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WHITE ALBUM2 ~「冴えカノ」原作者が自ら手懸けた悲恋物語の埋もれた大傑作!

『冴えない彼女の育てかた♭』 ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!
『冴えない彼女の育てかた Fine』 ~「弱者男子にとっての都合がいい2次元の少女」から「メンドくさい3次元の少女」へ!
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[アニメ] ~全記事見出し一覧


 2019年10月26日(土)から深夜アニメ『冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた』(15年)とその続編『冴えない彼女の育てかた♭(フラット)』(17年)の完結編映画『冴えない彼女の育てかたFine(フィーネ)』が公開記念! とカコつけて……。『冴えカノ』原作者の丸戸史明(まると・ふみあき)が自ら全話の脚本を手懸けた名作深夜アニメ『WHITE ALBUM2(ホワイト・アルバム・ツー)』(13年・原作ゲーム版の初出は10年)評をアップ!


『WHITE ALBUM 2』 ~「冴えカノ」原作者が自ら手懸けた悲恋物語の埋もれた大傑作!

(2013年・PROJECT W.A.2)


(文・久保達也)
(2015年2月2日脱稿)


 美少女ゲーム界隈では相応のビッグタイトルで、自身もヒロインを演じた深夜アニメ版の主題歌『深愛(しんあい)』を歌唱したアイドル声優水樹奈々が、この歌曲を契機に「NHK紅白歌合戦」で2009年から6年連続出演を果たした、1986年を舞台とした恋愛ものの深夜アニメ『WHITE ALBUM(ホワイト・アルバム)』(09年・原作ゲーム版の初出は98年)の続編ではない。そのタイトルだけを冠に掲げた、原作者も異なるまったくのオリジナル作品。


 峰城大付属学園3年E組の北原春希(きたはら・はるき)。彼はコミュニケーション能力も高いけれど軽佻浮薄な男子では決してなく、性格も実に良くて博愛的で公共心・モラルにも富んでいる爽やかな好青年である。
 そんな彼が所属している軽音楽同好会が相次ぐ部員の脱退により、学園祭への参加が危ぶまれてしまう。それをあきらめきれない春希が、同好会に勧誘したふたりの少女との運命的な出会いから物語は始まる。


 軽音楽同好会なんていうと、それこそ軽薄な「ロック命!」みたいな輩を連想するかもしれない――春希の親友で部長の飯塚武也(いいづか・たけや)の方は、ルックスも制服の着崩し方もいかにもそれっぽいが――。
 だが、春希は成績が常に学年順位トップの優等生であり、クラス委員長も務めて、他人や弱者に対する面倒見がよいのに加えて、チョイ悪(わる)の生徒に対しても物怖じせずに対等にクダけた会話もできるような、極めてモラリスティックかつ裁けたタイプの柔和な生徒なのである。
 いや、そうでなければ、本作のような物語は決して成立しなかったように思えるのだ。


 春希がギターを練習する第一音楽室の隣にある第二音楽室から聞こえてくる、まるで春希と合奏しているかのようなピアノのメロディ。
 その奏者が誰であるのかを第2話のラストまで正体不明としたままで、合奏にあわせて歌う声が屋上から響き渡り、春希が矢も盾もたまらずに階段を急いで駆け上がってドアを開けるや、美しい夕焼けの中でひとりの美少女が夕日に向かい手を高々と掲げながら歌唱しているという、あまりに幻想的なムードが、彼女が本作のヒロインであることを絶妙に描き出している!


 彼女は2年連続でミス峰城大付属に選ばれるほどの学園のアイドル・小木曾雪菜(おぎそ・せつな)。ルックス的にはメジャーな作品で例えれば、名作ロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年・GAINAX テレビ東京https://katoku99.hatenablog.com/entry/20110827/p1)の栗色の髪の毛の明るい元気なヒロイン・アスカから毒を抜いた感じってところか?――

 だが、そんな学園のアイドルが眼鏡をかけ、地味な格好でスーパーの裏方としてアルバイトする姿を春希が目撃したり、「ひとりカラオケ」が趣味であることを春希に暴露したあげく、バイト姿とは一転しフリル付きのミニスカ姿で中島みゆきの名曲『悪女』(81年)を歌うなど――これは立派な「伏線」となっている――、雪菜が単なる学園の高嶺の花の苦労知らずのリア充(リアル充実)のアイドルではない、苦労人で常識人でもあり(ひとり)ボッチ的なところもある、本作のメイン視聴者である我々キモオタ(笑)にも微量に通底している存在であるとして、親近感を持たせていく塩加減の描写も絶妙である。


