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幻の流産企画・映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟2』!
(文・久保達也)
(2009年4月22日脱稿)
誤解のないように書いておくが、こういう映画の製作が決定されたわけではない。映画『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』(松竹・08年9月13日公開・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101223/p1)のDVDメモリアルボックス(バンダイビジュアル・09年1月23日発売・ASIN:B001J2UJVS)の特典冊子によると、かの映画が製作される前、映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』(松竹・06年9月16日公開・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070128/p1)の続編企画として、脚本家・長谷川圭一の手により、以下のようなプロットが練り上げられていたのである。
惑星××の銀十字軍本部が、巨大鋼鉄戦艦と暴君怪獣タイラントに襲撃された!
それを迎え撃つのは、ウルトラマンレオとアストラ兄弟!
だが、パワーアップされたタイラントには、さしものレオ兄弟も苦戦する!
そこに光の国・クリスタルの都市から飛び立ったウルトラマンタロウとウルトラマンメビウスが駆けつけ、タイラントを圧倒する!
だが、そこに地獄星人ヒッポリト星人が現れた!
その傍らのカプセルには、捕らえられたウルトラの母の姿が!
タイラントに阻まれてウルトラの母は強奪され、しかも巨大鋼鉄戦艦の攻撃にタロウは重傷を負って光エネルギーを失い、半透明の姿になってしまう!
レオ兄弟とメビウスの悲痛な叫びが宇宙に響き渡る!
・内山まもるのコミカライズ作品『ザ・ウルトラマン』――75年・小学館『小学三年生』連載、78年に同社『コロコロコミック』に再連載((http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160914/p1))――を彷彿(ほうふつ)とさせる、ウルトラ兄弟の宇宙大決戦!
・ウルトラの母が、傷ついた戦士の治療を目的とする「銀十字軍」の隊長であること!
・『ウルトラマンタロウ』(73年)第25話『燃えろ! ウルトラ6兄弟』や、映画『ウルトラマン物語(ストーリー)』(松竹・84年7月14日公開)でも描かれたように、光の国=ウルトラの国の建造物がクリスタル状であること!
など、マニアにとどまらず、第2期ウルトラ・第3期ウルトラ――84年の第4期(?)ウルトラも!?――などのウルトラシリーズで育った世代人の琴線(きんせん)をくすぐる設定を忠実に継承しているのがたまらない、実に豪華なオープニング!
『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』などの平成ウルトラ映画もそうだったが、やはりこうしたテレビの通常編ならば最後のクライマックスになるはずのウルトラマンvs怪獣・宇宙人のテンション高くてカッコいい戦闘シーンが、映画の冒頭に配されるというスペシャル感! 颯爽とした活躍のあとにヒーローが大ピンチ! これから物語はどう進展していくのか!? といったヒキのある開幕で観客の心を鷲掴みにしておけば、それで映画に没入ができてしまうことは請(う)け合いなのだ!
宇宙規模の事件のスケールの雄大さのみならず、子供の付き添いで観に来ている親の中でも年長者の世代や、もちろん我々マニアたちをも共感させる、往年のヒーローや人気怪獣の復活などの要素にも満ちあふれている!
メビウスは地球に帰還して人間態に変身してヒビノ・ミライ隊員として防衛組織・GUYS(ガイズ)のリュウ隊長(!)と再会。ウルトラの母とウルトラマンタロウの危機について話し、その件をかつてタロウと一心同体だった人間・東光太郎(ひがし・こうたろう)にも伝えるべく、彼を捜索するためにリュウに協力を求める。
ミライが降り立った場所は、2年前に初めてリュウと出会った高台とある――つまりは、『メビウス』第1話『運命の出会い』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060625/p1)に登場したあの高台なのだ!――。
『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)がちょうど1年間の物語であるとするならば、今回の時代設定はミライ=メビウスが地球を去ってから1年後の物語なのである。
要するに、本作はタイトル通りに『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』の、そしてもちろん『メビウス』の正規の続編の物語としても企画されており、『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』のように昭和ウルトラシリーズや平成ウルトラシリーズの世界観とも異なる「パラレルワールド」云々(うんぬん)の舞台設定ではなかったのであった。
GUYSのデータベースを頼りに、ミライは横浜近くの高台を歩くものの道に迷い、偶然通りかかった40歳くらいの男性に声をかけたところ、道案内をしてくれた。なんと彼は、かつて東光太郎を兄のように慕っていた白鳥健一(しらとり・けんいち)だったのだ!
光太郎が『タロウ』に登場する防衛組織・ZAT(ザット)に入隊後に朝日奈隊長に紹介された下宿先は、奇(く)しくも、光太郎が『タロウ』第1話の冒頭では船乗りになることを志願して乗りこんだタンカー・日日丸の船長・白鳥潔(しらとり・きよし)邸であり、健一はその長男なのだ。彼はウルトラマンタロウに憧れる元気な小学生であった。
母とは死別、父の潔も仕事柄ほとんど不在であり、姉のさおりとふたりきりだったこともあり、健一は光太郎を本当の兄のように慕っていたのである。ゲスト子役と光太郎の接点としての役割を果たすばかりでなく、光太郎との強い絆も描かれていた健一は、『タロウ』には欠かせない存在であり、こうしたかたちで再登場させてくれるとは本当に嬉しいし敬服に値する――第4クールでは登場しない回が多かったが、おそらくは演じた斎藤信也の学校の出席日数などの問題が大きかったのではなかろうか?――
ミライ「(タロウ)教官が言ってました。むかし、自分を本当の兄のように慕ってくれた、健一という名の少年がいたって」
こんなセリフまでもが用意されているのだぞ!(涙)
もっとも、現在俳優ではない元・子役の斎藤信也が再度健一を演じることは、俳優・篠田三郎が東光太郎を演じる以上に困難なことであろう。しかし、ウルトラマンエイティ=地球では中学校教師でもあった矢的猛(やまと・たけし)がゲスト出演した『メビウス』第41話『思い出の先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070218/p1)のように、かつての桜ヶ岡中学校の生徒たちをまったく別の俳優が演じても、全然違和感がないどころかホントウに成長後の姿のように見せてくれた成功例もあることから、その点はノープロブレムであろう。
ミライが連れてこられた場所は古い小学校(orペンションとの記載あり)を改造した「ウルトラの家」であり、そこでついに東光太郎との対面を果たす。
ZATを辞めて、ひとりの人間として何ができるのか、それを見つけるために旅に出た光太郎は、日本各地で健一と同様に怪獣のために肉親を喪い、心を閉ざしてしまった子供たちが大勢存在することを知った――『タロウ』最終回(第53話)『さらばタロウよ! ウルトラの母よ!』においても、健一の父・白鳥潔は船長を務めていたタンカー・日日丸もろとも、宇宙海人バルキー星人操る海獣サメクジラのために海の藻屑(もくず)と消えてしまったのだ――。
ウルトラマンとして救えなかった彼らの心を人間として救うため、光太郎はボクサーとして稼ぎながら、健一たちの協力も得て大勢の子供を引き取り、「ウルトラの家」をつくったのである。
『タロウ』第1話『ウルトラの母は太陽のように』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)から第10話『牙の十字架は怪獣の墓場だ!』に至るまで、光太郎はプロボクサーを目指し、健一をお供にトレーニングに励んだり、減量に苦しんだり、試合に臨(のぞ)むといった姿がたびたび描かれていた。第11話『血を吸う花は少女の精』以降はボクサーを目指す描写は完全に姿を消してしまったが(汗)、光太郎の夢は現実のものとなり、第1話に登場したチグリスフラワーのように、大輪の花を咲かせていたのである!
ただ、現役視聴層の中心である就学前の幼児はもとより、彼らの親の中でも若い世代であれば『タロウ』をよく知らない者も多かろう。そんな観客からすれば、健一の登場からの一連の流用ネタに関しては微妙に疎外感、内輪ウケ感を抱かせるのではないか? と危惧する意見もあろう。
だが、心配することなかれ。ミライと光太郎の初対面の中において、次のような会話がなされる。
ミライ「ひとつ教えて下さい。今から約30年前、タロウ教官は自らバッジを捨て、ウルトラマンの力を封印したと聞きました。その理由はなんだったんですか?」
光太郎「……ひとりの少年の心を救うためだった」
続いて、『タロウ』最終回の回想が入る。
ウルトラ兄弟のソフビ人形を地面に叩きつけて壊し、泣き叫ぶ健一。
健一「光太郎さんに僕の気持ちがわかるもんか!」
光太郎「健一くん!」
健一「僕はくやしいんだ! あのときタロウが来れば、やっぱり怪獣はやっつけられたんだ!」
大好きだった父親を海獣サメクジラに殺され、助けに来てくれなかったタロウを憎んだ健一に、光太郎は自分の正体がタロウであることを明かす。そして、タロウの力を頼らず、強く生きろと諭(さと)す。
それを証明するために、彼はタロウの力を捨て、変身せずに(!)ひとりの人間・東光太郎として知力と死力を尽くして軽武装だけで憎きバルキー星人を倒したのである!
濃い特撮マニア諸氏であれば当然ご存じのことだろうが、一般的には特撮マニアの間であってもやはり知られていないと思うので強調しておこう。『タロウ』最終回のラストは、ウルトラマンタロウが怪獣を倒すのではなく、タロウに変身せずに人間・東光太郎の姿のままで巨大な敵宇宙人を倒してみせる、なんとも斬新で衝撃的な展開がなされていたのだ!
