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騎士竜戦隊リュウソウジャー中盤評 ~私的にはスッキリしない理由を腑分けして解析。後半戦に期待!

『騎士竜戦隊リュウソウジャー』序盤合評
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平成スーパー戦隊30年史・序章 ~平成元(1989)年『高速戦隊ターボレンジャー』
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『騎士竜戦隊リュウソウジャー』中盤評 ~私的にはスッキリしない理由を腑分けして解析。後半戦に期待!


(文・久保達也)
(19年10月30日脱稿)

*「6番目の戦士」登場! だったが……


 改元の1ヶ月半前にスタートしたことで事実上「平成」最後のスーパー戦隊となった『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(19年)の第2クール開幕となる第14話『黄金の騎士』で、スーパー戦隊ではもはや恒例(こうれい)の「6番目の戦士」となるカナロ=リュウソウゴールドが初登場した。
 主人公となるリュウソウジャーの5人はリュウソウ族なる古代人類の末裔(まつえい)だが、6500万年前にそのリュウソウ族の間で起きた激しい対立を機に、一部の人々が決別して海中生活をすることとなり、カナロはその海底人類の末裔なのだ。
 古い世代的には『ウルトラセブン』(67年)第42話『ノンマルトの使者』に登場した海底原人ノンマルトを彷彿(ほうふつ)とさせる設定だが、その海のリュウソウ族が少数民族となっているため、カナロは子孫を増やすために「婚活」として次々と女性をナンパする。


 いや、近年の「6番目の戦士」といえば、『手裏剣(しゅりけん)戦隊ニンニンジャー』(15年)に登場した、忍者のクセにカウボーイスタイルでエレキギターをかきならし、ハンバーガーのアイテムで変身した(笑)キンジ・タキガワ=スターニンジャーとか、『動物戦隊ジュウオウジャー』(16年)の、子供のころから体も気も弱くて友達がいなかった(ひとり)ボッチ青年(爆)の門藤操(もんどう・みさお)=ジュウオウザワールドとか、『快盗戦隊ルパンンレンジャーVS(ブイエス)警察戦隊パトレンジャー』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190404/p1)で、ルパンンレンジャー側のルパンエックスとパトレンジャー側のパトレンエックスに変身して双方を行き来する、コウモリみたいな高尾ノエルなど、一見とんでもねぇキャラなのがあたりまえになっていた。
 なので、それらに比べりゃカナロの「婚活」なんかむしろおとなしいくらいだ(笑)と思っていたものだが、カナロ=「6番目の戦士」の参入で『リュウソウジャー』も活性化するかと思いきや、あくまで個人的な印象ではあるのだが、第1クールに感じた一種のもどかしさは、第2クールに入ってもしばらくは解消されていないような感が強かった。
 そもそもカナロ初登場の第14話の本編ゲストが、高利貸しからの借金を返せずに苦しむ男の婚約者というのは……それならいっそのことカナロがアスナリュウソウピンクに結婚を迫るような、ドタバタラブコメディの方が子供にもウケたのではないのだろうか?


 『リュウソウジャー』ではかつてリュウソウ族と地球の覇権(はけん)をめぐって争っていた戦闘民族ドルイドンが敵組織として登場し、人間のマイナス感情を利用してマイナソーなる怪人を生みだしている。
 この設定によってゲストとなる一般人のマイナス感情が描かれてきたのだが、そのためにどうしても本編のドラマがやや陰鬱(いんうつ)で湿っぽい印象に陥(おちい)りがちといった感が強かった。
 一般人のほかにも第13話『総理大臣はリュウソウ族!?』に登場した狩野澪子(かのう・みおこ)や、第21話『光と闇の騎士竜』&第22話『死者の生命!?』で復活したマスターピンク=先代リュウソウピンクなど、リュウソウ族からマイナソーが生まれる回は通常回以上に陰鬱となり(笑)、「平成」ウルトラマンシリーズが得意とした「光と闇」は、やはりスーパー戦隊にはふさわしくないと痛感させられたものだった。


 ただ、人間の欲望や怒り・憎悪(ぞうお)などのマイナスエネルギーが怪人化するのは「平成」仮面ライダーでは定番だったものだが、少なくとも『仮面ライダーW(ダブル)』(09年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20100809/p1)以降の第2期「平成」ライダーの作風に対しては、陰鬱な印象は微塵(みじん)も感じられなかったものだ。
 では同様の設定で怪人が誕生する『リュウソウジャー』には、ナゼその印象がつきまとうのか? その原因は作品の根幹(こんかん)をなす要素が、以下のようであることに尽(つ)きるかと思える。


*『リュウソウジャー』がスッキリしない理由とは?


 まずマイナソーが従来のスーパー戦隊に登場した怪人とは異なり、人間の言葉でベラベラしゃべることがなく、自身が最も想いを寄せるモノをひたすら口走るだけであることだ。
 2019年10月から無料動画配信サイト・YouTube(ユーチューブ)で配信が開始された『百獣戦隊ガオレンジャー』(01年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20011113/p1)の時点ですでにそうだったのだが、00年代以降のスーパー戦隊に登場する怪人たちは、それ以前の怪人がひたすら凶暴だったのとは異なり、デザイン自体は正統派の怪人でカッコいいにもかかわらず、その言動や行動はギャグ系なのが圧倒的であり、戦隊ヒーロー&ヒロインとのバトルの中でさえも、ボケとツッコミのかけあい漫才的なやりとりが描写されるのがあたりまえとなっていた。
 20年にも渡ってそれを観せられてきただけに、マイナソーに視聴者が違和感をおぼえるのもある意味当然かと思えるのだが、少なくともマイナソーが従来のようなギャグ系の怪人として描かれていたならば、本編に対する陰鬱な印象もかなり軽減されるのではあるまいか?


 また従来のスーパー戦隊に登場した悪の組織といえば、宇宙に浮かぶ巨大な艦船とか闇夜を背景にした異様な城とか暗闇の中の洞窟(どうくつ)とかに拠点(きょてん)をかまえ、大首領を中心に粗暴犯・知性派・悪女などの複数の幹部が存在し、怪人たちや戦闘員を従える大軍団として描かれたものだった。
 だが『リュウソウジャー』の敵・ドルイドンは、これまでにタンクジョウ・ワイズルー・ガチレウスと幹部交代は描かれたものの、それら幹部と毎回マイナソーを生みだすコミカルキャラ・クレオンとのコンビ以外には戦闘員が登場するのみであり、彼らの背景に巨大な悪が存在することすらにおわせる描写もない。
 そして当初は「ひみつ基地」すらも用意されておらず、ドルイドンの幹部とクレオンが人間界で野宿生活(爆)の末に、ようやくかまえた悪の巣窟(そうくつ)は天井(てんじょう)にミラーボールが回るカラオケスナックなのだ……


 つまり、ドルイドンは悪の軍団としてのスケール感がただでさえ圧倒的に不足していたにもかかわらず、そこにゲストのマイナス感情を中心にした話が描かれたために、その世界観がより小さく見えてしまっていた。
 おまけに粗暴犯だったタンクジョウとガチレウスが比較的短い期間で退場したのに対し、最も長く登場している、青を基調にシルクハットとマント姿のマジシャン風のワイズルーが、それこそ『ウルトラマンタイガ』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190811/p1)の敵キャラ・ウルトラマントレギア並みに陰険(いんけん)な奴(笑)であることも手伝い、作風としては序盤からのやや陰鬱な印象をひきずったままといった感が強かったのだ。
 これが従来のように粗暴犯・知性派・悪女といった幹部たちが週替わりでそれぞれの個性を活(い)かした作戦を展開するのであれば、少なくとも毎回似たような話がつづくといった印象もなかったのではなかろうか?


 シリーズ前半のレギュラー悪だった異次元人ヤプールが、人間の妄想(もうそう)・欲望・執念(しゅうねん)などを利用して、怪獣を超える生物兵器・超獣を生みだす設定を途中で投げだした『ウルトラマンA(エース)』(72年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20070430/p1)の場合、少なくともそれ以降の方が視聴率は上昇したのだから、その前例に従ってマイナソーの設定を放棄(ほうき)せよ(笑)などと主張するつもりはない――ちなみに『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19971121/p1)の場合は、人間のマイナスエネルギーが怪獣を生む初期の設定を捨てて以降の方が、逆に視聴率は右肩下がり(汗)となったのだから、そんな単純なものでもないのだろう――。
 だが、せめて「6番目の戦士」の初登場回くらいゲストのドラマを描くのは遠慮して、新ヒーロー・カナロ=リュウソウゴールドのカッコよさを描くことに徹するべきではなかったのか?
 カナロの登場から約1ヶ月後に公開され、本来ならそのキャラクターを売る絶好の機会であったハズの映画『騎士竜戦隊リュウソウジャー THE MOVIE(ザ・ムービー) タイムスリップ! 恐竜パニック!!』(19年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190818/p1)でも、カナロがリュウソウゴールドにいっさい変身せず(!)、ひたすらナンパするのみだったのもなんだかなぁ、と思ったものだが……


*『ゴセイジャー』における「6番目の戦士」!


 先述した『百獣戦隊ガオレンジャー』と同じく、2019年夏以降にYouTubeで配信されている『天装戦隊ゴセイジャー』(10年)の「6番目の戦士」初登場回はepic(エピック)17『新たな敵! 幽魔獣』だったが、冒頭では内閣総理大臣や国民的アイドルグループ、人気スポーツ選手たちが次々に行方不明となる、全地球的規模とはいかなくとも日本を震撼(しんかん)させる大事態を描いてスケール感を拡大させていた。
 それを起こしていたツチノコ型の強力怪人と新たな幹部を相手に、ゴセイジャーがビルの屋上で絶体絶命の危機に陥ったそのとき、戦隊ヒーローというよりはシルバーを基調としたメタルヒーローを彷彿(ほうふつ)とさせる「6番目の戦士」・ゴセイナイトが登場!
 怪人たちを圧倒するパワーをゴセイジャーに見せつけ、ツチノコ怪人が巨大化して『ウルトラセブン』第28話『700キロを突っ走れ!』に登場した戦車怪獣・恐竜戦車みたいなキャタピラスタイル(!)に変化するや、ゴセイナイトも戦車型の巨大メカでこれに対抗したのだ!


 つづくepic18『地球(ほし)を浄(きよ)める宿命の騎士』では、冒頭でゴセイナイトが地球の環境を汚染する湾岸工業地帯を破壊してしまう(汗)。ゴセイジャーが駆けつけるや、自分は人間を守るのではなく、あくまで地球を守るために戦っているのだと主張してゴセイジャーと対立する。
 まさに『ウルトラマンガイア』(98年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19981206/p1)の2号ウルトラマンウルトラマンアグルを彷彿とさせるものの、延々と人類批判セリフを口走る(笑)ワケではなく、「人類は愚(おろ)かだ。守る価値もない」とひとことつぶやくのみであり、陰鬱な印象は皆無(かいむ)に等しかった。
 それはミイラ怪人がテレビ局をジャックして放送を観た視聴者を凶暴化させるスケールの大きな作戦を展開しながらも、テレビ朝日の長寿番組『徹子(てつこ)の部屋』(76年~)のスタジオセットを再現して司会のミイラ怪人がゴセイジャーをゲストに迎える(笑)といったコミカルな描写や、「人類を守る気はない」とラストバトルを放棄して立ち去ろうとしたゴセイナイトに、アラタ=ゴセイレッドがいっしょに戦わなくてもいいからオレたちが何のために戦っているか見てくれよと呼びかけ、それを合体ロボ・ゴセイグレートが巨大化したミイラ怪人を倒すことで体現したように、両者の関係性を役者の語りではなく、あくまでバトルアクションで示した演出も大きかったのだ。


 ちなみに『ゴセイジャー』では悪の組織が宇宙虐滅(ぎゃくめつ)軍団ウォースター→地球犠獄(ぎごく)集団幽魔獣→機械禦鏖(ぎょおう)帝国マトリンティスと、幹部交代にとどまらず侵略宇宙人軍団→未確認生物軍団→ロボット軍団と組織そのものの交代劇が描かれ、ゴセイナイトはウォースターよりも強力な幽魔獣の出現とともに登場したことで、その印象をより強めることに成功していた。
 だから『リュウソウジャー』もカナロの登場を機に、人間のマイナス感情で怪人を生むドルイドンを退場させて、もっと強力な悪の組織への交代劇を描くことで、リュウソウゴールドを印象強く見せる手法もあったかと思えるのだ。
 また『ゴセイジャー』のepic15『カウントダウン! 地球の命』&epic16『ダイナミック・アラタ』はウォースターの壊滅劇を描く前後編であり、第2クール初頭の時点で早くも地球最大の危機が描かれていたのは特筆に値する。
 空に浮かぶ映像で人類に宣戦布告する首領のドレイクの声を務めたのが、『人造人間キカイダー』(72年・東映 NET→現テレビ朝日)のダークヒーロー・ハカイダー以来、東映変身ヒーロー作品で悪の声を長年演じつづけてきた大ベテラン・飯塚昭三だったのも説得力を高めていたかと思える。


 ただ、そこに至るまでの『ゴセイジャー』の第1クールは、そのキャラを掘り下げるために毎回特定のメンバーを主役にした、かなりコミカルなカラ騒ぎ的な作風に徹していたのだ。
 特にエリ=ゴセイピンクを演じたさとう里香(りか)とモネ=ゴセイイエローを演じたにわみきほはすでにバラエティ番組やグラビアなどの活動実績があったためか、『ゴセイジャー』はヒロインを強調する演出が多くて個人的にはありがたかったのだが(笑)、やや軽薄なその作風はマニア諸氏からの風当たりは強かったようで(汗)。


*少々心配な『リュウソウジャー』の周辺事情


 「6番目の戦士」にとどまらず、『リュウソウジャー』でも新たな騎士竜が定期的に続々登場したり、ヒーローのパワーアップや合体ロボのバリエーションはそれなりに描かれてきたのだが、それらを印象強く見せるための前後編が『リュウソウジャー』では従来と比べて数が少なく、その作風もイベント編というよりは人間ドラマ主導の感が強かった。
 またティラミーゴやディメボルケーノ、モサレックスなど、騎士竜が人間の言葉でしゃべりまくる演出もなされ、特に中心となるティラミーゴは等身大となってリュウソウジャーとからむ描写も見られるようになったものの、これも毎回というワケではないために、『炎神(えんじん)戦隊ゴーオンジャー』(08年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20080824/p1)の動物と乗り物を融合させた機械生命体・炎神たちが終始にぎやかだったのと比べるとその印象はやや弱かったのだ。
 これは序盤から「話が重い」との指摘が多い(笑)『ウルトラマンタイガ』でもそうなのだが、ウルトラマンタイガ・ウルトラマンタイタス・ウルトラマンフーマが半透明のミクロ化した姿となり、本編ドラマで主人公の周囲をチョロチョロする描写が初期には多く見られたものの、その後はご無沙汰(ぶさた)となってしまっているのと同様だ。
 「子供番組」で重い話をやりたいのなら、バランスをとるためにそれは必須ではないのだろうか?


 『リュウソウジャー』は第1話『ケボーン!! 竜装者』&第2話『ソウルをひとつに』が現時点での最高視聴率3.7%を記録して以降、第5話『地獄の番犬』までは3%台を維持したものの、それ以降は第13話と第15話『深海の王』以外は2%台を推移した末に、第22話はいわゆる「夏枯れ」もあったのだろうが1.4%と、それこそテレビ東京で土曜の朝に放映されているウルトラマンシリーズと変わらぬ低い数字を記録してしまった。なお、第28話『ミクロの攻防』時点での平均視聴率は2.7%である。
 ちなみに前作『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』の最高視聴率は第5話『狙われた国際警察』の4.5%、最低視聴率は第26話『裏のオークション』の1.8%――やはり「夏枯れ」となる8月の放映だった――であり、平均視聴率は3.0%だったことから、『リュウソウジャー』は現時点ではこれを下回っているのだ。


 実は先述した『炎神戦隊ゴーオンジャー』の途中からスーパー戦隊、『仮面ライダーウィザード』(12年)の終盤から『仮面ライダージオウ』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20080824/p1)までの仮面ライダーと、長らく『スーパーヒーロータイム』の両シリーズをチーフ・プロデューサーとして手がけてきたテレビ朝日の佐々木基(ささき・もとい)が、やはりテレ朝側のプロデューサー・菅野(すがの)あゆみとともに、第18話『大ピンチ! 変身不能!』をもって『リュウソウジャー』を降板している――第18話のサブタイトルが、この事態を端的に象徴しているような(大汗)――。
 これは個人的には『仮面ライダー響鬼(ひびき)』(05年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20070106/p1)の東映側のプロデューサー・高寺成紀(たかでら・しげのり)が、商業的な不振や撮影の遅延(ちえん)などを理由に途中降板したことをどうしても彷彿としてしまうのだ。


 また『リュウソウジャー』のパイロットとなる第1話&第2話は上堀内佳寿也(かみほりうち・かずや)監督が演出したことから、『リュウソウジャー』のメインは上堀内監督なのかと思いきや、氏はほかに第19話『進撃のティラミーゴ』&第20話『至高の芸術家』、第32話『憎悪(ぞうお)の雨が止(や)む時』と計5本しか撮っておらず、この時点で単純に本数で見ると渡辺勝也監督と坂本浩一監督がともに計7本と上堀内監督よりも多いため、いったい誰がメイン監督なのかがわからない状況となっている(爆)。
 それにしても、かつて東映の宇都宮孝明プロデューサーから「巨大戦の達人」とまで評されたほどに、スーパー戦隊の巨大メカ戦に深いこだわりを見せる竹本昇(たけもと・のぼる)監督が『リュウソウジャー』に参加していないのは実に不可解だ。


 さらにメインライターの山岡潤平(やまおか・じゅんぺい)もクールの変わり目や新ヒーロー・新メカ登場などの主要回は書いているが、氏がアニメすらも書いたことがない初心者のためか、ベテランの荒川稔久(あらかわ・なるひさ)をはじめとするサブライターの参加が従来と比べるとかなり多いことも、『リュウソウジャー』の特異な点ではある――ちなみにアスナの体内にコウ=リュウソウレッドとメルト=リュウソウブルーが突入する第28話『ミクロの攻防』は『ウルトラセブン』第31話『悪魔の住む花』を彷彿とさせたが、もちろんウルトラマンを書きたくて脚本家になった荒川先生の作品だ(笑)――。
 こうした製作事情を見るにつけ、『リュウソウジャー』はシリーズ構成的に果たして大丈夫なのか? と不安にさせるものがあったのだが……


*『リュウソウジャー』最大の弱点とは!?


 総集編だった第23話『幻のリュウソウル』以降、『リュウソウジャー』は明らかにコミカル演出をかなり強調した作風へと転じ、ゲストのドラマに深入りすることも少なくなったが、その第23話を観て筆者はあることに気づかされた。
 こんなカッコいい場面あったか? と何度も思わされたほどに、アクション演出や特撮演出はやはり光るものがあったのだが、その印象を薄くしてしまうほどに本編ドラマの陰鬱さの方が強かった、ということもあるのだがそれだけではない。
 思えば近年のスーパー戦隊で放映された総集編は単なる名場面集にとどまらず、シリーズの縦糸となる要素の進展が、たとえ断片的ではあっても描かれるのが常だったものだ。
 だが『リュウソウジャー』の総集編は、この回限定のリュウソウルをめぐるメンバーたちのカラ騒ぎが描かれたのみであり、それ以外は単なる名場面集だったのだ(笑)。


 陸のリュウソウ族・リュウソウジャー、リュウソウゴールドをはじめとする海のリュウソウ族、そして敵のドルイドンの間には6500万年前に端を発する因縁(いんねん)があるにもかかわらず、総集編の枠を使ってまで描くほどでもないくらいに、彼らの間の6500万年もの深い因縁を活(い)かした縦糸となる要素があまりにも希薄(きはく)である。
 これこそが『リュウソウジャー』が連続ものとしてではなく、「昭和」のスーパー戦隊のように1話完結形式で1回くらい見逃してもかまわないといった印象を、視聴者に植えつけてしまっているのではなかろうか?
 たとえばリュウソウレッドの先代のマスターレッドに倒されたドルイドンの幹部の子孫とか、カナロ以外の海のリュウソウ族が、リュウソウジャーや陸の人類に復讐(ふくしゅう)しに来るとか。
 変身アイテムやさまざまな特殊能力を持つリュウソウルにしろ、単に集めるのみではなく、『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』のルパンコレクションとか『仮面ライダージオウ』のライドウォッチみたいに、それらを集めることでごほうびがもらえる(笑)ように描かなければ、子供も集め甲斐(がい)がないのではなかろうか?


*ついに「救世主」登場か!? 「7番目の戦士」!


 そんなことを考えていたら、第2クールのラストとなる第26話『七人目の騎士』で「7番目の戦士」としてナダ=ガイソーグが登場した。
 関西弁で話す気のいいにいちゃんとして当初は描かれていたが、かつてマスターレッドの弟子としてバンバ=リュウソウブラックとともに修行していたものの、リュウソウジャーに選ばれなかったことに恨(うら)みをつのらせ、宇宙の辺境で最強の鎧(よろい)=ガイソーグを発見し、それを装着することで強大な力を身につけたという、リュウソウジャーと実に因縁が深いキャラとして設定されているのだ。
 ちなみにガイソーグは先述した映画『騎士竜戦隊リュウソウジャー THE MOVIE』に登場した6500万年前のリュウソウ族・ヴァルマ――大のゴジラ好きで知られる俳優・佐野史郎(さの・しろう)が演じた――が対ドルイドン用の鎧として開発したものであり、これを映画1回こっきりの設定に終わらせるどころか、テレビシリーズ後半の縦糸となる要素にまで昇華させたことはおおいに評価されるべきだろう。


 第29話『カナロの結婚』&第30話『打倒! 高スペック』は坂本浩一監督によって、消防法違反ではないのか? と思えるほどに(笑)廃工場内でハデに火薬を爆発させる中でバトルアクションが演じられたり、近年のウルトラマンシリーズのように巨大怪人をオープンセットで超あおりでとらえたり、ミニチュアセットの部屋の主観で巨大メカ戦を撮ったりと、見せ場自体も確かに充実していた――第2クールまでに坂本監督はすでに4本も撮っていたのだが、その作家性すらも『リュウソウジャー』ではあまり活かされてはいなかったような気が……――。
 だが、カナロが結婚=「私」よりもリュウソウジャー=「公(おおやけ)」を選択したり、500年前にトワ=リュウソウグリーンの先祖であるマスターグリーンがガイソーグを装着し、鎧の呪(のろ)いによって仲間たちを殺害した末に人知れず亡くなった過去をナダが語ったり、そのナダがガイソーグであることを知ってさえも仲間として受け入れようとしたコウが、「おまえのそういうとこがホンマに嫌い」としてナダに斬りつけられたり……といったキャラの心の変遷(へんせん)や関係性の変化が点描されたことで、本編ドラマの群像劇と等身大アクション&巨大戦特撮のクライマックスが華麗に融合して双方をもりあげることとなったのだ。
 当初はリュウソウジャー側の味方のように描かれていたナダの立ち位置をシャッフルさせることで、第3クールに入るや「平成」仮面ライダーを彷彿とさせる様相を呈(てい)してきた『リュウソウジャー』だが、ここに至るまでが実に長かった(笑)。
 まぁ、後半戦には期待していいのかも。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2019年秋号』(19年11月3日発行)所収『騎士竜戦隊リュウソウジャー』中盤合評2より抜粋)


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『異世界かるてっと』 ~原典『幼女戦記』・『映画 この素晴らしい世界に祝福を!-紅伝説-』・『Re:ゼロから始める異世界生活 氷結の絆』・『盾の勇者の成り上がり』・『劇場版 幼女戦記』評  ~グローバリズムよりもインターナショナリズムであるべきだ!
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『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』・『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』・『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』・『私、能力は平均値でって言ったよね!』・『旗揚!けものみち』 ~西欧中世風異世界を近代化せんとする2019秋アニメ評!

