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『ハレンチ学園』 〜疎開児童の夢の結晶2
(チャンネルNECO 火曜 20時)
(文・Y.AZUMA)
(2007年4月執筆)
さて、ここで問題。東京のテレビ局「テレビ東京」は、もともと何を放送する局だったかご存知であろうか。
実は、「日本科学振興財団が運営する教育・教養番組を専門とする無料広告放送局」だったんだそうである。つまり科学技術や教養や教育を中心としたテレビ番組ばかりを流すテレビ局として1964年に開局したチャンネルで、多分、当初の予定では今の放送大学のような番組を流すつもりだったのではないのかと勝手に想定している。
当然そんな番組しか流さないチャンネル、誰も見ないため、すぐに方針転換。株式とスポーツを中心としたテレビ界の最終ランナーになってしまったのは皆さん先刻ご承知。
このチャンネルで1970年に作られたドラマ『ハレンチ学園』は、別の場所でも書いたけど、当時「週刊少年ジャンプ」(68〜)に連載されていた永井豪のマンガで、スカートまくりはするは、ちょっと人倫に悖(もと)る教師陣は出てくるは、元気の良すぎる小学生男女が出てくるはで、日本中すべてのPTAを敵に回したいわくつきの作品が原作。今読み返せば、多分あんまり何ともないのかも知れないけど、当時の子どもたちには大人気だったことは、経験者が語るのだから間違いはない。
さてテレビドラマ。35年ぶりの邂逅である。
見ていて感じた。この作品、第二次大戦のPTSDから抜けられない当時の大人たちの夢の世界だった。この世界、どうやら生徒たちの家や家族の姿は描かれていない。とするとこの学校は寄宿舎か。
「生徒が先生という大人とだけ比較的長期間接点を持った事態」の大量の実例は、第二次大戦中の「学童疎開」の世界である。
「学童疎開」世代は、ちょうど昭和6年−12年(1931〜37年)生まれの人たちである。昭和三十〜四十年代の親の代であり、彼らからは直接さまざまな嫌な話をもれ伝え聞いた。
当時を考えれば、戦争を継続する中でインフラも物資も乏しい中、先生方がどんなに努力しても、児童たちに満足なケアができず、絶対に無理が生じたのは当たり前である。ましてや、軍国主義下の人名軽視の時代。神様ならぬ人間が行ったことの訳だから、彼らの仕打ちに心底怒りを覚えた当時の少國民も多かったはず。
そのときの心の傷が『ハレンチ学園』に結集したのではないかと推測。作ったスタッフも同じ世代だ。そうでなかったら、あそこまで先生方に暴力を振るわないもんね。
ふと考えた。井上ひさし・山元護久両先生が作ったNHK人形劇『ひょっこりひょうたん島(じま)』(64)のように、ひょっとしたらこの世界も集団疎開中に死んでしまった先生や生徒たちの魂が作っている世界かもしれない。*1
さて、私の見た回。ゲストが十朱久雄の回と藤原鎌足の回、それから上田吉次郎の回だった。
十朱は「天才狂育大学」の学長の役。藤原はハレンチ学園の校長先生の役。上田はハレンチ学園の新しい理事長の役。
あなおいたわしや……、いやいや、なんとご立派なお姿であろうことか。いやはやなんとも、上田吉次郎先生がハレンチ学園の校庭でいい加減なダンスのステップを少年少女と一緒に楽しそうに踏んでいるのである。これは珍なるものである。
子役たちは「偉大な名優たちとの共演」などという意識もないため屈託なく演技していたけど、大辻伺郎や井上昭文あたりの俳優さんたちの演技には多少の「遠慮」が感じられた。だってヒゲゴジラ先生やマルゴシ先生の目が十朱久雄にからむとき、一瞬ひるむんだもの。これは見もの。何しろ先生や大先輩に当たる方だから、やりにくかったと想定。
さて、放映が終わってしまった。結局、この時代の雰囲気として、「学校の権威」をぶっ壊したかったのは事実のよう。だから、こんな番組もできたのだろう。
しかし、実際そうなってしまった二十一世紀、十兵衛ちゃんたちのようなミニスカートで闊歩する女子高生が街中を歩く時代となって、果たしてこれからどのようにするかは、われわれの課題である。
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*1:編:『ひょっこりひょうたん島』の原作者のひとりでもある作家の井上ひさし先生は、この作品には意図的に「親」を登場させず、かつ実は「死んだ子供たちの世界」として設定していたのだと後年(00年)明かしている。後者のウラ設定は食料問題(飢え?)を回避するためだったとか。戦中世代の苦労人である井上ひさし氏らしい発想である……。と云いたいところだが、本項執筆者には大変申し訳ないけれど、性格の悪いヘソ曲がりの編集者は、基本的には左翼系言論人(もちろん思想の左右は作家としての優劣とは無関係)でもある井上ひさし氏の、『ひょっこりひょうたん島』に対する後出しジャンケンでの理論武装・権威付けではなかろうか? とも勘ぐってしまうのだが……(汗)。