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リコリス・リコイル ~すべては美少女×百合×ガンアクションを魅せるため! 予防殺人・非殺などの疑似テーマ(笑)や、対となる宿敵・お仕事・喫茶店も背景舞台装置! それでもドラマ的には大傑作!

『あさがおと加瀬さん。』『やがて君になる』『citrus(シトラス)』 ~2018年3大百合アニメ評! 細分化する百合とは何ぞや!?
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』 ~少女主人公・百合・学園での決闘の代償は結婚! 個人的にはOKだが、ガンオタは枯れたのか!?
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 2022年の夏アニメ『リコリス・リコイル』が2023年7月からBS11にて再放送中記念! とカコつけて……。『リコリス・リコイル』(22年)評をアップ!


リコリス・リコイル』序盤評&完結評! ~すべては美少女×百合×ガンアクションを魅せるため! 予防殺人・非殺などの疑似テーマ(笑)や、対となる宿敵・お仕事・喫茶店も背景舞台装置! それでもドラマ的には大傑作!

(文・T.SATO)

リコリス・リコイル』序盤評!

(2022年夏アニメ)
(2022年8月7日脱稿)


 日本は諸外国に比べて平和である。しかし、諸外国に比べて悪人や犯罪者が特に少ないワケではない。実は日本の治安は、ある秘密組織の配下にいる特殊訓練を受けた美少女の殺し屋たる狙撃手たちが、人知れずに街中の人々を監視して、悪人が罪を犯す直前に遠方から射殺していたのであった! といった世界観の作品である。


 なのだけど、そこはキモではない(笑)。それは舞台装置であって、基本的には銃器を操る美少女たちと、彼女らの関係性の妙を見せていく作品なのだ。


 リアルに考えると、いかに悪人相手で犯罪を未然に防ぐためとはいえ、実質的な問答無用での死刑は少々ヤバいし、狙撃手が10代後半の未成年美少女だということで背徳感も強まって、実写で映像化したらばヤバさがもっと前景化されてきてマズくなったとも思うのだ。


 しかし、いかに美麗な作画&背景美術で映像化しようとも、そこは漫画やアニメという媒体の効用である。悪党退治があってもソレは良くも悪くも記号的な背景にとどめることができるし、美少女狙撃手たちのルーティンな仕事でも華麗なるガンアクションのカタルシスと高揚感、彼女たちの強さを際立たせるためのイイ意味での舞台装置となりえてもおり、つまりはアクション&キャラを魅せることをも主眼としているのが本作なのだ。


 #1の冒頭で膨大な作画カロリーを費やして描かれた大掛かりな暗殺業務中に生じたアクシデントで、仲間を救おうとして命令違反を犯したことで左遷。組織の支部でもある喫茶店(笑)の出向社員となった黒髪ロングの美人さんでも人情の機微には疎そうなマジメでクールなサブヒロイン。
 そんな彼女がこの喫茶店で出逢った1才年上でもある、同じく狙撃手であっても裁けており融通も利かせられる薄金髪ショートの主人公美少女と出逢って、喫茶店での日々のお仕事とコンビでの暗殺作戦業務を通じて、人間性も回復していくといったストーリーになっている。


 いや、悪人とはいえ他人の生命を奪っているという無罪とは云いがたい身なのに、人間性の回復もナニもないだろう! とツッコミされたら返す言葉がないけれど。それはそれでそーいうモノとして、序盤は面白く出来ている。
ヴァイスシュヴァルツ ブースターパック リコリス・リコイル BOX

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.83(22年8月13日発行))


リコリス・リコイル』完結評!

(2022年夏アニメ)
(2022年12月25日脱稿)


 10代中高盤の制服女子高生である美少女ふたりが、狙撃手として悪人を人知れずに抹殺していくガンアクションのアニメ。といった外形フォーマットでは作品を説明したことにはならない類いの典型的な作品でもある。作り手のねらいも受け手の受容も、2010年代以降に流行りの「百合」作品としてのソレである。


 黒髪ロングの美人さんでも人情の機微には疎そうなマジメでクールなサブヒロイン。彼女の1才上でもある同じく狙撃手であっても三枚目的で裁けてもおり融通も利かせられる薄金髪ショートの主人公美少女。双方が吸い込まれそうな魅惑もあるキャラデザにはなっている。


――ルッキズムがどうこうといったツッコミは可能だけど、それは美男美女を主役に据えた実写ドラマや映画やミスコンや「美」の概念それ自体とも同時批判でなければフェアでない!――


 個人的にはナンでもカンでも「百合」と称したり、今やオタの中での主流派とも野合してブヒブヒと萌えることにプチ抵抗や反発もある。本作のふたりは「百合」のキモでもある共依存関係にはないサバサバとしたモノだよなぁといった私的分析もある。けれど、本作に醸されてくる空気はまさに「百合」としか形容のしようがない(笑)。


 ガンアクションもまた、彼女の素の人間関係とは別個に「職業」「お仕事」として配置されたモノではある。しかし、リアルに考えれば非力な細腕だから「それはない」かもしれない。けれども、だからこそ彼女ら実力者のふたりが強敵を倒してみせる爽快感を際立たせる主目的も達成できているのだ――むろん、バトルそれ自体でも見せ場たりえてはいる――。


 コレまたリアルに考えれば法的にもアリエない、事後の裁きではなく予防拘禁どころか予防殺人(爆)といったインモラルな国家組織に属する女子高生たちといった設定も、社会派気取りの方々がソコに的ハズれな現代日本の風刺をムダに無意味に読み込んで「自身が反体制で反権力だからカッケー!」くらいに思って、大いに語っていそうではある(イヤミ)。


 しかし、この設定もまたイイ意味で遠景に退かせてあって、それもまたガンアクションを成立させるための言い訳にすぎない。そんな組織がそもそも隠れ蓑とはいえ、和洋折衷な喫茶店も運営していて、店員たちも楽しくやっており、任務に失敗した女子高生狙撃手をそこに左遷させるあたりで、ホワイト企業的ですらあったりするのに(笑)。


 あくまでも、良くも悪くもすべては主人公のふたりと、その関係性の妙に特化して、それらを魅惑的に見せるため。まずは「舞台設定」ありきではなく、確信犯での単なる「背景舞台装置」にとどめてみせたあたりもまた、本作の総合的な成功要因だったのだとも思うのだ。


 とはいえ、それだけでもラストの盛り上がりは作りにくくはなってしまう。といったところからの逆算か、主人公少女に余命を設定(爆)。シリーズを通じた宿敵たりうるテロリスト青年も登場。終盤では彼との最終決戦も描いていく。


 そして、ジャンル作品のお約束で、ガンバトルしながらの討論(笑)。過度な平和主義の欺瞞や予防殺人の偽善性を指摘して、それを壊すというよりも、人間の半面に確実に存在している暴力衝動といったダークサイドも完全否定をさせない、善悪のバランスを取るためだとの信念を動機とさせて、トータルでは狂人であっても彼にも一理は持たせてもいる。あくまでも非殺傷弾を用いる主人公少女との動機面での対比も作ることでのメリハリも強調できていたのだ――まぁ、非殺傷弾とはいえ相手に痛みを与えている以上は、非暴力ではないというツッコミも可能だけど(笑)――。


 とはいえ、非殺傷弾を用いるに至った幼少時の恩人に対する彼女の認識がまた、ウソと誤解に基づいたもので、その恩人もまた聖人君子ではなかったといったところでドラマも構築。