初代『ウルトラマン』(66年)最終回(第39話)『さらばウルトラマン』や、『ウルトラセブン』(67年)最終回(第49話)『史上最大の侵略(後編)』にあった、
「地球は人類自らの手で守りぬかなければならない(大意)」
というセリフを、光太郎(タロウ)と健一くんというミクロな人間関係の中で限定したかたちではあったが、一大テーマとして昇華させた作品でもあったのだ。
第1期ウルトラシリーズ至上主義者からは長年、『タロウ』にはドラマ性やテーマ性がない、幼児向け化が極度に進行したと批判されてきた。しかし、読者諸兄も実際に大人になってから観返してみればよくわかると思うが、『タロウ』は表層的なテイストはチャイルディッシュでもドラマ性やテーマ性は実は非常に高いのである。
昭和ウルトラシリーズの最終回も商業誌レベルだと業界人も含めて、いまだに『エース』までの最終回(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)が語られることが多くて残念なのだが、『タロウ』最終回はむしろ10代後半や成人してからの再視聴の方が感銘をより深く受ける作品ではないかと思う――同人誌やスレたマニア間での会話では、『タロウ』最終回の素晴らしさが80年代中盤からよく話題にあがっていたとも聞くが――。
もちろん、10代後半や成人してからわかるという高度な作劇は、逆に云うなら子供番組としてはキャッチーではなく問題があったのだともいえなくもない。これは『タロウ』にかぎらず第2期ウルトラシリーズの最終回すべてにいえることだが、同じテーマやウエットなドラマをやるにしても、地味でミニマムな事件ではなく、もう少し子供にもツカミのあるスケールの大きいスペクタルな事件や前後編などで盛り上げておけば、逆説的だが子供たちにもそのテーマやウエットなドラマの印象がもっと濃厚に残ったのではなかろうか?
あるいは、子供時分にはそのテーマやドラマがわからなくても、最終回にスペクタルな印象さえあれば、それをよすがにして成長してからでも何度も再視聴を繰り返すように喚起され、それによってその最終回のテーマ性やドラマ性に気付くマニアの人数は現在よりももっと多くなって、そして第2期ウルトラシリーズの再評価の開始時期ももっと早まっていたのではなかろうか? という気もするのだ。
まぁ、過ぎたことは仕方がないのだが、改めて『タロウ』最終回がスポットを浴びれば、観客に原典作品に対する再視聴欲求を促(うなが)して、なおかつオセロ・ゲームでのコマのひっくり返し的に再評価の光も当たっていたであろうから、こうした映画で往年の作品の名シーンをリフレインすることは、我々のような特撮評論オタクが百万言を費やすよりも、はるかに効果的で意義もあったはずなのだ!
ひとりの人間として強く生きること。これは『タロウ』の次作で、当時の企画書や番宣ポスターにも記されていた通り“生きる厳しさと哀しさを鮮烈に謳(うた)う”『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)でも全編に渡って継承された、ドラマや物語一般の、いや……いわば人間の人生上の普遍的な一大テーマでもある。だから『タロウ』本編で描かれた光太郎と健一の絆を直接には知らずとも、ストーリーの理解に支障はないだろう。なんといっても先の回想場面の挿入にそれらはすべて集約されており、そしてそれで充分なのであり、この回想シーンによってテーマ面にも強く説得力が与えられているのである。
そして、この作品には幼いころに母を病気で亡くし、すでに父もいなかったために引き取ってくれた祖父母すらをも交通事故で喪ってしまい、人に心を開くことをやめてしまった良平という少年が登場する。『レオ』のレギュラー子役、梅田トオル・カオル兄妹の境遇のリメイクのような設定でもあるが、「ひとりの人間として強く生きる」という普遍的なテーマが、彼の描写を通しても描かれるのである!
話は戻るが、先に挙げた『メビウス』第41話などでも、『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)を知らない者には楽しめないのではないのか? といった批判が一部に見受けられた。その意見にも一理はあると思うものの、あれもかつての恩師と教え子たちとの強い絆を描く普遍的なテーマを持つ作品であり、筆者としては特に問題はなかったと考えている。
あの作品を筆者は病院の待合室で視聴したが――私事で恐縮だが、オンエア当日に風邪がひどくなり、会社を早退して診察に訪れたのだ。なお、筆者が住む静岡では『メビウス』は毎週金曜15時30分から放映されていた――、そこに居合わせた、どう見ても『80』を知っているとは思えない中高年層の人々が、桜ヶ岡中学の同窓生たちがウルトラマンエイティに向かって『仰げば尊し』を合唱する場面を見つめて、実に感慨深げな顔をしていたことを昨日のように思い出す。「内輪ウケ」であれば、このような現象は絶対に起きないはずだと、筆者は確信するのだ。
最低限の人生経験さえあれば、誰でも理解できる普遍的な内容のドラマであったと思うのだ。ただ、逆に云うと、メインターゲットである幼児には、「卒業」といった長年の歳月が育くむ感慨も、そんな経験自体をしようがないのだから(笑)、あのドラマの滋味はわからないだろうという問題もあるかもしれない。
しかし、それでも大丈夫だ。ゲストの先輩ウルトラマンが登場して怪獣バトルを繰り広げてくれれば、それで幼児は満足するのだから子供向け番組としても問題はない(笑)。そして、間違って卒業できずにマニアになってしまって(汗)、後年に再視聴してみてはじめて『メビウス』第41話の本当の良さに気づいたとしても、それはそれでそのような回がテレビシリーズ後半であれば、たまには1本くらいあってもよいのではなかろうか?
時は流れて、今から20年前のこと(1986年)。神戸沖にウルトラマンエースの宿敵・異次元人ヤプールの怨念の権化・究極超獣U(ユー)キラーザウルスを封印し、ウルトラの力を失ったハヤタ(=ウルトラマン)、モロボシ・ダン(=ウルトラセブン)、郷秀樹(=帰ってきたウルトラマン・ウルトラマンジャック)、北斗星司(ほくと・せいじ=ウルトラマンエース)が、人間として暮らす光太郎の元を訪れた。自分たちの代わりに光の国へ帰って、地球での経験を活かし後輩たちを育ててほしいと懇願するウルトラ兄弟。
だが、今地球には多くの「家族」がいるため、彼らを置いていくことはできないと主張した光太郎は、タロウと分離することを決意する。ウルトラの母から託された変身アイテム・ウルトラバッジをハヤタから受け取って、タロウと光太郎は分離。そしてタロウは光の国へと帰還し、光太郎は人間として今までどおりの生活に戻ったのである。
東光太郎がウルトラの力を封印したままであれば、『メビウス』第29話『別れの日』~第30話『約束の炎』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061203/p1)、そして『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』などには本来ならばタロウは登場ができないはずであり、なんとも上手な辻褄(つじつま)合わせをしてくれるものである。このプロット自体は幻になってしまったが、これでまたウルトラの歴史に新たな1ページが加わったのだ!
――もちろん、光太郎とタロウが1986年に分離したという新設定は、この幻の企画『メビウス&兄弟2』以前に、『メビウス』放映時の2006年に公開された『メビウス&兄弟』の映画パンフレットなどにて公表された年表で、すでに公式化されていたハズだ――
今まで知らなかったタロウの過去、そしてその想いに感動したミライは「ウルトラの家」で働かせてほしいと懇願する。光太郎は快諾し、ミライの「ウルトラの家」での生活が始まった。年に一度の「ウルトラフェスタ」なる祭りの準備のために、ミライは大忙しとなる。些細(ささい)なことでも大げさに感動していた、いかにもミライらしい行動である(笑)。
毎年恒例として、イベントでは大きなウルトラ兄弟の立像が作られていた。今年の像はウルトラの母であった。
製作途中のウルトラの母を見つめ、ふと懐から亡き母の写真を取り出して語りかける光太郎。
光太郎「無事ですか…… お母さん」
そのころ、カプセルに捕らわれたウルトラの母は、ヒッポリト星人にヒッポリトガスを浴びせられていた!
『タロウ』第1話において、光太郎があやうく日日丸に置き忘れそうになった自身の母の肖像…… 第1話に登場した緑のおばさん、そしてウルトラの母の声を演じたペギー葉山の和服姿のモノクロ写真である。さすがにこれには、今では肖像権の問題も発生するので、許可を得なければならないが、
「二枚目の篠田さんとのせっかくの共演なのに、みどりのおばさんの格好をするのはいやだった」
と語っていた彼女のこと、篠田が出演するのならと、写真の使用どころかウルトラの母の声も再度演じてくれたのではないか!? と思わずはかない期待をしてしまう……(いや、『メビウス』や往年の映画『ウルトラマン物語』でウルトラの母の声を担当したベテラン声優・池田昌子もバッチリよかったんですけどね)。
ウルトラの母の立像をミライが手伝っているところに、健一が3人の男性を連れてきた。
光太郎が笑顔で出迎えたのは、
・ホシノイサム!
・坂田次郎!
・梅津ダン!
の3人であった!
彼らもまた、この「ウルトラの家」の支援者であり、「ウルトラフェスタ」の打ち合わせに訪れたのである。
ひぇ〜っ、ここまでやるか! 個人的には「歴代ヒロイン大集合」よりもたまらん気がするなぁ。
もっとも、「怪獣孤児」の支援者なのだから、『レオ』第3話『涙よさよなら……』で奇怪宇宙人ツルク星人に父を惨殺され、第40話『恐怖の円盤生物シリーズ! MAC(マック)全滅! 円盤は生物だった!』で円盤生物シルバーブルーメの襲来により、妹のカオルまでをも喪ってしまった梅田トオルもやはり来るべきではなかったか!?
あと、欲を云うなら、隠れた名編『タロウ』第38話『ウルトラのクリスマスツリー』に登場した、第5話『親星子星一番星』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071230/p1)におけるタロウと大亀怪獣トータス親子の戦いの最中に両親を亡くしてしまったというゲスト少女・ひとみも再登場させてほしかったところだ。
・ホシノイサムは『ウルトラマン』(66年)に登場した科学特捜隊のマスコット的存在
・坂田次郎は『帰ってきたウルトラマン』(71年)の主役・郷秀樹に憧れるわんぱくな小学生
・梅津ダンは『ウルトラマンA(エース)』(72年)第29話『ウルトラ6番目の弟』以降登場した、ウルトラの星が見えるという超感覚の持ち主であり、「ウルトラ6番目の弟」と称する少年
この3人もまた、健一同様にオリジナルの役者が演じることはかなり難しいかと思う。しかし、ホシノを演じた津沢彰秀は、先日発売されたばかりのDVD付写真集『昭和41年 ウルトラマン誕生』(金田益美編著・ジェネオン エンタテインメント・09年3月25日発売・ISBN:4862354785)に、自身が所蔵するアルバムから貴重なメイキング・スナップを多数提供するなどしていることから、氏は交渉次第では再びホシノ少年(ホシノおじさん・笑)を演じてくれる可能性はありか!?
