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ガールズ&パンツァー劇場版 ~爽快活劇の続編映画に相応しい物量戦&よそ行き映画の違和感回避策とは!?

『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』 ~微妙。戦車バトルを減らしたキャラ中心の2期も並行させた方がよかった!?
『ガールズ&パンツァー』 ~爽快活劇に至るためのお膳立てとしての設定&ドラマとは!?
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 2019年6月15日(土)からアニメ映画『ガールズ&パンツァー 最終章 第2話』が公開記念! とカコつけて……。アニメ映画『ガールズ&パンツァー 劇場版』(15年)評をアップ!


ガールズ&パンツァー 劇場版』 ~爽快活劇の続編映画に必要な物量戦&よそ行き映画の違和感回避策とは!?

(2015年11月21日(土)公開 バンダイビジュアル ランティス 博報堂DYメディアパートナーズ 博報堂DYミュージック&ピクチャーズ ムービック キュー・テック)
(文・久保達也)
(2015年12月13日脱稿)

爽快活劇の続編映画にふさわしい、1対1ではなく物量&人員も総動員した大集合のカタルシス


 大洗(おおあらい)女子学園の存続をかけた、「戦車道」の大学選抜チームとの殲滅戦が描かれるクライマックス。
 社会人チームをも敗ったほどの(笑)、強豪の大学選抜チームの戦車30両に対し、大洗女子学園はたった8両の戦車で挑むしかなかった。
 試合開始直前、主人公・西住みほ(にしずみ・みほ)の脳裏に、おもわず不安がよぎったその瞬間……


西住まほ「待った~!」


 西住みほの姉・西住まほが率いる黒森峰(くろもりみね)女学園の戦車群が、大洗女子学園の援軍として駆けつける!


 いや、そればかりではない!


 ダージリンが率いる聖グロリアーナ女学院
 ケイが率いるサンダース大学付属高校!
 アンチョビが率いるアンツィオ高校
 カチューシャが率いるプラウダ高校
 西絹代が率いる知波単(ちはたん)学園!
 ミカが率いる継続高校!


 短期転校手続きを取るという超ご都合主義により(笑)、テレビシリーズで対戦してきた高校や、今回初登場となる他校の生徒たちが、全員大洗女子学園の白いセーラー服に身を包み、戦車を駆ってみほの元に駆けつけるのである! これこそまさに、「スーパーヒロイン大戦」である!(超感涙)


 『ガールズ&パンツァー』(12年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190622/p1)は、「戦闘メカ」と「美少女萌え」という、オタク男子たちが最も好む二大要素を掛け合わせた作品である。
 本来は水と油であるハズのこれらを接合させるために、大洗女子学園の、特にみほが所属するあんこうチームの生徒たちを、戦闘的・威圧的なキャラではなく、少々弱っちくて常にアワアワしているキャラとして描いたことが――だからこそ、ひとりだけ常に冷めている、冷泉麻子(れいぜい・まこ)の低血圧キャラが活かされる――、我々に萌え感情を惹起させることとなったのである(笑)。


 また、「戦車道」を捨てるために大洗女子学園に転校したみほに声をかけ、ランチやお茶に誘ってくれた武部沙織(たけべ・さおり)と五十鈴華(いすず・はな)=ようやくできた友達が、強制的にみほを「戦車道」に勧誘しようとする生徒会からみほをかばってくれたという、良い意味での義理人情に突き動かされ、みほが再び「戦車道」を歩む決意をするという「動機づけ」。


 そして、終盤で生徒会から明かされた、大洗女子学園の廃校を阻止するために「戦車道」を復活させたこと、そのためにどうしても優勝しなければならないと、さらなる「動機づけ」を重ねることで、プラウダ高校との準決勝を盛りあげていく演出。


 そうした目的意識、クライマックスへのベクトル感のつくり方が、やはり『ガルパン』は秀逸だったかと思えるのだ。


続編映画にアリがちなヨソ行きの服装に対する違和感への回避策。それは原典の「らしさ」の反復!?


 今回の劇場版では、テレビシリーズで「戦車道」の全国大会優勝を見事に果たしたことから、大洗女子学園を存続させるとした文部科学省の約束が、しょせん口約束であったことが発覚。優勝記念のエキシビジョンマッチに敗北したばかりの生徒たちが突然、再度の廃校決定(笑)を知らされ、再度廃校阻止に向けた戦いを繰り広げるという、単なる引き延ばしの段取りの「再バトル劇」だけではない、彼女らが切実になって戦うに足る理由「動機づけ」のドラマを反復・重奏することとなっている。
 もちろんこれは、単なる私的な勝利の高揚をめざすために戦っているだけのようでは、本来は心優しく他人に譲るような謙遜の度合いが高い彼女たちがそこまで一生懸命に再戦するようには思えないからでもある。廃校を阻止するという切迫感や一応の公益もその「動機」とすることで彼女たちが戦っている方が、元々のテレビシリーズ『ガールズ&パンツァー』らしさも出せる! といった理由からでもあるだろう。


 これは作品の大人気により製作が急遽決定したのだろう、3月の卒業式後~3月末日(笑)までを描いた続編映画『ラブライブ! The School Idol Movie』(15年・松竹・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160709/p1)において、『ラブライブ!』第2期(14年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160401/p1)終盤にて主人公ら9人のスクールアイドルグループ「μ′s(ミューズ)」が、メンバーである3年生の3人が卒業したら「解散」するとしていた「決意」を、再び揺らがせていたことを彷彿とさせるものがある。
 第2期の終盤で決着したハズの「μ′s解散問題」を、なぜ再び蒸し返すのか!? などと批判したファンは多かったものだが、これもまたノーテンキなお気楽ノリのプロモーションビデオ風の歌曲連発だけではなく、テレビシリーズでも非常に印象的であった「μ′s解散問題」で再び悩んだり、それを糧や「動機」にして新たな道を模索していく彼女らを描いていった方が、元々の『ラブライブ!』的な「らしさ」の「空気」感も出せるから! といった理由からでもあるだろう。批判した輩にはそれがわかっていないのだ(爆)。


「バトル」や「自己犠牲」に「試練」シーンなどを盛りあげるための前段としての「ドラマ」や「点描」!


 まぁ筆者などは、大勢の美少女たちが歌ったり戦ったりしてるだけの場面がひたすら続くだけでも満足なのだが(笑)、やはり歌ったり戦ったりするための「動機づけ」として描かれる「人間ドラマ」も必要ではある。しかしそれも、過剰にネチネチとした陰鬱なものとはせずに、必要最小限なものに寸止めして描くからこそ、クドくなったり鼻についたりすることもなく、むしろより印象に残ったり感動的になっているような感すらあるのだ。


 解体のために大洗港を去っていく超巨大学園鑑を、


・1年生のウサギさんチームが泣きながら追いかけたり、
・「歴女(れきじょ=歴史好きの女子)」のカバさんチームのウソ隻眼の左衛門佐(さえもんざ)が旗を振って見送ったり(笑)、
・普段は冷徹な印象の生徒会広報で黒髪ショートのメガネっ娘・河崎桃が泣きじゃくったり、
・逆に普段は常に気楽なノリの生徒会会長・角谷杏(かどたに・あんず)が凛とした表情で見送ったり


 その「リアクション」の違いによって各キャラを浮き彫りにしているのは絶妙であり、これこそ『ガルパン』で「点描」されてきた「人間ドラマ」を最も象徴する場面ではないかと思えるのだ。


 今回の廃校決定に最も意気消沈したのが、作品の中心となって描かれている西住みほたち「あんこうチーム」の少女たちではなく、園みどり子(その・みどりこ)をはじめとする、全員がまるで太平洋戦争当時の少女たちみたいな黒髪のおかっぱ頭(笑)をした、3人の風紀委員であるのもウマいと思えてならないものがある。
 遅刻の常習犯である冷泉麻子と園みどり子の、後者の略称「そどこ」ネタ(笑)をはじめとする掛け合い漫才は、個人的にはテレビシリーズのお楽しみのひとつとなっていた。


 だが、血気盛んなまでに遅刻を取り締まっていたハズのみどり子が、廃校によって自分たちの存在意義までもがなくなってしまったと苦悩するさまは、コミカルに描かれながらもけっこう泣かせるものがあるのだ。


麻子「学校なくなったんだから、早起きしなくてもいいだろ」(笑)


 そんな麻子でさえもが気になったほど、


みどり子「規則は『破る』ためにある」


と、風紀委員たちは朝礼にも出ずに閉じこもったまま……


 これもまた、前半で描かれたエキシビジョンマッチで、大洗女子学園とチームを組んだ知波単学園メガネっ娘・福田が、みほの撤退命令に背いて突撃しようとした際、みどり子が、


「規則は『守る』ためにあるのよ!」


と叫ぶ姿が描かれていたからこそ、対比が効いて、その消沈ぶりがより強調されることとなっているのだ。


麻子「規則は守るためにあるんだろ。それに、おまえたちがいないとなんかさびしい」


 全国大会に優勝した際、約束どおりに遅刻データを全て削除してくれたみどり子に恩義を感じていた麻子は、消沈したままの風紀委員たちの手をひいて、朝礼に連れていく……


 このように、登場キャラが良い意味での義理人情に突き動かされる動機づけが繰り返される「人間ドラマ」は、やはり感動の嵐を呼び起こす! 常にぶっきらぼうだが、実は「いい娘」という麻子のキャラは、『ラブライブ!』の赤髪のツンデレヒロイン・西木野真姫(にしきの・まき)にも共通するものであり、どうも筆者はこの手のキャラに弱い(笑)。


 これと同様の手法で観客を感動させたのが、大学選抜チームVS女子校混成チームのクライマックスバトルの最中、プラウダ高校の戦車隊が隊長のカチューシャを守るために、その盾となって玉砕する(爆)場面であろう。


 本作で初登場となった新キャラ・クラーラが、エキシビジョンマッチで副隊長のノンナと常にロシア語で会話していたのを、ロシア語がわからないカチューシャは、


「ちょっとアンタたち! 日本語で話しなさいよ!」


と怒鳴りまくるが、ノンナは「はい」と返事だけしておいて、再びクラーラとロシア語で会話したりする(爆)。


 こうしたギャグ描写があったからこそ、クラーラがカチューシャの盾となる場面で、カチューシャに忠誠をささげるセリフをすべて日本語で語りだすさまが、より印象強いものとなるのである! 実におおげさな悲劇的な音楽とともに、まるでクラーラたちがカチューシャのために死んでいくかのような(爆)、錯覚をおぼえさせる演出は圧巻である!


 そして、エキシビジョンマッチの最中、ウサギさんチームの中で最もおとなしく、めったに口を開かない丸山紗希が、「ちょうちょ(蝶々)」と仲間たちを呼びとめたことが、ノンナの乗る戦車に砲撃されて吹っ飛ばされることとなるギャグ描写。
 これまたクライマックスバトルでは、舞台となった廃園した遊園地の観覧車を紗希が指さしたことにより、ウサギさんチームがそれを砲撃して巨大な車輪へと転じさせ、大洗女子学園チームを完全包囲していた大学選抜チームにぶつけて、形勢を逆転させる場面も実に鮮やか!


 「破壊の快感と美少女の暴力」(笑)を盛り上げるための前段・伏線としても逆算されて、「ギャグ描写」が配置されているのは見事としか言いようがないのだ!


 まぁ、こうした「職人芸」的な演出とまではいかなくとも、みほを「大隊長」とした隊長たちが作戦会議に集結し、作戦名を決めるのにワイワイキャッキャと、単に好きな母国料理(笑)を挙げたあげく、みほが『ウルトラマンタロウ』(73年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20071202/p1)の怪獣攻撃隊・ZAT(ザット)のごとく、「こっつん作戦」とユルユルに命名するオチは好きだなぁ(笑)。
 こうした場面でさえも、優雅で気品のあるダージリン、フレンドリーでノリのいいケイ、戦闘よりも食を優先する(笑)アンチョビなど、各校の隊長たちは皆キャラが立ちまくりであり、出てくるだけでおもわずほっこりとしてしまう。


 中盤で大洗女子学園の戦車が文部科学省に没収されることが決まった際、ケイがサンダース大付属高校が所有する巨大な輸送機に乗って颯爽と登場し、一時的に戦車を預かってくれるふところの深さを見せるのも、実に「らしさ」を感じさせてくれるものがある。副隊長のナオミが大洗の生徒に向け、「手間かけやがって」と、ボソっとつぶやくのもまた然(しか)り(笑)。


 ただ、大洗の生徒たちが転校先が決まるまで、一時的に共同生活をしていた山間部の廃校舎――これって「疎開」のイメージだよな(笑)――にめがけて、再び現れた輸送機が、夕焼け空の中でパラシュートで一斉に戦車を降下させるというのは…… 実に美しい画面なのだが、こんなハデなことをしたら、確実に文部科学省の知るところになると思える(笑)。


前作までの「敵役」との和解と「新敵」を前にしての共闘も、ラストバトルを爽快にするため!


 テレビシリーズではいわば「敵」であったハズの実の姉である西住まほと、「主人公」である西住みほが今回共闘することとなったのは、熊本の実家に一時的に帰省したみほが、母・しほに出くわさないよう気を利かして、学園の書類にこっそりと母の署名・捺印をしてあげた――有印私文書偽造の大罪である(爆)――、姉の姿に象徴的に表れているといえるであろう。


 田舎の風景の中、姉妹が仲良く遊ぶ姿が描かれる回想場面は、実にベタではある。しかしながら、戦車から勢いよく飛び降りてみたり、当たり付きアイスがハズレだったことにガッカリする西住みほの姿は、かつては快活なおてんば娘であったことが端的に描かれている。
 一方、みほを抱きとめたり、自分の当たり棒をみほに譲ってあげる姉・まほの姿もまた、幼い頃からクールに見えるキャラとして描かれながらも、妹想いの良き姉であることが色濃く演出されているのだ。
 厳格な母の前では表面的には出さないものの、テレビアニメシリーズではクールな「敵役」であった西住まほがそのころから、内心では妹のことをずっと気にかけてきたことが本作で後付けでも明らかにされたのは、個人的には西住まほが麻子と同じような「いい娘」に見えて、その好感度が高まったものであった。


 クライマックスバトルの殲滅戦の末に、西住姉妹と2対1の決戦を演じることとなった、大学選抜チームの大隊長である無口なロリチビ13歳(笑)の飛び級大学生・島田亜里寿(しまだ・ありす)が戦う動機は、勝利することによって廃園寸前のテーマパーク・ボコミュージアムを存続させるために、母の千代にスポンサーとなってもらうこと。
 これは主人公側の廃校阻止という動機に比べればいささか弱いような気がするが、それでも大事なものを守りたいとする「動機」を与えることで敵キャラでさえも立てており、守りたいものがある我らが西住みほたちと一応は同等の立場とすることで、その存在感をも拮抗させている。クライマックスバトルの舞台がすでに廃園した遊園地であるのも、亜里寿の想いを象徴したものでもあっただろう。


 ボコ好き同志として、みほが戦いの果てに亜里寿と友情が芽生えるのもまた、テレビシリーズで描かれてきたことの踏襲であり、感慨深いものがあった。それにしても、姉・まほの戦車が空砲を放って妹・みほの戦車が押されることで亜里寿の戦車にぶつけるさまは、ほとんど変身ヒーローの合体技に近いものがあるが、みほの勝利をまほもまた後押ししたということの実に即物的(笑)な映像表現でもあった。


 前半で描かれた茨城県大洗町における市街戦では、買い物客であふれるアウトレットモールに戦車が乱入、連絡通路やエスカレーターを戦車が渡ったり――「発砲禁止区域」の標識があったが、当たり前やろ!(爆)――、大洗町役場らしき建物までもが戦闘に巻きこまれ、大洗ホテルや大洗シーサイドホテルは発砲でガラガラと崩れ去る! あげくの果てにアクアワールド茨城県大洗水族館までもが被害に遭った! ペンギンは無事だったようだが、死んでしまったならば、日本戦車道連盟はどう責任をとるつもりなのだ!?(爆)


 これはまさに、「特撮怪獣映画」の感覚である! 進撃する戦車群の俯瞰カットの多用や、まさに頭上を戦車が通過していくイメージのローアングル、画面上に主砲を配置し、狭い路地をクネクネ曲がりながら敵を追跡する中で、破壊された商店や信号機が手前に崩れてくるほどの、臨場感にあふれる主観カット……


 「破壊の快感と美少女の暴力」を満たすために描かれた究極の絵空事は、現実世界の街を舞台に据えた、迫真性に富む演出により、観る者を決して飽きさせることがない!


 ただ、『ラブライブ!』もそうであったが、『ガルパン』にせよ、リアルに考えれば「恋愛」が最大の関心事である沙織が片想いをする男子校の生徒が登場したり、華を「お嬢」と慕っている新三郎が華に告白する場面があっても良さそうなものなのだが…… それどころか、ほかに登場する男性キャラといえば、秋山優花里の父・淳五郎に日本戦車道連盟の理事長、あとは文部科学省の役人くらいである。もはやハーレムものですらなく、男そのものが出てこなくなってしまうほどに、こうしたジャンルの世界観が自堕落に奇形的に退行(進化?・笑)してしまったのは、いったいなぜなのだろうか?


