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ウルトラマン80 48話「死神山のスピードランナー」 ~妖怪怪獣の連綿たる系譜!

(YouTubeウルトラマン80』配信・連動連載)
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『ウルトラマン80』全話評 ~全記事見出し一覧


ウルトラマン80』第48話『死神山のスピードランナー』 ~妖怪怪獣の連綿たる系譜!

ラソン怪獣イダテンラン マラソン小僧・死神走太登場

(作・水沢又三郎 監督・宮坂清彦 特撮監督・高野宏一 放映日・81年3月11日)
(視聴率:関東8.6% 中部13.1% 関西12.2%)
(文・久保達也)
(2011年6月脱稿)


 「走ること」と「マラソン大会」を見るのが大好きで、別名・死神山こと中部山岳地方の大峯山(だいほうざん)で「足の神様」として崇(あが)められていたマラソン怪獣イダテンランが少年の姿へと化身した。
 彼がマラソン小僧としてひと騒ぎを起こしたあとに、それに目をつけた星雲中学校の吉田校長が「中学対抗マラソン大会」の選手としてスカウトをする。しかし、大会当日に吉田校長がライバル校の優勝候補に、猛犬をけしかけた行為がウラ目に出てしまう。実は大のイヌ嫌い(笑)だったイダテンランが、本来の巨大怪獣イダテンランの姿に戻ってしまったのだ!
 そして、ウルトラマンエイティと一戦を交えるも、おとなしく故郷の山へと帰っていく……



「私は例えば『(初代)ウルトラマン』(66年)ではジャミラっていう怪獣の話(第23話『故郷は地球』)が一番好きだったんですよ。宇宙飛行士が地球に帰れなくて置き去りにされて、ああいうかたちになってしまったという。悲哀があって、しかも社会に問題も投げかけてるようなところが好きだったんです。それを中山仁(なかやま・じん)さんや大門正明(だいもん・まさあき)さんが緊迫した表情で「マラソン小僧が――」とか言って(笑)。「これって私の知ってるウルトラシリーズと違う!」と思いましたね」

タツミムック『検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124)星涼子役 萩原佐代子インタビュー)



 初代『ウルトラマン』の中でもいわゆるアンチテーゼ編の傑作である第23話『故郷は地球』をよりにもよって、ここでサラッと持ち出してくるとは…… これではまるで往年の第1期ウルトラシリーズ至上主義者たちの発言と変わりないではないか?(笑)


 萩原佐代子(はぎわら・さよこ)は1962年生まれであるから、世代的には初代『ウルトラマン』(66年)から『ウルトラマンA(エース)』(72年)あたりの作品のイメージが強いのかもしれない。あるいは女性なので、男子の兄弟でもいなければウルトラシリーズは視聴していなかったとも思われる。よって、後付けで後学のために鑑賞したウルトラシリーズや、ネット上で散見などした第1期ウルトラシリーズ至上主義かつアンチテーゼ編至上の特撮マニアたちの意見などで「特撮マニアの平均的な見解とはこういうものなのか……」と思い込んで、リップサービスしている面もあるのかもしれない。


 サービス業でもある役者さんたちは、それくらいの意識で発言をするのもむしろ望ましいくらいではある。しかし、我々評論オタクたちは、マニア間での空気・同調圧力に合わせてモノを云っているようでは失格なのである(笑)。


 とはいうものの、公的には萩原は幼少のころから特撮ヒーロー作品が大好きだったとも云っており、ウルトラシリーズ東映スーパー戦隊シリーズをよく観ていたそうなので、それを信じるのであれば、やはり心の底からの本心からの発言なのかもしれない(爆)。ただまぁジャミラの回への感慨は我々同様、幼少期のものではなく思春期以降の再放送で鑑賞した際の感慨だろうが(笑)――スーパー戦隊の元祖『秘密戦隊ゴレンジャー』(75年)放映の時点でももう中学生だしなぁ・笑――。


 今回は本エピソードと似たような「妖怪」の怪獣を題材としていた、第40話『山からすもう小僧がやって来た』の脚本も担当されていた水沢又三郎の担当回でもある。


 第40話評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110129/p1)でも詳述したことを一部、ここでも繰り返しておこう。


 水沢又三郎とは、大映テレビ製作の連続テレビドラマ『明日(あした)の刑事』(78年・TBS)や『噂の刑事トミーとマツ』(79年・TBS)や東映の刑事ドラマ『特捜最前線』(77~86年)などの大人向けテレビドラマでもすでに活躍されていた江連卓(えづれ・たかし)のペンネームであったことが、同人誌『江連卓 その脚本世界』(96年・本間豊隆)におけるご本人へのインタビューで判明している。
 『80』放映終了後の1980年代にはヒットメーカーとして、大映テレビ製作のテレビドラマ『不良少女とよばれて』(84年・TBS)・『青い瞳の聖ライフ』(84年・フジテレビ)・『少女が大人になる時 その細き道』(84年・TBS)・『乳兄弟(ちきょうだい)』(85年・TBS)・『ヤヌスの鏡』(85年・フジテレビ)・『このこ誰の子?』(86年・フジテレビ)・『プロゴルファー祈子(れいこ)』(87年・フジテレビ)などの大ヒット作のメインライターをほとんどひとりで全話を執筆する勢いで務めていた。
 特撮変身ヒーローものでも、『宇宙鉄人キョーダイン』(76年)や『(新)仮面ライダー』(79年・通称「スカイライダー」・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)に参加して両作ともに途中からメインライターに昇格しており、東映作品では『仮面ライダースーパー1(ワン)』(80年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210822/p1)や『おもいっきり探偵団 覇悪怒組(はあどぐみ)』(87年)や『仮面ライダーBLACK RX』(88年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001016/p1)のメインライターも務めている。


 水沢又三郎のペンネームは、氏が私淑する童話作家宮沢賢治(みやざわ・けんじ)の作品『風の又三郎』(1934(昭和9)年)から取ったものだそうだ。


 『風の又三郎』といえば、本作『80』中盤までのメインライターでもあった阿井文瓶(あい・ぶんぺい)氏もまた、宮沢賢治に心酔(しんすい)していたそうである。第2期ウルトラシリーズ以降の作品群に対しても目配せしている特撮マニア諸氏であれば、ここで阿井文瓶がシナリオを担当していた『ウルトラマンタロウ』(73年)第32話『木枯し怪獣! 風の又三郎』のことも想起しただろう。
 このエピソードは、ボロボロのコウモリ傘で空を飛んで、木の葉を自在に操る超能力を持っており、レギュラーの白鳥健一(しらとり・けんいち)少年と仲良くなるも、木枯し怪獣グロンがウルトラマンタロウに倒されるや、風とともに去っていった不思議な少年・ドンちゃんを登場させており、『風の又三郎』に対するオマージュを全開にしたジュブナイル・ファンタジーとしての傑作に仕上がっていた。


 ただまぁ、このエピソードも子供の時分に視聴するよりも、大人(もしくは高校生以上)になってからはじめてその滋味がわかるような作品ではあるので、アンチテーゼ編や異色作やヒューマンなストーリーとなっている子供番組一般にいえることなのだが、良作ではあっても子供番組としては手放しで絶賛してもよいのかは悩むところもあるのだが……



 本エピソードのアラスジとしては、ほぼ先の第40話と同じである(笑)。


 ただし今回は、高校駅伝で走ることが夢だったのに、母の病気で家業の青果店を継ぐために、高校進学をアキラめねばならなくなってしまい、


「走ったってしょうがねぇよ……」


 などと自暴自棄に陥(おちい)っていた中学生の少年・辰巳正夫(たつみ・まさお)をゲスト主役に据えている。


・彼がマラソン大会に挑戦している姿と、実は病気で手術に臨(のぞ)んでいる母・和枝(かずえ)の姿をオーバーラップ
・我らが主人公にして防衛組織・UGMの隊員である矢的猛(やまと・たけし)が、正夫のコーチを買って出て柔軟体操を施(ほどこ)す姿
・大会当日には矢的がUGMのメンバーらとジープに乗ってメガホンで応援


 などなど、ほぼコメディ一辺倒であった第40話と比べるとドラマとしての厚みを若干(じゃっかん)持たせてはいる。


 本エピソードは、どことなく『80』第4話『大空より愛をこめて』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100523/p1)にも似ているところがある。


 姉に結婚話が、父にも再婚話が舞いこんだことによって、


「世の中なんか、ブッ壊れてしまえばいいんだ!」


 などと腐(くさ)っていた、『80』第1クールで矢的が中学教師も兼任していた「学校編」では、彼が受け持つクラスのレギュラー生徒でもあったススムの境遇にも偶然だろうが似ているからなのだ――ちなみに、このススムのアダ名は「スーパー」。家業が青果店が大きくなった程度の、いわゆるパパママ・ストア(家族経営)であったスーパーマーケットにちなんでいた・笑――。



ラソン小僧「エイホッ、エイホッ、エイホッ、エイホッ、エイホッ……」


 マラソン時の掛け声と風が吹き抜けていく効果音(笑)とともに、颯爽と走り抜けていくマラソン小僧。


 彼の起こす突風でマラソン小僧の周囲を走る者たちが吹き飛ばされて土手から転げ落ちたり(!)、彼に挑戦しようとした陸上部と思われる学生たちも敵わなくてヘタりこんだってしまったりと、第40話に登場した「すもう小僧」と同様に本人には悪気(わるぎ)はないものの、人間社会では大迷惑となっている姿がコミカルに描かれていく。


 だが、黄色いハチマキを頭にシメめてはいるものの、全身が赤いボディタイツ・虎模様の毛皮のベスト・パンツ・サポーターをまとっているという彼のスタイル。それは、マラソン小僧というよりは、かつてフジテレビが『火曜ワイドスペシャル』の枠で、70年代後半から90年代にかけての月に1回、90分枠で放送していたコント番組『ドリフ大爆笑』(77~00年)の中で、ザ・ドリフターズのメンバー・いかりや長介(故人)・高木ブー仲本工事が扮していた「カミナリさま」のコントのコスプレにそっくりなのである(笑)。


 その見てくれで視聴者を過度にシラケさせないために、そしてそのバカバカしさを中和させるためであろうか、マラソン小僧を演じるゲスト子役の小林聖和クンが、まさにジャニーズ・ジュニアもかくやと云わんばかりのけっこうなイケメンだったりするのだ。よって、そのギャップの激しさは、「笑い」へと見事に転化を遂げており、観ていてついつい笑みがこみ上げてきてしまう。まさに水と油である役どころとキャスティングの掛け合わせの勝利でもあるのだろう。


 そのキャラクターも、宮沢賢治の牧歌的な童話の世界から飛び出してきたというよりかは、吉田校長に死神山から来たマラソン小僧だからと「死神走太(しにがみ・そうた)」(!)などと悪趣味な名前を付けられたことに対して、


「死神走太か。カッコいい名前じゃん!」


 などとそのブラックユーモアなネーミングを余裕で喜んでいたりといった調子であり、まさにこれから盛んになる80年代的な「軽佻浮薄」なノリの先駆けを全編にわたって爆発させていたりもするワケで、エモーショナルな作風だった『木枯らし怪獣! 風の又三郎』などともまったく異なっており、第1期ウルトラシリーズ至上主義ともまた異なった文脈でならば、


「私の知ってるウルトラシリーズとは違う!」


 というツッコミ自体は、充分に成立のする余地はあるとも思われる(笑)。


 校長室で好物の山イモとダイコンをバリバリと喰っていたマラソン小僧は、その様子をのぞき見していた生徒たちに


「山ザル、山ザル、サル人間! お尻もお顔も真っ赤っか~!」


 などとバカにされてしまう。


 ジュブナイル・ファンタジーとはいえ、この場面に関してだけは妙にリアルではある。我々のような子供のころからオトナしくて目立たなかったオタク族たちとは異なり、一般的な元気な男の子たちはこういう差別心に満ち満ちた揶揄(やゆ)を平気でするからなぁ。人間一般とは邪悪な存在なのである(汗)。


 これに怒ったマラソン小僧はイダテンランの姿へと巨大化! 夜の大都会を走り回る!


 しかし、特に人間社会を破壊しようという意図ではなく、あたかも暴走族のように走り回ることでうっぷん晴らしをしているといった趣(おもむき)ではある。特撮ミニチュアセットの中を走るイダテンランの姿を真横からカメラが追いかけて、ローアングルのアップで撮られたビルや民家・歩道橋などがその足元で破壊されていくサマを交錯させる演出が、まさにそのことを的確に表現している。


 こういう描写は、往年の怪獣映画の名作『空の大怪獣ラドン』(56年・東宝)の特撮演出も彷彿(ほうふつ)とさせるものがある。この名作怪獣映画では、ただ大空を飛んでいるだけの翼竜ラドンの下界で、巻き起こされた暴風によって民家の瓦屋根や自動車や電車が吹き飛ばされていくサマがアップで映し出されていくのである。たとえ悪意はなくとも、ただ生息して飛行したり走行したりといっただけで、怪獣は人間社会を徹底的に破壊してしまうということでもあるのだ。


 初期東宝特撮映画のマニアや第1期ウルトラシリーズ至上主義者たちが70~80年代にかつて好んで用いていたフレーズに「怪獣は大自然の象徴である」というものがあった。イダテンランは野生の生物ではなく妖怪とでもいった存在なのだが、人間世界の常識にはとらわれずに悪意なく行動したことがそのまま破壊活動にもなってしまうという意味では、イコールではなくとも近似した存在だとはいえるだろう。
――まぁメタ的に観れば、この手の作品での「怪獣による破壊描写」というノルマを果たすために、そしてそれによって「ウルトラマンが敵怪獣を排除してもよい」という理由を付けるための、これらの描写ではあるのだが・笑――


 これにより、悪意のない怪獣だから故郷の山へと戻そうとする穏健派の主人公・矢的隊員と、人間社会に危害を加える怪獣だから抹殺すべきだと主張する強硬派のイトウチーフ(副隊長)の、双方ともに理があるちょっとした対立劇をも生み出している。


・『帰ってきたウルトラマン』(71年)第13話『津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ』~第14話『二大怪獣の恐怖 東京大竜巻』の前後編に登場した、津波怪獣シーモンス&竜巻怪獣シーゴラス夫妻
・『ウルトラマンタロウ』第4話『大海亀怪獣東京を襲う!』~第5話『親星子星一番星』の前後編に登場した、大亀怪獣キングトータス・クイントータス・ミニトータスの親子


 まさに「大自然の象徴」であった野生の怪獣たちをめぐって争われた、防衛組織の現場部隊とその上層部の対立図式までをもミクロなかたちで再現されているのだ。


 インドのヒンズー教由来で仏教とも神仏習合したうえで渡来した駿足(しゅんそく)の神さま「韋駄天(いだてん)」と、「RUN(ラン)」(「走る」という意味の英語)の単語を接合させたダジャレ的なB級ネーミングの通りに、イダテンランは側面から背面にかけては流れていくように、まさにつむじ風が走り抜けるイメージでナルトのような螺旋状のウズを巻いた模様が多数モールドされており、それが縄文時代火焔土器のような模様となって背面の方に体積のボリュームが盛られているデザインとなっている。
 その顔面は小さくて可愛く、クリッとした離れた両眼に上向いた鼻の穴と、その風貌はどちらかといえば獅子舞などにも近いものがあるのだが、その手足は装飾が非常に簡略化されており、特にその両脚はヒーローや70年代の東映作品に登場していた敵の怪人たち並みに人間の脚のシルエットがそのまま出ているスタイルとなっている。


 この軽量化された両脚の着ぐるみによって、イダテンランは特撮スタジオの中で小走りに全力疾走してみせる!


 そして、本エピソードの後半でのエイティとのバトルでは、ジャンプしてエイティに飛びかかったり、エイティの周囲をグルグルと駆け回って巨大竜巻のような青い光学合成のウズを巻き起こして、エイティの動きを封じこめるといった軽快な技を披露することも可能となっている。両者の軽快なアクションは、それと同時に巨大感を相殺してしまうものでもあるので、両者の足元には土手やコンクリの堤防や自動車のミニチュアを用意して、その相殺を少しでも緩和をすることも忘れてはいない。


 本エピソードの性質上、バトルの尺がやや短いのは惜しまれるのだが、こういう軽量タイプの着ぐるみこそスピーディーで迫力のあるバトルを展開するのに最も適しているのは事実だろう。日本の怪獣映画の元祖『ゴジラ』(54年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190601/p1)がそうであり重厚な動きであったからと、スーツアクターの苦労やアクションの面白さを考えないで、怪獣の擬人化された動きも過度に否定して、ただひたすら重いだけで動きにくい怪獣のスーツを讃美するような風潮が1980~90年代の特撮マニア間ではたしかにあったのだ。
 しかし、『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080427/p1)で、主役の怪獣ゴモラをはじめとするあまたの怪獣たちが擬人化されたようなアクロバティックなアクションを披露してもケチを付けられるどころか、皆が喜んで絶賛しているように変化してしまった当今を見ていると、いつのまにか時代の方がはるかに先を行ってしまったようでもある(笑)。


 まぁ、『ゴジラ ファイナル・ウォーズ』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060304/p1)や『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE(ザ・ムービー)』(09年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101224/p1)でのスピーディーでアクロバティックな着ぐるみワイヤーアクションを経過した現在、古典的な主張を繰り広げていた特撮マニアたちも今では高齢化して枯れてしまって少数派となってしまったか、筆者のように宗旨替えして変節を遂げてしまったか?(爆)


 ちなみにイダテンランの鳴き声は、初代『ウルトラマン』第11話『宇宙から来た暴れん坊』に登場した脳波怪獣ギャンゴや、同作の第22話『地上破壊工作』に登場した地底怪獣テレスドンなどに使用された定番のものを流用している。この鳴き声は第42話『さすが! 観音さまは強かった!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110212/p1)に登場したムチ腕怪獣ズラスイマーでも使用されたばかりであり、1年間のシリーズ作品も後期になると定番の声の流用で済ませてしまうのは昭和ウルトラシリーズの悪しき伝統ではある(笑)。


 マイルドそうな「日本むかし話」路線であるのにもかかわらず、今回は夜の大都会を疾走するイダテンランを、


エイティ「イダテンラン、おまえは死神山に帰れ!」


 などと説得するために、前半Aパートの終盤で早くも矢的隊員はウルトラマンエイティに変身している。


 『80』にかぎらず、『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)を除いた昭和のウルトラシリーズでは主人公が各話で2回以上の変身をした例はほとんどなかったことから、その意味でも貴重な回ではある。


 そして、くだんのマラソン大会が開催されたのだが――マラソン小僧だけがゼッケンをつけてないぞ! などというツッコミはヤボだぞ(笑)――。


 当初は、


「くやしかったらオレを抜いて見ろ!」


 などと正夫を挑発していたマラソン小僧だが、必死で頑張っている正夫の姿に感動したのか、


「オレはおまえみたいなヤツに会うと嬉しくなってしまうのサ。……いっしょに走ろうゼ!」


 などと云って並んで走っているといった良いムードとなってしまう。しかし、それに業を煮やした吉田校長が、愛犬のシェパード――名前はドラゴン!・笑――に正夫の脚に噛みつくようにケシかけてくる! 実にヒドい行為なのだが(汗)、吉田校長演じる喜劇色豊かな梅津栄のコミカルな演技がそれを緩和して、あくまでも寸止めにされて過剰にイヤな感じになってしまうことは避けているあたりは、演出と役者さんの腕の見せどころでもある(笑)。


 かつて野犬に足首を噛まれたことがある経験から、大のイヌ嫌いなマラソン小僧が驚いて――おおげさな演技が絶品・笑――、本来のイダテンランの姿に巨大化してしまった!


 矢的隊員や星涼子(ほし・りょうこ)隊員、フジモリ隊員にイケダ隊員が搭乗しているジープを右手前に小さく配して、その背景にある土手の上の青空にイダテンランが出現する! という特撮合成カット。
 それもさることながら、画面の下側には林立する木々を高速でナメながら、走行しているイダテンランを真横から捉えたあとに、吉田校長と木村コーチの目線で画面手前に全力疾走してくるイダテンランの特撮カットも大迫力! たしかに、ただひたすらに高速で走って迫ってくる怪獣というのもメチャクチャ怖いよなぁ(笑)。


 これらの場面で再度、矢的はウルトラマンエイティに変身する!


 濃いオレンジ色の顔をアップに、頬(ほお)を風船状にふくらませる――息を吸いこんでタメている――といった凝ったギミックを披露したあとで、先に挙げた『木枯らし怪獣! 風の又三郎』にも登場した木枯し怪獣グロンもそうであったように、イダテンランは口から猛烈な突風を巻き起こして――突風は青い線画合成にて表現!――、木村コーチは川へと転落! 吉田校長は高い木の上で宙づり状態になってしまう!(笑)


 私立である星雲中学校の名声を高めて入学してくる生徒が増えることを期待して、マラソン小僧を利用した吉田校長のマイナスの精神エネルギー、というかマイナスの物理的な直接行為(笑)が、マラソン小僧を再度、怪獣化させてしまったのだ!


 イダテンランはその天然の行為が人間社会に危害を与えてしまう「大自然の象徴」(?)であるだけではなく、きちんとマイナスエネルギーを由来とする『80』怪獣としての要素も満たしていたのであったのだ!?(笑) ただし、大自然からのシャレにならない復讐ではなく、ちょっと懲らしめる程度で抑えているところが、陰欝(いんうつ)に陥(おちい)らなくて好印象でもある。


 そういう文脈においては、冒頭で紹介したインタビューの中で、ウルトラ一族の王女さま・ユリアンこと星涼子隊員役であった萩原佐代子が、


中山仁さんや大門正明さんが緊迫した表情で「マラソン小僧が――」とか言って(笑)」


 などと、UGM司令室で隊員一同がイダテンランについて語っている場面は、たしかに今回のような作風のエピソードの中では妙に浮いて見えてしまう可能性もあるのだが、このシーンがなければ本エピソードにおけるUGMの登場余地もなくなってしまうのだ(笑)。


 前回の第47話『魔のグローブ 落し物にご用心!!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210224/p1)では、オゾン層の破壊で滅亡したオリオン座のブレイアード星の逸話(いつわ)をつい語ってしまった涼子に、オオヤマキャップが不審感を抱いたことから、


「会議の最中、おとぎ話なんて不謹慎だよ!」


 などと矢的がすかさずゴマカしてみせる場面があったのだが、今回のようなマイルドな作風のエピソードでは、むしろイダテンランについて、隊員一同にコミカルに明るく論じさせた方がよかったのかもしれない。しかし、マジメに演じさせることでのギャップ的なオカシみといったものも確実にあることから、どちらがよかったのかについての判断はムズカしいところではあるのだが(汗)。


 ただし個人的には、同様にマイルドなコミカル編であった第39話『ボクは怪獣だ~い』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110122/p1)にも感じたことなのだが、妙に緊迫感があったり辛気臭(しんきくさ)かったりする場面は、この手の作風のエピソードにはふさわしくないようには思うのだ。もちろん過度に軽躁的に演じる必要もないのだが、第37話『怖(おそ)れていたバルタン星人の動物園作戦』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110108/p1)のように、隊員たちの描写も含めて適度にアッケラカンとしたノリで、演出や演技を付けていった方がよいように思えるのだが、いかがであろうか?


 第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)で「ユリアン編」の開幕を描いていた水沢又三郎こと江連卓氏の脚本作品であるのにもかかわらず、矢的と涼子の関係をめぐるドラマが皆無に近いのも少々残念ではある。今回の涼子は、


「矢的、超能力を使うけど、いいわね!?」


 などと、星雲中学の校長室での吉田校長の悪だくみを矢的と盗聴する場面で唯一、ユリアンらしさを発揮するのみなのである。もっとも、この場面では光学合成などではなく、矢的と涼子が耳をピクピクと動かすさまをアップで捉えることによって、特撮合成なしで超感覚を発揮する様子を演出しており、それもまた見どころといえば見どころではある(笑)。


 それと今回の涼子は、髪型とメイクがこれまでとは微妙に異なっている。前回の第47話は傑作だったとは思うものの、イジワルに観てしまえば、自分はオモテに出ずに矢的に付き従っている、やや「かよわき古風な女性」というイメージも涼子に感じられたものであった。それと比すると、今回はどちらかといえば快活なイメージが感じられるのだ。


 本話の監督は宮坂清彦。『ウルトラセブン』(67年)以来、歴代ウルトラシリーズの特撮班や本編班に参加してきた助監督上がりの御仁だが、『80』も終盤を迎えるにあたっての花向けなのだろうか、このエピソードで監督デビューも飾ったのだった! 氏はその後、一般のテレビドラマや2時間ドラマなどの助監督や監督などでも活躍。ジャンル作品では『世界忍者戦ジライヤ』(88年)や『機動刑事ジバン』(89年)などにも助監督や監督として参加している。



 前回と同様にバトルシーンでは、『80』の第40話からの主題歌である『がんばれウルトラマン80』が流される――やはりこのマイルドな歌曲は本エピソードのようなマイルド路線の方がふさわしいのかもしれない?・笑――。


 エイティは両腕を手前に突き出して、オレンジ色のリング状の光線を連続して発射する「リングリング光線」で、イダテンランをマラソン小僧の姿へと戻した。


 第24話『裏切ったアンドロイドの星』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101009/p1)では戦闘円盤ロボフォーに、第25話『美しきチャレンジャー』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101016/p1)では変身怪獣アルゴンの円盤に対して、エイティはほぼ同じタイプの光線技に見えるイエローZレイを発射している。このイエローZレイはメカの計器類を狂わせる特性があると設定されていた――多分、『80』放映当時の設定ではないのだが、ナットクできる後付け設定ではある――。しかし、「リングリング光線」という非常に安直なネーミングがどうにもなぁ……(笑)



 正夫はマラソン大会で見事に優勝して、母・和枝の手術も無事に成功。マラソン小僧もおとなしく死神山へと帰っていく……


――生徒たちの安全を考えたら、怪獣が出現したら即座にマラソン大会なんて中止にすべきだろ! などとリアリズムで考えるのはヤボだぞ(笑)――


 『風の又三郎』のようなテイストか? というと、それは怪しいが(笑)、これはこれで爽やかな心地よい風が全編を吹き抜けているエピソードにはなっている。


ウルトラシリーズにおける「妖怪怪獣」たちの連綿たる系譜!


 ところで、先にも引用した、


中山仁さんや大門正明さんが緊迫した表情で「マラソン小僧が――」とか言って(笑)。「これって私の知ってるウルトラシリーズと違う!」と思いましたね」


 などというユリアン=星涼子役こと萩原佐代子による発言は、正当なものだっただろうか?


 いやもちろんある程度までは正当なのだが(笑)、賢明なマニア諸氏であれば、歴代ウルトラシリーズには今回のイダテンランのような妖怪怪獣たちが連綿と登場してきたこともご承知のことだろう。


 『80』第42話『さすが! 観音さまは強かった!』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110212/p1)でも詳述させてもらったことを、ここでも繰り返そう。


 昭和ウルトラ怪獣には純粋な「生物」「動物」とは云いがたい、


●伝説怪獣ウー
●伝説怪人ナマハゲ
●邪神カイマ(邪神超獣カイマンダ)
●閻魔怪獣エンマーゴ
●臼怪獣モチロン
●三つ首怪獣ファイヤードラコ
●相撲怪獣ジヒビキラン
●マラソン怪獣イダテンラン


 といった、スピリチュアルな「妖怪」や「精霊」や「低級神」が、巨大化・実体化・物質化したような怪獣たちも多数登場してきた。広い意味では、


●怪獣酋長ジェロニモン
●地球先住民ノンマルトの使者である真市(しんいち)少年の霊(!)
●水牛怪獣オクスター
●牛神男(うしがみおとこ)
●天女アプラサ
●獅子舞超獣シシゴラン
●白い花の精


 庶民の信仰エネルギーで付喪神(つくもがみ)と化したのか、神仏が天上世界からチャネル(霊界通信)してきたのか、その両方・双方向からのものなのか、劇中で斬首されたウルトラマンタロウのナマ首を、読経が鳴り響く中でその神通力で元に戻してしまったお地蔵様(!)や、今回の巨大観音像などもコレらのカテゴリーに当てはまることだろう。


 70年代末期~90年前後のオタク第1世代によるSF至上主義の特撮論壇では、「SF」ならぬ「民話」的なエピソードや怪獣たちは否定的に扱われてきたものだ。しかし、実は怪獣のみならず宇宙人から怨霊・地霊・妖怪までもが実在している存在として扱われている、


 大宇宙 → ワールドワイドな世界各地 → ローカルな田舎


 までもが、串刺しに貫かれて同一世界での出来事だとされており(笑)、万物有魂のアニミズム的にすべての事象が全肯定されているウルトラシリーズの世界観に、「現実世界もかくあってほしい!」的な願望やワクワク感をいだいていた御仁や子供たちも実は多かったのではなかろうか?――往時のマニアたちはまだまだボキャ貧であり、それらの感慨をうまく言語化・理論化はできなかったのであろうが――。


 しかし、1990年代中盤にテレビで平成ウルトラシリーズが始まってみれば、この超自然的な怪獣や歴史時代の人霊の系譜も引き継がれていたのだ!


●宿那鬼(すくなおに)
●妖怪オビコ
●地帝大怪獣ミズノエリュウ
●童心妖怪ヤマワラワ
●戀鬼(れんき)
●錦田小十郎景竜(にしきだ・こじゅうろう・かげかつ)


 といった怪獣や英霊がワラワラと登場してきたのだ! そして、それらのキャラクターたちに対して、特撮マニアたちが「怪獣モノとしては堕落である!」「邪道である!」などといったような糾弾を繰り広げるということもまるでない。むしろウルトラシリーズの幅の広さとして、どころか傑作エピソードとして肯定されていたりもするのだ(笑)。


――個人的には、それならば昭和ウルトラの伝奇的なエピソード群に対しても、それまでの低評価を改めて自らの過ちも贖罪して、批評的に冷静でロジカルに再評価の光を改めて当てるべきであったと思う。しかし、なかなかそこまで論理の射程を伸ばすことができるような御仁は極少だったようではある(汗)――


 そういう意味では本エピソードは、ウルトラシリーズの本道とはいえないまでも、副流としては正統な路線でもあったのだ。


 第1世代の特撮ライターの中でも、ウルトラシリーズを「SF」として、あるいは「SF」のサブジャンルとして位置づけて持ち上げようとしてきた池田憲章(いけだ・のりあき)先生とは異なり、同じく第1世代の特撮ライターでも竹内博(酒井敏夫)先生は早くも第3次怪獣ブーム時代のウルトラシリーズ主題歌集であったLPレコード『ウルトラマン大百科!』(78年)のライナーノーツで、「ウルトラシリーズとは『SF』ではなく現代の『民話』といったところが本質だろう(大意)」といった趣旨のことを記していたと記憶している。
 妖怪怪獣が登場するエピソードに対して、我々が意外と違和感をおぼえないのは、潜在的にもこのような意識が働いていたからであり、竹内博先生がすでに編み出していたこのロジックが今でも擁護や正当化に使えるハズである。


 イダテンランやジヒビキラン、『ウルトラマンタロウ』第49話『歌え! 怪獣ビッグマッチ』に登場した歌好き怪獣オルフィなどは、ウルトラマンに倒されずに去っていった……
 ということは、昭和ウルトラシリーズの世界にはまだ彼らは存在しているハズである。だから、昭和ウルトラシリーズの25年ぶりの正統続編『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)でも、イダテンランやジヒビキランやオルフィの後日談エピソードをつくってほしかったと思っていたのは筆者だけではないだろう!? みんなも白状してそう思っていた方々はここで挙手しなさい!(笑)



<こだわりコーナー>


*吉田校長を演じた梅津栄(うめづ・さかえ)は、


・初代『ウルトラマン』第13話『オイルSOS』で、タンクローリーが油獣ペスターに襲われる場面を目撃する酔った男
・『ウルトラセブン』第41話『水中からの挑戦』で、水棲怪人テペト星人に殺害される日本カッパクラブのメンバー・竹村
・『80』第26話『タイムトンネルの影武者たち』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101023/p1)で、藤原源九郎(ふじわら・げんくろう)


 なども演じてきた昭和ウルトラシリーズ常連で、ルックス的にも喜劇調の演技を得意とする名バイプレイヤー(脇役)であった。ほかにも、


・『仮面ライダー』(71年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)第82話『怪人クラゲウルフ 恐怖のラッシュアワー』で、レギュラーのおやっさんこと立花藤兵衛(たちばな・とうべえ)の友人で、ゲルショッカー怪人クラゲウルフに乗り移られる中村
・『キカイダー01(ゼロワン)』(73年・東映 NET→現テレビ朝日)第22話『本日の特別授業は殺人訓練?!』では佐々木先生
・『仮面ライダーX(エックス)』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20141005/p1)第27話『特集 5人ライダー勢ぞろい!!』で、GOD(ゴッド)怪人ネプチューンが化けた講談師
・『超神(ちょうじん)ビビューン』(76年・東映 NET)第15話『明日が見える? 命盗みの天眼鏡』で、妖怪カラステングの人間体
・『宇宙刑事ギャバン』(82年・東映 テレビ朝日)第18話『乙姫様コンテスト ハチャメチャ竜宮城』で、怪人アオガメダブラーの人間体である亀田博士


 などなど、東映ヒーロー作品にも数多く出演してきた御仁でもある。


 テレビ時代劇の悪役での出演は数知れず、『必殺仕掛人』(72年・松竹 朝日放送)第1話『仕掛けて仕損じなし』以来、『必殺』シリーズにも多数ゲスト出演しており、『必殺仕事人Ⅳ』~同『Ⅴ』(83~85年・松竹 朝日放送)では広目屋の玉助役でレギュラー出演していた――レギュラーである10代の青年である仕事人・西順之助を追いかけ回しているオカマのコミックリリーフ・キャラだった・笑――。


 長年の特撮マニアたちには、なんといっても『恐怖劇場アンバランス』(73年放映・69~70年製作・円谷プロ フジテレビ)第10話『サラリーマンの勲章』が印象深いだろう。家族も会社の地位も捨ててバーのホステスと新しい生活を始めようとするも、暗転する運命をたどることになる犬飼課長役で珍しく主演を務めていたからだ。出世競争なぞよりも一杯のコーヒーをゆっくりと味わう時間を楽しみたいと考える筆者としては、この作品にはおおいに共感せずにはいられなかった。もっとも、同作が製作された高度経済成長であればともかく、現在ではこうした生き方もさほど異端視されることもなく許容される時代になっているあたりは隔世の感がある。


*本文中ではふれられなかったほど出番も少なく、子役俳優であることからオープニングにもクレジットされてはいないが、各種のマニア向け書籍によれば、正夫の妹・道子を演じた子役は赤井祐子(あかい・ゆうこ)という名前であるらしい。若いころはこうした子役女優には一切興味がなかったのだが、それくらいの年頃の娘がいてもおかしくない年齢に達したせいか、よくぞこんなカワイイ娘を連れてきたものだと改めて感心してしまう(笑)。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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ウルトラマン80』第47話『魔のグローブ 落し物にご用心!!』 ~ダイナマイトボール攻撃が強烈!

紫外線怪獣グロブスク登場

(作・石堂淑朗 監督・東絛昭平 特撮監督・佐川和夫 放映日・81年3月4日)
(視聴率:関東8.2% 中部12.0% 関西11.9%)
(文・久保達也)
(2011年6月脱稿)


 今回は珍しく防衛組織UGMの気象班・小坂ユリ子隊員とオオヤマキャップ(隊長)のカラみから物語がはじまる。


 ここ数日、太陽光線の中の「紫外線」の分量だけが減少を続けているという異常事態にユリ子が気づいたのである。


 夕焼け空の中に突如として浮かび上がった美しいオーロラを見上げる市民たち。そして、その隠した正体は我らがウルトラマンエイティこと主人公・矢的猛(やまと・たけし)隊員とウルトラ一族の王女さま・ユリアンこと星涼子(ほし・りょうこ)隊員。
 しかし、日が沈むとともに、そのオーロラもまた姿を消していった…… そのあとに起こる怪事件の前兆を端的に表現した、実に秀逸(しゅういつ)な導入部の演出である。


 少年野球チームでセンターを務める玉井正(たまい・ただし)。


・第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110205/p1)のゲスト主役が「ゼロ戦おたく少年」、つまり「戦闘機」ネタだったから「武」の一文字を付けて「武夫(たけお)」
・第42話『さすが! 観音さまは強かった!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110212/p1)のゲスト主役は、観音像に「願掛け」をするような信心深い少年だから、「信仰」の「信」の一文字を取ってきて「信夫(のぶお)」


 彼らに続いて、野球少年だからその名前に「玉」の一文字を入れるとは、実に『80』での石堂脚本回らしい漫画チックなネーミングである(笑)。


 彼は試合中にエラーをして、相手チームの打者にランニングホームランを与えてしまった。


「バカヤロ~~っ!!」
「なにやってんだよ~~!!」
「帰れ、もう~っ!!」


 とチームメイトからは猛烈な非難の嵐。


 正クンは手にしたグローブを見つめて、ゲンコツで殴って地面に叩きつけた!


正「クソっ! おまえが悪いんだ! おまえのせいだぞ~っ! クソ~っ!」


 叩きつけたグローブを足で強く踏みつけてしまう正クン。運動オンチの筆者としては、かつては正クンと同じように球技大会ではクラスの足を引っ張ることばかりやらかしていたために――もうそれだけで立派なイジメの対象となってしまう――、この場面には妙に感情移入をしてしまうのだ(笑)。


 そのままグラウンドにグローブを放置して帰ってしまう正クンだった。しかし、帰宅した正クンは、母・よし子にこっぴどく叱られてしまう。


 ちなみに、同じく石堂先生が脚本を執筆された第45話『バルタン星人の限りなきチャレンジ魂』のゲスト主役・山野正也(やまの・まさや)少年の母の名前も「よし子」であった。怪獣の出現理由のユニークさや、抱腹絶倒のセリフ漫才などのアイデアが光る石堂先生も、このあたりは安直だったりする(笑)。


よし子「あのグローブは3年間、ずっとアンタの左手の友だちだったのよ~! 4月から中学に行くアンタの小学校の最高の思い出の品じゃないの!?」


正「だってアイツのおかげでランニングホームラン喰らって、ぼくは最低守備賞をもらったんだぞ!」


よし子「そんなのグローブさんの責任じゃないでしょ! 正の守備がヘタだったからでしょ! ひろってらっしゃい! でないとウチに入れません!」


 「グローブさん」(爆)などと野球のグローブごときに敬称をつける一方で、「守備がヘタだったから」(爆)などと傷心する正クンにさらに追いうちをかけてしまうようなママ・よし子!
 実に正論なのだが、たとえ正論であってもそれが人の心を救ってみせるとはかぎらないのである(汗)。しかしだからと云って、グローブや他人のせいにする正クンのことをアリのままの姿で受けとめてあげればよい! というものでもないのがまたムズカしいところではある。それで世の中を甘く見てナメてしまって自堕落に走る子供たちも全員とはいわず一定数はいる以上は、時として「愛の鞭」としての叱責も必要なのである。そのあたりの「子育て」や「人間関係」における機微というものは「飴」と「鞭」、押したり引いたりの永遠の「綱引き」なのである(笑)。


 そして、そのやや強くてキツく出てくるママの姿はまた、同じく石堂先生が脚本を執筆された第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』において、競技大会中に行方不明になってしまったゼロ戦のラジコン模型を必死で捜そうとするゲスト主役の同じく小学6年生・斉藤武夫(さいとう・たけお)クンの母親・美絵子(みえこ)が、


「もしゼロ戦がもう出てこないようでしたら、あなたのゴルフ棒も売ってください!」


 などとその旦那さんである秀夫を脅かしていたサマをも彷彿(ほうふつ)とさせるものがある(笑)。



 この回で美絵子が語っていた、古代中国の格言「玩物喪志(がんぶつそうし)」。


「物にこだわり過ぎると人間がダメになるってこと」


 という「物に執着しすぎることへの警鐘」と本エピソードでの「物を大切にしようという警鐘」は、真逆であり矛盾するものではあるけれど(笑)。


 両者をアウフヘーゲン、弁証法的に止揚をするならば、そのドチラであっても両極端はイケナイのだ! ということが「人の世の真実」ということになるのだろうけど、もちろん本エピソードや第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』の作品テーマがそうであったということでもない。
 こういう複雑怪奇で矛盾に満ち満ちた、あーでもないこーでもないという、大局を見据えたようなお話は、「子供向け番組」や「道徳説話」などにはなじみにくい種類のものだから(笑)、また別の「物語」の形式ではない「評論」や「人生訓」などのかたちで言及すべきようなことなのだろう。




 やむなく「グローブさん」(笑)を取りに戻った正クンだが、なぜかなかなか見つからない。ここのシーンは野球のバットで落ち葉をカキわけて空を見上げて何度もタメ息をついたりと演出や演技も実に細かい。
 第45話『バルタン星人の限りなきチャレンジ魂』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110327/p1)でも引用させていただいた、書籍『君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124))で星涼子役の萩原佐代子(はぎはわ・さよこ)がインタビューで言及していた、子役に対しても決して容赦はせずに怒鳴っていたらしい東條監督の手厳しい演技指導の成果だろうか?(汗)


 木々の間から太陽の日差しが照りつける描写が、さりげなくその後の伏線ともなっている。


 やがて、めでたくグローブを発見した正クンだったが、


「こら、グローブ! ホントはボクは、おまえなんか許してないんだぞ! おまえを連れて帰らないと、ママがウチに入れてくれないから、仕方なしに連れて帰るんだぞ!」


 と、母のよし子同様に「グローブ」を擬人化して話し掛けている(笑)。


 このあと、正クンは危機に見舞われるのだが、終始こんなコミカルな調子なので、良い意味で本話は楽しい滑稽味の方が先に立ってしまうのだ。


 そのとき、空に美しいオーロラが輝いた!


 そして、そこから火の玉のような赤い物体が地上に接近!


 あたり一面がムラサキ色の光に染まって、赤い物体から白い波状光線がグローブに向かって発射された!


 脚本家や監督はそれぞれ異なってはいるものの、


・第33話『少年が作ってしまった怪獣』(作・阿井文瓶・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101211/p1)で、ゲスト主役の健一少年が作った怪獣人形に憑依(ひょうい)して工作怪獣ガゼラと化し、城野エミ(じょうの・えみ)隊員に「怪獣の魂」と名づけられたナゾの発光体
・第38話『大空にひびけウルトラの父の声』(作・若槻文三http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110115/p1)で、中津山上空の雲海に潜んでおり、怪獣の絵が描かれていた凧(たこ)に取り憑いて心霊怪獣ゴースドンと化した「怪獣のオーラ」


 それらに近いイメージで、今回のナゾの赤い物体は描写されている。


 とはいえ、見た眼的には近いものがあっても、純物理的・純科学的な存在である「紫外線」による超常現象によって発生した今回の事件が、先の「怪獣の魂」や「怪獣のオーラ」と同等のものだとするのは、やや強弁にすぎるだろう。
 『80』第1クールの「学校編」の設定の消滅とともに、人間の負の感情によって発生するマイナスエネルギーという設定も一度は消滅してしまった。しかし、先の第33話や第38話の「怪獣の魂」や「怪獣のオーラ」は広い意味ではマイナスエネルギーだったとはいえるだろう。とはいえ、これらは人々に由来する負の感情によって発生したものではなく、元からあった悪の精神生命体・精神エネルギー・悪霊のようなものだろう。
 そういう意味では「学校編」におけるマイナスエネルギーとはイコールではないし、紫外線に至ってはムラサキ色の光よりも波長が少々短い単なる「光」でしかないのだからマイナスエネルギーですらなかったかもしれない(笑)。


 これは何も『80』という作品の設定的な不整合を批判しているのではない。むしろ思春期の少年の負の感情=「マイナスエネルギー」や、空中に浮遊している茫漠(ぼうばく)とした「マイナスエネルギー」と呼応しあって、自然と怪獣が実体化を果たすという設定の方に、「精神エネルギーの実体化」という概念自体が後年のジャンル作品のように一般化していなかった当時の視聴者たちは、ややムリを感じていたのも事実なのである。
 『80』序盤でのマイナスエネルギーがもっと明瞭ないかにもな異物であったり、明確な悪意を持った存在ではなかったところに、『80』は勧善懲悪活劇としては「弱み」を抱えてしまっていた。それならば、少年の負の感情に加えて「怪獣の魂」や「怪獣のオーラ」や「異次元人ヤプール」のような媒介物を通じて怪獣を出現させた方がまだムリはないのである。だから、マイナスエネルギーという設定にも通底していくような「怪獣の魂」や「怪獣のオーラ」といった存在を登場させて、ゆるやかに作品を変節させていく手法は、あくまでも結果論だが『80』という作品の「初志」をかえって貫徹させることにもつながったようにも見えるので、これはこれでよかったのではなかろうか?