(文・T.SATO)
(2019年10月27日脱稿)

『慎重勇者~この勇者が俺TUEEE(ツエエエ)くせに慎重すぎる~』


 2019年秋のアリガチな西欧中世ファンタジー異世界転移モノの深夜アニメの1本。なのだが、序盤を観るかぎりでは実に面白い!


 近年の異世界ファンタジーは、異世界そのものの珍奇さよりも、そのようなファンタジーに逃避して擬似的な万能感にひたる弱者男子である自分の性格類型を皆でメタ的に自覚して、自身の鏡像でもある情けないニートやヒッキー(引きこもり)などのコミュ力弱者の奇行ぶりで笑いを取りに行くことで、古典的なファンタジーを王道とするならば、変化球の作品ばかりになっているけど、本作はそこにさらにヒネりを入れてみせたといったところか?


 まず、主人公の勇者が今ではアリがちなニートやヒッキー上がりではない。その対極ともいえる身長180センチ超の低音ボイスで寡黙な黒髪長髪のナイスガイな日本人青年である。
 TVゲーム的に各種スペックを中空に表示させるや最初から非常に高い数値も示すあたりは、ニートやヒッキーが主人公の作品でも散見するお約束のご都合主義だけど、それで有頂天になってエラぶって昂ぶって天狗になってしまわずに、実に強い意志で自己を律して抑制もできるストイックな人格者であるあたりは、ニートやヒッキー主人公の対極ともいえる。


 そこまでは尊敬すべきなのだが、彼を召喚した天界の女神さまが、今すぐにでも彼を勇者として異世界救済の旅に遣(つか)わそうとしているのに、それを断ってみせる! 天界にある彼の履歴書に「アリエないほど慎重」と書かれていたのを地で行くがごとく、まずは異世界救済の下準備として、腕立て・腹筋などの筋トレに1週間を費やしてしまうので、物語自体が始まらないのだ(笑)。


 加えて、彼を現世から召喚した女神さまもまたキョーレツである。見た目はお上品に取り澄ました見目麗しくて両肩や豊乳の胸の谷間をモロ出し&ミニスカな白い羽衣チックなドレスをまとった金髪の新米女神さまなのに、その中身・メンタルは人間の俗物そのモノ。
 「日本では異世界転移モノのラノベが流行っていて話が早いから」と、今までも今回も「日本の若者」を召喚したとする(笑)。召喚した今回の若者勇者クンが長身のクールなイケメンで裸の上半身が筋骨隆々な姿を見るや、「あら、イイ男♡」と我を忘れてニヤけた垂れ目になって口の脇からヨダレを垂らして、後ろを向いて両手で自身の金髪をナデて整えだし、こんな男と熱愛を演じてみたいとキスシーンを身悶えしながら妄想する(笑)。
 もちろん仮にも女神さまなので、表面的には威厳を装って召喚した勇者クンに異世界救済のご託宣を瞑目して垂れつづける。垂れつつも、「勇者クンは自分の美貌にゾッコンのハズ!」と自慢・自己愛・自己陶酔にふけりながら、勇者クンの方をチラ見しているあたりも笑ってしまうのだが、本作の真骨頂はココからだ。


 勇者クンが表情も変えずにイケメン低音ボイスでいわく、


「珍妙なモノにイキナリそんなことを云われてもな」
「ホントウに神ならお前がそのナントカいう世界を救えばイイだろう」
「拒否権はナイのか?」
「自由裁量権はナイのか?」
「ルール改定のための選挙権はナイのか?」
「ちなみにその世界で死んだら、俺はドーなる?」(……笑)


 それらに対する金髪女神さまの反応が、美顔をクシャクシャに崩して、


「珍妙!! それってワタシのこと!?(怒)」
「(イケナイッ、威厳ッ。女神としての威厳ッを保つのよッッ!)」
「(勇者クンの壁ドンせまりに対して)まさか、私を? ダメよ~、ダメダメ~(誤解に基づくリアクション)」
「あッアァ~、シックス・パック(勇者クンの割れた腹筋のことを英語発音で・笑)」
「(シャワー直後の勇者クンを見て)セクシ~ィ、それに石鹸のイイ匂いィ(鼻血を流してる・笑)」


 勇者クンの反応もやはりシリアスな低音ボイスでいわく、


「(差し入れのお握りに対して)得体の知れない者が作った得体の知れないモノか?」
「お前が先に喰え。毒が入っているかもしれんからナ」
「即効性の毒は入っていないか」
「(金髪女神を模した人形型のブザーに)コイツに爆弾が仕掛けられたりは……」


 異世界に降臨してからも、


「驚いたナ、そんな(金髪女神の)露出狂みたいな格好でよく普通に挨拶できるモノだ」
「(挨拶した善良そうな村人に対して)さっきの奴がオカシいのでは? 実はモンスターだったりとか」
「たとえモンスターでなくても、殺人鬼などの凶悪犯罪者の可能性もある……」(爆笑!)


 疑り深い勇者クンの言動に、金髪女神さまはイチイチ調子を狂わされる(笑)。一応、異世界では悪い魔女とも壮絶なバトルを繰り広げるのだけど、本作のキモはバトル中においても展開されて、終始つづいていく慎重勇者クンと金髪女神さまの掛け合い漫才にあるのだ。


 コレをブーストするのが、金髪女神さまがアキれたり、ニガ笑いしたり、眉間や額にシワを寄せたり、ついには怒り狂ったり、クチを尖らせたりする、ギャグ漫画的に豊かな顔芸作画の数々。作画的には多分、高品質ではナイのだろうが、崩した顔面にはそんなモノは必要ナイ(笑)。


 同季の異世界転移モノの深夜アニメ『旗揚(はたあげ)! けものみち』(19年)の原作者が先に手掛けたラノベ原作の大ヒットアニメ『この素晴らしい世界に祝福を!』(16年)でニートの青年を天上界に召喚したのはイイけれど、手違いで自身も下界の異世界へ降臨してパーティーに同行するダメガミ(駄女神)ことユカイな水の女神・アクアさま(声・雨宮天)の素っ頓狂さもそーとーなギャグだったけど、本作はそれを踏襲しつつも、その上を行くキョーレツさ!


 それに加えて、金髪女神さまの顔芸にカブるのは、基本はキンキンで華のあるお姉さまボイスなのに、慎重勇者クンの突拍子もナイ言動に対して、言葉が詰まったり、焦って声がウラ返ったり、怒りで次第にやさぐれたダミ声セリフと化していき、沸点に達して絶叫したかと思ったら、イイ男を見てミーハーにウキウキしだすと妙に口調の抑揚が激しくなり語尾のイントネーションも尻上がり、チヤホヤされるとホッホッホッと浮かれ出す、実に三枚目的で汚れキャラクターでもあるような愉快な声の演技が、本作のギャグをさらにブーストしている!
 金髪女神さまを演じるのは中堅・豊崎愛生(とよさき・あき)。大ヒット深夜アニメ『けいおん!』(09年)の女子高生主人公・平沢唯の芝居からも早10年。随分と遠い地点に来たモノだ(笑)。
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『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』


 2019年秋のアリガチな西欧中世ファンタジー異世界転移モノの深夜アニメの1本。なのだが、序盤を観るかぎりでは実に面白い!


 高校生にして世界最高の発明家少女、高校生にして世界最高の剣豪少女、高校生にして世界最高の医者少女、高校生にして世界最高の事業家少年、高校生にして世界最高のマジシャン美少年、高校生にして世界最高のジャーナリストいや忍者少女、高校生にして世界最高の政治家少年(日本国首相!・笑)。


 そんな超人高校生たちが搭乗したジャンボジェット機異世界の山間に墜落! 妖精耳や獣人耳をした山間村落の亜人たちに救助される。助命してくれた村落の人々の恩義に報いるため、ひいてはこの異世界で成り上がるために、小はマヨネーズ(笑)を製造し、中は剣術や忍術に体術や手品で粗暴な傭兵どもを撃退、発明家少女が造った飛行機に積んでいた超小型原子炉(笑)の電力&飛行機の残骸やポーキサイト鉱脈でアルミ工場を作って、改造スマホで連絡を取り合い、中世都市の商業組合の独占を崩すために市長の弱みを握って営業許可証を発行させて、庶民の居住区の近くで安売り商売を開始して、その奇抜な手法に興味を覚えた商業船団とも契約を結んでいく……。


 てなワケで、異世界で万能感にひたるのだとしても、魔物や魔王退治によるアクションのカタルシスによる万能感ではなく、ラノベ原作の深夜アニメ『狼と香辛料』(08年)や2ちゃんねる投稿小説出自の深夜アニメ『まおゆう魔王勇者』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200123/p1)などの、西欧中世の商業や流通に統治や平和維持を題材とした、やや知的で知略的な方面でのサクセス・ストーリーといった様相も呈してくるけど、あの2大名作と比するとハイソで風情もある絵柄&背景ではなく、もっとお気楽でマイルドなデフォルメ萌え絵柄と作風にストーリー展開ではあるともいえる。


 こう書くと安っぽそうな作品だけど、「帳簿の数字だけ見ているリストラ」よりも「ビジネスには関係者の信用も必要」とばかりに「リストラされた人材を味方に付けての流通路の逆独占」で独占的商業組合とも戦ってみせたりとも来たモンだ。ついでに敵対商会をつぶすことで視聴者に勝利のカタルシスも味あわせてくれるのか!? と思いきや、敵対商会とも共存共栄を提案し、しかして彼は博愛の平和主義者なのかと思いきや、自分や自陣営のファーストありきであり、かつマクロ経済学的な持続可能な共栄をも見越していた深謀遠慮であったとも描いていく。


 ならば、現実主義的な実利を言祝ぐだけの作品なのかと思いきや、人間としての尊厳を守るために、あるいは亜人たちが云う「奴隷的屈服による平和よりも、たとえ貧乏や生命の危険にあっても互助&独立自尊の共同体を確保するための戦いを優先する」気概にほだされて、商売や人命的には少々の損を覚悟で、横暴な領主や貴族を相手にした武力闘争にも乗り出してしまう。


 引きガネを引いてしまった以上は、左翼革命幻想があるワケでもないけれど、西欧中世的な王制を革命で打倒して市民社会を到来させなければ、自身たちの身の安全もナイだろうというばかりの展開ともなっていくのだ!


 まぁそれでもドコまで行っても、ラノベにかぎらず物語作品全般が究極的にはご都合主義ではあって、程度の問題に過ぎないのだけれども、ストーリー展開以前の基本設定の次元、あるいはアバンタイトルで超人高校生7人を紹介した時点で、ポッと出の解決策ではなく伏線はすべて配置されているともいえるのだし、そもそも高校生にして世界最高の人材がウンヌンといっている漫画チックな設定を公言した瞬間に、あるいは作品タイトルの時点で、そーいうモノだと思って観ることになるので、作品内でのご都合主義に対する反発を和らげる予防線もできている……とも思うけど、万人がそのように思うとはかぎらないのが、作品レビューのムズかしいところではある(笑)。
超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!


本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』


 2019年秋のアリガチな西欧中世ファンタジー異世界転移モノの深夜アニメの1本。なのだが、序盤を観るかぎりでは実に面白い!


 厳密にはナマ身のままでの異世界「転移」ではなく、不慮の事故での死後に異世界へ「転生」したのでもなく、異世界の別人に「憑依」してしまったといったところ。加えて、主人公はニートやヒッキー(引きこもり)などの弱者男子ではなく、読書が大スキなシットリとした女子である。つまり、本作は勇者による魔物や魔王退治の物語ではナイのだ。


 控えめで対人関係面での礼節も感じられる文学少女的な弱者女子像は、こんなヒ弱なボクでも受け容れてくれるやもしれない!? と弱者男子が妄想を託すに充分な存在ではあるけれど、意外と彼女らは夢見がちな性向がウラ目に出て面喰いだったりもするモノなので(爆)、皆さんも彼女らを過度に美化した果てに幻滅で終わる前にいさぎよくアキラめよう。彼女らにも男を選ぶ権利はある。我々キモオタ男子は選ばれやしないのだ(笑)。


 転生した先の西欧中世風異世界でも、本さえあれば生きていける、読書だけできれば心を満たすことできる、心を知的・文学的世界に遊ばすことができると自身を慰めた、5才の幼女になってしまった彼女だが、恐るべきことに気が付く。この父母と幼い姉の4人で貧しい庶民が慎ましく暮らす西欧中世城郭都市内の木造5階建てアパート群の彼ら一家が住まう狭い室内には、ナンと書物が一切ナイのだ!(汗)
 どころか、石造りの建造物が立ち並ぶメインストリートの商店街に吊された小さな木製看板の数々には店名などの文字もなく、図像で商っている商品の種類を示しているだけなのだ! 周囲に訊いてみると紙すらナイようでもある! ひょっとして文字すらナイ!?(値札用の数字だけはあります)


 絶望しそうになったところで、広場で肉屋がニワトリを包丁で屠殺(首チョンパ!)している現場を見掛けて、ショックで失神(笑)。自身の発案で近くにあった質屋さんの店頭に自ら押しかけ、母と姉が買い物を済ますまでの休憩を申し出る。快く引き受けた質屋さんの店頭で目撃したのは「革表紙の本」!
 それは没落貴族が質に入れたモノであり、この世界に本屋などはなく本は筆写して作る超高額なモノであることを質屋のオジサンの言で知る。#2では、城郭都市の出入口で門番の仕事をしている父に忘れモノのお弁当を届けて、その詰め所で羊皮紙の存在も知る! しかして、羊皮紙1枚のお値段が庶民の月給と同額!


 一度は落胆する彼女だが、父の同僚から石板をもらい受けることで文字の学習を始めて、「パンがなければケーキを食べればイイじゃない?」とのたまったとされるフランス革命の断頭台で露と消えたマリー・アントワネット王妃のごとく(?)、「本を読みたければ自分で本を作ればイイじゃない?」と思い直す。そう、蔡倫が紙を発明しグーテンベルグ印刷機を発明したように、本作は彼女が紙や印刷機といった文明インフラを発明するところから始めて、書物を大量生産してみせる壮大な物語でもあるらしいのだ!


 ……イヤイヤイヤ、「本を読む行為」「本を書く行為」「本を作る行為」には各々で「越えられない壁」がある別モノの行為なのでは? とは思うモノの、そこにツッコミを入れ出してしまうと、本作の壮大な構想も成立しなくなるので、ソコは微量な違和感をいだきつつもスルーする。あるいは、天は二物・三物を与えたもうたで、彼女は読むのも書くのも作るのもスキなのだと我々は好意的に解釈しようではナイか!?


 なぞとイジワルなことを書いてしまったけど、少々引っかかったのはその点だけである。前世である現代日本では図書館への就職が決まっていたのに、蔵書の崩落の下敷き(!)になって死んでしまったらしい彼女は、いまわのきわに「来世でも本が読める生活をしたい!」と願ったおかげか、ウス暗い木造の一室の粗末なベッドに寝ている幼女として覚醒。その事態に内心では戸惑うもマンガ・アニメ的に大騒ぎしてドタバタすることもなく(笑)、冷静に事態を理解しようと寝たままで分析にコレ務めるあたりも、本作の作風・基調・トーンを象徴している。


 当初は意味不明な外国語にしか聞こえなかった、この異世界での母親の言語が急に理解できるようになった瞬間、前世における日本の母親の記憶が急速にウスれていくことも実感し「ゴメンなさい、さようなら(大意)」と小さな悲しみとともにつぶやくのも、瓜型植物を絞って抽出した油&香草を水に溶かしてシャンプーにしてアタマを洗ってカユみを取ると同時に髪の毛をツヤツヤとさせるのも、電気・ガス・水道もナイので井戸の水を汲んで運び、幼女だからオマルでの用足しも命じられる、万事が不潔で臭気にも満ちた中世の生活、ガタガタ道なので馬車の荷台でしゃべっていると舌を噛むゾと父に注意されたり、前世の記憶を基に姉よりもウマくデザインにも凝った編みカゴを作ったら姉が嫉妬&悔しさで泣き出してしまうあたりの不都合&不便の数々も(笑)、中世とは異なった意味での無慈悲なスクールカースト最底辺で劣等感&厭世観で苦しんで、現世からサッサとオサラバして異世界で勇者としてノビノビと万能感にひたりたい、我々男性オタクとは異なる発想から来る作劇で、新鮮ですらある。


 しかし、オタク女子やBL好き女子が好むような明治時代や戦国時代でイケメン文化人や戦国武将たちにチヤホヤされる作品群(笑)とも異なった生活ディテールへのこだわりではあり、オタク文化寄りというより文学少女寄りの女子の発想といったところか?
 と同時に、ご近所の同世代の男のコたちとの交流にドギマギして「イイ歳してそんなことされた経験がナイから対処に困る~。奥ゆかしくて恥ずかしがりなワタシには心臓に悪すぎる~」と内心でゴロゴロと羞恥にまみれて転がり回っているあたりはいかにもオタク女子ではある(笑)。


 ただ、ココまでていねいだと、憑依された側の元々の幼女の意識はドコに行ってしまったのであろうか? 元の幼女のことを気の毒に思わないのであろうか? ということが少々気にかかるけど、そのへんに斟酌しだしても、ストーリーが本作りの話に収斂していかずに煩雑になるので、ご都合主義でもスルーをしてあげよう。


 アニメ製作は亜細亜堂で、カントクは本郷みつる。我々ロートルオタクにとっては、シンエイ動画の『エスパー魔美』(87年)や『チンプイ』(89年)に『クレヨンしんちゃん』(92年~)や『ドラえもん』(79年~)といった、ややファミリー層向けのアニメやその劇場版のベテラン監督さんといったイメージで、亜細亜堂も子供向けアニメの『忍たま乱太郎』(93年~)以外のマニア向け深夜アニメは、ググってみるとココ10年でもオリジナル企画の良作『終末のイゼッタ』(16年~私的には大傑作!・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201101/p1)&ラノベ原作の『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201206/p1)の2本しかナイので、本作も本体とは別働部隊の作品単位で契約したスタッフ&臨時スタジオで製作しているのではナイのかなぁ?(単なる憶測です・汗)
 先の2本の深夜アニメと比すると背景美術や人物作画面ではやや劣るとは思うモノの――もちろん平均以上のクオリティではある!――、映像至上の作品ではなく、ていねいな演出&ストーリー展開で魅せていく作品ではあろうから無問題!


 そのように私的には高評価だったのだけど、本稿執筆の参考用にググってみると、本作も小説投稿サイト出自であり、原作信者が「原作と比するとアレもコレも端折られていて駆け足展開でイマイチ!」と酷評しているレビューも相当数あるネ(汗)。
 まぁ、ウン十年前も前からある既視感あふれる原作との比較論ではあり、それも正当な批評ではあろうけど、優れた原作を知らなければ無問題の良作だとは思うのだ。原作既読の方々にも可能であれば、原作の忠実な再現を尺度とするような凡庸なレビューではなく、30分1クールや2時間映画の尺に落とし込む際の取捨選択の巧拙やアレンジにテーマ的深掘りの有無を論じるようなレビューが普及することを切に祈りたい(笑)。
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『私、能力は平均値でって言ったよね!』


 2019年秋のアリガチな西欧中世ファンタジー異世界転移モノの深夜アニメの1本。なのだが、序盤を観るかぎりでは実に面白い!


 本作の略称は「脳みそキン肉」の略称とも同じである「のうきん」であるそうナ(笑)。本作もまた珍しく(?)異世界転移モノなのに、主人公は少女であり勇者ではナイ。
 馬車を雇って王都にやってきた、ボリューム豊かな薄紫色の長髪ツインテ&リボン、白い長袖ブラウスにワンピースの濃紺系ロングスカートで、ヤンチャ過ぎない範疇での元気さを絵的にアピールした、ほっぺたプニプニ系なキャラデザの12才の可愛いらしい女のコが主人公。


 彼女が石造りの建造物が立ち並ぶ王都の広場で「おのぼりさん」的にキョロキョロして独り言まで大声で発して周囲の笑いを誘い、名作洋画『ローマの休日』(53年)オマージュの観光名所でハシャぐサマで、多幸感とともに作品世界の紹介&キャラの人となりの紹介をも兼ねさせているのもアリがちではあるけど、基本を端折って判りにくくなってしまった素人クサい作劇の作品も散見される中では好印象ではある。


 ご都合主義でもこの散策で、のちにパーティーを組むことになる、女剣士のお姉兄さん(おねにいさん)、赤髪リボンのツンデレ魔法使い少女、巨乳で癒やし系のお姉さんと遭遇するのも、「作劇のいろは」に忠実ではある。


 加えて#1の中盤にて、彼女は前世の日本ではヒトよりもお勉強ができてややクールな黒髪ロングの外見だったためか、敬遠されて友人ができずに(ひとり)ボッチであったことが明かされることで――ただし両親や妹との関係は良好であったとそのキャラを微調整もすることで記号的なコジらせているボッチキャラにも陥らせずに――、シャイなコミュ力弱者でもある我々オタク視聴者の共感・肩入れ・感情移入もイッキにグイッと胸をツカむように獲得してみせる(笑)。


 前世の彼女は異世界転生モノの定番で暴走トラックから子供や子犬を救って落命し――昭和の時代のウルトラマンと合体する青年たちとも同じだネ!――、天上界で神さまによる特典付きの転生をゲットする。
 彼女が望んだこと。それは「平均値」! 平均値の能力で生まれて、妬まれずに同世代の友人たちといっしょに楽しく生活できる幸福をゲットすることにあったのだ。


 そんな彼女が魔法学校に入学する前段として一泊した宿屋の幼女の帰宅が遅いことから、ヒトハダ脱いで幼女探しに邁進、王都で子供さらいが最近横行している事実も知って、お姉兄さまや赤髪リボンや巨乳癒やし系とも再遭遇して、共同戦線で子供たちを救うに至る展開はコテコテでも楽しめる。


 とはいえ、本作はイイ意味でのマンガ・アニメ的なギャグ作品でもある。元々は現代日本人でもある彼女は、赤髪少女のことを「ツンデレ」呼ばわりして通じず、先の幼女を誘拐した洋画『マッドマックス』シリーズ(79年~)やら劇画『北斗の拳』(83年)でも観たようなパンクな服装の悪党どもをソレと酷似だと指摘して、お付きの妖精クンに「いま何か(フラグが)立ちませんでしたか?」と問われれば「立ったってクララが?」とボケ返す(笑~名作アニメ『アルプスの少女ハイジ』(74年)ネタですので念のため)。


 極め付けは「平均値」の意味である。彼女が意図していたのは――我々も通常そのようにイメージしているのは――、数学用語でいうところの多数派が位置する「最頻値」であったのだけれども、本作における「平均値」とはこの異世界で最大最強の存在であるドラゴンのちょうど「半分」の力という意味であったことが明かされて、結局は彼女こそが劇中内ではほぼ最強であり、彼女は平凡な幸福をツカみたいがためにその正体や能力を隠したがっていたのであった(笑)。


 てなワケで、#1は非常に面白かったのだが、魔法学校に入学を果たして先の3人とも再会~寄宿舎でも相部屋となった#2~3以降はさほどでもなく、作画や背景美術の面でも質が下がっており、一発ネタのやや出オチ気味な作品であった気がしないでもなくて……。
私、能力は平均値でって言ったよね! 1 (アース・スターノベル)
私、能力は平均値でって言ったよね!


