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赤×ピンク ~桜庭一樹原作×坂本浩一監督 地下女子格闘技&女子の実存映画の良作!

『白魔女学園』正続 ~でんぱ組×坂本浩一×吉田玲子 アイドル集団を魅せつつも、病んデレ戦闘美少女活劇にも仕上げた良作!
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 天下の坂本浩一カントクによる実写映画版『文豪ストレイドッグス BEAST』(22年)の公開は終わったけど、同作にカコつけて……。坂本浩一カントクが手掛けた映画『赤×ピンク』(14年)評をアップ!


『赤×ピンク』 ~桜庭一樹原作×坂本浩一監督 地下女子格闘技&女子の実存映画の良作!

(文・久保達也)
(2014年7月5日脱稿)

『赤×ピンク』 ~オトナ×少女の間で戦ってる。~


 2014年2月22日=「ネコの日」に少数の映画館で公開された角川映画『赤×ピンク(あか・ぴんく)』。特撮マニア的には近年、獅子奮迅の大活躍をしているあの坂本浩一監督が担当する一般(?)映画作品ということで注目を集めた本作。この作品は、東京・六本木の廃校になった小学校で夜な夜な繰り広げられる、非合法の女同士の格闘技=キャットファイトを舞台に描かれた「新・エロティック×青春アクションムービー!」である――キワモノ色が強いので、やっぱり一般映画ではなくジャンル系作品か?(笑)――。


 原作は2008年に『私の男』直木賞を受賞し、現在はミステリー作家として知られる桜庭一樹(さくらば・かずき。ちなみに女性なので念のため)。桜庭は元々はライトノベルやゲームのシナリオライターとして活躍していた作家。特撮マニア的には映画『劇場版 仮面ライダー555(ファイズ) パラダイス・ロスト』(03年・東映http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031104/p1)のノベライズ『555』(03年・角川書店)も手掛けている。


 今回の劇場版は「角川文庫創刊65周年記念作品」として製作された。しかし、元々の原作が2003年に「ファミ通文庫」として刊行されていることから、桜庭の直木賞受賞にあやかって08年に新装版を出したにすぎないであろう角川文庫の「記念作品」と銘打たれているのには、やや違和感がある。まぁ、コジツケの拍付けなのだろが(笑)。また、もう11年も前の「大昔」の作品が、いくら「伝説の傑作」ではあっても、なぜいまごろ映像化されたのか、そのタイミングについても理解しかねる部分があるのだ。


 これは往年の特撮変身ヒーロー『人造人間キカイダー』(72年・東映)のリメイクで、同2014年公開の特撮映画『キカイダー REBOOT(リブート)』(14年・東映)が、KADOKAWA(カドカワ――先頃「ニコニコ動画」で知られるドワンゴとの合併が発表された!――)の代表取締役専務・井上伸一郎(いのうえ・しんいちろう)が、東映テレビ・プロダクション社長・白倉伸一郎(しらくら・しんいちろう)に強く働きかけたことから実現したのと同様に、KADOKAWA関係者に


「監督にピッタリのヤツがいるよ」


などと、坂本浩一(さかもと・こういち)監督のことをアピールしたヤツがいたからだと思えるのだ(笑)。結果論としては、それは「大成功」となったのだが。


 もう主演女優の面々を見るだけで、どう考えても坂本監督の意向がおもいっきり反映されているとしか思えない。


メインキャストは特撮ジャンル系ヒロイン出身者多数!


 ネタバレになるが、実は「性同一性障害」であり、女性恐怖症に悩むメインヒロインである空手家・皐月(さつき)を演じたのは芳賀優里亜(はが・ゆりあ)。
 皐月は白のベストにホットパンツ、白いガウンをまとうバトルスタイルなのだが、赤=大人にもピンク=少女にも染まらない、発展途上の段階にあることが表現されているといったところか?