 驚いて木の陰に隠れた正クンの眼前で、「グローブさん」(笑)は発光してムラサキ色の奇妙な物体へと変化を遂げた!


 それはグローブというよりかは、人間の手のひらを下に向けた状態の姿に、触角を生やして目と口も備えている。
 正クンのグローブは、紫外線怪獣グロブスクと化してしまったのだ!


グロブスク「ヒャハハハハハ!」


 UGM専用車・スカウターS7(エス・セブン)で紫外線の調査で巡回している矢的とユリ子。フロントガラスに映っている景色でわかるように、実際には市街地を走るスカウターS7の後部座席からの主観映像で、運転席の矢的と助手席のユリ子の会話の場面を捉えている。しかし、ユリ子の横顔はずっと映しだされてはいるものの、矢的の横顔はまったく映されていない。実際に運転しているのはUGMのヘルメットと隊員服を着用した吹き替えの人物であるようだ(?)。
 セリフをしゃべりながらの運転はやはり危険だし、当時の特撮ジャンル作品は基本、アフレコ(アフター・レコーディング)であとで声入れするからこその演出なのだろう――ハリウッドのアクション映画なども、走行する列車の上やクルマなどに録音技師まで搭乗させるのは危険だし、爆発やクルマのエンジン音や走行時の風切り音などで人間のセリフがうまく録音できないので、そこはアフレコだったりいっそ全編まるごとがアフレコだったりすることもあるそうで、アフレコという手法もけっこう一般的なものなのだ――。


 しかしながら、続いて車内のルームミラーに運転席の矢的の姿を映しだすことにより、矢的を演じる長谷川初範(はせがわ・はつのり)が実際に運転しているかのように錯覚させるハッタリ演出は見事である。ここのカットは実際には停車状態で撮られたものだと推測するので(笑)。


矢的「海水浴などで(肌を)焼きすぎると水ぶくれになる。あれが紫外線の作用だったね」


 ユリ子と紫外線について語る矢的の姿に続いて、


・画面中央に太陽を配して、そこから猛烈に紫外線が大地に降りそそいてくるかのようなイメージカット
・そして奇声を発して地面スレスレに宙を浮遊して、正クンを翻弄(ほんろう)してくるグロブスクの姿


 と、この両者の活動の「活発化」に関係性があることを明示している切り仮しのカットが、ベタだが映像作品というものの基本を押さえてもいる。


正「コラ! もういっぺん使ってやる! もうエラーするな!」


 野球でエラーしたことをいまだにグローブのせいにしている正クンが、ひざまづいてグロブスクにさわろうとするや猛烈な火花が飛び散った!


 正クンをカラかうかのように、奇声を発して宙を浮遊するグロブスク!


正「あっ、逃げるな! おまえに逃げられると、ボクは家に帰れなくなってしまう! あっ、待て!」


 グローブが怪獣化したことの方がふつうは「恐怖」になるハズなのに、正クンにとってはそんなことよりもウチに入れてもらえないことの方がよほど「恐怖」であるらしいことが、本話の滑稽味をいやます。しかし、奇声を発して宙を飛び回る「グローブさん」を連れて帰った方が、よけいに家に入れてもらえないのではなかろうか?(笑)


正「あっ! おまえ、グローブのくせにナマイキだぞっ!」


 落ちていた棒切れでグロブスクに殴りかかる正クン。


 激しく火花が飛び散って、やっと恐怖を感じたのか、助けを求めて叫びだす正クン!


 非常事態を察知した矢的隊員が現場に到着した!


 だが、グロブスクの姿を見た矢的は開口一番……


「ン? なんだ? 青いカニか?」


 まぁたしかに巨大怪獣ではないし、ただの浮遊する小型生物だから、ヨコ長なカニのような姿に見えたのだろう(笑)。こういうところで瞬間、ズラしを入れて「緩急」を付けてみせるのも石堂脚本の特徴である。


 ちなみに石堂先生は、


・『マグマ大使』(66年・ピープロ フジテレビ)第47話『電磁波怪獣カニックス 新宿に出現』~第48話『東照宮(とうしょうぐう)の危機・電磁波怪獣カニックス大暴れ』の前後編では、電磁波怪獣カニックス
・『帰ってきたウルトラマン』(71年)第23話『暗黒怪獣 星を吐け!』では、カニ座怪獣ザニカ
・『ウルトラマンタロウ』(73年)第7話『天国と地獄 島が動いた!』では、大ガニ怪獣ガンザ


 などのカニの怪獣を幾度か登場させている。ザニカのみならずカニックスも、『マグマ大使』のレギュラー敵である宇宙の帝王・ゴアが蟹座から呼び寄せた怪獣だった。そして、石堂先生自身が1932(昭和7)年7月17日生まれの蟹座だったりする(笑)。


正「カニじゃないよ。ぼくのグローブだよ。グローブに急にムラサキ色の光が入ってこうなったんだよ!」
矢的「ムラサキ?」


 それを聞いて直感したのか、グロブスクに計器を向けるユリ子。


ユリ子「大変です! このグローブは紫外線の固まりです!」


 樹木の上に跳び上がるグロブスク!


 一見マヌケなグロブスクの顔面の表情だが、やはり太陽から紫外線が放出されているイメージカットに続いて、それを吸収してエネルギーとしていることを象徴するかのように、グロブスクのギニョールを内部から空気で膨らませる演出は、お約束でもこうでなければダメである(笑)。


 グロブスクの目線から俯瞰(ふかん)して見下ろされている矢的隊員が、UGMの専用光線銃・ライザーガンで狙撃!


 両目を左右にギョロつかせるアップのあと、グロブスクは一同をあざ笑うかのように宙を舞って、木の茂みへと隠れるように姿を消してしまう……


矢的「あっ、消えた!」
正「グローブがないと家に入れてもらえない……」


 この両者の発言は噛み合っていないぞ!(汗) この期(ご)に及んでも、グロブスクの脅威よりもオウチに入れてもらえないと泣き出す、春からはもう中学生になるハズの意外と子供じみている正クン(笑)。


 このシーンに続く場面として、矢的とユリ子がよし子に事情を説明して、正を自宅に入れてくれるように説得する場面が撮影されたものの、尺の都合でカットされたのかもしれない。実際、このシーンに続く玉井家の食卓の場面は、父・太吉の以下のセリフからはじまるからだ――いやまぁ、脚本の段階で存在しなかった可能性もあるけれど・笑――。


太吉「フ~ン、UGMが正のために、幼稚園の子だって信用しないようなウソをついてくれたのか?」
正「ウソじゃないってば! グローブがオバケみたいに逃げてっちゃったんだよ!!」


 「幼稚園の子だって信用しないようなウソ」(爆)。たしかに怪獣や宇宙人が頻出するウルトラシリーズの世界の中でも、そのへんの野球のグローブが意志を持って逃げだしただなんて、幼稚園児でもなかなか信用しないだろう(笑)。


 お茶を入れながら、さらに正クンに追い討ちをかけてくる母・よし子。


よし子「はいはい、そのウソはホントじゃありませんねぇ」(笑)
正「知らない!」


 お茶碗のご飯をカキこんでいる正クン。お約束の家族団欒ではありながらも、ディスコミュニケーションは存在しており、しかして決定な決裂までには至っているワケではないところでの「和」と「不和」が常に同時にハラまれてもいる、人間関係の基本そのものといってもよい(笑)、よくあるホームドラマ描写ではある。


 やはり同じく石堂先生の脚本&東條監督の担当回であった、先の第42話『さすが! 観音さまは強かった!』のゲスト主役・岩水信夫(いわみず・のぶお)少年の一家の食事風景も彷彿とさせるものがある。


 ところで、今回のこの食事場面では終始、踏切が鳴る音と電車の走行音が流れている。先の正クンが母・よし子に玄関前で叱られている場面の直前に、踏切と小田急線の電車が走行するカットが比較的長目に挿入もされている。正クンとよし子の会話の前半部分でもやはり踏切と電車の走行音が流れて、玉井家が鉄道沿いにあることが表現されているのである。食事風景のみならず、このような細やかなインサート映像や効果音による演出によっても、所帯じみた生活臭が絶妙に醸(かも)しだされていくのだ。



オオヤマ「ブラックホールに吸いこまれると、その中の物凄い引力の作用で、地球もキャラメル1個くらいに縮むというから、紫外線がなにかのキッカケで凝り固まって、グラブ(グローブ)くらいの大きさになっても不思議はないんだなぁ」


 「紫外線」も人間に可視化できない波長の「光」のことだから、この発言に当時のウルトラシリーズファンの子供たちや特撮マニアたちであれば、『帰ってきたウルトラマン』第35話『残酷! 光怪獣プリズ魔』に登場した「光」そのものが凝縮して誕生した光怪獣プリズ魔(ひかりかいじゅう・プリズマ)のことをついつい連想しただろう。しかし、芸術的で非人間体型で半透明クリスタルの巨大オブジェのようだったプリズ魔と、もろに野球のグローブの姿をしているグロブスクでは、SF味においては天と地ほどの品位の違いは生じているのだが(笑)。


――余談だが、ジャンル作品で「光」が無条件に「善」だの「神」だのを意味するようになるのは、オカルト・キリスト教的な世界最終戦争(ハルマゲドン)のイメージが流布した80年代以降のことである。よって、70年代初頭のプリズ魔における「光」とは、価値中立的で単なる物理的な存在であり、そこに道徳的・宗教的な善なる「光」の意味はまだ込められていなかったあたり、良い悪いではなく「時代の空気」の違いといったものが忍ばれる――


 UGM司令室では続けてユリ子がパネルを使って、紫外線についての解説をはじめる。大気中の「オゾン層」が人体に有害な「紫外線」を食い止めており、「地球」を「人体」だと例えれば「オゾン層」は「日焼け止めのクリーム」みたいなもの。それが大気汚染で破壊されて、地球に降り注ぐ「紫外線」の量が増えている……うんぬん。ウ~ム、90年代以降に話題となった「オゾン層」の破壊のことが、今から30年も前に『80』ですでに議題とされていたとは……


 このシーンは同じく石堂先生が執筆されていた第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)における、地表と上空の温度差が激しくなると太陽光線の屈折によって発生するといわれている「逆転現象」について、UGM司令室でパネル付きでレクチャーしていたユリ子の描写を踏襲している。疑似科学的な味わいを付与するのみならず、こういう科学的な説明をさせるのであれば気象班に所属しているユリ子が適任であり、それによって彼女に見せ場を与えることもできるというワケである。
 ここ数話は新ヒロイン・星涼子隊員にスポットを当ててきたが、そろそろユリ子にもスポットを当ててみせるのも、全話を通じて主要人物全員に見せ場を極力均等に与えるのが正しいとするならば、石堂先生がそこまでシリーズ全体のバランスを考えていたワケでは決してないだろうが(笑)、結果的にはそのような効果も発揮しているシーンではある。


 と、思いきや……


涼子「オリオン座にあるブレイアード星が、2万年前に滅びたのもそれでした。地球に劣(おと)らない、美しい星でしたけれども」


 怪訝(けげん)そうな顔つきで、鋭く涼子をニラみつけるオオヤマ……


オオヤマ「……なに?」


 作劇的にはワザとらしい域にも達しているが、『80』最終回(第50話)『あっ! キリンも象も氷になった!!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210315/p1)への伏線は、もう張られ過ぎなくらい充分に張られてしまったのであった(笑)。


涼子「ゴメンなさい。今のは私が読んだ童話のお話……」
矢的「会議の最中、おとぎ話なんて不謹慎だよ!」
涼子「スイマセン……」


 ここですかさず機転を利かして涼子へのフォローを入れてみせることで、逆説的に矢的の有能さも際立ってくるのだが、本エピソード以降、『80』は完全に「ユリアン編」そのものといった内容になっていくのである。


 太陽由来の紫外線は太陽が沈むと急速に減少することから、徹夜の捜査を隊員たちに命じるオオヤマ。UGMの戦闘機・スカイハイヤー・シルバーガル、そしてスカウターS7が直ちに出動する!


 ここで流れてくる楽曲が、直前作であるテレビアニメシリーズ『ザ★ウルトラマン』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200508/p1)の防衛組織・科学警備隊の戦闘機を描写するテーマ曲としてつくられて、『80』でもたびたび流用されてきた、特撮マニア間では「急降下のテーマ」(正式MナンバーはM27)として知られている高揚感あふれる名曲である。怪獣バトルの前座やヤラれ役にとどまりがちなウルトラシリーズの防衛組織でも、こういう適切な音楽演出があるとカッコよくて頼りがいがあるように見えてくるものなのである。


 同じく石堂&東條コンビであった第41話でも、ゲスト主役の武夫少年がゼロ戦怪鳥バレバドンの背中に乗って遊覧飛行をする場面に使用されている。仮にこの選曲にも監督が関わっていたのだとしたら、東條監督も気に入っていた名曲だったのかもしれない。


 スカウターS7で出動した矢的と涼子にイケダ隊員からの通信が入る。


イケダ「星隊員」
涼子「はい」
イケダ「童話の続き、話してくれませんか?」
矢的「これから市街地に入る。いったん交信を切る」


 オオッ、イケダ隊員までもが涼子の発言で、涼子が少し怪しいと思ってしまったのだろうか? いや、イケダ隊員のことだからそれほどの他意はなく、ちょっとだけ参考に話を聞いてみようかな? といった程度だったのだろうが(笑)。
 しかし、そこは「大爆発! 捨身の宇宙人ふたり」なのである――『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)第13話のサブタイトルであり、未熟なゲン隊員=ウルトラマンレオと老獪なダン隊長=ウルトラセブンとの、周囲には正体を隠さねばならない足枷がある中でのふたりの関係性描写の結果的な反復にもなっている! という程度の意味です・汗――。
 ここでまた涼子隊員にボロが出されないように、矢的が言い訳を付けて通信が切ってしまうという一連ともなることで、「ユリアン編」としての独自のドラマがここでもさりげに展開されているのだ。


矢的「我々ふたりが地球という名の星の人間でないことは、まだまだ知られない方がいい」
涼子「はい」
矢的「地球の人間がヘンに我々の力をアテにしはじめるのがいちばん怖いんだ」
涼子「はい、気をつけます」


 ウルトラシリーズや日本にかぎらず世界中のヒーローもので、主人公たちが正体を隠している理由でもある、ヒーローものがハラんでいる矛盾と核心に迫真してくるやりとりがここでは繰り広げられている!


 しかし、同じく石堂先生が担当された『80』最終回では、実際には地球の人間たちは、矢的が想定していたようなウルトラマンの力に依存するだけの弱々しい存在では決してなかったことが明かされる。それについては項を改めて語りたい……


 実景の朝日の描写に続いて、多摩川沿いをジャージ姿でジョギングしている本エピソードのゲスト主役でもある玉井一家の姿が描かれる――長年のウルトラシリーズのマニアであれば、『ウルトラマンレオ』最終回(第51話)『恐怖の円盤生物シリーズ! さようならレオ! 太陽への出発(たびだち)』Bパート冒頭のレオこと主人公・おおとりゲンとレギュラーの梅田トオル少年が、やはり朝の多摩川沿いをジョギングしていた場面を想起したことだろう・笑――。


 停車しているスカウターS7を土手の下からの煽(あお)りで画面に捉えて、その右手から玉井一家がジョギングしてくる。


 徹夜の捜索で疲れて、座席で眠りこけていた矢的と涼子の姿を見つけた正クンは、


「あっ、ガス中毒!」(笑)


 と叫んでみせる!


 ナンという不謹慎なガキであることか!? こういうさりげにプチ悪趣味な「笑い」のセンスがまぶしてくるのが、石堂脚本の特徴ではあり醍醐味でもあるのだが(笑)。


 木々の間からこぼれて地上に照射されている朝日の光という自然描写から、カメラがパン(横移動)して公園の中をジョギングしている玉井一家をロング(引き)の映像で捉えるという、なんとも爽やかな朝ならではの映像で、その悪趣味も緩和はされているのだが。


 しかし、本話においては、その爽やかな朝日の陽光はイコール紫外線の脅威そのものでもある。続いて地面に落ちているグローブにカメラがズームすることで、実は直後にこの一家が危機に見舞われることをも暗示しているダブル・ミーニング(二重の意味)が込められた演出でもあるのだ。


 遂に紛失していたグローブを見つけて、その左手にハメてみせる父・太吉。


 だが、グローブは太吉の左手に強い力で吸いついて、ハズれなくなってしまう!


 青空の中、強い陽射しが照りつける太陽の下で、グローブに強い力で引っ張られて、左手を高々と掲げて苦しんでいる太吉を煽りで捉えたカットと、画面中央に太陽を配して強烈な紫外線が地上に浴びせられていることを意味するイメージカットが交互にカットバックされて、危機感を煽りたてる! 苦悶(くもん)して七転八倒する太吉を演じる住吉道博のひとり芝居もまた見事である!


 遂にグローブは太吉の左手にハメられたままで、奇怪なグロブスクの姿へと変化を遂げる!


 太吉の主観映像からのアップで描写されたその姿のすぐ下に、太吉の左手首に巻かれた腕時計がきちんと映しだされていることがまた、日常生活と直結した世界でのリアルな恐怖感も醸しだしている。


 紫外線の固まりの存在をキャッチしたUGM司令室からの連絡を受けて、矢的と涼子は眼を覚まして現地へと急行する!


 その間にもグロブスクの文字通りの「魔手」が太吉を襲撃している!


・輝く太陽の下、太吉からの主観映像でのグロブスクのアップ!
・地面に横たわって必死でグロブスクをハズそうとする太吉の表情!
・太陽から膨大に紫外線が放出されているイメージカット!
・グロブスクの強い力に引きずられて、左手を挙げたかたちで立ち上がらざるを得なくなってしまう太吉を、太陽の下での煽りで捉えたカット!


 それらを細かく交錯させることで、絶妙な緊迫感を醸しだす!


 現地に到着した涼子が、その正体はウルトラマン一族の王女・ユリアンとしての超能力ゆえだろう、その右手の人差し指から赤い一条の光線を浴びせるや、グロブスクの動きはようやく止まった!


 グロブスクが光線を浴びて動きを止めるカットでは、よし子にその様子をしっかりと見られてしまっている(汗)。ふつうの人間ではないことがバレバレなツッコミの余地がある描写だから、ここはあまりウマい演出ではないだろう。しかし、一瞬のことだから何かの光線銃を撃ったのだと、よし子ママもきっと誤解をしたことだろう! と好意的に深読みしてあげようではないか!?(笑)


 この攻撃で太吉の左手からはハズれたものの、グロブスクは地面スレスレに浮遊して一同の許から飛び去っていく!


 画面右手に横たわる太吉の顔、左手に介抱するよし子、中央に正クンを捉えて、その手前にグロブスクの姿をローアングルで捉えた演出が絶妙な臨場感も醸しだしている!


涼子「ブレイアード星の話で知ってたの。紫外線の反対は赤外線でしょ。赤外線のビームにいちばん強く反応するのよ」
矢的「そうか、それでか」


 そう。このセリフはオゾン層が破壊されたブレイアード星でも、紫外線が結集して怪獣が誕生したことをも示唆するSF的なそれであったのだ!


 地面スレスレに浮遊するグロブスクを矢的と涼子の主観映像で背後から捉えて、それを追っている矢的と涼子を足元からバストアップへとズーム。振り返ったグロブスクをアップで捉えて、さらにドアップでグロブスクが左右に両目をギョロつかせている…… といった一連の描写はカメラアングルと編集が絶妙である。


 再度、グロブスクに赤外線光線を浴びせかける涼子。


矢的「待て! 今、ヤツは気が立ってる!」


 グロブスクは赤く発光して、その全身が白い光学合成に覆(おお)われるかたちで遂に巨大化した!


 その姿は大きく変貌を遂げており、もはやグローブがモチーフの怪獣とは思えない! 触角というよりかは二股に分かれている頭部は珊瑚(サンゴ)を思わせて、黄色い目が光っている紫色のブニョブニョとした全身は、


・初代『ウルトラマン』(66年)第17話『無限へのパスポート』に登場した四次元怪獣ブルトン
・『ウルトラセブン』(67年)第35話『月世界の戦慄』に登場した月怪獣ペテロ
・あるいは『ウルトラマンネクサス』(04年)の第1話~第4話(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041108/p1)に登場したスペースビースト・ペドレオン


 などを彷彿とさせるブキミさを備えている!


 そのブキミさを強調するかのように、


・両目とその間にある穴
・赤いボツボツに覆われた腹
・サンゴ状の頭部


 それらがブニョブニョとうごめく様子を順にアップで映しだしていく。


 そして、画面下半分には本編ロケ映像の矢的と涼子を、その上半分には特撮セットのグロブスクを合成したカットにつなげるという一連の映像演出は、お約束でも実にカッコいい!


 甲高かった奇声が巨大化とともに腹の底から響き渡るような低い笑い声へと変わるのも実に効果的である!――この鳴き声は、『ウルトラマンタロウ』第2話『その時ウルトラの母は』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071209/p1)~第3話『ウルトラの母はいつまでも』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071216/p1)の前後編に登場した再生怪獣ライブキングの鳴き声、もとい笑い声(笑)を加工して使用したものらしい――


矢的「星くん!」
涼子「スイマセン。刺激しすぎました!」
矢的「これは君と僕の責任だよ」
涼子「はい……」


 美しい夕焼け空の中、黄色い目から紫色の波状光線を放って街を破壊するグロブスク。


 ……ってオイオイ。もう夕焼けの時刻ってことは、グロブスクは日中いっぱいずっと暴れ続けていたことになるのだろうか!? だとしたら、たしかに矢的と涼子の責任は重大だ!(笑)


 しかしそんなヤボなツッコミも、『80』では極めて珍しいあまりに美しすぎる今回の「夕焼け特撮」の前ではもうどうでもよくなってきてしまう。『ウルトラセブン』第8話『狙われた街』やオモテ向きは欠番の第12話『遊星より愛をこめて』、『帰ってきたウルトラマン』第32話『落日の決闘』や第37話『ウルトラマン夕陽(ゆうひ)に死す』などの特殊技術(特撮監督)を担当した大木淳による「夕焼け特撮」を彷彿とさせるものがあるからだ。



――『80』で組んでおられた特撮監督が佐川和夫さんなのですが、佐川さんについてお聞かせ下さい。
「『ウルトラQ』(66年)の時に円谷プロに入って、セットがあった美セン(東京美術センター・のちの東宝ビルト。引用者註:2007年に解体)に呼ばれたんです。で、オープンセットにフラッと近づいたら、「セット壊す気か、近寄るな、バカヤロー!」って怒鳴った人がいたの。それが当時カメラマンのチーフだった佐川和夫さん(笑)。実は佐川さんと僕とは大学の同級だったんだけど、むこうが先に業界に入って大活躍しているベテランでしょ。だからもう威厳たっぷりだったんです。佐川さんはやっぱりすごい人ですよ。特撮のことよくわかってるし、飛行機の飛びをやらせたら、あの人はピカ一。めざす絵を撮るために全然妥協しないんですよ。「こんな感じ」というアバウトな打ち合わせをしても、ラッシュで観ると予想を超えた何倍も凄い絵になってできている。何度も感心させられました。『80』の頃は打ち合わせしたらあとはもうお任せです。素晴らしい映画人ですよ」

(『タツミムック 検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・05年12月22日実売)監督 東條昭平インタビュー)



 セットの夕陽を画面左奥に捉えて、その手前に街灯を配するという距離感のある構図の中で、グロブスクが高々とジャンプして、ビルにのしかかってその巨体で押し潰す!


 真っ赤に染まった夕焼け空の中、地球防衛軍の戦闘機群が飛来してグロブスクに攻撃をかけるも、両目からの波状光線で次々に撃墜される!


 フジモリ隊員とイケダ隊員が搭乗するUGM戦闘機・シルバーガルが波状光線をからくも避ける!


 まさに東條監督が絶対的な信頼を寄せる佐川特撮監督の妥協のない、迫力ある飛行機特撮の連続である!


 そして、画面右手に樹木やビルを配して、中央に沈んでいく夕日を捉えたカット!


 それに続いて、画面左手奥に沈んでいく夕日、その下に鉄塔、右手前にビルや民家を配した奥行きのある構図の中で、グロブスクは夕日が沈むと同時に、その全身が白く覆われて消滅していく……


 太陽光に含まれている紫外線がなければ実体化ができないという怪獣の特性を実に的確に表現した描写でもある。


オオヤマ「結論は簡単だ。チャンスは日の沈んでいる間だ。いいか、今夜中に必ず捜しだせ! 出動!」
隊員一同「了解!」


 この場面にのみ広報班のセラの姿があるが、おそらくはほかに出番があったものの、尺の都合でカットされたのだろう。


 深夜の街を疾走するスカウターS7。


矢的「いくらヤツが動かないと云ってみても、東京は広すぎるよ」
涼子「西の方へ行って」
矢的「西? ヤツが潜んでいるところがわかるのかい?」
涼子「ええ。私すべての宇宙光線がキャッチできるの。西の方に紫外線の固まりがあるわ」


 山間部にたどり着いて、停車するスカウターS7。


矢的「ここか?」
涼子「ええ」


 正体は宇宙人・ウルトラマンエイティであることから超能力・ウルトラアイをつかって透視する矢的隊員。矢的の両目が星状に光って緑色の輪が発射される描写を繰り返したあと、半透明のグロブスクの姿が浮かぶ場面では、『ウルトラマンタロウ』のメインタイトルの中間部――同作主題歌のイントロが入る直前――でも使用されていた効果音が流れていることにも注目!


矢的「夜だし街から離れてる。君ひとりを観客に、君の代わりに力いっぱい戦うよ」
涼子「スイマセン。お願いします」


 それにしても矢的のこのセリフ、本エピソード前半での児童ドラマとは一転して、完全にオトナの男女間での演技となっている。


 涼子だけに見守られる中で、変身アイテム・ブライトスティックを高々と宙にかざす矢的!


矢的「エイティ!!」


 登場したウルトラマンエイティ、まるで拝むようなポーズで右手から水色の波状光線を発射!


 その光線を浴びた位置に幾つもの星がキラめいて、白い光学合成のかたちからグロブスクが実体化する!


 そして、なんと第40話『山からすもう小僧がやって来た』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110129/p1)から使用が開始された新オープニング主題歌『がんばれウルトラマン80』が今回はじめて劇中で流される!



――劇伴にはオープニング主題歌『ウルトラマン80』、そしてエンディング用の副主題歌『レッツ・ゴー・UGM』のアレンジ曲も多く含まれていますが。
「僕は作品で流用できない主題歌はダメだとずっと思っていました。これまでのウルトラシリーズでも、「主題歌をもっと先に作って、僕に時間をくれれば主題歌のアレンジ曲が用意できるよ」と毎回言っていたんですけど、実際問題、なかなかすぐには主題歌が決まらないわけでね。『帰マン』あたりではそれができなかった。ようやく実現できたのが『80』だったんですよ。やっぱり作品で表現しきれないことを主題歌が表現し、主題歌が表現しきれないことを作品が表現する。これで映像と音楽が一体になるわけですよ」

(『君はウルトラマン80を愛しているか』音楽 冬木透インタビュー)



 名構成の労作である『ウルトラセブン総音楽集』(87年・キングレコードASIN:B004P1Y8B2)のライナーノーツであったか、その解説書で担当ライター氏は「BGMと主題歌を同じ作曲家が担当していて音楽世界が統一されている点でも、『セブン』は素晴らしい」という趣旨の論を展開していた記憶がある。


 第1期ウルトラシリーズ至上主義者たちは、こういった論法でも第1期ウルトラの作品群を持ち上げて第2期以降のウルトラ作品を陰に貶(おとし)めてきたのであるが(笑)、当の冬木大先生はもっと柔軟で融通が利いていたのである。


・バック転を連続させて、右足でキック!
・側転のあと高々とジャンプして、グロブスクの頭部をキック!
・着地して低い姿勢のまま後転して、両足でキック!
・さらにチョップ! ひざ蹴りの連打!


 いつもながらのスピーディで豪快なウルトラマンエイティのアクションに、一見優しいメロディラインと歌い口の『がんばれウルトラマン80』は意外と違和感がない。冬木先生の持論を借りるならば「主題歌としては合格」ということになるのではなかろうか?


 『80』の戦闘シーンでは、登場ブリッジ曲であるM51はもちろんのこと、エイティ優勢の戦闘テーマ・M52、ピンチに陥るエイティのイメージ曲・M53、そして逆転からの勝利を飾るM2がシリーズを通して定番で使われるパターンが圧倒的であり、こうした変則的な音楽の使用は珍しい。


――ちなみに『80』のシリーズ後半では、冬木先生がやはり作曲された前作『ザ★ウルトラマン』のBGMでもある『交響詩 ザ★ウルトラマン』第四楽章『栄光への戦い』の『インベーダー軍団』と『勝利の闘い』(ASIN:B00005ENGI)なるブロックの単独録音版の流用が、エイティ劣勢と逆転勝利のBGMとして代用されるようになる――


 だが、それに呼応するかのごとく、怪獣の着ぐるみの造形面でも、擬闘(アクション監督)の車邦秀(くるま・くにひで)が担当したアクション演出面でも、変則的な試みがなされていくのだ。


 エイティのジャンピングキックを姿勢を低くしてカワしたグロブスクは、なんとその天地が逆になるのだ!


 サンゴ状の「二股」に分かれた頭の方を足にして動き回って、「五本指」状の足の方を頭にしてエイティの頭を押さえつけて、ド突きまくるのである!


 もっとも野球のグローブがモチーフの怪獣なのだから、本来ならば最初から「五指」の方が頭としてふさわしいのだが、やはりあとから「手首」の方が頭になるよりも、「五指」の方が頭になった方が絵的なインパクトは絶大だろう。


 そうかと思えばグロブスクは地面を這った状態で、エイティの攻撃から高速で逃げ回るのである! もちろんカメラの回転速度を変えて撮影しているのだが、周囲でムラサキ色の霧が立ち昇っている演出も実に効果的である。


 目には目を! グローブにはボールを! とばかりに、エイティはジャンプして夜闇の中で身体をまるめて、前転するかたちで回転をはじめる!


 ここからはエイティの回転姿勢とほぼ同一サイズに思える造形物に変わるのだが、相応の大きさから来る実在感も高いことからミニチュア的な軽量感はないのである!


 そして、空中を水平ヨコ方向にコマのようにスピンして大きく旋回しながらグロブスクに何度も何度も体当りをブチかます!!


 身体をまるめた状態のエイティの造形物の周囲に、高速で渦が回転するような線画を合成作画することによって、スピード感も高めつつ、エネルギーも込められているようなパワー感まで表現ができている!


 この一連の夜景の中での長尺の特撮シーンの豪快さはまさに必見! ムチャクチャに迫力もあってカッコよくて意外性もある、歴代ウルトラシリーズでも観たことがないような、空前絶後カタルシスと驚きに満ち満ちた特撮アクション演出として仕上がっているからだ! ウルトラシリーズのまさに五指(笑)に入るベストバウトに挙げたいくらいである! ちなみに、このエイティの攻撃技は「ダイナマイトボール」と命名されている。


 かたおか徹治先生による名作漫画『ウルトラ兄弟物語』(78年)の第1話、過去の失敗のトラウマから異星の西部劇調の居酒屋で飲んだくれてヤサグレていた「新マン」こと「帰ってきたウルトラマン」が、地面スレスレで空中前転しながら滑空して必殺光線を乱発するローリング・スペシウムをも彷彿とさせる!
 ……と云いたいところだが、1939(昭和14)年生まれの当時41歳の佐川和夫特撮監督は、世代的にもこの小学生向けの漫画を読んでインスパイアされたという可能性は非常に低いだろう(笑)。


 ボール状から元の姿に戻ったエイティ、飛行状態でグロブスクに突撃をかけるが、その身体をスリ抜けてしまう!(合成もお見事!)


 グロブスクにカラみつかれて、全身に赤いイナズマのような電撃も走る!


 それを見かねた涼子が、やはり指先から先の赤外線光線をグロブスクに浴びせかける!


 全身に赤い電撃が走ったグロブスクは空へと逃れて、今度はエイティとの空中戦を展開!


 地上に墜落したグロブスクはエイティに抱え上げられて、ウルトラナックルで右腕のみでグルグルと回転させられ、地上に投げ捨てられる!


 エイティ、さらにグロブスクをつかみあげて、地上へと投げ捨てる!


 エイティ、両腕をL字型に拡げたポーズからいつものサクシウム光線を発射するのかと思いきや、胸の中央にあるカラータイマーが一瞬黄色く光って、その両腕をいったんクロスさせて、そのままいつものポーズに腕をスライドさせて三条の赤い光線を発射した! ウラ設定ではサクシウムエネルギーに赤外線を含ませたガッツパワー光線だ!――一部書籍では単に「サクシウム光線・Bタイプ」と命名されている。まぁ元はサクシウムエネルギーだからこれも間違いではないだろう。歴代ウルトラマンの技名のネーミングに別名があるのもむかしからのことである・笑――


 長年のウルトラシリーズのマニアであれば、『セブン』第47話『あなたはだあれ?』で、集団宇宙人フック星人にウルトラセブンが両腕をL字型にして放ったワイドショットの光線が三条に分かれるスリーワイドショットを思い出したことだろう(笑)。


 ちなみにウルトラセブンもその看板作品のシリーズ中盤からはさまざまな光線技のバリエーションが描かれてきた。予算の削減で特撮ミニチュアセットが満足に用意できなくなったり、人間ドラマの重視によって見た目がどんどん地味になっていったシリーズ中盤だが、逆にウルトラセブンは光線技のバリエーションが増えているのだ。


 視聴率と直接相対するプロデューサーはともかく、この時代の特撮現場の特撮監督たちが、少しでも年少の視聴者たちをつなぎ止めようと考えるような細やかな殊勝(しゅしょう)さがあったとはとても思えない(笑)。なので、単に映像的な実験をしてみたいという自身の子供っぽい欲望でさまざまな光線技をセブンに発射させてみた! といった程度での安直なノリだったのだろうと推測はする。


 しかしそれらの要望を、特撮監督の意向をはるかに超えたハイセンスなイメージで見事に映像化してみせていたのが、1950年代の東宝特撮映画の時代から「光線作画」を担当してきた飯塚定雄(いいづか・さだお)なのである。悪い意味で漫画的な大味のデタラメさはまるでなく、シャープでスマートでクールなセンスもあって、遠近感なども実に正確かつ未来的でカッコいい「光線」の数々が、作品の映像的な「品位」も上げていく!


・第29話『ひとりぼっちの地球人』で宇宙スパイ・プロテ星人に浴びせた、電磁波を含ませた黄色い波状光線・チェーンビーム!
・第36話『必殺の0.1秒』で催眠宇宙人ペガ星人の円盤を攻撃した、ニードル状の光線を続けざまに放つウルトラショット!
・第43話『第四惑星の悪夢』で第四惑星の地球攻撃用ロケットを全滅させた、飛行状態の両手から放つダブルビーム!


 小学校中高学年以降ならばともかく、子供なんてものは人間ドラマなぞはロクに理解していない。むしろこうした変則的に披露される実に多彩な光線技といったヒーローの万能性の方に妙にドキドキしたりワクワクしているだけだったりするものなのである。特撮変身ヒーローもののキモとはまさにコレなのである!(笑)


 そして、怪獣博士タイプの子供のみならず、子供たち一般はこういった必殺技とその名称や映像をすべてコレクション的に知っておきたい! 把握しておきたい! 手近にまとめておきたい! と痛切に願うものでもある。


 苦節20年。これらの光線技にはじめてネーミングが与えられたのは、放映から20年(!)も経った80年代末期の平日帯番組『ウルトラ怪獣大百科』(88年)や、『てれびくんデラックス ウルトラ戦士超技全書』(90年・小学館ASIN:B00MTGGP70)に至ってのことであったのだ(笑)。



 ガッツパワー光線を浴びたグロブスクは全身が赤いイナズマ状の電撃に覆われて消滅していく。


 画面の左手前に立ち尽くしているエイティが、右奥の山の向こうに昇ってくる朝日を見つめてうなずく勝利の場面は実に美しい。


 地面に落ちているグローブをひろってジッと見つめる涼子。


 その涼子の後ろ姿を画面の右手前に配して、画面の左奥から矢的が朝霧が立ち昇っている中で、涼子に向かって笑顔で駆けてくる描写が爽やかである……


涼子「猛……」


 グローブをそっと猛に手渡す涼子。


涼子「勝ったのね」
矢的「ウン」


 勝利の、いや、決してそればかりではない矢的と涼子が互いをジッと見つめる笑顔が交互に映し出される……


 この一連では往年の名作テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101207/p1)の劇中音楽でも有名な川島和子による哀愁を帯びたスキャット曲・M17-2が流れている。



・第18話『魔の怪獣島へ飛べ!!(後編)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100829/p1)においては、ゲスト主役の星沢子(ほし・さわこ)が自らの命を捧げることで蘇生したイトウチーフ(副隊長)が、彼女への想いを語るラストシーン
・第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)では、愛する矢的を守るために城野エミ隊員が侵略星人ガルタン大王の剣に貫かれて殉職した事実に、オオヤマ・イトウ・フジモリが衝撃を受ける場面からラストシーンに至るまで


 『80』最終回に向けて、このふたりには男女間のロマンスの伏線も与えておこうという意図も、濃厚に感じられる本編演出でもある。


 この楽曲は『ウルトラマン80 ミュージック・コレクション』(日本コロムビア・96年8月31日発売・ASIN:B00005ENF5)では「無償の愛」なるタイトルがつけられたブロックに収録されていた。しかし、これまでの劇中での使用例も思えば、いわゆる単なる「無償の愛」ではないこともたしかである。


 矢的はグロブスクとの戦いに赴(おもむ)く直前、涼子にこう語っていた。


「君ひとりを観客に、君の代わりに力いっぱい戦うよ」


 これまで『80』では市街地、そうでなくとも市民やUGMが見守る中でのエイティVS怪獣の戦いが描かれてきた。だが今回、その戦いを見守っているのは涼子=ウルトラの星の王女・ユリアンのみなのである――いやまぁ人間大サイズの変身ヒーローが戦っている作品ではないので、おそらく誰かしらが目撃してUGMにも遅れて通報しただろうけど・笑――。


 怪獣グロブスクの誕生経緯はともかく、その巨大化の結果責任は、ウルトラ一族の一員であるユリアンにある。そして、その責任は同じウルトラ一族であるエイティが尻拭いをしてみせようというのが表向きの理由になっている。しかし、理由の字面はそうであっても、「君のためだけに戦う」という趣旨のセリフは、これは遠回しの「愛の告白」でもある。そうでなくても遠回しな「好意の表明」ではある。矢的ことエイティが内心で秘かに好意を持ちはじめていただろう涼子ことユリアン。その「愛するユリアンのために捧げた戦い」でもあったのだと……



矢的「(涼子の右肩を左手でポンとたたいて)さぁ、UGMに帰ろう」


 画面の奥にスカウターS7を配して、それに向かって駆けていく後ろ姿の矢的と涼子…… ロマンチックな風情も感じられる場面である。



 紺と白のジャージ姿で正クンが所属する少年野球チームで、ノックを務めている矢的、そしてあいかわらずの正クンの姿にかぶるラストナレーション。


「そうそう、いくら失敗しても腐(くさ)ったり、腹を立てたりしないことだ。怪獣たちは人間の心の乱れにつけこもうと、いつもねらってるんだからね。球(たま)が落ちるのはグローブのせいではない。君の練習が足りないからなんだ」


 しかし、ノックの打球をエラーしてズッコケている姿の正クンのカットで物語は締めくくられている(笑)。




 そう、「社会」や「周囲」の人々の方が悪い場合もたしかにあるだろう。しかし一方では、「個人」の方が悪い場合もある。そして、「個人」が悪いとはいえないが、「個人」の努力が足りていない場合もあるのだ。たいていの物事は、フェア・公平に考えれば「半々」なのである。だからまずは「社会」や「グローブ」(笑)のせいにはせずに、我が身自身のことを省(かえり)みてみることである。


 むろん「個人」の努力だけでもどうしようもない場合はある。その場合は、自分に才能がないと思えば潔(いさぎよ)くその道はアキラめて別の道に活路を見出すことも必要だ。しかしその上で、もしも「個人」の生存の上でも最低限は必要な事項だ! どうやら「社会」の方が間違っている! ということがあれば、「社会」に異議申し立てをすることにもはじめて正当性がやどるだろう。


 そして、「社会」をつくっているのもまた「個人」(であるひとりひとり)である。しかし、億人単位の「個人」の意志が集合したかたちで「社会」が構築されている以上は、「社会」もまた即座に一挙に変革しうるものでもない。中長期にわたっての交渉や会議などでの粘り強さが必要なのである――即座に変わらなければオカシい! それは理不尽だ! と考えてしまうことも理解はできるのだが、それは自身が独裁者と化してしまう道でもある・汗――。


 いくら他人や社会から邪険にされようとも「腐ったり腹を立てたりしないことだ」。社会運動や市民運動のようにヒステリックにガナったりする必要はないのだ。かといって、卑屈に押し黙ってしまう必要もない。相手を貶めて胸を透かせたいという「擦り切れた快・不快」といった程度の感情(劣情)に基づく「怒り」などは深く静かに沈潜させて蒸留させていき、「私憤」ではなく大勢の人間の状況をよくしたいという「義憤」「公憤」に洗練させた「瑞々(みずみず)しい喜怒哀楽」としての高次な感情へと置換してから言葉を発するべきなのだ。


 目的のためにならば少々のズルや抜け駆けも許されるということもあまりない。目的達成のためにもたとえ迂遠になろうとも正当な「手段」を採択し、お天道様に恥じないかたちにした上で、それからはじめて気高く戦うべきだろう。
 たとえその発端は正当な「怒り」であったとしても、「目的」のためにならば「手段」を選ばす、いくらでも礼節を欠いて口汚く論敵を罵倒してもよい! 他者を傷つけてもよい! 少々のズルをしてでも出し抜いてよい! という低劣な心理にそれは容易に堕落しうる。そのような自堕落を許すと、それはてきめんに自己を絶対化・正義化して、論敵どころか仲間内での内紛や内ゲバをも誘発するのだ。正しき者こそ強くあれ。正しき者こそ節度・抑制心も含めて心が強くあるべきなのだ。


「怪獣たちは人間の心の乱れにつけこもうと、いつもねらっているのだ」


 このセリフは、第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)でも引用させてもらった、以下のインタビューでの石堂先生の発言にも通じている。



――石堂さんは雑誌『ドラマ』(映人社・93年9月号)の中で「悪人はあまり書いたことがない」とおっしゃっています。この感覚は石堂さんの怪獣像にも反映されているのでは?


