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ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー ~イマ半か!? 近年のVS映画や往年の戦隊映画と比較考量!

平成スーパー戦隊30年史・序章 ~平成元(1989)年『高速戦隊ターボレンジャー』
『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』前半合評 ~パトレン1号・圭一郎ブレイク!
『4週連続スペシャル スーパー戦隊最強バトル!!』 ~『恐竜戦隊ジュウレンジャー』後日談を観たくなったけど、コレでイイのだろう!?
『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー オリジナルプレミアムドラマ』 ~安易なネット配信の番外編だと侮るなかれ。TV正編のらしさ満載!
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映画『ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー』 ~イマ半か!? 近年のVS映画や往年の戦隊映画と比較考量!

(2019年5月3日(金・祝)・東映系公開)
(文・久保達也)
(2019年6月6日脱稿)

東映ビデオの新たなブランド・「東映V CINEXT」


 2019年2月に惜(お)しまれつつも放映を終了した、スーパー戦隊シリーズ・『快盗戦隊ルパンレンジャーVS(ブイエス)警察戦隊パトレンジャー』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190401/p1)と、その前作・『宇宙戦隊キュウレンジャー』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180310/p1)の世界観をクロスオーバーさせた映画『ルパンレンジャーVS(ブイエス)パトレンジャーVS(ブイエスキュウレンジャー』(19年・東映ビデオ)が、2019年5月3日から3週間の期間限定で公開された。


 本作は東映ビデオが1989年にオリジナルビデオ作品のレーベルとして立ち上げた「東映V CINEMA(ブイ・シネマ)」――2019年で30周年!――を、劇場公開と映像ソフトの発売で展開する新たなブランド・「東映V CINEXT(ブイ・シネクスト)」の一環として製作されたものである。
 「V CINEXT」の第1弾は、先述した『キュウレンジャー』と、かつてのスーパー戦隊メタルヒーローシリーズの世界観をクロスオーバーさせた映画『宇宙戦隊キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』(18年・東映ビデオ)、第2弾は『仮面ライダービルド』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20180513/p1)の2号ライダー・仮面ライダークローズを主役にした『ビルド NEW WORLD(ニュー・ワールド) 仮面ライダークローズ』(19年・東映ビデオ)であり、本作はその第3弾にあたる。
 ちなみに2019年秋公開予定の第4弾は、『仮面ライダービルド』の3号ライダー・仮面ライダーグリスが主役の映画『ビルド NEW WORLD 仮面ライダーグリス』(19年・東映ビデオ)であり、今回の上映後に流された予告編には、子供たちから歓声があがったものだ。


ウルトラマン映画より小さな興行規模(汗)


 この「V CINEXT」は、『スペース・スクワッド ギャバンVSデカレンジャー』(17年・東映ビデオ)や、『仮面ライダーエグゼイド』(16年)の続編三部作・『仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング』(18年・東映ビデオ)など、基本的にはオリジナルビデオ作品として製作されながらも、ハクをつけるためにごく一部の劇場で上映も行った興行形態を継承・発展させたものだが、その当時よりは若干(じゃっかん)劇場の数も増えたとはいえ、やはり興行の規模はかなり小さい。
 とにかく客が入らないとされているウルトラマン映画でさえ、最新映画『劇場版 ウルトラマンルーブ セレクト! 絆(きずな)のクリスタル』(19年・松竹・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190407/p1)の上映館は全国で160館ほどあったのだが、この『ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー』の上映館は、全国でわずか40館弱、つまり、『劇場版ルーブ』の4分の1にも満たない劇場でしか上映されなかったのである。
 私見ではあるが、人気面では『ルーブ』は『ルパパト』や『キュウレンジャー』の4分の1にも満たないかと思われる(爆)。それを思えば、今回の『ルパンVSパトVSキュウ』の興行規模は、やはりあまりにもキャパが小さすぎたのだ。


 筆者はスーパー戦隊仮面ライダーの劇場版を、在住する静岡県静岡市の繁華街(はんかがい)にあるシネシティザートで鑑賞しているが、先述した「V CINEMA」の内、ここで上映されたのは『仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング』のみであり、『スペース・スクワッド ギャバンVSデカレンジャー』も、『宇宙戦隊キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』も、『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』も上映されず、今回の『ルパンVSパトVSキュウ』もまた然(しか)りであった。
 今回は公開がちょうどGW(ゴールデン・ウィーク)の最中、しかも、2019年は改元にともなう特別措置(そち)で10連休となったため、筆者は実家に帰省した際に、愛知県名古屋市の109シネマズ名古屋で観ようと思っていたのだが、なんと公開初日の5月3日から5日までは、1日5回の上映が、すべてネット予約のみで全席売り切れとなってしまったのだ!
 ただでさえ最も収容人員の少ないシアターが割り当てられたうえに、上映劇場のない近隣(きんりん)の岐阜県三重県のファンがそこに殺到することは充分に想定の範囲内だったのだが、109シネマズはネット予約の決済をクレジットカードでしか受け付けていないために、いつもニコニコ現金払い(笑)の主義でカードをいっさい持たない筆者は、どうすることもできなかったのである――ちなみに行きつけのシネシティザートは、ネット予約でも現金払いが可能なので本当に助かっている――。
 連休中に名古屋・栄のオアシス21――特撮オタのOLが主人公のドラマ・『トクサツガガガ』(19年・NHK・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190530/p1)を製作したNHK名古屋放送局のすぐ近くだ――で開催されたイベント・『ゴジラ・ウィーク・ナゴヤ』――あまりにも展示物が少ない、ショボいイベントだった(笑)――に行った5月4日に109シネマズに立ち寄り、すでに残りわずかとなっていた5月6日の初回の席をなんとかおさえることができたが、その時点でパンフレットも各種グッズもすべて売り切れであり、当日はかろうじて入場特典のシールをもらえたのみであった。
 そして、一部大きなお友達もいたとはいえ、あまりに小さなシアターを埋めつくした客のほとんどは、スーパー戦隊のメインターゲットである就学前の幼児を含む家族連れだったのだ。


 周知のとおり、スーパー戦隊の劇場版は2018年以降、それまで毎年1月中旬以降に公開されていた、放映終了間近の現行作品と前作の世界観をクロスオーバーさせ、2月にスタートする最新作のお披露目(ひろめ)の役割も兼ね備えた、いわゆる「VS」映画と、毎年3月下旬の春休みの時期に、仮面ライダーとコラボレーションするかたちで公開されてきた「スーパーヒーロー大戦(たいせん)」シリーズが廃止されてしまった。
 その結果、少なくともマニア間では人気も評価もきわめて高かったにもかかわらず、『ルパパト』の劇場作品は、放映中の2018年8月に公開された映画『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー en film(アン・フィルム)』(18年・東映)ただ1本のみとなってしまっていたのだ。
 これではファンの間で飢餓(きが)感が高まるのは必然であり、今回の『ルパンVSパトVSキュウ』に客がドッと押し寄せ、キャパオーバーとなることは充分に想定できたハズではないのか?


 いや、「V CINEXT」は、本来はスーパー戦隊仮面ライダーのコアなファンに向けた、大人向けのオリジナルビデオ作品のブランドなのですから、子供を連れて観に来られても困ります、なんて云い訳は通用しないだろう。
 『忍風(にんぷう)戦隊ハリケンジャー』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021110/p1)や『特捜戦隊デカレンジャー』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041112/p1)、『炎神(えんじん)戦隊ゴーオンジャー』(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080824/p1)の「10年後」を描いたオリジナルビデオ作品=「10 YEARS AFTER(テン・イヤーズ・アフター)」シリーズは、まだ「V CINEXT」ブランドが立ち上がる前の発売だったため、本当にかぞえるほどの劇場でしか上映されなかったのだが、こうした旧作の続編に関しては、興行規模が小さいのも妥当(だとう)かと思える。
 メタルヒーローシリーズ・『宇宙刑事ギャバン』(82年・東映 テレビ朝日)の続編映画『宇宙刑事ギャバン THE MOVIE(ザ・ムービー)』(12年・東映)や、『人造人間キカイダー』(72年・東映 NET→現テレビ朝日)のリメイク映画『キカイダー REBOOT(リブート)』(14年・東映)を、仮面ライダースーパー戦隊の劇場版と同じ規模で興行しても、我々のような古い世代には魅力的に映っても、若い特撮マニアや子供たちを惹(ひ)きつけることはできず、前者はともかく、後者は大きくコケてしまったのだから(汗)。


 だが、そんな旧作とは違い、『ルパパト』や『キュウレンジャー』は、現在の特撮マニアの大半を占める若い世代や子供たちにとっては、最もなじみ深い作品であり、そんな彼らが夢中のスーパー戦隊の最新作・『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(19年)の中で予告編を流されたら、熱心な視聴者ならば、誰だって観たいと思ってしまうのが必然であろう。
 一般層の家族連れにとっては、今回の『ルパンVSパトVSキュウ』が「V CINEXT」なる興行形態なんてことはいっさい関係なく、従来の「VS」映画が久々に復活した! という程度の認識でしかないだろうから、近年の作品をコラボする場合は、やはりそれ相応の興行規模にしなければ、本来なら観てくれるハズの客層を多数切り捨てることとなってしまい、むしろ損失の方が大きくなるのではなかろうか?
 実際少なくとも名古屋では大入り満員でも、ウルトラマン映画ですらランクインするミニシアターランキングでも圏外(けんがい)であり、ネットでググっても本作に対するコメントがブログやツイッターなどでもあまり出てこないほどであり、これでは口コミで客を呼ぶことも期待できないのである。


*「VS」映画としての達成度は?


 これは興行面ばかりでなく、内容面についても同じことがいえる。所詮(しょせん)は一部の熱心な視聴層に向けたファンムービーとして製作されてきた、従来のオリジナルビデオ作品であれば、リスペクトたっぷりのマニアックで内輪ウケの強い描写にあふれるばかりで、スーパー戦隊の大きな魅力であるハズの、合体ロボVS巨大怪人のバトルも描かれないほどに、ヒーローバトルのカタルシスに著(いちじる)しく欠ける内容であっても、個人的にはさほど問題視はしなかった――ホントにそうか?(笑)――。
 だが、あくまでハクをつけるために一部の劇場でのみ上映していたころに比べれば、「V CINEXT」の立ち上げにより、コアなマニア以外にも多くの目に触れることとなった以上、いくらオリジナルビデオ作品とはいえ、ファンムービーとしての要素を少々おさえてでも、スーパー戦隊の本来のメインターゲットである子供たちを、惹(ひ)いて離さない内容にシフトしていくべきかと思えるのだ。
 ルパンレンジャー、パトレンジャー、ルパンエックス=パトレンエックス、キュウレンジャー、そして意外や意外、『動物戦隊ジュウオウジャー』(16年)のジュウオウザワールド=門藤操(もんどう・みさお)までもが加わった、総勢20人(!)のスーパー戦隊が次々と名乗りをあげるクライマックスは確かに圧巻だったのだが、そこに至るまでの展開で、印象に残るアクション演出や特撮場面が、個人的にはあまりにも少なかったというのが正直な感想である。


 端的な例でいえば、『キュウレンジャー』のバランス=テンビンゴールド以外の、ガル=オオカミブルー、チャンプ=オウシブラック、ラプター283=ワシピンク、ショウ・ロンポー=リュウコマンダーといった着ぐるみキャラが、クライマックスまで出てこなかったのが、実に象徴的かと思えるのだ。
 顔出しの役者と違ってスーツアクターはスケジュール調整が難しいワケでもなく、声優はギャラも安くおさえられる(汗)のだから、これらの着ぐるみキャラを冒頭から頻繁(ひんぱん)に出すだけで、子供たちの反応はずいぶんと違うものになったかと思えるのだが、あえてそれをしなかったのは、やはり「V CINEXT」として、スタッフがやりたいことは別のところにあったと解釈すべきなのだろう。
 まぁ、そんな中でもサプライズで登場した『爆竜戦隊アバレンジャー』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110613/p1)のマスコットキャラ怪人・ヤツデンワニは、今の若いマニア的にはリアルタイムで親しんだキャラであろうから、この演出は実に的確で好印象を持ったのだけれど。


*視聴対象の違いによる差別化演出とは?