 さらに言えば、雪菜の声はキャピキャピとした、いわゆるアイドル声とは微妙に異なる。
 作品の題材や役柄的に歌唱力が要求されたこともあるだろうが、意外に芯が強くハッキリと自己主張をするかのような声の持ち主を起用したことが、雪菜本来のキャラクターを見事なまでに浮き彫りにしている。


 第2話のラストでは、もうひとりのヒロインが劇的な登場を果たす。
 鍵のかかった第2音楽室で自分のギターとセッションする奏者の正体を突きとめるために、春希はたまたま現れた柔道部員から帯を借り、それを命綱として校舎づたいに第2音楽室を覗こうとする――ほとんどスパイダーマンである(爆)――。
 あわや宙づりとなった春希の手を、がっしりと受けとめたピアノ奏者の正体は……


かずさ「バカヤロウ! ……大事な手をこんなことに使わせやがって!」


 彼女もまたれっきとした本作のヒロインであることを強調するには、あまりにドラマチックな超絶インパクトの演出である!


 もうひとりのヒロインの名は冬馬かずさ(とうま・かずさ)。かずさは名作深夜アニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20150403/p1)のWヒロインのひとり、雪ノ下雪乃(ゆきのした・ゆきの)を、さらに暴力的にした(笑)ツンデレ娘と言えばピッタリであろうか? 黒髪ロングで普段は憂(うれ)いを秘めたクールさがあるも、少々気が強くて姉御肌である点が共通しているように思える。
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 かずさは海外で活躍するピアニスト・冬馬曜子(とうま・ようこ)――これがまた典型的なアラフォーリア充女のルックスで、どうしようもない母親であることを絶妙に表現している(爆)――の娘であり、母親譲りのピアノの才能を誇る。


 その才能から音楽科に入学したかずさだが、あまりの素行不良が教師たちに問題視されるものの――例によって無神経な体育教師が本作にも登場!(爆)――、曜子が学園に多額の寄付をしていることから、普通科への編入を条件に退学を免れたという、曰(いわ)く付きの娘である。


 第3話で春希と雪菜がかずさを軽音に勧誘しようと雪菜の自宅に呼んだ際、かずさが美脚を強調したショートパンツ姿であることに春希が言及しようとするや、


「感想なんか言ったら蹴飛ばすぞ」


などと、初期は粗暴な面を見せることが多いかずさだが(笑)、一方で教室では授業も聞かずに、ほぼまる一日机に突っ伏して寝ているという、やはりどこまでもミステリアスな雰囲気を徹底しているのは圧巻である。


 そんな「3人」が、学園祭限定のユニットを組むことになり、猛練習の日々の中、当初は人を寄せつけない性格だったかずさも次第に打ち解けていき、雪菜は出会った当初から春希に抱いていた想いをいっそう強くしていく。


 第7話で、大盛況となる「3人」のステージの描写は、黒いブラ1枚と青のミニスカ姿という露出度大のかずさが間奏部分で突然サックスを吹くサプライズが絶妙だが、その裏では実は雪菜とかずさが春希をめぐって火花を散らしていた!


 「祭り」のあと、雪菜は春希に愛を告白、春希はそれを受け入れ、ふたりは熱い口づけを交わす。
 それでもなお、これからもずっと「3人」でいたいと考える春希と雪菜は、クリスマスや忘年会・ちょっと早めの卒業旅行などを兼ね「親友」のかずさを誘い、「3人」で温泉旅行に出かける。
 これが第8話までの概略である。


 アラスジだけ書くと一見、おもいっきりの「リア充」たちの物語であるかのような、我々みたいな種族の「敵」が描かれているように誤解されるだろうが(爆)、観ている分には実にていねいで繊細な筆致でストーリーや各キャラも描かれていて、ついつい没入して見入ってしまうのだ。


 だが、これは「起承転結」の「承」までにすぎない。
 これまで春希=主人公の視点で描かれてきた群像劇が、第9話でかずさが登校しなくなるのを皮切りに、第10話中盤から第11話にかけ、かずさ=真のメインヒロインの視点で時系列をさかのぼることで、これまで明かされていなかったかずさ、そして春希がその心情を吐露するという、衝撃的な「転」――そもそも春希の主観で物語が進められてきたハズなのに、そこでかずさに対する想いがいっさい語られてこなかったというのは、完全な作劇的「反則技」である!(笑)――。
 そして第12話から第13話の、あまりに「残酷」にすぎる「結」へと至る展開は、おもわず一気に視聴してしまったほど、片時も目が離せないものであった。