ホシノは横浜スタジアムの当日の内野指定席券を「ウルトラの家」の人数分、光太郎に手渡す。光太郎・ミライ・健一・施設の子供たちが息抜きにと試合観戦に訪れる――このへんは映画公開時期におけるプロ野球球団・横浜ベイスターズとのタイアップ宣伝を見越した展開か? もちろん全然OKだ!――。
だが、横浜スタジアム近くの海から宇宙大怪獣アストロモンスが出現した! それはウルトラマンタロウが地球で初めて戦った怪獣であった。愕然とする光太郎!
ミライは子供たちを光太郎と健一に託し、ウルトラマンメビウスへと変身する!
GUYSの合体戦闘機・ガンフェニックストライカーもメビウスを援護!
連携攻撃がアストロモンスを圧倒したとき、突如としてヒッポリト星人の声が響いた!
復活した怪獣はアストロモンスだけではない!
リュウに本部のサコミズ総監からの通信が入る。日本各地に同時に4体もの怪獣が出現したというのだ!
北海道に宇宙怪獣エレキング!
京都に古代怪獣ゴモラ!
名古屋に古代怪獣ツインテール!
沖縄に一角超獣バキシム!
メビウスは動揺し、アストロモンスの反撃に倒れる。
そのとき、上空に4つの光が接近!
飛来する初代ウルトラマン・ウルトラセブン・ウルトラマンジャック・ウルトラマンエースのウルトラ4兄弟!
・初代マンvsゴモラ
・セブンvsエレキング
・ジャックvsツインテール
・エースvsバキシム
日本各地で激しい戦いを展開!
メビウスは兄弟たちの参戦に勇気百倍、GUYSとの連携攻撃でアストロモンスを撃破!
ウルトラ4兄弟たちも次々に勝利をおさめる!
だが、倒された怪獣たちのすべてのエネルギーが突如、空中に出現した奇妙な渦の中に飲まれて消えた。
日本各地に同時に複数の怪獣出現! 手前ミソで恐縮だが、筆者なども『ウルトラマンマックス』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060311/p1)放映当時、劇場版でやってほしいなどと同人誌で要望したものだった(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061030/p1)。
異次元宇宙人イカルス星人に操られ、竜巻怪獣シーゴラスが東京湾に、殺し屋超獣バラバが新宿副都心に、宇宙大怪獣ベムスターが四日市コンビナートに、どくろ怪獣レッドキングが大阪・心斎橋に、液汁超獣ハンザギランが北海道に、大蟹超獣キングクラブが瀬戸内海に、同時に出現! 大暴れのあとすべてが合体して暴君怪獣タイラント誕生!
ウルトラ兄弟が日本各地に散り、それぞれの好敵手と一対一のガチンコ対決(※)を同時に繰り広げる! それらの怪獣たちが合体してタイラントになる! などという展開は、筆者ごときや長谷川先生ではなくても、80年代中盤の児童誌『てれびくん』連載の居村真二先生によるウルトラ漫画(ISBN:4813020070)でも存在していた。
70~80年代のそこいらの子供でも、あるいはウルトラファンならば誰もが夢想したことが、子供のころから一度や二度はあるだろう――SF至上主義者や人間ドラマ・社会派テーマ至上主義者などは除く・笑――。だから、全然まったく独創的な意見などではないのだが、それでもやってほしい展開ではあったし、この映画の中盤の盛り上がりとしては絶好の要素であもる!
アストロモンスはともかく、ゴモラ・エレキング・ツインテール・バキシムと、皆が『マックス』と『メビウス』で新造形され、円谷プロの怪獣倉庫からいつでも出動OKの奴ばかりである。予算もかからなくていいぞ(笑)。
実際、それらの往年の人気怪獣たちは、BS11(ビーエス・イレブン)で放映された『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080427/p1)にも流用され、我々古い怪獣マニアを狂喜させているのであり、子供たちはともかく、やはり一般層の親たちにもこうした馴染みのある怪獣たちを総登場させた方が喜ばれるだろう!
それにしても、東光太郎の運命を変えたアストロモンスを出現させて動揺させるあたり、力のみでの制圧ではなく、心理戦の様相をも呈する、原典でもそうであった実にヒッポリト星人らしい戦術(後述)であり、なんともいいセンスをしている!
戦いを終え、横浜の埠頭(ふとう)にミライとハヤタ・ダン・郷・北斗が集結!
ウルトラ兄弟たちは宇宙警備隊大隊長・ウルトラの父の命を受けて地球に来たのである!
彼らが感じていた異変への予兆が強くなったとおりに、地球に怪獣たちが大挙出現したのである!
そこに光太郎も現れ、兄弟たちとの一年ぶりの再会を喜ぶ。なんとハヤタたち4人も毎年ウルトラフェスタに参加しているというのだ! 驚くミライ――つーか、筆者も驚いた!・笑――。
一同がウルトラの家に向かおうとすると……
ミライ「僕がいたから怪獣はこの場所に現れた。もしそうなら、僕が施設にいることで子供たちを危険にさらしてしまうのでは……」
そんな「いい人」全開(笑)のミライの心配を聞き、郷=ジャック兄さんが語りかける。
郷「たしかにウルトラマンであるがゆえ、大切な人たちを危険にさらすこともある。最愛の人を喪うことさえも。それでもウルトラ兄弟たちは戦い続けてきた。必死に人間を守ってきたんだ」
ウルトラの家の一室「ウルトラの部屋」にミライを連れてくるウルトラ兄弟。その部屋には、若き日のハヤタ・ダン・郷・北斗や、彼らがともに戦ってきた防衛チームの仲間たちの勇姿、そしてともに「家族」として暮らした人間たちの、笑顔を写したスナップが壁一面に飾られていた。
郷「ここには、我々が守れなかった人たちの笑顔もある」
坂田自動車修理工場の前で、郷が世話になった坂田健(さかた・けん)、弟の次郎、そして郷の恋人であったアキが微笑む一枚…… 健とアキは『帰ってきた』第37話『ウルトラマン夕陽(ゆうひ)に死す』において、郷秀樹=ウルトラマンジャックの心を錯乱させるため、暗殺宇宙人ナックル星人に惨殺されていた。
郷「次郎くんは俺のせいで大切な人を喪い、ひとりぼっちになってしまった」
その責任を感じて、郷は次郎の兄となるべく努力した。しかし、第41話『バルタン星人Jr(ジュニア)の復讐』(脚本・長坂秀佳)では「バルタン星人を見た!」という証言を信じてくれない郷に次郎が不信感を募らせた。
第49話『宇宙戦士その名はMAT(マット)』(脚本・伊上勝)においては、郷と訪れた芦ノ湖で仲が良さそうな兄・姉・弟の姿を見て、郷の努力にも関わらず、次郎が健とアキをふと思い出してしまうという演出もなされていた。郷も次郎もともに、本当の兄弟にはなれない葛藤に苦しんだのである。
GUYSの仲間たちとともに、数多くの苦悩を乗りこえてきたミライだが、ウルトラ兄弟たちはそれとは比較にならないほど、数えきれない涙や怒りを乗りこえてきたのだ。
それを悟ったミライが決意を新たにする!
ミライ「守りたいです、僕は! 大切な人たちの笑顔を!」
郷「そうだな」
大切な人たちを守りぬく。これも『ウルトラマンダイナ』(97年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971207/p1)のエンディング・テーマが、『君だけを守りたい』であったのに象徴されるように、平成ウルトラシリーズにも継承された普遍的なテーマでもある。
もちろん、「世界を守る」のではなくて、「君だけしか守らない」「大切な人だけしか守らない」ような「私的」なヒーローでは「博愛」とは程遠い存在になってしまう。見知らぬ人であっても、「大切な人」以上に救いの手を差し伸べるべき局面はたくさんあるだろう。だから、倫理的な表現ではなく文学的な表現である歌の歌詞にケチを付けるのも野暮(やぼ)ではあるけれども、男女の恋愛感情のことならばともかく、分け隔て差別なく万人を守るべきヒーローが『君だけを守りたい』をテーゼとしてしまうことに少々の問題は残る。
しかし逆に云うと、「世界を守る」という高尚な仕事をしているのだから、その当人のみならずその家族までもが私的な幸福を犠牲にしてでも尽くすべきであるという考え方には半理があるのだが、あまりに度が過ぎてヒーローの家族や関係者は敵の矢面(やおもて)にさらされてもやむをえないと考えるようでは本末転倒になってくるだろう。だから、極限状況ではともかく、「私的幸福」と「公的幸福」をできる範囲で極力、両立させようとする考え方も必要なのだ。
まして、「世界を守る」わけではない、神ならぬ身の一般の人間は、戦い(=仕事など)を放棄せずにそれを続けていく必要がある場合、そしてそれが身近な人間を危険にさらしたり負担を強いたり、温かい家族関係を損なうような可能性があればなおさらのこと、同時に身近な「大切な人たちを守りぬく」気概も大切なのだ。
『帰ってきたウルトラマン』のことも、坂田兄妹のこともよく知らない観客でも、特に家族の付き添いで来た一般の父親層には、この
「大切な人たちを守りぬく」
というテーゼは強く響くことだろう。
そして、それを体現して説得力を持たせるために、第2期ウルトラシリーズではホームドラマの要素、ウルトラ兄弟やウルトラファミリーの設定が導入されたのではなかったか!? と云ったら、やや云い過ぎではあるが……。
……そのように主張したいところではあるのだが、大切な人たちを守りぬけない局面が、第2期ウルトラシリーズには多々あった。これにはやはり、「大切な人たちを守ろう」とすることは大切なことだが、作り手たちが戦中世代であったこともあり、また昭和の前半は医療の水準がまだまだ低かったこともあって、多産でも幼いうちに死んでしまう兄弟がざらにおり、「大切な人たちを守ろう」としても「守れず」に死なせてしまうこともあるという無常観・諦観(ていかん)も当たり前に作品ににじみ出ていたのかもしれない。
とはいえ、本作のように基本は子供向け映画で、メインターゲットは戦後生まれのファミリー層の観客であるから、「大切な人たちを守ろう」としても「守れず」に死なせてしまうような「昭和」的な重たい展開は、今どきの作品としては、あるいはお祭り映画としてもふさわしくはないであろう(汗)。だから、ハッピーエンドが望まれることだろう。
そして、子供たちにはともかくパパ・ママ層の最も共感を得られると思われる「大切な人たちを守りぬく」というテーゼを訴えるためには、ウルトラ兄弟の助っ人参戦は、そしてかつてウルトラ兄弟の人間態の青年たちと義兄弟や疑似親子の関係をつむいできたレギュラーの少年たちの成れの果ての再登場と再会劇は、とても効果的な要素となっていくのである!