 ただ、「V CINEXT」の第1弾として、『キュウレンジャー』のメインライターだった毛利亘宏(もうり・のぶひろ)が脚本を務め、坂本浩一監督がメガホンをとった『キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』は、キュウレンジャーが二手にわかれて対立したり、先述した『宇宙刑事ギャバン』や『宇宙刑事シャイダー』(84年・東映 テレビ朝日)、『世界忍者戦ジライヤ』(88年・東映 テレビ朝日)といった、往年のメタルヒーローの二代目たちに加え、かつてのスーパー戦隊メタルヒーローシリーズの悪役たちまでもが登場したほど、サプライズ感満点だったし、それらの乱戦が繰り返される展開には、子供たちの反応もすこぶるよかったものだったが。
 ましてや2019年度は『騎士竜戦隊リュウソウジャー』が放映される前に、32組ものスーパー戦隊がトーナメント戦を繰りひろげた『4週連続スペシャル スーパー戦隊最強バトル!!』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190406/p1)と題した、やはり坂本監督による前代未聞(ぜんだいみもん)のスペシャル企画が地上波で放映されただけに、やはり劇場版にはそれ以上のものを求めてしまうのが人情というものだろう(笑)。


 なお、坂本監督は『キュウレンジャー』の放映中に発売されたオリジナルビデオ作品・『宇宙戦隊キュウレンジャー Episode of(エピソード・オブ) スティンガー』(17年・東映ビデオ)も担当したが、これは坂本監督の作品とは思えないほどに、画面も作風もやたらと暗さがめだつ、少々陰鬱(いんうつ)な作品であり、かなり過激なバイオレンス描写も散見されたものだった。
 ただ、スティンガー=サソリオレンジがプロモーションビデオ風に歌う描写があったり、敵ヒロインとの悲恋(ひれん)が描かれたほどに、これはあくまでスティンガーのファンムービーとして、坂本監督が完全に振り切った演出によるものだったのだ。なんせ片手の指で足りるほどの劇場でしか上映はなかったのだから、子供の目線を意識する必要はなかったのである。
 これとは対照的に、「V CINEXT」として上映館の数が増えた『キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』や、テレビ放映の『スーパー戦隊最強バトル!!』、つまり、多くの子供たちが目にする作品では、坂本監督は本来のオリジナルビデオ作品やネット配信ドラマ、深夜枠で放映されるドラマなどとは明確に差別化した、サービス精神旺盛(おうせい)な演出に徹するのだ。
 ちなみに『キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』は、先述した過去のスーパー戦隊メタルヒーローシリーズの悪役たちの登場が、企画段階で一度はずされそうになったのだが、坂本監督の強い要望で残されることになったというエピソードが、『宇宙戦隊キュウレンジャー 公式完全読本』(ホビージャパン・18年9月20日発行)に記載されているが、観客や視聴者がこうしたヒーロー競演ものに求めている要素を完全に把握(はあく)した、坂本監督らしい話であるだろう。


 今回の『ルパンVSパトVSキュウ』の脚本を務めたのは、坂本監督とコンビを組んで、先述した『ギャバンVSデカレンジャー』や『スーパー戦隊最強バトル!!』を手がけた、大ベテランの荒川稔久(あらかわ・なるひさ)だが、氏は自身が深く関わった90年代から00年代の作品の続編や、それらに登場したヒーローたちの競演ものではリスペクトたっぷりの良い仕事をするにもかかわらず、『海賊戦隊ゴーカイジャー』(11年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111107/p1)のメインライターを最後に、2010年代はスーパー戦隊を年に数本しか書かなくなったために、今回メインの戦隊にはモチベーションも愛着もわかなかったのか、ユルユル感が全体的にめだっていたが、これはいかにもマニアあがりならではの悪いクセではないのかと。
 いや、ルパンイエロー・パトレン3号・カメレオングリーン・ワシピンクが、クライマックスバトルで共闘する最中、「女子会」みたい(笑)であるとして、『ルパパト』のシェフ・宵町透真(よいまち・とおま)=ルパンブルーと、『キュウレンジャー』のシェフ・スパーダ=カジキイエローの料理を囲む「女子会」を夢想してしまう、なんてノリは、個人的にも大スキだし、母親層にもウケる描写かと思えるのだ。
 ただ、あれほど『ルパパト』で魅力的に描かれた登場キャラの良さが、今回の『ルパンVSパトVSキュウ』ではあまり感じられなかったというか、特にルパンイエロー=早見初美花(はやみ・うみか)とパトレン3号=明神(みょうじん)つかさの姿が、この「女子会」の場面くらいしか印象に残らないというのは……(笑)


*続編なら時系列を明確にすべし!


 もうひとつ本作で気になるのは、今回は時系列的には『ルパパト』が1年間に渡って放映された世界観の中の「どこか」で起きた事件という設定であり、『ルパパト』のいわゆる後日談ではないことだ。
 敵組織・ギャングラーが完全には壊滅することなく、いまだ残党の怪人が暴れつづけ、そのギャングラーからお宝のルパンコレクションを奪うために、それぞれの大事な人を取り戻したにもかかわらず、いまだに快盗をつづけるルパンレンジャーと、それを阻止しようとするパトレンジャーが、現在進行形で対立する図式を示すかたちで『ルパパト』は幕を閉じたのだから、その両者の関係性が、果たしてどのように進展・変化を遂(と)げているのか、多くの観客が観たかったのは、やはりその部分なのではあるまいか?
 これまでの慣例からしても、毎年6月になると2月に終了したスーパー戦隊の「その後」を描く続編的内容のオリジナルビデオ作品がリリースされてきただけに、これには肩透(す)かしを食らったとの感想も多いことだろう。


 また、近年では仮面ライダーの劇場版も、「第○話と第○話との間」に起きた出来事として、番外編ではなく、テレビシリーズと完全に連動する世界観であることを強調し、登場キャラやセリフ・描写などを共有する演出によって双方を関連づける手法により、視聴者を劇場へと誘導することに成功している。
 先述した『スペース・スクワッド ギャバンVSデカレンジャー』は、『宇宙戦隊キュウレンジャー』SPACE(スペース)18『緊急出動! スペースヒーロー!』放映の約1ヶ月後のリリースだったため、このSPACE18は宇宙刑事ギャバンと『特捜戦隊デカレンジャー』のメンバーがゲスト出演してキュウレンジャーと競演する、宣伝的意味合いを持つ内容となっていた。
 そして、『宇宙戦隊キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』は、前作『ギャバンVSデカレンジャー』の続編であるばかりではなく、『キュウレンジャー』SPACE18の場面を回想として流用したり、セリフを再現することで、『キュウレンジャー』の正規の続編でもあることが強調されていたのだ。


 すでに放映を終了したシリーズの、それも時系列がハッキリしない「どこか」(笑)で起きた出来事だとか、『スペース・スクワッド』シリーズと関連づけて描かれてきた『キュウレンジャー』のメンバーがせっかくメインで登場するのに、往年のスーパー戦隊メタルヒーローとの競演が描かれないのでは、これまでの作品群とのつながりが非常に弱く感じられ、特に子供たちに対しては、スーパー戦隊を追いつづける興味・関心を薄くしてしまい、「子供番組」からの卒業を誘発するように思えるのだ。
 いっそのこと、『ルパパト』の「どこか」ではなく、放映中の『騎士竜戦隊リュウソウジャー』の「第○話と第○話との間」に起きた出来事であるとして、『ルパンVSパトVSキュウ』公開の前後に放映される回に、全員でなくてもいいから主なメンツをゲスト出演させるとか、『ルパンVSパトVSキュウ』にリュウソウジャーを出すことで、スーパー戦隊がすべてつながった「ひとつの世界」であることを、子供たちに示すべきではなかったか?


*今後の「VS」の興行をどうすべきか?


 今回の『ルパンVSパトVSキュウ』は、大変失礼ながら、従来ファミリー向けに公開されてきた映画・「VS」シリーズと、熱心なファンに向けて製作されてきた、スーパー戦隊のオリジナルビデオ作品という、これまでうまく住み分けができていた両者を、狭くて小さな家に無理やり同居させることの限界が露呈しているように思えたものだ。
 種々の事情により、「VS」シリーズをかつての興行規模で公開するのは困難であるのかもしれないが、それをオリジナルビデオ作品として製作し、かつ一応は多くの子供の目に触れるかたちで興行するのであれば、もう少し子供の目線を意識した、特撮やアクションを前面に押しだした作風にすべきではなかろうか?
 いや、「VS」シリーズは、2019年のGWの興行で30年ぶりにその名称が復活した『東映まんがまつり』(!)のメインプログラムに据(す)えることで、「V CINEXT」のように上映がない地域の子供たちを失望させることなく、日本中の子供たちに観てもらえるようにすべきだと、個人的には代案としてあげたいのである。


 東映動画(現・東映アニメーション)製作の長編アニメ映画と、実写のヒーロー作品やテレビアニメ数本をまとめて上映する、1960年代半ばから興行された東映の子供向け週間は、1969年夏以降、「東映まんがまつり」なる呼称が定着し、「昭和」の仮面ライダースーパー戦隊メタルヒーローなどの劇場版はそこで上映されていた。
 だが、元号が「平成」に入った翌年の1990年、この「東映まんがまつり」は「東映アニメフェア」と名称を変更して、東映動画製作のテレビアニメの劇場用新作のみを上映することとなり、以後特撮ヒーロー作品の劇場版は排除されたのだ。
 ゆえに『地球戦隊ファイブマン』(90年)、『鳥人戦隊ジェットマン』(91年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110905/p1)、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(92年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120220/p1)の劇場版は、製作されずに終わってしまった。この当時は『高速戦隊ターボレンジャー』(89年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191014/p1)が放映途中で従来の土曜18時から金曜17時30分へと「左遷(させん)」され、時間枠も30分から25分(!)に短縮となっていただけに、このリストラの連打は製作現場の士気にも強く影響したことかと思われる。
 世間がバブル景気で最も浮かれていた90年前後は、逆にスーパー戦隊が最も苦境に立たされていた時代だったのだが、これは筆者にとっては「平成」を実に象徴する事象であったように思える。89年夏に連続幼女誘拐殺人事件の犯人として逮捕された男が「特撮マニア」だったことも、これと決して無縁ではなかったのかもしれない。


 そして1993年、映画『仮面ライダーZO(ゼット・オー)』(93年・東映)と『五星(ごせい)戦隊ダイレンジャー』(93年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111010/p1)・『特捜ロボ ジャンパーソン』(93年・東映 テレビ朝日)を併映した「東映スーパーヒーローフェア」なる興行が設けられ、1994年の映画『仮面ライダーJ(ジェイ)』(94年・東映)・『忍者戦隊カクレンジャー』(94年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120109/p1)・『ブルースワット』(94年・東映 テレビ朝日)、1995年の映画『人造人間ハカイダー』(95年・東映)・『超力戦隊オーレンジャー』(95年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110926/p1)・『重甲ビーファイター』(95年・東映 テレビ朝日)と、以後3年に渡り、長編ヒーロー映画とスーパー戦隊メタルヒーローの劇場用新作を3本立てで上映するかたちでつづいたが、興行的な不振のためかそこで打ち切りとなり、映画『百獣戦隊ガオレンジャー 火の山、吼(ほ)える!』(01年・東映http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011112/p1)で復活を遂(と)げるまで、90年代後半にはスーパー戦隊の劇場版は、いっさい製作されることはなかったのだ――ちなみに90年代後半といえば、当時の特撮マニアの間では平成ウルトラマン三部作(96~98年・https://katoku99.hatenablog.com/archive/category/%E5%B9%B3%E6%88%90%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%A9)や、怪獣映画・「平成」ガメラシリーズ(95~99年・角川大映)が大絶賛されていたころでもあり、スーパー戦隊はそれらよりも一段低いものとされ、「平成」仮面ライダーもまだ放映されてはいなかった――。


 現在の日本特撮におけるスーパー戦隊の立ち位置からすれば、この事実は若い世代には実に意外に思えるだろうが、「VS映画」、そして「スーパーヒーロー大戦」の「リストラ」を、筆者は「東映まんがまつり」から特撮ヒーロー作品が排除されたこととつい同一視してしまい、90年代と同様に、再度スーパー戦隊苦難の時代が到来するのではないのか? と、危惧(きぐ)するものがあるのだ。
 また、「東映スーパーヒーローフェア」すらも終了したことで、劇場での居場所を失った90年代後半のスーパー戦隊が、その代わりに住むことができたのがオリジナルビデオ作品だったのだが、『超力戦隊オーレンジャー オーレVS(たい)カクレンジャー』(96年・東映ビデオ)』から『百獣戦隊ガオレンジャーVS(たい)スーパー戦隊』(01年・東映ビデオ・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011102/p1)に至るまで、『救急戦隊ゴーゴーファイブ 激突! 新たなる超戦士』(99年・東映ビデオ)を除き、それらはすべて現行のスーパー戦隊と前作のスーパー戦隊が競演する「VS」ものだったのであり、元々スーパー戦隊のオリジナルビデオは、決して一部の熱心なファンのみに向けられたものではなかったのだ。
 これらの経緯を振り返れば、今後のスーパー戦隊の劇場作品、そして「V CINEXT」が、スーパー戦隊を未来永劫(えいごう)存続させるために進むべき道は、すでに見えているのではなかろうか?