 第10話で、かずさが卒業したらウイーンに旅立つことを知った春希は、それを自分と雪菜に黙っていたかずさを責める。だが……


かずさ「あたしの前から先に消えたのはおまえだろ!」


 これを皮切りに、第11話に至るまで、それまでのかずさの心の内で進行していた、「雪が溶け、そして雪が降るまで」の物語が描かれる!


 「連れていくことに意味はない」と、パリに旅立っていったピアニストの母から、誕生祝いに贈られた犬のぬいぐるみを引き裂いてしまったほどのかずさは、E組の教室では机に伏せてばかりで級友との交流を一切断っていた。
 委員長で隣の席だったとはいえ、そんなかずさのことを春希はずっと面倒を見続ける。


 毎日夕方になると第二音楽室で母が寄贈したピアノを弾いていたかずさは、隣の第一音楽室から聞こえてくるヘタなギターを演奏しているのが春希であることを知り、ぶっきらぼうながらも彼をコーチし「ギター入門」なる書籍を勧める。
 春希はギターを教えてくれた礼にと、中学のときに自分が使っていた「英文法」の本をかずさに進呈。
 かずさはそれを、引き裂いたはずの犬のぬいぐるみとともに部屋に飾る――これにより、育児放棄な自由過ぎる母に対して、憎しみだけでなく愛情を渇望していることも示唆される――。


(字幕)「恋してた、君といた、夏は終わり」


 「祭り」のあと、疲れて眠りこけていた春希の唇をかずさは奪う。
 それは、春希と雪菜が口づけを交わす前のことであったのだ……


(字幕)「戻れない、君といた、秋を想う」


かずさ「いつも気持ちと逆のことばかり。気づいたら何もかも失ってた」


 第9話で、かずさは春希の姿をまざまざと見つめたあげく、こうつぶやいている。


かずさ「どんだけ見ても、何も感じない」


 だが、第5話では、かずさの自宅で練習を終えた帰り道の夜の歩道橋で、雪菜が春希のことをこのように表現していたのである。


雪菜「春希くんって、たいしてカッコよくないね」


 それは第4話のラストで、雪菜がかずさ邸の洗面所で春希のトラベルセットを発見したことで(!)、「合宿」以前から春希がかずさの家に泊まりこんでいた事実を知って衝撃を受け、春希のことを半ばあきらめようとして出た言葉だったのである。


 これとほぼ同じ趣旨の発言をかずさにさせることによって、かずさが春希に抱いていた熱い想いを一度はあきらめようと決意を固めるさまが、そしてふたりともに「私が私が」的なミーイズムの権化ではなく、本来は相手に譲り合い、人の恋路を邪魔するような下劣なメンタルの持ち主ではないことが、のちのちの衝撃の展開以前にさりげなく表現されているのは見事というよりほかにない。


 そうした観点で振り返れば、第5話で春希が作詞し、かずさが譜面を書いたノートを没収した教師に、「返せ!!」と気も狂わんばかりにかずさがブチギレしたのも、第7話の「まつり」のあと、かずさが露出度の高いステージ衣装のまま、春希に「寒い」とつぶやいたのも――「抱きしめて」「甘えさせて」の含意でもあるだろう――、すべては春希に対する本心、「愛」ゆえのものであったことが、この時点になってようやく明るみになる構造となっているのである。


 こうしたことが最初から描かれていたならば、よくある単なる三角関係ものに過ぎず、面白くもなんともなくなったワケであり(笑)、それを思えば視聴者を驚愕させること必至の「反則技」も、本作に関してはむしろ作劇的「正攻法」の手段であったと言うべきではなかろうか?


