假面特攻隊の一寸先は闇!読みにくいブログ(笑)

★★★特撮・アニメ・時代劇・サブカル思想をフォロー!(予定・汗)★★★ ~身辺雑記・小ネタ・ニュース速報の類いはありません

ゼロから始める魔法の書 ~ロリ娘・白虎獣人・黒幕悪役が、人間×魔女×獣人の三つ巴の異世界抗争を高踏禅問答で解決する傑作!

『異世界かるてっと』 ~原典『幼女戦記』『映画 この素晴らしい世界に祝福を!-紅伝説-』『Re:ゼロから始める異世界生活 氷結の絆』『盾の勇者の成り上がり』『劇場版 幼女戦記』評  ~グローバリズムよりもインターナショナリズムであるべきだ!
『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』『私、能力は平均値でって言ったよね!』『旗揚!けものみち』 ~2019秋アニメ・異世界転移モノの奇抜作が大漁!
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧


[アニメ] ~全記事見出し一覧


 2019年11月8日(金)から小説投稿サイト出自の深夜アニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』(16年)の銀髪ロングのメインヒロイン・エミリア嬢を主役に据えた前日談OVA『Re:ゼロから始める異世界生活 氷結の絆』が劇場先行公開記念! とカコつけて……。
 まったくの別作品だけれども、作品名が似ている異世界ファンタジーで、アニメ製作会社も同じだから……とコジつけて(く、苦しい・汗)、ライトノベル原作の深夜アニメ『ゼロから始める魔法の書』(17年)評をアップ!


ゼロから始める魔法の書』 ~ロリ娘・白虎獣人・黒幕悪役が、人間×魔女×獣人の三つ巴の異世界抗争を高踏禅問答で解決する傑作!

(文・T.SATO)
(2017年12月13日脱稿)


 美女と野獣ならぬ、ロリ娘と白虎獣人を看板に据えた、ラノベ原作の西洋中世ファンタジー風アニメ。


 少女と獣人などの変則的な組合せを見ると、筆者のようなネジくれた人間は、野郎キャラを人間ではなく触手を生やしたメカや異形(いぎょう)の生物に代替して女性を凌辱していた80年代オタクたちの発明(汗)を連想してしまい、本作に対しても女性に対して醜く発情した自身の似姿を見たくない、良く云えば繊細で悪く云えば欺瞞的な心性をウラ読みしてしまう。


 絵柄も5頭身でシンプルな描線かつデフォルメされたものであること、ヒロインがロリロリした見た目なことから、往年のラノベ原作アニメ『ゼロの使い魔』(06年)のごとくナンちゃって感の漂うロー・ファンタジーや、同じくラノベ原作の『灼眼のシャナ』(05年)のように10代の少女なのに幼稚園児のメンタルしか持たないヒロイン(笑)が活躍する、オボコい感じの作品を事前にイメージしたのだが……。


 あにはからんや内容はガチのハイ・ファンタジー。どころか社会派でリアル・ポリティクスな物語でもあった!


 劇中世界の「獣人」が「人間」とは別種族の存在ではなく、「人間」の夫妻から突如生まれる「突然変異」だとの世界観説明を手早く済ませて、西洋中世風な石造りの街を舞台に、その顔面をフードで深く隠すもその正体が「獣人」だと知れるや、差別されたり一宿一飯を確保するのにも苦労する、野太い声のマッチョで傭兵稼業な白虎獣人くんのサマが描かれる。


 社会に紛れ込んでいるフツーの人間とは異なる宇宙人・改造人間・超能力者などの異端の存在だと聞くと、古いオタとしてはそこにオタの弱者・少数派としての自己憐憫(笑)の投影と、実社会においては無用である自身の才能・技量・能力を秘かに自負・誇っていたりもする、ウラ返しの大衆侮蔑な優越感を連想してしまって、斜め上からチャカしたくなって手ぐすね引いて待ってしまうけど、本作は安直な「俺TUEEE(強エーー)系」作品にも陥(おちい)らないので隙がない(汗)。


 あげくの果てに夜道では、「魔女」が強くなるには「獣人」の首チョンパが必要だとの設定で、アフリカの黒人社会に色濃く残るアルビノ――肌の色が白い突然変異の黒人――を拉致して食する悪習同様に(汗)、白虎獣人クンの寝首を掻(か)こうと、のちにレギュラーキャラとなる金髪少年魔女(語義矛盾・汗)クンが襲ってくる!
 逃亡の果てに崖から転落した先で、ゼロと名乗っている銀髪ロングのロリ娘の手鍋の夕食を台無しにしてしまう出会いのシーンや、空腹のロリ娘を見捨てられずにムダ話をした果てに彼女と契約を結んでみせる導入部は、世界観&キャラを「説明」ではなく自然な「叙述」として仕上げてもおり惹き込まれてしまう。


 ロリ娘は世間知らずという点では幼稚園児並みだけど、新進の花守ゆみり嬢がボソボソ声で「我が輩」を自称し、終始ロジカルにしゃべる学究魔女なるも、白虎獣人くんを余裕を持ってカラカって、時にデレてもみせる多面性も好感が持てるところだ。


 道中で立ち寄った関所付きの村落を牧歌的な「理想郷」とは描かずに、拾った指輪だけで盗人・魔女扱いしてくる八つ墓村のような因習的な「ムラ世間」としても描いており、「人間×魔女」「人間×獣人」「獣人×魔女」の三つ巴の抗争図式も提示する。


 ミクロな出来事から始まって、ロリ娘ことゼロ嬢自身も知らなかった、その当の彼女を勝手に旗印に掲げている「ゼロの魔術師団」(笑)なる魔女連合が、人間の「王国」に戦争を挑まんとしているマクロな状況も徐々に浮上してくる。
 かといって、反体制・反権力・革命サイコー! みたいな旧態左翼的な二元論にも陥らず、魔女は人間の村を襲撃して人間も魔女狩りを行なっているドッチもドッチで、ロリ娘&白虎獣人が両者いずれにも加担せずに第3の立場に立つ作劇は実にクレバー(利口)である。


 さらには、「王国」に協力して魔女狩りにも加担している黒幕の魔術師が、魔女連合の「ゼロの魔術師団」のトップと同一人物でもあるマッチポンプと、彼がかつてはロリ娘の同僚でもあったことまで判明して、コイツが諸悪の根源なのか!? と思いきや、アタマが良すぎる彼の人間の業までをも見通している世界認識と、そのアクロバティックな処方箋によって一部の真の悪だけを打倒して、この世界に平和を招来せんとしていた目論みについても明かされていく。
 最後はロリ娘と黒幕の魔術師との高踏すぎる禅問答の積み重ねの果てに、この黒幕魔術師も打倒されずに、高度な妥協点を見出して戦いが回避される妙味から来る深い感慨。


 スゴいものを観たゾと思って、円盤売上をググってみると300枚の大爆死(汗)。
 ある作品の「売上が好調だ」という話をすると「それは作品の質とは別の話だ」というご批判をいただいて、まさにその通りだとも思うのだけど、ならば「駄作であることを人気のなさが証明している」といった陳腐(ちんぷ)な論法も返す刀でやめてほしいものである(笑)。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.70(17年12月30日発行))


[関連記事] ~異世界が舞台のアニメや、魔女や魔法少女アニメ評!

2020~16年アニメ評! 『異世界かるてっと』 ~原典『幼女戦記』『映画 この素晴らしい世界に祝福を!-紅伝説-』『Re:ゼロから始める異世界生活 氷結の絆』『盾の勇者の成り上がり』『劇場版 幼女戦記』評  ~グローバリズムよりもインターナショナリズムであるべきだ!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210912/p1

2020~13年アニメ評! 『はたらく魔王さま!』『魔王学院の不適合者~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』『まおゆう魔王勇者』『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』『百錬の覇王と聖約の戦乙女(ヴァルキュリア)』 ~変化球の「魔王」が主役の作品群まで定着&多様化!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201206/p1

2019~13年アニメ評! 『せいぜいがんばれ! 魔法少女くるみ』『魔法少女 俺』『魔法少女特殊戦あすか』『魔法少女サイト』『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』……『まちカドまぞく』 ~爛熟・多様化・変化球、看板だけ「魔法少女」でも良作の数々!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201122/p1

2020年冬アニメ評! 『異種族レビュアーズ』 ~異世界性風俗を描いたアニメで、性風俗の是非を考える!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200327/p1

2019年秋アニメ評! 『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』『私、能力は平均値でって言ったよね!』『旗揚!けものみち』 ~2019秋アニメ・異世界転移モノの奇抜作が大漁!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191030/p1

2017~18年アニメ評! 『魔法使いの嫁』『色づく世界の明日から』 ~魔法使い少女にコミュ力弱者のボッチ風味を加味した良作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201129/p1

2018年冬アニメ評! 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』TV・外伝・劇場版 ~大傑作なのだが、「泣かせのテクニック」も解剖してみたい!』

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211108/p1

2017年冬アニメ評! 『幼女戦記』 ~異世界近代での旧独vs連合国! 新自由主義者魔法少女vs信仰を強制する造物主!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190304/p1

2016年春アニメ序盤評! 『甲鉄城のカバネリ

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160502/p1

2015年夏アニメ中間評! 『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』『六花の勇者

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150901/p1

2015年夏アニメ評! 『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』1期&2期  ~ネトウヨ作品か!? 左右双方に喧嘩か!? 異世界・異文化との外交・民政!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211010/p1

冴えない彼女の育てかた♭ ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!

『WHITE ALBUM 2』 ~「冴えカノ」原作者が自ら手懸けた悲恋物語の埋もれた大傑作!
『冴えない彼女の育てかた Fine』 ~「弱者男子にとっての都合がいい2次元の少女」から「メンドくさい3次元の少女」へ!
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧


[アニメ] ~全記事見出し一覧
[オタク] ~全記事見出し一覧


 2019年10月26日(土)から深夜アニメ『冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた』(15年)とその続編『冴えない彼女の育てかた♭(フラット)』(17年)の完結編映画『冴えない彼女の育てかた Fine(フィーネ)』が公開記念! とカコつけて……。『冴えカノ』原作者の丸戸史明(まると・ふみあき)が自ら全話の脚本を手懸けた『冴えない彼女の育てかた♭』評をアップ!


冴えない彼女の育てかた♭』 ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!

(文・T.SATO)
(2017年7月29日脱稿)


「学園一の美少女がラノベを読むなんて!」


と金髪ツインテール娘が、夕陽が差す人気のない放課後の階段で、恋敵の黒髪ロング娘をさげすむ!