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2019年晩夏号』(19年8月25日発行)所収『ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー』合評2より抜粋)


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快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー オリジナルプレミアムドラマ ~安易なネット配信の番外編だと侮るなかれ。TV正編のらしさ満載!

(2019年10月13日(日)UP)
平成スーパー戦隊30年史・序章 ~平成元(1989)年『高速戦隊ターボレンジャー』
『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』前半合評 ~パトレン1号・圭一郎ブレイク!
『ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー』 ~イマ半か!? 近年のVS映画や往年の戦隊映画と比較考量!
『4週連続スペシャル スーパー戦隊最強バトル!!』 ~『恐竜戦隊ジュウレンジャー』後日談を観たくなったけど、コレでイイのだろう!?
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『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー オリジナルプレミアムドラマ』 ~安易なネット配信の番外編だと侮るなかれ。TV正編のらしさ満載!

東映ビデオ・2019年2月6日発売)


(文・久保達也)
(19年5月12日脱稿)


 『快盗戦隊ルパンレンジャーVS(ブイエス)警察戦隊パトレンジャー』(18年)の劇場版・映画『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー en film(アン・フィルム)』(18年・東映)が公開された2018年8月4日、および翌週の8月11日に前後編形式で配信されたネットムービー、


・『快盗戦隊ルパンレンジャー+(プラス)警察戦隊パトレンジャー 究極の変合体!』(18年・au(エーユー)ビデオパス)


・『警察戦隊パトレンジャー Feat.(フィーチャリング) 快盗戦隊ルパンレンジャー もう一人(ひとり)のパトレン2号』(18年・東映特撮ファンクラブ)


の2本が映像ソフトとしてカップリングされ、『ルパパト』最終回のオンエアを直後に控えた2019年2月6日に東映ビデオから発売された。


 若い世代のマニアたちは、こうしたネットムービーをフツーに楽しんでいるのであろうが、「昭和」生まれのアナログ世代である筆者のような中年オヤジにはなじみがないものであり、正直登録や視聴の方法もいまだによくわかっていない(汗)。
 なので、今回の映像ソフトのリリース、しかも従来の東映ビデオのオリジナルビデオ作品とほぼ同じ60分強の収録時間の割にはかなりの低価格――ブルーレイが3800円、DVDは2800円。Amazon(アマゾン)で買えば25%オフ(笑)――のため、テレビシリーズの終了でいまだに『ルパパト』ロス(笑)に陥(おちい)っている筆者としては、手を出さずにはいられなかったのだ。


*『快盗戦隊ルパンレンジャー+警察戦隊パトレンジャー 究極の変合体!』


 敵組織・ギャングラーの磁力を武器にする怪人マグーダ・ポーンによって、ルパンレッドとパトレン1号が磁石のようにくっついて離れなくなったことで巻き起こる騒動を描いた、完全なドタバタコメディであり、テレビシリーズの『ルパパト』の魅力のひとつであった、多数のキャラのさまざまな思惑が複雑に交錯する群像劇といった趣(おもむき)とはほど遠い内容だ(笑)。
 だが、『ルパパト』を知らない人でさえも、前後編あわせて約30分のコレを観るだけで、おおよその雰囲気をつかむことができるのではないかと思えるほど、『ルパパト』の作風・世界観を絶妙なまでに凝縮(ぎょうしゅく)した、冴(さ)え渡る本編&アクション演出は実に秀逸(しゅういつ)である。


 導入部ではマグーダ・ポーンが戦闘員のポーダマンを従え、銀行強盗を働いているが、多数のシャンデリアに照らされた社交場のようなギャングラーのアジトにて、幹部怪人のデストラとゴーシュが、マグーダは先述した映画『en film』に登場した怪人・ウィルソンの指示でカネを集めているのだ、と語る場面があり、ラストではそのウィルソンまでもが登場するのだ。
 また、国際警察日本支部では高尾ノエル=パトレンエックス=ルパンエックスが、やはり『en film』にイギリスの名探偵として登場するも、その正体はウィルソンとコンビを組む怪人だったエルロック・ショルメが、近々来日するという情報をつかむ場面があり、本作が映画の前日譚(たん)であることを強調して集客につなげようとする演出は、さすがは商売上手の東映といったところか。
 ただ、映画でエルロックの人間態である名探偵を演じたお笑いコンビ・ココリコの田中直樹の姿は、ノエルが観るモニターでは口元しか映らず、これはギャラが発生するのを避けるためだろう(笑)。


 マグーダが暴れる銀行内に、テレビシリーズで定番だったスウィング・ジャズ風のテーマ音楽が流れる中、シルクハットにアイマスクを着用した快盗ファッションに身を包む、夜野魁利(やの・かいり)=ルパンレッド、宵町透真(よいまち・とおま)=ルパンブルー、早見初美花(はやみ・うみか)=ルパンイエローが現れ、3人が怪人に向けてひとことづつ放つ口元のみを、黒バックを背景にして順にアップで映しだし、魁利による「世間を騒がす怪盗さ」のキメゼリフと同時に、銃を構える3人の姿があらわになる華(はな)にあふれる演出。
 銃型の変身アイテム・VSチェンジャーを発砲して「快盗チェンジ!」と変身するや、各自がポーダマンを組み伏せながら名乗りをあげ、銀行を飛び出すやバック転・宙返り・足払いをはじめ、カンフーアクションの魅力をも兼ね備えたSF映画『マトリックス』(99年・アメリカ)で描かれたような、宙を大股(おおまた)開きで側転をかますといった映像表現をも彷彿(ほうふつ)とさせる、アクロバティックなアクションを繰りだすルパンレンジャー!
 こうしたエレガントかつスタイリッシュなカッコよさこそが、ルパンレンジャー最大の魅力であるだろう。
 専用車で駆けつけ、「警察チェンジ!」で変身したパトレンジャーもそこに乱入、商業施設の連絡通路で繰りひろげられるバトルを、カメラが上空から俯瞰(ふかん)しながら、そのまま階下でのバトルへとワンカットで移動、そこに発砲の残像や火花・炎の効果が描かれる、実に立体的で臨場感満点のアクション演出もまた然(しか)りだ。


 ここまではいつもの『ルパパト』のカッコよさが描かれるが、先述したようにマグーダの磁力光線を浴びたルパンレッドとパトレン1号は、背中合わせの状態で離れなくなってしまい、あとはコミカルモード全開となっていく。
 パトレン1号=朝加圭一郎(あさか・けいいちろう)=圭ちゃんが、「昭和」の名作刑事ドラマ・『太陽にほえろ!』(72~86年・東宝 日本テレビ)で、故・松田優作が演じたジーパン刑事の断末魔のように、「なんじゃぁこりゃぁ~~!!」と絶叫するさまを俯瞰してカメラが青空へとパン、そこにタイトルが挿入(そうにゅう)される演出は、コミカルさを強調しつつも、やはりいつもの『ルパパト』らしさをも感じさせてくれるものだろう。


 また、本作は時間軸的には先述した映画『en film』で、ウィルソンによって異世界へと幽閉された圭ちゃんと魁利が、一時休戦して共闘関係を組む前の話であり、ふたりの関係性は、テレビシリーズ第30話『ふたりは旅行中』で、夏休みの温泉旅行を装って隠密(おんみつ)捜査に出た圭ちゃんに、ノエルの依頼で同行した魁利が、ギャングラーの幹部怪人・ザミーゴによって行方不明となった兄・勝利と圭ちゃんを、次第に重ね合わせるようになる以前のものなのだ。
 したがって本作では魁利は圭ちゃんを「圭ちゃん」ではなく、終始「熱血おまわり」と呼んでおり、テレビシリーズ終盤にて兄弟のような関係へと至った魁利と圭ちゃんではなく、まだ完全に互いが敵意むきだしであり、離れようと必死になるさまが、より視聴者の笑いを誘うこととなっている。


 ルパンブルー&ルパンイエローと、パトレン2号&3号が双方からひっぱっても、ルパンレッドとパトレン1号を引き離すことができないほど、その磁力は強力であり、やむなくルパンブルーとルパンイエローはパトレン1号が背中にくっついたままのルパンレッドを、アジトのビストロ・ジュレへと連れ去ることに。
 ルパンレンジャーとしての正体を圭ちゃんに知られないために、透真と初美花によってさるぐつわに目隠し、耳にはヘッドホンまであてられた圭ちゃんは暴れまくるが、なんとか目隠しと口の束縛(そくばく)から解放された圭ちゃんは、「誰かいないかぁ~~!! ここに快盗がいるぞぉ~~!!」と絶叫する(笑)。
 近所に気づかれたらかなわんとばかりに、魁利は圭ちゃんを背負ったまま外に飛び出していくが、ギャングラー出現の通報で現地に急行する陽川咲也(ひかわ・さくや)=パトレン2号と明神(みょうじん)つかさ=パトレン3号を乗せた国際警察の専用車を見かけた圭ちゃんは、今度は逆に魁利を背負ったまま、そのあとを全速力で追いかけていく(爆)。
 ツンデレでややヤンキーチックな魁利、ひたすらアツ苦しい圭ちゃんと、まさに水と油であるふたりの体をはったコテコテ演技がサイコーに楽しいが、これがあるからこそ、マグーダがアジトとする廃工場に現れた、快盗姿の透真と初美花が、スポットライトを背景に銃を向けながら静かにマグーダに迫ったり、咲也とつかさが工場内に突撃してくるカッコよさが、より際(きわ)だつというものだ。


 廃工場で繰りひろげられるルパンレンジャーVSパトレンジャーVSギャングラーの乱戦模様がカッコいいだけに、そこに魁利を背負ったままの圭ちゃんがドタドタと割って入ってくるのは、完全に場違いという感すらある(笑)。
 それでも背中合わせのまま、共通するアイテムのVSチェンジャーで同時に変身をとげる魁利と圭ちゃんに、ルパンレッド&パトレン1号のスーツが装着されるカットはカッコいいのだが、やはり背中がくっついたままの両者がむやみやたらとギャングラー一味に発砲することで、工場内は炎の海に包まれてしまう。
 この場面自体はコミカルなのだが、CGではなく火薬を使用することで、ルパンレンジャー&パトレンジャーが最大の危機に陥(おちい)っている印象をも感じさせてくれる演出は秀逸だ。
 さらにブチギレたマグーダが再度磁力を発動させることにより、今度はルパンブルー・ルパンイエロー・パトレン2号・パトレン3号の4人がくっついてしまい、その変身も解除されてしまう!
 4人が「なんじゃぁこりゃぁ~~!!」と絶叫するさまを俯瞰して前編が終了となる、まさに係り結び的な演出も実に見事だ(笑)。


 自身もまだパトレン1号とくっついたままなのに、くっついた4人を「ちょ~笑える」と、現状認識ができていないばかりか、自身の無謀(むぼう)な行動が4人を危機に陥(おとしい)れたことをまるでわかっていないルパンレッド、そんなレッドを真剣にどやしつけるパトレン1号と、こんなコミカルな場面でも両者を対比的に描くことで、しっかりとキャラを掘り下げているのは、まさに『ルパパト』ならではのものだろう。
 おまえがでしゃばるから、いや、おまえが邪魔するからなどと、互いに責任を転嫁(てんか)する魁利と圭ちゃんに、すっかりあきれかえってしまったノエルは、今回は僕ひとりで解決すると主張するが、これに反発した魁利と圭ちゃんは、やはりくっついたままでマグーダのあとを追う。
 ここで一計を案じた魁利は、圭ちゃんを通りかかった建物の入り口の柱に縛(しば)らせ、VSビークルの推進力で自身をロープでひっぱりあげてもらうことで、見事圭ちゃんと分離することに成功する!
 VSビークルにひっぱられて空を舞う魁利を俯瞰する立体的なカットがまた実に臨場感にあふれているのだが、「ご協力、ありがちゅ~~」と去っていく魁利に、一瞬の間を置いたあと、「しまった……だまされたぁ~!!」と地団駄(じたんだ)を踏んでくやしがる圭ちゃんの姿が最高に笑えるものの、これはテレビシリーズ中盤くらいまでの魁利と圭ちゃんの関係性を、最大に象徴する描写だといえるだろう。