それにしても、第2期ウルトラのレギュラー子役たちの父兄らは、健一しかり、次郎しかり、トオルしかり、父母や兄弟などの家族を喪ってきた。梅津ダン少年でさえも、先に挙げた『A』第29話『ウルトラ6番目の弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061120/p1)において飲酒運転で死んだと思われていた父が、実は地底超獣ギタギタンガから少女を守るために殺された事実が発覚したりしたものだった。
いや、子役の家族たちだけではない。レギュラー陣もまた命を落としている。『80』にしろ防衛組織・UGMの城野エミ(じょうの・えみ)隊員が第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)で侵略星人ガルタン大王からウルトラマンエイティこと矢的猛をかばって殉職する……
まぁ、レギュラーの防衛組織の隊員の殉職であれば、『ジャンボーグA(エース)』(73年・円谷プロ、毎日放送)のPAT(パット)や、『スーパーロボット レッドバロン』(73年・宣弘社、日本テレビ)のSSI、『スーパーロボット マッハバロン』(74年・日本現代企画、日本テレビ)のKSS(キス)など、他のジャンル作品にも例はある。
だが、ふつうの特撮ヒーロー作品であれば、たとえどれだけ市井(しせい)の名もなき人々が怪獣や怪人に殺されようが、主人公の日常性やホームドラマ性に青春ドラマ性、帰るべき安息の空間を作劇的にも保証している、防衛組織の隊員ではない市井のレギュラーキャラたちや、その周辺の一般の人々が死ぬことは通常はあり得ず、最終回までピンピンしていることがふつうであったし、後年の特撮変身ヒーロー作品でもごく少数の例外を除いて基本的にはそうだ。
――とはいえ、こうした名もなき人々が怪獣や怪人に惨殺される描写は、第2次怪獣ブーム⇒変身ブームが頂点に達した1973年、『朝日新聞』への主婦の投書がキッカケで特撮ヒーロー作品が「俗悪番組」として槍玉にあげられる一因ともなった。ただし、それを見慣れてきた世代が親となった現在では、こうした動きはほとんどない――
それらと比較して考えるに、第2期ウルトラシリーズのすべての作品でレギュラーキャラ、あるいはその周辺人物や防衛隊員などが必ず亡くなっているという事実は、怪獣災害や怪獣攻撃隊を描く作品のドラマとしては、ある意味で究極のありうべきリアルでシビアで挑戦的な描写であるとして大いに評価することもできると思うのだ。
まぁ、たしかに子供番組としては少々やりすぎていて、肝心の子供たちもテーマが伝達される以前にそもそも引いてしまった感はあるのだが。そう、「第2期ウルトラシリーズにはテーマやドラマがない」などという主に第1期ウルトラシリーズ至上主義者が長年繰り広げてきた批判は実は的ハズれなのだ。むしろその逆であり、娯楽性や活劇性を少々犠牲にして、重たいテーマや苦いドラマを詰めすぎたところに、第2期ウルトラシリーズの短所(と長所)があったのである!
決意を新たにするミライの肩を郷がポンと叩いたとき、施設の子供たちに続き、ホシノ・次郎・(梅津)ダンが部屋に来て、ハヤタ・郷・北斗と懐かしげに握手を交わし、再会を喜ぶ。
こうなると、レギュラーの子供が登場しなかった『ウルトラセブン』(67年)の主役である、モロボシ・ダンの立場がないなぁ(笑)。
だが、そんなダンにもちゃんと別のドラマが用意されているのである!
ウルトラの家で子供たちの世話をしている20歳くらいの女性・美里は、5歳のときに両親を亡くして、ダンがここに連れてきた少女だった。だが、周囲になじもうとせず、反抗を繰り返していた。ある年のウルトラフェスタで、美里は皆が作ったウルトラの父の像に石を投げつけて、その両耳から生えて上方に反った大きなツノを壊してしまって、恐れと罪悪感でか施設を抜け出してしまう!
美里を捜すためにフェスタは中止。日も暮れるころ、ダンがようやく廃墟に隠れていた美里を発見する。ダンは美里を抱き締めて、こう云った。
ダン「無理することはない。時間をかけていい。いつか心の傷が癒えたとき、笑顔になれたらいい」
このとき、美里はようやく素直になり、ダンに「ゴメンなさい」の言葉を発したのであった。
イジけて施設からひとりで抜け出すあたりは、『タロウ』第24話『これがウルトラの国だ!』にて、飛行機事故で両親を喪った小学生の6兄弟の5番目・ウルトラマンエース担当(笑)こと、いかにも利かん気(きかんき)で気も強そうで、何かヤラかしそうで実際にもヤラかしてしまったヤンチャな四郎くんの挙動なども思い出す(笑)。
美里からその話を聞いて、ダンがどうしてそんなに人間の心を理解できるのか、不思議に思うミライ。
その理由について、ハヤタ・郷・北斗が語る。ウルトラセブンは他のウルトラ兄弟とは違い、人間と合体したのではないので、人間としての過去がない。だからよけいに人間を知ろうと努力したのだと。
ハヤタ・郷・北斗・光太郎はウルトラマンと同化・合体する前はふつうの人間だった。だが、モロボシ・ダンは、地球防衛の任にあたって地球人と合体したのではない――後年のウルトラマンレオ・ウルトラマンエイティ・ウルトラマンメビウスも、セブンと同様に地球人と合体したのではなかったが――。『ウルトラセブン』第17話『地底GO! GO! GO!』で語られたように、セブンが恒点観測員340号として地球を訪れた際、初めて目にした勇敢な若者・薩摩次郎の姿をコピーして、人間に逆変身していたのであった。
セブンの出自は、後年の『メビウス』第22話『日々の未来』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061029/p1)で明らかにされた、メビウスが地球に留まるにあたってヒビノ・ミライという若者の姿を取るようになった物語とほぼ同一である――もちろん、『メビウス』第22話の方が、この『セブン』第17話やテレビアニメシリーズ『ザ★ウルトラマン』第15話『君がウルトラマンだ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090808/p1)へのオマージュでもあったのだが――。宇宙貨物船アランダスが突如として宇宙空間に生じた歪み・ウルトラゾーンに吸いこまれそうになった際、父や船員を救うために自らを犠牲とした火星生まれのバン・ヒロト青年の姿を、メビウスもまたコピーしたのであった。
だから、おまえももっと人間を、人間の時に傷つきやすく、時に気高くもある複雑な心理を知ろうと努力しろと、ウルトラ兄弟はセブンの過去を語ることでミライを諭(さと)したといったところだが、なかなかにウマい、歴代ウルトラシリーズの設定をも活かした作劇なのである。これもまた、『セブン』をよく知らずとも理解のできる普遍的なテーマでもあるし、歴代ウルトラシリーズの設定には通じている怪獣博士タイプの子供や年長のマニア諸氏には、カユいところに手が届く設定を実に見事に活用してみせた人間ドラマなのだった!
しかも、ミライが『メビウス』第2話『俺達の翼』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060627/p1)で仲間たちと戦闘機・ガンフェニックスの塗装をともにした際、地球に来て仲間たちと初めて同じ釜の飯として食したカレーライスが、今夜の晩メシでもあるというオマケ付き! メビウスことウルトラ一族の宇宙人ではなくても、同じ釜の飯を喰うことで仲間意識が醸成されていくのは定番どころか、人間一般の普遍的な事象なのだが、ミライもまた「ウルトラの家」に集った人々とも仲間意識を醸成していくことを、このシーンはベタでも意味させているのだ。
翌朝、横浜港に怪獣タイラント、そしてヒッポリト星人までもが出現した!
ハヤタ・ダン・郷・北斗は、ミライを残して同時変身!
初代ウルトラマン・ウルトラセブン・ウルトラマンジャック・ウルトラマンエースが登場した!
ウルトラ4兄弟とGUYSの連携攻撃がタイラントを圧倒する!
だが、ウルトラ兄弟が必殺光線を放とうとしたとき、海上に突如、青銅色に固められてブロンズ像と化したウルトラの母が浮かび上がった!
愕然となる4兄弟にタイラントが猛然と襲いかかる!
『A』第26話『全滅! ウルトラ5兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061030/p1)でウルトラ5兄弟をブロンズ像にしてしまったヒッポリト星人は、つづく第27話『奇跡! ウルトラの父』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061105/p1)で人類に地球の明け渡しを要求していた。
武力のみでの制圧ではなく、初代『ウルトラマン』に登場した悪質宇宙人メフィラス星人のように、人類の精神・魂までをも挫(くじ)いて支配しようとした侵略方法は、実はウルトラシリーズの中でも空前絶後のものであったが、その刃(やいば)を今回はウルトラ兄弟にも向けたのだ!
