


 セブンは遂に飛行中の戦闘機・シルバーガルをつかみとめた!


矢的「セブン、何をする!」
涼子「ちがう! このセブンはウルトラ星人じゃない!」


 ウルトラ星人! ウルトラ一族も「ウルトラ星」の「星人」であるからには、他の宇宙人とも共通する一般名詞としての「ウルトラ星人」といった呼称があってもよい。そして、そうした名称が用いられた方が合理的・SF的でもあるだろう。小学生の怪獣博士タイプの子供たちが知的な喜びを覚えそうな呼称でもある(笑)。


 ちなみに、『帰ってきたウルトラマン』第51話(最終回)『ウルトラ5つの誓い』でも、「ウルトラ兄弟抹殺作戦」をたくらんだ触覚宇宙人バット星人が、ウルトラ兄弟たちのことを「ウルトラ星人」と呼称しているように聞こえるシーンが1箇所だけあったと記憶している。


 セブンはシルバーガルを放り投げた!


 シルバーガルのコクピットが開いて、矢的と涼子のミニチュア人形が脱出!


 このシルバーガルが墜落していくシーンも、画面の手前には民家の屋根、その右手奥にはアパート、さらにその奥にはマンションを配置。それらに向かって左手からシルバーガルが次第に降下していき、画面の奥で炎が上がるや、画面の上方からふたつのパラシュートがアパートとマンションの間に降下していき、民家の屋根の奥に消えていく……といった細やかな演出になっていた! 常に比較対象物を配置していることもリアル感をいや増していくのだ!



 地上を駆けてくる矢的と涼子!


 膨大な建造物が配置された特撮セットの中で、画面の左手奥から右の手前へと進撃していくセブンを、画面の中央に配置された鉄塔越しに、矢的と涼子が見上げたような目線で、カメラが次第にスームアップしていくのもまた実に臨場感にあふれる演出となっている。


涼子「あのセブンには実体がないわ! 怒りのオーラが全身から立ちのぼっている!」
矢的「敵の正体が何者でも、これ以上、暴れさすワケにはいかん!」


 画面の左右にビルを配置してあおりで撮られたセブンの上半身の周囲を、炎をかたどったような青いオーラが迸(ほとばし)る!


矢的「エイティ!!」


 矢的は遂にウルトラマンエイティへと変身した!


 ローアングルで画面の右手にはエイティの両足を背後から捉えて、左手の奥にはセブンを配置する。決戦に入っても奥行きのある画面構成は続いているのだ。


 エイティは宙を高々とジャンプ!


 そのままセブンに飛びかかっていくさまを真横から撮らえられている。


 セブンにのしかかった瞬間、またもや超ローアングルで画面の手前に駐車場を配置して、両者が組みついたままで、画面の奥へと大地を転がっていくといった迫力のあるアクション&特撮演出!



 セブンは右足でエイティに蹴りをかける!


 エイティはその下から回りこんでセブンを投げ飛ばす!


 着地したセブンがエイティを投げ飛ばす!


 投げられて立ち上がったエイティの背後の股の間の奥で、エイティに対してファイティングポーズを決めているセブンが見えている!


 矢島信男特撮監督が東映特撮『ジャイアントロボ』やピープロ特撮『スペクトルマン』、円谷特撮でも『ミラーマン』『ジャンボーグA』『ウルトラマンタロウ』や『ウルトラマンレオ』などでよく用いた演出が、矢島監督特撮ではないもののここでは見られるのだ!


 本話ではいわゆる矢島特撮的なるものに、もうひとひねりの工夫を入れており、エイティの股の間には民家の屋根も配置している。そして、その奥にセブンの姿を映すといった応用も効かせているのだ!


 エイティはセブンに向かってキックをかました!


 しかし、セブンは高々とジャンプして、宙を1回転してこれをかわす!


 両者の華麗なアクロバティックな体技も実にすばらしい!


 画面のやや左寄りの中央の手前に鉄塔を配置し、その上を両者が宙でスレ違うさまもまた実にカッコいい!


 もちろんその画面下部にはビル群が並んでいる! 本話の特撮パートでの一番の名場面でもある!


 セブンは画面奥へと宙を1回転してエイティに突撃!


 体勢を低くしてこれをかわしたエイティ!


 エイティはセブンの右足回し蹴りを体勢を低くしてかわすや、それを両腕でつかんで投げ飛ばす!


 この間、画面の右手前に置かれた黄色のコンクリートミキサー車のミニチュアが妙に気になってしまうが(笑)、これもまたのちにセブンが見せるアクションへの伏線だったのだ!


 投げられたセブンは画面右手前のブロック屏の奥を転がって、大地にたたきつけられる!


 この際にも画面の左手前の電柱に張られた電線が、セブンの頭に接触してスパーク!


 しかも、ブロック屏の手前に配置された電柱が、その衝撃で揺れている様子までもが撮られている!


 セブンはビルを持ち上げて(その際に足元の電線がいちいちスパークするのも芸コマ!)、エイティの頭に凶器攻撃を加えた!


 ひざまづいてしまったエイティを、セブンは抱えて投げ飛ばす!


 再び投げてこようとしたセブンから、スマートに後ろに宙返りして逃れることに成功したエイティ!


 だが、再び度セブンにつかまれて、ビルに放り投げられてしまったエイティ!


 画面の左手前に背中から撮られたエイティに向かって、右奥から迫ってくるセブンの手前を、画面の右からスカイハイヤーとエースフライヤーがそれを遮(さえぎ)るように高速飛行! どこまでも立体感のある画面構成だ。


 UGMの援護を受けたエイティは、高々とジャンプしてセブンに反撃キック!


 ここで再び超ローアングルで、工事現場に置かれたクレーン車などの重機を手前に、セブンの巨大な足が迫ってきて、続いてセブンが先の黄色いコンクリートミキサー車を蹴り上げる全身カット!


 セブンはエイティに向かって次々に重機を蹴り上げる! このキックフォームがまた実に美しいのだ!


エイティ「あのキックフォームはたしか……」


 回想シーン。亜矢がサターン党のバイクに接触されて転倒するのを見た直人は……


「姉ちゃんに何するんだ! ちくしょう!」


 直人が蹴り上げたサッカーボールを喰らって、転倒するサターン党。……そう、直人のキックフォームなのだった!


エイティ「まさか直人くんの、ウルトラセブンの人形が!? 実体のない怒りのオーラ…… そうか、直人くんの生き霊(いきりょう)が! ユリアン、直人くんの枕元にセブンの人形があるかどうか調べてほしい! 早く!」
涼子「了解!」


 この会話の間にも、


●画面の左手奥のエイティに向かって右の手前から迫っていくセブンの背後!
●画面の右手奥のセブンに向かって左の手前にいるエイティの背中!
●エイティの目線でカメラがズームアップ!


と、本話は実に特撮演出が凝っているのだ。


 セブンはさらに重機を蹴り上げた!


 エイティはジャンプして飛んできた重機から逃れた!


 このシーンもまた、画面の左斜め上から右斜め下へと電線(!)が張られている!


 ジャンプして画面の上方に姿を消すエイティが背中から撮られて、その奥にいたセブンが蹴り上げた重機が電線をカスったのか、その衝撃で電線が揺れている様子までもがハッキリ撮られているのだ!


敏彦「エイティが逃げた! オレたちはセブンに殺されるぞ!」


 卑劣にも自身がまいたタネながら、敏彦はあわてだす! やはりセブン目線で俯瞰して、画面の奥へと逃げていくサターン党!


フジモリ「エイティが逃げた!」
イケダ「セブン、お願いだ! もう暴れるのをやめてくれ! あなたは正義の味方でしょ!?」


 ちょっとオカシで滑稽な云いまわしだが、さすがに笑えない。コメディ・リリーフのイケダ隊員も、今回ばかりはお笑い演技はやや封印か?(笑)


 ちなみに、ファミリー劇場『ウルトラ情報局』2010年12月号にゲスト出演したイケダ隊員こと岡元八郎(当時・岡本達哉)氏は、あのセリフは子供のころに観ていた『ウルトラセブン』に対する本心も込もった演技であったと述懐していた。まぁ、我々特撮マニアたちへのファンサービス・リップサービスなのかもしれないが、1955(昭和30)年生まれの岡元氏は1966~68(昭和41~43)年に放映されていた『マン』『セブン』を小学校高学年~中学1年生でギリギリ視聴していた世代でもあるから、ある程度は本心かもしれない(笑)。


 イケダ隊員の目線で俯瞰した夜の大都会のミニチュアセットの中を、画面の左手から右手へと進撃していくセブン!


 画面右手上空にはフジモリ隊員が搭乗するスカイハイヤーが飛行!



 直人の病室の前で眠りこけている亜矢を尻目に、「面会謝絶」でカギのかかったドアを念動力でコジ開けて病室に入ってしまう涼子。


 緊急事態なのだから固いことは云わずに、セブンが暴れている現場から、『空間X脱出』でのセブンのようにテレポーテーションした方が早かったんじゃないのか?(笑)


涼子「やっぱりセブンの人形がないわ」


 病床でうなされている直人。


「エイティ、なぜ邪魔をするんだ…… ボクは、ボクのセブンといっしょに、悪いヤツらをやっつけているのに…… エイティは正義の味方じゃないか?……」


 自らを「人間の体を持った怪獣」だと叫んでいた敏彦もそうだったが、暴走族をやっつけることが「正義」だと信じている直人もまたマイナスエネルギーを発動させて、セブンの人形を意のままに動かしていたのであった! つまり、実はマイナスエネルギーVSマイナスエネルギーの戦いでもあったのだ!


涼子「エイティ、聞こえる?」
エイティ「ユリアンか?」
涼子「今暴れているセブンは、直人くんのセブンの人形に、直人くんの生き霊が宿(やど)ったものよ」
エイティ「了解!」


 涼子はテレポーテーションで病室から姿を消す。……って、だったら、病室に入室するときもそうすればよかったのでは?(笑)



 涼子からセブンの正体を聞いて、再びセブンに挑むエイティ!


 ここで荘厳(そうごん)に響き渡りだしたのが、『ザ★ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110430/p1)の挿入歌『怪獣レクイエム』のインストゥルメンタル(歌ナシの楽曲)であった。


 第12話『怪獣とピグだけの不思議な会話』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090719/p1)において、同居怪獣オプトの怪獣3兄弟の兄・チョウとジンを殺され、凶暴化してウルトラマン・ジョーニアスに襲いかかる弟怪獣のサンを描写するのに初使用されて以来、第16話『生きていた幻の鳥』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090816/p1)で瀕死の鳥が電気ショック治療の副作用が原因で巨大化した古代怪鳥キングモア、第40話『怪獣を連れた少年』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100212/p1)でヘラー軍のロイガーにだまされたオペルニクス星人フェデリコが暴れさせたペット怪獣オロラーンなど、哀れな宿命を背負った怪獣たちを描写する際に定番で使用されてきた名曲である。
 本作『80』でも、第15話『悪魔博士の実験室』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100808/p1)や、第29話『怪獣帝王の怒り』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101113/p1)で使用されている。


 画面の両側に奥へと居並んだビル群と街灯の群れを挟んで、その中央から手前へと向かって進撃してくるセブンの前に、画面の上方からエイティが降りたって、その行く手を阻んだ!


 セブンは両手の指先を額(ひたい)のビームランプに当てて、必殺技であるエメリウム光線を発射した!


 『ウルトラセブン』ではエメリウム光線の色は白と緑が確認されている。しかし、本話のセブンが放ったエメリウム光線の色は青であった。これは本話のセブンが登場時に全身を覆っていた怒りのオーラの色とも共通している。あくまでも、ホンモノのウルトラセブンとは別物であることも意味させている、色彩イメージの統一であろうか!?


 エイティはこれを側転でかわしてみせた!


 このシーンの画面の左手前の民家の屋根の上には、物干し台まで再現されている!


 その民家の上に、セブンの脇から下の背中を映して、エメリウム光線は画面中央よりやや左寄りの上部から斜め右下へと流れていく!


 そして、それをエイティがかわして画面左へと側転していく!


 このエイティの背後にはやはりビルが立ち並んでいる。どこまでも立体感のある画面構成だ。


 エイティは紫色の光の矢・ウルトラダブルアローを両手の指先から放った!


 セブンはこれを宙返り(!)してかわしてみせた!


 このシーンも画面の下には建造物群が立ち並んでおり、その少し上方をセブンが華麗に舞っているのだ!


 体育館風の丸屋根の建造物を画面左手前にして、華麗にジャンプしてセブンに突撃をかけるエイティ!


 民家の屋根を画面中央の手前にして、バック転の連続で画面の奥へとかわしていくセブン!


 両スーツアクターのまさに超人的なアクションもさることながら、常に比較対象物を配置することでいっそうの迫力を増していた!


 エイティは左足で足払いをかける!


 セブンは宙で引っ繰り返って、大地にたたきつけられた!


 エイティは今度は右足で回し蹴り!


 大地にたたきつけられたセブン!


 しかし、セブンは低姿勢のままで右腕を前方に突き出して、左ヒジを曲げて左手をこぶしにした挑発的なポーズをとってきた!(セブンというよりタロウのファイティングポーズに近い・笑)


 これまた超ローアングルである、画面の手前にはクレーン車の先端を配置して巨大感を出している……


エイティ「直人くん! 君は君以外のウルトラセブンを慕う少年たちの心を傷つけるつもりか!? ウルトラセブンは平和の守り神ではないのか!?」


 セブンの後ろ姿を画面の左手前に、体育館を右の手前に、その奥に立っているエイティの顔にカメラがズームアップしていく!


 続いて、民家の屋根を画面の右手前に、その上にエイティの両足を背後から、左手の奥に立っているセブンの顔へとズームアップ!


 ここでのズームバックはベタなものだが、やはり王道なのだともいえるだろう。両者の顔のアップがセブン、いやその実態である直人の心を説得しているエイティの心情に、それこそドラマ的な説得力を与えてくれているのだ! 人間ドラマと特撮場面がここでは融合しているのだ!


 セブンは直人の揺れる心を体現するかのように、うつ向き加減で両手のこぶしをジッと見つめる。


 そのためらいを見て、エイティは胸の中央のカラータイマーから白色の波状光線と、それを覆うように連続して青いリングを発射する光線・タイマーショットをセブンに向けて放った!


 セブンの全身が青いオーラに包まれていく!


直人「ワァ〜~っ!! ワァ〜~~っ!!!」


 病床で絶叫している直人!


 彼に連動しているセブンは両腕を高々と掲げたまま、大地に引っ繰り返った!


 このシーンでも画面の手前には民家の屋根を配して、セブンの巨大感をも出しているのだ。



 スカウターS7が現場に到着。降りてきたイトウチーフと涼子に対して、「もう暴走族はやめる」と泣きついてくる敏彦らサターン党の一味。


 画面の手前には駐車場、左にはマンション、右には体育館、その奥には横たわっているセブン、さらにその奥にはエイティと、奥行きのある画面構成の中で、エイティはセブンを抱えて夜空の彼方に去っていく。


 病床でにっこりと微笑(ほほえ)んでいる直人……



 すっかり回復した直人がキャプテンを務めるモンキーズと、実少年がキャプテンを務めていたジャッキーズとの、サッカーの決勝戦が無事に開催された。


実「田島くん、兄ちゃんのこと……」


 ここはさすがに幼児ならぬ小学校の高学年なので、すでに人情の機微というものが充分わかっているほどに互いに成長は遂げている。兄の蛮行を謝ろうとした実の真意のすべてを即座に察して、皆まで云わせずに、


直人「多田くん、今日の決勝戦、力いっぱいがんばろう!」


 などと、ウダウダした話などは一切せずに、すべてを許したという意味を含意させて、機転を利かせてさわやかに気持ちよく切り返してみせるのだ!(笑)


実「ありがとう、田島くん!」


 固い握手を交わす直人と実……



 その決勝戦の観戦に訪れた矢的と涼子。ちなみに、矢的は「一所懸命」を象徴するような熱血感あふれる赤いブルゾン、涼子は白のタートルネックのセーターに水色のブルゾンを着用と、まさにキャラクターのイメージにぴったりのコーディネイトである(笑)。


矢的「よかったなぁ、元気になって」
亜矢「ありがとうございます。決勝戦にはどうしても出るんだって、気力でがんばったそうです」
涼子「まぁ、気力でケガを治しちゃうなんて、まるでウルトラマンみたいね」


 やはり変わらず、ウカツな涼子である(笑)。思わず涼子をにらんでしまった矢的に、いたずらっぽく笑う涼子の表情がかわいい。


亜矢「直人ったら、夢の中でウルトラセブンになって、悪い暴走族をやっつけたそうです」
矢的「そう、そうかもしれないなぁ。(以降は内心の声:いや、きっとそうだよ直人くん。君のテレパシーが、セブンの人形を魂あるもののように動かしたんだ)」
涼子「(猛)」
矢的「(また…… ユリアン、テレパシーを使っちゃダメだよ)」


 ラストのオチで、あくまでも本話がユリアン編の一編であったことも強調してみせているのだ。


涼子「(だって、亜矢さんととっても楽しそうなんだもの)」


 嫉妬じみたことを云って、からかってみせることで、いたずらっぽく笑(え)みを浮かべる涼子。


矢的「(そんな……)」


 ここではユリアンの方が精神的に優位に立っている。この手の恋バナ(恋話)には矢的は疎(うと)いと描くのだ。困惑した矢的だったが、直人が見事にシュートを決めるや、亜矢と抱き合って喜ぶ矢的! 実に面白くなさそうにひとりむくれる涼子(笑)。



――第44話『激ファイト! 80VSウルトラセブン』では、神澤さんとはその後も縁が深いウルトラセブンが登場しました。このときは暴走族のバイクのミニチュアをセブンが追いかけたり、家を持ち上げてぶん投げるっていうのも、インパクトがあったのですが。
「なんか面白いことないかなっていうので、家を持ち上げて投げたり、ということもやっているんですよ。子供の話だったし、一応テーマでサッカーっていうのがあったので、車のミニチュアを蹴ってみたりとか。もう暴れまくって、大変だったんですけど(笑)。2クール、3クールと進んで撮影も軌道にも乗ったし、変わったことやりたいねということで、いろいろ頭をひねって、そういうのが出てきたのが僕のやった2本なんじゃないんですかね」

(『タツミムック 検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124)特撮監督 神澤信一インタビュー)



 とにかく本話のBパートは、ほぼ全編が「妄想ウルトラセブン」の大破壊絵巻と、エイティとの「激ファイト!」で埋めつくされているのだ!


 今回のような派手な都市破壊が描かれたのは、第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)以来のことである。約2ヶ月もの間、まともな都市破壊描写がなかったワケである。総合的に特撮怪獣番組としては「それではダメでしょう」とも云いたいのだが、テレビシリーズの製作というものは後期になるにつれて、次第に予算を使い果たしてしまうことが常ではあるのだ。


 だが、今回のように敵キャラクターが既存のコスチュームの再利用で済ませられるのならば、着ぐるみ製作の予算が浮いた分を特撮ミニチュアの増量に回すこともできたのかもしれない。人気も知名度も高いウルトラ兄弟ウルトラ怪獣の再登場であれば視聴者の注目も集めることができて一石二鳥! いや、それ以上の効果を上げることができるのである。


 実際に第44話の視聴率は、第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)と比べて、関東地区では2.4%、中部地区では1.3%、関西地区に至っては4.4%もの上昇を遂げているのだ!(中部地区では前話の第43話の視聴率も13.1%で、ほかの地区に比べて好調である。ふだんから安定していたから極端な上昇とはならなかったとも取れる) しかし、これは新ヒロイン・ユリアン登場よりも、ウルトラセブン客演の方が視聴者からの訴求力が高かったということにもなってしまうのだが(笑)。


 だが、本話の良さは、最大のウリである「エイティVSウルトラセブン」というイベント性の高さだけではなかったと、今回の再視聴では強く感じられた。


 この80年前後当時はなにかと話題にのぼることが多かった暴走族を登場させるといった通俗性の高さ(真面目なマニアの方々はイヤがるだろうが、一般視聴者に対してはキャッチーだろう)。
 そして、第3クールから続いてきた児童編的なドラマもきっちりと描いてみせている。
 かつ、ユリアン=涼子にも超能力などの活躍の場を何度も与えて、ラストシーンに象徴されるように、矢的に対するほのかな恋情の芽生(めば)えも生じさせている。


 つまり、以上の3点ともに、極めて密度が高くてバランスもよいのであった。


 正味20分強のドラマの中で、これだけの要素を盛りこんでいたことには驚嘆(きょうたん)に値する。特撮パートの比重が高くても、その気になればしっかりとしたドラマを描くこともできるといったことを証明もしているのだ。


 「学校編(教師編・学園編・桜ヶ岡中学編)」・「UGM編」・「児童編(子供編)」・「ユリアン編」と、便宜上は4つの章に分類されることが多い『80』だが、本話はそのすべてを結集させた、まさに『80』の「総決算」といった趣(おもむき)の仕上がりにもなっている。個人的には(最終回は除く)4クール目の最高傑作として高く掲(かか)げたい。



<こだわりコーナー>


*本話で登場するウルトラセブンは、現在の公式設定では「妄想ウルトラセブン」と呼称されている。しかし、劇中では単に「ウルトラセブン」とだけ呼ばれていた。ちなみに、朝日ソノラマの特撮雑誌『宇宙船』Vol.6(81年4月30日発売)の「『80』放映終了特集」に掲載された作品リストでは、「怨念セブン」と呼称されていた。この「怨念セブン」が実に印象深い古い世代のマニアとしては、今回の再視聴でも「妄想セブン」という呼称は若干ニュアンスが異なるようにも感じられて、改めて「怨念セブン」の方がふさわしかったと思い返してしまった(笑)。


*直人「多田くん、今日の決勝戦、力いっぱいがんばろう!」


 ラストシーンにおける直人のこのセリフ。実は直人を演じる子役の坂本真吾クンが、アフレコの際に「多田」を「ただ」ではなく「おおた」と読んでしまい(笑)、それがそのままOKになってしまっているのである! 子役のセリフにはシナリオにふりがなくらい印刷しとけよ! つーか、誰か気づけよ! それともアフレコ現場で、監督さんなり録音技師さんがつい間違った読みでの指示を強制してしまったのだろうか?(汗)


*重箱のスミつつきでもう一点。セブンが重機を蹴り上げるキックフォームを見て、エイティはそれが直人と同一であることに気づく。しかし、冒頭のシーンでは矢的はすでに直人が敏彦のバイクにひかれて倒れたあとに現地に駆けつけたのであり、直人のキックフォームは見ていなかったハズである。
 もし見ていたのなら、タイミング的に直人がひかれることを防ぐことができていた。すると、今回の事件も起きなかったことになってしまう(笑)。それに亜矢の身の上話からも、矢的は直人とは今回が初対面であって、既知の間柄で以前から直人の活躍する姿を知っていたワケではないのだ……
 まぁ、以上の二点の些細(ささい)なミス(でもないとは思うが・笑)は水に流そうではないか!