 そうしている間にも、透真・初美花・つかさには、最大の危機が迫っていた! 3人にくっついている咲也が、「トイレに行きたい」(笑)と云いだしたのだ。
 透真が咲也に「ここでしたら殺す」(爆)と冷徹に云い放つのが「らしさ」を感じられるだけに、その危機感がより強調されているのだが、4人を分離させるにはマグーダを倒さねばならないものの、周知のとおり、『ルパパト』ではギャングラー怪人を倒す前に、ルパンレンジャーが大事な人を取り戻すという願いをかなえるための、ルパンコレクションを怪人から回収せねばならず、それらを早急に解決せねば、咲也が透真・初美花・つかさを巻きこむかたちで小便をもらしてしまう、史上最大の危機(大爆)に見舞われるのだ!
 クライマックスバトルに緊迫感を与えるためとはいえ、もう、なんつーか……(笑)


 これとは一転、マグーダに孤軍奮闘するパトレンエックスのアクロバティックなアクションもさることながら、ポーダマンたちの発砲でロケ地のテラスの天井や壁に弾痕(だんこん)が、周囲に炎や火花が描かれるCG演出が華を添えてくれる。
 さらにVSビークルにロープでひっぱられながら魁利が空で変身、そのまま画面手前をかすめるように、ルパンレッドがターンしてすべりこみ、着地するやCGからスーツを着用したアクターに瞬時に切り替わっているのはあまりにもあざやか! レッドが指を慣らして名乗りをあげるのも実にカッコいい!
 もっともこれにつづいて咲也が「限界です!」と叫び、透真・初美花・つかさが画面3分割で悲鳴をあげたり、パトレン1号が縛られていた柱を両腕でかかえたまま、銃を構えてラストバトルの舞台に現れ、ルパンレッドが「火事場のバカ力かよ」(笑)とボヤいたりと、最後まで両極端な演出が交互に繰り返される展開となっている。
 だが、ノエルがパトレンエックスからルパンエックスにチェンジしてコレクションを奪い、ルパンレッドとパトレン1号が磁力でひき寄せられるのを利用して双方からマグーダに突撃、剣で斬りつけてとどめを刺すといった連携(れんけい)プレーが、実にあざやかだったことは確かだ。
 3人の活躍で透真・初美花・つかさ・咲也はようやく分離、咲也は全速力で外に駆けだしていくのだった(笑)。


 初美花に恋焦(こ)がれていた咲也が、ジュレを舞台にしたラストにて、「あの快盗の女の子、いい匂(にお)いがした」と発言、初美花が手がすべったとして咲也に水をぶっかけるに至るまで、全編ネットムービーというよりは、むしろ講談社『テレビマガジン』や小学館『てれびくん』といった幼年誌の愛読者全員サービスDVDのノリにかなり近い趣だ。
 ただ、ぶっちゃけドラマ的には極めてユルユルで、ひたすら見せ場を充実させた明るいノリの、本来の視聴層である子供たちこそが大喜びしそうなこうした作品が、ネットムービーとして配信され、それが大ウケしてしまう現状には、やはり古い世代としては、隔世の感をおぼえずにはいられないのである。


*『警察戦隊パトレンジャーFeat.快盗戦隊ルパンレンジャー もう一人のパトレン2号』


 さてこちらはテレビシリーズ第43話『帰ってきた男』&第44話『見つけた真実』に登場した、戦力部隊結成当時に国際警察に所属し、本来ならパトレン2号となるハズだった東雲悟(しののめ・さとる)について、前編の大半を使ってつかさが回想するかたちで語られ、後編では悟の後任としてパトレン2号となり、悟の想いを継承した咲也の奮闘ぶりが描かれる。
 タイトルに「Feat.」とあるように、実はこちらでは魁利・透真・初美花がいっさいルパンレンジャーに変身しないどころか、3人はジュレの買い出しの帰り道に、公園のベンチでひとりたたずむ圭ちゃんを見かける場面と、ラストシーンに登場するのみであり、完全にパトレンジャーが主役の話となっているのだ。
 当初製作側はルパンレンジャーの方が圧倒的に人気が出ると想定していたようだが、いざ放映が始まるや、子供たちの反応はともかく、「圭ちゃん」がネットのHOT(ホット)ワードと化したほど、少なくとも大人の視聴者の間では、パトレンジャーの方が断然人気を得ることとなった。
 『もう一人のパトレン2号』が製作され、ネットムービーとして配信された背景には、やはりパトレンジャーが想定外の人気を得たことが大きかったのではあるまいか?


 つかさの後輩である咲也が2号で、先輩のつかさが3号なのはナゼ? と、『ルパパト』の視聴者であれば誰もが疑問に思ったことであろうが、ノエルが咲也に異様に顔を近づけ、まじまじと見つめたうえでその疑問をぶつけ、咲也が困惑するところから本作は開幕する。
 そこにギャングラー出現の通報が入り、パトレンジャーは現地に急行するが、怪人の姿を見た途端、圭ちゃんはナゼか冷静さを失い、パトレン1号に変身して怪人に怒りをぶつけまくった。
 だが怪人にはかなわず、勝ち誇った笑いをあげて去っていく怪人の姿に、パトレン1号が絶叫して地面にこぶしをたたきつけるカットにタイトルが挿入される演出は、先述した『究極の変合体!』とは見事に差別化されており、これが本来のネットムービーらしい(?)、シリアスな路線であることを象徴している。
 また、『究極の変合体!』のロケ場面が終始ピーカンの青空の下(もと)で撮影されていたのに対し、『もう一人のパトレン2号』のロケ場面がほぼ曇天(どんてん)の空一色であるのも、単なる偶然とは思えないものがあり、やはり作風の違いを明確にする意図が感じられるのだ。


 圭ちゃんとつかさが怪人を既知の存在であるかのような態度だったことを不審がったノエルに、つかさは怪人を「因縁(いんねん)の敵」であるとして、苦い過去を語り聞かせる。
 戦力部隊として着任し、国際警察日本支部に黒のスーツ姿で集結する圭ちゃんとつかさだが、やや遅れてやってきた悟は、携帯音楽プレーヤーのヘッドホンを耳にあてていた。
 ここで悟が聴いていたのは、ドイツのバロック音楽の作曲家・バッハによる『管弦楽曲第3番ニ長調』の第2曲『アリア』を、やはりドイツのヴァイオリニストだったアウグスト・ウィルヘルミが編曲した『G(ジー)線上のアリア』だ。
 テレビドラマやCMでも多用される名曲なので、タイトルはわからなくとも、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。


 先述したテレビシリーズ第43話&第44話では、既にギャングラーに殺されていた悟に怪人が化けたニセものが登場したが、キザとまではいかないまでも、ややきどった感じのエリート風情(ふぜい)だった悟のキャラには、エレガントな『G線上のアリア』は実にお似合いだ。
 そして、そんな名曲ですらも、「勤務中に音楽を聴くな!」と、悟にヘッドホンをはずさせる圭ちゃんは、『4週連続スペシャル スーパー戦隊最強バトル!!』(19年)で「きまじめチーム」(爆)に所属していたほど、ここでもそのきまじめぶりが如実(にょじつ)に表れている。
 こうした短いやりとりですらも、キャラたちの「らしさ」を描きつくした演出は、テレビシリーズの『ルパパト』の大きな魅力だったのだ。


 当時の国際警察にはまだパトレンジャーとしての装備がなかったため、圭ちゃんたちは変身することなく、生身でギャングラーと戦うことを強(し)いられており、戦闘員のポーダマンにさえかなわず、市民たちを逃がすのが精一杯だったのだ。
 ギャングラーを倒せない自分たちの非力さにいらだつ圭ちゃんに、悟は音楽でも聴いておちつけと、自身の携帯プレーヤーを手渡すが、圭ちゃんはそれを払いのけ、悟につかみかからんとする。
 そんな圭ちゃんを評して、悟はきまじめなのはいいところだが、それは危(あや)ういところでもある、とつかさに語るのだ。


 ギャングラーのアジトに潜入し、怪人ゾニック・リーに鉄パイプで殴りかかる圭ちゃんだが、怪人が武器として放つ超音波に襲われ、窮地(きゅうち)に立たされる。
 そこにヘッドホンを耳にあてた悟が、『G線上のアリア』を聴きながら駆けつけ、ゾニックに突撃して圭ちゃんを救う。
 悟は音楽を聴くことでゾニックの超音波を防いだのだが、ここで悟が圭ちゃんに、「勤務中だが許せ」と放つのがなんともイキである。
 だが、ゾニックの逆襲から圭ちゃんとつかさをかばった悟は、崩れてきた瓦礫(がれき)の下敷きとなり、重傷を負ってしまう。


 圭ちゃんとつかさの絶叫で前編は幕となるが、後編は神妙な面(おも)持ちで悟の病室の前でたたずむ、圭ちゃんの姿からはじまる。
 「悟の云うとおりだな」とつぶやいたつかさは、悟が以前、「きまじめな奴は自分をもきまじめに追いこむ。自分を見失うことにも気づかずに。それをサポートするのが、2号であるオレの役割だ」と語っていたことを圭ちゃんに告げ、悟の想いを無駄にするなと、悟の携帯プレーヤーを圭ちゃんに手渡し、背を向けて廊下の奥へと静かに立ち去っていく。
 テレビシリーズでもボソッとつぶやくように放ったひとことのみで、ズバッと核心をつくことが多かったつかさを象徴する描写となっているが、きまじめにすぎる圭ちゃんを決して否定することなく、あくまでリーダーとして立て、自身はサポート役に徹するとした悟の想いは、そんなつかさの静的なカッコよさによって、今回も圭ちゃんに充分に伝わったのだ。


 このときに手渡されたプレーヤーを、現在も圭ちゃんが大事に持っていること自体が感動的だが、悟を「幻(まぼろし)のパトレン2号」にしてしまった「因縁の敵」=ゾニックの出現に、公園のベンチでひとりたたずみ、悟が好きだった『G線上のアリア』を聴くことで、悟の想いを再びかみしめる圭ちゃんの姿は、ファンには涙なしでは見られないだろう。
 『究極の変合体!』におけるコミカルな絶叫演技もよかったが、テレビシリーズ終盤での魁利とのからみで顕著(けんちょ)に見られたような、誠実さ・実直さが強調された圭ちゃんの表情演技には、本作でもやはり人間的な厚みが感じられたのである。


 圭ちゃんが『G線上のアリア』を聴きながらゾニックの攻略法を考えている間にも、再度街でゾニックが暴れまわり、ヘッドホンを耳にあてたパトレン2号と3号が急行する。
 だが、体内の金庫にルパンコレクションを入れることでゾニックの超音波は以前より強力となり、2号と3号は変身を解除されてしまう!
 先輩のつかさをかばい、咲也はズタボロになりながらも、自分は先輩たちの想いを決してムダにすることなく、全力でサポートする! などと絶叫しながら、ゾニックに生身で立ち向かった。
 ゾニックに首を締められる咲也のカットで、咲也の主観でとらえられたゾニックの姿が次第にボヤけていく描写が、咲也の危機を絶妙なまでに描いており、これまた実に秀逸な演出だ。
 この場面はまだパトレンジャーの装備がなかったころの国際警察が、怪人と生身で戦っていたのと重ね合わせて描かれているようであり、咲也が先輩たちの想いをまさに体現して見せることで、ドラマ演出とアクション演出のクライマックスを融合させているのだ。
 遅れて駆けつけた圭ちゃんが、『G線上のアリア』を聴くことで編みだした、間逆の波形の音波をぶつけてゾニックの超音波を破壊するのもまた然りだ。