 芳賀は『仮面ライダー555(ファイズ)』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031108/p1)でヒロインの園田真理(そのだ・まり)を演じたあと、


●『仮面ライダーキバ』(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090215/p1)シリーズ後半の実質ヒロインで主人公とイイ関係(?)になる、対人恐怖症で極端に不器用で仕事やバイトも長続きしない地味少女・鈴木深央(すずき・みお)と、その正体である怪人・パールシェルファンガイアの声
●次作『仮面ライダーディケイド』(09年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090308/p1)第4話『第二楽章♪キバの王子』&第5話『かみつき王の資格』の「キバの世界」前後編でも、ゲスト怪人・ソーンファンガイアの声と人間体
●『仮面ライダー龍騎(りゅうき)』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021109/p1)の海外版『KAMEN RIDER DRAGON NIGHT(かめん・ライダー・ドラゴン・ナイト)』(09年)が、2010年に東映チャンネルで放映された際に、マヤ・ヤング=仮面ライダーセイレーン2代目(日本版の仮面ライダーファム)の声の吹き替え


などを演じるなど、完全に「平成ライダー女優」としての地位を確立している。



 サブヒロインであるSMの女王様・ミーコを演じたのは、グラビアアイドルから女優に転身した水崎綾女(みさき・あやめ)。
 『パワーレンジャー』シリーズ(93年~・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080518/p1)を撮っていた坂本監督が、本場アメリカ仕込みのものを演技指導したのであろうが、ミーコがやたらと指で「Fuck You(ファック・ユー=「馬鹿野郎」!)」の仕草を見せる姿は、あまりにもハマりすぎ。
 水崎は『特命戦隊ゴーバスターズ』(12年)の敵幹部・エスケイプ役が記憶に新しいところだが、深夜特撮『キューティーハニー THE LIVE(ザ・ライブ)』(07年・テレビ東京)にも、青いキューティーハニー・シスターミキこと早乙女(さおとめ)ミキ役で出演していた。


 3人目のヒロインであり、21歳だが14歳に見える――マジでそう見える・笑――元OL・まゆを演じたのは、子役時代やU-15アイドルとしての活躍から、すでに芸歴が長い小池里奈(こいけ・りな)。
 小池も『キバ』のヒロイン・野村静香(のむら・しずか)としてのレギュラー出演が広く知られるところだが、それ以前にも子役として実写版『美少女戦士セーラームーン』(03年・東映 中部日本放送http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041105/p1)の後半でセーラールナ役で出演していた過去は、大半の人々が忘れてしまっているのではなかろうか?


アクション7割・エロス2割・ドラマ1割だが…


 『セーラームーン』も『赤×ピンク』も、戦いの渦の中に身を投じながらも、強さと脆(もろ)さを共にかかえた少女たちの悩める姿を描きつつ、精神的にも肉体的にも――決してイヤらしい意味ではなく(笑)――成長していく姿が描かれているのは同じである。
 だが、今回の『赤×ピンク』は、キャットファイトという特殊な空間に身を投じざるを得なかった少女たちの複雑な背景とか、それについて悩み抜いたり葛藤したりといったウェットな要素や、彼女たちの日常生活の場面については非常に印象的ではあるけれど、と同時におもいっきりの点描程度で済まされているといった感があるのだ。


 比重としてはアクション7割・エロス2割・ドラマが1割と、まぁいつもの坂本監督作品である(笑)。だが、その1割にすぎないハズのドラマが、実に密度の濃いものが圧縮されて詰め込まれているといった印象であり、全編に渡って陽性的なアクション演出で貫かれているからこそ、それがまた際立つこととなっているのだ!