『旗揚(はたあげ)! けものみち

(文・久保達也)
(2019年10月20日脱稿)


 最近の深夜アニメは異世界転移モノがあまりにも多すぎ、いささか食傷気味の感があるのだが、コレはそれらとは一線を画した独特の個性を放っているかと思える。


 本作で異世界にまぎれこむのは、60年代末期から70年代初頭に起きたスポーツ根性アニメブームの渦中(かちゅう)に放映され、当時はまだ幼かった筆者も「変身ヒーロー作品」として楽しんでいたプロレスアニメ『タイガーマスク』(69~71年・東映動画→現東映アニメーション よみうりテレビ)の主人公ヒーローを模した、ケモナーマスク=柴田源蔵(しばた・げんぞう)なる覆面(ふくめん)プロレスラーだ。


 それも世界タイトルマッチの試合中にトップロープから相手のレスラーめがけて高々とジャンプした途端、大勢の観衆の前で光の粒子と化し、リングから忽然(こつぜん)と消滅してしまうのだ。


 いつの間にかケモナーマスクは異世界の宮殿の中にいた。彼を「勇者」と呼ぶ金髪ロングのお姫様は、この世界で暴れている魔獣=邪悪な「けもの」を退治してほしいと頼むが、これに怒ったケモナーマスクはお姫様にいきなりジャーマン・スープレックス――相手の背後から両腕を回して腰をつかみ、そのまま相手を後方へと投げ、体が反(そ)った状態でおさえつけるプロレス技――をキメてしまい、お姫様の高貴な尻(笑)が丸出しに。その固められた状態で描かれたお姫様の尻がなんとも美尻で……(以下略)


 なぜケモナーマスクはそんなに怒ってしまったのか? 実はケモナーマスクは大のけもの好きであり、ペットショップを開くのが夢なのだ。実際由緒(ゆいしょ)正しき雑種(笑)の子犬をペットとして飼っており、「ひろゆき」と名づけているのだが(爆)、よく見るとケモナーマスクのマスクはその「ひろゆき」をモチーフにしてデザインされているどころか、リングにまで連れてきてしまうほどであり(笑)、「ひろゆき」も異世界に道連れにされてしまうのだ。


 なので、彼のいささか度を超えたケモノ好きはまさにけものフェチ(笑)と呼ぶにふさわしく、その偏執(へんしつ)的な愛情と、けものが魔獣として恐れられている異世界とのあまりの温度差が本作最大のキモとなっている。


 おそらくプロレスが存在しないと思われるその世界で、けもののマスクに黒いパンツ1枚のケモナーマスクは街の人々から変態呼ばわりされてしまい(笑)、マスクを脱いで源蔵の姿となるが、そんな彼を「パンイチ野郎」(爆)と呼ぶ、黄色のショートボブヘアに猫耳を生(は)やした、本作では一応敵役のセクシーなネコ型の獣人が近づいてきた。


 一瞬「猫耳ぃ~~♪」と喜んだものの、その隣にいた兄貴分のオオカミ獣人はネコ獣人が人間の少女と猫のハイブリッドであるのとは違い、まさに直立したオオカミといった趣(おもむき)であり、源蔵はネコ獣人には目もくれず、「おまえフワフワやんけぇ~~~!」とオオカミ獣人に襲いかかり、その喉(のど)元をスリスリして悶絶(もんぜつ)させてしまう(笑)。


 また高利貸しに借りたカネを返せずに売り飛ばされそうになっていた、グレー髪ロングヘアのスレンダーな美少女を見かけても無関心だった源蔵だが、その少女がオオカミの耳と尾を生やしていることに気づいた途端、高利貸しのオヤジをブチのめしてオオカミ少女を助けることに(笑)。


 さらにギリシャ神話に登場する3つの頭を持つ犬の怪物・ケルベロスの群れが現れたと耳にした源蔵は「1頭で3倍おいしい!」(笑)と、退治しに来た人々の前で「ヒャッホ~~~♪」と狂喜し、ケルベロスのリーダーをフォールしてニオイをクンクン嗅(か)ぎまくる……


 普段の源蔵はいかにもプロレスラーらしい威厳(いげん)に満ちた表情に渋い声と語り口なのだが、けものを見かけた途端に一転して顔も声もフヌケになるギャップの激しさには爆笑必至であり、ここまでバカを徹底されると実にすがすがしいものがある(笑)。


 魔獣=けものが恐れられているこの世界でけものの魅力を人々に伝えるために、源蔵が高利貸しから助けだしたオオカミ少女と資金を貯め、この世界でペットショップを開くことを決意することで幕となる第1話を観る限り、単なる異世界トルファンジーとはまったく異なる展開となることがおおいに期待できるだろう。


 それにしても半裸姿の主人公が「獣人」と取っ組み合うさまは、古い世代からすると『仮面ライダーアマゾン』(74年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20141101/p1)を彷彿(ほうふつ)としてしまうが、ケルベロスといえば『仮面ライダーX(エックス)』(74年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20141005/p1)にも同名の敵怪人が登場していた(笑)。
TVアニメ「旗揚! けものみち」オープニング・テーマ 「闘魂 (ファイト)! ケモナーマスク」


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.83(19年11月3日発行))


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ヴァイオレット・エヴァーガーデン』TV・外伝・劇場版 ~大傑作なのだが、「泣かせのテクニック」も解剖してみたい!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211108/p1

『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』1期&2期  ~ネトウヨ作品か!? 左右双方に喧嘩か!? 異世界・異文化との外交・民政!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211010/p1


[関連記事] ~TVアニメ評!

2021~19年アニメ評! 『古見さんは、コミュ症です。』『川柳少女』『ひとりぼっちの○○生活』 ~コミュ力弱者の女子を描いた3作の成否(笑)を問い詰める!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220717/p1

2021~19年アニメ評! 『五等分の花嫁』(1&2期) ~ベタでも高みに到達。告白された男子側でなく女子側の恋情で胸キュンさせる

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220329/p1

2021~18年アニメ評! 『からかい上手の高木さん』『上野さんは不器用』『宇崎ちゃんは遊びたい!』『イジらないで、長瀞さん』 ~女子の方からカマってくれる、高木さん系アニメ4本評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210516/p1


2021年秋アニメ評! 『境界戦機』『メガトン級ムサシ』『マブラヴ オルタネイティヴ』『サクガン』『逆転世界ノ電池少女』『闘神機ジーズフレーム』『蒼穹のファフナー THE BEYOND』『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』 ~2021年秋8大ロボットアニメ評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20221030/P1


2020~21年5大アイドルアニメ評! 『IDOLY PRIDE(アイドリープライド)』『ゲキドル』・『22/7』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』・『おちこぼれフルーツタルト』

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220410/p1

2020~15年アニメ評! 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』『ようこそ実力至上主義の教室へ』『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』『月がきれい』『俺を好きなのはお前だけかよ』『弱キャラ友崎くん』 ~コミュ力弱者の男子を禁欲・老獪なヒーローとして美化した6作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220724/p1


2020年秋アニメ評! 『ひぐらしのなく頃に 業』『無能なナナ』『憂国のモリアーティ』『禍つヴァールハイト -ZUERST-』『池袋ウェストゲートパーク』『NOBLESSE -ノブレス-』『アクダマドライブ』『100万の命の上に俺は立っている』『魔女の旅々』 ~シブめの良作が豊作の2020年秋アニメ9本評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220910/p1

2020年秋アニメ評! 『ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN』『戦翼のシグルドリーヴァ』 ~同工異曲のメカ×美少女モノでも、活劇的爽快感の有無や相違はドコに起因するのか!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220821/p1

2020年秋アニメ評! 『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(1期) ~チームでなく個人。百合性など先行作との差別化にも成功!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220403/p1

2020年夏アニメ評! 『宇崎ちゃんは遊びたい!』 ~オタクvsフェミニズム論争史を炎上作品のアニメ化から俯瞰する!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200802/p1

2020年春アニメ評! 『文豪とアルケミスト ~審判ノ歯車~』『啄木鳥探偵處』『文豪ストレイドッグス』 ~文豪イケメン化作品でも侮れない3大文豪アニメ評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220213/p1

2020年冬アニメ評! 『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』 ~『まどマギ』が「特撮」から受けた影響&与えた影響!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200329/p1

2020年冬アニメ評! 『異種族レビュアーズ』 ~異世界性風俗を描いたアニメで、性風俗の是非を考える!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200327/p1

2020年冬アニメ評! 『映像研には手を出すな!』 ~イマイチ! 生産型オタサークルを描くも不発に思える私的理由

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200325/p1

2020年冬アニメ評! 『ヒーリングっど♥プリキュア』終盤評 ~美少年敵幹部の命乞いを拒絶した主人公をドー見る! 賞揚しつつも唯一絶対の解とはしない!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220928/p1


2020~19年アニメ評! 『ダンベル何キロ持てる?』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』 ~ファイルーズあい主演のアニメ2本評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210418/p1

2020~19年アニメ評! 『私に天使が舞い降りた!』『うちのメイドがウザすぎる!』『となりの吸血鬼さん』 ~幼女萌えを百合だと云い募って偽装(笑)する3大美少女アニメ評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220710/p1

2020~18年アニメ評! 『22/7』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』『音楽少女』『Re:ステージ! ドリームデイズ♪』 ~アイドルアニメの変化球・テーマ的多様化!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200621/p1

2020~13年アニメ評! 『はたらく魔王さま!』『魔王学院の不適合者~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』『まおゆう魔王勇者』『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』『百錬の覇王と聖約の戦乙女(ヴァルキュリア)』 ~変化球の「魔王」が主役の作品群まで定着&多様化!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201206/p1


2019年秋アニメ評! 『アズールレーン』 ~中国版『艦これ』を楽しむ日本人オタクに一喜一憂!?(はしないけど序盤は良作だと思う・笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191027/p1

2019年秋アニメ評! 『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』『私、能力は平均値でって言ったよね!』『旗揚!けものみち』 ~2019秋アニメ・異世界転移モノの奇抜作が大漁!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191030/p1(当該記事)

2019年夏アニメ評! 『Dr.STONE』『手品先輩』『彼方のアストラ』『かつて神だった獣たちへ』『炎炎ノ消防隊』『荒ぶる季節の乙女どもよ。』 ~2019年夏の漫画原作アニメ6本から世相を透かし見る!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210411/p1

2019年春夏アニメ評! 『ノブナガ先生の幼な妻』『胡蝶綺 ~若き信長~』『織田シナモン信長』 ~信長の正妻・濃姫が登場するアニメ2本他! 『超可動ガール1/6』『女子かう生』

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210404/p1

2019年冬アニメ評! 『五等分の花嫁』『ドメスティックな彼女』 ~陰陽対極の恋愛劇! 少年マガジン連載漫画の同季アニメ化!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201018/p1

2019年冬アニメ評! 『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』 ~往時は人間味に欠ける脇役だった学級委員や優等生キャラの地位向上!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190912/p1

2019年冬アニメ評! 『スター☆トゥインクルプリキュア』 ~日本人・ハーフ・宇宙人の混成プリキュアvs妖怪型異星人軍団! 敵も味方も亡国遺民の相互理解のカギは宇宙編ではなく日常編!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191107/p1


2019~17年アニメ評! 『異世界かるてっと』 ~インター・ユニバースの原典『幼女戦記』『映画 この素晴らしい世界に祝福を!-紅伝説-』『Re:ゼロから始める異世界生活 氷結の絆』『盾の勇者の成り上がり』『劇場版 幼女戦記』評 ~グローバリズムよりもインターナショナリズムであるべきだ!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210912/p1

2019~16年アニメ評! 『ブレイブウィッチーズ』『ガーリー・エアフォース』『荒野のコトブキ飛行隊』『終末のイゼッタ』 ~美少女×戦闘機×銃器のアニメ四者四様!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201101/p1

2019~15年アニメ評! 『純潔のマリア』『リヴィジョンズ』『ID-O』『コードギアス 復活のルルーシュ』 ~谷口悟朗監督作品アニメ4本評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210502/p1

2019~13年アニメ評! 『せいぜいがんばれ! 魔法少女くるみ』『魔法少女 俺』『魔法少女特殊戦あすか』『魔法少女サイト』『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』……『まちカドまぞく』 ~爛熟・多様化・変化球、看板だけ「魔法少女」でも良作の数々!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201122/p1


2018~19年アニメ評! 『女子高生の無駄づかい』『ちおちゃんの通学路』 ~カースト「中の下」の非・美少女が主役となれる時代!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200301/p1

2018~19年アニメ評! 『7SEEDS』『A.I.C.O. Incarnation』 ~NETFLIXお下がりアニメ2本評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210509/p1

2018年3大百合アニメ評! 『あさがおと加瀬さん。』『やがて君になる』『citrus(シトラス)』 ~細分化する百合とは何ぞや!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191208/p1

2018年秋アニメ評! 『SSSS.GRIDMAN』前半評 ~リアルというよりナチュラル! 脚本より演出主導の作品!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181125/p1

2018年秋アニメ評! 『SSSS.GRIDMAN』総括 ~稚気ある玩具販促番組的なシリーズ構成! 高次な青春群像・ぼっちアニメでもある大傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190529/p1

2018年秋アニメ評! 『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』#1~10(第一章~第三章) ~戦争モノの本質とは!? 愛をも相対視する40年後のリメイク!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181208/p1

2018年秋アニメ評! 『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』 ~ぼっちラブコメだけど、テレ隠しに乾いたSFテイストをブレンド

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190706/p1

2018年秋アニメ評! 『ゴブリンスレイヤー』 ~レイプに売春まで!? 周縁のまつろわぬ民は常に憐れで正義なのか!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200209/p1

2018年夏アニメ評! 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』 ~声優がミュージカルも熱演するけど傑作か!? 賛否合評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190728/p1

2018年春アニメ評! 『ヲタクに恋は難しい』 ~こんなのオタじゃない!? リア充オタの出現。オタの変質と解体(笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200216/p1

2017~18年アニメ評! 『魔法使いの嫁』『色づく世界の明日から』 ~魔法使い少女にコミュ力弱者のボッチ風味を加味した良作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201129/p1

2017~18年アニメ評! 『異世界食堂』『異世界居酒屋~古都アイテーリアの居酒屋のぶ~』『かくりよの宿飯』 ~西欧風異世界×現代日本の食 その接合は成功しているか!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211205/p1


2017年秋アニメ評! 『結城友奈は勇者である-鷲尾須美の章-』 ~世評はともかく、コレ見よがしの段取りチックな鬱展開だと私見(汗)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190926/p1

2017年夏秋アニメ評! 『はじめてのギャル』『僕の彼女がマジメ過ぎるしょびっちな件』 ~オタの敵・ギャルやビッチのオタ向け作品での料理方法!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201220/p1

2017年夏アニメ評! 『ようこそ実力至上主義の教室へ』1期・総括 ~コミュ力弱者がサバイブするための必要悪としての権謀術数とは!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220925/p1

2017年夏アニメ評! 『地獄少女 宵伽(よいのとぎ)』 ~SNSイジメの#1から、イジメ問題の理知的解決策を参照する

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191201/p1

2017年春アニメ評! 『冴えない彼女の育てかた♭(フラット)』 ~低劣な萌えアニメに見えて、オタの創作欲求の業を美少女たちに代入した生産型オタサークルを描く大傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191117/p1

2017年春アニメ評! 『正解するカド KADO: The Right Answer』 ~40次元の超知性体が3次元に干渉する本格SFアニメ。高次元を材としたアニメが本作前後に4作も!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190929/p1

2017年春アニメ評! 『ID-0(アイ・ディー・ゼロ)』 ~谷口悟朗×黒田洋介×サンジゲン! 円盤売上爆死でも、宇宙SF・巨大ロボットアニメの良作だと私見

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190924/p1

2017年春アニメ評! 『ゼロから始める魔法の書』 ~ロリ娘・白虎獣人・黒幕悪役が、人間×魔女×獣人の三つ巴の異世界抗争を高踏禅問答で解決する傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191128/p1

2017年冬アニメ評! 『幼女戦記』 ~異世界近代での旧独vs連合国! 新自由主義者魔法少女vs信仰を強制する造物主!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190304/p1

2017年冬アニメ評! 『BanG Dream!バンドリ!)』 ~「こんなのロックじゃない!」から30数年。和製「可愛いロック」の勝利!(笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190915/p1

2016~18年アニメ評! 『怪獣娘ウルトラ怪獣擬人化計画~』1期&2期、映画『怪獣娘(黒)~ウルトラ怪獣擬人化計画~』評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210919/p1

2016~18年アニメ評! 『チア男子!!』『アニマエール』『風が強く吹いている』 ~チア男女やマラソン部を描いたアニメの相似と相違!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190603/p1

2016~17年アニメ評! 『くまみこ』『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』『ネト充のススメ』 ~コミュ症女子を描いた3作品の成否は!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201213/p1


2016年夏アニメ評! 『ラブライブ!サンシャイン!!』 & 後日談映画『ラブライブ!サンシャイン!! Over the Rainbow』(19年) ~沼津活況報告 & 元祖に負けじの良作と私見

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200628/p1

2016年夏アニメ中間評! 『ももくり』『この美術部には問題がある!』『チア男子!!』『初恋モンスター』『Rewrite』『ReLIFE』『orange』

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160903/p1

2016年春アニメ評! 『迷家マヨイガ-』 ~現実世界からの脱走兵30人! 水島努×岡田麿里が組んでも不人気に終わった同作を絶賛擁護する!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190630/p1

2016年春アニメ評! 『マクロスΔ(デルタ)』&『劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ』(18年) ~昨今のアイドルアニメを真正面から内破すべきだった!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190504/p1


2015~16年アニメ評! 『それが声優!』『ガーリッシュ ナンバー』 ~新人女性声優たちを描くも、地味女子・ワガママ女子を主役に据えた2大美少女アニメ評!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220703/p1

2015~16年アニメ評! 『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』1期&2期  ~ネトウヨ作品か!? 左右双方に喧嘩か!? 異世界・異文化との外交・民政!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211010/p1


2015年秋アニメ評! 『ワンパンマン』 ~ヒーロー大集合世界における最強ヒーローの倦怠・無欲・メタ正義・人格力!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190303/p1

2015年秋アニメ評! 『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』 往年の国産ヒーローのアレンジ存在たちが番組を越境して共闘するメタ・ヒーロー作品だけれども…

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190302/p1

2015年秋アニメ評! 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』 ~長井龍雪岡田麿里でも「あの花」「ここさけ」とは似ても似つかぬ少年ギャング集団の成り上がり作品!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191105/p1

2015年夏アニメ中間評! 『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』『六花の勇者』『おくさまが生徒会長!』『干物妹!うまるちゃん』『実は私は』『下ネタという概念が存在しない退屈な世界

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150901/p1

2015年春アニメ評! 『響け!ユーフォニアム』 ~良作だけれど手放しの傑作だとも云えない!?

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160504/p1

2015年冬アニメ評! 『SHIROBAKO』(後半第2クール) ~アニメ制作をめぐる大群像劇が感涙の着地!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160103/p1


2014年秋アニメ評! 『SHIROBAKO』(前半第1クール) ~アニメ制作の舞台裏を描く大傑作爆誕

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20151202/p1

2014年秋アニメ評! 『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(ロンド)』 ~ガンダムSEEDの福田監督が放つ逆「アナ雪」! 女囚部隊に没落した元・王女が主役のロボットアニメの悪趣味快作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191222/p1

2014年秋アニメ評! 『ガンダム Gのレコンギスタ』 ~富野監督降臨。持続可能な中世的停滞を選択した遠未来。しかしその作劇的な出来栄えは?(富野信者は目を覚ませ・汗)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191215/p1

2014年秋アニメ評! 『失われた未来を求めて』『天体(そら)のメソッド』 ~絶滅寸前! 最後の「泣きゲー」テイストの2大深夜アニメ! 良作なのに不人気(涙)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220918/p1

2014年春アニメ評! 『ラブライブ!』(第2期)

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160401/p1


2013~14年3大アイドルアニメ評! 『ラブライブ!』『Wake Up,Girls!』『アイドルマスター

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150615/p1

2013年秋アニメ評! 『WHITE ALBUM 2』 ~「冴えカノ」原作者が自ら手懸けた悲恋物語の埋もれた大傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191115/p1

2013年秋アニメ評! 『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』 ~低劣な軍艦擬人化アニメに見えて、テーマ&萌えも両立した爽快活劇の傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190922/p1

2013年秋アニメ評! 『サムライフラメンコ』 ~ご町内⇒単身⇒戦隊⇒新旧ヒーロー大集合へとインフレ! ヒーロー&正義とは何か? を問うメタ・ヒーロー作品!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190301/p1

2013年夏アニメ評! 『げんしけん二代目』 ~非モテの虚構への耽溺! 非コミュのオタはいかに生くべきか!?

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160623/p1

2013年春アニメ評! 『這いよれ!ニャル子さんW(ダブル)』

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150601/p1

2013年春アニメ評! 『惡の華』前日談「惡の蕾」ドラマCD ~深夜アニメ版の声優が演じるも、原作者が手掛けた前日談の逸品!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191006/p1

2013年冬アニメ評! 『まおゆう魔王勇者』『AMNESIA(アムネシア)』『ささみさん@がんばらない』 ~異世界を近代化する爆乳魔王に、近代自体も相対化してほしい(笑)

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200123/p1

2013年冬アニメ評! 『ラブライブ!』(第1期)

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160330/p1


2012年秋アニメ評! 『ガールズ&パンツァー』 ~爽快活劇に至るためのお膳立てとしての設定&ドラマとは!?

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190622/p1

2011年春アニメ評! 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』 ~別離・喪失・齟齬・焦燥・後悔・煩悶の青春群像劇の傑作!

  https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191103/p1

2011年冬アニメ評! 『魔法少女まどか☆マギカ』最終回「わたしの、最高の友達」 ~&『フリージング』『放浪息子』『フラクタル

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120527/p1

2010年秋アニメ評! 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 ~萌え対象かつオタの自画像! 二重構造化させた妹を通じたオタ社会の縮図!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20121015/p1


2008年秋アニメ評! 『鉄(くろがね)のラインバレル』 ~正義が大好きキャラ総登場ロボアニメ・最終回!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090322/p1

2008年春アニメ評! 『コードギアス 反逆のルルーシュR2』 ~総括 大英帝国占領下の日本独立!? 親米保守vs反米保守!?

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20081005/p1

2008年春アニメ評! 『マクロスF(フロンティア)』(08年)#1「クロース・エンカウンター」 ~先行放映版とも比較!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080930/p1

2008年春アニメ評! 『マクロスF(フロンティア)』最終回評! ~キワどい最終回を擁護!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20091122/p1

2008年冬アニメ評! 『墓場鬼太郎

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080615/p1


2007年秋アニメ評! 『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』 ~第1期・第2期・劇場版・総括!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100920/p1

2007年秋アニメ評! 『GR ジャイアントロボ』 ~現代風リメイク深夜アニメだが、オタク第1世代の東映特撮版への郷愁も喚起!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080323/p1

2007年春アニメ評! 『ゲゲゲの鬼太郎』2007年版

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070715/p1


2006年秋アニメ評! 『天保異聞 妖奇士(てんぽういぶん あやかしあやし)』 ~幕末目前の外れ者集団による妖怪退治! 頭デッカチな作りだがキライになれない…

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070317/p1

2006年夏アニメ評! 『N・H・Kにようこそ!』

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061119/p1


2005年秋アニメ評! 『BLOOD+(ブラッド・プラス)』

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20051025/p1

2005年春アニメ評! 『英国戀(こい)物語エマ』

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20051022/p1

2005年春アニメ評! 『創聖のアクエリオン』 ~序盤寸評

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20051021/p1


2004年秋アニメ評! 『機動戦士ガンダムSEED DESTINY(シード・デスティニー)』 ~完結! 肯定評!!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060324/p1

2004年春アニメ評! 『鉄人28号』『花右京メイド隊』『美鳥の日々(みどりのひび)』『恋風(こいかぜ)』『天上天下

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040407/p1

2004年冬アニメ評! 『超変身コス∞プレイヤー』『ヒットをねらえ!』『LOVE♡LOVE?』『バーンアップ・スクランブル』『超重神グラヴィオン ツヴァイ』『みさきクロニクル ~ダイバージェンス・イヴ~』『光と水のダフネ』『MEZZO~メゾ~』『マリア様がみてる』『ふたりはプリキュア

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040406/p1


2003年秋アニメ評! 『カレイドスター 新たなる翼』 ~女児向け・美少女アニメから真のアニメ評論を遠望! 作家性か?映画か?アニメか? 絵柄・スポ根・複数監督制!