 「遅れてすまん。よくがんばったな」と、咲也の肩に手を置いて誉(ほ)め讃(たた)える圭ちゃん、ゾニックの攻撃で圭ちゃんが落としたVSチェンジャーを拾い、圭ちゃんに手渡す咲也の姿は、まさに理想的な先輩・後輩関係が端的に描かれているといえるだろう。
 パトレンジャーに変身後も、理想的な先輩・後輩関係はつづく。
 「援護を頼む」と、自身のVSチェンジャーを1号=圭ちゃんが2号=咲也に貸し与え、2号が二丁拳銃で1号をサポートする描写で、それぞれの銃から赤と緑のレーザーが発砲されるのは、その最大の象徴として機能しているのだ。
 「国際警察をなめるな!」との1号の合図で、1号・2号・3号が三方から剣で斬りつけることで、パトレンジャーは見事に「因縁の敵」を倒したが、それぞれの剣の残像が赤・緑・ピンクで表現されるなど、全編シリアスな展開ながらも、スーパー戦隊としての華が決して忘れられていない演出は好印象だった。


 ちなみに『究極の変合体!』とは異なり、こちらは先述した劇場版との直接的なつながりは描かれてはいないのだが、劇場版の公開と同時期に放映され、透真と咲也がエアロビクスのレオタード姿を披露した(爆)、テレビシリーズ第27話『言いなりダンシング』では、登場した怪人・ピョードルを、圭ちゃんとつかさがゾニックと見間違える場面がある。
 頭部から上半身にかけて球体をゴテゴテと飾りつけたピョードルの造形は、ゾニックの色を塗り直して若干(じゃっかん)の改造を加えたものだろうが(笑)、それでもネットムービーとつながりを持たせることで、視聴者を誘導しようとする戦略性の高さは評価されるべきだろう。


 それにしても、『究極の変合体!』と同様、こちらもラストの舞台はジュレの店内であり、今回の勝利を圭ちゃんから「頼りになる2号がサポートしてくれたおかげだ」と誉められた咲也が、圭ちゃんが咲也にそうしたように、初美花の肩に手をやる描写があり、咲也が初美花にホの字であることを強調して幕となるのは共通しているのだ。
 テレビシリーズの最終展開で初美花の正体がルパンイエローだと知った咲也は、「許されない愛」に葛藤(かっとう)することとなり、魁利と圭ちゃんの関係性の変化とともに、視聴者の涙を誘うこととなった。
 まだ何も知らずにはしゃいでいた、この当時の咲也の姿を今観ると、あらためて泣けるものがあるのは確かなのだ。


 だが、『もう一人のパトレン2号』は、これだけでは終わらない。
 透真がコーヒーポットを手に、ある客に「おかわりいかがでしょうか?」と勧めるが、その客は「代わりなら、もう大丈夫だ」と答える。
 初美花を相手に有頂天となった咲也を背景に、当初その客は口元しか映しだされないが、そこに流れるのは『G線上のアリア』なのだ……
 ヘッドホンを耳にあてたその客は、帰り際(ぎわ)に自身の想いを立派に継承した咲也の方を振り返って笑顔を見せ、ジュレの扉は静かに閉じられる。
 こんなにもエレガントでスタイリッシュな幕引きも、『ルパパト』のもうひとつの魅力を端的に凝縮したものだろう。


『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー オリジナルプレミアムドラマ』 ~総括!


 なお、どちらのネットムービーの脚本もテレビシリーズのメインライターを務めた香村純子(こうむら・じゅんこ)ではなく、『仮面ライダー響鬼(ひびき)』(05年)の前半や、『仮面ライダーウィザード』(12年)のメインライターをはじめ、シアターG(ジー)ロッソで開催されるスーパー戦隊のバトルステージの脚本をも多数手がけてきたきだつよしが担当した。
 いくら特撮作品の経験があるとはいえ、完全に相反する作風の両者を器用に描きわけるばかりか、テレビシリーズにはまったく参加してはいないにもかかわらず、『ルパパト』のキャラたちを忠実に描きつくした氏の手腕には、敬服せざるを得ないものがある。
 また、監督の葉山康一郎(はやま・こういちろう)は、スーパー戦隊で助監督を務めつづけ、2018年5月13日=母の日に東映特撮ファンクラブで配信されたネットムービー・『ヒーローママ☆リーグ』(18年)で監督デビューを飾っている。
 この『ヒーローママ☆リーグ』は、かつてスーパー戦隊に所属し、現在は母親となったヒロインたちが、再度地球と家庭の平和を守るために戦う内容であり、オリジナルビデオ作品『宇宙戦隊キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』(18年・東映ビデオ)の敵・宇宙忍デモストが登場する、同作の前日譚でもあったのだが、これもロートルが集う本同人誌『假面特攻隊』ではレビュー対象から抜けてしまうこととなった(汗)。


 まぁ、『仮面ライダージオウ』(18年)のスピンオフとしてネットで配信された『RIDER TIME(ライダー・タイム) 仮面ライダー龍騎(りゅうき)』(19年)と『RIDER TIME 仮面ライダーシノビ』(19年)も、2019年秋ごろには東映ビデオから映像ソフトが発売されるかと思えるのだが、『ルパパト』のスピンオフとして初美花とつかさを主人公に据(す)え、『てれびくん』2018年8月号の応募者全員サービスDVDとして通販された『てれびくん超(ハイパー)バトルDVD 快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー ~GIRLFRIENDS ARMY(ガールフレンズ・アーミー)』(18年)は、それ以上に視聴の難易度が高い。
 なんせ6500円と、一般家庭の親が子供に買い与えるにはあまりに高額な、最初からマニアに売りつける気マンマン(笑)な価格設定だったことが大きいのだが、通販された2018年夏ごろに無料動画配信サイト・YouTube(ユーチューブ)に中国語の字幕入りのものがアップされているのを、筆者は勤務中(汗)に発見したのだが、あとで観ようと思って再生リストに保存したものの、仕事を終えて観ようとしたらすでに削除されてしまっていた(笑)。
 誰か買った人、いませんかね? コレの視聴がかなうまで、筆者の『ルパパト』ロスは終わらない……


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2019年晩夏号』(19年8月25日発行)所収『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー オリジナルプレミアムドラマ』評より抜粋)


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『惡の華』前日談「惡の蕾」ドラマCD ~深夜アニメ版の声優が演じるも、原作者が手掛けた前日談の逸品!

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 2019年9月27日(金)から映画『惡の華(あくのはな)』実写映画版(井口昇カントク&岡田麿里脚本!)が公開記念! とカコつけて……。深夜アニメ版『惡の華』(13年)の前日談を描くドラマCD『惡の蕾(あくのつぼみ)』(13年)評をアップ!

惡の華』前日談「惡の蕾」ドラマCD ~深夜アニメ版の声優が演じるも、原作者が手掛けた前日談の逸品!

キングレコード
(文・久保達也)
(2014年1月15日脱稿)


 異色の大傑作、クラスで(ひとり)ボッチに転落していく少年を描いたマンガ原作の深夜アニメ『惡の華』(13年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20151102/p1)で描かれた物語の1年前、中学1年生だった登場人物たちの「日常」について、原作者の押見修造自身がマンガのかたちで書き下ろしたエピソードを音声ドラマ化した「プロローグ」を収録している。


 「春日高男編」「仲村佐和編」「佐伯奈々子編」「山田・小島編」「木下・麻友編」「PTA編」(笑)の6トラックから構成されており、ボーナストラックとして、アニメ本編で使用された音源を集めた「仲村罵声集」(爆)、および「中二病座談会~キャストトーク~」も収められている。


「春日高男編」


 「春日高男編」では、自室でマンガに夢中になっていた冴えない主人公少年・春日高男(かすが・たかお)に、「中学生の時に読んで世界が変わった」と、父がボードレールの詩集『悪の華』(1857年・ISBN:400325371XISBN:4102174036ISBN:4087601978)を手渡すという、全ての「発端」となる場面が描かれる。
 「これ面白いの?」と半信半疑で読み始める高男であったが、「ご飯よ」と呼び続ける母の声が全く聞こえなくなるほどに、いきなり高男の世界は変わってしまう。
 学力的には優等生の奈々子でさえも、「やっぱり難しいよ」と理解できなかったほどなのだから、やはり高男は『悪の華』にすぐさま共感してしまうほどに、すでに現実世界に息苦しさを感じていたというところであろう。


「仲村佐和編」


 「仲村佐和編」では、「ハエが1匹、ハエが2匹……」と数えていた本作の悪のヒロイン、デブで眼鏡の荒(すさ)んだ中学生少女・仲村佐和(なかむら・さわ)のもとに、やはり父が夕食だと呼びに来るが、この時点ですでに佐和の部屋の扉には、


「はいるな クソムシ」


と書かれていたのである。


 父がこれを叱りつけると、佐和は父に


「おまえはハエを殺せるのか!」


と叫び、部屋を飛び出してしまう。


 そして佐和は高男と出くわし、高男に


「ウンチバエ!」(笑)


と叫んで去っていく。


 佐和の心の中では、この時点でこの街にあふれる「クソムシ」どもをできることなら「始末」してやりたいという想いが渦巻いていたということなのか?


 すでに佐和はそうとうヤバい境地に達していたのだが、こうなると、佐和の「小学生編」(笑)をどうしても観たい、と思わずにはいられなくなってしまう。


「佐伯奈々子編」


 「佐伯奈々子編」では、学校行事のマラソン大会で、本作の善のヒロインであるお上品な少女・奈々子が友人の木下亜衣・三宅麻友とともに、ブルマー姿で走る途中――麻友がハミパン状態になる描写がある(笑)――、高男が泣きそうな顔をして、草むらの中で何かを探している姿に出くわす。


「ほっときなよ、あんな奴」


と亜衣が制止するも――マジでこいつだけは……(笑)――、奈々子は亜衣と麻友を先に行かせ、高男の探しものを手伝うことになる。


高男「山田の野郎、ぶっ殺す! おれの魂を……」


 高男は、なんとマラソン大会で『悪の華』を読みながら走っていたのであり(爆)、それをからかった友人の山田が、高男から本をとりあげ、草むらの中に投げ捨ててしまったのである(笑)。


高男「なんて美しい……ふとももが……シャンプーのにおいが……」


 奈々子が本を一緒に探し、見つけてくれたことで以来、高男は奈々子に夢中になってしまうのだが、高男はこのとき、「ファム・ファタール」(運命の女)とつぶやいている。
 そもそも中学1年生でこんな言葉を知ってること自体、高男はやっぱただ者ではない。


「山田・小島編」


 主人公少年・高男の友人たちを描く「山田・小島編」では、山田の自宅で高男と小島がゲームで遊び、小島が帰ったあと、山田がいかにも中学生男子らしいトークで高男をいじり回す場面が描かれる。


山田「サセ子とかいねぇかな。2万円くらいでやらせてくんねぇかな?」(笑)


 拒絶反応を示す高男に、山田はいつもどうやって自慰をやってるかを尋ね、自分はエロ動画をおかずにしていて、このへんにノートパソコンを置いて……などとやらかし、あくまでも高男がどうやっているのかを、しつこく聞き出そうとする(笑)。


 本編では女子生徒たちが体育の時間にブルマー姿であり当初、筆者は原作者の押見が1981年生まれであることから、本作の時代設定を氏が中学生であった1994~96年頃だと考えていた。
 だが、よく観ると高男の自宅にあるテレビはワイドテレビであり、そこに映る漫才師がオフィス北野に所属する米粒写経というコンビがモデルであることから、今回ノートパソコンが描かれているのも当然であり、時代設定は明らかに現代なのである。
 つまり、『惡の華』という物語を成立させるために、すでに21世紀には教育現場で絶滅しているはずのブルマーが、あえて描かれているのである。


 それはそうだろう。もし奈々子の体操着が、現実世界で体育の時間に使用されている、色気も何もないハーパンであったなら、高男はそんなもん盗まなかったのでは? と考えざるを得ないのである。
 そもそも現代の中高生男子たちは、体育の時間に女子のあんな姿を見て、果たして欲情するのだろうか、という素朴な疑問もあるし、せめてアニメやゲームなどの「仮想世界」で描かれる学園生活くらいは、ブルマーを絶滅させるな! と思えてならないものがある(笑)。閑話休題


 それはともかく、奈々子の母を演じる土井美加(世代的には『超時空要塞マクロス』(82年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19990901/p1)のヒロイン・早瀬未沙役が最も印象深い)は、この場面に対し、「中学生の男の子ってあんな話してるの!?」と驚いていたとか(笑)。


「木下・麻友編」


 善のヒロイン・佐伯奈々子の友人たちを描く「木下・麻友編」では、亜衣が初めてブラジャーを買うために麻友を近所のスーパーに付き添わせたところ、母の買い物についてきた高男と下着売場で出くわしてしまう。こんな「間の悪さ」も実に高男らしい。
 「なんでこんなとこいるの?」「盗撮とかしようとしてたんじゃないの!?」――ホントにマジでこいつだけは……(笑)――と、亜衣は徹底的に高男を疑う始末。


 そして、高男が持っていた『悪の華』の表紙を麻友が気味悪がり、高男が去ったあと、亜衣は


「ホント気持ち悪い! ああいう奴がエロい犯罪とかするんだよね!」


と、勝手に決めつけてしまう!