ウルトラシリーズで暴走族が登場する作品としては、『A』第36話『この超獣10,000ホーン?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070109/p1)も存在する。ファミリー劇場の『ウルトラ情報局』06年11月号において、ゲストの脚本家・長坂秀佳(ながさか・しゅうけい)先生は、自身が執筆した『A』第36話について、以下のようにコメントしていた。



「あれはねぇ、久しぶりに観たら腹立ったけどね。な〜んかベタベタ、あれこそベタベタだよね。もう(主人公の北斗星司が)いい子になっちゃってさぁ〜。ものすごく腹が立ったんだけど。だけど多分ねぇ、あれを書いた動機は暴走族が許せないくらいに、たぶんこのときに毎日新聞の記者が暴走族、どっかの湘南(しょうなん)のあたりかなぁ、ワァ〜ってやってんのを「やめろ」って云いに行って撲殺(ぼくさつ)されちゃうんだよねぇ。そんな事件があったの。



(編註:これは長坂センセイの記憶違い。毎日新聞の論説室顧問が片瀬江ノ島駅前で撲殺されてしまった事件は1989(平成元)年4月のことであり、72年放映の『A』とは時代が随分と異なる17年後のことである。論説室顧問氏が鉄パイプを片手に持って乱暴な暴走族相手に抗議に行ってしまったことはややウカツだったとしても、もちろんそのことを理由に暴走族による集団撲殺行為を正当化してもならない)


 で、ウチのまわりもものスゴかったしねぇ。だから許せなかったんだよ。許せないんだけど、書いてるとそいつらを悪者にしていくだけだと(ドラマとしては)ダメなんだよね。だからドラマ(フィクション)としてはいいのかなぁと思うような小粒(な作り)でさぁ。(北斗が暴走族を説得するシーンのクサさについて)いや、あのときだけは殴りたかったんだけどね(笑)。子供を使って「お兄ちゃんカッコいいね」って云わせてさぁ、もうアレ観て(アザトくて)気持ち悪かった。いやホントに(笑)。だからいま観ると気持ち悪いけど、あの当時は怒りから始まったんだけど、書き始めるとやさしくなっちゃうんだよね、やっぱりね」



 ちなみに、口語の再録だと意味が取りにくいと思われるところは、画面から受け取れたニュアンスや前後の文脈から、丸カッコの中に筆者の文責で注釈・補足を施しているので、ご承知いただきたい。


 長坂が「書いてるとそいつらを悪者にしていくだけだと(ドラマとしては)ダメなんだよね。だからドラマ(フィクション)としてはいいのかなぁと思うような小粒(な作り)でさぁ」と云っていたのは、以下のシーンのことであろう。つまり、このシーンの北斗星司の心情吐露(しんじょう・とろ)は、長坂先生の本意とはまったく正反対のものだったようだ(笑)。



美川隊員「あたし、ああいう暴走族、超獣以上に許せない気がするわ」
北斗「さびしいんだよ、あいつら」
美川「暴走族の味方をするの?」
北斗「そうじゃない。そうじゃないが、なぜあいつらがあんなことをしたくなるのか…… オレにもあんなふうになりかけた時期があったんだ……」



 おもわず遠い目になる北斗。人間ドラマとして観れば、たしかにまぁまぁよいシーンではあるのだ。


 しかし、長坂先生もほのめかしているように、暴走族やイジメっ子や犯罪者なども親なり周囲なりに虐待されたり邪険にされたとか、社会や政治の犠牲者にすぎないのだから、彼らにも同情の余地があるのだ、といった見解には疑問もある。
 後天的な環境によってそうなってしまう場合もあるのだろうが、遺伝や教育などでもなく、両親の気質・性格などとも無関係に、先天的にヤンチャで粗暴で生まれついてしまう人間などもいる! とも思えるからだ。残念ながら、生まれつきでモラルにはやや欠けている気質を持っていたり、いわゆる他人に対する共感性には乏しいサイコパス的な人格の持ち主が、人類には一定比率で偶発的に誕生してしまうことが、人類平等には反してしまうかもしれないが、現在では学問的にも語られているのだ(汗)。


 あるいは、それまではスナオに育ってきたとしても、思春期・青年期になると、若者間ではよくある、イキがったりワルぶったりすることでの虚栄心の競争の果てに、あえて確信犯で不良になったり暴走族になったりするようなこともあることだろう。


 そして、そんな彼らに対して、優しい母性の持ち主がバックハグでもしてあげれば、立ちどころに問題が解消されるような安っぽいことを云ってみせる教育学者などもあとを絶たないけど、それらは実にウソくさいと思えるのだ。そんなことをされても、彼らはキモがって反発してくるだろうし、どころか嗜虐心をそそられてユスりタカりをしてきたり、骨の髄までしゃぶられて相手を破滅に追い込んでしまうかもしれない(爆)。
 よほどの人格力がある人間であれば、彼らを救ったり真人間に更生させることもできるのだろうが、凡人や特に人間力には欠けている我々のようなオタクは彼らにヘタに関わってはイケナイ。「話せばわかる」などは悪人に対してはウソなのだ(汗)。


*「暴走族」の前身は、戦後の1950〜60年代にかけて、富裕層を中心にまだ高価だったオートバイを集団で乗り回す若者たちが登場し、マフラーを外して爆音を響かせながら走行していたことから「カミナリ族」と呼ばれていたことにさかのぼるのだそうだ。当時は高度経済成長期が始まったころでもあったことから、社会が大きく変容することのストレスを受けたモラトリアム(青年期の延長)の範疇(はんちゅう)であるとして、マスコミや文化人の間では「カミナリ族」をある程度は容認する傾向も見られたという話もある。
 しかしながら、『ウルトラマンA』が放映されていた1972年に、富山(とやま)県富山市で暴走族が起こした騒動が全国に広がったことで、関東でもこのころからグループ化が確認され、暴力事件や暴走族同士の抗争事件が頻発(ひんぱつ)するようになったらしい(1960年代後半に全国の大学や進学校の高校で吹き荒れた、今でいうやや意識高い系の学生たちによる学園紛争が70年代初頭に終息したことと、まさに入れ替わるかたちで学力的(汗)には底辺層によるこうした低レベルな反抗活動が起きてきたのだ。若者の社会に対する反抗や不満のハケ口の表出の仕方が、時代とともに若者の学歴・社会的階層なども含めて変化(劣化)していったのだとも見て取れよう)。先の『この超獣10,000ホーン?』や本話が描かれたのは、長坂先生が語っていたように、まさにこうした時代背景が存在していたからこそである。


 『80』が放映されていた1980年前後はまさ暴走族の最盛期でもあり、警察庁の80年11月の調査では全国で754グループ、3万8千9百人ものメンバーの数が確認されていた。『3年B組金八先生(PART2)』(80年・TBS)で暴走族のたまり場である「スナックZ」が舞台となったのも、こうした時代背景があったからこそだ。オデコの両上脇に剃(そ)りこみを入れて前髪を整髪料で固めてヒサシのように突き出してから後ろに流したリーゼントの髪型に、刺繍(ししゅう)を入れた特攻服という彼ら独特のスタイルが、やや不良的な少年少女たちにも「つっぱり」ファッションとして定着していたのがこの時代であった。
 この項を執筆中である2011年2月現在、飲料「十六茶(じゅうろくちゃ)」のCMで若手女優の新垣結衣(あらがき・ゆい)ちゃんが、ポップにアレンジされた往年の大ヒット曲『ツッパリ High School Rock’n Roll(ハイ・スクール・ロックン・ロール) 登校編』の替え歌を披露している。その原曲である81年1月12日に発売されたシングル・レコードが大ヒットしていたのも、本話が放映されていたころだった。
 その原曲を歌唱していたロックバンド・横浜銀蝿(よこはま・ぎんばえ)が大人気となったり、81年の秋には「つっぱりファッション」を子猫にコスプレさせた「なめ猫」のグッズがバカ売れするなど――近年でもリバイバル人気があったので、最近の若い人もご存じかと思う――、こうした不良文化がすでにセルフパロディまで登場するほどに立派な若者文化となっていたのだ――今で云うチョイ悪やゴスロリにも少しだけ通じるものがある?――。
 ちなみに、横浜銀蝿が歌番組『ザ・ベストテン』(78〜89年・TBS)に初出演した際に、ボーカルの翔(しょう)は「銀蝿」の由来について「実在する虫じゃなくて、ウルトラマンみたいな架空の存在なんですよ」と語っていた(笑)。彼らの登場以降は「翔」という漢字を子供の名前に付けることも流行したものだ(汗)。


 だが90年代以降、いわゆる「シブヤ系」といったカジュアルなファッション性を重視する少年層の増加や、若者たちが集団への強制的な帰属要求をキラう傾向が強まったこともあってか、こうした文化は「時代遅れ」な恥ずかしいものであるとして、都心部では次第に廃(すた)れていった。現在では若者離れのためにメンバーの高齢化が進み、40代や50代の暴走族OBが集団で走行して道路交通法違反容疑で逮捕される始末である。もっとも、メンバーの高齢化については、われわれ特撮評論同人界も「対岸の火事」ではないような気もするが(笑)。


 しかしながら、地方によってはいまだにこうした文化が根強く残っているところもある。筆者が2005年以来、居住する静岡県静岡市では、通勤時に市の中心部を爆音を鳴らして突っ走る暴走族ならぬ「暴走個人(笑)」をよく見かける。また、筆者の出身地である三重県四日市市(みえけん・よっかいちし)では、若者たちの一部にいまだに「つっぱり」ファッションが根づいており、帰省時にこうしたスタイルの若者たちに出くわす度に「田舎(いなか)はこれだから……」と頭をかかえてしまう(笑)。


*その『エース』第36話で暴走族・俊平を演じた役者さん・小沢直平氏は、本話でも暴走族の青年役で出演されていたという情報もある!?(名義は清家栄一) 真偽のほどはいかに!?


(了)
(初出・当該ブログ記事〜特撮同人誌『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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『ウルトラマン80』全話評 〜全記事見出し一覧


第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』 〜星涼子・ユリアン編開始!

侵略星人ガルタン大王 遊牧星人ガラガラ星人登場

(作・水沢又三郎 監督・湯浅憲明 特撮監督・神澤信一 放映日・81年2月4日)
(視聴率:関東6.9% 中部13.1% 関西10.9%)
(文・久保達也)
(2010年執筆)


 富士山上空を飛行する未確認飛行物体をキャッチする防衛組織・UGM。


 イトウチーフ(副隊長)とフジモリ隊員が戦闘機・シルバーガルで出動するや、国籍不明の黒い翼の戦闘機もまた、3機編隊で未確認飛行物体を追跡!


 画面左手から右手へと飛行する未確認飛行物体、続いてそれを追跡する3機の戦闘機を、シルバーガルのコクピット内からイトウとフジモリの目線でとらえた主観カットが臨場感満点。地上スレスレに急降下した未確認飛行物体が画面手前で急上昇、さらに追跡する戦闘機もまた3機編隊で同じくそれを披露する操演はまさに妙技!


 戦闘機群の攻撃を受けて、未確認飛行物体は船尾から黒い煙をあげ、UGM専用車・スカウターS7(エスセブン)で出動した主人公・矢的猛(やまと・たけし)隊員と城野エミ(じょうの・えみ)隊員の眼前で富士の樹海に墜落する!


 合流したイケダ隊員やUGM広報班のセラと、墜落した未確認飛行物体の捜索をはじめる矢的とエミ。


エミ「どこから来たのかしら? 誰に追われていたのかしら?」
矢的「いや、あの円盤は……」
エミ「矢的隊員、あなたあの円盤がどの星から来たものか知ってるみたいね」
矢的「いやぁ……」


 矢的のおもわぬピンチに、イケダが意図せず助け舟を出すことになる。


イケダ「とにかくさ、何か破片でも落ちていないか探してみよう。分析すれば何かわかるかもしれない」


 付近一帯を捜索する一同だが……


セラ「なんにもないですよ…… アレ? なんだこりゃ? 空から砂金が降ってきたぜ」
矢的「これは砂金じゃないよ。おそらく円盤を形成していた宇宙の物質だよ」


 画面いっぱいに空から舞う宇宙の物質は、樹木に登った助監督たちが粉を降らせたのではなく(笑)、金属状の荒々しい粒子が空から舞う様子を本編に合成するといった芸コマな映像である。


 そのとき……


女性の声「矢的…… 矢的……」


 おもわず右耳に手をあてる矢的。


エミ「どうしたの?」
矢的「誰かが俺を呼んでるんだ」
エミ「そんな…… 何も聞こえないわよ」


 だが矢的、いやウルトラマンエイティの耳には、助けを呼ぶ声がハッキリと聞こえた!


女性の声「矢的…… 助けて…… 矢的!」
矢的「間違いない。俺に救いを求めてる!」


 イケダの制止を振り切り、矢的は声の主を救うために樹海の奥へ!


 そして、彼の眼前に飛びこんできたのは、はるか後年の映画『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦! ベリアル銀河帝国』(10年12月23日松竹系公開・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111204/p1)に登場した惑星エスメラルダの第2王女・エメラナ姫を思わせるような王族のお姫さまのような、白いドレスをまとった若い女性が白いハイヒールで樹海をさまよう姿であった!


矢的「待ちたまえ! 待ちたまえ! 僕はUGMの矢的猛だ。君だね、テレパシーで僕に救いを求めたのは」
謎の女「矢的……」


 崩れおちる謎の女性。それをしっかりと抱きとめる我らの矢的猛!


 そのとき、周囲からガラガラヘビが発するような異様な物音がした!


 ただならぬ気配を感じてあたりを見回す矢的。


 昼間でもウス暗い樹海の中で、一条の陽光が差しこむのをとらえた映像が美しい!


 身構えていた矢的のそばに生えていた樹木に、登山用のステッキであるピッケルがいっせいに突き刺さった!


 そして、矢的の目前に、登山服姿のハイカー風の5人組が突然現れた!


矢的「誰だ? おまえたちは何者だ!?」


 しかし、「矢的隊員〜~!」「先輩〜~~~!」というエミ・イケダ・セラの3隊員の呼び声に気付いて、怪しい5人組はいっせいに姿を消してしまう!


 ブレスレットやイヤリングに宝石が使用されていることから、樹海で発見された女性を「良いところのお嬢さん」だと考えるセラ。いや、宝石泥棒の一味だと考えてしまうイケダ(笑)。ひとり考えこむ矢的。こういうちょっとしたリアクションの点描(てんびょう)によって、登場人物たちの人となりを描き分けていくこともまた実に重要なのだ。


 そんな作戦室に、オオヤマキャップ(隊長)とイトウチーフが入ってくる。


イトウ「矢的、おまえ富士の樹海で、ガラガラヘビの音を発する不気味な人間に出会ったと報告したな」
矢的「ハイ」
イトウ「それで調べてみたんだが、おそらくそれは、宇宙の遊牧民と云われているガラガラ星人ではないかと思うんだ」
矢的「ガラガラ星人? やっぱりそうか」
イトウ「なんだおまえ、知ってたのか」
矢的「いいえ……」
エミ「矢的隊員、あなたはときどき宇宙人みたいなことを云うのね」
矢的「いや、ただそんな気がしたもんだから……」


 ワザとらしいといえばワザらしい描写で(笑)、本話の前にもこのような矢的の宇宙人的な描写はあった。しかし、のちの第50話(最終回)『あっ! キリンも象も氷になった!!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210315/p1)では、オオヤマキャップの口から彼とイトウチーフが矢的の正体に気づいていたことが明かされている。いま観返すと、この場面はそのキッカケとなった出来事のようにも映り、もちろん後付けでも一応の「伏線」として機能できていたのだと、好意的に解釈したくなるのだ。
 とはいえ、ガラガラヘビと同様の音を発する宇宙人種族のネーミングがガラガラ星人だというのは、あまりに安直にすぎるが(笑)。


 UGMに保護された謎の女性がベッドで目を覚ますと、そばに花束を携えたエミがにっこりと微笑(ほほえ)んでいた。


エミ「気がついたのね」
謎の女「ここはどこ?」
エミ「UGMのメディカルセンターよ」
謎の女「UGM……?」


 赤い縦ジマ模様のワンピースを着せられた謎の女性が、エミに連れられて作戦室に入ってくる。


エミ「皆さん。彼女、元気になりました!」
オオヤマ「おいおい君、寝てなくていいのか」
イトウ「傷の具合…… あれ?」
エミ「あら? 傷がすっかり治っているわ! すごい回復力!」


 お約束でも、こういう超常的な回復力といった描写で、彼女が常人ではないことをシッカリと押さえてもいるのだ。


イトウ「君はどっから来たんですか?」
謎の女「どこから?」
イトウ「どこから来たんですか?」
謎の女「わかりません」
イトウ「わからない? 君はどこから来て、爆発した円盤とはどういう関係なんですか?」
謎の女「わからないんです。私は何も覚えてません」
イトウ「そんなバカな」


 おもわず、彼女に突っかかろうとするイトウ。しかし、仮にもチーフ(副隊長)なのに、血気が強すぎるだろ!(笑)。しかし、それをオオヤマが制止する。


 テレパシーで彼女に語りかける矢的。


矢的「君は僕と同じ、ウルトラの星から来た人間だね。僕にはすぐわかったよ。君はなぜガラガラ星人なんかに追われていたんだ。なんのために地球に来たんだ」
謎の女「わからない。何もわからない」
矢的「だけど君は、僕の名前を呼んで救いを求めてきたじゃないか」
謎の女「わたしは何も覚えてない」


オオヤマ「ショックのために記憶を失ってしまったようだな」
エミ「どうしたらいいんですか?」
オオヤマ「彼女が思い出すのを待つより、仕方がないかもしれんな」
エミ「そんなの消極的です!」
イトウ「そうだ。まず彼女の健康を回復すること。そうすれば記憶を取り戻すかもしれません、キャップ」
エミ「まず、健康第一! ねぇ、名前も忘れちゃったの?」
謎の女「名前?」
エミ「名前がないとなんて呼んだらいいかわからないから困っちゃうなぁ。キャップ、どうします?」
オオヤマ「う〜ん、とりあえずそうだなぁ…… 星涼子(ほし・りょうこ)さん」


 企画段階ですでに彼女の地球人名は決まっていただろうとはいえ(爆)、オオヤマキャップとしては彼女が爆発した円盤の乗組員に違いないと考えていたことから、「星から来たクール・ビューティー」ということで、そう名づけたのだろうか? 即興(そっきょう)のネーミングながらも実にいいセンスである(笑)。ちなみに、「クール・ビューティー」という語句は、1950年代に活躍したアメリカの名女優グレース・ケリーを評して一般化したようだが、本話放映の1981年当時の日本では、まだ「クール・ビューティー」という語句も概念も一般化していなかった。この語句が流通しだしたのは90年代後半ではなかったかと思う。


エミ「うわぁ〜、いい名前! それでは星涼子さん、あなたが記憶を取り戻すのに、わたし全面的に協力しま〜す!」
オオヤマ「矢的、手伝ってやれ」
矢的「はい」


 腕組みしたまま、目線を矢的からチラッとエミの方に向けて矢的に指示を出すオオヤマキャップの演技が、実にそれらしくてよい(笑)。


 まず、健康第一と、矢的とエミ、そして涼子が縄跳びをする。


 画面に映るのは胸から上のみであり、おかげでエミの巨大なバストが上下に激しくブルンブルンと揺れる様子がバッチリ楽しめる…… 今だと女性に対する「セクハラ」だと即座に批判をされてしまうし、そもそもそういった批判を先回りして自粛してしまうところだ。しかし、この当時はそういった概念がまだ不明瞭だったので、各スタッフもそうだとはハッキリ明言せずとも、ドサクサに紛れて下心があるシーンを挿入してしまったといったところか?(笑)


 そういえば、『ウルトラマンタロウ』(73年)第2話『その時ウルトラの母は』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071209/p1)でも、主人公・東光太郎(ひがし・こうたろう)の下宿先の娘・白鳥さおり(しらとり・さおり)が、ほとんど何の必然性もないのに玄関先で縄跳びをしており、演じた朝加真由美(現・あさかまゆみ)の巨大なバストがブルンブルンと揺れていた(汗)。同話を監督した山際永三(やまぎわ・えいぞう)の作品の一部を振り返ってみると、


帰ってきたウルトラマン』(71年)
*第16話『大怪鳥テロチルスの謎』
*第17話『怪鳥テロチルス 東京大空爆
*第23話『暗黒怪獣 星を吐け!』


ウルトラマンA(エース)』(72年)
*第4話『3億年超獣出現!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060528/p1
*第9話『超獣10万匹! 奇襲計画』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060708/p1
*第21話『天女(てんにょ)の幻を見た!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061009/p1
*第28話『さようなら 夕子よ、月の妹よ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061111/p1


ウルトラマンタロウ
*第1話『ウルトラの母は太陽のように』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1
*第11話『血を吸う花は少女の精』
*第39話『ウルトラ父子餅つき大作戦!』


 といった具合に、レギュラー・ゲストを問わず、女性の活躍する姿が印象的な作品が多い。



「僕の作品では、女優さん達が縛られたり、着替えたりと、多少なりともエロティシズムを感じるなんて言われたりしているらしいけど、子ども達も結構Hな話は好きだしね。勿論(もちろん)僕らも遠慮はしながらも、そんなテイストを盛り込もうと色々とやっていたわけですね(笑)」

(DVD『ウルトラマンA』Vol.6(デジタルウルトラプロジェクト・04年8月27日発売・ASIN:B00024JJHO)山際永三インタビュー)



 本筋とはなんの関係もない描写なのだが、実は男児向けの子供番組にはこうした場面も味付けとしては必要なのである!? いわば「さわやかエッチ」とでも表現すればよいのであろうか? むしろ、近年の特撮変身ヒーロー作品では各方面に遠慮して、こうした描写が皆無に近いことの方が個人的には実に嘆かわしい(汗)。



 マット運動で前転してズッコケてしまった矢的を笑ったエミが、赤いタンクトップと短パン姿(冬場なのに・笑)で吹き替えなしで前転を披露! バストの次はヒップが拝めるのである(笑)。
 そして、涼子はマットの上でなんと連続でバック転! さらには宙返りまで披露した!! 涼子のアクションはどう見ても吹き替えだが、涼子がショートカットであるのをいいことに、多分小柄な男性が吹き替えているのではなかろうか?(女性のようにも見えるので、極めてビミョーだが!?)


 やはり「健康第一」ということで、涼子にナイフでリンゴをむいて食べさせてあげるエミ。リンゴのおいしさと献身的なエミの姿に感動した涼子は……


涼子「エミさん」
エミ「なあに?」
涼子「あの〜、これ、して下さい」


 左腕にハメていた青い石が光る金色のブレスレットをはずして、エミに手渡そうとする涼子。


エミ「ダメよ。だってそれ、あなたの大切なものなんでしょ?」
涼子「いいんです。お世話になったお礼に、これをエミさんにプレゼントしたいの」
エミ「まあ」
涼子「あたし今、これしか持ってません。エミさんとわたしの友情のために、ぜひそうしてほしいんです」
エミ「わかったわ。ありがとう。わあ、ステキ」


 涼子になにかを食べさせてあげようと果物を買い出しに、もらったブレスレットを腕にハメて出かけるエミ。入れ違いに矢的が入ってくる。


矢的「星くん、なにか思い出したかい?」


 エミとの会話で見せていた明るい表情が一変して、寂しげな表情で無言で首を横に振ってみせる涼子。



●エミに連れられて、作戦室でオオヤマキャップやイトウチーフと初対面した際のポ〜ッとした表情
●イトウチーフや矢的に質問責めにあった際の困惑した表情
●エミと過ごしている際の楽しそうな表情


 涼子を演じている女優・萩原佐代子(はぎわら・さよこ)はセリフはたどたどしいものの、当時は今は亡き化粧品会社・カネボウキャンペーンガール出身の新人でありながら、表情の演技だけは実は見事だったりする。



 なんとUGMの隊員服姿(!)で、自ら商店街の青果店フルーツバスケットを購入するエミ。


 リアルに考えれば、地球防衛軍には600人ほどいるらしい後輩の女性隊員にお遣(つか)いを頼むか、店に配達でもさせればよさそうなものである。しかし、こうしたエミの自らの体を張ったあまりに献身的な姿こそが、のちに皮肉にも彼女に悲劇をもたらす要因になったことを強調するといった意味では、やはり当人自身がこのような行動をとってみせる必要があるのだ。


 その素姓(すじょう)もハッキリとはわからない涼子からもらったブレスレットを身につけて隊員服姿で外出するなどは、真にリアルに考えてみれば防衛組織の隊員として実に迂闊(うかつ)な行為であるには違いない。しかし、これとてエミと涼子に接点をつくって、悲劇ドラマを盛り上がるためという理由から描かれたものだろう。


 買いものを終えたエミを、富士の樹海で矢的が出くわしたハイカー風の男たち=ガラガラ星人のうちのふたりが尾行していく……


 まったく無言で人間体の姿でも「ガラガラガラ」という奇怪な音を立てている不気味さを際立たせる演出が、子供向け変身ヒーロー番組としてはベタなのだが、相応に効果的でもある。


 パトロールから戻る途中のイケダに出くわして、UGM専用車で基地まで送ってもらおうとするエミ。


 そこに、ガラガラ星人が襲いかかる! イケダの奮闘も空(むな)しく、エミは白い車で連れ去られてしまった!


 基地に戻ったイケダの報告を受けて、矢的はイケダを連れて現場の青葉公園に出動!


 エミに恩義を感じていた涼子も……


涼子「わたしも行かせて下さい!」
イトウ「よし!」


オオヤマ「おい。星くん、大丈夫か?」
イトウ「いや、何か思い出すかもしれません」



 そのころ、エミは暗い洞窟の中で、石の柱に鎖で縛りつけられていたのだった。


謎の声「ウルトラの星の使者・ユリアン王女、どうかな気分は?」
エミ「ユリアン王女?」
謎の声「そうだ」
エミ「ちょっと待ってよ。私は城野エミよ。ウルトラの星のユリアン王女って何よ?」
謎の声「黙れ! ブレスレットがなによりの証拠ではないか!」
エミ(心の声)「これは…… そうか、ガラガラ星人はわたしと涼子さんを間違えたんだ。すると涼子さんの正体はウルトラの星の……」


 洞窟の奥の祭壇(さいだん)のような場所から、声の主である侵略星人ガルタン大王が姿を現し、エミにじわじわと近づいていく!


 その名が示すとおり、ガルタン大王は昭和ウルトラ怪獣の中ではかなり特異なスタイルである。例えて云うなら、『タロウ』第14話『タロウの首がすっ飛んだ!』に登場したえんま怪獣エンマーゴと、第33話『ウルトラの国大爆発5秒前!』~第34話『ウルトラ6兄弟最後の日!』の前後編に登場した極悪宇宙人テンペラー星人を、足して2で割ったような感じだとでも形容すればいいのだろうか?


 『ウルトラマンメビウス』(06年)のころになると、第16話『宇宙の剣豪』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060928/p1)に宇宙剣豪ザムシャーなどといった、SF的な未知なる神秘の宇宙人などではなく、「日本の侍」を模してイイ意味での「B級」であることにも開き直って、「SF」ではなく「劇画」的にカッコよくした宇宙人キャラクターなども登場してくる。そして、幼児はともかく、往時はハイブロウ指向であった年長の特撮マニアたちも、それに対して「リアルじゃない!」などといった中二病的な批判などもしないようになってきた。
 ガルタン大王も、放映当時の年長の特撮マニアたちは今までのウルトラシリーズに登場してきた宇宙人たちとはややラインが異なることに抵抗感は持っただろうが(汗)、今となっては許せるのではなかろうか?(汗)


 ガルタン大王もはまさにそのザムシャーとも同様の「鎧武者(よろいむしゃ)」といった趣である。しかし、近世の武士道や騎士道を兼ね備えた孤高の気高い武士ではなく、古代の未開な蛮族の王といった感じでタチは悪そうだが(笑)。


 金色と青を中心とした配色が、不思議にも涼子がハメていたブレスレットと共通しているというのも、広い意味での因縁(いんねん)を感じさせている。


 背中の金色のマントは、布ではなく硬質ウレタンを用いて製作されたようだ。しかし、なんとそのマントには多数の穴が開けられており、さらには武器である中国の青龍刀のような幅広の長剣にまで穴が開けられている!


 冒頭でユリアンの宇宙船を追撃する際に、ガラガラ星の宇宙船を地球の戦闘機にカモフラージュしているあたりなどは、宇宙の遊牧民という設定や野蛮な見た目に反して、なかなかの知能犯で高い技術であったりもする!(ウルトラ宇宙人の中ではあまり類例を見ない。とはいえ、高度な科学力ではなく呪術のような能力由来のものなのかもしれないが!?)


 宇宙の遊牧民という設定のとおりで、都に住む高貴な大王さまではなく、草原に割拠する蛮族の大王としての威容を誇る風格のあるデザインではある。赤い目や開きっぱなしの口にぎっしりと歯が並んでいる表情などは、どことなく愛嬌(あいきょう)を感じさせて、憎めないものがあるのだ(笑)。



ガルタン大王「ユリアン王女。ウルトラマンエイティはどこにいる? どんな姿になっている!?」
エミ「ウルトラマンエイティ?」
ガルタン大王「おまえは、ウルトラマンエイティに会いに来たはず」
エミ(心の声)「ガラガラ星人はウルトラマンエイティを探しているんだわ」
ガルタン大王「奴はどこで何をしてるんだ!?」
エミ「ウルトラマンエイティを探してどうするつもりなの?」
ガルタン大王「知れたことよ…… 奴を殺す! 白状しろ!」


 エミの首のそばに、手にした剣を激しく打ちつけるガルタン大王!


 ここ4話ほどは「戦闘」中心とは真逆な「ユルユル」としたエピソードが続いていた『80』だった。しかし、第39話『ボクは怪獣だ~い』評()でもふれたとおり、タツミムック『検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版 06年2月5日発行・05年12月22日実売)での同話を脚本を担当した平野靖士のインタビュー「善悪の割り切りがはっきりある中での痛快な戦いというのが、最もウルトラマンらしい形」をまさに体現したかのような「勧善懲悪」劇としての「悪党」描写となっており、ガルタン大王の声を担当している当時は同人舎プロに所属していた村松康雄の熱演も実にハマっている!


