假面特攻隊の一寸先は闇!読みにくいブログ(笑)

★★★特撮・アニメ・時代劇・サブカル思想をフォロー!(予定・汗)★★★ ~身辺雑記・小ネタ・ニュース速報の類いはありません

デッドプール2 〜軟派C調破天荒ヒーロー改心!? デッドプールvsターミネーター(笑)

(2018年9月8日(土)UP)
『LOGAN/ローガン』 〜老X-MEN映画に、活劇の教科書を見る! 殺ってもイイ悪党の造形法(笑)
『デッドプール』 〜X-MENも客演! 私的快楽優先のヒーローは、日本でも80年代以降は珍しからず!
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デッドプール2

(2018年6月1日(金)・日本封切)

デッドプール2』 〜合評1

(文・くらげ)
(2018年6月15日脱稿)


 『X-MEN(2000〜)』ユニバース最大のヒット作になってしまった『デッドプール(2016)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160705/p)。2作目も大ヒット中で興収ツートップは確定のようです。スピンオフの邪道ヒーローにトップの座を持ってかれて、本家『X-MEN』メンバーは複雑な心境じゃないでしょうか。監督は前作のティム・ミラーが降板し、キアヌ・リーブス主演のアクション映画『ジョン・ウィック(2014)』のデヴィッド・リーチに交替してます。
 続編はいきなりデッドプール=ウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)が自殺する場面からスタートします。不死身なので自殺してもどうせ死なないんですが、何をそこまで落ち込んでるかと言うと……


【WARNING】ここから完全なネタバレですが、これに触れないと先に進まないので、観てない人は読み飛ばして下さい。


 前作から2年後、麻薬の売人やマフィアの殺し屋として活躍するデッドプールは、恋人ヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)と誕生日を祝い、子供の名前を考える幸福な日々でした。しかし好事魔多し、突然の賊の襲撃でヴァネッサはあっさりと殺されてしまいます。
 始まって10分くらいだしどうせシャレでしょ? と思って観てるとどうやらそうではないようです。まあ『スパイダーマン』あたりのヒロインなら死んでもどうってことないんですが(←おい)、ヴァネッサはデッドプールという歪なパズルに唯一合うピースだと前作でさんざん描いてるので、まさか2作目で殺すとは思いません。こうなると「あんないい女二度と出会えないだろうに」と我が事のようにデッドプールに同情してしまいます。


 唯一の心の支えを失ったデッドプールは絶望し、自宅に山ほどの可燃物を持ち込んで火をつけ、バラバラに吹っ飛びますが死にません。死後の世界でヴァネッサの元へ行こうとすると透明な壁に阻まれ現世に戻されてしまいます。不死身のヒーローの悲劇ですね。失意のデッドプールを慰めるため(というか放っておくと何するか分からないので)、X-MENのコロッサス(声・ステファン・カピチッチ)やネガソニックティーンエイジ・ウォーヘッド(ブリアナ・ヒルデブランド)がX-MEN加入を勧めます。
 色々あってX-MEN見習いとして働き始めるデッドプールですが、初仕事でミュータントの孤児院で暴れていたラッセル少年(ジュリアン・デニソン)に同情し、職員を射殺して逮捕されてしまいます。
 何故かこの少年が未来から来た殺し屋、ケーブル(ジョシュ・ブローリン)に狙われていて、デッドプールが奮闘することになります。無宿渡世のヤクザ者が子供を押し付けられるのは『男はつらいよ』『座頭市』の時代から定番ですね。


 デッドプールラッセルはミュータント刑務所「アイスボックス」に収監され、特殊な首輪で超能力を封じられます。デッドプールはヒーリング能力を失ってガン患者に戻ってしまい、これでやっと死ねる、ヴァネッサの元へ行けるとか思ってるところへ、武装したケーブルが襲って来て刑務所は大混乱になります。
 何故ケーブルがラッセルを狙うかというと、ラッセルは未来では“ファイヤーフィスト”を名乗る悪のミュータントになっていて、ケーブルの家族を殺した仇だったのです。成長して手に負えなくなる前に殺そうとするケーブルに対し、デッドプールラッセルを正しい方向へ導くべきだと考えます。ヴァネッサの幻影に励まされ、ラッセルも自分も「いい人間」になれるはずと奮闘するデッドプールが、R指定の血まみれコメディとは思えない感動を呼びます。


 デッドプールラッセル救出とケーブル打倒のためミュータントを集め、チーム「Xフォース」を結成しますが、即席チームにしては豪華なメンバーが集まります。透明人間“バニッシャー”は透明なので見えませんがブラッド・ピットが演ってます。一瞬だけ姿が見えるので見逃さないように。何を間違えたか普通の人間の中年親父“ピーター”も面接に来ますが、やる気を買ってこれも採用します。Xフォースは移送中を狙って上空からパラシュート降下し、ラッセルを奪還しようとしますが、パラシュートが強風に煽られ着地前に全員死亡します(笑)。ただ一人「運のいい」ミュータント“ドミノ”(ザジー・ビーツ)だけが生き残ります。運がいい超人ってジャンプ漫画『とっても!ラッキーマン(1993)』みたいですね。


 何の役にも立たなかったXフォースですが、ドミノの活躍でラッセル救出には成功します。ところが護送車から怪力のミュータント“ジャガーノート”が現れて、デッドプールの前に立ち塞がります。力ではジャガーノートに勝てないデッドプールは、あっさり真っ二つに引き裂かれます。
 それでも死なないデッドプールは切り口から赤ちゃんみたいな下半身が生えてきて再生しますが、3頭身のデッドプールのよちよち歩きが気持ち悪いです。ちぎれた下半身の方はどうなったんでしょう。
 そっちもデッドプールが生えて来て、プラナリアみたいにデッドプールが増殖したらイヤだなあと思ったんですが(笑)、逃走したラッセルはジャガーノートと共に孤児院へと向かい、自分を虐待した理事長(エディ・マーサン)に復讐を果そうとします。


 クライマックスは理事長を殺そうとするラッセルと、それを止めるデッドプール達が入り乱れての戦いですが、敵を倒す戦いじゃなく未来の悪人が最初に手を汚すのを止めようとする戦いなのが面白いですね。
 ケーブルもデッドプールに賛同し、協力してラッセルの最初の殺人を止めることになります。コロッサスやネガソニックX-MENも参戦し、ジャガーノートと派手なバトルを繰り広げます。今回ネガソニックの恋人の“ユキオ”が登場するんですが、これを日本の若手女優・忽那汐里(くつなしおり)が演っていて、一瞬だけの登場かと思ったら電撃を操るミュータントとして派手に活躍します。
 というか主役のデッドプールの戦い方が一番地味ですね。日本刀と拳銃ですから。それでもラッセルの未来のために命を懸けるデッドプールにはグッと来ます。デッドプールの誠意が少年の運命を変えた瞬間、ケーブルの運命もまた変わるのが感動的で、こんな映画なのに泣きましたね。


 今回おふざけ要素は控えめに感じましたが、デッドプールの「第4の壁を破る」能力は健在で、スクリーンの中から観客に話しかけたり脚本に文句を付けたりします。ケーブル役のジョシュ・ブローリンに「サノス」(『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(2018)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180619/p1)のラスボス)と呼びかけたりして。デッドプールの場合内輪ネタじゃなく「自分の世界がフィクションだと認識できる」超能力なんですよね。
 予告編だとスタン・リー(原作者)に対して「黙れ! スタン・リー!」とツッコむギャグがありましたが、本編には無くて残念でした。『アナと雪の女王(2013)』の曲が「愛のイェントル」のパクリなんてネタも、バーブラ・ストライサンドジョシュ・ブローリンの義理の母なんて芸能情報も知っておくと味わいが増すでしょう。そんなデッドプールでも「この映画、『ターミネーター(1984)』にそっくりだな」とは言わなかったですね(笑)。


 この映画に限ってはエンドタイトルの途中で帰らない方がいいです。映画の内容をひっくり返す大どんでん返しがありますから。本家『X-MEN フューチャー&パスト(2014)』も真っ青の反則技で、映画の内容ついでに主演のライアン・レイノルズ黒歴史までひっくり返しますよ。


(了)


デッドプール2』 〜合評2

(文・T.SATO)
(2018年6月16日脱稿)


 前半は少々カッタるい。後半は人情ドラマとしても盛り上がる。
 悪人にも一分の魂、ロクデナシのC調おしゃべりヒーロー・デッドプールが、施設で虐待されて育ったデブのイケてない、ミュータント(突然変異)能力が発現した白人少年を闇落ちから救うため、イイひとになってしまうあたり、このテはもう続編では使えなくなってしまったゾ!(笑)
 まぁ後先考えずにヤリきってしまうのも、良作を作るためのひとつのテではあるだろう。前作の方が僅差で面白かったような気もするけれど(汗)。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)〜『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『デッドプール2』合評1&2より抜粋)


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GODZILLA 決戦機動増殖都市』 〜地球人・X星人・ブラックホール第3惑星人・インファント島民 ゴジラvsメカゴジラ!?

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GODZILLA 決戦機動増殖都市 〜地球人・X星人・ブラックホール第3惑星人・インファント島民 ゴジラvsメカゴジラ!?

(2018年9月12日(水)UP)
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『GODZILLA 星を喰う者』 〜「終焉の必然」と「生への執着」を高次元を媒介に是々非々で天秤にかける!
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GODZILLA 決戦機動増殖都市』

(2018年5月18日(金)・封切)

GODZILLA 決戦機動増殖都市』 〜合評1

(文・T.SATO)
(2018年6月16日脱稿)


 21世紀前半に怪獣軍団に蹂躙されて、人類は2大異星人種族の助力を得るも、それでもゴジラをはじめとする怪獣たちを撃滅することはできず、外宇宙へと脱出した。
 しかし、生存に適した地球型惑星を見つけることはできず、過酷な船内生活に倦(う)んだ人々は地球帰還を決断する。
 ウラシマ効果で2万年が過ぎた地球。しかし、そこはゴジラ型生物で生態系が激変した地球であった!