 ……そうか。やはりライトノベルを読むのはカッコ悪いことで、バレたらスクールカースト最下層に落ちるから、こんな脅迫が成立するんだネ!(爆)


 後日、


「オタク差別は根が深いのよ!」
「(小学生の時)毎日毎日はやし立てられて、先生だって判ってくれなくて……」


と自身もオタのクセに、男性向け18禁同人誌の大人気作家の正体を隠していた金髪ツインテは、校舎の屋上で黒髪ロングにそのことで迫られて取り乱す!


 ……そうそう、30年前のMクン事件直後の大弾圧の時代と比すれば、オタも随分と市民権を得たけれど、差別がなくなった! イケてる系とイケてない系が等価になった! なんて極論はウソだよネ!


 同時に、黒髪ロングは金髪ツインテ


「アナタはヒトを楽しませるために絵を描いてるんじゃない。いわば復讐みたいなもの!」


と評す。金髪ツインテも売り言葉に買い言葉で、黒髪ロングを


「あなたが書く大ヒットラノベはヒトの感情をテクニックで操る単なる計算。復讐みたいなモチベーションすらない!」


と切り返す!



 池袋の複合映画館シネマサンシャインで――後日付記:2019年夏に閉館して近隣で再オープン!――、『あの花』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191103/p1)ならぬ『あの雪』(笑)を鑑賞した黒髪ロングは、


「脚本は陳腐もいいトコ。絵・音楽・声優の演技で『何だかわからないけどスゴい』と押し切られてるだけ」


と語る。


「それは演出が良かったと評すべき」


と反駁する黒ブチ眼鏡の主人公で消費ブタなオタク高校生男子に、黒髪ロングは


「妄信的な信者こそが制作者を堕落させる」


と手厳しい。


 黒髪ロングと主人公男子のデート(?)をストーカー(汗)していた金髪ツインテは、対照的に『あの雪』鑑賞後に滂沱の涙を流している。


 あまつさえ、自身の境遇と重ねてか「幼馴染エンド」の素晴らしさを、鑑賞後の喫茶店で鼻息荒く語り出して(笑)、本作メインヒロイン(?)のユルふわでサバサバ、刺激と腰がない柔らか~い声質&スローモーな語り口調が特徴で、非オタの黒髪セミロングの加藤さんが「フ~~ン」と受け止めてあげている(受け流している?・笑)姿も描くことで、ヒロイン3人の対比の妙まで描き出す。


 絶妙なまでの魅力的な美少女キャラの描き分け&ギャグ描写の両立を通じて抽出される、オタを取り巻く状況論・オタが創作に走る動機論・同じオタでも個々人の感動のツボの違い。それらをメタ的に言及してみせる数々の展開が、「あるある」的に刺さる刺さる(笑)。


 コレらは大昔なら、文芸小説の肉筆回覧同人誌であったモノが、美術部や漫研サブカル評論のサークルや文化系部活に取って代わり、さらに現在ではパソコンゲームを作る高校生サークルの面子に変化したモノだともいえるだろう。
 しかも、ゲームだから、脚本・(止め)絵・プログラム・監督などの複数名での役割分担。
 しかし、表層の意匠は違えど、創作の苦楽、才能の限界やスランプにその突破などは、我々のような人種なら、それらに共感・憧憬するトコロが大だろう。


 まぁそれらのスキルは、プロで大成功したならともかく実社会で通用するものではなかったり、世間一般での成長・人格鍛錬・コミュ力向上とは真逆で、鍛えれば鍛えるほど現実不適応になっていく半面もあるけれど(汗)。


 とはいえ、安直なオタ賛美、オタク・イズ・ビューティフル、オタク・エリート説にも陥らず、オタクサークル漫画『げんしけん』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071021/p1)における春日部さんや、深夜特撮『非公認戦隊アキバレンジャー』(12年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200223/p1)におけるアキバブルーみたく、外部や他者である非オタのヒロイン・加藤さんのサメた視線を配することで、オタの言動の奇矯さや滑稽さ、その善悪両面をビビッドに多角的にウキボリにするあたりも、非常にフェアだと思う。


 もちろんオタのサークルに非オタが紛れ込んで、その本心や知見を開陳し合うことなどまずはナイ。学園№1&№2の美少女の正体が業の深いオタで、ゲーム制作を手伝ってくれてオタク少年にデレたり誘惑したりプチ嫉妬して、フェチ的なアングルや描線の数々とも相俟って胸キュンさせてくれることなど現実にはアリエない。
 しかし、フィクションは事実よりも真実。現実世界では非リアルな出来事でも、物語世界では人間のリアルを突いてくることはありうる!


 終盤、次は伝奇ファンタジーではなく、日常での女の子のナマっぽい可愛さを描くゲームを作ろうとオタク少年は決意する。コレなぞも宇宙SFやファンタジー、果ては宇宙人・未来人・超能力者が学園に存在しなくても、女の子とのやりとりだけで間が持たせられるように進歩したジャンルへの自己言及ですらある。
――他方で35年前の「アニメ新世紀宣言」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990801/p1)で言明されたアニメの未来は、こんな小市民的な作品の隆盛ではなかったとも思うけど(笑)――


 一昨年2015年冬アニメの売上的覇者だった本作第1期は、個人的にはヒドい安っぽい作りで、同じ原作者が本作同様に脚本も手懸けた『ホワイトアルバム2』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191115/p1)の足元にも及ばない出来だと感じたけど、原作ラノベ番外編『冴えない彼女の育てかた ガールズ・サイド』全2巻分を背骨に据えた第2期たる本作は、打って変わって大傑作。第1期は観ない方がイイ、第2期の方から観てください! という傑作に仕上がったと思う(私見です・汗)。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.79(17年8月12日発行))


[関連記事] ~オタクサークル&オタク集団・作品評!

げんしけん二代目』 ~非モテの虚構への耽溺! 非コミュのオタはいかに生くべきか!?

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160623/p1

トクサツガガガ』(TVドラマ版)総括 ~隠れ特オタ女子の生態! 40年後の「怪獣倶楽部~空想特撮青春記~」か!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190530/p1

『怪獣倶楽部~空想特撮青春記~』に想う オタク第1世代よりも下の世代のオタはいかに生くべきか!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20170628/p1

アオイホノオ』実写ドラマ版 ~80年代初頭のオタク! 原作マンガよりも面白い傑作に仕上がった!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220103/p1

冴えない彼女の育てかた♭(フラット)』 ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191122/p1(当該記事)

ヲタクに恋は難しい』 ~こんなのオタじゃない!? リア充オタの出現。オタの変質と解体(笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200216/p1

WHITE ALBUM2 ~「冴えカノ」原作者が自ら手懸けた悲恋物語の埋もれた大傑作!

『冴えない彼女の育てかた♭』 ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!
『冴えない彼女の育てかた Fine』 ~「弱者男子にとっての都合がいい2次元の少女」から「メンドくさい3次元の少女」へ!
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧


[アニメ] ~全記事見出し一覧


 2019年10月26日(土)から深夜アニメ『冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた』(15年)とその続編『冴えない彼女の育てかた♭(フラット)』(17年)の完結編映画『冴えない彼女の育てかたFine(フィーネ)』が公開記念! とカコつけて……。『冴えカノ』原作者の丸戸史明(まると・ふみあき)が自ら全話の脚本を手懸けた名作深夜アニメ『WHITE ALBUM2(ホワイト・アルバム・ツー)』(13年・原作ゲーム版の初出は10年)評をアップ!


『WHITE ALBUM 2』 ~「冴えカノ」原作者が自ら手懸けた悲恋物語の埋もれた大傑作!

(2013年・PROJECT W.A.2)


(文・久保達也)
(2015年2月2日脱稿)


 美少女ゲーム界隈では相応のビッグタイトルで、自身もヒロインを演じた深夜アニメ版の主題歌『深愛(しんあい)』を歌唱したアイドル声優水樹奈々が、この歌曲を契機に「NHK紅白歌合戦」で2009年から6年連続出演を果たした、1986年を舞台とした恋愛ものの深夜アニメ『WHITE ALBUM(ホワイト・アルバム)』(09年・原作ゲーム版の初出は98年)の続編ではない。そのタイトルだけを冠に掲げた、原作者も異なるまったくのオリジナル作品。


 峰城大付属学園3年E組の北原春希(きたはら・はるき)。彼はコミュニケーション能力も高いけれど軽佻浮薄な男子では決してなく、性格も実に良くて博愛的で公共心・モラルにも富んでいる爽やかな好青年である。
 そんな彼が所属している軽音楽同好会が相次ぐ部員の脱退により、学園祭への参加が危ぶまれてしまう。それをあきらめきれない春希が、同好会に勧誘したふたりの少女との運命的な出会いから物語は始まる。


 軽音楽同好会なんていうと、それこそ軽薄な「ロック命!」みたいな輩を連想するかもしれない――春希の親友で部長の飯塚武也(いいづか・たけや)の方は、ルックスも制服の着崩し方もいかにもそれっぽいが――。
 だが、春希は成績が常に学年順位トップの優等生であり、クラス委員長も務めて、他人や弱者に対する面倒見がよいのに加えて、チョイ悪(わる)の生徒に対しても物怖じせずに対等にクダけた会話もできるような、極めてモラリスティックかつ裁けたタイプの柔和な生徒なのである。
 いや、そうでなければ、本作のような物語は決して成立しなかったように思えるのだ。


 春希がギターを練習する第一音楽室の隣にある第二音楽室から聞こえてくる、まるで春希と合奏しているかのようなピアノのメロディ。
 その奏者が誰であるのかを第2話のラストまで正体不明としたままで、合奏にあわせて歌う声が屋上から響き渡り、春希が矢も盾もたまらずに階段を急いで駆け上がってドアを開けるや、美しい夕焼けの中でひとりの美少女が夕日に向かい手を高々と掲げながら歌唱しているという、あまりに幻想的なムードが、彼女が本作のヒロインであることを絶妙に描き出している!


