『心が叫びたがってるんだ。』 ~発話・発声恐怖症のボッチ少女のリハビリ・青春群像・家族劇の良作!
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』 ~長井龍雪&岡田麿里でも「あの花」「ここさけ」とは似ても似つかぬ少年ギャング集団の成り上がり作品!
『さよならの朝に約束の花をかざろう』 ~名脚本家・岡田麿里が監督を務めるも、技巧的物語主体ではなく日常芝居主体の演出アニメであった!
『迷家-マヨイガ-』 ~水島努×岡田麿里が組んでも不人気に終わった同作を絶賛擁護する!
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2019年10月11日(金)からアニメ映画『空の青さを知る人よ』が公開記念! とカコつけて……。
『空の青さを知る人よ』の長井龍雪カントク&岡田麿里脚本コンビの出世作である深夜アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(11年)評をアップ!
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』 ~別離・喪失・齟齬・焦燥・後悔・煩悶の青春群像劇の傑作!
(文・T.SATO)
(2011年8月脱稿・2019年10月加筆)
小学生のころは山中の掘っ立て小屋をヒミツ基地に見立てて集っていた男女6人。時は流れバラバラになっていた彼らは高1の夏、ある事件を契機に、よそよそしくも再会を果たしていく……。
舞台は北関東の山々が目の前に迫る秩父。冬は底冷えするのか掘りゴタツになっている中古な家屋の居間で、都心の酷暑ほどではナイけれども気怠い真夏に、眉間に苛立ち&焦りの表情を漂わせた赤いTシャツに短パン姿の少年がアグラをかいてTVゲームに興じ、昼食はひとりで台所でインスタント・ラーメンを作って食し、朝は2階の自室の寝床から起き上がれない。
そんな彼の日常には、銀髪の長髪に白いロングのワンピースの涼しげで天真爛漫、やや小柄でスレンダーな少女が少々カタコトで幼げにしゃべりかけながら常にかたわらに寄り添っており、アグラをかいた少年のヒザの上に乗っかってきたり、背中から抱きついてきたり、昼食をねだったり、寝床に入ってきさえする。
しかし、彼女の姿は他人には見えない超現実的なモノであり、少年もコレは自身の苦境が産み出した幻覚にすぎないと理性的に把握するというワンクッションを置くことで、我々視聴者も最初からオカルトやSFといった非現実的な事象をメインとした作品ではなく、日常的で現実的な生活&心情の延長線上にある物語なのであろうと直感的に了解させられる。
自宅玄関前の道路で雑談していた近所のオバサンたちが遠巻きに発する不審げな視線を気にするどころかイタく感じて避けるようにふるまい、家屋の中にいても聞こえてくる道路でイチャイチャしながら通行する高校生のバカップルにイライラし、道路でスレちがう同じ高校の制服姿の少年少女たちの姿に身がスクんで逃げ出したくなるところで、彼が不登校の身であり、その心身を焦燥・切迫・衆人環視・不安感にむしばまれていることがヒシヒシと伝染してきて、思わず感情移入をさせられる。
いわゆるマンガ・アニメ的なコレ見よがしではない、あくまでも実写のナチュラル志向の作品的な日常演出でつづられる、夏の気怠さに加味されたヒリヒリした切迫感で、もうこの作品世界の空気・密度感・求心力がジワジワと高まってきて目が離せなくなってしまう。
夏休みの終わりも近付いたある日、そのクセっ毛をツインテールに縛って少々ギャルが入った赤髪のクラスメート女子が、高校で渡されるように依頼されていたプリントを今さらながらに持ってくる。
あるいは、夕方の線路沿いの小道で、別の高校(進学校)に進学した旧友である長身クールなイケメン男子クン&黒髪ロングのメガネ女子にも再会する。そして、改めて痛感させられてしまう越えられない彼我の差……。