 ……といったCGアニメ表現だからこそ可能な、SF仕立ての『ゴジラ』映画3部作の第2章『決戦機動増殖都市』――SF風『ゴジラ』といえば、もう40年近くもむかしに特撮雑誌『スターログ』日本版(79年)で、『ア・スペース・ゴジラ』という絵物語の連載があってですネェ(ゴホッ、ゴホッ)――。
 アニメ製作は元は下請けCG屋で、近年ではメカも人物も(ほぼ)フルCGの宇宙SF深夜アニメ『シドニアの騎士』(14年)の製作で、好事家を驚かせたポリゴン・ピクチュアズであり、スタッフもだいたいスライドしており、絵柄的にも『シドニア』の延長線上のモノ。


 もちろん怪獣映画『シン・ゴジラ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160824/p1)級の超特大ヒットなぞを、物事の細分化が進展した果ての21世紀に住まう今の東宝の若手プロデューサー陣がねらうワケもなく、大衆ではなくニッチなハイブロウマニア層をねらっているとの発言をドコかでも眼にしたけど、まさに本作はそのようなクールでシリアスな方向性で構築されている。
 20世紀のSFアニメ全盛の時代とは異なり、21世紀の萌えアニメ全盛の時代に、アニメのゴジラ映画で今の若いオタが釣れるのだろうか? と思いきや……。『シン・ゴジラ』の余波に、脚本・シリーズ構成が『魔法少女まどか☆マギカ』(11年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120527/p1)の虚淵ブランドで、イケメンボイスの人気声優の登板もあってか、劇場にはけっこう若いオタが来てますナ。
 2014年のハリウッド版『GODZILLA』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190531/p1)では、客層が50代メインという感じだったので、よかったよかった。まぁ両作ともに子供の観客は見当たらなかったけど(爆)。


 生き残りの人類から進化したのか、別種の昆虫などから進化したのか、東宝怪獣映画『モスラ』(61年)シリーズで、モスラを崇めるインファント島の民のような(改変された)自然と共生する部族が2万年後の箱根に住まっていたり、それとの対比でかつてメカゴジラを建造したマッチョなブラックホール第3惑星人の超科学技術・合理主義・富国強兵志向もウキボリとなって、自然志向と科学志向の両者の相容れない価値観の相克と、その狭間で揺れる地球人や宗教的・瞑想的な価値観で生きるX(エックス)星人との多様な対比も描かれたりはする。


 地上に上陸した部隊の地球人たちも、厭戦派・主戦派に分かれており、復讐の対象であるゴジラを打倒せんとするネバギバな主人公青年のハルオは後者であり、その不屈の闘志にブラックホール第3惑星人も共感を示していたのだが、ゴジラに勝つためにはメカ(=ナノ・メタル)との融合も辞さない第3惑星人にはハルオが拒否を示すサマを、ゴジラとの最終ロボットバトル中に描くことで、バトルとドラマのクライマックスも同時に持ってくる。
 筆者のようなヒネくれた人間には、別に当人――第3惑星人や地球人のメインヒロイン――が承知の上で行なうなら、TVシリーズ最終回のあと、外宇宙から新たに飛来した金属生命体との戦争で、最後には意思疎通が不能なハズの金属生命体とも融合して戦争を終結してみせた主人公を描いた『劇場版 機動戦士ガンダム00(ダブルオー) ―A Waking of the Trailblazer―』(10年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100920/p1)みたいなオチもあってイイとも思うけど(笑)。
 もちろん、それはシニカルなあえてするツッコミで、本作では人間とメカとの融合が「一線を超えた非人間性の象徴」として描かれる。まぁそのへんはSF物語のバリエーションのひとつとして、相対化して受け止めさせてもらおう。


 しかし基本的にはそれらの対比・対立劇は本作を高尚っぽく見せるための言い訳であり、前作では空飛ぶバイク型メカ群vs50メートル級ゴジラとの激闘を描いたけど、本作では高速で空を飛ぶ中型ロボット数機&メカメカ都市vs300メートル級の超ゴジラとの大激闘をメインに描いていく。
 メカゴジラをキチンと登場させた同時期公開の洋画『レディ・プレイヤー1(ワン)』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180616/p1)の方がエラいともいえるけど、まぁ本作の設定・作風からして、たとえ登場しなかったとしても不思議じゃなかったし、予想や期待をハズしてくるだろうと、大衆はともかくスレたマニア層であれば、鑑賞途中で想起されてくるので、この試みを手放しでは絶賛はしないけど、まイっか! といったところか?(異論は受け付けます・笑)
 筆者個人が最上級で理想とする作劇ではないし、大スキという作品でもないけれど、むろん自分の好み以外の作品は身体が受け付けないというほどにはケツの穴が小さくはないつもりなので、本シリーズもそーいう中間ポジションにおいては楽しめたし肯定もしておきたい。


 この第2章の脚本は、クレジットの順番的にも実質的には虚淵ではなく、『シドニアの騎士』でもメインライターを務めて、『ブギーポップは笑わない』(00年)・『キノの旅』(03年)・『魍魎の匣(もうりょうのはこ)』(08年)・『夏目友人帳』(08年)シリーズなどのハイブロウ系アニメばかりを手掛ける印象がある村井さだゆきの筆によるものだと思われる。特撮マニア的には『ウルトラマンダイナ』(97年)の怪作である#38、実相寺昭雄カントク担当回「怪獣戯曲」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971209/p1)の衒学的で頭デッカチな脚本が印象に残るが、併映作品の短編アニメ映画『ウルトラニャン』(97年)の脚本家でもあった(笑)。


(了)


GODZILLA 決戦機動増殖都市』 〜合評2

(文・仙田 冷)
(2018年6月12日脱稿)


 見ての感想だが、かなり『魔法少女まどか☆マギカ』(11年、以下『まどマギ』)の要素が入っているなというのが、正直な印象である。
 例えば、目的を果たすために犠牲が出るのは、それが合理的なものである限り許容するというビルサルドのスタンスは、まどマギのキュゥべぇことインキュベーターを思わせる。実態をろくに説明せずに結果だけを押しつけるあたりも何だか似ている。
 一時はビルサルドの思想に共鳴するも、真相を知って恐怖の悲鳴を上げることになるヒロイン・ユウコは、何だか魔法少女の一人・美樹さやかを思い出させる。さやかもまた、奇跡を願って魔法少女になるも、やがて実態を知り、絶望に沈むキャラだった。そのプロセスをもうちょっと急激にやると、今回の映画のようなことになる感じか。
 まあそれを言ったら、ゴジラまどマギのクライマックスに現れた大魔女・ワルプルギスの夜で、それに憎悪を燃やすハルオは魔法少女暁美ほむらのポジションか。しかしながら、この事態を救済するはずの鹿目まどかにあたる存在は、未だに姿を見せない。今回本格的に活躍したフツアの双子の少女・マイナとミアナなのか、それとももっと別の誰かなのか。いずれにしても結論は、11月公開予定の第3部で出るはずである。


 今回のバトルは、ゴジラ対メカゴジラという触れ込みだったが、ふたを開けてみれば、全長300メートルのゴジラ・アース対メカゴジラをベースに構築された要塞都市という異種戦であった。特定の何かを迎撃するために要塞都市を構築するというところで、『新世紀エヴァンゲリオン』(95年)または『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(07年)シリーズ(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220306/p1)の第3新東京市を思い出した向きは多かろうと思う。
 怪獣同士のガチバトルを期待した向きには、外されてしまった感じもあるのではないかと想像する。私などは、ちょっとばかり意外な成り行きで、これはこれで面白いと思った方であるが。三部作の2話目にはよくあることで、物語の発端とクライマックスとの間に挟まれて、中だるみとは言わないまでも、どうしてもつなぎっぽい感じになるのは仕方のないところか。ハルオの作戦も、基本的には第1部『GODZILLA 怪獣惑星』(17年)での対ゴジラ作戦のブローアップヴァージョンだし、そういう意味では新鮮味はないかも知れない。
 でも、伏線の張り方は面白かった。
 クライマックスで戦闘メカ・ヴァルチャーに乗った3人のうち、なぜハルオだけがナノメタルによる浸食を免れたのか。その前振りとなるのが、フツアの民と出会ったビルサルドが、フツアが自分たちのナノメタルを加工して武器にしていることに気づく場面である。つまり、なぜ日常的にナノメタルに触れているフツアの人々が、ナノメタルの浸食を免れているのか、ということ。それに回答を提示するのが、途中で提示される、フツアの村で傷の手当を受けた人間が、メカゴジラシティに入ったとたんに、ハルオも含めて、軒並み体調を崩しているという事実。フツアの民がまとう鱗粉は、ナノメタルと相性が悪いというか、何らかの相互作用があるのではないか、というわけである。
 それで思い出したのが『怪奇大作戦』(68年・円谷プロ)の第2話「人喰い蛾」。動物を溶かして消化する作用を持つ細菌・チラス菌を植え付けた蛾を使っての殺人を描いた話だが、こう思った人は少なくないのではあるまいか。チラス菌を植え付けられた蛾は溶けないのか? と。劇中ではその辺、特に説明はなかったが、個人的には蛾の鱗粉が、チラス菌に対して防御作用を持つのではないかと想像している。フツアの鱗粉も、ナノメタルに対してそういう作用があったのではという話である。
 実はもう一つ、面白い伏線だと思った部分があったはずなのだが、どこだったのか思い出せない。いずれこの原稿も、改稿する機会があると思うので、その時までには思い出しておこうと思う。


 さて本作、第3部『GODZILLA 星を喰う者』(18年)への布石もいろいろちりばめられている。
 まずフツアの双子少女は、どう見てもモスラ出現のフラグだ。X星人をもじってエクシフ、ブラックホール第三惑星人をもじってビルサルドであるように、フツアというのも多分関連する何かのもじりなのだろう。彼女たちはやっぱり、ザ・ピーナッツやコスモスのように、あの歌を歌うのだろうか。てゆーか、ここまで旧作のネタを取り込んでおいて、今さら歌わないなんて言われたら、その方が嘘だ。
 また本作のラストでは、エクシフの文明を滅ぼした怪獣が「ギドラ」と呼称されていることが明かされる。となれば当然、キングギドラの登場も予想される。実際、次回予告の一枚絵では、幾何学的に絡み合った3本の龍の首が描かれている。何だかその絡み具合が、三浦健太郎氏のダークファンタジーマンガ『ベルセルク』(白泉社ヤングアニマル連載)において、「贄(にえ)」(悪魔に捧げられた生け贄と思えばいいかと)とされた者につけられるマーキングと似ているのは、果たして故意か偶然か。
 ゴジラモスラキングギドラ……あれ、この並びは、金子修介監督の『ゴジラモスラキングギドラ 大怪獣総攻撃』(01年)と同じじゃないか。これでバラゴンが出てくれば完璧なのだが、まあそこまではないだろう。いずれにせよ第3部は、いよいよ本当に「大怪獣総攻撃」になりそうだ。そこにハルオたち人類勢がどう絡むのか。ビルサルドとの信頼関係には、今回の件でひびが入ったことは容易に想像できる。まさか今度はエクシフとも一悶着起こすんじゃあるまいなという不安もある。ハルオは、エクシフのメトフィエスとは仲がいいみたいだから、よほどのことがなければそういうことにはなるまいが。
 泣いても笑っても、物語はいよいよ次で完結する。いったいどんな結末を迎えるのか、楽しみに待つとしよう。


(了)


GODZILLA 決戦機動増殖都市』 〜合評3

(文・久保達也)
(2018年5月27日脱稿)

*見よ! メカゴジラの超進化!


