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★★★特撮・アニメ・時代劇・サブカル思想をフォロー!(予定・汗)★★★ ~身辺雑記・小ネタ・ニュース速報の類いはありません

GODZILLA 怪獣惑星 〜『シン・ゴジラ』との相似と相違

(2018年9月13日(木)UP)
『ゴジラ評論60年史』 ~50・60・70・80・90・00年代! 二転三転したゴジラ言説の変遷史!
『シン・ゴジラ』 〜震災・原発・安保法制! そも反戦反核作品か!? 世界情勢・理想の外交・徳義国家ニッポン!
『GODZILLA 決戦機動増殖都市』 〜地球人・X星人・ブラックホール第3惑星人・インファント島民 ゴジラvsメカゴジラ!?
『GODZILLA 星を喰う者』 〜「終焉の必然」と「生への執着」を高次元を媒介に是々非々で天秤にかける!
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GODZILLA 怪獣惑星

(2017年11月17日(金)・封切)

シン・ゴジラ』との相似と相違!

(文・久保達也)
(2017年11月30日脱稿)


 1999年5月、アメリカを襲ったカマキラスの出現に端を発し、ドゴラ・ラドンアンギラスダガーラ・オルガ……と、21世紀前半、世界各地は巨大生物=怪獣たちの襲撃により、壊滅的な打撃を受ける。
 そして2030年、アメリカ西海岸に出現した怪獣ゴジラは、人類のみならず、ほかの怪獣たちをも駆逐(くちく)する脅威(きょうい)的な存在であり、以後人類は15年以上にも渡ってゴジラとの戦いを強(し)いられることとなる。
 度(たび)重なる怪獣たちの出現により、地球は劣悪な環境となり、世界の総人口は7億人にまで減少してしまう。
 地球で生きることもゴジラと戦うこともあきらめざるを得なくなった人類は、ついに2048年、コンピューターが選抜した1万5千人の人々を地球外に移住させる計画を実行する……


 この半世紀に渡る人類対怪獣の激闘を描くだけでも、実に豪華なエンターテイメントとして完成するだろうが、今回の『GODZILLAゴジラ) 怪獣惑星』では、その歴史は冒頭でダイジェストとして説明されるのみだ。
 新天地を求めて宇宙に旅立ったものの、移民船の極限状況の中では命を失う者が続出、生息可能な星も発見できなかった移民たちは、ついに地球への帰還を決意、ゴジラを倒すことで地球を奪還しようとする!


 本作企画当時は、興行収入85億円と、怪獣映画としては史上空前のメガヒットとなった映画『シン・ゴジラ』(16年・東宝http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160824/p1)の製作も、すでに稼働(かどう)していた。
 ゴジラの圧倒的な巨大感や重量感、都市破壊場面の大迫力など、特撮で描かれるからこそ得られるゴジラ最大の魅力に対し、アニメでは到底太刀(たち)打ちできないと考えたスタッフたちは、それ以外の部分でゴジラを魅力的に描くことに勝負をかけたそうだ。
 本作の前提として設定された、半世紀に渡る人類と怪獣たちの激闘史、つまり、世界各地に出現して大暴れする怪獣たちに、人類がさまざまな超兵器で立ち向かうという、映画『怪獣総進撃』(68年・東宝)や、映画『ゴジラ FINAL WARS(ファイナル・ウォーズ)』(04年・東宝http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060304/p1)などではしっかりと描かれた、怪獣映画としては最高に魅力的な要素を、今回あえてはしょったのは、やはり『シン・ゴジラ』との差別化という意味合いが強かったからではなかろうか?


シン・ゴジラ』との差別化! 都市破壊ではなく宇宙。SFメカ戦闘!


 『シン・ゴジラ』から約1ヶ月遅れで公開され、2016年度最大の話題作となったほど、バケモノ的なヒットを飛ばしたアニメ映画『君の名は。』(16年・東宝)のみならず、近年の劇場アニメや深夜アニメの背景美術の飛躍的な進歩を思えば、怪獣たちが暴れる舞台として、実在する世界各都市を忠実に描くことは、技術的には充分に可能なハズなのだ。
 また、2017年末に「最終章」の劇場版が公開される、美少女高校生たちが戦車でドンパチに明け暮れるアニメ『ガールズ&パンツァー』(12年)における、ミリタリー描写の完成度の高さを思えば、たとえアニメであれ、往年の東宝特撮怪獣映画で描かれた防衛隊=自衛隊の対怪獣作戦や攻撃などの活躍をも、リアルに再現することもできるだろう。
 特にアメーバ状の不定形怪獣であるドゴラは、映画『宇宙大怪獣ドゴラ』(64年・東宝)での登場の少なさからしても、むしろ特撮よりもアニメ向きの素材であり、今回はドゴラだけでも都市破壊場面を描いてほしかったと、個人的には思ったりもするのだが……
 それらを切り捨ててまで、アニメならではのゴジラの魅力を追求した『GODZILLA 怪獣惑星』の達成度はいかに?


 地球外惑星移民計画、ワープ航法の一種である亜空間航行、恒星間移民船、人工知能、パワードスーツ……SFチックな用語やメカ描写が散見され、登場人物たちが疑似科学的な議論をかわす世界観。
 これは今から40年前、映画『STAR WARS(スター・ウォーズ)』(77年・アメリカ)や、再放送を機に若い世代の注目を集めたテレビシリーズの総集編として公開されたアニメ映画『宇宙戦艦ヤマト』(77年・東急および東映系で公開・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101207/p1)などで描かれ、当時の若者たちの間に一大SFブーム、アニメブームを巻き起こすこととなった要因と重なるものである。
 これに付随(ふずい)するかたちで70年代末期に巻き起こった第3次怪獣ブームの中で、映画『メカゴジラの逆襲』(75年・東宝)以来途絶えていた怪獣映画・ゴジラシリーズの復興を願った当時のマニアたちは、ゴジラは、そして特撮映画は、『STAR WARS』や『宇宙戦艦ヤマト』に匹敵するような、「SF」としてつくられねばならないと、声高(こわだか)に叫んだものだった。


 だが、その後40年間、日本で「SF」としてつくられた特撮映画の中で、先述した『シン・ゴジラ』や『君の名は。』のように大ヒットし、世間の話題となった作品は、果たしてどれほどあったのだろうか?
 若干(じゃっかん)の偏見(へんけん)を含むことを承知のうえで、あえて書かせてもらうのだが、たとえば熱心なマニアたちの声から一時的にゴジラが復活をとげた映画『ゴジラ』(84年・東宝)で、対ゴジラ兵器として登場したメカ・スーパーX(エックス)は、当時も、そして現在も、筆者にはまるでファーストフードチェーン・マクドナルドの看板メニューであるビッグマックの容器が空を飛んでいるように見えたりする。
 その反面、スーパーXを細長くしたような形状の、『GODZILLA 怪獣惑星』に登場した揚陸艇(ようりくてい)が、移民船アストラム号から発進したり、地上から浮上する場面には説得力を感じてしまう、といった一種矛盾(むじゅん)した、世間の一般人たちとさして変わらないような感覚が、正直筆者にもあるのだ。


 先述したように、今回のスタッフたちは、ゴジラ映画最大の魅力である、重量感あふれる怪獣による都市破壊描写の迫力を描くことはアニメでは困難だと考えたようだ。
 だが、それとは逆に、『ヤマト』のように、広大な宇宙空間を移民船がワープ航法したり、ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズ(79年〜・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990801/p1)に登場するモビルスーツを彷彿(ほうふつ)とさせるパワードスーツが、揚陸艇から次々に出撃するといったSFチックな描写は、特撮マニアがこんなことを云うのもなんだが、やはりアニメの方がよりふさわしい手法であるかと思えるのだ。
 そうしたアニメの方が優勢かと思える、「SF」という同じ土俵で勝負しようとしてきたからこそ、日本の特撮映画はこの40年間、アニメ映画に負けっぱなしだったのではあるまいか!?
 やはり特撮映画は、特撮でこそ、あるいは特撮でしか描けない魅力こそを、前面に押しだすべきではなかったか。
 『シン・ゴジラ』があそこまで大ヒットをとげたのは、ひょっとしたら、特撮映画がアニメには到底太刀打ちできないと思われる、SFチックな要素を切り捨てたからこそではなかったのか? と、今は思えるのだ。


 かの巨大ロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ(95年〜・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220306/p1)の監督として著名な庵野秀明(あんの・ひであき)は、自身も往年の東宝特撮映画やウルトラマンシリーズやスーパーロボットアニメなどが大好きであるにもかかわらず、総監督を務めた『シン・ゴジラ』では対ゴジラ兵器として往年のゴジラ映画に登場したようなスーパーメカをいっさい登場させなかった。
 クライマックスでゴジラ退治に出動したのは、新幹線爆弾や在来線爆弾、クレーンをはじめとする重機など、本来は戦闘用ではない車両を兵器に転用したものだった。
 そして、本編ドラマの中核を成したのは政界の群像劇と、まさに「SF」とは対極に位置するものであり、これは生身の俳優によって演じられるからこそ、やはり説得力が増すと思われるものだ。


 SFチックな要素が大好きな者としては若干残念に思える部分もあったのは確かだが、『シン・ゴジラ』が大ヒットしたのはもちろんのこと、各新聞や雑誌で知識人たちが大絶賛したことを思えば、庵野氏がアニメにはかなわないと思われる要素を切り捨て、実写映画ならではの魅力を追求した選択は、やはり正しかったと云うべきではあるまいか?
 その『シン・ゴジラ』と比較されることがどうしても避けられない今回の『GODZILLA 怪獣惑星』が、アニメでしか描けない魅力を追求することとなったのは、必然と云うよりほかにないのだ。


