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冴えない彼女の育てかた Fine ~「弱者男子にとっての都合がいい2次元の少女」から「メンドくさい3次元の少女」へ!

『冴えない彼女の育てかた♭』 ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!
『WHITE ALBUM 2』 ~「冴えカノ」原作者が自ら手懸けた悲恋物語の埋もれた大傑作!
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冴えない彼女の育てかた Fine(フィーネ)』 ~「弱者男子にとっての都合がいい2次元の少女」から「メンドくさい3次元の少女」へ!

(19年10月26日(土)公開 配給・アニプレックス


(文・久保達也)
(2019年11月21日脱稿)


 2012年から2017年までKADOKAWAの富士見ファンタジア文庫から全13巻&短編集4巻のライトノベルとして刊行され、同社の『月刊ドラゴンエイジ』をはじめとする複数のコミカライズ展開、そしてフジテレビ木曜深夜のアニメ枠『ノイタミナ』で2015年冬期に第1期、2017年春期に第2期のテレビシリーズのアニメが放映された『冴(さ)えない彼女(ヒロイン)の育てかた』の完結編が劇場用アニメとして公開された。


 テレビシリーズの第1期は原作の第1巻から第4巻、第2期は第5巻から第7巻までを描いており、今回の劇場版は第8巻からラストの第13巻までを一気に描いている。
 なので、かなりはしょられた部分もあるのだろうが、テレビシリーズも今回の劇場版も脚本は原作者のゲームシナリオライターライトノベル作家丸戸史明(まると・ふみあき)が務めており、第1期&第2期のテレビシリーズを手がけた亀井幹太(かめい・かんた)監督が劇場版の総監督であることからしてシリーズ構成的には問題なかったであろう。


 この物語の発端(ほったん)は、筋金入りのオタク男子高校生主人公・安芸倫也(あき・ともや)が春休みに新聞配達のアルバイト中、桜が舞う坂道で帽子を拾ってあげた少女=加藤恵に運命を感じ、恵をモデルにしたヒロインが主人公のゲームをつくろうと考えたことだ。
 だが、シナリオもイラストも全然ダメな倫也は、まだ高校生で美術部所属なのに18禁同人誌(笑)で大活躍していた金髪ツインテールのハーフ娘=澤村(さわむら)・スペンサー・英梨々(えりり)をイラストレーターに、学年トップの優等生ながらデビュー作のライトノベルが50万部のベストセラーとなった黒髪ロングのモデル体型な超人気ラノベ作家=霞ヶ丘詩羽(かすみがおか・うたは)を脚本家に起用し、ゲーム開発のためにサークルを立ちあげる。


 以後倫也・恵・英梨々・詩羽の四角関係が描かれていく。しかし、本作の特異な点は原作では中盤、テレビシリーズでは第2期の終盤に至るまで、「メインヒロイン」が恵ではなく、英梨々と詩羽の「ダブルヒロイン」制であり、それどころかのちに倫也がゲームの音楽を依頼する紫色ショートヘアで高身長のバンド娘・氷堂美智留(ひょうどう・みちる)や、倫也の後輩で英梨々の後釜(あとがま)として原画担当となる茶髪三つ編みの波島出海(はしま・いづみ)らの方がめだつほどに、恵がひたすら「地味」な存在として描かれたことだ――実は同級生だったのに倫也は恵の名前すらも知らなかった(笑)――。


 英梨々と詩羽の天才的な才能は倫也にあこがれと恋心を抱かせることとなるが、その英梨々と詩羽が「恵をモデルにしたヒロイン」を育てあげたことで、元となった恵もいつしか「冴えない彼女」から成長を遂(と)げ、倫也にとっての「メインヒロイン」へと立ち位置が逆転するのだ――その象徴としてテレビシリーズ第2期の最終回ラストでは、恵は倫也と出会った桜が舞う坂道で、それまでの茶髪ポニーテールから帽子がよく似合うショートボブヘアへと華麗な変身を遂げる――。


 また倫也はどうしようもないオタでエロではあるが、詩羽から「倫理くん」と呼ばれるほどに曲がったことが大嫌いな誠実なキャラとして描かれており――もちろん名前の「倫也」をもじったものでもある――、英梨々と詩羽は激しく争うほどに倫也に恋焦(こいこ)がれてもいる。
 その関係性がドタバタラブコメディとして描かれた末に、英梨々と詩羽は突如として無頼な人気女性漫画家の紅坂朱音(こうさか・あかね)にその才能を引き抜かれ、大作商業ゲーム開発のために倫也のサークルを離れていく。


 ここまでがテレビシリーズの展開であり、今回の劇場版はその続編として描かれた。



 美智留の新曲ライブが描かれる本映画の冒頭では、美智留たちのバンド演奏を舞台の袖(そで)から見守る倫也と恵の反対側に、久々に詩羽と英梨々が現れ、倫也に向かって手を振るが、仲むつまじい倫也と恵の様子に詩羽が物憂(ものう)げな表情を浮かべることで、今でも詩羽が倫也に未練タラタラなのがしっかりと表現されている。