かずさ「手の届かない相手から一緒にいようって言われて……毎日毎日心えぐられて……」


 そうなのである。一見無口な「暴力女」にしか見えなかったかずさであったが、母に捨てられたときも、春希の唇を奪ったときも、温泉旅行を終えて春希と雪菜を見送ったあとも、かずさは常に「涙」を流し続けていたのである。


 こうしたかたちで視聴者を感情移入させ、「サブヒロイン」を「メインヒロイン」へと転じさせる手法は、かの中学生少年が中学生悪女にたぶらかされて転落していく異色の深夜アニメ『惡の華』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20151102/p1)をも彷彿とさせるものである。
 学園祭のクラスの出し物である「大正浪漫喫茶」(笑)の女学生姿をした雪菜を、ステージの練習に連れ出すために春希がそのままかっさらい、電車の中で春希の背中に雪菜がずっとしがみついているなんてあまりに劇的な第6話の描写は、春希は雪菜に気がありメインヒロインは雪菜である、などとおもわず視聴者を錯覚させてしまう確信犯的なフェイク・ミスリード演出だったのである。


 そしてよく観ると、第8話では親友で部長の武也にも、同じく春希の遊び仲間であるボーイッシュな少女・水沢依緒(みずさわ・いお)にも、ヤンキーチックな早坂親志(はやさか・ちかし)にも、春希が本当は雪菜ではなくかずさを好きであることがバレバレになっている描写があるのだが、雪菜のためを想ってなどと、ここでは3人に口止めさせているというのも心憎い。


 だが、第12話で春希が「別れた女を想う歌」をギターで奏でたことにより、さすがの武也も遂に「あきらめろ」と春希を諭す。
 そして、「オレ、かずさにコクっちゃおうかなぁ」とおどけた早坂に対し、露骨に動揺の色を見せる春希。


 春希がそんな男であることを見透かしていたのか、単に募る恋慕でついに堪(こら)えることができなくなったのか、かずさは卒業式にわざと出席せず、雪菜の机の中に置き手紙をしたり、春希が送信しまくったメールに返信しないなどという、ひたすら春希をジラす戦法に出る。
 この段になって、意外なまでの未練たっぷりのしたたかさを見せるかずさではあるが、急展開後の集中的な描写により数多くの視聴者の感情移入を獲得し、晴れて「メインヒロイン」に昇格したことにより、ようやくそのような行為も許されることになったのだ(笑)。


 すっかり傷心した春希に、ようやくにして電話を入れてきたかずさだが、それすらも「手の届かない遠くにいる」と発言する。
 だが、かずさが春希のマンションのすぐ近くの公園にいるのを春希は見つける!
 白い雪が舞い散る公園で、直接対話ができるにもかかわらず、「声だけなら伝えられる気持ちがある……」と、ふたりが向き合ったまま、携帯を通して本当の「気持ち」を伝えあう演出が実に秀逸である!


春希「オレ、冬馬が好きだ!」
かずさ「あたしはおまえのことが大好きだった……おまえが雪菜を選んだとき、つらかった……悲しかった……悔しかった!!」


 最終回冒頭、春希の部屋で遂に一夜をともにするふたりだが、春希がかずさを押し倒したはずみで、春希が雪菜の誕生日プレゼントとして買っていたアクセサリーが割れ、雪菜からの着信があるのに春希が気づいて衝撃を受けるも、かずさがその携帯を手で払いのけるという、どこまでも雪菜を「サブヒロイン」へと陥落させてしまう描写が壮絶である!


 これとは対照的に、ふたりが結ばれたあとの朝帰りの電車の中で、かずさが両手に春希の制服のボタンをしっかりと握りしめながら、春希と相思相愛になれた望外な喜びと同時に、雪菜を押しのけて彼氏を奪い取ってしまった申し訳なさも混じったかのような、涙を流し続ける描写は実に切ない……


 そして、かずさの見送りに行く空港への電車の中で、春希は雪菜にすべてを打ち明ける。だが……


雪菜「全部知ってたのに、あとから割りこんだ。一番悪いのは私……」


 雪菜は第3話で、家に友人を呼ぶのが3年ぶりであると語っていたように中学時代、恋愛トラブルが原因で友人をすべて失ったことが第5話で明かされ――壁に貼られた当時の記念写真に、現在でも仲が良いひとりを除き、それ以外の顔が見えないようにアクセサリーが飾られているのが強烈にすぎる!――、


「私は、仲間はずれが一番こわい」


と春希に語っている。


 「学園のアイドル」ともてはやされながらも、実は高校に入って以降、雪菜は本当の友人はひとりもいなかったのである。


 そんな雪菜が、


「仲間はずれにしてほしくなかったから、そのためだけに恋人に立候補した」


ことを、いったい誰が責められるというのか!?