 やっぱマジでこいつだけは……(爆)


「PTA編」


 そして「PTA編」では、意外にも、高男の母と奈々子の母が、すでに仲の良い様子であることが描かれている。
 校内の作文コンクールで奈々子が入賞したこと、高男が気味の悪い本ばかり読んでいること、などの「日常」が、二人の主婦の間で延々と語られる。
 本編でもそうであったが、高男の母を演じる小林愛の、あまりにも生活感にあふれた演技によって、たとえ絵がなくとも、「井戸端会議」の情景が、見事なまでにありありと浮かんでくる。


 そこに佐和の父が現れ、二人と挨拶をかわす。


佐和の父「思春期って、本当に難しいですね」


 そう切り出した佐和の父は、佐和が学校のことを何も話してくれないため、娘がどう過ごしているのかわからないが、もし良ければ高男と奈々子にうちの佐和と仲良くしてほしい、と高男の母と奈々子の母に頭を下げる。
 ふたりは「うちの子でよければ。ねぇ」などと快諾するのだが……


 本編を観る限り、高男も奈々子も、この1年、佐和とはほとんど関わりがなかったように描かれている。つまり、ふたりの母は、佐和の父から受けた依頼を、息子や娘には一切話さなかったのだと、解釈せざるを得ないのである。
 すでに「問題児」として悪評が立っていたであろう佐和を、うちの子供に関わらせたくはない……親としては至極当然な反応ではあろうが、これがまた、佐和をますます「狂気」へと駆り立ててしまったのである。
 そうした生徒に救いの手を差し伸べようと、大人たちが真剣に考えてあげるのが、本来の「PTA」という場ではないのだろうか?


中二病座談会」


 本編の世界観と絶妙にリンクした、実に聴き応えのあるドラマCDであったが、巻末の「中二病座談会」(笑)がまた、まさに『惡の華』の世界観を、声優たちが現実世界ですでに築き上げてきたかのようなトークであふれていた。


・高男を演じた植田慎一郎は、中学時代すごくモテたいという願望から、「対女子用質疑応答マニュアル」を作っていたとか(爆)。
・山田を演じた松崎克俊は、人気者が中心のきらびやかなグループではなく、それに入れなかった、鬱屈したどんよりとしたグループ(笑)にいたらしいが、その陰のグループからも孤立しないため、特に興味もなかった洋楽を必死で聴いて話を合わせてたとか(笑)。
・小島を演じた浜添伸也は、自分がただ者ではないと思わせたかったがために、読んでも理解できないような小難しい本を常に携帯していたという、まさに高男のような中学生時代を送っていたとか(爆)。
・麻友を演じた原紗友里は、どのグループにも入れなかったことに対し、自分が仲間はずれなのではなく、自分が他の生徒を仲間はずれにしているのだ、と自身を慰めていたとか(笑)。


 あまりに痛い話が続出した末、奈々子を演じた中堅のアイドル声優日笠陽子が「人類はみな変態」(爆)と締めくくるのには、まさに『惡の華』を演じるにふさわしいメンバーたちかと思えた。


 それにしても、佐和を演じた伊瀬茉莉也(いせ・まりや)が、あまりに普通に可愛らしい声であるのには、「仲村罵声集」が直前に収録されていることもあり、仰天することしきりである――実際ルックスも到底、佐和とは結びつかないほどの可憐さである。ググってみると、女児向けアニメ『Yes! プリキュア5(ファイブ)』(07年)と続編『Yes! プリキュア5 GoGo(ゴーゴー)』(08年)で、小柄可愛い系のキンキン声で金髪ツインテールの黄色いプリキュアキュアレモネードも演じた御仁である――。あそこまで低音でドスのきいた声が演じられるとは見事というより他にない。


 筆者の天敵である(笑)亜衣を演じた上村彩子(うえむら・あやこ)もまた然りである――こちらもググってみると、アイドル集団・AKB48(エーケービー・フォーティエイト)の初期(第2期生・06年)メンバー出身だそうな――。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.67(14年4月13日発行))


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 2019年9月20日(金)からアニメ映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』が公開記念! とカコつけて……。
 『HELLO WORLD』の脚本・野崎まど(小説家)が手懸けた深夜アニメ『正解するカド』(17年)評をアップ!


正解するカド KADO: The Right Answer』 ~40次元の超知性体が3次元に干渉する本格SFアニメ。高次元を材としたアニメが本作前後に4作も!

正解するカド』 ~合評1


(文・T.SATO)
(17年4月28日脱稿)


 今どき珍しい本格SFアニメが登場。
 ただしセル画ライクなCGアニメ。だけど、指摘されなきゃCGアニメだとはパッとは判らないほどのナチュラルさ(少なくとも筆者には・汗)。
 別項で加齢ゆえかSFに対する個人的な関心がウスれている……なぞと書き散らしてしまったけど撤回します。この作品はスゲェ!


 表面に複雑な幾何学模様を浮かばせてそれを常時変化させている、数キロ四方の超巨大で金属チックな輝きを放つ正立方体が宙空に突如出現! 羽田空港にゆっくりと垂直着陸して、離陸寸前の200名が搭乗した旅客機を内部に吸収してしまう!
 ただちに日本国政府が、首相・閣僚・霞ヶ関のお役人・科学者らも陣頭指揮を取って、対処にコレ努めるも徒労に終わる。
 万策尽きたかと思ったそのとき、旅客機に搭乗していた若手エリート外交官とナゾの青年が正立方体の上面のカドに出現して、人類に「ヒトよ……」と呼びかける……。


 未知なる存在に対して日本政府が対応するリアルシミュレーション、そして官房長官ゴジラ大好きの政治家・石破さん、首相も西暦2000年前後に活躍した故・小渕首相にソックリなので、ドーしたって昨年の怪獣映画『シン・ゴジラ』(16年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160824/p1)を想起する。が、ググってみると本作の製作発表はそれを遡ること2015年11月(汗)。
 まぁ映画の神さまのイタズラか、本作放映開始の翌月2017年初夏には『メッセージ』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20170516/p1)という似たような趣向の巨大物体が出現するハリウッドのSF映画も公開されるしネ……。
――もっと云うなら、巨大円盤が飛来して、人類が地球もろとも高次な存在によって強制進化させられちゃう古典SF『幼年期の終り』(53年)という前例もありましたけど――


 とはいうものの#2以降、タバコ吹かしたバリバリなキャリアウーマンでベラんめい口調の姉御セリフをしゃべるマンガ・アニメ的な記号的キャラクターでも出てきたら、この作品のリアリティの階梯&品位はイッキに下がって台無しになるやもしれないから――いや別ジャンルの作品であれば、そーいう記号キャラもキライじゃないけれど(笑)――、#1の段階では様子見の判断保留でいたのだが……。#3まで視聴したけど、この作品はガチな異星人とのファースト・コンタクトもので、このままの路線で行くようだ!?


 しかも、異星人(?)は「宇宙の外」から来たというので、エリート外交官がそれを――「4次元」以上の空間という意味での――「高次元」世界から来た……と意訳・翻訳するものの、人間たちとコミュニケートしやすいようにヒトの姿を取っているナゾの青年は、それは正しくない翻訳だとのたまう(笑)。
 いやいやいや。3次元の「宇宙の外」なり、この「宇宙よりも上位の空間」があるのなら、それは充分「高次元」空間と呼んでもイイっしょ! というSFオタクや元・科学少年たちのツッコミの先を行く、あくまでも「既知」ではなく「不可知」なモノとして超存在を描写しようとするスレたセンスも本作は垣間見させてくれる!


 いやぁたしかに若いころにワクワクした「価値転倒」や「視点の拡大」といった知的快感をもたらすSFマインドって、こーいうモンだったような気がするねェ(遠い目)。


 んで、かつてのSFファンは――筆者も含めて――、


「自分が面白いと思った、あるいは感動したSF的興趣は普遍的なモノであり、ゆえに全人類(笑)も同じように面白いと思うに違いない!」


と素朴に思い込むような傾向があった。


 それはウラを返せば、SFや科学が理解できない人種に遭遇するや、「信じられない」「バカじゃねーの」とケーベツに走りがちな傾向のモノであったようにも思うのだ――筆者個人の経験を一般化するなってか?(汗)――。


 歳月を経て思う。SF的興趣に感度があるのは全人類の1~2割程度の恐怖奇形人間だけであると。しかもSFというジャンルは、日常生活では非論理的かつフワッとして感覚的な、例えば女のコとの即興の軽口会話などを苦手とする人種が、「世界」や「宇宙」の「縮図」を早分かりしてスゴロクでアガリになった気分になるための慰謝ツールに過ぎなかったのではないのかと(爆)。
 そうは思うものの、こんな作品を見せつけられてしまうと、我が体内のSFの血が騒ぎだす(笑)。


 もちろんショボいビジュアルやキャラデザでは本作の興趣は台無しになってしまうので、大作アニメにふさわしいビジュアルの高精細さが本作に説得力を与えていることも指摘しておかないと大変だ。


 と、ここまで書いておいてナニだけど、主人公が若手外交官であることからもわかる通り、本作はSFよりも外交交渉がメインになるような気配もある。まぁSF至上主義者ではナイので、面白ければドコの方向に行こうとイイけれど。


 しかし、70~80年代の宇宙SF全盛の時代ならばともかく、今季の覇権アニメになれる予感もまったくしないなぁ(笑)。


 エッ、あの女性役人のメインヒロインも、荘厳なオープニング主題歌の歌唱も、またまた『海賊戦隊ゴーカイジャー』(11年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20111107/p1)のゴーカイイエローことM・A・Oちゃんなの!?


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.69(17年5月4日発行))


正解するカド』 ~合評2


(文・久保達也)
(2017年6月8日脱稿)


 羽田空港を飛び立とうとする旅客機の中で、


「ひさしぶりの海外ですね!」


とはしゃぐ、スーツ姿の後輩ビジネスマン(?)の花森に、


「目先の利益だけで相手を打ち負かすのではなく、双方に利益が得られるように交渉すべき」


などと、先輩の真藤(しんどう)が工業用地買収を成功する秘訣(ひけつ)について語る……


 何の予備知識もなしに第1話の冒頭を観て、これはイケメンの先輩後輩コンビを主人公にしたビジネスアニメ(笑)でも始めるつもりなのか? と思いきや……


 ふたりの眼前で、突然謎の巨大な立方体が空から姿を現し、やがて七色に輝く透明な不定型生物らしきものが機内に侵入! 乗客たちは次々にそれに飲みこまれ、遂に旅客機そのものが巨大な立方体に吸いこまれてしまう!