赤髪ギャル少女が玄関口で早口で距離感の測り方に戸惑いながらも複雑な表情で放つ「心配なんかしてナイけど、学校に来なヨ」、進学校のイケメン男子クンがクールな低音ボイスで放つ「お前、高校に行ってないんだってナ」(大意)という、たとえ正論や単なる事実の指摘であっても心をエグらえれる、あるいはそうと判って別の言葉を探そうとしても、とっさにはそのようにしか語りかけられない言葉は、憐れみや蔑みとなって不登校から高校中退の危機で人生を転落しかけているやもしれない少年の切迫感にトドメを刺し、視聴者もダメ押しで彼の不登校の現状をハッキリと知る。
加えて、ついクチをついて出てしまった、彼以外の人間には見えない、すでに死していたらしい銀髪少女のアダナ「めんま」の語句(=本名・本間芽衣子のアナグラム)で、奇人変人・凶人を見るような目付きで見られてしまうという始末……。
そして明かされる幽霊少女「めんま」が死した直前の経緯。夏休みのヒミツ基地にて、小学生ながらに恋話(恋バナ)談義となって、「主人公少年クンは『めんま』のことが実はスキなんだろ?」という議題になるや、いかにもヤンチャな小学生男子らしい後先の知恵のなさ、テレくささが先に立ち、異性に対する包容力や度量の大きさがナイので、ついつい声変わり前の少年時代の彼が「誰がスキか! こんなブス!」と売り言葉に買い言葉でウソぶいて叫んでしまい、「めんま」の苦笑したような困ったような期待もしていたような複雑な表情に、居たたまれなくなった彼はその場を逃走!――一般的な小学生の少年にはムリもナイけれど――
自宅に帰宅して昼食を取りながら、彼女に対して悪いことをしたと重々判ってもいる常識人でもある彼は、苦渋の表情で「明日、謝ればイイや……」と考えるのであったが、「めんま」とはそれが最期(さいご)となり、#1の時点ではハッキリとは描かれないモノの、小川のせせらぎに彼女のサンダルの片方が浮かんでいるごくごく短いワンショットが映し出されることで、彼女が山中の川に落ちて果てたらしいことが示唆される……。
オープニング主題歌の映像にもカブる、彼らの怒りも微量に混じったかのような後悔の表情。ヤル瀬のない想いが表出した顔。持って行き場のナイ悲しみの風情。目の前の事物を見ているようでも、眉をひそめて明後日の方向を向いて取り返しの付かない過去を幾度も想起・反芻しているかのような視線。
互いに避けたがっているようでも、秘かに気にもかけてしまう表情演技に見事に象徴されているように、別離・喪失・齟齬・焦燥・後悔・煩悶といった心情を過剰に重たくならない範疇で、痛さや切なさをスパイスにつづっていく群像劇。
体育会系や遊び人のリア充(リアルで充実)な青春とは正反対の青春模様ではある――我々オタのように、自室でアニメやゲームにネット三昧の青春模様ともまた異なるモノではあるけれども(笑)――。
それゆえに、ウラぶれてヒネこびて後悔や不全感にさいなまれている人種ほど、このテの感傷的な作品に執着をいだいて、広い意味での癒やし――重たいカタルシスや慰め――を得てしまうのもよくわかる。筆者もそのひとりではある。
とはいえ、マニアやオタク限定で、ある種のシミったれた性格類型の人種たちだけが愛好する狭苦しい作品にもなってはおらず、アニメファン枠をも越境してオタや好事家だけでなく、一般ピープルどころか老若男女にも広く理解ができる普遍性をも獲得できている作品だとも思えるのだ。
――とはいえ、放映終了から間もない時期に、早くもアニメ誌の表紙をデカデカと飾るほどの大人気を獲得するようになってくると、「ラーメンは屋台にかぎる」の心情で、途端にサメてきたりもするけれど(笑)。もちろん、それは当方が天邪鬼だからにすぎず、作品の罪ではナイ――
「めんま」の幻覚(?)が見えてしまう手掛かりを探るため、思い立って夜間にかつての山中のヒミツ基地を目指した主人公少年は、電灯が灯って生活の気配もすることに驚き、屋内へと飛び込む!