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2003年春アニメ評! 『妄想科学シリーズ ワンダバスタイル』『成恵(なるえ)の世界』『宇宙のステルヴィア』『ASTRO BOY 鉄腕アトム

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2003年冬アニメ評! 『ストラトス・フォー』『ガンパレード・マーチ ~新たなる行軍歌~』『MOUSE[マウス]』『ぱにょぱにょ デ・ジ・キャラット』『陸上防衛隊まおちゃん』『朝霧の巫女』『らいむいろ戦奇譚

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#アニメ感想 #2019秋アニメ #2019年秋アニメ #慎重勇者 #この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる #超人高校生 #超余裕 #超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです #本好きの下剋上 #のうきん #私能力は平均値でって言ったよね #けものみち #旗揚けものみち
本好きの下剋上・慎重勇者・超人高校生・のうきん・けものみち評 2019異世界転移・奇抜傑作!
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アズールレーン ~中国版『艦これ』を楽しむ日本人オタクに一喜一憂!?(はしないけど、序盤は良作だと思う・笑)

『ガールズ&パンツァー』 ~爽快活劇に至るためのお膳立てとしての設定&ドラマとは!?
『ストライクウィッチーズ 劇場版』
『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』 ~低劣な軍艦擬人化アニメに見えて、テーマ&萌えも両立した爽快活劇の傑作!
『慎重勇者』『超人高校生』『本好きの下剋上』『のうきん』『けものみち』 ~2019秋アニメ・異世界転移モノの奇抜作が大漁!
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アズールレーン』 ~中国版『艦これ』を楽しむ日本人オタクに一喜一憂!?(はしないけど、序盤は良作だと思う・笑)

(文・T.SATO)
(2019年10月27日脱稿)


 旧海軍の艦船を擬人化・女体化したオンラインゲーム&アニメ『艦隊これくしょん―艦これ―』(13年・15年にTVアニメ化)の中国パクリ版『アズールレーン』(17年)。
 明らかなパクリなのに、ナゼか日本でも即座にオタ間では大人気となり、同人誌即売会でも『アズレン』のパロディや二次創作同人誌にコスプレがあふれかえって、イベントの一角・シマを占める一大ジャンルとなっている。そのTVアニメ版が2019年秋に早くも登場!


 旧敵・日本の旧海軍をモチーフとしたゲーム『艦これ』にハマる中国人オタクに、それをパクって中国版『艦これ』を作ってしまうオタク上がりの中国人ゲーム会社。さらには、日本の旧敵(汗)である中国によるパクリだとわかっていても、いちいち手に取って憤慨するなどのケツの穴の小さいことはせずに、シャレのめして手に取って試してみて、ゲームやキャラが相応に魅力的であれば楽しんでみせる日本のオタクユーザー。
 しかもよく観てみると、メイド・イン・チャイナの作品なのに、中国海軍の艦船がチョイ役でしか出てこない。コレはやはり、美少女×戦車の深夜アニメ『ガールズ&パンツァー』(12年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190622/p1)で、旧日本陸軍の戦車が出てこなかったこととも同様で、双方ともにメカミリタリ的には自国のソレらが魅力的な戦艦や戦車じゃナイからで……(爆)。


 加えて主人公集団は中国の現・仮想敵国でもある米英モチーフであり、クールな主役美少女でもある水兵さんのモチーフは米空母・エンタープライズ!(それでイイのか!?)
 ……エッ、第2次大戦時の中国は米英と連合してたからOKだって? それは現・台湾の中華民国のことで、中国共産党政府じゃナイですヨ~。


 日中ともにナショナリズムとは真逆な、祖先や現役軍隊の英雄的行為にドロを塗り、旧敵や現・仮想敵国に塩を送るような利敵行為で、実に卑屈で乞食のような売国的な振る舞いが跋扈していて……君たちには「誇り」というモノがナイのかヨ!?(笑)


 ……なーんてネ。


・紀元前のペルシャ戦争を許すまじ、と今のギリシャが今のイランに謝罪を要求!
・その逆にアレキサンダー大王のせいで我がペルシャ帝国は滅亡したのだ、などとイランがギリシャマケドニアに賠償を請求!
・蒙古襲来で都市まるごとの大虐殺の憂き目にあったから、中国・中東・欧州の人民がモンゴル人の乗馬姿すら見たくない!
・ナポレオンのフランス革命輸出戦争のせいで国土が荒廃したから、欧州&ロシアの人々がフランス国旗&国歌を見たくも聴きたくもない!
・フランク人(フランス人)から見ればゲルマン人(ドイツ人)は平均身長が10センチも高いからやや怖い!
・先住民のパレスチナネイティブ・アメリカン(インディアン)に全土を返還して、イスラエルアメリカ人民は彼の地から撤収しろ!


 などとヤリ出したならばキリがない(笑)。


 いやまぁ日韓関係どころか、周辺諸国に真摯に謝罪したから和解が済んでいると日本の左翼が長年云ってきたドイツに対して、ギリシャポーランドが今さらな損害賠償を求める動きも近年活発化(汗)してきているのでシャレにならんけど。そのうちに相互扶助の条約も結んでいたのに独ソ2国と敵対するのはヤバいからと英仏に見捨てられたポーランド第2次大戦終結後にドイツ寄りにズラされた国土を東欧寄りに回復させろ! なぞと云い出したら、世界中がドーなってしまうんでしょうかネ?
――などと云いつつ、現在進行形で民族浄化(民族抹殺)の憂き目にあっているクルド人チベットウイグルの人々が独立国家を樹立できる日が来ることを数百年単位では切に願っておりますけれども――


 世代が交代すれば先の大戦の恨みもなくなるというご高説を述べる方もいるけれど、北方を占領した異民族と和平を結んだ南宋の宰相を「売国奴だ!」と800年以上も銅像まで作って皆でツバを吐き掛けつづけている隣国や、加害者と被害者の関係は1000年経っても変わらないと公言している別の隣国もあって、良くも悪くも水に流して忘れてしまう日本人こそが例外で、謝罪をしようがすでに当の異民族国家が滅びていようが(爆)、800~1000年ということはイコール永遠に許す気もナイらしい民族の方が世界標準・スタンダードだとなると「恨みは深いムー原人」(汗)で、世界に平和が到来する日は絶望的ではありますナ……。


 そう考えると、ロジック・原理・スジを通した正義を主張することも大いに大切ではあるけれど、それによって大きな破壊・分断・不幸が惹起されたり、複数の相矛盾するそれぞれでスジが通った正義が並立、共存もできないのであれば、正義と人命を天秤にかけて、新教(プロテスタント)と旧教(カトリック)が殺し合って人口が1/3に激減した17世紀ドイツ30年戦争の直後みたいに、原理や正義や宗教の話題はカッコにくくって棚上げし、議論のネタには挙げずに口を濁すことを暗黙の空気・了解とする灰色決着。実は日本的ムラ世間(汗)にも通じる「寝た子は起こすな」「空気は乱すな」「なぁなぁ」なグレーのままでの妥協。
 同意できない部分はクサいモノにはフタで、それ以外のところから「公共圏」を構築していった西欧近代のように、万能な解決策ではナイし偽善であり欺瞞であるやもしれないけれども、人命には変えられない以上は、グレーなままのモヤモヤな妥協も一方策としてはあながち間違ってはいないのやもしれないネ。


 そのように善悪では割り切れない歴史を知ることで、「赤勝て白勝て、巨人か阪神か」レベルを超えた「メタレベル」から鳥瞰。自国・旧敵国・第3国をも手のひらに乗せて転がせて、その勢力均衡的なパワーポリティクス・角逐をも、必要悪としての肯定と同時に批判的な視点も込みでも見下ろすことで得られる複眼的な境地や諦観。
 具体的な方策がナイ使えない空想的平和主義ではなく、遺恨が残ったままでも即座に戦争には陥らないグレーな妥協で灰色のままで共存・共生していく実用的な歴史的叡智に開眼させてくれる実作品と、元々はナショナルなモノなのに非ナショナルにたわむれる日中のオタクたちの真に世界を平和へと導いていくヒントがあるやもしれないポストモダンな寛容。
 それこそが本作『アズールレーン』現象の本質なのやもしれない!?



 ……なぞと、我ながらアキレることに、心にもナイことを即興で自動的・ブギーポップ的につらつらと書いています(オイ)。
 そんなメタ的な高踏境地に至れるのは特殊少数の奇人変人だけであり、庶民・大衆・愚民の皆さんの圧倒的大多数は3個以上の事物になると、もう数えられずに「いっぱい!」とパンクしてしまう原始人・未開の土人ですからネ(爆)。
 右でも左でもない第3項! 要素要素に分解して、Aの議題では右が正しく、Bの議題では左が正しく、Cの議題ではドチラにも理があり、Dの議題では左右共に正しくない……みたいな話は大キライであろうし、双方からコウモリのごとく裏切り者扱いされるのが関の山ですよネ。
 当方個人の乏しい人生経験からもそれを痛感してますけど、ニヒリズムに陥るのもイヤなので、この世の悪をマイナス100からマイナス50に留めるためにも、微力ながらもコレからもムダな蘊蓄トークをつむいでいく所存です(汗)。


 ……いやまぁ実のところ、本作はそんなに大それたことを語るに足る素材ではなく、単なるおバカなアニメだけれどもネ。
 軍艦の砲塔・艦橋・甲板を身体の各所に装備した白いセーラー服の水兵さんのカッコウをした美少女多数が海面を滑走しながらバトルする作品ごときが高尚なワケがない!(笑)


 しかし、それであってもこの作品は面白い。
 人間大サイズの美少女キャラたちが出撃とともに変身するや、質量保存の法則を無視して洋上に浮かぶ全長数百メートルサイズの艦船が消失して、美少女たちのヨロイ型パーツとなって装着!
 明るい大海原をスピーディーに滑走して、手っ甲の甲板からミニ飛行機が飛び出したり、それを巨大化させてドダイYS(?)として横座りに腰掛けて飛行する!
 航空戦力や主砲の砲撃よりもやっぱり剣や弓矢の方が必殺ワザであり(笑)、アクロバティックなパース強調のアングルやカット割りで海面をジャンプしてその身をヒネって空中回転しながら各自が攻撃を繰り出してカメラもグルグルと360度移動しながら、迫力&爽快感のあるバトルを披露してくれる、実によくできた娯楽活劇作品たりえている!
 本来あるべき『艦これ』アニメ版がココにある!?
 ……まぁ心の奥底では、艦娘に変身せずに巨大艦船や航空戦力を用いて戦った方が合理的だし戦闘力も高いんじゃネ? と思わないでもないけれど、それは云わないお約束ゥ(笑)。


 明るい陽光下にある白っぽい港湾都市で、ナマっぽいリアルな女子像ではなく、キャラデザも口調の語尾も記号的な、見た目からしてトロそうな幼女・無口無表情美少女・性格良さげな従順少女が続々と登場。
 八重歯に吊り目の元気少女も性悪なギャルの域には達せずに安全に回収されてしまう範疇の元気さで、彼女らは他の一般ジャンルの美少女アニメに登場しても違和感ナイ既視感あふれるモノではある。
――悪口ではないですヨ。単なる「類型」には留まらずに「典型」の域にたりえているという意味でのホメ言葉です!――


 コレらのチビチビや中背以下の小粒な美少女キャラ連は駆逐艦巡洋艦に相当し、ごていねいにも初登場時には画面の1/4以上を占めるような巨大な字幕テロップで所属陣営・艦種・艦船名が表示され、陣営ごとに色や書体も変わるので、そのキャラ名は暗記ができなくともその人となりはだいたいわかった(笑)。
 #1では有象無象の中小艦娘たちの小競り合いの末に、最後に真打ちである大空母の艦娘たちが登場してバトルすることで、敵味方双方のキャラの階層構造も自然と了解させることに成功している。


 空母や戦艦などの巨大艦船に該当する美少女キャラは先の『艦これ』同様、クールな8頭身の長身キャラにほぼ統一。『艦これ』における加賀や赤城に相当するのが空母エンタープライズちゃん――一部キャラは彼女のことを「ちゃん」付けにする。上官相手であろうに(笑)――。
 我々ジャンルファン的にはTVアニメ版『進撃の巨人』(13年)で主人公少年に姉のように接する無口でも無敵な黒髪戦闘美少女・ミカサや、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(18年)の健気な主人公少女の印象が強烈な石川由依エンタープライズを演じることで、イキり立ったり熱血芝居をしているワケでもないのに、ボイスの面でも底に秘めた強さが感じられてくる。
 だけでなく、周辺キャラに「彼女は強いけど脆そうで危うい。捨てバチに過ぎる戦闘をしている(大意)」という人物批評をさせることで、そのような自己犠牲的な戦闘に走らせる彼女にドラマ性を感じさせて伏線・フラグとしているあたりもウマい。


 本作『アズレン』でも『艦これ』同様、この世の外から来た無国籍で黒くてワルい、無条件で倒しても罪悪感をいだかなくても済むような記号的なワルもの戦艦が登場しているけど、『艦これ』とは異なる要素として、第3勢力といおうか当面の主敵として、日本(重桜)とドイツ(鉄血)の艦船がワルものとして登場している。
 先の『艦これ』では加賀と赤城が神社の紅白袴の巫女さんをアレンジした長身クールな姿で擬人化されていたけど、本作でも日本の艦船はやっぱり加賀と赤城が2トップ。ただし、巫女さん&九尾のキツネを掛け合わせたキャラデザで、ワルものとしての役回りではある。
 しかし、単なる憎々しげなだけの悪党ではなくカッコよさも残しており、近年ではギャラのランクが上がりすぎたかココぞというときの重要脇役やお姉さん的なキャラで登場することが多くなった00年代の人気声優・中原麻衣や10年代の人気声優・茅野愛衣などの主役級声優がボイスを当てることで、格上感や敵なりの美学やスジを醸すことにも成功。


 米エンタープライズを秘かに監視するようでも、直前の戦いでのキズが癒えていないのに出撃してしまう姿に「自己犠牲的な天性からのお人好し」であることも見抜いて「彼女のことを放っておけない」と補佐するようにも変心していくホルスタイン巨乳メイド(笑)の英軽巡洋艦ベルファストに、同じく00年代の人気声優・堀江由衣を配したこととも含めて、予算面でも潤沢なことがわかる。


 ちなみに『艦これ』アニメ版では主役がキャラデザ的に華がある赤城や加賀ではなく、駆逐艦・吹雪であったけど――新人成長物語を描きたいのもわかるが、その地味なセレクトもまたアクション面で地味になった理由かとも思うけどいかがか?――、吹雪を演じたロシア&ソ連マニアでもある上坂すみれちゃんは、本作では戦艦クイーン・エリザベスを演じていて、その役回りも11才の女王さま! 戦艦の変身なのに、リアルで大英帝国の女王さま(爆)でもあるらしい。
――もちろんココでツッコミを入れて笑ってくださいというネタであろう(笑)――


 今だから云うけど(当時も云ってたけど・汗)、私的には『艦これ』アニメ版はヒドかった――評価する方々にはゴメンなさいだけど――。
 いや別にミリタリズムな意匠をしていて右翼的だからダメだというのではナイ。民主的な話し合いではなくバトルで物事に決着を付けてる時点で、ありとあらゆる娯楽活劇作品は前近代的・封建的な遺物でしかアリエない。かの『ウルトラセブン』(67年)#12を封印した被爆者団体が「作品テーマが反核であろうが、話し合いではなくバトルで解決している基本構造を持つ作品であるあたりでダメだ(大意)」と同作全体を全否定した際の50年前からある根源的な批判ロジックに尽きるのだし、それが一番正しいとも思うのだ。
――ただまぁ、筆者個人は無抵抗・非暴力の絶対平和主義者ではナイので、このテの批判は痛くもカユくもないけれど(笑)――


 『艦これ』アニメ版はヘンに気をまわして右翼的・軍国主義的に取られないようにと抑制し、旧海軍の末路も暗示させたいのか、陰気クサい悲壮感が漂った。それにより敵味方・善悪のメリハリにも乏しくなったことで、アクションや勝利のカタルシスも欠如して、どころか各話の起承転結・メリハリ感すら減殺されていたと私見する。
 記号的なキャラデザの美少女多数が最初から悲壮感を漂わせても、手足に軍艦型の武装をまとっている時点でナンセンス(笑)。
 ムズカしいことはともかく、各話のAパートでは旧海軍のそれを模した古式な宿舎を舞台にキャッキャウフフな記号的やりとりの日常を、Bパートになったら警報が鳴ってワンダバ的な発進&出航シークエンスやナゾの敵艦との一進一退の攻防の末に、様式美的で美麗なる必殺ワザのシーンを配置して、各話のラストでカタルシスを強制的に発生させる変身ヒーローものや合体ロボットアニメのような作りにしておけばよかったんじゃネ?


 それ以上のテーマ的な挑戦や悲壮感は、作品世界やキャラ造形が盤石に確立されたシリーズ後半や終盤でヤレばイイものを、ヘンに最初から背伸びをしたことで、それが上滑りしただけのグダグダ作品へと成り果てて……。
 後日談映画『劇場版 艦これ』(16年)では伏線もなく唐突に敵戦艦たちの正体が自身の同族たちが沈没したあとの成れの果て・鏡像であったと明かして、意外性やテーマ的深みも出したかったのであろうけど、取って付けた接ぎ木の感は否めない……。
 などといった見解は、筆者個人の独断的な感想ではナイ。当時のアニメ感想クラスタ界隈でもよく見掛けた感想でもあった。


 ただし、アニメ売上クラスタでは、「作品はクソだけど(爆)、物語的審美眼はナイいわゆる動物化している萌えブタたちが買い支えることで、ドラマ面でも優れていた『ガルパン』の3~4万枚の大ヒットの域には及ばないけど、2~3万枚の域には行くだろう」との勝ち馬予想も出ていて、実際にもその通りになったことで、作品的にはともかく商業的には相応の成果を収めたとはいえるだろう。
 その伝で云うならば、作品としては『艦これ』より優れていても(?)、二番煎じである本作『アズレン』が『艦これ』の円盤売上の域に達することもムズカしそうではある。作品批評と売上とは別モノであることをイヤでも痛感させられるけど、その売上で製作者たちが食べているのも事実である以上は、売上それ自体の批評=売上批評や、作品の質&売上を正比例させるための方策や理論の構築なども必要となっていくのではあるまいか?


 米英vs日独の構図。そして、双方の陣営内部でも多彩な対角線的人間関係を作っている点でも、キャラを並列に列挙してお団子状態になっていただけの『艦これ』アニメ版と比したら、『アズレン』アニメ版のポイントは高いが、大海原を見下ろす岸壁上の草原でスパイ活動中であった日本の艦船少女・綾波と米英の艦船少女2名の幼女チックな交流、戦場での再会、撤収命令での離別の際の声掛けなど、コテコテのパターンではあるけれど、コレが両陣営の和解の糸口、巨悪に対して一致団結する端緒となって、「ジャンプ」漫画的な共闘のカタルシスで終盤を盛り上げていくのですかネ?
 脚本は今をときめくゲーム会社・ニトロプラス鋼屋ジン(はがねや・じん)で、特撮方面では『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)のサブライターでもあったけど、序盤を観るかぎりでは多彩なキャラクターシフトを構築できてはおり、人間関係&心理の変遷もハラまれている長編ドラマ性やシリーズ構成面での種まきやネタの仕込みに抜かりはナイようだ。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.83(19年11月3日発行))


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仮面ライダージオウ最終回・総括 ~先輩続々変身のシリーズ後半・並行宇宙間の自世界ファーストな真相・平成ライダー集大成も達成!

『仮面ライダージオウ』序盤評 ~時間・歴史・時計。モチーフの徹底!
『仮面ライダージオウ』前半評 ~未来ライダー&過去ライダー続々登場!
『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』 ~並行世界・時間跳躍・現実と虚構を重ねるメタフィクション、全部乗せ!
『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』 ~平成ライダー・平成時代・歴史それ自体を相対化しつつも、番外ライダーまで含めて全肯定!
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仮面ライダージオウ』総括 ~先輩続々変身のシリーズ後半・並行宇宙間の自世界ファーストな真相・平成ライダー集大成も達成!

(文・久保達也)
(2019年10月5日脱稿)

平成ライダー第20作『仮面ライダージオウ』前半を軽くおさらい!


 「平成」仮面ライダーシリーズの20作記念作品であり、かつ2019年5月1日の改元により、シリーズの最終作となった『仮面ライダージオウ』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190126/p1)がついに大団円を迎えた。


 普通の男子高校生の主人公・常盤(ときわ)ソウゴ=仮面ライダージオウが西暦2068年の未来に「魔王」となって世界を支配するのを阻止するために、明光院(みょうこういん)ゲイツ仮面ライダーゲイツと仲間の美少女・ツクヨミが2018年の世界に来訪(らいほう)したところから『ジオウ』の世界ははじまった。


 本稿では便宜上(べんぎじょう)、


・第1クール=EP(エピソード)01『キングダム2068』~EP14『GO! GO! ゴースト2015』
・第2クール=EP15『バック・トウ・2068』~EP28『オレたちのゴール2019』
・第3クール=EP29『ブレイド・ジョーカー2019』~EP40『2017:グランド・クライマックス!』
・第4クール=EP41『2019:セカイ、リセット』~LAST(ラスト・第49話・最終回)『2019:アポカリプス』


として扱わせて頂くのであらかじめご了承願いたい。


 本作ではソウゴとは別の「時の王者」を擁立(ようりつ)して仮面ライダーの歴史を改変しようとたくらむ組織・タイムジャッカーが悪側として位置づけられ、第1クールではタイムジャッカーが過去の世界へと遡(さかのぼ)り、王者の候補として選んだ一般人と契約することでアナザーライダー(怪人)を誕生させていた。それにより、アナザーライダーの元となる歴代「平成」ライダーの主人公たちが仮面ライダーとしての記憶や能力を失ってしまう展開であり、毎回かつてのシリーズに登場したヒーローやヒロインがゲストで登場するのが最大のウリとなっていた。


 それが第2クールでは一転、第1クール末期からセミレギュラー的に登場していた『仮面ライダーディケイド』(09年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20090308/p1)の主人公・門矢士(かどや・つかさ)=仮面ライダーディケイド以外、歴代ライダーの客演は『仮面ライダー龍騎』(02年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20021102/p1)の主人公・城戸真司(きど・しんじ)=仮面ライダー龍騎のみにとどまった。
 代わって続々と登場したのは仮面ライダーシノビ・仮面ライダークイズ・仮面ライダーキカイといった未来の仮面ライダーであり、EP25『アナザージオウ2019』からEP28にはもうひとりのソウゴ的な存在=加古川飛流(かこがわ・ひりゅう)=アナザージオウが登場。
 戦いの中で心の変遷を遂げ、ソウゴの「友達」となったゲイツはソウゴを倒して未来を変えるのではなく、ソウゴと協力して新たな未来をつくるのも悪くないと考えるようになり、ツクヨミを含めた主人公の少年少女たちはその結束(けっそく)を新たにする。


*みなさんお待ちかね! レジェンド平成ライダーふたたび!