 それはつまり…… やっぱり我々が大好きな真姫ちゃんや麻子ちゃんが、他の男とイチャつく姿は観たくないからだ(爆)。おそらくその想いは皆が同じであろう。だからこの傾向は、今後ますます顕著なものとなっていくと思われる(笑)。


ガールズ&パンツァー 劇場版』公開後舞台挨拶

(15年12月6日 静岡県静岡市 シネシティザート)


 筆者が現在、在住している静岡では声優イベントはなかなか開催されることもないのだが、今回の巡業はそれだけ『ガルパン』が国民的人気作品となっている証であろう。リアルタイムでは静岡ではオンエアすらされていなかったハズなのだが(笑)、チケット発売開始時刻にネットで申し込んでも、すでに後ろから3列目の席になってしまったほどであった。


 今回はアリクイさんチームのビン底メガネ少女・ねこにゃーを演じた葉山いくみが進行役を務めて、


 歴女のカバさんチーム・カエサル役の仙台エリ
 エルヴィン役の森谷里美
 左衛門佐役の井上優佳


 以上の3名が登壇していた。


 全国での舞台挨拶用に、声優たちには背中の部分に各チームのマークが入ったジャケットが用意されていた。井上がそれを観客に見せながら、「おケツの穴までしっかりと描いてあります」と語った際には、場内が爆笑の渦に包まれた(笑)。


 静岡の銘菓「こっこ」のCMで、『ガルパン』が放映された2012年からバナナこっこちゃんの声を演じているのが森谷であることが、彼女自身から語られた際には大きなどよめきが起こった。筆者を含めてその事実に気づかなかった人間は多かったようだ。


 井上は県内の掛川市に友人がいることからよく遊びに来るそうだ。「車がないと生活できない」との発言には、移動手段として公共交通機関を利用する習慣がほとんどない静岡県民としては、「地方」に住んでいることを実感せざるを得なかった(笑)。


 女児向けアニメ『Yes! プリキュア5(ファイブ)』(07年)の小動物型妖精・ミルクや、その続編『Yes! プリキュア5 GoGo』(08年)ではこのミルクが変身した6人目の美少女戦士・ミルキィローズを演じたことでも知られる仙台によれば、今回のアフレコは通常よりもかなり大きなスタジオを使ったそうで、総勢60人ほどの声優が集結したさまは圧巻だったらしい。劇場作品としても異例のことだそうだが、それでも端役を掛け持ちで演じさせられることを、収録現場で急に指示されることが多発したようだ。


 青森県プラウダ高校の生徒役を急にふられた井上は、青森弁は今回が初めてだったとか(笑)。それでも当初は収録に2日間かける予定だったのを、1日でやり切ってしまったという話にはおおいなるプロ根性を感じさせた。ちなみに、本作には台本が3冊も用意されたが、3冊目はほとんどト書きしかなかったらしい(爆)。


 声優を務めたのは『ガルパン』が初となった井上は、最後の挨拶の途中で感極まって泣き出してしまった。森谷ももらい泣きしてしまうほどであった。


 中堅声優の仙台によれば、『ガルパン』のアフレコ現場は新人声優がかなり多く、女の子が戦車で戦うという設定も地味に見えたことから、ここまでの人気作品に成長するとは想定してはいなかったそうだ。


 「3年ひと昔」の感がある昨今、『ガルパン』が放映終了から3年経ってもいまだ人気が衰えず、劇場版を初登場第2位にランクインさせるような秘訣を、エンタメ業界の関係者は学ぶべきではなかろうか!?


 進行役の葉山の合図で、おなじみの号令「パンツァーー・フォーーー!!」を全員で叫ぶことで(笑)、今回は幕となった。


 この手の舞台挨拶回では、会場ごとに声優が異なる舞台挨拶をハシゴしている輩がやはり多かったようだ。舞台挨拶が終わると移動するためにだろう、彼らは速攻で退出していった(笑)。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.73(15年12月30日発行))


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ガールズ&パンツァー』 ~爽快活劇に至るためのお膳立てとしての設定&ドラマとは!?

(文・久保達也)
(2015年11月24日脱稿)

茶道や華道と同等のモノとしての戦車道! 外人かと思いきや日本人の女子高生ライバルたち!


 しっかし、どうひいき目に観ても、おバカな世界観だよなぁ(笑)。


 乙女が嗜む武芸として、世界中で「戦車道」が古来から女子が進むべき道として受け継がれ、それによって良き妻・良き母・良き職業婦人(笑)となり、多くの男性に受け入れられるとされている本作の世界観。
 その「戦車道」の世界大会が数年後に日本で開催されることが決定、文部科学省の要請により(爆)、全国の高校や大学が「戦車道」に力を入れることとなり、舞台となる茨城県立大洗(おおあらい)女子学園高校でも必修選択科目として、「戦車道」が20年ぶりに復活する!


 聖グロリアーナ高校との親善試合は、地元の東茨城郡大洗町で繰り広げられる市街戦として行われ、アウトレットモールに設けられた観客席で、町民たちが歓声をあげて大洗女子学園を応援! 当然砲撃の被害を受ける住宅や店舗も出てくるが、日本戦車道連盟がそれを補償してくれるため、住民や店主たちはむしろ「これで新築できる!」と大喜び(笑)。


ダージリン「イギリス人は戦争と恋愛では手段を選ばない」


 つーか、おまえ日本人やろ!(笑)


 横浜の名門お嬢様学園・聖グロリアーナ高校の隊長である金髪娘のダージリンは、戦車の中で紅茶を嗜み、好敵手と認めた相手には試合終了後に紅茶を贈る(笑)。


 公式戦第1回戦の相手となった、長崎県佐世保市のサンダース大学付属高校は、戦車の保有台数は全国一を誇り、試合会場にシャワー車やヘアサロン車まで用意するほど裕福であり、隊長のケイは妙にフレンドリーで快活なヤンキー娘――いわゆる「不良」を意味するヤンキーではないので念のため(笑)――。その指示に従う隊員たちは「イエス・マム!」と答える(爆)。


 準決勝の対戦相手、青森県プラウダ高校の隊長・カチューシャと副隊長のノンナは――設定では身長が127cmしかないカチューシャは、ノンナに肩車してもらうことで、大洗女子学園の生徒を見下している(爆)――、雪上を戦車で進撃しながらロシア民謡『カチューシャ』を口ずさみ、大洗女子学園に降伏を迫る間、隊員たちはたき火を囲んでボルシチを食べ、ついでにコサックダンスを踊りまくる(爆)。


 そんなワケで、大洗女子学園の対戦校はそれぞれイギリス・アメリカ・ロシアがモチーフであり、武芸どころか、これでは立派なリアル戦争ごっこである。もっとも、大洗女子学園の戦車は旧日本軍のものではなく、どういうワケかドイツ軍のものだったりするのだが(笑)。


 そもそも、第1話『戦車道、始めます!』のラストシーンには度肝を抜かれたものだった。戦車の格納庫、学園、街と、画面がどんどんロングになった挙げ句、それらが全て「学園鑑」と呼ばれる空母の上にのっかっていることが判明するのだから(爆)。先述したライバルの3校も設定ではすべて同様であり、試合の際はその「学園鑑」で会場に移動するのである。


 大洗学園の生徒たちは戦車をピンクや赤、金色に塗りたくり、ウサギさんチーム・アヒルさんチーム・カメさんチーム・カバさんチームなどと、各所属を命名する(笑)。もっとも、戦車に描かれたウサギさんのマークは目が真っ赤に血走り、両手に包丁を持っていたりするのだが(爆)。


 乗ってるとお尻が痛くなるから、と、生徒たちは戦車内にカラフルなクッションのみならず、ぬいぐるみや芳香剤を持ち込み、ケータイの充電まで可能にしようとする(笑)。戦車喫茶のウエイトレスが軍服姿であるのは当然として、テーブルの呼び出しブザーは砲撃音、いちごショートやチーズケーキも形は全て戦車型、それらをまさに回転寿司のように戦車の模型が運ぶ徹底ぶり(笑)。


 試合で繰り出される作戦は「こそこそ作戦」「ところてん作戦」「フラフラ作戦」「モクモク作戦」「おちょくり作戦」など、『ウルトラマンタロウ』(73年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20071202/p1)の防衛組織・ZAT(ザット)かよ! と云いたくなるほどのユルユルなネーミング。


 そんな中で、「キャッキャ」「ウフフ」と「戦車道」を突き進む大洗女子学園の女子高生たちは、ほぼ例外が存在しない美少女揃いである。公式戦では一応の軍服のつもりか、お揃いの青い制服を着用しているが、下は白のミニスカのまんま。元バレー部員たちなんかは赤い短パンだったりする――つーか、こんな仮想世界くらいブルマーにしろよ!(爆) あと、その中の近藤妙子が往年の名作OVA『トップをねらえ!』(88年)の主人公・タカヤノリコに妙にクリソツであるのが気になるが(笑)――。それらには目をつむるとしても、せめてヘルメットくらいかぶったらどうだ?(爆)


強気な戦闘美少女ではオタ男子に引かれる時代に、戦闘と萌えを両立させる美少女キャラ造形とは!?


 主人公で茶髪ショートヘアの2年生・西住みほ(にしずみ・みほ)は、第1話で教室であわや「ひとりめし」となりそうな場面があるほど、心優しい引っ込み思案な少女として描かれている。
 今どきの心優しいオタク男子が「圧」を感じて苦手そうな、本来のミリタリーものの主役を張るような無骨で血気盛んな暴力少女・戦闘美少女というイメージには程遠い、争いがキライで控え目な柔和な少女なので、(ひとり)ボッチ気味な弱者男子でもあるオタク諸氏も無意識に安心するだろうし、自身とのボッチな共通項をまずは接点に感情移入もさせることで、そこを起点に応援もしたくなる、オタ向けコンテンツとしてのマーケティング的にも実に絶妙なキャラ造形である(笑)。


 クラスメイトで、


・なんでもかんでも強引に恋愛話に結びつけるものの、実は恋愛経験がまったくないのだが(笑)、誰とでもすぐ仲良くなれることと料理が得意な、茶髪ロングヘアの武部沙織(たけべ・さおり)
・華道の家元の娘で常に敬語を使い、「いつも堅苦しいと云われる」(爆)黒髪ストレートヘアの大和撫子という五十鈴華(いすず・はな)――女子高生アイドルアニメ『ラブライブ!』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160330/p1)のサブヒロイン・園田海未(そのだ・うみ)との類似を個人的には想起する。海未ちゃんにはややお馬鹿キャラが入っていたけど(笑)――


にランチやお茶に誘われたみほが、「すてきな友達ができた」と喜ぶ描写は、ほとんど(ひとり)ボッチアニメの序盤の展開を思わせるほどである。


 第2話『戦車、乗ります!』では、


・いつでも野営ができるようにと、普段から飯盒(はんごう)を持ち歩くほどの戦車マニアであり、みほのことを軍隊調に「西住殿」と呼ぶ(爆)、くせ毛のショートボブ・秋山優花里(あきやま・ゆかり)
・超低血圧で245日連続遅刻の記録を誇ることから、優等生なのに留年の危機にある(笑)、沙織の幼なじみで紺色のロングヘアに白いカチューシャをした、常にぶっきらぼうな冷泉麻子(れいぜい・まこ)――親善試合当日に起きない麻子を、優花里が進軍ラッパで、みほが戦車の空砲で起こそうとするのは、あまりに度のすぎたイヤがらせであるどころか、おもいっきりの近所迷惑やろ!(爆)――


が仲間に加わり、この5人で結成されるあんこうチームが、「戦車道」を選択した生徒たちの中でも主役級として描かれる。


華「なんか気持ちいいです」
沙織「告白されるよりドキドキした」


 聖グロリアーナ高校との親善試合で「戦車道」に快感をおぼえた少女たちは、サンダース大学付属高校との公式試合において、


・沙織は通信手として、相手の無線傍受に対抗し、仲間にケータイメールで連絡をとり、
・華は砲手として「花を活けるときのように集中して」と、フラッグ車を一発で狙い撃つ!――砲弾がストップモーションとなるのがまた効果的(笑)――


など、それぞれの役割を立派に果たしていく。


 沙織はコミュ力の高さ、華は芯の強さと、そのキャラクター性を存分に発揮した活躍ぶりは、延々と続く戦車ドンパチバトルを盛り上げるのに大きく貢献している。


意外なドラマ性の高さで本作を評価すべきではない!? ドラマはアクションの前段・助走台に過ぎない!?


・第4話『隊長、がんばります!』で描かれる、「戦車道」を反対する母に勘当されてしまう華
・第5話『強豪・シャーマン軍団です!』で発覚する、「ずっと戦車が友達だった」ために友人ができなかった優花里の過去――沙織の考えでは、クセ毛をキラった小学生時代の優花里が、理髪店を経営する父と同じくパンチパーマにしていた理由の方が大きいとのことだ(爆)――、
・第7話『次はアンツィオです!』で語られる、小学生のときに両親が事故死したことから、口やかましい祖母のことを誰よりも大事に思い、心配をかけたくないとする麻子の意外な一面


 こうしたキャラの内面を掘り下げる描写は、あくまで本作における迫力あふれる戦車対決のアクションのカタルシスといった作品のクライマックス・ヤマ場を、物理面だけでなく心理面でもより盛り上げるための「お膳立て」なのである。戦車対決へと至った「舞台背景」や各人の思想信条などの戦う「動機」として捉えるべきなのである。それこそ『ラブライブ!』第1期における一部のアニメ評論のように、クライマックスにおける歌唱ライブシーンの盛り上げ方の方をさておいて、その助走台であるハズの人間ドラマ性の高さだけを延々と単独で持ち上げるべきではないだろう。


・ふだんは「戦争反対!」などと主張している筆者のような輩でも、おもわず興奮せずにはいられないほどの、そのデタラメな世界観とはあまりに対照的な、圧倒されるほどのリアリティと迫力にあふれた「ミリタリー演出」
・「戦車道」を選択した生徒たちが全員入浴する中で、みほが恥ずかしそうに胸を隠しながら演説したりするような「萌え要素


 いわば、「破壊の快感」と「美少女の暴力」(爆)。本作はこういった要素こそが、その最大の魅力なのである。


 第8話『プラウダ戦です!』のラストにおいて、生徒会のメンバーから「公式戦で負けたら大洗女子学園が廃校になる!」という衝撃の事実が初めて明かされる。これもまた、「ここで負けたらあとがない!」という「切迫感」をもたらすために加味した「香辛料」なのであり、このあとの準決勝バトルをさらに心理的にも盛り上げるための計算づくの展開と云ってよいだろう――それは小賢しい作為だ! といった批判などではなく、それこそが良く出来た物語なのだ! といった意味での肯定である――。


穏やかな主人公少女を戦わせるための、苦肉の「動機付け」や「肉付け」が成功の要因!?


 先述した『ラブライブ!』では、私立音ノ木坂学院の廃校を阻止しようとして、主人公少女の高坂穂乃果(こうさか・ほのか)がスクールアイドルの結成を思いついて、それが周囲を巻きこんでいく展開となっていた。


 だが、本作では、


みほの母・しほ「鉄の掟、鋼(はがね)の心、それが西住流」(爆)


などという、先祖代々戦車乗りの家系(笑)に生まれ育ったものの、ある過去が原因で「戦車道」を捨てたハズのみほが、「戦車道」の選択をみほに「強要」しようとする生徒会に対して沙織と華が「かばってくれた」ことに感激し、再び「戦車道」を歩むことを決意するという、いわば逆『ラブライブ!』(笑)とでも呼ぶべき展開となっている。


 いかに「精神修養」などのキレイ事で糊塗しようとも、露骨に勝敗を決めたり、選手と補欠を定めたりするような、平等主義や人道主義とは程遠い「大の虫を生かすために小の虫を殺す」という側面が、スポーツや武道一般にはたしかにあるのだ――スポーツや武道にかぎらず、人生におけるあらゆる出来事や選択肢に、大なり小なりつきまとうものでもあるけれど――。


 人との争いがキライで、「戦車道」の家元としての出自自体もトラウマであるハズの心優しい主人公少女が「戦車道」を再び選択する「動機」が、コミカルなフィクション作品なりに実にていねいに描かれていることも、本作序盤の成功した点だろう。一応の「公益性」はあるものの、廃校を阻止せんとする生徒会のやや上から目線の押し付けがましい「要請」(汗)という、過去のトラウマをも刺激する要素だけでは、彼女は奮起はできないのだ。しかし、仲間たちがいったんはそれを案じて「要請」からの「防波堤」になってくれたことを恩に感じて、「戦車道」に主体的に再帰することを選択させていく……といった一連の段取り劇を踏まえていくのだ。


 主人公のあくまで平和主義的な性格をも強調できていて、作品世界から軍国主義的なキナくささも脱臭できており――完全に脱臭できているかはともかくとして(笑)――、これまた実にうまい。ここまでやってくれれば、あんなにフニャフニャとして、武道とは縁(えん)がなさそうで向いていなさそうでもある彼女が「戦車道」を再選択するくだりにも説得力が醸(かも)されてくるというものだ。……もちろんこれがホントウに「戦争」に出征する選択だったならばヤバさが漂ってしまうけど、本作における「戦車道」とは人死にが出ない「茶道」や「華道」のようなものだとされているので、ぎりぎりでセーフだ!?


 プラウダ高校から降伏を迫られる中、この学校に来て初めて「戦車道」の楽しさを知ったのだから、ここまで来たらもう充分と主張するみほに対し、あくまで徹底抗戦を主張する、生徒会広報で黒髪ショートのメガネっ娘・河嶋桃(かわしま・もも)は、つい廃校の件を口にしてしまう。
 第9話『絶体絶命!』において、生徒会長の割には常に気楽なノリで、低身長のツインテール娘・角谷杏(かどたに・あんず)は、学園側に「戦車道」を復活させたのは公式戦で優勝すれば廃校を取り消すと約束させたからであり、だからこそ「戦車道」の経験があったみほに選択を「強要」した事実を遂に明かす。


 降りしきる雪の中で完全に包囲されて、食料も尽きて「天は我々を見放した」と明治時代の史実を基にした映画『八甲田山(はっこうださん)』(77年・東宝)の名セリフも出るほどに隊員たちの士気も低下する中、


みほ「来年もこの学校で“戦車道”やりたいから。みんなと」


と、みほはかつてとは一転して勝つ気マンマンとなっているのみならず、テレビシリーズ序盤に親善試合で負けた罰ゲームとして大洗町民の前で踊らされた、あまりに恥ずかしい「あんこう踊り」を自分から再披露する!


 「あの恥ずかしがり屋のみほが!」と、隊員たちが全員「あんこう踊り」を踊りだすことで一気に士気が高まり(爆)、プラウダ高校に逆転勝利をおさめる劇的な展開は、「ドンパチバトル」と「人間ドラマ」のクライマックスの華麗なる融合ともなっている!


 第10話『クラスメイトです!』で、決勝戦前夜に生徒たちがとんかつ・カツサンドかつ丼・カツカレー・串かつ・カツバーガーを食べる描写はひたすら微笑ましいが――ウサギさんチームの1年生たちが食べているのは、どう見てもハムカツパンにしか見えないのだが(笑)――、当日にかつて戦った高校のチーム皆が応援に来ているあたりも、少年マンガによくある既視感あふれる王道の展開だとも云えるけど、


「あなたは不思議な人ね。戦った相手みんなと仲良くなるなんて」


ダージリンがみほを讃える、これまたありがちな姿で主人公キャラを戦闘力だけではなく人望・人徳面でも立ててみせて、さらにメインキャラのあんこうチームが戦車の上で手を合わせて勝利を誓う姿は、それこそスクールアイドルたちのバトルロイヤルを描いていた『ラブライブ!』に例えるならば、主人公チームが心をひとつにして士気を高めるための号令「μ′s(ミューズ)! ミュージック・スタート!!」などにも通じているものがあり、ここまで大洗女子学園を見守ってきた者からすれば、感慨にひたらずにはいられない演出の連続である!


