(06年9月2日封切)
(文・森川由浩)
「日本のエド・ウッド」の異名を持つ映画監督・河崎実。
自主映画で『√(ルート)ウルトラセブン』(78)を製作、以後自主制作映画の規模を超える作品を世に送り出し、やがて『地球防衛少女イコちゃん』(87・asin:B00005FPRS)でプロデビュー、現在の活躍は周知のとおり。
河崎実の新作『日本以外全部沈没』(06)は、小松左京氏の『日本沈没』(73・asin:4094080651)のパロディとして描かれた筒井康隆氏原作の小説(73・asin:4041305225)を、現代にマッチする形で映像化、日本国家や世界全体の抱える問題を巧みに描き、観る側に鋭く問題提起した。
日本の外交問題は勿論、敗戦国日本が“欧米に対して”恒常的に抱く“外人コンプレックス”、現在の政治家の腐敗振り、不法入国外国人等の諸問題を鋭く、そしておかしく滑稽にも描いている。
これだけでも筒井作品の持つ「ブラックユーモア」の精神を的確に捉えて描いた作品であるということが理解できる。
やはり年季の入ったマニアにとっての本作最大の目印は、本家『日本沈没』の映画版(73)で小野寺俊夫を演じた藤岡弘、と、TV版(74)で同役を演じた村野武範の夢の共演だろう。
これには、「河崎実もここまでの大物スターを使えるようになったのか…」という感慨があった。
ちなみのこの“W小野寺俊夫”は、“Wたけし”でもある。藤岡は本郷猛(ほんごう たけし・『仮面ライダー』(71〜73))、村野は河野武(こうの たけし・『飛び出せ! 青春』(72))。実にディープなマニア臭溢れる人選である。
河崎作品の常連としておなじみの『キャプテンウルトラ』(67)・中田博久の助演に加え、実相寺昭雄作品の常連で、最近では『ウルトラマンマックス』(05)のメトロン星人人間態を演じた寺田農(てらだ みのり)演じる田所博士は、本家の田所博士よりも、『ノストラダムスの大予言』(74)へのオマージュが強く感じられる怪演を見せてくれた。
観る側にとっても“笑わせながら考えさせる”映画に仕上がっており、また特撮は特撮研究所が担当、パロディ・コメディ作品にしては力の入った破壊シーンを見せてくれる。
また外人俳優の大量起用も作品を単なるパロディだけに終わらない厚みをかもし出す。その外人だが、故郷を失い、日本に移住するが職がなく、止む無く売春婦に陥る女性たち、他にはハリウッドの人気スターですらホームレスに堕落、寝床のテントにアカデミー賞のトロフィーを飾る様など、最初見たときは一笑ものだが、普通じゃ描かれない凄まじい状況が続出、笑った後に胸が締め付けられたり、深く考えさせられるものを強く感じた。だがその後に更なる空しさを感じる。
“人間は争いが本能なのだ”ということを。
幾ら考えても現実の前には“理想論”は通用しないという訳である。
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