そこにはかつてはチビで坊主頭でメンバー内では味噌っカスでメンタルも幼げな舎弟格であり、今では主人公少年よりもはるかに上背がありガタイもデカい大柄でアロハシャツを着こんだ少年へと変貌した旧友が住み込んでいた。
先の3人とは違って、高校にはそもそも通わず、バイクでの新聞配達や工事現場でのバイトに明け暮れて、カネがたまれば世界各地を旅しているらしい明るい豪傑と化した彼は、主人公少年が不登校か否かなどは気にもせず、分け隔てなく屈託もなくフレンドリーに気サクに接して、しかも「めんま」に関する超常的なエピソードについても、そんなこともあるやもしれない! と信じてしまうのだ。
彼の陽気で能動的なキャラクターがエンジンとなって、物語は動き出し、主人公少年を連れ立って赤髪ギャル少女のお宅にお邪魔して懐かしのゲームを3人で興じて、ついつい夢中になった主人公少年&赤髪ギャル少女は小学生時代のように屈託なく心が通じ合ってハシャいでしまう――即座に互いに赤面してテレくささ&気マズさも復活するけれど(汗)――。ついには全員が集合してかつてのメンバーがヒミツ基地に集って夜間のバーベキュー大会にまでコギつける!
コレらの過程で、パッと見は繊細ナイーブ・内向的で弱そうなタイプにはまるで見えなくて、タフで覇気もアリそうな中肉中背の人間で、ヒッキー(引きこもり)にはなりそうもない少年にも見える主人公クンは、小学生時代はその元気ぶりとアタマの良さで、このグループのリーダー格であり、何の因果かイケメン男子クンと黒髪ロングのメガネ女子が通う進学校に合格できなかったことで、今の高校へと1週間だけは通うモノの、ズルズルと休みだしたら、それが次第に重荷となって不登校状態に追い込まれていったことも明かされる。
そして……。「めんま」の喪失に囚われつづけていたのは主人公少年だけではなかったことも徐々に明らかになっていく……。
イケメン男子クンは実は往時、「めんま」に懸想しており、その恋情はいまだ捨てがたく、かつての「めんま」と同じような白いロングのワンピースのオトナ用衣服を購入。自室のクローゼットに吊して匂いもかいでいる……(汗)。
赤髪ギャル少女も往時は、クセっ毛で黒縁メガネでオトナしかった自身とはルックス&性格も正反対であり――小学生当時のことである。高校生である現在ではコンタクト・レンズであり、派手めなギャルの方向で中学デビューか高校デビューを果たしている――、「めんま」のストレートなサラサラしたキレイな銀髪の長髪、透明感もあって天真爛漫な人となりに、憧れと同時に嫉妬や負け犬意識(!)も子供ながらにいだいていたことを、「スキでキライだった」(大意)とカミングアウトしていく……。
と同時に、小学生時代の主人公少年に好意もいだいていて、あの日に恋バナを振って場の雰囲気を壊して、しかも最悪の事態を招来する契機としてしまったことを後悔しつつも、あの刹那に主人公少年が「めんま」への好意を表明しなかったことに束の間の喜び&希望をいだいてしまった自分を、そして主人公少年をスキだった自分をいまだに許せない気持ちでいることを明かすのだ……。
近郊と地方の狭間、背後に山々が迫る街並みと家屋。無味無臭な東京近郊、私鉄沿線の匿名性の高い住宅街ではなく、アニメという虚構度の高い媒体ではあっても、記名性のある地方を舞台に、煤けた色や匂い・土着臭・生活臭で風情や旅情を多少は出していこうという流行が、ここ10年ほどはあった――実写映画などでも同様であり、アニメジャンルにかぎった話でもなかったのだが……。まぁラノベ原作の深夜アニメ『よくわかる現代魔法』(09年)におけるナゼか閑散(汗)としている「銀座」など、あまり必然性が感じられない作品もあったとは思うけど(笑)――。
明治・大正・昭和の戦前期から昭和末期の1980年代中盤に至るまで、少女絵や少女漫画にTVドラマ『金曜日の妻たちへ』シリーズ(83・84・85年)などが「出窓のある白亜の家屋」にエキゾチックな憧れをいだかせたような時代が長く続いてきた。
しかし、新興住宅街などでデオドラント・清潔で洗練されたデザインの「出窓のある白亜の家屋」に通じるハイソな家屋が現実にある程度までは普及し、作家の三島由紀夫が往時、その論考『文化防衛論』(1968年)でも先読みして危惧してみせたように、「マック」や「スタバ」に「コンビニ」で「駅前風景同一化」、一応の「近代」が達成されると、人々は身勝手なものである。