 前作のアニメ映画『GODZILLAゴジラ) 怪獣惑星』(17年・東宝http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171122/p1)のラストで、身長300メートル・体重10万トンの超巨大ゴジラの襲撃で全滅したかに見えた人類だったが、主要キャラは全員ちゃんと生きていた(笑)。


 各種宣材のキービジュアルにあったように、今回の『GODZILLA 決戦機動増殖都市』(18年・東宝)最大のウリは、映画『ゴジラ対メカゴジラ』(74年・東宝)以来、往年の東宝怪獣映画・ゴジラシリーズに再三に渡って登場し、「昭和」から「平成」にかけ、世の男子たちをワクワクさせてきたロボット怪獣メカゴジラ対怪獣王ゴジラの決戦絵巻だ。
 果たして、アニメで描かれるメカゴジラとはいったいどんな姿なのか? と、大半の観客、いや、少なくとも筆者の興味の中心はそれだったのだが、今回は実にいいかたちで裏切られたといった感が強い。


 ゴジラのデザインをベースに、全身シルバーに光る装甲で武装したメカゴジラは、再登場を繰り返すたびにそのデザインを変化させていったが、今回登場したのはまさにその究極体である。
 前作『GODZILLA 怪獣惑星』に登場した、本来は惑星開発用の掘削(くっさく)機能を持つ重機を兵器に転用したパワードスーツが、ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズ(79年〜・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990801/p1)のモビルスーツだとするなら、今回のメカゴジラはロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ(95年〜)の主役メカ・エヴァンゲリオンだと云っても過言ではない。
 いや、実際異様にヒョロ長い腕と足をした、全体的に超スリムなボディは、誰がどう見てもエヴァンゲリオンだし(笑)、巨大な鳥のような翼で宙を高速で舞い、ゴジラに奇襲攻撃をかけるさまは、まさに「蝶(ちょう)のように舞い、蜂(はち)のように刺す」という表現がピッタリとくるものがある。
 実はこの兵器はメカゴジラではなく、ハゲタカ=猛禽類(もうきんるい)を意味するヴァルチャーと名づけられているのだ。かのアメコミヒーロー・スパイダーマンの長年の宿敵にも同名の怪物がいるほどなので、ベタではあるものの戦闘メカにはふさわしい力強いネーミングと云えるだろう。
 もっとも、翼で宙を高速で舞う姿からすれば、メカゴジラと云うよりは映画『空の大怪獣ラドン』(56年・東宝)の主役怪獣を戦闘メカにアレンジした、メカラドンと呼ぶ方がふさわしいかも(笑)。


 おいおい、これでは肩すかしだ、拍子(ひょうし)抜けだ、詐欺(さぎ)だ、と怒る熱心なゴジラファンもいるかもしれないが、このヴァルチャー登場の経緯にはうならされるを得ないのだ。
 前作の冒頭で描かれた、西暦1999年から2048年に至る怪獣たちと人類との半世紀にもおよぶ激闘史の中で、2036年に母星を捨てて地球に来訪した種族・ビルサルドがゴジラ対抗兵器としてメカゴジラを開発するも、2046年に基地ごとゴジラに破壊されたことが、ほんのわずかだが映像でも説明されていた。
 このとき、破壊されたメカゴジラの残骸(ざんがい)を構成する自立思考金属体・ナノメタルが、ごく一部の人類が生存可能な星を求めて地球を離れていた20年=地球時間で2万年(!)の間に増殖を遂げ、メカゴジラシティなる、巨大な金属からなるコンビナートのような都市を形成するに至っていたのだ。
 メカゴジラ自体は劇中には登場しないものの、このメカゴジラシティがメカゴジラの残骸から形成されていることに説得力を持たせるため、逆算するかたちで先述したヴァルチャーと同じく腕や足が細く、背から尾にかけてゴジラのようなヒレが多数並ぶ、全体的にシャープな印象のメカゴジラも、製作の過程でデザインされている――マニア向けの高額商品を売るブランド・プレミアムバンダイ限定でソフビ人形を売るという目的も大きいだろうが(笑)――。


 そもそも、ビルサルドは先述した『ゴジラ対メカゴジラ』にメカゴジラで地球を侵略する悪役として登場したブラックホール第3惑星人がモチーフであり、そのビルサルドのメカゴジラ建造プラントがあった場所、つまり現在の機動増殖都市は、かつての富士山麓(ふじ・さんろく)にあることが今回語られるのだ。
 そう、映画『怪獣総進撃』(68年・東宝)で、宇宙超怪獣キングギドラ対地球怪獣連合軍の決戦場となったのをはじめ、映画『ゴジラモスラキングギドラ 大怪獣総攻撃』(01年・東宝)の時代に至るまで、幾度(いくど)となく怪獣たちが活躍する舞台として描かれた、あの富士山麓なのだ!
 往年のゴジラファンの心の琴線(きんせん)に触れるキーワードを巧妙に散りばめつつも、それらをそのままリメイクするのではなく、時代に受け入れられやすいかたちで昇華させていることこそ、メカゴジラのみならずゴジラシリーズ自体の超進化と云っても過言ではないのだ。


*萌え系キャラに転生した「小美人」


 それは前作のラストで、主人公のハルオ・サカキを超巨大ゴジラの襲撃から助けた存在としてチラッとだけ描かれた、今回主に前半で活躍するエキゾチックな美少女キャラについても同様だ。
 ハルオを助けたミアナと双子の姉・マイナの姉妹は、映画『モスラ』(61年・東宝)から映画『ゴジラ FINAL WARS(ファイナル・ウォーズ)』(04年・東宝http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060304/p1)に至るまで、巨大蛾(が)怪獣モスラを呼び寄せる存在として登場しつづけた、インファント島の小美人をモチーフとしたものだ。
 『恋のバカンス』『ウナセラディ東京』『恋のフーガ』などのヒット曲で人気絶頂だった双子デュオのザ・ピーナッツを小美人に起用することに成功した『モスラ』『モスラ対ゴジラ』(64年・東宝)『三大怪獣 地球最大の決戦』(64年・東宝)。
 そして、現在はすっかりメジャーな女優と化し、アニメ映画『コクリコ坂から』(11年・東宝)や『君の名は。』(16年・東宝)をはじめ、声優としての実績もある長澤まさみ(ながさわ・まさみ)が小美人を演じた映画『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(03年・東宝)『ゴジラ FINAL WARS』に至るまで、小美人は20歳前後の女優たちによって演じられてきたものだった。
 ちなみに、映画『ゴジラVSモスラ』(92年・東宝)では、当時『愛がとまらない』『淋(さび)しい熱帯魚』などのヒット曲を連発していたアイドルデュオ・ウインクを小美人に起用する案もあったが、残念ながら流れてしまった。


 だが、今回登場したミアナとマイナの姉妹は、従来描かれてきた小美人の系譜を継承しつつも、萌(も)え系の美少女キャラとなったのだ。
 そしてポイントとなるのが、従来の小美人は身長が30センチ(!)だったのが今回は身長145センチと、人類の少女と同じ姿に改変されたことである。
 大人に近い年齢の女性たちが演じてきた小美人の身長を人間大にしたのと反比例するかのようにキャラが低年齢化したのだが、身長30センチのキャラよりも観客の感情移入を容易にするためでもあったのだろう。
 そして、その狙いはかなり的(まと)を得ていたのだ。


 たとえば、地底王国の洞窟(どうくつ)に築(きず)かれた祭壇場で、巨大な卵や謎の文字が描かれた壁画に手をかざしたミアナとマイナが、「卵をたたえよ、大地の闇こそ、フツアの憩(いこ)い……」などと、従来の小美人のように精神感応(かんのう)=テレパシーで呪文(じゅもん)を唱(とな)えつづける場面だ。
 水色とグレーの中間色のショートボブヘアで、前髪部分をモスラが翼を閉じたような形状に整(ととの)えた、ハルオを助けたやさしいミアナはややタレ目、ハルオの仲間たちを敵と認識して攻撃をかけてきた姉のマイナはややツリ目と、一応の差別化がはかられた双子の美少女キャラの、気高(けだか)さと神秘性を強調した演出は、筆者の萌え感情を呼び起こさずにはいられなかった(笑)。
 ミアナがハルオの名前をうまく呼ぶことができず、「は……る……おい」と呼んでしまう場面の、「おい」もまたしかりだ(爆)。


 ミアナとマイナの呪文の中で、「フツアの神もゴジラに敗れ、今や卵を残すのみ」とあるように、ミアナとマイナをはじめとする人型種族・フツア族は、モスラを神として崇(あが)めていることが明確に描かれながらも、メカゴジラ同様、モスラも今回は登場しない。
 だが、フツア族は人型の種族でありながらも、単なる人類の生き残りではなく、昆虫の遺伝子を持つ突然変異体として設定されており、モスラの必殺技であった鱗粉(りんぷん)を発したり、モスラの巨大な羽根と同様の模様が、褐色(かっしょく)の肌の全身に細かく描かれていることで、たとえモスラは登場しなくとも、往年のインファント島の原住民以上に、モスラと因縁(いんねん)が強い種族として描くことに成功しているのだ。
 もっとも、フツア族の長老のキャラクターデザインは、初期モスラ作品に登場したインファント島の長老そのまんまという感が強いのだが(笑)。
 また、先述した『モスラ』で小美人が発する声として製作された、ハモンドオルガンで演奏されたメロディを彷彿(ほうふつ)とさせる音楽が、洞窟の一連の場面で流れていたことも相乗効果を高めていたように思える――なお、『モスラ』の音楽を手がけた故・古関裕而(こせき・ゆうじ)は、先述した『君の名は。』の元ネタ(?)となった純愛映画『君の名は』(54年・東宝)の音楽も担当していた――。
 そして、小美人を身長30センチではなく、身長145センチの小さな美人として描いたのは、主要キャラに心の変遷(へんせん)を生みだし、それらの関係性に大きな変化を与えるためでもあったのだ。


*「群像劇」で魅せるゴジラ映画


 特に目立ったのが、ハルオの幼なじみであり、ハルオにあこがれる後輩女性として描かれながらも、前作『怪獣惑星』ではキャラの味付けがやや薄いと思えたユウコ・タニの躍進ぶりだ。
 先述した「は……る……おい」(笑)をはじめ、ミアナがハルオと親しくしていることに、ユウコは「なによあれ」と、露骨に不快感を示すのだが、もしミアナが従来の小美人のように身長30センチのキャラとして描かれていたならば、ユウコがこのような感情を呼び起こすことはなかったに相違ない。
 この直後、ハルオがミアナの呼びかけで難を逃れたのと同じ場所で、映画『ゴジラVSビオランテ』(89年・東宝)に登場したバイオ怪獣ビオランテの触手を彷彿とさせる捕食植物にユウコが襲われるのがのちの伏線となっているのだが、これについては後述する。


 前作でゴジラ討伐作戦に同胞たちを巻きこむこととなったハルオだが、ゴジラを倒したとは云え多くの犠牲者を出したことを悔(く)いたり、代わって現れた超巨大ゴジラを本当に倒すことができるのか? と悩んだりと、前作では決して見せなかった面が今回は描かれる。
 前作と比べると出番はかなり少ないが、母星を怪獣に滅ぼされて地球に来訪した宗教国家の種族・エクシフのメトフィエスが隊員たちの心を癒(いや)す集会にハルオがフラリと現れ、メトフィエスが「めずらしいね」とつぶやく場面が、まさに象徴的に機能しているのだ。
 ゴジラに復讐(ふくしゅう)の炎を燃やす一方だったハズが、いつしか救いを求めるようになっていたハルオに、ユウコは「どこまでも先輩についていきます」とハルオを励(はげ)ますのみならず、自分の方からハルオにディープキスをかましてしまう!
 ミアナとマイナの姉妹が地球連合の動きを監視しているのを承知のうえで、ユウコはミアナに見せつけるために強硬な手段に出たとしか思えない(笑)。おそらくフツア族にはないであろう習慣を物陰から目撃していたミアナが、案の定、ビクっ! とした動きを見せるのがまたカワイイ(爆)。