 しかし、「泥の中からでも蓮の花は咲く」ではないけれど、虚妄の上に成立させてみせた高潔さもアリ! と謳ったオチもまた、作劇的には後付けなのだろうけど、それでもパズルの最後のピースがピタッとハマったかのように見せることこそ、作家の本懐だともいえるだろう。


 市民を守るために悪人やテロリストを予防殺人するといった国家による悪事(?)もまた世間にバレてしまうことで、本作への批判に対する言い訳もバッチリだ! と思いきや、おそらく確信犯で再びウヤムヤ化させている(笑)。


 幼少時に真相を知ってしまえば、他人や環境を恨むだけの他責的、流されて生きていく厭世的な人格を形成してしまったと考えて、それを「カッコ悪!」と感じて、明るく能動的に状況を改善せんとする今の自分を肯定してみせる主人公美少女の達観! 我々凡俗も見習いたいものである(笑)。
リコリス・リコイル 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.84(22年12月30日発行))


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#リコリコ #リコリス・リコイル #アニメ感想 #アニメ批評



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 2023年のトップ人気作になるであろうアイドルアニメ『【推しの子】』大人気にカコつけて……。同作の作画担当者が手掛けていたマンガ『クズの本懐』(17年)評をアップ!――『【推しの子】』の原作を担当した漫画家さんによる『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』はすでに拙ブログでアップ済でして(笑)―― 加えて、『【推しの子】』とはまったくの無関係でも(汗)、『クズの本懐』とも同様に倦怠感もある男女関係を描いた作品だからだとカコつけて……。『継母の連れ子が元カノだった』(22年)評もアップ!


クズの本懐』『継母の連れ子が元カノだった』 ~愛情ヌキの代償行為としての男女関係と、一度は破綻した同士の男女関係を描いた2作評!

(文・T.SATO)

クズの本懐

(2017年冬アニメ)
(2017年4月27日脱稿)


 男子高校生と女子高校生がお耽美な絵で「H」する深夜アニメ。しかも、愛情はナシの代償行為としての肉体だけの関係。


 ……うらやまケシカラン!(爆) あぁこんな爛れた高校生活が送りたかったのにィ(オイ)。


 サラサラヘアのクールな男子高校生が恋い焦がれる、栗色ロングヘアのゆるふわ女教師が彼に応えてくれる見込みはナイ。黒髪オカッパの女子高生が恋い焦がれる、幼少時からの知り合いでもある黒ブチ眼鏡の男性教師も彼女を異性として見てくれることはナイ。そして、類似した境遇同士の男子高校生と女子高校生はその淋しさを埋めるために契約を結ぶことにする……。


 キレイで静的だけれども索漠として空虚な感じも漂わす、ドチラかというと少女漫画絵寄りな8等身の絵柄。キャラの描線も最新のデジタル技術のたまものか微妙にカスれた感じに加工されており、それがまた本作に儚さや切なさや切迫感、気怠げな空気を醸す。


 非モテの我々オタと同様、異性のゲットには苦労しないモテるリア充にも、それはそれで異性との交流における満たされない想いがあり、人間みんな悩みがあるという次元においては同じ・平等なんだよネ! というお話(……全然違う・汗)。


 いやぁ実際のところ、悩みの種類にも高低はあるよネ。本作におけるカレとカノジョの悩みはモテる者のゼイタクに過ぎる悩みだよネ。


 かてて加えて、黒髪オカッパ女子高生に懸想する戸松遥が演じる赤髪ロングの女子高生も登場。黒髪オカッパは心の空虚感を埋めるために、赤髪ロングにも身体を許してレズの関係になってしまう。男子高校生を幼時から懸想してきた金髪ツインテール娘までもが出現。非モテの筆者にはウェルカムじゃん! と思うものの(笑)、彼が金髪ツインテ娘をお相手に選ぶことはナイ。


 一見は清楚でゆるふわ女教師も、その本性は男の視線が自分に集まる瞬間の快感こそが行動原理で、そればかりか他の女性が懸想する男にチョッカイ出しては当の女性が嫉妬や悲嘆にかられるサマに喜悦&優越感を抱き、時にその男を寝取りもするビッチ女性。黒髪オカッパ少女の男性教師への恋情に気付いた女教師は、彼女の前でワザと男性教師とイチャついてみせもする。


 耐えきれずにその場を立ち去る黒髪オカッパだが、女教師は同時に黒髪オカッパのことをこうも評する。彼女に自覚はナイけど男子生徒たちの視線を集めている黒髪オカッパは、「こちら側」(女教師側=モテる側=搾取する側)であると……。


 じゃあ、筆者のような非モテは「あちら側」の本作のオモテ舞台にすら上がれない存在かよ!? この世界に筆者の居場所はねぇよ!(笑)


 まさに人間のクズばかりが登場する作品だが、彼らの人間模様やHを覗き見する分には芸能ワイドショー的な意味で実に面白い。


 ただし大変残念なことだけど、ここまでヒドくはなくとも、棲息するジャンルは違えど大なり小なり人間一般には彼ら彼女らのような醜い心性がたしかに存在はするよネ。むろんそれは開き直ってガンガン増幅すべきモノではなく、ゼロにはできないにしても自覚して減らしていくべき性質のモノではあるけれど。


 中盤以降は、各キャラの延々とした独白と過去回想が増えて、それはそれでアリだけど、ヨコ方向や対角線方向の人間関係が描かれなくなるキライがあったあたりはチョット……。


 本作中では唯一、セイント(退屈?)な存在であった男性教師に調子を狂わされて女教師が彼とゴールする終盤も、個人的にはイマイチだ。もっとヒリヒリと痛い六角関係をずっと観ていたかった気もするので。劇中でも自己言及していたけど、リアルに考えれば女教師が浮気を連発して、あのふたりは離婚すると思う(笑)。


 本作放映中には、同TV局の曜日違いで実写版の深夜ドラマも放送。積ん録を中盤まで消化したが、コチラも悪くない。異なるスタッフであるにも関わらず、内容といい各話の区切りといいほぼ同じ。となると両作ともに原作には忠実であったということか。
 ジャンルファン的には仮面ライダーNEW電王のコが男子高校生、『炎神戦隊ゴーオンジャー』(08年)のゴーオンイエローが女教師であることに注目。ウブな女子高生だったイエローは10年弱後の今日だと今回の女教師は実にハマリ役。
 失礼ながら多少腫れぼったい顔のNEW電王のコは賛否が割れそうだけど、このテの題材の実写作品の場合、男性のちょっとした表情の変化がイヤラしさや下心だと受け取られかねない危険もあるので、ポーカーフェースの彼の配役も成功に思える。
クズの本懐

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.69(17年5月4日発行))


『継母の連れ子が元カノだった』

(2022年夏アニメ)
(2022年12月25日脱稿)


 タイトルそのまんまではあるが、本作もタイトル負けしていない良作。


 黒髪ロングのしっとりとした制服女子高生の美少女。クールでマジメで知的そうなしっかりとした男子高生。この両者がドギマギして気マズくなっているところから開幕するのではなく、再婚した両親の前では仮面をカブって仲の良さをアピール。家族がいなくなったところで、気マズさや恥ずかしさではなく、互いに「あーいうところやそーいうところがキライだった」とディスりだし、女子が男子を「くそオタク」、男子が女子を「くそマニア」と罵倒することで開幕する。


 まぁ、オタにとっては縁遠いメンドい出逢い描写やハント描写を省いて、美少女と(美少年も)強制的に同一空間に投入することでドラマを始めてしまう手法は、スレたマニア的には少々自堕落で安直に見えてもしまうだろう。
 しかし、本作の場合は良くも悪くも女子も少年も読者家でやや知的なインテリでもあり、いちいちヒネったり穿ったり深い見方をすることで、ストーリー展開や細部の心理描写の端々も単調にはなっていない。