 彼女は2年連続でミス峰城大付属に選ばれるほどの学園のアイドル・小木曾雪菜(おぎそ・せつな)。ルックス的にはメジャーな作品で例えれば、名作ロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年・GAINAX テレビ東京https://katoku99.hatenablog.com/entry/20110827/p1)の栗色の髪の毛の明るい元気なヒロイン・アスカから毒を抜いた感じってところか?――

 だが、そんな学園のアイドルが眼鏡をかけ、地味な格好でスーパーの裏方としてアルバイトする姿を春希が目撃したり、「ひとりカラオケ」が趣味であることを春希に暴露したあげく、バイト姿とは一転しフリル付きのミニスカ姿で中島みゆきの名曲『悪女』(81年)を歌うなど――これは立派な「伏線」となっている――、雪菜が単なる学園の高嶺の花の苦労知らずのリア充(リアル充実)のアイドルではない、苦労人で常識人でもあり(ひとり)ボッチ的なところもある、本作のメイン視聴者である我々キモオタ(笑)にも微量に通底している存在であるとして、親近感を持たせていく塩加減の描写も絶妙である。


 さらに言えば、雪菜の声はキャピキャピとした、いわゆるアイドル声とは微妙に異なる。
 作品の題材や役柄的に歌唱力が要求されたこともあるだろうが、意外に芯が強くハッキリと自己主張をするかのような声の持ち主を起用したことが、雪菜本来のキャラクターを見事なまでに浮き彫りにしている。


 第2話のラストでは、もうひとりのヒロインが劇的な登場を果たす。
 鍵のかかった第2音楽室で自分のギターとセッションする奏者の正体を突きとめるために、春希はたまたま現れた柔道部員から帯を借り、それを命綱として校舎づたいに第2音楽室を覗こうとする――ほとんどスパイダーマンである(爆)――。
 あわや宙づりとなった春希の手を、がっしりと受けとめたピアノ奏者の正体は……


かずさ「バカヤロウ! ……大事な手をこんなことに使わせやがって!」


 彼女もまたれっきとした本作のヒロインであることを強調するには、あまりにドラマチックな超絶インパクトの演出である!


 もうひとりのヒロインの名は冬馬かずさ(とうま・かずさ)。かずさは名作深夜アニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20150403/p1)のWヒロインのひとり、雪ノ下雪乃(ゆきのした・ゆきの)を、さらに暴力的にした(笑)ツンデレ娘と言えばピッタリであろうか? 黒髪ロングで普段は憂(うれ)いを秘めたクールさがあるも、少々気が強くて姉御肌である点が共通しているように思える。
ASIN:B06VY9SJCR:detail
 かずさは海外で活躍するピアニスト・冬馬曜子(とうま・ようこ)――これがまた典型的なアラフォーリア充女のルックスで、どうしようもない母親であることを絶妙に表現している(爆)――の娘であり、母親譲りのピアノの才能を誇る。


 その才能から音楽科に入学したかずさだが、あまりの素行不良が教師たちに問題視されるものの――例によって無神経な体育教師が本作にも登場!(爆)――、曜子が学園に多額の寄付をしていることから、普通科への編入を条件に退学を免れたという、曰(いわ)く付きの娘である。


 第3話で春希と雪菜がかずさを軽音に勧誘しようと雪菜の自宅に呼んだ際、かずさが美脚を強調したショートパンツ姿であることに春希が言及しようとするや、


「感想なんか言ったら蹴飛ばすぞ」


などと、初期は粗暴な面を見せることが多いかずさだが(笑)、一方で教室では授業も聞かずに、ほぼまる一日机に突っ伏して寝ているという、やはりどこまでもミステリアスな雰囲気を徹底しているのは圧巻である。


 そんな「3人」が、学園祭限定のユニットを組むことになり、猛練習の日々の中、当初は人を寄せつけない性格だったかずさも次第に打ち解けていき、雪菜は出会った当初から春希に抱いていた想いをいっそう強くしていく。


 第7話で、大盛況となる「3人」のステージの描写は、黒いブラ1枚と青のミニスカ姿という露出度大のかずさが間奏部分で突然サックスを吹くサプライズが絶妙だが、その裏では実は雪菜とかずさが春希をめぐって火花を散らしていた!


 「祭り」のあと、雪菜は春希に愛を告白、春希はそれを受け入れ、ふたりは熱い口づけを交わす。
 それでもなお、これからもずっと「3人」でいたいと考える春希と雪菜は、クリスマスや忘年会・ちょっと早めの卒業旅行などを兼ね「親友」のかずさを誘い、「3人」で温泉旅行に出かける。
 これが第8話までの概略である。


 アラスジだけ書くと一見、おもいっきりの「リア充」たちの物語であるかのような、我々みたいな種族の「敵」が描かれているように誤解されるだろうが(爆)、観ている分には実にていねいで繊細な筆致でストーリーや各キャラも描かれていて、ついつい没入して見入ってしまうのだ。


 だが、これは「起承転結」の「承」までにすぎない。
 これまで春希=主人公の視点で描かれてきた群像劇が、第9話でかずさが登校しなくなるのを皮切りに、第10話中盤から第11話にかけ、かずさ=真のメインヒロインの視点で時系列をさかのぼることで、これまで明かされていなかったかずさ、そして春希がその心情を吐露するという、衝撃的な「転」――そもそも春希の主観で物語が進められてきたハズなのに、そこでかずさに対する想いがいっさい語られてこなかったというのは、完全な作劇的「反則技」である!(笑)――。
 そして第12話から第13話の、あまりに「残酷」にすぎる「結」へと至る展開は、おもわず一気に視聴してしまったほど、片時も目が離せないものであった。


 第10話で、かずさが卒業したらウイーンに旅立つことを知った春希は、それを自分と雪菜に黙っていたかずさを責める。だが……


かずさ「あたしの前から先に消えたのはおまえだろ!」


 これを皮切りに、第11話に至るまで、それまでのかずさの心の内で進行していた、「雪が溶け、そして雪が降るまで」の物語が描かれる!


 「連れていくことに意味はない」と、パリに旅立っていったピアニストの母から、誕生祝いに贈られた犬のぬいぐるみを引き裂いてしまったほどのかずさは、E組の教室では机に伏せてばかりで級友との交流を一切断っていた。
 委員長で隣の席だったとはいえ、そんなかずさのことを春希はずっと面倒を見続ける。


 毎日夕方になると第二音楽室で母が寄贈したピアノを弾いていたかずさは、隣の第一音楽室から聞こえてくるヘタなギターを演奏しているのが春希であることを知り、ぶっきらぼうながらも彼をコーチし「ギター入門」なる書籍を勧める。
 春希はギターを教えてくれた礼にと、中学のときに自分が使っていた「英文法」の本をかずさに進呈。
 かずさはそれを、引き裂いたはずの犬のぬいぐるみとともに部屋に飾る――これにより、育児放棄な自由過ぎる母に対して、憎しみだけでなく愛情を渇望していることも示唆される――。


(字幕)「恋してた、君といた、夏は終わり」


 「祭り」のあと、疲れて眠りこけていた春希の唇をかずさは奪う。
 それは、春希と雪菜が口づけを交わす前のことであったのだ……


(字幕)「戻れない、君といた、秋を想う」


かずさ「いつも気持ちと逆のことばかり。気づいたら何もかも失ってた」


 第9話で、かずさは春希の姿をまざまざと見つめたあげく、こうつぶやいている。


かずさ「どんだけ見ても、何も感じない」


 だが、第5話では、かずさの自宅で練習を終えた帰り道の夜の歩道橋で、雪菜が春希のことをこのように表現していたのである。


雪菜「春希くんって、たいしてカッコよくないね」


 それは第4話のラストで、雪菜がかずさ邸の洗面所で春希のトラベルセットを発見したことで(!)、「合宿」以前から春希がかずさの家に泊まりこんでいた事実を知って衝撃を受け、春希のことを半ばあきらめようとして出た言葉だったのである。


 これとほぼ同じ趣旨の発言をかずさにさせることによって、かずさが春希に抱いていた熱い想いを一度はあきらめようと決意を固めるさまが、そしてふたりともに「私が私が」的なミーイズムの権化ではなく、本来は相手に譲り合い、人の恋路を邪魔するような下劣なメンタルの持ち主ではないことが、のちのちの衝撃の展開以前にさりげなく表現されているのは見事というよりほかにない。


 そうした観点で振り返れば、第5話で春希が作詞し、かずさが譜面を書いたノートを没収した教師に、「返せ!!」と気も狂わんばかりにかずさがブチギレしたのも、第7話の「まつり」のあと、かずさが露出度の高いステージ衣装のまま、春希に「寒い」とつぶやいたのも――「抱きしめて」「甘えさせて」の含意でもあるだろう――、すべては春希に対する本心、「愛」ゆえのものであったことが、この時点になってようやく明るみになる構造となっているのである。


 こうしたことが最初から描かれていたならば、よくある単なる三角関係ものに過ぎず、面白くもなんともなくなったワケであり(笑)、それを思えば視聴者を驚愕させること必至の「反則技」も、本作に関してはむしろ作劇的「正攻法」の手段であったと言うべきではなかろうか?


かずさ「手の届かない相手から一緒にいようって言われて……毎日毎日心えぐられて……」


 そうなのである。一見無口な「暴力女」にしか見えなかったかずさであったが、母に捨てられたときも、春希の唇を奪ったときも、温泉旅行を終えて春希と雪菜を見送ったあとも、かずさは常に「涙」を流し続けていたのである。


 こうしたかたちで視聴者を感情移入させ、「サブヒロイン」を「メインヒロイン」へと転じさせる手法は、かの中学生少年が中学生悪女にたぶらかされて転落していく異色の深夜アニメ『惡の華』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20151102/p1)をも彷彿とさせるものである。
 学園祭のクラスの出し物である「大正浪漫喫茶」(笑)の女学生姿をした雪菜を、ステージの練習に連れ出すために春希がそのままかっさらい、電車の中で春希の背中に雪菜がずっとしがみついているなんてあまりに劇的な第6話の描写は、春希は雪菜に気がありメインヒロインは雪菜である、などとおもわず視聴者を錯覚させてしまう確信犯的なフェイク・ミスリード演出だったのである。


 そしてよく観ると、第8話では親友で部長の武也にも、同じく春希の遊び仲間であるボーイッシュな少女・水沢依緒(みずさわ・いお)にも、ヤンキーチックな早坂親志(はやさか・ちかし)にも、春希が本当は雪菜ではなくかずさを好きであることがバレバレになっている描写があるのだが、雪菜のためを想ってなどと、ここでは3人に口止めさせているというのも心憎い。


 だが、第12話で春希が「別れた女を想う歌」をギターで奏でたことにより、さすがの武也も遂に「あきらめろ」と春希を諭す。
 そして、「オレ、かずさにコクっちゃおうかなぁ」とおどけた早坂に対し、露骨に動揺の色を見せる春希。


 春希がそんな男であることを見透かしていたのか、単に募る恋慕でついに堪(こら)えることができなくなったのか、かずさは卒業式にわざと出席せず、雪菜の机の中に置き手紙をしたり、春希が送信しまくったメールに返信しないなどという、ひたすら春希をジラす戦法に出る。
 この段になって、意外なまでの未練たっぷりのしたたかさを見せるかずさではあるが、急展開後の集中的な描写により数多くの視聴者の感情移入を獲得し、晴れて「メインヒロイン」に昇格したことにより、ようやくそのような行為も許されることになったのだ(笑)。


 すっかり傷心した春希に、ようやくにして電話を入れてきたかずさだが、それすらも「手の届かない遠くにいる」と発言する。
 だが、かずさが春希のマンションのすぐ近くの公園にいるのを春希は見つける!
 白い雪が舞い散る公園で、直接対話ができるにもかかわらず、「声だけなら伝えられる気持ちがある……」と、ふたりが向き合ったまま、携帯を通して本当の「気持ち」を伝えあう演出が実に秀逸である!