『A』第27話では宇宙警備隊の大隊長・ウルトラの父まで倒したヒッポリト星人が、今度は銀十字軍の隊長・ウルトラの母を人質にとり、ウルトラ兄弟に降伏を迫るのだ!
まさに人類にとってのみならず、ウルトラ兄弟にとっても、『A』シリーズ前半におけるレギュラー敵であった異次元超人・巨大ヤプールの悪辣さにも匹敵する、人々の心の持ちようをも試してくる悪魔的な存在である!
長谷川圭一は、『メビウス』第24話『復活のヤプール』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061112/p1)に第44話『エースの願い』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070408/p1)、そして『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』――同映画は『メビウス』第23話と第24話の間の出来事だとしてウラ設定されている――と、『メビウス』におけるヤプール登場話をすべて執筆している。
氏は平成ウルトラ3部作(96〜98年)当時の各雑誌媒体でのインタビュー発言では、明らかに第2期ウルトラに対して批判的な姿勢が見受けられたものだった(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971215/p1)。しかし、平成のこの世に見事に「悪魔」を復活させた氏の作品を観るかぎり、『メビウス』参加にあたって過去の作品を観直す中で、氏の第2期ウルトラ観もかなり変化したのではないかと推測している。
実際、『メビウス』の中で過去のウルトラシリーズからの引用ネタを散りばめていたのは、メインライターの赤星政尚以外では長谷川くらいのものなのだ。氏の円谷における長年の功績からすれば、お仕事とはいえ、書きたくない題材は書かなくても許されるような地位をすでに築きあげていると思えるのだが……
少なくとも近年の氏は、悪のささやきを吹きかけて人間の心を試してあわよくば陥(おとしい)れんとする悪魔メフィストフェレスのような異次元人ヤプールという題材については大いにシンパシーを感じて、創作意欲をかきたてられているのではなかろうか? 個人的には第44話『エースの願い』は当然として、第24話も『メビウス』のベスト5の一編として挙げたいほどの力作だと考えている。
ウルトラ4兄弟を救うべく、ミライはウルトラマンメビウスへと変身!
ヒッポリト星人は光弾を連射!
それが炸裂してガスが発生、ウルトラマンジャックとウルトラマンエースがブロンズ像と化してしまった!
さらに、放たれた光弾がメビウスを直撃する寸前、初代ウルトラマンとウルトラセブンがかばい、ブロンズ化してしまう!
光太郎「僕が戻るまで子供たちを頼む!」
いてもたってもいられなくなった光太郎は、健一たちに子供たちを託すと、施設のガレージからジープで疾走!
そのころ、光の国でも複数の巨大戦艦が襲来! 一斉攻撃を開始していた!
反撃に出るゾフィー! ウルトラマンレオ! アストラ! ウルトラマンエイティ! ウルトラマンヒカリ!
そして、ウルトラの父は、本作冒頭の戦いでのエネルギー喪失で半透明状のタロウを光の球に凝縮、敵戦艦の攻撃をすり抜けて、それを宇宙へと放った!
日本各地に同時に怪獣が出現! それだけにとどまらず、地球とウルトラの星、人類とウルトラ兄弟に同時に危機が迫るという、まさに宇宙的規模の一大攻防戦!
・『A』第13話『死刑! ウルトラ5兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060803/p1)~第14話『銀河に散った5つの星』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060805/p1)の前後編で、ヤプールが放ったニセのウルトラサインでゴルゴダ星に集結したウルトラ兄弟が十字架にかけられ、ひとり地球に脱出したエースも放射能の雨に守られた殺し屋超獣バラバに大苦戦! 降伏を迫られた人類がゴルゴダ星爆破を決断してしまう!
・『レオ』第38話『決闘! レオ兄弟対ウルトラ兄弟』~第39話『レオ兄弟 ウルトラ兄弟 勝利の時』の前後編で、暗黒星人ババルウ星人が化けたニセ・アストラにウルトラキーを奪われたウルトラの星が軌道を狂わされ、地球への衝突コースを突進、地球が天変地異に襲われる中、アストラを犯人だと信じて疑わないウルトラ兄弟とアストラをかばうレオがついに対決!(これまたウルトラ兄弟とレオの心理を巧みに錯乱させた、かなりの知能犯!) そして、人類がそれと知らず、接近してきたウルトラの星をミサイルで爆破することを決断!
今から観れば、細部の展開やSF設定面においてはツッコミどころはあるにしても、第2期ウルトラシリーズで繰り広げられた大スペクタル編を、ツッコミどころが少なくなるように現代的にアップデートして、70~80年代に描かれた小学館の学年誌や『コロコロコミック』に『てれびくん』などで描かれたウルトラ一族が大宇宙で悪の軍団と戦う作品のテイストなども混交させたのが、この『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟2』の企画だったとも整理できるだろう。
ウルトラの母やウルトラ兄弟たちを人質に取られて手出しができず、タイラントとヒッポリト星人に一方的になぶられるメビウス!
胸の中央のカラータイマーが点滅する!
その光景を倉庫街の対岸から見つめる光太郎。
そのとき、ジープに隠れていた良平が光太郎に駆け寄り、強く手を握り、何かを必死で訴えようとした!
光太郎は自分がウルトラの母やウルトラ兄弟の危機にジッとしていられなかったように、良平もまた光太郎と離れたくないと思ったのだと理解した。
光太郎「大丈夫。ウルトラマンは負けない! 絶対に勝つ!」
タイラントの触手に動きを封じられたメビウスに、ヒッポリト星人が光弾を放とうとした!
光太郎「やめろぉぉぉぉぉ〜っ!」
そのとき、光太郎の耳に懐かしい声が響いた。
ウルトラマンタロウの声だ!
光太郎の手に小さな光が飛来し、それはウルトラバッジとなった!
タロウ(もちろんベテラン声優・石丸博也の声であろう!)「もう一度、私とひとつになり、ともに戦おう!」
光太郎「……わかった!」
光太郎が良平に告げる。
光太郎「これから僕はウルトラマンとして戦う。良平はここで待っていてくれ。必ず帰ってくる!」
驚きながらも大きくうなずく良平。
光太郎はウルトラバッジを天高くかざして叫んだ!
光太郎「タロウォォォォーーー!!」
眩い光があふれ、ウルトラマンタロウが登場した!
この場面、我々マニアだけにとどまらず、何十年ぶりかで東光太郎の姿にお目にかかることになった一般層の観客さえもが、思わず熱いものがこみあげて、涙があふれることであろう。
ひとりの少年の心を救うために、ウルトラマンの力を封印し、ひとりの人間として多くの子供たちを救ってきた光太郎が、ひとりの少年の心を救うために、再びウルトラマンとして戦うのだ! 筆者などは光太郎の手に飛来した光が、ウルトラバッジと化した瞬間に多分我慢できなくなるだろう。こうして書いているだけでも……
ここまでドラマチックな展開で主役待遇で描かれていたプロットで交渉されても、首を縦に振らないのでは、篠田三郎を口説き落とすことはそうとう困難だろう…… でも、皆が待っていると思う。懲りずになんとか氏を説得し続けてほしいものだ。時が経てば人の考えは変化することもあるので……
光太郎の命を得て完全復活したウルトラマンタロウは、おそらく石丸ボイスから篠田ボイスの掛け声に変わって(笑)、素早い動きでタイラントを翻弄、触手を切断してメビウスを救った!
ヒッポリト星人が光弾をブロンズ像となったウルトラの母に向けて放つ!
だが、タロウは手首にハメていたキングブレスレットでバリヤを発生させて、ウルトラの母を守った!
キングブレスレットは、『タロウ』第19話『ウルトラの母 愛の奇跡!』において、火山怪鳥バードンに倒されたタロウを、光の国で甦らせたウルトラの母が、タロウに授けた万能武器である。
母からの贈りものを使用して母の危機を救うとは!(涙)
ウルトラマンジャックのウルトラブレスレットもそうであったが、切断技にとどまらず、様々な兵器に変形可能なこうした万能武器は、とかく「ご都合主義」だの「神秘性を損なう」などとして、第1期ウルトラ至上主義者たちからは批判の的となってきたものだった。
タロウのキングブレスレットは、
・第48話『日本の童謡から 怪獣ひなまつり』においては巨大なバケツに変化し(!)、酔っぱらい怪獣ベロンに大量の水をぶっかけて酔いを醒ましたりだとか(笑)
・第49話『歌え! 怪獣ビッグマッチ』においては巨大なマジックハンドに変化し、歌好き怪獣オルフィのヘソから宇宙怪人カーン星人をひっぱり出したり
かなり多目的にイロモノ的にコミカルに使用されたものだが、それをこのようなシーンでカッコよく活躍させるとは!(笑)
大量のブロンズガスを炸裂させるヒッポリト星人だが、タロウのキングブレスレットがガスを押し返した!
メビウスとタロウのダブル光線がついにヒッポリト星人を木っ端微塵に粉砕する!
そして、ウルトラ4兄弟はブロンズ像から元の姿に戻り、ウルトラ合体光線でタイラントを見事に撃破した!
だが、兄弟たちが元の姿に戻ったのに、ウルトラの母だけは依然としてブロンズ像のままだった。
愕然となる兄弟たちの耳に、聞き覚えのある悪魔の声が響いた!
異次元超人・巨大ヤプールの叫びである! ウルトラの母に対して最も強い呪いをかけたというのだ!
なんと、本作には前作『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』に続いて、異次元人ヤプールまでラスボス的に再登場していたのだ!
巨大ヤプール「我らは不滅の怨念。貴様らウルトラ兄弟を倒すまでは何度でも甦るのだ。フハハハハ!」
勝ち誇るように笑う巨大ヤプールの幻影に、上空の渦からタイラント・ゴモラ・エレキング・ツインテール・バキシム・アストロモンスのエネルギーが集結して合体!
巨大でおぞましい究極合体怪獣グランド・タイラントが誕生した!
横浜周辺を徹底的に破壊!