今度は作り手・受け手双方ともに、失われた――あるいは消えつつある――「田舎」や「土着」的なものに逆エキゾチシズム(異国情緒)やシャレっ気を感じて、そこを舞台とすることにウキウキして、キャラクターやドラマ性やテーマ性以前のもっと原初的なところにある情動を刺激され、それが創作意欲や視聴意欲のエンジン・駆動力ともなっている事態を招来しているのが現代という時代のようでもある。私見ながら、この傾向は今後も継続すると予測する。
――現今の「新自由主義経済」のさらなる進展で、「貧富の格差」が拡大し、貧困者が激増してしまえば、また数十年後には「白亜の豪邸」に憧れる人種が多数派となる未来が招来されるやもしれないけれども(汗)――
パーツ的な可愛さや属性を誇張・極端化した記号的な美少女キャラクターたちがキャッキャウフフするベタなお約束作品を否定するワケでは決してナイけれど、本作『あの花』はイビツなハーレムや逆ハーレムではなく登場人物の男女比率も均等であり、しかもワリとナマっぽくて現実の人間にも近しい登場人物たちを配置もしている。
主人公少年が高校1年生の1学期をすでに「ひきこもり」として過ごしていたという愁眉な導入部からして助走台として絶妙だし、1980年代中盤以降に拡大したと思われるイケてる系イケてない系の今で云うスクールカーストも反映して――1960年前後生まれのオタク第1世代に聞くと1970年代の中高生にそこまで露骨で細分化・可視化されたカーストはなかったとも聞く(汗)――、「めんま」や赤髪ギャル少女の助言で主人公少年がひさしぶりに登校してみるも、街中や通学路におけるクラスメートでもあるギャル高生たちの小さなイジメもオッケーな、主人公少年に対する包摂とは真逆の実に失礼千万、全人格否定的な嘲笑・愚弄描写ともあいまって、彼が道をますますハズしていきそうな焦燥感もいや増してくる。
ただ、主人公少年自身は真性の生来からの気弱なオタクタイプではさらさらなく、ガキのころはヤンチャでリーダータイプでもあったりして、劇中後半でも描かれた通り、赤髪ギャル少女も働いていた中古ショップでのバイト中の一応のテキパキとした働きぶりなり、工事現場での肉体労働なりでもガテン親父たちともまぁまぁウマくコミュニケーションが取れていそうな適度なタフさやラフさはある。
そのような人種とは毛ほども気が合うことはなさそうな我々のような真性オタク連中とは異なり(笑)、必ずしも「学校」を経由しなくても最終的には「現実社会」に着地ができそうな「救い」は感じられる。
真性オタなら、体育会系の職場で気が合う人種を見つけて、そこが居場所になることもアリエナイ(笑)。やはり「コミケ」や「ネット」や「趣味」という仮想的な「場所」に精神的な帰属意識を見いだして、たとえ幻想・錯覚であろうと、そこで束の間の「安息」を得るのが関の山であろう。
同様に、本作と同期の2011年春季にはラノベ原作の深夜アニメ『電波女と青春男』が放映されていて、ある意味では『あの花』とも通じる、高校中退ヒッキーのハクチ的で意志薄弱そうでもある美少女キャラをメインヒロインに据えていて、こんなに自尊感情も低そうな弱者女子なら、劣等男子である自分のことを値踏みもしてこないだろうし、ひょっとしたら受け容れてくれる可能性が高いやも!? と錯覚させて、一部のオタク男子たちを誘蛾灯でバチバチと感電死させていたけど(笑)、要はこのヒロインは主人公男子から見た「客体」にすぎなくて、その彼女の内面を自立した「主体」として描いた作品ではナイ。
リアルに考えれば、この情緒不安定で他人への依存心もカナリ強そうなハクチ的美少女は、名作文学の読書でもして語彙を増やして、それで内面を耕したり自身の心情の微細なヒダヒダを客観視・整理整頓もさせながら、その機微を発露・発散もすることで、我々オタク連中のように内面世界をあまたのサブカル知識やその言葉の重みで重心を下げることで、自身の心理的安定感を保つようなタイプでもナイ。内面もボキャ貧のままでフワフワして自身の複雑な心情をウマく整理もできないまま、情緒不安定のままで今後の人生を送っていくような将来が眼に見える。