『シンゴジ』と近似。地球人・X星人・ブラックホール第3惑星人の政治劇


 ただ、本来『シン・ゴジラ』との差別化をはかったハズの『GODZILLA 怪獣惑星』だが、無意識なのか意図的なのか、実は『シン・ゴジラ』に結構似ていると思える要素が2点ほどあったりする。


 先述した人類VSゴジラの半世紀に渡る激闘の中では、母星を失い、地球への移住を求めた宇宙人が、2035年と2036年に立てつづけに来訪しているのだ。
 2035年に地球に来たエクシフなる種族の名称は、古い世代的には映画『怪獣大戦争』(65年・東宝)や、先述した『ゴジラ FINAL WARS』に登場したX(エックス)星人が元ネタだとすぐに気づいてしまった。
 だが、2036年に来訪したビルサルドが、映画『ゴジラ対メカゴジラ』(74年・東宝)に登場したブラックホール第3惑星人をもじった名称であるとは、うかつにも鑑賞後まで気づくことはなかった……


 移住の条件として、エクシフは予知能力と宗教による地球人の魂の救済、ビルサルドは科学技術による地球の軍備の強化と、ともに怪獣たちとの戦いに疲弊(ひへい)していた地球人たちに有益なものを提供すると申し出たことで、地球人はエクシフとビルサルドの移住を承諾、信頼関係がめばえた末に、3星人による地球連合が結成される。
 移民船アストラム号の船内では、地球連合の中央委員会による会議場面が何度か描かれるが、地球人・エクシフ・ビルサルドの3つの種族の間で、それぞれの思惑が錯綜(さくそう)するさまは、まさに『シン・ゴジラ』で描かれた、政界の群像劇をスケールアップさせたものなのだ。
 宗教国家であるエクシフの種族が、皆一様に青白い顔で穏やかな表情をしているのに対し、科学こそ進歩しているものの、日に焼けた浅黒い顔でガテン系の強靱(きょうじん)な体つきの者が多いビルサルドは、本来は闘争本能が強い種族として描かれているようでもある。


 実はビルサルドはゴジラとの戦闘の中で、元ネタとなったブラックホール第3惑星人と同様、ロボット怪獣メカゴジラを出動させようとするも、起動せずにゴジラに敗れたことが、冒頭のダイジェスト場面の中で語られているのだ。
 一見友好的に見えながらも、実は地球侵略をたくらんでいた宇宙人は、往年の東宝特撮映画によく登場したものだが、もしビルサルドがメカゴジラゴジラに勝っていたならば、『ゴジラ対メカゴジラ』のように、今度はメカゴジラを地球侵略の手段に使ったかも? と解釈することも可能なのだ!
 メインで描かれたビルサルドの軍人たちは、見かけとは違って穏健(おんけん)派が多かったが、中にはゴジラを倒すことで反逆の機会をうかがっている者も含まれるようにも見えるあたり、群像劇としてリアルでもあり、なかなかにスリリングでもあった。


『シンゴジ』と近似。ゴジラの生態に即した、未来過ぎないメカでの戦闘


 もうひとつは、移民たちが地球から脱出した二十数年後、地球時間では2万年後(!)のあまりに遠い未来を描いているにもかかわらず、クライマックスの地球連合ゴジラの激闘場面の中では、『シン・ゴジラ』と同じく、いわゆる未来的なスーパーメカが登場しない点である。
 アストラム号はあくまで移民船であるために、戦闘用の兵器をまともに装備していないという、上手な言い訳が前提としてあるためだが、ゴジラ攻撃の中心となるのは、ひとり乗り用の小型ホバーの編隊と、本来は惑星開拓用の掘削(くっさく)機能を持つ重機として開発されたパワードスーツなのだ。
 高速で宙を舞うホバーにまたがる隊員の主観から、俯瞰(ふかん)して地上を進撃するゴジラをとらえたり、ホバーがゴジラに至近距離から攻撃を加えたり、あるいはゴジラの巨大な尾や口からの放射能火炎で吹き飛ばされてみたりと、臨場感にあふれる戦闘描写はまさに絶品であった!
 いくら未来を描いた「SF」であるとはいえ、あまりに非現実的な超兵器では一般層を興(きょう)ざめさせてしまう、との製作側の想いもあったこととは思うが、たとえて云うなら『帰ってきたウルトラマン』(71年)に登場した防衛組織・MAT(マット)の兵器群に共通する、現実の世界に根ざしたメカ描写は、一般層をも納得させる、説得力にあふれるものであったかと思えるのだ。


 今回登場するゴジラはクライマックスに至るまで、その全体像はほとんど描かれないのだが、ゴジラの体表に発生する電磁波エコーの分布グラフが中央委員会の会議の中でやたらと描かれたり、セルヴァムと呼称される、ゴジラと同じ細胞を持つ翼竜型の怪獣の群れが、地球を偵察(ていさつ)する隊員たちを急襲するショッキングな場面などをたたみかけることが、ゴジラの圧倒的な猛威(もうい)を示す伏線として有効に機能している。
 身長が「昭和」のゴジラと同じく50メートルとして設定されているのも、先述したホバー隊やパワードスーツとの激闘を描くのに、あまりにデカすぎては迫真性が失われるとの計算からはじきだされたものだろう。
 ただ体型はかなりマッチョになったのに、体重が「昭和」ゴジラの半分の1万トンというのは、古い世代としてはちょっと解(げ)せないものがあるのは事実だ。
 もっとも今回ゴジラのデザインのモチーフとなっているのが、地球上の生物の中で最も巨大に成長し、何千年も生きるほどに寿命が長い「樹木」であることからすれば、若干体重が軽いことにも説得力は感じられる。
 柊(ひいらぎ)の葉をモチーフにしたらしい形をした背びれのゴジラが、地上を重量感たっぷりに進撃するさまは、さながら森林が生(お)い茂った巨大な山が動いているようでもあり、この狙いもまさに的中したと云えるのではなかろうか?


 セルアニメの時代、たとえば『ザ☆ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971117/p1)なんかでも、特に最終展開におけるスペース・オペラ的な世界観こそ、まさにアニメならではの魅力を発揮したものであったが、そこに登場する怪獣たちの「存在の耐えられない軽さ」だけは、到底隠し通せるものではなかった。
 以後、ウルトラマンのテレビシリーズがまともにアニメで製作されなかったのは、製作側も視聴者側も、それがトラウマとなってしまったためでもあろう。
 だが、特撮でもアニメでもCGがあたりまえに使われるようになった現在では、その隔(へだ)たりはもはや解消しているかに見えるのだ。
 少なくとも、この『GODZILLA 怪獣惑星』は、アニメでも立派にゴジラを、そして怪獣映画を製作可能であることを立派に証明してくれたように思える。


続編にメカゴジラ!? 連年製作することで新たな才能&ファンも開拓せよ


 実は2018年5月に公開される、キービジュアルから推測すればメカゴジラとの怪獣バトルが描かれるであろう(!)、『GODZILLA 決戦機動増殖都市』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180622/p1)を含め、今回のアニメによるゴジラ映画は全3部作として製作されている。
 これで16年7月の『シン・ゴジラ』を皮切りに、3年連続でゴジラ映画の新作が公開されることとなるのだ。
 04年の『ゴジラ FINAL WARS』から『シン・ゴジラ』の間に生じた12年間(!!)ものあまりに長いブランクを思えば、もし仮に『シン・ゴジラ』や『GODZILLA 怪獣惑星』に対して不満を抱(いだ)いた人がいたとしても、この3年連続の新作ゴジラ映画公開には、ゴジラファンなら素直に喜ばしいと思うべきだ、と筆者には思えてならないものがある。


 『シン・ゴジラ』は立ち見の客までもがいた(!!)ほど、あれだけ満員御礼となり、観客の層も老若男女(ろうにゃくなんにょ)、一般層・マニア層問わず幅広かったにもかかわらず、小中学生の姿はほんのわずかしか見られなかったものだった。
 今回の『GODZILLA 怪獣惑星』に至っては、子供の姿は皆無(かいむ)に近かったと云ってよいほどだ。
 「ガキがいないから静かでいいや」などと喜んでいる場合ではない。現在のゴジラファンの圧倒的多数を占める、我々中年世代があの世に行ったら、いったい誰がゴジラを観てくれるというのか?
 ゴジラの商品的価値急落を招いたのは、先述したように、12年間もの長すぎるブランクが生じたことが最大の要因なのである。
 これではゴジラが、怪獣映画がオワコンと化してしまうのも必然であり、たとえ今は人気があるシリーズ作品ではあっても、長期休養に入るや危機的状況を招いてしまうという好例であろう。