春希「オレ、冬馬が好きだ!」
かずさ「あたしはおまえのことが大好きだった……おまえが雪菜を選んだとき、つらかった……悲しかった……悔しかった!!」


 最終回冒頭、春希の部屋で遂に一夜をともにするふたりだが、春希がかずさを押し倒したはずみで、春希が雪菜の誕生日プレゼントとして買っていたアクセサリーが割れ、雪菜からの着信があるのに春希が気づいて衝撃を受けるも、かずさがその携帯を手で払いのけるという、どこまでも雪菜を「サブヒロイン」へと陥落させてしまう描写が壮絶である!


 これとは対照的に、ふたりが結ばれたあとの朝帰りの電車の中で、かずさが両手に春希の制服のボタンをしっかりと握りしめながら、春希と相思相愛になれた望外な喜びと同時に、雪菜を押しのけて彼氏を奪い取ってしまった申し訳なさも混じったかのような、涙を流し続ける描写は実に切ない……


 そして、かずさの見送りに行く空港への電車の中で、春希は雪菜にすべてを打ち明ける。だが……


雪菜「全部知ってたのに、あとから割りこんだ。一番悪いのは私……」


 雪菜は第3話で、家に友人を呼ぶのが3年ぶりであると語っていたように中学時代、恋愛トラブルが原因で友人をすべて失ったことが第5話で明かされ――壁に貼られた当時の記念写真に、現在でも仲が良いひとりを除き、それ以外の顔が見えないようにアクセサリーが飾られているのが強烈にすぎる!――、


「私は、仲間はずれが一番こわい」


と春希に語っている。


 「学園のアイドル」ともてはやされながらも、実は高校に入って以降、雪菜は本当の友人はひとりもいなかったのである。


 そんな雪菜が、


「仲間はずれにしてほしくなかったから、そのためだけに恋人に立候補した」


ことを、いったい誰が責められるというのか!?


 そして、「仲間外れ」うんぬんも、彼女の本心の的を突いた表現であったのか? 彼女もホントウは春希のことが心の底から好きではなかったか?
 その物言いは、春希がかずさを選んだ際に抱いてしまうだろう、雪菜への申し訳なさや罪悪感を和らげてあげるための「思いやり」としての偽悪的な物言い、「優しい嘘」ではなかったか!?


 実は雪菜は「祭り」のあと、かずさが春希に口づけするのを目撃していたことが判明し(!)、にも関わらずズルいことに、第8話では「本当にいいの?」と恋に奥手なかずさにムリやりな言質(げんち)を取ってしまっていたのであった。
 しかし、表向きは幸せそうでも、内心ではそのことに大きな罪悪感や自己嫌悪を抱いてしまったことも判明していく…… 第12話では依緒に対して、自身を「醜い女」「汚い女」「エゴイスト」とまで称しているのである!


雪菜「かずさには春希しかいない」


ことを知っていながら、春希とかずさが「いい子」であることを知っていたからこそ、ふたりが想いを告げる前であれば「絶対に勝てる」と、雪菜はズルい計算をして強硬な手段に出たのであった。
 春希も、そしてかずさも、自身の想いよりも、雪菜の想いを優先するような「いい子」であったがために、春希とかずさの「愛」は遠回りをすることとなってしまったのだ。


雪菜「好きだけど、かずさほど真剣じゃなかった」


 空港でかずさを見つけた春希は、かずさに春希を譲ってあげるための雪菜の嘯(うそぶ)いた発言を真に受けたのか、そもそも彼女に気を遣う余裕もなくなっているのか、雪菜の眼前でかずさを激しく抱き締める!


 ここに至っても、雪菜を涙目で横目に見ながら気遣って、


「ごめん……雪菜……」


と、まだ雪菜の「想い」を尊重してしまうかずさは、あまりにも「いい子」にすぎる!
 床にこぼれ落ちる大粒の涙が、あまりに生々しい……


雪菜「そんなわけないじゃない……どうしてこうなるんだろう……夢のように幸せな時間を手に入れたはずなのに……」


 雪菜もまた、結局は春希とかずさの「気持ち」を優先し、自身の「気持ち」と逆の発言をしたばかりに、何もかもを失ってしまうような、最後まで「悪女」に徹することができない「いい子」だったのである……


 恋愛バトルの勝者となるためには、やはり相手の「気持ち」よりも自身の「気持ち」を優先するべきであり、「いい子」でいては恋愛が成就するハズもないという「残酷」な事実が、あまりにリアルに描かれすぎている!


 第7話ではあえて割愛された、「3人」のオリジナル曲『届かない恋』の学園祭でのライブ場面がここで切なく響き渡る……


 雪が舞い散る中、かずさが乗る飛行機を見送る春希と雪菜……


春希「もうここには何もない。帰る」


 それでも春希に寄り添い、離れようとしない雪菜……


雪菜「春希くんが凍えてしまわないように……ううん、違う……自分の心が凍えてしまわないように……」


 すでに春希に対する「想い」が成就しないことを、如実に象徴する雪菜のセリフで物語は締めくくられる。



 あまりに濃厚なラブシーンや、雪菜やかずさのシャワーに着替えの場面やフェチアングル(笑)など、実は本作の原作は「18禁」の恋愛シミュレーションゲームなのである。
 だが、「人を好きでいることを、ずっと続けていく物語」としては、バブル景気の時代に流行した、まずは世間や若者間で優れているとされる風潮やルックスに達していることが大前提で、周囲に対する虚栄的な優越アピールが目的であるようにも見える、自己愛が強そうな「恵まれた人種」たちによる恋愛系トレンディードラマ――今の若い世代にあんなものを観せたら「いい気なもんだよな」などとネット上で叩かれまくるのでは?(笑)――なんかよりも、よほど真面目でリアルで極めて完成度が高い物語が描かれていたのではなかろうか?


 こうした神懸かった良質な作品が深夜枠の美少女アニメとして、マニアの間だけで楽しまれてしまうというのは、実にもったいないように思えてならない。
 近年の視聴率が低迷しているあまたのTVドラマなんかよりも、よっぽど一般の主婦層や女性層の間でも共感を得られるのではないかと思えるのだが。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.69(15年2月8日発行))



WHITE ALBUM2 6(Blu-ray Disc)

#アニメ感想 #冴えカノ #冴えない彼女の育てかた #wa2 #WA2 #WHITEALBUM2 #ホワイトアルバム2 #丸戸史明


[関連記事]

冴えない彼女の育てかた♭(フラット)』 ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!

katoku99.hatenablog.com


冴えない彼女の育てかた Fine(フィーネ)』合評 ~「弱者男子にとっての都合がいい2次元の少女」から「メンドくさい3次元の少女」へ!

katoku99.hatenablog.com


[関連記事] ~オタクサークル&オタク個人・作品評!

げんしけん二代目』 ~非モテの虚構への耽溺! 非コミュのオタはいかに生くべきか!?

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160623/p1

トクサツガガガ』(TVドラマ版)総括 ~隠れ特オタ女子の生態! 40年後の「怪獣倶楽部~空想特撮青春記~」か!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190530/p1

『怪獣倶楽部~空想特撮青春記~』に想う オタク第1世代よりも下の世代のオタはいかに生くべきか!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20170628/p1


[関連記事] ~『WHITE ALBUM2』同様、高校生のバンド活動を描いた作品だとコジつけて!(汗)

2017年冬アニメ評! 『BanG Dream!バンドリ!)』 ~「こんなのロックじゃない!」から30数年。和製「可愛いロック」の勝利!(笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190915/p1



[アニメ] ~全記事見出し一覧
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧

スター☆トゥインクルプリキュア ~日本人・ハーフ・宇宙人の混成プリキュアvs妖怪型異星人軍団! 敵も味方も亡国遺民の相互理解のカギは宇宙編ではなく日常編!?

『映画 スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』 ~言葉が通じない相手との相互理解・華麗なバトル・歌と音楽とダンスの感動の一編!
2019秋アニメ『アズールレーン』 ~中国版『艦これ』を楽しむ日本人オタクに一喜一憂!?(はしないけど良作だと思う・笑)
2019秋アニメ『慎重勇者』『超人高校生』『本好きの下剋上』『のうきん』『けものみち』 ~2019秋アニメ・異世界転移モノの奇抜作が大漁!
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧


[アニメ] ~全記事見出し一覧


 2019年10月19日(土)から女児向けアニメ『映画 スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』が公開記念! とカコつけて……。
 TVアニメ『スター☆トゥインクルプリキュア』(19年)評をアップ!


『スター☆トゥインクルプリキュア』 ~日本人・ハーフ・宇宙人の混成プリキュアvs妖怪型異星人軍団! 敵も味方も亡国遺民の相互理解のカギは宇宙編ではなく日常編!?

テレビ朝日系 8時30分~9時00分)


(文・J.SATAKE)
(2018年6月脱稿・11月加筆)


 新作『プリキュア』の舞台は宇宙?!


 放送前はどう扱うのか不安しかなかった本作だが、様々な星へと飛び出す冒険のワクワクと、地球での日常交流から生まれる喜びを並行して描いて、独自の「プリキュアらしさ」を確立している。


 宇宙や星座に興味津々の星奈ひかる。しかしガチガチの理系ヲタクではなくオリジナルの星座を夢想する少女だ。


 「それってキラやば~っ☆」


 の台詞で好奇心旺盛、広大な宇宙に大きな可能性を信じる天真爛漫さを強調する。


 そこに現れる不思議生物・フワと、そのお供・プルンス。そしてサマーン星人・ララ。語尾に


 「ルン」


 をつける口調や髪飾りにも見える触覚で「異星人」をアピールする。


 ララたちは宇宙侵略を目論む組織・ノットレイダーに追われていた! 小さきかよわいフワを守りたいという純粋な心から誕生した「スターカラーペンダント」のペンで憧れの自分を描き、伝説の戦士プリキュア=キュアスターへと変身するひかる!!


 「宇宙に輝くキラキラ星! キュアスター!!」


 この変身シーンのBGMにこれまでにない変化が。本作では各キャラが歌唱する挿入歌が流れることで、ミュージカルのように「変身のトキメキ」をより表現するシーンへと昇華させる見事な演出となっている!!