 少女たちの複雑な背景はとりあえず脇に置いといて、まずは主人公・皐月のフルヌードをシャワーシーンで見せる(笑)。


 続いて、


●アイドルグループ・AKB48(エーケービー・フォーティエイト)みたいな制服コスプレ姿で、ヌンチャクを振り回すモモミー
●『仮面ライダーフォーゼ』(11年)の仮面ライダー部員・野座間友子(のざま・ともこ)みたいなゴスロリ少女・コゼット
●巫女(みこ)のコスプレかと思いきや、超ミニスカの下に、これまた坂本監督が好きなフリル付アンダースコートを着用している法子(のりこ)


 彼女ら少女たちが控室でまるで名乗りをキメるように(笑)、キャラ紹介として名前のテロップ入りで映しだされていく。


 そして、皐月が戦いの場に赴(おもむ)くバイクは、まるで『仮面ライダーアギト』(01年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011108/p1)に登場した仮面ライダーギルスのギルスレイダーを彷彿(ほうふつ)とさせるような、緑色の車体でカウルがモロに変身ヒーロー顔。


 さらに、控室からリングに通じる廊下では、まず皐月の姿、続いてミーコ、次にまゆ、といったメインキャラの3人の姿が順に加えられ、最後に少女たち全員が行進するという演出が実に血湧(わ)き肉踊るものがある!


●何かにとりつかれたように絶叫しながら、飛び回し蹴りの連発で覆面レスラーのプッシーに勝ってしまうコゼット
●AV女優の西野翔(にしの・しょう)が演じていることから、泥んこレスリングで何もかもを露出させるナースコスプレ姿の天使(笑)
●客に圧倒的な人気を誇るモモミーに勝つことで、一斉にブーイングを浴びてしまうミーコ


 アクション自体は迫力があるのにどことなくユーモラスなバトル演出は、まさにスーパー戦隊との共通性を感じるものがある。本稿執筆時点で放映中である『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)などでも多用されている、キャラの動きの「方向」を強く意識させる「斜めアングル」によるカットが多いのがまた効果的。


敵役ヒロイン登場!~乱れる調和、本心の吐露、アイデンティティ(実存)の発見


 この「ガールズブラッド」と呼ばれる会員制の地下ファイトクラブに、この映画内で一応の敵役(かたきやく)となるクールな新メンバーが参戦することとなった! その敵役となる千夏は「リリー」というリングネームをもらい、赤いチャイナドレス姿でリングに立って、サブヒロインのミーコにも勝利する!


 何度もミーコに「ブッ殺す!」と云わせることで、そのキャラを浮き彫りにしているが、千夏のファイターぶりは主人公少女たちの目にも「素人(しろうと)」ではないことは明らかだった。そして、リリーは「ガールズブラッド」最強の戦士・皐月にまで勝利してしまう!


 物語はその敵役っぽい千夏に付きまとって地下ファイトの舞台となる廃校になった小学校にまで白昼に押し掛けてきた、千夏よりもさらに凶暴そうな連中(笑)の暴力から、皐月・ミーコ・まゆたちが千夏を助けるという、やや意表外のストーリー展開を契機に変化を迎える。
 そして、その敵役っぽい千夏の告白からはじまって、ようやく彼女たちの素性が明かされることになるのだ。これがまた、缶ビールを回し飲みしながら軽い酔いやリラックスの力も借りて、彼女たちがそれぞれの胸の内を語っていく……という展開になっているのが実に粋(いき)な演出である。


 名門の空手家である夫からの執拗なDV(ドメスティック・バイオレンス)(!)から逃げてきたという千夏。


千夏「この世の果てで戦いたかった。そして、死んでしまいたい……」


 元々は優等生であり、先回りして人が望む「いい子」を演じていたことがある日、裏目に出て皮肉にも実家を追い出されるに至ってしまったミーコ。


ミーコ「客が何を求めているかがわかるから、ここは居心地(いごこち)がいい」


 「心の病」に冒(おか)されていた母に、「虐待」として中学になっても赤ちゃん用のフェンスに閉じこめられ、父も助けてくれなかった過去を打ち明けたまゆ。


まゆ「檻(おり)から出してほしかった」


 「ガールズブラッド」はまさに悩める少女たちの「駆けこみ寺」であったのだ。それぞれが実に深刻な事情をかかえているのだ。実に印象に残るシーンなのだが、しかしそれでも、彼女たちが悩み苦しむような場面自体は、実は尺的にはほとんど描かれてはいないのである。