すでにエネルギーの少ないウルトラ兄弟たちを次々になぎ倒すグランド・タイラント!
そのとき、美里は良平がいないことに気付き、裏山の廃墟へと向かう。
だが、いくら呼びかけても返事がない。
そこにグランド・タイラントの光線が炸裂!
天井が崩れ落ちて、美里の悲鳴が響き渡る!
それを聞きつけたセブンが戦列を離れて、『セブン』本編でも何度も披露したように体を瞬時に等身大サイズに縮小して(!)、がれきの隙間から美里を救い出す。
美里はセブンがダンであることを即座に理解し、セブンの胸にもたれてつぶやく。
美里「ありがとう、お父さん……」
まさに「大切な人を守りぬく」の極致であるが、ここもホントウに泣けるシーンである……
その最中もグランド・タイラントはウルトラ兄弟の決死の攻撃をすべて跳ね返す!
さらなる反撃に圧倒され、次々に倒されていくウルトラ兄弟たち!
その光景を見る人々に絶望感が広がる中、健一が叫ぶ!
健一「ウルトラマンは負けない! 僕たちが希望をなくさなければ、絶対に勝つんだ!」
ホシノ・次郎・(梅津)ダン・健一、それぞれの脳裏に初代マン・ジャック・エース・タロウが傷つきながら戦った数々の場面が回想される…… とここでは記述されていた。
このシーンで流すのにふさわしいと個人的に思えるのは、ホシノの回想ならば初代『ウルトラマン』第6話『沿岸警備命令』などはどうであろうか?
東京湾で海獣ゲスラと戦う初代ウルトラマンを見守っていたホシノ少年と友人の男女が、胸のカラータイマーが点滅し始めたのを見て、
「あれが消えると、どうなるの?」
「死ぬかもしれないんだぞ!」
「エッ!?」
「ウルトラマン、がんばれ〜~っ!!」
などと無邪気な声援を送っていた場面である。本作『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟2』の企画が流れたあとに、代わりに実現した『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』には、ゲスラが海獣キングゲスラとして復活していたが(笑)。
それはともかく、この第6話しかり、第3話『科特隊出撃せよ』なども、ホシノ少年は単なるマスコットにとどまらない主役級の扱いであるし、第4話『大爆発5秒前』ではフジアキコ隊員とミチコちゃんを守るため海底原人ラゴンをおびきだしたり、第21話『噴煙突破せよ』では失神したフジ隊員に代わって小型ビートルを発進させたりなどの大活躍を見せている。
また、
・第9話『電光石火作戦』はボーイスカウトの少年
・第20話『恐怖のルート87』はひき逃げ事故で死亡したムトウアキラ
・第26~27話『怪獣殿下』は梅津ダンが「ウルトラ6番目の弟」を自称していたのと同様に「怪獣殿下」を自称していたオサム
・第33話『禁じられた言葉』はメフィラス星人に地球を売り渡すよう要求されるサトル(フジアキコ隊員の弟)
など、かつては第1期ウルトラ至上主義者が第2期ウルトラシリーズが子役ゲスト中心話であったことをよく批判していたものだが、子供が重要なゲストとして登場する回が、実は当の初代『ウルトラマン』にこそかなり存在するのである。
『ウルトラセブン』ではレギュラーの子役が不在であるのみならず、ゲストに子供が登場する回も少なかったが、
・第9話『アンドロイド0(ゼロ)指令』では、「おもちゃじいさん」に化けた頭脳星人チブル星人が玩具に見せかけた兵器を子供たちに配り、午前0時の時報とともに子供たちを侵略兵士として操ろうと企む
・欠番の第12話『遊星より愛をこめて』では、吸血宇宙人スペル星人が新鮮な子供の血液を狙って「宇宙時計」に見せかけた血液採取器を子供たちに配ろうとする
・第10話『怪しい隣人』で、ゲストのアキラ少年が異次元宇宙人イカルス星人の地球侵略準備に気づいた
・第42話『ノンマルトの使者』では、海底原人ノンマルトが海で死んだ少年・真市(しんいち)の霊をメッセンジャーにして宣戦布告する
といった具合に、子供が重要な役回りの回も存在した。
また、第16話『闇に光る目』は、いじめられっ子だったヒロシが「いちばん強い子にしてあげるから」と岩石宇宙人アンノンにそそのかされて利用される話でもあり、児童ドラマとしての出来は大傑作だとは云わないまでも、なかなかの佳作であったと個人的には考える。
実相寺昭雄(じっそうじ・あきお)監督と組んで、第1期ウルトラシリーズでは主に異色作・アンチテーゼ編をものしてきた佐々木守脚本の第38話『勇気ある戦い』は、意外にも第1期ウルトラシリーズ至上主義者がキラいそうな、子役ゲスト中心の第2期ウルトラシリーズやあまたのジャンル作品にもありそうなお話であった。心臓手術を受けることを拒否し続ける治少年と、ロボット怪獣クレージーゴンvsウルトラ警備隊の戦いを並行して描いて、ベタでも本編と特撮のクライマックス・盛り上がりを華麗にリンクさせた作品であった。
――このような作劇は、『メビウス&兄弟2』にも登場する暴君怪獣タイラントが初登場した『タロウ』第40話『ウルトラ兄弟を超えてゆけ!』でも、自転車に乗れないタケシが必死で練習する姿と、タイラントvsウルトラ6兄弟の戦いを並行して描くというかたちで継承されている。
しかし、往年のマニア向け書籍『ファンタスティックコレクションNo.10 ウルトラマンPARTII 空想特撮映像のすばらしき世界』(朝日ソノラマ・78年12月1日発行)においては、『タロウ』を批判するための手段として、この第40話に「本編と特撮のドラマが分離したまま進む奇妙な現象」などと、たしかに一理はあるのだけれども、しょせんは正月休みに放映された旧作名場面フィルム多用の例外的な総集編的エピソードを、あたかも『タロウ』全話の典型的な作劇であったかのように、しかも彼らが崇める『ウルトラセブン』の作劇にもあって、のちのマニア人気が高い『仮面ライダークウガ』(00年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090907/p1)などにも多用された作劇でもあるのに、往時は全否定的な評価を容赦なく与えていたものだ(汗)――
治「ダンはウソつきだ! 人間の科学を信じろなんて、あんなウソつきの云うことが信じられるか!」
などと、手術の立ち会いを約束したのに、クレージーゴン出現のために時間になっても現れないダンを激しくなじる治の姿、そしてクレージーゴンに重傷を負わされながらも治との約束を果たすため、手術開始後に駆けつけるダンの姿には、幼児のころはともかく背伸び盛りの小学校中高学年〜中学生の時期である、いわゆる中二病の時期に鑑賞すると鼻についたかもしれないが、それを通り越して成人してから再鑑賞すると、それなりに心を動かされるものがあるのだ。
この回のダンの姿も、先述したように地球人としての過去がないウルトラセブンが地球人を必死で理解しようとした努力の前例として、本作のプロットを読んだ放映40年後のマニアとしては、後付けではあっても改めてついつい好意的な深読みをしてしまいたくもなってくる。
振り返ってみれば、ウルトラシリーズの元祖『ウルトラQ』(66年)でも、
・第6話『育てよ! カメ』の浦島太郎
・第10話『地底超特急西へ』のイタチ
・第12話『鳥を見た』の三郎(ホシノと同じく津沢が演じた)
・第14話『東京氷河期』の治男
・第15話『カネゴンの繭』の加根田金男
・第18話『虹の卵』のピー子
・第25話『悪魔ッ子』のリリー
などのゲスト子役たちは、本編では完全に主役扱いであった。第1期ウルトラシリーズでも実は児童ドラマは展開されていたのであった!
第6話のような、往年の児童ドラマ『ケンちゃん』シリーズ(68〜82年・国際放映、TBS)を彷彿とさせるかの如く、良質な児童ドラマの趣を持つ作品もあるかと思えば、第25話『悪魔ッ子』のように、
ヤプール「子供が純真だと思っているのは人間だけだ!」(『A』第3話『燃えろ! 超獣地獄』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060521/p1))
ほどではないけど、子供の内面の陰部・闇に触れた作品も少数はあって、けっこうバラエティに富んだ演出がなされていたかと思えるのである。
――陽気な作風だとばかり思われている『タロウ』にも、前述の第11話『血を吸う花は少女の精』などは子供のダークサイドを描いており、そして育児放棄批判からお寺に多数並んでいるお地蔵さんまで写しこんで、無責任な「堕胎・中絶」による「水子」批判(!~メインターゲットの視聴者たる子供たちにはわかるワケがない・汗)までをも匂わせる陰鬱な異色作まであり、ダークな面での作劇の極北にも達していたのだ!――
そのような、あくまで「児童向け作品」としても継続する無限の可能性を秘めていたウルトラシリーズに対して、「SF性」「(社会派)テーマ性」「(大人の)人間ドラマ性」ばかりに着目した第1期ウルトラ至上主義者が、第2期ウルトラを批判するに際してその「児童ドラマ」を「よけいな要素」として排除したことも、その後のウルトラシリーズがマニアと就学前の幼児にしか楽しめないものになってしまったことの一因ではなかっただろうか!?
閑話休題。
さて、次郎の回想場面には、やはり『帰ってきたウルトラマン』第19話『宇宙から来た透明大怪獣』における、忍者怪獣サータンvsウルトラマンジャックの決戦などはどうだろうか?
サータンの長い鼻に首を締められ苦しむジャックのアップに、サータンの出現で重傷を負って病室で寝込む次郎のイメージが重なる。突然、小学校に出現したサータンに殺されたウサギの仇をとってくれ、とウワ言でジャックに懇願する次郎。
ジャックは形勢逆転、念動力でサータンを空中に浮遊させ、ウルトラブレスレットから放つウルトラスーパー光線で木っ端微塵に粉砕した!