 さらに、ユウコはおそるべき変化を見せる。
 ゴジラ打倒のためにビルサルドは部隊全員がナノメタルと同化し、メカゴジラシティの一部となるべきだと主張する。ハルオをはじめ人類は猛反発するが、ユウコはビルサルドの主張に同調してしまうのだ!
 原始時代のような生活を営むフツア族を、科学の最先端をいくビルサルドが露骨に見下す描写が何度もあるのだが――フツア族が矢じりやナイフにナノメタルを使用するのを見たことから、ビルサルドが近辺にかつての基地があることを確信するのも良い伏線となっている――、ユウコもまた、ミアナに対する個人的な反発に端を発するかたちで、フツア族を蔑視(べっし)するビルサルドに同意しているかのように見受けられるのだ。
 どちらかと云えば、端正な顔つきをしたメインヒロインであるにもかかわらず、ここまでイヤ〜ンな女(笑)を極めてしまうユウコは、脚本の虚淵玄(うろぶち・げん)がメインライターを務めた『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)に登場した湊燿子(みなと・ようこ)=仮面ライダーマリカを個人的にはどことなく彷彿としてしまうのだが、この10年間勢いがとまらない、ユウコ役の花澤香菜(はなざわ・かな)の演技には要注目だ。「また花澤かよ」などと云ってる場合ではない。個人的に花澤のカエル顔は好みだし(爆)。


 ゴジラを倒すにはゴジラを超える存在にならねばならず、そのためには肉体も感情も不要だと主張するビルサルド。人間であることを捨ててゴジラに勝っても価値はないと主張するハルオ。激情に突き動かされるままに、ヴァルチャー搭乗を決意するユウコ。フツア族やメカゴジラシティとの出会いを機に、主要キャラが心の変遷をとげ、立ち位置をシャッフルさせていく展開は、『鎧武』のみならず、まさに「平成」仮面ライダー最大の魅力である群像劇を彷彿とさせる!


 そして迎える衝撃の結末……


 「感情を持つことが人類の最大の弱点」(大意)なるビルサルドの主張がクライマックスで最大の説得力をもって響くこととなり、ユウコはゴジラ攻撃の中で絶体絶命の危機に陥(おちい)り、ユウコを救いたいがために感情を捨てられなかったハルオは、最大の目的だったハズのゴジラ打倒が困難となってしまう……
 ゴジラに復讐の炎を燃やしていたにもかかわらず、前作ではハルオがその感情を終始押し殺していたのは、まさに確信犯的な演出だったと云うよりほかにない。
 それにしても、自身の目的を果たすために周囲の人間を巻きこんできた本来は「巻きこみ型」の主人公が、いつしか周囲に翻弄(ほんろう)されてしまう「巻きこまれ型」のキャラに転じてしまうとは!?


 80年代以降のジャンル作品では、地球の存亡をかけた大人たちの陰謀(いんぼう)に巻きこまれてしまう『仮面ライダー鎧武』の若者たちをはじめ、「平成」、いや、「昭和」の仮面ライダーの主人公たちも、圧倒的に「巻きこまれ型」が多くなっている。本稿執筆時点で放映中の『仮面ライダービルド』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180513/p1)もまたしかりだ。
 アイドルグループやバンドを結成したいがために周囲の生徒たちを巻きこんでしまう美少女アイドルアニメ『ラブライブ!』(13年〜・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160330/p1)や美少女バンドアニメ『BanG Dream(バンドリ)!』(17年〜・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190915/p1)の女子高生主人公のような「巻きこみ型」は、特撮ジャンルにおいては「この学校の全員と友達になる男だ!」として、仮面ライダー部を結成したヤンキー高校生・如月弦太朗(きさらぎ・げんたろう)を主人公にした『仮面ライダーフォーゼ』(11年)が希有(けう)な例ではなかろうか?


 その意味では、今回ハルオが「巻きこまれ型」へと転じたのは、2018年11月公開予定の最終作『GODZILLA 星を喰(く)う者』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181123/p1)で、ハルオがついに超巨大ゴジラを倒す真のヒーローへと至る成長過程として描かれたのかと見るべきかもしれない。
 そして、「平成」仮面ライダーが、登場キャラを一面ばかりではなく、常に多面的に描いているように、ハルオもまた決して一枚岩ではいかない存在として描くことで、観客の感情移入を増幅させる効果を発揮しているのだ。


 従来のゴジラ映画の常として、肝心の主役であるハズのゴジラが、なかなか出てこないという不満があったものだ。
 だが、ハルオの苦悩、ユウコの激情、ビルサルドの合理主義、エクシフの心の救済といった、それまで描かれてきた知的生命体の営みをあざ笑うかのように、超巨大ゴジラがクライマックスでのみ、破壊の限りを尽くすさまが存分に描かれるからこそ、怪獣王ゴジラとしての尊厳が保たれるのではないのか? と思えたほど、今回の群像劇は実に魅力的に描かれており、「平成」ライダーを彷彿とさせる作風は、今後の展望を考えるならば正しいのではなかろうか?
 筆者は静岡県静岡市のシネシティザートで公開2週目の土曜日のレイトショーを鑑賞したが、観客は20〜30代の若い層が圧倒的であり、ハルオ役の宮野真守(みやの・まもる)、メトフィエス役の櫻井孝宏(さくらい・たかひろ)ら、声優目当てとおぼしき女性客の姿もかなり見られたものだ。
 ハリウッド版『GODZILLA』(14年・東宝)の観客層が「メインは50代の方だった」ことから――筆者が観た劇場でもそうだった(爆)――、若い層を獲得するためにアニメ版のゴジラを構想した東宝の戦略は、結果的に正しかったことが実証されたと云っても過言ではないだろう。
 まぁ、だからと云って、筆者を含めた中高年の観客が皆無(かいむ)に近くなるほどまでに(汗)、切り捨ててもよいのか? という問題もあるのだが、つづく最終作『GODZILLA 星を喰う者』には、モスラメカゴジラと来たら、古い世代にはたまらないハズのアイツが、ついに帰ってきますよ! そう、サイボーグ怪獣ガイガンです、って違う!(笑)


2018.5.27.
(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)〜『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『GODZILLA 決戦機動増殖都市』評3〜5より抜粋)


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アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』

(2018年4月27日(金)・日本封切)

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』 〜合評1

(文・くらげ)
(2018年6月15日脱稿)


 『アベンジャーズ(2012)』第3作にしていよいよ最強の敵“サノス”の登場です。やはり強敵が出ないとヒーローものっぽくないですよね。監督はシリーズ常連のアンソニー&ジョーのルッソ兄弟。かなり詰め込み気味の内容ですが、2時間半の長丁場をまったく飽きさせずに見せます。あらすじを紹介するだけでも一苦労ですが最後までお付き合い下さい。登場キャラも多すぎるのでキャスト名は割愛です。自分で調べて下さい(笑)。


 さて考えてみるとこれまでアベンジャーズに登場のヴィラン(悪役)はチタウリとかウルトロンとか、数ばかり多くてヒーロー総出で戦うには地味な敵でした。ヒーローを活躍させるにはひとり強力な悪役を出すのが手っ取り早いですが、どうしても話が安易になります。
 悪のラスボスがいてそいつさえ倒せば万事解決という物語はビンラディンあたりで終わって、さすがに能天気なアメリカ人にも通用しなくなってるんですね。でも今はアメリカ大統領が悪のラスボスですけどね(笑)。


 そんな時代に登場するサノスは古き良きというか、人格と目的を持つ悪役らしい悪役です。原作ではメジャーなヴィランも、知らない人が見ればプロレスラーみたいなオッサンで、こんな青白いハゲ親父がアベンジャーズのラスボス? とガッカリする人も多いでしょう。彼の目的は「宇宙の生命の半分を消滅させる」ことで、そのために宇宙に6つある“インフィニティ・ストーン”を集めています。
 唐突な新アイテム登場がネタに詰まった漫画のテコ入れみたいですが、すでに6つのうち5つは過去作のパワーアイテムとして登場してるんですね。『マイティ・ソー(2011)』の弟神ロキの杖とか、アベンジャーズの一員ヴィジョンの額の宝石とか。1つ1つがすでに強力なアイテムですが、6つ集めると指一つ鳴らすだけで宇宙を終わらせることができます。てっきり比喩的な表現と思えばそうじゃなかったことが分かるんですが。


 今回の物語は宇宙から始まります。『マイティ・ソー バトルロイヤル(2017)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171116/p1)からの続きですが、アスガルドから地球へ向かう宇宙船にソーとロキとハルクが乗っていてソーは何故か片目です。『バトルロイヤル』を観なかった自分には何のことやら分かりません。この宇宙船がサノスの襲撃を受けます。サノスはソーやハルクさえパワーで軽く圧倒し“四次元キューブ”に形を変えた【スペース・ストーン】を奪います。
 サノスの左手のガントレットにはすでに【パワー・ストーン】が嵌められていて、これは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(2014)』に登場したザンダー星が滅ぼされたことを意味します。ハルクは間一髪地球へと転送されるんですが、ロキは奇策及ばずサノスに殺されます。
 ロキには死んだと見せかけて生き返った前科があるのでみんないまいち本気にしません。「でも今度はダメなんじゃないの?」なんてやり取りが笑います。地球に転送されたハルクは、ドクターストレンジの下にたどり着き、協力を仰ぎます。


 いっぽう地球ではアイアンマンとペッパーがデートを楽しむ平和な日々です。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160701/p1)の内紛でアベンジャーズは解散状態で、アイアンマンとキャプテンアメリカに至っては口も聞かない状態が続いています。
 そんなアイアンマンのもとにハルクとストレンジが現れ、地球に危機が迫っていることを警告します。間もなくニューヨークに現れるのがサノスの部下のエボニー・マウで、ドクターストレンジの首飾りに埋め込まれた“アガモットの目”こと【タイム・ストーン】を奪いに来ます。
 これにストレンジおよびアイアンマン&スパイダーマンの師弟コンビが立ち向かうわけですが(ハルクは変身できなくて見物だけ)このエボニー・マウが絵に描いたような参謀キャラで「愚かな地球人よ。サノス様に勝てると思うのか?」みたいな感じがいいです。
 頭脳派っぽい癖にやたら強くて、指一本動かさずニューヨークを破壊していきます。普通の映画ならこの戦闘だけでクライマックスですよ。ストレンジの首飾りには呪文がかかっていて外せないと分かったエボニー・マウは首飾りごとストレンジを拉致し、アイアンマン&スパイダーマンはストレンジを追って宇宙船に潜入し、サノスの故郷、惑星タイタンへと向かうことになります。


 舞台が宇宙ということで主役級の活躍を見せるのが“ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー”の面々で、同じマーベル出身ながらなかなかアベンジャーズの一員と思えないメンバーですが、サノスとの因縁が物語で重要な意味を持つことになります。ガモーラとネビュラが実はサノスの娘とか、ドラックスがタイタン人に家族を殺されたとか、ちょっとした裏設定と思えばおもいっきり伏線だったんですね。
 まあ『ガーディアンズ…』は宇宙の果ての物語にスターロード一人が地球人なのが面白かったんですが、アベンジャーズと共闘したことで一気にレア感が薄れます。彼らは宇宙を漂流中のソーを助けたことでインフィニティ・ストーンの争奪戦に巻き込まれていきます。