 少年マンガではなく(ひとり)ボッチものであったりやや文学的な香りもあるラノベを読むような人種は、大むかしであれば内省的な文学などもたしなんでいた人種であったことは間違いない(書き手の方もそうだけど)。
 本作も小説投稿サイト出自だそうだけど、そういったところで先モノ買い的な見巧者・読み巧者によって見出されて、世に出た作品だともいえるだろう。


 もちろん、タイトル的にもこのふたりの再接近を描いていくことは見えているし、だからダメではなく、そうでなければ詐欺である(笑)。


 しかし、作家は適度に悪魔でなければならない。いかに劇中人物にイジワルな試練を与えて、ヒイてジラしていくかたちでストーリーを続行させていくのか。そして、時に合理的ではなく好悪や嫉妬や羨望などで登場人物の目を曇らせるかたちでゴールになかなか辿り着けないようにする。すぐにハッピーエンドに決着させてはダメなのだ(汗)。


 その意味では作りものなのだが、パラドキシカルなことにイイ意味で作り込んで並び替えていくほどにピタッとハマって最初からそうであったかのような血肉や魂が宿ることもあるモノなのだ。


 そういった意味では、一度は破綻していた両者の想いの残り香が、家や学校の教室でのやりとりや学友たちからのハントに感じてしまうプチ嫉妬などで、焚きつけられたり水をかけられたりといった描写のプリプリとした密度感が、本作を飽きさせない作品に仕上げてもいるのだ。


 野郎オタク的には、高飛車ではなく気安くもある優等生を演じきっている元カノこと黒髪ヒロインは実に魅力的だ。加えて、実は中学時代はコミュ力弱者の地味女子であったと判明していくあたりと、その過去とのギャップでも萌えポイントを上げることができている。


 そんな彼女の内面も相当に描き込まれているあたりで、彼女は男から見た客体にとどまらず主体ともなっており、近年では野郎オタクにも可視化されてきた、女オタクも男とは異なるツボではあるもののフェッティッシュな性癖を個々に持っており、実は元カレのルックスがツボであり、その意味では今でもツボであって、その点では「ハァハァ」としたり、罰として元カレにバックハグ的なことを望むあたりなどは、マーケティング的に女性オタクもゲットしようとねらったモノなのか!? ともあれ、彼女のモノローグも実に多い両サイドからの作品なのでもあった。


 もちろん、脇にも快活な元気少女でありながらも好意を持った相手にややストーカー・重たい感じで迫る女子。元カノが高校デビューできなかった場合の鏡像キャラでもある図書室オタク女子なども配置する。図書館女子の主人公少年への恋慕を元カノが心ならずも応援する! といった挿話などでも、ストーリー展開を錯綜させていく。といったあたりも含めて、ナチュラルでも技巧的な良作なのだ。
継母の連れ子が元カノだった

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.84(22年12月30日発行))


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クズの本懐』『連れカノ』評! ~愛情ヌキの男女関係と、一度は破綻した男女関係を描いた2作評!
#クズの本懐 #継母の連れ子が元カノだった



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聖女の魔力は万能です・異世界薬局・新米錬金術師の店舗経営 ~医療・店舗経営まで題材としてしまう、爛熟の異世界ファンタジーアニメ3本評!

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(文・T.SATO)

聖女の魔力は万能です

(2021年春アニメ)
(2021年8月9日脱稿)


 女子が異世界に転生して無双(?)する作品である。


 本作も現世では萌え媚び臭が感じられない、恋も遊びもしてなさそうな、グレーのスーツに身を包んで染めてない黒髪を後ろに束ねただけの地味な黒ブチ眼鏡女子が異世界に転生するあたりで、同季2021年春季の深夜アニメ『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAX(マックス)になってました』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20230430/p1)とも導入部だけは似ているのであった。


 しかし、悪い意味ではなく冴えないオタク女子向けファンタジー作品といったところで、その自己投影としての浮ついたところがない常識人の女性主人公といったところだ。とはいえ、「弱者男子」一般もまた、こーいった女性キャラには不快感は抱かないどころか、やや好意すら持つであろう(笑)。


 物語の序盤では、異世界に召喚されてもキャーキャーとは騒がずに周囲を冷静に見回しているあたりで、自信満々の勝ち気なタイプではなくても、過度に他人に依存するような人格類型・性格類型でもないことまで早々に確立している――実は同時に、もうひとりの10代であろう日本人少女なども召喚されており、そちらの可憐な女子は対照的に怯えている――。


 #1では同時に召喚された可憐女子の方が「聖女」扱いされていて、主役女子は粗略には扱われないまでも「窓際族」扱いであった(笑)。『スライム倒して300年~』とも同様に「スローライフ」かつ「退屈」な日々を送ることことで、意外性も出している。


 そんな彼女はある日、散歩中に「薬用植物研究所」に侵入。薬草の知識も少々はあった彼女は、美形の男性所員(笑)たちとも意気投合する。要は、本作は女性向けの「逆ハーレム」作品でもあったワケだが、ドラマ的な必然性があるかたちで彼ら男性キャラたちも活躍するので、男性視聴者でも鼻につくことはないであろう。


 彼女はここで魔法込みでの治癒薬液作りに才能を開花させる。そして数世代に一度、大量発生するという「魔物」との戦いで傷ついた騎士団を治癒する場面でその能力を発揮! そこで頭角を現わすことで、この異世界の大状況にも関わっていくことになっていく……といったストーリーがけっこう面白い。


 #2では「黒ブチ眼鏡」をハズして「赤系のワンピースなロングスカート」をまとうと、フツーに華やかな黒髪ロングのヒロインになってしまうあたりで、それはそれで魅力的でもあるような残念でもあるような(笑)。しかし、こうしたルックスでないと男性キャラたちとの「ロマンス」が発生しにくいからOKでもあるような……。それでも、マジメさを感じさせる眼鏡姿であったころのイメージが潜在していることで、我々のような弱者男子やメインターゲットである弱者女子の視聴者たちがイケメン主人公に感じてしまうような「プチ反発」まで防げて中和もできているような(笑)。


 そんな主人公女子を演じている主演声優は、『進撃の巨人』(13年)・『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211108/p1)・『アズールレーン』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191027/p1)などのメインヒロインも務めてきた石川由衣(いしかわ・ゆい)――今年2021年度の女児向けアニメでは、3人目のプリキュアも担当している!――。


 ググってみると、本作の原作もまた「小説投稿サイト」出自であった。しかし、深夜アニメ版の「シリーズ構成」(=メインライター)職は、我らが(ひとり)ボッチ作品『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(13年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150403/p1)原作のラノベ作家・渡航(わたり・わたる)先生。ここ5年ほどは、数本の深夜アニメの原作や脚本も兼任されてきた。本作もまたそんな一環なのであろう。
聖女の魔力は万能です 第1期(第1-12話)+アートカード [Blu-ray リージョンA](輸入版)

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.80(21年8月15日発行))


異世界薬局』

(2022年夏アニメ)
(2022年12月25日脱稿)


 西欧中世ファンタジー風の異世界に転生して「薬局」を開設するといったお話である。といった要約で、作品の本質を説明できる場合もあればできない場合もある、といった意味での「良作」にも仕上がっている。