 『GODZILLA 怪獣惑星』のメガホンをとった監督のひとり・静野孔文(しずの・こうぶん)は1972年生まれである。70年代の関東地方では春休みや冬休みの夕方になるとフジテレビで頻繁にゴジラ映画を再放送していたそうだし、70年代末期の第3次怪獣ブームの頂点の時期である79年度には春の番組改変期・夏休み・年末・祝日の夜のゴールデンタイム枠でゴジラ映画が放送されたくらいだから、当時は新作こそなかったけれども、熱烈なゴジラファンであっても不思議ではない世代なのだが、実は今までゴジラ映画をまったく観たことがないそうだ。
 むしろ静野監督より10歳以上も年下の83年生まれで、今回主人公のハルオ・サカキを演じたアイドル声優宮野真守(みやの・まもる)が幼稚園児から小学生だったころは、映画『ゴジラVSビオランテ』(89年・東宝)から映画『ゴジラVSデストロイア』(95年・東宝)に至るまで、毎年新作のゴジラ映画が公開されていた時代だった。
 昭和後期シリーズの正義の味方のゴジラではなく、人類の敵であったはずの平成ゴジラを「ヒーロー」として観ていたらしい(笑)宮野だが、彼の世代も、すでに親となり始めている人々も多いことだろう。
 ゴジラを小中学生のころに観ていたその世代であれば、ゴジラの新作が公開されたなら、子供の手をひいて劇場に足を運んでくれることが、おおいに期待できるというものではないのか?
 その状況を毎年確実なものにすることこそ、ゴジラの商品的価値向上につながるのかと、筆者は考えるのだ。


 かのウルトラマンシリーズにせよ、『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)終了から『ウルトラマンギンガ』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200819/p1)に至るまで、6年数ヶ月にも渡って地上波での新作の放映が途絶えたことが、商品的価値凋落(ちょうらく)を招いたのではなかったか?
 あの坂本浩一監督の作品だったにもかかわらず、映画『劇場版ウルトラマンギンガS(エス) 決戦! ウルトラ10勇士!!』(15年・松竹・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200404/p1)の客の入りはガラガラだったものだ。
 だが、『ギンガ』から最新作『ウルトラマンジード』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180213/p1)に至るまで5年連続で新作が放映されたことにより、映画『劇場版ウルトラマンオーブ 絆(きずな)の力、おかりします!』(17年・松竹・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200406/p1)は、地元の静岡市では近年客入りが低調な「平成」仮面ライダーの劇場版並みには客が入るようになった――もちろん全国レベルで見れば、ハコの数でも人気の面でも、ライダーほどの興行成績とはいかないのだが(汗)――。
 なので、アニメ・特撮の手段を問わず、毎年確実に新作のゴジラ映画をつくりつづけることこそ、肝要となるのである。


 なお、『ウルトラマンジード』ではウルトラマンゼロをあいかわらずのヤンキー口調で演じている宮野だが、ハルオは4歳のころに両親をゴジラに殺され、以来20年以上に渡ってゴジラに復讐(ふくしゅう)の炎を燃やしてきたにもかかわらず、宮野は終始感情を押し殺した、静かな演技に徹している。
 ハルオはキャラクターデザイン的にも、実に平均的な、黒髪の日本男児という趣(おもむき)であり、優等生でも不良でもなく、主人公としては意外なくらいにこれといった特徴がないのだ。
 だがこれも、冒頭では反逆者として描かれたものの、終始おだやかな口調で語る、エクシフ族のメトフィエスが良き理解者となり、ハルオが居場所を得られたことで心の変遷(へんせん)をとげ、ヒーローへと転じていく展開に、より観客の感情移入を誘うよう、確信犯的に設計されたキャラクター造形なのだろう。
 メトフィエスの声を演じたのは、最近では故・赤塚不二夫原作のギャグアニメ『おそ松さん』(第1期・16年 第2期・17年)の主人公・松野おそ松役で新境地を拓(ひら)いたベテラン声優・櫻井孝宏(さくらい・たかひろ)だが、ハルオのキャラに次第に厚みを与えていく重要な役どころを、氏は器用に演じきっていたかと思えるのだ。


 ネタバレ防止のために、衝撃的なラストに対する言及は控えておくこととしたい。
 まぁ、代表作のアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』(11年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120527/p1)や、本誌の読者的には『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)のメインライターとして知られる、虚淵玄(うろぶち・げん)がストーリー原案と脚本を務めているのだから、いかにも、といった感じではあるのだが(笑)、これでこそゴジラだ! と、思える幕切れであったことだけは確かだ。
 ちなみに虚淵ゴジラを知らない静野監督と同じ72年生まれなのに、筆者と同世代の67年生まれで、共同監督を務めた瀬下寛之(せした・ひろゆき)並みに、ゴジラには詳しいようだ。静野監督は大のゴジラファンである虚淵氏と瀬下監督の暴走をとめる役割を果たしたようだが、これは78年生まれでウルトラマンに想い入れが薄いハズの作家・乙一(おついち)が、先述した『ウルトラマンジード』のシリーズ構成・メインライターを立派に務めていることを彷彿とさせるようでもある。
 ゴジラに想い入れが強すぎるために、かえってつまらないゴジラ映画をつくってしまった監督も実際にいたのだから――具体例はあげません(爆)――、やはり映画が「総合芸術」である以上、静野監督や乙一氏のような、ゴジラウルトラマンに想い入れのない世代とはいえ、我々の世代をも納得させてくれる感性を持つ人財がメインとして参加することこそ、今後の怪獣映画・特撮番組の未来のために必要なのかもしれない。


2017.11.30.
(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年号』(17年12月30日発行)所収『GODZILLA 怪獣惑星』評より抜粋)


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  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171122/p1

BRAVE STORM ブレイブストーム 〜シルバー仮面×レッドバロン×歴史改変SF×超能力戦闘美少女の良作!

(2018年9月13日(木)UP)
『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』 〜岡部淳也副社長電撃辞任賛否!
『ジャスティス・リーグ』 〜スーパーマン・バットマン・ワンダーウーマン共演作は、ヒーロー大集合映画の教科書たりえたか!?!
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BRAVE STORM ブレイブストーム

(2017年11月10日(金)・封切)

シルバー仮面×レッドバロン×歴史改変SF×超能力戦闘美少女の良作!

(文・T.SATO)
(2017年12月20日脱稿)


 ピーカン・晴天下の大東京の巨大河川を、ナゾの巨大物体が潜航!


 『帰ってきたウルトラマン』(71年)#1などでもおなじみ、巨大鉄橋・勝どき橋を下側から破って、黒い巨大ロボットが出現する!


 しかも、橋の外側からではなくて、橋の上にいる人間の主観映像!



 ナゾの黒い巨大ロボ・ブラックバロンの猛攻で大東京が大ピンチのそのとき、我らが紅の城である巨大ロボ・レッドバロンがやってくる!


 そして、『ゴジラ』初作(54年)の舞台ともなった銀座は和光の時計台がある、昭和初頭のモダンなビルも林立する交差点で白昼堂々、ブラックバロンvsレッドバロンとのガチンコ・バトルが勃発する!


 そこに助っ人参戦するのは、巨大化こそしないものの、第2形態の新スーツに身を包んだシルバー仮面


 俊敏に立ち回り、ブラックバロンにも飛び乗って、TVアニメ『進撃の巨人』(13年)チックな、敵の体表に飛び乗って走行する人間の主観で、巨大な敵の迫力も描き出す!



 往年の特撮巨大ヒーロー『アイアンキング』(72年)や『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)でも、等身大の人間が巨大な怪獣にムチャにも飛びついて飛び乗ってみせる展開があった。それは70年代前半の第2次怪獣ブーム期における類似の巨大特撮作品との差別化でもあって、製作者の当初の脳内イメージにおいては本作『ブレイブストーム』のような特撮映像だったのやもしれない。


 しかし、往時のチャチな特撮では映像的な説得力がなくて(汗)、リアリズムの観点からも該当人物の無謀な性格がやや際立ってしまってサメてしまったことも一方の事実ではあった。てなワケで、今ならば『アイアンキング』のリメイクも映像的にイケるやも!? と思いきや……。


 ネタバレするけど、なんとラストでは、『アイアンキング』の主人公である静弦太朗(しずか・げんたろう)リメイク版が登場し、「アイアンキング」と「不知火(しらぬい)ロボット」のリメイク版の巨大戦までもが登場する!


 といったところで、「TO BE CONTINUED」の字幕が出てきて「幕」となるのだ。……「TO BE CONTINUED」って、ウソつけ!(笑)。いやもちろん、続編が製作されればとても嬉しいですけどね。



 本作の冒頭シーンは、西暦2050年の未来の地球が、往年の特撮変身ヒーロー『シルバー仮面』(71年)序盤でもおなじみ、両目の眼球が左右斜め上にツノのごとく突き出たヒト型宇宙人・キルギス星人の侵略によって、人類滅亡寸前の大ピンチに瀕している姿が描かれる。


 この危機に、原典作品でもおなじみ春日5兄妹は、もう西暦2050年の現代では挽回は困難であると看て取って、タイムマシン(?)を開発し、過去の世界で先行して超兵器である巨大ロボット・レッドバロンを建造して、キルギス星人の侵略の先手を打つことに決定!