エミ「知らない! 知ってたって云うもんか!」


 当初はユリアン王女であることを否定したエミであった。しかし、あの涼子の正体がそうであったことを知るや、エミはとっさに健気にも大局を考えて、彼女の身代わりとなって、場合によっては果てる道を選ぶ決意をここでしてみせたのだといえよう!


 本話でのガラガラ星人たちの目的は「地球侵略」ではない。「ウルトラマンエイティを殺すこと」。ただそれのみなのである。近視眼的な「地球防衛」という観点からすれば、いわば「厄介者(やっかいもの)」であるエイティやユリアン王女をガルタン大王にくれてやった方がよいのではないのか?……


 これとよく似たシチュエーションが、『ウルトラマンA』第26話『全滅! ウルトラ5兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061030/p1)で描かれている。地獄星人ヒッポリト星人がウルトラマンエースを明け渡せと、火炎地獄や風地獄を起こして街に壊滅的な被害を与えて、市民たちからエース不要論が高まる中で、防衛組織・TAC(タック)の隊員たちですら市民たちと同じ心境に陥(おちい)ってしまい、山中隊員がついそれを口走ってしまうのだ。


 TACの竜五郎(りゅう・ごろう)隊長は


「バカモン! 君たちはそれでもTACの隊員か!?」


 と隊員たちを一喝(いっかつ)し、徹底坑戦を叫ぶのである! このときの竜隊長は本当にカッコよかった。本話でのエミの姿はまさにそれを彷彿(ほうふつ)とさせるものがある。だが、まさにこの姿勢こそが竜隊長とは真逆の結果を引き起こして、彼女自身に悲劇をもたらすことになってしまうのだ……



ガルタン大王「ユリアン王女。おまえがシラをきっても、ウルトラマンエイティはユリアン王女が我々に捕らわれたと知れば、必ずここにかけつけてくるんだぞ!」
エミ「ウルトラマンエイティがここに?」
ガルタン大王「こやつ〜~、拷問(ごうもん)にかけろ!」


 ガラガラ星人のひとりがエミを激しくムチ打つ! と云いたいところだが、ガラガラヘビというよりも触角があることからナメクジのような印象も受けるガラガラ星人のマスクは、視界があまりよくなかったのか、なにか動きがモサ〜っとしていて、正直エミの痛みがあまり伝わってはこない(笑)。


ガルタン大王「苦しめば苦しむほど、エイティを早く呼び寄せられる!」


 そのとき、エミが左腕にハメていたブレスレットから、鈴の音(ね)のようなリンリンという音が鳴り響いた!


 ガラガラ星人を追ってアジトの近くにたどり着いた矢的・涼子・イケダの3人。しかし、矢的は涼子の耳のシルバーイヤリングが揺れている様子に気づいた!


矢的「星くん、君のイヤリングが」
涼子「思い出したわ! このイヤリングはブレスレットが鳴ると共鳴するのよ! 矢的さん、これでエミさんの居場所がわかるわ!」
イケダ「あ〜、そりゃあ最高だ!」


 歓喜する一同の前に、例の謎の5人組が華麗にジャンプを披露して現れた!


イケダ「あっ、おまえら何者だ!?」
涼子(心の声)「彼らの正体は、ガラガラ星人だわ!」


 涼子が指を「パチッ」と鳴らすや、いっせいに謎の5人組がガラガラ星人の正体を現した!


 その指パッチンは単なる指パッチンではなく、涼子のウルトラ族としての超能力を発現するものでもあるのだろう!


 矢的・涼子・イケダがガラガラ星人たちと格闘!


 しかし、この場面でもガラガラ星人の動きが妙にモサ〜としている(笑)。まだ新人でアクションが不得手だと思われる涼子役の萩原佐代子に気を遣ったのだろうか? イケダが「おい、ホラ!」とガラガラ星人に上を向かせて油断させ、首を絞める演出など、どことなくほのぼのとしている。



 ところで、昭和ウルトラシリーズに登場する宇宙人は圧倒的に単体での行動が多い。集団で隊員たちと等身大アクションが展開された例は非常に数少ないのだ。第1期ウルトラシリーズでは皆無であり、第2期ウルトラシリーズでも『A』第50話『東京大混乱! 狂った信号』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070415/p1)において、宇宙怪人レボール星人である赤・青・黄色の体色の3人組が(まさに信号機を自在に操った宇宙人らしい・笑)、東京の地底で主人公の北斗星司(ほくと・せいじ)や山中隊員とトランポリンアクションのバトルを繰り広げたくらいなのだ。


 当時は『仮面ライダー』(71年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)の大ヒットに影響されて、『スペクトルマン』(71年・ピープロ フジテレビ)・『ミラーマン』(71年・円谷プロ フジテレビ)・『ジャンボーグA(エース)』(73年・円谷プロ 毎日放送)・『流星人間ゾーン』(73年・東宝 日本テレビ)・『スーパーロボット レッドバロン』(73年・宣広社 日本テレビ)などの特撮巨大ヒーロー・特撮巨大ロボット作品の中でも、人間大サイズの集団宇宙人や戦闘員たちとの等身大バトルが描かれることが目立つようになっていた。
 それにもかかわらず、頑(かたく)なにそうした要素を低俗と見てか、等身大アクションを導入せずに、人間ドラマや社会派テーマの充実を優先していたことこそが、後年に「長じてからの再視聴でも再鑑賞に堪えうる高いドラマ性」を達成すると同時に、TBS・橋本洋二プロデューサー主導の第2期ウルトラシリーズが抱(かか)えていた「弱点」でもあったのだと、近年になって筆者はそのように考えだしている。
 とはいえ、『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)では、ようやく等身大宇宙人と防衛組織・MAC(マック)との等身大バトルが描かれるようにはなった。しかし、末端の二等兵・戦闘員クラスのザコが多数いる悪役キャラではなく、単体のメインゲストである敵宇宙人相手であったからか、これを即座に倒してしまうかたちでのMAC隊員たちの強さを描くワケにはいかなかった(汗)。そして、他社作品と比較すればウルトラシリーズの美点だったともいえるややリアルタッチな演出が災いして、「爽快感」よりも「凄惨」そのもの(爆)だったりもする、子供たちでもドン引きするような描写になってしまった点においては、また別の致命的な「大きな問題」が生じてしまってもいたのだが(笑)。


 それを思えば、本作『80』では、第5話『まぼろしの街』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100530/p1)の四次元宇宙人バム星人、第13話『必殺! フォーメーション・ヤマト』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100725/p1)のドクロ怪人ゴルゴン星人、第30話『砂漠に消えた友人』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101120/p1)の変身宇宙人ザタン星人、そして今回のガラガラ星人と、シリーズ初期のころから集団宇宙人がたびたび登場して等身大バトルが展開されていた事実は、幼児や子供たちが退屈しがちな本編ドラマ部分にアクション場面の見せ場を導入できたことにもなっており、改めて再評価されてもよいことだろう。



 激しい戦い(には見えない?・笑)の末に、ガラガラ星人の姿はいっせいに消滅、爆発を遂げた!


 爆風で倒れ伏した涼子を介抱(かいほう)する矢的。


矢的「星くん、しっかりしろ! 星くん!」
涼子「矢的!」
矢的「どうした!?」
涼子「思い出したわ! 私はウルトラの星のユリアンよ!」
矢的「えっ、ユリアン? ユリアン王女か!? そうか、僕がウルトラの星から地球に来たとき、君はまだちっちゃな女の子だったもんなぁ」


 ……えっ!? ウルトラ一族の数万歳単位での長寿設定を考えると、ユリアンがまだちっちゃな女の子だった時期は数千年だろうし、エイティが地球に来訪したのも数年前のことだろうから、ちょっとおかしな描写だなぁ(笑)。



 はるか後年のウルトラマンエイティ客演編である『ウルトラマンメビウス』第41話『思い出の先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070218/p1)において、防衛組織・GUYS(ガイズ)のヒビノ・ミライ=ウルトラマンメビウスに対してエイティがこう語りかける場面がある。


エイティ「もともと私は地球にマイナスエネルギーの調査のために訪れた。そして人間と触れ合ううちに、人間の持つ、限りのない可能性を感じた。それはメビウス、君も同じだろ?」
ミライ「ハイ」
エイティ「しかし人間は、その可能性を間違った方向に向けかねないこともわかった。そのことによって生まれるのが」
ミライ「マイナスエネルギー」
エイティ「そうだ。そして私は考えたのだ。教育という見地(けんち)からマイナスエネルギーの発生を抑えられるのではないかと。私は勉強を重ね、思春期といわれる不安定な時期の中学生の教師になった」



 なるほど、矢的猛として中学教師となる数千年も前(!)からエイティは地球に滞在しており、マイナスエネルギーについて勉強を重ねていたのかもしれない!? ということは、エイティは『ウルトラマン』(66年)第1話『ウルトラ作戦第一号』で、初代ウルトラマンが宇宙怪獣ベムラーを追って地球に来たころには、すでに地球に来訪していたのかもしれないのだ!? ……そのワリには矢的猛は世慣れていないところが多いので、我ながら心にもないことをつらつらと書きつらねているけど(笑)。



涼子「矢的、ガラガラ星人はあなたを殺すために地球にやって来たのよ」
矢的「なんだって? 俺を?」
涼子「ええ。ウルトラの星を侵略しようとしたガルタン大王は、あたしたちに反撃されて、王子を失ったのよ。ガルタン大王はその復讐のために、ウルトラマンエイティを殺そうとしているの。私はそれを知らせるために……」


 この涼子のセリフは、まさに当時の小学館『てれびくん』で連載されていた居村眞二(いむら・しんじ)先生によるコミカライズの最終章『ウルトラマン80 宇宙大戦争』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110107/p1ISBN:4813020089)で描かれた、ウルトラ一族VSバルタン星人大軍団のスペース・オペラを彷彿とさせるものがある。特撮予算的には大変だろうが、願わくばセリフのひとことのみで終わらせるのではなく、こういったところこそをきちんと映像化して、目で見てもわかるようなスケール感を出してワクワクさせてほしかったところだ(笑)。



矢的「そうか、それでわかった。それで奴らは、君と間違えて城野隊員を…… 城野隊員が危ない! 城野隊員は、俺がウルトラマンエイティだってことを知らないんだ!」
涼子「急ぎましょう! 矢的!」


 矢的・涼子・イケダはエミの救出に向かう! ガラガラ星人のアジトである、オープンセットに作られた高くそびえる山と、画面右側に実景の山と手前に小さく映る3人の合成カットも目を引く! そして、ホリゾントではない本物の青い空は、実にリアルな感覚を醸(かも)しだすのだ。


イケダ「あっ、鉄条網(てつじょうもう)だ。よし、俺にまかせとけ! このカッターで」


 どう見ても単なる工作用のカッター(笑)で鉄条網を切断しようとしたイケダを矢的が制止し、カッターを取り上げて鉄条網に投げつける!


 火花が散る鉄条網! セリフでそれと語らせずに、カッターでふれたら感電死していたことを映像で示してみせつつ、同時に敵の悪辣さをも示している描写でもある!


 だが、それを見て、涼子は即座に鉄条網に向かって走りだして、人間技とは思えない跳躍力で華麗に宙返りでそれを跳び越えてしまったのだ! もちろん、彼女の正体が人間ではなくウルトラ一族であることを示す描写でもある!


涼子(心の声)「どうしたの、矢的? 早くいらっしゃい!」


 自分がウルトラの星の王女・ユリアンであることを思い出した途端に突然、矢的に対して命令口調になる涼子(笑)。


 しかし、そんな超人的な跳躍力を第三者に見せてしまっては、矢的の正体も疑われてしまうことにも思い至らない「世間知らず」さも、このひとことで二重三重に含意させてもいるのだ。これまた、「世間知らず」=「王族」といったイメージで、ウルトラ一族の王族であるという設定を念押しにしている描写でもある。


矢的(心の声)「ダメだ! イケダやみんなは、俺がウルトラマンエイティであることを知らないんだ。俺は俺の方法でやる!」


 矢的、崖の前に生(は)えていた竹の1本を引っこ抜いて、それを持って走りだして、まさに棒高跳びの要領で鉄条網を跳び越える!


矢的「イケダ、俺と同じ方法で来るんだ!」
イケダ「ハイ、了解! よ〜し!」


 イケダもまた竹を引っこ抜き、矢的と同様にカッコよく決めようとするが…… 途中で見事にコケてしまった!


イケダ「あっ、痛っ! あイタ〜~~」


 こんな緊迫した場面においても確実に笑いをとってしまうイケダ隊員は、なんとも愛すべきキャラクターであった(笑)。



 ガラガラ星人の配下の報告を受けているガルタン大王。


ガルタン大王「なに!? いよいよ来たか、ウルトラマンエイティ!」


 思わず身を乗り出そうとするエミを、剣で制止してくるガルタン大王。


ガルタン大王「あわてることはない、ユリアン王女。(配下の者たちに)散れ〜~!」


 物陰にいっせいに身を潜めて、エイティこと矢的たちの突撃に備えるガラガラ星人たち。


 そこにエイティ=矢的とユリアン=涼子が突入! ガラガラ星人の槍を奪い取って、格闘を演じる矢的!


 その姿に衝撃を受けるエミ!


エミ「矢的隊員!?」
矢的「城野隊員!」
ガルタン大王「動くなエイティ! 武器を捨てろエイティ! これが見えんのか!」


 エミに剣を突きつけるガルタン大王! 矢的、やむなく光線銃・ライザーガンを捨てる。


ガルタン大王「エイティ、UGMの隊員とはうまく化けたものだな」
エミ(心の声)「矢的隊員、あなたはやっぱりウルトラマンエイティだったのね……」


 絶体絶命のピンチに際して、矢的に口頭ではなくテレパシーを送る涼子。


涼子「猛、あたしになにかできることはない?」
矢的「ダメだ、動いちゃ。城野隊員が危ない!」


エミ(心の声)「矢的隊員、わたしをダマすなんて……」


 そのとき、ガラガラ星人のひとりが矢的に向かって槍を投げつけた!


エミ「猛、あぶない!」


 エミ、ガルタン大王の剣から逃れて、華麗に宙返りして矢的の前に着地し、背中に槍の直撃を受ける! まさに矢的の盾となったのだ!


 ……ウ~ム。ユリアン王女のようなウルトラ一族でもないのに、ユリアンのように華麗な宙返りをしてしまうとは、ややムリのある描写ではあった(笑)。


 とはいえ、もたもたと駆け寄っていたら、矢的をかばうのには間に合わなかっただろうし、このエピソードのノルマ(爆)としてはここで死んでもらわないと仕方がない(汗)。そう考えると、それではどのような描写であればよかったのかの代案も思いつかないのだ。そうなると、やや苦しいけれども、とっさの華麗な宙返りでの駆け寄りが落としどころだったといったところか?


矢的「エミ!」
エミ「猛……」
矢的「しっかりしろ!」
エミ「お願いよ…… ガラガラ星人をやっつけて……」
矢的「わかった! 頼む!」
涼子「はい!」


 瀕死のエミを涼子に任せて、矢的はガラガラ星人の配下を蹴散らして、憎むべき凶悪な敵・ガルタン大王を倒すため、変身アイテム・ブライトスティックを高々と掲げた!


矢的「エイティ!」


 宙を華麗に回転して、アジトの山から出てくるウルトラマンエイティ!


 オープンセットの岩山が大爆発!


 オープンのあおりで撮られたエイティが岩山に向かって身構える!


 ガルタン大王も巨大化! 下から見上げたアングルでのオープン撮影で、崩れた岩石を盛大に蹴り飛ばしていくサマは大迫力!


 ファイティングポーズを決めるエイティの上半身もオープンのあおりで撮られているが、巨大感をさらに出すための対比として、画面右には樹木のセットが律義に用意されてもいる!
 がっちり組み合う両者までオープンのあおりで撮られており、これまた巨大感が絶妙に表現されている。しかし、ガルタン大王がエイティに左足でキックをかましてエイティを投げ飛ばし、エイティが着地してからはスタジオセットに移っている。


 ガルタン大王、鞘(さや)から剣を引っこ抜いて、エイティに襲いかかる! その際に鞘を乱暴に投げ捨てているのがまた、ガルタン大王の粗暴な性格をも表現できていてよい!


 エイティ、ガルタン大王の剣をなんと宙返りでよけた!


 さらに、襲いかかってくる剣を、今度はバック転でかわした!


 エイティ、ガルタンの剣を真剣白刃取り(しんけんしらはどり)の要領で、両手の素手で挟んで受けとめる!


 そして、白刃取りのお約束で(笑)、両手をヒネることで、剣ごとガルタン大王を投げ飛ばす!


 しかし、ガルタン大王も即座に反撃に転じて、素早く剣でエイティを小突き回してくる!


 ここで再びオープンのあおり撮影が併用されるが、ガルタン大王のアクションは等身大のガラガラ星人配下たちよりもスピーディだ! 大王の方がよほど動きにくそうなボリューミーな造形なのに! 着ぐるみうんぬんよりも、スーツアクターの技量が優れていたといったところか!?


 今度はスタジオの天井上から見下ろしたアングルで(!)、エイティが豪快にガルタン大王を投げ飛ばす!


 再びオープンのあおり撮影。


 ファイティングポーズを決めるエイティ!


 ガルタン大王は長剣を大地に勢いよく突き刺した!


 すると、スタジオ天井上からのアングルで、剣が刺された地点からエイティに向かって、地面を勢いよく光弾が地走りしていく!


 エイティ、画面手前からジャンプし、大きな岩がある画面奥へと逃れる!


 剣を大きく振り回すガルタン大王!


 エイティ、盾になってくれた大岩を持ち上げ、ガルタン大王に向かって投げつける!


 ガルタン大王、剣で岩を蹴散らすや、剣の先から波状光線を発射!


 エイティの足元が大爆発!


 たまらず大地に倒れるエイティだが、ここで再びオープンのあおり撮影!


 しかも、逆光でエイティの姿はシルエットのように黒く映し出されて、カラータイマーが赤く点滅する様子だけが印象強く残る演出!


 つい最近、2010年11月26日にバンダイビジュアルから発売されたばかりのオリジナルビデオ作品『ウルトラ銀河伝説外伝 ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロ STAGE Ⅰ(ステージ・ワン) 衝突する宇宙』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111201/p1)の冒頭で描かれた、逆光に浮かんだニセウルトラ5兄弟たちの演出なども個人的には想起されてきてしまう(笑)。


 再びセットに戻って、画面手前に倒れたエイティの顔を配置し、後方に剣で襲いかかろうとしてくるガルタン大王を映す!


 大地を転がって剣をよけていくエイティのカットをつなげるあたりもカッコいい!


 剣を振り回して襲いかかってくるガルタン大王に、エイティは左右の手から手裏剣状の光線・ウルトラダブルアローを放った!


 そして、ガルタン大王の剣を遂に切断された!


 エイティ、さらにジャンピングキック!


 ガルタン大王の右腕に致命傷を与える!


 そして、両腕をL字型に組んで、必殺のサクシウム光線を放った!!


 遂に大地に崩れ落ち、大爆発を遂げるガルタン大王!



――第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』のガルタン大王の立ち回りはダイナミックですね。
「これはもうまさに時代劇、チャンバラものをやりますっていうね。星人が刀を持っていたし。岩をちぎっては投げ、ちぎっては投げっていう。「講談ものみたいなことを特撮でやったらどうなる?」というのを試そうという思いがあったんですよ。前半は割とシリアスな話が多かったのが、中盤になるとくだけた怪獣が出てきてたりもしたから、なんでもありになったんですね(笑)」

タツミムック『検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・ISBN:4777802124)特撮監督 神澤信一


(引用者注:「岩をちぎっては投げ」という描写は実際には存在しない。「土砂が盛大に蹴散らされる」が正解だが、「千切っては投げ」は古代中国の「戦記もの」や大正時代の「講談」(チャンバラもの)などに登場する英雄豪傑が一騎当千するさまを形容する際の常套句であるので念のため・笑)



 のちに、『ウルトラセブン 太陽エネルギー作戦』(94年3月21日・日本テレビ)・『ウルトラセブン 地球星人の大地』(94年10月10日・日本テレビ)・『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)・『ウルトラマンガイア』(98年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19981206/p1)、オリジナルビデオ作品『ウルトラマンネオス』(00年)・平成『ウルトラセブン』98年版と99年版などの監督も務めた、神澤氏の特撮監督としての『80』での初仕事が本話なのだった(ちなみに氏のデビューは、先の『A』終盤の第50話『東京大混乱! 狂った信号』)。


 時代劇の殺陣(たて)を応用したスピーディなアクション、オープン撮影を多用した巨大感の表現、変幻自在に切り替わるカメラワークともう見応え満点! いくら助監督として現場を長く経験してきたとはいえ、特撮監督としての初仕事とは思えない見事な凝りまくったものであった。同書籍で脚本家・平野靖士が主張していた「善悪の割り切りがはっきりある中での痛快な戦い」を表現するには、氏の起用はうってつけとなっていた!



 遂にガルタン大王を倒したエイティ。赤い渦に包まれて矢的の姿に戻るや、即座にエミのもとへと駆け寄っていく!


 美しい夕暮れの中、涼子の介抱も空(むな)しく、横たわるエミ……


矢的「あっ、ユリアン。城野隊員は!?」
涼子「あらゆる手を尽くしたけれど、ダメだったわ」
矢的「えっ!? ……城野隊員!」
エミ「……ありがとう、猛……」
矢的「隠していて悪かった。俺がウルトラマンエイティなんだ」
エミ「薄々感じていたわ……」
矢的「エミ、君は俺のために……」
エミ「あなたは、地球にとって大切な人なのよ。あなたには、これからも地球のために、戦ってほしい人なのよ。だから…… だから…… だから わたし、少しも後悔なんかしてないわ」


 「だから」を3回もリフレインすることにより、「少しも後悔なんかしてないわ」といった想いがいっそう強調されているのだ。


矢的「エミ!」
エミ「……涼子さん…… 涼子さん、どこ……」


 末期(まつご)が迫って、目が見えなくなってしまったことを示すこのセリフがまた、この場面の「悲劇性」をダメ押ししていくのだ……


涼子「わたしはここよ。ゴメンなさい、エミさん。わたしがあなたにブレスレットをプレゼントしたばかりに……」
エミ「……いい…… いいのよ、気にしないでね、涼子さん。そんなことより、お願いがあるの」
涼子「なんなの? エミさん!」
エミ「わたしの代わりにUGMの隊員になって、矢的隊員を助けてあげて…… 約束して……」


 「悪い怪獣や宇宙人と戦って」でも「地球の平和を守って」でもないのだ。UGMの隊員となって「矢的隊員を助けてあげて」なのである。ハッキリとは語らずとも、エミが矢的に好意を持っていたことをも匂わせる粋(いき)な描写ではある……


涼子「私がUGMの隊員に!? わかったわ、約束するわ!」
エミ「ありがとう…… 猛…… さよなら……」
矢的「エミ……」


 そのまま顔を伏せ、ピクリともしないエミ……


イケダ「せんぱ〜~い! 城野隊員は?」


 今ごろになって現れるイケダの問いに、矢的は無言で首を振る……


イケダ「え〜~~っ!? 城野たいい〜~~ん!!」


 イケダの絶叫がこだまする!