 さて第3クールでは第1クールと同様に、以下のように歴代「平成」ライダーのヒーロー&ヒロインが毎回登場することとなった。


・EP29『ブレイド・ジョーカー!? 2019』&EP30『2019:トリニティはじめました!』→『仮面ライダー剣ブレイド)』(04年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20041101/p2)の主人公・剣崎一真(けんざき・かずま)=仮面ライダーブレイド、相川始(あいかわ・はじめ)=仮面ライダーカリス、ヒロイン・栗原天音(くりはら・あまね)
・EP31『2001:めざめろ、そのアギト!』&EP32『2001:アンノウンなキオク』→『仮面ライダーアギト』(01年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20011103/p1)の主人公・津上翔一(つがみ・しょういち)=仮面ライダーアギト、ヒロイン・風谷真魚(かざや・まな)、警視庁未確認生命体対策班G3(ジー・スリー)ユニット隊長・尾室隆弘(おむろ・たかひろ)
・EP33『2005:いわえ! ひびけ! とどろけ!』&EP34『2019:ヘイセイのオニ、レイワのオニ』→『仮面ライダー響鬼(ひびき)』(05年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20070106/p1)のトドロキ=仮面ライダー轟鬼(とどろき)、ヒビキ=仮面ライダー響鬼の弟子だった桐矢京介(きりや・きょうすけ)
・EP35『2008:ハツコイ、ウェイクアップ!』&EP36『2019:ハツコイ、ファイナリー!』→『仮面ライダーキバ』(08年)の主人公ライダー・仮面ライダーキバに仕(つか)えるアームズモンスターの次狼(じろう)=ガルル
・EP37『2006:ネクスト・レベル・カブト』&EP38『2019:カブトにえらばれしもの』→『仮面ライダーカブト』(06年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20060806/p1)に登場した加賀美新(かがみ・あらた)=仮面ライダーガタック矢車想(やぐるま・そう)=仮面ライダーキックホッパー影山瞬(かげやま・しゅん)=仮面ライダーパンチホッパー
・EP39『2001:デンライナー・クラッシュ!』&EP40『2019:グランド・クライマックス!』→『仮面ライダー電王』(07年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20080217/p1)の2号ライダー・桜井侑斗(さくらい・ゆうと)=仮面ライダーゼロノス、イマジン(怪人)のモモタロス、ウラタロス、キンタロスリュウタロス、デネブ


 さらにEP28のラストで姿を見せた『仮面ライダーディケイド』の2号ライダー・海東大樹(かいとう・だいき)=仮面ライダーディエンドが士とともに、第3クール以降セミレギュラー的に登場することとなった。ただ、ゲストライダーたちの描き方は第1クールとは大幅に異なるものとなっていた。
 第1クールでは毎回ソウゴやゲイツツクヨミが、タイムマジーンなる時間移動能力を持つロボット型メカでかつて歴代ライダーたちが活躍した時代にタイムワープしていたが、第3クールでは歴代ライダーは2019年の世界にそのまま登場した。
 つまり、歴代ライダーたちの完全な後日談として描かれており、アナザーライダーが誕生するや、元のヒーローが仮面ライダーとしての能力や記憶を失う第1クールの基本設定もどこかに行ってしまい、歴代レジェンドライダー仮面ライダージオウ仮面ライダーゲイツ、本作のイケメンネタキャラ青年(笑)・ウォズが変身する仮面ライダーウォズらと夢の共闘を演じたのだ!


 EP29で始がかわいがっていた天音がすっかり大人の女に成長した今も始を慕(した)うさまが描かれ、天音がアナザーブレイドと化してジオウが攻撃を加えるや、「そのコに手を出すな」と始が現れたり!
 EP32でアギトがジオウと共闘する際、『アギト』前半のバトル場面に定番で使われた挿入歌(そうにゅうか)・『BELIEVE YOURSELF(ビリーブ・ユアセルフ)』が流れたり!
 EP34で京介がヒビキに認められた証(あかし)として仮面ライダー響鬼に変身、名実ともにヒビキを襲名したり!
 EP38で「オレは戦士だ!」と叫んだ加賀美のもとにカブトムシ型の小型メカ・カブトゼクターが現れ、それを使って加賀美が仮面ライダーカブトに変身してみたり!
 『ディケイド』ではライダーカードでサブライダーを中心に召喚していたディエンドが、『仮面ライダーW(ダブル)』(09年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20100809/p1)の仮面ライダーアクセル、『仮面ライダーOOO(オーズ)』(10年)の仮面ライダーバース、『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)の仮面ライダーバロンなど、『ディケイド』以降の2号ライダーを召喚してみたり!


 なんだよ、最初からこうすりゃぁよかっただろ、第1クールもこんな感じでつくり直してくれよ!(爆) と思ったファンは、おそらくは筆者に限らず相当数にのぼったことだろう。毎回のように歴代レジェンド戦隊ヒーロー&ヒロインが登場したのに、皆変身能力を失っていたことで視聴者の一部、いや大半に(笑)プチストレスを与えていた『海賊(かいぞく)戦隊ゴーカイジャー』(11年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20111107/p1)もそうだったのだから。
 「平成」ライダーの第3クールといえば最終展開を前に縦軸となる要素に大きなうねりが生じたものだが、『ジオウ』の場合はあくまで20作記念の「お祭り」として、レジェンドライダー続々登場! を楽しむことこそが正しい見方だったかもしれない。ただ、歴代レジェンドライダー登場のイベント編を連続させながらも、『ジオウ』は決してそれだけで終わっていたばかりではなく、レギュラーキャラの出自や境遇・関係性などを歴代ヒーローと対比させたり同一視することで、そのキャラを掘り下げていたかと思えるのだ。


*『仮面ライダー剣』編~剣崎・始・天音の三角関係⇒ジオウトリニティ


 たとえばEP30では、いまだ過去の確執(かくしつ)にとらわれて争っている剣崎と始をウォズが愚(おろ)かだなどと批判するが、ソウゴは「それってウォズとゲイツもそうじゃん」と云い当ててしまう。2068年の世界でレジスタンスの隊長だったウォズの偽(いつわ)りの指示で危機に陥(おちい)って以来、ウォズとゲイツの関係性はその「過去」をひきずったままだったからだ。
 だが、この回ではゲイツがそんなウォズとの関係性に「オレはおまえが気に食わん。過去にこだわる自分も」とついに終止符を打ち、その証としてソウゴ・ゲイツ・ウォズが合体変身! を遂げた仮面ライダージオウトリニティが誕生するに至るのだ。そしてそればかりではなく、アナザーブレイドが剣崎=ブレイドと始=カリスの力を吸収した三位一体(さんみいったい)の巨大怪獣のような姿となったことが、三位一体のヒーロー・トリニティの誕生により説得力と必然性を与えていたかと思える。


 ゲイツとウォズがともに巨大な腕時計に変化し(笑)、それぞれジオウの右腕と左腕に合体、近年のウルトラマンシリーズで描かれているような主人公の意識空間では3人の中央に時計の文字盤があり、その長針が指す者が主導権をにぎる(爆)。
 以後トリニティの中で3人が云い争うさまがたびたび描かれるが、これは『超人バロム・1(ワン)』(72年・東映 よみうりテレビ)のダブル主人公でガキ大将の木戸猛(きど・たけし)と秀才少年の白鳥健太郎が合体変身したバロムワンの両目の中で、しょっちゅうケンカしていたのを彷彿(ほうふつ)とさせる。それを思えば、変身時の主人公の意識空間は決してニュージェネレーションウルトラマンで初めて描かれたワケではなく、70年代初頭の時点ですでに東映がやっていた(!)ことになるのだが。


*『仮面ライダーアギト』編~記憶喪失だった翔一⇒記憶喪失のツクヨミ


 また、レジスタンスとなる以前の記憶がいっさいなく、EP31で尾室をかばった際に突如(とつじょ)として時間停止能力を発動して以降、「本当の私は誰?」と悩んだツクヨミは、EP32で翔一とからめて描かれた。
 『アギト』のすべての発端(ほったん)となった客船・あかつき号の中で翔一はアギトとして覚醒(かくせい)するも、同時に本来の沢木哲也(さわき・てつや)としての記憶をすべて失ってしまい、ツクヨミと同じようにしばらくふさぎこんでいたのだ。それがある日、目覚めたら、あまりにも良い天気だったことに悩むのが馬鹿馬鹿しくなって前向きに生きることを決意した翔一だけに、ツクヨミにとっての翔一は明るい太陽・澄みきった青空として演出されていたかに思えたものだ。
 今はフランス・パリのエッフェル塔の真下にある(笑)レストランのシェフとなっている翔一の料理に「おいしい」と笑顔を見せたツクヨミを、翔一が「その笑顔、みんなにも。君が君でいるから仲間になった」と励ます描写はその最たるものだろう。この回のクライマックスバトルではジオウトリニティにあわせるかたちでアギトまでもが三位一体のトリニティフォームと化す(!)が、これは決してバトルに華(はな)を添えるばかりではなく、ソウゴ・ゲイツツクヨミの絆(きずな)が深まったことの象徴と解釈してもよいだろう。


*『仮面ライダーキバ』編~キバに無関係なゲスト(笑)⇒主人公ソウゴ


 もっとも『キバ』のキャラとしては次狼=ガルルしか登場しないどころか、そもそも彼がいなくても立派に成立する(笑)EP35&36なんて例もあったが、まぁ箸(はし)休めとしてたまにはこんなのもいいだろう。
 初恋相手のセーラー服の女子高生・セーラさん(爆)が今では大悪党となっていることにソウゴが傷心する話だが、自分がそんな女になってしまったのは雨がずっと降っているせいと語ったセーラさんにソウゴが叫ぶ「ならオレが傘(かさ)になる!」はカッコよかったし、セーラさんが「傘はいらない。全人類の傘になれ」と告げて目を閉じる係り結びの妙もまた然(しか)りだ。
 ただ、宇宙の果てから何の前振りもなく唐突に仮面ライダーギンガなる、劇場版のラスボス的な強力な敵が登場するも、ジオウ・ゲイツ・ウォズのトリプルキックでアッサリと倒されてしまったり(笑)、そのギンガから力を得たウォズがギンガファイナリーと化し、宇宙の惑星と合体して変身したり、宇宙を背景に必殺技「超キンガエクスプロージョン!」を放つのはいいが、それらのビジュアルは本編ドラマの流れとは分離していたような……
 まぁ、もうライダーへの復帰はあり得ないと思われていた、第1期で活躍した脚本家・井上敏樹(いのうえ・としき)の作家性バリバリの回といったところか(大爆)。


*『仮面ライダー電王』編~イマジン⇒ウォズ・ゲイツ・グランドジオウ


 あと『仮面ライダー電王』の場合はイマジンたちさえ揃えておけば、ぶっちゃけ『電王』として成立してしまう感があるのだが、EP39&40が久々に一般人のゲストを救うハートウォーミングな話をやることで『電王』の作風を再現していたのには好感をもった。モモタロスゲイツやウォズに憑依(ひょうい)する描写こそ、みんなが観たかったものだろうが、ジオウトリニティの意識空間にまで入ってくるとは(笑)。
 そのモモタロスからもらったウォッチでソウゴがすべてのレジェンドウォッチのコレクションを達成したことで、黄金に輝くグランドジオウウォッチが出現、仮面ライダーグランドジオウが誕生するに至る! 歴代レジェンドライダー変身時の音声ガイダンスが連続して鳴り響く中、ソウゴと並び立つ20人の仮面ライダーが金のレリーフと化してソウゴの全身に装着されるさまは、ウォズが語ったようにまさに言葉は不要、ひたすらその瞬間を味わうよりほかはなかった!


 タイムトラベルや並行宇宙といった技巧SFを縦軸として、すでにキャラが確立された先輩ヒーローや時間軸が異なるヒーローたちの競演を描き、彼らが戦いの中で見せる人格・動機が連続することで化学反応を起こし、ドラマ性の高い群像劇へと昇華するに至る。『ジオウ』とはまさにそんな作劇ではなかったか?
 2019年5月の改元後初の仮面ライダーとして『仮面ライダーゼロワン』(19年)がスタートしたが、「新時代」ライダーが10作品を達成する際には、きっと『ジオウ』的なメモリアル作品が製作されることだろう。だが、それを10年も待つ(笑)のではなく、劇場版なり子供たちの長期の休み期間に特番を放映するなり、せめて年に一度くらいはこうした作劇を特撮ヒーロー作品の「未来」のために導入することはもはや必須条件ではあるまいか?


 マーベルコミックのヒーローたちが競演する映画『アベンジャーズ』(12年・アメリカ・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190617/p1)以来、ハリウッドでその続編やそれ以外のヒーロー競演ものがいまだ絶えることはない。劇場版でオールスター路線を描いてきた、かの女児向けアニメ『プリキュア』シリーズ(04年~・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20040406/p1)の15周年記念作品・『HUG(はぐ)っと! プリキュア』(18年)では、歴代全プリキュア55人が大集合(!)する前後編があったが、公式チャンネルでのアンコール配信を決める人気投票では第1位に輝いた。そうした成功例を思えば、2020年代の日本の特撮ヒーローも、やはり同じ方向性に舵(かじ)を切るべきではないのだろうか?


*シリーズ構成面では弱かった白倉ライダー。本作では充実した最終章!


 さて、最終章となる第4クールは従来の前後編形式ではなく、3話完結の話を3連続させる構成であり、それぞれを諸田敏(もろた・びん)・山口恭平(やまぐち・きょうへい)・柴崎貴行(しばさき・たかゆき)と、これまで「平成」ライダーを支えてきた代表的な監督たちが「有終の美」を飾っていた。


 『ジオウ』といえば、初期の『仮面ライダーアギト』や『仮面ライダー555(ファイズ)』(03年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20031102/p1)から『仮面ライダーディケイド』に至るまで、第1期「平成」ライダーの東映側のプロデューサーを務めた白倉伸一郎が久々に返り咲いたことでも話題を集めたものだ。
 ただ第1期の作品群に想い入れの強い古い世代の方々には申し訳ないのだが、白倉氏の作品は縦糸となる謎解き要素を強調した連続ドラマの印象が強かったものの、さんざん張った伏線の多くを回収できなかったり(笑)、結局解明されないままに終わる謎があったりと、実はシリーズ構成的には弱かったかと思える。
 もっともその行き当たりバッタリぶりは、まずは世間の注目を集めることを最優先した氏の確信犯かと個人的には推測する。グダグダに終わったとの声も多い『ディケイド』にしろ、結末を年末の映画『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦(ムービー・たいせん)2010』(09年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20101220/p1)に持ち越すなんぞは、完全にワザとやっていたのだ(爆)。
 人は氏を詐欺師(さぎし・笑)と呼ぶかもしれないが、作品自体の無責任ぶりはともかく、個人的には当時の氏の手法は営業戦略として高く評価しており、円谷プロこそこれを見習うべきかと思える。


 それから10年が経過し、まぁ企業コンプライアンスにうるさい昨今ならば当時の氏の詐欺的手法も通用しないのかもしれないが(汗)、『ジオウ』の最終章は同じ白倉氏でも先述した作品群の尻すぼみ状態とは異なり、その世界観を一気に拡大した全世界的・地球的な危機、強者集結によるカタルシスにあふれる大バトル、心暖まる大団円を描いていたのだ! 「子供番組」としてそのようにビジュアル的には豪華でありつつも、やはり縦糸となる要素にはキッチリと決着がつけられており、年間を通してのシリーズ構成は綿密に行われていたかと思える。もっともこれは『ジオウ』に限らず、第2期「平成」ライダー全般にいえることかもしれないが。


 EP41『2019:セカイ、リセット』&EP42『2019:ミッシング・ワールド』&EP43『2019:ツクヨミ・コンフィデンシャル』では、ソウゴがグランドジオウと化したことへの対抗手段として、タイムジャッカーのリーダ-・スウォルツが第2クール終盤に登場した加古川飛流に力を与え、飛流が「魔王」となる歴史につくりかえられたことによるソウゴの混乱が描かれた。
 EP44『2019:アクアのよびごえ』&EP45『2019:エターナル・パーティ』&EP46『2019:オペレーション・ウォズ』では、後述するが2051年の世界から来た者がゲイツツクヨミを未来に連れ戻そうとしたことで、ふたりが深い葛藤(かっとう)を見せた。
 そしてEP47『2019:きえるウォッチ』&EP48『2068:オーマ・タイム』&LAST『2019:アポカリプス』では、歴代仮面ライダーの歴史が消滅したことで、彼らに倒されたハズの敵組織の怪人大軍団がいっせいに復活! 仮面ライダージオウゲイツ・ウォズ・ディケイド・ディエンドの最終決戦が展開された!
 それらの中で、まさに「青春群像劇」といっても過言ではない『ジオウ』の少年少女たちの物語が、完結を前に一気に加速していった。


*「お宝」争奪戦とシーソーバトルが中心、かつ群像劇でもある最終章!


 EP31を発端として描かれてきたツクヨミの出自をめぐる謎は、EP42からEP43にかけてスウォルツによって明かされた。ツクヨミは実はスウォルツの妹であり、彼らは時をつかさどる一族の末裔(まつえい)だった。一族の王位がツクヨミ=本名・アルピナに継承されることが決まったために、スウォルツは自身が王位を継承したいがためにアルピナの記憶を奪い、別の時間軸に追放したというのがその真実だったのだ。
 オーマジオウとは別の王者を擁立するのではなく、スウォルツ自らが王様になるために自分たちが利用されていたと知ったウールとオーラは彼のもとを離れ、反逆を企(くわだ)てるようになる。敵が味方に、味方が敵にと、登場キャラの立ち位置をシャッフルさせることでその群像劇を盛りあげてきた「平成」ライダーシリーズだが、スウォルツに時をあやつる力を奪われたオーラが、スウォルツに一時的に奪われていたグランドウォッチを「これであいつ倒せる?」とソウゴに手渡すほど、今回は敵組織が完全に決裂するに至っていた。


 ただそうした群像劇を充実させながらも、EP42以降に海東が再度姿を見せるようになり、飛流から時間書き換え能力を持つ時計を奪うもスウォルツに取り返されたり、その代わりに時間停止能力を与えられた海東がスウォルツに協力するふりをしてソウゴからグランドウォッチを奪うも、すぐにオーラに与えてみたりといった「お宝」争奪戦が描かれたように、あくまで「子供番組」「変身ヒーロー作品」としての魅力は決して忘れられてはいなかった。
 EP41からつづくかたちで仮面ライダークウガを召喚するグランドジオウVS仮面ライダービルドを召喚するオーマジオウにはじまり、飛流が変身したアナザージオウⅡ(ツー)によって次々に召喚されるアナザーライダーと正義側のライダーとのバトルが各所で並行して再三繰り返されていたのだ。
 時間が書き換えられたことで、いわゆる本来の意味での「戦場」と化した2019年の世界では迷彩の軍服姿(笑)でジオウを助けた士だったが、EP42でコンテナ埠頭(ふとう)でアナザービルドとアナザーカブトに襲われるツクヨミを銃撃と回し蹴りで救い、銃を指でクルクル回して腰にしまうと同時に、「通りがかりの仮面ライダーさ」とライダーカードをサッと示す、実にカタルシスあふれる描写は超絶にカッコよかった!


 なんといっても圧巻だったのはEP43のクライマックスで描かれた、レジェンドライダーに囲まれる飛流の像が庭園にある森の中の洋館のバルコニーで待ち受けるアナザーライダー軍団を前に、ソウゴ・ゲイツ・ウォズ・士が横並びで同時変身を遂げ、大乱戦を繰りひろげたことだろう。
 映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER(フォーエヴァー)』(18年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190128/p1)に登場した巨大怪獣型のアナザークウガまでもが描かれたほどに、この一大バトルは『平成ジェネレーションズ』シリーズ(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20171229/p1)が確立する以前の2010年代中盤ごろのライダー映画よりも、はるかに映画的な百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の魅力にあふれていた。
 そしてこの大激戦の中で、スウォルツに時間停止能力を与えられたディエンドがディケイドの動きを止めたことでディケイドがスウォルツに力を奪われてしまい、その結果としてアナザーディケイドを誕生させるに至るほどに、海東=ディエンドの立ち位置をシャッフルさせ、正義側を決して優勢ばかりでは終わらせないシーソーバトルの妙技も実にあざやかだった。
 どうしてもグランドジオウ=ソウゴに勝てないと悩むアナザージオウⅡ=飛流に、ソウゴは「おまえが過去のことしか見てないからだ。オレは未来をつくるために戦う!」と叫び、20人のレジェンドライダーを背景に(!)必殺キックを放った!


 「おまえのせいでオレの人生はメチャクチャになった!」と叫ぶ飛流と、どこまでも「未来志向」のソウゴの関係性に、外交交渉で過去の話を出しては謝罪を迫るアジアの某(ぼう)国と、やたらと「未来志向」を口にする宰相(さいしょう)が支配するどこぞの国との悪化する一方の関係を彷彿とする向きもあるかもしれない。だが、ソウゴは先述した一大決戦の直前、「ごめん、傷つけたのならあやまるよ」と飛流に謝罪している。「敵」に対してさえも優しい視線を向けるソウゴの姿は、次の章でさらに強調されることとなるのだ。


*宿敵タイムジャッカーとの関係性の変化。より良い「未来」のために…


 そしてEP44ではソウゴと「敵」の少年・ウールの関係性に劇的な変化がおとずれた。クジゴジ堂に助けを求めてきたオーラとウールをゲイツは追い返そうとするが、ソウゴは「いいじゃん。にぎやかで楽しいよ」と、あまりにも素直に受け入れてしまう。
 これには「僕たちは敵だろ」と当のウールが驚いてしまうが、ソウゴは人々を苦しめたことは許せないとしながらも、君たちなりに未来をつくろうとしていたのだからと、その動機については理解を示した。さらにゲイツには帰る未来があるが、スウォルツによって別の世界から連れてこられたウールたちには帰る場所がないからと、クジゴジ堂を「家」だと思ってもいいよと、ソウゴはウールを笑顔で励ますに至ったのだ。


 ソウゴのこうした博愛主義が、EP45で逆にゲイツとの関係に一時的に亀裂をもたらすこととなるのも、立ち位置シャッフルの一環として行われたものであり、最終展開をいっそう盛りあげることに貢献していた。
 EP44で現れたアナザードライブの正体がタイムジャッカーの少女・オーラだったことで――アナザードライブに変身するオーラは実は映画『劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー』(15年・東映)に登場した、2015年と2035年のロイミュード(怪人)108が融合したパラドックスロイミュード(!)であり、ドライブとグランドジオウの合体キックで敗れた際に「108」のコアが破壊される徹底ぶり!――、ゲイツはウールに疑いをかけて追い出してしまうが、ウールは変わったとするソウゴに、ゲイツは人はそんな簡単には変わらない、どこまでいっても敵は敵だと主張する。これに対し、ソウゴは「どこまでも人が変わらないなら、より良い未来なんかつくれるわけがない!」と激アツに叫ぶのだ。


 敵も決して一枚岩ではなく、時にはウィンウィンの関係のために共闘を演じることもあったほどに、「平成」仮面ライダーではキャラの心の変遷や関係性の変化が繰り返し描かれてきた。EP44ではアナザードライブに苦戦していたジオウとゲイツを、「助けられっぱなしもシャクだからさ」とウールが救う場面があるが、EP45ではアナザードライブに襲われていたウールをゲイツが「おまえに助けられっぱなしもシャクだからな」と助けるに至っている。この係り結び的な会話がまた絶妙だが、ゲイツも、そしてウールも、より良い未来のために一歩前進したのだと解釈すべきところだろう。


 もっともこの時点ではゲイツは「その未来をおまえがこわした」――その前に「フッ」とためいきをつく演技がいい!――とソウゴを非難し、未来ならこれから変えられるとするソウゴに、「あの時代を生きたオレたちの気持ちがおまえにわかるか!」と叫ぶのだが、それが本心ではなかったことがEP46で明らかにされる。
 ダークライダーを生みだすためにスウォルツがつくりだしたアナザーワールド=失われた可能性の世界にゲイツは閉じこめられてしまうが、救出に行ったツクヨミとウォズの前で先述したソウゴとゲイツの会話場面が再現され、ゲイツはソウゴにそのつづきとして、オレはそんな未来から逃げてきた、オレはこの時代に生きることで、おまえといっしょに未来をつくりたい! と叫んだのだ。
 キャラを一面のみではなく、多面的に描いてきた「平成」ライダーだが、EP44からEP46はすでにキャラが完成していたゲイツとソウゴの絆を最終決戦を前にあらためて深めるために、その舞台装置としてアナザーワールドを考案し、そこから逆算してドラマを構築したのではなかろうか?
 EP45ではひとり生き残ろうとしたオーラにウールが命を奪われ、そのオーラもEP46でスウォルツに殺害され、タイムジャッカーはここで崩壊するが、同じEP46で並行して正義側のキャラが結束を固くするさまが描かれたのは対比が効いて実に効果的だった。


 アナザーワールドに閉じこめられたゲイツと救出に行ったウォズ、そして現実世界にいるソウゴが世界の壁を超えてジオウトリニティに合体変身を遂げ、アナザーワールドを破壊することに成功したのだ。これは古い世代からすると、『ウルトラマンA(エース)』(72年)第14話『銀河に散った5つの星』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20060805/p1)で、ゴルゴダ星の破壊に向かったロケットに乗る主人公の北斗星司(ほくと・せいじ)と防衛組織・TAC(タック)の基地にいるもうひとりの主人公・南夕子が、たがいにモニター上で手を合わせることでウルトラマンエースに合体変身を遂げたのを彷彿とさせる。EP45のラストからEP46にかけ、久々に登場した白ウォズが語ったように、これらは世界の壁を超えられるほどに強い、たがいを想う力を端的に表現したものだ。
 第2クールでは悪役として登場していた白ウォズをアナザーワールド=失われた可能性の世界にからめ、救世主=ゲイツを救うことが私の失われた可能性だとして正義側を助ける活躍をさせたり、ゲイツとウォズが共闘してダークライダー軍団と対決するのもまた然りだ。登場人物の関係性の変化・進展を変身前のキャラを演じる役者の芝居のみではなく、こうしたインパクトの強い派手なビジュアルで視聴者に伝えることこそ、「子供番組」の正攻法だろう。


*映画のゲストライダー、アクア・エタナーナル・G4・風魔らも出現!