 とはいえ、タイムマシンを指令室側から制御することも必要で、5兄弟のうちの長男・長女、光一(こういち)兄さんと壇蜜(だんみつ)(!)演じるひとみ姉さんだけは、この時代に残ることとなる。


 そして、我々にとっての現代である2017年よりもちょっと過去の時代である2013年の世界に到着した光二・光三・ひとみの春日3兄弟は、往年の特撮巨大ロボット『スーパーロボット レッドバロン』(73年)の序盤でおなじみ、ロボット工学の権威・紅健一郎(くれない・けんいちろう)博士に、先出しジャンケン(?)で未来世界での設計図を提示して、紅博士にレッドバロンを秘かに建造してもらうのであった……。



 未来の歴史やテクノロジーを、当人の努力を否定して先行して知ってしまうだなんて反則ワザだし倫理的にもドーだなのだって? いやいやいや。人命どころか人類存亡の危機なのだから、それらを上回った倫理的な正当性も出てくるでしょ!?(笑) てなワケで、コレはコレで映画『ターミネーター』(84年)シリーズにかぎらず、古典SFの時代からのアリがちな題材ではあった。


 けれど、時間SF・タイムパラドクスの要素も入れることで、単調で先がミエミエな善vs悪との拳骨ド突き合い攻防劇からは少々逸(いっ)して、ちょっとした……、ほんのチョットだけの(笑)、知的・ミステリ的なストーリー展開への興味をも惹起することができるのだ。


 たとえば、本作においては、せっかく先行してレッドバロンを開発できたというのに、キルギス星人にその存在がバレてしまったことから、キルギス星人も歴史通りにはふるまわなくなり、歴史に先行して巨大ロボット・ブラックバロンを完成させてしまうのであった! ……そう来なくっちゃ!(笑)


 とはいえ、今どきの作品である以上は、子供にもツッコミされるようなタイム・パラドクス、つまりは過去の歴史を変えてしまえば、今の自分の在り方も変わってしまって、今の自分は未来世界でタイムマシンを開発して、自身の兄妹たちを過去の世界へと送り込まなかったやもしれない……。それでは、やはりキルギス星人に地球は蹂躙されたままとなってしまう! といった矛盾が生じてしまうワケである。


 そういった矛盾を避けるためにか、タイムスリップした先の時点から世界は、「キルギス星人に蹂躙されている歴史を送っている世界」と「レッドバロンキルギス星人撃退に成功するであろう歴史を送る世界」の2つの並行世界・パラレルワールドへと分岐した! といった大設定にて、このタイム・パラドクスは回避がなされているあたりで、今では邦洋SF作品の新たなお約束ともなっているけど(笑)、本作でもそれが踏襲されているのだ。


 よって、光一兄さんとひとみ姉さんが残った西暦2050年の世界はもはや滅びを待つのみなのだけど……。そうしたディストピアな未来世界においても、終盤で時空研究施設の扉を開けてみて屋外を眺めてみるや、そこにもまた別の歴史をたどった世界が出現しており、アイアンキングと不知火ロボットが激闘中!(笑)


 破滅を待つのみであった残された分岐並行世界にもまた別の歴史改変があったらしくて「第3の並行世界」と化してしまったのか、あの時空研究施設の建造物だけが、「当初の並行宇宙」から「新たな平行宇宙」へと局所的に飛ばされてしまったのかはナゾである! ……といったところで、さらに捻ってみせた妙!


 こう書いてくると、本格的な「時間SF」のように誤解させてしまうかもしれないけど、基本的には脳ミソがキン肉の作品ではあった(笑)。


 原典の『シルバー仮面』ではもろもろの事情でシリーズ中盤にてフェードアウトしてしまった春日はるか嬢は、ここでは日本刀をふりまわす超能力少女へと大幅に改変! 特撮バトル以外の本編部分でのアクション部分を担ってもいた。


 コレまた俊敏なアクションができるスゴいお姉ちゃんを連れてきたナと思ったら……。髪型を変えていたからすぐには気付けなかったものの、2017年現在放映中の『ウルトラマンジード』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180213/p1)でも刀剣をふりまわす戦闘メインヒロイン演じているを演じている山本千尋(やまもと・ちひろ)ちゃんじゃねーか! 本作にも出演していたのかヨ! ……ググってみると、本作の方が『ジード』ほかよりも先に撮影していたとのことだそうだ。


 そして、シルバー仮面に変身するマジメな光二くんはともかく、紅博士の弟にしてレッドバロンを操縦してみせる紅健(くれない・けん)は、いかがわしいアングラ(アンダーグランド)の賭けボクサーが出自! ――コレは1973年版ならぬ1994年版の巨大ロボット同士の格闘競技を描いていたTVアニメ版『レッドバロン』からの引用だろうか?(多分、それはない・笑)――


 まぁ、こーいうあくまでも個人としての強さや情熱のたぎりだけを求めているような輩が、「抽象的な世界平和」や「真の意味での公共」のために身をやつすようなことはないようにも思うのだけど(偏見ですか?)、そんな輩であっても「個別具体の兄との情」を媒介とするのであれば、世界を守るためにレッドバロンの操縦者となることを決意してみせるあたりで、個人的には良くも悪くもリアルには思える。そして、メーワクにならないように月面まで飛行していって、そこでレッドバロン操縦の特訓をしているあたり、結局は精神主義&肉体主義の70年代的スポ根(スポーツ根性)ノリでもあったのだ。本作の精髄は推して知るべしだろう(笑)。


 尺は子供向け映画並みの80分しかなかったのだが、飽きることなく実に楽しく鑑賞ができた。


 海の向こうの『パワーレンジャー』シリーズ(93年〜・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080518/p1)を牽引し、いちスーツアクターから監督、ついには製作総指揮にまで登り詰めた坂本浩一カントクを、我らが日本へと呼び戻してみせた御仁は、円谷プロダクション&造形会社・ビルドアップの買収・合併騒動にて、後者側から円谷プロの副社長に就任した、本作『ブレイブストーム』の監督・岡部淳也(おかべ・じゅんや)でもあった。


 オタク上がりらしからぬガハハ親父的な豪放磊落(ごうほう・らいらく)さ、高いコミュ力&行動力で、またたくまにそれまでのミニチュア特撮を捨て去って、背景美術を高精細なフルCGへと置き換えて、下手な人間ドラマも捨て去って、カッコいいアクロバティックなアクション&多数の仮面キャラクター&多数の怪獣キャラクターたちによる順列組み合わせマッチメイク的な攻防劇、大逆転劇に徹してみせた映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(09年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101224/p1)を放った事件は、筆者の記憶にも鮮烈な出来事として残ってもいる。


 2010年代のウルトラシリーズも決して悪くはないのだけど、岡部氏には円谷プロに残って大暴れをしてほしかったものである。前途はなかなかに厳しいだろうが、氏の今後の勇躍を祈りたい。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年号』(17年12月30日発行)『BRAVE STORM ブレイブストーム』合評1より抜粋)


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マイティ・ソー バトルロイヤル 〜新敵出現で宿敵の悪神が正義に協力!(笑) 欧米も実は神仏習合だ!?

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マイティ・ソー バトルロイヤル

(2017年11月3日(金・祝)・日本封切)

新敵出現で宿敵の悪神が正義に協力!(笑) 欧米も実は神仏習合だ!?

(文・T.SATO)
(2017年12月3日脱稿)


 原題の副題は「バトルロイヤル」ではなく、北欧神話における世界の終末預言である「ラグナロク」。まぁ若年オタクやオカルトマニアならばともかく、年長オタク・ライト層・一般層には「何それ? 喰えるの?」的な用語ですよネ(笑)。


 キリスト教が普及する西暦1000年前後までは北欧で信仰を集めていた北欧神話。その最高神オーディンの息子でもある雷神ソーを主人公ヒーローに、北欧神話の神々が住まう天上世界・アスガルドも劇中内では実在する異世界として扱う、マーベル社のアメリカンコミックヒーロー『マイティ・ソー』――初出は1962年なので生誕55歳!(汗)――。


 その実写映画版シリーズの第3弾! ……だそうだけど、そのへんは差別的なイミではなく云うけれど、アメリカ国内の低学歴層(汗)や、欧米とは異なる文化圏の世界市場での受容にも常に目を向けているハリウッド映画だからか、あるいは本作のヒーローが力押しで筋肉バカの熱血ド根性が勝利をもたらすコテコテの作品でもあるからか、一連のシリーズを未見だと理解できないところ、難解なところは一切ありません!


 金髪長髪・碧眼で筋骨隆々のムクつけき、古代の神話の神さまのひとり・雷神ソー――本作では途中で金髪長髪を短髪に剃られてしまうけど――。右手に重たそうな直方体状のデカめのトンカチハンマーを持ち、ブーメランのように飛ばしたり、大きく振りまわすと、バケツの底の水の遠心力の原理(?)で、雷神ソーごと空を超高速で弾丸のように飛行可能! ハードSF的なリアリズムから見たらオカシイけれども、細けぇことは気にするな(笑)。


強敵の登場に、宿敵の悪神(笑)が味方になる展開をドー見る!?


 本作は最高神オーディンが老衰で死ぬや――この世界の神さまは長命であっても死ぬんですネ!――、雷神ソーと弟の悪神・ロキでさえもその存在を知らなかったという(汗)、牢獄に封印されていた長女である死の女神・ヘラが即座に復活して暴虐をふるう! ナンだカンだと紆余曲折の末に、悪神ロキもついに雷神ソーに協力して、悪神ロキよりもっと悪い(笑)姉神と激闘をくりひろげる! ……というのが大まかなストーリー。


 昨日までの敵が、新たな強敵の出現に際して正義の主人公に協力を申し出てくるあたりも、我々日本人的にはここ50年ほど、耳にタコができるくらいに連綿とつづいてきたベタベタな『週刊少年ジャンプ』漫画のノリであり、ストーリーに新奇さはまったくない。既視感あふれるものである。
 けれども、それをテレずに骨太にやっているので、アリガチでも既視感だらけでも、引き込まれてしまうし面白い。


 雷神ソーの宿敵にして弟でもある悪神ロキも、マーベル社のアメコミヒーロー大集合映画『アベンジャーズ』(12年)では、悪い宇宙人とタッグを組んで地球を滅ぼそうとしたほどの始末に困る悪党だったハズなのに、正義の味方に寝返るだなんて、ちっとも「悪い神さま」じゃナイじゃん!(笑) いや、「悪い神さま」ってのは、もって生まれた絶対固定の「原理」ではなくって、単なる代替可能な「役割」「看板」にすぎないってことですか?
 まぁこのへんが、一応は絶対普遍・超越の「一神教」や「二神教」、ストイックで道徳的なお坊さんたちが組み立てた高等経典宗教とは異なる、それ以前の原始的・土俗的でおおらかな欲望肯定、気まぐれで性格破綻者も多くて、ギリシャ神話や日本神話などとも同様、良くも悪くも人間クサい「多神教」の神々たちのテキトー設定なところですかネ。……単に神通力があるだけの俗っぽい古代人じゃねーか!?