 これを観て筆者の脳裏(のうり)に浮かんだのは、羽田空港に着陸寸前の旅客機が、東京上空に現れた未知の空間に吸いこまれるところから物語が始まる『ウルトラQ』(66年)第27話『206便消滅す』である。
 つまり、かなり久々の直球ストレートな「SF」マインドにあふれた導入部を観ただけで、もう心が踊らずにはいられないものがあったのだ!
 古いタイプの特撮マニアたちが『ウルトラQ』を「SF」扱いする行為に対して、いやあれは「怪獣もの」で「SF」じゃないから、そのような論法は一見高尚なようでも「怪獣もの」よりも「SF」を上位に見立てて、「怪獣もの」を自立・独立した1ジャンルではなく「SF」の下位のサブカテゴリ―に隷属させてしまう行為でもある! と否定的な立場の筆者ではあるものの、やはりこういうノリを観て「SF」だ! 「SF」だ! と大騒ぎしたくなる気持ちは、確かに理解できなくもないのだなぁ(爆)。



 ただ、これだけではマニアたちがよく云うところの「既視感」バリバリの展開ということになるので、個人的に本作に対して目新しさを感じた点を少々。
 まず、本作のヒロインが、単に事件の傍観(ぼうかん)者となってしまいがちな普通のOLとかではなく、政府の危機管理センターに勤める、紺色ショートボブヘアの有能なキャリアウーマンであることだ。
 ここで注目したいのが、ヒロインが行方不明になった旅客機の乗客名簿を見て「真藤くん!?」と驚くことで、実は外務省のお役人である真藤とは旧知の間柄であることを端的に示すとともに、今後ふたりが恋人関係へと進展するであろうことを匂(にお)わせる、なかなか心憎い演出である。
 つまり、「真藤くん!?」とは叫んでも、「花森くん!?」とは叫ばないのだ。決して後輩の花森のことが、ヒロインにとってどうでもいいというワケではなく、本作ではあくまで二の次の存在ということなのだ(爆)。


 先述した『ウルトラQ』のヒロインで、主人公・万城目淳(まんじょうめ・じゅん)の一応の恋人として描かれた江戸川由利子(えどがわ・ゆりこ)に置き換えても、「淳ちゃん!?」とは叫んだだろうが、淳の後輩・戸川一平のことは案じつつも、そんな単なる友人に対しては「一平くん!?」とは叫ばなかったであろうから。
 まぁ女性とはそういう生きものなのだ、とのプチ主張も、やや垣間(かいま)見えるような気もするが(笑)。



 で、別の意味で女性のある種の残酷さを垣間(かいま)見せてくれるのが、謎の巨大立方体に旅客機が飲みこまれたことが明らかとなり、政府の対策会議が騒然となる中、国全体を揺るがすほどのこの危機的状況こそ、自身の探求心を最大に満たしてくれるものだとして、うれしくてしかたがないようにしか見えない女性科学者の存在である。
 リアル系のキャラが大半を占める中、パープル髪でやや萌(も)え度が感じられるメガネっ娘(こ)の科学者は、謎の立方体の解説を政府のお偉い方に得意げに早口でまくしたて、次から次へとメカを投入して立方体の壁を破る方法を現地で調査したあげく、陸上自衛隊朝霞駐屯地(あさか・ちゅうとんち)から戦車を出動させ、あまりにも気楽に


「撃っちゃってくださ~い」


などとのたまうのだ。


 もう旅客機の乗客の安全とか、立方体の中に潜む謎の存在からの反撃とか、な~んも考えてない(爆)。


 戦車の砲弾でさえも壁を突き破ることができず、それが跳ね返されてボトンと落ちる描写は、本来なら驚愕(きょうがく)すべきところなのであろうが、それすらも女科学者が


「神です~!」


と喜ぶさまは、もう単なるギャグにしか見えない(大爆)。


 ただ、その甲斐(かい)あって立方体のカド(角)に突然入り口ができ、階段を上がって中から真藤が出てくるのだが、それに続いて立方体の主が遂に姿を見せる!


 まさかタイトルの「カド」ってここからきてるのか? 「正解」も「政界」とかけあわせているような気もするし(笑)。


 もちろんセミの頭に両手がハサミという、初代『ウルトラマン』(66年)の代表的宇宙人・宇宙忍者バルタン星人みたいなのがいまどき出てくるハズもなく、髪も顔色も衣装もひたすら白いイケメン宇宙人が登場するのだが、そいつがまた日本政府に対し、「地球人よ」ではなく、「ヒトよ」と呼びかけるのだ!
 おまえだってヒューマノイドなんだから、立派に「ヒト」じゃねえかよ(爆)。


 いや、これがまた実に心憎いところで、こいつの正体は、おそらくは冒頭に出てきた透明な不定型生物であり、それが地球人とコンタクトしやすいように「ヒト」の姿に変身しているのだと思えるワケで、「ヒトよ」なる呼びかけこそが、その最大の証(あかし)なのだろう。


 しかし、こいつの名前が「ヤハクィザシュニナ」って……舌噛(か)んでまうやないか!(笑)


 そんなワケで、往年のハリウッドのSF映画『未知との遭遇(そうぐう)』(77年・日本公開78年)のような第1種接近遭遇――小学生のころ、このフレーズにはワクワクせずにはいられなかったものだ!――、ファースト・コンタクトものであり、地球人対宇宙人のハデなドンパチが繰り広げられるものではなさそうだ。
 むしろ日本政府対ヤハクィザシュニナによる、双方に利益が得られるような話し合い、つまり「交渉」が主軸に描かれるということが、冒頭の用地買収云々(うんぬん)なる真藤と花森のビジネス会話に伏線として描かれていたワケで、これまた実に心憎いものがあるのだ。


 まぁ、政界の群像劇となると、映画『シン・ゴジラ』(16年・東宝)をどうしても彷彿(ほうふつ)としてしまうワケで、そうなると既視感云々は拭(ぬぐ)えなくなってしまうのだが。
 そういや『シン・ゴジラ』にも、早口でまくしたてる理系女子が出てましたねえ。もっともあちらの場合は、終始無愛想(ぶあいそう)な表情をしてましたけど。まぁ、彼女も本当はゴジラが出現したのがうれしくてたまらなかったのを、隠すためだったんでしょうが(大爆)。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.78(17年6月18日発行))


後日付記:『正解するカド』中後盤評 ~「高次元」に材を取った、『宇宙戦艦ヤマト2202』・『機動戦士ガンダムNT』・『GODZILLA 星を喰う者』・『アントマン』!


(文・T.SATO)
(2019年9月27日執筆)


 とはいうものの#2以降、タバコ吹かしたバリバリなキャリアウーマンでベラんめい口調の姉御セリフをしゃべるマンガ・アニメ的な記号的キャラクターでも出てきたら、この作品のリアリティの階梯&品位はイッキに下がって台無しになるやもしれない……


 などと語ったそばから、いやすでに、「撃っちゃってくださ~い」「神です~!」とはしゃいでいる、パープル髪で萌え系のメガネっ娘の科学者であり、マンガ・アニメ的な記号キャラがいるじゃん(爆)。


 彼女に違和感をいだかずにスンナリと受け入れて、先の発言をしているあたり、当方がいかに記号的な美少女アニメに毒されてしまっているのかがよくわかる(汗)。


 それはさておき、宇宙人ならぬ高次元人との「外交交渉」が主軸となるのやも……という憶測は「勇み足」であったようだ。
 本作は高次元人がもたらすアイテム――永久機関(永久電力)や、高次元感覚や並行宇宙感覚の獲得による睡眠不要、重力・運動・物質の制御装置――への驚きや、超巨大立方体・カドの羽田空港から郊外への大移動などのスペクタクルが中盤の主眼となり、最終的には高次元人が主人公男性に恋慕(?)するような展開ともなっていく。


 この最後の高次元人が主人公男性といおうか、人間という低次な「知性体」の劣情も含んだ複雑怪奇な「情緒」のナゾに興味を覚えて傾注していく姿が、古典SF的な機械やロボットの反乱モノにも通じる「知性」よりも「感情」や「人間性」の賞揚という、既成感あふれるパターンに回収されてしまったともいえる。
 よって、そこに引っ掛かりを覚える御仁もいてイイとも思う。筆者個人もクールでドライなシミュレーションSFに徹することができなかったという感もある。


 けれども、出来上がった作品を擁護するならば、「情緒」賞揚や「人間」賛歌になりつつも、並行して高次元世界から見た大宇宙や地球の生命の歴史や、そこに高次元生命体がすでに宿っていた劇中内事実なども美麗な映像&音楽の力で描写しているので、テイストとしてはそんなにベタついて湿ったノリではなく、クールで乾いてハイブロウ(高尚)でスペクタクルな本作のカラーは維持できてもいて、ナマっちょろい感じには堕していない。
 よって、コレはコレで筆者にとっては、作品が空中分解してしまったというような酷評の感慨はいだいておらず、最善のオチではないにせよ次善としては許容範囲のオチでもあって、大スキという作品ではないけれどもキライでは決してナイという位置付けとなる。



 ジャンル作品の神様のイタズラか、4次元以上の高次の空間に住まう超越的存在が、我々が住まう3次元世界に干渉してくる作品がこの2017年には奇しくも2作品も本邦ジャンル作品には登場した。
 ハイブロウなSF深夜アニメの本作『正解するカド KADO: The Right Answer』に登場したヒト型の超生命体と、往年の超ヒットアニメのリメイク『宇宙戦艦ヤマト2202(ニーニーゼロニー) 愛の戦士たち』(共に17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181208/p1)に登場した美女・テレサのリブート版だ。


 前者においては、3次元世界はあくまでもタテ・ヨコ・高さという3乗(3次元)の広がりに基づいた集積回路&処理速度という物理的限界に知性体の脳ミソや計算機は束縛されているけど、「3次元世界」の37乗倍の広がり&処理速度を持つ世界から飛来したと超生命体が終盤で明かしたことから、彼らは3+37ということで「40次元」という超高位な高次元空間から飛来した存在であったと比定できる。
――古代ギリシャの哲学者・プラトンが唱える「イデアの世界(理念・メタ・天上世界・あの世)」=「本体」と、「この世(物質の世界)」=「影絵」の関係に例えれば、超生命体の本体は40次元の高次元空間にあって、『正解するカド』#1冒頭にて登場した不定形な生物も、40次元存在である40乗の広がりを持った超々立体の本体が3次元世界に単純化・平面化(3次元立体化)されて写った「影絵」であったといえる――


 後者においては、原典では「反物質」のヒト型生命体という設定で、しかして電荷が逆である「反物質」と「物質」が接触したら物理的に対消滅が発生して大爆発が生じてしまうのに、テレザート惑星は「物質」組成であり、そこに住まう知的生物・テレサが「反物質」であるのは、当地では惑星の「物質」素材由来(多分)であったハズの原始生命が「反物質」であるテレサにどのようにして進化ができたんだよ! という、往時でも筆者のような可愛くない科学少年であれば(笑)、少々ツッコミどころはあった設定ではあった――その一点の瑕疵(かし)をもって、『2202』の原典『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(78年)を全否定しているワケではないので念のため。むしろ傑作だと思ってます――。


 40年後のリメイク『2202』では、さすがにこの設定のままではムリがあると思ってだろう。知的生命体の高次な精神活動は脳ミソ以外にも、3次元的には超々ミクロの世界に折り畳まれているようにも解釈できる「高次元」空間とも通じている、波とも粒ともつかない超々ミクロの「量子」レベルのゆらぎや共鳴などの振動現象にも依拠して「意識」や「知的活動」が発生しているという、真偽は定かならず証明もできそうにない最新トンデモ科学仮説におそらくは則ったのであろう。
 その「量子」レベルの真理を技術化し、精神の力を物理的な力に変換するテクノロジーで近隣星域を支配して、やがて肉体を捨てて全テレザート星人が合体した集合知の精神生命体となり「高次元世界」の上方へと上り詰め、「高次元」からは低次の「3次元世界」の「時間」すら可視化して認識もできるがために、我らが「3次元宇宙」の過去~未来までをも見通せる超生命、劇中での文学的レトリックだと「この世」と「あの世」の狭間にいる超存在として定義され直すことで、筆者のようなウザすぎるマニアによるツッコミの隙を減らしている(笑)。


――ちなみに、アリ男ならぬアメコミ洋画『アントマン』(15年)&続編『アントマン&ワスプ』(18年)でも、ミクロ化できるスーパーヒーローの「ミクロ化」の部分をさらに推し進めて、それが超々ミクロな「量子」の域にまで達したことで、時間・空間・高次元の境界もあいまい・混在の極微な世界で四半世紀も前に行方不明になったヒロインの母親探しネタを一方に据えて、「量子」経由での精神活動への干渉という設定を用意することで、「夢でのお告げ」などの古典的な作劇を正当化している。今や「高次元」は「ナンでもあり」や「精神主義」をそれっぽく可能とするジャンル作品におけるマジックワード・万能兵器となったのだ(笑)――