 「天にあまねくミルキーウェイ! キュアミルキー!!」


 科学技術が発達しAIに情報をもらって行動を選択することが常であるサマーン星のララにとって、自分の感情を第一に動くひかるはまったく想定外の人物。
 しかし故障した宇宙船の修理をめぐって意見がぶつかったり、ひかるを通じて巡り会う地球の人々と接することで理解を深め、次第に心を開いてゆく。
 その成長とリンクして、ひかるにもらった名前・羽衣ララはキュアミルキーへと変身する! プリキュアシリーズに通底する、様々な立場の人との相互理解と思いやりの心が大切であることを説いている。


 「宇宙を照らす灼熱のきらめき! キュアソレイユ!!」


 第三の戦士・キュアソレイユに変身する天宮えれなは、褐色の肌とブロンドの持ち主。これはアニメ特有の記号表現ではなく、メキシコ人の父と日本人の母をもつダブルだからだ。
 サッカー好きで五人の弟妹の面倒を見つつ、家業の花屋も手伝う快活な彼女は「観星中の太陽」と呼ばれ、ひかるたちの憧れの先輩だ。


 「夜空に輝く神秘の月明かり! キュアセレーネ!!」


 第四の戦士・キュアセレーネに変身する香久矢まどかは生徒会長を務め、弓道をたしなむ淑女。
 厳格な家風のため完璧主義であった彼女だが、ひかるたちとふれあいプリキュアとなったことで、仲間と高め合う過程に大切さを見いだしてゆく。さらにまどかの父は政府の宇宙開発特別捜査局長であり、プリキュアの正体とララの宇宙船の存在を知られてはならないという秘密を抱えることに……。


 地球で日常メインの話があれば、十二星座を守護するスタープリンセスを解放するため、様々な星へと飛び出す冒険メインの話もあるのが本作の特徴。
 ひかるたちは訪れた星に住むキャラとの交流を経て、「妖怪」をモチーフにしたノットレイダー幹部とのプリンセススターカラーペン争奪戦を繰り広げる!
 「河童」のキザ男・カッパード、「天狗」の女王様・テンジョウ「一つ目小僧」のマッドサイエンテスト・アイワーンは、カラーペンを闇の感情でダークペンへ変化させ、人々を怪物・ノットリガーに変えてしまう!!


 ひかるたちは言葉や文化の異なる他の星の生き物たちにも物怖じせずふれあい、交歓することでプリンセススターカラーペンを手に入れてゆく。キュアスターたちがペンに込められた星座のパワーによって異なる特性を持った技を繰り出すのも見どころのひとつだ。


 解放されたスタープリンセスは全員が集うスターパレスへと復活するのだが、ひかるたちへ感謝するリアクションが少々薄く見えるのは残念。ここは『聖闘士星矢(セイント・セイヤ)』(85)の十二星座を司る黄金聖闘士(ゴールドセイント)のように個性的なキャラを当ててほしかった!


 シリーズ中盤のヤマ場は追加戦士の登場。他のメンバーとは毛色の変わった変身アイテムやコスチュームのキャラクターを投入することで、敵味方両陣営に変革をもたらす重要なファクターとなる。
 ひかるたちが星々をめぐるなかで出会ったのは宇宙怪盗ブルーキャット。彼女もスターカラーペンを狙って宇宙を股にかけていた。
 あるときは宇宙アイドル・マオとして歌声を響かせ、またあるときはアイワーンの忠実な執事・バケニャーンとなってノットレイダーに潜入するなど、目的のためには手段を選ばぬ大胆な行動力を発揮する彼女。その正体はアイワーンによって母星の民が全滅させられた猫型種族の少女・ユニであった。


 「銀河に光る虹色のスペクトル! キュアコスモ!!」


 ノットレイダーへの憎しみと母星の復活という重大な宿命を抱え、孤独に突き進んできたユニ。一方怪盗やバケニャーンであった過去も含めて彼女を認め、スターカラーペンを集めて母星復活を手助けしようとするひかるたち。
 幾度かのぶつかり合いを経て頑ななユニの心もその優しさで解放され、新たな戦士・キュアコスモが誕生する!


 夏休み期間はララの母星へと遠征することに。ララはAIに頼ることなく自分で考え行動する力を両親・兄に示すことで、心の奥のコンプレックスを払拭する。


 そしてノットレイダーに対抗している宇宙星空連合なる星間文明組織も登場! 連合にはひかるたちがプリキュアであることが発覚!
 一般のヒーロー作品ならば宇宙戦争に突入なのだが……『プリキュア』の作風にはそぐわない。


 代表のトッパーがひかるたちに連合への参加を促すのだが、彼女たちは中学生としての生活があると辞退する。
 それは戦い自体を拒否するものではなく、敵対するものを打ち倒す=滅ぼしても根本的な解決・幸せは訪れないことを示すためだ。力を誇示するのではなく、互いを理解しようと努力を続ける姿勢こそが調和をもたらす。


 理想論といわれればその通りかもしれないが、それを信じて行動するからひかるたちはフワとめぐり会い、プリキュアへ変身することができたのだ。連合に縛られることなくこれまで通りに行動することを容認するトッパー代表。自分では守れなかったプリンセスたちの復活を果たしたひかるたちの「未来への可能性」を信じたのだ。


 ノットレイダーの実態も徐々に明らかに。カッパードたちを束ねる「青鬼」の指揮官・ガルオウガは空間を歪め瞬間移動し、圧倒的な力でひかるたちを蹂躙する!
 その力への執着心の源は、母星の壊滅を止められなかった後悔と、救済がもたらされない世界への絶望だった……。


 宇宙星空連合はそれぞれの星の文明を尊重し、干渉はしない主義のようだ。自らの発展で宇宙に進出してはじめて連合と関わる。それが多種多様な文明と調和できる段階を越えた証しとされるのだろう。


 しかしその影で救われない者たちもいる。首領・ダークネストはその隙を取り込み、組織を拡大させてきた。ままならない世界なら邪悪な力でも変えてしまえ。
 「盗人にも三分の理」だが、彼らの行いがさらなる悲しみを生み出している以上、許されることではない……。キュアスターたちはガルオウガらの憎しみを理解し、争いの連鎖を断ち切ることができるのか?!


 そしてより対立の溝が深いユニとアイワーン。母星と大切な人たちを闇に封じたアイワーンを憎むユニだが、アイワーンもダークパワーを利用する技術を研究することでダークネストでの「居場所」を手にするしかなかった孤独な生い立ちであり、それを奪うユニ=キュアコスモは憎き相手なのだ。
 互いに感情をぶつける戦いでアイワーンの境遇を知ったユニは、誰もが運命に立ち向かっていることに思い至り、自身の怒りを抑えて、彼女を「許す」と声をかける!
 簡単には修復できない関係・感情のもつれだが、勇気をもって一歩を踏み出す。その心が「希望」を形作るはずだ……。


 宇宙編での壮大で困難な相互理解の問題。
 その答えとなるのが、日常編での家庭や学校のひとたちとの交歓やぶつかり合いにひそんでいる。フィクションだからこそ、身近なコミュニティから社会の大海原へと飛び出す成長の物語と地続きであることが示せる。こうしたさりげなさも『プリキュア』シリーズの魅力だ。


 ひかるたちがひとりの中学生として、そしてプリキュアとしてどのような道を進むのか、最後まで注目したい作品だ。



(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.82(18年6月16日発行予定⇒8月1日発行)に加筆)



スター☆トゥインクルプリキュア主題歌シングル

#アニメ感想 #スタプリ #スタートゥインクルプリキュア #プリキュア


[関連記事]

『映画 スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』 ~言葉が通じない相手との相互理解・華麗なバトル・歌と音楽とダンスの感動の一編!

katoku99.hatenablog.com

『映画 プリキュアラクルリープ みんなとの不思議な1日』 ~テーマ&風刺ではなく、戦闘&お話の組立て方に注目せよ!

katoku99.hatenablog.com

『ヒーリングっど♥プリキュア』終盤評 ~美少年敵幹部の命乞いを拒絶した主人公をドー見る! 賞揚しつつも唯一絶対の解とはしない!?

katoku99.hatenablog.com


[関連記事] ~2019年・TVアニメ評!

2019年秋アニメ評! 『アズールレーン』 ~中国版『艦これ』を楽しむ日本人オタクに一喜一憂!?(はしないけど良作だと思う・笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191027/p1

2019年秋アニメ評! 『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』『私、能力は平均値でって言ったよね!』『旗揚!けものみち』 ~2019秋アニメ・異世界転移モノの奇抜作が大漁!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191030/p1

2019年冬アニメ評! 『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』 ~往時は人間味に欠ける脇役だった学級委員や優等生キャラの地位向上!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190912/p1

2019年冬アニメ評! 『スター☆トゥインクルプリキュア』 ~日本人・ハーフ・宇宙人の混成プリキュアvs妖怪型異星人軍団! 敵も味方も亡国遺民の相互理解のカギは宇宙編ではなく日常編!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191107/p1



[アニメ] ~全記事見出し一覧
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 ~別離・喪失・齟齬・焦燥・後悔・煩悶の青春群像劇の傑作!

『心が叫びたがってるんだ。』 ~発話・発声恐怖症のボッチ少女のリハビリ・青春群像・家族劇の良作!
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』 ~長井龍雪&岡田麿里でも「あの花」「ここさけ」とは似ても似つかぬ少年ギャング集団の成り上がり作品!
『さよならの朝に約束の花をかざろう』 ~名脚本家・岡田麿里が監督を務めるも、技巧的物語主体ではなく日常芝居主体の演出アニメであった!
『迷家-マヨイガ-』 ~水島努×岡田麿里が組んでも不人気に終わった同作を絶賛擁護する!
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧


[アニメ] ~全記事見出し一覧


 2019年10月11日(金)からアニメ映画『空の青さを知る人よ』が公開記念! とカコつけて……。
 『空の青さを知る人よ』の長井龍雪カントク&岡田麿里脚本コンビの出世作である深夜アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(11年)評をアップ!


あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』 ~別離・喪失・齟齬・焦燥・後悔・煩悶の青春群像劇の傑作!