 あるいは今回、正義の味方に協力してくれたからって、それまでに犯した悪事の数々の罪は許されるのか!? てな、近くはTV特撮『ウルトラマンオーブ』(16年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170415/p1)の好敵手・ジャグラスジャグラーの改心みたいなツッコミの隙は毎度あるけれど……。まぁ相手は近代的な法治主義が適用されるのかも怪しい人外の神さまだから、というあたりでコチラの批判の舌鋒も鈍ってしまう(笑)。


 死の女神は黒ずくめの服装で、自前の黒髪をなでるや頭部が異様に長大で細長くて先端が逆立った、七支刀か異形(いぎょう)の木の枝のごとき、まがまがしいカブト(?)にCGで変形。しかし、彼女には問答無用の圧倒的な強者・ワル者としての属性しか与えられてません! まぁこの作品はワル側の事情を描く作品ではなく、正義側が集結していくサマにスポットを当てる作品なので、この描かれ方がむしろ正解だとは思う。
 我々日本の特撮マニア的には、ルックス面では往年の『電子戦隊デンジマン』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120205/p1)の悪の首領・ヘドリアン女王なども想起する。ワル者の記号的な表現としては「黒」と「トゲトゲ」で、それを少々ハイブロウにすれば今回の悪女になるということであろう。やっていることは日米ともに本質的・原理的には同じだ。


3大世界を股に、血縁・同郷・旧知で、接点・因縁を紡ぐ物語!


 本作の舞台となるのは3箇所。
 「地球」。「北欧天上世界・アスガルド」。
 そして、我らが住まう大宇宙内の遠い恒星系の惑星か、アスガルドとは地続きでなくとも空間的には同じ異世界か、完成フィルムだけでは即座に判別ができないけど、往年の東京湾夢の島のようなゴミの埋め立て地と闘技場しか出てこない、ググってみるとその土地の名は「惑星サカール」。


 序盤における「天上世界」と「地上世界」とを結ぶ架け橋こと「虹の橋」(笑)が浮かぶ超空間での戦闘で、吹っ飛ばされて橋から落ちてしまい、雷神ソー&悪神ロキの兄弟がワームホール経由で数ヵ月の時差を経て落下した先が、この「惑星サカール」であり、ここが中盤からの舞台となる。
 娯楽活劇映画である以上は、「惑星サカール」でもアクションの大連発! この惑星の統治者である退廃的なオヤジが、古代ローマ帝国のように「公共の福祉」もとい「パンとサーカス」で毎日、巨大円形闘技場でのガチンコバトルを絶賛開催中!
 捕獲された雷神ソーは、ここでグラディエーター(剣闘士)のひとりとして勝ち抜きしていき、最後に当たった相手が、かの有名な緑色の肌に筋骨隆々の巨体を誇ったアメコミ古典ヒーローの超人ハルク!(笑)


 『超人ハルク』――同じく初出は1962年なので生誕55歳!(汗)――が「惑星サカール」にすでに紛れ込んでいるあたりも、リアルに考えたら天文学的な確率のデタラメなご都合主義ではある。ハードSF的なリアリズムから見たらオカシイけれども、細けぇことは気にするな(笑)。
 まぁ一応、雷神ソー&超人ハルクは、同一世界観での旧知、かつて共闘した戦友の仲であり、いちいちヒーローチーム・アベンジャーズがドーコー、映画『アベンジャーズ』での敵宇宙人や敵戦闘員ロボがドーコーとも少々クドめに語らせる。
 それにより、シリーズを未見の観客にも作品の世界観を承知させ、単独映画を超えた広大な世界観を味わいたいようなマニア層をも喜ばす。一石二鳥!
 世界観説明をハショった一見さまお断りの深夜アニメの何度目かの映像化作品『劇場版「Fate/stay night[Heaven’s Feel]」第一章』(17年)あたりにも……(以下略)。


 まぁ結局はリアルシミュレーション的なリアリズムよりもヒーロー共演のカタルシスや、広大な世界地図のような世界観を想起させる方をこそ、実は一般層もマニア層も無意識に重視して楽しんでワクワクしている! ってことですナ。
 緑肌の超人ハルクはシャープでスマートなスーパーヒーローというよりかは、ルックス的には悪の側の三下クラスにも近しい力押しでマッチョな低能の片言キャラでもあり、有名ではあっても憧憬されるヒーロー性には少々乏しいからか、ココいらでそろそろ露出をしておこう! というオトナの計算もスレたマニアには透けて見えるけど……。それもまた良し!


 「惑星サカール」に不時着早々、雷神ソーをグラディエーターとして売るために捕獲した、若くても不敵そうな飲んだくれの若き黒髪の姉ちゃんも、実はまたまたご都合主義(汗)にも「北欧天上世界・アスガルド」出身で、太古の昔に女性戦士軍団の一員として死の女神・ヘラと戦うも全滅した戦闘女神たちの生き残りのひとりであるヴァルキリーであったことが明かされる! てことは、雷神ソーよりもはるかに歳上だけど、明らかに歳下に見えるよなぁ。ハードSF的なリアリズムから見たらオカシイけれども、細けぇことは気にするな(笑)。


 ……一応、補足しておくけど、このテのスーパーヒーローものは、自然主義的なリアリズムよりも、正義が勝って道義がある者が報われる――報われてほしい――というシンボリックな要素が優先される世界観のジャンルなのである。よって、登場人物や超人たちの「世界」や「世間」や「人間関係」が実は狭かったり、そんな彼らの因縁・血縁・バトルロイヤル・痴話喧嘩(笑)で物事が進んでいくご都合主義を、筆者がガチでバカにして否定しているワケではないのは念のため。むしろこのテの作品は非リアルでもそのような因果の連なりで作劇していった方が、テーマ提示の上でも効果的であるとすら思う。その意味においても、ヤンキーDQN(ドキュン)を含むライト層・一般層をゲットする意味でも、内容面においても、副題をアタマの悪い「バトルロイヤル」に変えたこと自体は正解に思う。


北欧天上世界のビジュルアル・ラストバトル・強者集結のカタルシス


 終盤は序盤にも登場した「北欧天上世界・アスガルド」に舞台が戻る。地動説ならぬ天動説の世界であり、その大地は球体ではなく平面で(!)、その世界の果ては海が濁流となって落下しており――海が枯れちゃうよ!(笑)――、そんな平面の大地&海が宇宙に浮かんだ世界になっているあたりは笑ってしまうけど。と同時にロマンもあってファンタスティックでワクワクもしてしまう。
 近代的な建築物は見当たらず、古代・中世的な石造りの建造物が散見されて、風景は高原チックな爽やかな草原であって、なかなかのビジュアルだ。


 この天上世界における死の女神・ヘラ軍団vsアスガルド国の戦士団との戦いも並行して描かれて、北欧神話世界なのに浅野忠信が演じる(汗)天上世界の忠臣の武人もついに倒れて、別の忠臣が国民を逃すために導いて、先の幻想的で長大な「虹の橋」を数千・数万もの民が渡らんとする! そこに迫ってくるのは死の女神・ヘラと、CGの巨大オオカミに、女神が墓場から蘇らせた兵士の死者たちの大軍団!


 絶体絶命のピンチに、雷神ソー・超人ハルク・戦闘女神のヒーローたちが駆けつけてくるのは、古今東西の活劇作品のお約束!
 ……ここで「もっと早く助けに来いよ!」なぞとは云ってはイケナイ(笑)。
 さらには、「惑星サカール」から奪取してきた巨大宇宙船も接舷してきて悪神ロキも見参! 避難民を宇宙船に収納しはじめる――その行為のドコが悪神なんだヨ(汗)――。


 タメとして、彼らが「虹の橋」の上でズラッとヨコ並びするあたりも、戦隊ヒーローやウルトラ6兄弟や7人ライダーの勢ぞろいと、やっていることは変わらない。
 その過程で自己保身のために、死の女神・ヘラの側に就いていた「虹の橋」の卑屈な門番も改心し、我が身を犠牲にして避難民を守ってみせる!――『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171107/p1)でも見たような光景だけど、アリガチでも感動的だしオイシいシーンだ!――


 ここからは尺もボリュームもたっぷりの戦闘シーンを展開。それでも、死の女神を倒せない! さてはてドーする!?
 というところで、ネタバレするけど、「アスガルドとは土地ではなく民である」という死後の世界からの最高神オーディンのささやきで、北欧神話における「ハルマゲドン」こと「ラグナロク」を人為的に招来して(!)、「北欧天上世界・アスガルド」ごと死の女神・ヘラを葬ることで壮絶な戦いは決着を迎える。


 例えてみれば、世界を救うために東京には犠牲になってもらい、核ミサイルを落としてシン・ゴジラhttp://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160824/p1)を抹殺するようなオチである。……イイのか? それで。いやまぁ大局においては、その判断で致し方(いたしかた)ナイとしても、もう少し懊悩してくれよ〜。……な〜んてネ。まぁあんまり現実味はナイ世界観の作品なので、正直そんなことはガチでは気にしてないけど(笑)、論理的にはそのようなツッコミも可能ではある。
 それよりも、北欧神話の神々を信仰する信者の方々から、「北欧天上世界・アスガルド」滅亡に対してクレームが付いたらドーするんだヨ!?(←:1000年も前に滅びた宗教だから大丈夫です・汗)


北欧神話ギリシャ神話・ハロウィン・妖精・魔法使いも残るキリスト教圏!?


