(08年1〜3月 フジテレビ・東映 木曜日 24時45分「ノイタミナ」枠)
(文・Y.AZUMA)
陽気で明るく健康的な鬼太郎たちのご一行様が溌剌と大暴れする日曜日の朝とは対称的に、2008年新春より木曜日深夜には、陰気で暗く不健康な「墓場鬼太郎」とその眷属(けんぞく)が陰々鬱々と蠕動(ぜんどう)する。
まったく誰が何をどう思ったのか、貸本版『墓場鬼太郎』(60)がアニメ化されてしまった(これは「第六作」になるのか、「第零作」かな。「第霊作」になりそう)。
話に聞くとフジテレビがやっている「ノイタミナ(noitamina→animationの逆ね)」という枠、けっこう話題作をやるそうで、これもその一環。
声の出演は第一作オリジナルの野沢雅子、田の中勇(たのなか・いさむ)、大塚周夫(おおつか・ちかお)。
これは見なければならない。妻が久し振りにVTRをセットしたのだが、時代劇専門チャンネル『人形劇 三国志』(82)を見終わったついでに1月10日の第一回を夜更かしして見てしまった。
これをお読みの皆さんには説明不要とは思うが、昭和三十年代までは「貸本屋」というメディアが存在し、「貸本漫画」という専用の媒体が存在していたのである。水木しげるや白土三平、さいとう・たかをや滝田ゆうなんかはその世界の出身。
後年、「週刊少年マガジン」に載ったり(65。67から正式連載)、白黒テレビアニメ(68・ASIN:B0017XB5WG)になった『ゲゲゲの鬼太郎』以前に、この媒体で成立していた『墓場鬼太郎』という話があったのだ。
このへん講釈し始めると四百字詰め原稿用紙で百枚分くらい喋り出して止まらなくなるのでやめるが、悲惨、残忍、残酷、恐怖がちりばめられた暗く絶望的な世界で、かつ妙なユーモアのある漫画であり、続きが読みたくなるものであった。
さて、第一話をみてみた。
内容は、「鬼太郎の誕生」(サブタイトルも同じ)。
絵の作りは、あの貸本漫画に特有のザラザラしたボール紙に印刷されたイメージに近い。
あれ、主人公の水木青年の勤め先が、血液銀行から病院に変わっている。れれれ、違うぞ。
「イヒヒヒヒ、お茶でもいかが」のあの入院患者の容態変容の原因が、「幽霊族の血の輸血」から「幽霊族の霊術」に換えられていた。
ああ、そうか。「血液銀行での売血による輸血」は「黒歴史(くろれきし)」に変わってしまったようだ。
そうだよね。二十一世紀の現実世界でも「血液製剤」などなどさまざまな問題があり、この件はあまりにもホットで現実過ぎるから仕方ないのだろう。この辺の改編は承諾せざるを得ないかも。
で、続けて中身。
水木家に居候する鬼太郎の「ご飯おいしかったです。」という科白(セリフ)。不気味で気持ち悪い声を野沢雅子さん、最高の声の演技で演じていた。
その姿かたちゆえに、誰にも愛されず、すべての人に嫌われ、疎(うと)まれ、呪われる悲しい鬼太郎を、その一言で表していた。
そして、その演技は映画『ALWAYS(オールウェイズ)三丁目の夕日』(05)のように、パウダーシュガーでまぶしたようなファンタジーとしての「昭和」ではない。
私たちが忘れ去りたくて、そして、とうとう本当に忘れてしまった歴史の一部分を、ディストピアの「昭和」として復活させていたのだ。
これを見たら、誰も「昭和」に戻りたいとは思うまい。
第一話では、鬼太郎を育てた水木青年を生きたまま地獄に流し、その母を発狂させたこの恐ろしい親子。第二話以降、どの話で我々に居心地の悪い気持ちにさせてくれるか、とっても楽しみである
(極初期型ねずみ男を大塚周夫がどう演ずるかも期待する)。
で、第二話「夜叉(やしゃ)対ドラキュラ四世」。
大塚周夫演ずる極初期型ねずみ男登場。相変わらず汚い。……というか初めから汚い。
やはり舞台は戦後すぐの世界。
社長の乗る自動車も1940−50年代型のアメリカ車で、やたらでかい。
それに、社長が自動車ごと落ちる崖。今の日本ではどんなに山奥に行っても崖にはガードレールがあり、あんなアフガニスタンのカイバル峠みたいなところは存在しない。やはりもう違う世界の話だ。*1
それと地獄に流された鬼太郎の育ての親・水木の科白
「僕は運が悪かったんだ。」
とは、初期の水木しげる資本マンガに良く出る言葉
(出典『ねずみ町三番地』(75・東孝社・桜井文庫6)。……いいでしょ。三十数年前、新刊で買って持っているもんね。
――編:表題作の『ねずみ町三番地』を含む貸本時代の作品は、今年08年4月になって、『水木しげる[怪奇 貸本名作選]不死鳥を飼う男・猫又』、同『[恐怖 貸本名作選]墓を掘る男・手袋の怪』(08・ホーム社漫画文庫・ISBN:4834274136・ISBN:4834274136)などで再刊!)
このマンガを描いた数年後に、作者水木しげる自身はこの「不運」から見放され、仕事に追われて寝る間もなくなるほどの「幸運」に見舞われるのも、たぶん日本の妖怪たちが二十一世紀に生き延びるため、「水木しげる」を選んだ際のちょっとしたいたずらなのでしょう。
さて、第9話「霧の中のジョニー」編――江原正士(えばら・まさし)が最高。それとジョニー(少年マガジン版では吸血鬼エリート)のモデルは、実はアニメ業界ではとっても有名な人。ネットで検索してみてね――と第10話「ブリガドーン現象」編(作家・京極夏彦先生が怪僧トムポの役)を見てみたけど、まあまあ楽しめた。
やはり、野沢・田の中・大塚の声優コンビでないと、『鬼太郎』は面白くない……というのが、おじさんの結論である。
(#1・2収録)
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