 本作は「ナンちゃってコミカル感」などはほぼなくて、過労死のあとに異世界へと転生した国立大学の青年准教授クンが、宮廷医師の家の10才の金髪美少年に憑依してしまう。そこで多少の悶着や、人格が憑依前の少年とは異なってしまったことを、家族や周辺人物に怪しまれていたりはする。


 しかし、「現代医学の知識」&「ご当地の魔法」も駆使して頭角を現して、病魔に苦しむ女帝を救って認められて演説もぶったことで、晴れて認められて医学・薬学が未熟な西欧中世風異世界の首都に、万人(庶民)にも開かれた「薬局」を開設することになる……といったお話なのだ。


 異世界に転移・転生して、「正義の勇者」になったのではなく「悪の魔王」や「善の魔王」(笑)になったり、「魔法使い」や「賢者」ならばともかく「骸骨」(!)になったり、動物園を作るために「プロレス興行師」(笑)になっただの。「食堂」「居酒屋」「司書」「農民」「村人」などに転生して、「悪人」すら登場せずに「スローライフ」を送ったり。あげく、「蜘蛛」「スライム」「長剣」「女体」(爆)などに転生。「王さま」「貴族」「悪役令嬢」などに転生しても、「弱小国」や「貧乏領主」に「善人女性」の「サバイバル」や「理想の統治」が主題であったり……。「王道ファンタジー」は絶滅してしまって久しい(笑)。


 ところで、「アニメ」や「特撮」といった「映像技法」をジャンル名としたジャンルは、「非現実的」な事象を描きやすいがために、似たようなジャンルだと見なされがちだ。
 しかし、「特撮」の方は「ヒーロー」「怪獣怪人」「スーパーメカ」「スペクタクル」「怪奇怪談」「SF」といった、「超常的な事象」を描いた狭いジャンルに限定されてしまう。
 それに比すると、「アニメ」は「ドラマ」一般――「社会派」「庶民人情劇」「喜劇」「悲劇」「恋愛」「難病モノ」「推理」――から、「SF」「怪奇」といった「超常的なモノ」まで、すべてをカバーしてみせているといった意味では、「特撮」ジャンルとは対になっておらずに、実は「実写ドラマ」一般の方と「対」「対称」になっている「オールジャンル」であったりもするのだ――「マンガ」というジャンルも同様なのだけど――。


 その意味で現今の「異世界ファンタジー」モノは、当初の「勧善懲悪」「冒険」モノを超えており、それ自体が「ドラマ一般」――「社会派」「庶民人情劇」「喜劇」「悲劇」「恋愛」「難病モノ」「推理」――から、「SF」「怪奇」といった「超常的なモノ」まで、すべてをカバーができている。オールジャンルの「アニメ」内でのサブジャンルなのに、今やそれ自体で噴出して末端肥大したオールジャンルの大宇宙! といった存在にまで成長したともいえるのだ。


 そんな中でも「医療」「薬師」への転生モノの深夜アニメが目に付く。『チート薬師のスローライフ』・『聖女の魔力は万能です』(共に21年)などである。云ってしまえば、山本周五郎原作・黒澤明監督映画などの『赤ひげ』パターンにも括れるのだけど、救命・人助けといった題材自体が万人の心に訴える普遍的な題材なのであろう――もちろん、牧歌的な前者や、女性向けで逆ハーレムな要素もある後者で、テイストの次元では同工異曲にもなってはいないのだ――。


 本作の舞台もまた中世の科学レベルなので、レントゲンの部分は主人公の魔力による透視能力で代替(笑)。しかし、劇中に登場する病気は現実世界にも実在している病気なのだ。作品の外には「医学考証」職まで入ってもいる。薬の素材の生成には魔力を使うこともあるのだが、その「分子構造」をイメージできるものに限ったことで「何でもアリ」ではなく「制限」は付けているのだ。


 転生前に幼い妹を亡くしたことから医学を志したこと。異世界転生それ自体への驚き。自身のチート(万能)な魔法力の高さへの困惑。そんな高いスペックで増長・慢心してしまって、それをヒケらかして虚栄心を満たす方向へと走ることもないような高潔な人格描写。熱血的に出しゃばることなく、実に控えめにこの異世界に適応しようとするような常識まである。


 しかして、人命に関わる見過ごしにできないことであれば、自分の意見を出す義侠心に、薬だけでも万能ではない、病人への励まし――必要悪としての優しいウソ!――といった「世間知」「人間知」! といった細部なども実にていねいなのだ。


 そんなムダに無意味でもない細部の心理や人間描写が、単なるアラスジ・ストーリーを超えて、本作に血肉と味わいと感情移入をもらしているとも分析ができるだろう――周囲の登場人物たちの「肉付けリアクション」なども同様なのだ。余命少ない女帝に対して幼児の王子が取りすがる描写なども泣けるのだ――。


 とはいえ、ヒトの善意だけが支配している単調な世界でもない。薬局を開店したことで、すでに存在していた庶民向けの「薬局」たちの「ギルド」(中世の職業別組合)との営業的な競合! といった問題までをも描写する!


 筆者個人は「自由競争絶対主義」ではなく過当競争を防ぐ意味でも適度な「保護貿易」や「ギルド」も復活させて、良い意味での「新たな低成長の中世」を復活させるべきだ! くらいに考えてもいるけれど――とはいえ、科学的真理を体現した共産党政府による統制経済なぞも信じていないけど(笑)――。ともあれ、「王族」「貴族」「商人」「庶民」「宗教職」「医学校」といった人物たちまで網羅した「群像劇」にもなっており、改めて良作なのであった。


 「シリーズ構成」職は、『聖女の魔力は万能です』に続いて、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』原作の渡航(わたり・わたる)センセイ。リーマンと兼業して「脚本家」業まで兼任するのか!?
石原夏織9thSG「夢想的クロニクル」【通常盤】(特典なし)

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.84(22年12月30日発行))


『新米錬金術師の店舗経営』

(2022年秋アニメ)
(2022年12月25日脱稿)


 マジメで性格よさげでややオボコい感じがする女の子でもある「新米錬金術師」が主人公。マジメに孤独(爆)に学業に励んだ学校生活の果てに、首都ではなく田舎でお店を開店することになった……といったお話である。


 前季の2022年の夏アニメ『異世界薬局』ともネタがカブっているけど、絵柄的にもシンプルな描線が象徴させているとおりで、もっとお気楽なノリのマイルドな作品である――それが悪いということではなく――。


 そして、店舗経営も「経営学」といった感じではなく、やや無愛想だったりお喋りだったりする村のオジサンやオバサンなどとも、ムズカしい話はできなくても、表面だけでも仲良くしていよう! あいさつしよう! それだけで彼らも情実にホダされて、良くしてくれることもあるヨ! といった程度の「経営」といった感もなくはない。


 とはいえ、良くも悪くもインテリや趣味人とは異なる、庶民・大衆の人間関係のキモとはそーいったモノなのだ! といった意味では、バカにしてはイケナい「俗世の真理」であるのやもしれない。人見知りな筆者でも、ご近所さまには最低限の愛想やあいさつはふるまおうとも思い直してしまうのだ(汗)。


 とはいえ、第1話において延々と描かれている、学生時代の(ひとり)ボッチ描写がもうね……。


 物事の機微がわかっている一部のオトナたちが、


「アレは人間力には欠けている彼女自身による現実逃避としての勉強や読書への邁進である(大意)」


といった、小バカにするのでもない人物批評がまた、オタク視聴者たちの感情移入を惹起しているのだともいえるのだ。


 そう、ツラいことがあるからといって、全員がヤサぐれてしまうワケではないのだ。半分とはいわず1/3くらいの人間は、ツラいときほどソレをゴマカすためにも勉強や趣味に傾注したりもしている――筆者などもそのクチであった(汗)――。