 打ち上げが行われた焼き肉店にて、倫也や恵、美智留のバンド仲間たちから離れた席で、詩羽と英梨々が


「テレビシリーズでは最もめだっていた私たちがナゼ映画ではモブ的扱い?」


だとメタ台詞(セリフ)でグチる(笑)のも、恵にメインヒロインの座を奪われた=倫也を奪われたことをあきらめられないからだ。


 だから、ふたりはいまだに倫也をめぐって罵(ののしり)あいながら、焼き肉店の囲炉裏(いろり)の下でたがいの足をおもいっきり蹴(け)りつづける(笑)。
 そこで詩羽と英梨々の表情がいっさい映らないのは、とても見せられないほどに恐ろしい形相(ぎょうそう)をしているからにほかならない(爆)。


 倫也と恵が交際を始めようが、メインキャラの四角関係がテレビシリーズからいまだに継続していることが、この映画の導入部に長い時間をかけて丁寧(ていねい)に描かれているのは、その人物相関図を一見(いちげん)の観客に理解してもらうには実に配慮が行き届いているといえるだろう。


 恵に勝ち誇りたいからか(笑)、詩羽がかつて倫也とディープキスを演じたことをここで持ちだすのもまた然(しか)りなのだが、そのことに恵が言葉では平静を装(よそお)って笑顔を見せながらも顔面蒼白(がんめんそうはく)になっている(爆)描写は、倫也への想いの強さを端的に示した名演出かと思えるほどだ。


 倫也の自宅を訪れる前に、手鏡を取り出して前髪を整えたり、「シナリオづくりで徹夜したから食欲がない」と倫也が食べ残した恵手製のサンドウィッチをつまんでみたり、倫也とともに徹夜してスカイプ=インターネット電話の画面で倫也を見守ってみたり……といった描写で恵の想いの強さがたたみかけられることで、それまで倫也を「安芸くん」と呼んでいた恵が、うっかり「倫也くん」と呼んでしまうに至るのも説得力にあふれている。


 翌日から倫也を「安芸くん」ではなく、「倫也くん」と呼ぶようになった恵が、あいかわらず恵を「加藤」と呼ぶ倫也に「加藤はやめて」と告げたり、都電のホームでともにシナリオを構想するふたりがいわゆる「恋人つなぎ」をする場面で、「表情」を映さずに「しっかりと握りあうたがいの手」のみを描写する演出は、絵的には静かながらも倫也と恵の関係性の劇的な進展が絶妙に演出されていたといえるだろう。


 だが、英梨々と詩羽のゲームづくりをコーディネイトしていた朱音が脳溢血で倒れ、倫也は恵との誕生日デートをすっぽかして(!)見舞いに行くばかりか、そのゲームを成功させるために、サークルの副部長に昇格した恵と開発中だったゲームづくりを中断してまで、大阪へと向かってしまうのだ!


 今は恵が「メインヒロイン」でも、倫也には英梨々と詩羽があこがれの存在であることに変わりはなかったのだが、先述してきたように燃えあがり深まる一方であった「倫也と恵の関係性」の描写は、倫也による苦渋(くじゅう)の決断が恵にとっては重大な「恋の裏切り行為」として映ってしまう絶大な効果をあげている。


 「ふたりでつくっていたゲームよりも、英梨々と詩羽先輩のゲームづくりを優先させるような倫也のメインヒロインにはなれないよ」


と、都電のホームで悲嘆にくれる恵の場面では、「ひざがガクガクと震える描写」が中心で、その「表情」はほぼ映されず、都電に乗りこむ寸前に倫也を振り返ってはじめて恵が「涙」を見せるのは、彼女の無念さを観客により印象づける秀逸(しゅういつ)な演出となっていた。


 これ以降、それまで何を問われても


「いいんじゃないかな」


などとひたすら低血圧ボイスで自己主張に乏(とぼ)しかった恵が、口調は丁寧(ていねい)であいかわらずの低血圧ボイスながらも、美智留と出海に「リーダーのクセにサークルに迷惑をかけるような倫也」を


「どうでもいい人」


だと罵倒(ばとう)したり、倫也がLINE(ライン)で何度も謝罪しても返事もせずに


「うるさいなぁ」(!)