 DC社のアメコミヒロイン『ワンダーウーマン』(1941年)は古代ギリシャ神話で、本作『マイティ・ソー』は北欧神話であり、どころか両者はそれらの神話世界とほぼ直系・地続きの世界観にもなっていて(笑)、共に「多神教」の世界観であり、英語のセリフでも「GOD」だの複数形での「GOD『S』」だのと云っている。
 日本の西洋かぶれの知識人たちは、欧米人の「神」の概念は「唯一絶対の形而上(けいじじょう)的な一神教」であり、日本の「八百万(やおよろず)の神々」とは根本的に異なる! 「GOD」を「神」と翻訳したのが間違いだったのだ! それを理解しないとイケナイ……なぞとよく云っているけれど。
 欧米だって「GOD」を複数形で用いたり、キリスト教普及以前のゲルマン・ケルト由来のハロウィンや妖精の伝承がいまだに残っていて、ヴァチカンやローマ法王が望ましくないと云っている魔法使いの映画『ハリー・ポッター』(01年)シリーズだってカトリック数億の信者が観ているのだし(笑)、ユダヤ・キリスト・イスラム教だってあまたの天使・聖人・聖母が実質的には多神教の神々に相当することと、欧米だって大昔からギリシャ神話や北欧神話も語り継がれてきたことを思えば、日本にかぎらず欧米もイイカゲンな複数宗教の神仏習合本地垂迹説ですヨ。


 エンドクレジット後、アスガルドの民を乗せて遠宇宙にワープアウトした巨大宇宙船内で、雷神ソーたちは地球へ向かうことを決断する。しかし、その進路の前方に突如出現した怪しい超巨大宇宙船!!
 来年2018年公開の映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180619/p1)へと「つづく」! ……にて幕となる(笑)。


リアル・シリアスでないアメコミ洋画に、日本特撮も学び、卑下するなかれ!


 ……以上、いちいちオチョくりながら語ってきたのは、アメコミ信者の皆さまを腹立たせよう……もとい、このテのヒーローものは、大金をかけたハリウッド大作であっても、ちっとも「リアル」ではなく、よって「リアルシミュレーション」などではさらさらなく、シャチほこばった「シリアス」ですらなく、能天気なヒーローたちが軽妙な軽口も叩きながら戦う「マイルド」なものであって、正義のヒトに勝ってほしい、道理が通ってほしい、という甘っちょろい他力本願をフィクション内で疑似的・ご都合主義でも(笑)実現させるものであり、どころか身体を自由自在に動かして状況もリードする身体性の快楽をも味あわせるジャンルである! ということを主張したいがためでもあった。
 その点では、特にアメコミ洋画マニアの一部にはチープ視・格下視されているであろう(?)日本の特撮変身ヒーローものも原理的には同じ作り方なのだ。よって日本の特撮ヒーローマニアも、アメコミ洋画マニアに対して過剰に卑下する必要もないであろう――と同時にヘンに排外主義的なナショナリストになれ! と煽っているワケでもないのは念のため――。「増長」でも「卑下」でもない、その中間地点での正当な自己評価としての「自信」&「誇り」は持ってもイイとは思うのだ。


 もちろん映像面ではドーしたって、我らが日本特撮の方が劣るにしても、それもCG技術の進歩で、かつてのように明らかにチープ! ということはもうナイのだ。
 そうとなれば、あとはアイデア&話運びである。
 あるいは幼児はともかく小学校の中高学年以上ともなればタイクツしてしまうであろうルーチンの1話完結の善vs悪の対決を超えて、ライト層や小学生レベルの知的好奇心・ジャンク知識収集癖(笑)を満たすような連続大河ドラマ性や、複数の作品の世界観をヨコ方向に接合したりタテ方向に積層したりして、虚構の世界を広大にして、虚構の歴史も長大としていくような試みである。


 その伝で云うならば、今後の2020年代へとつづく日本の特撮変身ヒーローものも、ヘンに先輩ヒーロー共演に対してストイックになることなく、映画版でのヒーロー大集合に備えて、TV版でも年に1回、あるいは1クールに1回、先輩ヒーローを客演させる番外編などを構築することで、伏線・布石として時期違いのヒーロー大集合映画へと集客し、と同時に子供たちや若いマニアたちに過去作への興味も惹起して、中長期的な関心を継続させてほしいものだ。
――むろんオール・オア・ナッシングで考えているワケではなく、他作品とはつながりがない、個別単独の作品として高いクオリティをねらった作品を作りあげる試み自体を、筆者が否定しているワケでもないのは念のため――



追伸:文脈の都合でここに書くけど、事前に登場が告知されていた、先に映画デビューしたばかりで、複数の宇宙をまたがった劇中用語・マルチバース(多元宇宙)からのエネルギーで魔術を駆使する天才外科医のマーベル・アメコミヒーロー『ドクター・ストレンジ』(16年・日本公開17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170504/p1)は序盤にのみ登場――コレまた初出は1963年の生誕54歳!――。
 悪神ロキに追放されて落ちぶれている最高神オーディンを探しにニューヨークへ来訪した雷神ソーと、お約束だがチンケな誤解でムダな小バトルが勃発!(笑) マントを翻していかにもヒーロー然とした強者としての余裕の風格を見せることで、ゲストの彼のキャラも立ててみせている。
 本作の主題ではナイことからすぐに誤解は解けて、オーディンが引っ越した先の北欧へと魔術で転送してあげる役回りだけで、中盤にもラストバトルにも参戦しないのだが、作品内容がボリュームたっぷりでお腹もいっぱいなことから特に不満もナイ。先の『動物戦隊ジュウオウジャー』(16年)終盤の魔法少女ゲスト回において、往年の魔法戦隊マジイエローがゲスト出演したのに通じる、登場してくれるだけでもプチ豪華な感じ&世界の広さ(狭さ?・笑)&設定的必然性を感じさせてくれる趣向で、観客一般にも喜ばれるだろうとも思う。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2017年晩秋号』(17年12月3日発行)〜『仮面特攻隊2018年号』(17年12月30日発行)所収『マイティ・ソー バトルロイヤル』評より抜粋)


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シンクロナイズドモンスター 〜「ドラマ」と「特撮」が、非モテ男女の痴話喧嘩で究極の一体化!(笑)

(2018年9月13日(木)UP)


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シンクロナイズド モンスター

(17年11月3日(金・祝)・日本封切)

「ドラマ」と「特撮」が、非モテ男女の痴話喧嘩で究極の一体化!(笑)

(文・T.SATO)
(17年12月3日脱稿)


 2017年11月3日(金・祝)。我ながら社会のメーワクのキモオタで恐縮だけど、オタ友だちと新宿バルト9で女児向けアニメ『映画 キラキラ☆プリキュア アラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』(17年)の夕方上映の通例的に大きなお友だちが多い回(のハズ・汗)を観に行ったら、ロビーの中型モニターで本日封切の怪獣映画の予告編が上映されている! ナンじゃコリャ! ちっとも知らないゾ。今までこの映画の予告編すら観たことがナイぞ!
 ひょっとしてジャンル系雑誌では紹介されていたのやもしれないけれども……。残業三昧の仕事がデキない駄目駄目サラリーマンの筆者は書店にすら立ち寄れなくなって久しく、それらを手に取ったり立ち読みする機会もなくなっているので(スイマセン)、本作の存在も寡聞にして知らなかった次第。


 結論。今年2017年のジャンル系洋画では、個人的には一番スナオに面白かったかもしれない。


 都会で挫折してUターンした冴えないOL1名が、田舎で冴えない地元組の同級生男子どもとグダグダと生活する映画。
 怪獣よりも人間ドラマ主導だとは云えるかもしれないけど、それにしては巨大怪獣や巨大ロボットの比重や存在感がアリすぎるので、これはジャンル作品ではない! 怪獣や巨大ロボットは添えものである! とも云い切れない。


 非モテ男女どもの異性への不慣れから来る(笑)、誰と誰がいっしょにいる、ふたりの物理的距離が妙に近い、ふたりが仲良く話していることに関して、表面は平静を装っていても内心ではフツフツと沸きあがってくるプチ・嫉妬が、実は彼らも知らず、地球のウラ側の韓国はソウルで、怪獣や巨大ロボットを実体化して暴れさせていた! という設定で、「人間ドラマ」と「特撮バトル」が痴話喧嘩の実体化として究極の一体化を遂げる!(笑)


 非モテ男女と書いてしまったけれども、もっと厳密に云うならば、女性主人公自身は地味な色彩の服装で多少クタビれてもいるけれど、長身痩身のスリム女子。少々ボサボサ頭のボリュームもある黒髪ロングの頭頂部を指を立ててポリポリと掻くのがクセ。
 ムダに男性に媚びた感じはなくカラッとしているけど、女を捨てているタイプというワケでもない。知的な仕事もデキそうで、実際にもWeb媒体でのライターを務めていたこともある。一流を目指してはいないけど、出来れば貪欲に「仕事」も「遊び」も「恋」も! というタイプなので、ストリートに繰り出すようなギャルはともかく、お文化的なものにも関心があるようなサブカル女子などが親近感を持ちそうな女性キャラでもある。
 とはいえ、品行方正な人格者ではなく、都会では男と同棲していたし、お酒で酔いつぶれて二日酔いになるような適度なダラシなさもあるあたり、ますますそのテの女子たちが親しみを持ったり、あの程度ならば崩れてみたい(笑)と憧憬させるような女子像でもあるように思う。
 主演女優はジャンルファン的にはアメコミヒーロー「バットマン」映画『ダークナイト ライジング』(12年)の女怪盗役の御仁。