 解決できることは努力して解決すべきなのだ。しかし、この世には解決できない問題もある。そんなときには取り乱したりしないで、たとえ迂遠でも一面では現実逃避であっても、自分にできることに励んだりして内的な「蓄積」に励んでみせた方がイイ。……といった意味では、「セルフ経営」のことでもあったのだ(笑)。


 ……などといってホメたいところもあるけれど。ややウス味であって、筆者のようなオッサンには物足りないかなぁ。
TVアニメ「新米錬金術師の店舗経営」オリジナルサウンドトラック

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.84(22年12月30日発行))


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聖女の魔力は万能です異世界薬局・新米錬金術師の店舗経営! ~医療・店舗経営まで題材としてしまう、爛熟の異世界ファンタジーアニメ評!
#聖女の魔力は万能です #異世界薬局 #新米錬金術師の店舗経営



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 深夜アニメ『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』1期(20年)が何度目かの再放送開始記念! 同『X(ダブルシャープ)』こと2期(21年)につづいて、2023年12月には『劇場版』も公開記念! とカコつけて……。「悪役令嬢モノ」アニメ『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』1期(20年)・『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』(22年)・『彼女が公爵邸に行った理由』(23年)・『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』(22年)評をアップ!


乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』『彼女が公爵邸に行った理由』『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』 ~悪役令嬢なのに三枚目の善人! そこに女子オタが親近感!? 勃興とともに早くも変化球が隆盛!

(文・T.SATO)

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』

(2020年春アニメ)
(2020年8月11日脱稿)


 少年が異世界異世界風ゲーム世界に転移や転生するパターンはあまたあれども、本作は少女が同様のパターンを遂げるというモノ――少女の転移・転生モノって、昨2019年秋に深夜アニメ化されて2期が2020年春に放映された『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191030/p1)くらいしか思い浮かばないなぁ――。


 女性主人公だから「勇者」以外に転生……などと書いてしまうと今では性差別になってしまうけど(汗)。本作のそれは、女性オタク向けのいわゆる逆ハーレムものである「乙女ゲーム」の中に、主人公女子にイジワルしてくる「悪役令嬢」役として転生してしまったというモノだ(笑)。


 まぁ、ワンアイデアだけの出オチ作品になってしまう可能性も高いのだけど、観てみると実に面白い! 2020年の深夜アニメのベストワンはコレだ! と云いたいくらいだ。


 基本、女性オタ向け作品なのだろうけど、「女子的自己陶酔」や「女子的自己憐憫」は皆無であるスットコドッコイの慌て者でオッチョコチョイの主人公女子は、見た目は紺&白のロングスカートにやや悪人顔の面長な長髪だから、ビジュアル的には人気が出そうにないのに(笑)、それをも上回る「物語の力」というモノよ!


 劇中での異世界の基となった「乙女ゲーム」のシナリオでの「悪役令嬢」の「破滅エンド」を回避すべく、善人となって他人や周囲に対して配慮に配慮を重ねて善行を重ねていく――そのワリにはかなりヌケているところもあるけれど。それがまた、ご愛嬌というのか憎めなさにもつながっていく!――。


 よって、男性が観てもイヤミがなくてサバサバとしており、スンナリとスナオに観られる出来にも昇華! ネット上を徘徊してみても男性オタにも評価が高い!


 そして、2020年春アニメの円盤売上でもダントツで1位を記録し、早々に2期の製作まで決定! いやまぁ、長いモノには巻かれろとか、勝ち馬に乗ってマウントを取りたいメンタルは持ち合わせてはいないけど、実にメデタい!


 ググってみると、本作もまた「小説投稿サイト」出自で、作家は女性! 小バカにされている小説投稿サイトだけれども、バカにされるようなモノではないようにも私見するのだ。
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.77(20年8月15日発行))


『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』

(2022年秋アニメ)
(2022年12月25日脱稿)


 #1の冒頭からいきなりクライマックス! 悪役令嬢でもある主人公が、イタイケな令嬢をカバっていた王子さまから三行半(みくだりはん)を喰らってしまう!


 その衝撃で彼女は思い出す。前世の現代日本で自身がたしなんでいた「乙女ゲーム」の内容と同じであることに!(笑)


 といった導入部で、作品世界のことを実に的確に手早く説明してしまう。そして、そこで取り乱したり憐れみを求めたらば、人間としては二流三流! 愚劣である! といった美意識や自制心もはたらくことで、悔しまぎれでも顔で笑って心で泣いて「お慕いしておりました……」と優雅に王子さまに別れを告げることで、逆説的に王子さまをキュンとさせて、その心を姑息にもツカもうとするのであった……。といったところで、作品世界の何たるかの説明までもができている!


 それでは、王子さまへの再アタックが本作の目標になるのかと思いきや……。この王子さまの実の兄でありながら、突然変異の魔族でもあり、クールなイケメン魔王さまが追いやられていた古城へと出向いて、そこで結婚を申し込む!――ナンでやねん!?――


 彼女いわく、劇中異世界の原典でもある「乙女ゲーム」では、ラストバトルでこの魔王がドラゴン化して彼女を踏みつぶしてしまったことを回避するための策なのであると(笑)。といったところで、彼女はラスボスのイケメン魔王さまに愛情もないのに付きまとう。いずれは両者の間に「抑えた愛情」が芽生えていくのではあろうことはミエミエだけれども(笑)。


 女性オタク界隈で流行(はや)っているという「悪役令嬢」モノ作品が、深夜アニメ化もされた大ヒット作『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(20年。2期が21年)につづいてアニメ化。今後も続々と「悪役令嬢」モノはアニメ化されていきそうだ。


 云ってしまえば、70年代少女マンガや同季2022年秋季の女性オタク向けの深夜アニメ『虫かぶり姫』や『後宮の烏(こうきゅうのからす)』などとは異なり、「自分はそこまで可愛げがないし、媚び媚びとするのは苦手なので、男性には守ってもらえなさそうだ」と直感している女性オタクたちが共感しやすい人物像が「悪役令嬢」という役回りであっても、内実はスットボケたところもあるサバけた善人であって、「破滅エンド」を能動的に回避もしていくような逞しさを併せ持った女性キャラでもあったのだ! といったところなのであろう。


 といっても、金髪ロングにロングドレスの美形美女で、そこまで「悪役令嬢」っぽくはないし、その声も美少女アニメのメイン&サブヒロインを多数演じてきた高橋李依(たかはし・りえ)が演じているので、野郎視聴者でも萌え対象のキャラとしての消費もできるハズである!?


 それはともかく、本作もまたイイ意味でクダラなくて、しかして既成のジャンル作品に対して斜め上から相対化してみせたようなメタフィクション性もあったりして実に面白い!
悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.84(22年12月30日発行))


『彼女が公爵邸に行った理由』

(2023年春アニメ)
(2023年4月26日脱稿)


 女子向け異世界ファンタジー作品である。しかし、「中世」ではなく「近世」といった「異世界」で、「初期資本主義社会」的な「成り金」の新興貴族の令嬢に転生してしまった女子が主人公。その異世界は生前に彼女が読んでいたファンタジー小説とも同一の世界で、しかも悪辣な婚約者に暗殺されてしまう「脇役」への転生でもあったのだ(汗)。そんな運命を回避するために彼女の悪戦苦闘が今はじまる。


 コレだけだと、2020年前後に勃興してきた女子オタ向けの「悪役令嬢」への異世界転生モノの典型だ。しかし……。ググってみると、2016年の韓国の小説が原作なのだと!?