本放送時のスケジュール破綻による打ち切り! 3ヵ月後に放映された大傑作の最終2話!


 ここまで盛り上げておきながら、本放映では本作はこの第10話で、リアル『SHIROBAKO』(14年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20151202/p1)――アニメ製作のウラ側を描いた深夜アニメ――を起こしてしまった(爆)。全12話であるにもかかわらず、途中で2回も総集編を入れることとなり――1回目は第5.5話――、総集編2回目の第10.5話(=テレビアニメシリーズ最終回・笑)――のラストでは、


「私たちの戦いはこれからです!!」


などという、あまりに無責任な字幕が流れることとなったのだ(大爆)。


 まぁ、お客さんが我々のような「大きなお友達」だったから、それも「しゃあないなぁ~」で済んだのだが、これが就学前の幼児を相手にした変身ヒーロー作品やアニメだったら、全国の子供たちが泣きわめき、親から「どうしてくれるんだっ!」なんて抗議が殺到すること必至の、立派な犯罪的行為である(爆)。


――その戦闘描写のスピード感・臨場感が圧倒的な『ガールズ&パンツァー』(12年)OVA『これが本当のアンツィオ戦です!』(14年)もまた、当初は全12話ならぬ全13話構想であったものの予算や時間の都合でオミットした第7話と第8話の間に想定していた回を、OVAとして発売したとしか思えない(笑)。ちなみに、同作にはひょろ長で猫耳のビン底メガネ娘・ねこにゃー(猫田)が登場しているが、公式戦第2回戦当時を描いたこの話がテレビシリーズでは欠けているために、第10話のねこにゃーの初登場が、実に唐突に思えてならない。いったい本作の製作進行はどうなっていたのか!?(笑)――


 第11話『激戦です!』、そして最終回『あとには退けない戦いです!』で描かれた決勝戦の相手は、大洗女子学園に転校前のみほが通っていたという高校であり、実の姉の西住まほが隊長を務める、因縁の黒森峰(くろもりみね)女学園! 最終決戦が姉妹対決というのもまた、これ以上はない王道と云えるものである!


 市街地の狭い路地を進撃する戦車群をとらえた俯瞰カットや戦車からの主観カット――画面上には終始主砲が描かれている!――、さらに『機動戦士ガンダム』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19990801/p1)などの往年のロボットアニメを彷彿とさせる、戦車内の生徒を画面中に三角形の枠内に割り込ませる演出や分割画面が多用される中で、


・戦車をウイリー走行(!)させて、その重みで橋を破壊して黒森峰の追撃から逃れたり!
・迷彩色の巨大な超重戦車に真正面から突撃した1台がその下にめり込んで、上に1台が乗っかることで砲塔をブロックしたところを、土手を斜め走行したフラッグ車が攻撃する!
・敵戦車と激突したまま後退し、ふいに路地を曲がることで、敵を土手の下へと突き落とす!


など、大洗女子学園の頭脳戦と力技(ちから・わざ)が炸裂しまくっている!


 つーか、これで死傷者がまったく出ないのは完全に大ウソだが(笑)。


 もちろん、これにはみほの常に冷静な知的戦略が働いていることは云うまでもないが、決してそればかりではない。


 第11話で大洗女子の戦車群が大きな川を渡る中、ウサギさんチームの戦車が川でエンスト(エンジン・ストップ)を起こして、立ち往生してしまうのだ! 黒森峰時代、自身が試合中に川に流された戦車を助けたことで負けたトラウマ(心理的外傷)の記憶を、おもわず回想してしまうみほ!――第10話のラストで、その助けた相手が「あのときはありがとう」と、みほに礼を云う場面があったことが伏線ともなっている――


 それを即座に察するほどに、人情の機微がわかっている沙織が、


「行ってあげなよ」


と背中を押したことで、みほは自身にワイヤーを縛りつけて、戦車群をジャンプして渡り、ウサギさんチームの救出に向かうのだ!


麻子「前進するより仲間を助けることを選ぶとはな」
優花里「だからみんな西住殿についていけるんです!」


 コレがホントウの戦争であって、少数の人間を助けるために大勢の人間が死んでしまったならば本末転倒なので(汗)、軍事的なリアリズムで考えた場合には実はリアルではない――もちろん、余力がある場合にはホントウの戦争でも仲間の軍人は助けるものだけど――。
 しかし、本作はやはりホントウのリアルな戦争を描いているワケではないのだ。戦いに負けても自分や仲間や自国民が大勢死ぬようなものではない(笑)。そういう平時において、ヒトの上に立つ者に求められるものとは何か? それは、戦いには負けようが、仲間の命を救おうとするような、戦略眼だけではない「人徳」にあふれる態度こそが、温厚で戦いには決して向いてはいない西住みほが隊員たちから慕われている最大の理由だとして、改めて彼女のキャラを主人公らしく立ててみせるのだ!


沙織「みんな! みほちゃんたちを援護して!!」


と、迫ってきた黒森峰に一斉砲撃を加えるほどに、その結束が固まるのも必然なのである!


華「この一撃は、みんなの想いをかけた一撃」


 想いをかけたからといって、砲弾のスピードや威力が増したり神風が吹いたりするワケではない(笑)。しかし、フィクションとしては、その砲弾に想いが込められているとした方がシンボリックにもなって盛り上がるではないか!? 西住姉妹のガチンコ・ラストバトルを最大限に盛り上げるために、これまで本作ではキャラクター演出やドラマで「みんなの想い」が構築されてきた、と云っても過言ではないのだ!


沙織「やったよ、ミポリン!」


 見事に優勝したことに、沙織がみほに抱きつく姿もよいのだが、これまでみほに比較的に冷淡な態度をとり続けてきた広報の桃が「感謝にたえない」と泣きじゃくる姿もひたすらに微笑ましいし、冷徹そうな彼女でも実は人情を解する「いい人」であって感情の沸点を超えてしまった! といった意味でも、視聴者にもその感動の感情が伝染してきて、このシーンの感情的な盛り上がりを側面から助長していくのだ!


 ただ、黒髪おかっぱ頭の風紀委員・園みどり子(その・みどりこ)が、約束どおりに麻子のこれまでの遅刻データを削除したことに、


麻子「おお~っ、ありがとう~!」


などとそんな俗っぽいことで豹変する麻子の姿は、まるで『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20150403/p1)の主人公・黒木智子(くろき・ともこ)みたいだった(爆)。


まほ「みほらしい戦いだったな。西住流とはまるで違うな」
みほ「おねえちゃん。やっと見つけたよ、わたしの戦車道」


 美しい夕焼け空の中、握手をかわす西住姉妹。そして、遠くから無言で拍手を贈る姉妹の母。



 本作には「少女の自立・成長」といったテーマも背負わされていただろう。しかしながら、それを湿っぽい、辛気クサいドラマなどではなく、小学生男子でも理解ができて夢中になれそうな、ドンパチ戦車バトルによって見事に描ききったことは賞賛に値する。


 これならば本放映が『SHIROBAKO』状態に陥ったこともおもわず納得してしまうほどの力作であり、私事で恐縮だが筆者のオタク趣味の専門分野である、幼児や小学校低学年を対象とした特撮変身ヒーロー作品こそ、本作のクライマックスでのバトルを最大限に盛り上げるための助走台としてのドラマ&作劇を、最高最良のテキストとするべきではないのかと、個人的には思えてならないものがあったのだ。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.73(15年12月30日発行))


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 深夜アニメ『四畳半神話体系』(10年)・アニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』・『夜明け告げるルーのうた』(共に17年)・ネット配信アニメ『デビルマン crybaby』(18年)などを手懸けた鬼才・湯浅政明カントクが、コアなマニア層ではなく原作・絵柄・色彩的にも女性ライト層やデートムービーをねらったとおぼしきアニメ映画『きみと、波にのれたら』が2019年6月21日(金)から公開記念!(まだ観てませんけど・汗)
 同じくシンエイ動画上がりで、原作・絵柄・色彩的にも一般層・女性ライト層をもねらったとおぼしき原恵一カントクによる2ヵ月前のアニメ映画『バースデー・ワンダーランド』(19年)が個人的にはイマイチだっただけに……とカコつけて。アニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』&『夜明け告げるルーのうた』評をアップ!


夜は短し歩けよ乙女』・『夜明け告げるルーのうた』 ~鬼才・湯浅政明カントクのイマ半と大傑作!

(文・T.SATO)
(2017年7月29日脱稿)

夜は短し歩けよ乙女


 70年代前半のフォークソング・ブーム時代の『神田川』で歌われたような四畳半の木造アパートに住まう奇人変人ビンボー学生たちの奇妙奇天烈な物語。


 みんながダサくて、身なりに無頓着で80年代中盤以降に隆盛を極めるファッション&スイーツな女子にモテるためのテニスだコンパだナンパだ! という遊び人的スキルを要求される、我々オタにとっては勝ち目も楽しみもない、高度大衆消費文化がココには(ほとんど)ナイ!
 ブ男でもムダに劣等感をいだかず古本屋に通い読書にいそしみ、同好の士と不毛な論争に明け暮れることができる……
 と賞揚したいトコロだが。おそらく彼らは、日本の大学カースト№2の京大(京都大学)のエリートたちだよネ!? あぁ下々の筆者はナンかムカついてきた。さぁ革命を起こしてエリートは全員ギロチンで首チョンパにしようゼ!(爆)


 本作はカルト作家・森見登美彦の原作小説をTVアニメ化して、2010年にノイタミナ枠で放映された『四畳半神話体系』のスピンオフ作品でもある。
 『四畳半』は公私ともに充実した夢の大学生活を謳歌しようとするも、ナゾの悪友の妨害にあって果たせず、無自覚に何度もタイムリープして新入生からヤリ直し、所属サークルも都度変えていくといった内容であった――SFではナイので、時間ループできる理由やその意義の説明などは一切ナシ!――。
 本作は『四畳半』の主人公とは別人でも、似たような自意識過剰で内心の声が非常に饒舌(笑)な主人公を、昨2016年秋のマンガ原作の覇権TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の副主演でブレイク、35歳だけど童貞に見えると評された(笑)、星野源(ほしの・げん)を主役声優にフィーチャー。世間へのセールスの仕方としては実にタイムリーで上手いとは思う。
 弱そうで受け身そうな坊ちゃん顔の星野にはオタの匂いがする……と思っていたけれど。先般『けものフレンズ』(17年)ガーと呟いていてオタ確定。……エッ、『アイドルマスター』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20150615/p1)のファンでもあったの?(爆)


 で、フタを開けたら、星野源も悪くはないけど、またかヨの花澤香菜が演じる赤いワンピースの黒髪乙女が出ずっぱり。京都のオヤジ衆を向こうに廻して一歩もヒケを取らない酒豪ブリ。物怖じしないけどフテブテしさは感じさせない、この乙女の方が主人公に見えるヨ!(汗)
 主人公の学生クンがこの乙女と仲良くなろうとする物語っぽさは導入部だけで、あとは夜店やサーカスのテントの中の見世物のような、大学の学園祭での露店やアングラ芝居に古本市や祇園での不条理劇に終始。
 『四畳半』同様に、デッサン骨格シッカリ系とは対極の、グニャグニャとした描線&動きが、作品のリアリティの階梯を押し下げて――批判じゃないヨ――、時空も歪ませ一晩のうちに、何軒もハシゴして何十本も飲み干して、内部がお酒を提供するバーにもなっている移動する高層のお神輿(みこし)まで登場し、伏線もなしに突如としてスーパー台風が襲来(爆)してきてもOKな世界観は構築できている。


 萌えアニメファン的にはアウトオブ眼中であろう半面、プチインテリオタクやサブカルマニア連中にはウケが良さそうな作品だけど、個人的にはイマイチ、イマ半かなぁ。『四畳半』を映画的にブローアップして、ナンセンスな超時空歪曲シーンのボリューム&尺を増量していったら、少々冗漫になってしまった……というのが、筆者のごくごく個人的な印象。
映画「夜は短し歩けよ乙女」日めくり ([実用品])

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「夜は短し歩けよ乙女」 Blu-ray 特装版
(了)


夜明け告げるルーのうた


 同じく湯浅政明カントクの手になる、本作公開の前月である4月に公開されたアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』がごくごく個人的にはイマイチ、イマ半だったもので、あまり期待はしていなかったのだけど……。個人的には心の底からスナオに楽しめた!


 入り江の周囲が急峻な崖に囲まれた漁港を舞台に、音楽が聞こえるや下半身が魚の尾ビレから人間の両脚に変化して、超高速でステップを踏んで踊り出す、白痴的で元気な幼女の人魚や多数の犬魚(爆)が登場。しかも、音楽が鳴り止むや、両脚は魚の尾ビレに戻ってしまう。70~80年代の大人気・舞台公開バラエティ番組『8時だョ! 全員集合』(69~85年)における、ザ・トリフターズが演じていたコント劇における「志村(けん)、うしろ! うしろ!」の世界だ(笑・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200419/p1)。


 彼らと出逢った男子高校生ふたり&女子高生ひとりが、人魚の幼女とバンド活動でセッションし、漁港の人々や地元のお偉いさんたちに、都会で夢破れたUターン組のオジサンやお姉さんも巻き込んで、人魚で町興ししようと奮闘して生じるトタバタ作品でもある。


 メインキャラである茶髪ツインテールの女子高生は、我々オタク男子が苦手そうな(爆)、実に快活で目立ちたがりなギャル。だが、デッサン骨格シッカリ系ではないグニャグニャ不定型な下手ウマ的キャラデザなものだから、作品世界が自然主義的リアリズム(笑)に寄るワケもなく、現実世界では公共心や他人への繊細な配慮などはナイ、虚栄心に満ち満ちた私的快楽至上主義者であるギャルの本性は、ココでは消臭されて鼻につかない(多分)。


 音楽活動を通じた人魚との交流の際には、周囲に寒天かコンニャクみたいな長方体状に切り取られた数メートル四方のカラフルな海水が出現! 何のSF的説明もなく物理法則を完全に無視して、宙を波打って移動し、主人公少年の自室を満たして水びたしにしたり、海面上に林立したりする。あげくの果てにご当地の人魚伝説の呪いか、漁港に徐々に潮が満ちて半ばは海没していくことでの大騒動!
 膨大なおサカナさん多数が踊り狂うイカレたビジュアルといい、不条理ストーリーの果てに少年少女たちの魂を込めた歌唱が最後に配置されて、ワケわかめの感動が襲ってくる。


 冷静に考えると細部はデタラメで、グニャグニャ描線のキャラたちの勢いもある歪んだ構図&動きも込みで、情動をコントロールされてダマされているだけなのでは? とは思うものの、それすらもが気持ちイイ(笑)。いやまぁデタラメだけではなく、高校生たちの周辺の青年や父兄に爺ちゃんたちにも、簡にして要なドラマ的見せ場も用意されていたことは指摘しておく。


 とはいえ、この作品の罪ではナイし、ナイものねだりではあるけれど、絵柄的にも一般層には人畜無害のオシャレ系デートムービーとしては若干敬遠されて、サブカルお文化層にしかアピールしていないのか、客の入りはよくないようだ。
 まぁそれを云い出したら、我々が愛する萌えアニメの番外編にTVやOVAの劇場先行上映作品などは、美少女萌えキャラクターのビジュアルを介して、そのウラにいる我々キモオタの弱者少女しか愛せないイビツな性癖が透かし見えてしまうせいか(笑)、一般層やデート客がもっともキモがる類いのモノであろうし、一部作品を除いて最初から全国10館程度の上映でしかナイけれど。


 「夜」や「海」のイメージで、宣伝ポスターや本作のビジュアル自体も暗色系や青色系にしたのだろうけど、あの絵柄はそのままでもイイので、もっと南洋チックな明るい極彩色や中間色の色使いの宣伝ポスターであったのならば、本編のユカイな作風ともマッチして、もっとライト層やヌルい一般層をも集客できたように思えなくもない。封切終盤での世界的アニメ賞の受賞もあまり追い風にはならなかったようで、そのへんは残念だ。


 もちろん宮崎駿カントクのアニメ映画『崖の上のポニョ』(08年)における「海」や「人魚」の不定型描写とも通じるものはあるけれど、内容はまったく別モノの一本の映画作品としてリッパに成立していると思うし、快作だとも思う。
「夜明け告げるルーのうた」 Blu-ray 初回生産限定版

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(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.79(17年8月12日発行))


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『映画 聲(こえ)の形』(16年) ~希死念慮・感動ポルノ・レイプファンタジー寸前!? 大意欲作だが不満もあり

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ガールズ&パンツァー 劇場版』(15年) ~爽快活劇の続編映画に相応しい物量戦&よそ行き映画の違和感回避策とは!?

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心が叫びたがってるんだ。』(15年) ~発話・発声恐怖症のボッチ少女のリハビリ・青春群像・家族劇の良作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191104/p1

攻殻機動隊 新劇場版』(15年)・『ゴースト・イン・ザ・シェル(実写映画版)』(17年) ~義体のサポート期間終了問題で新自由主義も批判!?

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ラブライブ! The School Idol Movie』(15年) ~世紀の傑作!? それとも駄作!?

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這いよれ!ニャル子さんF(ファイナルカウントダウン)』(15年・OVA先行公開)

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機動戦士ガンダムUCユニコーン) episode7 虹の彼方に』(14年・OVA先行公開)

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たまこラブストーリー』(14年) ~親密な商店街にオタの居場所はあるか!?

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『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』(13年) ~『せいぜいがんばれ! 魔法少女くるみ』『魔法少女 俺』『魔法少女特殊戦あすか』『魔法少女サイト』『まちカドまぞく』 爛熟・多様化・変化球、看板だけ「魔法少女」でも良作の数々!

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宇宙戦艦ヤマト 復活篇』(09年) ~肯定評!

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サマーウォーズ』(09年) ~話題作だがイマイチでは?

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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(09年) ~世評はともかく個人的にはイマイチに思える弁(汗)

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鉄人28号 白昼の残月』『河童のクゥと夏休み』『ミヨリの森』 ~2007年アニメ映画評

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『劇場版 機動戦士Z(ゼータ)ガンダム -星を継ぐ者-』(05年) ~映画『Z』賛美・TV『Z』批判!