「それはね、僕が大学でドイツ文学をやっていた時(引用者註・氏は東京大学文学部独文学科の出身)、ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテの悲劇『ファウスト』(1808年)を読んでね。あれにメフィストフェレスという悪魔が出てくるでしょう。このメフィストという「悪」とは何かということを、僕は論文のテーマに選んだんです。そこで導き出した結論は、メフィストファウスト自身が呼び出したものであると。悪とは人間の外に客観的に存在するものじゃなくて、人間の内から呼び出されたものであるという。いわゆる世の中に「絶対悪」というのが最初からあって、それをやっつければOKという話じゃない。そういう感覚が、ウルトラマンを書いていた時にも確かにあったと思いますよ。怪獣も結局、人間が呼び出したものであると」


(引用者註・悪魔メフィストフェレスは、初代『ウルトラマン』第33話『禁じられた言葉』に登場した悪質宇宙人メフィラス星人のネーミングの語源。『ウルトラマンネクサス』に登場する最初のウルトラマン型の悪の超人・ダークファウストやふたり目の悪の超人・ダークメフィストの語源でもある)


(『君はウルトラマン80を愛しているか』脚本・石堂淑朗インタビュー)



 「個人の外に絶対悪というものがあるわけではない」「怪獣も結局は人間が呼び出したものである」。そう、「社会」の「悪」というものも、結局は個人個人が長年にわたって醸成してきたものなのである。


 この石堂先生のご持論が、単に『80』第1クール「学校編」の思春期真っ只中の中学生たちのミクロな負の感情といったマイナスエネルギーという狭い概念を超えていき、ゲーテの『ファウスト』にも通じていくような普遍的な概念にも昇華していったようにも見えるのは、『ウルトラマンA』においても人間の精神を試してくる悪魔としての異次元人ヤプールの描写を、同作のメインライター・市川森一(いちかわ・しんいち)が降板したあとでも最も色濃く継承していたのが石堂先生であったことを思えば、もちろん結果論であることは重々強調しておくけど、重ねて石堂先生を投入したことによる成果であったと思うのだ。



 ともまれ、「物を粗末に扱うな」「環境問題」などといった「道徳的テーマ」「社会派的テーマ」だけにとどまらず「児童ドラマ」も展開させて、SF的な存在のようでもイロモノでもある「怪獣グロブスク」(笑)、そして実に美しい「夕焼け特撮」に、特別な趣向を凝らした壮絶なる「特撮バトル」などなど、本話は見どころ満載のエピソードに仕上がった。それでいてラストは、最終展開への伏線としてエイティ=矢的とユリアン=涼子との「愛の告白」めいた情緒豊かなシーンまでもが描きこまれているといった密度の濃さ!


 そう、本エピソードは「ユリアン編」の中でのターニングポイントでもあり、矢的と涼子の関係性の変化とその急転までもがしっかりと描かれていたのであった……


 石堂・東條・佐川の最強トリオとしては『80』最後の作品となったが、文句なしの大傑作である。



<こだわりコーナー>


*正クンはグローブを自らの意志で捨てたのだから、サブタイトルの「落し物」はちょっと違うんじゃないかと思う(笑)。


*正の父・太吉を演じた住吉道博は、東映コメディ特撮の大人気番組『がんばれ!! ロボコン』(74~77年・東映 NET→現テレビ朝日)の第73話『ゲバリキュン!! どうかおいらを追い出して』~最終回(第118話)『メデタリヤ! ロボコン村は花ざかり』に至るまでの、主人公のロボコンが居候(いそうろう)をしていた小川家のパパ・太郎役でレギュラー出演していたことでもジャンルファンには有名。
 しかしさかのぼること、初代『ウルトラマン』(66年)第18話『遊星から来た兄弟』では、凶悪宇宙人ザラブ星人科学特捜隊から引き取ろうとする宇宙局の局員も演じている――セリフは一言もないが・笑――。『怪奇大作戦』(68年・円谷プロ TBS)第13話『氷の死刑台』でも、人間を超低温の中で生かし続ける実験の末に冷凍人間を誕生させ、彼に殺されてしまう科学者・島村を演じていた。テレビ時代劇マニアには、『必殺』シリーズ第3作『助け人走る(たすけにん・はしる)』(73年)のシリーズ前半でのレギュラーの密偵・為吉(ためきち)役でも知られている。なお、以上の作品には「住吉正博」の名義で出演していて、現在ではこの芸名に戻しているようだ。


*CS放送・ファミリー劇場で放映された『ウルトラ情報局』2011年1月号にゲスト出演した小坂ユリ子隊員役の白坂紀子(しらさか・のりこ)のインタビューも紹介しておこう。『80』第1クールの「学校編」で桜ヶ岡中学校の事務員・ノンちゃん役に起用された際には、テレビドラマの出演ははじめてだったそうだ。「地のままでそのままやって」と云われたものの「こんなお姉さんがいたらいいなぁ」と生徒たちに親近感を持ってもらえるような人物像を演じるように心掛けていたそうである。
 「学校編」の設定が消滅したことでいったんレギュラーからハズれたものの再度、UGM・気象班の小坂ユリ子隊員役として起用された際には「エッ? そんなことあるのかな?」と本人が最も驚いたのだとか。もっとも彼女自身は「おてんば」なところがあり、どうせ防衛隊の隊員の制服を着るのならば、戦闘機に乗って戦うような役をやりたかったらしい(笑)。
 第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』や本話のように、隊員たちにレクチャーをする場面では、テレビの前の子供たちにも理解ができるように心掛けたそうだが、隊員を演じている俳優たちにジッと見詰められているので、かなり緊張してしまったとか。
 もしもユリ子が気象班ではなくUGMの新人戦闘隊員として参戦していたら『80』はどうなっていたであろうか? 城野エミ隊員とユリ子隊員が矢的をめぐって小さな火花を散らしているような描写が何度かあったことを思えば、『80』第10話『宇宙からの訪問者』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100704/p1)でマドンナ教師・京子先生とゲストヒロイン・アルマが矢的をめぐって恋の火花を散らしていたようなラブコメが展開されたのかもしれない(笑)。


 主人公・矢的猛を演じた長谷川初範の印象に関しては「一生懸命なマジメな方」であり「矢的先生にピッタリ。とても素朴(そぼく)でいい方。あのとおりの方……」だったらしい。


 ご子息は幼稚園のころにはウルトラマンシリーズにかなりハマっていたそうである。レンタルビデオ店で『80』を借りて観せたら「なんでここにいるんだ!?」ととても驚くとともに「スゴい、スゴい!」と喜んだそうで、「やってよかった」という実感をはじめて得られたそうである。そして、ご子息がウルトラマン、夫の俳優・志垣太郎(しがき・たろう)が宇宙忍者バルタン星人を演じてよく親子で遊んでいたそうだ。ナンと志垣はそれだけでは飽き足らずに、どこで調達したのかバルタン星人のかぶりものまで入手。近所の公園でそれを着用してほかの子供たちと遊んでいたらしい(笑)。
 青春ドラマ『おれは男だ!』(71年・日本テレビ)の転校生・西条信太郎役や、『エイトマン』や『幻魔大戦』で知られる第1世代SF作家・平井和正の筆による不朽の名作学園SFを実写化した映画『狼の紋章』(73年・東宝)の高校生主人公である狼人間・犬神明(いぬがみ・あきら)役など、かつては二枚目俳優だった志垣だが、実際には80年代中盤の大人気バラエティ番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(85~96年)でのコミカルな吸血鬼ドラキュラのごとき扮装で子供たちを驚かせつつ笑わせてもいた「デビル志垣」のキャラの方がホントの地であったようである(笑)――志垣太郎はテレビ時代劇『水戸黄門』(69年~・東映 TBS)第13部(82年)の第10話『尾張名古屋の妖怪退治―尾張―』に徳川綱誠役でゲスト出演して白坂と共演、志垣が白坂に一目惚れしたことから猛アタックの末に結婚したらしい――


 これらのことから、白坂は「ウルトラマンは子供たちにとってすごく大きな存在」だと再認識したそうであり、「エイティは永遠に不滅のヒーローです!」と語っていた。


*本文で『ミラーマン』について少しふれたのでついでに書いておく。最近、『ミラーマン』放映当時のセルロイド製の「お面」――一見パチモンかと思うほど出来が悪いがきちんと版権シールが貼られている――や、学校給食用のナプキン――ミラーマンVS怪獣キティファイヤーのヘタな絵柄だがこちらも版権もの――のデッドストックをたったの数百円で入手する機会を得た。『ミラーマン』は玩具メーカーブルマァクが発売したソフビ人形の数々で大量の売れ残りが発生したことでも有名な作品だが(汗)、このようなデッドストックが安価で入手できたということがたまたまの出来事でなければ、それ以外の関連アイテムもあまり売れ行きは芳(かんば)しくはなかった可能性もある。これは喜ぶべきことではない。やはり制作費を出資してくれる玩具会社も儲かるような作品づくりをしないとダメだということなのである……


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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ウルトラマン80』第46話『恐れていたレッドキングの復活宣言』 ~人気怪獣・復活月間の総括!

どくろ怪獣レッドキング三代目 壷の精マアジン登場

(作・平野靖司 監督・東條昭平 特撮監督・佐川和夫 放映日・81年2月25日)
(視聴率:関東9.7% 中部12.9% 関西12.1%)
(文・久保達也)
(2011年4月脱稿)


「僕は「なにもわざわざ昔の怪獣を出すことないじゃん」って思ったんですけどね。この時は確かプロデューサーからレッドキングを出そうって話でした」


――ではレッドキングへの思い入れなどは特になく?
「この話に対しては思い入れはなかったですね。本来レッドキングは怪獣がたくさん出てくる島にいたじゃないですか」


――『(初代)ウルトラマン』(66年)第8話『怪獣無法地帯』の多々良島(たたらじま)ですね。
「そうそう。僕にとってのレッドキングはそういう怪獣なんですよ。この時は「とりあえず出せ」というから出したわけですよ。魔法使いが出すという設定だけど、要はなんだってよかったんです。これはもう、無理やり出すために考えた設定だったんです(笑)」


(『タツミムック 検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124)脚本/平野靖士インタビュー)



 当時の平野氏の「やる気のなさ」が伝わる発言だ(笑)。ウルトラマンシリーズを代表する大人気怪獣・レッドキングを出すためにムリやり設定された「壷(つぼ)の精・マアジン」による珍騒動が全編にわたって繰り広げられる今回のコミカル編。


 そして、あのシリアス寄りの演出で、時に社会派風味もあった東條監督による作品だったとはちょっとビックリだ(笑)。しかし、変身ヒーロー作品に市民権を勝ち取るために社会派テーマや陰欝(いんうつ)な人間ドラマを求めていた若いころをとうに相対化した中年マニアからすれば、なかなかどうして実に味わい深い楽しめる作品に仕上がっていると思える。


 静岡県裾野市(すそのし)にある「日本ランド スキー場」に家族でスキーに来ていた淳少年と妹のヨッコ――この場所は2011年現在では、「スノータウン Yeti(イエティ)」という名称に変わって、「富士急行」系のフジヤマリゾートが運営している(イエティは「雪男」の意味)――


 彼ら兄妹は偶然見つけたホラ穴の中で奇妙な「壷」を発見。ヨッコはそれを絵本の中で見た、なんでも願いをかなえてくれる魔神・マアジンが潜んでいる「壷」だと信じこんで、それを大事に持ち帰った。


正男少年「怪獣発見! 前方30メートル! 爆弾投下用意!」


 帰宅してからも「壷」を大事そうにかかえて外出するヨッコと出歩いていた淳少年。彼らはモロにイジメっ子風の少年たちである正男ら3人の悪ガキが乗る自転車から、スレ違いざまに爆竹(ばくちく!)の奇襲攻撃に襲われてしまった!(汗)


 それにしても、この正男少年はいかにもヤンチャそうに見える子役を使っていて、絶妙なキャスティングである。


 おそらく近くに飛行場があることを示すのに加えて、それ以上にこのシーンに太平洋戦争中の「空襲」のイメージも微量に付与するためだろう。この場面では、航空機が飛行する効果音が終始流されている。爆竹がハデに破裂する前後では、まさに悪ガキどものセリフ「爆弾投下用意!」の状況と見事にシンクロしていた!(笑)


 本エピソードのメインテーマではないが、ディテールに対する点描に、スタッフたちの太平洋戦争中の「空襲」体験を声高にガナったりはしないもののダブらせていく、ちょっとしたお遊びの演出は、『ウルトラマンタロウ』(73年)第39話『ウルトラ父子(おやこ)餅つき大作戦!』などでの空襲写真のインサートなどでも見られる。
 このようなトーリーではなく映像や音響面での演出はおそらく脚本上には記されておらず、本編監督なり音響担当者側のアドリブなのだろうと推測するのだが……



 冒頭のナレーションでも、妹のヨッコよりも実はスキーをすべるのがヘタである……と説明されているほど、メガネをかけた運動神経や体力には実に乏しい冴えない印象の淳少年。彼はまさに藤子・F・不二雄(ふじこ・エフ・ふじお)先生の名作漫画『ドラえもん』(69年~)に登場する小学生主人公・野比のび太(のび・のびた)クンを彷彿(ほうふつ)とさせるキャラクターである(笑)。


 そんなヒ弱そうな淳少年が、


「アイツら~!」


 とケンカをふっかけようとするや、妹のヨッコは


「お兄ちゃん、やめなさい。どうせ負けるんだから」


 と実に冷めた目で淳少年を制止している。


 絵本の中に描かれている「ファンタジー世界」の登場人物の実在を信じている、現実と虚構を混同したような素朴な少女なのかと思いきや…… そのような単純で記号的・ステレオタイプな脳内お花畑のポエム少女ではない。ヨッコは「現実世界」の世知辛(せちがら)い原理原則や、腕力や胆力では実に頼りない兄のこともわかっている、「夢見がち」と「現実的」の両面がある少女として多角的に描かれているのだ。


「バッカヤロ~~!!」


 負け犬の遠吠えのごとく(笑)、正男たちに叫ぶ淳少年に対して、振り向きざまに正男たちが、


「へへッ! ザマぁ見やがれ!!」


 などと声を揃えるさまは、個人的には30数年前の悪夢の日々を思い出してしまうほどの見事な演技であった(爆)。



 その後、淳少年は仲のよい友だちである少年・悟(さとる)や少女・ミエとともに、ヨッコのおとぎ話に付きあわされることになる。


 ヨッコが公園の水道で「壷」をきれいに洗ってあげて、


「アカサタ ナンナン マミムメモン!」(笑)


 と呪文を唱えるや、壷の中から白い煙が吹き上がった!


 作画合成の赤い渦の中から、なんと本当に絵本に描かれていた壺の妖精・マアジンが現れたのだ!!


 冒頭でヨッコが読んでいた絵本の中に描かれていた、実にファンタジックな世界は、雇われ外注デザイナーでなければ、本編美術班の誰かが描いたのだろうが、実に見事な出来映えである。


 そして、その絵本の世界に登場していた人物と同じ姿である、黒いシルクハットにウラ地が赤いマントといった、まさに「魔法使い」であるかのような、爪先の尖ったブーツ姿のマアジン。


 だが、マアジンを演じているコメディアン・横山あきおの個性が強く出すぎている(笑)。


・目の周囲が白
・その下が黄色
・頬(ほお)は青


 それらが赤で縁取(ふちど)りされているという、あまりにド派手なメイク!


 絵本の中のファンシーな「絵柄」だけの存在であれば「やさしい夢の存在」といった感じなのだ。しかし、3次元でコメディアンが演じると妙にナマ臭くなって滑稽味の方が浮上してきて正直、絵本の世界から飛び出してきたファンタジックなキャラクターだとはとうてい思えない。


 しかも、登場時には漫画の擬音のような「ボョョ~~ン!」などという効果音を流されてしまうと、これはもうテレビの前でズッコケるしかない(笑)。


 どうヒイキ目に見ても、「魔法使い」というよりは怪しい「大道芸人(だいどうげいにん)」にしか見えないマアジンに対して、ヨッコが驚きも恐れもせずに、


「マアジンさん、こんにちは」


 と律義に頭を下げた時点で、筆者は完全にトドメを刺されてしまった(爆)。


 ここで驚いてヨッコがマアジンから逃げ去ってしまうと、マアジンが魔法を使う余地がなくなったり、話が遠回りになりすぎてしまう。だから、ヨッコもそうとうの肝っ玉の持ち主か、やはりそこいらへんは物事の道理が単にわかっていない年齢相応の幼女だったのだ! といったことでナットクしようではないか!?


 もちろんそれと同時に、本エピソードはこれからリアリズムよりも不条理・喜劇の方が優先されていく作劇になりますよ~! といった視聴者に対する宣言も兼ねている。


 そんなひたすらにウサンくさい印象のマアジンではある。しかし、「大きな犬のぬいぐるみ」がほしいと願ったヨッコに、マアジンは手にしたステッキで、


「マアジン マアジン ポン!」


 と呪文を唱えて、ヨッコの願いをかなえてくれたのだ!


 願いをかなえる瞬間、ステッキの先端の周囲に七色の星がキラめく合成が実に安っぽいともいえるが、良い意味で低予算のご町内ファンタジー作品的な印象も与えてくれている。


 このステッキは、ひょっとして児童向け実写ドラマ『(新)コメットさん』(78年・国際放映 TBS)で、主人公のコメットさん役の当時のアイドル歌手・大場久美子(おおば・くみこ)が魔法を使用する際に使用していた小道具の流用ではないかと勝手に思っている(笑)。


 『ウルトラマン80(エイティ)』(80年)第7話『東京サイレント作戦』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100613/p1)で騒音怪獣ノイズラーに襲撃される新幹線のミニチュアが、映画『新幹線大爆破』(75年・東映)で使用されたものを東映から借りていたという前例もある(だから破壊ができなかった・笑)。
――ちなみに、『新幹線大爆破』は単なるパニック映画だと思われがちなのだが、実はとても良いお話の名作だ。ただし「特撮映画」だと期待して観てはいけない!――



 『コメットさん』を製作した国際放映も、往年の今は亡き東宝の分派である映画会社「新東宝」の流れを組んでいる。東宝の撮影所などもある世田谷区の砧(きぬた)にあった会社だから、同じく東宝の分派のような存在である円谷プロのご近所さんである。円谷プロから移籍した熊谷健(くまがい・けん)プロデューサーとのコネで内々に借りてくることができたとか!?(笑)



イケダ隊員「キャップ(隊長)! 怪音波です!」


 同じころ、我らが防衛組織・UGMが怪しい音波の発信をキャッチした。


イトウチーフ(副隊長)「奇っ怪な波長だな。地球のものじゃない!」
フジモリ「じゃあ宇宙人!?」


 マアジンは300年もの長い間、「壷」の中に閉じこめられていたという設定以外は、その出自については劇中では一切語られずに、最後までナゾの存在として終わっている。だが、UGMの反応からすると、遠い過去にどこかの星から「壷」の中に閉じこめられた状態で宇宙に追放された存在だったという可能性も考えられる。
 まぁ、フワフワとしたファンタジックな存在なので、過去にはちょっとした「悪党」だった……というような設定を付与してしまうと微量に重たくなってしまう。そして、本話のカルみのあるテイストも失われてしまっただろうから、そこにはあえて突っ込んでいかないのが作劇の塩加減としては正解ではある。


 ただまぁ、『(旧)コメットさん』(67年・国際放映 TBS)のオープニング映像では、宇宙でイタズラばかり繰り返す主人公のコメットさん――演じたのは当時の人気歌手・九重佑三子(ここのえ・ゆみこ)――に、業(ごう)を煮やしたベーター星の先生が、


先生「おまえみたいな娘(こ)は地球へでも行ってしまえ!」


 とコメットさんをロケットに縛りつけて、地球へと追放してしまう様子が、作品の基本設定の紹介も兼ねて毎回のオープニング映像で描かれていた。こういう漫画チックでコミカルな映像で表現されていれば、マアジンがちょっとした「悪党」だったとしても、大丈夫だったのかもしれないが(笑)。


 300年も薄汚い「壷」の中に閉じこめられていたワリには、


「イヤでがすなぁ、このゴミ」


 などと街に散乱したゴミを嘆くくらいにはマアジンもモラリストではある。


 子供たちに街をきれいに掃除させて、そのご褒美として子供たちの願いをかなえてあげようという設定もまた面白い。


 後年の特撮作品でも隆盛を極めているエコロジー・テーマをもし仮に扱うのであれば、このように子供たちにも視覚的にわかりやすいかたちで描くべきだろう。


 ちなみに、ゴミの中にはコンビニエンス・ストア「セブンイレブン」のマークが入った「紙袋」があった! 当時はまだコンビニでもいわゆるビニールの「レジ袋」ではなく、こうした「紙袋」の方が主流だったっけかなぁ? ちなみに1980~81年当時、筆者の地元の三重県四日市市(よっかいちし)にはまだコンビニは一切存在しなかった(爆)。


(編註:日本でコンビニエンス・ストアが誕生したのは70年代前半のことである。そして、70年代中盤からすでに朝7時~夜11時まで営業する趣旨の「セブンイレブン」のテレビ・コーマシャルは散々に流されていたのだが、突如として雨後の竹の子のように急速に開店ラッシュとなって、しかも24時間営業となるのは、関東圏でも80年代後半になってからのことであった……)



 マアジンに願いをかなえてもらうために、淳たちは公園のゴミを片づけて、ミエは「新しい洋服」を、悟は当時まだ出始めたばかりの「デジタル腕時計」を願った。


 しかし、マアジンからミエにプレゼントされたのは、「お姫様のような白いドレス」! 悟にプレゼントされたのは「大きな柱時計」!


 やや時代感覚がズレていたり、明らかに間違ったかたちで願いをかなえてしまうのだ(笑)――あとできちんと「デジタル腕時計」を出し直すのだが――。


 これらの描写は単なるギャグとしての点描どまりの描写ではなく、のちにマアジンが大騒動を引き起こすことの伏線として立派に機能することとなる。



「ボクは“ラジカセ”と“自転車”と“ラジコン飛行機”と“マンガの本100冊”と“チョコレートパフェ”と“テストで100点とりたい”!」


 淳少年は矢継ぎ早に願いをまくしたてる!


 淳少年は常に満たされない不全感を胸の内に秘めている我々オタクの似姿でもある(爆)。ヒ弱な淳少年のキャラクターからして、外面はガツガツとしているようにはまったく見えないのに、その内面は少なくとも自分が好きなことに対しては貪欲(どんよく)である描写もなかなかにリアルだ(笑)。


 だが、マアジンの魔法は「願いごとはひとりにつき、ひとつしか叶えられない」のが原則であった!



 怪音波の探索で出動した、我らが主人公ことウルトラマンエイティである防衛組織・UGMの隊員である矢的猛(やまと・たけし)と、ウルトラ一族の王女さま・ユリアンこと星涼子(ほし・りょうこ)が搭乗するUGM専用車・スカウターS7(エスセブン)が接近してきたのを察知するやマアジンは、


「いや、大人には見つかりたくないデガス。大人はウソつきが多いデガスからね」


 と、淳少年の願いをかなえないままで、「壷」の中に姿を消してしまう!(笑)


 これもまた、番組のまだ序盤でマアジンの存在や正体が早くもバレてしまっては、あとはUGMとの攻防劇になってしまって、子供たちとの蜜月(みつげつ)の時間もそこで終わってしまうことを回避するための都合論ではある。ヒイてジラして引き延ばしていくこともドラマ一般では肝要なのだ(笑)。


 子供たちがマアジンに願いをかなえてもらうために、街中で掃除をすることが一大ブームとなった。


 そんな中で、パトロール中の矢的隊員と涼子隊員の眼前で、ひとりの少年が危険な場所に侵入して掃除を試みようとした末に落下してしまう!


 危うく少年を受けとめるのたが、その際に矢的隊員は足を負傷してしまった!


 涼子隊員は銃身が短い小型の白い銃のようなものを、矢的の足に向けて光線を当ててみせるが……


矢的「なんだい、それは?」
涼子「メディカルガンよ」
矢的「それは君の星(ウルトラの星)から持ってきたのかい?」
涼子「そう。これさえあれば、どんなケガでも病気でもヘッチャラよ」
矢的「だとしたら、もう使わない方がいいなぁ」
涼子「どうして?」
矢的「君は『郷に入れば郷に従え』って言葉を知っているかい?」
涼子「ええ。郷ひろみならテレビで見たけど」


 ♪ ア~チィ~チィ~、ア~チィ~、ってその「郷」と違うわいっ! 70~80年代の大人気アイドル・郷ひろみのことである(笑)。


矢的「(苦笑)わかってないなぁ。僕たちは今、地球で生活しているんだ。地球には地球のやり方があるってことだよ。さぁ、わかったら公園へ行こう」
涼子「ええ」


 やはりわかっていないような様子で考えこんでいる涼子。


 前話の第45話『バルタン星人の限りなきチャレンジ魂』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110327/p1)では、「バルタン星人」の存在と「児童ドラマ」の方を優先したのだろう、星涼子隊員の正体がウルトラ一族の王女さま・ユリアンゆえの世間知らずから来る超能力の発露で正体がバレそうになるお約束の「点描」はあっても、地球人との感覚のズレにともなう「懊悩」の心情描写まではなかった。


――ひょっとすると、シナリオ上では涼子はまだ登場しておらず、第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)で殉職したUGMの城野エミ(じょうの・えみ)隊員のままだった可能性もある(爆)――


 しかし本話では、第44話『激ファイト! 80 VS(エイティ 対) ウルトラセブン』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110226/p1)に続いて、地球で正体を隠して生きていくための術(すべ)をよくわかっていない涼子=ユリアンに対して、地球では正体を隠して人間に合わせた生き方をすることを諭(さと)していく矢的=ウルトラマンエイティの姿が描かれている。
 『80』終盤の「ユリアン編」独自の特徴となるシリーズ・イン・シリーズのドラマをここで描けているばかりでなく、これまた本作の最終回近辺でのクライマックスへの伏線としての重要な役割を担(にな)っているのである。


 ただこのメディカルガンは、第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』において城野エミ隊員が殉職した際にも、涼子は看病で使用したのであろうか?(笑)



石田えりさんが殉職して、私がUGMに入ったあとで、メディカルガンというのを出してきた回があったんですよ。「このガンさえあれば、どんなケガでも病気でもへっちゃらよ」みたいなことを、私は言いきっているんですね。じゃあ石田えりさんが亡くなった時、なぜそれを出さなかったのかと(笑)。あとでファンの方からもつっこまれましたよ(笑)。この回はまた東絛監督で、ゲスト主役の男の子がすごく怒鳴られてかわいそうで(笑)。こっちはこっちでスキーをするシーンもあって、(矢的猛役の)長谷川(初範)さんはスイスイできるんですけど、私は基本のボーゲンしかできなくて。うまく止まれなくて、もう顔なんかひきつってました」

(『君はウルトラマンエイティを愛しているか』星涼子役/萩原佐代子(はぎわら・さよこ)インタビュー)



 社会派の東絛監督が昭和のオヤジ的なドナりまくる演出をしていて、しかもダミ声だから何を云っているのかわからなくて、監督の意図を推測して演じていたという証言は、東映スーパー戦隊シリーズの出演者インタビューでも散見される(笑)。子役に対しても、同様にドナっていたという行為はどうかとも思うけど(汗)。


 それはさておき、メディカルガンを第43話ではなぜ使わなかったのか?


 これはキツいところを突いてくる質問である。『80』という作品の根幹や、「ユリアン編」の屋台骨にも関わりかねない問題でもある。このような疑問をいだく御仁はややイジワルともいえる。しかし、それだけ作品のことを深くよく真剣に観ているのだともいえるのだ。
 ただし、その疑問をスタッフに対してではなく、シナリオに沿って演じているだけの役者さんに対してブツけるのには疑問だけど(笑)。


「あらゆる手を尽くしたけれど、ダメだったわ」


 第43話で侵略星人ガルタン大王を倒し、矢的が真っ先にエミのもとに駆けつけた際、涼子はそう語っていた。


 よって後付けだが、そこまでイジワルに見抜けてしまえる御仁たちであれば、さらにもっと論理の射程を伸ばして、映像化はされなかったものの、その「あらゆる手」の中にはきっとメディカルガンも含まれていたのだ! などともっと好意的に深読みしてみせてもよいのではなかろうか!?(笑)



正男「オメエら、いいもん持ってんじゃねぇか! その壷よこせよ!」


 マアジンの出現で再度、怪音波が発信されたことにより、矢的と涼子が向かう。


 ここで本エピソードのお題・課題であるウルトラシリーズの大人気怪獣・レッドキングをそろそろ尺のバランス的にも登場させなければならない。しかし、都市破壊を繰り広げる危険なレッドキングを召喚する役目は、この善良なるメインゲスト子役である兄妹たちには似つかわしくはないだろう。そこで先のイジメっ子たちに登場をお出ましを願うのだ(笑)。


 よって、公園で淳少年は正男たちに「壷」を奪われてしまうのだ! 必死に抵抗した淳少年であったが、


ヨッコ「お兄ちゃん、ケンカしたら負けるよ」


 という、ヨッコの実に冷静な説得はあまりにも大きかったのだ(笑)。



 淳から「壷」を強奪した正男たち3人の悪ガキは、とあるビルの屋上に登って、それぞれの願望を告白する。


正男「オレ、前からホンモノそっくりに動く、怪獣のオモチャがほしかったんだ!」


 ……それだったらオジサンは今でもほしいぞ(笑)。


正男の友人A「だったらオレ、エレキングがいいなぁ……」


 『ウルトラセブン』(67年)第3話『湖のひみつ』より、木曽谷(きぞだに)の吾妻湖(あづまこ)から出現した宇宙怪獣エレキングの姿がバンクフィルムで映し出される!


 ただし、本話でもオリジナルの鳴き声はかぶらず、前話である第44話『激ファイト! 80VSウルトラセブン』におけるウルトラセブンの紹介シーンと同様で、エレキングの鳴き声は『ウルトラマンタロウ』第28話『怪獣エレキング満月に吼(ほ)える!』に登場した月光怪獣・再生エレキングのものを使用していた(笑)。


正男の友人B「それよりさぁ。オレ、ウーがいいなぁ……」


 初代『ウルトラマン』第30話『まぼろしの雪山』より、飯田山(いいだやま)に出現して、「雪ん子」と呼ばれて村人たちから忌(い)み嫌われていた少女ユキに手を差しのべる伝説怪獣ウーの登場シーンが流される。
 こちらの流用映像にかぶるウーの鳴き声は、『ウルトラマン80』が放映されていた1980年前後のジャンル作品としては珍しく、きちんと過去シリーズでの初登場時と同じ鳴き声を使用している!


 オリジナルの怪獣の鳴き声が使用されないのは、なぜなのか? それは第1期ウルトラシリーズの音入れを担当していた東宝系の「キヌタ・ラボラトリー」がこの時点ですでに解散していたからだろう――厳密には73年に会社名を変更して機材専用会社となる――。
 基本的に「効果音」の類いは製作会社ではなく録音スタジオを経営する会社の所有物なのである。よって、録音スタジオが異なれば、同一シリーズでも流用は困難となる。
 同じ録音スタジオが担当していても、原典の作品が古いがために、それらの「効果音」が散逸してしまったり、倉庫のどこにあるのか誰にもわからなかったりして発掘しきれなければ、やはり流用は困難となってしまうことだろう。


 もちろん、録音スタジオ間でも効果音テープを有償無償で貸し借りするようなことも少しはあったことだろう。


 しかし、当時の長命シリーズ作品で過去作のオリジナルの怪獣の鳴き声が正しく使用されている場合は、原盤テープからではなく製作会社の所有物であるテレビ放映用のフィルムとセットになっている「MEテープ」――セリフ抜きの「MUSIC(BGM)&EFECT(効果音)専用の音声テープ――から、該当する怪獣の正しい鳴き声だけをダビングして、再音源化していたのだとも推測できる――今だと著作権法的にはグレーな行為だけど(汗)――。


 90年代以降のウルトラマンのアトラクションショーや新作シリーズにおいては、往年の人気怪獣が再登場する際には、原典と同じ正しい鳴き声が使用されている。これなども、この「MEテープ」、あるいは往時のレーザーディスクには必ず収録されていた「MEテープのみの音声」からの再音源化ではないかと思われるのだが……。




 しかし、怪獣エレキングに怪獣ウー。……ウ~ム、キミら少年たちの好みにケチをつける気はないが、キミたちは当時の第1期ウルトラシリーズ至上主義者の兄ちゃんたちに毒されているのではないのか!?


 この劇中の少年たちによる、第1期ウルトラシリーズの人気怪獣偏重は、当時の子供たちの「ウルトラ怪獣」に対する好みを正当に反映したものだったのだろうか?


 ちなみに、さらに後年の1988年12月26日(月)から30日(金)までの冬休み期間中の5日間、TBSローカルで朝10時からの90分枠の特番で、『おまたせ! 一挙大公開ウルトラマン大全集』なる番組が放送されたことがあった――筆者の出身地である中部地区でも少し遅れて放送されていた――。
 内容は連日、初代『ウルトラマン』から傑作選を2話ずつ放映して、最後にウルトラ兄弟の紹介や主題歌集などの企画モノとして構成されていた。


――この番組の「演出」は、『80』では第43話と第44話の特撮監督だった神澤信一(かみざわ・しんいち)。「ナレーション」を務めたのは、初代『マン』で科学特捜隊のムラマツキャップ(キャップ)を演じた故・小林昭二(こばやし・あきじ)であった!――


 その中の『ウルトラ怪獣ベストテン』という企画は、市井(しせい)の人々に最も好きなウルトラ怪獣を挙げてもらうというものであった。


 それで、保育園だか幼稚園に赴いて、そこの園児たち多数にインタビューした映像が流されたところ……


 驚くなかれ! 当時の第1期ウルトラシリーズ至上主義者たちには忌み嫌われていた「合体怪獣」という存在や「第2期ウルトラシリーズの怪獣」にして、『ウルトラマンタロウ』第40話『ウルトラ兄弟を超えてゆけ!』に登場していた、ウルトラシリーズの強敵怪獣たちの亡霊が「合体」したという設定の「暴君怪獣タイラント」を挙げた幼児が圧倒的多数だったのだ!


 この1988年度は、テレビ東京で平日夕方18時25分から放映されていた帯番組『ウルトラ怪獣大百科』が放映されていた年でもある。この番組でも7月20日(水)にタイラントが紹介されたことがあったので、その印象が鮮烈だったのだろうか? それとも園内の図書の中に『怪獣図鑑』などの書籍があって、そこに強敵怪獣として記述されていたことが「刷り込み」されていたのだろうか?(笑)


・竜巻怪獣シーゴラス
・異次元宇宙人イカルス星人
・宇宙大怪獣ベムスター
・殺し屋超獣バラバ
・液汁超獣ハンザギラン
・どくろ怪獣レッドキング
・大蟹超獣キングクラブ


 歴代ウルトラ怪獣の怨霊たちが合体、各々の部位が体表を彩(いろど)った意匠(いしょう)を持ち合わせて、ウルトラ5兄弟をもひとりずつ倒していく! といった戦歴を持った強敵怪獣!


 第1世代の特撮マニアたちが神格視してきた第1期ウルトラシリーズのデザイナー・成田亨(なりた・とおる)氏は、古代ギリシャ神話におけるライオン・ヤギ・毒蛇が合体した怪物キメラ(キマイラ)のような「合体怪獣」という存在を、後年の自著では怪獣デザインにおける「禁じ手」として否定的に語っていた。そして、そのことから、成田信者たちはその口マネをして、タイラントのような「合体怪獣」の存在は邪道であり低劣な存在であるとして罵倒的に語ってきたのだった(汗)。


 科学的にはまるで合理的ではないけど、オカルト的にはアリエそうではある、怪獣の怨念・怨霊が集積して誕生したという出自設定。その体表にそれらの怪獣の特徴的な意匠が浮かび上がったようなキャラクター。
 そういったキャラクターに対して我々もまた不思議と、各々の怪獣の霊的かつ物理的なパワーもやどっており、通常の怪獣の数倍もの強さがあるようにも感じられてきてしまうものだ!(笑)


 こういった感慨は、未開の原始人の「呪術的な感性」ではある。しかし、人間そのものに本能的に備わっている普遍的な情動ではあるのだろう。


 当の子供たちも、そして全員とはいわずとも多くの特撮マニアたちが、タイラントなどの合体怪獣にいだいてしまうような畏怖(いふ)の感慨。それはそんなところに理由があるのではなかろうか? 事実、近年のウルトラシリーズにかぎらない特撮変身ヒーロー作品にも、あまたの合体怪獣たちが登場しつづけてもいる。実に喜ばしいことである(笑)。


 このように後出しジャンケンでエラそうに語っている筆者であるが、『80』放映当時はすでに中学2年生であり当時、創刊されはじめたマニア向け書籍に実はすっかり洗脳されており(汗)、「ウルトラ怪獣といえば第1期ウルトラに登場したヤツらが最高であり、第2期ウルトラの怪獣などはカスである!」と思いこんでいた時期があるので、決して無罪ではないのだが(爆)。


 しかし、1970年代末期~1980年の第3次怪獣ブームであった当時、たとえばケイブンシャの児童向け文庫本『ウルトラマン大百科』(78年8月10日発行)や、小学館の幼児誌『てれびくん』・児童漫画誌コロコロコミック』・学年誌のカラーグラビア記事などでは、全ウルトラシリーズが第1期や第2期の区別などはまるでなく、均等・平等に扱われてはいたものだ。


 それらの書籍をむさぼり読んでいた当時の子供たちの間では、もちろんそれぞれに好みはわかれただろうが、少なくとも金科玉条的な第1期ウルトラシリーズ至上主義に陥(おちい)っていた者は、マニア予備軍の小賢しいガキを除けば(笑)、ほとんどいなかったハズである。


 だから、正男の友人たちがそろって第1期ウルトラシリーズの怪獣ばかりを挙げるというのはどうにもなぁ(笑)。まぁ、このへんは脚本の平野氏の世代的な好みか、第1期ウルトラ至上主義者たちによるマニア向け書籍の影響を中途半端に受けてしまった円谷プロ側のプロデューサー・円谷のぼる社長や満田かずほ側からの平野へのオーダーだったのだろう!?




正男「エレキングもウーもイマイチだよ。それよりさぁ、レッドキング。これが一番さ!」


 おい、正男! おまえも第1期ウルトラシリーズ至上主義者か!?(笑)


 空き地の近くにあるビルの屋上で、呪文を唱えてマアジンを呼び寄せた正男は、ホンモノそっくりのレッドキングを出現させてくれることを願った。


 街中の子供たちの願いを叶えて、すっかり疲れきっていたマアジンは、


レッドキング、出てこ~い。……ホンじゃ」


 と、投げやりに召喚の言葉を唱えるや…… 即座に「壷」へと戻ってしまった!(笑)


 まさに本話の脚本を担当していた平野氏の、本話に対する証言に匹敵するほどの「やる気のなさ」である(爆)。しかし、だからこそ、レッドキングが唐突ではあっても登場してくれて、その大暴れが見られるのであった(笑)。



 ……などと書きつつ、実は映像本編ではホンモノそっくりのレッドキングがなかなか現れてはこない(汗)。


 シビレを切らした正男は「壷」の中をのぞきこんで、


「オイ! レッドキングはどうしたんだよ!?」


 と催促する。「壷」の内側からの主観映像で、画面中央上方の穴の外から覗(のぞ)きこんでいる正男の顔を映している構図は、お約束なアリガチな映像なのだが、映像演出の基本を押さえることもまた大事なのである。このシーンであまりに意味がない、ヘンに凝ったシュールな映像を見せられても意味がないだろう(笑)。


 しかし、その映像に、


「ピィ、ガァァァァ~ ウゥゥゥゥ~ッ!!!」(擬音にするとこんな感じか?・笑)


 というレッドキングの鳴き声がカブってくる!!


 いつの間にか、近くのビルの横の空き地にレッドドキングが出現していたのだ!!


 この登場シーンでは、ちょっとハグらかしてワンクッションを置いてみせる、フェイント攻撃な変化球の展開が試みられていたのだ。


 そして、レッドキングの足から頭へと全身を映していき、正男たちが


「ホンモノだぁ~!!」


 と腰を抜かすというシークエンスのあたりはアリガチでベタな演出なのだが、逆にむしろ「こうあってしかるべき!」だといったコテコテへと変転を遂げていく演出もまたタマらない(笑)。


 相応の高さのビルの屋上にいる正男たちを、ニラミつけてくるレッドキングの首から上を、実景と合成した魅惑的な特撮カット!
 ニラみつけてくるレッドキングの顔面と、怯える正男たちをワンカットに収めてみたい! という、おそらく特撮演出側の都合論(笑)で、ビルの屋上をロケ地にしてレッドキングを召喚してみせたといったところなのかもしれない!?


・ミニチュアのビルを破壊するレッドキングの右横に、ビルの非常階段を駆け降りていく正男たちを合成した特撮カット!
・さらにはススキ一面の原っぱと、画面の手前にいる矢的隊員と涼子隊員のもとに駆けてくる正男たちの画面の上方には、ミニチュアセットで暴れ回っているレッドキングを合成!


 と、畳みかけるような合成カットの連続が、どこまで行っても合成ではあり「実物」には見えないものの(笑)、特撮作品における「本編」と「特撮」の両者を架橋してくれる醍醐味でもある!


 しかも、ススキ一面の原っぱのカットは、単純に画面の上の方が特撮ミニチュアセットで、画面の下の方を実景として、地平線の上下でスパッと分かれているような簡単な合成カットではない。
 画面の右上には実景の倉庫が配されており、そのすぐ後ろにはミニチュアのマンション風の建物が見えるようになっている。さらによく見てみると、レッドキングの足元を隠すようにその手前にまた実景がハメこまれているといった、実に芸コマな合成カットなのである!


 矢的と涼子は、UGMの光線銃・ライザーガンでレッドキングへの攻撃をはじめる!



 その間にも「壷」を奪いあっていた淳少年と正男だったが……


 ナンと! ハズみで「壷」が地面に落下して、割れてしまう!!


 もうマアジンを呼び出してレッドキングを消してもらうような、生ヌルいマイルドなオチへの出口はふさがれてしまったのだ! あとはウルトラマンと壮絶に戦って、レッドキングを退治してもらうしかなくなってしまったのだ!(笑)


 子供たちを安全な場所へと逃がそうとする涼子であったが、逃げ遅れたヨッコに巨大なレッドキングが迫ってくる!


 屋外での「自然光」のオープン撮影でのあおりで撮られたレッドキングの全身カット!


 シンプルでアリガチな手法ながらも、やはり屋内の特撮スタジオでの「照明器具」で擬似的に「白昼」を再現した場合の陰影とはまるで異なっている!


 屋外の実際の「空」を背景にした撮影は、スタジオ撮影した部分との違和感は発生してしまうものの、怪獣の巨大感・実在感・奥行き感を実に的確に表現できる演出なのだ!



 この特撮カットでは、本話に登場した通称・レッドキング3代目の体色が、初代『マン』第8話『怪獣無法地帯』に登場したレッドキング初代の白に近い黄色ではなく、第25話『怪彗星ツイフォン』に登場したレッドキング2代目のようなやや金色が混じった体色にも見えるようだ。
 正男の前にはじめて姿を現したときの全身カットでは、体表全身のジャバラ(蛇腹)模様の部分に、初代と同様に地の黄色の上を青で細くウスく彩色がされていることも確認ができる。



――レッドキングといえばウルトラ怪獣の代名詞ですが、これを作られたということで感慨などありましたか?
「嬉しかったのと、ちょうどこの時期、原口智生(はらぐち・ともお)くんを介して、初代のレッドキングを作った(故)高山良策(たかやま・りょうさく)さんとおつきあいさせて頂くようになって。昔のお話を聞かせて頂いたりとか、一緒に食事をさせて頂いたんです。そのタイミングにほぼ偶然『80』でレッドキングを作ったので、感慨深かったですね。高山さんにレッドキングを作ることになったとお話したら、「がんばりなさい」と言われて、そんなこともあって気持ち的にもかなり入れこんで作りました」

(『君はウルトラマン80を愛しているか』造形/若狭新一(わかさ・しんいち)インタビュー)



・『ウルトラマンマックス』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060311/p1)第5話『出現、怪獣島!』~第6話『爆撃、5秒前!』の前後編と、第36話『イジゲンセカイ』
・『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)第42話『旧友の来訪』
・『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』(07年)第1話『怪獣無法惑星』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080427/p1)・第7話『怪獣を呼ぶ石』・第11話『ウルトラマン
・『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル NEVER ENDING ODYSSEY(ネバー・エンディング・オデッセイ)』(08年)第10話『新たな戦いの地平で』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100312/p1)と、第12話『グランデの挑戦』~第13話(最終回)『惑星崩壊』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100331/p1


 21世紀に入ってからの近年のウルトラシリーズでは、ひんぱんに再登場を繰り返すようになったレッドキング。それらの中で使用されてきたレッドキングの着ぐるみは、初登場作品である初代『マン』第8話『怪獣無法地帯』に登場した初代レッドキングを完璧なまでに実に忠実に再現した、まさにレプリカといっても過言ではないほどの見事な出来映えではあった。


 近年のそれらと比較してしまうと、本話に登場したレッドキング3代目の着ぐるみは、今日的な観点で厳密に見れば、それほど初代のレッドキングとは似てはいない。


 眼球が異様に大きかった初代と比べて、白目の部分も明確に造形されている眼球はむしろ2代目を思わせるものである。全身のジャバラも黄色と青で塗装されているとはいえ、ロング(引き)の映像で見ると、全体的には茶褐色にも見えることで、これもまた2代目の特徴である。
 頭部の先端もややトガりすぎているように感じられる。何よりも首の部分が実に固そうで、微動だにしなさそうなあたりなどは、初代や2代目と比すると生物としては不自然な感じもしてきてしまう(笑)。


――レッドキング2代目は、一般ピープルには初代との区別が当然つかないだろうが、クチうるさい特撮マニア諸氏にはやや金色といったイメージが強いかとは思う。しかし、山岳を切り崩して初代『マン』の防衛組織であった科学特捜隊の前にはじめて姿を現した場面では、どちらかといえば茶褐色で塗装されているようにも見えてくる色彩でもあった!――


 だがそれでも、造形面に対するこだわりを見せはじめていた当時の年長の特撮マニアたちの厳しい視点で見てみても――といっても、この当時の特撮マニアの上限はまだ25歳くらいなのだが(笑)――、レッドキング3代目はそれまでのウルトラシリーズに登場してきた、着ぐるみを新造した復活怪獣たちの中でも、初代の着ぐるみの造形を忠実に復元しようとした存在だとして、ダントツの人気を誇っていたのだ。


 本話のレッドキングは、正男が「ホンモノそっくりのレッドキングがほしい」と願ったことで、マアジンが誤って「ホンモノのレッドキング」(笑)を出現させてしまったという設定であった。


 ただし、どこかヨソの南洋の土地から瞬間移動されてきた「ホンモノ」ではなくて、正男の頭の中でイメージされたレッドキングを実体化させたものだろう。よって、当然のことながら、正男の頭の中ではレッドキングの初代と2代目の印象がごっちゃになっていたことだろう。だから、このレッドキング3代目が初代と2代目のチャンポンであったのは、まさに正しかったのである!?――造形担当者が本話の意図をそこまで汲んで表現していたのかは別として(笑)――


ウルトラ怪獣たちの「2代目」「3代目」「再生」「改造」といった区別の始原はいつなのか!?