 またEP44からEP46はソウゴ・ゲイツ・ウォズがそこに至るまでの過程を、以下の思わぬ特別ゲストが盛りあげたことも実に大きかった。


・映画『仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦MEGA MAX(ムービー・たいせん・メガマックス)』(11年・東映)に登場した湊(みなと)ミハル=仮面ライダーアクア
・映画『仮面ライダーW FOREVER AtoZ(フォーエバー・エートゥーゼット)/運命のガイアメモリ』(10年・東映)に登場した大道克己(だいどう・かつみ)=仮面ライダーエターナル


 仮面ライダーエターナルの場合は大道=エターナルを主人公にしたオリジナルビデオ作品『仮面ライダーW RETURNS(リターンズ) 仮面ライダーエターナル』(東映ビデオ・11年7月21日発売)という動きもあったが、それ以外の劇場版に登場したオリジナルライダーは基本的に映画1回こっきりで終わることが圧倒的だったため、今回の快挙に狂喜したファンは多いことだろう。
 「キミはWに倒されたんだよね?」とWアーマーにチェンジしたジオウが、「さあ、おまえの罪を、数えろ!」ならぬ「さあ、おまえの罪を、教えて」とやらかしたのはコケそうになったが(笑)、そこですかさず『W』のバトルシーンで定番だったスウィングジャズ風の名曲BGMが流れたから帳消しとしておこう。
 またスウォルツがアナザーワールドから生みだしたダークライダーまでもが、映画『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4(プロジェクト・ジーフォー)』(01年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20011104/p1)に登場した仮面ライダーG4や、映画『劇場版 仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』(17年・東映)に登場した仮面ライダー風魔(ふうま)など、劇場版のオリジナルライダーが揃えられたほどの徹底ぶりはまさに圧巻だった。


 特に西暦2051年の世界からツクヨミを未来に連れ戻そうとしたミハルは、ただでさえスウォルツから自身の妹だと聞かされたばかりのツクヨミを、君たちがいたらソウゴがオーマジオウになる未来が確定する、などと激しく動揺させてしまう。そして「ミハルは正しい」と、ゲイツに一度は未来に帰る決意をさせたものの、「この時代はもうオレたちの時代だ」と心の変遷をもたらすに至る重要な役回りとして描かれていたのは実にポイントが高かった。
 さらに先述した『フォーゼ&オーズ』で火野映司(ひの・えいじ)=仮面ライダーオーズとミハルが「みんなのあしたを守る」と約束したことでもらった「あしたのパンツ」を点描し、アナザーディケイドに敗れたミハルが「アルピナを、あしたへ……」とソウゴの腕の中でパンツに手が届かずに息絶えるに至るまで、彼の後日談としても満足のいく演出だった。
 ミハルの変身やアクアのバトルで巻きあがる水しぶきのCG演出を印象づけるために、都心の噴水広場に海浜公園、背景に風車が回る砂浜など徹底して水のある場所でロケされたのも効果的だったが、最後の変身でミハルの背景に自然の大波が高くわきあがる描写は実にカッコよかった!


*歴代ライダーの「並行世界」が混入! 『ビルド』終章との相似と相違


 さて先述したように、EP47では過去20年に渡って仮面ライダーに倒されてきた怪人たちが大量に復活することとなったが、その見せ方がまた絶品だった。
 冒頭でまず『仮面ライダービルド』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20180513/p1)で日本を3つに分断した巨大な壁・スカイウォールが現れ、『ビルド』の怪人・スマッシュが人々を襲撃、ソウゴが世話になるクジゴジ堂でタワー状に飾られたビルドウォッチが黒く変色してしまう。
 そしてスマッシュを倒したゲイツとウォズの眼前で、『仮面ライダーW』の舞台・風都(ふうと)にそびえる巨大な風車塔・風都タワーや、『仮面ライダー鎧武』に登場した悪徳企業(笑)・ユグドラシル社のシンボル・ユグドラシルタワーが出現、同時にWウォッチと鎧武ウォッチが黒くなってしまうのだ。
 各作品ごとに差別化された個性豊かな怪人たちはもちろんだが、スカイウォール・風都タワー・ユグドラシルタワーといった、常に作品の背景にシンボル的に描かれてきたモニュメントこそ、実は怪人たち以上に各作品の世界観を端的に象徴するものだろう。
 これは仮面ライダーの歴史が消滅したことで時空が乱れ、世界中が大混乱するさまを表現するにふさわしい、実にスケール感にあふれる演出だった。


 スケールの拡大といえば、同じEP47で2058年の世界で少年時代のスウォルツがソウゴとツクヨミアルピナに語った、スウォルツたちの世界を守るための方法である。スウォルツはこの世界を守るためにほかの世界を全部滅ぼすと語るが、ひとつの世界につきひとりの仮面ライダーがいて、それらの世界を全部ひとつにまとめて滅ぼすとする解説映像では、宇宙で円形に並ぶ20個もの地球がひとつに合体するさまが描かれた。
 つまり、西暦2000年の仮面ライダークウガの世界から2018年の仮面ライダージオウの世界が同じ時間軸に並ぶ『ジオウ』の地球は、スウォルツによってそれぞれが別の時間軸に存在する20個の仮面ライダーの世界がひとつにまとめられて誕生したものだったのだ! それも主人公のソウゴが小学生のころにスウォルツに時空をあやつる力を与えられて以来、ライダーの世界を引き寄せる片棒をずっとかついでいたという(汗)。


 近年のウルトラマンスーパー戦隊もそうだが、ヒーロー競演となると必ず持ちだされる並行世界=パラレルワールドとは違い、『ジオウ』は完全につながったひとつの世界だと喜んでいただけに、なんだやっぱ別次元かよと、正直個人的にはプチ失望(笑)もしたものだ。
 ただ、「平成」ライダー10作記念の『ディケイド』が、士の世界と別次元で並行するそれぞれの仮面ライダーが存在する9つの世界が融合して崩壊するのを防ぐために、士が各世界を旅してライダーたちを倒していたのを、やはり『ジオウ』も踏襲していたのだ、白倉Pの作品として終わったのだ(笑)と、これにはあらためて痛感させられた。


 また、複数の地球のビジュアルからして、どうしても前作『ビルド』の終盤にて、桐生戦兎(きりゅう・せんと)=仮面ライダービルドが先述したスカイウォールのない並行世界=レギュラー悪の地球外生命体・エボルトに侵略されなかった世界と現実世界を融合させ、「新世界」をつくりあげて終わったのとモロかぶりの印象も受ける。
 だが、新世界でかつての仲間たちや元の世界で犠牲になった人々も生きていて、全ての人々が平和に暮らしていたとはいえ、それを実現させた戦兎と万丈龍我(ばんじょう・りゅうが)= 仮面ライダークローズのことを誰ひとりとして記憶していないオチは、やはり彼らのこれまでの戦いが報(むく)われない悲壮感に包まれていた印象が強かった。
 これと比べると、スウォルツによって強引にひとつにまとめられた地球を元通りに20個の地球に分離させるビジュアルが示されたことが象徴するように、『ジオウ』の最終展開は並行世界の解釈を二転三転させることで、まさに知的遊戯としてのSFの楽しさを追求したかのように思えるのだ。
 同じふたつの地球のビジュアルが示され、同じように世界を救っていても、ふたつの地球をぶつけていた(笑)『ビルド』と、ふたつの地球の間に橋をかけ、ソウゴがいる世界からツクヨミのいる世界に何十憶という人々を渡らせて(爆)避難させる案が士によって示され、その作戦計画を一同が実行に移す『ジオウ』とでは、まったく印象が異なることは確かだろう。
 これはどちらがいい悪いということではなく、小学校中学年以上の子供なら理解可能な知的遊戯のバリエーションとして、『ビルド』と『ジオウ』とでは実は微妙な違いがあると気づく楽しさを知ってもらい、SFに親しんでもらうことこそ重要ではないのだろうか?


*ラスボスの妹だったツクヨミ嬢が最後に仮面ライダーツクヨミに変身!


 そしてスウォルツがいる世界=仮面ライダーがいない世界を仮面ライダーがいる世界にするために、そこにとらわれたツクヨミ仮面ライダーにしてしまった(笑)のも、先述した「希望の架(か)け橋」同様に『ジオウ』が『ビルド』に比べ、やや希望的観測が持てる最終展開だったといえるだろう。
 天女の羽衣(はごろも)のような全身純白で清楚(せいそ)な衣装に包まれたツクヨミが変身した仮面ライダーツクヨミは、白鳥のイメージが濃厚だが、白・黒・金を基調としたカラーで羽根のようなマントを翻(ひるがえ)す姿は、映画『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL(エピソード・ファイナル)』(02年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20021104/p1)に登場した女性ライダー・仮面ライダーファムのリメイク的なデザインだった。
 もっともEP48がツクヨミの変身で終わり、LASTがそのつづきで始まった途端、仮面ライダーツクヨミはいきなり正義側のライダーたちの動きを止め、スウォルツのお役に立ちたいと語ったのだから、これのどこに希望的観測が持てるんだよ(笑)との声もあるかもしれない。だが、ここに至るまでに描き尽くされてきたツクヨミのキャラからすれば、これがスウォルツを油断させるための演技であろうことは大半の視聴者が気づいたであろうし、これを裏切りだと思ったのは劇中キャラだけだっただろう(爆)。


 元々2068年の世界でオーマジオウに反抗するレジスタンスとして描かれ、ソウゴの世界でも銃を発砲したりタイムマジーンを操縦する勇ましい姿がめだった一方で、ソウゴの天然ボケやウォズの「祝え!」にあきれたツクヨミは、お笑いグループのザ・ドリフターズのリーダーだった故・いかりや長介みたく「ダメだこりゃ」(笑)とボヤいたりしたものだ。
 それが第3クール以降では自身の出自に葛藤することが増え、西暦2058年の世界で少年のころのスウォルツを狙撃できなかったりと女性らしさが強調されるようになり、周囲でも心の変遷や立ち位置シャッフルが多く描かれただけに、ツクヨミが最後の最後に裏切ったと思った視聴者も中にはいたかもしれない。これもまた並行世界の解釈を二転三転させてきたのと同様に、最後まで登場キャラの立ち位置をシャッフルさせることで視聴者の興味を持続させる、白倉Pらしい詐欺的手法だろう(笑)。
 ソウゴとツクヨミをアナザーディケイドの攻撃からかばった士が死亡(!)したと思ったら、海東がEP43のラストで飛流から奪った時間書き換えウォッチを使って生き返らせ、その副作用(笑)でアナザージオウⅡと化した海東がソウゴたちを襲うとかは、まさにこの二転三転の典型例なのだ。


*児童ならば楽しめる「技巧SF」が理解不能な幼児でも「特撮」だけで楽しめる


 だからこれまで述べてきたように、技巧的SFや群像劇としての要素だけでも『ジオウ』が充分におもしろかったのは確かだ。
 ただ、スーツアクターが演じる着ぐるみ怪人が大量に出てきたのみならず、空一面をCGで描かれたモンスター軍団が覆(おお)い尽くす地獄絵図が描かれるとか!
 仮面ライダーディケイドがアナザージオウⅡに対し、「ジオウにはジオウの力だ」とジオウのライダーカード(!)でジオウに変身し、グランドジオウと共闘するとか!
 2068年の世界に飛んだソウゴのもとに、2019年の世界からゲイツとウォズが時空を超えて合体、ジオウトリニティに変身する感動が再現されるとか!
 「どんなに歴史がこわされても、仮面ライダーはこわれない!」と叫んでグランドジオウに変身したソウゴが、各レジェンドライダーの最強フォームを一気に召還して再生怪人大軍団にぶつけるとか!
 これらがあったからこそ、技巧的SFや群像劇の魅力がまだ理解できないであろう、本来のターゲットである就学前の幼児や小学校低学年をおおいに喜ばせたのではないのだろうか?


仮面ライダーチェイサー! 映画ゲストの仮面ライダーマッハと連動!


 また、最終章の放映は例年夏に公開される劇場版の公開時期と重なっていたが、『仮面ライダードライブ』(14年)にスポットをあてた2019年度の夏映画『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer(オーヴァー・クォーツァー)』(19年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190804/p1)に世界観を完全にリンクさせた商業戦略も秀逸だった。
 先述したアナザードライブにつづき、EP47からEP48にかけては『ドライブ』の怪人・ロイミュードらとともに、『ドライブ』前半のレギュラー悪だったチェイス青年=魔進(マシン)チェイサーが復活した。
 夏映画で詩島剛(しじま・ごう)=仮面ライダーマッハから「友」を救おうとしていると聞かされたゲイツが剛の名をあげたり、ウォズが「この本によれば君も仮面ライダーだった」と語ったことで正義と悪の間で葛藤したチェイスは、仮面ライダーチェイサーではなく、魔進チェイサーの姿のままでアナザーディケイドからツクヨミをかばって絶命した。
 「おまえ、友がいるぞ。助けようとしている友が。おれたちも友だ」と云い聞かせるゲイツの腕の中で、「いいものだな……人間とは……」とチェイスがつぶやく描写は、『ドライブ』の最終展開で剛の腕の中でチェイス=ダチ(友)が絶命した場面の完全再現であり、映画とあわせて感動を倍増させた視聴者も多かったことだろう。


 この剛とチェイスの関係性をそのままソウゴとゲイツにスライドさせ、その感動をさらに増幅(ぞうふく)させた演出もまた大きかった。アナザーディケイドからジオウをかばったゲイツはソウゴの腕の中で、ソウゴにオーマジオウ=最高最善の魔王になれと呼びかけ、この時代に来て、おまえの「友」になれて「幸せ」だったとつぶやき、静かに目を閉じる……


 チェイス=「友」を失った剛がその意志を受け継ぎ、仮面ライダーチェイサーマッハと化したように、さっそくゲイツの想いに応えるかたちでソウゴの腰に黄金に輝くベルトが巻かれ、都心の広場に燃えたぎる巨大な時計の文字盤が出現、ソウゴがオーマジオウと化す!
 仲間のみならず、敵にさえ明るい笑顔と優しい言葉で向き合っていたソウゴが変身したオーマジオウが、ウォズに「祝えと云っている」と威圧(いあつ)感たっぷりに命令する声の演技がまた絶妙だが、周囲にライダーウォッチを結集させたオーマジオウが、巨大怪獣さえもパンチひとつで粉砕(ふんさい)してしまうほどに、怪人大軍団を圧倒する絶大なパワーを見せつけるさまは説得力にあふれるものだった。


 さらに『ジオウ』で特筆すべき点としては、EP47で仮面ライダーの力を失ったレジェンドウォッチを順一郎が陰ですべて修理し、LAST=最終回で最後の戦いに赴(おもむ)こうとするソウゴに、「君たちの大事な時計」をお盆にズラリと並べた状態で手渡したことだろう。EP39&EP40で時計みたいな電車=デンライナーさえも直した(笑)ことがその伏線であったが、科学者ではない時計屋さん=周辺キャラに全世界的な危機を救うに至るほどの大活躍をさせてしまう演出も実に好印象だった。EP48でソウゴが決戦を前に、クジゴジ堂の壁にズラリと並ぶ時計を感慨深くながめる描写も印象が強かったが、「元に戻ったように見えても、時計の針は未来にしか進まない」とのソウゴの深い言葉に至るまで、時計モチーフの仮面ライダーとして初志貫徹したのは称賛されるべきだろう。


*ライダージオウ=最高最善の魔王(笑)が最後に選択した世界とは!?


 そうしたみんなの力で世界を救ったソウゴは、ゲイツツクヨミたちがいない世界で王様になってもしかたがないと、2068年の自身=オーマジオウに対して「魔王」となることを拒絶する。
 そんなソウゴがみんなのいない世界を破壊して創造した「新世界」は、ゲイツツクヨミが同級生であるのみならず、敵だったウールがソウゴを「王様先輩」(笑)として慕(した)い、オーラが「悪い知らせ」(爆)としてみんなが遅刻寸前だと教えてくれる、ソウゴが「普通の高校生」として過ごす明るい学園生活だった。


 EP34で小学校の同級生として描かれたツトムや、EP45&46で久々に登場した高校の同級生・小和田など、決して単なる(ひとり)ボッチではなく、教室で話す相手はなんとかいたものの、「友」と呼べるまでの存在がいなかったソウゴの物語として、これは妥当な帰結だったのではあるまいか?


 ソウゴに「楽しかったぞ、おまえに会えて」とつぶやいたのは、決してオーマジオウばかりではないだろう。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2019年初秋号』(19年10月6日発行)所収『仮面ライダージオウ』後半合評3より抜粋)


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『平成スーパー戦隊30年史 ~序章』 ~『高速戦隊ターボレンジャー』(平成元(1989)年)!

(文・T.SATO)
(2019年10月5日脱稿)


 「平成」などという区切りに究極的・絶対的な根拠などはなく、あくまでも日本列島に住む人間の慣習による便宜的なくくりにすぎない。だから、このような区切りなぞは無意味だともいえるのだけど、それを云い出したら「西暦」や「10年紀(ディケイド)」に「世紀」や「曜日」に「太陽暦」、「元旦」や「大晦日」を1年365日のいつの日にするか? 等々にも、とえあえずメタ(形而上)的・絶対的な根拠などはナイ。
 あくまでも便宜的なモノサシであり、「西暦」を使ったからといって西欧やキリスト教に奴隷的に屈服したワケではないし、「曜日」を使用したからといってユダヤ教イスラエルによるパレスチナへの蛮行に同意を示したことにもならないし、「太陽暦」を使用したからといって古代エジプトの太陽神・ラーに身も心も捧げているワケではナイ。元号・和暦だけは例外で、古今東西の歴史の中でも特段で邪悪極まりない天皇制に屈服・加担することにつながると思い込みたい御仁もいるのだろうけど(笑・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190825/p1)、まぁそのへんのご判断は読者個々人にお任せいたします。


 けれども、ここではあくまでも「平成元年」と「平成31年」を天皇制賛美ではなく、「元旦」と「大晦日」程度の重みで便宜的にくくらせていただく。その上でも自然と醸されてきてしまう、旧左翼のご本尊・マルクスの師匠の哲学者・ヘーゲルが云うところの「時代精神」とか、戦前の民俗学者柳田國男が「明治大正史 世相編」で大文字の歴史年表には載らなくてもその時代の理解に必要であると析出した「時代の空気・気分・風潮」のようなモノも浮かび上がらせてみたい。
 「10年紀」や「世紀」の変わり目、「5周年」や「10周年」などの、やはり人間や陸生の脊椎動物一般の片手の指がたまたま「5本」(笑)であったことから発達したに過ぎない「10進法」に起因する、生物進化の偶然に基づくだけのくくりとも等価の扱い、ムダな賛同や反発ヌキでのフラットな意味での「平成」というくくりで醸される、あの時代を生きた人間の脳裏に自然と醸される、この時期の本邦日本の特撮ジャンルを――ココでは「スーパー戦隊シリーズ」の特徴や二転三転した変遷を――、それにまつわる特撮マニア諸氏や時代ごとの子供たちの反応や言説もふりかえりつつ、つづってみたいと思う。


平成元年(1989年)『高速戦隊ターボレンジャー

子供向けに回帰!(直前5作品はシリアス大河戦隊)


 平成スーパー戦隊のトップバッターは、『高速戦隊ターボレンジャー』だ。「クルマ」・「高校生」・「妖精」・「暴魔百族」。本作の主成分はこの4要素である。


 しかして、コレらのフィジカル(物理的)な4要素の基底部分、あるいは4要素に覆いかぶさる作品世界の空気・フインキ・カラーとして、本作に対して「カジュアル」で「ポップ」で「ライト」な印象を受け取った、当時でもすでに大きなお友だちであったご同輩の特撮マニア・戦隊マニアは多かったのではなかろうか?