ただルックスには恵まれているので、オトコに言い寄られて断れずに(笑)結婚なり同棲はできることで、主婦やパートとしてその彼にブラ下がって生きていけそうではある――ご近所付き合いやママ友たちとの付合い、子供ができてもママさんデビューなどでは苦労しそうだけど――。ただし、運悪くヤンキーDQN(ドキュン)な軽薄で浮気症でドメスティック・バイオレンスなバカ男につかまってしまえば、身を持ち崩して転落しそうでもある(汗)。
彼女と比すれば、『あの花』の主人公少年は地に足が着いた生活を送れそうだし、ギャルとしてデビューしつつも小さなイジメもOKなギャルである同級生ふたりと赤髪ギャル少女は根底の倫理・礼節の次元で気が合わないところも描かれて、黒髪ロングのメガネ女子はもちろん身持ちが堅くて堅実な常識人でもあるサマが看て取れる。
本作『あの花』にて某キャラが演じた女装姿は、もちろん「性同一性障害」などではなく、かつて恋い焦がれた少女を我がモノにしたい、彼女と同一化したいという願望が屈折したかたちで具現化したモノでもあった。奇しくも本作の前期に同じフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放映された2011年冬季の女装中学生を描いたマニア向けマンガ原作のアニメ『放浪息子』――脚本は本作『あの花』と同じく岡田磨里!――にも、主人公の優しげでオトナしげな女々しい中学生少年が女装をするようになっていくという展開があった。しかも、女装趣味をカミングアウトしたあと、クラスメートたちに迫害されて、ヒッキーならぬ保健室登校の身に転落もしてしまう。
ただし、コチラも真性の「性同一性障害」などではなく、彼個人の人格のホンの少しの強さと学内イベントを契機としたクラス復帰で、将来的には彼も何とかなりそうな予感で終わっていく――逆に云うならば、彼と一緒にツルんでいて、彼よりも気が弱そうなメガネの女装男子クンの方が同作『放浪息子』の主人公であったならば、バッドエンドになっていきそうな思考実験もできてしまいそうではあったけど(汗)――。
本作『あの花』をダシにして、他作にも串刺しで言及していて恐縮だが、本作は『電波女と青春男』や『放浪息子』などのように、元から内向的で気弱でコミュ力弱者タイプの少年少女がひとりで悶々と煩悶してコジらせていくような純文学の伝統(笑)にのっとることを目的とはしておらず、もう少しタフだけれども万人が進む道を踏み外しそうになっている主人公少年を起点に、取り返しの付かない過去への悔恨に満ち満ちた少年少女たちの群像劇を描くことを主眼とする作品ではあるから、そこに焦点が行かないことに問題も不満もナイ。
本作は今では得手勝手に他人同士として独自の人生を歩んでいると思っていた旧友たちが、様々な理由や心情や行動様式で子供の時分に喪った少女の友人「めんま」を心の深いキズとして負いつづけていることをていねいな筆致で、秘密・性癖・三角関係や四角関係でもある片思いや秘めたる嫉妬なども、時に攻撃的・自傷的・自嘲的に描いてきた。
監督・脚本・キャラデザ作画のスタッフ編成的にも、ラノベ原作の深夜アニメの名作『とらドラ!』(08年)コンビには土下座します! とオトしてもイイのだけれども(汗)、それだと没論理なのでもう少し腑分けして、小さな瑕瑾(かきん)についても語ってみたい。
奇抜な事件や入り組んだストーリーが主体ではなく叙情性の方が主導する作劇なので、本作のシリーズ後半はやや似たような話が連発することで足踏み感があり、ストーリーの進展も遅くなったように見える点、ガタイがよくて気前もイイ陽気な少年クンと亡き少女との間にもあった決定的な関わり――ある意味ではメンバー間でも一番キョーレツな!――が終章直前に明かされるあたりは、やや唐突感もあり伏線がほしかった気もしはする。
とはいえ、それらも作り手のねらいではあり、足踏み感とは改めての彼らの不全感の再現でもあり、伏線でオチがミエミエとなってしまうのであればサプライズ優先で起承転結の「転」の方を優先するストーリーテリングで訴求やヒキを作っていく方がツカみもメリハリも強いだろうと考えると、トータルで勘案すれば出来上がった作品のかたちで正解であったのであろうとも思えてくる。
幽霊少女「めんま」はナゼ復活したのか? この世への未練や後悔があるからなのか? ならば成仏させてあげるべきなのか? しかして成仏させて彼らと再度の別離をすることもまたそもそも正しいといえるのか?