 現在では考えられないことだが、マニア上がり出身のライターたちが関わった商業誌が多数出版されるようになる1978~79年の第3次怪獣ブームより以前の、70年代中盤までに発行された怪獣図鑑や少年向け雑誌の怪獣特集などの出版物においては、レッドキングや宇宙忍者バルタン星人など複数回にわたって登場して、登場話数によっては明らかに着ぐるみが別ものである怪獣や宇宙人でも、「初代」「2代目」などと明確に区別されることなどはまったくなかった。


 1970年代に子供向けの一連の文庫本サイズのブ厚い『大百科』シリーズで当時の小学生たちの注目を集めていた、今は亡きケイブンシャ勁文社)から1971年末に発売されて、100万部を超える大ベストセラーとなった『原色怪獣怪人大百科』。この『原色怪獣怪人大百科』においても、レッドキングは2代目の写真だけが、バルタン星人は初代の写真だけが掲載されたのみであったのだ。


――かの第1世代の特撮評論家・竹内博(たけうち・ひろし)が、小中学生時代に円谷作品のみならず、東宝東映などの特撮映画に登場した怪獣たちをも百科事典形式にノートにまとめた「ゴールデンモンスター」なる資料が、『原色怪獣怪人大百科』の基となったそうだ――


 もっとも、初代『マン』第16話『科特隊宇宙へ』に登場したバルタン星人2代目などは、商品化権用の三面写真や雑誌掲載用のスチールなどが一切撮影されていなかったそうで、仮に掲載したいと思っていたとしても掲載のしようがなかったようである。
 円谷プロの社員でもあった特撮ライター・竹内博先生が、放映用フィルムのコマ焼きから、バルタン星人2代目などのポジフィルムやネガフィルムを逆につくって、ようやくその写真が書籍に掲載できるようになったのは、70年代末期の第3次怪獣ブーム以降のことだった。



 ところで、この『原色怪獣怪人大百科』は厳密には「書籍」ではなく、両面に16種の怪獣怪人を紹介した折込みのシートを24枚セットにした形式であった。しかし、怪獣映画の元祖『ゴジラ』(54年・東宝)に端を発して、当時の最新作『ミラーマン』(71年・円谷プロ フジテレビ)第1話『ミラーマン誕生』に登場した鋼鉄竜アイアンに至るまでの、製作会社の垣根(かきね)を越えて全370体もの怪獣・怪人・ヒーローが紹介されていた、当時としては実に画期的な出版物ではあったのだ。
 1972年末には第2巻、73年末には第3巻も発行されたが、74年末に先述した文庫本サイズの子供向け『大百科』シリーズの第1巻『全怪獣怪人大百科』として再構成されて、以降は翌年の新作に登場した怪獣・怪人を増補するかたちで「昭和〇〇年版」が発行されていき、1984年末に発行された「昭和60年版」まで毎年刊行され続けた大ロングセラーにもなっていく。


 しかし、あの竹内氏も1971年当時の時点では、マニアだから内心ではレッドキングやバルタン星人を初代・2代目などと区別する意識がきっとあったのだろうが、それを子供相手の商業誌でも展開するというところまでは踏み込めなかったのかもしれない。
 もちろん71年当時は、年長マニアによるサロンなどもない、ほぼ子供たちだけがジャンル作品を観ている時代であったから、顔面のマスクの形状や材質までもが異なる初代ウルトラマンのA・B・Cの3種類のマスクの区別さえもが、まだ一切されていないような時代ではあったのだが(笑)。


 70年代前半の第2期ウルトラシリーズの掲載権を独占していた小学館でさえも例外ではない。『帰ってきたウルトラマン』(71年)の放映当時に発行されて、90年代初めまで刊行され続けたロングセラーである子供向けハードカバー書籍『入門百科』シリーズの『ウルトラ怪獣入門』なども同様であった。
 『ウルトラセブン』第4話『マックス号応答せよ』に登場した反重力宇宙人ゴドラ星人や、第10話『怪しい隣人』に登場した異次元宇宙人イカルス星人は、平日夕方の5分番組『ウルトラファイト』(70年)の方に登場した、ヨレヨレのクタクタになった「ゴドラ」や、アトラクション用に新規に製作された「イカルス」の着ぐるみの写真で紹介されていたのだ。
――ちなみに、『ウルトラファイト』に登場する宇宙人たちは、「星人」名抜きでの「ゴドラ」や「イカルス」といった名称で実況中継されていた。、後年のマニア向け書籍でも、『ファイト』に登場した宇宙人たちを紹介する際にはそれを踏襲している(笑)――


 学年誌のさまざまなカラーグラビア企画に登場する際にもバルタン星人は、初代ではなく『ウルトラファイト』に登場したバルタンや、『帰ってきたウルトラマン』第41話『バルタン星人Jr(ジュニア)の復讐』に登場したバルタン星人ジュニアの写真が平気で使われていたものだ。
 初代『マン』第39話(最終回)『さらばウルトラマン』に登場した宇宙恐竜ゼットンも、初代の写真ではなく、『帰ってきた』第51話(最終回)『ウルトラ5つの誓い』に登場したゼットン2代目の写真で代用されることが多かったのであった。


 もっとも、これらの第1期ウルトラシリーズに登場した怪獣たちの写真は、1960年代後半の第1期ウルトラシリーズの掲載権を独占していた講談社側で大量に持っており、小学館側では第1期ウルトラに登場した怪獣たちのスチール写真をほとんど持っていなかったゆえの処置でもあった。だが、そんなことがまかり通ってしまうほどに、当時はおおらかな時代だったのである。


 そうした中で幼年期を過ごした者たちにとっては、家庭用ビデオなどもまだなく映像本編を度々反芻(はんすう)できるわけではなかったから、たまたま手近でふれた出版物の違いによって、怪獣たちに対するイメージも各人各様のものが形成されていった。


 バルタン星人といっても即座に初代をイメージしたワケではなく、『ファイト』版やバルタン星人ジュニアの方をイメージしていた者も相応にはいただろう(笑)。


 レッドキングの方は、2代目は初代の着ぐるみが第19話『悪魔はふたたび』に登場した発泡怪獣アボラスとして頭だけをスゲ変えた色替えとして改造されたあとに、また元のレッドキングの姿に戻されただけの着ぐるみであり、ほぼ同一の姿であったことから、バルタン星人やゼットンのようには個々人のイメージのバラつきはなかっただろうが。



 まったくの余談だが、2011年4月8日8時15分にNHK総合で放送された平日朝のワイドショー番組『あさイチ』にゲスト出演した俳優の村上弘明(むらかみ・ひろあき)に対して、視聴者たちから寄せられたFAXの中には、


「幼いころに夢中になっていた『(新)仮面ライダー』(79年)の主役の人が、村上さんだったなんて今まで全然気付きませんでした」


 などという、我々特撮マニアにとっては思わず仰天してしまうような意見もあった。一般層というのはやはりそんなものなのであることを、我々マニアは忘れてはいけないと思うのだ(笑)。


 そのようなワケで、本話で登場したレッドキング3代目は、当時の人々が思い描いていたレッドキングに対するイメージの最大公約数を満たしたかたちでは造形されている。しかし、書籍『君はウルトラマン80を愛しているか』で述べられていたような初代レッドキングの再現モデルであったかについては、今日的な後出しジャンケンの観点からは少々異なっているところもある――後年の若狭氏であれば、少なくとも目の部分は眼球を大きく造形したかとも思えるし――。


 たとえて云うならば、バンダイから発売中のソフビ人形『ウルトラ怪獣シリーズ』のレッドキングの顛末である。西暦2000年に金型が一新されて以降は、初代の「造形」と「彩色」を再現したかたちで発売され続けている。
 しかし、1983年に初発売された当初は、「造形」自体は初代を模したものではあったものの、「整形色」の方は「茶色」で、スプレーによる塗装は「金色」と、2代目としての「彩色」であって、初代と2代目が混合された姿として造形されていたのだ。


 もちろん、現在では年季の入った特撮マニアであれば、レッドキングといえば「初代派」もいれば「2代目派」もいて、両者の区別を付けられるマニアも相応にいることだろう。しかし、当時の草創期のマニアたちの欲求を満足させるという観点では、本話のレッドキング3代目も相応に充分な仕上がりとなっていたのだ。


 さらに個人的な見解に云わせてもらえば、多少いびつな感もあるレッドキング初代の全身のスタイルに比べれば、本話のレッドキング3代目の方がスタイルはよいように思う。
 正面から見た顔面の姿も、先述の『原色怪獣怪人大百科』をはじめとして、当時の怪獣図鑑レッドキングを紹介する際には必ずといってよいほどに用いられていた「恐竜とキングコングの合いの子」というフレーズがまさにぴったりなのである。
 その凶暴な面構えなどは初代をはるかに陵駕していると云っても過言ではないほどなのだ――筆者からすると、初代の顔はややカワイめかと思えるので(笑)――


 とはいえ、それゆえに本話のレッドキング3代目を過剰に高く評価して、それまでに登場してきたウルトラ怪獣や宇宙人たちの2代目や3代目たちを、造形のショボさゆえに完全否定をするようなマニア諸氏の意見には同意しない。アレらはアレらで味があるのだ(笑)。


ウルトラマンタロウ』の人気怪獣・復活月間と、学年誌での連動記事の画期性!


 小学館『小学三年生』73年12月号(11月3日頃実売)に掲載されていたカラーグラビア『ウルトラひみつ大作戦 帰ってきた最強怪獣』では、『ウルトラマンタロウ』における10月放映分の第3クール頭の歴代怪獣・復活月間であった、


メフィラス星人2代目が登場した、第27話『出た! メフィラス星人だ!』
・再生エレキングが登場した、第28話『怪獣エレキング満月に吠える!』
・改造ベムスターと改造ヤプールが登場した、第29話『ベムスター復活! タロウ絶体絶命!』
・改造ベムスターと改造ヤプールと改造サボテンダーと改造ベロクロン二世が登場した、第30話『逆襲! 怪獣軍団』


 これらに登場した再生怪獣・改造超獣・2代目宇宙人登場編の大特集となっていた。


 そこでは「怪獣軍団ひみつ作戦会議」で選抜された最強怪獣たちの、「初代」と「2代目」の違いが図解で解説されていたものだ。


 先述した再生エレキングのツノが初代と比べて回転しなくなったのは、


「(変身怪人)ピット星人の指令を受けなくてもいいからだ」


 そうであり(笑)、


「まえのエレキングはしっぽが長すぎたので、少し短くして動きやすくした」


 という後付けの設定には、妙に合理的な説得力が感じられる(笑)。


 ただその一方で、


「性能はよくなったが、ピット星人があやつらないので本当はだめになった」


 っていうのは、意味わかんねぇぞ~っ!(笑)


 異次元超人・改造巨大ヤプールに関しては、


ヤプールは、ウルトラマンA(エース)にさんざんやられたため、顔と頭がめちゃめちゃにこわされた。そこで、せい形手術で直した」


 ……のだそうである。初代というか同一個体の改造前と比べて、顔面と頭がかなり歪んでいることに、顔面にエースの光線の直撃を浴びたことがあったという劇中内での事実をきちんと踏襲しており、それに対する「整形手術」をしたという理由をつけたのである(笑)。


「やられた顔(額)のところは、とくべつな銀色の金ぞくをうえつけた。だが、Aとのたたかいで悪くなった頭はなおらなかった」


 ……「悪くなった頭は直らなかった」(爆)。いま読み返すと爆笑してしまうのだが、当時のいたいけな子供たちは、改造ヤプールがやや弱かったりアッサリと負けてしまった理由を、こういった一応の合理的な説明で「へぇ~、そうなんだ!」と納得していたのであったのだ(笑)。


 ちなみにレッドキングも、「怪獣軍団ひみつ作戦会議」で選抜される最強怪獣の候補にあがっていたそうだが、「頭がよくないから」という理由で外されたそうな(笑)。ちなみに宇宙ロボット・キングジョーは、策略星人ペダン星人に「つくるのに3年かかる」と云われてアキラめたらしい(爆)。


 いやぁ、ナンとも児童レベルでの知的好奇心(笑)をそそられる、実際の作品のバックヤードで繰り広げられていたというウラ側での物語の数々!


 単なる善VS悪との1話完結ルーティンのマンネリなド突き合いだけであれば、子供たちも飽きてきて次第に予定調和がバカバカしくなってしまい、それによって子供番組からの卒業も早まってしまうものである。だから、単純な1話完結だけが続いてしまう「つくり」だけでもイケナイのだ。


 しかし、各エピソードのウラ側に、中長期にわたって準備されてきた、悪い宇宙人たちによる2代目・再生・改造怪獣たちを繰り出してみせる地球侵略計画があったのだ! といったウラ設定を付与されるや、あら不思議! 作品はとたんに「地上での単発的な戦い」と「宇宙での長期的な攻防戦」といった「二重性」や適度な「複雑性」を帯びてくる。
 物語のスケールも「宇宙規模」に拡大していき、繰り返すけど、大人レベルではなく子供レベル(笑)でのワクワクとさせる「知的好奇心」を惹起して、子供たちの興味関心をより長期にわたって継続させていくものとなっていくのだ!


 このあたりはもちろん、円谷プロ側やTBS側が考案した設定ではない。あくまでも、小学館学年誌の編集者たちによる後付け設定の功績なのである。しかし、その功績は非常に大なるものがあるのだ。彼ら学年誌の編集者たちがウルトラシリーズスペースオペラ的な「SF」性を拡大していったこともまた、間違いがないところでもあるからだ。
――もちろん、それらは「ハイSF」ではなく「ロウSF」ではある。しかし、それを云うならば、かの『スター・ウォーズ』(77年・日本公開78年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200105/p1)だってドンパチ・戦闘モノである以上は、アシモフやクラーク作品などと比較すれば「ロウSF」なのである(笑)――


 ちなみにこの学年誌の企画には、その後の第3次怪獣ブーム時代には同じく小学館の『てれびくん』や『コロコロコミック』でウルトラシリーズの特集記事を担当していた安井ひさしが「協力」としてクレジットされている。
 氏が関わるようになったころから、こうした怪獣たちの種族内での「2代目」「3代目」などの違いが明確にされるようになっていったようでもある。やがて、70年代末期の第3次怪獣ブームの時代においては、各種の書籍でも「2代目」「3代目」などと表記される「公式設定」へと昇華されていくのだ。


 とはいえそれでも、第3次怪獣ブームの以前には、『ウルトラセブン』第48~49話(最終回)『史上最大の侵略』に登場したウルトラセブンそっくりの、シナリオ上では「M78星雲人」とされていたキャラクターなどは、この小学館学年誌でさえまだ紹介されてはいなかった。その欠落を安井ひさしとともに活躍していた後年の編集者にして特撮ライター・金田益美(かねだ・ますみ)が指摘したことによって、第3次怪獣ブーム以降の書籍には「セブン上司」が掲載されるようになったのだそうだ。


 『てれびくん』1981年2~4月号に連載されていた居村眞二(いむら・しんじ)先生による『ウルトラマン80』コミカライズの最終章は、バルタン星人軍団VSウルトラ一族の大攻防戦を描く『ウルトラマン80 宇宙大戦争』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110107/p1)という連続ストーリーとなっていた。そして、この作品には早くもそうした2代目・3代目を識別していく「運動」の総決算的な趣もあった。この作品では、バルタン星人一族たちの各個体を、初代・2代目・ジュニア・5代目・『ウルトラファイト』版のバルタンのビジュアルで描き分けてもいたからだ!



「居村先生にウルトラシリーズのコミカライズをお願いする際、私はTV用脚本を簡略化したシノプシスを書いてお渡ししていました。大抵は脚本を作画家に渡し全てお任せすることが多いのですが、TVの脚本にはまんがになりにくい場面が少なくなく、アレンジを加えざるをえなかったのです。それが高じて『ウルトラ超伝説』第1部(引用者註:『てれびくん』81年5月号~86年3月号に長期連載されたウルトラ漫画)になると全編私のオリジナルということになります」

(『ウルトラマン80 宇宙大戦争 /ザ★ウルトラマンウルトラセブン』(居村眞二ミリオン出版・04年11月16日発行・ISBN:4813020089)『アンヌへの憧憬で生まれた「三百年間の復讐」』安井尚武)



 おそらく安井ひさし先生のシノプシス自体に、バルタン星人初代・2代目・ジュニア・5代目の姿をしている……などと詳細な指定がなされており、写真資料とともに提供されていたのだろう(笑)。



 このような一連を、視聴者にはじめて意識させるキッカケとなったのが、ここまで言及してきた小学館『小学三年生』73年12月号に掲載されたカラーグラビア記事『ウルトラひみつ大作戦 帰ってきた最強怪獣』であったと個人的には捉えている。


 このグラビア記事は、映画『ウルトラマンメビウスウルトラ兄弟』(06年・松竹・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070128/p1)の入場者特典の一部として再録されることとなった。そしてそのキャプチャー画像がネット上にも流布している。それ以来、好意的なものではあっても、この記事は「ネタ」的に消費されているのが実態だ(笑)。
 それはそれでよい。しかし、実は同様に学年誌の編集者が生み出した「ウルトラ兄弟」なる設定に次いで、実は「ウルトラ史」における歴史的な画期であったのだ! とも私見をするのだ。


 個別の単発エピソードを超えて、悪の軍団による大いなる陰謀がそれらの物語のウラ側にはあったとする! そして、そのことで、ウルトラシリーズの「世界観」を宇宙規模に拡大させていく! それらは1975年度の『小学三年生』に連載された、大宇宙を舞台にウルトラ兄弟VSジャッカル軍団との戦いを描いた内山まもる大先生の名作漫画『ザ・ウルトラマン』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210110/p1)などにも通じていく、「世界観消費」のファーストバッターであったともいえる、歴史的にも非常に大きな意義があった記事であったと主張したい。




 さて、ヨッコの危機を救うために、矢的はレッドキングに敢然と立ち向かっていく!


 ミニチュアセットで画面手前に進撃してくるレッドキングの映像に、駆け出していく矢的をハメこんだ合成カットは、まさに「ザ・特撮!」といった感じである。


 その間に淳少年、そしてなんと正男がヨッコを救い出す!


 それまで徹底的に悪辣な姿ばかりが描かれていた正男ではあった。しかし、こうした善良な一面も描かれることで、正男も単なる記号的で一面的な悪者キャラクターではなくなっている。
 いかにイジメっ子でも他人の命を見捨てるような、そこまでの不快な悪人もそうそういないだろうというリアリティーも出てくることで気持ちも良くなるし、視聴者のナットク感も強くなるのだ。


 今まで自分のことをイジメてきた正男に対して、表面的には遺恨なく「オトナの態度」でお礼を云ってみせる淳少年! そして振り向いて、それを確認して笑顔を見せる矢的らの演出は、実にさわやかであった!



 だが、レッドキングの進撃はやまない!


 足許のアップでは電柱がスパークを起こし、踏み潰された数台の自動車が燃え上がる!


 マンション風の建物を怪力で破壊するレッドキング


 思えばレッドキングは、初代『マン』第8話では多々良島、第25話では日本アルプスを舞台にして、他の怪獣たちや初代ウルトラマンと激闘を展開していたワケで、本格的な都市破壊は本話がはじめてであった!



 遂にUGMが出動!


 戦闘機・スカイハイヤー、そして戦闘機・シルバーガルがα(アルファ)とβ(ベータ)に分離した状態でレッドキングに攻撃をかける!


 淳少年ら子供たちがいた公園のミニチュアを画面の中央に配置し、その周囲には民家を中心とした多数の建造物、画面の奥にはビル群をバックとして、その手前で暴れているレッドキング


 そのレッドキングに向かって、画面の右上手前から3機編隊で飛行するUGMメカという、実に奥行きと立体感のあるロング(引き)のカットもまた実にカッコいい!


 しかし、レッドキングの圧倒的な怪力により、UGMの戦闘機群は実にあっけなく撃墜されてしまう!


 それは少々残念である。これもまたレッドキングは他の怪獣とは異なる別格の強さを持っていると表現するための処置なのだろうが……



 矢的隊員は変身アイテム・ブライトスティックを高々と掲げた!


矢的「エイティ!!」


 ウルトラマンエイティが登場した!!


 画面の左にレッドキングを背面から捉えて、その手前には瓦屋根の民家、画面の右奥にエイティの勇姿。その手前には幾多の建造物を配置と、奥行きと立体感が強調された構図が徹底!


 画面の右からエイティがレッドキングを目掛けて宙返り!


 身をかがめたレッドキングの背中の上で転がったあと、着地したエイティはすぐさまレッドキングの腹に左足でキック!


 レッドキングに背負い投げをかけようとするエイティ!


――もちろん、初代ウルトラマンが初代レッドキングにトドメを刺した技も背負い投げであった! ちなみに本話の特撮監督・佐川和夫は、『80』第37話『怖(おそ)れていたバルタン星人の動物園作戦』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110108/p1)においても、初代『ウルトラマン』第2話『侵略者を撃て』で描かれた初代マンVSバルタン星人の空中戦を再現している!――


 だが、レッドキングは怪力で逆にエイティを抱えあげた!


 しかし、エイティは両足を大地に着けて、その反動を利用してレッドキングを投げつける!


 まさに畳みかけるようなスピーディでアクロバティックなアクションの連続!


 軽快なアクション演出といったものは、逆に被写体の巨大感や重厚感を相殺してしまいがちである。しかし、その被写体の手前には必ず民家や樹木などの比較対象物を配置することで、巨大感の相殺され具合いも緩和しているのだ!


 投げられたレッドキングは起き上がるや、怒りを体現するかのごとく両腕のこぶしを胸で太鼓のように激しく打ち鳴らした! これぞまさに「恐竜とキングコングの合いの子」ならではの仕草(しぐさ)である!(笑)


 エイティはレッドキング目掛けて、宙をジャンプして華麗にキック!


 なんとレッドキングは、態勢を低くしてこれをよけてみせる知能プレイを見せた!


 こういった場面でも、画面の手前に居並ぶ民家の屋根を、両脇には樹木を配置することを忘れない。


 着地したエイティの腹に、レッドキングは頭突きをカマす! さらに右手で、エイティの顔面にパンチもカマした!


 ここでは初代や2代目のごとく、ただひたすら怪力で押しまくるレッドキングの戦法が忠実に再現されている。


 だが、個人的には『80』第22話『惑星が並ぶ日 なにかが起こる』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100926/p1)に登場した古代怪獣ゴモラⅡ(ツー)のように、初代ゴモラにはなかった手の甲からのミサイル攻撃、頭部のカブト状の両ヅノからは三日月状の光線、さらにはリング状の光線でエイティを締めあげるといった、単なる野生の野良怪獣ではなく超常的な新しい特殊能力も披露してほしかったような気がする。


 こんなことを主張してしまうと、「そんなものは邪道だ!」と批判されてしまいそうではある。でも、ちょっと待ってほしい。本話のレッドキングは正男が脳裏に思い描いたイメージを魔法で再現したものであると捉えれば、それもアリではないのかと思えるのだ。


 多くの子供たちが幼いころに怪獣の絵を描いていた際には、劇中では火炎や光線を吐かなかった純然たる野生の地球産の怪獣でも、超常能力を持つ怪獣や生物兵器である「超獣」との区別などはロクに付けていなかったろうから、目やツノや口などから劇中では描かれなかった「光線」や「火炎」を描き足していたのではなかろうか?――余談だが、亡くなったウチの祖母なども、恐竜は口から火を吐いていたのだと信じていたものだ(笑)――


 それに加えて「科学」ではなく「魔法」で出現した怪獣でもあるのだし、同族の別個体でもないのだから(?)、オリジナルとは少々異なった能力を披露してもギリギリでアリだったような気がしないでもないのだ。


 男児が思い描いている「怪獣」一般に対するイメージとはまさにそうしたものだろう。レッドキングが口から火炎を吐いたり、目から稲妻状の光線を発射すると正男が思いこんでいたとしても決して不思議ではないのだ。正男少年も初代マンとレッドキングとの戦いを直接に目撃していたワケではないのだし(笑)。


 その点では異論もあろうけど、『ウルトラマンマックス』に登場した、口から「岩石ミサイル」(!)を吐くという必殺技を与えられて、別名「装甲怪獣」として再設定されたレッドキングのリメイクも、作品世界が昭和ウルトラとはまた異なる世界だからスンナリと受け入れられたということもあったのだろうが、個人的には好ましいアレンジだったと思っている。


 ちなみに、ゴモラⅡが登場する『80』第22話でも、特撮監督を佐川氏が担当していたが、氏は初代『マン』第26~27話『怪獣殿下』前後編では特撮班のカメラマンとして初代ゴモラの大暴れをカメラにおさめていた。
 そしてこれが決定的なのだが、日タイ合作の映画『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』(74年・日本公開79年)では、「怪獣帝王」なる異名をつけられた怪獣念力(!)を披露して、ツノからは電撃を放ってみせるゴモラを頂点とする怪獣軍団を描いた作品の特撮監督も務めていたのだ!


 これも無機物が長年月を経たのちに意識や魂が生じてきて付喪神(つくもがみ)や妖怪と化すのと同じ原理で、ゴモラが長年月を経たのちに進化して高度な知能や神通力を持つに至ったという一応の「SF考証」(笑)を付与してみせればアリだとは考えるのだ。
 しかし、『80』第22話に登場したゴモラⅡ同様に、怪獣帝王ゴモラもまたミサイルや光線を発するのはオカシいだの、造形がマズいだの、鳴き声が違うだの違和感ばっかり……と、かつては批判が絶えないものだった(汗)。


 まぁ、今ではその世代の特撮マニアたちも枯れてしまって、考え方を変えてしまったヒトもいるようなので、ゴモラⅡや怪獣帝王を許してしまっている御仁もまた多いようなのだが(笑)。


――映画『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』は、東京都心では第3次怪獣ブームの頂点にあった79年のゴールデンウィークに公開された。しかし地方では、3月に先行公開されたテレビの再編集映画『ウルトラマン 実相寺昭雄監督作品』との同時上映作品であった。『80』放映中の80年12月31日正午にはTBS系でテレビ放映もされている。80年代~90年前後にはVHSビデオソフト化やレーザーディスク化もされていた。しかし、ウルトラシリーズの海外での商品化権をめぐるタイのチャイヨー・プロと円谷プロとの一連の訴訟問題のあおりを受けて、今ではDVD化は困難となっている。2011年4月7日にバンダイビジュアルから発売されたウルトラシリーズ劇場版DVD-BOX『ウルトラシリーズ45周年記念 メモリアルムービーコレクション 1966-1984』にも収録されることがなかった――



 さて、ひたすら怪力で押しまくるレッドキングは、エイティを豪快に投げ飛ばす!


 吹っ飛ばされても立ち上がったエイティは、レッドキングの足を踏みつける!


 悲鳴をあげるレッドキング


 レッドキングはお返しとばかりにエイティの体を怪力で「ドン!」と押し飛ばす!


 吹っ飛ばされるエイティ!


 この一連でホンの数秒しか映らないが、淳たちがいた公園のテラスの屋根の下からの主観映像で、画面の奥にエイティとレッドキングを捉えて、その手前に公園を配置し、背景に並んでいる民家も捉えるといった、カッコいいアングルの特撮カットもまたイイ味を出している。


 レッドキングは大地に倒れたエイティを怪力で蹴りまくる!


 レッドキングに蹴られながら大地を転がっていくエイティ!


 画面の手前に並んでいる民家・電柱・街灯などをナメながら、このへんは1カットの長回しで撮られている。


 エイティは低い体勢のままでレッドキングに飛びかかる!


 しかし、レッドキングの長いシッポの一撃がエイティの顔面を強打する!


 シッポの動きをアップで捉えたカットが実に効果的!


 エイティはレッドキングの長いシッポをつかみあげる!


 しかし、すぐにふりほどかれて、レッドキングは両腕でエイティの顔面をハサみ打ちにする!


 さらに、エイティを投げ飛ばして、頭突きもカマす!


 またも吹っ飛ばされるエイティ!


 そしてレッドキングの大きく口を開けた凶暴な面構えがアップに!


 真っ赤に塗られた口の中や舌と同様に、歯ぐきも血塗られた赤でていねいに塗装されているのが目を引く。


 続いてエイティの左肩に、レッドキングの鋭い牙が「グサリッ!」と突き刺さる様子がアップに!


 この場面では「ブタっ鼻」に造形されている鼻が目を引く! 「ブタっ鼻」の称号は『80』版バルタン星人5代目よりもむしろレッドキング3代目の方がふさわしいだろう(笑)。


 レッドキングに左肩を噛みつかれて苦しむエイティ!


 画面の手前にはアパート風の建物、左にビル、右下には樹木、その上には近所に野球場かゴルフ場でもあるのか背が高いネットが張られているという立体感のある画面構図! 真横から撮られたカットのあと、別アングルで同じ被写体が撮られている!


 次には画面の中央からやや左寄りに両者が捉えられて、画面の左手前には電柱、その右にはリアルなブロック屏、さらにその右には先ほどのカットと同じアパートが!


 右の奥には同じビルが配置されて、右の端にはやはり野球場かゴルフ場の背が高いネットが!


 画面の左の電柱からはそのネットに向かって斜めに電線が張られているという、遠近感も実に的確に表現された構図である!



涼子「エイティ、しっかり!」


 「ユリアン編」に突入後、涼子がエイティに声援を送ったのは本話が実ははじめてである。けれど、メディカルガン同様に、視聴者には見えないところで声援を送っていたと解釈してあげるのが、作品に対する「愛」がある、しかして封建的な忠誠心のような「盲愛」ではなく「知性」もある「真のマニア」の在り方でもある(笑)。


 続いてレッドキングの目のアップ!


 黒い眼球が「ギョロッ!」と動くサマを見せたあと、レッドキングが豪快に画面手前にエイティを投げ飛ばしてきて、あわてた子供たちが逃げてくる本編場面をつなぐという編集は効果絶大!


 エイティの胸の中央にある円形ランプであるカラータイマーが活動限界が迫ったことを示す赤い点滅をはじめた!


涼子「いけない!」


 涼子、おもわずエイティにメディカルガンを向けるのだが……


ナレーション「涼子はメディカルガンで少しでもエイティのエネルギーを回復させようとした。だが、エイティはそれを断った。エイティは子供たちにラクをしてはいけないということを見せたかったのだ」


 涼子の主観カットで大地に倒れ伏したままのエイティが、メディカルガンでの援護を断るように首を振っており、その背後に迫ってくるレッドキングを捉えた画面構図も、「安易な救済の拒否」と「危機」の二重の意味が込められており、「ドラマ」と「特撮」の融合でもある!


 エイティはバック転でレッドキングに迫って、レッドキングをなんと3連発でブン投げる!


 ……ではなく(笑)、正面・斜め・真横の三方から撮られた絵を連続してつないでいるのだが、まさにここから「大逆転劇」になりますよ~という意味を込めた、念押し・ダメ押しの強調演出でもあるのだ。もちろん、今まさに3連発で投げたのだ! と誤解をするようなリテラシー(読解能力)の低い幼児もいるのだろうが、そこはまぁご愛敬であろう。


 さらにエイティは、初代マンが第8話でレッドキング初代に披露したようにジャイアントスイングをカマす!


 初代『マン』第8話では、ジャイアントスイングを多々良島の岩場での初代マンの全身を捉えるロングのカットで撮影されていた。本話では画面の手前に民家の屋根が、さらにその前を電線が伸びている奥で、エイティの上半身とエイティにつかまれて宙でスイングさせられているレッドキングが捉えられている。


 大地に叩きつけられるレッドキング


 その手前には民家の屋根、右奥にはビルと、ここでも手を抜くことなく立体感のある構図が続いている。



 遂にエイティは、第18話『魔の怪獣島へ飛べ!(後編)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100829/p1)で吸血怪獣ギマイラを葬りさった、足先にエネルギーを集中して黄色く発光させて、相手に飛び蹴りを叩きこむ必殺技・ムーンサルトキックをレッドキングに放った!!


 この宙を飛びながらキックへと至る場面には、第18話の美麗なキックポーズでのバンクフィルムが流用されている。何度でも観返したくなるような美しい特撮映像であれば、バンク映像の流用でもドシドシやるべきなのだ!


 しかし、怪獣への直撃の瞬間はもちろん替えが効かないので新撮! ムーンサルトキックを喰らったレッドキングの胸がストロボ状に閃光を放つサマは実に美しい!


 ウルトラマンエイティは両腕をL字型に組んで必殺技のサクシウム光線も放った!!


 それを喰らったレッドキングはやはりストロボ状の閃光を発したあとに、全身が赤く発光して遂に大爆発を遂げていく!!


 今は亡き朝日ソノラマが発行していた特撮雑誌『宇宙船』Vol.6(81年4月30日発売)の『ウルトラマン80』放映終了特集において、この際に使用されたレッドキング爆破用のカポックを抱いている造形の若狭新一の写真が掲載されていたように記憶している。このカポックの出来がまさに着ぐるみをそのまま縮小したかのような見事な出来映えであったのだ。画面にはマトモに映らないものなのに、そこまで再現してみせる若狭氏は、やはり金銭を度外視した職人魂・芸術家気質といったものがあるのだろう。



涼子「これ、預けとくわ」


 メディカルガンを矢的に手渡そうとする涼子。


矢的「どうしたんだい? 急に」
涼子「これも「魔法の壷」みたいなもんでしょ。地球にも立派な医学があるし、あんまり便利なものがあると、人間はラクばっかりするみたいだから」
矢的「そうかい。じゃあ預かっとく」


 まさに先述の『ドラえもん』のような「道徳説話」的な教訓オチで、本話の物語は締めくくられている。


 レッドキングを登場させるために、ムリやり設定された魔法使いのマアジンが潜む「魔法の壷」と、同様に便利なウルトラの星の超科学の道具でもある「メディカルガン」を絶妙に対比させて、「児童ドラマ」と「涼子=ユリアンの成長物語」を両立させつつも、レッドキングの派手な大暴れとエイティとの白熱したバトルを展開していたのは見事である。平野氏は本話に対してはやる気がなかったとは発言しているが、なかなかどうして! 出来は悪くないどころか、むしろ良いとすら思えるのだ!


 放映から30年もの歳月が流れた。「魔法の壷」や「メディカルガン」とまではいかなくとも、我々は様々な便利なものを手に入れてきたものの、それでラクばかりするようになっている。その余暇で自己研鑽に励めばまだよいのだけれども、実際には自堕落になりがちである。
 いつの時代も紀元前のむかしでも常にこういったことは云われてきたのだろうが(笑)、それであっても普遍性があるメッセージではあるのだ。



 なーんて。そんな小学生の読書感想文のような、歯の浮くようなキレイごとの教訓めいた、テーマ主義的なクサいまとめ方で文章を締めくくるのは本意ではないので、やめておこう(笑)。


 教訓テーマがあってもよいのだが、それれはあくまでも二の次なのである。ヒーローと怪獣の大暴れに対する快感。これが特撮ジャンルの主眼であって、ドラマやテーマなぞは派生物なのである。


 便利な道具の登場で人々が徳性的には堕落することに警鐘を鳴らすのは、『80』放映当時の1980年前後のジャンル作品群にもよくあるネタではあったのだ――先に挙げた名作漫画『ドラえもん』などもその典型――。もっと云うなら、「文学」や「物語」の常套テーマですらある、陳腐な手垢のついたものですらあるのだ。


 それに「道徳」や「報道」などとは異なる「文学」「物語」というものの主眼とは、小学生の読者感想文に記すと先生にホメられるような道徳的な解題などではない。劇中の事件に対する「良し悪し」を論じるものでもまるでない(笑)。
 わかっているけどやめられない、道徳的にはホメられたものではないインモラルな心情へと陥ってしまうような、人間の愚かさに対する諦観。あるいは、そういった人物に対する野次馬根性。


 道徳には直結してこない、繊細で云わく云いがたい、さまざまな心情描写や、禅味・俳味などの面白みや可笑しみ。無常観・不条理感なども含めて、言語化・成文化・形象化してみせることが「評論」の目的なのだ! といった趣旨のことを、文芸評論家の故・江藤淳先生なども、夏目漱石の著作の文庫本などの解説に寄せているくらいだ。



 結局はマアジンに願いをかなえてもらえずに、ションボリとする淳少年であったが、そこに空から雪が舞ってきた!


 矢的はそれをマアジンから子供たちへの最後のプレゼントであると語ってみせた――まぁ、「優しいウソ」というやつですネ(汗)――。


 子供たちは、


「♪ゆ~きや、コンコン。アラレや、コンコン。降っては降っては、ズンズン積もる……」


 などと童謡を口ずさんで、輪になって踊り出した。そして、ギャグメーカーのイケダ隊員もその輪の中に加わってしまう(笑)。


 ラストシーンはあたり一面に雪が降り積もった、背景には山々がそびえる郊外の住宅街のミニチュアセットとなっており――公衆電話ボックスや雪だるまのミニチュアまである!――、清涼な印象を残して本話は幕となっていた……


『80』人気怪獣・復活月間の総括!


 第44話『劇ファイト! 80VSウルトラセブン』から3週連続で続いた人気ヒーロー・人気怪獣復活編は本話で終了となった。「ドラマ重視」ではなく「怪事件」や「イベント」重視、もっと云うなら「怪獣押し」のエピソードであった、初代『マン』におけるレッドキング初代や2代目の登場エピソードと比較すれば、不満を持たれる方々がいるのも当然のことだろう。


 だが、『80』ももうシリーズ後半どころか終盤戦である。あの『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041108/p1)よりもはるかにシビアでヘビーだったかもしれない『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)でさえも(爆)、第9話『宇宙にかける友情の橋』・第23話『ベッドから落ちたいたずら星人』・第32話『日本名作民話シリーズ! さようならかぐや姫 竹取り物語より』などのファンタジックな印象の作品もあったのに比べると、第3クール以降の「児童編」以降だけを振りかえってみても、『80』には意外とファンタジックな味わいのある作品が少なかったようには思える。なので、たまにはこういうテイストのエピソードがあってもよいのではなかろうか? そうしたエピソードに登場させる怪獣として、レッドキングが適任であったは別として(笑)。


 まぁ、スタッフ数十人を海辺や山間などの遠方ロケに泊まりがけで出かけさせるような予算はもう底をついていただろうから、多々良島や日本アルプスを舞台にできなかったというのが実情なのであろうが(笑)。



 本話は関東・中部・関西と全地区でわずかながらも視聴率は前話よりも上昇している。もちろん、前話ラストの予告編や新聞のラテ欄(ラジオ・テレビ欄)などでサブタイトルからして大々的に謳(うた)われていた、久々に再登場する人気怪獣・レッドキングに対する期待値の高さが影響したのだとは思われる。


 ただし、さかのぼること、『ウルトラマン80』第1話『ウルトラマン先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100502/p1)が放映された80年4月2日(水)夜7時のちょうど2日後である、4月4日(金)夜7時には『(新)仮面ライダー(スカイライダー)』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)第27話『戦車と怪人二世部隊! 8人ライダー勢ぞろい』が放映されていた。
 そして、その翌週の第28話『8人ライダー友情の大特訓』とは前後編形式となっており、歴代仮面ライダー&スカイライダー VS 最強怪人グランバザーミーが率いる「2代目怪獣」ならぬ「怪人二世部隊」との決戦を描いていたのであった――グランバザーミーは個人的にはネオショッカー怪人の最高傑作!――。


 この第3クール巻頭の前後編を皮切りに、『スカイライダー』では第40話『追え隼人(はやと)! カッパの皿が空をとぶ』に至るまでの第3クールは、一部を除いてほぼ毎週が「変身前を演じる俳優さん」も含めてのゲスト出演を果たしている、歴代ライダー続々客演編が放映されており、当時の子供たちを熱狂の渦に巻き込んでいたのだった!


 『スカイライダー』では先輩ライダーが客演しているのに、なぜに『80』では先輩ウルトラ兄弟が客演しないのか!? そんな想いを抱いていた子供たちはきっと多かったことだろう。
 『80』の人気の低迷の原因を、円谷プロのスタッフは「学校編」の設定のせいだと思いこんで、消去法でそれを排除することで難局を乗りきろうとしたのだろうが、根本原因はそこではなかったのであった。


 テイストはマイルドでもドラマ性は一応は高かった「学校編」を継続しつつも、同時に月に1回程度は歴代のウルトラ兄弟を「変身前を演じる俳優」さんも含めて助っ人参戦させたり、人気怪獣再登場エピソードなどの娯楽編もシリーズ途中で随所に挟み込んでいくような加点法の発想!