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『劇場版ターンエーガンダムⅠ地球光/Ⅱ月光蝶』(02年)

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990810/p1

劇場版『エスカフローネ』(00年) ~いまさら「まったり」生きられない君へ……

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990912/p1

マクロスプラス MOVIE EDITION』(95年) ~歌の暗黒面&洗脳性! 夢破れた表現者の業を三角関係を通じて描いた逸品!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990904/p1

超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(84年) ~シリーズ概観&アニメ趣味が急速にダサいとされる80年代中盤の端境期

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990901/p1

アベンジャーズ/エンドゲーム ~タイムパラドックス&分岐並行宇宙解析!

『スパイダーマン:ホームカミング』 ~クイズ研究会(?)に所属する文化系スパイダーマンの弱者友人たち(汗)
『ワンダーウーマン』 ~フェミニズムの英雄か!? 単なるセックス・シンボルか!?
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アベンジャーズ/エンドゲーム ~タイムパラドックス&分岐並行宇宙解析!

(2019年4月26日(金)・日本封切)
(文・T.SATO)
(2019年6月16日脱稿)


 それぞれが主演の映画シリーズを持つマーベル社のアメコミ・ヒーローたち、アイアンマン(2008年・初出は1963年)・超人ハルク(2008年・初出は1962年)・北欧神話の雷神ソー(2011年・初出は1962年)・キャプテンアメリカ(2011年・初出は日米開戦の年である1941年!)。
 還暦前後の歴史を持つアメリカの古典ヒーローたちが、その誕生の時を21世紀に変えて同一世界を舞台に活躍――キャプテンアメリカのみ第2次大戦中に活躍して、不慮の事故で氷結後に現代で復活――。ひとりでは敵わぬ巨悪に対しては一致団結、『アベンジャーズ』(2012年・初出は1963年)なるヒーローチームを結成してコレに立ち向かう!
 次第にガーディアンズオブギャクシー・アントマンブラックパンサースパイダーマン・ドクターストレンジ・女傑キャプテンマーベルと、いずれも原典の初出が1960年代であるアメコミヒーローたちも参戦。約20作品もの関連映画が作られて、『アベンジャーズ』映画としても通算3~4作目となる『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年・一応の初出は1991年)&『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)では、2年連続で公開される前後編2部作としても製作された。


 そしてその前編では、背丈が3メートルはあろうかというヒューマノイド型のムキムキマッチョでいかにも強そうな悪の超人・サノス(初出は1973年)が宇宙各地の惑星を強襲! 宇宙誕生前からある(!)6つの特異点が変化した、各々が「空間」「時間」「力」「現実」「心」「魂」の属性を持つ宝石インフィニティ・ストーンをめぐって争奪戦を繰り広げる。
 なぜならそれらをすべて揃えると、何でも願いを叶えてくれる本邦日本の『ドラゴンボール』や江戸時代の読本『南総里見八犬伝』の8霊玉みたいなモノだからだ(笑)。ブラックパンサーの故郷、アフリカはワカンダ国の大平原でのアベンジャーズ・ワカンダ国軍・北欧天上世界のアスカルド軍などの混成軍vsサノスの大軍団との関ヶ原の合戦の末に、悪の超人・サノスはついに6つの宝石をフルゲット。専用の手っ甲にハメて指をパチンと鳴らすや、大宇宙全体の生命の半数、スーパーヒーローたちの半数も薄い黒煙となって消失したところで、「次回につづく」となった。
 そう、サノスの願望は、大宇宙の自然環境の保全! 増えすぎた人類や生物を半数に減らすという、それなりに公益性・正当性があるモノでもあったのだ――オッサン世代としては、往年の8号ライダーこと『仮面ライダー(新)』(79年・通称スカイライダー)の敵組織・ネオショッカーの目的を思い出す――


逆転勝利のカギは、量子力学による時間逆行で6つの宝玉を再ゲットすること!


 はてさて、ヒーローもの・娯楽活劇作品である以上は、後編たる『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではアリガチでもお約束の逆転勝利劇が待っていなければ詐欺である。文芸映画でもないのにバッドエンドはアリエナイ。すでに各ヒーローたちの単独主演の続編映画の製作も発表されているのに(笑)、スーパーヒーローたちが消滅したままで終わるワケもない。最後には全員が復活を遂げて、正義の軍団vs悪の軍団のリベンジ総力戦があって、勝利を納める結末を迎えるのは判りきっている。
 だとしても、その過程を単なる段取り劇ではなくプチ・サプライズも交えつつ、煩雑・タイクツにならない範疇での適度に観客の関心も惹起する、ストーリーに技巧的な面白さもあるのか否か、しかもそれに一応の説得力があるのか否かがエンタメ活劇のキモでもある。


 そのための方策。それは「時間」を逆行して、逆転勝利の勝機をつかむことだ! ……という展開になると予想したマニア諸氏も多かったことであろう。
 なぜなら、インフィニティ・ストーンのひとつ、タイム・ストーンを使って、悪の超人・サノスは前編でのラストバトル中に、一度は破壊されたマインド・ストーンを局所的に時間を巻き戻して、破壊される前に戻って奪い取ってもいたからだ――日本の戦隊ヒーローでも時間を逆行させる能力を持っているチート戦士が時々登場するのを思い出す(笑)――。
 あるいは、アベンジャーズの一員でもあり、アリん子サイズにミクロ化できてアリん子の群れを従えることもできる(汗)スーパーヒーローを描いた映画『アントマン』(2015年・初出は1962年)&その続編『アントマン&ワスプ』(2018年)においても、ミクロ化が行き過ぎて超々極微で物質や空間の最小単位でもある「量子」レベルにまで達すると、存在が確率論的となって複数に分裂して偏在したかのようになる――続編における敵怪人の存在形式もこの原理――。
 量子力学にも則って、「空間」の定義も曖昧となり「時間」や4次元以上の「高次元世界」に「並行宇宙」との境目の皮膜とも隣接、時に混じって相互乗り入れしているやもしれない不可思議な超ミクロ世界へと突入。
 加えて、人間の精神・意識も単なる脳内電気信号には還元できない、量子レベルの波動でも駆動されているのやもしれない!? という、ややトンデモな最新科学仮説「量子脳理論」も援用・拡大解釈して、「夢のお告げ」までもがSF的に正当化されるストーリーが構築されてもいたからだ。


――いやまぁ我らが日本でも、「高次元世界」から3次元並行・分岐宇宙の過去未来の時観線を見下ろしたアニメ映画『宇宙戦艦ヤマト2202(ニーニーゼロニー)』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20181208/p1)や、「高次元存在」(=彼岸の彼方に去った完全なるニュータイプ)が局所的な時間逆行としか思えない部品破損を惹起する『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20181209/p1)。秘めたる恋情が思春期症候群なる超常現象のトリガーとなって、一見冷めてるメガネの理系女(リケジョ)が「確率論的な分裂」を果たす深夜アニメ『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(18年)の中盤回や、カンブリア大爆発期の絶滅生物が観測者による「多世界解釈」によって現代でオルタナティブな巨大怪獣として実体化する『ウルトラマンガイア』(98年)#8など、すでに同様の知見に基づいた作劇が試みられてきたことは付言しておきたいけど。
 「量子」と「並行宇宙」ネタならば、粒子加速器の影響であまたの「並行宇宙」のスパイダーマンが集合するアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年・一応の初出は2014年)も記憶に新しいところだ――


 はてさてフタを開けてみれば、後編『エンドゲーム』では西暦2012年や2013年に2014年などの複数の時代にタイムトラベルすることで勝機をつかんでいくストーリーでもあった。
 すなわち、宇宙の彼方の田園惑星で枯れた農夫として隠居していた悪の超人・サノスは、すでにインフィニティ・ストーンに願ってインフィニティ・ストーンそれ自体を消滅させていたことが判明!
――日本特撮のマニア的には、並行宇宙を材としていた映画『ウルトラマンティガウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』(99年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19981206/p1)にて、ゲスト子役が最後の最後に「何でも願いを叶える石」それ自体を自身の願いで消失させたオチなどもつい想起――
 コレで6個のインフィニティ・ストーンを奪取して、「喪われた全宇宙の半数の生命」を復活させる願いを叶える目論見も絶たれたかに見えたのだが、「インフィニティ・ウォー」の際にはノンキに量子レベルの超ミクロ化実験を行なっていたアントマンがその5年後(爆)、自身の体感時間で5時間ぶり(笑)に現実世界へと帰還する。そこで彼が語る「量子の世界」とは「時間の世界」にも通じているという真実でもあった……。


時間GPSによる時間泥棒作戦! 過去への介入で分岐並行宇宙が誕生!


 やや傷心でこの5年で家庭も持って娘もできたので、リベンジには乗り気ではない大企業の天才社長・アイアンマンの躊躇は本稿では端折るけど(汗)、マッド科学者コンビでもある超人ハルクおじさん&アイアンマンおじさんのがんばりで、「メビウスの輪」の原理も援用して、ついには「時間GPS」(なんつー通俗的なネーミング・笑)なる超アイテムの製造にも成功!
――「メビウスの輪」といえば、その原理で空間自体を湾曲させるハイテク装置を造って、3次元空間のウラ側にある異次元空間へと移行して、宿敵との最終決戦に挑んだ『ウルトラマンエース』(72年)#23「逆転! ゾフィ只今参上」(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20061012/p1)などもロートルは思い出す――


 そこで、黒鉄色のアイアンマン2号ことウォーマシンの黒人おじさんが、映画『ターミネーター』(84年)・『スタートレック』(66年~)・『ある日どこかで』(80年)・『ビルとテッドの大冒険』(89年)などを例に挙げて(笑)、過去に戻ってまだ赤ん坊のサノスを殺害することで大破局を事前に回避する案を提示するけど、倫理的にも却下されてしまう(当然だ!)――本映画『アベンジャーズ』とは世界観を共有しないけど、同じくマーベル社のアメコミ洋画『X-MEN』シリーズの一編『デッドプール2』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20180625/p1)では、そのネタを採用してたばかりなのに(汗)――。
 ついでに云うなら、「インフィニティ・ウォー」の直前の時間に戻って、ここ5年の歴史や各自の人生をなかったことにして歴史をヤリ直すという方策もまた、広い意味での宇宙の全生命の5年間分の人生に対するジェノサイド(虐殺)やもしれない? という疑問符が付くほどに、全員とはいわずともマニア観客の大勢もスレている。
――『仮面ライダービルド』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20181030/p1)の終盤では、時間跳躍ではなく並行世界の地球同士をブツけることで、ここ10年ほどの歴史を改変する大ワザに出ていたけど、一部のスレたマニアたちからコレはジェノサイドだとの批判もこうむった。たしかに指摘の通りなのだが、個人的には衝突相手の並行世界の地球の歴史はそのまま変わらず、衝突はあくまで触媒にすぎなくて、『ビルド』世界の地球の歴史のみが改変されたのだと解釈したいところだ――。


 その疑問符に対する返歌か、アントマンが「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85年)のタイムパラドックス観は間違っていたのか」と早くも35年も前の映画となってしまった今や殿堂の古典タイトルを挙げて嘆息もする(笑)。そう、本作では時間を遡行して過去を改変したとしても、そこを起点に分岐した並行世界が誕生して、そちらが別の歴史をたどるだけであり、自身が元いた世界の歴史が変わるワケではないという時間跳躍原理が採用されるのだ!


 ココが本作のスゴいところだとの感想も聞いたけど……。いやいやいやいや。「親殺しのパラドックス」を回避するための、今やジャンル作品ではむしろ主流のタイムトラベル観でしょう。
 今では振り返られることも少ないけど、80年代に一世を風靡した『幻魔大戦』シリーズ(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160521/p1)などでも、漫画版や小説版に『新幻魔大戦』や『真幻魔大戦』の関係性を、時間跳躍者や高次元存在でもある神のごとき宇宙意識の介入による歴史の分岐の結果だとしていたネタは、日本SFでも70年代末期にはすでにある。


 幾つものルートを遊び倒すことから生じる趣向、いわゆる『ゲーム的リアリズムの誕生動物化するポストモダン2』(07年・ISBN:4061498835)もズッと飛ばして時代が降ったところでも、アメコミ洋画マニアの大勢が歯牙にもかけないどころか下賤なモノとして見くだしてもいるであろう(笑)、本作公開時にも絶賛放映中の日本の子供向けヒーロー番組『仮面ライダージオウ』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190527/p1)や、本作封切直前に完結した女児向けアニメ『HUG(はぐ)っと! プリキュア』(共に18年)でさえもが、未来からの現代への善意や悪意による歴史介入の結果として、2つの未来線が誕生してしまうというネタはすでにやってみせている。
 どころか、2つの未来から異なる人生をたどったパラレル存在同士が来訪して現代を舞台に対決したり、分岐した未来で誕生した美少女アンドロイド(プリキュアの途中追加戦士)が、並行世界での自身の心&記憶を一部継承したかのような描写で――おそらく彼女のAIは量子コンピューター――、クールなSF性&ハートウォームなドラマ性を両立させる描写までをも達成していたりもする。


 よって、過去は改変できないので、現代を起点に大改変を試みるという方針で決定! それは、過去の時点ではまだ消滅はしていないインフィニティ・ストーンを現代へと取り寄せて、「喪われた全宇宙の半数の生命」の5年後のイマ・ココでの復活を祈りながら指パッチンをすることだ! そして、願望が達成され次第、即座にインフィニティ・ストーンを元の時代の元の場所へと返すことで歴史改変は起こさない! 名付けて「時間(タイム)泥棒」作戦!(笑)
――「時間泥棒」とはもちろん、『ネバーエンディング・ストーリー』(79年・84年に映画化)原作者としても有名なミヒャエル・エンデの著作で、むかしは日本の小学校の学級文庫にも必ずあった、女児が主役の懐かしの児童文学『モモ』(73年・86年に映画化)からの引用――。


西暦2012年・2013年・2014年への介入。分岐宇宙化は回避可能?


 で、アベンジャーズ基地内の巨大円卓上で、昭和の7人ライダーやスーパー戦隊、あるいは本作の数ヶ月前に封切りされたばかりで同じく歴史改変をネタにしていた『映画 刀剣乱舞』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190323/p1)の刀剣男子たちのように、お揃いの白い制服甲冑に身を包んで様式美的な円陣(笑)まで組んだ多数のアメコミ・ヒーローたちが、映画『プリキュア オールスターズ』(09年~)での歴代プリキュア・シャッフルのように(笑)2~3人ずつで一組となって、過去の時代へレッツらGo!!


 彼らが向かう先の舞台は、作戦遂行可能性のリアリズムよりもファンサービス的な華々しさを重視する。すなわち、


・2012年の映画『アベンジャーズ』における大激戦の真っ只中!
・2013年の雷神ソー映画の第2弾『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』における北欧天上世界アスガルド
・2014年の映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』冒頭の遠宇宙の惑星!


 もちろんエンタメ活劇である以上は、物事がスンナリとうまく行き過ぎてもツマラない。過剰に重たくならない範疇での少々の困難も伴なうから、それとの落差で成功のカタルシスも増すというのが人間心理でもあり、コレを利用するのが物語一般の作劇原理でもある。
 2012年のニューヨークにある中国に忖度(爆)したチベット改めネパールの出張所(笑)で、のちにドクターストレンジの女師匠ともなる美人魔術師に、早くもインフィニティ・ストーンのひとつ、タイム・ストーンの一時拝借は阻まれる。
 ココで観客に対するダメ押しの念押しか、超人ハルクの懇願に対して、4年後にドクターストレンジが誕生する未来までをもすでに見通せている(!)女魔術師は、彼の誕生のためにもストーンは渡せないと主張して、彼女の手許からニューヨークの大空へと向かって伸びる「赤い飛行機雲」とその途中から分岐する「赤い飛行機雲」にて図示するかたちで、歴史改変で分岐宇宙が誕生してしまう原理が再度語られる。


 ただ、ココでの女魔術師は、時間介入で即座に分岐宇宙が誕生するのでもなく、タイム・ストーンをこの時間線の外に持ち出すような大事で初めて、分岐宇宙が誕生するようにも発言している!? それは逆に云うなら、些細な歴史改変に留まるのであれば分岐宇宙は誕生しないので、歴史改変は可能である、歴史は上書きされてしまうということなのであろうか? ならば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も正しかった!?(笑)
 そして5年後の現在こと2023年と西暦2012年の間をアベンジャーズの複数名が往還する歴史ループが固定されることで、それは各人の主体的な自由意志の発露のようでも高次の視点で見れば運命・必然でもあったということにもなるのか!?――「歴史分岐する時間跳躍」/「歴史分岐しない時間跳躍」の並立もまた、『幻魔大戦』シリーズではすでに前例がある――。


 でもまぁコレも1回だけの歴史分岐に留まれば、観客も即座に理解ができる。2012年・2013年・2014年の3つそれぞれの時点で分岐が生じる可能性についてもまぁ理解ができる。しかし、各々の時代にインフィニティ・ストーンを返却しに過去へと介入する度に、さらに「返却された世界」と「返却されなかった世界」とに再分岐するやもしれない可能性までをも考慮する人間は早々いないと思う。あるいは、モヤッと念頭にはその疑問が浮かんでも、フツーは観客の脳髄の理解のキャパシティー(容量)もオーバーするとは思う。
 しかし、論理的には最低でも1+(3×2)で7通りもの並行宇宙が誕生してしまうハズだ。筆者のようなイジワルなマニアはそこをも選り分けて、ストーン返却が果たされなかったがために4年後の2016年にドクターストレンジも誕生せず、マルチバース(多元並行宇宙)のひとつでもある「暗黒次元」からの侵略で滅亡を迎える分岐世界が誕生する可能性も想起する。
 その場合、「自世界ファースト」に基づく別世界の地球人70億の大虐殺を惹起したことにもなってしまい、7世界のうちの3世界がストーンの返還がなされなかったがために破滅したやもしれないとも推測してしまう。しかし、そのような作品自体の重大な瑕疵ともなりうる非倫理的な可能性については考えたくはナイところだ(笑)。
 なので、スタッフたちの公式見解からはハズれていようが(?)、些事の歴史改変程度であれば、つまりはインフィニティ・ストーンを過去の時代の元の場所へ即座に返却すれば、歴史改変や歴史分岐は起こらないのだと見ておきたい。


 ここで、「歴史自体の復元力」というSF設定を持ってきて、大スジでは史実に類似した役回りを代替者が務めることで歴史が進む往年の映画『戦国自衛隊』(79年)を想起する。過去の時代に対しての悪党集団の干渉に対して正義のタイムパトロールを対置することでバランスが取れて未来の歴史改変も免れられているとするSF的エクスキューズも付けていた『未来戦隊タイムレンジャー』(00年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20001102/p1)なども思い出す。
 つまりは、本作には分岐にならずに上書きとなる歴史改変も併存していて、よってドクターストレンジが誕生しなかったので滅亡を迎えた時間線の並行世界はひとつも誕生しなかったと解釈したいところなのだ。
――いわゆる「バタフライ効果」で、蝶々の羽ばたきの有無による空気変動でも、中長期スパンでは中和・相殺されて大局に影響がなくなるどころか、相違が拡大していくばかりであることがカオス理論的にも判明している現在、時間跳躍者が過去の時代に突如出現して、ある容積を占めることで空気がその外部に押し出される「バタフライ効果」も思えば、インフィニティ・ストーンを元の時代の元の場所に戻そうとも、やはり歴史は分岐せざるをえないので(汗)、「歴史自体の復元力」という概念自体もホントウは非科学的ではあるのだが……。
 この矛盾はソレこそ3次元物理法則よりも上位の高次元存在(神さま)などを措定して、それによる介入で「歴史自体の復元力」が働いたとでもするか、特定個人の過去へのタイムリープで局所的なループができること自体が、高次の視点で見ればあらかじめ定められていた運命・必然でもあったのだとしないかぎりは解消ができない――


2012年と2014年で弁護できない規模での改変! 分岐宇宙が誕生!