 そして、作戦室では……


オオヤマ「なに? 城野が!?」
フジモリ「キャップ!」
イトウ「どうしました?」
オオヤマ「殉職した」
フジモリ「え〜~~っ!?」
イトウ「まさか?」
オオヤマ「城野…… 君はよくやった……」


 おもわず目を伏せるオオヤマキャップ。悔しそうに目を閉じるフジモリ。


イトウ「そんな…… そんなバカな!?」


 絶句したまま、かすかな涙があふれ出るイトウチーフ。


 この場面の一同のさりげない泣きのお芝居は、役者陣がみんな達者であることもあってか絶品であり、こちらも連られて目頭が熱くなってくる……


 ここで名作テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100829/p1)の劇中女声コーラスでも有名な川島和子のスキャットによる、悲しみを表現する楽曲が使用されているのがまた泣かせてくれるのだ。


 『ウルトラマン80』第18話『魔の怪獣島へ飛べ!!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101207/p1)ラストでも、実は正体は本話同様に宇宙人であったゲストヒロイン・星沢子(ほし・さわこ)によって蘇生されたイトウチーフと矢的が海を見つめるシーンに使用されていた名曲である。劇中音楽をほぼ完全収録した2枚組の音盤『ウルトラマン80 ミュージック・コレクション』(日本コロムビア・96年8月31日発売・ASIN:B00005ENF5)では、本曲を収録したブロックに「無償の愛」なるタイトルがつけられていた。エミの行為はまさに「無償の愛」なのかもしれない……(コロムビアはなぜ「放映30周年記念」としてこれを再発しなかったのか!?・笑)



 エミを抱え上げて、沈む夕日に向かってエミに誓う矢的。そして涼子。


矢的「エミ、約束するよ。地球の平和のために、俺は力いっぱい戦っていくよ」
涼子「エミさん、私もあなたに約束します」
イケダ「……ウヒッ……」


 言葉にならず、ただ嗚咽(おえつ)して上を向くイケダ……


ナレーション「城野隊員の美しい愛の行為は、UGM隊員の心に、いつまでも、深く深く残ることだろう」





 連続ドラマのレギュラーが降板する理由としては、役者本人のスケジュールの都合や健康上の理由などの個人的なものと、作品のイメージ一新をはかるために意図的にキャラクターを入れ替えするものと、二通りが挙げられる。


 『80』と同時期の作品の場合、『(新)仮面ライダー』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)で主人公の筑波洋(つくば・ひろし)をスカイライダーに改造し、その後はネオショッカーと戦う洋に協力した志度敬太郎(しど・けいたろう)博士を演じた田畑孝は、第13話『アリジゴクジン 東京爆発3時間前』をもってレギュラーを降板している。これは氏の健康上の理由によるものであり、放映中の翌80年に氏は亡くなっている(合掌)。
 第14話『ハエジゴクジン 仮面ライダー危機一髪』以降、代わりに筑波洋の年長者の後見人として、洋の大学時代の先輩・谷源治郎(たに・げんじろう)がレギュラー入りすることとなった。まさにこれが転機となり、以降は初期のレギュラー出演者たちが次々と番組を降板することとなっていった。
――『帰ってきたウルトラマン』の防衛組織・MAT(マット)の初代隊長・加藤勝一郎(かとう・かついちろう)役でも知られている故・塚本信夫は、『仮面ライダースーパー1(ワン)』(80年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210822/p1)でも引き続いて、この谷源治郎の役で出演することになった。もちろんご存じのとおり、第1期仮面ライダーシリーズこと『仮面ライダー』初作(71年)~『仮面ライダーストロンガー』(75年)で、ライダーたちの良き年長者の後見人であった立花藤兵衛(たちばな・とうべえ)役だった故・小林昭二(こばやし・あきじ)の処置に準じたものでもあった――


 続く第15話『恐怖 アオカビジンの東京大地震』を最後に、志度ハンググライダークラブのメンバー・杉村ミチを演じていた伏見尚子がなんの説明もなく姿を消してしまう(第16話『不死身のゴキブリジン G(ゼネラル)モンスターの正体は?』では、ネオショッカー出現を知らせる電話の声のみを演じていた)。そして第16話を最後に、ネオショッカー出現に必ず出くわしてしまうルポライター・飛田今太(とんだ・こんた)を演じていた東隆明も降板してしまう(氏は『ウルトラマンレオ』第12話『冒険野郎が来た!』では「東龍明」の名義でアフリカ帰りのMAC隊員・佐藤三郎を演じていた)。これは第14話から喫茶ブランカの従業員として、沼さん(演・高瀬仁)がコメディリリーフとして設定されたことが大きかっただろう。
 さらに、第17話『やったぞ! Gモンスターの最後』をもって、志度博士の助手だった叶みどり(かのう・みどり)を演じていた田中功子と、志度ハンググライダークラブのメンバー・野崎ユミを演じていた巽かおりも、ネオショッカー大幹部・ゼネラルモンスターに「全治10ヶ月」の重傷を負わされたためにという理由をつけて姿を消してしまう――ただし、ユミは第33話『ハロー! ライダーマン ネズラ毒に気をつけろ!!』で、喫茶ブランカのバイトとして復帰して、第54話(最終回)『さらば筑波洋! 8人の勇士よ永遠に……』まで出演することにはなる――。
 その当のゼネラルモンスターを演じた堀田真三(ほった・しんぞう)自身もまた、その正体である怪人ヤモリジンに変身するもスカイライダーに敗北し、ライダーともども自爆を試みるが、次なる大幹部・魔神提督に抹殺されるかたちで同話をもって降板していた。


 この第17話の時点でシリーズ序盤から出演していたレギュラーで残ったのは、主人公の筑波洋を演じた村上弘明と、叶みどりの弟・シゲルを演じた白鳥恒視のみである。「そして誰もいなくなった」とはならなかったものの毎週、確実にレギュラー出演者が少しずつ姿を消していくというのは異例の事態であったが、昭和のライダーシリーズは脇役キャラクターがほとんどドラマやテーマを抱えていないために、作品の重要な何かが棄損してしまったといった感じにはならず、あまり気にならなかったことも事実だが(笑)。


 第3次怪獣ブームの中、講談社の幼児誌『テレビマガジン』における旧作の特集記事や関連書籍の出版、再放送などから新作を求める声が高まって、それに応えるかたちで製作された『(新)仮面ライダー』であった。しかし、当初は視聴率が10%台半ばであったために(それでも当時としては高視聴率の番組だとは思うものの、製作者側はそうは思わなかったのだ)、第1クールを放映中の時点で、東映毎日放送の間で大きな軌道修正を図ることが検討された。
 まず、海外SF映画『スーパーマン』(78年アメリカ・79年日本公開)の公開に影響を受けて設定されたという、スカイライダーの飛行能力の事実上の排除などもそれにあたる。脚本家の入れ替えもあった。第1期ライダーシリーズの中心人物であり、『(新)仮面ライダー』でもメインライターだった故・伊上勝(いがみ・まさる)でさえ、2クールをもって脚本から降りている――同人ライター諸氏による関係各位へのインタビューによると、伊上勝はスランプに陥っており書けなくなっていたようだが(汗)。代わりに、江連卓(えづれ・たかし)がメインライターに昇格し、次作『仮面ライダースーパー1』でもメインライターとして続投した――。


 しかし、レギュラー陣の交代の話とはズレてしまうが、この軌道修正で提案された「歴代ライダーの客演」という強化案こそが、この番組を救うこととなった! ちなみに、この強化案では、実現はしなかったが、7人ライダーのエネルギーによって新仮面ライダー・V9(ブイナイン)が誕生し、スカイライダーと交替、もしくはスカイライダーと共闘するという、実に劇的な案までもが検討されていたという!
 その仮面ライダーV9とは米航空宇宙局NASA(ナサ)の宇宙飛行士・沖正人(おき・まさと)が変身するメカニックライダーである。仮面ライダースーパー1の原形となる設定が、早くもこの時点で生み出されていたのだ。V9は80年春公開の映画『東映まんがまつり』での『(新)仮面ライダー』劇場版でのデビューも想定されており、ギリギリまで実現が検討されたものの、『仮面ライダー』次作製作のGOサインも出たために、V9は次回作の主人公ヒーローとして、改めて企画が練り直されることとなったのだ。


 話を戻すが、『スカイライダー』におけるレギュラー出演者の総入れ替えは、番組刷新をはかったものである。しかし、それが功を奏したのかはわからない。同作の視聴率の上昇は第2クール中盤から第3クールいっぱいまで頻発される先輩ライダー客演編にあったと思うからだ(笑)。



 『80』放映開始の直前まで放映されていた、東映スーパー戦隊シリーズバトルフィーバーJ』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120130/p1)でも、1年間の放映期間中に主役級のヒーロー・ヒロインのうち、2名ものメンバーチェンジが発生するという異例の事態が発生している。
 第24話『涙! ダイアン倒る』においては、外人女性ダイアン・マーチンことフィーバー隊の女戦士であるミス・アメリカの正体が敵組織・エゴスに知られてしまい、さらにはゲスト怪人・ドラキュラ怪人に襲撃されて体力を失ってしまう。ダイアンの妹・キャサリンの護衛のために来日していたFBIの捜査員・汀マリア(なぎさ・まりあ)(演・荻奈穂美(おぎ・なおみ))は、ダイアンからバトルスーツを託されて、以降は彼女が2代目ミス・アメリカとなって活躍することとなり、ダイアンはそのまま戦線を離脱するのである(シナリオタイトル初稿は『涙! ダイアン死す』(!)。しかし、完成作品と同様、ダイアンが死ぬという展開にはなっていなかった詐欺のサブタイトルであったようだ・笑)。
 これはダイアンを演じていたダイアン・マーチンが、当初からまともにロケに参加ができないくらいにスケジュールの調整が難しく、いよいよ出演不能となったことが理由らしい。ちなみに、彼女は演じる役者そのままの名前でネーミングされている。当時のフジテレビで放送されていたイレギュラー特番『オールスター水上大運動会』に彼女が出演しているのを見かけた記憶があるので、けっこう売れっ子だったのかもしれない? そのような事情で、名作刑事ドラマ『Gメン’75』(75〜82年・東映 TBS)でもよくメンバー交替劇を執筆していた、脚本家の高久進(たかく・すすむ)に発注された話だそうだ。


 同作の第33話『コサック愛に死す』では、父である国防省の三村教授を目の前でエゴスに殺された少女・まゆみから、以前は兄のように慕われていたのにもかかわらず、「血のにおいがするから」(!)と拒絶された白石謙作(しらいし・けんさく)が、バトルスーツを持たずにまゆみと出かけた末に、彼女を守るためにエゴスの凶弾に倒れてしまう!
 そして、彼の先輩である神誠(じん・まこと)が白石からバトルスーツを託されて、以降は彼が2代目バトルコサックとして活躍することとなる…… この交代劇は白石を演じていた伊藤武史の個人的な事情が原因だったようである――神誠を演じた伴直弥(ばん・なおや)はもちろん、『人造人間キカイダー』(72年・東映 NET→現テレビ朝日)の主人公・ジロー、『イナズマン』(73年・東映 NET)の主人公・渡五郎(わたり・ごろう)役などで知られる、70年代変身ブーム世代の特撮ファンにとっては今でいうところの「神(かみ)俳優」の再登板でもあった!――。


 ミスアメリカ交代もバトルコサック交代も、いずれも役者本人の都合によるものではあった。しかし、どちらも交替劇のエピソードの作劇自体は成功しており、かつ感動も呼び起こす高品質の仕上がりともなっていた。もともと同作は当初から評判がよかったために、大きな番組刷新をはかる必要もなかったのだが――もっとも、同作のメインライターであった高久進の代表作『キイハンター』(68〜73年・東映 TBS)を思わせるようなスパイ・アクション風味は次第に薄くはなっていったが――、メンバー交替によるマイナス効果は微塵(みじん)も感じられない作品なのだ。



 さて、『80』では、すでに第12話『美しい転校生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100718/p1)をもって、学校編の設定をすべて排除したことにより、桜ヶ岡中学校の生徒・教師役を務めていたレギュラー俳優たちは全員が降板している。ただし、事務員のノンちゃんを演じていた白坂紀子(しらさか・のりこ)のみ、第21話『永遠(とわ)に輝け!! 宇宙Gメン85』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100919/p1)よりノンちゃんのそっくりさん(笑)であるUGMの気象班・小坂ユリ子隊員として再レギュラー入りを果たしてはいる。ファミリー劇場『ウルトラ情報局』11年1月号にゲスト出演した小坂によれば、これには本人が一番驚いたそうだが(笑)。
 『(新)仮面ライダー』以上の大規模な番組刷新が行われたともいえるのだが、これが正解だったかどうかは賛否両論渦巻くところでもあり、筆者としても一長一短とは思っていて、どちらの路線にも可能性はあったと思うので、一方向での断言をする気はない。


 さらに、第26話『タイムトンネルの影武者たち』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101023/p1)をもって、ハラダ時彦(はらだ・ときひこ)隊員を演じた無双大介(むそう・だいすけ)、タジマ浩(たじま・ひろし)隊員を演じていた新田修平(にった・しゅうへい)が、地球防衛軍オーストラリア・ゾーンに転任したという設定で降板している――第50話(最終回)『あっ! キリンも象も氷になった!!』では、ふたりとも日本の危機に駆けつけているが――。



「きっと僕ら若い連中が、あまりにスタッフの云うことを聞かなかったからじゃないかな? 主役じゃなかったら、僕もはずされていたかもしれない(笑)」

(『君はウルトラマン80を愛しているか』「矢的猛役 長谷川初範インタビュー」)


「無双大介君は以前、(東京)12チャンネル(現・テレビ東京)の『天下一大物伝』(76年)の主役でした(引用者註:梶原一騎原作の『週刊少年サンデー』連載漫画(75年)の実写ドラマ化でその役名を芸名とした)。俳優さんも飛んだり跳ねたりするから、運動神経がないとやはり大変です。そんなに難しいことはいりませんが簡単なことくらいは……。ちょっと転んだりしただけでケガしたりと、最初の2人の交替はそんな理由によります。とにかくあの2人はついてなかったですね」

(『君はウルトラマン80を愛しているか』「監督・湯浅憲明が語った『ウルトラマン80』)



 両氏の話には微妙な食い違いがあるのだが、どちらが正しいにせよ、劇的な交替劇を描いてはおらず、第27話『白い悪魔の恐怖』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101030/p1)では、フジモリ新八郎(ふじもり・しんはちろう)隊員を演じる古田正志(ふるた・まさし)、イケダ登(いけだ・のぼる)隊員を演じる岡本達哉(おかもと・たつや)が、何食わぬ顔をしてレギュラー入りを果たすこととなった。



 そして、またしてもの今回の降板劇である。今回はご承知のとおり、イベント編をきちんと設けて、エミを演じる石田えりを「名誉の戦死」扱いとして降板させるに至っている。桜ヶ岡中学校の生徒や教師たち、ハラダやタジマのように、ろくに説明もないままに突然画面から消え失(う)せるかたちで終わらなかったのは、不幸中の幸いであった。


●『帰ってきたウルトラマン』では、第37話『ウルトラマン夕陽(ゆうひ)に死す』をもって、坂田アキを演じる榊原るみが、坂田健(さかた・けん)を演じる故・岸田森(きしだ・しん)ともども、暗殺宇宙人ナックル星人に殺害
●『ウルトラマンA』では、第28話『さようなら 夕子よ、月の妹よ』をもって、北斗星司とダブル主人公であった南夕子を演じる星光子が、故郷である月を死の星にした元凶・満月超獣ルナチクスを倒して、北斗ひとりにエースの使命を託し、仲間が移住した冥王星へと旅立つ


 坂田アキが姿を消して以降の『帰ってきた』は、侵略宇宙人が手下の宇宙怪獣を連れて地球に来襲するパターンとなった。
 『A』ではウリであった合体変身と異次元人ヤプールが消滅したこともさることながら、「ウルトラ6番目の弟」=梅津ダン(うめづ・だん)少年がレギュラーとなり、『80』第31話『怪獣の種(たね)飛んだ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101127/p1)〜第42話『さすが! 観音さまは強かった!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110212/p1)の「児童ドラマ編」の元祖であるかのような展開となった。
 ともに従来の作風からは大きく路線変更を遂げたのである。


 ただし特撮マニアには、『帰ってきた』の第4クール目も、『A』第29話『ウルトラ6番目の弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061120/p1)から第43話『冬の怪奇シリーズ 怪談雪男の叫び!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070224/p1)に至るダン少年編も、いまだに評判が芳(かんば)しくはない。
 しかし実は、『帰ってきた』も『A』も、本放映で最も視聴率を稼いでいたのは、まさにこの時期の作品群ではあったのだ。もろもろの複合的な内的・外的要因があったのだろうから、ヒロイン降板に便乗したかたちでの路線変更だけで功を奏したのだとは一概にはいえない(前者は『仮面ライダー』『シルバー仮面』といった作品による「変身ブーム」の勃興、後者はウルトラ5兄弟やウルトラの父の客演の余波)。しかし、これらの路線変更は作品的には賛否あるにしても、視聴率的には一応の成功をおさめていたのだ。


 それらに比べるとあまり話題にのぼらないように思うが、『ウルトラマンタロウ』で当初ヒロインの白鳥さおりを演じていた朝加真由美も、第16話『怪獣の笛がなる』をもって降板し、第17話『2大怪獣タロウに迫る!』・第18話『ゾフィが死んだ! タロウも死んだ!』・第19話『ウルトラの母愛の奇跡!』の3部作をはさんで、第20話『びっくり! 怪獣が降ってきた』以降は、朝加とはルックスも個性も正反対というくらいにまったく異なる小野恵子が白鳥さおり(しらとり・さおり)を演じることになった。
 これは現在の観点ではハッキリ云ってメチャクチャいい加減である(汗)。本来ならば海外に留学するなり何なりでの理由をつけて、さおりとはまったく別人の新ヒロインを設定しそうなものである。だが、『タロウ』ではそうした刷新をする必要性を感じていなかったのかもしない。


 『タロウ』の平均視聴率は17.4%であり、『A』の18.6%をやや下回った程度である。『タロウ』の最高視聴率は第1話『ウルトラの母は太陽のように』の21.7%であったが、『A』の第1話『輝け! ウルトラ五兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060514/p1)は28.8%も稼いでいたのである。だが、第1話の視聴率の差が7%もあるのに、平均視聴率の差が1%くらいしか開きがないということは、『A』は視聴率の高低の差が激しかったと考えられる――『A』はウラ番組に石森章太郎原作の特撮時代劇『変身忍者 嵐』(72年)があったことを思えば、その実力は平均視聴率の18.6%どころではなく、もっと上だったとは思うものの――。それに比べて、『タロウ』は全話の視聴率が公表されていないのだが、『A』ほどではないものの、年間を通して比較的に高めで安定していたという推測ができる。
 ということは、『タロウ』では大きな路線変更をする必要がなかったということになる。なので、朝加真由美が降板しようが、別の女優にそのままさおりをやらせればいいや、となったのではなかろか?(笑) とはいえ、いくらなんでもメインターゲットである子供たちにとっては、役者さんの交代は違和感バリバリだっただろうし、ウルトラシリーズがフィクションであることがモロバレにされてしまう「夢」を壊されてしまうような事態ではあっただろうが(爆)。



 『80』に話を戻そう。本誌『假面特攻隊2011年号』に掲載された森川 由浩氏が調査した本作の視聴率表によれば、『80』の関東地区での最高視聴率は第2話『先生の秘密』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100507/p1)の18.7%であり、『タロウ』第1話より3%下回っているだけだと考えれば、この時点ではけっこう健闘していたともいえる。
 しかしながら、全話の平均視聴率は10.0%にとどまり、第2期ウルトラとの差は歴然である。この数字は『A』のような高低の激しさにとどまるものではない。各クールの平均を見ると1クール目が13.2%、2クール目が9.4%、3クール目が8.4%と、まさに落ちこむ一方であった。


 『80』は、


●第1話『ウルトラマン先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100502/p1)から第12話『美しい転校生』までの学校編(学園編・教師編・桜ケ岡中学編)
●第13話『必殺! フォーメーション・ヤマト』から第30話『砂漠に消えた友人』までの『ウルトラセブン』を意識したSF色の強いUGM編
●第31話『怪獣の種(たね)飛んだ』から第42話『さすが! 観音さまは強かった!』の児童編(子供編)


 と便宜上は分けられており、クール(週1の3ヵ月分の放映期間で全13話)とは完全には符合はしないものの、それぞれが各クールの象徴ともなっている。


 放映当時は『3年B組金八先生』(79年・TBS)などのヒットによる学園ドラマブームへの迎合(げいごう)であるとして、当時の特撮マニアたちからは批判が強かった学校編ではあるが、児童層も仮に内心では不満を募らせていたのだとしてもまだ離れてしまうほどではなかったと解釈できるだろう。学校編に該当する作品群の中では、唯一学校の場面が描かれなかった第11話『恐怖のガスパニック』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100711/p1)が関東にかぎらず中部・関西でも第10話『宇宙からの訪問者』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100704/p1)に比べて意外にも視聴率が低下、それまでの最低を記録している。しかし、第12話『美しい転校生』はどの地区でも第11話に比べて5%前後もの上昇を遂げるという現象が起きていたのだ。


 しかし、UGM編の一発目である第13話『必殺! フォーメーション・ヤマト』は、関東と関西では第12話と比べて、5%前後も落ちこんでいる。「ウルトラマン先生」という目新しさに注目して視聴していた層にとっては、「なんだ、またいつものウルトラマンに戻るのか?」というような感覚であったのだろうか? それとも視聴率調査の誤差といったものなのだろうか? まぁ、視聴率は該当回への好悪ではなく、その直前回に対する好悪の影響が大きいかもしれないので(爆)、その価値判断には慎重を要する必要があるのだが……


 円谷プロ的には「学校編」はTBSからの押しつけ企画として嫌われていたようだ(『君はウルトラマン80を愛しているか』のスタッフ・インタビューでは総じてそう語られている)。しかし、円谷プロが本当にやりたかった、特撮マニアたちも観たかったであろうSF色が強い「UGM編」も、必ずしも視聴率を好転させてはいなかったのだ。
 70年代には受け入れられたであろう良質な児童ドラマが続出した「児童編」も、当時のMANZAI(漫才)大ブームで「軽佻浮薄」な時代の空気が蔓延(まんえん)し始めた1980年当時にはもうそぐわないものだったのかもしれない――共に国際放映の製作による児童向けテレビドラマでも、良い子が主人公の『ケンちゃん』シリーズ(69〜82年・TBS)よりも、悪ガキが主人公の『あばれはっちゃく』シリーズ(79〜85年・テレビ朝日)の方が大人気を博し始めていたころでもある――。
 視聴率が低落していく一方の中で、『80』はさらなる変革を迫られていた。そこに城野エミを演じる石田えり降板の話が持ち上がった。円谷プロはそれに便乗して、新たな路線変更を試みたのであろうか。



 70年代末期の第3次怪獣ブームは、児童間では小学館の『コロコロコミック』や『てれびくん』、学年誌においては内山まもる大先生を筆頭にかたおか徹治(かたおか・てつじ)先生、居村眞二(いむら・しんじ)先生らが描いていた、地球という舞台を離れたスペース・オペラとして展開するウルトラ兄弟たちのオリジナル漫画が牽引(けんいん)していたという部分が大きかった。
 それまでは頑(かたく)なにウルトラ兄弟を登場させなかった『80』ではあったが、遅まきながらようやくそれらのオリジナル漫画の偉大さに気づいたのか、まさに当時のあまたのオリジナル漫画を彷彿とさせるかのような


 「ウルトラの星とガラガラ星の全面戦争(!)」


 を発端(ほったん)とする、設定的にはスケールの大きな展開の中で(セリフのみなのが残念であるが)、新たなウルトラの戦士、しかも「ウルトラの星の王女」という新ヒロインを誕生させることになったのだろう。


 そして、続く第44話『激ファイト! 80VS(たい)ウルトラセブン』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110226/p1)では「妄想(もうそう)ウルトラセブン」、第45話『バルタン星人の限りなきチャレンジ魂』では宇宙忍者バルタン星人6代目、第46話『恐れていたレッドキングの復活宣言』でどくろ怪獣レッドキング3代目と、人気先輩ヒーロー(の偽もの)や往年の人気怪獣が登場する作品を連打しだしたことが、たとえわずかではあっても「児童編」の後期よりも視聴率を上向かせて、4クール目の平均視聴率は関東地区では8.9%と、3クール目よりも上昇させることにつながった。


 『ウルトラマンレオ』第40話『恐怖の円盤生物シリーズ! MAC全滅! 円盤は生物だった!』における、防衛組織・MACは全滅、メインヒロイン・山口百子(やまぐち・ももこ)、レギュラーの野村猛(のむら・たけし)青年、そして少女・梅田カオルまでもが、円盤生物シルバーブルーメのために命を落としてしまうという衝撃の急展開と同様、後出しジャンケンの意見だが、今回の新ヒロインの誕生は遅きに失したのかもしれない。
 石田えりの降板とは別に、やはり3クール目中盤くらいにはもうユリアンを登場させて、児童ドラマを展開しつつも、第3クール終盤〜第4クールでは、それこそ『A』の北斗と南の合体変身ならぬ、矢的と涼子の「ダブル変身」をたびたび披露するようなイベント編を配置していたならば、少々の視聴率の回復も期待できただろう…… などといった妄想をしたりもする。


 もちろん、本作『80』が『(新)仮面ライダー』のように、月に1回は先輩ウルトラ兄弟が客演したり、ウルトラサインで呼ばれて宇宙の小惑星上などで30分まるまるの仮面劇でウルトラ兄弟たちと怪獣軍団が戦ったり、シリーズの折り返し地点や最終章ではウルトラ兄弟が全員勢ぞろいをするような作品だったら、それに越したことはなかったのだけど!(笑)



ウルトラの母のほかにも、女性のウルトラ族を出してえ! 内山先生、おねがい!」(愛知県・IKさん)

(『コロコロコミック特別増刊号 ウルトラマンPART1』(小学館・78年7月24日発行・6月24日実売・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210110/p1)『コロコロウルトラファンプラザ』(読者投稿欄))



 男児向けのコンテンツとしては、このような女子児童の願いを仮に主軸として女性ウルトラマンを主人公にしてしまったならば、男児たちは気恥ずかしを感じて視聴しなくなってしまうだろうから、そこまでは必要はなかっただろう。しかしサブ要素としては、そのような要素を包含してみせるような度量が、円谷プロやTBS側にはほしかったところでもあった。



 ちなみに本話の脚本は、当時は『仮面ライダースーパー1』のメインライターも務めていた江連卓(えづれ・たかし)が、水沢又三郎のペンネームで執筆している。


 『バトルフィーバーJ』第16話『格闘技! 闇の女王』、『(新)仮面ライダー』の最終章3部作、『仮面ライダースーパー1』第22話『怪人墓場の決闘! メガール将軍の最期(さいご)』といった、ゲストヒロインが劇的に死ぬパターンが多い印象がある氏の起用は功を奏したようだ。


 少なくとも城野エミの最期は、MAC隊員たちや百子・猛・カオルのような報われない「犬死に」ではなかった。城野エミが主人公・矢的猛の盾となって命を落とすという見事な死にざまを視聴者に見せつけたのである。


 しかもそれが、ユリアン自らの行動が招いたことであるという負い目と、矢的の正体がウルトラマンエイティであることを知ってしまった城野エミから直々に地球の防衛という重たい使命のバトンタッチを受けるという描写、このふたつが実に的確に組み込まれてもおり、ユリアンがこの地球にとどまってUGM隊員として参画し続けるという強い動機付けに昇華できたことこそが、ユリアンというキャラクターを視聴者に強く印象づけることに成功したことも事実なのだ。


 云うならば、石田えりの降板なくして、当時の円谷プロの発想だけではユリアンは誕生しなかったわけであり、その意味では『80』は決して運に恵まれないばかりの作品ではなかったのかもしれない。



<こだわりコーナー>


*城野エミ隊員を演じた石田えりは、60年11月9日生まれ。『スターチャレンジ』(76年・NET)のアシスタントで芸能界デビューして以降、その後の幅広い活躍についてはキリがないのでここでは割愛。
 ネット版百科事典「ウィキペディア」によれば、『80』を降板したのは「ウルトラシリーズに出演する女優は大成しない」というジンクスを懸念(けねん)した事務所の方針だったとされているのが、なんとも引っかかる。2010年の『80』放映30周年記念のイベントやDVD−BOX(ASIN:B003E3X5OIASIN:B003E4AZI6)などにも、出演やコメントなどが一切ない。『タロウ』で東光太郎を演じた篠田三郎とはまた異なる心境なのだろうが、せめて『ウルトラ情報局』の『80』最後の号にでも出演してはもらえないものであろうか?……