 仮に各話の学園ドラマや児童ドラマが子供たちにはイマイチ楽しめなかったとしても、数話に1回は先輩ウルトラ兄弟客演編や人気怪獣再登場編などのイベント編で、戦闘の高揚感を味わえることがいずれはあるのだろうと潜在的に思わせられれば、そこで視聴を打ち切られることもなく、『80』はもっと視聴率が上向いていたのではなかろうか!? そこに思い至らなかったことこそが、『80』最大の悲劇であったとは思えるのだ。


 頑ななまでの「ウルトラ兄弟」という設定に対する間接的な否定は、先輩ウルトラ兄弟の客演を否定的に言及してみせた草創期のマニア向け書籍『ファンタスティックコレクションNo.10 空想特撮映像のすばらしき世界 ウルトラマンPART2』(朝日ソノラマ・78年12月1日発行)が、つくり手たちに与えた間接的な影響だったのだろう。
 とはいえ、ウルトラの父だけは再登場したものの、怪獣とのバトルを演じさせることはなかった。ウルトラセブンも登場はしたもののそれは偽者である「妄想ウルトラセブン」としてであった。そして、バルタン星人・レッドキングの再登場もまた…… 遅きに失した感も否めないのであった。



<こだわりコーナー>


*マアジンを演じた横山あきおは、マラリア星から来た「怪盗ラレロ」と彼を逮捕するために地球に来た同じマラリア星の「宇宙刑事ポポポ」が繰り広げる騒動を描いた連続テレビドラマ『怪盗ラレロ』(68年・東映 日本テレビ)にラレロ役で主演していたことがある。ジャンル作品には縁があるコメディアンなのだ。当時は青空あきおの名義で青空はるおと漫才コンビを組んでおり、相方の青空はるおがポポポを演じていた。
 なお、ラレロのコスチュームはシルクハットにマント姿と本話のマアジンにそっくりである。やはり、本編の現場スタッフ側の美術班や衣装班あたりの世代人である誰かのオマージュが入っていたのではなかろうか? なお、筆者個人は世代的にも『ラレロ』は未見である――慈善事業ではないのだから仕方がないのだが、東映ビデオも売上が見込める特撮ヒーローもの以外の作品はなかなか映像ソフト化してくれないので――。


 氏は我らが『ウルトラマンA』(72年)第40話『パンダを返して!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070204/p1)でも、宇宙超人スチール星人に自身のパンダコレクションをすべて盗まれてしまう薬局・パンダ堂の店主を演じている。ちなみに、72年末に発行された『原色怪獣怪人大百科 第2巻』には当時、上野動物園で飼育されることになったランランとカンカンによって巻き起こった一大パンダブームを反映して、なんとパンダの折り込みポスターが付録につけられていた(笑)。


 加えて、『ミラーマン』からミラーマンVS怪獣の特撮格闘場面だけを抜き焼きしたエピソードと、残存していた着ぐるみを用いて新規に野外で撮影されたエピソードで構成された平日夕方の5分番組『ミラーファイト』(74年・円谷プロ 東京12チャンネル→現テレビ東京)では、氏はナレーションも担当していた。
 その元祖でもある『ウルトラファイト』では、当時はTBSのスポーツアナだった山田二郎によって「スポーツ実況」風の解説がなされていたのだが、『ミラーファイト』における横山の語り口はいかにもノンビリとしており、実にトボケた感じのホノボノとした味わいが感じられたものである。第2次怪獣ブームも下火になった74年の作品ではあったが、関東地区では特撮巨大ヒーロー作品の新作がなかった70年代中盤にも何度か再放送がされたそうであり、当時の子供たちの特撮巨大ヒーローに対する渇きを癒やしていたそうだ。


・第1期ウルトラシリーズ最終作である『ウルトラセブン』と、第2期ウルトラシリーズのトップバッターである『帰ってきたウルトラマン』、その間に生じた空白期間に放映されていた『ウルトラファイト
・本作『80』と『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)の間の15年にもわたる空白期間に、テレビ東京で平日の夕方や早朝に放送された5分番組『ウルトラ怪獣大百科』(88年)~『ウルトラマンM730(エムナナサンマル) ウルトラマンランド』(96年)
・『ウルトラマンコスモス』(01年)と『ウルトラマンネクサス』(04年)の間の空白期を埋めていた、平日早朝の5分番組『ウルトラマンボーイのウルころ』(03年)


 30分の新作テレビシリーズの放映がなかった時期に、こうしたミニ番組の放送によって、新たな子供ファンの開拓に努めてきた当時の円谷の営業姿勢はもっと評価されてしかるべきだろう。


 これらの5分番組もまた、往年の書籍『全怪獣怪人大百科』のように「こんな怪獣や怪人が過去に存在したのか!?」といった、特撮ジャンル一般の旧作に対する基礎知識や興味を喚起させる役割を充分に果たしていたことは間違いないのだ。私事で恐縮だが、筆者なども『原色怪獣怪人大百科』で往年の東宝特撮映画『地球防衛軍』(57年・東宝)に登場したロボット怪獣モゲラの存在を知って、同作を観たくて観たくてたまらなくなったものだ。もちろん、家庭用ビデオデッキなどが世間に存在しなかった当時はその夢は叶わず、やむなく今は亡き玩具メーカーブルマァクから発売されていたモゲラのソフビ人形を祖母にせがんで買ってもらった経験がある。


 『ウルトラマンメビウス』放映終了以降、地上波での新作ウルトラマンのテレビ放映は、この項を執筆中の2011年春で早くも4年もの空白期間となっている。そろそろテレビ東京で抜き焼き再編集の5分番組などを放映すべきではなかろうか!?


*冒頭の日本ランドの場面で、場内のスピーカーから現実音楽として流れている歌謡曲は、当時の人気アイドル歌手・河合奈保子(かわい・なおこ)がヒットさせていた3枚目のシングル『愛してます』(日本コロムビア・80年12月10日発売)である。これは涼子の矢的に対する気持ちの今後の進展を象徴する曲として選ばれたのかもしれない。河合奈保子は1980年にデビューしたアイドル歌手たちの中でも、松田聖子(まつだ・せいこ)と人気を二分するほどの注目を集めていた(ただし、聖子ちゃんの方が人気は上だった)。


*本文で紹介した『(旧)コメットさん』は、家庭用ミシンの製造で有名だったブラザー工業の1社提供枠であったTBS月曜19時30分からの30分テレビドラマ枠『ブラザー劇場』(64~79年)において、1967年7月から68年12月まで1年半にもわたって放映されるほどの人気番組となった。
 しかし、67年10月から翌年3月までの半年間は真ウラで日本特撮株式会社が製作(実質的にはピー・プロダクションが製作)した、恐竜ネッシーを乗りこなす野生児・タケルを主人公とした特撮番組『怪獣王子』(67年 フジテレビ)が放映されており、さらに68年1月最終週からは水曜日19時30分枠から曜日を移動してきた東映特撮『ジャイアントロボ』(67年・東映 NET→現テレビ朝日)も真ウラで放映されるという時間帯衝突が起こっていた。その結果、『怪獣王子』は同じくピープロが製作した前番組である特撮巨大ヒーロー『マグマ大使』(66年・ピープロ フジテレビ)に比べて視聴率が激減してしまったそうだ。『怪獣王子』と『ジャイアントロボ』はともに68年3月期で2クールの放映を終了している。


 第1次怪獣ブームの実質的な「期間」については諸説ある。個人的には『ウルトラセブン』・『怪獣王子』・『ジャイアントロボ』が一斉にスタートした67年10月の時点ではすでに峠を越えていたのではなかったか? と、ウラ番組の『怪獣王子』と『ジャイアントロボ』よりも『コメットさん』の方が人気も視聴率も高かったように見える現象を見るかぎりでは、そう推測するのである。
 同じく『ブラザー劇場』枠で放映された『(新)コメットさん』も、1978年6月から79年9月までの1年3ヶ月ものロングランとなったことを考えると、こうしたご町内ファンタジー系の作品は、筆者の当時の印象でも70年代いっぱいまでは子供ウケもよかったように記憶している――しかしこれもまた80年代に入ると、当時のMANZAI大ブームと連動してもっとブラックで軽躁的なお笑いが突如として大流行して、こういう牧歌的なファンタジー作品が茶化されてしまうようになってしまって、そういった作品を一掃してしまったのであった(汗)――。


 だから、本話の『80』第46話のようなファンタジックな路線も、子供向け特撮ヒーロー活劇としては「王道」だとはいえなくても、必ずしも「邪道」だとまでは云いきれないのではなかろうか? ……などとロジックをもてあそびたいところなのだが、当の男児たちからすれば、「ウルトラマン」という作品の看板から受け取る戦闘的なイメージとは相反する、女児もゲストで登場するような女々しいノリには気恥ずかしさ&反発も覚えてしまいそうだから、ムズカしいところではあるのだろう(笑)。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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新型コロナ禍に揺れた2020年の日本を斜に構えて観る!

(文・T.SATO)
(2020年12月15日脱稿)


 一介のオタクごときがコロナ禍についてエラそうに語るのも気が引けるところではある。コロナで親族や知己を喪ったり、コロナ関連の経済不況により失職して経済苦に陥っている方々には衷心からお悔やみやご同情を申し上げたい。


 コロナ禍自体がまだ現在進行形で変遷を遂げており、最終審判者気取りでモノを申すのは控えるべきであろう。新たな知見が今後とも積み重なっていくであろうことを思えば、筆者も自身の考えに固執することなく柔軟にその見解を変えていきたいとも思う。
 もちろんその際には「過去の見解はこうであり現在の見解はこうである。見解を変えた理由は以下による」などと語ることにする。見解の変更という以上に、自身の過去の見解が誤っていたことが判明すれば、包み隠さずにそれを表明して、他人のせいにはせずに自身の不明を公然と恥じたいとも思う。


 もちろんアマチュア同人ライターでもある筆者としては、しょせんは趣味のことでもある以上は「公共」のことではなく「私事」に過ぎないともいえるので、コチラもやはり気が引けるのだけれども、同人誌即売会の開催に大きな影響が発生したことが思い出される。2020年3月からは同人誌即売会にかぎらず各種の巨大イベントが次々と中止を決定。ついには超巨大同人誌即売会であるコミックマーケットまでもが中止の憂き目にあってしまった。


 これを30数年前の昭和末期の昭和天皇の病状悪化に伴なって生じた各種イベントの「自粛」になぞらえて批判をする向きも多くはないが一部にあったものだ。しかし、この見解は妥当であろうか?
 各種イベントの「自粛」は日本固有のものではなく欧米でも日本に先立つ2月から発生したものである。ということは欧米での各種イベント「自粛」も日本の天皇制によるものなのであろうか?(笑)
 そんなバカげたことはない。筆者からすれば昭和末期の「自粛」とコロナ禍の「自粛」とは似て非なる、まるで異なるものである。コロナ禍の世界中で発生した「自粛」とは単に純粋に「防疫」的なものにすぎない。


 とはいえ、この世界規模でも生じた「自粛」に国家権力による「自由」や「個人」の抑圧を見る向きはある。たしかにその意見にも一理はあるのだ。
 が、そのような見解は、むしろ逆に「万人の自由」の称揚ではなく、「性格強者」や「経済強者」だけが最終勝利を収めていく「ミーイズム」や「エゴイズム」とも通底している「自由絶対主義」・「自由至上主義」・「新自由主義経済」にも通じていくモノでもある。
 そのロジックで行くならば、コロナに感染しても自粛せずに飲食店の店員を感染させて果ては自身もコロナ死した御仁や、確信犯で各所を出歩き立ち寄り先の飲食店や観光地を休業に追い込んだ迷惑系ユーチューバー、当局からの重ねての要請をブッチ切って公共交通機関で沖縄へ帰宅した陽性の女子高生らが、一番「自由」を行使しているからエラくて反体制・反権力で大正義! ということになってしまう。
 こんな「公共心」皆無の私利私欲な御仁をムダに持ち上げるようなバカけた論理ももちろんまったく成り立たないのだ。


 筆者個人は「自由」が無意味とはもちろん思わないまでも、「自由」を疑義を許さぬ宗教のように信奉・絶対視することには反対である。それこそが「近代」最大にして最後の宗教であり、諸悪の根源であるとすら考えてもいる。
 その伝で「自由」を「平等」や「博愛」とともに3大原理のひとつに据えた「近代」自体を「全否定」はしないまでも「相対視」はするべきだとも考える。それはつまりは以下のようなことである。
 人間はそれぞれが異なる「価値観」や「趣味嗜好」を持つ以上は、そもそも各人が単純に「自由」を無制限に発揮すれば、周囲や隣接している他人と手足や肩がぶつかって、そこに「不自由」が発生するのは必然でもあるのだと。自分がスキなものが他人のキライなものであることは往々にしてあるのだと。
 これを解決するのに、18世紀ドイツの哲学者・カントが唱えた、「『動物』的・『感情』的な好悪に基づく『自由』」ではなく、「『道徳』や『理性』的な義務に自らの意思で従う『自律』という名の『自由』」、あるいは古今東西の宗教や哲学が唱えてきた「抑制」や「節制」や「節度」こそが有効であるとすら考える。
 むろん奴隷のようにへりくだって他人・権力者・強者に対して卑屈にふるまえという域に達してもイケナイ。しかし万人がお互いに一歩だけ下がることによって――二歩以上は下がる必要はナイけれども――、逆説的に各々の周囲に自身の手足を障害物ナシに伸ばせて振り回せるだけのフリーハンドの空間を確保もできることで、かえって「自由」が達成されるというロジックでもある。


 まぁ直前に述べたようなロジックは、本を読んでついモノを考えてしまうような評論家気質のオタ連中にとっては自明のことでもあるだろう。
 しかし、毎度の上から目線で恐縮だけれども、「道徳」と云った瞬間にそれは戦前の「修身」に通じるものでもあるから全否定されねばならない、そのことを考慮も検討もしてはイケナイと云ってきたのが、日本の戦後のサヨクではある。
 ならば「修身」には陥らないかたちでのオルタナティブ(代替可能)な「道徳」教育を代案として提示すればよかったのだが、そのようなことをすることはしなかった――そんな風潮を悪い意味で小賢しく反映していたのが往年のコミックバンド・クレージーキャッツが歌った『学生節』(1963(昭和38)年)の3番の歌詞「道徳教育、こんにちは~」であり、個人的には実に浅知恵の社会派気取りの歌詞だとしか思えないので不快である――。
 とはいえ、現今のアメリカのみならず英仏独でも「マスクをしない自由」を訴えるデモが隆盛を極めているので、カント的な「自律」としての「自由」の概念は欧米の庶民大衆にも流布していないことがよくわかるのだが(笑)。


 ここまでは「自粛」と「自由」を「自律」の概念で架橋・調停できないのか? という論考である。
 しかし他方で「自粛」の必要性と同時に、「自粛」によって外出・外食が制限されることでの「経済活動」の大幅な縮減についても別個に独立して検討して、この両者を天秤にかけなければイケナイのも、アチラを立てればコチラが立たなくなる非ユークリッド空間でもある3次元、我々が住まう「この世」の日常・社会生活での厳然たる事実でもある。もちろん100かゼロかではない。60対40なりでの両立が図れるのであればそうであるべきだという話である。
 マスクや特に食事前の手指の手洗いを徹底することで感染リスクをゼロにはできないにしても減らすことが可能であるならば、そして食事中の飛沫感染が懸念されるのであれば、大会場での宴会を避ける個室での食事などで、外出・旅行・外食なども許可して、「観光業界」や「飲食業界」も同時に守っていくという方策も正しい。


 日本ではコロナでお亡くなりになった方が2020年には年間で3000人程度となった(2020年12月15日執筆時点)。
 対するに1990年代末期~2010年代初頭の年間自殺者数は毎年約3万人であった。しかし2012年からのアベノミクス効果で、以降は年間2万人に減少――アベノミクスが万能の理論だと云っているのではないので念のため。もちろんまったくのムダであったということもアリエナイのだけれども――。
 つまり、「経済苦境」が生じれば年に1万人くらいはそれで自死を選ぶのであろうことと比較考量すれば、そして今後数年は20世紀前半の世界大恐慌レベルの経済状況となることから、年間自殺者数がさらに2万人くらいは増加して4万人くらいまで上がってしまう可能性があるのならば、アメリカのように新型コロナで数十万人が死んだというのならばともかく、3000人と数万人の生命を苦渋の上で天秤にかければ、医療崩壊をさせない範疇で「GoToトラベル」や「GoToイート」なども駆使してそれらの業界に救いの手を差し伸べるのは正しいとすら思うのだ。
――毎度、無知な御仁はコレを日本独自の政策だと思っているようだが、EU諸国が先鞭を付けた政策であることの後追いであることも念のため――


 「GoToトラベル」よりも休業要請して保証金を払えばイイという意見もある。しかしコロナが完全に終息する見込みなどあるのだろうか? ナイだろう。
 「観光業界」の関連人口が約1000万人。「飲食業界」が約500万人。彼らに未来永劫、永遠に休業補償をするべきなのであろうか? コロナが下手をすると数年~数十年単位で終息しないことがあるならば、「飲食業界」や「観光業界」の完全復活はムズカしいことになってしまい、そこで就業する個々人に対しては別の業種への転換を促すしかなくなるだろう。そうなると、永遠に休業補償を与えるような政策にも現実性を感じない。


 ここで連想するのが2020年4月に決定した国民全員に対しての「一律10万円の支給」である。現在の日本人の人口は約1億3千万人。つまりコレにより総計13兆円が一挙に支出されたことになる。
 対するに日本の税収(歳入)は60兆円程度である。つまり税収の1/4がコレで消えたのだ(汗)。
 国民全員に国家が金銭を支給する「ベーシック・インカム」という制度についての議論がある。左派連中はいかにもこの制度が人道的にも優れた万能な制度のように喧伝している。
 しかし1人10万円を月1回支給すれば13兆円×12ヵ月で260兆円が必要なことになる。税収をはるかに超える支出を必要とするこの制度が実現するとはとても思えない。
――そこで「国家財政」と「家計」とは異なるものであり、国家には「貨幣」や「国債」発行の機能があり、「国債」を購入する主体が外国政府ではなく国内銀行であるならば単純な「債務」にはならずに「資産」ですらある……といった今流行りの「MMT理論」を反論に持ち出してくるのならば検討の余地はあるのだが、そーいう理論的なウラ打ちや補強を彼らがすることは今のところはナイのであった(汗)――


 しかし、コレだけコロナ禍による事態の推移が早いと、言論人であろうがSNS上でのアマチュア論壇であろうが、その場かぎりの曲学阿世で平気でその言説を翻している輩も見えてきてしまって実に興味深い。
 日本人の一斉「自粛」を批判して反旗を翻す意味でも20年3月下旬に箱根に行って少しでも「観光業界」を潤したと語っていた左派のコメンテーター・青木理(あおき・おさむ)ほかは、今では「GoToトラベル」を否定するのが流儀となっている――しかも批判をしたソバから「GoTo」を利用して旅行に行ったとも云っている(爆)――。
 彼らは20年春~初夏にかけては、「飲食業界」や「夜の業界」を主要な感染源と見なして「自粛」を求めることを、当初は「特定業種」に対する差別であり、営業自粛を求める声を「自粛警察」と呼んでいた。
 ならば、「観光業界」や「飲食業界」などの「特定業種」に自粛や休業を実質的に求める「GoTo」批判も「自粛警察」そのものでありダブルスタンダードだともいえるだろう。
 加えて、感染拡大を防ぐための「GoTo」批判と同様の純然たる「防疫」面から中国人観光客の流入制限を唱えた御仁たちをも「排他的ナショナリスト」だと罵倒していたこととの整合性もドー取るのであろうか?
――そーいえばフランスのマクロン大統領も当初は国境を閉ざすべきではナイと主張して、南隣りのイタリアからのコロナの流入をやすやすと許していた(「人道」と「防疫」を混同するとは愚かなり)――


 まぁもちろんシッカリと定まった立脚点があっての発言ではなく、単に時の政権をディスりたいだけの発言であることもわかる。
 20年2月末の幼稚園~小中高の「学校一斉休校」も時の政権が先に発動したから「無意味だ!」「強権発動だ!」とガナっているのに過ぎない。時の政権がノロノロとしていたならばその逆に「早く一斉休校にしろ!」「子供の生命と健康を守れ!」と叫んでいたのは間違いがないのだ。
 それが証拠にその1ヵ月強後には早くも馬脚を現わす。20年4月の上旬になると彼らは「早くロックダウンしろ!」「早く緊急事態宣言を発せよ!」と政権に「強権発動」を促すのだ(汗)。
 ここから察するに、時の政権が先に「緊急事態宣言」を発すれば、彼らはコレを「戦前への回帰につながる」という論法で反対したのに違いないのである。
 ただし、当方は時の政権への擁護もしない。野党やマスコミの反発を恐れて、むしろ逆に彼らの方が促すようになってきてから「緊急事態宣言」を発する、世間の声に「耳を傾けすぎる」政権の行為を高等戦術などではなく実に不甲斐ナイと思うのみである。


 20年3月になるや欧米ではロックダウンが始まり、北欧のスウェーデンを除く欧州諸国も学校を「一斉休校」にしたが、コレを自身に不都合と見てかサヨク連中は黙殺する。
 このスウェーデンの休校はナシという施策を愚策としてモーレツに批判した、初夏においては自国の施策を「K防疫」として世界標準モデルになったと豪語していた韓国はその点ではスジが通っている。日本でも「K防疫」を見習えと云っていた御仁はスウェーデンをも批判すべきであろう(笑)。
――個人的には給食も含む学校空間とは「3密」の典型ともいえるので、子供たちは無症状感染でもココを起点に同居家族への感染が広がっていると考えるのが科学的であるとは思うのだけど、コロナがエボラ出血熱ほどの致死性もナイ以上は、子供たちの集団生活体験の効用とも天秤をかければ、大変心苦しいのだけれども高齢の方々にはややリスクをかぶってもらうしかナイのかな? とも思ってはいる(汗)――


 要は彼らの発言にはシッカリとした立脚点などはナイ。その場かぎりの矛盾に満ち満ちた単なる「カウンター」や「反論」でしかなく、「政策」提言型のオルタナティブではないのである。まぁ今回のコロナで始まったことではないので驚きもしないのだけれども。
 いや、時の政権に迎合せずに常にその反論を張るのが「民主主義」なのだという意見もある。しかしコレは怪しい。多方向の陣営から「求心的」に上がってきた「政策」を突き合わせて「熟議」をしていくのが真の意味での「民主主義」のハズである。
 しかし、彼らがしていることは常に反対をする全否定であって、特に定見があるワケでもないのに物知りぶったり、したり顔で溜め息まじりに嘆いてみせて、「熟議」や「提言」からは逃走する「遠心的」で「無政府主義」的なふるまいであり、筆者には彼らの行為こそが「議会制民主主義」を破壊する行為であると見える。


 ある種の「赤勝て白勝て、巨人か阪神か」レベルで政治を見ている御仁はこのような行為に拍手喝采の念を覚えているのであろうが、特に「右」でも「左」でもなく個々の「政策」ごとに「是々非々」で判定をくだしているような御仁たちは、このような言説活動ではサヨク政党を支持・投票することはアリエナイことも指摘しておきたい。


 エッ? 何が何でも「自民党」を支持する岩盤支持層? 自民党員なんて100万人しかいないのだ。総人口の1億人で割れば1パーセントなのだから、そこが支持をすることで自民党政権が継続できていると思うのは浅はかである。
 もしも「左派」の立場に立つのだとしても、非・自民でありさえすれば小池百合子の「都民ファーストの会」や「希望の党」や「大阪維新の会」やかつての「みんなの党」などにも勝たせて、「自民党」を少しずつ弱らせて中長期で「左派陣営」を有利に持っていくという戦法もあってイイはずなのだが、それらが古典的な左派政党――ぶっちゃけ「社民党」や「共産党」――ではないことから、毎日・朝日・東京新聞は選挙時に彼らに対する大反対キャンペーンを展開して、「希望の党」や「大阪維新」は弱らせても結果的に「自民党」の圧勝を助けてしまっている。
 大局や中長期を見据えた展望がない短慮だとしか云いようがナイ。まぁ自分で自分たちの首をせいぜい絞めてくれ。彼らが一度滅びたところで、何でも反対ではなく政策提言型の健全な「オルタナ左翼」政党が誕生するかもしれないのだから。


 世田谷区やニューヨーク州で唱えられている全住民に対する「PCR検査万能論」も、1日あたりの検査可能数を小学生レベルの割り算で考えても、それが達成されるのには数年を要するのでは? 未開の原始人ではないのだし二次方程式連立方程式を解くワケでもない小学生の「四則演算」レベルの話なのだから、もっと計量的に考えようヨ~、という話もしたかったのだけど毎度、文量が長くなりすぎてしまったので機会を改めたい。



 ……とはいえ、100年前のスペイン風邪も2年目の方が強毒化して若者の致死率も高くなったのだそうだから、そのような大前提が変わってしまうと上記の論法も相対化がされてしまう。その際には固執せずに、理由と釈明ととともに自説も弾力的に変容させていく所存である。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.86-PART2(2020年12月27日発行)所収)


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ウルトラマン超闘士激伝 ~オッサン世代でも唸った90年代児童向け漫画の傑作!

(2021年2月7日(日)UP)
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 歴代ウルトラマンたちが大宇宙を舞台に大活躍を繰り広げるネット番組『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』(20年)が配信完結記念! とカコつけて……。ウルトラ一族が大宇宙を舞台に活躍する作品の元祖のひとつでもある、90年代児童マンガの傑作『ウルトラマン超闘士激伝』評を発掘アップ!


ウルトラマン超闘士激伝』 ~オッサン世代でも唸った90年代児童向け漫画の傑作!

(文・久保達也)
(2010年7月26日脱稿)


 筆者を含めた70年代に少年時代を過ごした者たちは、かの内山まもる大先生・かたおか徹次先生などが小学館の学習雑誌や児童漫画誌コロコロコミック』で描いてきたウルトラシリーズのコミカライズ作品や、ウルトラ一族が大宇宙を舞台に活躍するオリジナル展開漫画『ザ・ウルトラマン』(ASIN:B017TYZ8H4)や『ウルトラ兄弟物語』(ASIN:B07TTLQXKN)などに夢中になってきた。
 80年代前半にも、5年もの長きにわたって幼児誌『てれびくん』において居村眞二(いむら・しんじ)先生によるウルトラシリーズのオリジナル漫画にして、鎧(よろい)を着用した新たなウルトラ戦士、アンドロ警備隊のアンドロメロスとウルトラ一族が、大宇宙どころか時間跳躍やタイムパラドックスまで織り込まれていた名作漫画『ウルトラ超伝説』(ASIN:B002DE75TK)が連載されていた。


 しかし、90年代にも4年間にもわたって当時の少年たちに向けたウルトラシリーズのオリジナル展開の傑作漫画があったのだ!
 それが講談社の月刊の児童漫画誌コミックボンボン』(81~07年)において、93年4月号から97年3月号にかけて連載されていた『ウルトラマン超闘士激伝(ちょうとうし・げきでん)』(原作/瑳川竜(さがわ・りゅう) まんが/栗原仁(くりはら・じん)・ISBN:4063216853)である!



内山まもる入ってる! ――というのがかつて「コミックボンボン」(講談社)誌上で見かけた『超闘士激伝』の第一印象だったりするのだケド、懸命なる「ボンボン」読者世代にとって、そんなコト無縁には違いない。
 にも関わらずそこから話が始まってしまうのは、この『激伝』に溢れる熱き「ウルトラ魂」こそかつて内山まもる小学館の学習雑誌で描き、後に「コロコロコミック」誌での再録によって70年代末から巻き起こる、俗に“第3次怪獣ブーム”と呼ばれるムーブメント起爆剤のひとつになる快作『ザ・ウルトラマン』(というのは再録時の改題。もちろん79年4月放送開始のアニメーション番組とは無縁)の後継者たる資格アリ、とこちらが勝手に判断してのコトなのだケド……


 もちろん、この平成の世に繰り広げられる『激伝』には、周到なマーケティング・リサーチによって導き出された(に違いない)格闘色の強調や、例えば装鉄鋼(メタルブレスト)といった「バンダイ・ベンダー事業部」&「コミックボンボン」誌が『SDガンダム』――引用者註:2頭身の児童向け玩具(85年~)――で培ったノウハウの転用によるガジェットの充実、といった魅力的なエレメントは詰めこまれている。
 でも『激伝』を読んで唸らされるのは、やっぱし過去の『ウルトラ』シリーズにおける設定を、過剰なまでのオマージュを込めて再生産しようとする、その姿勢にこそ、だったりするのデスネ。


 事実、現在商業誌で展開されている漫画で、これほどまで“ワカる奴だけ大喜び”的にツボを突いている作品は、ちょっと他には見当たらない。
 しかも、そのツボが、熱血少年漫画としての『激伝』の世界観の枷(かせ)になるコトなく、否(いな)、それどころか世界観をヒートアップさせるべく組み込まれているコトには、驚かされると同時に、怒涛(どとう)のような感動を覚えずにはいられないノダ。


 例えば、金子修介伊藤和典樋口真嗣といった“ゴジラで育った世代”が、新作『ガメラ』シリーズで、多くの“自分たちと同じ魂を持つ観客”を納得させ、かつ新たな観客層を取り込んでいるように、原作者・瑳川竜&栗原仁“ウルトラ(それも第2期の!)で育った世代”コンビはこの『激伝』で、それに非常に近い地平を目指し、かつ到達できてんじゃないかなあ、と思うのだ。
 もちろん前者が“一般層”を、後者は、“少年層”を切り拓こうとしている、という違いにはあるにせよ」


(『ウルトラマン超闘士激伝 オリジナルサウンドトラック』(エアーズ 96年9月21日発売・ASIN:B000064C7F)ライナー・ノーツ「EXPLANATION」赤星政尚)



 いやぁ、のちに『ウルトラマンメビウス』(06年)のメイン脚本家を務めた、当時はまだ一介のライターに過ぎなかった赤星政尚(あかほし・まさなお)先生(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)にこのような立派な作品解説を書かれてしまっては、筆者ごときが何を書いても蛇足になってしまうなぁ(汗)。



 この『ウルトラマン超闘士激伝』に小学生のころに「ウルトラ魂」を植えつけられ、成人してもそれが離れない世代人はかなり多いようである。
 ネット上の「復刊ドットコム」には、実に同作が完結した4年後の、今から思えばまだまだネット草創期の2001年ころから、すでに復刊を求めるリクエストが多数寄せられ続けていたのである。


 復刊を求めていた声を総合すると、以下の通りである。
 講談社から全6巻で刊行された『ボンボンコミックス』レーベルの単行本には、シリーズ途中までのエピソードしか収録されていない。それらの続きとなる、それまでの巻数と同等(爆)のエピソードが未収録である。それらも含めた完全版での復刻を! といった声が多数を占めている。


 その当時に子供向けのガシャポン自販機で発売されていたミニフィギュアを熱心に集めていたという声も実に多かった。
 そして、連載自体が97年3月号までに急場しのぎのように完結しており、それを残念がる声も根強いものがあったのだ。


 そうして、最初の復刊希望からまる10年近い歳月を経(へ)て、遂に2009年12月20日に第1巻(ISBN:4835444094)が発行されたのを皮切りに、2010年3月1日に第2巻(ISBN:4835444108)、5月1日に第3巻(ISBN:4835444116)、7月1日に第4巻(ISBN:4835444124)と、未収録部分も含めて完全なかたちでの完全復刻がめでたくなされたのである!


 筆者は連載当時はすでに20代後半であり(汗)、本作に登場するスーパー・デフォルメの略称であるSDキャラたちはあちこちで目にした記憶はある。しかし、SDキャラゆえに「どうせギャグものだろう……」と関心が低かった。さすがに児童漫画誌である『コミックボンボン』を立ち読みすることも気恥ずかしかったので、この作品に関しては実はほぼノーマークだったのだ。


 それで、今回の復刻を契機に改めて読んでみた。


 ……ムチャクチャおもしろい!!


 本作の作風・ストーリー展開・キャラクターは、『週刊少年ジャンプ』連載の超人気漫画で、長年テレビアニメも放映されていた、いまだに根強い人気を誇るバトル漫画『ドラゴンボール』(84年~)に似ているとよく評されている。


 しかし、オッサンの筆者としては幼少期にぎりぎりカスった、クラスの中での番長を決めて、次は学年の番長 ⇒ 上級生の番長 ⇒ 隣町の番長 ⇒ 県規模での番長 ⇒ 関東規模での番長 ⇒ 日本規模での番長 ⇒ アメリカの番長(笑)と戦う、「町内最強武闘会」のはずが、国家同士の戦争レベルにまで発展してしまう、『週刊少年ジャンプ』創刊当初から連載されていたという往年の大人気漫画『男一匹ガキ大将』(68~73年)を想起してしまう(汗)。


 後年のジャンプ漫画のすべてが同じだろうが、要するに敵のスケールが次第に大きくなっていったり、以前の敵が味方となって新たな強敵に共に立ち向かうところに、共通点が見いだされるのである(笑)。


第1部『メフィラス大魔王編』

ウルトラマン超闘士激伝

*93年4月号『銀河最強武闘会開幕』
*93年6月号『謎の覆面格闘者』
*93年7月号『優勝者決定!?』
*93年8月号『恐怖のハイパーゼットン
*93年9月号『セブン復活指令』
*93年10月号『試練の星キング星』
*93年11月号『鋼魔(こうま)四天王あらわる』
*93年12月号『ウルトラ戦士集結』
*94年1月号『闘士ウルトラマンの帰還』
*94年2月号『宿命の対決!』
*94年3月号『最終決戦!!』


 ウルトラマンたち巨大超人一族や巨大怪獣や宇宙人、そして地球の防衛組織までもが参加する、宇宙最強を決める「銀河最強武闘会」が「銀河連邦」(!)の主催で行われるところから物語は始まる。
――この「銀河連邦」とは1972年に円谷プロが自社製作の作品群はすべて同一世界の物語である! と定義した際の総称である。その後に定着しなかったウラ設定ではあるのだが・笑――


 はるかなる太古よりこの宇宙に伝わる伝説の最強戦士、「超闘士」(ちょうとうし)となる可能性を秘めている初代ウルトラマンの力を暴こうとする謎の覆面選手。


 その彼と手を組んだのが、初代『ウルトラマン』(66年)第39話(最終回)『さらばウルトラマン』で、初代マンを一度は殺害したことがある超強敵怪獣・宇宙恐竜ゼットンだった!


――本作に登場する巨大怪獣たちは皆、意思を持っており人語もしゃべるが、絵柄がSD調であるためか違和感は少ない・笑――


 ウルトラ兄弟 VS 歴代強敵怪獣たち! あまたの対戦カードでの激戦が展開される!


 その果てに、初代マンは謎の覆面戦士と対戦した!


 難敵相手に苦戦する初代マン。決勝で当たるだろう対ゼットン戦用に温存していた隠し球を、初代マンは遂に使用せざるをえなくなる。


 両腕を十字型に組んだスペシウム光線の構えから、伸ばしていた両手のひらをグッと握って、左右の腰許まで引いてから右拳だけを突き出す、いわゆるアタック光線の構えで、新必殺技スペシウム・アタックを放つ初代マン!!


 この光線に押された謎の覆面戦士は、余力を残した風でありながらもアッサリと降参。しかし、初代マンもエネルギーを使い果たし、倒れてしまって担架(たんか)で運ばれてしまう……


 控え室で横になって、しばしの休憩を取る初代マン。


初代マン「だめだ この負傷では(決勝戦の)ゼットンと互角にはやりあえん……!! もう…… だめか…!?」
科学特捜隊の隊員たち「ウルトラマン!!」
初代マン「きみたちは…… 地球の科特隊のみんな……!!」


 本作『超闘士激伝』は、ウルトラシリーズ番外編のテレビシリーズ『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080427/p1)や映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(ザ・ムービー)(09年・ワーナー・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101224/p1)での発想をはるかに先駆けており、ウルトラシリーズの未来の時代がその舞台となっている。


 そして、ここは良い意味で漫画なのだが、この未来世界には歴代ウルトシリーズの防衛組織がそれぞれ併存していて、「銀河最強武闘会」の舞台である「ウルトラの星」まで来ているのだ! 加えて、地球人の身長もウルトラマンたちのせいぜい1/3くらいの大きさで描かれている(笑)。
 まぁ、作品の絵柄的にもリアリズムが優先される世界観ではないし、身長比率の描写についてはデフォルメ表現だとして、読者諸兄の大勢も許せるのではなかろうか!?



イデ隊員もどき「これをつかってください。きゅうにあつらえたんで 見ばえはよくないけど……!」
初代マン「あっ!!!」
ムラマツ隊長もどき「あなたにはかつて地球をまもってもらった恩がある!(中略) ぜひこの装鉄鋼(メタルブレスト)をつかってやってください!!」
初代マン「……ありがとう!!」


 両胸・左肩・左上腕だけを覆った黒鉄(くろがね)の「装鉄鋼」を装着して、ゼットンとの決勝戦にのぞむ初代ウルトラマン


観客の怪獣A「なんだっ!? あの鎧みたいなのはっ…!!」
観客の怪獣B「ゼットンのパンチをモロにうけとめやがった!!」


イデ隊員もどき「ハ~ッハッハッハッ!! 見たかあ!! あれこそわが科特隊がプレゼントした巨大防御装甲「装鉄鋼(メタルブレスト)」だあーっ!!!」


観客の怪獣C「メタル……」
観客の怪獣D「ブレスト!!」


ムラマツ隊長もどき「ウルトラ戦士の急所カラータイマーをガードし 防御力を数段アップさせるプロテクターだっ!! あれを装着したウルトラマンこそ まさにきたえぬかれた武闘家が武装した最強戦士! 闘士(ファイター)ウルトラマンだ!!」


 「闘士ウルトラマン」となった初代マンは、強敵ゼットンを圧倒していく!


 初代マンが少しでも回復してくれる時間を稼ぐために、ゼットンとの準決勝で粘った末に昏倒したウルトラマンエース! エースの友情に報いるためにも、闘士マンはエースの必殺投げ技・エースリフター(!)を使って、ゼットンに大ダメージを与えた!!
――エースリフターもまたマニアであればご承知の通り、『ウルトラマンA(エース)』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070430/p1)第28話・第29話・第44話でも使用されたことのある技である!――


 敗北を予感したゼットンは、観客席にいた謎の覆面選手からのテレパシーでの指示で、授与されていたハイパーカプセルを砕く! その超エネルギーを浴びるや、ゼットンはハイパー化(強化)、筋骨隆々の姿となって暴走を開始した!
 その強大なるパワーにはウルトラ戦士たちが束になってかかっても抑えることができない!


 だが、「闘士ウルトラマン」は負けじと立ち上がった。
 闘士マンとハイパーゼットンとの拳と拳の応酬がはじまる!
 そして、ついに光線技ではなく、闘士マンによる高速突進による渾身の拳による一撃が決まった!


 闘士マンは遂にゼットンを倒して、「銀河最強武闘会」の優勝者となったのである!!



「『超闘士激伝』のスタートラインは元々バンダイさんで、SDキャラクターで『騎士(ナイト)ガンダム』――引用者註:『SDガンダム』の系列で、日本武者をモチーフとした『武者ガンダム』(85年)に続く、西欧騎士をモチーフとしたシリーズ(89年)――みたいな強力なものを新たに立てたいという話があり、いくつかあるビッグキャラクターの中からウルトラマンを選び、『激伝』の形のものを企画してバンダイさんに逆提案してスタートしました。
 その頃には『ボンボン』デビュー――引用者注:読み切りラジコン漫画『スカイボンバー一直線』(87年)――時の担当さんが編集長になっていたこともあって、漫画連載もスムーズに決まりました。


 企画の発進元だったベンダー事業部でカードやガシャポンになるという時に、当然本物のウルトラマンと『激伝』版には差があった方が良いだろうと、鎧(よろい)や剣といったトイ要素を入れることになり、ウルトラマンにプロテクターを着けました。


 物語のテイストとして考えたのは、『騎士ガンダム』は『ドラゴンクエスト』――引用者註:86年開始の云わずと知れた今でもシリーズが続く超有名テレビゲーム――をベースにした話になっていたので、(引用者註:週刊少年)ジャンプ漫画っぽいのが良いのでは? という話になり、バトルっぽい作風になったんです」


(『フィギュア王』No.139(ワールドフォトプレス・09年7月24日発売・ISBN:4846527891)「光の国◆人物列伝」瑳川竜 ~『フィギュア王』プレミアムシリーズ6『ウルトラソフビ超図鑑』(10年7月15日発行・6月1日実売・ISBN:4846528278)にも再掲載)



 本作におけるウルトラマンが鎧を着用するという設定の直接の発端は、内山ウルトラ漫画やアンドロメロスありきの発想ではなく、鎧や武装の着せ替え人形でもあるSDガンダムの亜流として発想されたことがこれでわかる。
 しかし、それがバンダイ側の発案ではあっても、単なるメディアミックスの一環としての漫画のストーリーの「原作者」レベルではなく、この企画の発端のタイミングに臨席していて、そこにウルトラマンを選定して格闘技漫画のスタイルとすることをも逆提案(!)してみせるという、「企画」「プロデューサー」級のポジションとしても、『激伝』の原作者・瑳川竜氏は関わっていたというのだ。まさに名実ともに『激伝』の産みの親だったといえるだろう。




 ……しかし、戦いは終わったワケではなかった。


 覆面戦士の配下である分身宇宙人ガッツ星人の謀略で、初代マンの親友・ウルトラセブンが透明な十字架の中に封じこまれてしまったのだ!
――もちろんこれは『ウルトラセブン』(67年)第39話~第40話『セブン暗殺計画』前後編で、セブンがガッツ星人によって透明な十字架の中に閉じ込められてしまった鮮烈なシーンへのオマージュでもある!――。


 殺害しないまでも中のエネルギーをゼロにしてしまう、特殊元素でできた透明な十字架。この状態からセブンを復活させるためには、膨大なエネルギーを秘めたダイモード・クリスタルが必要だと判明した。
 それを手に入れるために、初代マンはウルトラ一族の長老・ウルトラマンキングが住まうキング星へと向かう!
――ダイモード・クリスタルも、『セブン暗殺計画』前後編で十字架に囚われたセブンを復活させるために、同作の防衛組織・ウルトラ警備隊が必要とした、セブンに照射するマグネリウムエネルギーを発生させるための「ダイモード鉱石」が由来。後年の『ウルトラマンメビウス』終盤でのセブン客演編でも、同アイテムの発展型とおぼしき「メテオール・マグネリウムカートリッジ」なる新アイテムが登場していた――


 別名“試練の星”と呼ばれているキング星の砂漠地帯で、初代マンはかつて地球でも対戦したことがある、光線技の通じない蟻地獄怪獣アントラーと戦う!
――ウルトラマンキングはキング星にたったひとりで住んでいるというウラ設定があったハズだが、実際には初代マンに登場した中東の「バラージの街」そっくりの街も登場。地球の中東風の住民たちも多数住んでおり、少々違和感もあるのだけれども…… 許そう!・笑――


 苦戦の末にアントラーを倒して、初代マンはウルトラマンキングからダイモード・クリスタルを授かった!


 しかし、その留守をねらって、謎の覆面戦士、その正体はメフィラス大魔王(!)の配下である「鋼魔四天王」である4大・闘士(ファイター)!


・宇宙忍者バルタン星人が鎧をまとった、闘士バルタン星人!
・凶悪宇宙人ザラブ星人が鎧をまとった、闘士ザラブ星人
・誘拐怪人ケムール人が鎧をまとった、闘士ケムール人!
・三面怪人ダダが鎧をまとった、闘士ダダ!


 ひとりでも百軍に匹敵するという彼らが、ウルトラの星を襲撃してきたのだ!!


 ここからストーリーは完全に「銀河最強武闘会」を離れて、ガチの「戦争」へと転じていく!!


 ウルトラ兄弟たちジャック・エース・タロウも、4大強豪宇宙人の大猛攻に絶体絶命のピンチに!


 しかし、そこに当時はシリーズ最新の日豪合作作品でもあるウルトラ戦士であった筋骨隆々のウルトラマンG(グレート)が加勢する! グレートは『激伝』ではウルトラ一族が設立した宇宙警備隊には参加していない、はぐれ戦士であるという設定なのだが、強力なパワーファイターでもあるのだ!


 宇宙忍者でもある闘士バルタン星人の分身体である「PSY(サイ)バルタン」たちと単身で戦うことになったウルトラ兄弟の長男・ゾフィーもまたピンチに陥(おちい)る!


 しかし! そこにウルトラ学校の生徒たちを避難させたあとだという、ウルトラマンエイティが両腕をL字型に組んで放つ必殺技・サクシウム光線が炸裂した!!


――ウルトラマンエイティは『ウルトラマン80(エイティ)』(80年)テレビ本編の序盤(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100502/p1)では地球人の姿をしているときは防衛組織の隊員と中学教師も兼任していた。その設定をきちんと継承しており、ウルトラの星へと帰ったあとは、ウルトラ学校の教師をしていたのだという、さもありなんな設定も付与されての嬉しすぎる助っ人!――


 ウルトラの星に来ていた地球人の防衛組織もこの戦いに参戦! しかし、防衛組織・MAT(マット)の戦闘機・マットアロー2号が撃破されて墜落してくる……


 その機体をガシッと受けとめる巨人の手があった!