 当地でコミカライズされて、日本ではスマホ漫画で翻訳版が読めていたそうだ――このアニメの製作自体は日本のスタジオで日本人スタッフによるものだったけど――。


 改めて調べると、「悪役令嬢」といわず女子が異世界で社会的なサバイブをする作品の祖型は00年代末期にまでさかのぼり、10年代初頭の小説投稿サイトですでにあまたの作品が登場していたそうだ。


 てってきり本作は、エキセントリックな性格類型である「悪役令嬢」転生モノありきで、それとの差別化として「フツーの常識人の令嬢」に設定した変化球としての作品なのであろうと思いきや……。「悪役令嬢」ならぬ「脇役令嬢」がこれらの作品の原型であった可能性もある!?


 とはいえ、もう少し範囲を広げてみせれば、女子やオタク女子なりの主人公が「異世界転生」または「異世界召喚」されて、複数のイケメン男子にチヤホヤされての逆ハーレム状態。さらに進んで、主人公女子をめぐってイケメン男子たちが争いを始めることで「やめて~、私のために争わないで~」となったところで、女子オタ消費者側での「自尊感情」「萌え感情」を喚起しつつも、「ワタシはそこまで可愛くないし、悪意もわいてくるし……」といったセルフツッコミから、もっとスットコドッコイかつ時に感情も爆発させる三枚目でもある「悪役令嬢」キャラに自身を仮託していくような流れが、このジャンルの大局としてはあったのであろう。


 そういったこともともかく、本作は本作でフツーに面白い! いやまぁ、一般的な美少女キャラ萌えの男性オタクが面白がったり執着するかはともかく(笑)、手広く試しに観てみようと思うようなオタクや偏見のない一般ピープルでも楽しめる、最低限の普遍性はあるとは思うのだ。



 冬の夜のビルの屋上で、浪人までしたのに志望校は全滅して物憂げでいる、スカートではなくズボン姿である黒髪ショート女子。しかし、スマホに追加合格の通知が入る! 喜悦した彼女だったが、その勢いで体のバランスを崩してしまって――誰かに背中を押されて?――ビルから転落してしまう……。といった導入部で、まずは主人公の「境遇説明」「感情移入」「事件の発端」が一挙にすべて描写ができているあたりもウマいのだ。


 転生後はオレンジ髪の長髪にロングドレス姿で、異性に特に媚びてはいないけど、見た目も声質も柔らかで女子力はあるので、いかにもイジワルで小悪党そうな痩身婚約者に対して内心で「チェッ!」と舌打ちをしたり辛辣に人物批評をしている姿を見せてもイヤな感じはしてこない。プレーンな現代少女マンガ絵のキャラデザに対しても、広義での「萌え感情」を喚起できるご同輩であれば「ブヒブヒ」と萌えることもできるだろう(笑)。


 そして、婚約者に婚約を破棄させるために行動に出た! 社交舞踏会の場で見掛けた、低音でも甘いボイスを放つクールでイケメンな公爵(王弟)のあとを付けて、彼に「行方不明の玉璽(王さまの印鑑)の所在を知っている」とウソぶくことで接近し、彼の力を使って婚約を破棄させようともするのだ!


 ……と思ったら、その場に婚約者クンも来てしまって、その彼ともひと悶着(汗)。恨みを募らせている婚約者に危険を感じたのか、イケメン公爵は彼に見張りも付けさせる。しかし、婚約者クンもまた別の青年貴族に脅されたことで婚約者になっていたことまで早々に明かされて……。といったあたりで、ポリティカル(政治的)な駆け引きでも楽しませてくれるのだ。


 やや地味で通好み。悪く云えば、コレ見よがしなツカミには欠けているけど、良作には思えるのだ。
彼女が公爵邸に行った理由

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.85(23年5月3日発行))


『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』

(2022年春アニメ)
(2022年8月7日脱稿)


 「乙女ゲー(ム)」とは女性オタ向けにイケメン男子が多数登場する逆ハーレムなゲームのことだ。本作はそんな女性オタ向けで「女尊男卑」(!)の西欧中世ファンタジー異世界に、女子ならぬ野郎が主役級ではなく端役(笑)として転生してしまって、婚活(!)する作品なのであった!


 2010年代以降、「西欧中世ファンタジー異世界」ならぬ「西欧中世ファンタジー異世界」の「TVゲームの世界」や「ゲーム風の異世界」(笑)に転移・転生する作品が勃興して、今ではソチラの方が多いくらいである。中空に「各種能力数値」や「説明画面」が出現することも、このジャンルのデフォルト(初期設定)ともなっている。


 ハーレムラブコメも「多情多恨な男性の性癖」に特有な願望、男性に特有の宿痾かと思われていたところが、実は女性にも同様の隠された願望があったことが判明して久しい。


 インターネットなご時世なので、すぐにその真相も流布されて衆目の知るところとなって――といっても、オタ間のみでだけど(笑)――、ケーベツという意味ではなしにそーいうモノなのだ! といった認識が急速に広まると同時に、男性向けラノベ・漫画・小説投稿サイトなどでそのことがネタのひとつともされていく。


 劇中の美少女キャラの一部が女性オタだと設定されて、そんな彼女が乙女ゲーやBL(ボーイズ・ラブ。男性同士の同性愛)作品などで欲情・発情している姿を見ることで、それを観賞している男性オタの方でも微量に「ハァハァ」としてきてしまう……といったネジくれた作品構造やキャラクターシフトも定着して久しい。


 さらに加えて2010年代前半からは、女性オタ間では女性主人公が見知っていた「異世界ゲーム世界」へ転生したのに、それが「悪役令嬢」ポジションであったり、とはいえその中身は「善人」なので「バッドエンド」になることを回避すべく努力する喜劇的な作品群が勃興して、「悪役令嬢モノ」なる一大ジャンルを築いてもいる。
 コレらは男性オタでも楽しめる物語的普遍性も有していたので、2020年に『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』がアニメ化されるや大ヒット! 同季の覇権アニメともなっていた――一般社会にも越境・浸透するほどではなかったけど(笑)――。


 本作はコレらの風潮を踏まえて、さらにヒネりを入れている。青年キャラクターがその妹に依頼されて不本意でもクリアを進めていた「乙女ゲー世界」へと異世界転生! しかも、「主役」や「脇役」ではなく「モブ」(その他大勢のエキストラ)であったというモノだ。


 とはいえ、完全にモブな「平民」や「被差別民」に転生するワケでもなく、「貧乏貴族の三男」ではある。彼は初老の女貴族との愛のない政略結婚(汗)を回避すべく、苦労して国家中央の名門学園へと進学する。


 そして、非モテ男子の同級生数名とツルみつつ、身分や財産に基準を置く女性の同級生たちに蔑視されながらも、次第に頭角を現して無双状態!


 というと、なんとなく美しいストーリー展開なのだけど、やはりイイ意味でのB級エンタメであった。前世でプレイしたこのゲーム世界の知識をフル活用した反則ワザゆえでの活躍! 西欧中世風の世界なのに、元は男性向けゲームを作っていたメーカーだったので、この世界の太古には超古代文明が存在し(!)、その超兵器によるドンパチまで描かれていたので、遺跡からは「人間搭乗型のロボット」や「人工知能」も強奪してきて活用!(笑)


 しかし、元のゲームでは平民出身の性格よさげで健気な「主人公ヒロイン」の人生が好転していかない。同級生の「王子さま」や「4大イケメン貴族子弟」も原典通りに本来の「主人公ヒロイン」にはナビいていかない。「主人公ヒロイン」のポジションには見知らぬチビチビのブリっ子な「性悪ヒロイン」がいる!