*星涼子=ユリアンを演じた萩原佐代子(はぎわら・さよこ)は、62年12月1日生まれ。日大鶴ヶ丘高校在学中の80年、カネボウ化粧品の夏のキャンペーンガール『レディ’80(エイティ)』に選ばれ(まさに『80』に出るべくしてデビューしたのだ!)、さらにモデルと並行して『俺んちものがたり!』(80年・TBS)で女優デビューを果たしている。
 『80』終了後は、東映スーパー戦隊シリーズ科学戦隊ダイナマン』(83年・テレビ朝日)で立花レイ(たちばな・れい)=ダイナピンクを演じて、さらに同じく戦隊シリーズの『超新星フラッシュマン』(86年・テレビ朝日)では敵幹部のレー・ネフェル役でレギュラー出演していた。『ダイナマン』出演時に『80』でもお世話になった東絛昭平(とうじょう・しょうへい)監督に「バカ!」と云われた際に、彼女はおもわず「私、バカじゃありません!」と云い返したらしく(笑)、のちに「俺に云い返してきたのは、おまえが初めてだったよ」と云われたとか。その後の『フラッシュマン』では東絛監督は一転して「佐代子〜」などと親しげに声をかけてきたそうだが、萩原はそれを聞き、おもわずあとずさりをしたそうだ(爆)。
 なお、エイティ客演編である『ウルトラマンメビウス』第41話『思い出の先生』放映直後、彼女は「涼子=ユリアン役で出たい」と自身のブログで発言していた(おそらくその時期にはもう最終回まで撮影は完了していたであろうが・汗)。ちなみに、彼女が2010年現在、所属する事務所は「オフィスユリアン」である(自身の電話番号しかないような個人事務所なのだろうと思われるが・笑)。まさに石田えりとは対照的である……


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2011年冬号』(2011年2月6日発行)〜『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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ウルトラの星から飛んで来た女戦士

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ウルトラマン80/ユリアンPhoto アクリルキーホルダー
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ウルトラマン80 42話「さすが! 観音さまは強かった!」 ~神仏の助力も快感! 児童編終了

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『ウルトラマン80』全話評 〜全記事見出し一覧


第42話『さすが! 観音さまは強かった!』 ~神仏の助力も快感! 児童編終了

ムチ腕怪獣ズラスイマー登場

(作・石堂淑朗 監督・東條昭平 特撮監督・佐川和夫 放映日・81年1月28日)
(視聴率:関東8.6% 中部12.0% 関西12.5%)
(文・久保達也)
(2010年11月執筆)


 江戸時代に地震で埋もれた千両箱を入手しようとする二人連れが、特定した場所にそびえる観音像もろともダイナマイトで爆破したところ、封印されていたムチ腕怪獣ズラスイマーが出現、苦戦したエイティは観音さまの力を借りてズラスイマーを再び封印する。


 たったこれだけの話である。正直、ドラマらしいドラマもテーマらしいテーマもほとんどない。第1期ウルトラシリーズ至上主義者の特撮マニアであれば目もくれない話であろう(笑)。しかしながら、あまたの変身ヒーロー作品の大半の話は「たったそれだけの話」をいかに魅力的な特撮演出&アクション演出で視聴者を引きつけるかを命題にしているのだ。なにも「ウルトラマン」をただのアクションだけではなく、人間ドラマや社会派テーマもあるのだ! とばかりに特別視する必要はないのである。


 ナレーションで説明される「人相の悪い二人連れ」(笑)である武田と大林がねらうのは、江戸時代の大泥棒・浜野真砂衛門(はまの・まさごえもん)が逃走中に栃木県の大谷町(おおやまち)で穴に投げこんだとされる千両箱である。真砂衛門もセリフのみでの説明だけではなく、往時の劇中内史実が映像化までされている!
 彼は真砂衛門という名が示している通り、モデルになったと思われる戦国時代末期の豊臣秀吉の時代の大泥棒・石川五右衛門(いしかわ・ごえもん)そのままの風体(ふうてい)で描かれている(国民的テレビアニメ『ルパン三世』(71年~)のレギュラー・石川五右衛門の方の風体じゃないよ・笑)。その着物はラメが入った銀地に黒のストライプという、泥棒にしては実に派手な衣装(背中にも赤い文字で何やら書かれている)。ナイトシーンに映(は)えるためなのだろうけど。


 「御用だ! 御用だ!」なんて捕物(とりもの)のあと、真砂衛門は大谷町で採掘される大谷石を膝の上に積み重ねられるという過酷な取り調べを受けるのだが、そのとき巨大な地震が発生! 幕末の1855年(安政2年)10月2日、関東地方を襲った「安政の大地震」のために、真砂衛門が穴に投げこんだ千両箱は地底深く埋もれてしまったのだという。
 こうした実際の史実を大胆に組みこんだ虚実ない混ぜの世界観こそ、かつて講談社少年マガジン』巻頭のカラーグラビアにおいて、故・大伴昌司(おおとも・しょうじ)が展開した「疑似科学」的な手法とイコールではないにせよ、「疑似科学」を「伝奇」寄りにしたかたちで通底するものでもあり、少年たちのジャンク知識収集癖をときめかす手法だろう。


 その「安政の大地震」の特撮場面はオープンセットに組まれた、見上げるような巨大な岩山が切り崩されて、植えられた樹木も抜けて、バサバサと落ちていく! 大谷石(おおやいしき)のミニチュアが積まれた地面が陥没する一連のシーンなど、迫力満点の本物にしか見えないような巨大感あふれる見事な特撮映像に仕上がっている!
 セリフやナレーションのみで終わらせずに、導入部できちんと手間暇もかかりそうなオープン撮影による本格的な特撮映像で、その場面をも映像的な「見せ場」として「ツカミ」にもしていることは敬服に値する。「特撮」ジャンル作品の本質とはこういった感慨をもよおすモノなのだ!


 本話の主題となる巨大観音が大谷町に実際にそびえる実在の平和観音像であることも、「安政の大地震」同様に今回のストーリーが「SF」や「超科学」寄りではなく、我々の所帯じみた「現実」世界の方に寄った作風であることを念押ししてくれている。
 この手の「伝奇」的なストーリーだと、東京近郊やタイアップの遠方ロケ以外の場合は、「架空の田舎」の土地が設定されることが多い。逆に云うと、「架空の田舎」を舞台としておいた方が、ストーリーが突飛に飛躍してもこの手の「怪獣番組」としては良い意味でムリが感じられる度合いが減ってくる。むしろ下手に実在の現実的な場所を舞台にしてしまうと、仮にストーリーがまったくの同一であっても民話的・伝奇的なテイストは醸(かも)しづらくなったりすることもあるものなのだ。今回はそんな観点からも本話を検証していこう。



 映像面では今回の主眼となる実物の平和観音像を終止ロング(引き)で撮らえて、その手前で武田や大林、ゲスト主役の岩水信夫(いわみず・のぶお)少年を演技させることで、この観音像の巨大感が的確に表現されている。


 今回のゲスト主役の名前は毎日、観音像に「願掛け」をするような信心深い少年だから、「信仰」の「信」の1字を取ってきての「信夫」なのだろう。ちなみに、前回の第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110205/p1)のゲスト主役が「ゼロ戦おたく少年」、つまり「戦闘機」ネタだったから「武夫」なのだろう(笑)。安直ではあるのだが、名は体(てい)を現わすのでもある(笑)。


信夫「観音さま、ぼくは倉田まり子ちゃんと結婚したいのです」


 ランドセル(なにやらステッカーらしきものが貼られている・笑)を背負う小学生ながら、信夫はアイドル歌手の倉田まり子の大ファンであり、彼女との結婚を果たせるよう、観音さまに毎日ひたすら願い続けていたのである(笑)。
 私事で恐縮だが、筆者も小学4年生のころ、当時『木綿のハンカチーフ』や『九月の雨』をヒットさせていた歌手の太田裕美(おおた・ひろみ)と結婚したいと思っていたが(汗)、そういう高望みばかりしているから、いまだに独身だったりするのだ(爆)。ちなみに若い人は知らないだろうが、倉田まり子は当時の相応に人気もあった実在のアイドルである。「安政の大地震」に大谷町の「平和観音」に「倉田まり子」と、ここまで現実世界の事物が登場するエピソードも珍しい。


 倉田まり子が微笑むポスターの前には、ミニチュアの白い観音像が飾られているほどに信心深くもあった信夫であったが、就寝している彼の耳にお経(きょう)を唱えるような声が聞こえてくる…… 同じく石堂大先生の作品である『ウルトラマンタロウ』(73年)第14話『タロウの首がすっ飛んだ!』を思わせる演出だが――89年の幼女連続殺人事件であるM君事件の影響でタイトルが問題視されたのか、90年のTBS土曜早朝6時の再放送ではこの回が飛ばされたことがある――、岩水家の飼い猫なのか階段の途中でたたずむ猫が経の合間に鳴き声をあげるのも実にいい雰囲気を醸し出している。


 信夫は観音さまの夢を見ていた(そういえば、前話に登場した武夫も「ブルンブルン」というゼロ戦のプロペラ音を寝言にしていた・笑)。そのイメージは赤い背景の前で、ミニチュアで再現された観音像が信夫になにやら訴えかけているというものであった。おもわず観音像のもとへと走る信夫。
 この場面、ミニチュアの平和観音の足元に信夫を合成している。ロケで済ませられそうなものなのだが、ナイトシーンのために子役を深夜に労働させられない労働基準法かライティング(照明)などの問題からのやむなくの処理であったのだろうか? しかし、観音像のミニチュアの出来のよさもあり、これも夢の中としての映像の差別化としては味わい深い演出である。


 千両箱のありかを調査し続ける武田と大林。カラスの鳴き声が響き渡る荒涼とした石切場で、たき火をしてインスタントラーメンを食べていた。前話では当時の大流行替え歌「♪カ〜ラ〜ス〜~、なぜ鳴くの〜~、カラスの勝手でしょ〜~~」が歌われていたが(笑)、こんな殺風景な場所で、実在するかどうかもわからない千両箱を捜し続ける武田と大林の侘しさと滑稽さを強調するのに、カラスの鳴き声の使用はお約束でも実に効果的である。


大林「あ〜あ、体じゅうインスタントラーメンでいっぱいだ……」
武田「うるせえっ! そのうちビフテキでいっぱいにしてやる!」


 その会話に続いて、岩水家の食卓に大谷町名物の「山菜丼(さんさいどんぶり)」と「かんぴょう汁」があがるという演出が、武田と大林の粗末な食事風景とはあまりにも対照的であることを、視聴者に対比することもねらっていて、おもわず吹いてしまう(笑)。


 ちなみに、武田と大林が信夫少年と出会う場面ではふたりはみかんを食べており(ホントにまともな食事をしていない・笑)、武田がみかんの皮を地面に捨てたことで、


「おじさん、公衆道徳、守らなきゃダメじゃないか!」


 と信夫に注意されてしまう。そうそう、その通りだ!(笑)


 ちなみに、今回はやたらと食事をする場面が多い。前回の第41話でも本作の防衛組織・UGMの作戦室で、一同がお菓子を食べながらゲストである武夫少年のことを話題にしていた。
 今や絶滅寸前でも1970年代には隆盛を極めていた大家族を描いたホームドラマで、視聴者が最も好んで見るのは食事の場面であるという分析があった。食事それ自体がどうということはない。しかし、食事や軽食をしながらの会話とは、家族やメンバー間での緊張緩和や友好、彼らもまた浮世離れした大所高所からの頭デッカチでキレイごとの歯の浮くような理念で生きているのではなく、生きて生活して食べているナマ身の人間であることを示すものでもある。


 近年では、『仮面ライダーアギト』(01年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011108/p1)で主人公青年の寄宿先である美杉(みすぎ)家の描写が、90年代中盤の『新世紀エヴァンゲリオン』(95年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220306/p1)以降、「精神世界」的な心情・心象描写などで「抽象的」「思弁的」になりがちだったジャンル作品の中では、そのアンチテーゼとして「日常」や「食」などの地に足が着いた「生活」の重要性をも強調するものであって、フィクションなりにナマっぽい「人間」を描くためにも、リビングルームでの食事風景が多用されていたことが、特撮マニアにはともかく各界の深読み指向のドラマオタク・評論オタクたちからは好意的に評価もされていた。


 1970年代のインテリたちは、このようなホームドラマを「飯食いドラマ」という語句で揶揄(やゆ)していたものだ。しかし、日本の大家族が少数派となったことで「飯食い」シーンが減少して久しくなってくると、そこに無意識に込められていたシーンの意味合いに後年になって気づくこともあるものだ。


 今回のように「SF性」や「活劇性」よりも「伝奇性」を重視したエピソードの場合には、市井(しせい)の庶民ゲストや所帯じみた「飯食い」シーンなど、地に足を着けている描写が存在した方が効果的な場合もあるのだ――逆に云うなら、「SF性」や「活劇性」の方を重視したいエピソードの場合には、本話のような庶民ゲストなどは割愛した方がよいのだが・笑――。


 大谷町の地磁気の乱れを感知したUGMは、イトウチーフ(副隊長)と主人公・矢的猛(やまと・たけし)隊員を現地に派遣。ふたりは岩水家に泊まりこんで調査をすることになった。


矢的「大谷石っていうのは大むかしの火山の爆発で、その灰が何千万年もしているうちに固まってできたものでしょ? そういう灰がどうして地磁気の変化と関係あるのかわかんないんですよ。地磁気は少なくとも金属と関係なくっちゃね」


 今回は「伝奇的」な神懸(かみがか)った話である一方、その正反対の要素でもある「疑似科学性」をも並列させようとしていて好感を持つ。しかし、そんな話を聞かされていたイトウチーフは、同じく石堂脚本回である第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)でも「逆転現象」(蜃気楼の一種)を知らなかったほどの体育会系としてのキャラ付けなので、寝床で大きなイビキを立てて寝てしまう(笑)。やはり石堂脚本回ではイトウチーフが緩衝材として「ボケ」役に割り振ることが徹底されている。


 そんなイトウチーフにあきれた矢的は自分も眠りにつくが、そこで不思議な夢を見る。なんと平和観音が目から涙を流して、矢的になにかを訴えかけているのだ!
 欧米でも聖母マリア像がその目から涙を流して、キリスト教の宗派・カトリックの総本山であるバチカンが「警告としての奇跡だ!」と認定する例が多々ある(汗)。そこからインスパイアされたストーリー展開でもあろのだろう。


 そして、このミニチュアの観音の目の部分から水滴がしたたり落ちてくる仕掛けもスゴいが、観音の顔の左半分に緑色の照明が照らされているのも神々(こうごう)しさと不気味さの両方を兼ね備えており、深みを増している。


 夢から醒(さ)めた矢的は信夫もまた同じ夢を見ていたことを知る。つまり、これは単なる幻覚といった夢ではなく、本話においては観音像が意識を持っている、もしくは天上界に観音さまが実在しており(!)、神通力でこのふたりに本当に通信してきたことになるのだ!


 このふたりは平和観音の様子を見に行った。夜空にそびえるミニチュア観音の足元に矢的と信夫が合成された特撮カットが目を引く。正体は宇宙人・ウルトラマンエイティでもある矢的隊員はその超能力・ウルトラアイで平和観音を透視するや、武田と大林がダイナマイトを仕掛ける様子が観音像の足元に合成される特撮描写も映像的な見どころである。


――この透視場面では、『ウルトラセブン』(67年)のセブンこと主人公モロボシ・ダンがする透視場面のように、両目に小さな星がキラキラと光る描写を踏襲している。ちなみに、製作第2話『緑の恐怖』の透視場面では、ダンの白目の部分が発光して瞳が猫の目のように常時青く光るという演出であった。しかし、円谷プロの創設者・円谷英二つぶらや・えいじ)御大が「それではやや気持ち悪い。子供向け番組なのだから少しでも爽やかにするように……(大意)」といったアドバイスで、以降は透視場面の特撮表現が変更されたとの逸話が、70年代末期の草創期の特撮マニア向け書籍で公表されており、そういった再発見的な記述を改めて意識した特撮表現なのだとも思われるのだが――


 遂にダイナマイトが爆発!! 轟音(ごうおん)とともに平和観音像は大地に倒れ伏してしまった!!


 そしてその跡地の底から、観音像の神通力パワーで封印されていたとおぼしきムチ腕怪獣ズラスイマーが軽快にジャンプ(!)して地上に出現する!



「やがて怪獣デザインの募集が行われました。募集告知は番組の予告編後に、青地に白文字で宛先を表示とアナウンスという地味なものでした。「これだ」と思ったと共に、怪獣好きの自分に対する、あるひと区切りだなと思い、ハガキに30〜40の怪獣の絵を描きなぐっては次々送りました。デザインに関して苦労というのはなくて、ペンを走らせれば自然に怪獣の絵になっていくのです。子供の頃から刷りこまれたものなのでしょう。募集告知期間は1〜2ヶ月くらいだったと思います。
 当選の知らせはある夕方、再放送の『ミラーマン』(71年・円谷プロ フジテレビ)を観ているときでした。プロデューサー・満田かずほさんから直々(じきじき)にお電話を頂き、「今日の『80』の放送で発表がある」とのお言葉を頂戴しました。ウルトラマンのデータベースなどを見れば、必ずその名前を見ることができる、あの満田監督から! 本当に驚きました。なんか嬉し恥ずかしかったことを憶えています。
 実際に着ぐるみとなり、登場したズラスイマーは正直滑稽(こっけい)な印象を覚えました。視聴者でもある僕に気を使ってもらったのか、凄く間抜けなフレンドリーな怪獣で、最後も殺されずに地底に帰っていきました。初代ゴジラの恐怖感が好きだった僕としては、正直少し物足りなかったですが……でも自分が考えたものが実際にウルトラマンと戦った、というのは凄く嬉しかったです。製作に関わって頂いたスタッフの方々のことを考えると、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
 ズラスイマーという名前ですが、これは意味は後づけで、〈ズラ〉は「〜ズラ」という聞いたことのあるどこかの方言、それと〈水魔〉を合わせたものです。実際には地底怪獣として登場しましたが……。今パソコンで検索してみると「変な名前の怪獣」ランキングに入ってたりして、複雑な気分です。
 賞品は宇宙船(スペースマミー)の超合金と子供用ウルトラマン自転車(引用者注・自転車やバイク製造で有名なミヤタ製の子供向け自転車)。さすがに自転車には困りました。当時既に中学ですからね。記念に宇宙船もらえたらラッキーぐらいに思っていたもので……自転車はずっと物置に保管してました」

タツミムック『検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版 06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124)「怪獣デザイン募集を振り返って」新保知健)


(引用者註・引用文中のブランド名「超合金」は、正確には玩具会社・ポピー(現・バンダイ)の人型ロボット玩具専用のブランドであり、同じく合金製のマシンやメカ玩具専用ブランドであった「ポピニカ」が正解。ただし、当時の合金製玩具に同封されていた超横長で帯状のカラー印刷であるミニカタログでは裏表でこの両者が紹介されており、玩具屋でも隣接して陳列されていた。証言者もそれを充分にわかっていて世間一般に通りがよい方の「超合金」名義であえて語っているのだろう。だからそれをヒステリックに「間違っている!」とガナるような、人間・人物としての器量が小さくなる方向性でのツマラないツッコミを入れてはイケませんよ・笑)



 ズラスイマーは80年9月に番組内で募集した「あなたの考えた怪獣の絵」の最優秀作品を元にデザインされたものである。ちなみに筆者の弟も当時応募していた(笑)。


――編集者付記:9月ではなく8月中下旬からの募集であったと編集者個人は記憶している。私事で恐縮だが、当時まだ小学生であった編集者もまた夏休み中にデザインして応募した。超獣ブロッケン(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060611/p1)や超獣ジャンボキング(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)のような人間ふたりが着ぐるみで中に入るスタイルで、歴代怪獣たちが合体した存在であり、別名も「合体怪獣」ではなく『ウルトラマンエース』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070430/p1)の怪獣たちの総称である「超獣」にあやかって「合体超獣」と名付けていた(笑)。この当時、すでに草創期マニア向け書籍で「超獣」には「派手なだけだ」との否定的な評価をくだす風潮が特撮マニア間でははじまってはいたけれど、当時の大方の児童たちには「超獣」は特別な存在として映っていたことの傍証としてほしい――


 原案の新保氏によれば〈水魔〉のイメージだったそうだが、実際には、


●顔がキツネ――『ウルトラマンタロウ』第15話『青い狐火(きつねび)の少女』に登場した狐火怪獣ミエゴンくらいのもので、昔話や童話では悪役として登場することが多いものの、意外に怪獣・怪人のモチーフにされることが少ない動物である――
●背中がハリネズミ
●左腕のムチがムカデ
●頭部の触角がヘビ


 といった、むしろ地上の動物の合成怪獣といった趣(おもむき)の派手なデザインに仕上がっている。背中全体やムチに生えるトゲのケバケバしさや、全身濃い青に赤い腹、ムチのトゲのオレンジといった派手なカラーリング部分は、『ウルトラマンA(エース)』(72年)に登場した超獣たちを彷彿(ほうふつ)とさせるし、全身のシルエットや配色は『ウルトラマンタロウ』第1話『ウルトラの母は太陽のように』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)に登場した宇宙大怪獣アストロモンスのような趣も感じられなくもない。



 ちなみに、ズラスイマー出現からエイティとの戦いを見守っていた地元の古老は、


「エイティもダメじゃろう。魔物を退治できるのは、神か仏のお力だけじゃ!」


 と語っており、「水魔」ではないものの「魔物」としての威容は充分に達成されている。新保氏のイメージを見事に具現化した魅力的な造形であるかと思える。


 なお、鳴き声は初代『ウルトラマン』(66年)第11話『宇宙から来た暴れん坊』に登場した脳波怪獣ギャンゴや、同作の第22話『地上破壊工作』に登場した地底怪獣テレスドンなどに使用された定番のものを流用している。


 地上に出現したズラスイマーは石切場に積まれた大谷石に蹴りを入れるが、あまりの堅さに悲鳴をあげ、さらにはずみで宙に飛んだ石が頭にブチ当たって七転八倒。遂に石堂先生は怪獣までをもボケさせた(笑)。ただ、ムキになってズラスイマーが両腕で大谷石をひっかき回した際に、白い粉塵(ふんじん)が巻き上がる描写はリアリティがある。


 怪獣出現をキャッチしたUGMは現地に出動! なんと今回はオオヤマキャップ(隊長)自らがUGM戦闘機・スカイハイヤーに搭乗! フジモリ・イケダ両隊員は戦闘機シルバーガルで急行する!


 そういえば、第39話『ボクは怪獣だ~い』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110122/p1)・第40話『山からすもう小僧がやって来た』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110129/p1)・第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』では、UGMの戦闘メカが活躍する場面すら描かれてはいなかった。そのような描写を3話も続けていたらやっぱりダメでしょう(笑)。


フジモリ「キャップ、久しぶりの出動、操縦の方は大丈夫ですか?」


オオヤマ「バカにするな」


 だが、フジモリが心配した通り、オオヤマがふと気づいたときには眼前に岩山が!


 やはり本話にかぎらず石堂脚本回では、オオヤマキャップまで今回もボケ役を兼任させている(笑)。しかし、それでもオオヤマもまた完璧ではない人格としての人間味といった感じにはなっているし、それでいてカッコよくもあるのだ!


 スカイハイヤーの操縦席からの山が迫ってくる主観カット! そして、山の手前で急上昇を遂げるスカイハイヤーの操演! この時期になると特撮班や操演班のテクニックも円熟の域に達している。


オオヤマ「フジモリ、火炎発射!」
フジモリ「了解!」


 ズラスイマーに火炎を浴びせるシルバーガル! と云いたいところなのだが、実はこの場面でシルバーガルの機体下部から放射されているのは、火炎というよりバチバチとした花火みたいなものなのである。特撮撮影現場で火炎放射器の準備が間に合わなかったのだろうか?


 『ウルトラマンA』第18話『鳩を返せ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060907/p1)で、異次元人ヤプールが大鳩超獣ブラックピジョンに対して、


「光線だ! 光線を吐くんだぁ〜!」


 と命じたにもかかわらず、なぜかブラックピジョンが口から火炎を吐いてしまったシーンを思わせるが(笑)、アフレコの際などに「火炎発射」を別の攻撃名に変えることで辻褄を合わせるような融通無碍(ゆうづうむげ)さに欠けるのが、この時代のジャンル作品の欠点ではあるのだろう。まぁ、同じく『ウルトラマンA』第13話『死刑! ウルトラ5兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060803/p1)では特撮現場で勝手に降らせた豪雨を、アフレコ時に局所的な「放射能の雨」にしたような例もあるのだが、それはあくまでも例外的な処置なのだ(汗)。


 ズラスイマーは火山の中でも生きていられるほど熱に強いという設定である。花火攻撃(笑)ではどうにもならず、今度はスカイハイヤーから大量の水が放射される!(機体下部からスプリンクラーが飛び出す!) この場面、ズラスイマーの身体からはもとより、なんと水が落ちた大地からも大量の水蒸気が立ち昇るという芸コマな特撮演出がなされており、ズラスイマーがいかに体内に熱を帯びているかが絶妙に表現されている!


 怒ったズラスイマーによってシルバーガルは撃墜!


 地上で見守っていた矢的は、ウルトラマンエイティに変身する!


 エイティは右足で、そして左足でズラスイマーの赤い腹に連続キック!


 さらにジャンプするや、両足でズラスイマーの首をはさみこんで大地にたたきつける!


 倒れたズラスイマーがお約束で、フィルムの逆回転で起き上がる!


 エイティはズラスイマーに足払いをかけて大地にたたき伏せ、前転してズラスイマーの背に乗っかり、右手、そして左手で連続チョップ!


 さらに、ズラスイマーの首をつかんで大地にたたきつけて、チョップの連打!


 カメラは終始低い位置から引きぎみに撮られ、手前に植えられた樹木、石切場の重機などのミニチュアが配置されているのも臨場感満点。そればかりか、なんと石切場の小屋の中からの主観で両者の激闘を撮らえているという、驚くべき特撮カットまである。


 ズラスイマーは左腕のムカデ状のムチでエイティの首を締めて振り回して、さらにはエイティを宙にブン投げる!


 さらにエイティをはがい締め! 活動限界が迫ってきたことを示すエイティの胸中央にあるカラータイマーが点滅をはじめる!


 見守っていたイトウチーフや信夫をはじめとする住民たちに、平和観音の力を借りるように示唆(しさ)されたエイティは、ズラスイマーのムチを振りほどいて側転して平和観音のもとに向かおうとするが、ズラスイマーはそうはさせじとエイティの胴体をムチでからめとった!


 この場面、


●エイティとズラスイマーの足元のアップ
●見守る住民たちの目線で撮らえたかのような、倒れた平和観音の顔を手前に配置した両者の激闘
●ズラスイマーの目線で撮らえたかのような、ムチで縛りあげられながらも必死に観音像に向かうエイティの背面
●左腕のムチを前に突き出したズラスイマーの上半身のアップ


 といったカットを数回ずつ交錯させるといった、実に凝(こ)った演出をしており、緊迫感もおおいに盛り上がる!