加藤隊長もどき(笑)「!!? ウ… ウルトラマンが… かえってきた!!?  いや…… ちがう!! ウルトラマンジョーニアスとU40(ユーフォーティ)戦士団だっ!!!」


――太陽エネルギーを補充するために一度は戦線を離脱したウルトラマンが、墜落していくマットアロー2号をガシッと受け止めて、操縦していたMATの加藤隊長が「ウルトラマンが……帰ってきた!」とつぶやくのは、『帰ってきたウルトラマン』(71年)第18話『ウルトラセブン参上!』からの引用でもある!・笑――


 そしてなんと! ここで助けに登場したウルトラマンは、第3期ウルトラシリーズのテレビアニメ作品『ザ★ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971117/p1)の主人公ヒーローであるウルトラマンジョーニアスなのである!
 しかも! ジョーニアスはM78星雲にあるウルトラの星とはまた別の星である、ウルトラの星・U40出自なのだが、同作の第20話『これがウルトラの星だ! 第2部』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090914/p1)で初登場して以降、度々ジョーニアスを加勢してきた、U40のウルトラマンであるエレクとロト! それに5大戦士たちも駆けつけてくれたのだ!!
 ジョーニアスのみならず、エレクやロトたちまで! この漏れなく総ざらいにしていくような感覚! 作り手たちは、よくある第1期ウルトラシリーズ偏重ではなく、ウルトラシリーズ全般を等しく愛するマニアたちの感慨をも、実によくわかっていらっしゃる!(笑)


 闘士バルタン星人がその両腕のハサミから超爆撃光線「バルタン・ミクスド・ファイヤー」で、ウルトラ兄弟たちを抹殺にかかった!
 しかし、ウルトラマングレートが敵の光線を受け止めてハネ返す秘技「マグナムシュート」で、逆に相手を撃滅させる!!
 けれど、バルタン星人は敗れたが、グレートも相討ちとなり昏倒してしまった……


 バルタン星人の敗退によってバルタン星人の分身体も消滅! 手透きとなったゾフィー・エイティ・ジョーニアスが、ジャック・エース・タロウの加勢へと向かった!
 しかし、四天王で残った3人の闘士宇宙人とウルトラ戦士たちとの激突で、双方ともにひとり、またひとりと欠けていく……


 そこに闘士ウルトラマンがキング星から遂に帰ってきた! ダイモード・クリスタルをウルトラの父や防衛組織・ウルトラ警備隊のアマギ隊員もどき(笑)に手渡すと、颯爽と戦場に到着!


 闘士マン VS メフィラス大魔王、今までとは段違いの強者VS強者の対決がはじまる! 
 互角の戦い! しかし、メフィラスはハイパー化して身の丈も倍になる! 闘士マンは大苦戦!


 エースの発案で、エースのトサカ部分のまるい穴、エネルギーホールに、ゾフィー・ジョーニアス・エイティは「スペースチャージ」する! エースがそのエネルギーを結集して、トサカから必殺光球・スペースQ(!)を放とうとするや……


 メフィラスが人差し指から放った光線が、エースのトサカ部分を砕いてしまう!! 後ろ向きに倒れてしまうエース!


――「スペースチャージ」とは、『ウルトラマンA』第13話『死刑! ウルトラ5兄弟』で、マイナス宇宙にあるゴルゴダ星でウルトラ4兄弟たちがエースだけを地球に返すためにエネルギーを分け与えた「ウルトラチャージ」と、続く後編である第14話『銀河に散った5つの星』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060805/p1)で披露された5兄弟のエネルギーを結集した必殺光球「スペースQ」を混同した誤記だと思われるが、エースのエネルギーホールに限定してチャージ(充電)する行為を「スペースチャージ」と称しているのかもしれない・笑――


 メフィラス大魔王が闘士マンにトドメの超魔光閃(ちょうまこうせん)をその片腕から放とうとした瞬間! なにかが片腕に当たって光閃の軌道がそれることで、闘士マンをかろうじて救った!
 それはウルトラセブンのトサカ部分を外して放つ、宇宙ブーメランであるアイスラッガー


 ダイモード・クリスタルの超エネルギーで復活し、防衛組織・ウルトラ警備隊から託された「装鉄鋼」を両肩と両脛(すね)にまとった「闘士(ファイター)ウルトラセブン」が駆けつけてきたのだ!


 しかし、闘士マンと闘士セブンの力をもってしてもメフィラス大魔王を倒せるかは厳しい! 闘士セブンの発案で、セブンのアイスラッガーゾフィー・ジャック・タロウ・グレートがエネルギーをチャージする!
 闘士マンはそのアイスラッガーを片手に握って渾身の一撃! 遂にメフィラス大魔王を打ち破ったのであった!!




 本作の独自性は、内山まもる大先生のウルトラ漫画で前例はあるものの、ウルトラマンが鎧を装着したことだろう。



「鎧はちょっとな。もはやウルトラじゃないよな」
龍騎(『仮面ライダー龍騎(りゅうき)』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021109/p1))もカードバトルがそんな風に論争巻き起こしたけど、マーチャンダイジング的には大成功してシリーズの裾野を広げた。売れそうな冒険なら議論を呼んでもウルトラでやってみてもいいんじゃないだろうか」
「鎧のウルトラマンって準備稿ではあったみたいだね。今回日の目を見たわけだ」
「(ウルトラ)セブンのデザインは西洋の甲冑をイメージしたそうだけどね」
「たとえば、地球人が巨大ロボ操縦して、子供がウルトラのフィギュアと連動遊びができるように、劇中でもロボが鎧に変形してウルトラマンと合体するおもちゃ出すとか」
「そこまでやるなら別のシリーズを立ち上げればいい。鎧なら(ウルトランマン)ヒカリが持ってるし、(ウルトラマン)ゼロも(テクター)ギア着けてるけど、ウルトラマン本来のかっこよさには及ばないよ。『激伝』みたいにすれば別だけど。そもそも(仮面)ライダーみたいな装着系と同一視するのはおかしいと思う」
「そこでアンドロメロス(『アンドロメロス』(83年))の復活でつよ(°∀° )!」
「『超闘士激伝』ぐらいの鎧なら良いな。顔が隠れたりウルトラマンのスタイルを損なうような物はNG」
「デカレッド・バトライザー(引用者註:『特捜戦隊デカレンジャー』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041112/p1)後半の強化形態)みたいな感じならウルトラマンの顔も隠れないしいいかも。鎧に変形する防衛戦闘機を操縦する地球人との友情が形になった姿って感じで。そんな感じでとにかくおもちゃがドンドン欲しくなる展開をしていって、まずマーチャンダイジングで成功して欲しい」
平成ライダー仮面ライダーメタルヒーローだから、ウルトラマンも他の円谷ヒーローの要素を+してもいいんじゃないか? どうせウルトラマン以外をやる余裕なんてないだろ。超闘士・メロス・グリッドマン(『電光超人グリッドマン』(93年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190529/p1))みたいにアーマー装着したり、ウルトラマンがメカ怪獣みたいなものに変身すれば玩具も売れやすい。賛否両論だろうが宇宙を守るヒーローとしての軸がぶれなければ何をやっても許せる」


2ちゃんねる「特撮!」掲示板『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』Part19 2009年12月21日~2010年1月6日)



 映画『ウルトラ銀河伝説』感想スレ(ッド・掲示板)のハズなのに、玩具展開の是非やウルトラマン武装をすることの是非についての論争に転じてしまっている(笑)。


 『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)のころにはティガが赤・紫・銀の標準の姿であるマルチタイプから赤&銀のパワータイプや紫&銀のスカイタイプにタイプチェンジするという程度のことに対してさえ、「商業主義」だ! などという素朴な批判がおどっていたものだ。
 それを思えば世間もやっと追いついてきたどころか、2010年現在でのウルトラシリーズにおけるウルトラマンの在り方を超えており、はるかに将来を見据えている提言をしている!


 60~70年代のむかしの子供たち向けではなく、アニメやゲームなどとの競争も激しい当今の子供たちの興味関心をゲットするための意匠やアイテム、商業的な収益をも見据えた現実的な提言まで主張してくれているのだ。
 こういった意見は90年代から特撮評論同人界でもごく少数あるにはあったのだが、ほとんど世間一般・特撮マニアの大多数への影響力はなかった(爆)。
 しかし、『激伝』世代がようやく発言権を得てきたためか、商業誌の読者投稿欄や同人誌などといった意見交換に数ヶ月ものタイムラグを要する媒体とは異なり、ネットという媒体自体が議論や個人の見解の変化のスピードを加速させるのか、これまであまり一般的ではなかったタイプの意見が、00年代以降に勃興したネット上の超巨大掲示板で可視化されて、先進的な議題となるに至っているのである。


 「闘士ウルトラマン誕生」の瞬間は、「ウルトラマンとはかくあらねばならない!」というドグマとは無縁な子供時代に『激伝』に接した彼らの世代の大勢からすれば、特に気張って興奮したり、その逆に反発されることもなしにナチュラルに受容されたものだと思われる。
 しかし、筆者のような古い世代からしても――といっても70年代前半が原体験である第2期ウルトラ世代だが――、「鎧」の着用に地球を守ってくれた恩があるからと「装鉄鋼」を科学特捜隊がプレゼントしてくれるという理由付けをきちんと与える描写については、「ジ~ン」と心の琴線(きんせん)にふれてくるものがあるのだ。


 古くはテレビアニメ『ザ★ウルトラマン』最終章4部作(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20200508/p1)という前例があるにせよ、近年の『ウルトラマンメビウス』や映画『ウルトラ銀河伝説』のように、地球人の方が逆にウルトラマンを助けるという設定の、ある意味では先駆けですらあるのだ!
 「長年の功労に対する恩返し」「地球人がウルトラマンを助ける」。この2大エクスキューズも設けることで、ウルトラマンが「鎧」を着用することに抵抗があるような、年長のウルトラシリーズマニアたちの反発もやや緩和されるようなワンクッションもある描写に昇華できていたとも思うのだが、いかがだろうか?



 なお、「イデ隊員もどき」「ムラマツキャップ(隊長)もどき」「アマギ隊員もどき」(笑)などについては、以下のような経緯があったそうだ。



「当初、科特隊などの防衛軍は、肖像権の問題があるため、似せないで描く事になっていた。が、連載前のキャラシートにふざけて描いたら、ちょっとウケて「これだけふざけて描いてあったら別人でしょう」と、GOサインが。万が一クレームがついたら、「別人」で押しとおすつもりだったのだ。(たぶん)」

(復刻版『ウルトラマン超闘士激伝』第1巻カバー内表紙「激伝ひみつメモ」栗原仁)



 そのようなワケで、『ウルトラマンA』の防衛組織・TAC(タック)の「今野(こんの)隊員もどき」をはじめ、頭身も縮めた大幅なデフォルメではあっても、元ネタの俳優さんたちにそっくりである(笑)。


第2部『ヤプール編』

ウルトラマン超闘士激伝 2

*94年4月号『第2回銀河最強武闘会開幕』
*94年5月号『復活! メフィラス大魔王』
*94年6月号『怪僧マザロン』
*94年7月号『デスマッチ開始!』
*94年8月号『決定! ベスト4(フォー)』
*94年9月号『マザロン豹変』
*94年10月号『ハイパーマザロン』
*94年11月号『最強タッグ結成!』
*94年12月号『超闘士誕生!!』
*95年1月号『ヤプール軍団総攻撃!』
*95年2月号『超闘士ウルトラマンタロウ
*95年3月号『メビウスの三つの鍵』
*95年4月号『最強闘士(ファイター)集結!!』
*95年5月号『怨霊超獣あらわる!!!』
*95年6月号『ハイパーヤプール
*95年7月号『宇宙最大の危機』
*95年8月号『闘士(ファイター)ウルトラマン復活!?』
*95年9月号『テリブル・ゲート オープン』
*95年10月号『ヤプール大戦終結!!』


 惑星・Q-49で「第2回銀河最強武闘会」がループ星人ヤンドの主催で開かれた。
 激戦の末に、闘士ウルトラマン・メフィラス大魔王・闘士エースキラー・怪僧マザロンがベスト4に勝ち残る。


 しかし、マザロンはヤンドの配下としての本性を現わす! 対戦相手でありロボットでもある闘士エースキラーをかつて製造したのは自分なのだと!!
 この一言で自身もかつては異次元人ヤプールの手先であったエースキラーも、マザロンの正体に気付いた! ヤツはヤプール人の一味だったのだ! マザロンはその怪力でエースキラーを自身の「オモチャ」だったとして破壊してしまう!!


――怪僧マザロンの原典であるマグマ超人マザロン人も、『A』の埋もれている大傑作である鬼才・真船偵(まふね・ただし)脚本&監督作品の第24話『見よ! 真夜中の大変身』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061015/p1)の前話に登場した怪僧こと通称・ヤプール老人がマグマの中で変身した姿であって、ヤプール人のひとりでもあるのだから、それを踏襲して、この怪僧マザロンもヤプール人のひとりだったという描写を与えているのだ! そして、ヤプール人のひとりであるのならば、かつてエースキラーを製造したことがあったとしても不思議ではないのだ!――


 闘士マンとメフィラス大魔王は協力してマザロンを一度は倒すが、マザロンはハイパー化して、闘技場を爆破しようとする!


 闘士マンはメフィラスとハイパー化のためのエネルギーを合わせて、観客席を除いた競技場のグラウンドまるごとマザロンと爆弾を無人の惑星に超テレポーテーション(瞬間移動)させる!
 だが、エネルギーを使い果たした闘士マンは力尽き、ハイパーマザロンから彼をかばおうとしたメフィラスも倒れて、遂に超空間時限爆弾が大爆発してしまう!


 「友」となったメフィラス大魔王を守りたい…… その想いは、超空間時限爆弾の大爆発の中で、「その拳は惑星をも砕き、その輝きは暗黒の宇宙をも光で満たす」という、伝説の最強戦士「超闘士(ちょうとうし)」としての初代ウルトラマンを誕生させた!
 「超闘士ウルトラマン」はその開いた右掌を突き出して「スペシウム超光波」を上空に放った! ……遂にハイパーマザロンを打ち破る!!


 しかし、そのすさまじいパワーは初代マンの肉体をも破壊してしまい、駆けつけたウルトラ戦士たちとメフィラスの前で、初代マンは超光波を放った直立不動の姿のままで帰らぬ人となっていた……


 おもわず号泣してしまうメフィラス大魔王……


 帰るべき肉体を失った初代マンの魂は、死後の世界・霊界でもある「あの世」をさまよい、そこで霊界にも出入りができる超能力を持ったウルトラ一族の長老・ウルトラマンキングと出逢った。
 キングはこの3次元世界である「この世」では物理的な機械にすぎないウルトラの星の人工太陽であるプラズマスパーク核融合装置の、天上世界における本体・精神・魂でもある「太陽神」(!)の存在を説明して、女性のような声で語りかけてくる「光」だけの存在である「太陽神」に初代マンの肉体を復活してくれるように懇願する。
 しかし、承諾はされたものの、それには3年もかかると告げられてしまう!


 極悪宇宙人テンペラー星人からウルトラ司令室に送られた通信で、ループ星人ヤンドの正体がかつてエースやタロウらウルトラ一族とも戦った異次元人ヤプールであることが判明する!


――この場面でのテンペラー星人の回想映像では、たむろしている居酒屋で地獄星人ヒッポリト星人・暗殺宇宙人ナックル星人といった、歴代のウルトラシリーズでも前後編の2話にわたってウルトラ兄弟を苦しめた強豪宇宙人たちがそろっている。後年の映画『ウルトラマンメビウスウルトラ兄弟』(06年・松竹・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070128/p1)や映画『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』(08年・松竹・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101223/p1)でも、強豪宇宙人連合として復活したメンツでもあり、強豪は強豪同士でつるんでいるというのもまた、実によくわかっていらっしゃる!・笑――


ヒッポリット星人「い、いま宇宙に生き残っている超獣たちの生みの親だったという(ヤプール)……!」


エース「昔オレが…… 必死の思いでやっつけたヤプールが下の下のヤツだったなんてっ……!!」



「あともう一点ビジュアル的には、自分が内山まもる先生の『ザ・ウルトラマン』世代で、ウルトラマンが大勢出てくるバトルストーリーっていうのに慣れていたので、内山先生風のスッキリした顔立ちが一番合っていると思い、じゃあ内容的にも、ウルトラシリーズの全内容を網羅したサーガ的な要素も取り入れようということであの形に落ち着いたんです」

(『フィギュア王』No.139「光の国◆人物列伝」瑳川竜 ~『フィギュア王』プレミアムシリーズ6『ウルトラソフビ超図鑑』にも再掲載)



 そう。歴代のウルトラマンたちが登場しながら、原典のテレビシリーズとはまったくの無関係であるとされてしまっては、なぜにそこにウルトラマンというキャラクターを用いているのか? という地に足が着かない不自然さ・不安定・不如意感が作品世界に生じてしまったことだろう。
 しかし本作は、完全パラレルストーリーなどではなく、あくまでもテレビシリースでの出来事も史実として肯定して、その世界とも直結している未来の時代での一応はアリエそうでもある続編世界の後日談とすることで、SD調のキャラデザと鎧を着用するという変化球でありながらも正統な血筋であるサラブレッド感も醸し出すことができているのだ!


 この異次元人ヤプールも、ウルトラシリーズを昭和の『仮面ライダー』シリーズのような単なる善VS悪との攻防劇に堕落させた張本人だ! と70年代~90年代にかけては第1期ウルトラシリーズ至上主義者たちからは糾弾されてきた存在なのだ。
 しかし、各話単位のゲスト悪役、あるいは前後編のかたちでウルトラ兄弟を苦しめた強豪宇宙人をも超えた、大きなスケールを有する強敵といったら、やはり「怪獣」よりも強い生物兵器「超獣」を製造した『A』のシリーズ前半の宿敵を務めた異次元人ヤプールだろうから、実に納得がいく巨悪としての再登場だ!
――次作『タロウ』で「超獣」よりも強い「宇宙大怪獣」が登場したことには目をつむろう・笑――



 数日後、全宇宙にヤプール超獣軍団(!)の一斉攻撃もはじまってしまった!
 大蝉超獣ゼミストラ! 大蛍超獣ホタルンガ! 気球超獣バッドバアロン! 絵面的にはビミョーだが、初戦の三下のヤラれ役としてはちょうどイイ!(笑)


 防衛組織・ウルトラ警備隊の戦闘機・ウルトラホーク1号にそっくりのホーク・ウェポン1号の両翼に両足で立って乗っかった闘士ウルトラセブンがそこに駆けつけてくる!


闘士セブン「H(ホーク)・W(ウェポン)1号!! アームドアップ!!!」


 ホーク・ウェポン1号が3機に分離して、セブンの背中の鎧と剣と盾になる!
 ホークウェポンでパワーアップした「フルアーマー闘士ウルトラセブン」をリーダーに、一致団結したウルトラ戦士・怪獣・地球人連合軍 VS 異次元人&超獣軍団 との全面戦争がはじまった!
 キングジョー・ガメロット・クレージーゴン・ビルガモといったロボット怪獣たちもウルトラ戦士たちに加勢する!


 そして、この「ヤプール編」の後半から、初代ウルトラマンが主人公ではなく、ヤプールとの因縁が深いウルトラマンエースでもなく(笑)、ウルトラマンタロウが新たな主人公に昇格するのだ!


 大戦のさなかなのだが、ヤプールの首を討ち取って戦争を終結させるために、メフィラス大魔王は闘士タロウを連れて修行の旅に出る。
――本作の原典(爆)である『ドラゴンボール』で、ナメック星人・ピッコロ大魔王が、一度死んでしまった主人公・孫悟空(そん・ごくう)への贖罪か、その息子である孫悟飯(そん・ごはん)を連れて、修行の旅に出るのと同じパターン!・笑――


 惑星・TM-27でヤプール軍に打ち勝ったふたりは、出来損ないの大鳩超獣ブラックピジョンの案内で、ヤプールの本拠地であるメビウス星へと向かった。


キャプション「メビウス星……… それは マイナス宇宙という この宇宙の空間のゆがみに存在する惑星である。特定の宇宙座標から超光速で突入して はじめて到達できる星なのだ……!」


 ナンと! メビウス星は『A』第13話『死刑! ウルトラ5兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060803/p1)に登場してウルトラ兄弟が十字架にかかった、そして同作の防衛組織・TACも超光速ミサイルNo.7で破壊しようとした「ゴルゴダ星」と同じマイナス宇宙にあるというのだ!
 原典ではTACの兵器開発研究員・梶(かじ)隊員が「マイナス宇宙」を「裏宇宙」とも云っていたので、「空間のゆがみ」ではなく「宇宙全体自体が二つ折りの布団(ふとん)のように湾曲しており、その布団を折ったウラ側にあたる部分がマイナス宇宙」であると捉えている筆者の私的見解とは異なるのだが(笑)。


 そして、メビウス星の内部はテープがネジれてオモテとウラが通じている「メビウスの輪」が大量にあるような「無限回廊」ともなっている。これも『A』第23話『逆転! ゾフィ只今参上』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061012/p1)に登場した、梶隊員が発明した「メビウスの輪」の原理と梶自身の「脳波」(!)などで「空間」自体を湾曲させて、我らが「3次元世界」のウラ側にある「異次元世界」――梶隊員が装着したヘッドギアから伸びるいくつかの電線経由の「脳波」も駆使するということは、半ばは「精神世界」でもある!?――へと局所的につなげるという、実は『A』には多数ある「SF」色豊かなアイテムのひとつである「異次元転移装置」(仮称・笑)へのオマージュでもあるのだろう!


 そのメビウス星の番人であった、『A』第25話『ピラミットはスフィンクスの巣だ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061021/p1)にも登場した古代超獣スフィンクス(!)から、ヤプールに会うためには扉を開ける「3つの鍵」が必要だと告げられ、ブラックピジョンがその事実を伝えるためにウルトラの星へと向かう!


 激戦の末、全宇宙にいるヤプールの幹部超獣たち、殺し屋超獣バラバ・変身怪人アンチラ星人・天女超獣アプラサールから、「朱(あか)の鍵」・「蒼(あお)の鍵」・「翠(みどり)の鍵」」を奪い取った闘士ゼットン・フルアーマー闘士セブン・闘士ウルトラマンエースエースキラーR(リベンジャー)!
――ロボットであるエースキラーは頭部は残っていたのでボディーだけを新造して、ついでに名前も変えたのだ・笑――


 彼らが3つの鍵を携えて集合してくることを待っていたメフィラス大魔王・闘士ウルトラマンタロウともども、ヤプールが鎮座する“輝きの場”へと赴く!


 だが、その道中には超獣たちの怨霊がただよっていた。そして、その怨霊たちが結集していき…… 最強超獣ジャンボキングが現れた! しかも、ジャンボキングの主導権を握っていたのは、先に滅ぼした怪僧マザロンであったのだ!
――ジャンボキングは『A』第52話(最終回)『明日(あす)のエースは君だ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)に登場した人間ふたりが獅子舞いのように着ぐるみに入る四つ足型の怪獣で、超獣たちの怨霊や空気中にただよう超獣の残骸分子などが集合した合体超獣であり、原典でもマザロン人がパーツの一部を占めていた存在である!――


 メフィラス大魔王は闘士セブンたちにジャンボキングを任せて、タロウとともに“輝きの場”へと急行する!




 月刊漫画誌における1年半もの長期連載となって、個人的にも内容的に最も充実していると思える「ヤプール編」である。
 この異次元人ヤプールとは、もちろん往年の『ウルトラマンA』シリーズ前半のレギュラー敵にして、その次作『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)でも前後編で復活して、はるか後年の『ウルトラマンメビウス』(06年)でも復活を果たし、映画『ウルトラマンメビウスウルトラ兄弟』(06年)ではラスボスをも演じた存在である。


 ウルトラシリーズでは珍しい組織悪、通常回のゲスト怪獣や宇宙人を上回るシリーズを通じたラスボス的な悪役といったら、この異次元人ヤプールを想起するだろう。


 先に掲げた『フィギュア王』のインタビュー記事によると、原作者の瑳川竜のペンネームの由来は、長年のウルトラシリーズのマニアであればすぐにピンと来たと思うが、『ウルトラマンA』に登場する防衛組織・TAC(タック)の竜五郎(りゅう・ごろう)隊長を演じた瑳川哲朗(さがわ・てつろう)の名字と役名の名字をくっつけたものなのである。


 1964年生まれで8歳で『A』を視聴している瑳川竜は、それと同時に本邦初のマニア向け書籍である『ファンタスティックコレクションNo.2 空想特撮映像のすばらしき世界 ウルトラマン』(78年1月25日発行)や第2期ウルトラシリーズを否定的に論評した同『No.10 空想特撮映像のすばらしき世界 ウルトラマンPART2』(78年12月1日発行)の論述の直撃を受けた世代でもあるだろう。
 よって、当時の子供たちはともかく小学校高学年以上のマニア予備軍やすでにマニアであった中高生以上となっていた特撮マニアたちのほとんどと同様、『A』をはじめとする第2期ウルトラシリーズに対しては、子供時代の感慨とは真逆に、氏もおそらくは全否定の立場に洗脳されてしまっていたであろうことは容易に推測されうることではある……(多分・汗)


――『メビウス』の時期になると、立候補してエース客演編や異次元人ヤプール・ネタに臨んでいた脚本家・長谷川圭一なども、メインライターを務めた『ウルトラマンダイナ』(97年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971215/p1)放映開始当初の特撮雑誌『宇宙船』でのインタビューに答えて、『セブン』が一番好きであり、「第2期ウルトラも子供が観たら面白いのでしょうが」などと、婉曲的に第2期ウルトラシリーズのことを否定していたのだ・爆――


 しかし、当時の先進的な特撮マニアたちは、早くも80年代中盤から、家庭用ビデオデッキの急速な普及なども手伝って、当時はまだひんぱんにあった地上波での再放送などでの第2期ウルトラシリーズの再鑑賞などを通じて、その作品内容が第1期ウルトラシリーズと比しても決して卑下されるべきものではない。どころか、部分的には優れている点もあることに気付いて、同時多発的に草の根で再評価を進めてはじめていたのであった……
 本作『超闘士激伝』を拝読するにつけ、第2期ウルトラシリーズにおける小ネタの数々のみならず、特撮評論同人誌ではすでに研究・発掘が進んでいたのだが、商業誌レベルでは話題にすらされてもこなかった(汗)、第2期ウルトラの知られざる名ドラマ編や名テーマ編にも、瑳川竜氏は非常にくわしいと思われる。独自のご見識もお持ちとおぼしき瑳川竜氏もまた、独力で80年代のうちにはもう第2期ウルトラシリーズを再評価してみせる境地に早々に辿り着いていたのだろう。


 本作『激伝』においても、第1期ウルトラシリーズである初代『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』だけを持ち上げるようなことはしていない。
 かといって、その逆張りとして、第2期ウルトラシリーズ作品にして自身のペンネームの由来ともなった『ウルトラマンA』を特別に偏重するような、私情まるだしの不公平なことなども一切していない。
 どころか、第3期ウルトラシリーズであるテレビアニメ『ザ★ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971117/p1)の主人公ヒーロー・ウルトラマンジョーニアスまでをも登場させる!
 自身が成人して以降に誕生したウルトラ戦士たちであるから、子供時代に遭遇したウルトラマンたちと比すれば必然的に思い入れは薄いだろう、1990年代のウルトラマングレートウルトラマンパワードウルトラマンネオスウルトラセブン21(ツーワン)にまで、単なる個人の好悪や思い入れのごときでの手抜きを一切感じさせない!
 人間だから個人的な好悪はもちろんあるだろうが、私情には決して走らず、それを前面に押し出すようなことも決してしない、氏の実に公平・公正な人柄も偲ばれようというものだ!


 とはいえ、ヤプール編であることから『A』ネタは随所に盛り込まれてはいる。
 「第2回銀河最強武闘会」の主催者であるループ星人ヤンドは、「ドン(首領)・ヤプール」を逆さ読みにした名称だった(笑)。


 そのループ星人ヤンドが、武闘会の会場で自身の側近として連れていたのは、


・『A』第10話『決戦! エース対郷秀樹』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060709/p1)でヤプール配下の宇宙人として登場した変身怪人アンチラ星人!
・『A』第48話『ベロクロンの復讐』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070402/p1)に登場した「Q歯科医院」の女医に化けていた女ヤプール


 であり、これまた知性を持たない超獣ではなく、知性を持ったヤプール配下の宇宙人やヤプールの同族キャラを配しており、配下として登場させるキャラクターとしては実に納得ができる人選でもある!


 しかも、後者はエースの口を強引に開けて、「あ~~~ら!! こんなところに虫歯がっ!!」などという、原典作品へのオマージュでもあるギャグ描写のオマケつき!(笑)


 『A』第24話『見よ! 真夜中の大変身』に登場するマグマ超人マザロン人が、本作『激伝』では「怪僧」として描かれているのは、その原典の前編にあたる『A』第23話『逆転! ゾフィ只今参上』(このエピソードも大傑作!)にも登場した、通称・ヤプール老人の仮の姿が「怪僧」であったからだというのは、先にもふれた通りである。


 闘士ウルトラマンのスペシウム超光波に敗れた際には、


マザロン「……こりゃあ すごいぜ…… ホンモノだぁ……!! 気合いをいれないと殺されちゃうなぁ!! がんばらなくっちゃ! がんばらなくっちゃ!!」


 というセリフを吐いている。これもまた、その原典の『A』第24話でマザロン人が吐いていた「がんばらなくっちゃ、がんばらなくっちゃ!(喜悦)」の引用で、なおかつこのセリフは1972年放映当時の流行語でもあるのだ――71年放映の中外製薬「新グロモント」のCMや、幼児向け大人気番組『ママとあそぼう! ピンポンパン』(66~82年)のエンディング歌曲「ピンポンパン体操」の歌詞などで多用されていたフレーズ・笑――。


 そして、やはり埋ずもれてしまっている大名作である『A』第18話『鳩を返せ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060907/p1)に登場した大鳩超獣ブラックピジョンは、『激伝』でも物わかりの悪い失敗作の超獣として描かれている。


ヤプールコマンド(戦闘員)「光線を吐けっ!! 光線を吐くんだあっ!!!」


 と命令されたブラックピジョンは、惑星・TM-27の生物に対してではなくヤプールコマンド部隊に、しかも光線ではなく口から火炎を吐いてしまう(笑)。


 これだけでも一応のギャグとして機能しているのだが、実は『A』第18話ではヤプールから同様に、


「光線を吐くんだあっ!!」


 と命令されたブラックピジョンが、口から火炎を吐いてしまって、それまでイイ感じでテンション高く鑑賞ができていたのに、「アレ?」とズッコケてしまうような描写があったのだ(笑)。


 シナリオを無視した特撮現場でのアドリブ演出を、本編監督なりアフレコ現場へフィードバックするような横の連携が、あの時代はラフな体制ゆえにできていなかったためだろう(爆)。


 大鳩超獣に改造される前の鳩の飼い主・三郎少年が吹いている鳩笛に反応してしまい、時折りヤプールの命令を聞かなくなるという原典での設定にも則して、『激伝』でも出来損いの超獣として描かれており、それを知っていれば二重の意味で笑えるギャグなのである。


 赤星政尚先生が『激伝』を評していわく、“わかる奴だけ大喜び”的なツボは、当の赤星政尚自身がメインライターを務めた昭和ウルトラの25年ぶりの正統続編として描かれた『ウルトラマンメビウス』でも、一部のマニアたちからそれを理由とする批判を受けていたように、「それを知らなきゃ楽しめない!」という作品の間口が狭くなる危険性もあるので、やりようによってはたしかに手放しでは絶賛できるものではない。


 しかし、その元ネタがメインターゲットである90年代や00年代の子供たちに理解ができなかったとしても、作品の本スジのストーリーの理解に支障が生じない、独り善がりなものでなければ、そのようなネタの挿入もまったく問題はないだろう!


 それで云うならば、メフィラス大魔王の配下である鋼魔四天王は、メフィラス星人の初登場回である初代『ウルトラマン』第33話『禁じられた言葉』で、バルタン星人3代目・ザラブ星人2代目・ケムール人2代目を配下に従えていた描写の踏襲として、


・闘士バルタン星人
・闘士ザラブ星人
・闘士ケムール人


 を登場させている。しかし、それだけではなく、


・闘士ダダ


 まで連れてきているのだ! このダダは、初代『ウルトラマン』放映当時に怪奇漫画家としてすでに名をあげていた楳図かずおが『週刊少年マガジン』(講談社)に連載していた同作のコミカライズ「メフィラス星人の巻」で、テレビ本編に登場していた3大宇宙人に加えて、漫画独自に三面怪人ダダまで配下としていたことに対するオマージュでもあるのだ(笑)。
 同コミカライズは70年代末期の第3次怪獣ブームに便乗して78年に再版もされたことから、当時はビニールカバーがかかっていなかった漫画の単行本は立ち読みしほうだいでもあったから、第3期ウルトラブーム世代の子供たちにもけっこう知られていた事実である。以降も何度も再版されてきたことから、年長マニアであれば即座に鋼魔四天王にダダも含めていた意味までわかってニヤリとしたことだろう。


 闘士エースとエースキラーRがその両腕をL字型と鏡文字の逆L字型に構えて、伸ばした上腕を接したかたちで放った「W(ダブル)メタリウム光線」もそうである。
 これはエースキラーがウルトラ4兄弟の能力のみならず、原典ではエースキラーが4兄弟の光線技を使って爆砕してしまった、ウルトラマンエースの能力を擬似的にコピーしたエースロボットの能力をも併せ持つことで、今回のエースキラーはウルトラ4兄弟ならぬ5兄弟の能力を持っていることから、エースの必殺技であるメタリウム光線も放てるのだ! ということを、クドクドと説明しなくても瞬時に年長マニアたちに理解させているのだ。そして、そのメタリウム光線をエースとエースキラーが当時に合体光線として放ってみせる快感!
 内山まもる大先生が小学館の学習雑誌『小学三年生』74年9月号の『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)のコミカライズの一編『ウルトラキラーゴルゴ』の回(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210124/p1)において、この漫画オリジナルの展開である直前作のヒーロー・ウルトラマンタロウとの客演編を描いている。ここではレオとタロウがその両腕を接しあって「ダブル・ストリウム光線」を放つという燃える描写がある。年長マニアであれば「Wメタリウム光線」には、この「Wストリウム光線」へのオマージュまで含まれていることは一目瞭然でもあるだろう!


 そして、メフィラス大魔王・フルアーマー闘士セブン・闘士エース・闘士ゼットンたちの最後のエネルギーを充填した超闘士タロウが、ヤプールの故郷である「異次元世界」こと「ヤプール次元」と、「3次元世界」であるこの「宇宙」との狭間にある「門」でもある「テリブル・ゲート」に放つことで、ふたつの宇宙を同時に救ってみせる奇跡の光線がまた、あのコスモミラクル光線である!!
 この光線技は、映画『ウルトラマン物語(ストーリー)』(84年・松竹富士)で、ウルトラ5兄弟と合体して「超(スーパー)ウルトラマン」となったタロウの超必殺技なのだ! 84年当時としてもやや安直な名前の光線ではあり、それまでの光線の名称であったスペシウムやエメリウムといった元素チックなネーミング・ルールからは外れている違和感も少々あったのは事実だ(笑)。しかし、「宇宙の奇跡」を起こしてみせる光線としては、そのネーミングが幸いして、この場面ではこれほどふさわしいものはない!


 要は流用の仕方や、曲解に近いところはあってもアリには思える巧妙にズラしたアレンジが実にすばらしくて、「内輪ウケ」に陥るどころか、むしろ「バトル」や「ドラマ」の盛り上げにおおいに貢献しているくらいなのである!


 子供のころは気にもとめていなかったが、長じてから『激伝』を再読してみたら、膨大な小ネタの元ネタがわかってさらに楽しめた! などという感想などは、2ちゃんねるの『ウルトラマン超闘士激伝』スレッドなどを見ると当然ながらにけっこうある。『激伝』もまたテレビのウルトラシリーズとも同様、一粒で二度オイシい、幼少時とは異なる別の読み方も可能としている、一応の知的(笑)な作品でもあったのだ。



Q:ウルトラ作品の中で、もっとも好きなキャラクターは何ですか?
A:ゾフィーが好きでした。M87光線、あれだけ覚えているんです。マンガで読んで強そうだったんですね。

円谷プロダクション会報『TFC.15』(09年9月号)『ウルトラマンメビウス外伝 ゴーストリバース』(バンダイビジュアル・09年11月25日&12月22日)監督・横山誠インタビュー)



 オリジナリビデオ作品『ウルトラマンメビウス外伝 ゴーストリバース』(09年)は、2009年度の児童誌『てれびくん』や『テレビマガジン』などでの展開とも共通した、製作タイミング的には後付けなのだが、09年末に公開される映画『ウルトラ銀河伝説』の前日談・つなぎとしての意味も兼ねた、その映画同様にグリーンバックで撮影した背景を、高精細なCG映像による宇宙や惑星の地面に置き換えたアクション主体の仮面劇の佳作であった。
――アナログ特撮ではよくあった、背景とキャラクターの境目に、手作業でマスクを切ったためのズレのようなノイズがチラチラと見えていたような気もしたけど、作品自体は面白かったので見逃そう!?・笑――


 『ウルトラ銀河伝説』の監督を務めた坂本浩一にスカウトされて、坂本同様にアメリカの『パワーレンジャー』シリーズ(93年~・)のスタントマン・アクション監督・監督を務めてきた1967年生まれの横山氏の世代だと、ここで云っている「マンガ」とはもちろん90年代の『超闘士激伝』ではなく、ゾフィーが主人公であったりM87光線を披露していた内山まもるの70年代の大人気漫画『ザ・ウルトラマン』シリーズに相違はない。
 「ウルトラへの愛が足りない僕」とインタビューで自称する氏でさえ、M87光線が強く印象に残っているくらいなのだから、子供向け漫画だってあなどれないのである。実作品の映像インパクト以上に……


 実際に『激伝』を『コミックボンボン』で小学生時代に読んでいた世代は、すぐあとの90年代後半の『ウルトラマンティガ』にはじまる平成ウルトラ3部作を幼児期に鑑賞して育った世代以上に、当然ながら昭和のウルトラ兄弟やウルトラの星の歴史やその組織、昭和のウルトラ怪獣たちや、『激伝』のラスボスともなったウルトラ一族との3万年にもわたる宿敵・エンペラ星人のことまでくわしいので、その影響は実に大なるものがあるのだ。



「連載が始まる前に、瑳川先生から「マンやセブン達には絶対にギャグをさせないで下さい」と釘をさされていた。当時しょーもないギャグものしか描いた事がなかったので、懸念なさったのだ。でも、「A(エース)はギャグをしてもいいですよ」と、お許しをいただいたので自由に描かせてもらった。もっとも自由すぎて、今見るとずい分暴走しているのだが…」

(復刻版『ウルトラマン超闘士激伝』第3巻カバー内表紙「激伝ひみつメモ」栗原仁)



「あんにゃろう! ブン殴ってやる!!」
「なんでい! テンペラー星人の一匹や二匹!」(笑)


 名声優・納谷悟朗(なや・ごろう)の声でしゃべる神秘的な宇宙人としてのウルトラマンエースではなく、ウルトラ5兄弟の5番目としてのエースは、地球でエースと合体したチンピラ(笑)もとい北斗星児(ほくと・せいじ)隊員の性格と近しい、ウルトラ一族としては未熟で熱血な「弟キャラ」としての印象を我々は強く持っている。
 『ウルトラマンタロウ』第34話『ウルトラ6兄弟最後の日!』における、テンペラー星人(の影武者)を倒して増長したタロウこと東光太郎(ひがし・こうたろう)に対して、チンピラ北斗(爆)ことエースがその性格を如実に表現している先に挙げた名セリフ(笑)が、それをウラ打ちしてくれている。
 まぁ北斗隊員みたいな、未熟で失敗ばかりしても能動的にストーリーを駆動していくようなキャラクターは筆者も大好きだし、以降のアニメや特撮作品では北斗のような性格タイプが主流となっていくのだが……


 1960年代に放映された初代マンやセブンは、それまでのヒーローもの全般にいえることだが、ある程度の完成された人格である禁欲的な「大人」のキャラである。
 70年代に入ると、世の中が豊かとなり、学校を卒業すると「子供」がすぐに「大人」の社会に組み込まれてしまっていたそれまでの時代とは異なってきて、「子供」と「大人」の中間である「若者」のままで試行錯誤ができるモラトリアム期間が延長されてくることで、「若者」という在り方が社会一般でもクローズアップされるようになる。
 こういった「若者」がジャンル作品で急速に勃興しだしたのが『A』が放映されていた1972年であった。同時多発的にチンピラ北斗(笑)をはじめとして、永井豪原作のテレビアニメ『デビルマン』の高校生主人公・不動明(ふどう・あきら)や人間搭乗型の巨大ロボットアニメの祖『マジンガーZ(ゼット)』の高校生主人公・兜甲児(かぶと・こうじ)、名作刑事ドラマ『太陽にほえろ!』でショーケンこと荻原健一(はぎはら・けんいち)が演じていた新人刑事・マカロニといった、少々不良チックで未熟な発展途上の「若者」像が遂にドラマの主人公としても成立するようになった大地殻変動があったのだ。


 よって、マジメな初代マン(ハヤタ隊員)やセブン(モロボシ・ダン隊員)がギャグを演じることには違和感があるだろう。ウルトラ兄弟の4番目である「帰ってきたウルトラマン」ことウルトラマンジャック(郷秀樹(ごう・ひでき)隊員)は発展途上の若者像ではあったけど、そこまではまだ崩れてはいない二枚目である。飛んでウルトラ兄弟の6番目・ウルトラマンタロウ(東光太郎)は未熟な若者でもお上品なお坊ちゃまキャラだから、あまりに崩して描いてしまうとこれまた少々違和感が生じてしまう。
 そうなると、本作におけるコミックリリーフを担当する役回りは、チンピラ北斗もといエースこそが適任であることは、満場の一致となる実に的確で納得ができる采配だっただろう(笑)。


 エースは『激伝』では、鳥のクチバシのようなかたちで口を大きく開いて驚いてみせたり(笑)、宿敵であったハズの異次元超人エースキラーとの掛け合い漫才を楽しんでいるかのようなキャラクターとなって、「漫画」本来の在り方でもある楽しいギャグ描写を一手に引き受けており、場面をなごませてもくれている。


 しかし一方で、ヤプール編の『最強闘士集結!!』では、「メビウスの3つの鍵」をめぐっての闘士エースの以下のようなエピソードも、『激伝』ではすっかり相棒と化してしまったエースキラーRによって、回想のかたちで語られているのである。
――本来は回想ではなく『激伝』本編でストーリーをつむぎたかったのだろうが、子供向けバトル漫画としてのバランスを考えれば、悲劇臭のするエピソードは軽く済ませるたかちで処置するのも仕方がないだろう――


エースキラー
「……オレたちのようなロボットでもないかぎりは…… だれでもみんな異性を愛したりするんだろう……?
 エースにとって…… アプラサールとはそういう女性だった……
 そして、オレたち全員を守るために死んだ……!!
 ……彼女は最初から超獣ではなかった。アプラサという少女がその能力をヤプールにねらわれ、改造されてしまった姿だったんだ……
 彼女はヒール星の避難民全員とそれを守っているオレやG(グレート) エースらを全滅させる使命をもっていた……
 だがエースと出会って…… 最後にはヤプール軍をうらぎった……!!」


アプラサ(回想)「……さよならエース…… この鍵で…… 宇宙に…… 平和を……」


――このアプラサの元ネタは、もちろん『A』第21話『天女の幻を見た!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061009/p1)に登場した乙女座の精霊・天女アプラサで、異次元人ヤプールによる異次元エネルギーで天女超獣アプラサールと化したゲストキャラクターの引用である。ただし、テレビ本編でも最後は爆発した乙女座を離れて白鳥座へと旅立っていったので、その彼女の成れの果てがやはり結局は死んでしまった……という解釈はやや問題があるかもしれないのだが、ギリギリでアリかもしれない――


 奇しくも、同じく講談社『月刊マガジンZ(ゼット)』連載の漫画で、こちらはウルトラ兄弟たちの前日談を描いている『ウルトラマン STORY 0(ストーリー・ゼロ)』(05年~)でも、ウルトラマンエースの主役回では淡い恋愛ネタのエピソードが描かれていた。テレビ本編でもシリーズ前半では男女合体変身だったエースには、変身前の北斗隊員と南夕子隊員にやや一方通行ではあっても(笑)そのような淡い恋情のニュアンスがあったので、そうした男女間での恋愛描写が比較的に似合うというイメージもあるのだろう。
 「ギャグ」と「恋愛」とは「水」と「油」ではあるのだが、上手くやれば「ギャップ萌え」や「悲劇萌え」というものに転化することもできる。やや軽率そうで異性に対して軽口なども叩きそうだから、そこから男女交際もはじまりそうなイメージもどこかで持っていた『激伝』におけるエースだからこそ、異性との浮いた話が唐突に浮上しきてもアリエそうなエピソードに思えてくるのだろう。



 そして、あのウルトラの父も、『A』第38話『復活! ウルトラの父』を元ネタにして、サンタクロースの扮装をしたミスターサンタ(笑)として「第2回銀河最強武闘会」に出場してしまっている!