 ……なぞと考えつつ本作を鑑賞しつづけていると、2012年の映画『アベンジャーズ』の戦場で、2012年と2023年のふたりのキャプテンアメリカが鉢合わせしてバトルが勃発してしまう!(笑) マインド・ストーンの回収には成功するも明らかにイレギュラーな事態であり、もうココで歴史が変わっちゃっているよネ!?(汗)
 いやでも、2012年のキャプテンは2023年のキャプテンを偽物だと思っているであろうから無問題であり、あのときに偽物に遭遇したという記憶がキャプテンの個人史に上書きされただけで、あるいはそもそもソレこそが規定路線の運命だったことにもなったのだ! 先の映画『アベンジャーズ』では語られなかっただけの実話だったのだ! という弁護の余地もあるよネ? と脳内補正をしつつ、さらに鑑賞をつづけていると……。


 アイアンマン&アントマンはインフィニティ・ストーンのひとつ、スペース・ストーン(4次元キューブ)の拝借に失敗!(爆) どころか、映画『アベンジャーズ』の主敵であり雷神ソーの義弟でもある悪神ロキが、このスペース・ストーンを横取りして逃走してしまうのであった!
 オイオイオイ。あの映画にそのオチはなかったゾ! 明らかに歴史が変わっちゃっているじゃん!! ……後日ググってみると、ここで誕生した分岐並行世界を舞台に、悪神ロキを主人公としたTVシリーズが作られるそうである(汗)。
――昭和の時代に元祖の仮面ライダー1号&2号が悪の組織・ショッカーに敗退したという、分岐した歴史をたどった並行世界(分岐されずに上書きされた世界?)を描いた映画『スーパーヒーロー大戦GP(グランプリ) 仮面ライダー3号』(15年)ラストでは死亡したままで終わっていた『仮面ライダードライブ』(14年)の2号ライダー・仮面ライダーマッハが、ネット配信による映画の続編『仮面ライダー4号』(15年)において、幾度もの時間ループの果てにようやく復活を遂げるようなメディアミックス展開だったのですネ(笑)――


 仕方がナイので作戦変更、キャプテンアメリカ&アイアンマンは、まだ戦後25年目の1970年の米軍基地へと飛んで、そこに保管されていたスペース・ストーンをゲットしようと試みる! ココでご都合主義にもアイアンマンの父親や第2次大戦時にキャプテンアメリカの恋人でもあった女性高官がふたり同時に在籍していて、それと知られずカンタンな会話を交わしたり、隣室から万感の想いにカラれながらむかしの彼女を見詰めるのも人間ドラマ的には悪くない。


 雷神ソーはガーディアンズオブギャラクシーのアライグマ型チビチビ動物宇宙人と、自身の主演映画第2弾の2013年の北欧天上世界にタイムトラベルして、リアリティ・ストーンをゲットするついでに、後年の雷神ソー映画第3弾『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20171113/p1)にて敵に破壊された神々の世界の巨大トンカチ型武器・ムジョルニアも失敬することで(!)、いま所有している手斧型武器・ストームブレイカーとの二刀流ともなる!
 ソーもやはり、今は亡き母親とも遭遇、この5年の失意で酒に溺れてブクブクに肥満して変わり果てた姿になっていたのにも関わらず、母親が息子だと直感的にすぐに気付いて、すべてを許して包容する姿もコテコテな展開ではあるけれど、やはり感動的でもある。


 2014年の外宇宙惑星に向かったのは、実は悪の超人・サノスの娘でもあり(!)、ガーディアンズオブギャラクシー映画第2弾『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20170513/p1)にて緑色の宇宙人である姉との激闘の末に改心を果たしたスキンヘッドの青いサイボーグ少女・ネビュラ嬢。アイアンマン2号のウォーマシンおじさん、共に黒ずくめの服装で身を包んでいる超人ではなく優れた身体能力を持つ人間にすぎない弓の名手・ホークアイ、ロシアの女スパイ上がりのブラックウィドウもコレに従う――毎度のことだけど、地球人にも呼吸可能な大気がある惑星なのですネ(ガチなツッコミではないので、念のため・笑)――。
 ところがドッコイ、今時のサイボーグなので5G(ファイブ・ジー)やWi-Fi(ワイ・ファイ)の電波を通じて(ウソです)、2014年と2023年のネビュラ嬢が電脳ネット経由で同調して、時間泥棒作戦が2014年にはまだ存命中でヤマっ気も脂っ気もあった悪の超人・サノスにもバレてしまうのだ!(爆) ココでも歴史が分岐しちまったヨ!


 なぜにそのような「機内モード」に設定しない初歩的なミスを? なぞとは云ってはイケナイ。劇中人物が何らかのヘマやポカをやらかしてくれるからこそ、起伏のあるドラマが作れたり、ディスコミュケーションから来るのちのちの大バトルが描けるワケである。
 地球・白色彗星帝国・ガミラス帝星の実力者が偶然そろった場で、白色彗星帝国の次代の大帝候補でもあり地球人との和解も考えはじめたミル青年が、そんな事情は知らずにガミラス総統を救おうとしたガミラス特殊部隊に射殺されてしまうからこそ、宇宙戦艦ヤマト2202vs超巨大戦艦との総力戦にも持ち込めるのだ(笑)。往年の東映メタルヒーロー『特捜ロボ ジャンパーソン』(93年)#37「正義vs(たい)愛」みたく、ゲストの悪役ロボットが正義に目覚めたのかと思ったそばから悪党が機械で洗脳するからこそ、ヒーローとのバトルにも持ち込めるし悲劇性も高まるのだ。
 「フィクション」とはフランス革命前の18世紀の啓蒙主義的な「理性」や「合理」が支配するモノでは毛頭なく、20世紀初頭に発見された「無意識」や「リビドー」が優先される、本質的に「下世話」で「不謹慎」なモノなのだ(笑)。


生命復活の目的は達成! 2014年の過去から大軍団も襲来してラストバトル!


 2023年のアベンジャーズ基地に帰還したメンバーが持ち寄った6つのイニフィニティ・ストーンを、アイアンマンが手っ甲にハメて指パッチンするや、世界は鉛色の重さを脱して急に騒がしくなる。そう、喪われていた「全宇宙の生命の半分」が復活を遂げたのだ。とはいえ、このままハッピーエンドで終わったならば詐欺である(笑)。
 この直後に2014年の時点から分岐した直後の並行宇宙から飛んできたサノスの宇宙戦艦群&大軍勢にアベンジャーズ基地が襲撃されて巨大なクレーターと化す! そして広大な窪地と化したCG背景の戦場にてはじまる肉体ガチンコ大バトル!
 しかして「インフィニティ・ウォー」で消滅したアベンジャーズの面々・ワカンダ国軍・北欧天上世界アスガルド軍・宇宙海賊ラヴェジャーズの艦船らも次々と復活! 同じく復活を遂げたドクターストレンジが宙空に無数に出現させたドラえもんの「通り抜けフープ」(笑)を通じて続々と参集してくる強者集結のカタルシスも味合わせてくれる!


 アベンジャーズのリーダー・キャプテンアメリカによる、結局は日本の歌舞伎的様式美とも同じじゃネ? と思える、おなじみの「アベンジャーズ! アッセンブル(全員集合・攻撃開始)!!」の号令とともに、第2次関ヶ原の合戦がはじまる! 各ヒーローに見せ場も与えた尺もボリュームもいっぱいの二転三転する大バトル!
 コレコレ、コレですよ! 単なるヒーローものじゃない、バトルものじゃない、ドラマも人間も描かれている、社会派テーマやリベラル左派的な多様性ガー、とマニア諸氏は云うけれど、やはりそれは最終バトルを成立させるための言い訳か、でなければ最終バトルを感情面でも盛り上げるためのキャラの動機付けにすぎなくて、所詮はヒーローものとは民主的な話し合いではなくバトルで決着させる英雄崇拝・前近代的・封建的なジャンルに過ぎなくて(笑)、身体の拡張感、身体を自由自在に動かして状況もリードしていく身体性の快楽、幼児的な全能感・万能感を満たすためのジャンルなんですよ!――もちろん倫理的にも許される「暴力」の発露の条件付けとしての「正義」の探求も二次的にはあるとも考えますけれど――


 そしてバトルは、6つのインフィニティ・ストーンをハメてあるアイアンマンの右腕巨大化版みたいな手っ甲をめぐる争奪戦ともなっていく。日本のロボットアニメ『マクロスF(フロンティア)』(08年)最終回(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20091122/p1)みたく、亡き戦友の銃器を仲間たちがバトンリレーをしていった果てに最後の一撃を決めていたように、それで武器の性能や威力がアップするワケでもナイけれど、ひとりの超絶ヒーローがいればソレだけで充分だよネ! ということではなく、この場にいた他のヒーローたちも欠けることなく有用であったと思わせて、物語的にもシンボリックな次元で、その手っ甲にヒーローたちの想いが込もっていくかのようなバトンリレーが繰り広げられた末に、最後の勝利の時を迎える!
――イジワルに見ればアリガチな既視感あふれる展開だともいえるけど、ヒトの心に感動をもたらす普遍・王道・鉄板なのだともいえるのだ!――


寂寥の終幕 キャプテンアメリカが最後の最後で分岐並行宇宙を創造!?


 戦い済んで陽が暮れて、『アベンジャーズ』の2トップであるアイアンマンとキャプテンアメリカの退場・引退劇も描かれる。そう来たか。インフィニティ・ストーンの返還劇を端折るのも、物語の構成バランス的には正しいとも思う。
 ラスト、過去の時代へストーンを返還しに旅立ったキャプテンが帰ってこない。どころか老人と化したキャプテンがベンチに座っている(汗)。エンドクレジットでは1950年代っぽい邸宅&風景の映像とオールデイズな音楽が鳴りだすことで、のちにスーパーヒーロー管理組織の上官ともなった第2次大戦中の恋人との蜜月が「70年間の冬眠」で果たせなかった後悔を、DC社の『スーパーマン』(1938年)並みのキマジメ誠実ストイックなヒーローで「私」よりも「公」を、高潔な神に近き存在だけが持ち上げることができるという雷神ソーの巨大トンカチも本作ラストバトルではラクラクと持ち上げて使いこなしてもみせたキャプテンアメリカが、はじめて「公」よりも「私」の方を優先し、その人生をタイムトラベルに便乗してヤリ直していたことも示唆される。今まで散々に公的な使命に我が身を捧げてきたのだから、慰労の意味でもココで私生活を充実させても誰もが許すであろうけど。
――とはいえ、映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160701/p1)では、暴力装置とも成り得るヒーローたちを管理する機関の下に付くことをよしとせず、開拓民的な自主独立を重んじる気風からも、そのポリシーは「大きな政府」の「福祉互助」的な「民主党」ではなく、「小さな政府」の「自助努力」的な「共和党」といった感じではあるけれど……(両党に対する党派的な優劣の話ではナイので、くれぐれも念のため。筆者個人は双方の政治理念それぞれに一理があるとも思っています)。
 正しい「歴史」の護持が目的であったハズなのに、矢も楯もたまらずに眼の前の「人道」を優先させることで「カタルシス」と同時に「歴史改変」をも惹起していく『未来戦隊タイムレンジャー』後半&幕末にタイムスリップした医師の尽力を描いたマンガ『仁―JIN―』(00年・09年にTVドラマ化)等々もまた想起――


 歴史に大きな支障が出ないのであれば、歴史は分岐せずこの時間軸の世界でキャプテンは静かに暮らして、晩年には自身も含むアベンジャーズの激戦の歴史をヨコ目に眺めて、しかしてかつての恋人とは早々に結ばれていたという歴史の上書き微改変があったのやもしれない。
 この解釈にはムリがあるというのならば、分岐並行世界では恋人と結ばれることは果たしても、それからでも約80年の人生を送った末に、タテ移動の時間跳躍ではなくヨコ移動の並行世界跳躍を行なって、我らが住まう元の時間線の世界へと戻ってきたのやもしれない……。
――コレまたヤボだけど、並行宇宙をまたがった跳躍に、「仮面ライダージオウ世界」・「仮面ライダービルド世界」・「ライダーがTV放映されている現実世界」の3つの並行世界を斜めに何度もタイムトラベルしていく昨冬の映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190128/p1)などもまた想起――


 想像が膨らむところだけど、この美しい結末を台無しにして尻を叩いて催促をするようなことを云わせてもらえば、分岐した並行世界の1950年代・60年代・70年代などの東西冷戦下を舞台に、東側と戦うキナくさい『キャプテン・アメリカ』の続編映画も製作していってほしいところだ(笑)。
 ……その世界でも戦中に氷結していたパラレル存在のキャプテンアメリカが70年後に目覚めて、かつての恋人が自分そっくりの男と結婚していても、彼はやはりストイックに正義の味方に徹して「インフィニティ・ウォー」を駆け抜けたとも思うけど……。最後の最後に過去に戻って恋人との人生をヤリ直す余生の選択肢を採ることはなくなりそうだナ(汗)。
 各分岐世界の2018年でも悪の超人・サノスによる「インフィニティ・ウォー」が勃発して、各々が「時間GPS」で2012年・2013年・2014年の時点に戻ったら、分岐後の2013年と2014年は問題がなくても、2012年だけは未分岐の世界なので各位がバッティングするんじゃネ? とも思うけど……もうこの件にはふれないでおこう(笑)。


・2012年で悪神ロキが脱走することで分岐した世界は、番外TVシリーズ『ロキ』で描かれていくらしいことは先にも言及した通り。
・2014年のサノスが2023年の並行未来で返り討ちにされた分岐世界では、2018年の「インフィニティ・ウォー」も起こらないので多分問題は少ない。
・2013年の世界からはきっと分岐も発生しなかったのだと思いたい。
・とはいえ、2012年・2013年・2014年各々の時点から分岐宇宙が誕生した可能性も否定はしきれない。
・ストーンが過去の時代に返却された際に、同時に返却されなかった世界も誕生して、それが滅亡を迎える事態は想像したくないので、返却時は分岐が生じなかったと思いたい。
・1945~50年ごろからキャプテンの介入で分岐したやもしれない世界については、先にも説明した通り。
・ドクターストレンジが予測した1400万604通りの悪の超人・サノスに敗北する可能性はあくまでも可能性であって、並行宇宙としては実在していないと思いたい。


 ……といったところだけど、もちろんその時々の作り手の意向・後付け設定の方が優先されていくであろうから、最終的には筆者もそちらに従います(笑)。


独立した作品でありつつ、同一世界を舞台に連続性も保持した「世界観消費」


 原典たるアメリカンコミックでは1960年代から実現していたスーパーヒーローの共演劇を、実写映画でも再現した2008年の映画『アイアンマン』にはじまる『アベンジャーズ』は2トップの退場で一旦の終了となった。しかし、間髪置かずに公開されるアベンジャーズスパイダーマン主演映画の第2弾『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19年)では予告編を観るかぎり、本映画の決着を受けたあとの「傷心」と「時空の混乱」が描かれることで、観客のちょっとした知的・マニア的な関心の継続を惹起する戦略を採っているようでもある。


 実のところ筆者は、ヒーロー大集合映画『アベンジャーズ』シリーズよりも各々のアメコミヒーローが単独主役を張った作品群の方が、起承転結のメリハリやドラマ性&テーマ性の面においても出来がイイ作品が多いとも思っており、実は本作の前作たる前編『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20180619/p1)に至ってはツマラなかったとすら思っていたりもする(爆~熱烈なファンの皆さまには申し訳ございませんけど)。
 そんな筆者は近作を例に取るならば、本作よりも『ブラックパンサー』(2017年・初出は1961年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20180607/p1)や『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年・初出は1966年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20170901/p1)に、世評は低いようだけど『ドクター・ストレンジ』(2016年・初出は1963年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170504/p1)の方が出来がイイと思うし、心の底から楽しめる傑作だとも思っている。
――もっと云うなら、ヒーロー大集合映画としてなら、テイストはチャイルディッシュでも、シーソーバトルの組み立て方&各キャラの立て方での純・技巧面では、女児向けアニメ映画『プリキュア オールスターズDX(デラックス)』シリーズ初期3部作(09・10・11年)の方が『アベンジャーズ』シリーズよりも出来がイイし、神懸かった大傑作だとも思っていたりもするけれど(爆)――


 平成のはじめに、オタク第1世代の評論家・大塚英志はその著作『物語消費論』(89年・ISBN:4788503360ISBN:4044191107)で、ある作品の「前日談」や「後日談」に「番外編」、さらにはその世界の「地図」や壮大な「歴史」を作ることで、作者や読者に自動的に「物語」や「二次創作」を次々と製造させやすくなり、虚構の世界で人々を中長期に渡ってアキさせずに享受させることが、将来のエンタメ・ビジネスの主流になるとも主張して、コレを「物語消費」と名付けていた。
 そして、それらの萌芽がシリーズをひとつの歴史として連結した昭和の1970年代のウルトラマンシリーズやら学年誌での後日談マンガ連載にウラ設定の開示であるとして、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(74年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20101207/p1)や『機動戦士ガンダム』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19990801/p1)に『ビックリマン』(87年)などの劇中に叙事詩的な壮大な歴史を持つ作品群をそれらの結実としていた。
 個人的にはコレは「物語消費」ではなく「世界観消費」と呼称するのが正しいとも思うけど、スケール雄大な大陸のごとき「世界地図」的な世界観 & 善と悪とが絶えることなく闘争を繰り広げてきた「架空の偽史」に対してワクワクするような気持ちは、個人的にも実感としてよくわかる。


 オッサンの筆者が子供であったころの1970年代にも、円谷プロが創立10周年を記念してウルトラマンシリーズのみならず自社製作の『ミラーマン』(71年)やら『トリプルファイター』(72年)などの各種ヒーローなども、「銀河連邦」の名の元に同一世界での出来事だと設定する展開が見られたことがある――継続はしなかったけど――。
 今のテレビ朝日にて70年代中盤に放映された、舞台の公開収録番組でも、『仮面ライダー』や『秘密戦隊ゴレンジャー』に『がんばれ!ロボコン!!』やら『超電磁ロボ コンバトラーV』に『一休さん』(ひとりだけ室町時代!・爆)などが共演して、悪の組織と激突する特別番組が幾度かあって、その夢の共演にはワクワクしたものだ。
 思えば、我々も幼少時には番組の垣根を超えて、あまたのソフビ人形で今で云うところの私家版「スーパーヒーロー大戦」やら「アベンジャーズ」、善の軍団vs悪の軍団との抗争劇を日々飽きもせずに高揚しながら友人たちと繰り広げていたモノである。


 もっとさかのぼれば、それぞれが主役物語を持っている江戸時代初期の剣豪、宮本武蔵・息子の宮本伊織・荒木又右衛門・宝蔵院胤舜柳生宗矩柳生十兵衛らが大集合してバトルロイヤルする江戸~大正期にかけて成立した講談『寛永御前試合』などもある――コレのオカルト翻案版がかの山田風太郎の伝奇小説『魔界転生』(64年・81年に映画化)――。
 ゲーム「スーパーロボット大戦」(91年)的な強者集結の発想は、日本にも200年近くも前からあるくらいなのだから、古今東西ドコの国でもありそうではある。


実はかつて日本でも「世界観消費」が隆盛を極めていた! 今こそそれらの復活を!


