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『翼の凱歌(つばさのがいか)』 〜戦前の戦意高揚映画にも残る普遍性
(文・Y.AZUMA)
1942年(昭和17年)東宝映画の作品。
2008年4月の日本映画専門チャンネル「脚本家 黒澤明の仕事」の一環で放映。
私事で恐縮だが、会社から家に帰ると、妻が「見て見て見て。この映画。」とテレビの前で言っていた。テレビの中では、白黒映像で米陸軍のB17が単発の戦闘機に追われていた。
「『翼の凱歌(つばさのがいか)』っていう映画よ。「隼(はやぶさ)」っていう飛行機が飛んでいるみたい。」と妻。
航空ファンである私に解説を求めているようだ。良く見るとアメ公のB公を追っているのは、旧日本陸軍 一式戦闘機・隼である(旧日本軍の各種の航空機同様、皇紀2601年(昭和16年・1941年)に正式採用されたため、皇紀の下2桁から取って一式と命名されている)。
何機も飛んでいる隼は全部実写。それだけでも航空映画としてみる価値有り。
後姿の敵機「空の要塞B17」に対し、ちょうどガンカメラ(戦果確認用に機関銃の引金を引いている間だけ撮影されるムービーカメラ。米軍がよく使用)で撮影したかのように、味方・隼の機関銃弾が次から次へと吸い込まれていく(いかん。元軍国少年を父にもっていると、この手の映像に対し、こんな感覚になってしまう)。
おお、なんと壮観。日頃、ドキュメンタリー系CSチャンネルで、これでもかこれでもかと、一式陸攻や零戦の撃墜されるカラー映像ばかり見せつけられていた私には、眼福である。
「何でこんなシーンが延々と続くの? 意味が分からない。」と妻。「これはね。」と説明する私の気持ちも浮き浮きする。
この映画、製作は昭和17年。太平洋戦争開戦翌年の作品である。映画監督は山本薩夫(やまもと・さつお)。
戦後は、『白い巨塔』『氷点』(共に66年)、『戦争と人間』三部作(70・71・73年)、『皇帝のいない八月』(78年)、『あゝ野麦峠』(79・82年)等、左翼系として有名になる映画監督であるが、戦時中は国威高揚映画を何本も撮っていた人。
この映画は、彼の経歴の中では「あいつは戦争中こんな映画を作って少年たちを戦場に駆り立てた。」といわれる代表的な映画である。
特技監督は、円谷英二(つぶらや・えいじ)。特に説明の必要はなし。
つまり、当時の少年たちの気持ちを湧き立たせ、「僕も飛行機乗りに」と思わせるよう、飛行機と飛行機乗りをかっこ良く撮影した映画なのだ。
ただ、それだけの映画なら、その時代や次の時代を経た後で見たら、何もない映画になる。
しかし、さすがに山本薩夫で円谷英二。そんなことでは終わらない。そんな背景をほとんど知らない妻が二十一世紀に見ても、面白くて楽しめる映画になっている。これこそが、「時代を超える普遍性」なのかも知れない。
少年たちに大空への憧れを駆り立たせる映画であるから、延々と米陸軍四発爆撃機B17を追撃する映像を見せているのである。……と私は妻に説明をした。
さて、なぜ敵機B17が日本の東宝映画に客演しているか説明。
この機体、開戦後にジャワ島で鹵獲(ろかく)され日本にテスト用のため運ばれた飛べる本物。映画でも、優美に飛びながら、途中で煙を吐き、最後のシーンでは海上に墜落していた(このシーンは特撮の円谷先生ご担当)。
「私が分ったのは、少年向けの児童映画としての部分と『プロジェクトX』(NHK)風の飛行機の製作部分。飛行機の飛ぶところはどうでも良い。」と妻。
どうも、夫婦で同じ映画を見ながらも、興味のある部分は異なるようである。
編集者付記
ちょっと古い話になりますが、Y.AZUMA氏もそのミリタリーの博識でお呼ばれして、商業誌『新映画宝庫Vol.2 ミリタリーヒーローズ 力瘤映画戦場編』(01年・ISBN:481300430X)などでは、あまたの戦争映画について大量に執筆。
巻頭を飾った、第2次世界大戦・西ヨーロッパ戦線の戦局の推移を、その局地局地を扱った膨大な戦争映画をからめて紹介しつつ説明する、数ページを費やす概要長文。
我らの本邦・大日本帝国が太平洋戦争の経緯などを、同様手法で説明する概要長文なども担当しています。
(もちろん商業誌なので同人誌的な、時にお手軽ノリの寄稿はありません。と云って、ムダに四角四面で堅苦しく書いているワケでもなく、中身もアリかつ軽妙に読みやすく書かれております・笑)
網羅性・資料的価値の高い本でもありますので、興味のある方は、イヤあまりナイ方でも、批評・感想オタクの後学のための資料用・入門勉強用に(笑)、古本屋やネット中古通販などでもぜひに……。
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