 そんな彼女の怪しさを見抜いて諫言(かんげん)してみせる、やはり同級生にして王子さまの婚約者・許嫁(いいなづけ)でもある、原典では「悪役令嬢」ポジションであった金髪美女などは、身分差別反対な「王子さま」に疎(うと)まれてすらいる! そんな不遇に追いやられたゆえに「良心」にも目覚めたのか健気で凜々しくもなっていく、ファイルーズ・あいチャンが演じる「悪役令嬢」の金髪美女! といったところで、いま大人気の「悪役令嬢モノ」との接点まで作れているのだ!?


 てなワケで、作家が内発的に作りたいから作って傑作ができたのでもなく、複数のジャンル史を俯瞰(ふかん)して、マーケティングも含めて設定や物語を構築してみせたらば、実に面白い作品に行き着いた! といったところが、本作に対する個人的な整理でもある。
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.83(22年8月13日発行))


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僕の心のヤバイやつ・久保さんは僕を許さない・それでも歩は寄せてくる・阿波連さんははかれない ~ぼっちアニメのようで、女子の方からカマってくれる高木さん系でもあったアニメ4本評!

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 深夜アニメ『僕の心のヤバイやつ』(23年)が完結! 好評につき、2期が来年2024年から放映決定記念!――これは営業トークで、当初から休止を挟んだ分割2クール予定でまとめて1シーズンの作品か?―― とカコつけて……。『僕の心のヤバイやつ』1期(23年)・『久保さんは僕(モブ)を許さない』(23年)・『それでも歩(あゆむ)は寄せてくる』(22年)・『阿波連(あはれん)さんははかれない』(22年)評をアップ!


『僕の心のヤバイやつ』『久保さんは僕を許さない』『それでも歩は寄せてくる』『阿波連さんははかれない』 ~ぼっちアニメのようで、女子の方からカマってくれる高木さん系でもあったアニメ4本評!

(文・T.SATO)

『僕の心のヤバイやつ』1期

(2023年春アニメ)
(2023年4月26日脱稿)


 休み時間の中学の教室で自席に座ったまま『殺人大百科』を読んでいる(ひとり)ボッチの主人公男子中学生の図で開幕。楽しそうな級友。ツラそうな主人公。


 タイトルだけで作品概要もわかるし(?)、鑑賞前から試しに観てみたくなるヒキはある。


 心の中のヤバい想い・不満・劣等感・怒り・破壊衝動。


 肉体弱者・性格弱者・コミュ力弱者である我々オタは、幼少時からそれをウスウス感じつつ、思春期に至ってそれについに直面して絶望したり流したりしつつも、鬱々と過ごしている。


 何の苦労もなさそうで幸福そうだったり、見た目・腕力・話術に優れたリア充な人間たちに嫉妬と憎悪の念を覚えていなくもない。もちろん、その吐露は見苦しいことだとの自覚もあるので、通常はアキラめて死ぬまで黙って墓場まで持っていくダンディズムも持っている。


 とはいえ、底辺でうごめいている自分でも一発逆転して注目や賞賛を浴びて、傷ついてしまった自尊感情を適度な自己愛で癒したい! といった想いも否めない。それらが動機となって、我々オタクもガチンコ対面のコミュニケーションではなくコレクション・知識・文章・絵描きといった二次表現で埋め合わせをして、虚栄心を満たしている側面も否めない――少なくとも筆者はそうである(涙)――。


 けれど、ネット社会ではそういった自己相対視の認識すらもが自覚化されるとアッという間に一般化してしまう!


 昨2022年秋の深夜アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』では、主役少女が仮面ユーチューバーをヤリつつも、衆目を集めてチヤホヤされたい自分をも批判的に省察してしまう客観視ができており、


「承認欲求モンスターになってしまう!」


というセリフがオタク間でも「あるある」的に、完全解脱もできないけど増幅すべきでもない「哀感の笑い」として広く流通している。


 そのあたりを他人よりも先に指摘・言語化して悦に入りたい評論オタクとしては、一般オタクの方がむしろスレた評論オタク化してしまったことで実にヤリづらい世の中になってしまったとも思う(笑)。


 本作もそんな作品になるのかと思いきや……。そこはフェイク的な主人公男子クンへの感情移入のためのフック・引っかかりに過ぎなかった。


 「オレはこんなにも生きづらくて苦しいのに、彼女には何の苦労・劣等感もナイ!」と彼が勝手に憎悪を募らせナイフで切りつけてキズつけてやりたい! と心の中で「敵性生物」認定していた、リア充かつ屈託もなくて女性誌の読者モデルまでも兼業している身長170センチ超の黒髪ロングの美人ヒロイン女子高生!


 そんな彼女との(広義での)「ラブコメ」、女子の方から弱者男子にチョッカイをかけてくれる(広義での)「高木さん系」になっていくのであった(笑)。


 ……タイトル詐欺ではある。しかし、ダマされた! といった感はなく、それはそれで面白い作品にも仕上がっているのだ。


 黒髪ロングのヒロイン女子は弱者男子の心性や内面を理解はしていない。しかし、ルッキズムカースト主義者として周囲や主人公男子クンを見下してくることもない。


 邪気のないバカであり、教室ではなく読書目的でもなく食事目的(笑)で滞在する図書室で、主人公男子クンが振り回されたり空回りしたりする姿をギャグとしている。


 対するに教室では、黒髪ロング女子を中心とした女子生徒数名によるキャッキャウフフを遠巻きに眺めて、内心だけのモノローグで分析したり毒づくだけであり、これは批評的には主人公男子クンの性的不能性を現わしている……。


 ハイ、すいません。最後はこのテの評論めいた文章にはよくある定型句で、心にもないことを自動的に書きたくなってしまいました(汗)。


 ズバ抜けたツカミはないし、本作のような無心で善良なカースト上位女子がこの世にひとりもいないとは云わないけど、超少数派であろうことを思えば、教室空間でのリアルを描いてはいない。


 しかし、この作品ではそうなっている……といったナットクはできる。特に拙いところもなく、ナメらかに観られる愛すべき佳品である。
僕の心のヤバイやつ

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.85(23年5月3日発行))


『久保さんは僕(モブ)を許さない』

(2023年冬アニメ)
(2023年4月26日脱稿)


 「許さない!」と断罪しているワケではなく、「モブ(脇役)のままでいることを許さない」といった意味のタイトルであった。


 いわゆる「高木さん系」。地味な弱者男子クンを女子の方から構ってくれる「高木さん系」は、深夜アニメ化された作品だけでも5本は超えている?


 「オレがオレが!」と会話に割って入るだけの覇気はなく、たとえその気はあっても小声であったり滑舌が悪かったりすれば黙殺またはスルー。
 お勉強ができるだけでもガリ勉クン扱いでカースト劣位におかれるし、運動神経さえあれば同級男女に一目置かれて、それで自信が持てたりしてコミュニケーションの背中も押してくれるけど、それすらなかった少年が本作の主人公である。


 あぁ、過去の自分を見る想いがして、氏にたくなってくる(涙)。


 そんな彼は顔色も悪くて白目が多い三白眼としてキャラデザされている(笑)。


 対するに、誰に対してもやさしくて、控えめな弱者に気付いて彼らをも取りこぼさずに笑顔でフォローや接点を持ってあげようとしてくれる、生来からの博愛的な性格なのであろう、久保サンなる紺色髪ロングの美少女のキャラデザも、いかにもそれらしい性格が表現できていて完成度が高い。それをはんなりとした声質ながら華(はな)もある花澤香菜(はなざわ・かな)が演じることで増幅!