 全身から緑色の電撃をズラスイマーに向かって迸(ほとばし)らせ、遂にムチから解放されたエイティは倒れていた観音像を起き上がらせる!


 そして、観音像からまばゆいばかりの柔らかい優しい黄色い後光がズラスイマーに向けて放たれた!!


 これは、観音像それ自体というよりも、観音像を通じて天上世界の観音さまから善なるエネルギーが照射された! もしくは、観音像に蓄積されてきた庶民の善なる信仰エネルギーがここぞとばかりに放出された! あるいは、その両者の混交であった! と解釈できるものだろう。


 ズラスイマーの全身が青い渦に覆われる! その周囲ではズラスイマーが昇天していくのを表現するかのように青い星が舞っている! こうしたやや漫画チックな光学合成は昭和ウルトラでは珍しいものだろう。


 その姿が地面の底に封印されて消滅するや、天空から白・黄・ピンクといった美しい菊の花が舞い散ってきた! エイティは粋(いき)な計らいでそれを台座にして平和観音を鎮座させて、空の彼方に飛び去っていった……



 ズラスイマーも、千両箱をねらうゲスト小悪党である武田と大林が平和観音のことすら顧(かえり)みずにダイナマイトを爆発させなければ封印が解かれることもなかった怪獣である。「怪獣も結局は人間が呼び出したものである」という石堂先生のスタンスは、やや変化球ながらもここでも貫かれていたとコジツケることができるかもしれない。ただまぁ、武田と大林の小悪党のメンタリティや善悪双方で揺れる彼らの心などが本話のメインテーマではないけれど(笑)。


 本話はむしろ、人々の信仰を集める平和観音像が、怪獣を撃退・封印するほどの超越的な神通力パワーを発揮して、ウルトラマンの必殺光線よりも有効であったことを示してみせる、神仏によるヒロイズム的な快感をヤマ場・クライマックスとすることが、石堂先生の今回の作劇意図だろう。


 石堂先生が意識して参照したかは別として、このエピソードに第1期ウルトラシリーズのアンチテーゼ編を多く手掛けてきた実相寺昭雄監督による、第2期ウルトラシリーズ作品である『ウルトラマンタロウ』のNG脚本『怪獣無常! 昇る朝日に跪(ひざまず)く』を思い出したロートル特撮マニアは多かったことだろう。
 苦戦するウルトラマンタロウに大仏像がなぜだか立ち上がって加勢して、怪獣を海へと引きずって去っていくというストーリーである。特撮雑誌『宇宙船』のプロトタイプとなった『月刊マンガ少年別冊 すばらしき特撮映像の世界』(朝日ソノラマ・79年4月発行)でアメコミ調のスタイリッシュな画調で有名であった漫画家・板橋しゅうほう氏によるコミカライズが掲載されたことで、年長の特撮マニアや当時の子供たちには知られていた作品である。


 巨人の宇宙人であるウルトラ兄弟たちも強いけど、民話や神話に登場する神仏・妖怪・霊的な存在も、ウルトラの世界では実在している。そして、時に巨大怪獣化もして、神仏やお地蔵さま(!)まで神通力なども発揮してくれる!


 地球の「地底」にもキングボックルやギロン人やアングラモンなどのあまたの地底人種族がいる。「海底」には海底原人ラゴンや地球の先住民・ノンマルトも住んでいる。


 「インド出自の仏教の天上界」と「中国出自の道教の天上界」といった神仏習合な「ふたつの天上界」が併存しており、「地上世界」には四大大陸があって、「海底世界」にも竜宮城の世界がある…… そんな『西遊記』の本来の原典作品にも通じるところがある。


 単なるヒーローVS怪獣バトルだけではない、広大な仮想の「世界観」に対するワクワク感の惹起もまた、ウルトラシリーズ独特の魅力であるのだと強く主張をしておきたい。


 「宇宙人」「霊能力」「超能力」「4次元」といった超常的なものすべてを信じたい! といったメンタルを持っているのが大方の子供たちである(笑)。妖怪・妖精・精霊・霊魂・死後の世界・神仏たちをも、ウルトラマンや巨大怪獣ともイーブンな半ば実在する万物有魂のアニミズム的な世界観としているウルトラシリーズとは、ある意味では現代版の『西遊記』でもあるのだろう。


 神仏が仮に実在するのならば、それはショボい存在などではなく、どうせならば同じく善なる存在でもあるウルトラマンたちを、その超常的な神通力・奇跡の力で時には助けてあげてほしい! あるいは、天上世界にいるのならば、ウルトラマンよりも上位の存在ではなかろうか!? そんな人々の潜在意識下にあるような原初的な「かくあってほしい!」といった神頼み的な願望を見事に救い上げて、しかもそこにカタルシスを与えてみせているのが、本話や先にも挙げた『怪獣無常! 昇る朝日に跪く』や『タロウの首がすっ飛んだ!』といった作品群なのだ。


 昭和ウルトラ怪獣には純粋な「生物」「動物」とは云いがたい、


●伝説怪獣ウー
●伝説怪人ナマハゲ
●邪神カイマ(邪神超獣カイマンダ)
●閻魔怪獣エンマーゴ
●臼怪獣モチロン
●三つ首怪獣ファイヤードラコ
●相撲怪獣ジヒビキラン
●マラソン怪獣イダテンラン


 といった、スピリチュアルな「妖怪」や「精霊」や「低級神」が、巨大化・実体化・物質化したような怪獣たちも多数登場してきた。広い意味では、


●怪獣酋長ジェロニモン
●地球先住民ノンマルトの使者である真市(しんいち)少年の霊(!)
●水牛怪獣オクスター
●牛神男(うしがみおとこ)
●天女アプラサ
●獅子舞超獣シシゴラン
●白い花の精


 庶民の信仰エネルギーで付喪神(つくもがみ)と化したのか、神仏が天上世界からチャネル(霊界通信)してきたのか、その両方・双方向からのものなのか、劇中で斬首されたウルトラマンタロウのナマ首を、読経が鳴り響く中でその神通力で元に戻してしまったお地蔵様(!)や、今回の巨大観音像などもコレらのカテゴリーに当てはまることだろう。


 70年代末期~90年前後のオタク第1世代によるSF至上主義の特撮論壇では、「SF」ならぬ「民話」的なエピソードや怪獣たちは否定的に扱われてきたものだ。しかし、実は怪獣のみならず宇宙人から怨霊・地霊・妖怪までもが実在している存在として扱われている、


 大宇宙 → ワールドワイドな世界各地 → ローカルな田舎


 までもが、串刺しに貫かれて同一世界での出来事だとされており(笑)、万物有魂のアニミズム的にすべての事象が全肯定されているウルトラシリーズの世界観に、「現実世界もかくあってほしい!」的な願望やワクワク感をいだいていた御仁や子供たちも実は多かったのではなかろうか?――往時のマニアたちはまだまだボキャ貧であり、それらの感慨をうまく言語化・理論化はできなかったのであろうが――。


 しかし、1990年代中盤にテレビで平成ウルトラシリーズが始まってみれば、この超自然的な怪獣や歴史時代の人霊の系譜も引き継がれていたのだ!


●宿那鬼(すくなおに)
●妖怪オビコ
●地帝大怪獣ミズノエリュウ
●童心妖怪ヤマワラワ
●戀鬼(れんき)
●錦田小十郎景竜(にしきだ・こじゅうろう・かげかつ)


 といった怪獣や英霊がワラワラと登場してきたのだ! そして、それらのキャラクターたちに対して、特撮マニアたちが「怪獣モノとしては堕落である!」「邪道である!」などといったような糾弾を繰り広げるということもまるでない。むしろウルトラシリーズの幅の広さとして、どころか傑作エピソードとして肯定されていたりもするのだ(笑)。


――個人的には、それならば昭和ウルトラの伝奇的なエピソード群に対しても、それまでの低評価を改めて自らの過ちも贖罪して、批評的に冷静でロジカルに再評価の光を改めて当てるべきであったと思う。しかし、なかなかそこまで論理の射程を伸ばすことができるような御仁は極少だったようではある(汗)――


 本話のズラスイマー自身は、観音像とは異なり妖怪性よりも生物性が強いような怪獣だ。しかし、エイティとは派手に「ケンカ」をしてくれたことで、石堂先生が自身の手掛けた怪獣たちを称していわく「怪獣としてはダメな奴」――文句なしの倒してもよい絶対悪の怪獣ではなく、ワケありの可哀そうであったり道化的な怪獣――には終わっていなかったことも、それまでの直前4話分には欠如していた「活劇性」の強調としては幸いであった(笑)。


 今回と前回の第41話は、ウルトラシリーズにはかなり久々の登板であった東條昭平監督の凝りに凝った「本編演出」の妙にも注目するべきだろう。ちなみに東條監督のウルトラシリーズでの登板は、『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)第47話『恐怖の円盤生物シリーズ! 悪魔の星くずを集める少女』以来であった。それにしても、マイルドな『さすが! 観音さまは強かった!』とあまりにシビアな『悪魔の星くずを集める少女』ではまったく相反する両極端な演出となっている。初代『ウルトラマン』(66年)の時代から助監督として参加してきた氏は、これまであまり評価されてこなかったが、東條演出の引き出しの広さにも注目したいのだ。東條監督は以後、東映特撮に活躍の舞台を移して、『太陽戦隊サンバルカン』(81年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120206/p1)〜『超力(ちょうりき)戦隊オーレンジャー』(95年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110926/p1)までのスーパー戦隊シリーズを支え続けて、ウルトラシリーズともまたまったく異なる演出を見せていくようになる。


 余談であるが、続く第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)から登場、第49話『80最大のピンチ! 変身! 女ウルトラマン』で初変身を披露するウルトラの星の王女・ユリアンのデザインは、マニア向け書籍で紹介されてきたとおりで、奇しくも「観音さま」のイメージから採られている。



<こだわりコーナー>


*ラストシーンにのみ登場して、ファンである信夫と握手を交わして記念写真におさまる倉田まり子は、日曜午後に放映されていた『家族そろって歌合戦』(66〜80年・TBS)に出場したのを契機にスカウトされた。歌番組『レッツゴーヤング』(74〜86年・NHK)のサンデーズの一員として、78年4月からレギュラー出演。その後、79年1月に『グラジュエイション』(「卒業」の意味の英語ですネ)でレコードデビュー(作詞担当は『80』の主題歌と同じく当時のヒットメーカー・山上路夫)。芸名の倉田は、当時『レッツゴーヤング』の司会もしていた作曲家の都倉俊一(とくら・しゅんいち)から「倉」の一字をもらったものだそうだ(本名は坪田まり子(つぼた・まりこ))。
 79年8月に発売された3枚目のシングル『HOW! ワンダフル』がヒット。その年の多くの新人賞を受賞した。しかし、翌80年に田原俊彦近藤真彦松田聖子河合奈保子・柏原よしえといった、まさに80年代を代表するアイドル歌手たちが一斉にデビューしたことで、倉田にかぎらず79年デビューの新人歌手(80年代後半から90年代に若い女性層のカリスマ的存在となった竹内まりやもこの年のデビューである)の存在はたちまちかき消されてしまうこととなってしまった。世代人ならばこのへんの事情と時代の空気の急激な変化はご記憶のことだろう。78年のキャンディーズ解散、80年の山口百恵(やまぐち・ももえ)引退、81年のピンク・レディー解散と、70年代のビッグネームのアイドルたちが次々と退場。まさに80年前後は芸能シーンの急激な変わり目でもあった。よって失礼ながら、本作における倉田まり子の出演も実は当時においても、マイナーではないしにてもそこまでのビッグネームの存在ではなかったことから微妙なところもあったのだ(汗)。


 テレビドラマの出演は『80』でのゲストが初めてだが、その後は刑事ドラマ『Gメン’82』(82年・東映 TBS)第2話『アイドル歌手トリック殺人』などに出演。小学館週刊少年サンデー増刊号』で78〜80年に連載された、あだち充(みつる)原作の人気漫画『ナイン』のアニメ映画化『ナイン オリジナル版』(83年9月16日東宝系公開)では、ヒロインの野球部マネージャー・中尾百合(なかお・ゆり)の声を演じた(同作は同年5月4日にフジテレビで不定期に放映されていた日本生命提供の長時間アニメ特番枠「日生ファミリースペシャル」(79~86年)で放送された単発アニメ版に対して、声優・主題歌・BGMを一部変更したものだ)。同年12月18日にフジテレビで放映された『ナイン2 恋人宣言』でも引き続いて百合の声を担当。アニメ第1作のオープニング主題歌『LOVE・イノセント』・挿入歌『つのる思い』と『悲しみにサヨナラ』・エンディング主題歌『真夏のランナー』、劇場版オープニング主題歌『青いフォトグラフ』・挿入歌『愛を翼にして』と『涙色の季節』、『ナイン2』オープニング主題歌『恋人宣言』・挿入歌『青空気分』と『私のYoung Boy』なども、すべて倉田が歌唱していた。
 ちなみに、映画版の元となっているアニメ版第1作の百合の声はプッツン女優として知られる石原真理子。翌84年9月5日にフジテレビで放映された『ナイン 完結編』では、同年春の現・スタジオジブリ製作のアニメ映画『風の谷のナウシカ』(84年3月11日東宝系公開)の主題歌を歌唱して注目を集めて、2010年秋現在、NHK連続テレビ小説『てっぱん』にヒロイン・村上あかりの育ての母・真知子役で出演中である、この84年当時にブレイクを果たすことになった安田成美(やすだ・なるみ)が百合の声を担当していた。


 こうして各方面での活躍が期待されていたものの、85年に起きた株式不正売買事件の容疑者・投資ジャーナル社の中江滋樹(なかえ・しげき)社長の愛人であると2ショットの写真付きでマスコミに一方的に報じられたことにより、すっかりダーティなイメージが植えつけらてしまい(真相は不明)、芸能界引退を余儀なくされてしまった。だが、現在は本名の坪田まり子の名でキャリア・カウンセラーとして、大学生への就職指導や企業・自治体向けの研修ビジネスを手掛けており、各地での講演活動も行っているそうだ。2010年現在は東京学芸大学の特任准教授をも務めており、近年では「マスコミ」でも時折り話題にあがっている。


*信夫が心酔するアイドルは当初の予定では倉田まり子ではなく、テレビドラマ『3年B組金八先生』(79年)のツッパリ生徒・山田麗子役で世間の注目を集めて、80年9月に『セクシー・ナイト』でレコードデビューを果たした三原順子であったそうだ。
 これは彼女が主演していた80年11月スタートのTBSの30分尺テレビドラマ『GOGO! チアガール』(80年・東宝 TBS)が、『80』が放映されていた水曜日に『80』に続けて19時30分から放映されていたことから、相乗効果を期待したTBSからの要請であった可能性が大きいと個人的には推測している。だが、特撮雑誌『宇宙船』Vol.6(81年)での『ウルトラマン80』終了特集によれば、公演中の骨折事故で三原が出演不能となってしまったことから、やむなく倉田まり子が代役を務めることになったらしい。そういえば、第42話の予告編では倉田まり子のゲスト出演は一切報じられてはいない。サプライズ演出を目論んだものではなく、もし当初の予定通りに三原が出演していたなら、「『GOGO! チアガール』の三原順子ちゃんも出るよ〜!」などと派手に告知されたのだろうか?(笑)
 なお、三原のドラマデビューは、東映特撮版『スパイダーマン』(78年)第8話『世にも不思議な昔ばなし 呪いの猫塚』で、同作のゲスト敵怪人であるマシンベム・怪猫獣(声を担当したのは『タロウ』第46話『日本の童謡から 白い兎は悪い奴!』でわんぱく宇宙人ピッコロの声を演じた京田尚子)に襲われ、河原にただ倒れているだけの役(笑)でほんの数秒、出演したのみであった。
 翌年放映の女子バレーボールを主題とした東映のスポ根テレビドラマ『燃えろ! アタック』(79年・東映 テレビ朝日)では、白富士学園高校バレーボール部員である西井千恵子(愛称・チコ)役でレギュラー出演を果たしている(変身ヒーロー作品ばかりでなく、こうした作品もDVD化してくれるように東映ビデオにはマジで切望したい)。
 スーパー戦隊シリーズ『バトルフィーバーJ』(79年・東映 テレビ朝日http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120130/p1)第9話『氷の国の女』では主人公・伝正夫(でん・まさお)=バトルジャパンの高校時代の友人である片山の妹・光子、『金八先生』放映中にも『電子戦隊デンジマン』(80年・東映 テレビ朝日http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120205/p1)第4話『ベーダー魔城追撃』、『金八』終了直後でもうブレイクを果たしたあとの時期の放映である第21話『死神党を攻撃せよ』でも、青梅大五郎(おうめ・だいごろう)=デンジブルーが妹のように可愛がっている星野サチ子を演じている。
 そしてビッグネームのゲスト扱いで、『太陽戦隊サンバルカン』(81年・東映 テレビ朝日http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120206/p1)第36話『エスパー』~第37話『日見子よ』の前後編では、前作のデンジマンたちの母星であるデンジ星人の子孫であるシスター・北沢日見子(きたざわ・ひみこ)も演じた(サブタイトルがやたらと短いのは、新聞のラテ欄に主役たちを差し置いて「三原順子」の名前を掲載するための処置だったという・笑)。
 2010年の参議院議員選挙自由民主党から出馬して見事に当選し、宿敵・民主党から出馬した柔道の金メダリスト・谷亮子を揶揄(やゆ)して「二足のわらじを履けるほど国会議員の仕事を甘く考えてはいない」との公言通り、キッパリと芸能界を引退してしまった。


*武田を演じたのは、『帰ってきたウルトラマン』(71年)で帰ってきたウルトラマンこと新ウルトラマン(略称・新マン。84年以降の名称だとウルトラマンジャック)のスーツアクターを演じたことで、特撮マニアには広く知られるきくち英一(当初の芸名は菊池英一)である。日本大学芸術学部演劇学科在籍中に殺陣同志会に入会。卒業と同時に日大の先輩である渡辺高光(『スペクトルマン』(71年)の公害Gメン・加賀信吉役で知られる)が創設したジャパン・ファイティング・アクターズ(JFA)に参加し、テレビ・映画に多数出演することとなった。
 スーツアクターとしては、『マグマ大使』(66年・ピープロ フジテレビ)のレギュラー悪である宇宙の帝王ゴアを、大平透(おおひら・とおる。声と兼任していた)の代わりに1話分務めたことが初仕事であり、第9〜12話の怪獣フレニックス登場編に登場したルゴース2号や、戦闘員の人間モドキなども演じたほか、第37〜40話の怪獣サソギラス&グラニア登場編では、ゴアと手を組んだ地球人の悪人・シュナイダー役で顔出しで出演していた。
 『ウルトラセブン』(67年)第14~15話『ウルトラ警備隊西へ』前後編では上西弘次の代役としてウルトラセブンを演じているが、右手を拳(こぶし)に、左手を斜め平手にして構えたファイティングポーズはそのまま後年の新マンのそれである。『セブン』第27話『サイボーグ作戦』では甲冑(かっちゅう)星人ボーグ星人も演じていた。
 ほかに、『怪獣王子』(67年・ピープロ フジテレビ)序盤のレギュラー悪である鳥人司令、『魔神バンダー』(69年・ニッサンプロ フジテレビ・製作は66年)の主役・バンダー、『帰ってきたウルトラマン』の第1話『怪獣総進撃』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20230402/p1)に登場したヘドロ怪獣ザザーン、『快傑ライオン丸』(72年・ピープロ フジテレビ)に登場した暗黒魔人ギララ・ノイザー・ガンドロロ(すべて声も兼任)、『流星人間ゾーン』(73年・東宝 日本テレビ)第21話『無敵! ゴジラ大暴れ』のガロガバラン星人などでもスーツアクターを務めていた。
 渡辺高光との意見の相違からJFAを辞めてフリーとなる。直後の『電人ザボーガー』(74年・ピープロ フジテレビ)では、元JFAのメンバーを集めて殺陣グループを組んで疑斗を担当しながら、中野刑事役でレギュラー出演。この作品以降、俳優としての活動ではきくち英一を名乗ることになった。「菊池」を「菊地」とよく間違われたことや、ひらがなが入っていると出演クレジットで目立つからというのが理由だそうである。


 俳優としての出演は、『戦え! マイティジャック』(68年・円谷プロ フジテレビ)第1話『かかった罠はぶっとばせ』の敵組織パック団員、第4話『とられたものはとりかえせ』のセルジア国秘密情報部員、『スペクトルマン』第38話『スフィンクス前進せよ!!』の釣人、第62話『最後の死闘だ猿人ゴリ!!』のボクサー・ピストン木戸口のトレーナー、『ウルトラマンA』(72年)第50話『東京大混乱! 狂った信号』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070415/p1)の宇宙怪人レボール星人の人間態(作業員姿・円盤からの声も兼任)、『ワイルド7(セブン)』(72年)第19話『スポーツクラブ殺人部隊』のボディガード、第22話『奇襲! トライアル作戦』のブラックスパイダー団員、『ウルトラマンタロウ』(73年)第36話『ひきょうもの! 花嫁は泣いた』のねこ舌星人グロストに操られる作業員。
 70年代後半では、スーパー戦隊シリーズジャッカー電撃隊』(77年・東映 テレビ朝日)第14話『オールスーパーカー!! 猛烈!! 大激走!!』のクライムボス、『スパイダーマン』第30話『ガンバレ美人のおまわりさん』の村本、『バトルフィーバーJ』第36話『爆破された結婚式』の鬼塚刑事。
 80年代では、『大戦隊ゴーグルファイブ』(82年・東映 テレビ朝日)第1クールのレギュラー敵幹部・イガアナ博士、『星雲仮面マシンマン』(84年・東映 日本テレビ)第4話『魔法の石焼きイモ』のオノ男の人間態(テキ屋風の男)、メタルヒーロー『巨獣特捜ジャスピオン』(85年・東映 テレビ朝日)第25話『救え東京消失! 悪だま善だまデスマッチ』~第26話『とどろく大地! ダイレオン怒りの大逆襲』のガザミ兄、『高速戦隊ターボレンジャー』(89年・東映 テレビ朝日)第35話『愛を呼ぶ魔神剣』の刑事。
 90年代でも、メタルヒーローレスキューポリスシリーズ『特警ウインスペクター』(90年・東映 テレビ朝日)第37話『アマゾネス来襲』の平田忠雄、同じくレスキューポリスシリーズ『特捜エクシードラフト』(92年・東映 テレビ朝日)第41話『対決! ふたりの拳』の死の商人、『電光超人グリッドマン』(93年・円谷プロ TBS)第34話『ボディガード弁慶参上!』の武蔵坊弁慶、『ウルトラマンダイナ』(97年)第43話『あしなが隊長』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971207/p1)の機体整備班長ムカイ。
 21世紀でも、『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060308/p1)第3クールの準レギュラー・針巣直市(はりす・なおいち)など、氏の経歴を綴るだけでも特撮ヒーロー40年史ができてしまうほどの相当な数にのぼっており、その功績ははかり知れないものがあるのだ。
 近年では『ウルトラマンメビウス』(06年)第45話『デスレムのたくらみ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070422/p1)に「きくち電器商会」(笑)の社長役で出演。この回には新マンこと郷秀樹役で団時朗(だん・じろう)も出演し、新マン=ウルトラマンジャックの登場時、きくち社長が「ウルトラマンが帰ってきた!」とつぶやく、お約束ギャグでの歓喜の声をあげていた(笑)。


*大林を演じた鶴田忍は、『スペクトルマン』第48話『ボビーよ怪獣になるな!!』~第49話『悲しき天才怪獣ノーマン』前後編で、宇宙猿人ゴリに利用された堂本博士の手術を受けて天才となったものの、怪獣化する末路をたどった悲劇の出前持ちの青年・三吉を演じたことでも知られている。日本大学鶴ヶ丘高校時代は、『ウルトラマンメビウス』第15話『不死鳥の砦(とりで)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060924/p1)で同作のレギュラー防衛組織・クルーGUYS(ガイズ)のアライソ整備長を演じたベテラン俳優・綿引勝彦(わたびき・かつひこ)と同級生であったそうだ。劇団俳優座の第16期生であり若手俳優として活躍するが、舞台公演を巡って劇団上層部と対立。71年に中村敦夫(なかむら・あつお)・原田芳雄(はらだ・よしお)・市原悦子(いちはら・えつこ)ら(スゴいメンバーだ……)とともに俳優座を退団。『スペクトルマン』でのゲスト出演はその直後のものである。
 ジャンルファンには、その中村敦夫もレギュラー出演していたテレビ時代劇『必殺』シリーズ第7弾『必殺仕業人(しわざにん)』(76年)でのコミックリリーフのレギュラーキャラであった、軽犯罪でたびたび小伝馬町の牢屋に出たり入ったりを繰り返している「出戻りの銀次」役が印象に残っていることだろう。映画やテレビドラマに幅広く出演するようになったのは実は80年代以降のことだそうだ。映画『釣りバカ日誌9』(97年・松竹)以降、シリーズを通して堀田常務を演じたことでも知られ、2010年もフジテレビ『素直になれなくて』『泣かないと決めた日』、テレビ朝日エンゼルバンク』『外科医 須磨久善』『土曜ワイド劇場 再捜査刑事・片岡悠介』、テレビ東京『経済ドキュメンタリードラマ ルビコンの決断』といったテレビドラマに出演するなど、現在でも第一線で活躍中である。