 ソーは武器であるムジョルニアを失っていて(これもバトルロイヤルの中の事件らしい)新しい武器が必要と考えたソーは、ガーディアンズのロケットとグルートをお供に武器作りの達人、ドワーフのエイトリの住む惑星ニダベリアへと赴きます。
 エイトリは小人役者のピーター・ディンクレッジが演じますが、小人なのに身長10メートルくらいの巨人なので小さいのか大きいのか分かりません。サノスはインフィニティ・ストーンを嵌め込むガントレットをエイトリに作らせたんですが、エイトリだけを残して他のドワーフは殺してしまったんですね。ソーは失意のエイトリにサノスへの復讐を誓い、新たな武器である石斧“ストームブレイカー”を完成させます。


 この間にも【リアリティ・ストーン】を巡ってガーディアンズとサノスが惑星ノーウェアで鉢合わせしたり、エボニー・マウが宇宙船から放り出されたり、サノスがネビュラを拷問したり、【ソウル・ストーン】を探しにサノスとガモーラが惑星ヴォーミアに行ったり色々あるんですが(そろそろ面倒くさくなってきた)、クライマックスはアベンジャーズが地球チームと宇宙チームに分かれてサノス軍と激闘を繰り広げることになります。


 地球で戦場になるのは『ブラックパンサー(2018)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180607/p1)のティ・チャラ国王が治めるワカンダ国で、アイアンマン2号のウォーマシンが黒人ヒーローのネットワークを使って(かどうか分かりませんが)ワカンダ国王テイ・チャラ=ブラックパンサーの協力を仰ぎます。開国早々自国を戦場にされるのも迷惑な話ですが、テイ・チャラは快諾します。ワカンダで生きていたウインターソルジャーことバッキー・バーンズもアベンジャーズに復帰し、キャプテンアメリカとの旧交を温めます。
 そこへサノスの大軍勢が現れ、地球に残ったインフィニティ・ストーンを巡る激しい戦闘が始まります。今回ハルクは冒頭でサノスにのされたのがよほど応えたらしく後半はまったく変身できません。そこでスターク社から改良版の「ハルクバスター(巨大アイアンマン)」を借りて変身前のブルース・バナー博士のままで戦います。ハルクバスターで戦うハルクはシュールで面白いんですが、最後はハルクバスターをぶち破ってハルク復活! という場面が見たかったですね。ソーも新兵器ストームブレイカーを携えてワカンダの地に駆けつけます。


 同じ頃惑星タイタンではアイアンマン、スパイダーマン、ストレンジ、スターロードがサノスを相手に凄まじい戦いを繰り広げています。すでにインフィニティ・ストーンを4つ持ったサノスのパワーは強力で、タイタンの月を瞬時に砕いて無数の隕石を降らせるとかとんでもない攻撃をして来ます。
 アイアンマンとスパイダーマンのスーツはナノテクで瞬時に装着したり自己修復したりができるようになったんですが、何かありがたみが薄れましたね。産業用ロボットでガチャガチャ部品をくっつけていくアイアンマンのリアリティが好きだったんですが。
 ナノテク仕様の新規スパイダースーツは背中から6本の触手が出て自由自在に動くのが目玉ですが、ヒーローというより悪役っぽくて、ライミ版『スパイダーマン2(2004)』のドクター・オクトパスみたいでした。
 健闘空しくサノスにナノテクスーツを破壊され、いまにも殺されようとするアイアンマンの助命と引き換えに、ストレンジは【タイム・ストーン】を渡してしまいます。『ドクター・ストレンジ(2016・日本公開2017)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170504/p1)を観た人なら“アガモットの目”と呼ばれた【タイム・ストーン】がどれほど強力なアイテムか知ってると思いますが、あれがサノスの手に渡るわけです。


 5つのインフィニティ・ストーンを手に入れたサノスにとって数万光年の宇宙を越えるなど造作もありません。あっという間に地球へとワープしたサノスは最後の1個【マインド・ストーン】を持つヴィジョンに迫ります。これを奪われたら今度こそ最後とアベンジャーズのメンバーがサノスを止めようと立ちふさがりますが、すでに5個のストーンを持つサノスの敵ではなく、一人ずつ殴り倒されて行きます。
 勝ち目はないと悟ったヴィジョンはスカーレットウィッチに命の源である【マインド・ストーン】を破壊させ、ヴィジョンは死にますが、サノスは【タイム・ストーン】で時間を巻き戻し、何事もなかったようにヴィジョンを生き返らせると、額の【マインド・ストーン】をもぎ取ります。
 ヴィジョンは二度殺されます。悲劇を悲しむ暇もなく、6つのストーンをガントレットに収めたサノスが指をパチンと鳴らした後で何が起こるかは自分の目で確かめて下さい。色んなヒーローものがありますが、これだけバッドエンドに終わる作品は少ないでしょう。


 とはいえ、この映画の主役は最初からサノスなんですね。『インフィニティ・ウォー』はアベンジャーズにとってはバッドエンドでも、さまざまな障害を乗り越えて6つの宝を集めるサノスの旅が成就する物語であるわけです。
 そもそもどうしてサノスが生命の数を半分にしようと思ったか。力を誇示する暴虐なら皆殺しでいいわけですが、サノスは半分にこだわります。サノスはこれまでも色んな惑星で知的生命体を半分に間引くということをやっていて、それが滅びゆく惑星を回復させると確信を得ています。
 まずその星の住民を種族や身分に関係なく二つの集団に分け、そのうちの一つを皆殺しにする。例外を設けずランダムに半数を消滅させるわけで、特定の種族を根絶やしにする地球流のジェノサイドとは違うわけです。何にせよバランスを保つために半分殺すなんて許されるはずもなく、だからこそサノスは悪役なわけですけど。


 宇宙のバランスを望んでもサノス一人の力では限界がある。そこで万能の願望機たるインフィニティ・ストーンに目を付けるわけです。人気アニメ『Fate/Zero(2011)』の衛宮切嗣ですよ。天秤の重い方を残して半分ずつ減らしていくという。サノスも昔は純粋だったんでしょうね。「僕はね、正義の味方になりたかったんだ」って。インフィニティ・ストーンは実際に願いを叶えるので聖杯よりも良心的です(笑)。
 この映画がアベンジャーズでなく、美しい空を見上げる満足げな表情のサノスで終わるのは、生命の数が半分になり宇宙のバランスが回復された暗示なんでしょう。「人間の数が半分になったら いくつの森が焼かれずにすむだろうか」(これは違う漫画のセリフ)。
 ヒーロー側から見れば後味の悪い物語が、悪役の視点で捉えるとまた違った物に見えます。


 徒党を組んでイヤイヤ地球を守るアベンジャーズのモチベーションは、宇宙全体を視野に入れるサノスに最初から負けています。最大の難関【ソウル・ストーン】を手にするため「愛する者を代償にせよ」との試練を与えられ、葛藤の末に愛娘を手にかけるサノスなんてほとんどギリシャ悲劇で、悲しみを乗り越えて力を手にする神話的なドラマが、ヒーローでなく悪の側に用意されることでも主役がサノスの側であることは明らかです。
 考えてみるとインフィニティ・ストーンが発動すればサノスの部下も半分は消滅なわけで、それを承知の上でサノスに従う部下たちも宇宙のバランスを考える立派な人たちなのかも。
 ちなみにサノスの演者というかCGの素材になってるのがジョシュ・ブローリンで、2018年6月現在公開中の『X-MEN』シリーズの一篇『デッドプール2(2018)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180625/p1)でも“ケーブル”役をやってます。同じマーベルのアベンジャーズX-MENのかけもちで敵役やってるわけで、ごっちゃにならないか心配です。


 しかしアベンジャーズの中でも比較的良心的なメンバーが消滅し、もめ事の種ばかり生き残るのは、つまりは世の中そういうものってことでしょうか。生き残ると予想された新規参入組が全滅し、マーベル参入直後のスパイディまで消滅とは。トビー・マグワイヤ版もアンドリュー・ガーフィールド版も打ち切られ、ようやくマーベルに帰還すればあっさり消滅と、スパイディの受難は続きます。
 スパイダーマンの有名悪役を主役に据える公開を控えた映画『ヴェノム(2018)』は主役不在のヴィランになるんでしょうか。普通に考えれば『ドクター・ストレンジ2』も『ブラックパンサー2』もできないわけですが、ディズニーが大ヒットとなったブラックパンサーを手離すとも思えませんしね。来年の『アベンジャーズ4』はインフィニティ・ストーンをサノスから取り返して、消滅したメンバーを蘇らせる『ドラゴンボール』な展開になるんでしょうか。


 ちなみにいつものようにエンドロール後にオマケがありまして、いつものあの人が「マザファッカ」を半分しか言えずに消滅するんですが、この時に現れるエンブレムが“キャプテン・マーベル”のものだそうです。壊滅状態のアベンジャーズがどうやって立ち直るのか、次作での展開に期待しましょう。


(了)


超大作だが、出来が悪いと私見。もはやブランド・権威ゆえ、思考停止で高評価・深読みされてやしないか!?

(文・T.SATO)
(2018年6月16日脱稿)


 アメコミ洋画としては大ヒットを記録した本作。しかし、本作をスキな方々には申し訳ないけど、個人的にはツマラなかった(汗)。
 毎春の仮面ライダースーパー戦隊が共闘する『スーパーヒーロー大戦』映画の出来が悪い部類を観たあとのような感慨を個人的にはいだいた。


 絵的にチャチなところはもちろんナイ。しかし、AとBが戦う! CとDの気が合う同士が共闘! EとFの仲が悪い同士も共闘! というようなことは本作でも一応はやっていたかもしれないが、そのへんの楽しさがまずはあまり盛り上がってはいなかったように私見する。
 最終的には本作の宇宙から来た強敵に歴代ヒーローたちが敗退していくにしても、そこに至る過程では歴代ヒーローたちも充分に強いんだゾ! カッコいいんだゾ! 善戦したのだゾ! というところを見せてくれないと。


 いやまぁ2時間半の尺があっても、あまりに膨大なキャラを描くためには尺が足りなかっただろうけど、アリがちでも敵の先兵や戦闘員を設定して、まずはそれらを蹴散らすことで、ヒーローたちの壮快な強さ・カッコよさ・頼もしさ・いかにもな人となりを現わすセリフなどを補充するようなことは必要じゃネ? ラスボスの強さを描いたり、ヒーローの苦戦や敗退を描くのは、そのような助走台があった上であるべきでは?
 あと敗退するにしても、一部ヒーローたちにはもっと一矢は報いたみたいな変化球も必要だったのでは? なにか予定調和でヒーローが次々と負けていったり、消えていったようにも思えて……。
 ヒーローたちの半数が消滅してしまって、来年の「『アベンジャーズ4』につづく!」となるラストも、このあとドーなる!? というような圧倒的な絶望感・焦燥感はなく、あまりに淡々としていやしまいか?(汗)
 ちょっとしたアクション演出に挟まれるべき人間描写、会心の一撃が決まった際の余裕の笑みや、ワザが効かなかったり劣勢になった際の焦りの表情の切り取りとか、そーした細部の短い描写の欠如ゆえに、戦闘シーンも物語もメリハリが欠如して観えてしまうのか?