 対するに、登場する男子どもは田舎から出たこともなく、実家のバーを継いだだけであったり、アリえたかもしれないオルタナティブなもうひとつの人生を送れなかったことを後悔してクスぶってもいる(汗)。と同時に都会で一度は成功した彼女のことを、郷土の誇りだとも思っていたと語ってみせる。


 偶然にも田舎の道路で遭遇したことで、厚意と少々の下心から無職の女性主人公を店のバイトに雇ってあげた非モテ男子くんはイイ奴だとは思う。しかし、物語後半からの彼の描かれ方は容赦がナイ。女子の世界に非モテ男子はしょせんは不要というワケか?(笑)
 平穏で自堕落な日々を重ねるうちに、非モテ男子の後輩のちょいイイ男の――でも頼りない――青年クンに、女性主人公が酒の勢いでちょっかい出して誘惑もして一夜のアバンチュールでつまみ食いをしてしまったことからさぁ大変!
 非モテ男子くんの嫉妬&怒りの炎がメラメラと燃え上がる! コレがまた実にみっともなくて情けない姿に描かれていて、それもまたまごうことなき非モテ男子の真理・真実ではあるけれど(笑)。実際、彼のようにオモテに出して取り乱したりはしないけど、内心では取り乱すだろうから(笑)、非モテの筆者には彼の気持ちが実によくわかるなぁ(爆)。


 往々にしてSF映画やアクション映画や特撮映画は、人間ドラマ部分が段取りっぽくなったり、高尚に過ぎて頭デッカチな血肉のないセリフになりがちなものだけど、この作品は人間ドラマ部分も、あくまでもナチュラルに自然に没入できるように描かれている!


 巨大怪獣は、日本の往年の巨大怪獣ギャオス(翼竜モチーフ)とガッパ(河童モチーフ)の折衷のようにも筆者には見える――あくまでも私見です!――。あるいはギャオスが両翼を失い痩せ細った果てに、人間のように直立した姿のようにも見える。特に頭頂部がまっ平らの斜面で特徴的な逆三角形にもなっているだけに。
 巨大ロボットも、子供向け玩具のようでありながら、実写版・映画『トランスフォーマー』(07年)や映画『パシフィック・リム』(13年)に出てくる巨大ロボットみたい……と云ったらホメすぎですかネ?


 怪獣や巨大ロボットはフルCGだが、今時だからかチャチさはまったくナイ。常に夜景のビル街に出現し、巨大感も重厚感も絶品である。


 とはいえ、大作映画ではないB級作品だと思って鑑賞しているから、事前にさして期待してないことから来る落差から下手ウマとして許容できるのであって、コレが大作映画のように宣伝された果てに鑑賞した日には、もしかしたら物足りなく思ったのかもしれず……。
 その意味では「小粒の良品」にすぎないのかもしれないけれども、筆者個人は気に入ったし、マニアでなくとも万人が楽しめる作品に仕上がっているとも思う。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2017年晩秋号』(17年12月3日発行)〜『仮面特攻隊2018年号』(17年12月30日発行)所収『シンクロナイズド モンスター』評より抜粋)


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マイティ・ソー バトルロイヤル』 〜新敵出現で宿敵の悪神が正義に協力!(笑) 欧米も実は神仏習合だ!?

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ブレードランナー2049  〜人造人間の脳内彼女(汗)を発端に、新主人公vs旧主人公へ帰着

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ブレードランナー2049(ニー・ゼロ・ヨン・キュウ)』

(2017年10月27日(金)・日本封切)

人造人間の脳内彼女(汗)を発端に、新主人公vs旧主人公へ帰着!

(文・T.SATO)
(2017年12月3日脱稿)


 チリひとつ落ちてないデオドラントで無機質な白亜の計画都市ではなく、エアカーが空を飛び交うも「SONY」や「強力わかもと」だのの、今は昔の20世紀後半でも眼にした色とりどりのあまたの巨大宣伝ネオンが、酸性雨の霧雨に濡れた窓ガラスや路面に反射する。100万ドルの夜景のビル街の谷間には小汚い屋台が埋まり、白人主人公は割りバシを割ってウドンを食している……。
 SF映画における近未来の都市ビジュアルを、欧米圏であってさえも我々黄色いサル(笑)が侵食し、文化や習俗に食生活までも東洋的なものが席巻して、70〜80年代に勃興しだして欧米を超える勢いを示しはじめた日本や東南アジアの猥雑な都市像の延長線としてのビジュアルで、近未来の都市像を塗り替えたSF映画の金字塔『ブレードランナー』(82年)。
 その35年後(!)の正統続編が、本作では同年公開のSF映画『エイリアン:コヴェナント』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171104/p1)の監督業に傾注してか、製作総指揮の筆頭にまわるも、初作のリドリー・スコット監督の全面介入で、元祖の30年後の世界を舞台としてまさかの登場!
 ロサンゼルスの人造人間を抹殺する専門刑事であった前作の主人公ハリソン・フォードも御年75歳になって出演!――まぁ終盤になるまで全然登場しませんけどネ(汗)――
 戦後も72年。35年前の1982年当時には、そのさらなる35年前だなんて終戦直後の焼跡闇市の時代だから、筆者自身も生を受けていないので、はるかに遠い昔だと思ったものだけど……。


 アレからもう35年。東南アジア的な近未来都市のビジュアルにはもう新鮮な驚きはナイ。しかし新鮮な驚きがナイこと自体が悪いということにもならない。東南アジア的な近未来都市像が、もはや本作にかぎらず近未来ものの歌舞伎的様式美のデフォルト・初期設定になったということでもあろう。筆者も今では、本作『2049(ニー・ゼロ・ヨン・キュウ)』の近未来都市像が1周まわって、日本の漫画原作(89年)で同年2017年春公開の先のハリウッドの実写映画版『ゴースト・イン・ザ・シェル(攻殻機動隊)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170510/p1)でも見たような光景だよなぁ……などと逆立ちしたことをつい条件反射的に思ってしまう。


 内容の形式面においては一応、元祖『ブレードランナー』を踏襲。各地に潜伏している旧世代・ネクサス8型の人造人間・レプリカント――機械のロボットではなく遺伝子工学で製造された人間型生物――たちを、新主人公の専門刑事が捜索の末に抹殺していく。
 しかし、新主人公自身が意図的に機能を制限された新世代・ネクサス9型の人造人間であり、旧世代・ネクサス8型は高度な自我や精神を持ち人類に反逆する可能性があるあたり、「それ、ナンて『エイリアン:コヴェナント』?(笑)」
 まぁ敵も味方も同根というあたりは、日本の特撮マニア的には昭和&平成の『仮面ライダー』シリーズにて散々やってきているネタだから既視感はあるけれど、それはさておき自己懐疑なき存在論的な勧善懲悪ではなく、自身の理念・思想・正義・根拠のみならず、自身が矛盾をはらんだ存在であり、自己の出自や存在自体にも揺さぶりをかけるという意味では、元祖よりもさらに先へとテーマを進めたかもしれない。
――元祖の旧主人公ハリソン・フォード自身もまた人造人間であったのだと、御大リドリー・スコット監督は後年に明言しているのは筆者も承知している。しかし、そのような発言はヤボにも思える。人間・人造人間いずれであるかをボカしておいて、ドーとでも取れるようにしておくのがイキというものであろう。加えて、完成フィルムの外でのスタッフの発言や副読本を参照して「答案用紙の答え合わせ」をするかのような批評・評論もいかがなものか? 作品批評とは基本的には完成フィルムだけで解釈すべきであって、そこから解釈可能なすべての見解は、スタッフにとっては本意ではなかったものも含めてアリだと思うのだ――


新主人公が自室で癒されてる立体映像AI美少女は、非モテ脳内彼女の進化型か!?