70年代末期のマニア向け書籍での記述以来、ウルトラブレスレットのような武器を使うウルトラマンは邪道だと陰に陽に云われるようになって、筆者も当時は口マネしていたが(汗)、やはり子供のころはブレスレットが千変万化する万能性に心を奪われて、次回はどのようなバリエーションを見せてくれるのか!? とワクワクしたものだ。これこそが初代ウルトラマンとの差別化の最たるものでもあるし、ジャック最大のアイデンティティだとも思うのだ!
そして、梅津ダンの回想場面には、なんといっても『A』第29話『ウルトラ6番目の弟』しかないだろう!
地底超獣ギタギタンガに苦戦するエース、そして地底超人アングラモンの出現で断崖絶壁から転落しそうになるダン!
ダン「負けるもんか! 負けるもんか!」
その声に反応したエースが形勢逆転!
エースリフターで地面に叩きつけられたギタギタンガは木っ端微塵!
だが、アングラモンは地震光線で反撃!
大地が裂け、エースは危うく地底深く転落しそうになるが、
ダン「地底人の弱点は、胸だよう!」
という声で空中高くジャンプ! ハンドビームでアングラモンを炎上させた!
いくら同話の脚本が『人造人間キカイダー』(72年)・『仮面ライダーX(エックス)』(74年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20141005/p1)・『少年探偵団』(75年)・刑事ドラマ『特捜最前線』(77~87年)などで数々の傑作を残した長坂秀佳(ながさか・しゅうけい)であり、彼自身がダン少年の名称や――長坂の生誕したばかりのご子息の名前でもあった――、頑張ると「ウルトラの星が見える」という設定を作ったからといって、今観返してみるとここまで本編と特撮のクライマックスが華麗にリンクしたエピソードは、全ウルトラシリーズでもあまり例を見ないのだ。
『A』の第3クールはマニア間では決して評判が高くないし、しかも第4クールの途中でオチが与えられずに劇中から忘れ去られてしまった、かなり生意気(笑)なウルトラ6番目の弟・ダン少年編だったが、実は今になって観返してみると、けっこうシビアでリアルな児童ドラマを展開していて驚いたりもする。
こうした「児童ドラマ」が大成功していたとも云わないけど、鼻につかないようなかたちでもう少しだけうまくやっていく方向性もあったのではなかろうか? 『メビウス』第36話『ミライの妹』ではそれだとは具体的に語られないまでも、明らかにこのダン少年のことを指したセリフでの言及に続いて、今回のプロットでは梅津ダンもまたウルトラの魂を忘れずに灯しつづけていたのだという、往年の『エース』での児童ドラマ編の決着だとも取れる描写を与えてくれたのだともいえて、これでダン少年編も少しは浮かばれようというものだ。そして、今こそ不遇のダン少年編も皆に改めて再視聴してもらって再評価をしてもらいたいものだと切に思う。
健一の回想は、やっぱり『タロウ』第18話『ゾフィが死んだ! タロウも死んだ!』の冒頭だろう。
火山怪鳥バードンの鋭いクチバシに胴体をひと突きにされ、大地に倒れたタロウの胸のカラータイマーの点滅が停止!
横たわるタロウの死体に向かって健一を中心に、あどけない無垢(むく)な顔の幼児に近いような大勢の子供たちがむらがってきて、口々におぼつかない幼い声で、
「タロウ〜〜〜」 「タロウ〜〜〜」 「タロウ〜〜〜〜~」
とその名を健気に叫び続けて、そこに教会の鐘の音(ね)が荘厳に響きわたっていく名場面だ。
これなども、小学校高学年くらいのときに鑑賞すると我々子供の視聴者をバカにしているようにも感じたものだが、高校生以上になってからの再鑑賞だと、たとえ大根(だいこん)演技だとしても、だからこそかえって無垢な子供たちの掛け声だからか、心の琴線(きんせん)が揺さぶられてきてしまうのだ(笑)。
そして、第19話『ウルトラの母 愛の奇跡!』における、ウルトラの星でウルトラの母がタロウを甦らせ、キングブレスレットを授ける場面。地球に戻ったタロウがキングブレスレットの超能力を初使用! 空を飛行しながら左右に分身することでバードンを錯乱させ――それまでひたすら凶悪に描かれてきたバードンだが、ここで目を白黒させる演出はなんともカワイイ!――、火口に激突させる場面を編集して使用するのが最も効果的だろう。
健一たちに続いて、「ウルトラの家」の子供たち、そして日本各地の子供たち、人々がウルトラマンに心からの声援を送った!
多くの強い想いはウルトラ兄弟たちに届いた!
そして、上空に往年のウルトラシリーズに登場してきた防衛組織の戦闘機であるジェットビートル・ウルトラホーク・マットジャイロ・タックアロー・コンドル1号の姿が!
操縦するのはリュウ・ジョージ・マリナ・テッペイ・コノミたち元GUYSのメンバーたちだ!
万一の事態に備えて、リュウはアライソ整備長に進言し、これらの旧型戦闘機に最新型の超絶科学・メテオールを搭載していたのである!
5機の戦闘機が一斉に特殊光線を放ち、ウルトラ兄弟たちのカラータイマーに命中させる!
カラータイマーの点滅が止まり、再び青い光が戻った!
人類はついにウルトラマンにエネルギーを与えられるほどに進歩したのである!
『メビウス』第24話で描かれた「GUYS市民感謝デー」の中でも、初代『マン』に登場した戦闘機・ジェットビートルと『セブン』に登場した戦闘機・ウルトラホーク1号がデモンストレーション飛行を披露していたが、あれからさらに整備が施されて、実戦にまで投入されるとは!(涙)
それらを操縦して旧GUYSのメンバーが勢揃いして帰還を果たし、ましてやウルトラ兄弟の危機を救うなどという華々しい演出! やはり現役視聴者の大半を占める幼児層に最も馴染みが深い彼らについては、漫画アニメ的・記号的に誇張・極端化された人物描写が与えられてきたので拒絶反応を示す年長マニアがいることもわかるのだが、やはりハズすわけにはいかないだろう!
なお、防衛組織がウルトラマンにエネルギーを注入して甦らせるという試みは、昭和ウルトラシリーズにおいては、『ウルトラセブン』第40話『セブン暗殺計画(後編)』において、分身宇宙人ガッツ星人によってクリスタル状の十字架にかけられたウルトラセブンの額のビームランプに向けて、ウルトラ警備隊が地底戦車・マグマライザーでマグネリウムエネルギーを照射し、見事に復活させて以降、久しく描かれてはこなかった。
――平成ウルトラでは、この『セブン』での描写に準じてか、『ウルトラマンティガ』(96年)最終回(第52話)『輝けるものたちへ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20091211/p1)、『ウルトラマンガイア』(98年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19981206/p1)最終回(第51話)『地球はウルトラマンの星』、『ウルトラマンコスモス』(01年)、『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060308/p1)などで描かれてきたが――
しかし、『メビウス』第2話『俺達の翼』で、初代『マン』最終回や『セブン』最終回のセリフにもあった「地球は我々人類、自らの手で守らなければならないんだ!」なるセリフが早くも登場したほど、ウルトラマンの力を頼りにせず、自分たちの全力で戦い、メビウスを適切にサポートしていたGUYSが実施するからこそ、説得力をもって描くことができるというものだ。
ウルトラ兄弟が完全復活!
そして、タロウのキングブレスレットから放たれた光のエネルギーの力が、ウルトラの母をブロンズ像から元の姿へと戻した!
グランド・タイラントは天空から地上へ破壊光弾を乱射した!
そのすべてをウルトラ兄弟が身を呈して防御する!
だが、無数に放たれた光弾のいくつかは兄弟たちの脇をすり抜けた!
その直後、別の光線が光弾を消滅させ、地上への直撃を防いだ!
グランド・タイラントの前に新たに降臨する、ゾフィー! ウルトラマンレオ! アストラ! ウルトラマンエイティ! ウルトラマンヒカリ! そして、ウルトラの父!
全ウルトラ戦士の必殺光線と防衛チームの攻撃を同時に受けて、ついにグランド・タイラントは横浜上空で大爆発!
巨大ヤプールの断末魔の叫び声も響き渡った!
歓喜の声をあげる人々、そして笑顔の子供たち。
良平の眼前に、勝利したウルトラファミリーが勢揃いしていた。
光に包まれ、人間の姿となるウルトラマンたち。
ウルトラの父・ウルトラの母・ゾフィー・アストラの見守る地上に、ミライ・ハヤタ・ダン・郷・北斗・おおとりゲン・矢的猛(やまと・たけし)・セリザワ(!)、そして光太郎が並び立つ。
スカッと爽やかな笑顔で良平に手を振る光太郎。
良平にも明るい笑顔が浮かんだ。
ウルトラの部屋に飾られた、たくさんのウルトラ兄弟の絵。そこに良平が描き終えたばかりの絵が本人の手で飾られる。拍手する子供たち。照れた笑顔で振り向く良平。
良平(声)「ウルトラマンはどうして人間のために戦ってくれるんだろう? 僕にはその答えがわかった気がします。ウルトラマンと人間は家族なんだ! 愛する誰かがピンチになったとき、必ずウルトラマンは戦ってくれます。これからも、ずっと」
エンディングの映像は年に一度のウルトラフェスタ。ウルトラの母のオブジェを囲み、ウルトラ兄弟たちとともに、40年の時間を過ごした多くの懐かしい顔が大集合。彼らはみんな、本当の「家族」なのである……
「家族だからウルトラマンは人間を守ってくれるのだ」という回答が万全なものかはともかくとしても、この映画の企画はディズニーやスタジオジブリのアニメにも決して見劣りしない、究極のファミリー向けプログラムではなかろうか!?