 逆に3次元世界の側から4次元以上の高次元空間に精神が拡張していったのが、巨大ロボットアニメ「ガンダム」シリーズの1本たるアニメ映画『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181209/p1)である。
 本作では死者の霊とも交流でき、物理法則を超えて隕石落としさえ防ぐまでに、後付けでインフレ・拡張していった「ニュータイプ」(新人類)の概念を、コレまた30年後の後付けの後付け(笑)で、過去作の該当シーンのバンクフィルムも多用して「何もかもすべて懐かしい」というロートル観客の「思い出補正」作用も援用しつつ、未知の金色ガンダムの影響で時間が局所的に逆行したかのごとき部品破損が発生する追加能力も作って、やはりニュータイプは「時が見える」ような時間・空間を超えた4次元以上の高次元世界にまで精神が上昇したがゆえの能力だと再定義。
 サイコフレームなるバイオコンピューター素子を封じた金属装置も技術者の思惑(おもわく)&理論を超えて、精神の力を物理的な力に変換する媒介となって、それが物理法則を超えた超常現象をも惹起。金色ガンダムの少女パイロットも「完全なるニュータイプ」として彼岸の彼方の高次元世界へと立ち去り、肉体を消失して思念だけでサイコフレーム経由にて金色ガンダムを操縦し、物理限界を超える亜光速で飛行可能とする!
――同時に高次元世界や思念だけの存在を劇中で肯定することで、死者の霊との交信にもSF的根拠を与えていた――



 平成になってからも、遺伝子操作をされた超生物や、日本を守る護国聖獣、あまたの星間文明を滅ぼしてきたギドラ属と呼ばれる宇宙怪獣種などなど、さまざまな新解釈でリメイクされつづけてきた金色の三つ首怪獣・キングギドラ
 フル3D-CGアニメ映画『GODZILLAゴジラ) 星を喰う者』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181123/p1)では、別名「高次元怪獣」という新設定でリマジネーションされている。我々が住まう3次元世界・3次元宇宙ではなく、「高次元宇宙」に出自を持つ怪獣!
 なるほど! そう来たか! たしかに我々が住まうこの3次元世界とは「水平」「パラレル」の関係にある「平行宇宙」に由来する怪獣では、いかにこの「宇宙」の「外部」から飛来した存在であったとしても、原理的には我々とも対等・平等の存在にはなってしまう。
 しかし、この「宇宙」にとっては同じく「外部」の関係にあるとはいえ、我らの「宇宙」や一連の「平行宇宙」の「上部」というべき、「垂直」「バーチカル」な4次元・5次元・6次元以上の、我々の3次元世界に対して優位に立つ「超空間」「高次元」の世界や宇宙に出自を持つ、神にも近しい超越的な存在としてキングギドラを描くのであれば、コレぞまさしく地球怪獣2~3体から10体を相手にまわして、一歩もヒケを取らなかった宇宙超怪獣キングギドラのもっとも現代的な解釈ではあり、ハイブロウなSF的リマジ版に昇格したともいえるだろう!


 で、『正解するカド』の高次元生命体や『2202』のテレサの域に達してしまった本作の我らがキングギドラ
 それは箱根上空の雲海に開いた、高次元空間に通じる3つの黒いワームホールから半ば無限(!)に伸びてくる、金色の竜の三つ首だけで描かれる。キングギドラの特徴的なボディーや両翼に2本のシッポや両脚は描かれない。
 そのギドラの三つ首がゴジラのボディーにカラみつき、そして噛み付きつづけるというかたちで怪獣バトルが描かれる。


 とはいえ、それだけではどのへんが高次元の怪獣としての特性であるのかサッパリとなってしまうので(笑)、周囲のリアクションの方でギドラの特異な属性を描写する。
 人間や宇宙人などの知的生命体・生物には視認が可能でも、センサーや計器などの機械にはまったく検知不能。どころか、ギドラの周囲の時間&空間はゆがんでいるらしく、ごくごく近い未来に起きる宇宙船内の区画の爆発や生存者ゼロの反応を、センサーや計器は先んじて検知して、それに管制室のオペレーターが驚愕するなどの描写を入れることで、知的・SF的なフック(引っかかり)としつつ、ギドラの超越的な属性&脅威も描写する。
 以上の前座を踏まえて、高次のギドラ側は低次のゴジラをカラめとって締め付けることができるのに、影絵のゴジラ側が理念のギドラ側に掴みかかろうとしてもスリ抜けてしまうという非対称な異種格闘技戦となる。


 げに、ジャンル作品の神様のイタズラである(笑)。


――高次元存在ではないけど、地球人よりも高次な宇宙人として登場し、犯罪の基となる「感情」を人類から消去しようとする銀河警察ハイジャス人が登場した子供向け合体ロボットアニメ『勇者警察ジェイデッカー』(94年)終盤、真のラスボスが3次元人(=我々のこと・笑)であった『勇者特急マイトガイン』(93年)、「知恵の実」を食させて人類を強制進化しようとする宇宙人が終盤に登場した国産ヒーローをメタ的に総括した深夜アニメ『サムライフラメンコ』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190301/p1)、同じく「知恵の実」を食した異世界の知性体が進化の階梯を昇った「オーバーロード」なる存在がシリーズ後半の暫定的な上級・敵怪人となる『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)、地球人よりも高次な宇宙人種族である巨大ヒーロー・ウルトラマンの一族に、劇中では地球の知性体を「地球人」ではなくあくまでも「人間」と呼称させ、地球や人類の守護だけではなくその劣情も含めた「人間性」を学習することを新人ウルトラマンの任務とさせていた『ウルトラマンメビウス』(06年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20060625/p1)なども想起してみたり……――


 しかし、本作『正解するカド』の円盤売上は第1巻が500枚弱の爆死。600枚弱の同期2017年春の宇宙SFロボットアニメ『ID-O(アイ・ディー・ゼロ)』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190924/p1)の不人気同様、日本のロボットアニメやSFアニメの未来は暗い……(笑)。


(了)


[関連記事] ~「高次元」世界が奇遇にも主題となった2018年秋の3大アニメ評! 完結後の『正解するカド』にも言及!

GODZILLAゴジラ) 星を喰う者』 ~高次元怪獣にリブートされた宇宙超怪獣キングギドラが登場! 「終焉の必然」と「生への執着」を高次元を媒介に是々非々で天秤にかける!

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機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』(18年) ~ニュータイプを精神が高次元世界に拡張した存在だと再定義! 時が見え、死者と交流、隕石落下を防ぎ、保守的家族像を賞揚の果てに消失したニュータイプ論を改めて辻褄合わせ!

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劇場版ソードアート・オンライン-オーディナル・スケール- ~大人気作にノレない私的理由と、大ヒットのワケを分析!

『正解するカド』 ~40次元の超知性体が3次元に干渉する本格SFアニメ。高次元を材としたアニメが本作前後に4作も!
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 2019年9月20日(金)からアニメ映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』が公開記念! とカコつけて……。
 『HELLO WORLD』の伊藤智彦カントクが担当した深夜アニメ『ソードアート・オンライン』(12年・2期14年)の後日談アニメ映画『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』(17年)評をアップ!


劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』 ~大人気作にノレない私的理由と、大ヒットのワケを分析!

(2017年2月18日(土)公開
(文・T.SATO)
(2017年4月27日脱稿)


 西欧中世ファンタジー風の異世界ではなく、その趣向のバーチャルゲーム世界に閉じこめられた人々の右往左往を描く大人気ライトノベル原作(09年)で、ヒットも必至と見込まれたか予算も潤沢な2クールのヌルヌル動く高作画アニメが都合2期分、つまりは4クール分も作られた深夜アニメ『ソードアート・オンライン』(12年)――略称『SAO』――のさらなる続編が映画で登場。


 あまたの2週間限定公開の深夜アニメの総集編や、新作アニメの先行公開、玄人好みの劇場アニメが隆盛でも、それらの最終興行収入が1~2億のニッチ(隙間)な商売にすぎないのに、本作は人気深夜アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』(11年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20120527/p1)・『ラブライブ!』(13年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150615/p1)の続編映画『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(13年)・『ラブライブ! The School Idol Movie』(15年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160709/p1)をも上回る初動で、アッという間に興収が23億を突破!
 あの大人気深夜アニメ『ガールズ&パンツァー』(12年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190622/p1)の続編映画『ガールズ&パンツァー 劇場版』(15年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190623/p1)でさえ1年かけてようやっと24億に達したというのに(汗)。いかに本作が若いオタの圧倒的な支持を受けていたかがよくわかる。


 アニメの映像ソフトの1巻あたり数百・数千・数万枚といった露骨な売上差もそーだけど、こーいう現実を見せつけられると、数々のアニメの人気差やその動員規模が、ドングリの背比べではなく、十倍・百倍といった2桁規模の越えられない壁であることが残酷なまでに可視化されて、複雑な気持ちになる。
――付言するけど、筆者は売上と作品の質がイコールだ! なぞとは考えてはいないので、その点はくれぐれも念のため――



 で、今回の続編劇場版は、流行の機を見るに敏で、VR(仮想現実)ではなく昨今流行りの「ポケモンGO(ゴー)」みたいなAR(拡張現実)ゲーム。ヘッドギアの眼鏡越しに都心の特区を観るや、そこは異世界へと様変わり。そこでゲーマーたちは自らの身体を動かし、剣戟バトルを繰り広げる。
 ARにはノリ気でない主人公少年。顧客を奪われ閑散としてしまったVR世界。TV版での陰謀家が善人のように協力する意外感。


 ウ~ム。ファンの方々には申し訳ないけど、ダメダメではナイけど、個人的にはイマいちノれない。
 VRにおける手指だか脳内だかによるコントローラー操作による剣士としての強さと、ARにおける自らの運動神経&体力がモノをいう剣士としての強さは、別モノだろうと理性は訴えるものの、その部分のオカシさについては実はあまり気にならない。それは本作が実写ではなくやはりアニメだからであろう――くれぐれも云っておくけど、媒体の優劣をあげつらっているワケではない――。


 それよりも気になるのが、本作における主人公少年&アイドル声優戸松遥演じる細身でお上品でも豹のようにしなやかなメインヒロインの圧倒的で時にチートにも見える強さと、両者のベタベタしすぎてはいないけど盤石にすぎるカップルぶりである。原作は知らないが、この両者の描写&関係性が、個人的にはTV序盤から引っかかっている。


 多数が参加する大規模ネットゲームであるにも関わらず、3次元での素の人格も同様なのであろう、主人公は当初は誰ともチームを組まず、他人との雑談も苦手とおぼしき孤独なプレーヤーとして描かれる。メインヒロインも同様で当初は孤高のプレーヤーとしてツンケンしている。
 VR世界で次々起こるメインイベントと並行して、サブではそんな彼&彼女の「心の変遷」「接近」「集団適応」が描かれていくのかと思いきや……。


 まだ初期話数なのにふたりでともにVR世界のログハウスで過ごして仲良くなってしまう。その直前には、主人公は強者の余裕としてそのスキルを隠して中高生ゲーマーのチームに加わり、ヒロインもいつの間にやら別チームに所属して活躍する姿も描かれる。


 しかし、そこで主題となるのは、内向的な人種が既成集団にあとから参入する際の心理的な敷居の高さではなく、仲間の喪失や集団内部のイザコザである。
 このへんの「イベント」と「心理描写」の順番&優先順位が、筆者個人のドラマツルギー美学とは合わない(汗)。


 が、現実にはこの作品は大ヒットしている。となると自分には合わないと連呼するのも芸がナイ。


 そこで気付く。非日常や異世界を描く作品に心を躍らせ、そーいう状況が現実に招来すれば、ミジメな今の自分を解放して十全に能力も発揮し、全能感・万能感を味わえるに違いない! と若いころは妄想を逞しくしていたことに(笑)。
 若造にはリアルでていねいな段取りを踏んだ「心の変遷」よりも「超越への飛躍」が作品評価や好悪の尺度としては優先される。そんなトコではなかろうか?――違ってたらゴメンなさい(汗)――



 なので、同様に西欧中世風VR世界を描きつつも、車イス少女やクタビれたオッサンに性格異常の小学生など、ゲーマーたちの3次元での実像や屈託も描いていた深夜アニメ『.hack//SIGN(ドット・ハック・サイン)』(02年)の方が筆者にとっては良かったなぁ――古過ぎて若い子は知らない?――。
 近作でもゲームの世界に幽閉される同趣向の『灰と幻想のグリムガル』(16年)・『オーバーロード』(15年)は個人的には楽しめたのだけど――大急ぎでフォローしとくと、『SAO』原作者による別作品『アクセル・ワールド』(12年)は筆者も楽しめた――。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.69(17年5月4日発行))



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#アニメ感想


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正解するカド KADO: The Right Answer』 ~40次元の超知性体が3次元に干渉する本格SFアニメ。高次元を材としたアニメが本作前後に4作も!

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