*大谷町の古老を演じた柳谷寛(やなぎや・かん 1911(明治44)年11月8日~2002年2月19日)は、『ウルトラQ』(66年)第19話『2020年の挑戦』の宇田川刑事、第28話『あけてくれ!』の沢村正吉、初代『ウルトラマン』第6話『沿岸警備命令』の斧山船員、『ウルトラセブン』第21話『海底基地を追え』の第三黒潮丸・川田船長、『帰ってきたウルトラマン』第42話『富士に立つ怪獣』の鳴沢村駐在、『ウルトラマンダイナ』第8話『遥かなるバオーン』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971201/p1)の乙吉など、ウルトラシリーズの常連俳優として特撮マニアにはお馴染(なじ)みの俳優である。
 特撮作品では、『緊急指令10-4・10-10(テンフォー・テンテン)』(72年・円谷プロ NET)第11話『妖怪・どろ人間』の遠藤巡査、『ファイヤーマン』(73年)第7話『恐怖の宇宙細菌』のボイラー係、『バトルホーク』(76年・東洋エージェンシー ナック 東京12チャンネル)第10話『紅鬼大人(こうきたいじん)、死す!!』の作造、『快傑ズバット』(77年・東映 東京12チャンネル)第2話『炎の中の渡り鳥』の彦佐などでのゲスト出演もある。また、往年の劇場版『月光仮面』(58〜59年・東映)ではシリーズ全5作で五郎八(ごろはち)を演じていた。
 東宝クレージーキャッツ主演映画の常連でもあり、『クレージー作戦 先手必勝』(63年)の上司、『日本一のゴリガン男』(66年)の黒川、『クレージーだよ奇想天外』(66年)の議長、『クレージー黄金作戦』(67年)の陳情団の団長、『クレージーの怪盗ジバコ』(67年)の博物館長、『だまされて貰(もら)います』(71年)の牛尾雄三、『日本一のショック男』(71年)の村人役などで出演していた。晩年も日曜夜のNHK大河ドラマの直後枠『ドラマ人間模様』(76~88年)で放映された名脚本家・向田邦子(むこうだ・くにこ)による名作テレビドラマ『あ・うん』(80年3月放送・全4話)のリメイクである『向田邦子新春ドラマ あ・うん』(00年・TBS)、『トリック』(00年・テレビ朝日)第8話『千里眼の男』、『土曜特集 ドラマ 介護ビジネス』(01年・NHK)に出演するなど、02年2月に90歳で亡くなるまで生涯現役の俳優であった。


*信夫の父を演じた石山雄大(いしやま・ゆうだい)は、『80』第26話『タイムトンネルの影武者たち』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061023/p1)でも異次元人の首領メビーズを演じている。特撮ジャンル関連では、『ワイルド7』第13話『両国死す!!』のジム・キャット、『ダイヤモンド・アイ』(73年・東宝 NET)第20話『ヒトデツボ・地獄の大竜巻』のデムラ、『仮面ライダークウガ』(00年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001104/p1)の松倉本部長、『特捜戦隊デカレンジャー』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041106/p1)第1話『ファイヤーボール・ニューカマー』の宮内刑事、『ケータイ捜査官7(セブン)』(08年)第33話『宇宙ウイルス』のTV局プロデューサー役などで出演している。スペクトルマンがゲスト出演した名作テレビドラマ『探偵物語』(79年・東映芸能ビデオ→現・東映ビデオ 日本テレビ)第9話『惑星から来た少年』でも、東栄芸能キャップ・遠山次郎を演じていた。
 『太陽にほえろ!』や『西部警察』シリーズ(79〜84年・石原プロ テレビ朝日)など、ロングランとなった刑事ドラマで何度となく悪役や他署の刑事役でゲスト出演しているため、名前は知らなくとも顔に見覚えのある人はきっと多いことだろう。近年ではリストラ請負人(うけおいにん)が主人公のドラマ『君たちに明日(あす)はない』(10年・NHK)で重役を演じている。


*本話で登場したズラスイマーは視聴者からデザインを公募した怪獣であった。ウルトラシリーズでは同様の例として『ウルトラセブン』第41話『水中からの挑戦』に登場したカッパ怪獣テペトが、当時中学3年生だった少年がデザインした回転サイボーグ・ディクロスレイザ(60年代にしては随分と珍しい小洒落たネーミングだなぁ・汗)、続けて第42話『ノンマルトの使者』に登場した蛸(たこ)怪獣ガイロスが、当時5歳の子が考案した「ガイロスせいじん」を原案にしたものであった。ちなみに、『セブン』の前番組である『キャプテンウルトラ』(67年・東映 TBS)第14話『金属人間メタリノームあらわる!!』は謎の惑星・ガイロスが舞台だった。この5歳の子はそこからネーミングを拝借したと邪推するのだが(笑)。
 『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)第46話『いざ鎌倉!』に登場した虹色怪獣タラバンもデザイン公募怪獣だ。本話のズラスイマー同様に、考案した少年を気遣(きづか)ったのか、最後には倒されずに母親のもとに帰される怪獣として描かれた良作である。まぁ、タラバンは見るからに可愛いカタツムリ型の怪獣で凶暴そうに見えないから妥当に思えるが、当の少年はズラスイマーをデザインした少年同様、ウルトラマンティガを敗北寸前まで徹底的に追い詰めるような凶悪怪獣を描いたつもりで大バトルを観たかったのに……と拍子抜けしていたかもしれない(笑)。
 他に『ウルトラマンマックス』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060311/p1)第28話『邪悪襲来』に登場した凶獣ルガノーガーは、『ウルトラマンマックス怪獣デザインコンテスト』というそのまんまの名前の公募の最優秀賞の怪獣で、鈴木敦くんという少年がデザインしている。実物は大きな改変もなく体色がシルバーからダークブルーになった程度で比較的、原画に忠実に作られていた。
 なお、『帰ってきたウルトラマン』第34話『許されざるいのち』(これも本話を担当した石堂先生の作品。高校3年生のときに観た再放送では人間ドラマ志向の同話が筆者にとっての『帰マン』最高傑作に感じられた。次作『ウルトラマンA』以降の作風とは異なる、イケてない青春を送っている孤独な学級肌の若者を描いた苦みとセンチメンタルが混ざった作品である)に登場した、動物と植物が混ざった合性怪獣レオゴンは、原案としてクレジットされている当時はまだ高校生であり後年は特撮ライターとしても活躍された小林晋一郎(こばやし・しんいちろう)が円谷プロに投稿したデザインが採用されたものである。氏が同時に投稿したガロア星人の方も、『ミラーマン』第3話『消えた超特急』などに登場した怪獣ダークロンの原案になっているそうだ。


 映像作品ではないが、『ウルトラマンメビウス』終了直後の07年度の小学館『てれびくん』に連載されたグラビア『ウルトラマンメビウス外伝 超銀河大戦 戦え! ウルトラ兄弟』に登場した岩力破壊参謀ジオルゴン(かの暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人の軍団幹部であったという設定!)、08年度連載グラビア『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス』に登場した最強怪獣ガロウラー(エンペラ星人のヨロイ・アーマードダークネスの神秘の力で生まれた怪獣という設定!)も、デザインを公募した怪獣である。同時に連載されていた内山まもる大先生の漫画『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス ジャッカル軍団大逆襲!!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210117/p1)の中でも登場して強敵として描かれた。
 また、講談社『テレビマガジン』07年度連載グラビア『ウルトラマンメビウス外伝 超銀河大戦 ウルトラ兄弟宇宙大決戦!』に登場した知略遊撃宇宙人エンディール星人(同じくエンペラ星人の軍団幹部!)、08年度連載グラビア『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス ウルトラ7兄弟大活躍!』に登場する宇宙怪獣ザラボン(同じくアーマードダークネスの力で生まれた怪獣!)も、読者からデザインを公募した怪獣であった。


 筆者の知るかぎりでは、同様の公募デザインの怪獣・怪人の例として、『スペクトルマン』第23話『交通事故怪獣クルマニクラス!!』~第24話『危うし!! クルマニクラス』前後編に登場したクルマニクラス(原案の名前はダンプニクラス。本編ではダンプではなく、スポーツカーにひき逃げされた少年の憎しみが乗り移る怪獣となったことで名前が変更された)、『仮面ライダースーパー1(ワン)』(80年)第45話『君の考えた最優秀怪人ショオカキング』などがある(ショオカキングは消火器がモチーフである敵怪人。『スーパー1』後半に登場するジンドグマ怪人たちは日用品をモチーフにしているが、だからこそある意味でコワい・笑)。


*本話では城野エミ(じょうの・えみ)隊員の出番が極端に少ない。ズラスイマー出現を作戦室でキャッチしたオオヤマキャップが矢的に通信を入れる短いカットで姿が見えるのと、ラストシーンで矢的・イトウ・岩水親子・倉田まり子を「じゃあ、写真撮りま〜す」とカメラにおさめるカットのみなのである。彼女のフィルモグラフィー的には特にこの時期に他の作品に出演していたとも舞台畑の仕事をしていたとも思えないのでナゼなのだろうか? なにかモメていたのだろうか?(汗) 本話は栃木県大谷町でロケが行われているが、この場面のためだけに石田や倉田まり子を都内からの移動に数時間を要する大谷町まで同行させて拘束したとはとうてい考えがたく、ここだけはおそらく都内(多摩川近辺?)で撮影されたと思われる。


 その城野エミ隊員は次回・第43話で侵略星人ガルタン大王のために壮絶な殉職を遂げる! そして、その責任を感じたウルトラの星の王女・ユリアンは、UGMの見習い隊員・星涼子(ほし・りょうこ)として地球に残留して、矢的猛=ウルトラマンエイティとともに、次々に襲い来る怪獣・侵略宇宙人たちに立ち向かうのである! いよいよ次回からは『80』最終章「ユリアン」編が始まるのだ。


2010.11.23.


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2011年号』(2010年12月30日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』 〜石堂脚本が頻繁に描く戦後の核家族、情けない父・ちゃっかり息子

ゼロ戦怪鳥バレバドン登場

(作・石堂淑朗 監督・東條昭平 特撮監督・佐川和夫 放映日・81年1月21日)
(視聴率:関東7.7% 中部9.0% 関西12.9%)
(文・久保達也)
(2010年11月執筆)


 小学6年生の斉藤武夫(さいとう・たけお)くんは5年生になった春、太平洋戦争で活躍した旧空軍の伝説の戦闘機である「ゼロ戦(零式戦闘機)」の実物展示を見てしまって以来、すっかりその虜(とりこ)になってしまった。自室にいくつもの模型をぶら下げて、自分が描いたゼロ戦の絵を壁一面に貼るばかりか、コクピットまでも自作して、大空を飛翔する夢を追い続ける日々が続いていた。


 そのうちに、高価なラジコン(ラジオ・コントロール)模型のゼロ戦がほしくなった武夫は、父・秀夫の車を洗車しては駄賃をもらい、近所のスーパーでもアルバイトを始める。それまで好きだった切手収集もやめて、友人からのゲーセン(ゲームセンター)への誘いも断り、3時のおやつを食べなくても済むように給食を人の倍も食べてアキれられ、遠足の小遣いも1円も使わずに、ひたすらケチに徹して金を貯めた。


 そして、岡山県の祖母にもらったお年玉を足すことで、遂に目標の12万円を貯めた武夫は、念願だったラジコンのゼロ戦を手に入れた。寝言すらもゼロ戦のプロペラ音と化してしまった息子に(笑)、母・美絵子は……


「いくらなんでも、度が過ぎてるわ……」



 本話は今で云う、いわゆる「ゼロ戦オタク」の少年・武夫がゲスト主役である。


 「おたく」なる語句は、1982年にマイナー漫画誌で誕生した言葉である(往時は「ひらがな表記」であった)。


 その語句が誕生する直前であった1980~81年。若者世代の内部では、今でいう「オタク」的な気質・性格の人間――他人や異性との会話には踏み出すことに怖じ気(おじけ)があるような内向的な性格で、その代わりにサブカル知識やガジェットなどの収集癖があったりするような人間――の存在は、もちろんナンとはなしに認知はされてはいた。しかし、それを特定のアダ名でハッキリとカテゴライズして認識し、そして彼らをあからさまに公然と小バカにしたり蔑視をしてもよいような風潮はまだ誕生してはいなかった。


 70年代末期にはすでに劇場アニメ映画として『宇宙戦艦ヤマト』(77年)や『銀河鉄道999(スリーナイン)』(79年)などに当時の若者たちが行列をするようにはなっており、当時はいわゆるオタク第1世代よりも上の世代やマスコミからは奇異の目で見られることはあった。しかし、若者世代の内部ではそのことに対して特に蔑視の目線を向けるようなこともなかったのだ。


 オタクならぬアニメファンは「クラい」「ネクラだ」と云われるようになったのは83~84年ころのことだった。そして、ハッキリと差別用語としての「おたく」が一挙に突如として普及しだしたのは、89年8月の世間を衝撃の坩堝に叩き込んだいわゆる「M君事件」こと幼女連続殺人事件で、その犯人がまた「おたく」であったことがキッカケであった。
 すでに80年代を通じて、若者間での後年で云うところのイケてる系とイケてない系のカーストが髪型やファッションも含めて可視化できるようになって急拡大してはいた。しかし、ハッキリと口に出して冷笑・罵倒的に差別してもよい対象として「おたく」が扱われるようになったのは、この89年8月のことだ。そして、ここから90年代前中盤にかけては、「おたく」に対する猛烈な大弾圧の時代が訪れてしまったのだ。


 とはいえ、本話が放映された1981年1月は、「趣味人」が市民権を得ていたとまではいえないものの、後年のような蔑視や嘲笑・愚弄の域に達した目線はまだ向けられてはいなかった。後年のように、彼らの目線のその内実も「はは~~ん」といった「了解」「承知した」といった感じで、我々のような浮世離れした性格類型の人間がいかにもハマりそうな幼児的な趣味(笑)やマニア的な趣味(爆)であろうといった概要の「推測」がもうできてしまっているといったことはまるでなく(笑)、ホントに瞬間的にだけ遠巻きで奇異の目線で見られているだけであって、その内実や正体(笑)を明確に言語化されることもなかった程度であったのだ。


 本話はそんなまだまだ牧歌的な時代に描かれた、「趣味人」に関するエピソードでもある。



母・実絵子「子供はゼロ戦、父親はゴルフ。あたしもなにかに凝(こ)ろうかしら」


 20万円もするゴルフクラブをミガいている秀夫につぶやく美絵子。現在ではいくら家庭に入ろうが自分の趣味を楽しんでいる主婦も数多い。しかし、当時はまだまだ少数派であり、自分の趣味や楽しみは犠牲にして生活や家事を優先させる主婦が多かったことを象徴したリアルなセリフでもある。


父・秀夫「ゼロ戦が武夫の命なら、これは私の命だ」


母・美絵子「玩物喪志(がんぶつそうし)」


父・秀夫「玩物喪志?」


母・美絵子「中国のことわざ。物にこだわり過ぎると人間がダメになるってこと」


父・秀夫「このクラブのためなら、ダメになってもおおいに結構」


母・美絵子「ウチの男はふたりとも救いがないわ」


 玩具などのコレクター気質がある我々マニア・オタクたちにとっては美絵子の言葉は実に耳がイタい(笑)。主婦である実絵子が趣味を楽しむ精神的な余裕がなかったと思われる点もさることながら、この一連の場面には「子供の領域」「大人の領域」、そして「男の領域」「女の領域」といった違いが当時は如実(にょじつ)にあったことが表現されている。そうした垣根が皆無とは云わないまでもすでにほとんど取り払われてしまった2010年現在の視点で見ると、この30年という歳月が相応に長いものであり、徐々にではあっても大きな変化があったことを実感せざるをえない。


 導入部でラジコン飛行機の大会のために練習をする武夫と、市中のパトロール中に出会った防衛組織・UGMのイトウチーフ(副隊長)と主人公・矢的猛(やまと・たけし)隊員が、UGM作戦室で武夫のことを話題にする場面がこれに続く。


イトウチーフ「一点豪華主義は男の生き方そのものですよ。僕なんかこの3年間、背広1着で通してますからね」(笑)


イケダ隊員「チーフ、僕もそう。ネクタイだって1本しかないんですよ」(オイオイ・笑)


 などと、ファッションにはさして興味がないことが1981年当時はふつう・大勢であった男どもが、自慢気に話していたのに対して、


城野エミ隊員「女性はそうはいかないわ。毎日同じものを着てると、すぐなにか云われるんだもんねぇ」


気象班・ユリ子隊員「そうなのよねぇ。その点、まだまだ女は損よ」


 と、ここでも男女で服装の在り方などに格差や損があることも示している。まぁ、同じものを着ている女性にケチをつけてくるのは、男ではなく女同士(汗)であったりもするのだが……(そして、このあたりだけは2010年現在でもまったく変わっていない。どころか、今となっては男の方も毎日同じものを着ていると同性や女性にダサいと蔑(さげす)まれてしまうという意味では男女平等が達成されており(笑)、もっと嘆(なげ)かわしい時代になってしまった・汗)。


 石堂淑朗(いしどう・としろう)先生は1960年代の松竹ヌーベルバーグといった左派系の社会派映画の脚本家として、同じく映画会社・松竹所属であた大島渚(おおしま・なぎさ)監督などと組んでキャリアをスタートした(ヌーベルバーグとはニューウェイブの意味のフランス語である)。しかし、80年代後半以降になると月刊誌『新潮45』(82年~)などの保守系論壇誌などでエッセイや雑文をものするようになり、保守系の言論人としても活動するようになる(1990年前後には左派系の『週刊朝日』などでもコスプレ写真付き(笑)のエッセイ連載なども持っており、左右の媒体を問わずに幅広く活躍はしていたのだが)。


 しかし、頑迷固陋な保守派というワケでもない。「女性の方が損をしている」といった、実感のこもった当時の主婦たちのセリフを、日常会話や新聞雑誌や一般のテレビドラマなどでも聞きかじってひろってきて、それを自身の脚本の中にも流用することで、作品や登場人物に多様性や多面性や血肉を通わせているのだ。そして、そういったことで、視聴者に対して「そうそう」「あるある」といった、ある種の「ツカミ」として機能させたくなってしまうことも、作家の性(さが)といったものなのだろう。


 けれど、フェミニズムなどにアリがちなヒステリックな糾弾調・弾劾調のセリフにもしてはいない。ナチュラルでナマっぽい雑談セリフに落としこむかたちで、そこに言及してみせているあたりで、見識の幅の広さと物事の左右の両翼に常に両手を伸ばしている氏のバランス感覚も偲(しの)ばれようとはいうものだ。


 先の斎藤夫婦の男女格差の会話に輪をかけて、ダメ押しで同様の会話劇をUGM隊員たちにも畳みかけてくるあたりも実に面白い。……メインターゲットである子供の視聴者たちにはこの良さは伝わらないのかもしれないけど(笑)。ただし、テンポよくサラサラとなめらかに流れていく短めの会話劇なので、子供たちも過剰に退屈してしまうようなことはないだろう。



「今はビルが建っちゃってるけど、昔、近所の病院の近くに空き地があって、そこでよくラジコンを飛ばしてたんですよ。あれは飛ばしてると結構すぐダメになってきてね(笑)。やっぱり、そういう実体験が発想の根本にあるんですね」

タツミムック『検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版 06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124) 脚本/石堂淑朗インタビュー)



 『ウルトラマン80(エイティ)」(80年)における石堂先生の作品は、第31話『怪獣の種(たね)飛んだ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101127/p1)からのいわゆる「児童編」から参加したこともあったのだろうか。氏が執筆した円谷プロ製作作品では『怪奇『大作戦』(68年)や『帰ってきウルトラマン』(71年)では青年の残り香(のこりが)が、『ウルトラマンA(エース)』(72年)ではヒッピー青年や村ハズれの奇人変人(笑)、『ウルトラマンタロウ』(73年)以降では戦後(70年代)の通称・ニューファミリーこと頑固オヤジではなく温厚なパパがゲスト主役。といった変遷を描いてきたが、『80』では、自然児が遊び回るような子供目線の話が多くなっている。しかし、ラジコン飛行機で遊ぶあたりは、当時の新種のアクティブな自然児を描いているとのコジツケも可能だが、ゼロ戦に夢中になって、文明のリキでもあるラジコンに執着しているあたりでは、自然児というよりも、その真逆な在り方でもある元祖・オタク少年であり、趣味人の少年を描いた一編だったともいえるだろう。



 ラジコン大会の当日、武夫はゼロ戦を飛ばす。ゼロ戦が飛行する様子は本話では基本的には「ミニチュア特撮」で描かれている。


 最初から虚構の存在であるウルトラマンや巨大怪獣とは異なり、日常に実物が存在するラジコン・ゼロ戦を、途中からミニチュア特撮で描いてしまうあたりは別物感が生じてしまうので賛否があるだろう。


 しかし、高速で大空を飛行するラジコンを遠くからカメラで追いかけたりアップの映像を撮ることは至難の業(わざ)ではあるだろう。だから、特撮班側の担当に割り振ってしまうことも現実的な采配ではあるのだろう。


 けれども、ゼロ戦が武夫の采配によって反転や急上昇をするさまもさることながら、青空に浮かぶ雲をスモークで再現するなど、あくまでもミニチュア特撮の範疇ではあるのだけど、空気感の表現は実に見事でもある。


 しかし、ゼロ戦は突如としてコントロールを失って、空の彼方に飛び去ってしまった! ……このあたりが、先のインタビューにおける、石堂先生と息子さんたちの実体験が出ているといったところだろうか?(笑)



 すっかり落胆してしまった武夫は、不眠症(!)に陥(おちい)ってしまった(笑)。


「命あるものは必ず死に、形あるものは必ず滅(めっ)すると、ことわざにもある」


 そのように武夫は父・秀夫になだめられる。これは多分、古代中国の『揚子法言』の「生ある者は必ず死あり」や、お釈迦さまの発言を引用して弟子であった幼少時の一休さんに諭(さと)した和尚(おしょう)さんの訓話「生あるものは必ず滅し、形あるものは必ず壊れる」を少々アレンジしたものだろう。「玩物喪志」も古代中国の故事に由来するものだが、このあたりのマイナー格言に対する博識ぶりは、さすがに石堂先生、東大文学部出身だけのことはある。


 しかし、武夫少年も、


「父さんのゴルフ棒、あれがもし折れたらどうする?」


 などと食ってかかる始末。たしかに大切なゴルフ棒や、特撮マニアたちのコレクションが損傷したり紛失してしまったならば、父さんも我々も平静ではいられないだろう(笑)。


母・美絵子「もしゼロ戦がもう出てこないようでしたら、あなたのゴルフ棒も売ってください!」


父・秀夫「おい、そんな……」


母・美絵子「だって、この子は命の次に大事なものをなくしたんですもの。あなたも付き合いなさい!」


 理不尽なようでも、ある意味では究極の公平・平等主義でもあるような(笑)、妻の言動にも追いうちをかけられて、ゴルフおたくの秀夫は自らで大ピンチに陥ってしまった!


父・秀夫「なぁ、武夫。おまえ、いつゼロ戦、探しに行く? 父さん、そっちの方、付き合うよ。おまえのゼロ戦が見つかれば、父さんのクラブも助かるんだ」


 「命あるものは必ず死に、形あるものは必ず滅する」などという哲学的な物言いでも、遠回しに行方不明になってしまったラジコンのゼロ戦のことはもうあきらめろ!(爆) といわんばかりの先の達観した発言とは正反対な、未練や執着タラタラな俗物チック(笑)なことを手のひら返しで平気で云いだす父親の憎めない滑稽さ。石堂先生が描く登場人物のセリフには、落語や漫才のようなムダな言葉の掛け合いの楽しさをねらったものが多いのだが、今回の話でもそれがひたすら強調され続けるのである。


 絶好のゴルフ日和(びより)となった休日なのに、父・秀夫は武夫のゼロ戦探しにやむなく同伴することになる。しかし、武夫が首からブラ下げたメッセージに仰天する!


父・秀夫「(メッセージを読みあげる)『この前の日曜日、このゼロ戦のラジコン機を見た方、どうぞ僕に教えて下さい』 ……オーバーだよ、少し(汗)」


武夫「恥ずかしいんだろ」


父・秀夫「そんな……」


 小学生の息子に自身の心底を図星で見透かされて、頭が上がらなくなってしまう頼りないお父さんである(笑)。


武夫「いいです。ひとりで行きます!」


 ゼロ戦の写真を貼ったプラカードを掲げて勇ましく家を出ていく武夫少年。


母・絵美子「あなた! 行ってらっしゃい!」


 妻にけしかけられて、やむなく武夫のあとを付いていく秀夫だが、街に出た武夫は人々から好奇の視線を浴びて、冷笑の渦にさらされることになる……


 この場面は、同じく東條昭平監督作品である『帰ってきたウルトラマン』(71年)第33話『怪獣使いと少年』における、ゲスト主役の佐久間良(さくま・りょう)少年が商店街を歩く際に、人々から好奇の視線を浴びて、「宇宙人だ!」と恐れられる場面を、ある意味では彷彿とさせるものがあるかもしれない(笑)。


 趣味人の一時の奇行への目線と、被差別マイノリティへの常時の蔑視の目線では、深刻度があまりにも異なるので、同列に論じることには申し訳なさが先に立ってしまうけど(汗)。


 羞恥心でタマらずにサングラスとマスクで顔を隠してしまう父・秀夫(笑)。


 しかし、武夫少年が周囲から浴びせられる目線は、1982年10月に放映がスタートした平日正午のバラエティ番組『笑っていいとも!』でタレントのタモリが流行らせた「ネアカ」「ネクラ」といった言葉や、89年のM君事件で人口に膾炙(かいしゃ)した「おたく」という言葉によって生じたお墨付きで、「性格弱者」や「控えめな性格の御仁」を徹底的にバカにしたり弾圧してもよい!(汗) といったほどの、あの時代に特有だったしごく残虐なものではない。
 あくまでも少々の奇異や少々の困惑のそれであり、武夫少年のような奇行をする人間に対しては、積極的に蔑視して指をさして笑ってもよいのだ! といった感じではないあたりが、まだまだ我々「おたく」にとっては居心地がよかった「狭間」の時代であった1980~81年といった時代を象徴するような描写でもあった……


 斉藤親子はゼロ戦を追って美しい自然に富む大鳥渓谷(おおとり・けいこく)にまで来てしまった(関東近郊だろうが、ロケ地はどこだったのだろうか?)。バス代のあまりの高さに傷心する父・秀夫(笑)。


 しかし、遂にゼロ戦を見たという老人に出くわすことになる! 先を行こうとするふたりだったが、大鳥渓谷には50年から60年に一度、宇宙から渡り鳥が飛来して大好物である人間の子供を食べてしまうから、引き返すように老人から説得される。


武夫「いや、僕は行く! あのゼロ戦とともに僕の命はあるんだから。ゼロ戦といっしょなら死んだっていい!」


父・秀夫「ゼロ戦が出なければ、ゴルフのクラブもなくなる。クラブか命か、そのへんが問題だな……」


 「ゼロ戦のラジコン」と「命」の話だったはずが、いつの間にか「ゴルフのクラブ」と「命」に比較対象がスリ変わっており、「ゴルフのクラブ」と「命」を天秤にかけている(笑)。ここまで徹底的に斉藤親子の奇行を描いたあとで、老人の言葉がさらに追いうちをかけてくる!