 それはナゼか? その直前のスーパー戦隊5作品『超電子バイオマン』(84年)・『電撃戦隊チェンジマン』(85年)・『超新星フラッシュマン』(86年)・『光(ひかり)戦隊マクスマン』(87年)・『超獣戦隊ライブマン』(88年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110919/p1)が、往時なりに子供向け番組のワク内での範疇で連続ドラマ性やテーマ性を重視して、敵怪人もそれ以前のスーパー戦隊作品に顕著であったギャグ怪人・コミカル怪人は鳴りを潜める「シリアス大河戦隊」とでも呼称すべき作品群だったからである。
 『バイオマン』~『ライブマン』で散見された、それ以前のスーパー戦隊と比すればていねいな戦隊メンバー集結劇、それまで一般人であったメンバーがいきなりの召集に対して戸惑い混乱し反発するサマ。話数をまたがって登場するゲストやイレギュラーキャラクター。
 それらは先行して70年代末期から商業誌レベルでも評価や研究が進んでいた国産特撮「ゴジラ」シリーズや「ウルトラマン」シリーズに「仮面ライダー」シリーズなどと比すると、シリーズ生誕年が遅くて各話のゲスト敵怪人のデザインにもコミカルな意匠が採用され、作品の体裁・パッケージがチャイルディッシュでもあったので、やや侮られていた「スーパー戦隊」を持ち上げるのにはとても好都合な要素でもあったのだ。


 ……まぁそれから35年ほども経ってしまった今となっては、そもそも成り立ちからして5人の5原色でカラフルなヒーローが活躍するチャイルディッシュな子供向け番組に、ティーンに達しても幼児期からの強烈な思い入れでこのテの番組に執着しているだけの人種たちが、スーパー戦隊シリーズにも「オトナの鑑賞に堪えうる」、ある程度のリアルさやシリアス性にドラマ性を望むなどというのは、トンデモなく「ナイものねだり」な行為であったとも、自己批判の意味での後出しジャンケンで総括できるようには思うのだけれども(笑)、それがあの時代のスーパー戦隊ファン、あるいは80年代のイケてる系の若者文化に参入できなかった、今で云う非モテのキモオタである戦隊シリーズも観るような特撮マニアの全員とはいわずとも多くが抱いていた望みであったと思う。


 その望みは『バイオマン』~『ライブマン』である程度までは果たされた。コレは自然発生的な事態ではなく、具体的には1982年の『大戦隊ゴーグルファイブ』からスーパー戦隊を担当するようになった東映鈴木武幸(すずき・たけゆき)プロデューサーの意向によるモノでもあったことが証言からも判明している。
 それすなわち、遡ること1970年代後半に当時としては連続ドラマ性やテーマ性が高い故・長浜忠夫カントクによる子供向けロボットアニメ『超電磁マシーン ボルテスV(ファイブ)』(77年)や『闘将ダイモス』(78年)などを氏が担当した際に、総集編映画『宇宙戦艦ヤマト』(77年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20101207/p1)の超特大ヒットで勃発した第1次アニメブームとも連動して、原・オタク族でもある当時の中高生の男女マニアたちに美形キャラ人気や敵味方に分かれた恋愛ドラマなども含めて大いにウケた際の手法の、特撮番組への流用でもあったからだ。


 しかし、シリアスなドラマ性やテーマ性を一応は達成したスーパー戦隊が実現して、それが5作品も続くと細部には不満がありつつも一旦の満足は果たされて、しかして漠然とした「飽き」が来ていたのも、往時のスーパー戦隊マニア諸氏にとっての事実だったかもしれない。そして、それは作り手たちにとっても同じであったのだろう。
 スーパー戦隊シリーズは平成元年(1989年)製作の本作『高速戦隊ターボレンジャー』において、シリアス性を改めて放棄して、5人の5色のスーパーヒーローが活躍するという「ポップ」なコンセプトに立ち帰り、子供向けであることのアドバンテージを再帰的に再発見・再評価をして、そこを押し進めてみせたようにも見えたのだ。


善悪二元論の再徹底」 人間や宇宙人ではなく魔族を敵とした新潮流!


 具体的にはドーいうことか? まずは、「善悪二元論の再徹底」である。
 たとえば、『バイオマン』の悪の軍団はロボットたちの反乱だと当初は位置付けされたが、中盤で実は敵首領・ドクターマンのみ元々は人間であり、自分で自身を改造した悲運で狂気のサイボーグ科学者であったことが判明したり、自分がナマ身の人間であったころに儲けた息子の少年を登場させて彼との絶叫問答をさせたり、ドクターマンもまた自身の息子にそっくりの後継者のロボットを製造したり、首領の正体が人間だと知ったロボット幹部たちも衝撃とともに疑念をいだいて首領の暗殺計画・クーデターを起こすなど、トータルでは「悪」ではあっても決して「絶対悪」ではなく、「悪」の側にも懊悩やドラマがあるというかたちで作品のドラマ性を高めていった。
 『チェンジマン』の終盤では敵幹部たちが敵首領に占領された星々の出身であり、いわば面従腹背であったことが明かされて、彼らがチェンジマンに順次味方するようになっていくサマが描かれた。『フラッシュマン』でも戦隊メンバー全員が幼少時に生き別れた両親を捜すというシメっぽいドラマ性が付与された。『マスクマン』では主人公・戦隊レッドの青年の生き別れた彼女が敵の女幹部となって目の前に立ちはだかりもする。『ライブマン』に至っては敵の幹部たちはかつての学友たちですらある!


 それらと比すると、『ターボレンジャー』の善悪のメンバーは複雑な内面やドラマを抱えてはおらずツルッとしていて、その内面に過剰な凹凸や屈託などは持ちあわせてはおらず、暑苦しくはナイけど素朴な正義感には満ちていて、つまりは悲壮なドラマ性を抱えてはいない――そーいう意味では改造人間とされたことの悲哀・哀愁も微量に込められていた昭和の『仮面ライダー』よりも前の1960年代以前の古典的な覆面ヒーローや少年ヒーローに立ち帰ったモノともいえるけど、そこへの回帰を意図したモノではないだろう(笑)――。
 2万年前の超古代から蘇った敵軍団である「暴魔百族」に至っては、そのネーミングに「魔」の字が付くことからも明らかな通り、とにかく生まれつきの「悪」なのだ。生まれついては「善」であったのに同情すべき事情があって途中から「悪」に転落したのである……などといったドラマ性なぞも付与されてはいない。


 正義の戦隊側も、往年の『電子戦隊デンジマン』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120205/p1)のように先祖がデンジ星人であったから……、『バイオマン』のように先祖がバイオ粒子を浴びたから……といった、物事の重大さがわかっていない子供にとっては「誇り」に思いたくなっても(笑)、リアルに考えれば生死に関わりカナリ重たくて逃げ出したくもなるような、本人たちの自由意志よりも宿命的な血の因縁を感じさせる伝奇的な理由で戦隊メンバーになったり、一部メンバーが戦隊メンバーになることを躊躇することで序盤の葛藤ドラマを構築するようなモノでもない。
 本作『ターボレンジャー』の5人は心根がキレイだからファンシーでポエミーな存在でもある羽を生やした小人の少女である「妖精」が見えるのであり、ゆえに戦隊メンバーになれる資格があり……というか、そのへんのリクツにはあまり深入りせず(笑~中盤回でそのへんの事情も少々明かされるけど)、この少女に象徴されている「大自然の精霊」、ひいては「大自然」、よってこの「地球」を守るためにも戦うゾ! とワリとさっさと決意を固めて、陰鬱に悩むことなく、この時期の「戦隊」特有の細かいカット割りによる映像、敵軍団の大襲撃&反撃によるアクションをテンポよく押し流していくことで、そそくさと初変身を果たして、誰に教わったワケでもないのに華麗に戦いだして武器も使いこなし必殺ワザで敵怪人を倒してみせている(笑)。
 コレにより、リアリズムのヒーローではなくヒーローの全能性・万能性、善悪の攻防を爽快感もある軽妙なバトルでサクサクと気持ちよく魅せていく作品であることも承知させていく。


 ドコまで作り手が意識したのかは不明だが、「戦隊ヒーロー個々人の名乗り」こそ、この時期の30分ワクならぬ25分ワク放映の時代ゆえにか省略はされたモノの、それはリアリズムを重視したからではなく(笑)、その代わりに「組み体操」のように戦隊5人が「人間タワー」を組んだ名乗りポーズ直後の多数の小型火花の同時爆発や、同じく戦隊4人が「人間タワー」を組んで残り1人がその中間の空隙から跳躍突撃をしたりといった、ポップで様式美的な名乗り映像にやはり様式美的なアクションは、本作がリアルな肉弾戦ではなく歌舞伎的で舞踏的なアクションを改めて意図的に狙ったことを感じさせるモノでもあったのだ。


爽やかさ! ~役者・ヒーロー・メカ・楽曲がブースト!


 そして、何よりも爽やかな作品世界の空気感である。
 コレは作り手たちが意図的に狙ったモノでもあるのだろうが、と当時に10代~20才前後の若者像の前代との大幅な変化、そして当時の時代の空気・風潮とも連動したモノでもあったろう。
 高度大衆消費社会に突入した80年代中盤の日本では、70年代における清貧でダウナーな成熟を旨とする四畳半フォークソング的な青春像は急速に過去のモノとなる大地殻変動があった。80年前後に勃発したMANZAIブームともあいまって若者間では躁病的・軽佻浮薄なコミュニケーションが突如として勃興し、老成や落ち着きはダサいとされることで、大学生や社会人になっても軽薄な高校生のようなルックスやメンタルにコミュニケーションを取り続けることが常態となっていくのだ。
――コレはそのまま21世紀の今日にも至っており、先進各国ドコでも同じだという説もあるのでコレが覆ることはなさそうでもあり、バンジージャンプなどの通過儀礼で人々が落ち着いたオトナになっていくような社会は過去のモノとなって、人類史の全体がそのようにも進んでいくようだ(汗)――


 卑近に云うなら、皆がシックなシャツ&Gパン姿でイケてる系とイケてない系の格差が過度に可視化されることがなかった70年代までとは異なり、安価でカジュアルな服飾品や若者向けの美容院も急速に普及することで、上中下で云うならば中以上の若者たちはポップな扮装をしながら都市的空間で戯れつづけることで人格形成をしていく時代となったのだ。
 たとえば、元祖『秘密戦隊ゴレンジャー』(75年)~『大戦隊ゴーグルファイブ』(82年)の戦隊メンバーたちは若者ではあっても、後代から見れば落ち着いてチャラチャラしておらず老成した雰囲気も醸し出している。あの時代の空気を子供ながらに吸っていた今ではオッサンである筆者の当時の若者に対する印象もコレであった。
 21世紀以降で云う「ウェ~~イ」、20世紀の80~90年代で云うところの「イェ~~イ」的な85年に大流行することで90年前後のバブル期のイケてる系の若者文化にまで定着していった「イッキ飲み強制ノリ」な、沈黙恐怖症でムダな言葉遊びも交えて躁病的なコミュニケーションを強迫してくる風潮についての分析は、脱線に過ぎてルサンチマン(怨念)も混じりそうなので、今回はふれない(笑)。


 しかして、そのようなポップでライトでデオドラント(無菌)な80年代中盤の若者文化の中でルックスや髪型に服飾も含めて成長・人格形成もしてきた世代人が――当時だと男子はモミアゲを短く三角に切った短髪が流行。上半身はダボッとした逆三角形で相対的に肩幅を広くご尊顔は小さく見せるブルゾンの上着!――、加えて幼少時から柔らかいモノを食べるようになって顔や顎が細面になった(?~笑)メンツが、はじめて主要キャストとしても登壇したのが本作『ターボレンジャー』であったと私見するのだ。
 レッドターボ・炎力(ほのお・りき)、ブラックターボ・山形大地、ブルーターボ・浜洋平、イエローターボ・日野俊介、ピンクターボ・森川はるな。
 力持ちタイプを一応は仮託されたとおぼしきブラックを除けば、良く云えばみんな爽やかでイヤミもなく素直な人柄が感じられるし、悪く云えばアクがないメンツだともいえる(笑)。イエローはやや三枚目、ブラックもカラーリングやネーミング的にも「気は優しくて力持ちキャラ」が割り振られそうなモノだけど、特に後者を演じる役者さんの声質自体が爽やかな早口という感じなので、結局は爽やかなのである(笑)。
 ピンクは可愛い系というよりもキレイ美人系に寄っていて、それを苦手に思ったマニアの御仁も当時いたそうだけど、筆者個人はバブル期流行のワンレン(ワンレングス)髪型で目鼻もキリッとした彼女のことは好ましく思っていたことも思い出す。見た目でのキャスティングで演技はできないのかというとそんなこともなく、特に媚びてはいないけどお姉さん的なナチュラルな滑舌で、爆風で吹っ飛ばされた際の悲鳴絶叫演技などは歴代戦隊ヒロイン俳優と比してもうまかった(笑)。


 以上は変身前の「中の人」に関する部分だが、同じようなことは変身後のヒーローの意匠についても云える。
 本作の戦隊ヒーローのデザインのメインモチーフは「クルマ」。つまり「自動車」である。戦隊ヒーロー5人のマスク頭頂部~額の部分のデザインは、「クルマ」のフロント部分のイメージとなっていて、両耳もメリこんだタイヤである。ボディーは「ターボ」をアルファベット表記にした際の先頭文字をあしらった大きな「T」字型――やや湾曲してユルい「Y」字型にも見える――の白抜きがボディー前面を占めており、白の配色部分が増えたことで、結果的に「高校生」の年代の若者が変身するのにふさわしい若々しさも感じさせるモノだ。


 そして、オープニング主題歌「高速戦隊ターボレンジャー」やエンディング主題歌「ジグザグ青春ロード」もまた歌詞や楽曲も含めて爽やかなのである――後者の曲名は80年代中後盤に活躍した「ZIG ZAG」という日本の人気ロックバンド名からも着想したのだろう――。
 それまでの「シリアス大河戦隊」のそれがやや重厚・悲壮で、コレは作り手たち昭和10~20年代生まれの世代の意向、もしくは作詞・作曲の外注著名音楽家諸氏も仕事にあたってシリーズの楽曲を視聴して「そーいうモノ」として製作したのであろうけど(汗)、良くも悪くも軽重浮薄でアゲアゲな80年代には似つかわしくない「生命を捨てても大義のために戦う自己犠牲や献身」を賞揚するようなノリが多かった(笑)。それらとは一線を画する爽やかな楽曲を可能とする才能の誕生といった音楽界側の世代交代もあったのであろう。筆者はココにも大きな時代の変化を見たとは云わずとも、今にして思えば感じていたとは思う。


 ココから戦隊シリーズや子供向け変身番組本来の魅力でもあるヒーローやメカロボについても語っていこう。
 戦隊ヒーロー5人が搭乗する巨大ロボに合体する前の巨大メカ群も、5台の巨大なスポーツ車・トラック・ジープ・バギー・ワゴンといった「クルマ」型メカとなっている。変身前のヒーローのモチーフや神秘のパワーの源が「動物」や「伝説獣」に「東洋的な禅」であっても、戦闘機や戦車にヘリコプターといった軍事的なメカに搭乗することで、やや不整合を感じさせていたそれまでのスーパー戦隊とは異なり、本作では初めて戦隊ヒーローと戦隊メカのモチーフが一致したことによるスッキリ感・整合感は大きかった。
 コレらが高速走行しながら合体してヒト型になった直後もローラースケート――当時の大人気男性アイドルユニットであるジャニーズ・光GENJIがもっぱらローラースケートしながら歌唱、子供たちもマネしていたことの影響でもあったのか?――のように両足部分のジープとバギーの車輪部分で高速走行しながら、両足を交互に繰り出して地面を滑走しつづけるビデオ合成の映像が、当時としてはとても絶大なインパクトがあったことを思い出す。
 往時のいつもの狭苦しくて安っぽい特撮ミニチュアセットとはいえ、スピード感・疾走感を強調した合体直前の巨大「クルマ」型メカの走行シーン。なおかつ従来は、戦隊巨大ロボのメカとしての重厚さを出すためか、赤・青・黄の3原色を使用しつつも青主体、または濃紺や黒主体で四角四面のデザインであったそれを、クルマをモチーフとしたことで戦隊巨大ロボの胸当てがレッドの搭乗する巨大スポーツ車型マシンのフロント・ボンネットに該当したことでアールヌーボー・流線型のまるみを帯びて、色彩も赤や白となることで、コレまたやや優雅で爽やかな印象をもたらしている。


 「クルマ」人気や「クルマ」に対する幻想が凋落した21世紀の今日の若い世代には信じがたいかもしれないが、戦後の高度経済成長期に急速に庶民に普及してステータスシンボルともなり、本作放映の89年当時のバブル経済時にも若者間では女性にモテるための神器でもあり、同時期にはラジコンのミニ4駆(みによんく)ブームもあって、子供たちにも大人気であった「クルマ」をモチーフとしたヒーローに巨大ロボ。そこにも勝機はあって、それは本作の戦隊巨大ロボことターボロボの超合金玩具が、それまでのスーパー戦隊史上で最高の54万個(!)の売上を誇ったことからも察せられる。


「クルマ」と「妖精」が水と油だが、その理由とは!?


 とはいえ、本作の2大要素である「クルマ」と「妖精」が水と油であるとの批判は当然成り立ちうる。当時のスーパー戦隊マニア諸氏の本作に対するツッコミどころもそこにあった。
――「生物」という意味の「バイオ』と相反する「超電子」なる語句を組み合わせた『超電子バイオマン』にも、すでに中高生の年齢に達していたマニア諸氏はプチ違和感を抱いていたモノである。今だったならばスーパー戦隊はそーいうB級なネーミングじゃなくっちゃ! と逆に賞揚されそうでもあるけれど(笑)――


 ただ、今にして思えば、そのような大きなお友だちによる『ターボレンジャー』に対するツッコミは、作り手たちもバカではないのだから、もちろん想定の範囲内ではあり、水と油だとわかっていてあえて「妖精」に象徴されるファンタジー要素を投入して、「クルマ」と複合させたといったところだろうとも憶測する。
 それすなわち、敵軍団側のモチーフには時流に沿った目新しい要素を投入したことである。歌は世に連れ世は歌に連れ。東映の変身ヒーロー番組にも時代とは超越した浮世離れした要素もあれば、時代の鏡像としての要素もある。「悪の組織」の存在自体は前者だともいえるけど、「悪の組織」の意匠・パッケージに限定すれば後者だともいえる。


 昭和の1970年代の「仮面ライダー」シリーズは、ナチの残党のような「悪の秘密結社」が地下世界・暗黒街で呪術的に暗躍して社会を裏面から操ったり搾取しようとするイメージがある。それが『イナズマン』(73年)や『ゴレンジャー』(75年)などの悪の組織はメカミリタリ的に戦闘機や戦車も保有する「軍隊」や「軍団」といったイメージとなり、その目的も「世界征服」となっていく。さらに80年代に入るや宇宙SFの隆盛とともに敵は外宇宙からの侵略者にスケールアップして「地球征服」のイメージとなっていく。
 それが80年代中後盤にさらなる変転を見せるのだ。それすなわち西欧中世風異世界ファンタジー風味のTVゲームや洋画などの隆盛である。無限に広がる大宇宙や宇宙戦艦に外惑星などよりも、剣と魔法の西欧中世風異世界の方に人々がエキゾチシズムを抱いてしまうような大地殻変動が先進各国で同時多発的に勃発したのだ。洋画で云うならば、宇宙SFの筆頭『スター・ウォーズ』旧3部作(77年・80年・83年)の番外編にして、大宇宙ではなく辺境惑星にて西欧中世風のローカルな生活を送る宇宙人種族を描いた『イウォーク・アドベンチャー』(84年・85年日本公開)の登場が画期としての象徴だ。


 ナゼにこのような大地殻変動が生じたのか? それは、宇宙に進出するロケットのように銀色の金属の輝きを放って眼で見てわかるような重工業な科学の発展がある程度までは行き着いて、一般家庭内にも炊飯器や電子レンジにラジカセ・オーディオコンポ・ビデオなどの電子インジケーター付きの家電製品がある程度まで普及したところで、それらに対する憧れの念が相対的に目減りして、その代わりに失われた田舎や大自然の方にこそ逆エキゾチシズム(異国趣味)を感じるような倒錯・価値転倒が起こったからではなかったか?
 前近代的で身分や職業が固定されることで不便をかこっても、それゆえにこそ会社員や工場労働者のような誰にでも代替可能な匿名の仕事・希薄な関係ではなく、記名性のある手仕事・職業で濃ゆい1対1の個人的な情緒・親しみ・付き合いも込みでのビジネス関係や人間関係などにも手触りや歯応えが感じられそうな中世社会に、人々が改めて再帰的・直観的に憧れを抱いたからではなかったか?


 それは中世のホントの姿ではない。本気で中世に回帰する気はなく、安全圏からイイところしか見ていない! というツッコミは正当ではあるけれど、高度化・複雑化された現代社会へのアンチテーゼ、その時代ごとに欠落しているモノ、その時代ごとの主流に対する傍流にカウンター・バランサーとしての憧れ&理想を見い出すのも、人間精神や時代精神といった歴史の常でもある。それが大宇宙やデオドラントなハイテク宇宙船から、少々不潔でも色や匂いや濃さといった「生の充実」も感じられる中世へと変転した……といったところが事の真相かとは思うのだ。


 この変遷にはもうひとつの要素もある。宇宙SFや『機動戦士ガンダム』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19990801/p1)に端を発する「善悪相対主義」的なリアルロボットアニメの大流行にやや飽きてきたところで、改めて「善悪」はホントウに相対的なのか? 相対化しようとしてもしきれずに最後に残る「善」や「悪」もあるのではないのか? といった疑念を作品化したような、「善」や「悪」を「仮面ライダー」と「ショッカー」のような小物ではなく、「宇宙創造の神」や「宇宙破壊の悪魔」といった「概念」の域にまでブローアップした作品群の隆盛である。
 日本で云うなら、「ハルマゲドン接近!」のキャッチコピーが懐かしい角川書店初のアニメ映画『幻魔大戦』(83年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20160521/p1)の大ヒットであり――原作漫画自体は映画を15年も遡る1967年が初出。リメイク小説版は79年が初出――、ココから聖書における黙示録・ハルマゲドン・世界最終戦争・神の軍団vs悪魔の軍団・天上世界vs地獄世界といったモチーフを主題としたマンガ・アニメも流行しだして、そーいうスケール雄大な設定に若者たちがワクワクするような風潮も勃興してきていたのだ。


 閑話休題。太古、人類は妖精とも共存・共闘して、暴魔百族を封印したが、文明が進むにつれて人類は自然と共生することを忘れて、次第に妖精を見ることもあたわなくなり、封印の力も弱まってしまったところで、現代に暴魔百族が復活した! ……と大設定されていた本作。そうなると、図式の対比的にも、正義のヒーローは高技術文明とは真逆の大自然・エデンに帰れ! と主張するヒーローを配置するのが作劇の教科書的には正解のハズである。
 しかして、スーパー戦隊は初期2作の石森章太郎デザインの時代はともかく、玩具会社・バンダイ側が主導する年間の販売計画も込みでの「クルマ」をメインモチーフとすることが当初から年間スケジュールで決定されている作品でもある。
 しかも、交通公共機関ならばまだ必要悪としての免罪符も得られそうなモノの、私的レジャーに供するだけの有害な排ガスを撒き散らす印象も強い「クルマ」を、本作ではドー位置付けるのか? その方策が市井の研究家・太宰博士が作ったという「無公害エンジン」(笑)である。
 そして、この博士に清い心ではなく科学の力で製造した「妖精グラス」という眼鏡の力で、最後の妖精少女・シーロンの姿を見ることができて会話もすることができるとした。そんな博士が作った「無公害エンジン」で稼働する巨大「クルマ」型メカやそれが合体した戦隊巨大ロボ・ターボロボだからこそ、ギリギリ作品世界を空中分解させずに手綱を引けている! といったところが、当時の作り手たちのねらいでもあったろうか?


 正直それでも「クルマ」と「妖精」の並立はやや苦しかったとは思うものの(笑)、30年後の今になって思うに、実は「無公害」エンジン実現による自然との共生という方策こそが、フィクションのみならず現実世界でも一番の最適解であったようにも思えなくもない。
 それはナゼか? 我々人類がごく少数の尊敬すべき御仁はともかくトータル総体としては前近代・中世・古代・原始人の生活にはとても戻れそうにはナイからだ(汗)。
――チョット前まではクーラーを使わずに節電を! と云っていたのに、今では適度にエアコンを使え! である。やはり地球の自然環境の保全よりも人間の生命・健康の方を優先するのである。仕方がナイやもしれないけれども、この選択により人類や我々日本人は底を割った……改めて自然破壊の方向へと舵を切ったのだ! という気がしないでもナイのだ――


 そうであれば、近々にはムリでも中長期では自然破壊型ではなく自然エネルギー活用型のテクノロジーを発展させることの方が、工業文明と大自然との「持続可能性」は高いのやもしれない。
 ……などという境地に筆者が30年前にすでに到達していたワケでは毛頭なく、後出しジャンケンの発言であることはくれぐれも付言しておく(笑)――いやまぁ地球に優しいテクノロジーでも、人類滅亡や自然破壊を単に先送りにしているだけであり、やはり根本解決ではナイのやもしれないけれども(爆)――。


「暴魔百族」は魔族だが、時流に合ったポップな悪でもあった!