 1970年代には、『ウルトラマン』(66年)や『仮面ライダー』(71年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140407/p1)や『人造人間キカイダー』(72年)に『マジンガーZ』(72年)などの作品群が、続編シリーズ作品を通じてその世界観を共通のモノとしていたり、映画では『マジンガーZ』や『デビルマン』(72年)と『ゲッターロボ』(74年)などが共闘したりもしていた。
 映画『ジャッカー電撃隊VS(たい)ゴレンジャー』(78年)冒頭では、仮面ライダーV3(73年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140901/p1)がヨーロッパで、キカイダーはモンゴルで、仮面ライダーアマゾン(74年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20141101/p1)は南米で戦っているとされることで、コレらの作品を同一世界としても描いて、往時の子供たちをワクワクさせてもいたモノだ。


 しかし、70年代末期~00年代初頭にかけては、オタク第1世代がオタクジャンルの市民権を得ようと活動した際の理論武装として、既知のモノではない未知なるモノとしての「ヒーローの神秘性」やら「怪獣の恐怖性」というテーゼが、高いテーマ性を持つものとして至上の原理とされることで、「一回性」・「初遭遇」が賞揚されるようにもなっていった。
 なおかつ、往時はジャンル系マニアのみならず世間の映画マニアたちも今から思えばまだまだ純朴であった時代というべきで、「続編」や「PART2」に「シリーズ」作品が商業的には大ヒットを収めていたとしても、割り切ることができずに「それは堕落である!」とクソミソにケナしていたようなアオくさい時代でもあったのだ。
 そこから、リセット的なリメイク作品が賞揚されるようにもなり、たとえリセット作でも平成ゴジラ平成ガメラのようにそれらが連続シリーズ化の様相を呈してくると、それは設定の縛りにもつながり、作劇の自由度が少なくなるとも批判をされてきたモノだ。
 しかし、それらの言説やテーゼは果たして正しかったのであろうか? 無謬の尺度であったのであろうか? ある時期までのジャンルの再興にとっては非常に有益でも、それ以降はジャンルの豊穣さを否定する狭さへと帰結したのではなかろうか?


 いやまぁ完全リブートされた『シン・ゴジラ』(16年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160824/p1)が超特大ヒットを放ったり、長命SFシリーズ『スタートレック』が低迷してきたところで、仕切り直した中点付きのタイトルのリブート映画『スター・トレック』(09年)がヒットした例もあるので――後者は厳密には原典とは並行宇宙の関係でつながってもいるけれど――、ドチラの手法であっても面白ければ、あるいは売れればそれでOKではあるので、100か0かの関係ではナイし、完全リブート作でも面白ければ大いに評価はする(笑)。
 しかし、個人的には「世界観消費」の方向性にこそ、人々をよりワクワクさせる豊穣な可能性があるのだと感じていて、日本のジャンル作品も大局・大勢としてはそこに向かうべきだとも考えている。


 円谷プロウルトラシリーズは00年代末期~10年代中盤には、バンダイから出向してきてTV番組『ウルトラマン列伝』(11年)を宣伝するための「列伝ブログ」も担当していたプロデューサー氏が主体となって事が進んでいたと推測しているけど、氏が担当していた時代の作品群は作品世界も越境した「世界観消費」の面白さもそれなりにあったとは思うものの、フリーの若手プロデューサー氏に交代してからは、氏も頑張っているとは思うものの、そのインタビュー記事などを読むかぎりでは、「先輩ヒーローには頼らないでも楽しめる作品としたい」旨を語っていて(爆)、それはそれでその志は壮とすべしだけど、中盤回や映画版では先輩ウルトラ戦士や近作の悪党たちこと「円谷のヤベ~やつら」四天王(笑)もゲスト出演させて、キャラ人気的なイベント性の方をこそ重視していった方がイイとも思うゾ~。


 東映も「ライダー」や「戦隊」に過去の東映ヒーローたちをも同一世界の存在として扱う、2代目・宇宙刑事ギャバン(12年)を主役とした『スペース・スクワッド』シリーズ(17年~)を展開しているけど、コレも東映全体ではなく子会社・東映ビデオの好き者プロデューサーと『パワーレンジャー』(93年~・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20080518/p1)で凱旋帰国した坂本浩一カントク主導に過ぎないようでもあるので(?)、散発的な試みに終わっており、非常にモッタイないとも思う。
 東映全社が一丸となって、計画的に現行「ライダー」や「戦隊シリーズ」にも1クールに1回は、2代目ギャバンや2代目・宇宙刑事シャイダーに、彼らの宿敵でもある邪教団・幻魔空界の敵幹部やら敵怪人たちをもゲスト出演させることで、子供たちにもその存在とヒーロー性を認知させ、現行TVヒーローと番外ヒーロー世界との二層的な構造の各々に連続性も持たせることで、子供レベルでの知的好奇心・ジャンク知識収集欲をも喚起して、春休みの大集合映画などでは彼ら2代目宇宙刑事や先輩東映ヒーローたちとも一致協力・団結して巨悪に立ち向かう! という方向へと持っていくべきではなかろうか?


 昨2018年度の女児向けアニメ『HUGっと! プリキュア』もこの手法で、10月の映画公開3ヶ月前の7月にはもう初代『ふたりはプリキュア』(04年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20040406/p1)をゲスト出演させて、映画の宣伝CMも流しはじめて(笑)、映画封切直前には歴代プリキュア全員集合の前後編大バトル回も配置することで、同じく歴代プリキュアが全員集合した『映画HUGっと!プリキュアふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』をシリーズ最高の興行収入に押し上げてもいるのだから……。
 「ウルトラ」や「東映特撮ヒーロー」もコレを見習うべきだと強く主張をしたいのだ!(笑)


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2019年初夏号』(19年6月16日発行)~『仮面特攻隊2020年号』(19年12月下旬発行予定)所収『アベンジャーズ/エンドゲーム』合評2より抜粋)



2019年6月18日(火)後日付記:ナンと! 本日レイトショーで観た、ラノベ原作(14年)の深夜アニメ『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190706/p1)の後日談映画『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』(19年)が映画の神様のイタズラか、『アベンジャーズ/エンドゲーム』とほぼ同じネタ・お題でビックリ! 量子力学で一応の補強が施されているあたりも同んなじ(テイスト自体はベタつかないけど甘酸っぱい青春なので、全然ちがいますけれど・汗)。 


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スパイダーマン:ホームカミング』 ~クイズ研究会(?)に所属する文化系スパイダーマンの弱者友人たち(汗)

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スーサイド・スクワッド』 ~アメコミ悪党大集合。世評は酷評だが佳作だと私見

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[関連記事] ~3大メタ・ヒーロー作品! 国産ヒーローの歴史を深夜アニメが総括!

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『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』 ~往年の国産ヒーローのアレンジ存在たちが番組を越境して共闘するメタ・ヒーロー作品だけれども…

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ワンパンマン』 ~ヒーロー大集合世界における最強ヒーローの倦怠・無欲・メタ正義・人格力!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190303/p1


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私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! ~連載8年目にして人気再燃の理由を探る!

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』『琴浦さん』 ~2013年3大ぼっちアニメ評
『惡の華』『ローゼンメイデン』『琴浦さん』『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』 ~2013年4大ぼっちアニメ評
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ボッチ漫画『私モテ』連載8年目にして人気再燃の理由を探る!

(文・T.SATO)
(2019年5月25日脱稿)

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』第1巻~第7巻


 今どき髪も染めてない――オッサンの筆者には全然OKだけど――、ボサボサではないもののキチンとセットされているとも云いがたい各所の先っぽがハネた黒髪。チビで痩身・貧弱なツルペタ体型。ヒザより下に垂らした改造してない長めの制服スカート。
 垂らした前髪の影からのぞく片目は気弱そうで覇気がなく、かつ濁ったヒトミが浮かび。無表情ではないけど顔色が悪くて乏しい表情。トドメは眼の下に少々クマ(笑)ができている!
 元々シャイな性格なのでコミュ力には恵まれず、そのことを本人も自覚しているので、他人――同級生や教師や店員――に語りかけられると、ますますドツボにハマって対人恐怖&滑舌の悪さで卑屈にシドロモドロ……。


 そんな女子高生・黒木智子こと通称・モコッチの高校でのトホホな(ひとり)ボッチ生活や、リア(ル)充(実)なクラスメートたちへの呪詛の数々に、彼女の同類でもある我々オタ――のそのまた一部――は「あるある」「そうそう」と共感しつつも、劣等感の傷口に塩をなすりつけられて痛みがジワリと拡がり「アアッッ!!」と絶叫したくなる思いにカラれながらも本作を愛読してきた(笑)。
 震災があった2011年に原作マンガの連載がスタートし、2013年夏季クールで深夜アニメ化も果たされた作品も、今年2019年で9年目。深夜アニメ化からでももう6年。2010年代のディケイド(10年紀)をまるまる駆け抜けてきたこととなる。


 そんな作品がここ2年ほどで再ブレイクを果たしているという。紙媒体の書籍の売上も深夜アニメ化を機に当時刊行済であった1~3巻(12年)が各巻25万部を達成したのをピークに5巻(13年)が13万部、6巻が11万部、7巻(共に14年)が8万部、8巻(15年)が6万部、飛んで11巻(17年)が3万部(汗)にまで落ち込んでいたというのに、感動の大傑作とも目されて個人的にも滂沱の涙を流しながら嗚咽にむせびつつ読み進めた――だからホントだってばヨ(笑)――12巻と13巻(共に18年)では4万部超えを達成して早々に増刷も決定したというのだ!
 「最盛期と比すれば少ないじゃん!」というなかれ。この売上に電子書籍は含まれてはいないという。この10年間で電子書籍が紙媒体の売上をはるかに上回り、近年のマンガ書籍の売上ランキングでも『私モテ』新刊が上位に頻出し、各サイトでも取り上げられて、アマゾンのユーザーレビュー数でも一般的な人気マンガをはるかに上回る数百もの絶賛コメントが奇跡の第12巻には寄せられていることを思えば、その売上はVの字回復を果たしていると見るのが妥当なのでは!?


 しかし、深夜アニメ化6年や連載9年程度では我々オッサン世代にはつい最近のことに思えてしまうけど、その感慨をストレートに出してしまうのは老害というヤツで(爆)、小学生が中高生や大学生に、中高生でも社会人に達してしまうほどの実に長い歳月が流れたことになる。よって、読者側の「世代交代」による作品の「再発見」が再ブレイクの主因なのであろう。
 だけど、その「再発見」の内実を腑分けしてみると、『私モテ』本来のオリジン・起源自体が評価されているワケでもないことがわかる。どころか、「ボッチもの」ではなく「百合もの」としてカテゴライズする向きさえある。加えて、初期の『私モテ』でさえもヘビーに過ぎて苦手意識を持ってしまい敬遠してきた古参のマンガ読みたちが、「ボッチもの」から少女たちの「群像劇」への華麗なる変身を遂げて以降の『私モテ』に改めて飛びついている事象も多々見受けられるのだ。


 つまりはもう古き良き(?)「ボッチもの」としての『私モテ』は存在しないのだ。なので、往年の『僕は友達が少ない』(09年・11年に深夜アニメ化)やあまたのボッチ作品とも同様に、「オマエ、友だちいるじゃん!」「クラスで級友たち(の一部)ともしゃべってるじゃん!」というツッコミも可能とはなっている。
 この変化に自身の変わらぬミジメでボッチな現状との乖離・彼我の差を鑑みて、『私モテ』に「裏切られた想い」をしている古参ファンもいるようだ。……わかる! その気持ちも実によくわかるし、正当なモノですらあるとも思う! だから、路線変更後の『私モテ』を罵るファンの気持ちもムゲにはしたくないし、むしろ尊重したいとすら思う――そーいう連中こそが最も実生活でも生きがたさ・生きにくさで苦しんでいるのであろうから――。
 そんな彼らに衷心・満腔からの共感・同情・共闘の意を示しつつ、そして初期『私モテ』も大スキな筆者ではあるものの、この華麗なる変身を遂げた「路線変更」後の『私モテ』は作品を延命させて、読者層をコア層からややライト層へと拡大、なおかつテーマ表現を高めることにも見事に成功したとも思う。


 それはやはり、ボッチ「あるある」ネタだけを延々と続けていくだけでもルーティン・ワークに過ぎるし――筆者個人はそれでもよかったのだけれども(笑)――、いささかネタが尽きてきたところもあったからではあるだろう。もちろんそのことに作者や編集者も気付いて確信犯で徐々に「路線変更」を試みてきていたとも思われる。
 たしかに、別の高校に進学して地味娘から美少女への高校デビューに成功するも、それをハナにかけない気立てのイイ少女のままでいる中学時代の旧友・ゆうちゃんや、3歳年下でかつてはモコッチに憧れるも中学に進学してモコッチのボッチな正体に気付いて(爆)それと悟らせずにモコッチの庇護者のようにふるまい出す従姉妹のキーちゃんは序盤からイレギュラー的には登場していた。


 しかし第5巻からは、主人公・モコッチの鏡像キャラともなりうる登場人物が投入される。それがモコッチと同様に、チビで痩身・貧弱なツルペタ体型の黒髪ショートの地味なメガネ女子・小宮山(こみやま)さんだ。モコッチとは別のクラスに在籍する図書委員でもあり、昼休みや放課後には図書室で司書を務めているあたりが「いかにも」な我々オタの近縁でもある人物造形。それによって、スクールカースト底辺キャラ同士で互いに心と心が通じ合って、傷をナメあう道化芝居の遠回しな自己憐憫ドラマが構築されるのか!? ……と思いきや、この作品は基本的にはややブラックな笑いを主眼とする作品なのである。よって、この両者は互いに底辺同士としてドチラがよりマシな境遇なのかをめぐって、そーした言葉を発することなく意地やミエを張り合うのであった(笑)。
 なお彼女は、先のゆうちゃんを介して中学時代はモコッチと3人でつるんでいた仲間でもあった――もちろん後付け設定――。しかし、小宮山さんはモコッチのことを覚えてはいても、クズなモコッチは小宮山さんのことはすっかり忘れていたという設定にする(爆)。ならば、小宮山さんはモコッチよりも少々マシなのかと思いきや、そーでもない。学校では地味娘でもその私服は痛々しい鎧った自意識を感じさせるパンクロックファッション(!)。そして奇遇にも、ボッチ作品『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(11年・13年に深夜アニメ化・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150403/p1)とも同様に、オタクの聖地・幕張メッセがある海浜幕張駅周辺を舞台とした本作の地元プロ野球チーム・千葉ロッテマリーンズの大ファンでもあり、野球の話をするときだけは早口でまくし立てるというキャラ立てともする。かてて加えて、モコッチの弟でありながら異性にモテモテのサッカー部の好青年男子・智貴(ともき)クンに変態チックにご執心であるサマも描くことで、本作をルーティンに陥らせないための新たなギャグパターンもココにて放たれた(笑)。


 後続の巻では、智貴クンに恋慕する下級生ライバル女子生徒も登場。小宮山さんとモコッチの奇行に巻き込まれて、告白代わりに「智貴クンのオチンチンが見たいな」(汗)なるゲスな発言をさせられることでイレギュラーキャラ化。小宮山さんが智貴クンの姉(爆)でモコッチが智貴クンの恋人(爆爆)だと誤解したままのシチュエーションも継続させることで、以降は同様のディスコミュニケーション・ギャグが散発されるようにもなっていく。


 しかし、この時期の試みはいまだ「群像劇」としてのモノであったとはいえない。むろんのこと、モコッチのクラスメートたちに至ってはその内面・主観が描かれることすらなく、あくまでもモコッチ目線から見た風景・モブキャラとしての扱いに過ぎなかったのだ。時には休み時間はゲームに興じる学級カースト底辺のオタク男子たちの集団に混じれれば、女性免疫がないウブな男子だけが集うガラパゴス落差も利用して「オタ(ク)サー(クル)の姫」として君臨できるやも!? と妄想しつつも、同族嫌悪からの底辺競争、オタク男子たちよりもワタシの方がまだマシだ! というチンケな差別意識でモコッチが自尊心を満たそうとしているサマがまた、身に覚えがありすぎて泣けてくるのであった(笑)。

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!(2) (ガンガンコミックスONLINE)
私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!(3) (ガンガンコミックスONLINE)
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私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』第8巻


 しかし、第8巻たる高校2年の秋を舞台とした京都への修学旅行編で、今思えば「路線変更」後のタネがまかれる。
 修学旅行での自由行動時にだけ許可される私服。外見なぞはその人間の本質ではナイとは思ってはいても、若者みながボタンシャツ&Gパンであった1970年代までとは異なり、1980年代中盤以降の高度大衆消費社会化で服飾も多様化、そこで差異化競争に励んでしまう先進各国の圧倒的大多数のファッション&スイーツなミーハー連中はそのような殊勝なことはツユほども思ってはおらず、そこでダサいカッコウをしようものなら何を弁明しようともさらなる劣位に置かれることは必定である(汗)。
 そこでモコッチも仕方なく近くのショッピングモールに買いものへ行くのだが……。時期が時期であるだけに同目的の母校の生徒や同級生らを見かけて気マズい居たたまれない気持ちになってしまい(爆)。


 新幹線で京都に行くのに、トイレから帰ってきたら自分が座っていた座席が仲良しグループたちに占拠されており(爆)。居場所がなくなったモコッチが車両と車両の間のデッキに向かい、そこで時間を潰そうとしたら他クラスの同族嫌悪の対象・小宮山さんとも遭遇し、小宮山さんもモコッチの現状を察するも、しかして自身の窮状を悟られまい・見下されまい、あるいはたとえ善意からのモノであっても憐れみの目で見られることは自身のプライドが許さない! とばかりに咄嗟にミエを張ってしまう(爆爆)。
 このあたりは、個人的には痛苦しくて物語的には大スキなシチュエーションでもあり含蓄にも富んでいるとは思うけど、本作においては既視感がある定番のシーンでもある。
 よって、やはり定番でアリすぎるがためか、修学旅行の班決めシーンは、モコッチ自身がドコの班にも誘ってもらえずミジメに間接的な人格否定をジワジワと宣告されていく拷問の1時間を回避するために、ズルして早退をすることでオミット!(笑)


 翌日に登校するや、モコッチが修学旅行で同班するメンバーが明らかとなる。しかも体育会系・女担任のお膳立てで、モコッチが班長にすらなっている(爆)。そして、クラスのアブれ者が集ったというその班のメンツとは?