老人「ヘンな親子だの〜……」(笑)



 第34話『ヘンテコリンな魚を釣ったぞ!』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101218/p1)でも言及したことを、ここでも繰り返そう。


 石堂先生が円谷プロ作品にはじめて参加した『怪奇大作戦』(68年)第23話『呪いの壺』や、『帰ってきたウルトラマン』(71年)第34話『許されざるいのち』に登場したゲスト青年たちは、やや内向的で不器用で破滅的でもある日本の近代文学私小説・純文学)の伝統も感じさせる青年の苦悩が中心に描かれており、石堂先生にもまだ青春の懊悩の残り香があったことがうかがえて、なおかつ非常にマジメな作風でもある。


 しかし、次作『ウルトラマンA(エース)』(72年)の時期に40代に突入したからか完全にオジサン化して、そのへんのナイーブさは消えていく。初担当回である第16話『夏の怪奇シリーズ 怪談・牛神男(うしがみおとこ)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060903/p1からして初っ端からオカシい(笑)。良い意味で行き当たりバッタリな落語のような話運びであり、1970年前後に世界中で流行した無軌道で自由な若者像である長髪でラフな格好をしたヒッピー風のゲスト青年にはもう、青春期の懊悩は仮託されておらず、その憎めない奇行がコミカルに描かれていく。この行き当たりバッタリさ加減が、ある意味で80年代末期に隆盛した不条理ギャグ漫画にも似てくるノリは、第38話『復活! ウルトラの父』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070121/p1)における劇中劇である孤児院での子供たちが仮装したサンタクロースやウルトラマンエースが登場する演劇が爆笑必至な不条理劇だったことなどにも象徴されている。


 第41話『冬の怪奇シリーズ 怪談!! 獅子太鼓』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070209/p1)や第43話『冬の怪奇シリーズ 怪談 雪男の叫び!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070224/p1)や第47話『山椒魚の呪い!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070324/p1)に登場するゲストは、中年化してもう繊細ナイーブさも枯れ果てて開き直ってしまったのか、村ハズれの気難しくて人付き合いの悪い怪しい奇人変人ばかりとなっている(笑)。


 『ウルトラマンタロウ』(73年)第23話『やさしい怪獣お父さん!』では70年代的な頼りないパパ像がはじめて登場する。この頼りないパパ像は脚本家は田口成光ではあるものの『ウルトラマンレオ』(74年)第30話『日本名作民話シリーズ! 怪獣の恩返し 鶴の恩返しより』などにも登場して、『ウルトラマン80』の第34話『ヘンテコリンな魚を釣ったぞ!』や本話などにも至っている……


 1960年代までの戦前の昭和一桁生まれでカミナリ親父・頑固オヤジが父親像の主流だった時代と、1970年代以降の戦中・疎開児童世代である昭和10年代生まれで、敗戦により良く云えば「民主化」、悪く云えば「自信不足」で人格形成してきた日本人男性たちが都心に上京してきて、やはり良く云えば「優しい」、悪く云えば「頼りない」マイホームパパとなった時代。石堂先生にとっての自明の家族像とは、この戦後の核家族のことなのだろう(……石堂先生だけにかぎった話ではないけれど)。



 ゼロ戦のラジコンを探し続けてすっかりクタビれてしまった武夫は、手にした操縦機のレバーを操作してゼロ戦に命令をかけてみる。


 すると、そこに老人が語っていた宇宙の渡り鳥・ゼロ戦怪鳥バレバドンが現れた!


 バレバドンは武夫の命令通り、月面宙返り・きりもみ3回転半・急上昇などの妙技を次々に披露する!


 ウルトラマンエイティこと矢的猛隊員がダブルエックスレントゲン光線でバレバドンを透視したところ、なんとバレバドンは武夫のゼロ戦を飲みこんでおり、操縦機からの信号を受けて武夫の命じるままに動くようになってしまっていたのだった!(笑)


イトウ「そんなバカな!」


 いかに巨大怪獣や宇宙人が登場する『ウルトラマン80』とはいえ、ゼロ戦のラジコンを飲みこんだ巨大怪獣が少年の操縦機どおりに動きだすなんてことはオカシい(笑)。劇中世界の大人たちであればそのように反応することが自然だろう。
 「不自然」な事象に対する「自然」な「リアクション」。いかにフィクション作品とはいえ、このようなワンクッションの「リアクション」で非リアルさを緩和しきれないまでも、少しでもいったんは緩和することはやはり必要ではあるのだろう。


 まぁ、30年後の後出しジャンケンで往年の怪獣図鑑の第一人者・大伴昌司(おおとも・しょうじ)的にコジツケるのならば、このバレバドンの脳内電気信号の周波数とその意味合いが、このゼロ戦のラジコンのコントール電波の周波数や意味合いが完全合致していたからだ! といったところだろう。石堂先生がそこまで先回りして考え通していたとは微塵たりとも思わないものの(笑)。



 そして、この怪獣バレバドンが登場以降、本話はジュブナイル・ファンタジーともなっていく。


イトウ「出た! すぐUGMに報告しろ!」


イトウ「ありゃ、どっかのサーカスから逃げ出したんだな」


 いくら曲芸飛行ができるからって、巨大怪獣を飼っているサーカスなんぞがあるかい!? 芸達者な大門正明(だいもん・まさあき)が演じているイトウチーフをボケ役に徹っしさせているあたりも、『80』における石堂先生担当回の常套手段である(笑)。


 バレバドンはvalley(渓谷)とbird(鳥)からネーミングされたようだ。着ぐるみではなく大・小の飛び人形で製作されており、人間が着ぐるみの中に入ることが前提であるという制約からも解き放たれたデザインとなっている。
 赤く爛々(らんらん)とした目が光る頭部。各種書籍掲載の写真ではわかりにくいが、全身が褐色で塗装されているものの、頭部だけは緑色で塗装されている。このあたりはいかにもウルトラ怪獣らしいのだが、現実の鳥のように手を廃したばかりではなく、足には背中の翼と同様にギザのあるかなり大きめの翼が備わっており(こんなの着ぐるみならば歩行の邪魔だ・笑)、ムチのようにしなる細くて長いシッポを生(は)やしたスタイルは、ウルトラ怪獣というより海外ファンタジー作品に登場するモンスターやドラゴンであるかのような異彩も放っている。


 武夫の指示で着地するバレバドンは、山から俯瞰(ふかん・高所から見下ろし)するイメージで全身が映されている。その手前には武夫と秀夫が小さく合成されており、実に臨場感がある! すっかり有頂天になってしまった武夫は、


「スゴい! こんなことができるのは、世界中でボクひとりだ!」


 と、父・秀夫が制止するのも聞かずにバレバドンの背にまたがってしまう。この場面も手前に実物大のバレバドンの背にまたがる武夫を配し、そこから俯瞰する感じで画面奥に秀夫が小さく撮らえられており、バレバドンの巨大感を表現するのに絶大な効果をあげている。


 バレバドンの背にまたがって武夫は遊覧飛行の旅に出る! もう完全に「ウルトラ」というよりかはファンタジーである。空撮の実景を織り混ぜており、飛行するバレバドンと眼下にそびえるミニチュアの街並みを空から俯瞰するようなアングルも見事である。


 このシーンで流れるBGMが、なんと『ザ★ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100430p1)の防衛組織・科学警備隊の戦闘機を描写するテーマとして作られ、『80』でも第14話『テレポーテーション! パリから来た男』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100801p1)以降に多用され、後年の『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506p1)第17話『誓いのフォーメーション』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061001p1)では新たにコーラスをダビングして使用された、マニア間では「急降下のテーマ」(正式MナンバーはM27)として知られる戦闘機の高速飛行を彩(いろど)った名曲である! 高揚感にあふれる飛行場面にはピッタリとマッチしているのだ!


 バレバドンは赤い目玉をギョロつかせ、眼下の街並みに卵を生み落としてしまう!


 俯瞰したミニチュアの道路や建物の上で、落下した巨大な卵が割れて、中から黄色い身がグチャリと飛び出す様子がなんとも生々しい。これならばまだビルが破壊された方がマシなような(笑)。


 イトウと矢的の姿を見つけた武夫はあいさつをしようと地上に急降下をかける! 武夫の目線で俯瞰したイトウ・矢的・父に高速で迫っていくカットに続いて、バレバドンが画面手前に迫ったあとで急上昇する特撮カットに、実景の山と3人を合成した場面を配しているのがまた大迫力であった!


 そこに飛んでくる1機のセスナ飛行機。武夫はこれにもあいさつをしようと急接近。バレバドンに比較すると相当に小さなモデルだが、特撮マニア目線では操演でよくもこんなに小さなものを飛ばせたものだと感心するばかりである。たまらず降下していくセスナ。


イトウ「イタズラにしては度が過ぎてる!」
矢的「まったくだ!」


父・秀夫「すいません。ゼロ戦さえなければ、いい子なんです」


 『ウルトラマン80』の初期話数であったならば、せっかく自分の思いのままに操れる怪獣を手にしたのだから、今まで自分を馬鹿にしてきた人間たちに復讐するという展開になっていたであろう(笑)。


 だが、武夫はそうはならずに、大空を飛翔する夢をひたすら追い求めるのである。


 本話はある意味では、石堂が意図したことではなかっただろうが、結果的に故・円谷英二特撮監督が追い続けた「日本ヒコーキ野郎」の「夢の世界」が、やや変型しながらも具現化した映像だったのではなかろうか!?


「♪カ〜ラ〜ス〜、なぜ鳴くの〜、カラスの勝手でしょ〜~」


 調子に乗った武夫が歌いだす(笑)。これは1980~81年当時において、お笑い&歌謡番組の高視聴率大人気番組『8時だョ! 全員集合』(69〜85年・TBS)の1コーナー「少年少女合唱隊」で、ザ・ドリフターズ志村けんhttps://katoku99.hatenablog.com/entry/20200419/p1)が童謡『七つの子』(作詞・野口雨情)の替え歌として歌って、全国の子供たちの間で大流行させたものである(当時の新聞報道によれば、作詞の野口の遺族から番組宛てに抗議文が寄せられたらしいが・汗)。


 しかも、なんとそこに都合よく本当にカラスが飛んできた! こういうところが石堂脚本の漫画的・落語的なところである(笑)。もちろん、バレバドンの前方を飛行するカラスはミニチュアなのだが、セスナ以上に小さな造形なのに、なんと翼をはばたかせて飛んでおり、特撮マニア的な観点からはビックリ仰天!


 腹を空かせたバレバドンはカラスを食おうと口を大きく開ける。しかし、そのはずみで飲みこんでいだラジコンのゼロ戦を地上に落下させてしまった!


 スト〜ンと真っすぐに落ちていくのではなく、ゼロ戦のミニチュアがグルグルと回転しながら落下していくのも芸コマである。しかし、そこに感心している場合ではない!


 ゼロ戦を体外に排出したことでラジコンでのコントロールが効かなくなったバレバドンは、背中にまたがる武夫を鋭い目つきでにらみつけた!(ギョロッと動く赤い目玉のアップがいい!)


 バレバドンが反転や急上昇を繰り返すことで絶体絶命の危機に陥ってしまう武夫。高速で飛行する怪獣ミニチュアのカットの合間に、実物大の背中にまたがる武夫をカメラを反転させて撮らえたカットを挿入しているのがまた臨場感をいや増している!


 矢的は遂にウルトラマンエイティに変身!


 空中での大追跡となるが、バレバドンは武夫を背中から振り落としてしまった!


 武夫を見事にキャッチし、大地に着地するエイティ!


 ラジコンのゼロ戦などというヘンなものを食ってしまったばかりに地球に居心地の悪さを感じたのか、それともそんな小さな些事(さじ)などは微塵たりとも気にもしていなくて単にもう「渡り」のタイミングであったのか(笑)、宇宙の渡り鳥・バレバドンは静かに大空を飛び去っていく……



 本話のエイティは武夫を救うためだけに登場したパターン破りの回でもある。エイティには最初から戦闘の意思は感じられない。バレバドンは第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)の中で紹介した石堂先生の発言で云うならば、「怪獣としてはダメな奴」「ケンカしない怪獣」となっている(笑)。


 『ウルトラセブン』(67年)第7話『宇宙囚人303』では、ガソリンを主食にする火炎宇宙人キュラソ星人が炎上させた大型合体戦闘機・ウルトラホーク1号のβ(ベータ)号から脱出するだけのために、ウルトラセブンこと主人公モロボシ・ダン隊員はセブンに変身しており、キュラソ星人とのバトルはまったく描かれてはいなかった。多くの子供たちがそうであっただろうが、筆者は小学4年生のときにこの回を再放送で観た際に、おおいに不満を感じたものである(30数年経った今でも不満だが・笑)。巨大化したキュラソ星人に攻撃を加えようとするウルトラ警備隊のキリヤマ隊長をダン隊員が制止する。


キュラソ星人の体はガソリンタンクも同様です。今に自爆します」


 それはたしかにそうなのだが、キュラソ星人は『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)初期に登場した通り魔「星人」のごとく、狩猟ハンター2人・ガソリンスタンドの店員2人・スタンド客の金髪女性・パトロール中の警官3人などを次々にブッ殺しており(東映ヒーロー作品でもなかなかここまではやらない!)、そんな奴はセブンの必殺武器・アイスラッガーでズタズタに切り裂くか、必殺光線・ワイドショットでバラバラに粉砕するべきではないのか!? などとどうしても思ってしまうのであった(笑)。このストーリー展開だと正直、ダンがセブンに変身する必然性はまったくない。しかし、看板であるウルトラセブンを登場させないないわけにはいかないから、やむなく入れただけのことである。


 第2期ウルトラシリーズのTBS側の名プロデューサー・橋本洋二は『帰ってきたウルトラマン』を担当するにあたって、テーマがあってドラマ的にきちんとまとまってさえいれば、変身アイテムも防衛組織のメカも宇宙基地も出す必要はない! と製作側の円谷プロダクションへ主張していたという証言が残っている。
 たしかにそうした意見にも一理はあるのだし、その志も高いとは思うのだ。しかし、その理屈を突きつめてしまえば、「変身ヒーローさえもいらない」ということになってしまうのではなかろうか? 橋本が『セブン』に関わったのは第13話からなので、『セブン』第7話には関わってはいないのだが、同話はある意味ではその典型例となってしまったのである。
 やはりラストで変身ヒーローが登場しても一瞬だけであって怪獣・宇宙人とのバトルをしなかった『ウルトラマンレオ』第13話『大爆発! 捨て身の宇宙人ふたり』なども同様なのだが、不肖の筆者などが再評価を試みようとしている、かつては酷評に見舞われてきた、エンタメ性よりもドラマ性やテーマ性をやや強調したきらいがあった70年代前半に放映された第2期ウルトラシリーズについても、下手をすればそうなってしまう危険性がある「弱点」をはらんでいたことは認めざるをえないのだ。


 つまり、本話も実は幼児が見れば、ウルトラマンと怪獣のバトルがなかったことで、物足りなかった、腑に落ちない、と思わせてしまっている可能性、もっと云ってしまえば、「美点」がそのまま「弱点」にもなってしまっているのだ。ちなみに、筆者は『80』本放映当時はもう中学生だったので(汗)、この時期はいったんウルトラマンシリーズの視聴からは離れていたために、放映当時の純粋な子供としての観点からの証言はできないことは謝っておきたい。


 とはいえ、それはそれとして、1年間のシリーズの終盤に、本話のような変化球のエピソードはあってもよいとは思うのだ。石堂先生の作品としては、『ウルトラマンA(エース)』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070430/p1)の第21話『天女の幻を見た!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061009/p1)・第28話『さようなら 夕子よ、月の妹よ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061111/p1)・第38話『復活! ウルトラの父』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070121/p1)、『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)第39話『ウルトラ父子(おやこ)餅つき大作戦!』、『ウルトラマンレオ』(74年)第32話『日本名作民話シリーズ! さようならかぐや姫 竹取り物語より』などとも、イコールではないものの、それに通じていくところもあるファンタジー風味の変化球作品としては高く評価をしておきたい。



 しかし、第39話『ボクは怪獣だ~い』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110122/p1)の怪獣少年テツオン、第40話『山からすもう小僧がやって来た』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110129/p1)のすもう怪獣ジヒビキラン、そして今回のバレバドンと、「怪獣としてはダメな奴」「ケンカしない怪獣」を3週も連続させた、戦闘の高揚感にはいささか欠けるエピソードを続発させたシリーズ構成もまた(当時はシリーズ構成のことなど、ほとんど考えていなかっただろうとはいえ・笑)、『80』がますます世間の子供たちから見放されることになってしまった要因ではなかろうか?


 「善悪の割り切りがはっきりある中での痛快な戦いこそ、最もウルトラマンらしい形である」と『80』脚本家の平野靖士(ひらの・やすし)は主張していた(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110122/p1)。その一方で、「世の中に〈絶対悪〉というのが最初からあって、それをやっつければOKという話じゃない」という主張をされている石堂先生(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)。
 まさに、「ウルトラマン」というシリーズ作品に対しての「価値観の相違」である。これはどちらかが圧倒的に正しいということではない。双方は矛盾はし合っているものの両方が正しいのである。そして、この両者をバランスよくシリーズの中に配置していくことこそが大事なのではなかろうか?(平野の論を「主」に、石堂先生のポリシーを「従」にすべきではあろうけど)
 よって、本話だって「ウルトラマン」のメインストリームではないものの、サブストリームとしては立派な「ウルトラマン」作品ではあったのだ。そのことは強く主張をしておきたい。


 正直、筆者はこの第41話を面白いと感じたのは今回の再視聴が初めてであった(汗)。それはおそらく、武夫のような年齢の息子がいてもおかしくない年齢に達したことが大きいのだとも思うのだ(前に視聴したのは20代半ばのころであった)。今回はやはり武夫の父・秀夫の方におおいに感情移入をしてしまっていた(笑)。


 しかしながら、この路線を主軸にしてしまったならば、それこそ怪獣を退治せず保護・共存しようとする『ウルトラマンコスモス』(01年)のようになってしまうのではなかろうか? もちろん、『コスモス』だって立派な「ウルトラマン」だという意見もあって当然だろう。だが、筆者には『セブン』第7話を小学生の際に観て失望した感性が、世間一般の小学生男子たちにも通じるものであると思っているのだ。やはりウルトラマンには戦ってほしいのである(笑)。



<こだわりコーナー>


*武夫の母・美絵子を演じたのは、ウルトラシリーズの元祖『ウルトラQ』(66年)のレギュラーであった毎日新報の社会部カメラマン・江戸川由利子(えどがわ・ゆりこ)役や、初代『ウルトラマン』(66年)のレギュラー防衛組織である科学特捜隊・フジアキコ隊員役で、ウルトラファンにはおなじみの桜井浩子(さくらい・ひろこ)である。本話では夫の秀夫に対して愛情がないわけではないだろうが、若かりし頃の愛情はとっくに冷めていて、生活のパートナーとしか見ていない妻であり、いかにも小学生の息子を持っていそうな1980年前後の母親像を見事に演じきっている。しかし、たしか特撮雑誌『宇宙船』Vol.6(朝日ソノラマ・81年4月30日発行)に掲載された『ウルトラマン80』放映終了特集に掲載されていた、円谷プロの満田かずほプロデューサーの話によれば、桜井は母親役を演じることに対してブーブー文句を云っていたそうである(笑)。


*その夫・秀夫を演じたのは、木下恵介野村芳太郎小林正樹ら巨匠の監督作品に数多く出演して、往年の松竹を代表する映画スターだった石濱朗(いしはま・あきら)である。特撮作品ではほかにも、


東映スーパー戦隊シリーズ超新星フラッシュマン』(86年・テレビ朝日)の準レギュラー・時村博士役
東映メタルヒーロー『機動刑事ジバン』(89年・テレビ朝日)の準レギュラー・警視庁秘密調査室統括責任者・柳田誠一役
・同じく『特救指令ソルブレイン』(91年・テレビ朝日)9話ゲストの神崎栄三役
・オリジナルビデオ作品『真・仮面ライダー 序章(プロローグ)』(92年・バンダイビジュアル)で主人公の父・風祭大門役


 を演じたほか、映画『仮面ライダーBLACK(ブラック) 恐怖! 悪魔峠の怪人館』(東映系88年7月9日公開)などにも出演していた。


*斉藤親子が大鳥渓谷で出会う老人を演じていたのは、


・『ゴジラ』(54年)の田辺博士
・『空の大怪獣ラドン』(56年)の南教授
・『地球防衛軍』(57年)の川波博士
・『大怪獣バラン』(58年)の馬島博士
・『宇宙大戦争』(59年)の有明警部
・『電送人間』(60年)の三浦博士
・『ガス人間第一号』(60年)の佐野博士
・『怪獣大戦争』(65年)の医学代表


 など、東宝特撮映画の常連俳優だった村上冬樹である(1911(明治44年)/12/23~2007/4/5)。


 『ウルトラQ』第17話『1/8計画』ではS13地区の区長役で桜井浩子と共演していた。往年の大人気スポ根ドラマ『サインはV』(69年・東宝 TBS)では八代先生役で、本作『80』ではオオヤマキャップ(隊長)を演じた中山仁(なかやま・じん)とも共演していた。
 なお、68年には作家の故・三島由紀夫らと劇団・浪曼(ろまん)劇場を結成している――三島は怪獣映画『ゴジラ』第1作(54年)が公開当時のマスコミに酷評される中、氏は「文明批判の力を持った映画だ」と高く評価していた(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190601/p1)――。ここには一時、中山仁も所属していた。三島が執筆した戯曲の舞台『わが友ヒットラー』(68年)で村上はヒットラー役で主演している。


 特撮ジャンル系の作品では、


・『シルバー仮面』(71年・宣広社 TBS)第1話『ふるさとは地球』の都築(つづき)博士
・『ワイルド7(セブン)』(72年・国際放映 日本テレビ)第4話『狙われたミサイル』の蛭沼博士
・『スパイダーマン』(78年・東映 東京12チャンネル)第1話『復讐の時は来たれり 討て! 鉄十字団』の山城博士


など、やはり博士の役を多く演じていた。


*本話評でも「♪カ〜ラ〜ス〜、なぜ鳴くの〜」で言及した往年の超人気バラエティー番組「『8時だョ! 全員集合』は、1969年から16年間も継続して放送された長寿番組であると世間では思われがちである。しかし、実際には1971年4月〜9月の半年間放送が中断している(同番組の看板を務めていたザ・ドリフターズが所属していた渡辺プロが『全員集合』を終了させて、日本テレビで新番組をやらせたいと主張して、TBSとトラブルになっていたそうだ)。
 その空白期間には、1970年代ならぬ60年代に大人気を誇ったお笑いジャズグループ・クレージーキャッツが出演する『8時だョ! 出発進行』が放送されていた。往年のマニア向け書籍「ファンタスティックコレクションNo.10 空想特撮映像の素晴らしき世界 ウルトラマンPARTII」(78年・朝日ソノラマhttp://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031217/p1)などにも掲載された、71年春のTBS新番組宣伝用ポスター「春もやっぱり! 6チャンネルですね」――『帰ってきたウルトラマン』が『肝っ玉かあさん』(68〜72年の全3シリーズ)主演の故・京塚昌子に手を添えて、ワンフレームで並び立っているツーショットで飾られたもの!――にその番組タイトルが確認できる。
 『全員集合』といえば、「子供に見せたくない番組」であるとして毎年のようにPTAからワースト番組の筆頭にあげられていたものである。しかし、やはり子供が観たがるのはそうした、行き過ぎにはならない範疇ではあるのだが、適度に「毒」がある番組ではないかと思えるのだ。『80』は子供番組としては「健全」に過ぎたからこそ、視聴率が低迷した面もあったのではなかろうか? その意味では平成ライダーシリーズは子供番組としてカンペキに合格点が与えられるのかもしれない。筆者も親だったら自分の子供にはあまり見せたくはないなぁ(笑)。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2011年号』(2010年12月30日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


編集者付記:


 「玩物喪志」。直接に読めば、自室で玩具にくるまれて志(こころざし)を喪(うしな)ってしまうこと。玩具や書籍やビデオなどのオタク向けグッズの洪水に自室を占領されて、自分で意識的・主体的に収集していたハズなのにいつの間にやら惰性に流されて、「玩具の方が“主体”」で実は「人間の方が受動的な“客体”」となってしまうような(笑)、往々にしてオタにはアリガチな自堕落な事態を指す、我々のような人種には耳がイタイ言葉でもある。このような事態を指し示した用語を、すでに紀元前に造語していた古代中国人もやはり叡智に満ちている。
 「玩物喪志」といえば、「玩物」にくるまれなければ生きてはいけない(?)我々オタクやマニアたちのような、一般ピープルとは異なるメンタリティを持った人間たちが、自己のクセや偏りを客観的に認識しつつも、それでも「玩具」は捨てずにそれを所有したままで、何らかの「倫理」と「節度」と「主体性」を持ってみせるような「志」を、「玩物喪志」ならぬ「玩物喪志の志」(笑)、転じて「オタクの志」というアクロバティックな言葉で表現した御仁が、オタク第1世代の評論家・浅羽通明(あさば・みちあき)先生であった。
 そのネジくれた「志」を常に自己点検して自堕落にならずに生きていくための方策のヒントを、オタクの元祖ともいえる昭和初年代生まれで昭和30年代〜昭和末期の昭和60年代(1980年代後半)までご活躍されていた文筆家・澁澤龍彦(しぶさわ・たつひこ)の分析・功罪・先見性を通じて語った、浅羽通明先生による著作・評伝『澁澤龍彦の時代 ―幼年皇帝と昭和の精神史』(93年・青弓社ISBN:4787290835)は、このテのアクロバティックに入り組んだマニア気質(笑)にもご関心があられる方々にはぜひともご一読をお勧めしたい一品。そして、その澁澤龍彦ご本人による「玩物喪志」のことわざをパロった書籍といえば、その名もズバリ、『玩物草紙』(笑)(79年・朝日新聞社ASIN:4122013127ISBN:9784122013124ISBN:4022640197)。いや、そっちの方は読んだことはないけれど(汗)。


2022年・編集者付記:


 特撮ライター・白石雅彦の著書『「ウルトラマンA」の葛藤』(双葉社・22年7月3日発行)によって、『ウルトラマンエース』第38話『復活! ウルトラの父』における孤児院での劇中劇のセリフは石堂脚本にはなく、同話を担当した山際永三(やまぎわ・えいぞう)監督が撮影台本に手書きで加筆したものであったことが判明した。よって、これを安易に石堂の作家性の発露だとしてしまった過ちについてはお詫びをしておきたい。しかし、ややマジメな山際節というよりかはフマジメな石堂節っぽくはある(笑)――


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君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?

ウルトラビッグファイト(7)~ウルトラマン80復活怪獣逆襲! [VHS]ビデオ
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