 よって、本作の悪の組織は、秘密結社でもなければ軍隊でもなく、思想用語で云う「外部」としての宇宙からの侵略者でもなければ、「外部」の変型としての地底世界からの侵略者でもない。お仕事としての悪ではなく、属性としての悪、生まれつきの「悪魔」に近しい悪、「魔族」としての悪である「暴魔百族」なのだ。
 加えて、悪の組織の名称が初期戦隊以来の「漢字」の名称となったことに、表音ならぬ表意文字の「漢字」の方がカッコいい、あるいは旧来の「漢字」にこそ文化的ナショナリズムではなく再発見された逆エキゾチシズム(笑)を感じる倒錯した心性も、核戦争後の地球の荒野を舞台に拳法使いを「世紀末救世主」と名指してハルマゲドン・テーマもカラめつつ、その必殺拳法の数々の名称が「漢字」であった「週刊少年ジャンプ連載」の大ヒット作『北斗の拳』(83年・84年にTVアニメ化)などとも通底していくジャンルの風潮を懐かしくも思い出す。


 ちなみに同時期の『仮面ライダーBLACK RX』(88年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20001016/p1)も作品世界にファンタジー的な意匠を取り入れており、侵略者・クライシス帝国の出自を異次元(並行宇宙!)の地球とし、その世界を「怪魔界」(!)と呼称して、その世界には西欧中世風の人々や秘物もあってクライシス皇帝に西欧中世や妖精チックな庶民たちが蹂躙されているイメージなどが描かれていたが、「漢字」名称に「魔」の文字の採用など、コレも当時におけるジャンル作品全般の最先端をやや劣化したかたちになったとしても、東映変身ヒーロー番組なりに採用したモノでもあったのだ。


 とはいえ、子供番組である以上は、悪の軍団に過度にオドロオドロしい演出を施して、幼児を怖がらせすぎて退けてしまってもダメである。なので、「暴魔百族」も魔族ではあるのだが、幹部も戦闘員も敵怪人も一周まわってゲロゲロモンスターではなく寸止めに留めてポップでまるっこくて戯画化(ぎがか)している印象もある。
 スーパー戦隊ジャッカー電撃隊』(77年)のアイアンクロー、スーパー戦隊『バトルフィーバーJ』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120130/p1)のヘッダー指揮官、『科学戦隊ダイナマン』(83年)のカー将軍などのレギュラー敵幹部も演じてきた名優・石橋雅史(いしばし・まさし)が演じる敵幹部筆頭・暴魔博士レーダの後頭部は丸っこい貝のアンモナイトであり、姫暴魔ジャーミンも特に演技が怖いということもなく(笑)、かっとび暴魔ズルテンも七福神のような短足太鼓腹のユーモラスで笑顔な外見のコミックリリーフだ。


 敵の戦闘員軍団・ウーラー兵に至っては、南洋の酋長に率いられた未開の土人が仮面をカブり、簡単な衣を着せただけといった風体である。
 ただし、コレなどは今の観点ではなく30年前の風潮でも――TVにおける放送禁止用語の基準も1990年前後が一番キビしくて、本作放映前年の絵本『ちびくろサンボ』絶版運動の記憶も新しい時期――、筆者などはドコからか「差別的だ!」というクレームが付きそうで用心不足なのでは? などとヒヤヒヤしたモノだ。
 むろんコレはウーラー兵のモチーフに対しての全否定という意味ではないのだが、それを不快に思う部外者ならぬ当事者やその子孫が偏向したイデオロギーゆえではなく心底不快で差別だと思うのならば、それに抗するロジックもナイという意味でである。
 幸いにしてマンガ・アニメ的に記号化されたデザインであったウーラー兵を現実のソレとカブせる見方をする御仁はいなかったか、たとえいたとしてもその声を可視化できるインターネットなどの媒体もなかった時代ゆえか、ウーラー兵に対する危惧を筆者個人はマニア諸氏も議題にしていた光景を見たことがなかった――ネット世論全盛の今だと大変なことになりそうだけど。まぁそもそもこーいうデザインにすること自体が後年ではアリエナイよネ(汗)――。


 往年の『仮面ライダー』初作(71年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140407/p1)のショッカー戦闘員だと記号的、中身は軽微な改造人間とはいえ、メンタルはナマ身の人間でもあるという二次創作が作れてしまうけど、ココまでマンガ・アニメ的に記号化してデザインされたウーラー兵だと人間的なメンタル・内面を抱えた二次創作がまったくの不可能とはいわないけど、好き者のアマチュア作家でさえもあまり創作意欲をそそられないのではあるまいか?
 とはいえコレはケナしているワケではナイ。むしろ活劇作品の作劇としては、そのように敵側の事情に斟酌・罪悪感なく撃退できる役回りである方が助かるし、それゆえにウーラー兵には近代的自我ならぬ恨みっこナシで果てる古武士のような潔さ・相応のカルい気高さ(笑)も感じられようというモノだ。


 このような再発見された記号性・幼児性をブローアップしてゲストの敵怪人のデザインにも積極的に反映していったのが、次作『地球戦隊ファイブマン』(90年)・『鳥人戦隊ジェットマン』(91年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110905/p1)・『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(92年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120220/p1)・『五星(ごせい)戦隊ダイレンジャー』(93年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111010/p1)・『忍者戦隊カクレンジャー』(94年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120109/p1)であり、それ以降のスーパー戦隊でも常態・定番となるのだが、それについては項を改めて語りたい。


善悪二元論」的な古典回帰でも、バトル演出はパターン破りを連発!


 とはいえ、「善悪二元論の再徹底」が押し進められても、各話のエピソードやアクション演出が1話完結のルーティン・ワークとしても先祖返りをしたということでもなかった。
 まず、各話の人間大サイズの敵怪人との攻防の果てに、人間大サイズの戦隊メンバーがトドメを刺すのに用いる必殺武器が、『電撃戦隊チェンジマン』(85年)以降はバズーカ砲型の武器であったのが、本作『ターボレンジャー』では第1クールは個人専用の5人の拳銃型銃器から発するレーザー光線の先端を敵怪人の頭上の中空で合体・光球状にしてから、そのままで突き落として爆発四散させる必殺ワザなのである!


 そして、毎度のバズーカ砲型の必殺兵器は第2クールから登場する。しかし、キチンと段取りは踏んで、劇中内での必要性・必然性は作っていく。
 まずは光線銃による必殺ワザが効かない! その次の回では機転を効かして、たまたま運送中であった爆薬を利用して敵怪人を爆砕する! そのまた次の回でようやくバズーカ砲型新兵器、「V(ブイ)ターボバズーカ」を登場させるのだ! 戦隊ヒーロー5人が担いだ白い大砲部分とは別に、宙から黒鉄色の中型エンジン部品が降下してきて合体! 大砲上後部にムキ出し空冷の内燃機関がブンブンと轟音を立てて駆動するというタメを経て、エネルギー砲を発射する一連の特撮バンク演出もカッコいい!
 コレらの必殺武器の交代劇は、人間ドラマ面や社会派テーマ性ではなく、敵怪人の形態や属性に基づく特殊能力や武器や戦闘能力に基づいて、それをどのように作戦や攻略などの知恵を働かせて立ち向かうのか? といった、娯楽活劇の本来あるべきゲーム的攻防の要素を改めて再発見してふくらませていったことによる作劇でもあった。


 それまでのスーパー戦隊、あるいは同時期の『宇宙刑事ギャバン』(82年)に端を発する東映メタルヒーローシリーズは、その第1話で持てる武器や武装にバイクや戦闘母艦に地底ドリルタンクまでをも総花的に見せてしまう傾向が強かった。ある種のヒーローの超越性・圧倒性・万能性をねらった描写でもあったのであろう。
 しかしコレには、その分、個々の武器やメカが均等に描かれてしまうことでそれらのメカの魅力が立たなくなり、かえって子供たちにも魅惑的に見えないのでは? それであれば、敵怪人の属性や事件の種類に応じて、今回はドリルメカで地中に行く! 別の回では戦闘母艦で月面に行く! といったように振り分けて、それを該当メカの初登場回にもして大いに盛り上げた方がオモチャも売れるのでは? なぞと、70年代前半の変身ブーム、特に昭和のウルトラシリーズでそのように演出された怪獣攻撃隊のメカ群を見て育ったような世代人には、そーいう不満もあったと思う。
――もちろん円谷メカは円谷メカ、東映メカは東映メカで割り切っていた特撮マニアも多かったことも公平を期するためには証言しておくけれども――


 本作の3年前の『フラッシュマン』に始まった戦隊2号ロボ登場編を除けば、2年前の『マスクマン』にて等身大時の必殺バズーカが2代目バズーカ兼・小型立ち乗り戦闘機のジェットカノンに交代する展開につづいて、本作で織り成された「Vターボバズーカ」登場に至る連作。
 東映ヒーローものの武器やメカはそーいう扱いであると疑問や不満を持たずに割り切れていた御仁であってもこの方がうれしいであろうと思える、新兵器や新武装の登場&必然を主軸に据えたイベント編であり、以降の東映ヒーローといおうかバンダイ提供のヒーロー作品は、イイ意味で新武器が漫然と登場するのではなく新兵器が魅力的に見えるようなイベント性&ドラマ性も高めたエピソードも込みでの作劇を伴なった方向へと舵を切っていく。


 東映ヒーローもので1年を通じて同じキャラクター玩具を売り続ける、あるいはせいぜい途中で2号ロボを出す……といったラフな販売計画が、もう少し細かく小出しに設定することで、子供たちにもインパクトを与えて、ひいては玩具も買いたいと思わせようと本格的に計算をしだしたのが、この『ターボレンジャー』であったのは間違いナイ。
 その理由は、この時期になると70年代変身ブーム世代が社会人になる時期とも重なって、玩具業界に就職した御仁がそれを知り、当時は商業主義や視聴率を悪とする素朴な連中がマニアの圧倒的大多数の時代でもあったので――ホントウだってばヨ!(笑)――、その彼が「本作(以降)の『戦隊』がオモチャに引き回されること必至!」と憤っていたのを、この数年後に本誌バックナンバーでその弟君が転記した記事を読んだことがあったからだ(笑)。


 筆者個人に限定して云えば、この玩具小出しのシリーズ構成に両手を上げて喜んでいた。
 いわく超マンネリで必殺ワザが一種しかナイので子供心に飽きてくるスーパー戦隊のバトルシーンが、パターン破りやバリエーションのサプライズ作劇にも目覚めたこと。
 コレにより、当時でも陳腐化していた個人装備の拳銃型光線銃が当初は魅力的で「使える武器」としても目に映じること。
 途中登場のバズーカ砲もシリーズ序盤で他に説明すべき基本設定も多い時期の登場ではなく、それの開発劇やその苦労や初登場時の衝撃やその強さに特化して作劇・演出できることで、右から左へのお約束の段取り劇ではなく、バズーカ砲自体をも魅力的にその登場の必然性も含めて――もちろん後付けだとしても――描くことができるからなのだ。


 つづく戦隊巨大ロボ2号・ターボラガーの登場は、2号ロボ自体がスーパー戦隊超新星フラッシュマン』(86年)で初登場して以来のすでに定番ではあったけど、コレに加えて1号ロボ&2号ロボが合体した超巨大ロボ・スーパーターボロボをも格納できる超々巨大な基地ロボ・要塞ロボとでも称すべきターボビルダーなる超々巨大ロボットをも投入!――両腕は前後に回転しても両足はスジ掘りのモールドだけで稼働しない(笑)。着ぐるみは作られず、大きめのミニチュアのみが製造された――
 コレが番組後半から終盤にかけての秋~クリスマス商戦時期における目玉商品ともなっていく。この試みも画期的であったと私見する。


 もちろん従来のスーパー戦隊でも、戦隊巨大ロボや巨大ロボに合体前の巨大マシンを格納できる空飛ぶ巨大戦艦や巨大母艦といったモノは登場していた。しかし、ヒト型をしていないメカである以上は感情移入・愛着の度合いはやや低まるし、関節を動かしてポーズを取ったり武器を持たせたりといったワクワク感と比すれば、プレイバリューも低いモノではあった。
――そーいえば、『マスクマン』の母艦の名称はターボ「レ」ンジャーならぬターボ「ラ」ンジャー。母艦に記されたアルファベット表記は「RANGER」で我らがターボレンジャーとも同一。2年前の母艦名ともカブっているやないけー! とやはり思ったけど、わかっていてもあえて語呂や語感のインパクトの方を重視! といったところが、ウルさ型のマニア向けならぬラフな大衆・子供向けの客商売の鉄則なんだろうネ(笑)――


 けれども、本作では戦闘母艦を一応の人型として垂直に直立させた形態にして顔面も設けた。そーするとアラ不思議。ミリタリズム的にはリアルじゃなくとも、万物霊性アニミズム的なヒーロー番組においては、そのヒト型メカの佇まいに感情移入、その意志や力感を勝手に自動的に読み取ってしまうのが、人間一般の習性・サガのようなのだ(笑)。
 「オモチャ売らんかな」と云ってしまえば、その通り。しかしコレにより、中ボスやラスボスとの戦闘を、いつものゲスト怪人を倒す際の通常戦力の戦隊ロボでは倒せない! 強いゾ、中ボスやラスボス! しかして、コチラにはまだ奥の手で虎の子の超巨大で強力な新兵器があったのダ! といったかたちで、対戦相手やバトルのスケール感にもムリなく変化を付けることが可能となったのだ。


 あぁ、中ボスやラスボスでさえ、いつもの戦隊巨大ロボの必殺剣による必殺ワザでアッサリと倒してしまい、あるいは取って付けたように必殺剣を投擲するだけでトドメを刺せてしまうことで、子供心にもガッカリしていた初期スーパー戦隊に対する不満がついにココで解消される日が来ようとは!
 この基地ロボ・ターボビルダーも相応に売れたためか、次作『地球戦隊ファイブマン』では序盤から実の兄弟姉妹でもある戦隊メンバーが起居する超巨大な宇宙船でもある要塞メカを登場させ、シリーズ後半ではコレを超巨大なヒト型ロボ形態にも変型させることで、いつものゲスト怪人に対しては通常戦力である戦隊巨大ロボを、強敵や中ボスやラスボスに対しては要塞基地ロボを投入することで、等身大バトル後のお約束・蛇足タイムと化していた戦隊巨大ロボ戦は、今回は1号ロボで倒すのか? 2号ロボで倒すのか? 1号&2号の再合体ロボで倒すのか? はたまた1号と2号の合体ワザで倒すのか? 要塞基地ロボで倒すのか? といった、先が予想できないワクワク感をもたらすカタルシス発生装置とも化していき、この『ファイブマン』で早くも一旦の頂点を迎えるのだが、コレについては項を改めて語りたい。


善悪二元論」を破る要素。暴魔と人間の混血・流れ暴魔ヤミマル!


 先に「善悪二元論の再徹底」を押し進めたと定義した本作だが、バトル・シークエンスの面ではバリエーション志向やパターン破りであったと述べた。ココに加えて、「善悪二元論の再徹底」を破る要素も投入されてはいる。ターボレンジャーたちのライバルともなるダークヒーロー・ヤミマルの登場だ。
 鈍重な着ぐるみではなく顔出しの長身スマートな役者さんがシブい低音ボイスで演じる彼は、「暴魔百族」ではなく「流れ暴魔」という別個の存在だと設定された。そして、組織に属さないフリーの魔族なのかと思いきや、初登場の数話後にその傷口から赤い血が伝って右手を通じて滴り落ちる描写によって、彼は「暴魔百族」ではなく人間に近しい存在でもあると描写して、ついには「暴魔」と「人間」の混血であったことが明かされることで、連続性もある新たなドラマを構築していくのだ。
 しかして、ガチでベタなカッコいいダークヒーロー演出が施されるだけではない。子供はともかく大きなお友だち目線で観れば「ナンちゃって感」あふれるイイ意味での失笑、プッと吹いてしまうような、劇中ではシリアスな事態ですけどメタ的にはココで笑ってください! といった描写の演出も多々埋め込まれていくのだ!


 その具体例はまず、流れ暴魔・ヤミマルが流れ者の高校転校生の渡り鳥、流しの不良・番長少年でもある学ラン姿(!)の2万才の青年(爆)、流星光(ながれぼし・ひかる)として、ブレザーが制服である主人公らの高校に転入してくるシーンだ。自己紹介シーンで背中を向けるや、その制服の背中には巨大な銀色の流れ星の刺繍が!(笑)
 そして、校内でもトラブルを起こしたり、戦隊メンバーたちに人間の姿をしたままでの校内決闘を申し込んだりすることで、TVドラマ『これが青春だ』(66年)などのあまたの往年の学園ドラマや、ナゼか高校生がパイロットを務めることが多かった70~80年代の合体ロボアニメ――もちろんメイン視聴者の子供たちの年齢に少しでも近づけるための処置だけど(笑)――、特に『ゲッターロボ』(74年)などでも幾度か観たことがあるような、敵のスパイがその正体を隠して学園に転校してきて交流を深めるタイプのドラマも構築。高校生を変身ヒーローに据えた本作が、改めて学園ドラマ的な要素の魅力を持っていたことも再確認させていく。


 極め付けは、音楽室でピアノを華麗に弾いていたかと思えば、鍵盤の上で逆立ちしてそのままで弾き続ける流星光の姿だ!! 遠巻きに見ていたミーハーな女子生徒どもはコレを観て「カッコいい!」と興奮し、一部は失神もする始末なのだ(爆笑)。
 ちなみにコレは、ケーハクで脊髄反射的な80年代中盤の風潮のそれゆえの反動か、他方で隆盛を極めていた昭和レトロ(懐古)ブーム――主にその時代の30年前に相当する昭和30年代への郷愁――に端を発して、TV草創期の1960年代~70年代までのTV番組を懐古する大流行で、よくネタにされたりチャカされて爆笑を取っていた、東映製作で劇画原作のスポコン(スポーツ根性)TVドラマ『柔道一直線』(69年)でライバルを演じた俳優・近藤正臣が、鍵盤の上に立って足の指で華麗にピアノを弾いていたシーンのパロディーでもあったことは、当時でもすでに大きなお友だちであったご同輩であればご承知の通りだろうが、後進のために改めて歴史証言をさせていただく(笑)。


 ちなみに、濃ゆいマニア諸氏はご承知の通り、本作は関東地方ではシリーズ中盤の秋の10月の改変期に、土曜夜6時から金曜夕方5時半へと時間帯変更の憂き目にあう。その時期のTV局のおエライさんの傾向によって、その局が報道を重視したりバラエティを重視したりといった変遷はよくあるモノだが、この時期のそれは報道重視のゆえで、『ターボレンジャー』の後釜は1時間ワクの報道番組『ザ・スクープ』であり、96年3月まで同ワクで放映されたあとは土曜深夜へ移動、土曜夕方へと出戻り、日曜夜や土曜午前へと時間帯移動を繰り返して2002年までレギュラー放送が続いたあとは、今でも日曜昼間に不定期で放映される「スーパー戦隊」同様の長寿番組と化している。


 このワク変更に合わせてか、暴魔百族の敵幹部連は時間帯変更間際の話数で徐々に撃退される最終回近辺のように盛り上がるイベント編の数々にて退場!
 代わりに流れ暴魔ヤミマルが彼とは「小指と小指が赤い糸で結ばれている(爆笑!)」女流れ暴魔キリカとともに主敵として君臨するサプライズで視聴者の興味関心を持続させる戦略を採る。
 それまで両脚を大きく開いて腰を低く落とした戦闘スタイルでカーキ色の土蜘蛛をモチーフに口出しアイ・マスク状の能面を着眼していた変身体も、光沢の入った赤くてスマートで硬化プラスチック(笑)なヨロイを着用した颯爽・直立とした姿へとパワーアップ! といったドラマチックなストーリー展開を見せることで、当時のマニア諸氏をも物語的に大いにコーフンさせていた。


高速戦隊ターボレンジャー』エトセトラ&トリビア


 当時の大きなお友だちが大いに気にしていた、本作のバトル面やドラマ面での変化球は、まずは家屋まるごとが巨大暴魔獣と化してしまう#8「空飛ぶジャーミンの家」。
 東映の名作刑事ドラマ『特捜最前線』(77年~86年)でも健筆をふるっておられた藤井邦夫がサブライターの立場から本作の基本設定を煮詰めて、本作序盤に登場して2万年間もの間、暴魔百族を封印するも人類による自然破壊でその力が弱まって、ついに没して夜空の星座となった聖獣ラキアの設定をフィーチャーして、暴魔百族の敵怪人の中にもラキアの人徳に心服していた者がいたと描いて、最後は戦隊巨大ロボもトドメを刺さずに宇宙に連れ運び、敵の巨大化怪人がラキアの星座の隣りで夜空の星となるパターン破りのインパクトが、ガチガチに番組フォーマットがパターン化されていた当時にあっては絶大であった#12「星になった暴魔獣」。
 同じく藤井邦夫が戦隊メンバー5人の女担任・山口センセイをフィーチャーした#17「子供になった先生」などがますは印象に残る。


 このイレギュラーキャラでもある山口センセイを演じたのは当時、人気が相応にあってTV番組にもよく出演していたファニーフェイスな長身タレント・高見恭子。往時は平日正午の1時間ワクのナマ放送の帯番組『新伍のお待ちどおさま』(85~90年)にも頻繁に出演しており、生来のヘソ曲がりで当時の大人気番組『笑っていいとも!』(82~14年)がキライでクダラナイと思っていた筆者なぞはコチラの方がはるかに面白いと思って在宅時には視聴していたのだが、高見は他局の番組なのに『ターボレンジャー』に出演できることを嬉しそうに宣伝。後日、同作を観た司会の俳優・山城新伍が「出る番組、選べよ」と苦言を呈していた(笑)。


 なお、本項を執筆するにあたり、アマゾン・プライム・ビデオのネット配信で本作を再視聴して、その各話のエンディングテロップも観ていると、「助監督」があの2010年代の第2期平成ライダーシリーズを支える諸田敏(もろた・さとし)カントク! 諸田カントクも30年前のこの時期にはまだ「助監督」のチーフだったということになる。



 『ターボレンジャー』について語るべき事項はまだあるのだが、締切の都合でココで一旦筆を置こう。
 『ターボレンジャー』の項目だけで随分な量となってしまったが、それは本作が戦隊シリーズ中でも作品として特段で優れていたからではナイ(汗)。筆者がこの時期のスーパー戦隊と日本のサブカル・若者文化に大きな変化があった時期だと見るからである。
 思い入れで云うならば、マニア間でも子供間でも不人気ながら、スレた戦隊マニア間ではカルト的な人気も誇る(?)次作『地球戦隊ファイブマン』のバトル面でのパターン破り連発の作劇を、戦隊シリーズ最高の到達点だと見ているのだが、次作以降は簡にして要でありながら、個々の作品にスポットを浴びせるというより、個々の作品を串刺しに貫いて共通しているその特徴や変遷を見ていく「スーパー戦隊」の通史を仕上げていく所存であり、年末の冬コミ号では完成版を披露したい所存である。
――平成10年分くらいで力尽きそうなので、30年分を3部作で3分割にするかもしれないけれど(笑)――


(協力・池田冨美彦)
(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2019年初秋号』(19年10月6日発行)所収『平成スーパー戦隊30年史 ~序章』より抜粋)


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