・黒髪を左右二つ結びのオサゲにしたローテンションな無表情少女で、常にポケットに手をつっこんで明後日な方向を見やりながらイヤホンで音楽を聞いている、大人しげで劇中ではモコッチが「表情筋が10グラムくらいしかない」(笑)と評した田村ゆりちゃん!
 のちのち、この低血圧な田村ゆりちゃんがモコッチの新たな鏡像・正妻・百合・共依存の相手として、そしてオタ間でも大人気のキャラに昇格していくことをこの時点で誰が想像しえたであろうか!?


・そして、ズル休みの常習で、頭髪を金髪だか脱色だかにしつつも、根元は伸びた毛のせいで地毛の黒がのぞいており、ブスッとしていて「オラオラ」とオラついて時に手も出す狂犬のごときヤンキー少女・吉田さん!


・モコッチの中学時代の旧友・ゆうちゃん同様、ゆるふわなボブカットの髪型ではあるも多分、目鼻口は小さいサッパリとした顔つき、特にその両眼をマンガ的・記号的に縦長の直線で表現された女子高生・ウッチー!――モコッチの内心でのアダ名は「顔文字さん」(笑)。はるか後続刊で明かされた本名は内笑美莉(うち・えみり)――


 高2に進学してから修学旅行編に至るまで、この3人は劇中には登場したことすらなかったじゃん! というツッコミは可能ではあるけれど、そこはまぁマンガでありフィクションですから、それを云うのはヤボというモノ(笑)。
 中肉中背な新キャラ3人は、チビチビで醜くめに描かれるモコッチ(汗)と比すると大分格上感は漂う。そんなアブれ者の彼女らももう10代後半なのだから、せめてそこでオトナの態度を取って、表層的な社交辞令ではあっても、縁あってせっかく一時を同席・同宿するのだし、緊張緩和のためにも笑顔で互いを立てあう友好的な会話でもすればイイものを、そーいうことにそもそも関心がナイのか、あってもチョイ悪を気取ってクールにふるまっているのか、カースト劣位者と同席したり仲良くするのは家系の恥だとでも思っているのか(爆)、宿泊先のホテルの室内でも班ごとの独自行動でも当初は心が通じ合うこともなくほぼ無言。仲がよくてかつ多弁な連中のなかにアウェイで放り込まれる方がもっとイヤだけれども(汗)、コレはコレでキツいものがあるゾ(笑)。


 班決めからはじまるコレら修学旅行の一連、ウン十年前の筆者もほぼ同様の経験をしていた覚えがよみがえる。いや、大学のサークル旅行でも、社会人になってからの社員旅行でも。実は今も職場で……。し、死にたい(以下略・爆)。
 同じ母語をしゃべる日本人同士であってさえも、誰とでも友だちとなれるどころか、性格類型が異なればこんなにも分かり合えずに気も合わず、同席していること自体が息苦しいし、同じオタ同士が集うハズの同人サークルならぬ同人誌即売会自体が主宰する巨大打ち上げに参加することさえ気後れする御仁が多いのも、ある意味では当たり前の心理なのではあるのだろう。震災などでも無作為抽出避難ではなく気心の知れたご近所&共同体のまるごと避難の心理的・互助的優位性も、昨今では注目されている。
 やはり良くも悪くも無作為シャッフルの席替えや、外国人旅行者程度ならばともかく大量の外国人移民や難民とも共生していくことには困難を伴うのだとも思われる。ましてや街の周囲を高い塀で囲んで部外者が侵入できないようにゲットー化した高級住宅地に好んで住まうアメリカの民主党支持者どもが共和党トランプ大統領の移民制限や万里の長城建設に反対するという「オマエらが云うな!」的な矛盾&倫理的退廃も見るにつけ、自分がボランティア活動なり自宅に泊めて移民の面倒を見るだけの人間力コミュ力も微額のカンパをする気もナイくせに、底の浅いフワッとした感情的な理想論で無制限に移民・難民を入れるのが正義だ! なぞとホザいている輩に、筆者は理性&合理ではなく偽善&欺瞞、自身が正義の側に立っているという自己陶酔の匂いをプンプンと……。
 人間一般はそんなに博愛的に振る舞える存在でもナイのだから――かといって無闇に殺人強盗するほど荒んでいるワケでもないけれど――、天使と悪魔の間にある人間の「不完全性」をも前提に0か100かの極論の不毛な対立ではなく、単なる企業の雇用調整弁でもない物理的・制度的・人員的・社会保障費的にも対応可能な両極の中間にある現実的な人数をめぐって実務的な議論を。でないと、サヨク連中が理想郷のように持ち上げるも、実態は人種差別や経済格差が絶えずに完全雇用も日本以上に保証されていない欧米の二の舞になるゾ~(汗)。


 以上は長すぎる余談で、そんなマクロな議論はミクロな本作には馴染まない(笑)。基本的には他愛ないギャグ漫画でもあることを決して手放さない本作。モコッチは清水寺に行けば「ヤンキーは高いところが好きだから……」、金閣寺に行けば「ヤンキーはキンキラなものが好きだから……」とヤンキー少女・吉田さんに気を遣ったつもりで話しかけ、寝起きの悪い吉田さんを起こそうと布団をまさぐったら乳首をさわってしまい、逆鱗に触れた吉田さんに腹パンチや頬パンチを喰らうお約束反復ルーティンを構築することで新たなギャグ・パターンともする。モコッチと同じコミュ力弱者ではあろうけど、モコッチほどではない田村ゆりちゃんが見かねてこの両者を仲裁するルーティンも同時に構築。


 と同時に、ゆりちゃんはモコッチが対人会話スキル面では人情の機微がイマイチわかっていない、何がイキで何がヤボかのTPOもわきまえていない、知識はあっても知恵はない「バカ」(笑)であることも見抜く姿を通じて彼女の主観・内心も描くことで――読者が感じていることの代弁でもあるけれど――、本作で初めて本格的にモコッチ以外のキャラの内面・心情も描かれていく端緒ともなっていく。しかして稲荷神社で足を挫いたモコッチをヤンキー吉田さんがオンブして登頂に成功、モコッチ・吉田さん・田村ゆりちゃんの3人でキレイな夕陽を見つめさせることで、吉田さんのお株も上げていく。
 このシーンはクライマックス的な完結感も強い。よって、ヘタすると読者の続刊への興味をなくされてしまうことも恐れてか、修学旅行編の最終シーンとはしていない。戻った宿でウケ狙いでアダルトビデオを観ようとするモコッチのクズなふるまいの小挿話を経て、修学旅行編は8巻をまたがって9巻へもつづくことで、読者に対するヒキも作っており、商業的にもヌカリはない(笑)。


 なお、修学旅行編が連載されていた2015年前後に、京都アニメ製作の深夜アニメの中CMにて、中2病の眼帯少女――『映画 中二病でも恋がしたい! -Take On Me-』 ~眼帯少女も高1なら可愛いけど高3だとヤバいかも…に迫る逸品・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190904/p1――を演じるアイドル声優内田真礼(うちだ・まあや)の声でやたらと宣伝されていた、実は宇治平等院の近隣にあることを数年前に旅先でグーグル先生に教えてもらった、「行きたくなるあのお店。京アニ、ショッ~プッ」(笑)への巡礼ももちろん果たされた!?


私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』第9巻


 第8巻で新キャラとしての軸足を定めたヤンキー少女・吉田さんと大人しげな田村ゆりちゃん。ただし、「顔文字さん」ことフェミニンなボブヘア髪型の新キャラ女子・ウッチーは、この時点ではたまたまアブれたからこの班にいるだけで、日中も夜間も仲良しがいる別の班と行動をともにして、モコッチのことは見下してもいる、やや脇役の悪役寄りの役回りを務めていたともいえる。
 しかし、修学旅行の最終宿泊先のふたり部屋ではモコッチと同室してTVのバラエティ番組でAかBかの二択で処女か否かを占う、その根拠も怪しげなコーナーで、ウッチーの選択が「処女」、モコッチの選択が「非処女」となったことで、モコッチがひとり勝手に精神的に優位に立って(笑)得意げなドヤ顔を浮かべて、それまでのキョドってドモっていた言動をひるがえし流暢に馴れ馴れしく見下したように「処女であることを恥じる必要はナイ」なぞという趣旨の的外れなアドバイスをさせることで(爆笑)、ウッチーだけを悪役とはせず、むしろモコッチの方がやっぱりオカシいという方向に持っていくあたりがこの作品の実にイイところでもある(笑)。
 加えて、バッグを間違って蹴飛ばして中身を散らかし、ウッチーのパンティーを手に取ってしまった光景を誤解されてしまったがために、それがのちのちウッチーがモコッチのことを同性愛者のストーカーだと勘違いするお約束反復ギャグともなっていく新たなネタもココにてまかれている。LGBT者であれば即座に弱者で正義で善人なのではなく、LGBT者でも一般ピープル同様にストーカーとなったり悪事を犯したりする可能性、相手の合意なしにレイプしてくる悪しきLGBT者も極少数はいるであろうという知見も開かせてくれる実に秀逸な描写でもある――ホントかよ?(汗)――


 修学旅行後はモコッチの生活にも小さな変化が訪れる。登校時の道中や下駄箱に教室で、ヤンキー吉田さんや田村ゆりちゃんが朝のあいさつをしてくれるのだ。キョドりながらもあいさつを返すモコッチ。さらに加えて、田村ゆりちゃんがモコッチを昼食の同伴にも誘ってくれる! 田村ゆりちゃん、マジ神・天使・女神さま!(笑)


 その昼食の相席に、明るい茶髪ショートと紺のセーターが印象的なソバカス顔の細やかな気遣いもできる少女・田中真子(たなか・まこ)ちゃんもココにて再登場! 先の8巻評では端折ったけど、同じ班になると決めていたのに、チビで短め前髪のソバージュヘアに三角型の髪留めが印象的な天真爛漫ワガママ八重歯ギャル・南さん――モコッチはキバ子と秘かにアダ名する(笑)――にゴーインに誘われて断れず、気分を害した田村ゆりちゃんとの仲がギクシャクするも修学旅行中に和解して、3日目の自由行動ではモコッチ・吉田さん・ゆりちゃんとも行動をともにした真子ちゃんだ。
 以降はモコッチ・ゆりちゃん・真子の3人で昼食を取り、スマホでLINE(ライン)をしあうまでの仲となり、巻数を重ねるごとに重要人物と化していく――とはいえ、モコッチにとって当初はこの同席昼食ですら彼女らとの共通の話題がナイことで、微妙にプチ苦痛の時間であったりもするけれど(汗)――。


 ソバカス真子ちゃんはゆりちゃんと比すれば快活で交友関係も広いけど、実に常識人で性格弱者に対する気遣いもバッチリな娘。その描写はゆりちゃんが学校を病欠した折り、またまた「田村さん休みだからいっしょに昼食しよ!」と誘ってきた南さんことキバ子に押し切られ、モコッチをボッチ飯の境遇に1日だけ戻してしまって、昼食中にモコッチをチラ見しつづけることでその挙動を泣いていると誤解して(爆)、モーレツな罪悪感に打ち震えてしまう第11巻での描写で頂点を極める。
 良心の呵責に堪えきれずに、キバ子のモコッチへの悪口を聞かせまいともして、トイレの個室に押し込んでモコッチの両耳を押さえて涙目で顔面を近づけて、トドメに「私と友だちになって!」と謝罪してくるソバカス真子ちゃん! しかして、そこはギャグ漫画。文脈が理解できないのでモコッチはドン引き。ウッチーの被害妄想ギャグがモコッチにも援用されて、今度はモコッチが真子ちゃんのことを内心で「ガチレズさん」とアダ名するようにもなってしまう――昨今の情勢を考えるとLGBT差別になるやもしれんのに!?(汗)――。


 対するに、昼休みにボッチでも悲壮感や卑屈さなど微塵も感じさせずに、細々としたことは気にもせず中庭で堂々と昼寝しているヤンキー吉田さんとの絶妙な対比も、ボッチの身の処し方のひとつのモデルとしては実に示唆的でもある。


 9巻の後半は2年に一度の体育祭編。障害物競走に参加してブサメン男女にイケメン男女をゲットして来いと無理難題を出されたときの絶望感、騎馬戦メンバーを探す際の絶望感、といったおなじみの反復絶望ギャグを挟みつつ、その過程で弟・智貴クンをストーキングして写真を撮りまくる小宮山さんを体育祭運営本部に通報(!)するモコッチや、やはりアブれていた1年生の冴えない眼鏡のボッチ女子どもと成り行きで組まされたモコッチが智貴クンを慕う下級生女子と騎馬戦対決して、勝負に負けてもドサクサに紛れてさりげに痴女的にオッパイをさわることに執着するクズっぷりギャグも描かれる。


 特筆すべきは、のちのちにリア充ギャルグループとしてその個性や人格も描かれることになるギャル軍団とともに体育祭ではチアガールを務めているウッチーだ。
 体育館での練習場所にやはりボッチ飯(爆)を喰いにきて近辺からミニスカの下をのぞこうとしているのがミエミエなモコッチとも遭遇、ストーキングの恐怖に打ち震えるも、本番ではモコッチがミニ・ツインテール髪のブリッ子少女・ヒナちゃんやギャル軍団のチアガール姿を見続けていることに気付いて今度は嫉妬の炎をメラメラと燃やしだす!――オンナ心と秋の空ってムズカしいですネ(汗)―― ココにて今後はウッチーの方が逆にモコッチに執着していく倒錯ギャグのタネもまかれることとなったのだ(笑)。


私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』第10巻


 秋も深まり陽が暮れるのも早くなり冬が間近に迫ってくる寂寥感も遠景として、相変わらずの些事ギャグが描かれていく中で新たにフィーチャーされ出す人物がまた登場。
 それは本作序盤の高校1年生編から登場していて学級カースト上位グループに所属している、ミニ・ツインテール髪で制服の上から常にパーカーを羽織っているニコニコ笑顔が印象的な可愛い子ブリッ子タイプの根元陽菜(ねもと・ひな)ことヒナちゃんだ!――モコッチが内心アダ名している名称だと、往年の雑魚ロボこと量産型モビルスーツ「ジム」の後継機の名称も掛けたとおぼしき名字のアタマ2文字で「ネモ」(笑)――


 10巻の序盤で描かれる進路相談も兼ねた三者面談での女担任の発言で、モコッチは将来の進路をすでに定めて「声優」を目指しているクラスメートがいることを知る。
 各自の進路への悩みを軸に展開するこの第10巻では、体育会系・女担任が文学部演劇学科の資料をヒナちゃんの座席にドサッと持ってきて、廊下でヒナちゃんが女教師に「内緒にしてほしいって云いましたよネ」とお愛想の笑顔を浮かべつつ抗議したところを、人前では「声優」の語句は明かさないと云いつつも、その場でその語句を使ってしゃべっていることによって(爆)、偶然廊下に居合わせたモコッチが「声優」志望者はヒナのことだと知ってしまう!


 かてて加えて、母がお弁当を作ってくれなかったので、たまたま学食でボッチ飯を食していたら、座席が取れなかった同級のリア充グループがそのテーブルに乱入してきて、固まってしまうモコッチ(笑)。とはいえ、多少は場慣れしたのか、オズオズとチャラ男たちの問い掛けに答えてみせる成長も見せ、「帰宅したらナニしてるの?」との問い掛けに、同席しているヒナのことも意識して「ろ、録画したアニメ観てるかナ、ヘヘヘ」と遠慮がちに答えると、ヒナちゃんは「ふーーん」とウスい反応を返す。話の流れでクラスの誰が声優を目指しているのか? という話になるや、彼女はフリーズ&焦燥の度合いを高めていき、「ヒナだろ」とバレそうになるや慌てて否定にかかるのだ……。ナンと! リア充グループでよろしくやってるブリッ子少女のヒナちゃんは隠れオタでもあったのだ!!