(文・T.SATO)
(2011年8月脱稿・2019年10月加筆)


 小学生のころは山中の掘っ立て小屋をヒミツ基地に見立てて集っていた男女6人。時は流れバラバラになっていた彼らは高1の夏、ある事件を契機に、よそよそしくも再会を果たしていく……。


 舞台は北関東の山々が目の前に迫る秩父。冬は底冷えするのか掘りゴタツになっている中古な家屋の居間で、都心の酷暑ほどではナイけれども気怠い真夏に、眉間に苛立ち&焦りの表情を漂わせた赤いTシャツに短パン姿の少年がアグラをかいてTVゲームに興じ、昼食はひとりで台所でインスタント・ラーメンを作って食し、朝は2階の自室の寝床から起き上がれない。
 そんな彼の日常には、銀髪の長髪に白いロングのワンピースの涼しげで天真爛漫、やや小柄でスレンダーな少女が少々カタコトで幼げにしゃべりかけながら常にかたわらに寄り添っており、アグラをかいた少年のヒザの上に乗っかってきたり、背中から抱きついてきたり、昼食をねだったり、寝床に入ってきさえする。
 しかし、彼女の姿は他人には見えない超現実的なモノであり、少年もコレは自身の苦境が産み出した幻覚にすぎないと理性的に把握するというワンクッションを置くことで、我々視聴者も最初からオカルトやSFといった非現実的な事象をメインとした作品ではなく、日常的で現実的な生活&心情の延長線上にある物語なのであろうと直感的に了解させられる。


 自宅玄関前の道路で雑談していた近所のオバサンたちが遠巻きに発する不審げな視線を気にするどころかイタく感じて避けるようにふるまい、家屋の中にいても聞こえてくる道路でイチャイチャしながら通行する高校生のバカップルにイライラし、道路でスレちがう同じ高校の制服姿の少年少女たちの姿に身がスクんで逃げ出したくなるところで、彼が不登校の身であり、その心身を焦燥・切迫・衆人環視・不安感にむしばまれていることがヒシヒシと伝染してきて、思わず感情移入をさせられる。
 いわゆるマンガ・アニメ的なコレ見よがしではない、あくまでも実写のナチュラル志向の作品的な日常演出でつづられる、夏の気怠さに加味されたヒリヒリした切迫感で、もうこの作品世界の空気・密度感・求心力がジワジワと高まってきて目が離せなくなってしまう。


 夏休みの終わりも近付いたある日、そのクセっ毛をツインテールに縛って少々ギャルが入った赤髪のクラスメート女子が、高校で渡されるように依頼されていたプリントを今さらながらに持ってくる。
 あるいは、夕方の線路沿いの小道で、別の高校(進学校)に進学した旧友である長身クールなイケメン男子クン&黒髪ロングのメガネ女子にも再会する。そして、改めて痛感させられてしまう越えられない彼我の差……。
 赤髪ギャル少女が玄関口で早口で距離感の測り方に戸惑いながらも複雑な表情で放つ「心配なんかしてナイけど、学校に来なヨ」、進学校のイケメン男子クンがクールな低音ボイスで放つ「お前、高校に行ってないんだってナ」(大意)という、たとえ正論や単なる事実の指摘であっても心をエグらえれる、あるいはそうと判って別の言葉を探そうとしても、とっさにはそのようにしか語りかけられない言葉は、憐れみや蔑みとなって不登校から高校中退の危機で人生を転落しかけているやもしれない少年の切迫感にトドメを刺し、視聴者もダメ押しで彼の不登校の現状をハッキリと知る。
 加えて、ついクチをついて出てしまった、彼以外の人間には見えない、すでに死していたらしい銀髪少女のアダナ「めんま」の語句(=本名・本間芽衣子アナグラム)で、奇人変人・凶人を見るような目付きで見られてしまうという始末……。


 そして明かされる幽霊少女「めんま」が死した直前の経緯。夏休みのヒミツ基地にて、小学生ながらに恋話(恋バナ)談義となって、「主人公少年クンは『めんま』のことが実はスキなんだろ?」という議題になるや、いかにもヤンチャな小学生男子らしい後先の知恵のなさ、テレくささが先に立ち、異性に対する包容力や度量の大きさがナイので、ついつい声変わり前の少年時代の彼が「誰がスキか! こんなブス!」と売り言葉に買い言葉でウソぶいて叫んでしまい、「めんま」の苦笑したような困ったような期待もしていたような複雑な表情に、居たたまれなくなった彼はその場を逃走!――一般的な小学生の少年にはムリもナイけれど――
 自宅に帰宅して昼食を取りながら、彼女に対して悪いことをしたと重々判ってもいる常識人でもある彼は、苦渋の表情で「明日、謝ればイイや……」と考えるのであったが、「めんま」とはそれが最期(さいご)となり、#1の時点ではハッキリとは描かれないモノの、小川のせせらぎに彼女のサンダルの片方が浮かんでいるごくごく短いワンショットが映し出されることで、彼女が山中の川に落ちて果てたらしいことが示唆される……。


 オープニング主題歌の映像にもカブる、彼らの怒りも微量に混じったかのような後悔の表情。ヤル瀬のない想いが表出した顔。持って行き場のナイ悲しみの風情。目の前の事物を見ているようでも、眉をひそめて明後日の方向を向いて取り返しの付かない過去を幾度も想起・反芻しているかのような視線。
 互いに避けたがっているようでも、秘かに気にもかけてしまう表情演技に見事に象徴されているように、別離・喪失・齟齬・焦燥・後悔・煩悶といった心情を過剰に重たくならない範疇で、痛さや切なさをスパイスにつづっていく群像劇。
 体育会系や遊び人のリア充(リアルで充実)な青春とは正反対の青春模様ではある――我々オタのように、自室でアニメやゲームにネット三昧の青春模様ともまた異なるモノではあるけれども(笑)――。
 それゆえに、ウラぶれてヒネこびて後悔や不全感にさいなまれている人種ほど、このテの感傷的な作品に執着をいだいて、広い意味での癒やし――重たいカタルシスや慰め――を得てしまうのもよくわかる。筆者もそのひとりではある。
 とはいえ、マニアやオタク限定で、ある種のシミったれた性格類型の人種たちだけが愛好する狭苦しい作品にもなってはおらず、アニメファン枠をも越境してオタや好事家だけでなく、一般ピープルどころか老若男女にも広く理解ができる普遍性をも獲得できている作品だとも思えるのだ。
――とはいえ、放映終了から間もない時期に、早くもアニメ誌の表紙をデカデカと飾るほどの大人気を獲得するようになってくると、「ラーメンは屋台にかぎる」の心情で、途端にサメてきたりもするけれど(笑)。もちろん、それは当方が天邪鬼だからにすぎず、作品の罪ではナイ――


 「めんま」の幻覚(?)が見えてしまう手掛かりを探るため、思い立って夜間にかつての山中のヒミツ基地を目指した主人公少年は、電灯が灯って生活の気配もすることに驚き、屋内へと飛び込む!
 そこにはかつてはチビで坊主頭でメンバー内では味噌っカスでメンタルも幼げな舎弟格であり、今では主人公少年よりもはるかに上背がありガタイもデカい大柄でアロハシャツを着こんだ少年へと変貌した旧友が住み込んでいた。
 先の3人とは違って、高校にはそもそも通わず、バイクでの新聞配達や工事現場でのバイトに明け暮れて、カネがたまれば世界各地を旅しているらしい明るい豪傑と化した彼は、主人公少年が不登校か否かなどは気にもせず、分け隔てなく屈託もなくフレンドリーに気サクに接して、しかも「めんま」に関する超常的なエピソードについても、そんなこともあるやもしれない! と信じてしまうのだ。
 彼の陽気で能動的なキャラクターがエンジンとなって、物語は動き出し、主人公少年を連れ立って赤髪ギャル少女のお宅にお邪魔して懐かしのゲームを3人で興じて、ついつい夢中になった主人公少年&赤髪ギャル少女は小学生時代のように屈託なく心が通じ合ってハシャいでしまう――即座に互いに赤面してテレくささ&気マズさも復活するけれど(汗)――。ついには全員が集合してかつてのメンバーがヒミツ基地に集って夜間のバーベキュー大会にまでコギつける!


 コレらの過程で、パッと見は繊細ナイーブ・内向的で弱そうなタイプにはまるで見えなくて、タフで覇気もアリそうな中肉中背の人間で、ヒッキー(引きこもり)にはなりそうもない少年にも見える主人公クンは、小学生時代はその元気ぶりとアタマの良さで、このグループのリーダー格であり、何の因果かイケメン男子クンと黒髪ロングのメガネ女子が通う進学校に合格できなかったことで、今の高校へと1週間だけは通うモノの、ズルズルと休みだしたら、それが次第に重荷となって不登校状態に追い込まれていったことも明かされる。


 そして……。「めんま」の喪失に囚われつづけていたのは主人公少年だけではなかったことも徐々に明らかになっていく……。
 イケメン男子クンは実は往時、「めんま」に懸想しており、その恋情はいまだ捨てがたく、かつての「めんま」と同じような白いロングのワンピースのオトナ用衣服を購入。自室のクローゼットに吊して匂いもかいでいる……(汗)。
 赤髪ギャル少女も往時は、クセっ毛で黒縁メガネでオトナしかった自身とはルックス&性格も正反対であり――小学生当時のことである。高校生である現在ではコンタクト・レンズであり、派手めなギャルの方向で中学デビューか高校デビューを果たしている――、「めんま」のストレートなサラサラしたキレイな銀髪の長髪、透明感もあって天真爛漫な人となりに、憧れと同時に嫉妬や負け犬意識(!)も子供ながらにいだいていたことを、「スキでキライだった」(大意)とカミングアウトしていく……。
 と同時に、小学生時代の主人公少年に好意もいだいていて、あの日に恋バナを振って場の雰囲気を壊して、しかも最悪の事態を招来する契機としてしまったことを後悔しつつも、あの刹那に主人公少年が「めんま」への好意を表明しなかったことに束の間の喜び&希望をいだいてしまった自分を、そして主人公少年をスキだった自分をいまだに許せない気持ちでいることを明かすのだ……。


 近郊と地方の狭間、背後に山々が迫る街並みと家屋。無味無臭な東京近郊、私鉄沿線の匿名性の高い住宅街ではなく、アニメという虚構度の高い媒体ではあっても、記名性のある地方を舞台に、煤けた色や匂い・土着臭・生活臭で風情や旅情を多少は出していこうという流行が、ここ10年ほどはあった――実写映画などでも同様であり、アニメジャンルにかぎった話でもなかったのだが……。まぁラノベ原作の深夜アニメ『よくわかる現代魔法』(09年)におけるナゼか閑散(汗)としている「銀座」など、あまり必然性が感じられない作品もあったとは思うけど(笑)――。