ノタニー博士「あんなバカ丸出しの道化者(どうけもの)が これ以上マグレで勝ちぬけるわけがないだろ!?」


 ウルトラシリーズの元祖であり変身ヒーローが登場しない『ウルトラQ』(66年)に登場した、イレギュラー登場人物であった一の谷(いちのたに)博士もどき(笑)である、武闘会の実況解説担当であるノタニー博士がこのように解説していたのには笑ってしまう。
 しかし『A』第38話では、ウルトラの父が変身していた地球人の姿である、名優・玉川伊佐男が演じていたサンタクロースもけっこうお茶目だったから、ウルトラの父の素の性格も厳めしいだけではなく、愛嬌・包容力・茶目っ気もあるキャラクターであっても不思議じゃない!?



 ウルトラマンメビウスの教官を務めていたという新設定以降、最近では頼もしいキャラとして定着している感のあるウルトラマンタロウだが、それ以前は『ウルトラマンタロウ』放映当時の設定をひきずり、「末っ子の甘えん坊」というイメージが根強かったものだ。
 90年代に描かれた『激伝』でもそれは当然ながら踏襲されており、「心優しい戦士」であることが強調されている。ヤプール編の終盤である『宇宙最大の危機』には、ヤプールとの以下のような会話がある。


ハイパーヤプール「……助けあい いたわりあう精神…… そんなキレイごとが!! きさまらの宇宙では尊重されたり賛美されたりしているのかね……? フフフッ……!!」
闘士タロウ「あっ…… あたりまえだっ!!! 仲間どうし助けあったり 傷ついたものや弱いものをいたわったりするのはあたりまえのことだっ!!!」


 悪と戦う動機にある意味ではキレイごとでもある道徳的・人道的な理由を主人公キャラが戦闘中に掲げてくるあたりは、まさに『週刊少年ジャンプ』の漫画的な作劇でもある。そして、そのような理想主義的なキレイごとを吐かせるには、お上品なお坊ちゃまキャラであるタロウにこそふさわしいだろう。


 そして『闘士ウルトラマン復活!?』では、力尽きた闘士タロウを勇気づけるために、霊体だけの存在となっている闘士ウルトラマンが、ウルトラマンキングの力を借りて、霊界から自身のビジョンをタロウの心に送っている。


闘士マン「……タロウよ もし私が…… 伝説の超闘士と呼ばれるに値する男だったとしたら…… 私の武器はたった一つしかない!! それは黄金に輝くオーラでも底なしのパワーでもない!! みんなの宇宙をどんなことがあっても守りぬきたいという使命感……! ウルトラ魂だっ!!!」


 09年11月15日にTBS系で放送された『オレたち! クイズMAN(マン)』では、格闘家の高田延彦(たかだ・のぶひこ)が、「ウルトラマンから学ぶ男の生き様(ざま)クイズ」というのを出題していた。
 そして、『タロウ』第43話『怪獣を塩漬にしろ!』に登場した食いしん坊怪獣モットクレロンや、第48話『日本の童謡から 怪獣ひなまつり』に登場した酔っ払い怪獣ベロンを、タロウが倒さずに宇宙へ返した件を「男の優しさ」として紹介していた。
 この際に、解答者のマリエや里田まい、観客の女性たちからは一斉に「タロウやさし~い!」という歓喜の声があがっていたものだ。


――アッ、放送作家がさも高田延彦が提示した例題のように執筆していて、マリエや里田まいや観客の女性たちのリアクションも含めて、放送台本にも書かれていた仕込みの演出でしたかネ?・笑――


 まぁこの論法で行くと、怪獣を倒さずに保護に務めていた『ウルトラマンコスモス』(01年)こそがウルトラシリーズ最高傑作となってしまって、憎っくき悪をやっつけるアクションのカタルシスを主眼とする変身ヒーローものの本質を否定することにもなってしまうので、それもまた痛し痒しではある。
 しかし、戦闘一本槍だけでもジェノサイド(大量虐殺)の思想に通じていくところはたしかにあるので、時にはこのような「異文化との共生」を――厳密には共存もできないので「棲み分け」としての「共生」なのだけど・汗――、この作品(やその作り手たち)は「単なる殺し合いの戦い」ばかりを描いているばかりではない! とするエクスキューズのための変化球を提示するのも、広い意味での「ウルトラ魂」ではあるのだろう――ただし、勧善懲悪の娯楽活劇作品としては本道・王道ではないとも思うけど――。


 よって、ヤプール編の最終回である『ヤプール大戦終結!!』においては、原典の『タロウ』でも見られたような「男の優しさ」は、以下のような描写として昇華されている。


闘士タロウ「……みんなの宇宙を守りぬきたいというウルトラ魂こそが超闘士の最大の武器だって 闘士マンはいっていた…… その魂でぼくらの宇宙は救えた……! だから あと少し…… ほんの少しだけ残っている ぼくの魂の炎をっ…… 違う宇宙の人にも…… わけてあげたいんだ……!!」


 そして闘士タロウは、ヤプールのみならず、崩壊の危機にあった「違う宇宙」である「ヤプールの宇宙」=「ヤプール次元」の世界をも救ったのである!!


闘士セブン「奇妙な大団円だったな……」


 その後、異次元人が襲撃してくることは二度となかったという……



 そして3年後、「第3回銀河最強武闘会」に参加するために、宇宙中を修行の旅に回っていたタロウが帰ってくる場面で「ヤプール編」は幕となるのであった。



――ここでタロウが乗船していた、その姿は地球の大型客船のデフォルメである船舶の船長さんが、『ウルトラマンレオ』第28話『日本名作民話シリーズ! 帰ってきたひげ船長! 浦島太郎より』に登場した「ひげ船長」ではなく(笑)、同話に登場した海棲人パラダイ星人ふたりが合体して誕生する星獣キングパラダイ! しかも彼が「ひげ船長」のようにパイプ煙草をくゆらせている二重のダブらせ描写は、それこそ“わかる奴だけ大喜び!”だったりする!


「……船長~~っ~!! ありがとうございましーーーー!!」


 寝袋かサンドバックみたいなバッグを担いでいるタロウによるお礼のセリフが入ってくる一連のシーンも、『タロウ』第1話『ウルトラの母は太陽のように』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)冒頭における、主人公青年・東光太郎が、乗船させてもらったタンカー・日々丸(にちにちまる)の白鳥(しらとり)船長に放ったセリフに対するオマージュである・笑――



 『ウルトラセブン』(67年)~『ウルトラマンA』(72年)の脚本を執筆した高名な脚本家・市川森一(いちかわ・しんいち)先生が、オウム真理教地下鉄サリン事件を引き起こした1995年ごろに、


ウルトラマンから何かを学ぼうとするガキなんてロクなもんじゃない」


 などと発言していたことがあった(爆)。


 当時の特撮マニア諸氏は一斉に大反発をしたものであったが、個人的には氏の意図ともまた別に、一理はある発言ではないか? とも思えるのだ。


 今でも大局としてはそうなのだろうが、娯楽活劇作品の本質・エッセンスだともいえる「アクションのカタルシス」や「ヒロイズムの高揚」などといった言説は、世間でも特撮マニア間でもあまり一般化はしていない(汗)。
 仮に子供たちも大人たちもイケメン俳優目当ての女性であっても、実はそのアクション場面にこそ高揚を覚えていたのだとしても、「ウルトラマンから正義を学びました!」とか、あるいはその逆に「正義の絶対性を疑いました!」などといった「道徳的なテーゼ」や「社会派的なテーマ」で、ウルトラシリーズを持ち上げていたり、いつまでも子供向け番組に執着している自分自身を自己正当化しようとしてやっきになっている(笑)。


 たしかにウルトラシリーズには、「道徳的なテーゼ」や「社会派的なテーマ」による秀逸なエピソードもあった。「アンチテーゼ編」やまさに良質な「SF」としか云いようがないエピソードもあった。その存在も否定してはならないだろう。
 しかし、ウルトラシリーズにかぎらず、この手の戦う戦闘ヒーローものの本質や、ジャンルのアイデンティティーとは、ぶっちゃけ「アクションのカタルシス」や「ヒロイズムの高揚」といったものではなかろうか? 我々が後世に伝えなければならない「ウルトラ魂」とは、そのようなものではなかろうか!?


 『週刊少年ジャンプ』に連載されてきた『キン肉マン』や『北斗の拳』や『ドラゴンボール』や『聖闘士星矢(セイント・セイヤ)』や『幽☆遊☆白書』といった、かつて少年たちをおおいに熱狂させて、現在でも根強いファンがたくさんいる作品群は、それは時にはグッと来る道徳的なセリフやメッセージも込められてはいたのだろう。
 しかし基本的にはそれらはエクスキューズであって、これらの作品もまた「格闘場面」、そして「善悪攻防のカタルシス」を描いていただけではなかったか!? それらを時代の風潮や流行に合わせて、意匠やパッケージだけを変えていたのではなかったか!? そこの肝どころをこそ押さえるべきだとも思うのだ。


 しかし、たしかに「バトル」の描写だけでも、やや単調になってきて飽きてしまうものかもしれない。80年代のスーパー戦隊シリーズメタルヒーローシリーズのように前後編やシリーズのタテ糸もさしてなく、1話完結のルーティンで極度にパターン化された戦闘シーンが延々と毎回毎回続いていくようでは、アクションの高揚感も薄れてしまうだろうし、それでは子供たちが卒業して『週刊少年ジャンプ』に走ってしまうのも仕方がないことだっただろう。
 よって、シリーズを貫くタテ糸なども必要だっただろうし、バリエーションや変化球に満ち満ちたアクション演出も必要だ。そして、「バトル」を繰り広げる登場人物たちである「キャラクター」の性格設定や、その魅惑的でドラマチックな出自設定、そこに起因する「戦う動機」といった「行動原理」もまた実に重要なものではあるのだ。


 その次に重要なことは、これらの「キャラクター」たちを手頃なサイズの一種の「形見」として手許に置いておいて、それらを眺めまわしていたいというような欲望を喚起することである(笑)。それはもちろん連載漫画をまとめた単行本であったり、人形や玩具やゲームであったりもする。ついでに云うなら、手足が稼働したり鎧や武器が着脱可能なプレイバリューの高いものの方が望ましい(爆)。


 良くも悪くも関連グッズの収集や、ジャンク知識の収集。それこそが商業的にも短期的には重要だ。そして、子供たちや特撮マニアたちを中長期にわたって空想の世界で遊ばせて、作品自体や作品の広大な「世界観」や長大な「歴史観」それ自体に執着させていくこともまた、実に重要なポイントでもあると思うのだ!


 70年代末期の第3次怪獣ブームの時代に、児童漫画誌コロコロコミック』に掲載されていたウルトラ漫画をむさぼり読んでいた小学生たちは、駄菓子屋に足繁く通って、店先に置かれていた20円のガシャポン自販機――当時はガチャガチャと呼称――でポピー(現・バンダイ)のウルトラ怪獣消しゴムを、店内では山勝『ウルトラマン ペーパーコレクション』をはじめとするカード・ブロマイドの類いを購入してダブりカードは友人たちと交換することで、クラス中の男児がコレクションに躍起になっていたものだ。


 このような現象もまた、流行の規模は70年代と比すればはるかに小さかっただろうが(汗)、『超闘士激伝』連載時にはある程度までは再現がされていたようだ。
 90年代の連載当時に発行された『ボンボンコミックス』レーベルの単行本の巻末には、『激熱!! 超闘士道場 出張版』と称して、様々な関連グッズを紹介したページがあった。
 カードからモンスターを召喚しあってバトルする『遊☆戯☆王』(96年・98年にテレビアニメ化)よりも前に、この時点ですでに単に登場キャラクターの絵柄のみのカードではなく、スーパーバトルカードダスとして、パワーレベル・バトルゲージ・軍団マークといったものが付与されて、対戦ゲームとして遊べる機能が存在するカードが発売されていたのである!
 そして、任天堂ゲームボーイ専用の『激伝』のソフトも94年夏に発売されていた。さらには、かの『HGシリーズ』よりも以前の93年よりバンダイ・ベンダー事業部から発売が開始されていた『ガシャポン超闘士激伝』はパート14(プラス『ガシャポン超闘士鎧伝(ちょうとうし・がいでん)』2シリーズ)を数えるほどの人気シリーズとなっていた。
 100円ガシャポンの中では、『騎士ガンダム』や『ドラゴンボール』に次ぐ売上を誇っていたようであり、瞬間最大風速的にはトップをとった月もあったという!



 思えば07年の年末から放映されたテレビシリーズ『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』も、07年5月からバンダイが稼働させたアーケード向けカードゲーム機『大怪獣バトル ウルトラモンスターズ』、さらにはそれで遊べる「応援カード」が付属したバンダイウルトラ怪獣シリーズとの連動企画であったからこそ、視聴が限られてしまうBS放送・BS11(ビーエス・イレブン)での放送であったのにもかかわらず、なんとか人気や知名度は相応に確保ができていたのだろう。


 『ウルトラマンメビウス』の放映が終了した翌年度以降も、


・07年にはバンダイから発売されて、ゲームのプレイヤーが『ウルトラマンメビウス』の防衛組織・GUYS(ガイズ)に入隊して、怪獣撃滅に参加できる仕様であった玩具『DX(デラックス)ウルトラコクピット』(別売専用ソフトも都合3巻発売)
・08年にも小学館の『てれびくん』と講談社の『テレビマガジン』でのカラーグラビア記事連載や連載漫画(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210117/p1)、新作オリジナルビデオも発売された『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス』


 などなど、様々な媒体での『メビウス』の続編的な展開が、現時点での最新テレビシリーズである『ウルトラマンメビウス』を今日まで延命させて、2010年時点でのウルトラマンといえばメビウスを指すくらいの人気となっている。
 しかし、そうした商業展開やメディアミックスの手法の種(たね)は、『超闘士激伝』が連載されていた90年代前半の時点ですでに蒔(ま)かれてはいたのである。


第3部『ゴーデス編』

ウルトラマン超闘士激伝 3

*95年11月号『謎の戦士ウルトラマンパワード
*95年12月号『帰ってきた闘士(おとこ)』
*96年1月号『仮面騎士の正体』
*96年2月号『宇宙の悪魔ゴーデス』
*96年3月号『友情の証』
*96年4月号『ゴーデス五人衆』
*96年5月号『邪悪な波動』
*96年6月号『魔神(ましん)復活!!』
*96年7月号『パワードの秘策』
*96年8月号『究極魔神シーダ誕生!!』
*96年9月号『ウルトラの星の秘宝』
*96年10月号『銀河の奇跡』


 この「ゴーデス編」における「ゴーデス」とは、1990年に登場した日豪合作オリジナルビデオ作品『ウルトラマンG(グレート)』全13話のシリーズ前半を通じて登場した宿敵存在である。
 キャラクターとしては、1993年に登場した日米合作オリジナルビデオ作品『ウルトラマンパワード』のパワードを新たに登場させて、このパワードとグレートを今度は新たな主人公格として活躍させている。


 「第3回銀河最強武闘会」が開催され、総勢600名によるバトルロイヤルの末、ベスト16が勝ち残る。
 その中には自分の精神を極限まで鍛え上げ、「肉体の強さ」のみならず、「魂の強さ」まで追求している新たな武闘家一派・パワード流派のウルトラマンパワード・パワードレッドキング・パワードバルタン星人のほか、正体不明の仮面騎士、そして意外にもウルトラマンキングの姿があった!


――パワードレッドキングやパワードバルタン星人などは、『ウルトラマンパワード』に登場した初代『ウルトラマン』の人気怪獣たちのリメイクである。ネタ元の怪獣たちと区別するために、劇中ではそう呼ばれないものの「パワード」を冠した怪獣たちが、ここではパワード流派の門下生たちとして登場した! なにかしらの共通項がひとつでもあると、不思議と違和感も生じないどころか、むしろパワードの門下に怪獣たちがいるならば、そうあってしかるべき! といった感も醸せている!・笑――


 武闘会に参加したウルトラマンキングは、メフィラス大魔王と闘士タロウにだけはその正体を明かした。それは3年を経て、新たな肉体を得て復活した闘士ウルトラマンであったのだ!!
 闘士マンはキング自身から今大会に正体を隠して参加している悪魔の存在を教えられて、それを見つけ出して倒すという使命を受けてきたのである!


 キングのにらんだ通り、仮面騎士の正体は宇宙の悪魔・ゴーデスであった! そして原典『ウルトラマンG』での暗躍と同様に、ゴーデス細胞をまき散らして武闘会に参戦した戦士たちから大量のエネルギーを吸い尽くしていく!


 そのとき、ゴーデスが呼び寄せた暗雲を割って、天空から「太陽神」が精錬してキングと闘士マンが設計した黄金色の「新装鉄鋼」(ニューメタルブレスト)! そして、王冠状の「ウルトラクラウン」が届けられた!


 初代マンはそれらを装着すると、頭部にハメたウルトラクラウンの突起が、ウルトラの父ウルトラマンタロウのような両ヅノと化した「超闘士ウルトラマン」に転生した!
 この人工的な両ツノは、父やタロウのウルトラホーンと同じ働きをして、制限時間なく「超闘士」として戦い続けることができるというのだ!


 同じく両ヅノをやや巨大化させて超闘士となったタロウは、超闘士マンとその両掌底から「W(ダブル)オーラ光線」をゴーデスに放った!!
 しかし、その攻撃によって弾き飛ばされたゴーデスのマントの下にはウルトラマングレートの下半身が! ゴーデスはウルトラマングレートの体を乗っ取っていたのだ!


 しかも、ゴーデスはグレートのことを「ゴーデスハンターだった」と発言した! 初代マンがキングからも聞かされていたふたりの「ゴーデスハンター」とは、このグレートとパワードであったのだ!


 ひとまず退散したゴーデスは、


・宇宙怪獣ベムラー
・原始地底人キングボックル
・緑色宇宙人テロリスト星人
・奇怪宇宙人ツルク星人
・マグマ怪獣ゴラ


 彼らに邪生鋼(エビルブレスト)を装着させて、ゴーデス5人衆と化さしめ、宇宙を地獄にするために出陣させる!


 しかし地球人やウルトラ一族も手をこまねいているだけではない。ノタニー博士はゴーデス細胞を無効化できる新合金を発明した!


 防衛組織・UGMの戦闘機・スカイハイヤーとエイティ腹部中央の四芒星の意匠を模した「重装鉄鋼」(ダブルブレスト)を装備したウルトラマンエイティは、闘士エイティとして!
 同じく防衛組織・科学警備隊の大型戦闘機・スーパーマードックとジョーニアスの額や胸中央のカラータイマーの五芒星の意匠をまとったウルトラマンジョーニアスも、闘士ジョーニアスとして参戦!


 U40最強の戦士・ジョーニアスは、M78星雲のウルトラ兄弟の長男にして最強と謳われたゾフィー兄さんの強さと双璧! と語られているのも、よくわかっていらっしゃる。


 闘士エイティのスーパーバックルビームと、闘士ジョーニアスのスーパーロッキングスパーク――オオッ、身長938メートルの超巨大怪獣バゴンを倒した超必殺光線のスーパー版!――の合体光線で、ゴーデス5人衆のひとり・ゴアを倒すのであった!


 戦いが終わって、ガッシリと握手を交わすエイティとジョーニアス! 本来は世界観を異にしている第3期ウルトラシリーズの2大主人公ヒーローによる握手なのであった……(涙)



 邪悪な波動を感じる超能力を持っているピッコロ王子の手助けも受けて、超闘士タロウはゴーデスの本拠地を突きとめる。しかし、逆に捕らえられて、ゴーデスにそのエネルギーを与えられて超巨大怪獣・海魔神コダラーが復活してしまう!
 超闘士マンや闘士ジョーニアス、闘士エイティ、さらにメフィラス大魔王が呼び寄せた鋼魔四天王らが束になってかかっても敵わず、遂には対となる超巨大怪獣・天魔神シラリーまでもが復活してしまった!
 パワードはその心をミガくことで備わった強烈な精神感応波で、コダラーとシラリーを互いに戦わせるように仕向けた!


――コダラーとシラリーもまた『ウルトラマンG』最終回の前後編に登場した、単なる生物ではなく大自然・地球の自浄作用のごとき強敵の印象が強い怪獣であり、『激伝』でもこの大宇宙自体を無に帰す(!)というラスボス級の怪獣として割り振られているのは実にピッタリでもある!――


 ウルトラの星の王女である女ウルトラマンユリアンhttp://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)とウルトラ一族の看護組織である銀十字軍の女性ウルトラ族たち(!)も駆けつけて、ウルトラ戦士たちは撤退する……


 超巨大怪獣同士の激闘になす術もなく、ウルトラの星に帰って状況を見守るしかないウルトラ戦士たちだったが、遂にコダラーとシラリーが相討ちとなった!
 ……戦いは終わったかに見えた。しかし、コダラーとシラリーの2大魔神が合体して超巨大怪獣・究極魔神シーダが誕生!


 現役のウルトラ戦士たちばかりでなく、ウルトラの星の最大の秘宝である鍵型の大型アイテム・ウルトラキー(!)を携えてウルトラの父も参戦してくる!


 だが、シーダの衝撃波で吹っ飛ばされるウルトラの父


 代わりに闘士セブンとメフィラス大魔王のふたりで、ウルトラキーの引き金部分を引いて、かつて悪魔の星・デモス一等星を一撃で破壊したという超光線が発射される!!
――悪魔の星・デモス一等星うんぬんというスケールの大きな逸話もまた、『ウルトラマンレオ』第38話『レオ兄弟対ウルトラ兄弟』でも実際に言及されて映像化もされていた、ウルトラシリーズの史実を踏まえたものである!――


 それでも魔神シーダはすみやかに体を再生させていく…… シーダに敗れた初代マンも大地に伏せたままであった。


 しかし、死の床の三途の川で初代マンは、同じく生死の境をさまよっていたタロウ・グレート・パワードから彼らの最後のエネルギーを授与された!


 立ち上がった初代マンの胸の中央にあるカラータイマーの円周部分が、斜め左上と斜め右上、そして真下の下方の三方へと細く鋭く長々と伸びていく!!


 それは20万歳以上の年齢を誇るウルトラマンキングでも実際にははじめて見たという、銀河永遠の生命「デルタスター」のシンボルでもあった!!


初代マン「スペシウム 超光波!!!!」


 突き出した右腕から凄まじい奔流がほとばしる!!!


 大爆発が生じる!! シーダはスペシウム超光波によって遂にトドメを刺されたのであった!




 『ボンボンコミックス』レーベルの単行本では未収録に終わっていた「ゴーデス」編が、ついに復刻を遂げた章である!


 映像作品でのウルトラマンパワードの掌底(しょうてい)・手のひらを見せつけるヘンにモッサリとした空手アクション(汗)、もとい東洋の神秘(爆)を再現したかのような静的な構え方や戦い方をするパワード。
 それを「初代マンにも似ている静かな戦い方」だと関連つけているのも、初代『ウルトラマン』のリメイクであった『ウルトラマンパワード』の弁護の仕方として、それをも『激伝』本編にて巧妙に意味付けしてみせるエクスキューズの仕方は実にうまいと思う(笑)。


 ファンタジックな童話の人形キャラクターのようなピッコロ王子も「タロウの親友」を名乗って登場! このピッコロもまた『ウルトラマンタロウ』第46話『日本の童謡から 白い兎は悪い奴!』に登場した宇宙人キャラクター・ピッコロ本人である。第1期ウルトラシリーズ至上主義者であるシリアス志向な特撮マニアたちが忌み嫌ってきたコミカル編に登場したことから、旧来の特撮マニアたちからはキラわれていただろうが、一見はマイナーな怪獣キャラクターのようでも実に鮮烈な印象を残していたからか、『激伝』での再登場も妙に嬉しい。
 『帰ってきたウルトラマン』出自のなまけ怪獣ヤメタランスやササヒラーも、原典通りにコミカルながらも重要な役どころで登場している。


 現在でもあまりスポットが当てられることが少ないジョーニアスやエイティ・グレートにパワードらが中心となって活躍するあたりもまた、ホンモノの「ウルトラ愛」が感じられて好印象を残す。
 『ウルトラマン80』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)から『ウルトラマンティガ』(96年)の間にテレビシリーズが16年間も製作されないという空白期間だった当時、グレートとパワードはオリジナルビデオシリーズのヒーローだったとはいえ、当時の子供たちにとっては間違いなく最新の現役ウルトラヒーローであったのだ!
 ゴーデス編が95年11月号から連載開始される直前、95年4月から9月にかけての半年間、関東など一部の地域ではTBS系列で『ウルトラマンパワード』(93年)と『ウルトラマンG(グレート)』(90年)が毎週土曜17時30分枠(後年の『メビウス』の放映枠でもある)で連続放映されており、「ゴーデス編」への呼び水としては絶好のものとなったかもしれない。



パワード「……また心が乱れたぞG(グレート)……」
グレート「……悪リィ……」
パワード「ウルトラの星のこと…… まだ悩んでいるのか?」
グレート「……ああ。オレたちはゴーデスハンターとしてキングから特命をあたえられている身だ。だからヤツをさがし続けて倒さなきゃならねえ…… それはわかってるんだ……! だけど…… せっかく父やゾフィーから宇宙警備隊にさそわれても、なんの説明もしないで断りつづけなきゃいけねえなんて……」
パワード「………」
グレート「正直耐えられねえっ!! ……オレだってセブンやエースたちといっしょに戦ってやりてえのに……」
パワード「……しかたのないヤツだ。おまえはうわべとは違い、内面は情にあつい…… そう思うのもムリはないが…… 我々には他人にできない任務がある。宇宙平和のために表舞台で働くか裏舞台で働くか…… 違いはそれだけだろう?」
グレート「………!! おまえはいいよな。さとりきってて。オレから見たら超人だぜ……」
パワード「強さはおまえが上だ。だからこそ私は魂をみがいている……」
グレート「……ありがとうよ…… またオレがまよったら…… たすけてやってくれよ。 な?(ウインク・笑)」


 ゴーデス編の第4話『宇宙の悪魔ゴーデス』で描かれた回想場面である。ナンと! グレートとパワードはふたりともに幼いころからウルトラマンキングに育てられ(!)、キングのもとで修行を積んでゴーデスハンターの特命を与えられていた! という実にオイシい設定となっているのだ!
 70年代の小学館の学習雑誌や『コロコロコミック』でのウルトラ一族のウラ設定の特集記事のようなノリだが、なぜだが実に納得ができて腑に落ちてくるウラ設定である。
 現在ではすっかり冷遇されている感のあるグレートとパワードであるが、せっかく『激伝』ゴーデス編で主役の任を務めたふたりに与えられた「グレートとパワードはキングに育てられた」という最高のウラ設定! 円谷プロの公式設定にもしてほしい!!


オリジナルビデオアニメ『ウルトラマン超闘士激伝』

バンダイビジュアル『ばっちしV』シリーズ・40分・96年9月25日発売・定価3500円)
ウルトラマン超闘士激伝

ウルトラマン超闘士激伝

ウルトラマン超闘士激伝

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 本作は「ゴーデス編」と、続く「エンペラ星人編」の間に起きた事件として設定されている。



「地球で銀河連邦生誕イベントが開催。記念試合で対戦する闘士マンとメフィラス! 同じころ、タロウ、エース、ジャックらは彗星爆破の任務に向かったが、一同の前に、彗星の中から出現した超強力怪獣が立ちふさがった!!
 タロウらを倒した怪獣は地球へと進軍。マンとメフィラスの試合会場に突如出現して…!?」

(『ウルトラマン超闘士激伝』第6巻(講談社 96年7月5日発行)『激熱!! 超闘士道場 出張版』「OVA(オリジナルビデオアニメ)『超闘士激伝』製作快調!!」「★ストーリー★」)



 ところで、映画『ウルトラマンメビウスウルトラ兄弟』は、公開初日の夕方に放映された『メビウス』第24話『復活のヤプール』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061112/p1)中でのセリフから、映画が先で第24話が後だという時系列になっていた。
 NTT東日本フレッツ・スクエアで『メビウス』放映当時にネット配信された『ウルトラマンメビウス外伝 ヒカリサーガ』も、SAGA1(サーガ・ワン)『アーブの悲劇』では、ウルトラマンヒカリ――この時点では謎の鎧の戦士・ハンターナイトツルギ――が初登場した『メビウス』第5話『逆転のシュート』の前日譚。
 SAGA2『勇者の試練』では、ヒカリが地球を去った第17話『誓いのフォーメーション』直後の後日譚で、その次回である第18話『ウルトラマンの重圧』に登場する宇宙大怪獣ベムスターも登場。
 SAGA3『光の帰環』は、ヒカリが再登場する第35話『群青(ぐんじょう)の光と影』の前日譚として同話に登場するババルウ星人も登場していた。
 バンダイの玩具『DXウルトラコクピット』で描かれた事件も、一応『メビウス』本編のどこかで発生していた正編であるという設定であり、07年7月に発売された第2弾は、リュウ隊員が隊長に昇格して指揮する新生GUYSが活躍する『メビウス』最終3部作の後日譚でもあった。


 そして、すでに本作『激伝』は、「ゴーデス編」と「エンペラ編」の間の出来事として、同様の試みを行っていた。それがこの番外編では決してなく、あくまでも正編のひとつでもあったこのOVAなのである!


 もちろんこういう商業展開にも一長一短はあるだろう。重要キャラの生死を描いてしまったOVAを観ていない読者に対して、OVAの続きである漫画の「エンペラ編」の方では説明が少ないことなどは欠点である。
 ただし、そこさえフォローがていねいであれば、媒体が異なる正編といった存在も積極的にアリだろう!


 今回の漫画『超闘士激伝』復刻版でも、OVAのコミカライズを描き下ろしすることや、OVAの静止画キャプチャーを使用することは、予算面や意外とかなり高額であるらしい映像版権使用料的にもムリだったとしても、文章だけでも見開き2ページくらいで当時の事情やOVAのストーリーも紹介してほしかったところだ。
 ……ついでに云うと、原作者や漫画家による後書きや、『激伝』にくわしいライターなどによる解説なども、最終巻にはほしかったところなのだが、これも復刻版製作における予算面での問題か?(笑)




 「銀河連邦生誕記念式典」が開かれた、我らが地球にある巨大闘技場。現れた闘士ウルトラマン(声:森川智之)に、突如メフィラス大魔王(声:檜山修之)が奇襲攻撃をかけてくる!


メフィラス「相手をブチのめす! それが闘いの掟だ!」
闘士マン「手を出さないでくれウルトラセブン! これはメフィラスと私の試合なんだ!」


 闘士マンは「超闘士」の状態を維持するための王冠型のアイテム・ウルトラクラウンを、まるでウルトラセブンことモロボシ・ダン隊員が変身アイテム・ウルトラアイを着眼するかのごとく額に装着する!


闘士マン「ウルトラクラウン! 装着!!」


 ウルトラの父やタロウの両ヅノのようなウルトラホーン(ウルトラクラウンの突起部分の変型)が、闘士マンにも生えてくる! それも光輝く黄金色である!


 そればかりではない! 地球人の防衛組織・ウルトラ警備隊の地底戦車・マグマライザーはライザーG(ジャイアント)なる人型ロボットに変型した!


 ナンと! 未来の時代が舞台だとはいえ、『激伝』では防衛組織にマシンから変型する巨大ロボットまで建造させていたのである!――「ヤプール編」でもアラスジ紹介では省いたが、防衛組織・科学特捜隊の戦闘機・ビートルが変型してビートルG(ジャイアント)なる人型ロボットが登場していた!――


 先に引用した2ちゃんねるでの論争でも、地球人が巨大ロボットを建造してウルトラマンをサポートしたり、巨大ロボットが変型して友情の証としてウルトラマンの鎧として合体してもよいのでは!? という意見が出てもいた。


 そもそもウルトラシリーズを製作した円谷プロも、かの『トランスフォーマー』(85年)シリーズよりもずっと以前、73年1月放映開始の『ジャンボーグA(エース)』(73年)で、正義の宇宙人由来の超常の力によるものだから、玩具での変型は不可能なプレイバリューはないものだったが(笑)、セスナ機をジャンボーグAに、自動車をシリーズ後半に登場する2号ロボであるジャンボーグ9(ナイン)に一応は変型させていた。
 これは先立つこと1ヶ月前の72年12月に放映が開始された『マジンガーZ(ゼット)』(72年・東映動画→現東映アニメーション フジテレビ・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200119/p1)の放映で、巨大ロボットアニメが大人気となり、第2次怪獣ブームが下火となりはじめていた当時の風潮にも合致して、成功をおさめていたのである。


 かつては孤独に素手で戦っていた昭和ライダーとは似ても似つかぬ、複数のライダーたちが登場して武器や武装も多用し、多段変身を繰り広げている平成ライダーたちだが、今では誰もそのことに対して文句も云わない。
 『仮面ライダーBLACK RX』(88年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001016/p1)がはじめてレーザー剣を使ってクルマに乗ってロボライダーやバイオライダーに2段変身したときには、当時の子供たちはともかく年長のマニアたちからはアレだけ凄まじい非難囂々(ひなんごうごう)があったというのに……(汗)
 だから多分に単なる「慣れ」の問題なのである。よって、ウルトラマンが鎧を着用したり、地球人が巨大ロボットを建造してサポートしても、そのうちに慣れちゃうと思うゾ(笑)。



闘士セブン(声:関俊彦)「ホーク・ウェポン、アームド・アップ!」


 さらにさらに! 3機に分離した防衛組織・ウルトラ警備隊の戦闘機・ウルトラホーク1号が3機に分離したα(アルファ)号が剣となってセブンの右手に、β(ベータ)号は盾となって左手に、γ(ガンマ)号とウルトラホーク2号は翼となってセブンの背中に装着される!
 ウルトラホーク3号は変型してライザーGの右腕に装着! ウルトラマンエイティとともに、地球に天変地異を巻き起こした、本作のメイン悪役である彗星戦神ツイフォン(声:梁田清之)に立ち向かうのである!


 圧倒的なパワーを誇る強敵相手であれは、多少の武装をしても卑怯には見えない! ということもある。と同時に、「ウルトラ」の玩具の主流であるソフビ人形は、変型や着せ替え的に遊び倒すのには限界があり、これくらいのプレイバリューがないと今の子供たちにも興味を持ってもらえないとも思うのだ。



「武器だの合体ロボだの、お前ら本気かよ! 発想が幼稚過ぎて幼児も見放すぞ! ウルトラマンというキャラがなんで40年以上も生きつづけたのか、もう一回考えてみることをお勧めする」
「一人のファンとしてウルトラマンを商売の道具にしたいとは一切思わない(以下略)」


「これからの商品展開を含めた案は? みんなそう言いたい気持ちを持ちつつ、なるべく逸脱(いつだつ)しない案を出している」
「まあなんだな。此処(ここ)でみんなが言ってることは「夢だけじゃ食っていけない」ってことなんだな。(武装や巨大ロボに反対するのは)わからんでもないけど(円谷プロが)倒産しかけた現実を考えるとね・・・」
「割りと無理矢理感や逸脱が少ない案がそれなりに出てたと思うけど」
「まぁみんなの言いたいことは「マーチャンダイジングでも成功して欲しい」ってことだよな。それだけ利益が制作費になるわけだし」


2ちゃんねる「特撮!」掲示板『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』Part19 2009年12月21日~2010年1月6日)



 その存在自体を全否定するかのように評されてしまうことも往々にしてある巨大掲示板2ちゃんねる」なのだが、実際にはこのような理性的かつ建設的な、経済的な現実をも見据えた応酬もあったのだ。



メフィラス「おまえに倒されたあいつのため…… いや、おまえにはわかるまい! あいつとの闘いで、オレに生まれたものがなんなのか…… 闘う男の、誇りってヤツだよ!」



――『超闘士激伝』って監督好みのお話ですよね?
「ホントは殺伐(さつばつ)としたのは好きじゃないんで、あんまり殴る蹴るっていうのは得意じゃないんだけど(笑)、まあそれだけじゃないですからね。そこにちゃんと友情とかそうゆうのがあるから作品として成り立ってるワケで、まあ男っぽいですよね。そういう意味での男っぽさ、汗クサさはわりと好きなんで(笑)」


――監督の過去の作品だと『アイアンリーガー』に…。(引用者註:児童向けテレビアニメ『疾風(しっぷう)! アイアンリーガー』(93年・サンライズ テレビ東京)。SD調のロボットたちがスタジアムで各種競技をする作品で、当時のオタクのお姉さんたちの一部にも人気があった・笑)
「近いモノはありますよね。ちょっと恥ずかしいぐらいの感じが(笑)。まあ『アイアンリーガー』の時もそうだったんですけど、生身の人間がやると、どうも照れちゃうと言うか…
 「誇りってやつだよ」とか言われると、“お前ナニ言ってんだよ”みたいな(笑)。そんな気分になるところが、――引用者註:漫画アニメやSDキャラ、着ぐるみの仮面キャラクターである――ウルトラの兄弟、あるいはメフィラス星人だったらストレートに出せる部分があるんで、そういう助けはかなり借りてるかな、とは思いますね」


(『ウルトラマン超闘士激伝 オリジナルサウンドトラック』「INTERVIEW」監督:アミノテツロー



 ハイパー化の数十倍のパワーを誇る「超エネルギー増幅装置」を装着したメフィラスは、遂に彗星戦神ツイフォンを倒した!! だが……


闘士マン「メフィラス、なんてことを!」
メフィラス「最後まで説教か?…… それもおまえらしい……」
闘士マン「しゃべるな! 今すぐ地球へ運んでやる」
メフィラス「よせ、ムダだ。オレはおまえみたいに不死身じゃない。オレなりに頑張ってはみたが、おまえのようにカッコよくはいかなかったぜ……」
闘士マン「なにを云う! ツイフォンを倒したじゃないか!? おまえは私より上だ!」
メフィラス「そうだな…… おまえでも勝てなかったアイツをな……」


 だが、背後にただならぬ殺気を感じる闘士ウルトラマン


メフィラス「どうした……」
闘士マン「すごかったよ、メフィラス。すごかった! ヤツはコナゴナだ! 地球は救われた! おまえのおかげだ!」


 ヒトをだまして陥れるためのウソではなく、ヒトを安心させるための気遣いとしての優しいウソも咄嗟に機転を働かせてつくこともできる、愚直なだけではなく実に人間が良く出来てもいる闘士マン。


メフィラス「そうか…… よかったな……」
闘士マン「メフィラス……」


 闘士マンの腕の中で静かに息絶えるメフィラス大魔王……



――監督から提案されたコトってあります?
「こういう話の常なのかもしれないですけど、死んでは生き返り死んでは生き返り、みたいな、そういうニュアンスってあるじゃないですか。でも、やっぱり死んだ人は戻ってこない……って言うのかなあ、そういうケジメはどっかでつけられるとイイですね、って話はしましたね。
 だからメフィラス(大魔王)も、死ぬんだったらちゃんと死んでくれよ、みたいな気分で(笑)。あと、死にに行くんではなくて、結果として死んでしまったという部分も欲しいなって、これは言葉のアヤですけど“命に替えて”と“命を賭けて”ってけっこう違うんじゃないかな、っていう、そのへんの微妙なこだわりだけ明確にして貰(もら)ったって感じですね。
 例えば、ハイパーエネルギー増幅装置って極端なコトを言うと、最初はつけると絶対に死ぬって設定だったんですよ。だったらつけないよ(笑)ってそのぐらいの気分なんですけど、そのへんをノリだけでいかずに“押さえ”たいな、と思ってたんで……。
 僕なんか、メフィラスに感情移入しやすかったんですけど、まあ主人公はどうしても(初代)ウルトラマンなんで、(初代)ウルトラマンが最終的に見せ場を作ってくなかで、今回はメフィラスとの友情話の頂点、みたいな気分はありましたね」


(『ウルトラマン超闘士激伝 オリジナルサウンドトラック』「INTERVIEW」監督:アミノテツロー



 ツイフォンに怒りを爆発させる闘士マン!


闘士マン「おまえはいったい何者なんだ!? なぜこんな殺戮(さつりく)を続ける!?」
ツイフォン「オレはオレだ。全宇宙をかけめぐり、その先々にあるものはすべて破壊する。それがオレだ」
闘士マン「なんだと! なぜだ!? なぜそんなことを!?」
ツイフォン「なぜはない。それがオレだ。もう何万年もの間、繰り返してきた。そしてこれからもだ」
闘士マン「そうはさせない! もう二度と、こんなことはさせない!!」


 ハナっから話し合いなんぞは通じるハズのない、感情のカケラすらもない倒すべき相手としてツイフォンが描かれているのも、勧善懲悪活劇としては秀逸だが、だからこそ「闘士マン」が黄金のオーラに輝く「超闘士ウルトラマン」へと強化変身する必然性にも、がぜん説得力がわくというものなのである!


超闘士マン「私は宇宙を破壊する者を許さない!!」


 だが、ウルトラクラウンなしで超闘士となったことから、胸の中央にあるカラータイマーが早くも赤く点滅をはじめる!


 ツイフォンは頭のツノでそのカラータイマーを貫いた!! 吹っ飛ばされる超闘士マン……


超闘士マン「死ねない…… 絶対に死ねない…… 私には義務がある! メフィラスが守ったものを、守り通す義務が! 死ぬわけにはいかない!」


 そのとき、超闘士マンのカラータイマーの周囲に神秘なる力が発動した!!


ゾフィー(声:江原正士)「オオッ、あれは!?」
ウルトラの父(声:玄田哲章)「宇宙伝説の永遠の命、デルタスター!!」


 超闘士マンに装着された巨大な紋章・デルタスターをド突いたツイフォンの拳がコナゴナに砕けた!
 一瞬、動揺したツイフォンだが、すかさず全身をドリル状に回転させて超闘士マンに突撃する!
 しかし、それもデルタスターにハネ返される!


超闘士マン「そうだ、それが私だからだ! おまえの長い旅もこれで終わらせる!! ……スペシウム超光波!!!」


 遂にツイフォンを宇宙の塵(ちり)と化す!