 彼女の危機を察して、「リア充グループに所属していても苦労もあるんだナ……」と見かねたモコッチが「せ、声優、目指してるのはワ、ワタシかも……」と、同じく名作ボッチ作品『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』でも幾度か見たような、自分が汚れキャラクターを演じて自爆することで第三者を救ってみせるオトコ気があるところも見せつける! 平成初頭の幼女連続殺人事件のころほどではナイけれど、NHKでTVドラマ化(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190530/p1)もされた隠れオタ女子社会人を描いた漫画『トクサツガガガ』(14年)などとも同様に、オタであることをカミングアウトする行為は、劣位に置かれてイジられて笑いの対象とされる危険性が常に付きまとってもいる現実をも示唆する実に含蓄にあふれた描写でもある。


 しかして、オタ同士であることがわかってモコッチとヒナちゃんの心はツーカーで通じ合えることになるのか!? と思いきや……。放課後の暗がりの廊下で待ち構えていたヒナちゃんは「人前ではワタシとアニメの話をしないでネ」なぞとのたまりやがる(笑)。この一連や後続巻では、モコッチの好みは『進撃の屍』なる『進撃の巨人』(13年)&『甲鉄城のカバネリ』(16年)(共に荒木哲朗カントク作品)みたいな戦いや人死にがある作品や『まほいく(魔法少女育成計画)』(16年)&『魔法少女サイト』(18年)などのややエグくてダイナミックでスペクタクルなアニメなのに、ヒナちゃんは「私はあーいうのキライだから……」と全否定をしてみせて(爆)『まんがタイムきらら』系なマッタリほんわか「日常系」萌えアニメが大好物であることもカミングアウトしてくる。
 ジャンル内ジャンルが細分化した現在、同じアニメファン同士であっても容易に共闘できないあたりも実に今日的でもある。なお、修学旅行編の最後の宿泊でのふたり部屋で、モコッチがついつい見入ってしまった日常系の美少女アニメを、同室していたウッチーは「女同士でイチャイチャしてて気持ちワル!」とのたまっていたことも思い出す。女のコも一枚岩じゃないのだ(笑)。


 ……こう書いてくると人間ドラマ主導のマジメな巻であったと誤解されそうではある。しかし、中学生のころのように非日常的な高揚を期待して傭兵や武器商人になることを夢見る(笑)ほどには幼くない年齢に達したモコッチが、将来の職種像を描けずに専業主婦になる未来を想像するもゲーム三昧で育児放棄にいたる自分しか想起できないので、ニート(爆)になることを夢見るクズっぷりでギャグ描写も相変わらず絶好調!
 悪意はナイけど性格弱者の気持ちにやや無神経な、最近までボッチであったことをモロバレさせてしまう体育会系・女担任の三者面談での発言で、モコッチは羞恥にまみれて、母親にも心配されるブラックなギャグも炸裂。
 とはいえ、面談の順番を待つ間はキョロキョロとして落ち着かず、直前の女子生徒の面談を盗み聞きしようと壁に耳を付けてしまい母親に注意される、現国や歴史は得意でも精神年齢は幼稚園児並み(笑)でもあるモコッチは、やはり被害者なばかりではなくゲスな加害者でもあるあたり、物事を多面的に描いてみせる本作の面目躍如でもある。


 ラストでは小宮山さん・ゆうちゃんらと球場に出掛けて千葉ロッテマリーズと当時コラボ中でもあったボッチ作品『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』も登場。小宮山さんも作品を知っていて、モコッチに至っては原作ライトノベルを読んでいることも判明する(やっぱり! さもありなん!・笑)


私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』第11巻~第12巻


 季節は冬に突入して歳もまたいでいく。第11巻では来たる一旦のクライマックスへの助走台として、小宮山さんや彼女とモコッチの弟・智貴クンを取り合っている下級生女子、それに加えて従姉妹のキーちゃんなどの本作序盤から登場しているキャラが再登場する小挿話をいくつか挟んで、各々のキャラやギャグの芸風(笑)を再確認して改めての地固めもしていく。


 と同時に第12巻にまでまたがって、後日に評する予定である第13巻以降で大きく花開いていく要素でもあるモコッチとギャル軍団との接触も描いて、周到にタネもまいておく。


 派手な顔した美人お姉さん系でギャル軍団の長とおぼしき加藤明日香さん。ココはご都合主義・ファンタジーだけれども、彼女は先の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』などに登場するやや悪役寄りの公共心よりもミーイズム・私的快楽至上主義者としてのギャルではなく、常識もある正義の味方(笑)として理想化・美化もされた人格者としてのギャルであり、非モテ男子や大人しめ女子であれば彼女と対するのはやや気後れするであろうけど、その口調は下品なギャル言葉ではナイし他人の悪口なども決して云わない聖母のような年長者タイプとしても描かれる。
 席替えで加藤さんの真後ろの席に配されたモコッチは、好意の表明としてのメイクやネイルの実験台とされることで彼女と接点を作っていく――それを見かけて自身でも気付かずにモコッチへの偏愛を捧げはじめた「顔文字さん」ことウッチーがまたまた嫉妬の炎をメラメラと燃やすギャグも(笑)――。


 ギャル軍団のナンバー2も本格始動! 一見美人ならぬ可愛い系でもデコ出しチョンマゲ結びで気が強そうな岡田茜ちゃん。校舎ウラでモコッチがヤンキー吉田さんに文字通りに締め上げられている(爆)のを偶然見かけて、黙っておれずにモコッチを助けに向かってしまい、それを傍観していた田村ゆりの行為も許せない! と糾弾する、実は意外と常識人で正義感も強い人物としても描かれる――コレを機に茜ちゃんもその正体は奇人変人だと知ってしまったモコッチのことが気になって仕方がなくなってしまう(笑)――。彼女らをめぐるドラマについては、今回は見送る第13巻以降の評にて改めて語りたい。


 もちろんギャルの美化だけではない。それらと対比するかたちで、先のキバ子こと南さんはモラルに欠けており、やたらとテンション高くて元気でおしゃべりで、なおかつ無邪気にナチュラルに他人の悪口ばかりを云ってくる人物としても描かれる。
 おそらく休み時間の次の授業の特別教室への移動中なのであろう、田村ゆりちゃん・ソバカス真子ちゃんとともに階段を昇っていたモコッチは盛大にすっ転んで、女のコらしからぬいつもの「グエッッ!!」なる奇声を張り上げる。
 それを見て気の毒がるのではなく「ウケる~~!」と笑い飛ばしてしまう小さなイジメもOKな失礼千万の他人に対する共感性には乏しい残酷な南さん(爆)。対するにモコッチは、顔真っ赤にして「うっせ~キバ子。歯ぁ矯正すんゾ!」とつぶやく……。


 修学旅行の班決めでソバカス真子ちゃんを強奪したキバ子のことを快くは思っていなかったであろう、カラ元気と大人しめ同士で性格的にも気が合うハズがないであろう田村ゆりちゃんは、モコッチの当意即妙な形容&発言に虚を突かれてキョトンとするも、ツボに入ったのか溜飲が下がったのかコラえつつも声を出さずに笑い出す。「ゆりのそんな表情、見たことない」とモコッチに対するお株を上げる真子ちゃんの図で、ギャグ描写でありながらも彼女らの親交の深まりもダブル・ミーニングで積み重ねさせていくあたりも絶品だ。


 ゆりちゃんもまた単なるクールな女子なのかと思いきや、奇抜な形態の建築物をラブホテルだと見抜けない意外とウブなヤンキー吉田さんを気遣って、真相を明かそうとするモコッチをさえぎり、吉田さんの夢を壊さないように(笑)話を合わせてあげる女の子らしい優しい気遣いでポイントも上げてくる――まぁゆりちゃんもクールなようでも凡庸な女のコだよなとか、悪い意味での日本人の典型、ムラ世間的な毛づくろいコミュニケーションそのものじゃねーか!? というツッコミも可能ではあるけれど、この程度ならば許そうではないか!?(笑)――。


 モコッチの旧友・ゆうちゃんも彼氏と別れて髪の毛を切った姿で再登場を果たして、モコッチや小宮山さんともしばし歓談。陰に陽にすでに非処女であることがほのめかされる(爆)。コミュ力的にはモコッチや小宮山さんとも当初は大差がなかったハズなのに、ルックスや性的魅力に恵まれていたばかりに、オトコが寄ってきてコミュニケーションが始まり場数も踏めていく。文化的制度やマルクス主義的経済格差以前のもっと原初的でフェロモン・動物的でもある次元、本人の努力を超えた先天的な生物学的次元でも生じてしまう格差! 全人類を同一DNAのクローン人間にでもしなければ解決不能な不条理!
――もちろん筆者とて無罪ではない。モコッチよりかは田村ゆりちゃんの方がそこはかとない色気があるし、恋人にしたい! お嫁さんにしたい! なぞとも思ってしまうのだから(笑)。そうだ! 絶対平等の観点からひとりの男性がひとりの女性を独占することを禁止して、世の女性たちを差別せず等しく平等に愛することを義務付ければ、モコッチにもゆりちゃんにも!(以下略)――


 それらと順番は前後するも、本作序盤に登場した懐かしのキャラクターも再登場。かつての深夜アニメ版でも映像化された件り、高校1年の秋の文化祭にてやはり居場所がなくて孤独に校内をさすらっていたモコッチを気にかけてくれた柔和で快活でもある人格者の女生徒会長・今江さんだ。
 1対1ではなく複数キャラが同席する中での組み合わせやリアクションの相違で人物像が示される作劇が、ことココに至って増えてくるけど、常識的にはアリエないヤンキー吉田さんとボッチのモコッチが相合い傘で雨天を帰宅する光景に尋常ではないモノを感じて(笑)、それを見かけた生徒会長さんがいっしょの帰宅を申し出る。
 いつもの奇矯なボケとツッコミを披露するふたりを見るに及んで、ふたりの良好な関係性を察する生徒会長さんの慧眼ぶりがまたもポイント高い。クルマがハネた水しぶきを咄嗟に傘でバリアにして生徒会長さんをかばうヤンキー吉田さんも実にポイント高いのだ――「不良って得だよなぁ、ちょっとの善行でもポイントが上がるから……」とボヤいているモコッチは相変わらずのクズだけど(笑)。もちろん吉田さんも、物語の便宜で理想化・美化されたヤンキー像ではあることは付言はしておこう(汗)――


 コレが伏線となって、第12巻では卒業式後に校庭に集う卒業生たちの場へ、生徒会長さんに一言お礼を云おうと思ってオズオズと訪れたモコッチは、その人望で人だかりができているサマに気後れするも、それを察した吉田さんが首根っこをツカんで生徒会長さんに差し出すあたりから目頭が熱くなってくる。物陰で最後の会話を交わして抱きしめてくれることで、高1の文化祭で抱きしめてくれた動物の着ぐるみは生徒会長さんだったんだと気付くあたりで読者の涙腺も決壊する(多分)。帰り道でゆりちゃんや真子ちゃんがハンカチやティッシュを差し出してくれるあたりでのダメ押しといったら……。


 とはいえ、モコッチがクラスメート間でビミョーにお株を上げてくるエピソードも配していく。大雪で交通が乱れてヒトもまばらな静かな教室。聖なる白さ&大雪が騒音も吸収するのかホーリー(聖なる)な特別感を醸す日に授業は自習となり、ここでラノベやお文化系サブカルにも造詣があるモコッチの強みが活かされて、図書室で各自がモコッチの薦めた書籍を静かに読み始めるのだ!
 そーいえば、やはり深夜アニメ化もされた高1の夏祭り(花火大会)編でもモコッチは、早くも15年も前の2004年に10代の少女ふたりが芥川賞をダブル受賞をした折りのギャル系ではなく黒髪清楚系の方の処女作『インストール』の表紙を見て、「あの本、読んだことがある…」などと図書室でのたまっていたモノだ。


――余談だけど、筆者もミーハーなので当時、増刷もされた月刊『文藝春秋』に再録された黒髪清楚系の芥川賞受賞作『蹴りたい背中』は読んでいる。クラスでボッチ(!)の陸上部女子が異物としてのオタク男子と交流するも通じ合わないサマ(汗)を描いた作品で、ピアスを付けたワイルドでワルな香りがするオトコにセクシュアリティを感じるビッチなギャルの奔放な性を描いたもう片方の同時収録の受賞作『蛇にピアス』とは実に対照的であった。筆者の周囲の評論オタ間では、このミニスカギャル系と保守的ロングスカートの黒髪清楚系のふたりを当時放映が開始されたばかりの女児向けアニメになぞらえ『ふたりはプリキュア』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040406/p1)と呼び習わして、このふたりは同作序盤#8までのように絶対に気が合いそうにないと語り明かしたモノだった(笑)。後日ゴシップ誌でふたりの対談記事がアリそうでナイ理由は、黒髪清楚系の方が断っているからだと報じられる(たしかにカメラを意識して常に身を斜めによじったモデル立ちポーズでキメているギャル子作家ちゃんの方は怖いよ~・爆)――。


 そしてクライマックスは、終業式後のクラス打ち上げ。友だちが少なくて現場で浮いてしまうことを恐れるモコッチやゆりちゃんは参加を悩み、ヤンキー吉田さんはハッキリと「興味ねェよ!」とまでのたまう(汗)。
 ソバカス真子ちゃんに誘われ、モコッチや吉田さんが参加するなら……と答えたゆりちゃんはモコッチと吉田さんを誘って、答えを留保するふたりとともにゲームセンターで時間をつぶす。そして……。高1時代のクリスマス・クラス打ち上げでは集合場所近くまで赴むくも、浮かれる級友たちを遠方から見かけてそこに混じれる気がせず怖じ気づいて秘かにひとり淋しく撤収したモコッチも(涙)、今回はゆりちゃん・真子ちゃん・吉田さんと4人でテーブルを囲んでリラックスした時間をしばし過ごす。


 しかして、意表外の席替えターイム! 4人はバラバラとなってしまう(汗)。
 ゆりちゃんは天敵・キバ子の隣となり、キバ子は真後ろのソバカス真子と話し出す(爆)。モコッチはギャル軍団の長・加藤さんの隣りになり、最初は気後れするも加藤さんの気遣いとココ半年の訓練の成果かキョドりながらもナンとか周囲と会話を成立させる。ヤンキー吉田さんも悶着があったばかりの隣席の岡田茜ちゃんと会話を成立させている。
 モコッチと吉田さんを打ち上げに連れてきた立て役者なハズの田村ゆりちゃんのみ、そのコミュ力弱者ぶりがココに来て露呈して、浮いてしまって無言でヤリ過ごすのだ……(汗)。集団・喧噪の中での孤独。


 二次会のカラオケには行かずに、一次会だけでそそくさと帰途に就くゆりちゃん。それに目敏く気付いてあとを追うやさしい真子ちゃん。いつもの4人といたかったと静かにホンネを吐露していた信号待ちのゆりちゃんの隣に吉田さんが合流。
 一次会はナンとか凌げたけど二次会では多分浮くだろうと自らの分もわきまえて――増長でも卑下でもないところのモコッチの実に的確な自己評価!――、まだ寒くて人影もまばらで夜のとばりが下りた海浜幕張駅の高架上のホームにエスカレーターでしずしずと昇ってきたモコッチとも、「アッ!」と互いに目が合って合流を果たす。
 電車を一本ヤリ過ごして言葉少なにこの時間がしばし続けばと優しいダウナーな一体感にひたっている4人の姿には涙を禁じ得ない……。


 もちろん評論オタとしてイジワルにハシゴ外しをさせてもらえば、「コレが野郎キャラだったら、メソメソせずにシッカリしろヨ! と思ってしまうだろう」「女のコだから弱さをさらしても許されるし、百合的に美しくも感じられるのだ」などの男尊女卑的な通念とも無意識に結託したのがコレらの描写でもあり、「近代的な自立した個人」じゃないよネ? 西洋化ではないオルタナティブな近代を目指した明治時代の亜細亜主義の巨頭・頭山満玄洋社の総帥)の名言「ひとりでいても淋しくないヒトになれ」等々のツッコミや反駁も可能ではあるけれど(汗)、しょせんは社会評論ならぬ時代の俗情とも大いに結託した我らが愛する大衆娯楽エンタメなのだし、誰もがそこまで強くなれるワケでもないのだからコレでもイイじゃないか!?(笑)


 ある局面においてはモコッチよりも劣るゆりちゃんのコミュ力は、第13巻以降でクローズアップされて、その心理や表情もやや沈んで不安定となり、モコッチに対するプチ独占欲や依存も滲ませるカルい「病んデレ」とも化していき、オタク読者の萌え感情を大いに惹起していくことにもなるけれども、それはまた稿を改めて語りたい。


 この第12巻の最終章は、高校3年編の第1話でもあり、3度同じクラスとなったモコッチとヒナちゃんが自己紹介で互いをけしかける。モコッチはウケをねらった自己紹介でまたもスベってしまい寒い空気を招来してしまう。しかし、恥辱にまみれるもメンタル強度は以前よりも確実に高まっていることを自覚するモコッチ――彼女のはるかなる前走者として云わせてもらうと(笑)、それと引き換えに心のドコかの繊細で軟らかいところも確実に毀損していっているけど、実生活で生き抜くためにはそれも仕方がナイ!――。
 それを見て意を決したヒナちゃんも、声優志望を明るい表情&声色でカミングアウト! しかして自己紹介後は手が震えており「もしものときはボッチのやり方、教えてネ……」と静かに語りかけてもくる。次巻以降の展開への期待も大いに煽るドラマチックなヒキでバッチリだ。筆者も本作に一生、付いていく! と誓うのであった(笑)。


――とはいえ「物語」一般というモノは、「かくあってほしい」「道理や正義が通ってほしい」「往々にして現実はそーではないのだから……」という願望が託されたモノでもある。だから、実生活ではヘタに本作に影響されてオタであることをカミングアウトしたりはしない方がイイとも思うゾ(爆)――

(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH−VOLT』Vol.82(19年6月16日発行予定⇒8月1日発行))


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古見さんは、コミュ症です。』『川柳少女』『ひとりぼっちの○○生活』 ~コミュ力弱者の女子を描いた3作の成否(笑)を問い詰める!

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くまみこ』『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』『ネト充のススメ』 ~コミュ症女子を描いた3作品の成否は!?

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魔法使いの嫁』『色づく世界の明日から』 ~魔法使い少女にコミュ力弱者のボッチ風味を加味した良作!

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『N・H・Kにようこそ!』 ~引きこもり青年を病的美少女が構ってくれるファンタジー(笑)

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061119/p1


[関連記事] ~コミュニケーション弱者問題評

迷家マヨイガー』 ~現実世界からの脱走兵30人! 水島努×岡田麿里が組んでも不人気に終わった同作を絶賛擁護する!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190630/p1

たまこラブストーリー』 ~親密な商店街にオタの居場所はあるか!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160514/p1

げんしけん』&『ヨイコノミライ』 ~2大ヌルオタサークル漫画を読む!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20071021/p1

げんしけん二代目』 ~非モテの虚構への耽溺! 非コミュのオタはいかに生くべきか!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160623/p1

トクサツガガガ』(TVドラマ版)総括 ~隠れ特オタ女子の生態! 40年後の「怪獣倶楽部~空想特撮青春記~」か!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190530/p1

『怪獣倶楽部~空想特撮青春記~』に想う オタク第1世代よりも下の世代のオタはいかに生くべきか!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20170628/p1

電車男』映画版を毒男たちが観る!(笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20070617/p1

Nippon2007(第65回世界SF大会&第46回日本SF大会)に見る外人オタらの同じ匂い

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20080302/p1