とつぶやくまでに至るのだ。


 「サークル云々(うんぬん)ではなく、恵は倫也が英梨々と詩羽に走ったことに対して怒っているようにしか見えない」と美智留に完全に看破された(笑)のを必死で否定したり、美智留と出海が談笑している間に、ひざをかかえて横を向いているようなスネた恵がまたカワイイ。


 恵が「主人公にとって都合の良いばかりの2次元の女性」から、「ひたすらめんどくさいだけの3次元の女性」へと成長したことが、これらの描写で端的に示されてもいるのだ。
 最後に倫也を恵に告白させるために、これは必然的に導きだされた過程でもあるだろう。


 やっと帰ってきた倫也を前にしても、恵は悪態をついて倫也から離れようとする。しかし、それでも恵が「安芸くん」ではなく「倫也くん」と呼ぶことを指摘した倫也に、


「こんなに怒っているのに、いまさら他人行儀にはなれないよ」


と、恵にとってすでに倫也が「どうでもいい人」ではなくなっている事実を端的に示した感情吐露(かんじょうとろ)は、実にリアルに描かれていた。


 そんなにもめんどくさい「3次元の女」になってしまった恵を、倫也は


「2次元のキャラよりも好きだ」


とついに告白する!


 しかも倫也はその理由を、


「高嶺(たかね)の花でしかない英梨々と詩羽に比べ、恵は自分でもなんとか手が届きそうなほどに敷居が低いからだ」


と語るのだ……


 この倫也の感情は、我々のような種族には充分に理解可能であるだろう(汗)。


 だが劇中でも恵につっこまれているように、通常ならこんなことを云われて、ましてやただでさえ関係が悪化している状況で喜ぶ女子がいるハズがない。


 それでも恵は倫也に


「合格だよ」


と返すのだ!


 この場面の中で、先述した美智留と出海との会話のつづきが回想で挿入(そうにゅう)される。


 これまでのゲームづくりで、倫也が自分たちの才能を最大限にひきだしてくれたと想う英梨々や詩羽。倫也と同じ日に同じ病院で生まれた美智留たちにとっては、倫也は「特別な存在」だが、恵にとっては倫也は「特別な存在」ではなかった。


 だからこそ恵は倫也を好きなのであり、


「ほかの人には絶対に渡さない」


と、これまでの低血圧ボイスを一変させて激アツに叫ぶのである!


 倫也と恵のゲームづくりを手伝いに来た英梨々が恵と入浴する場面で、


「英梨々や詩羽に手が届かない者同士だから、自分と倫也はお似合い」


だのと語る恵に、英梨々が


「何よそれ」


とムクれる描写があるが、一般人には複雑怪奇に見えて理解不能であろう倫也と恵の感情も、我々にはここで先に恵が語った言葉によって、ふたりが結ばれるのは必然だとあらためて共感できたのではなかろうか?
 オタク少年である倫也の恵に対する想いほどではないにせよ、万事に対して出しゃばることの少ないソフトな性格の恵もまた、どんな男にでも合わせて染まりそうではあるけれど(笑)、性格的にはガツガツした体育会系肉食男子とはそんなに合わないだろうし、倫也のことを良い意味で自分にとっての敷居が低い男の子だと打算的にも感じていて、緩やかな共犯意識も込みでの恋情を抱くようになっていたのだ。


 それにしても、夕焼け空の下で倫也と恵が「恋人つなぎ」をしながら、不器用なディープキスをかわすクライマックスに前後して、自身もまだ倫也に未練があるにもかかわらず、ゲームを手伝ってくれたお礼に、ふたりで倫也の恋を応援しようと英梨々に語る詩羽の無念。


 幼なじみの英梨々に


「10年前に私のことを好きだった?」


と問われ、


「知るか!」


を繰り返して泣き叫ぶ倫也の罪悪感。


「倫也はこれからもあこがれの私たちに変わらずについてくるから、私たちは走りながら待ちましょう」


と英梨々に、そして自身にも云い聞かせる詩羽と、再び泣きだした英梨々が、坂の上に昇る朝日に向かって歩を進めるラストカットに至るまで、泣き演出が連続して炸裂(さくれつ)したのには、さすがに鬼の筆者(笑)でさえこらえることができなかった。


 同じ丸戸氏が脚本を手がけた、主人公少年と少女2名によるバンド仲間の良好な関係が最後に崩壊してしまい、とてもではないが“仲間”としての関係が保てるハズのないアンハッピーエンドとなってしまった深夜アニメ『WHITE ALBUM 2(ホワイト・アルバム・ツー)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191115/p1)とは正反対に、詩羽が英梨々に「私たちはこれからも“仲間”でいられる」と語ったように、社会人になっても彼らが“仲間”のままであることがエンドタイトルのあとに示される。
 あくまでドタバタラブコメディとして幕を降ろしたことには、胸が救われる想いがしたものだ。



 最後になるが、筆者は個人的にあまりに萌え度の強いキャラは苦手であり、かといってリアル系のキャラもつまらないと思っている。その意味では、本作で深崎暮人(みさき・くれひと)が手がけたキャラクターデザインはそのあたりのサジ加減が実に絶妙であり、筆者にとっては登場する女性キャラが全員かわいく見える希有(けう)な作品でもあった。


(了)
(初出・当該ブログ記事~オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.84(2020年以降発行予定)に収録予定



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