 英雄となった超闘士ウルトラマン


ノタニー博士(声:八奈見乗児)「いや、(超闘士)ウルトラマンだけではない。英雄は彼の…… 我々の胸の中にもいるよ……」


 この戦いを目撃していたすべての人々の想いも代弁して、メフィラス大魔王に哀悼の言葉を捧げてみせるノタニー博士……



 OVA版スタッフは『激伝』の世界観を充二分に熟知し、各キャラの描き方に存分に反映させている。脚本は原作者の瑳川竜氏が自ら手掛けることで、完全に『劇伝』正編の一編ともなっていた。



「今回、絵コンテを読み込んでいくうちに、過去に見ていた実写のウルトラマンよりアニメのウルトラマンの方に不思議なリアリティーを感じてしまった。実写の場合に感じていたウルトラマンスーツや怪獣達との質感と風景との間のギャップが、アニメになった途端に見事に解決され、すべての登場人物や背景が同一線上に並んだのである。そして無表情なマスクの向こうにあるウルトラ戦士たちの心の叫びが聞こえてきた。これこそ真実のウルトラマン伝説だと思うのである」

(『ウルトラマン超闘士激伝 オリジナルサウンドトラック』「MESSAGE」音楽:池毅)



「今回のウルトラマンの音楽制作は、まず最初にボーカルヴァージョンをつくる時に、ひとつの標語がありました。それはスタッフから出た注文で、〈汗くさい感じのする体育会系サウンドにしたい…〉といったようなものでした。逆に言えば〈オシャレでナンパな音楽から正反対に位置するもの…〉といったようなニュアンスだったと思います。これってある意味で、ウルトラマンの核をなす大事な部分ですよね?」

(『ウルトラマン超闘士激伝 オリジナルサウンドトラック』「MESSAGE」音楽:戸塚修


 この発言に続く、戸塚修氏の「備考」による使用機器の目録を読むと、本作のBGMは後年の『ウルトラ銀河伝説』の楽曲群のように、早くも録音スタジオを借りてスタジオ・ミュージシャンを招集してのナマ楽器からの収録は一切行わずに、パソコン上の作曲ソフトとシンセサイザーだけでつくったようでもある。



「そんな意味でも、監督として(系で言うなら“コブシ握り系”あるいは“血液たぎり系”の作風を得意とする)アミノテツロー――引用者註:リアルロボットアニメ『マクロス』シリーズの人気異色作『マクロス7(セブン)』(94年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990906/p1)などが有名――を迎えての映像化は、まさしくベスト・マッチングの印象。演出・絵コンテを手懸けた(平野俊弘監督作品――引用者註:戦闘美少女アニメ『戦え!! イクサー1(ワン)』(85年)・巨大ロボットアニメ『破邪大星ダンガイオー』(87年)と『冥王計画(プロジェクト)ゼオライマー』(88年)などの80年代の草創期OVAなど――における好き者ぶりはつとに有名な)西森章(にしもり・あきら)以下、『ウルトラ』世代のスタッフの大挙参入も頼もしい限りで、このアニメ版『激伝』もツボを突きまくった快作(隕石を目撃した子供のコスプレを見よ! カタストロフィー描写の引用ぶりを見よ! 思わずやってしまいました的オープニングを見よ!)として、原作の“ウルトラ魂”を見事なまでに継承した、燃える逸品(いっぴん)に仕上がっている。(中略)
 ともあれ“ウルトラ魂”を持つスタッフの「限りなきチャレンジ魂」が炸裂した印象の『激伝』アニメ版。この先の展開にも大真面目に期待してマス。本気で!

(96/8/9)」
(『ウルトラマン超闘士激伝 オリジナルサウンドトラック』「EXPLANATION」赤星政尚)



 本作の敵である彗星戦神ツイフォンは、初代『ウルトラマン』第25話『怪彗星ツイフォン』で地球に接近した彗星ツイフォンが、同話ラストでの計算通り、地球歴(多分、西暦・笑)3026年に再び接近して、その正体を遂に現わした姿だろう。
 ということは、『激伝』の時代は今から1000年後の西暦3020年代の出来事となるのだ。
――「ヤプール編」冒頭ではエースが「むかしオレが地球をまもっていたころ…… 数十年まえかな~~」と云っていたのだが…… エースの云い間違いだったのだろう・笑――


 日タイ合作の映画『ウルトラ6兄弟VS(たい)怪獣軍団』(75年・79年日本公開)に登場したインドやタイの神話の神様である白猿ハヌマーンの扮装のような服を着た少年コチャンもさりげにモブの中に登場。
 昭和ウルトラシリーズのオープニング映像へのオマージュに満ち満ちた影絵のオープニング主題歌映像にかさなるカッコいい主題歌やエンディング歌曲など、小ネタのマニアックな楽しさにも満ちている。


 VHSビデオソフトとしてリリースされて以来、まったくソフト化の機会に恵まれない本作だが、このまま埋もれさせるにはあまりに惜しい名作である。
 せめて『激伝』復刻版の全巻購入特典としてDVDを頒布(はんぷ)するといったことができなかったものであろうか? 本作は『激伝』の立派な「正編」なのである。


 強いて云うならば、メフィラス大魔王の声を筆者などは勝手に原典の初代メフィラス星人の声である加藤精三でイメージしていたので、『五星(ごせい)戦隊ダイレンジャー』(93年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111010/p1)のイレギュラー敵怪人・神風大将の声であったことには少々イメージが違った(笑)。


第4部『エンペラ星人編』

ウルトラマン超闘士激伝 4巻

*96年11月号『新たなる脅威』
*96年12月号『結成! 銀河遊撃隊』
*97年1月号『ブラック指令の罠』
*97年2月号『光と闇の戦い』
*97年3月号『光の戦士よ永遠なれ!!』


 莫大な量の高純度エネルギーを蓄積できる特殊立方体・EX(エネルギー・エックス)キューブを軍事に悪用し、全宇宙を攻撃せんとする者が現れた!
 正体不明の新たな敵・エンペラ星人の軍団である! 彼らの戦闘機械獣・メタルモンスの圧倒的な軍勢に、宇宙はいまだかつてない危機を迎えていた!


 ウルトラマンネオスウルトラセブン21(ツーワン)が警備するセントール星をエンペラ軍団の陸軍戦闘母艦・ドレンゲランが襲撃する!
 メタルモンスを次々に破壊するネオスとセブン21! その前に姿を現す陸軍参謀・ザム星人!


 ふたりの危機に、伝説の最強戦士・闘士ウルトラマンが駆けつけた! エンペラ軍の侵攻に対抗するために、ウルトラ戦士団は戦力を再編成、闘士マンは銀河遊撃隊隊長に任命されていたのである!


 エンペラ軍団が真にねらうものはウルトラの星の3大秘宝だった。ウルトラキー! ウルトラベル! そして幻の鏡・ウルトラミラー!
 かつてそれらはウルトラの星に所蔵されていたのだが、ババルウ星人にウルトラキーを奪われた際(!)、ウルトラの星が壊滅の危機を迎えたことから、ウルトラの父はウルトラキーなしでもウルトラの星の軌道を維持できるようにウルトラの星の機能を改良し、3つの秘宝を全銀河に隠していたのである!
――ウルトラキーを奪われたうんぬんの逸話は、もちろん『ウルトラマンレオ』第38話『レオ兄弟対ウルトラ兄弟』~第39話『レオ兄弟ウルトラ兄弟勝利の時』の前後編を指している!――


 セントール星を今度は海軍戦闘母艦・サメクジラと、空軍戦闘母艦・サタンモアが襲う!
 超闘士マンはネオス・セブン21とともに、地球人から受領した超光速銀河遊撃挺・スターフェニックスでこれを迎え撃つ!
――フェニックスの名前がまた、初代『ウルトラマン』第16話『科特隊宇宙へ』に登場した金星探査用宇宙船・フェニックスからの引用で、その姿は科学特捜隊のマークである「流星」を模した姿であった・笑――


 海軍参謀・バルキー星人はイーストン星でウルトラベルを手にしてしまう。面白くない空軍参謀・ブラック指令は暗黒司祭・ジェロニモンと手を組み、残るふたつの秘宝を同時に手に入れようと企む。


 セブン21はジェロニモンが作り出した暗黒時空に落ちてしまい、ブラック指令にウルトラの父やタロウの両ヅノのようなデストホーンをつけられてしまう! ブラック指令に操られてしまったセブン21は、ウルトラキーを奪ってしまった!
 ネオスは単身でスターフェニックスに乗りこみ、ブラック指令とセブン21がいる水星へと向かう! 必死でセブン21を説得するネオス!
 だが、セブン21はネオスに向けてウルトラキーの銃口を向けてしまう!


 間一髪! 現れた超闘士ウルトラマンが持つウルトラミラーでウルトラキーの攻撃はハネ返された!
 そしてセブン・エース・タロウ・グレートの4大守護闘士も大集結! エンペラ空軍との決戦の火ぶたが切って落とされた!


――ちなみに、エンペラ軍が「陸軍」「海軍」「空軍」に分かれていて幹部たちが「参謀」の役職だったりするのは、円谷プロの分派がつくった特撮巨大ロボット作品『スーパーロボット マッハバロン』(74年)のララーシュタイン博士が率いるロボット帝国からの引用だろう・笑――


 そしてネオスはセブン21にウルトラミラーを向けて、本当の心を映し出すように説得を試みる! すると脳裏にネオスとの思い出が回想されて苦しみはじめる21!


 サタンモアから脱出したブラック指令の前に、ウルトラキーを携えたネオス、そして正気を取り戻したセブン21が現れた! そのトサカ部分を外して宇宙ブーメラン・ヴェルザードを放つセブン21!
――このへんも内山まもる大先生の『ウルトラマンレオ』コミカライズ最終回の同様シーン(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210124/p1)へのオマージュである――


 生き残ったジェロニモンからエンペラ軍の本拠地を聞き出そうとする守護闘士たちだったが、彼らの眼前にエンペラ星人の巨大なる幻影が現れて、戦いがまだ終わっていないことを告げるや、姿を消していった……




 連載開始当時、すでに96年9月スタートの『ウルトラマンティガ』の放映がはじまっているが、今回の「エンペラ星人編」の主人公格となったのは、ウルトラマンネオスウルトラセブン21である。


 筆者の記憶に誤りがなければ、94年11月23日(祝)にマスコミ向けに新ヒーローの製作発表記者会見が行われ、その席上にてテレビシリーズに向けて準備が進めれているとされたはずである。
 ネオスらのデビューは95年3月11日~6月18日に熊本県三井グリーンランドにて開催されたイベント「95年こども博 ウルトラマン伝説」であり、同年初夏には映像作品化に向けて、高野宏一特撮監督による8分間のパイロットフィルム(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971115/p1)――おそらくフィルムではなくビデオ撮影で、多分に『ウルトラマン80』の特撮バンクフィルムも織り交ぜつつ・汗――がマニア向け媒体や幼児誌などの商業誌のカラーグラビアなどで紹介されている。
 脳魂宇宙人ザム星人と宇宙鉱石怪獣ドレンゲランとのバトル中心で構成され、白昼の戦いがオープンセットのビル街、夜の戦いがスタジオ撮影のビル街で撮られており、ドレンゲランの首が伸縮したり、セブン21の目が細くなったりする場面に当時最新のモーフィング技術――今から見ると実に初歩的な被写体の変型描写を可能とするCG技術――が部分的に使用されている。


 このパイロット映像は、講談社『テレビマガジン』の愛読者向けに頒布されたのみならず、95年よりバンダイビジュアルからおびただしく発売されたキッズ向け再編集ビデオソフト『ばっちしV(ブイ)』シリーズにもたびたび流用されて、ウルトラヒーロー大集合! というような内容のビデオソフトでは、ネオスとセブン21が常に最新ヒーローとしてセンターポジションに位置づけられており、彼らのプロモーションの役割を果たすには絶好のものともなっていた。


 『テレビマガジン』では、なんと赤星政尚(!)による脚本と宮田淳一の作画により、95年11月号から96年2月号にかけて、地球に来るまでの話として漫画版も連載されていたのである!


 『ウルトラマン』放映30周年記念の96年の放映を目指して、前年の95年に着々と準備が進められていた、ウルトラマンネオスウルトラセブン21のダブルヒーローを主役に据えた新番組『ウルトラマンネオス』の企画案は、TBSでは子供番組として適切な放映枠が取れなかったようであり、土曜夕方6時の放映枠を持っていた毎日放送(大阪・TBS系)も難色を示したのかして流れてしまったのはご承知の通りである。
 以降は平成『ウルトラセブン』を製作した円谷昌弘プロデューサーとビデオ会社・バップ側の人脈によって、その5年後の2000年11月から01年5月にかけて発売された全12巻(全12話)のオリジナルビデオシリーズとして企画が再始動するまではお蔵入りとなってしまったヒーローたちでもある。


 95年版の『ネオス』は、原点回帰志向のファーストコンタクトものであった『ウルトラマンG』や『ウルトラマンパワード』とは異なり、『ウルトラマンメビウス』のように昭和のウルトラシリーズとも直結していることを示唆するウルトラファミリーの集合写真、1970年代の学年誌や『コロコロコミック』でのウラ設定のように、


・宇宙警備隊のエリート戦士集団である勇士司令部に所属するという設定のウルトラマンネオス
・宇宙警備隊の特別部隊である宇宙保安庁に所属するという設定のウルトラセブン21!


 といった要素を前面に押し出していて、一部の世代人の特撮マニアたちを大興奮させていた。


 しかし後年の映像化作品では、非常に残念なことに、その『ネオス』95年版の最大のウリをバッサリと捨て去ってしまい(汗)、またしても人類がウルトラマンや怪獣と初遭遇した世界であるという舞台設定に退行してしまっていたのだった……


 『ティガ』放映前年の95年夏休みに開催された『ウルトラマン フェスティバル95』における「ウルトラライブステージ」では、ネオスとセブン21がバリバリで主役を務めており、グレート・パワード・初代マンが準主役として活躍して、その最後にネオスと21がもうしばらくしたら地球へと派遣されるだろうとウルトラの父ウルトラの母が語っていた……
 ところが翌年夏休みに開催されたゴジラウルトラマン仮面ライダースーパー戦隊の合同イベント『史上最大の決戦 ヒーローフェスティバル96』の4大特撮ヒーローが共演するライブステージでは(その内容自体は傑作!)、ネオスとセブン21の姿はなかったと記憶している……
――ちなみに、夏休みが終わったらすぐにテレビで放映が開始されるハズの新ヒーロー・ウルトラマンティガの姿もなかったと思う。同作は96年のゴールデンウィークあたりで急に製作が決定したらしくて(?)、ヒーローの着ぐるみだってデザインから造形までに最低でも2~3ヶ月はかかるだろうことを思えば、このイベントへの登場には間に合わせられなかったといったところだろう――



 セブン21が小川に小石を投げて愚痴る……


セブン21「いっちゃあアレだけど オレもオマエも ウルトラ戦士の中じゃあ けっこう期待の星だったんだと思うんだけどなぁ…… こんな惑星に配属…… しかもたった二人だ。いわゆる左遷でしょコレって。やることといったら農作業をしている怪獣さんたちのあいてと たま~~に襲ってくるメタルモンスの一掃……! モーーー毎日そんだけだもん!!」
ネオス「………」
セブン21「ああ…… いまごろセブン先輩やタロウ先輩たちは 宇宙のあちこちで華々しく戦ってんだろうなぁ………」


 「エンペラ星人編」第1話である『新たなる脅威』でセブン21がつぶやくこのセリフ。テレビ化が流れてイベントでしか活躍できなかったネオスとセブン21の不遇も如実に象徴されているようで、正直シャレにならない(汗)。


 もっともふたりが「いなか星」であるセントール星に派遣されたのは、ウルトラの星の3大秘宝のひとつであるウルトラキーが隠されていたことから、その隠密の警備のために有望な新人であるふたりがそれと知らされずに任命されていたのだ……とのちに判明することで、両者のキャラも立てている。


 それをねらうのは、エンペラ星人の配下となっていた酋長怪獣ジェロニモン・宇宙海人バルキー星人・ブラック指令・脳魂宇宙人ザム星人!
 エンペラ星人のデザインは、後年の『メビウス』で登場したものとは異なるのだが、『激伝』らしくて全身が鎧に被われたハイパーエンペラ星人といった趣である。
 造形的には金銭と手間がかかりそうだが、今さら云っても詮ないことだけど、『メビウス』終盤に登場したエンペラ星人も、『激伝』世代を狂喜乱舞させるためにもこのデザインで登場させてあげてほしかったなぁ……


 陸軍戦闘母艦・ドレンゲラン、海軍戦闘母艦・サメクジラ、空軍戦闘母艦・サタンモアは、いずれも原典では怪獣である。しかし、この陸・海・空の参謀たちが搭乗する怪獣型の巨大宇宙戦艦は、ウルトラシリーズ番外編である映像作品『アンドロメロス』(83年)に登場した悪の異星人混成軍団・グア軍団の3大幹部であるジュダ・モルド・ギナが搭乗していた全長900メートル級(!)の怪獣戦艦キングジョーグ・ベムズン・ギエロニアへのオマージュでもあるだろう。


 そのエンペラ軍団とウルトラ戦士たちとの3大秘宝の争奪戦! それを巡る参謀たちの仲間割れ!
 7つのドラゴンボールを集める漫画『ドラゴンボール』、8つの霊玉を集める江戸時代の長編小説『南総里見八犬伝』など、大むかしからあるコテコテのアイテム争奪戦だともいえるのだが、良い意味で王道の活劇展開となっている!


 そして、ウルトラミラーがただの「物理」的なアイテムではなく、「心」や「魂」や「真実」をも映し出すような「精神」的な「鏡」であると設定されているのも、それもまたベタかもしれないけど、神秘的で超常的なアイテムであるのならば、こうでなくてはダメだろう!


 大宇宙の平和を左右するマクロなアイテムであるウルトラミラーを用いて、ネオスがセブン21を改心させようとする実にミクロでプライペート・ドラマになってくる件りでは、ふたりの出逢いが回想として印象的に描かれており、これまたベタでも実に感動的に仕上がっている。
 「マクロ」な「イベント」と「ミクロ」な「ドラマ」を両立させるためには、主人公にとっての親友や大切なヒトが「悪」に墜ちてしまって、かのヒトと直接に対面させて会話もさせるという、「バトル」と「ドラマ」も両立できるこの手にかぎる!(笑)


セブン21「オイッ、おまえ なんかオレと同じようなのがついてるじゃねえか。席番もとなりあわせだし なんか縁がありそうだなオレたち……!」
ネオス「遺伝的にビームポイントが直線になるウルトラ人は 人口二千人に一人だという…… ウルトラの星の人口は百八十億人だから九百万人はいる計算になる。それが出会うことは たいして珍しいことだとは思わんが……」
セブン21「な なんだこの野郎……! まるっきりおもしろくねぇヤツ……!!


セブン21(心の声)「……そうさ。まるっきし おもしろくないヤツ!! ……いつもいつもオレに差をつける…… アタマにくるヤツ………!! そんなヤツをいつから……? なんで……? なんで……… こんなに好きになっちまったんだ!!?」


 ウルトラ学校の入学式に始まり、徒競走(笑)やテストの順位発表、殴り合いのケンカの末、肩を組んでのツーショット!(笑)


 この場面の直前は、


ブラック指令「ウハハハハッ!!! いい光景だわ!!! ウルトラ戦士どうしで殺しあっているところはっ……!!!」


 という、実に冷酷なシーンなのだが、だからこそよけいにその対比として、このシーンのハートウォームさが際立ってくるのだ!


――『ウルトラマン フェスティバル95』の「ウルトラライブステージ」と本作『ウルトラマン超闘士激伝』での、一応はネオスと対等ながらもヤンチャで未熟なセブン21! というイメージが強烈にあるので、はるか後年の近年になってから設定された、ネオスの年齢が8900歳というのに対して、セブン21の年齢が倍以上も歳上である1万8千歳(!)というのには非常に違和感があるなぁ。しかも、元祖のウルトラセブンの1万7千歳よりも年上じゃねーか!? ……まぁ元祖のセブンも、70年代には小学館コロタン文庫『ウルトラマン全(オール)百科』(78年10月10月発行・ISBN:4092810350)にも記載されていた通り、ジャックと同い歳の1万7千歳ではなく1万9千歳だったハズなのだけどなぁ(汗)。今からでもアレは間違いだったとして、21をネオスと同い歳に再設定してほしい!・笑――



「でも終わるときは非常に急だったんですよ(笑)。もうこれで終わりって話になったのが、エンペラ星人編が始まって一、二回ぐらいのザム星人とか出てくる回。言われてビックリですよね。
 最初が前後編で、その後編を打ち合わせしてる時に、次の前中後編三回で終わりにしなくちゃなんないってなって、強い宇宙人が出てきたばっかりなのに、どうやって終わらせようか非常に考えましたよね。最後は見開きのバトルシーンでバン! と<註5>。
 あと折角(せっかく)出てきたばっかりだったんでネオスとセブン21の関係論だけはその三回の中できちんと終わらせようということでまとめたんですけど。途中で終わったのは残念ですけど、急な終わり方としてはかなり納得していただける形でまとまったんじゃないかと(笑)。


●註5:見開きのバトルシーン…学年誌(引用者註:『小学二年生』)に掲載された、内山まもる作画による『ウルトラマンレオ』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210124/p1)最終回のひとコマ。円盤生物軍団とウルトラ兄弟がダイナミックに戦う姿がパノラマ的に描かれており、近年内山氏本人も新作の中で同じ構図を再現している。ウルトラコミックを代表するといっても良い構図のひとつ。


(『フィギュア王』No.139「光の国◆人物列伝」瑳川竜 ~『フィギュア王』プレミアムシリーズ6『ウルトラソフビ超図鑑』にも再掲載。Text by HARUTA seiji(張田精次))



 その通りで、マクロとしての事件は解決していないが、「エンペラ星人編」の主人公であるネオスとセブン21の物語としてはきちんと完結できていたとする、瑳川竜氏の自画自賛(笑)には完全に同意したい。



セブン21(心の声)「そんなヤツをいつから……? なんで……? なんで……… こんなに好きになっちまったんだ!!?」


 女性オタクの全員ではないけど、一部であるBL(ボーイズ・ラブ)ファンも大喜びの展開である(笑)


・「メフィラス大魔王編」の初代マンとセブン
・「ヤプール編」の初代マンとメフィラス
・「ゴーデス編」のパワードとグレート
・「エンペラ星人編」のネオスとセブン21


 いずれも「静」と「動」、「攻め」と「受け」の組み合わせであり、特撮ファンも兼ねていたBLファンたちが本作に興奮していたのもうなずける!?
 ……いや、バカにしているワケではなく、ヒーローもののメインターゲットはもちろん子供たちではあるものの、一部にはこういう受容をされてもイイのではないのかとマジで思うのである。それがダメだと云うのならば、ブーメランとして返ってきて、子供向けヒーロー番組に対して「あーでもない、こーでもない」と論評して楽しんでいる我々自身の存在もまた否定されねばスジが通らなくなってくる(笑)。



ウルトラマン同士の殺し合いを「見世物」とするなら、それは「商売」として、飽きられ枯れるまで続ければよろしい。もう、僕らが幼いころに胸をときめかせたウルトラマンはここにはいないのだから」



 『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』について、日本テレビ系列の中京テレビのプロデューサーであり、『今甦る! 昭和ヒーロー列伝』(93~96年・中部地区ローカル)を担当したことで知られる喜井竜児(きい・りゅうじ)が、自身のブログでこう批判していた。


 氏の云わんとする実にストイック(禁欲的)なヒーロー観そのものは、やや潔癖ではあるけど誠実なものだとは思える。しかし、ヒーローの偽物と戦うとか、ヒーローと同等のダークヒーローと戦うとか、誤解や洗脳からヒーロー同士が一時的に戦ってしまうといった展開なども、実に楽しいものではないか!?(汗)
 ヒーローに比べたら、見た眼的にも分が悪いから、最後には負けるのだろうナ、という感じのルーティンな怪獣や怪人と戦っているのと比べたら、時たまに変化球として登場してくるヒーローの偽物やダークヒーローは、通常回のゲスト怪人やゲスト怪獣たちよりも強そうには見えるのだ! もちろんそれでも最後にはヒーローに負けてしまうのだとわかってはいても(笑)、我々はワクワクとさせられてしまうのだ。
 ヒーロー同士の必殺技の応酬や力比べなども、リアルに考えればたしかに不謹慎な殺し合い(爆)かもしれない。しかし、オラオラ系の暴力的なナマ身の人間が演じるものではない、記号的な仮面ヒーローたちによる舞踏的で様式美的でスマートなアクション描写だと、殺伐とした感じはそれほどしないのではなかろうか?――もちろん意見というものはヒトそれぞれではあるので、そう思われる方々の見解を全面否定するものでもないのだが・汗――



 先のアミノテツロー監督の発言のように、ナマ身の人間に演じさせたらばクサくなってしまうようなセリフや演技や作品テーマでも、漫画アニメのキャラやSDキャラ、アニメ特撮の記号的な仮面キャラに語らせれば、生グサさも減らせてそのストーリー展開やメッセージにひたれたり、そのことで道徳的なテーマまでもが純化して浮上してきて、スナオに受け取れて心に響いてきたりもするものである。こういった利点を活かして、これまで極めて暑苦しいくらいの友情ドラマが『激伝』では展開されてきた。


 たとえば、ごく少数いるにはいた実写特撮『ウルトラマンメビウス』における、漫画アニメ的な防衛組織・GUYSの熱血バカばかりな暑苦しい絶叫調の友情ドラマがやや苦手だった方々でも、こうした漫画のような最初から記号化やデフォルメの度合いが高い媒体であったならば、『メビウス』のような熱血少年漫画的なストーリー展開や人間描写であったとしても、受け入れられやすいのではなかろうか?


 それとは別に、頭身がデフォルメされた『激伝』に、実写のウルトラマンシリーズはまるで観たことがないにもかかわらず、可愛い「仮面キャラ」が演じている「人間ドラマ」(笑)にハマり、そこからウルトラシリーズに興味を持ち始めたようなオタクのお姉さんたちも、『激伝』の各種同人誌などを観るかぎりではいるにはいるのである。後年の『仮面ライダー電王』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080217/p1)で実力派人気声優たちが声をアテていたキモ可愛い仮面怪人キャラ・イマジン4人組が高いオタク女性人気を示したことの先駆けでもあるだろう。こういった仮面ヒーローたちに漫画アニメ的なデフォルメされた性格を与えることも、特撮ジャンルの商業的な新たな鉱脈であるようにも思うのだ。



「エンペラ星人編は、ガシャポンでやっていた展開<註4>はみんなやる予定でしたね。


●註4:ガシャポンでの展開…(ウルトラマン)ゼアスと(ウルトラマン)ティガ、グランドキングをはじめとする陸海空の合体獣、2代目怪獣軍団などが、ガシャポンでは先行販売されていた。この時点で謎の存在だったエンペラ星人の姿がデザイン・商品化され、『ウルトラマンメビウス』以前には公式デザインとして認定されていた。


 どうしても末期の頃になると、漫画は月一連載で、ガシャポンは三ヶ月に一回12体ずつ出るから最低4キャラを月一で消費する話にしない限り、ガシャポンと同時展開できないんですよ。ただそれだけが原因ではなく、ガシャポンのセールス的にも漫画的にも、そろそろほどよいとこかなみたいな感じでした」


(『フィギュア王』No.139「光の国◆人物列伝」瑳川竜 ~『フィギュア王』プレミアムシリーズ6『ウルトラソフビ超図鑑』にも再掲載)


――引用者註:グランドキングとは映画『ウルトラマン物語』に登場した宿敵怪獣。内山まもる作画の挿絵の中に影のような姿として描かれてきたエンペラ星人を、本作のためにデザインしたのは円谷プロ所属だったデザイナー・丸山浩(まるやま・ひろし)。ちなみにグランドキングをはじめとする陸海空の怪獣とは、ガシャポンオリジナルのアクアキング(シーゴラス)とエアロキングバードン)であったようだ――



 先の瑳川氏の発言にもあるように、ネオスとセブン21の関係論は、エンペラ編の人間ドラマ面での背骨であったためか、ドラマとしては「エンペラ星人編」はきっちりとした終わり方となっていた。


 もっともエンペラ軍団にウルトラベルを奪われたままの状態ではあり、「本当の戦いはこれからだ!」という締めくくられ方は、メタ的に見ればいかにも「打ち切り」といった印象ではある(笑)。
 しかし、逆に云うならば、いくらでも続編を再開させることが可能である! というような完結のさせ方なのである。


続編『ウルトラマン超闘士鎧伝』


 『コミックボンボン』における『激伝』の連載は97年3月号で終了した。しかし、ガシャポンの写真を使用した『ウルトラマン超闘士鎧伝(ちょうとうし・がいでん)』なる続編的な内容の記事連載が、同年11月号までは続けられたようである。
 『ボンボン』には、ギャグ漫画ではあるが『ウルトラ忍法帖』(92~05年)というウルトラマンの漫画がもう1本連載されており、こちらは打ち切りにあわずに21世紀までの長期連載を成し遂げている。それはそれで喜ばしいことなのだが、『ウルトラ忍法帖』の方が人気は高かったのだろうか? とてもそうは思えないのだが(笑)。
 ならばせめて、ガシャポン展開が完全終了する前後までの約8号分くらいは、『激伝』にも連載を続けさせてほしかったものである。


 筆者の調査不足で詳細は不明なのだが、エンペラ星人編で結成された「銀河遊撃隊」に初代ウルトラマン隊長の下にウルトラマンゼアスが新人隊員として参加。映画『ウルトラマンゼアス』(95年)本編での宿敵・ベンゼン星人を基にしたダークベンゼン星人(!)と戦うというのがストーリーであり、宇宙の彼方で超古代のウルトラマンティガの石像を発見するというストーリーだったようだ。


 加えて、ウルトラの星の3大秘宝がすべてエンペラ軍団に奪われてしまって、エンペラ星人は3大秘宝を本来の姿である「ウルトラクロス」――超古代ウルトラ人(ティガのご先祖? ティガの同族?)によってつくられた伝説の「闘衣」――に復元するのだが、ゼアスが「太陽の棺」で元の3大秘宝の姿に戻すのだとか、ウルトラクロスを半々に分けてエンペラ星人と初代ウルトラマンがその身にまとって激突するのだとか…… 当時を知っている若い人がいたら、誰かこのオジサンに教えて下さい!(笑)


――後日付記:『鎧伝』のストーリーは後述した「ウルトラクロス編」の方が先行するエピソードであり、前述した「ダークベンゼン編」があとのエピソードだったそうです――


*そして、実写作品でも最新ウルトラ戦士・ウルトラマンゼロが遂に鎧を着用する日が来た!!


 さてさて、もう皆さんも違法にアップロードされている玩具業界向けの写真などで知っているだろうが(笑)、2010年12月23日(祝)に公開される映画『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦! ベリアル銀河帝国』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111204/p1)において、ウルトラマンゼロは究極武装! 「ウルティメイトゼロ」として、なんと遂にアーマー――小さい鎧なので全身にまとうといった感じではないけれど――を装着するのである! このアーマーは巨大な弓矢にも変型するという!


 そして、『激伝』でも描かれた、70年代前半に構想されていた、円谷プロ作品はすべて同一世界の物語であるとする「銀河連邦」の構想までもがアレンジされて復活!


 ゼロとともに戦う仲間として、


・「鏡の戦士」である巨大な宇宙鏡の中の2次元世界出自の「ミラーナイト」――最終回で2次元の世界に帰った『ミラーマン』(71年)のアレンジ――
・「炎の戦士」の「グレンファイヤー」――最終回で宇宙に旅立った地底人『ファイヤーマン』(73年)のアレンジ――
・「鋼の戦士」である正義のロボット「ジャンボット」――惑星エスメラルダならぬエメラルド星からの贈りもの『ジャンボーグA』(73年)のアレンジで、セスナならぬジャンバードなる宇宙船から変型するようだ――


 といったリメイクキャラクターたちも登場!


 『ミラーマン』の敵怪獣アイアンの姿かたちや、『ジャンボーグA』のグロース星人の歴代敵幹部の名前にある末尾の「~ゴーネ」も継承した新たなキャラクターも、悪のウルトラマンであるウルトラマンベリアルこと復活したカイザーベリアルが率いるベリアル帝国の幹部としてアレンジ復活する。



初代ウルトラマンとほぼ同年数の人生を送ってきた僕(と言っても2万年では無い。今年(96年)は彼の生誕30周年!)は物心ついた頃からもう毎日がウルトラだった。
 『マン』(初代『ウルトラマン』(66年))や『セブン』(『ウルトラセブン』(67年))の再放送に夢中になり、『ウルトラファイト』(70年)すら一時も見のがさなかったバリバリの第二期世代だ。
 『帰ってきたウルトラマン』(71年)の1話の放送日などは近所の友達全員と正座して、TVの前で待ちかまえていたものだ。あの光輝くオープニングが流れ出した時の感動は忘れない。「ああ、オレたちのウルトラマンがはじまるんだ!!」という実感を子供心にひしひしと感じていた。


 その上に、多感な中学生時代に第三期ブームが起こってしまった。気がつくと劇場版や怪獣消しゴム集めとかにドップリはまっていたのである。僕の同年代に“ウルトラ信者”が非常に多いのも、こうした運命的なタイミングにより、全シリーズを切れ目なく観続けた世代だからだろう。


 生まれた時にはウルトラマンがこの世に存在した僕らには空白期間が全く無い。ずっとウルトラファンだったと言っても過言では無いのである。


 だから『激伝』のストーリー原作という仕事をいただいた時ももうただうれしくて仕方無かった。長年楽しませてもらったウルトラ戦士たちへのご恩返しだ。単にキャラクターを拝借しただけのSD物に終わらせることなく、本家のウルトラマン物語のアフターストーリー的な要素を徹底的に強くした」


(『ウルトラマン超闘士激伝 オリジナルサウンドトラック』「MESSAGE」原作・脚本:瑳川竜)



 そう。「アフターストーリー」の要素もまた、人々をワクワクとさせるものなのである!
 『激伝』が終了して早くも十数年、ようやく世間が追いついてきた。『激伝』がいかに先見性に富んでいたかが、『ウルトラマンゼロ THE MOVIE』での展開を見ても窺い知れるというものだ。
 

 しかし、地上波どころかBS放送の新作テレビシリーズ、旧作や準・新作の再放送などもなく、特に目立ったパブリシティー展開もない2010年においては、どうやって集客につなげていくのかが最大の課題ではある。
 しかも、世代人や特撮マニア以外には知る人が少ない『ミラーマン』や『ファイヤーマン』や『ジャンボーグA』のアレンジキャラクターではある。


 とはいえ彼らリメイクキャラクターを使うことで、観客比率で考えればやはり少数派ではあろう特撮マニアの固定客たちにも、あとでビデオが出たらレンタルして観ればイイや……で終わらせずに、小まめに確実にゲットして少しでも興行収入を上げていくべきではあるのだ。


 よって、前年度の映画『ウルトラ銀河伝説』の後日談といった意味だけでなく、もっとさまざまな作品の「アフターストーリー」的な要素を前面に押し出して、


・ミラーナイトはミラーマンのまさに同族だった!
・グレンファイヤーは宇宙に散ったファイヤーマンの不肖(笑)の息子だった!
・惑星エスメラルダも実はエメラルド星のことであり、その住民は地球人と変わらない姿をしているけど、一部の戦士たちは『ジャンボーグA』に登場したエメラルド星人やその息子・カインのような超人ヒーローとしての姿に巨大化変身できるのだ! ジャンボーグ7やジャンボーグ11(笑)といった巨大ロボットも配備されていたのだ!


 くらいのことまでして、往年の『ミラーマン』『ファイヤーマン』『ジャンボーグA』の世界観とも直結してくれないものかなぁ(笑)。


 そもそも、『ミラーマン』の防衛組織・SGMが、『ジャンボーグA』のシリーズ後半にもその防衛組織・PAT(パット)の隊長や一部隊員として参画することから、この2作品は少なくとも放映テレビ局を超えた同一世界の作品なのである。


 もちろん一般層には正直それほどの訴求力がある手法では決してない。しかし、ヒーロー級の多数の仮面キャラクターを登場させることは、画面に華(はな)を添えるものだし、年長マニアのみならずマニア予備軍である怪獣博士タイプの子供たちをゲットするのにも実に良い趣向であると思えるのだ。


 だが、最も肝心なのは、東映平成ライダーシリーズを手懸けてきた白倉伸一郎プロデューサーも最近各誌で発言しているように――氏のつくる作品を必ずしもすべて好んでいるワケではないが、それとこれとは別である――、1960~70年代のような作品の大ヒットは望めないにしても、連続テレビシリーズとして『ライダー』や『スーパー戦隊』のように中断の切れ目なく、今や子供向け番組が各局で集中するようになって、子供たちの視聴習慣も根付いていそうな土日の午前中あたりの放映枠などをゲットして、細々とでも放映をし続けることで、子供たちへの接触面積を少しでも増やし続けることが肝要なのである。


 そのためには、赤字にならないリーズナブルな予算の範疇(笑)で新作シリーズを毎年製作して、シリーズが中断している間に他の人気アニメなどが入ってしまって放映枠を取り返せないとか、あるいは放映枠それ自体が消滅してしまうような最悪の事態(爆)は二度と避けねばならないのだ。
 1990年代までとは違って、久しぶりにシリーズを再開させれば、視聴者や子供たちにも新鮮に思ってもらえたり、ドラマ的・テーマ的・質的にも良い作品をつくりさえすれば、それだけで人気もゲットできるという時代ではもはやないだろう。
 物事の変化のスピードが実に早い今という時代に、シリーズに長い中断期間が生じてしまうと、子供たちにも「終ワコン」(終わったコンテンツ)的な古クサい印象を持たれてしまうような気配がプンプンとするのだ……


 ウルトラマンや怪獣という存在自体がどこまで行っても、今となっては悪い意味ばかりではなく「既成概念」のかたまりなのである。昭和のウルトラ兄弟には頼らないウルトラ戦士を見てみたいという声にも一理はある。しかし、そんなことを云い出したら、そもそも「ウルトラマン」の看板に頼らない新ヒーローをつくるべきだ! という話に帰結していかないと論理的には矛盾してしまうのである(笑)――これは新旧ヒーロー共演が当然となってきた近年の「ライダー」や「戦隊」にも当てはまる議論である――



 そうなると、本作『激伝』のように、「原点回帰」「本格SF志向」「大人向け」(笑)などではなく、オモチャ箱をひっくり返したような感覚の、良い意味でのB級作品であり、バトルを主眼に据えたオールスター総登場路線!


・70年代中盤の学年誌内山まもる大先生に始まる広大なる宇宙を舞台としてウルトラマン一族たちが大活躍するオリジナル漫画!
・イベントでのウルトラ戦士たちが活躍するアトラクショー!
・テレビシリーズ『ウルトラマンメビウス』や『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』、映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』などのような複数ヒーローや複数怪獣登場もの!


 そういった路線を大前提として、その延長線の方向に、その次の一手として現代の子供たちが喜びそうで、玩具会社・バンダイも収益を高められそうな、プレイバリューの高い玩具性を強めていくしかないのではなかろうか? 昭和ライダーたちのシンプルな姿からははるかに遠ざかってしまった平成ライダーたちの玩具性の高い姿がすでにそうであるように……


 2010年現在、新作テレビシリーズを製作できる体制にはないと思われる円谷プロであるが、そうであるならテレビ以外でもさしあたって、イベントやアトラクや児童誌での特写グラビア展開・漫画連載、低予算ビデオ媒体での続編や番外編、それこそ『激伝』ほかの漫画作品や、そのアニメ化、この『激伝』自体も掲載誌や出版社の垣根を超えた続編の再開など、ムリのないかたちでなにかしらの手を打つことで日々の小銭も稼いで、子供やマニアたちの関心をつなげるべきではなかろうか? そして、その上でのテレビシリーズの復活であるべきだろう。


 角川書店の月刊漫画誌特撮エース』(03~06年)では、初代『ウルトラマン』のリメイク漫画である『ウルトラマン THE FIRST(ザ・ファースト)』(03年)などが連載されていたけど、失礼ながらそんな後ろ向きな企画にニーズがあったとはとても思えないのである。それこそ『激伝』の続編でも引っ張ってきた方が、潜在ニーズもあってよっぽど売れたんじゃないのかしら?


 年1回のウルトラマン映画の公開だけでは、21世紀初頭にシリーズが再開するも早々に終焉してしまった東宝のミレニアム『ゴジラ』シリーズ(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060304/p1)の二の舞となることは必定である。
 映画公開の年末年始のクリスマス商戦に少しでも玩具を売ることは実に重要なのだが、それだけでも翌年の映画の製作費くらいならばともかく、今後の新作テレビシリーズの充分な製作費を稼ぐこともできないだろう。


 しかし、過剰に深刻に考える必要もないだろう。子供も年長マニアもゲットできるような、ヒーロー総登場で熱血バトル路線で歴代シリーズの小ネタや玩具性にも満ち満ちていた、オリジナル展開漫画『ウルトラマン超闘士激伝』という、時代を先駆けていた立派なテキストがあるのだから……



 ……『激伝』の原作を務めた瑳川竜は、『仮面ライダーW(ダブル)』(09年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100809/p1)で東映特撮にいきなり登板して、しかも最初からメインライターを務めた三条陸(さんじょう・りく)のペンネームであったことが2009年に判明している。なんとライバル作品である『仮面ライダー』シリーズへの登板! ならば、『ウルトラマン』シリーズのメインライターとして、関係者は氏をスカウトしてきてくださいよ!(笑)



<参考文献>
同人誌『ウルトラマン超闘士激伝 小事典』(UNLUCKY BIRD・97年6月1日発行・00年3月26日3刷発行)ほか
同人誌『ウルトラマン超闘士激変』シリーズ(はじめくんとマグロちゃん・97年3月23日発行)ほか


2010.7.26.



P.S.


 復刊ドットコムの復刻版コミックスには、栗原仁によって新たに描き下ろされたギャグ漫画も掲載されている。
 第3巻の巻末にある『続・セブン家の人々』は、映画『ウルトラ銀河伝説』にそろって出演できたり、ソフビ発売を喜ぶセブンとカプセル怪獣ミクラス・ウインダム・アギラの家に、扉の陰から半身だけ覗くかたちで、


セブンガー「みなさん ぼくの事なんか忘れてるんですね」


 と、『レオ』第34話『ウルトラ兄弟永遠の誓い』に登場した怪獣ボール・セブンガーが「恨み節」をグチりに来る(笑)。


 セブンはこともあろうに、セブンガーの陰が薄いのは連れてきたジャックのせいだと云いだし、カプセル怪獣たちもセブンといっしょに住めばソフビ化のオファーかかりまくり、再評価の嵐だとあおる。


 すると今度はジャックが扉の陰から半身だけ覗くかたちで、「どーせ話が地味だよ」「どーせ模様がパンツだよ」「どうせ二代目ゼットンはくさってるよ」などとイジケる始末(笑)。


 こんなことがギャグにされないように、そろそろセブンガーを復活させてやれよ!(笑)


 また第1巻の巻末では『バーナーオン!』なる『メビウス』の4コマ漫画が。毎度デフォルメされているが、GUYSのリュウ・ジョージ・マリナ・コノミ隊員たちがクリソツ! 肖像権は大丈夫なのか?(笑)



(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2011年準備号』(10年8月13日発行)~『仮面特攻隊2011年号』(10年12月30日発行)所収『ウルトラマン超闘士激伝』より抜粋)



後日付記:なんと! 『ウルトラマン超闘士激伝』は連載終了から17年もの歳月を経た2014年から、バンダイのカプセル玩具『ガシャポン(R)』の公式ホームページ「ガシャポンワールド」にて『ウルトラマン超闘士激伝 新章』と題した続編が連載開始されて、秋田書店の『少年チャンピオン・コミックス エクストラ』レーベルから2016年以降は単行本も続々続刊が発売されている!
ウルトラマン超闘士激伝 新章 1 (少年チャンピオン・コミックス エクストラ)


 『激伝』正編も新装版の「完全版」として再刊発行中!(玩具展開のみで語られたエピソードなどの紹介ページもあるそうだ)


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  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210131/p1(当該記事)


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ザ・ウルトラマン ジャッカル対ウルトラマン』 ~日本アニメ(ーター)見本市出展作品!

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ウルトラマン80 宇宙大戦争』 ~マンガ版最終章は連続活劇! TVでも観たかったウルトラ兄弟vsバルタン軍団総力戦!

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コンビニ漫画『ウルトラマンレオ 完全復刻版』 ~内山漫画のレオ最終章は3部作! マグマ星人ババルウ星人・ブラック指令も活かした名作!

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ウルトラマンZ(ゼット)』(20年)序盤総括 ~セブンガー大活躍! 「手段」ではなく「目的」としての「特撮」!

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ウルトラマンタイガ』(19年)序盤総括 ~冒頭から2010年代7大ウルトラマンが宇宙バトルする神話的カッコよさ! 各話のドラマは重めだが豪快な特撮演出が一掃!

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『ウルトラギャラクシーファイト』(19年) ~パチンコ展開まで前史として肯定! 昭和~2010年代のウルトラマンたちを無数の設定因縁劇でつなぐ活劇佳品!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200110/p1

ウルトラマンタイガ』『ウルトラギャラクシーファイト』『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』『仮面ライダー令和』 ~奇しくも「父超え」物語となった各作の成否は!?

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『ザ☆ウルトラマン』(79年)最終回 #50「ウルトラの星へ!! 完結編 平和への勝利」 ~40年目の『ザ☆ウル』総括!

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仮面ライダー(新)』(79年)総論 ~スカイライダーの〈世界〉!

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配信完結『ウルトラギャラクシーファイト』の元祖のひとつ!
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