 明治・大正・昭和の戦前期から昭和末期の1980年代中盤に至るまで、少女絵や少女漫画にTVドラマ『金曜日の妻たちへ』シリーズ(83・84・85年)などが「出窓のある白亜の家屋」にエキゾチックな憧れをいだかせたような時代が長く続いてきた。
 しかし、新興住宅街などでデオドラント・清潔で洗練されたデザインの「出窓のある白亜の家屋」に通じるハイソな家屋が現実にある程度までは普及し、作家の三島由紀夫が往時、その論考『文化防衛論』(1968年)でも先読みして危惧してみせたように、「マック」や「スタバ」に「コンビニ」で「駅前風景同一化」、一応の「近代」が達成されると、人々は身勝手なものである。
 今度は作り手・受け手双方ともに、失われた――あるいは消えつつある――「田舎」や「土着」的なものに逆エキゾチシズム(異国情緒)やシャレっ気を感じて、そこを舞台とすることにウキウキして、キャラクターやドラマ性やテーマ性以前のもっと原初的なところにある情動を刺激され、それが創作意欲や視聴意欲のエンジン・駆動力ともなっている事態を招来しているのが現代という時代のようでもある。私見ながら、この傾向は今後も継続すると予測する。
――現今の「新自由主義経済」のさらなる進展で、「貧富の格差」が拡大し、貧困者が激増してしまえば、また数十年後には「白亜の豪邸」に憧れる人種が多数派となる未来が招来されるやもしれないけれども(汗)――


 パーツ的な可愛さや属性を誇張・極端化した記号的な美少女キャラクターたちがキャッキャウフフするベタなお約束作品を否定するワケでは決してナイけれど、本作『あの花』はイビツなハーレムや逆ハーレムではなく登場人物の男女比率も均等であり、しかもワリとナマっぽくて現実の人間にも近しい登場人物たちを配置もしている。
 主人公少年が高校1年生の1学期をすでに「ひきこもり」として過ごしていたという愁眉な導入部からして助走台として絶妙だし、1980年代中盤以降に拡大したと思われるイケてる系イケてない系の今で云うスクールカーストも反映して――1960年前後生まれのオタク第1世代に聞くと1970年代の中高生にそこまで露骨で細分化・可視化されたカーストはなかったとも聞く(汗)――、「めんま」や赤髪ギャル少女の助言で主人公少年がひさしぶりに登校してみるも、街中や通学路におけるクラスメートでもあるギャル高生たちの小さなイジメもオッケーな、主人公少年に対する包摂とは真逆の実に失礼千万、全人格否定的な嘲笑・愚弄描写ともあいまって、彼が道をますますハズしていきそうな焦燥感もいや増してくる。


 ただ、主人公少年自身は真性の生来からの気弱なオタクタイプではさらさらなく、ガキのころはヤンチャでリーダータイプでもあったりして、劇中後半でも描かれた通り、赤髪ギャル少女も働いていた中古ショップでのバイト中の一応のテキパキとした働きぶりなり、工事現場での肉体労働なりでもガテン親父たちともまぁまぁウマくコミュニケーションが取れていそうな適度なタフさやラフさはある。
 そのような人種とは毛ほども気が合うことはなさそうな我々のような真性オタク連中とは異なり(笑)、必ずしも「学校」を経由しなくても最終的には「現実社会」に着地ができそうな「救い」は感じられる。
 真性オタなら、体育会系の職場で気が合う人種を見つけて、そこが居場所になることもアリエナイ(笑)。やはり「コミケ」や「ネット」や「趣味」という仮想的な「場所」に精神的な帰属意識を見いだして、たとえ幻想・錯覚であろうと、そこで束の間の「安息」を得るのが関の山であろう。


 同様に、本作と同期の2011年春季にはラノベ原作の深夜アニメ『電波女と青春男』が放映されていて、ある意味では『あの花』とも通じる、高校中退ヒッキーのハクチ的で意志薄弱そうでもある美少女キャラをメインヒロインに据えていて、こんなに自尊感情も低そうな弱者女子なら、劣等男子である自分のことを値踏みもしてこないだろうし、ひょっとしたら受け容れてくれる可能性が高いやも!? と錯覚させて、一部のオタク男子たちを誘蛾灯でバチバチと感電死させていたけど(笑)、要はこのヒロインは主人公男子から見た「客体」にすぎなくて、その彼女の内面を自立した「主体」として描いた作品ではナイ。
 リアルに考えれば、この情緒不安定で他人への依存心もカナリ強そうなハクチ的美少女は、名作文学の読書でもして語彙を増やして、それで内面を耕したり自身の心情の微細なヒダヒダを客観視・整理整頓もさせながら、その機微を発露・発散もすることで、我々オタク連中のように内面世界をあまたのサブカル知識やその言葉の重みで重心を下げることで、自身の心理的安定感を保つようなタイプでもナイ。内面もボキャ貧のままでフワフワして自身の複雑な心情をウマく整理もできないまま、情緒不安定のままで今後の人生を送っていくような将来が眼に見える。
 ただルックスには恵まれているので、オトコに言い寄られて断れずに(笑)結婚なり同棲はできることで、主婦やパートとしてその彼にブラ下がって生きていけそうではある――ご近所付き合いやママ友たちとの付合い、子供ができてもママさんデビューなどでは苦労しそうだけど――。ただし、運悪くヤンキーDQN(ドキュン)な軽薄で浮気症でドメスティック・バイオレンスなバカ男につかまってしまえば、身を持ち崩して転落しそうでもある(汗)。
 彼女と比すれば、『あの花』の主人公少年は地に足が着いた生活を送れそうだし、ギャルとしてデビューしつつも小さなイジメもOKなギャルである同級生ふたりと赤髪ギャル少女は根底の倫理・礼節の次元で気が合わないところも描かれて、黒髪ロングのメガネ女子はもちろん身持ちが堅くて堅実な常識人でもあるサマが看て取れる。


 本作『あの花』にて某キャラが演じた女装姿は、もちろん「性同一性障害」などではなく、かつて恋い焦がれた少女を我がモノにしたい、彼女と同一化したいという願望が屈折したかたちで具現化したモノでもあった。奇しくも本作の前期に同じフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放映された2011年冬季の女装中学生を描いたマニア向けマンガ原作のアニメ『放浪息子』――脚本は本作『あの花』と同じく岡田磨里!――にも、主人公の優しげでオトナしげな女々しい中学生少年が女装をするようになっていくという展開があった。しかも、女装趣味をカミングアウトしたあと、クラスメートたちに迫害されて、ヒッキーならぬ保健室登校の身に転落もしてしまう。
 ただし、コチラも真性の「性同一性障害」などではなく、彼個人の人格のホンの少しの強さと学内イベントを契機としたクラス復帰で、将来的には彼も何とかなりそうな予感で終わっていく――逆に云うならば、彼と一緒にツルんでいて、彼よりも気が弱そうなメガネの女装男子クンの方が同作『放浪息子』の主人公であったならば、バッドエンドになっていきそうな思考実験もできてしまいそうではあったけど(汗)――。


 本作『あの花』をダシにして、他作にも串刺しで言及していて恐縮だが、本作は『電波女と青春男』や『放浪息子』などのように、元から内向的で気弱でコミュ力弱者タイプの少年少女がひとりで悶々と煩悶してコジらせていくような純文学の伝統(笑)にのっとることを目的とはしておらず、もう少しタフだけれども万人が進む道を踏み外しそうになっている主人公少年を起点に、取り返しの付かない過去への悔恨に満ち満ちた少年少女たちの群像劇を描くことを主眼とする作品ではあるから、そこに焦点が行かないことに問題も不満もナイ。


 本作は今では得手勝手に他人同士として独自の人生を歩んでいると思っていた旧友たちが、様々な理由や心情や行動様式で子供の時分に喪った少女の友人「めんま」を心の深いキズとして負いつづけていることをていねいな筆致で、秘密・性癖・三角関係や四角関係でもある片思いや秘めたる嫉妬なども、時に攻撃的・自傷的・自嘲的に描いてきた。


 監督・脚本・キャラデザ作画のスタッフ編成的にも、ラノベ原作の深夜アニメの名作『とらドラ!』(08年)コンビには土下座します! とオトしてもイイのだけれども(汗)、それだと没論理なのでもう少し腑分けして、小さな瑕瑾(かきん)についても語ってみたい。
 奇抜な事件や入り組んだストーリーが主体ではなく叙情性の方が主導する作劇なので、本作のシリーズ後半はやや似たような話が連発することで足踏み感があり、ストーリーの進展も遅くなったように見える点、ガタイがよくて気前もイイ陽気な少年クンと亡き少女との間にもあった決定的な関わり――ある意味ではメンバー間でも一番キョーレツな!――が終章直前に明かされるあたりは、やや唐突感もあり伏線がほしかった気もしはする。
 とはいえ、それらも作り手のねらいではあり、足踏み感とは改めての彼らの不全感の再現でもあり、伏線でオチがミエミエとなってしまうのであればサプライズ優先で起承転結の「転」の方を優先するストーリーテリングで訴求やヒキを作っていく方がツカみもメリハリも強いだろうと考えると、トータルで勘案すれば出来上がった作品のかたちで正解であったのであろうとも思えてくる。


 幽霊少女「めんま」はナゼ復活したのか? この世への未練や後悔があるからなのか? ならば成仏させてあげるべきなのか? しかして成仏させて彼らと再度の別離をすることもまたそもそも正しいといえるのか?
 イケメン男子クンの女装とそのネジくれた想いにウスウス気付いている黒髪メガネ少女。
 感情を爆発させた赤髪ギャル少女が涙を流しながらイケメン男子クンを両手で叩きだしながら急接近する姿。
 それを目撃して、持ち前のクールさや控えめさがウラ目に出て、そこに割って入ることができずに悶々とするどころか、自分よりも赤髪ギャル少女の方が彼と気が合っているのではないのか? と思っているのであろうことを一瞬にして想起させる、物陰に引いてしまう黒髪メガネ少女の寂しげな後ろ姿のワンショット。
 そんなもろもろも経た末に、幽霊少女「めんま」をめぐった物語は最終局面を迎えていく……。


 オタク向けジャンルの歌舞伎的様式美のお約束に捉われない、ゆえに周辺層・ライト層・一般層の人種にも勧められるであろう良作が誕生したとも私見


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.53(11年8月13日発行))


[関連記事] ~長井龍雪カントク&岡田麿里脚本作品!

心が叫びたがってるんだ。』 ~発話・発声恐怖症のボッチ少女のリハビリ・青春群像・家族劇の良作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191104/p1

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』 ~長井龍雪岡田麿里でも「あの花」「ここさけ」とは似ても似つかぬ少年ギャング集団の成り上がり作品!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191105/p1


[関連記事] ~脚本家・岡田麿里がアニメ監督にも挑戦!