 『アベンジャーズ』初作(12年)ラストでもすでに登場していて、ついに登板した本作のラスボスは、CGでボリュームアップされたキン肉モリモリのマッチョな長身大男であり、いかにも強そうでワルそうではある――先のDC社のアメコミヒーロー大集合映画『ジャスティス・リーグ』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171125/p1)の宇宙から来たラスボスのマッチョな長身大男と、その悪事に吉川英治の戦前の時代小説『鳴門秘帖』(1927年)などにはじまるアイテム争奪戦をカラめたあたりも、イメージがまるカブりだけど――。
 ただし、単なる悪ではなく往年の8号ライダー・スカイライダーこと『仮面ライダー(新)』(79年)のネオショッカーのごとく、全宇宙の知的生命体を半数に減らすことを目的としているあたりで、即物的で粗暴な問答無用の悪党ではなくなってしまう。
 あげく、日本のヒーロー特撮で云うなら、異形の脚本家・井上敏樹パターンで、世界規模の戦いなのに敵も味方も因縁や旧知があったりして、本作で云うなら宇宙人種族でもあるラスボスの大男は、おバカなアメコミ宇宙人ヒーロー集団『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14年)の顔面緑塗りのメインヒロインや、その映画第2作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170513/p1)では敵対して殺し合った青塗りの妹とは、原典通りではあるのだろうけど、親子関係でもあるという!
 いやまぁ「父殺し」や「兄弟殺し」は、聖書やギリシャ神話の時代からの普遍の物語構造ともいえるけど、少し世間が狭い感じもするなぁ。


 単純比較はしちゃイケナイかもしれないけど、直前に放たれた大傑作『ブラックパンサー』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180607/p1)や、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17年)・『スパイダーマン:ホームカミング』(17年)(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170901/p1)・『ドクター・ストレンジ』(16年・日本公開17年)などの、人間ドラマ部分での情緒・激情がラストバトルにもそのままなだれこむことで感情的にも盛り上がる作りの、娯楽活劇としては理想型の快作群の作劇と比すれば、本作は劣っているとも私見
 石を投げられる覚悟で云えば、世評は低いようである(汗)DC社のアメコミヒーロー大集合映画『ジャスティス・リーグ』の少々小粒良品でもまとまってはいた作りの方を、筆者個人は高く評価する。
 このテのオールスター映画では、「ていねいな人間ドラマの積み重ね」などは不要。メインキャラを立てるために最後は敗退するにしても、それまでの展開で各々のキャラにオイシいところや「らしい」ところを印象的に気持ちよく見せる「点描」の羅列を主眼にした作劇にすべきだとも思う。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)〜『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』合評1・2より抜粋)


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レディ・プレイヤー1 〜ガンダムvsメカゴジラ! 仮想現実に逃避するオタの心理描写が秀逸(涙)

(2018年9月8日(土)UP)
『パシフィック・リム:アップライジング』 〜巨大ロボ×巨大怪獣×ロリチビ少女×中国大企業×東京&富士山!
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レディ・プレイヤー1

(18年4月20日(金)・日本封切)

ガンダムvsメカゴジラ! 仮想現実に逃避するオタの心理描写が秀逸(涙)

(文・T.SATO)
(18年6月16日脱稿)


 クライマックスのラストバトルでは「ゴジラ」のテーマ楽曲が流れる中、 RX−78こと最初の『機動戦士ガンダム』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990801/p1) vs 昭和と21世紀のハイブリッド版みたいな「メカゴジラ」 との激闘がカナリの長尺を使って描かれる! コレに洋モノの巨大ロボットアニメ映画『アイアン・ジャイアント』(99年・日本公開00年)も参戦して混戦状態に!
 い、いったい、我々はドコの国のナニの映画を観ているのであろうか!? コレはハリウッド映画であり、天下のスピルバーグ監督作品でもあるというのに!


 ググってみると、本作の原作小説(11年・日本刊行14年)では、我らがオッサン世代には懐かしい東映特撮版『スパイダーマン』(78年)の巨大ロボ・レオパルドンが主人公の乗機で(!)、『ウルトラマン』(66年)、日本のロボットアニメからは、『勇者ライディーン』(75年)・『百獣王ゴライオン』(81年)・『超時空要塞マクロス』(82年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990901/p1)の主役可変ロボことバルキリー・『マジンガーZ』(72年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200119/p1)のゲスト敵ロボの女マジンガーことミネルバX(エックス)も参戦していたのだという……。この原作者、アタマがおかしい!?(笑)
 いやまぁこの情報過多の時代、海の向こうのオタ(の中の濃ゆい一部・笑)にもそーいうヤツらがいるってことですナ。もちろんそれが海の向こうのオタの平均値でみんながそーなのだとカン違いしちゃったらダメだけど。


 本映画中の仮想現実ゲーム世界には、『バットマン』(1939年)やその乗車・バットモービルやら、日本のアニメ映画『AKIRA』(88年)の金田バイクやら、『キングコング』(1933年)やら、『トランスフォーマー』(07年)やら、『マッドマックス』(79年)やら、『マッハGoGoGo』(67年)やら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85年)の乗用車型タイムマシンやら、『グレムリン』(84年)やら、『ミュータント・タートルズ』(84年)やら、『シャイニング』(80年)やら、格闘TVゲーム『ストリートファイター』(87年)の必殺ワザ・波動拳やら、我が日本の往年の映画スター・三船敏郎(みふね・としろう)などなどなどが登場! どれだけの金銭を版権支払に費やしているのやら。さすがスピルバーグ&ハリウッドの資本力!(イヤミ) もうムチャクチャなオタク的妄想力の「スーパーヒーロー大戦」にして「寛永御前試合」にして「東映黄金期オールスター時代劇」にして「ジャスティス・リーグ」(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20171125/p1)にして「アベンジャーズ」(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190617/p1)な徹底的物量投入作戦!


我々オタには夢の世界! そこに入り浸るオタの姿は実に含蓄に満ち(涙)


 とはいえ、見せ場重視の姿勢は文芸映画ならぬ娯楽活劇作品の作劇手法としては賛成だけど、そーいうオタクネタの羅列・列挙だけでも娯楽活劇作品としてのケッサクが即座にできるワケでもないだろう。
 最も必要なのは、主人公の戦う動機と、倒しても良心が痛まないような小憎らしい悪党をいかに構築するかである。


 本作における主人公の戦う動機。それは酷薄な3次元世界からの現実逃避である(爆)。その憂さを晴らすために、あるいは現実世界では運動オンチで非モテのキモオタでコミュニケーション弱者でもあるショボい自分でも、オタク系同人界では筆1本でエラそうにジャンル系作品を論評してみせて悦に入る……。
 ちがった(笑)。インターネットに接続した特殊ゴーグルを経由して世界中の人々とつながったリアルな仮想現実ゲーム世界で、人間や動物としての限界をはるかに超えた筋力や跳躍力でジャンプして宙でその身をヒネりつつ遠方に着地して、レーシングカーを華麗なドライビングテクニックであやつってスリ抜けて先頭走者に立つことで、身体を自由自在に動かす全能感・万能感・達成感を味わって、生の充実や横溢や高揚も感じとり、不全感や劣等感や3次元の人間たちの殺伐とした言動に苛まれて疲弊した精神のバランスもハコ庭の世界においてだけは回復することができる。
 そして、仮想世界内にあまたあるゲーム群で、高得点を競い合い上位ランクへと上昇することで、ちょっとした自尊心をも満たすことができる。


 ウ〜ム。こーやって引いて客観化して距離を置いて眺めてみると、ハコ庭の中での背比べ・優越感競争のさもしい行為だなぁ。我ながら耳がイタくて胸もイタくて身に覚えがアリすぎる(爆)。
 しかし、生まれつき性格・体力・ルックスにも恵まれて、現実世界では何もしなくても肯定されてきたリア充な人間たちには想像もつかないだろうけど、それらに恵まれずハブられて生きてきた大多数の人間や特に我々オタク人種たちにとっては、まさにこのVR・仮想現実ゲーム世界こそが「実存」を仮託するのに足る世界なのではあるまいか?(汗)
 だって、我々オタク人種が虚構のフィクション作品やゲームに耽溺したり、あるいはそれの派生として論評・コメントしたり、二次創作に励んだり、イラストを描いたり、マッド動画を作ったりするのも、究極的にはハコ庭の世界で盆栽を育ててそれをキレイに整えて完成させ、同好の士の耳目を少々集めることで、そーいう「実存」的な手応えや歯ごたえに充実感や達成感を、一時的にではあっても擬似的に体感するためではないのかとも考えると(涙)、我々オタのあり方のストレートな延長線上には本作『レディ・プレイヤー1(ワン)』(18年)におけるVR世界もあると捉えざるをえないのだ。


 そして、このVR世界には今は亡き創業者が秘かに隠していた3大アイテムがあるという。加えて、この3大アイテムを集めた者には創業者の莫大な遺産を授与するのだともいう……。
 アレ? 日本のラノベ原作の大人気深夜アニメで、その続編である劇場版映画(17年)が人気アニメ『ラブライブ!』(13年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150615/p1)の続編劇場版(15年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160709/p1)や『ガールズ&パンツァー』(12年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190622/p1)の続編劇場版(15年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190623/p1)の興行成績をたったの封切1ヶ月で上回った『ソードアート・オンライン』(02年・12年にTVアニメ化・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190928/p1)に、この設定は類似してはいまいか?(汗) あの作品の場合はまたまたブルース・リー主演のカンフー映画死亡遊戯』(78年)パターンで、VR世界の最上層にいるラスボスを倒すまでは3次元世界で昏睡状態にあるプレイヤーの意識がゲーム世界から脱出はできずに、場合によっては3次元でも死ぬというモノではあったけど。


 対するに、倒してもイイ憎々しげな悪党には、この「カネの成る木」でもあるVR世界を横取りしようとする大企業のキタナいオトナ(笑)を配置する。といっても、殺人・強盗もしそうな根っからの大悪人といった風情(ふぜい)ではナイ。フツーの娯楽活劇作品だと小悪党止まりのレベルといった、初老で痩身の頭髪がウスくなった神経質そうなハゲた白人オジサンにすぎないけれども。
 本作のように、世界全体の物理的な危機ではなく、あくまでもハコ庭のVR世界の危機を描くようなスケールの物語では、このくらいの塩梅のオジサンであるラスボスの方が、たしかにお似合いではあるのだろう。


 とはいえ、この映画で一番エラい! と筆者が個人的に思った試みは、VR世界に立体映像として出現して、いわゆる偽名・ペンネームを名乗るアバター(分身)キャラたちが、日本のアニメのキャラデザ的に少々誇張・デフォルメされたお目々パッチリの金髪イケメンキャラであることとの対比か、現実世界での当人たちについてはヘンに美化せず、我々キモオタの似姿でもある「腫れぼったい顔のブ男少年」や「顔面偏差値や体型には恵まれていない少女」であったり「いかにもな冴えないオッサン」として正しく描いていたことだ!(笑)
 VR世界の外の現実世界でもゲーム・プレイヤーである主人公少年少女が美男美女であった『ソードアート・オンライン』の原作者センセイは見習いなさい! ……エッ? そのへんのアンチテーゼを描いたのが、同じ原作者の手になるチビでデブでイジメられっコの少年が主人公であるAR(拡張現実)ネタの名作深夜アニメ『アクセル・ワールド』(09年・12年に深夜アニメ化)だって? そ、そーでしたネ。あの深夜アニメには筆者もTVに向かって土下座していました(平身低頭)。