イケメン男子クンの女装とそのネジくれた想いにウスウス気付いている黒髪メガネ少女。
感情を爆発させた赤髪ギャル少女が涙を流しながらイケメン男子クンを両手で叩きだしながら急接近する姿。
それを目撃して、持ち前のクールさや控えめさがウラ目に出て、そこに割って入ることができずに悶々とするどころか、自分よりも赤髪ギャル少女の方が彼と気が合っているのではないのか? と思っているのであろうことを一瞬にして想起させる、物陰に引いてしまう黒髪メガネ少女の寂しげな後ろ姿のワンショット。
そんなもろもろも経た末に、幽霊少女「めんま」をめぐった物語は最終局面を迎えていく……。
オタク向けジャンルの歌舞伎的様式美のお約束に捉われない、ゆえに周辺層・ライト層・一般層の人種にも勧められるであろう良作が誕生したとも私見。
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http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20151102/p1
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2007年秋アニメ評! 『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』 ~第1期・第2期・劇場版・総括!
2007年秋アニメ評! 『GR ジャイアントロボ』
2005年秋アニメ評! 『BLOOD+(ブラッド・プラス)』
2005年夏アニメ評! 『おくさまは女子高生』
2005年夏アニメ評! 『奥さまは魔法少女』
2005年春アニメ評! 『英国戀(こい)物語エマ』
2004年秋アニメ評! 『機動戦士ガンダムSEED DESTINY(シード・デスティニー)』 ~完結! 肯定評!!
2004年冬アニメ評! 『超変身コス∞プレイヤー』『ヒットをねらえ!』『LOVE♡LOVE?』『バーンアップ・スクランブル』『超重神グラヴィオン ツヴァイ』『みさきクロニクル ~ダイバージェンス・イヴ~』『光と水のダフネ』『MEZZO~メゾ~』『マリア様がみてる』『ふたりはプリキュア』
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040406/p1
2003年秋アニメ評! 『君が望む永遠』『ヤミと帽子と本の旅人』『一騎当千』『神魂合体ゴーダンナー!!』『瓶詰妖精』『bps』『ASTRO BOY 鉄腕アトム』
2003年夏アニメ評! 『グリーングリーン』『ダイバージェンス・イヴ』『D.C.~ダ・カーポ~』『住めば都のコスモス荘 すっとこ大戦ドッコイダー』『HAPPY☆LESSON ADVANCE』『おねがい☆ツインズ』
2003年冬アニメ評! 『ストラトス・フォー』『ガンパレード・マーチ ~新たなる行軍歌~』『MOUSE[マウス]』『ぱにょぱにょ デ・ジ・キャラット』『陸上防衛隊まおちゃん』『朝霧の巫女』『らいむいろ戦奇譚』
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040402/p1
#アニメ感想 #あの花 #あのはな #あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない #長井龍雪 #岡田麿里
BS12「日曜アニメ劇場」で劇場版が5/23放映記念とカコつけて!
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『あの花』評~「マツコの知らない世界」で紹介記念!
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