さよならの朝に約束の花をかざろう』 ~名脚本家・岡田麿里が監督を務めるも、技巧的物語主体ではなく日常芝居主体の演出アニメであった!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191106/p1


[関連記事] ~水島努カントク&岡田麿里脚本作品!

迷家マヨイガ-』 ~現実世界からの脱走兵30人! 水島努×岡田麿里が組んでも不人気に終わった同作を絶賛擁護する!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190630/p1


[関連記事] ~TVアニメ評!

2019年秋アニメ評! 『アズールレーン』 ~中国版『艦これ』を楽しむ日本人オタクに一喜一憂!?(はしないけど良作だと思う・笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191027/p1

2019年秋アニメ評! 『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』『私、能力は平均値でって言ったよね!』『旗揚!けものみち』 ~2019秋アニメ・異世界転移モノの奇抜作が大漁!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191030/p1

2019年冬アニメ評! 『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』 ~往時は人間味に欠ける脇役だった学級委員や優等生キャラの地位向上!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190912/p1

2019年冬アニメ評! 『スター☆トゥインクルプリキュア』 ~日本人・ハーフ・宇宙人の混成プリキュアvs妖怪型異星人軍団! 敵も味方も亡国遺民の相互理解のカギは宇宙編ではなく日常編!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191107/p1


2018年秋アニメ評! 『SSSS.GRIDMAN』前半評 ~リアルというよりナチュラル! 脚本より演出主導の作品!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181125/p1

2018年秋アニメ評! 『SSSS.GRIDMAN』総括 ~稚気ある玩具販促番組的なシリーズ構成! 高次な青春群像・ぼっちアニメでもある大傑作!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190529/p1

2018年秋アニメ評! 『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』#1~10(第一章~第三章) ~戦争モノの本質とは!? 愛をも相対視する40年後のリメイク!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181208/p1

2018年秋アニメ評! 『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』 ~ぼっちラブコメだけど、テレ隠しに乾いたSFテイストをブレンド

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190706/p1

2018年夏アニメ評! 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』 ~声優がミュージカルも熱演するけど傑作か!? 賛否合評!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190728/p1

2018年3大百合アニメ評! 『あさがおと加瀬さん。』『やがて君になる』『citrus(シトラス)』 ~細分化する百合とは何ぞや!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191208/p1


2017年秋アニメ評! 『結城友奈は勇者である-鷲尾須美の章-』 ~世評はともかく、コレ見よがしの段取りチックな鬱展開だと私見(汗)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190926/p1

2017年夏アニメ評! 『地獄少女 宵伽(よいのとぎ)』 ~SNSイジメの#1から、イジメ問題の理知的解決策を参照する

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191201/p1

2017年春アニメ評! 『冴えない彼女の育てかた♭(フラット)』 ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191122/p1

2017年春アニメ評! 『正解するカド KADO: The Right Answer』 ~40次元の超知性体が3次元に干渉する本格SFアニメ。高次元を材としたアニメが本作前後に4作も!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190929/p1

2017年春アニメ評! 『ID-0(アイ・ディー・ゼロ)』 ~谷口悟朗×黒田洋介×サンジゲン! 円盤売上爆死でも、宇宙SF・巨大ロボットアニメの良作だと私見

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190924/p1

2017年春アニメ評! 『ゼロから始める魔法の書』 ~ロリ娘・白虎獣人・黒幕悪役が、人間×魔女×獣人の三つ巴の異世界抗争を高踏禅問答で解決する傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191128/p1

2017年冬アニメ評! 『幼女戦記』 ~異世界近代での旧独vs連合国! 新自由主義者魔法少女vs信仰を強制する造物主!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190304/p1

2017年冬アニメ評! 『BanG Dream!バンドリ!)』 ~「こんなのロックじゃない!」から30数年。和製「可愛いロック」の勝利!(笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190915/p1


2016~18年チア男女やマラソン部を描いたアニメの相似と相違! 『チア男子!!』『アニマエール』『風が強く吹いている』

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190603/p1

2016年夏アニメ中間評! 『ももくり』『この美術部には問題がある!』『チア男子!!』『初恋モンスター』『Rewrite』『ReLIFE』『orange』

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160903/p1

2016年春アニメ評! 『迷家マヨイガ-』 ~現実世界からの脱走兵30人! 水島努×岡田麿里が組んでも不人気に終わった同作を絶賛擁護する!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190630/p1

2016年春アニメ評! 『マクロスΔ(デルタ)』&『劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ』(18年) ~昨今のアイドルアニメを真正面から内破すべきだった!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190504/p1


2015年秋アニメ評! 『ワンパンマン』 ~ヒーロー大集合世界における最強ヒーローの倦怠・無欲・メタ正義・人格力!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190303/p1

2015年秋アニメ評! 『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』 往年の国産ヒーローのアレンジ存在たちが番組を越境して共闘するメタ・ヒーロー作品だけれども…

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190302/p1

2015年秋アニメ評! 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』 ~長井龍雪岡田麿里でも「あの花」「ここさけ」とは似ても似つかぬ少年ギャング集団の成り上がり作品!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191105/p1

2015年夏アニメ中間評! 『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』『六花の勇者』『おくさまが生徒会長!』『干物妹!うまるちゃん』『実は私は』『下ネタという概念が存在しない退屈な世界

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150901/p1

2015年春アニメ評! 『響け!ユーフォニアム』 ~良作だけれど手放しの傑作だとも云えない!?

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160504/p1

2015年冬アニメ評! 『SHIROBAKO』(後半第2クール)

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160103/p1


2014年秋アニメ評! 『SHIROBAKO』(前半第1クール)

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20151202/p1

2014年秋アニメ評! 『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 ~ガンダムSEEDの福田監督が放つ逆「アナ雪」! 女囚部隊に没落した元・王女が主役のロボットアニメの悪趣味快作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191222/p1

2014年秋アニメ評! 『ガンダム Gのレコンギスタ』 ~富野監督降臨。持続可能な中世的停滞を選択した遠未来。しかしその作劇的な出来栄えは?(富野信者は目を覚ませ・汗)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191215/p1

2014年春アニメ評! 『ラブライブ!』(第2期)

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160401/p1


2013年秋アニメ評! 『WHITE ALBUM 2』 ~「冴えカノ」原作者が自ら手懸けた悲恋物語の埋もれた大傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191115/p1

2013年秋アニメ評! 『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』 ~低劣な軍艦擬人化アニメに見えて、テーマ&萌えも両立した爽快活劇の傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190922/p1

2013年秋アニメ評! 『サムライフラメンコ』 ~ご町内⇒単身⇒戦隊⇒新旧ヒーロー大集合へとインフレ! ヒーロー&正義とは何か? を問うメタ・ヒーロー作品!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190301/p1

2013年夏アニメ評! 『げんしけん二代目』 ~非モテの虚構への耽溺! 非コミュのオタはいかに生くべきか!?

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160623/p1

2013年春アニメ評! 『這いよれ!ニャル子さんW(ダブル)』

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150601/p1

2013年春アニメ評! 『惡の華』前日談「惡の蕾」ドラマCD ~深夜アニメ版の声優が演じるも、原作者が手掛けた前日談の逸品!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191006/p1

2013年冬アニメ評! 『まおゆう魔王勇者』『AMNESIA(アムネシア)』『ささみさん@がんばらない』 ~異世界を近代化する爆乳魔王に、近代自体も相対化してほしい(笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200123/p1(2020/1/23、UP予定!)

2013年冬アニメ評! 『ラブライブ!』(第1期)

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160330/p1


2013~14年3大アイドルアニメ評! 『ラブライブ!』『Wake Up,Girls!』『アイドルマスター

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150615/p1

2012年秋アニメ評! 『ガールズ&パンツァー』 ~爽快活劇に至るためのお膳立てとしての設定&ドラマとは!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190622/p1

2011年春アニメ評! 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』 ~別離・喪失・齟齬・焦燥・後悔・煩悶の青春群像劇の傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191103/p1

2011年冬アニメ評! 『魔法少女まどか☆マギカ』最終回「わたしの、最高の友達」 ~&『フリージング』『放浪息子』『フラクタル

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20120527/p1

2008年秋アニメ評! 『鉄(くろがね)のラインバレル』 ~正義が大好きキャラ総登場ロボアニメ・最終回!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20090322/p1

2008年春アニメ評! 『コードギアス 反逆のルルーシュR2』 ~総括・大英帝国占領下の日本独立!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20081005/p1

2008年春アニメ評! 『マクロスF(フロンティア)』(08年)#1「クロース・エンカウンター」 ~先行放映版とも比較!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080930/p1

2008年春アニメ評! 『マクロスF(フロンティア)』最終回評! ~キワどい最終回を擁護!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20091122/p1

2008年冬アニメ評! 『墓場鬼太郎

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20080615/p1


2007年秋アニメ評! 『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』 ~第1期・第2期・劇場版・総括!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100920/p1

2007年秋アニメ評! 『GR ジャイアントロボ

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20080323/p1

2007年春アニメ評! 『ゲゲゲの鬼太郎』2007年版

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20070715/p1


2006年秋アニメ評! 『天保異聞 妖奇士(てんぽういぶん あやかしあやし)』

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20070317/p1

2006年夏アニメ評! 『N・H・Kにようこそ!』

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20061119/p1


2005年秋アニメ評! 『BLOOD+(ブラッド・プラス)』

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20051025/p1

2005年春アニメ評! 『英国戀(こい)物語エマ』

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20051022/p1

2005年春アニメ評! 『創聖のアクエリオン』 ~序盤寸評

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20051021/p1


2004年秋アニメ評! 『機動戦士ガンダムSEED DESTINY(シード・デスティニー)』 ~完結! 肯定評!!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060324/p1

2004年春アニメ評! 『鉄人28号』『花右京メイド隊』『美鳥の日々(みどりのひび)』『恋風(こいかぜ)』『天上天下

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040407/p1

2004年冬アニメ評! 『超変身コス∞プレイヤー』『ヒットをねらえ!』『LOVE♡LOVE?』『バーンアップ・スクランブル』『超重神グラヴィオン ツヴァイ』『みさきクロニクル ~ダイバージェンス・イヴ~』『光と水のダフネ』『MEZZO~メゾ~』『マリア様がみてる』『ふたりはプリキュア

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040406/p1


2003年秋アニメ評! 『カレイドスター 新たなる翼』 ~女児向け・美少女アニメから真のアニメ評論を遠望! 作家性か?映画か?アニメか? 絵柄・スポ根・複数監督制!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040408/p1

2003年春アニメ評! 『妄想科学シリーズ ワンダバスタイル』『成恵(なるえ)の世界』『宇宙のステルヴィア』『ASTRO BOY 鉄腕アトム

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040403/p1