「虚構」vs「現実」のテーマ的対比では際どいところもあるけれど(汗)


 加えて、安直な現実世界/仮想世界の二元論に陥って、20世紀末のTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20110827/p1)の真の最終回を描いたアニメ映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』(97年)ラストのように、


「『虚構』に耽溺するのではなく『現実』へ帰れ!」


なぞという一元的な結末に観客を導かなかったこともホメたたえておきたい……と云いたいところだけど、本作もまたその弊には少々ハマっていたところはやや惜しい(汗)。


 「現実に帰れ」という主張にももちろん理はある。しかし、それだけを過剰に云いつのると、結局は「仮想」「虚構」を全否定しているようにも見えてしまう。「仮想」「虚構」で救われたり、精神的な居場所を見つけたり、古くは文通やメル友とオンラインならぬオフ=3次元の世界でも逢ってみることで――いや、逢ってみなくても――、趣味も気も合う友人をゲットできたりもする「美点」をなかったことにするような取りこぼし感が大きくなって、的ハズれ・物足りなさで釈然としなくなってしまうのだ。
 私見では「虚構」と「現実」の対立案件――にかぎらないけど――の真実というモノは、二元論のうちのいずれか片方を採択するのではなく、四元論とでもいうべき、「現実」の良い面・悪い面、「仮想」「虚構」の良い面・悪い面、その4項のすべてをイーブンに把握することで、全的に包括的に物事の長短をカバーすることのように思われるのだ。


 何十年も付き合っているのに一度も顔を合わせて会ったことがない、TELでしゃべったこともなく、手紙やメールでしかやりとりしたことがないロートルな特撮評論同人屋たち……、もとい(笑)年齢も性別も異なる醜男醜女(ぶおとこ・しこめ)なゲームプレーヤーたちが、物語終盤では現実世界でも大集合!
 英知を尽くして3次元世界で身体を張って物理的・肉体的にも戦ってみせることになるストーリー展開は、VR世界での大活躍以上にある意味ではインチキなファンタジーである気もするけど、かくあってほしい・正義に勝ってほしい・道理や道義が通ってほしい・弱者もたまには勝ってほしい――現実は往々にしてそーではないのだから(笑)――という想いを見事に体現できており、勧善懲悪的な爽快感を得るのがフィクションの本義でもあるのだから、コレでイイのだと云うべきである!!


洋楽「JUMP」が意図的・無意図に体現していた「自由」の正体とは何ぞ!?


 本作もまた、今は昔の30年以上もむかしになってしまった新古典の80年代ジャンル作品のガジェット(小道具)もコレから大量に登場しますヨ〜というシンボリックな意味も込めてか、本誌読者の過半が生まれる前、往年の1984年の大ヒット曲、オッサン世代には懐かしい洋楽、80年代前半の開放感・自由感・高揚感・物質的豊かさの到来を予告するかのような、ヴァン・ヘイレンのアルバム『1984』に収録された世界的大ヒット曲「JUMP(ジャンプ)」で開幕する。
 全体主義的に国民を監視する管理社会な未来像を描いたディストピア小説『1984年』(1949年)とは真逆な、自由放任・規制緩和で消費享楽的な社会の到来を告げつつあった現実の1984年は、たしかに過渡期ゆえの錯覚か「自由と解放の明るい予感」に満ち満ちていたことを思い出す。戦後の重工業中心の高度経済成長と、70年代の石油ショック後の不景気を経て、再度訪れた豊かでオシャレなバブル経済への助走台に入ったあの時代。


 しかし、2〜3年して気付く。「自由」とは、狂騒・狂躁的なイッキ飲み強制ノリ笑いに通じる遊び人・ナンパ師的なコミュ力のある人間や、ルックスに恵まれた人間、虚栄心から髪型や服飾などにうつつを抜かす人間だけに果実を与えるのだと。そーいうモノが苦手であったり、そも関心がなかったり、飽食ではなく清貧や質素や、目立とう精神ではなく謙遜を旨とする人種たちは、ネクラやイケてない系として下方に押しやられてしまうのだと。
 控えめな人間に対する配慮やいたわりに欠けた躁的会話が若者間での標準となることで、ますます他人とのコミュニケーションにも乗り出せなくなり、適度な自信を持って成熟することが叶わなくなっていくことで、前代の年長世代には想像もできなかった過剰な劣等感やダメ意識までをも持たされる。そしてその原因を、若者間での新たなコミュニケーション作法を知らない浅薄な自称・識者が的ハズレにも、家族メンバーの減少・隣近所とのコミュニケーション不足・発達障害などのせいにしたりもする(笑)。


 「管理社会」も地獄だが、「自由」も別のイミでの地獄であったのだ。「自由」は必ず「放縦」に流れて「格差」「不平等」に行き着く。中高生の教室内での最低限の一体感もウスれて、イケてる系とイケてない系へと分化していき、今日的なスクールカーストの原初形態もこの時代に誕生する。
――ちなみに「平等」の方も必ず「画一」「抑圧」に流れて「不自由」に行き着くとも思う……。近代の2大理念である「自由」と「平等」は、実は相反する矛盾した概念であり両立はできないのだ!?(汗)――


 90年代以降、「J−POP」が若者文化間で隆盛して、それ以前の無用な「洋楽」コンプレックスも雲散霧消した。今では信じられないだろうが、かつては中高生以上の若者文化においては「洋楽」至上な音楽カーストがあって、植民地の民の奴隷根性(笑)が大いにまかりとおっていたのだ――往時はTVはともかくラジオや有線放送では洋楽がかかりまくっていたので、オタクな筆者でも「JUMP」は特に印象に残っている――。
 と同時に、「洋楽」ファンの中にも世代間闘争があって、荒々しいエレキギターよりもポップなシンセサイザーの音が目立つようになった「JUMP」に象徴される当時のロックを指して、


「近頃のロックは音がカルい! 堕落したのはシンセのせいだ! 抵抗ではなく大衆迎合になっている!」


なぞと、今は亡き、往時は発行部数が各誌ともに数十万部を誇っていたFMラジオ雑誌群での読者投稿欄にて問題提起があったことを懐かしくも思い出す――遠い目。まぁ筆者はロック至上主義者なんぞではナイので、イキがったりワルぶったりして周囲を威嚇・恫喝するなどの虚栄心が目的(?)のロックが堕落・変節しようが知ったこっちゃナイどころか、むしろカンゲイするけれど(笑)――(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190915/p1)。


 そんな「JUMP」が流れる中、主人公少年が住まう3次元のスラムな地域の住宅は、ゴミ捨て場のような土地に、側面の位置も統一せずに素人がプレハブ住宅を乱雑に高層に積み重ねたような一角にあって、かつてはアメリカ人が日本人の家屋を指してそう呼んだ「ウサギ小屋」のような狭い家屋であり、DV=ドメスティック・バイオレンス家庭内暴力)な貧困家庭でもある。
 楽曲の80年代的な開放感とは正反対に、その光景は貧乏かつ閉塞感にあふれるモノなのだが、それが生まれついての平常運転である主人公少年にとっては、家族との不仲はともかく、貧困それ自体については特に不満に思っていないようにも見えるあたりで、「JUMP」も時代的な記憶&文脈とは切り離された純粋音楽として彼には聞こえているのやもしれない――あるいは、落ちきるところまで落ちきると、第1次世界大戦&第2次世界大戦の終戦直後の世界各国の焼跡闇市のようなアプレゲール(戦後無頼派)・漫画『AKIRA』・坂口安吾の『堕落論』的な自由さ・逞しさが、近未来のこの世界にも沸きあがっていたのであろうか?(以上は心にもないウソです。とてもそのようには見えません・汗)――


 「自由」の理念を「経済学」の理論に積極的に援用した80年代以降の新自由主義経済の進展で経済格差が拡がった末に行き着いた、古典小説『1984年』的な管理社会的ディストピアとも、現実世界での「1984年」以降の自由放縦で経済的には豊かでもイケてる/イケてない系やモテ/非モテの若者間格差が拡大したディストピアとも異なる、国民を良くも悪くも管理や監視をする気はない「消えた年金問題」(笑)を惹起する「小さな政府」による庶民放置プレイかつ、世も末の貧富の格差だけが超拡大した第3のタイプの新自由主義ディストピア社会が本作では描かれた。しかし、本映画はココには批判の目は向けない――間接的には風刺しているのやもしれないけど、その風刺力は一部のスレた人間にしか届かないであろう実に弱々しいモノである――。
 本作の作品世界における諸悪の根源は、この映画が切り取ったハコ庭VR世界のカメラアングルの外の世界にいるとも思うけど、そのへんを糾弾する役回りは本作のようなフィクションではなく、また別のジャーナリズムや言論人・思想家などによるノン・フィクションの方にこそ期待をすべきであるのだろう。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)〜『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『レディ・プレイヤー1』合評2より抜粋)


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パシフィック・リム:アップライジング 〜巨大ロボ×巨大怪獣×ロリチビ少女×中国大企業×東京&富士山!

(2018年9月8日(土)UP)
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パシフィック・リム:アップライジング

(18年4月13日(金)・日本封切)

巨大ロボ×巨大怪獣×ロリチビ少女×中国大企業×東京&富士山!

(文・T.SATO)
(18年6月16日脱稿)


 巨大ロボット軍団vs巨大怪獣軍団の大抗争を描いた、環太平洋防衛軍こと『パシフィック・リム』(13年)の5年後の待望の続編で、前作の10年後の世界を描く。
 主人公はエピソード7こと『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15年)やエピソード8こと『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17年)でも副主人公として活躍した少々ガタイのイイ黒人青年クンが演じており、日本語吹替版ではイケメンボイス声優・中村悠一がアテている。


 しかし、副主人公でもあるヒロインは、小学校高学年みたいなメカフェチの白人ロリチビ少女であるあたり、なんだか本作も日本のいびつなオタ向けアニメみたいではある。日本語吹替版では、彼女を実力派人気声優・早見沙織がアテていた。
 先の傑作アメコミ洋画『ブラックパンサー』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180607/p1)でも、ブラックパンサーの妹嬢は各種のコンピューターを自在に操る天才ロリ少女であったけど、ナンなのダこの怪しい符合は!? 巨大ロボットや巨大怪獣のことでは我らがニッポンを見習ってくれてもイイけれど、オタク男子好みの理系女(リケジョ)なロリ美少女嗜好については、世界の労働者諸君は見習わない方がイイとも思うゾ(笑)。


 巨大ロボット軍団の操縦士メンバーには、本邦ニッポンからも、我らがジャンル作品の雄・千葉真一のご子息であられる新田真剣佑(あらた・まっけんゆう)も参戦!
 世界市場・中国市場も意識してか、勃興する中国の巨大IT重工業を登場させて、往年の名作ビデオアニメ『マクロスプラス』(94年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990904/p1)みたく、有人戦闘機(巨大ロボ)と無人戦闘機(巨大ロボ)のコンペティション・営業合戦みたいな話ともなり、クールビューティーな黒スーツに身をつつんだ美人で痩身の女社長が率いる中国企業とドローン(無人巨大ロボ)が、巨大怪獣以上にワルものの役回りになるのかと思いきや……。それとは別にラスボスがいて、女社長も実はいいヒトで、環太平洋防衛軍に最後は協力を惜しまない、今では莫大な収益を上げる中国市場を意識した(笑)展開ともなっていく。