 それどころか……


皐月「悩みがあるんだ……」


 そう本心を吐露しかけた皐月だが、千夏はミーコやまゆと屋外でシャワーを浴びて、薄着を透(す)かせて戯(たわむ)れている中に皐月を誘う。ロッカールームで仲間と着替えるのを執拗にキラっていた皐月は、実は「女性恐怖症」であることを千夏には見抜かれていたのだ!


 そこまで深刻な悩みすらも、「さわやかエッチ」(笑)な場面に昇華させてしまうことにより、陰鬱(いんうつ)な印象を与えない演出が秀逸(しゅういつ)なのである!


 このあと、皐月と千夏による実に濃厚なレズシーンがある。しかし、個人的にはさほどのエロティックな印象は感じられない。たしかに皐月は「性同一性障害」であることを体現して、ブラジャーの代わりに白いさらしを巻いて男物のグレーのブリーフを履いていたりはするのだが。
 これは色気が不足しているということではなく、女同士のカラみというよりかは、アスリートとしての肉体美=「それまでの人生の結晶としての姿」を見せることを主眼に描かれているような印象を受けるからである。むしろ半裸状態で肌を露出させたキャットファイト場面の方が、よほどエロスが感じられるのであった。


 「女好き」だと揶揄(やゆ)されることが多い坂本監督ではあるが、少なくとも今回は「見せもの」として扱うべきものと「テーマ」として繊細に扱うべきものとを、明確に差別化して描いていると思える。


 ようやく「運命の人」にめぐり会えた皐月だが、ある日突然、別れの日がやってくる。「ガールズブラッド」の数々の違法行為の証拠――届け出なしでの興行など――を盾に、千夏の夫が強引に千夏を連れ去ってしまったのだ!
 体育館にて名門の安藤一門の女空手家たちが宙を舞う姿をローアングルからとらえ、「ガールズブラッド」の男性トレーナーたちに跳び蹴りを喰らわすカットの数々は、まさに「道場破り」の趣(おもむき)を強くしている!


 一方、まゆはミーコとの泥んこレスリングの最中に、母からの虐待の記憶を呼び覚ましてしまい、試合中にパニックになって「助けて!」と叫び続ける……
 突然リングに上がり、まゆに手を差し伸べる、ひとりのイケメン兄ちゃん=おもいっきりのチャラ男(笑)。彼は以前からまゆがバイトするコンビニに現れて、まゆに「結婚してくれ!」と頼んでいたストーカーだった。まゆはミーコに「この人と結婚する!」と叫んで(爆)、リングから去っていってしまう。


 お互いに大事なパートナーを失ってしまい、代わりに互いの傷を慰めあう皐月とミーコ。SMの女王様としての経験から、ミーコは皐月に「殴るヤツのところに戻ってしまう人間」の例を語り聞かせる。
 しかし、ミーコがまゆを大層可愛がっていたことから、皐月はミーコにまゆのことが好きなのか? とたずねると、ミーコは「わかんない」と答えてきた。
 ミーコはまゆのことを実は本心から好きではなかったのか? 彼女の人格を尊重していたというワケではなかったのか? 単に自分が寂しいから、人肌のぬくもりがほしかったから、それを埋め合わせてくれる、自分には何も要求してこない、可愛いくて従順なだけの藁人形(わらにんぎょう)がほしかっただけなのか?(爆)


 ここで皐月も、本人を目の前にして自分はミーコと対戦することが実は以前からイヤだったと語りだす…… ミーコは客が何をやったら喜ぶかを常に計算していたからであり、そんなヤツに本気を出して勝っても面白くない! というのがその理由だった。