 とはいえ、新主人公が捜査を終えて、警察署に戻って人間である女上司に報告し、ほとんどロビーや廊下はアル中やヤク中で埋め尽くされ、落書きだらけのスラム状態にあるマンション(?)の扉を開けて、防音が行き届いて夜景も望める静かな下宿に戻ってみれば、立体映像で投射される日本人好みのニコニコと愛くるしいアイドル顔の黒髪おかっぱショートで癒やし系の立体映像AI(人工知能)美少女が待っている。そして彼女との会話のやりとりに、彼は明らかに慰めを得ている。
 ……ナンだよ、ナンだよ! 我々非モテ男子の脳内彼女の進化形態かよ!?(笑) 美少女ゲームで美少女キャラと擬似的会話をするようなモノですか!? クールな人造人間刑事も我々オタと同類かよ!? 我々オタ人種の未来の姿の風刺かよ!?
 まぁたしかに未来のオタはおそらくテクノロジーのムダ使いのVR(仮想現実)やAR(拡張現実)やセクサロイドなどで、精神や肉体の慰謝を得るのだろうネ(汗)。
 『電車男』(04年・新潮社)ならぬ、本田透センセイのオタク論『電波男』(05年・三才ブックスhttp://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070318/p1)ではナイけれど、内向的な一人暮らしの都会人がその孤独・絶望・秘かな怒りをコジらせて秋葉原通り魔殺人犯(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080617/p1)になるくらいならば、オモテの学校や会社では影のウスい取るに足らない無用のモブキャラとして扱われて生きがい・手応え・充足・自尊心を得られない透明な我々でも(汗)、アニメ美少女やAI彼女との疑似的会話やSNSでの書き込みで、自分をひとりの人間として認知してもらい、疑似的に立ててもらうことで慰謝を得て、人間性や最低限のプライドをかろうじて維持することも、最悪ではなく次悪というイミでは決して間違ったことでもナイと私見(泣)。


 と思いつつも、新世代・人造人間は、旧世代・人造人間と比して人間的な感情機能をセーブ(抑制)されてたんじゃないのかよ!? コレだとナンにもセーブされていない、全開のフル・スロットル(笑)にも見えるよ! との若干(じゃっかん)の設定の不整合も感じてしまう。
 まぁ新世代型とはいえ、人間的な感情を全部オミットしたワケではないし、人間なり人造人間が、単なる記憶・データの蓄積を超えて、何らかの高次な価値判断を行なう際にも、好悪・快不快・生存欲求・リビドーみたいな鼻の先のニンジンに駆動される肉体的・生化学的・脳内分泌物質的な要素がその根っこ・基盤には必要だとも思うので、人間的な感情が全廃されていないこと自体は個人的には正しいと思うしリアルであるとも思う。
 しかし、機械的・事務的な彼らの「わずか(?)に残る人間性や感情」が「美少女萌え」だとして描かれると、いかに「プラトニックだ」「性的不能だ」「リアル女性への加傷性の回避」だと正当化・美化しようとも、「人間的な、あまりに人間的な」(ニーチェ)。
 「わずかに残る人間性や感情」どころじゃなく、ほぼ非モテのオタク、もとい「人間」そのものの行動であって、コレだと旧世代型ともリアルな人間とも、彼は「人間性」の一点においてはほぼ相違がなくなって、それもまたドーなのかなぁ? 新世代型・旧世代型・人間それぞれで、何らかのグラデーション的な相違・描き分け描写はもっと必要だったのではあるまいか?
 どころか、売春婦――彼女も新世代型レプリカント?――を自室に招いて、相思相愛のAI美少女との合意の上で、売春婦とAI美少女の立体映像をシンクロさせてHしたりして、もう新主人公はその複雑で倒錯的な性のメンタルにおいて充分に「人間」ですよ!?


新世代・人造人間が自分探しの果てに、旧世代・人造人間のヒミツと旧主人公に肉薄!?


 とはいえ、人造人間たちはHはできても、子孫を残すことはできない。……ハズなのだが、捜査の過程でロス郊外の旧世代型・人造人間宅の近くの大木の根元で発見した人造人間――骨片にモールドされた識別番号から実は前作のヒロインだと判明!――の遺骨から、彼女に帝王切開による合併症での死亡の形跡が認められ、根絶すべき旧世代型・人造人間たちが子孫を増殖させる危険性が発覚する。
 生殖機能を除外したハズなのに、生命の神秘か突然変異が生じて繁殖を開始してしまうネタは、恐竜映画『ジュラシック・パーク』初作(93年)を想起するけど、その例えだとロマンチックじゃないので、ココでは「愛の奇跡」だということにしておこう(笑)。


 加えて、大木の根元に彫られた生年月日らしき数字の組み合わせに、新主人公は見覚えがあり、そこから自分探しも始まる。
 イジメっ子たちに追われて、奪われようとしていた小型の木馬の玩具をとっさに隠した幼少時の記憶。それは最初からオトナとして孤独&不安の中で生まれる人造人間に植え付けられた、個々人ごとの感情安定用の偽造記憶のハズだったが、先の生年月日生まれの人間を探索する過程において、見覚えのある風景をさまよう果てに、その隠された木馬を発見!
 アレは人造の記憶ではなく、誰かホントウの人間の記憶かも? ひいては自分自身のホントウの記憶かも? 自身は前作主人公と前作ヒロインの実子かも!? ……という手応え・実存・自分の人生の手綱を握る横溢(おういつ)感に束の間、新主人公は満たされる。


 免疫不全で無菌室に住まう、人造人間の偽造記憶専門の無邪気でキレイな女博士も、細部のスジが通っていることから、それは人造の記憶ではなく、誰か特定個人のホンモノの記憶だと太鼓判を押してくれる。
 ところがドッコイ、それは旧世代・人造人間たちが真の実子を隠すため、世間を欺くための手の込んだ、入り組んだカモフラージュであり、やはり彼は真の実子ではなかった……というビミョーに落胆のオチとなっていく。


 オイオイオイ。虐げられし旧世代・人造人間たちも、希望の星を守るためとはいえ、人権無視のエゲツないことをするよなぁ。
 まぁ新主人公も思春期の繊細ナイーブな少年少女とかではナイので、そのことで過剰に傷心したり取り乱したりすることもなく(笑)、彼もイイ歳のオッサンとして静かに凡人の人造人間としての自分の宿命を受け入れる。


 ……とこのように書くと、一応は起伏のあるドラマチックな展開に見えるけど、本作はひたすらに静的でゆったりとした時間が流れる展開であり、意図的な演出ではあるのだが、抑揚やメリハリには乏しい。持ち上げて落とすような展開の意外性は感じられず、段取りチックでもある。
 失礼ながら幹よりも枝葉にこだわるプチインテリオタクの『ブレラン』信者の皆さまは、本作に対しても深読み合戦をくりひろげそうである(?)。
 しかし、筆者が気になるのは、題材・テーマそれ自体の素材の高尚さではなく、それらの題材・テーマが観客の心を打つ域にまで昇華されていないように見えることである。
 ウ〜ム。まずはその題材・テーマ自体の高尚さではなく、それの調理法や達成度や洗練度をこそ、作品批評・物語批評においては議題にすべきではないのかなぁ?


 人間側からの迫害に対する防衛として、人造人間の側も新主人公に対する人権無視的な記憶操作を行なっていたワケで、同情の余地はあるけど、劇中内での絶対正義ではナイと思う。そこまでヤルのなら、旧世代・人造人間側も一枚岩の思想を持っているワケではなく、タカ派ハト派ノンポリ(シー)派などの派閥争いの三つ巴構図までをも描いてくれたなら……。などとも後知恵で思うけど、そのへんを突っついてしまうと、前作主人公ハリソン・フォードの出番の必然性・特権性もウスれてしまうしなぁ。
 てなワケで、そのあたりの詳細については、35年後の『ブレードランナー2079』か、『人造人間・レプリカントの惑星:聖戦記』に期待したい(笑)。


 新主人公は元祖同様、自身が所属する警察組織を裏切り、独断で行動を開始して、西海岸はカリフォルニア州のロスからお隣ネバダ州の放射能で汚染されて無人とおぼしき赤っ茶けたラスベガス街の大型遊興ホテルに向かう。
 そこではじまる仮面ライダー1号vs仮面ライダー2号の対決ならぬ、旧主人公vs新主人公の拳骨バトル!(笑) まぁこーいうのも、合理的に考えれば双方ともに理性的・知性的とは云いがたい行動であり、その点ではムダな展開ではあるけれど、ドラマ的にはそれゆえに双方のキャラクターをクッキリとさせる見せ場でもあることから、むしろ「こーでなくっちゃ!」というお約束でもありますナ。
 そこに真の敵――人造人間・製造会社の戦闘ヘリ等――が乱入してきて、旧主人公&新主人公の共闘も実現! ……したのも束の間、旧主人公は敵につかまって、今度は旧世代型・人造人間たちによる抵抗活動グループの依頼を受けて、涙を飲んで証拠隠滅のために旧主人公の抹殺に向かうことで――最終的には救出――、新主人公の立場も立ててみせている。


 そしてラストでは、前作主人公&ヒロインとの実子の意外な正体も明らかとなった――あの実子だと、失礼ながら子孫が繁殖する可能性は低そうだけれども――。
 以上、背伸びして判ったフリをする気もナイので、筆者のストーリーの理解に間違いがあれば、ご指摘くださいませ。


 ウ〜ム。前作が内包していた要素や、35年間のマニア間での議論も加味すれば、このプチ難解で静的でシックな作風・内容はまぁまぁ正解なのであろう。
 ただ筆者のような下賤・通俗の人間からすれば、ダメではなかったけれども少々タイクツではあった。個人的には、2017年秋公開のSF洋画『エイリアン:コヴェナント』・『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171107/p1)の2作品と比しても評価は下となる。
 別にノンストップ・アクションムービーにする必要もないけれど、この内容のままでももう少し緩急・メリハリ・テンポのよさがあれば観られるものになったようにも思うのだ。上映時間は2時間40分強(!)とアニメ映画『涼宮ハルヒの消失』(10年)ほどもある(汗)。


 とはいえ、本作のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が手掛けた、日本では2017年初夏公開の思弁的なSF洋画『メッセージ』(16年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170516/p1)も本作同様、少々マニアックで万人向けではナイとは思ったものの、ゆったりとしつつも適度な緊張感を保った時間の流れ方の演出が個人的には心地よく、作品の内容にも合っていたとも思うので、監督自身の素の技量自体は批判したくない。映画――にかぎらず映像作品全般――という「総合芸術」における戦犯探しのムズカしいところではある。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2017年晩秋号』(17年12月3日発行)〜『仮面特攻隊2018年号』(17年12月30日発行)所収『ブレードランナー2049』評より抜粋)


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