良質な児童ドラマも、時にはあまりにきれいすぎて、鼻についてしまう部分もないわけではない。だが、これは『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』に登場した、宇宙凶剣怪獣ケルビムの襲撃の際に愛犬アルトの危機を救えず、心を閉ざしてしまったタカトの成長ドラマがサブメインであったのと同様、あくまで本流としてはエンターテイメントとしてウルトラ兄弟たちの魅力・カッコよさ・バトルを前面に押し出す作劇になっており、児童ドラマをあまり好ましく思わないシリアス志向のマニア連中の、全員とはいわないまでも半数くらいの人々にも許せる範囲で楽しめる仕上がりにはなっているかとは思えるのだ。
あるいは、若いころは変身ヒーローものにおける児童ドラマが好きではなかったけれど、歳を取って自分も子供を持つような年齢になってくると、児童ドラマも悪くはない、いやむしろ面白い! 出来も優れている! というように、感じ方が変わってきた筆者のようなマニアも、今ではたくさんいるのではないのかとも思う(笑)。
このプロットは2006年9月公開の『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』ヒットの直後、鈴木清プロデューサーの依頼を受けて、長谷川氏が『メビウス』放映中の2006年秋ごろに執筆したそうだ。このプロットをもって篠田を口説き続けていたために、翌2007年度は『ウルトラマン』の映画が1本も公開されなかった可能性もあるだろう。
『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』がクランク・インしたのは2007年10月のことであるが、『ウルトラマンティガ』の主人公・ダイゴ隊員を演じたジャニーズ・V6(ブイシックス)の長野博(ながの・ひろし)の出演をジャニーズ事務所がOKした直後、急遽2週間ほどの短期間でシナリオが仕上げられたという情報もある。それが真実だとするならば、篠田への粘り強い出演交渉は約1年近くに渡って行われていたということになるのだ。
幸か不幸か、『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』は公開3週間で興行収入7億円を突破! 『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』が115日間で興行収入が6億8104万5800円だったそうだから、たとえ篠田が出演しなくても、筆者のような輩が『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』の内容に不満であっても、興行的には大成功をおさめたことになる。
それにケチをつけるわけではないのだが、『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』の興行的成功は、最新テレビシリーズ『ウルトラマンメビウス』終了から1年以上は過ぎていても、まだそれほど歳月が経っていなかったことが最大の理由だろう。しかし、やはりジャニーズの長野博を再び出演させることができたことに加えて、『クイズ! ヘキサゴンII』(05年〜・フジテレビ)における珍回答で「おバカキャラ」としてお茶の間にある程度、浸透してきていた『ウルトラマンダイナ』の主人公・アスカ隊員を演じたつるの剛士(つるの・たけし)が、運よく『超8兄弟』公開1年ほど前からアイドル(?)ユニット「羞恥心(しゅうちしん)」(笑)としてブレイクしていて、彼らが出演することを宣伝に使えたことも、集客の上乗せには効いていたとも思えるのだ。
「羞恥心」は若手俳優のグループという触れこみではあるものの、つるのは実は『ダイナ』で主役のアスカ・シンを演じて以降、役者としての実績はほとんど無きに等しく、『ダイナ』の熱心なファン以外に一般的には知られた存在ではなかったのである。「羞恥心」の生みの親である司会の島田紳助には感謝せねばならないだろう(笑)。
それはともかくとして、そんな旬なアイドルや役者が出演した『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』が『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』を上回る興行収入を稼いでしまった以上、今回紹介したプロットが実現し、我々の悲願であった篠田三郎が主役級で大活躍する作品が公開されたとして、果たして『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』を超える成績をおさめることができたかどうかはたしかに微妙なところなのだが……
それに恐らく篠田三郎ご本人が、『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』と『ウルトラマンメビウス』に続いて、今回のプロットをもってしても出演を断ったがために企画がお流れになってしまったのだろうとも推測されるのだ。
CS放送・ファミリー劇場で2007年度に週1で『ウルトラマンタロウ』が放送された際、事前特番『ウルトラマンタロウのすべて』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071118/p1)には出演しているから、決して『タロウ』という作品をキラっているわけではなく、むしろ『タロウ』最終回を大切にしているからこそ、もう東光太郎を演じないという情報も聞こえてくるのだが…… だとしても、役者の意向とファンの想いはかくも一致しないものなのか!?
だから、筆者は篠田三郎の意向をこそ尊重すべきだ! と主張するような篠田三郎・絶対主義者(笑)では決してない。やはりウルトラ役者の中では最もメジャーな存在なのだから、パブリシティ効果としては大きいし、子供たちにも親しみやすいルックス・人柄であると思われるし、子供たちの母親でも若い層ならばあまり篠田を知らない者も多いだろうが、あの「スカッと爽やか」なキャラは近年のイケメン役者にも決して負けてはおらず、一目惚(ぼ)れするかと思えるので、この企画は実現してほしかったところだが……
――90年代前半のことだったと記憶するが、氏はプリマハムのCMキャラクターを務めていた。これも病院の待合室でのことだったが、たまたまこのCMが流れ、居合わせた幼児が「あっ、タロウだ!」と叫んだものだった。当時の筆者が居住していた関東地区では、88年・90年・93年とTBSが『タロウ』を早朝や夏休みの昼間に繰り返し再放送していたのだ(編註:それ以前だと85年と81年の平日夕方。NHK・BS2でも91年に深夜枠、93年にも夕方枠で放映していた)。もちろん、レンタルビデオ全盛の時代でもあったので、レンタルビデオで鑑賞したり、幼児誌の記事などで知っていたのかもしれない――
今回このプロットを紹介させてもらったのは、DVD『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』メモリアルボックスの特典だから、それ以外の媒体では公表される機会がほぼないだろうと思えたからだった。
加えて、鈴木清プロデューサーも長谷川圭一も、『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』の成功により、次の企画はその続編でいくべきであり、やはり前作で出演がかなわなかった東光太郎=ウルトラマンタロウを中心にストーリーを組んで、タロウ同様に『メビウス&兄弟』や『メビウス』には出演できなかったウルトラマンも可能なかぎり大勢出そうと真剣に考えて、それを実現させようと最大の努力をしていた事実をマニア諸氏にも知らせたかったことも大きい。
残念ながら実現こそしなかったが、長谷川氏が実にノリノリで書いていたであろうことは、一読すれば理解ができる仕上がりになっているかと考える。邪推をしてしまえば、これだけの上出来のプロットをNGにされて、別企画を突如命じられたら、仮にもプロとはいえ作家としてはたしかに気乗りはしないだろうな…… 代案企画である『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』が、熱心なマニア連中に容易にツッコミができてしまうようなアラが多い仕上がりになってしまったこともやむなしかな、とまで考えてしまうのだ。
まぁ、あまりやる気がなかった急場しのぎの作品でも(?)、大当たりしたのだから、「これでいいのだ!」なのかもしれないが……(世の中はそういうことが多いからなぁ)
ただ、これだけ上出来の作品を、お蔵入りさせてしまうのは、やはりあまりにもったいない! このプロットにおける最新ウルトラマンことメビウスを、新作テレビシリーズの新ウルトラマンに代えて、懲りずに篠田を口説き続けてなんとか実現させてほしいものである。たとえ篠田が70代、80代になろうとも!(さすがにキツいか、それは……)
しかしだからといって、篠田三郎が承諾するまでは「ウルトラ」の新作がずっとお預けということも困りものである(笑)。東映はこのところ、毎年夏休み恒例の戦隊&ライダーの映画以外に、『仮面ライダー電王』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080217/p1)や『仮面ライダーキバ』(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080225/p1)などの番外編を短編映画(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080810/p1)として年に数回は劇場公開(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110403/p1)。加えて従来はビデオオリジナル作品として製作されていた新旧2大戦隊の共演作品までも、『炎神(エンジン)戦隊ゴーオンジャーVSゲキレンジャー』(09年)ではついに劇場作品として公開。テレビシリーズ終了作品も人気が落ちないうちに立て続けに連打して、映画として公開してヒットもさせているのである。
――『ゴーオンジャーVSゲキレンジャー』は、中村雅俊主演の映画『ふうけもん』の製作が間に合わなかったために、Vシネマ・ブランドのビデオ販売用だった作品の穴埋め上映だが、正月映画の強豪揃いだったとはいえ興行ベスト10入りがついに叶わなかった『トミカヒーロー レスキューフォース 爆裂MOVIE(バクレツムービー) マッハトレインをレスキューせよ!』(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090404/p1)を上回って、堂々7位にランクイン!――
だから、『ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル』や、ビデオ販売作品『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス』(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080914/p1)などの、Vシネマ並みの低予算で30分程度の短編映画でもいいから――どうせ幼児の集中力はその程度しかもたないのだから・笑――、次の劇場用大作まで番外編的な作品を定期的に製作・公開して、世間の関心を持続させておかないと、大金をかけたせっかくの次の大作がまたコケる、なんてことにもなりかねないぞ!
『ゴジラ ファイナル ウォーズ』(04年・東宝・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060304/p1)以来、5年も新作がないゴジラシリーズなどは、マジでヤバいぞ。私事で恐縮だが、「ウルトラ」や「ライダー」のグッズはヤフーオークションに出品したら大概(たいがい)のものは買い手がつくが、「ゴジラ」の物品はとにかく何を出しても売れない(失笑)。人気の凋落はすさまじいものがある。新作がないので若いファンが増えようがないことも一因だろう。このままではもう「ゴジラ」の復活は見こめないだろうと思わざるを得ないほどだ。
せっかく『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』がヒットしたのだから、熱が冷めないうちに、小さくとも次の一手を用意しておくべきなのである。
(※)「ガチンコ対決」
「今さら人には聞けない日本語」ではないが、筆者はつい最近まで、「ガチンコ」の意味を知らなかった。なんでも「K1(ケー・ワン)」などの格闘技由来で「1対1の真剣勝負」を意味する言葉らしいけど。ただ、スポーツ中継の実況アナが連呼するのはともかく、国会の与党と野党の党首討論を報じるNHKニュースまでもが「ガチンコ」を使用しているのには、「古い人間」だと嘲笑されるのは覚悟の上で「軽薄さ」を感じてならないものがある。そもそも「真剣勝負」を本当にしているのかどうかが疑わしいのだから(笑)。
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http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060415/p1
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