 そして、「仲間外れ」うんぬんも、彼女の本心の的を突いた表現であったのか? 彼女もホントウは春希のことが心の底から好きではなかったか?
 その物言いは、春希がかずさを選んだ際に抱いてしまうだろう、雪菜への申し訳なさや罪悪感を和らげてあげるための「思いやり」としての偽悪的な物言い、「優しい嘘」ではなかったか!?


 実は雪菜は「祭り」のあと、かずさが春希に口づけするのを目撃していたことが判明し(!)、にも関わらずズルいことに、第8話では「本当にいいの?」と恋に奥手なかずさにムリやりな言質(げんち)を取ってしまっていたのであった。
 しかし、表向きは幸せそうでも、内心ではそのことに大きな罪悪感や自己嫌悪を抱いてしまったことも判明していく…… 第12話では依緒に対して、自身を「醜い女」「汚い女」「エゴイスト」とまで称しているのである!


雪菜「かずさには春希しかいない」


ことを知っていながら、春希とかずさが「いい子」であることを知っていたからこそ、ふたりが想いを告げる前であれば「絶対に勝てる」と、雪菜はズルい計算をして強硬な手段に出たのであった。
 春希も、そしてかずさも、自身の想いよりも、雪菜の想いを優先するような「いい子」であったがために、春希とかずさの「愛」は遠回りをすることとなってしまったのだ。


雪菜「好きだけど、かずさほど真剣じゃなかった」


 空港でかずさを見つけた春希は、かずさに春希を譲ってあげるための雪菜の嘯(うそぶ)いた発言を真に受けたのか、そもそも彼女に気を遣う余裕もなくなっているのか、雪菜の眼前でかずさを激しく抱き締める!


 ここに至っても、雪菜を涙目で横目に見ながら気遣って、


「ごめん……雪菜……」


と、まだ雪菜の「想い」を尊重してしまうかずさは、あまりにも「いい子」にすぎる!
 床にこぼれ落ちる大粒の涙が、あまりに生々しい……


雪菜「そんなわけないじゃない……どうしてこうなるんだろう……夢のように幸せな時間を手に入れたはずなのに……」


 雪菜もまた、結局は春希とかずさの「気持ち」を優先し、自身の「気持ち」と逆の発言をしたばかりに、何もかもを失ってしまうような、最後まで「悪女」に徹することができない「いい子」だったのである……


 恋愛バトルの勝者となるためには、やはり相手の「気持ち」よりも自身の「気持ち」を優先するべきであり、「いい子」でいては恋愛が成就するハズもないという「残酷」な事実が、あまりにリアルに描かれすぎている!


 第7話ではあえて割愛された、「3人」のオリジナル曲『届かない恋』の学園祭でのライブ場面がここで切なく響き渡る……


 雪が舞い散る中、かずさが乗る飛行機を見送る春希と雪菜……


春希「もうここには何もない。帰る」


 それでも春希に寄り添い、離れようとしない雪菜……


雪菜「春希くんが凍えてしまわないように……ううん、違う……自分の心が凍えてしまわないように……」


 すでに春希に対する「想い」が成就しないことを、如実に象徴する雪菜のセリフで物語は締めくくられる。



 あまりに濃厚なラブシーンや、雪菜やかずさのシャワーに着替えの場面やフェチアングル(笑)など、実は本作の原作は「18禁」の恋愛シミュレーションゲームなのである。
 だが、「人を好きでいることを、ずっと続けていく物語」としては、バブル景気の時代に流行した、まずは世間や若者間で優れているとされる風潮やルックスに達していることが大前提で、周囲に対する虚栄的な優越アピールが目的であるようにも見える、自己愛が強そうな「恵まれた人種」たちによる恋愛系トレンディードラマ――今の若い世代にあんなものを観せたら「いい気なもんだよな」などとネット上で叩かれまくるのでは?(笑)――なんかよりも、よほど真面目でリアルで極めて完成度が高い物語が描かれていたのではなかろうか?


 こうした神懸かった良質な作品が深夜枠の美少女アニメとして、マニアの間だけで楽しまれてしまうというのは、実にもったいないように思えてならない。
 近年の視聴率が低迷しているあまたのTVドラマなんかよりも、よっぽど一般の主婦層や女性層の間でも共感を得られるのではないかと思えるのだが。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.69(15年2月8日発行))



WHITE ALBUM2 6(Blu-ray Disc)

#アニメ感想 #冴えカノ #冴えない彼女の育てかた #wa2 #WA2 #WHITEALBUM2 #ホワイトアルバム2 #丸戸史明


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