 しかし、その他の「高木さん系」作品と比してしまうと、あまりにも毒っ気や刺激臭がなさすぎるあたりが、この作品の独自性なのだし良さでもあるのだろうけど、下世話な筆者は少々タイクツしてきてしまう(個人の見解です)。
久保さんは僕を許さない
第1話 ヒロイン女子とモブ男子

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.85(23年5月3日発行))


『それでも歩(あゆむ)は寄せてくる』

(2022年夏アニメ)
(2022年8月7日脱稿)


 「歩(あゆむ)」は主人公男子クンの名前のみならず、将棋のコマの「歩」のことをも指す。


 仏頂面で学ラン詰め襟制服の高身長である高校生男子クンが主人公。銀髪左右分けロングの1学年上であるチビチビの上級生女子がヒロイン。


 ふたりだけの将棋部の部室などを舞台に、将棋や何やらをしながら男子クンがモーションを掛けてくる。女子の方ではコラえているのだけど、ついには赤面することで陥落する! といった一連を延々とつづけている深夜アニメなのであった。


 一見は特に志しが高い作品だとも思えないのに、不思議な密度感&緊迫感があって引き込まれてしまう。女子の方からコケティッシュに構ってきてくれるのが、『からかい上手の高木さん』(13年。18年に深夜アニメ化・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210516/p1)に代表される、いわゆる「高木さん系」作品である――『高木さん』自体が本作の原作漫画家が手掛けた作品でもあったけど――。


 もちろん「高木さん」系でも、オボコい男子クンの方が赤面している作品と、自分でモーションを掛けておきながら赤面して自爆してしまう、やはり深夜アニメ化もされた『上野さんは不器用』(15年。18年にアニメ化)のような作品もある。しかし、本作は男子の方からモーションを掛けてきて、女子の方が真っ赤になっているといったあたりで、差別化もできているのだ。


 いやまぁ、もっと引いた視点から、「モーションを掛けている性別」と「赤面している性別」とで2×2=4通りの組合せでの1ジャンルだとしてもイイのだけれども(笑)。


 ただし、互いに好意を持っているのに、テレくさくてソレをスナオに云えないので、「相手に先に告白してもらいたい」という駆け引きが発生しているともいえる。


 そうなると、やはりアニメ化や実写映画化もされた人気マンガで、生徒会室を舞台に生徒会長と女副会長が火花を散らす『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190912/p1)からも着想を得ているのやもしれない……。


 などと云いつつ、作劇的にはそうは云えても、テイスト面ではまるで別モノに感じられるということは、作品の本質が常に作劇術にあるワケでもないということにもなる。
 いやホント、同じ原作マンガ家が手掛けた『高木さん』とは似て非なる別モノであり、二番煎じには見えないのだ。
それでも歩は寄せてくる - シーズン 1

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.83(22年8月13日発行))


『阿波連(あはれん)さんははかれない』

(2022年春アニメ)
(2022年8月7日脱稿)


 「阿波連(あはれん)さん」はこの深夜アニメの銀髪セミロングのメインヒロインのお名前。「はかれない」は距離感&意図が測れないというダブル・ミーニングである。


 阿波連さんはおそらく身長150センチ以下のチビチビ低身長。実にオトナしそうでスローモーな動作で、お目々を見開くことなく表情変化もほとんどない。意志薄弱で他人の会話に割って入る以前で、女子グループに参画しようとする気配すらない。
 そして、ささやきウィスパーボイスどころか、その発話がほとんど聞き取れなくて、ほぼ無音で何も聞こえてこない(笑)。


 即座に連想されて直結するモノでもないけれども強引にカテゴライズすれば、往年の巨大ロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220306/p1)のヒロイン・綾波レイ(あやなみ・れい)や『涼宮ハルヒの憂鬱』(06年)のサブイロイン・長門有希(ながと・ゆき)などの銀髪ショート系のオトナしげな美少女キャラの系譜であり、その隔世遺伝だとの整理も年長オタク的には可能やもしれない。


 と云いたいところだけど多分、女子の方からオボコい男子を構ってくれる『からかい上手の高木さん』(13年。18年に深夜アニメ化)などのいわゆる「高木さん系」こと『上野さんは不器用』(15年。19年にアニメ化)だの『宇崎ちゃんは遊びたい!』(17年。20年にアニメ化)だの『イジらないで、長瀞(ながとろ)さん』(11年。21年にアニメ化)などの変化球としての着想なのであろう。


 基本的には受動的な彼女だが、消しゴムを落として拾ってあげたお礼や、教科書を忘れたので隣席の男子クンに机を寄せるかたちで見せてほしいと依頼するときでも、両眼をキラキラさせたりすることもないので、媚びた感じは皆無である。


 しかし、そのお人形さんのような童顔を男子クンの顔面や耳元にスレスレにまで近づけて、自身の小声を相手に聞こえるように話す際にも、その行為自体を恥じている気配はない。どころか、彼女がいっしょにお弁当を食べようと男子クンを誘ったり、自分のオカズを男子クンに無表情で押しつけてきたりもする。そーいう意味では、男子を広義で構ってくれてもいるのだ(笑)。


 ここで男子クンが繊細ナイーブでキョドって赤面して退いてしまったならば、『上野さん』や『長瀞さん』とも同じである。しかし、この男子クン自体も広義でのコミュ力弱者ではあっても生来の胆力(鈍感力?)で彼も表情に乏しく仏頂面なので、内心の動揺をオモテに出さないポーカーフェイスといった意味では『宇崎ちゃん』が構っている青年主人公クンにも近い。


 この男女キャラの造形によって、根幹では女子の方から接近してきて構ってくれるという、「弱者男子にとっての都合がイイ女子像」という基本構図が潜在しながらも、ソコが露骨に前景化されてこないでカモフラージュ……しきれておらず、弱者男子を威圧・侵害してこないというキャラ造形だけでも充分、弱者男子にとっての擬似恋愛ファンタジーとして成立している(笑)。


 イジワルに見てしまえば、阿波連さんはルックス面では侮られたことがないだろうから、そこには劣等感や引け目は持っていないであろう。むかしから他人との距離感が測れなかったと独白もするけど、それが絶望の域に至っているワケでもない(笑)。


 ゆえに、例えば『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(11年。13年にアニメ化・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190606/p1)の非モテでチビの女子高校生主人公のように、他人や異性と会話することへの過剰な気後れ! といったモノもない。


 しかし、気後れ要素を強調すると自虐的な私小説テイストは醸せても、ラブコメにはなりにくいので、作品批評としてはともかく作劇面では造形が間違っているワケでもない。


 とはいえ、そのかぎりでは主人公の高校生男子クンと窓際の隣席ヒロイン・阿波連さんの両者のキャラ造形・関係性描写は盤石に構築できている。


 この両者の授業中や放課後における日々の些事にすぎない諸々にまつわるリアクションなり男子クン側の脳内主観描写を延々と描いているだけでも間が持てているのだ。


 そこを中核にクラスメイトや旧友や近所の小学生(汗)も交えて、ストーリーの幅や登場する人物像の幅も拡げていく作品になっている。


 といっても、他の高木さん系作品とも同様に、個人的にはそんなに執着はしていないけど(笑)。
阿波連さんははかれない

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.83(22年8月13日発行))


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僕ヤバ・久保さん・それあゆ・阿波連さん ~ぼっちアニメのようで、女子が構ってくれる高木さん系4本評!
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