 世界を動かすハイテク大企業の役回りを我らがニッポンが務めなくなったことに、マンハッタンを買収しまくっていたバブル期のニッポンを知るオッサンとしては隔世の感もいだく。
 しかし、ラストバトルでは、前作でも舞台としなかった本家・元祖である我らがニッポンの大東京の大都心&冬山の富士山のピーカン晴天下で、黒人青年クンと白人ロリ少女が並んで操縦する最後の1体の巨大ロボットvs敵巨大怪獣とが組んずほぐれつ超高速でゴロゴロ転がり背負い投げしたり振り回されつつ、ロケット噴射で超高空に飛翔して富士山の斜面に落下し、裂けた装甲のスキ間から外を覗きながら操縦する、ニッポンのオールドオタにはドコか既視感もあふれる実に暑苦しい超絶バトルが繰り広げられる!――富士山が背景だなんて、ゴジラ映画『怪獣大戦争』(68年)や『マジンガーZ』(72年)に昭和のあまたの東映特撮のオープニング映像みたいでもある――
 ニッポン人としては、葛飾北斎富嶽百景じゃあるまいに富士山はあんなに急峻な円錐じゃないヨ! 東京の目と鼻の数キロ程度の先に富士山が迫って見えるのはドーよ!? あんなに激しくバトルしたら富士山が山体崩壊しちゃって自然破壊だヨ! とツッコミもしたくなる(笑)。
 もちろんリアルな東京&富士山ではなく、世界の人々の脳内での最大公約数としてのニッポン&富士山イメージのあくまで虚構世界内における誇張・単純化されたかたちでの再現なのだから、小者的にウッキームッキーと反発せずに、そこはオトナの余裕ある態度で泰然自若に構えて笑って流そう。


元祖の前作と比すると本作はやはりイマイチか? その原因とは!?


 しかし、ウ~ム。出来についてはイマイチかなぁ。前作と比すると悪いイミで少々人間ドラマ寄りかもしれん。それに世界規模での切迫した危機感があった前作と比べれば、あくまでも戦後の局地戦にすぎないスケールの事件ではあったし。
 ではドーすればよかったのか? 前作と同じような攻防劇・総力戦を描けばよかったのか? いや、前作を超えるのは困難だから、あの世界の戦後を別の角度・側面から切り取って新鮮な物語を作ってみせるべきであったのか?
 おそらく発想としては、後者であったのだろうと私見する。そして、コレが連続TVドラマ展開としての前作の続編であったなら、こーいう少々ミニマムな人間ドラマやSF設定を積み重ねていった果てに帰着するストーリーは、むしろ単発映画でのそれよりも、視聴者にさらなる感慨を催すようにも思うのだ。
 しかし、しょせんは2時間尺の戦闘シーン主体の映画では、綿密でていねいな人間描写の「積み重ね」による手法が適しているとは思われない。むしろ印象的な「点描」での人間描写の手法の方が適していると思われる。
 ……なぞと思ってしまうのも、あくまでも前作の神懸かったテンション・高揚と無意識に比較してしまうからであって、コレが独立したオリジナルの単独作品であった場合は、本作はフツーに楽しく観られた作品であった可能性も高い(笑)。げに作品評価とはムズカしい。


巨大ロボvs巨大怪獣を描く元祖『パシフィック・リム』の設定&作劇をふりかえる!


 元祖の前作『パシフィック・リム』の設定も整理してみよう。
 異次元に通じた太平洋の海溝の底から、ぞくぞくと出現するKAIJUこと巨大怪獣。
 太平洋沿岸部の各国の諸都市は巨大怪獣に蹂躙・破壊され、巨大怪獣の侵入を防ぐために、日本の漫画『進撃の巨人』ばりに万里の長城で都市を囲って生活している。広大な太平洋もまた、日本の近未来海洋戦記漫画『蒼き鋼のアルペジオ』(共に09年・共に13年に深夜アニメ化・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190922/p1)みたく、巨大怪獣の勢海圏となって通交も途絶えている。
 そんな危機に敢然と立ち向かうのは、往年の変身ブーム時代の円谷プロ製作の特撮巨大ロボット『ジャンボーグA(エース)』(73年)やロボットアニメ『闘将ダイモス』(78年)に『機動武闘伝Gガンダム』(94年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19990804/p1)みたく、機械と人間を接合し、搭乗者の突きや蹴りなどの動きと連動したかたちで巨大ロボットの手足身体も操ることができる、世界各国な無骨な二足歩行の巨大ロボット軍団!
 日本の往年のジャンル作品群の記憶に満ち満ちた設定&映像を、それらに影響を受けた海外のオタクたちが最高級のCG特撮を用いてハリウッドで再現した作品であった。


 クサれオタの筆者としては、奇しくも巨大怪獣vs巨大ロボット軍団の戦いを描いて、巨大ロボも2人1組で操縦していた、本映画をさかのぼることちょうど10年前の深夜アニメ、渡辺宙明センセイが楽曲を手掛けて串田アキラが主題歌を歌うことで、絶滅寸前のオールドオタクをねらいまくっていた快作『神魂合体ゴーダンナー!!』(03年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20040405/p1)との膨大な類似なども想起したモノだ。
 しかし、「萌え」や「美少女」に急速に特化しつつあった当時の若いアニメマニマ間では空気と化したマイナー作品でもあった。残念ながら日本の後代の若いオタたちも、『ゴーダンナー』なぞ振り返らないし、ジャンルの歴史に残った作品ではないので(筆者個人の評価はまぁまぁ高いけど)、『ゴーダンナー』が『パシフィック・リム』のアイデア・ソースであった可能性は低そうだ(涙)。
 ギリシャ神話のオルフェウスと日本神話のイザナギは、共に冥界下りでカミさんを取り戻しに行くけど、日本と彼の地の間に類似した神話がナイ以上は、独自に成立したと推測されるように、神ならぬ身の人間の想像力なんてのも無限ではない以上は、パクらなくても互いに似通ったモノを創造してしまうことも往々にしてあるのだろう。エジプトと中米のピラミッドの類似もしかりだ(笑)。


 要は前作は、ロボ&怪獣がビル街・海浜・浅海・深海で戦っているだけの作品で、あるいはいかに怪獣を倒すかの作戦だけを描いた攻防劇であり、その過程でイイ意味で申し訳程度に登場人物たちの人間像を描くような作品にすぎなかったワケである。しかしそれゆえに、原初的・プリミティブな起承転結は満たしていて、観客にも敵の怪獣を倒してメデタシメデタシのカタルシスを味あわせてくれる作品にはなっており、斯界(しかい)の評価も実に高くて、筆者個人の私的評価も高かった。


元祖の勝因は怪獣の「超獣」化!? 怪獣から小難しいテーマや悲劇性を剥奪したこと!?


 もちろん感情的な好悪だけを云うのは、評論オタクに悖(もと)る行為なので、多少分析チックなことも云わせてもらおう。前作は「怪獣」がイイ意味での「超獣」化、生物兵器化していたことが、作劇の勝因であったと思うのだ。
 往時のオタク第1世代のマニアたちの活動によって、昭和ウルトラシリーズや昭和ゴジラシリーズの堕落の歴史・変遷の象徴のようにも云われて、あるいは1960年代の第1次怪獣ブームまでの作品群を神聖視して、上の世代に粗製濫造だと思わせた1970年代の変身ブームや合体ロボットアニメブームに登場した怪獣怪人・敵ロボットを揶揄するために構築された論法がある。
 60年代までの初期東宝特撮怪獣や初期ウルトラ怪獣たちは、「恐怖」や「核兵器の隠喩」や「大自然の象徴」に「大自然からの警鐘」などのテーマ性を持っていた。しかし、70年代に入るや、東宝怪獣やウルトラ怪獣はテーマや命題を抱えた「生物」としてではなく、ヒーローに問答無用で倒されてもイイように、その同情すべきかわいそうな属性は剥奪され、打倒されるだけの無個性で「武器」や「技能」などの戦闘能力に特化した存在に堕(だ)したからこそ、特撮ジャンルは70年代以降に「冬の時代」を迎えたのであるウンヌンカンヌン(大意)という論法である。
 コレはコレで一理はあったのかもしれない。しかし、今度はそれと引き替えに、マニア世代が作り手側にまわった90年代中盤以降、本邦ジャンル作品は「怪獣」を倒すことに躊躇や罪悪感を過剰にいだくようになってしまった。大怪獣ゴジラだって、水爆による被害者なのである……といったロジックによってである。
 これはこれで誠意ある態度でもあるのだが、このロジックを徹底していくと、悪人にも恋人や家族や子供がいたかもしれないと悩むことになり、怪獣モノにかぎらず勧善懲悪の娯楽活劇作品の存在自体を自己否定しなければならなくなる(爆)。ハリウッドでリメイクされた両『GODZILLAゴジラ)』映画(98年・14年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190531/p1)とて、この弊からは完全には逃れることができなかった。


 しかし、『パシフィック・リム』に登場するKAIJUたちは、『ウルトラマンエース』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070430/p1)に登場した「超獣」たち同様、異次元空間から来襲する侵略的外来種なのだ。多分、我々人類は今のところはちっとも悪くない――今後の追加設定いかんでは知らないが(笑)――。
 生物・動物ではあろうけど、我々炭素系生物とは異なり、古典SFではおなじみ懐かしのガラス・珪素(ケイソ)系生物であるから、ますます遠縁・疎遠でもある。人類とも共生できそうな愛玩動物的な愛嬌もナイ――怪獣各個の形態や得意能力に特化したデザイン的なカッコよさはあれど――。
 よって、罪悪感・同情・憐憫の余地なく、安心して心おきなく戦って、『進撃の巨人』同様に「相手を駆逐」してやる(笑)こともできるのだ。どころか、KAIJUたちには、戦い合った果てにドチラかが死んでしまっても恨みっコなしの古(いにしえ)の武人たちのような潔(いさぎよ)さ・爽快感までもが漂う。ナンという再発見であり再発明(笑)。


 もちろん、このような「相手を駆逐」してもイイ設定&作劇が特撮ジャンルの最終的な到達点であり、「怪獣」の存在にもそれなりの理や情を与えて、同情の余地や人類側へも反省の余地を求めるような作劇がまったくのムダであり寄り道であったのだと云いたいのでもナイ。それはそれでジャンルに純粋娯楽活劇的にはやや遅滞・停滞をもたらしたかもしれないが、同時にドラマ&テーマ的にはたしかに豊穣をもたらしたとも思うのだ。
 しかし、コレで3度目あたりであろうか?(笑) またまた少々煮詰まってきた感もある本邦ニッポンのジャンル作品――煮詰まってきたというのは、あくまでもフワッとした筆者の私見です(汗)――。コレを賦活化(ふかつか)するためにも、改めてキン肉バカな作品である元祖『パシフィック・リム』の設定&作劇については、我々も学ぶべきことが多いのではなかろうか?


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)~『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『パシフィック・リム:アップライジング』合評2より抜粋)


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