皐月「格闘技は自分を知るためにやるものなんだよ。人が望むことばかり応(こた)えてるから、自分がどうしたいかわからないんだよ」


 皐月がミーコに好きな格闘家をたずねると、ミーコはそれを挙げて、その人みたいになりたいと答える。


皐月「やりたいこと、あったじゃん。格闘技があってよかったな」


 人が自分に望んでいることをやるのではなく、自分が望んでいることをやる。
 それは正論ではあるだろうが、万能な理屈ではないかもしれない。時にミーイズムやエゴイズムへと陥(おちい)ってしまうものなのかもしれない。ヤンキーDQN(ドキュン=不良)やパワハラ上司や本作に登場した悪役たちも、自分が心の底から望んでいることだけをやっていて、しかもそれが始末の悪いことに悪事にもなっているのだろう(爆)。
 しかし、人様に迷惑をかけない範疇であれば、自分が望んでいることをやることもまた、許されてしかるべきだろうし、当人の生きがい・自己実現・生の充実感にもつながるものだろう! そして、これこそが本作のクライマックスバトルでの彼女たちの動機づけとなるのだ!


――むろんその逆に、自分には望みなどないし、夢なども持っていない。しかし、他人にお節介を焼いたり他人に尽くしたりして他人が喜んでくれる姿を見ることで、自分も嬉しくなる。だから、他人が望むことばかりに応えることが、本心からのウソ偽りない自分の望みなのだ! などという人間もたまにはいるのだろうが、ここではややこしくなるので省略させていただく(笑)――


ラストバトルを盛り上げるための各キャラの動機付け作劇!


皐月「あそこを奪われるワケにはいかないな」


 社長が「解散」を宣言した「ガールズブラッド」だが、皐月とミーコは安藤一門に試合を申し入れ、勝利したら解散を撤回すると宣言する。
 千夏の夫はそれを拒否するが、「ガールズブラッド」の社長は、千夏の夫が女子高生と援助交際している現場写真をその場に何十枚もバラまくことで、強引に云うことを聞かせてしまう(笑)。


 もう大むかしから何度となくこの手の作品で見せられてきた唐突な展開と、おもいっきりのご都合主義が炸裂! もしも千夏の夫が援交するような人間ではなかったら、このストーリー展開は成り立たない(笑)。
 ただ、世代的にはあまりくわしくはないけれど、集英社の『週刊少年ジャンプ』の格闘漫画などもまた、これと同様にバトルシーンをヤマ場とするために、とにかく敵との戦いを成立させるためのいささか強引な仕掛けやご都合主義と、それでも実はキャラクター同士の戦う動機となりうる一応の「深い」ドラマが点描されていて、そこに共感・同情を喚起することができていることが、長年に渡って子供たちや大きなお友達にも支持され続けてきた理由だろう。


 そして、チャラ男と共同生活をしていたまゆは、またかつてのように赤ちゃん用のフェンスの中にこもっていた……


まゆ「どうしてここから出ないのか、聞かないの?」


 まゆがそうたずねても、チャラ男はまゆを「飼育」さえしていれば満足だったのだ……


まゆ「全部、知ってほしい!」
チャラ男「重いのは…… 困る」


 てなワケで、まゆも「ガールズブラッド」に帰還する!


 「ガールズブラッド」、そして安藤一門がトレーニングに励むさまをカットバックで交錯させて描く演出は定番とはいえ、観客にクライマックスバトルへの期待を膨らませるためには絶対にはずせないものである!
 トレーニングが終わったあと、皐月・ミーコ・まゆが眺める夕闇に染まる街並みは、実景ではなくCGで描かれている。3人の晴れ晴れとした気持ちを象徴するような満足な夕焼け空が、監督の意図どおりには撮影できなかったためであろうか?


 「ガールズブラッド」の存続をかけた、安藤一門との「三本勝負」の火蓋(ひぶた)が遂に切って落とされる!


 一本目はフリルいっぱいのドレス姿(笑)で試合に臨んだまゆ。
 彼女は完敗してしまうが、最後の最後まで倒れることなくリングに立ち続けた!
 おもわず、かつての相棒格のまゆに駆け寄って、強く抱きしめるミーコ!


 二本目のミーコの対戦相手は、以前にミーコの店にM女の客を装って現れて「死んでもらう!」などと大暴れしたあげくにミーコを打ち負かした女だ!(もうムチャクチャ・笑)


 ミーコは皐月の言葉を思い出す……


皐月「人が望むことばかり応えてるから、自分のやりたいことがわかんないんだよ」


 ミーコは客が望む姿ではなく、初めて「真剣勝負」を繰り出すことで、見事に勝利をおさめる!


ミーコ「これが私のやりたかったことなの!」


 そして、皐月VS千夏=リリーの宿命の対決!


皐月「私の女になれ!」(爆)


 フェンスごしの撮影とリング内のカットが交錯する中、バトルの衝撃でフェンスをつなぐネジが緩(ゆる)むさまが何度も挿入されているが、これはあとに出てくる名セリフの伏線となっているのである!


 あまりのバトルの激しさにより、数枚のフェンスがはずれて、客席に向かって吹っ飛ぶ!


 まゆの頭を抱きながらつぶやくミーコ。


ミーコ「檻ってさ、自分からぶっこわすものなんだよね」


 「物理的な檻」と「心理的な檻」を掛けているワケで、これはこれでベタだとも云えるのだが、それこそが「バトル」と「ドラマ」が華麗に融合したクライマックスなのである!


 皐月の強烈なパンチが遂にリリーをリングに沈める!


皐月「千夏、愛してるよ」
千夏「チューして」


 リング上で熱いくちづけをかわす皐月と千夏!
 ミーコが云っていたとおり、同じ殴るヤツでも、千夏は愛のないDV夫ではなく、皐月のもとに帰ってきたのだ!


 観客から「ガールズブラッド!」のコールが鳴る中、ひとりのおとなしそうな制服姿の女子高生がミーコのもとに歩み寄る。それは以前、皐月にラブレターを手渡したことがある少女だった。歓声に包まれるリングを指す少女。


少女「あの…… あの中に入りたいんですけど」


 おもわず笑いこけるミーコとまゆ。それは、まゆがかつてミーコに語りかけた言葉と同じだったのである。


 この世に悩める少女が存在し続けるかぎり、これからも新たな美少女ファイターが次々に誕生することだろう! いや、本当に幸か不幸か……


千夏「皐月が行くところなら、どこへでも行く」


 千夏を連れて、海岸にたたずむ洋館を訪れる皐月。「ガールズブラッド」に身を投じることで自分を知り、遂に檻をぶっこわすこととなった皐月は、ようやく実家へと戻る決心がついたのである。


皐月「ただいま。帰ってきたよ」



 2時間という尺の長さがまったく気にならず、本稿執筆時点で記憶が真新しくて同じくらいの尺だった『キカイダー REBOOT』と、どうしても比較せずにはいられない。悩める少女たちを主人公にした青春ストーリーがこんな調子なのだから、アンドロイド(キカイダー)がロクに戦いもせずに、悩んでばかりいたらダメでしょう(笑)。


 スーパーヒロインでもなんでもないド素人の「等身大」の少女たちの、本来ならば陰鬱な作風に陥りそうな内面を本作では描いている。しかし、こうしてアクロバティックな熱血バトルを主軸にその中に織り込むかたちでドラマを紡(つむ)ぎ出していく手法がとられているのである。
 特撮変身ヒーロー作品においても、ドラマやテーマに比重を割きすぎて娯楽活劇性を軽んじるなんぞ、いい加減に見直すべき段階に来ているのではなかろうか?

2014.7.5.


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2015年準備号』(14年8月15日発行)~『仮面特攻隊2015年号』(14年12月28日発行)所収『赤×ピンク』評より抜粋)


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